2022-700866
含フッ素エーテル組成物、コーティング液および物品
- 審判番号
- 2022-700866
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-003853外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 登録番号
- 7031689
- 請求日
- 2022年09月05日
- 審決日
- 2023年10月27日
- 公報発行日
- 2024年02月22日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】AGC株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人大谷特許事務所
- 【異議申立人】豊田 奈津子
- 分類
- P1651.537-YAA(C08G) / P1651.4 -YAA(C08G)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第6項、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第39条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
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結論
理由
目次 ▾ 16項目
第1 手続の経緯
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特許第7031689号の請求項1ないし11に係る特許についての出願は、平成30年2月9日を出願日とする特願2018-568501号(優先権主張 平成29年2月14日)の一部を新たな特許出願として令和2年1月14日に分割出願したものであって、令和4年2月28日にその特許権の設定登録がされ、同年3月8日に特許掲載公報が発行された。その後、令和4年9月5日に、特許異議申立人である豊田奈津子(以下「申立人」という。)により、本件特許の請求項1~11に係る特許に対して、本件特許異議の申立てがされた(以下、当該申立てを「申立て」という。)。
申立て以降の経緯は、次のとおりである。
令和4年12月28日付け 取消理由通知
令和5年 3月10日 訂正請求書及び意見書の提出(特許権者)
同年 3月16日付け 訂正請求があった旨の通知(申立人宛て)
同年 4月21日 意見書の提出(申立人)
同年 5月30日付け 取消理由通知(決定の予告)
同年 7月13日 応対記録
同年 7月31日 訂正請求書及び意見書の提出(特許権者)
同年 8月 3日付け 訂正請求があった旨の通知(申立人宛て)
同年 9月 8日 意見書の提出(申立人)
令和5年3月10日に提出された訂正請求書は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。
第2 訂正の可否についての判断
1 訂正の内容
以下、当該訂正請求書により請求された訂正を「本件訂正」という。また、本件特許の願書に添付した明細書及び特許請求の範囲を、以下、「本件明細書等」という。
本件訂正の内容は、以下のとおりである(当審注:下線は当審で付与した。)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「Zは、(r+s)価の連結基であり、」と記載されているのを、「Zは、(r+s)価の連結基であり、
前記(r+s)価の連結基は、(i)置換もしくは無置換の炭化水素基、(ii)置換もしくは無置換の炭化水素基の炭素-炭素原子間もしくは/および末端に、炭化水素基以外の基もしくは原子を有する基、または(iii)オルガノポリシロキサン基であり、
前記無置換の炭化水素基は、直鎖状もしくは分岐状の飽和炭化水素基であり、
前記置換の炭化水素基は、直鎖状もしくは分岐状の飽和炭化水素基の水素原子の一部もしくは全部が置換基で置換された基であり、前記置換基は、それぞれ独立に、水酸基、ハロゲン原子、アミノ基、ニトロ基、シアノ基、またはアミノカルボニル基であり、
炭化水素基の炭素-炭素原子間もしくは/および末端に有する炭化水素基以外の基もしくは原子は、それぞれ独立に、エーテル性酸素原子、チオエーテル性硫黄原子、窒素原子、ケイ素原子、炭素原子、-N(Rl5)-、-C(O)N(R15)-、-OC(O)N(R15)-、-Si(R16)(Rl7)-、オルガノポリシロキサン基、-C(O)-、-C(O)-O-、または-C(O)-S-であり、R15は、水素原子、アルキル基、またはフェニル基であり、Rl6~Rl7は、それぞれ独立に、アルキル基またはフェニル基であり、前記オルガノポリシロキサン基は、直鎖状でもよく、分岐鎖状でもよく、環状でもよく、」に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2~4、10及び11も同様に訂正する)。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に「sは2または3であり、r+sは3~8以下であり、」と記載されているのを、
「(i)前記含フッ素エーテル化合物(A)におけるsが2であり、前記含フッ素エーテル化合物(B)におけるsが2であるか、(ii)前記含フッ素エーテル化合物(A)におけるsが2であり、前記含フッ素エーテル化合物(B)におけるsが3であるか、又は、(iii)前記含フッ素エーテル化合物(A)におけるsが3であり、前記含フッ素エーテル化合物(B)におけるsが2であり、r+sは3~8であり、」に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2~4、10及び11も同様に訂正する)。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項5に「Zaは、(r1+s1)価の連結基であり、Zbは、(r2+s2)価の連結基であり、」と記載されているのを、
「Zaは、(rl+s1)価の連結基であり、前記(rl+s1)価の連結基は、(i)置換もしくは無置換の炭化水素基、(ii)置換もしくは無置換の炭化水素基の炭素-炭素原子間もしくは/および末端に、炭化水素基以外の基もしくは原子を有する基、または(iii)オルガノポリシロキサン基であり、前記無置換の炭化水素基は、直鎖状もしくは分岐状の飽和炭化水素基であり、前記置換の炭化水素基は、直鎖状もしくは分岐状の飽和炭化水素基の水素原子の一部もしくは全部が置換基で置換された基であり、前記置換基は、それぞれ独立に、水酸基、ハロゲン原子、アミノ基、ニトロ基、シアノ基、またはアミノカルボニル基であり、炭化水素基の炭素-炭素原子間もしくは/および末端に有する炭化水素基以外の基もしくは原子は、それぞれ独立に、エーテル性酸素原子、チオエーテル性硫黄原子、窒素原子、ケイ素原子、炭素原子、-N(R15)-、-C(O)N(R15)-、-OC(O)N(R15)-、-Si(R16)(R17)-、オルガノポリシロキサン基、-C(O)-、-C(O)-O-、または-C(O)-S-であり、R15は、水素原子、アルキル基、またはフェニル基であり、R16~R17は、それぞれ独立に、アルキル基またはフェニル基であり、前記オルガノポリシロキサン基は、直鎖状でもよく、分岐鎖状でもよく、環状でもよく、Zbは、(r2+s2)価の連結基であり、前記(r2+s2)価の連結基は、(i)置換もしくは無置換の炭化水素基、(ii)置換もしくは無置換の炭化水素基の炭素-炭素原子間もしくは/および末端に、炭化水素基以外の基もしくは原子を有する基、または(iii)オルガノポリシロキサン基であり、前記無置換の炭化水素基は、直鎖状もしくは分岐状の飽和炭化水素基であり、前記置換の炭化水素基は、直鎖状もしくは分岐状の飽和炭化水素基の水素原子の一部もしくは全部が置換基で置換された基であり、前記置換基は、それぞれ独立に、水酸基、ハロゲン原子、アミノ基、ニトロ基、シアノ基、またはアミノカルボニル基であり、炭化水素基の炭素-炭素原子間もしくは/および末端に有する炭化水素基以外の基もしくは原子は、それぞれ独立に、エーテル性酸素原子、チオエーテル性硫黄原子、窒素原子、ケイ素原子、炭素原子、-N(R15)-、-C(O)N(R15)-、-OC(O)N(R15)-、-Si(R16)(R17)-、オルガノポリシロキサン基、-C(O)-、-C(O)-O-、または-C(O)-S-であり、R15は、水素原子、アルキル基、またはフェニル基であり、R16~R17は、それぞれ独立に、アルキル基またはフェニル基であり、前記オルガノポリシロキサン基は、直鎖状でもよく、分岐鎖状でもよく、環状でもよく、」に訂正する(請求項5の記載を直接的又は間的に引用する請求項6~11も同様に訂正する)。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項5に「n2が0または1のときの(3-n)個のLb」と記載されているのを、「n2が0または1のときの(3-n2)個のLb」に訂正する(請求項5の記載を直接的又は間接的に引用する請求項6~11も同様に訂正する)。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5に「s1およびs2は、2または3であり、」と記載されているのを、「(i)s1が2であり、s2が2であるか、(ii)s1が2であり、s2が3であるか、又は、(iii)s1が3であり、s2が2であり、」に訂正する(請求項5の記載を直接的又は間接的に引用する請求項6~11も同様に訂正する)。
(6)一群の請求項について
訂正前の請求項1~4、10、11に関して、請求項2~4、10、11は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、訂正事項1及び2によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。
また、訂正前の請求項5~11に関して、請求項6~11は、請求項5を直接又は間接的に引用するものであり、訂正事項3~5によって記載が訂正される請求項5に連動して訂正されるものである。
そうすると、共通する請求項10、11を有する2つの「一群の請求項」は組み合わされて、請求項1~11が1つの一群の請求項になる。
したがって、訂正前の請求項1~11に対応する訂正後の請求項1~11は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の有無について
(1)訂正事項1について
訂正前の請求項1では、「Zは、(r+s)価の連結基であり、」と記載されているのを、訂正後の請求項1に係る発明における「Zは、(r+s)価の連結基であり、・・・、前記オルガノシロキサン基は、直鎖状でもよく、分岐鎖状でもよく、環状でもよく、」とすることは、訂正後の請求項1において、「Zは、(r+s)価の連結基であり、」をより具体的に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上の特許請求の範囲の拡張・変更にあたらない。
そして、訂正事項1に関して、本件明細書には、「(r+s)価の連結基であるZとしては、後述のZa、Zbで表される連結基が好ましく、たとえば置換または無置換の炭化水素基、置換または無置換の炭化水素基の炭素-炭素原子間または/および末端に、炭化水素基以外の基または原子を有する基、オルガノポリシロキサン基等が挙げられる。好ましいZは、後述の好ましいZaやZbと同じ連結基である。」(【0041】)、「Zaとしては、たとえば(r1+s1)価の置換または無置換の炭化水素基、置換または無置換の炭化水素基の炭素-炭素原子間または/および末端に、炭化水素基以外の基または原子有する(r1+s1)価の基、(r1+s1)価のオルガノポリシロキサン基等が挙げられる。Zbとしては、価数が(r2+s2)価である以外はZaと同様のものが挙げられる。」(【0046】)、「無置換の炭化水素基としては、たとえば直鎖状または分岐状の飽和炭化水素基、・・・等が挙げられる。これらの中でも直鎖状または分岐状の飽和炭化水素基が好ましい。 置換の炭化水素基は、炭化水素基の水素原子の一部または全部が置換基で置換された基である。置換基としては、たとえば水酸基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子、アミノ基、ニトロ基、シアノ基、アミノカルボニル基等が挙げられる。」(【0047】)、「炭化水素基の炭素-炭素原子間または/および末端に有する炭化水素基以外の基または原子としては、たとえばエーテル性酸素原子(-O-)、チオエーテル性硫黄原子(-S-)、窒素原子(-N<)、ケイ素原子(>Si<)、炭素原子(>C<)、-N(R15)-、-C(O)N(R15)-、-OC(O)N(R15)-、-Si(R16)(R17)-、オルガノポリシロキサン基、-C(O)-、-C(O)-O-、-C(O)-S-等が挙げられる。ただし、R15は水素原子、アルキル基またはフェニル基であり、R16-R17はそれぞれ独立にアルキル基またはフェニル基である。 オルガノポリシロキサン基は、直鎖状でもよく、分岐鎖状でもよく、環状でもよい。」(【0048】)と記載されている。
これらの記載によると、「Za」又は「Zb」(当審注:請求項1の「Z」に該当)として「置換または無置換の炭化水素基」が例示され、「無置換の炭化水素基」が「直鎖状または分岐状の飽和炭化水素基」であり、「置換の炭化水素基」が「炭化水素基の水素原子の一部または全部が置換基で置換された基」であることが把握できる。そして、「無置換の炭化水素基」と「置換の炭化水素基」との関係から見れば、「無置換の炭化水素基」の水素原子が何らかの置換基により置換されれば「置換の炭化水素基」であるといえるから、「置換の炭化水素基」における「炭化水素基」は、「無置換の炭化水素基」、つまり「直鎖状または分岐状の飽和炭化水素基」であると解するのが自然である。
してみると、訂正事項1による訂正は、本件訂正により、新たな技術的事項を導入するものとはいえない。
(2)訂正事項2について
ア 訂正前の請求項1では、「sは2または3であり、」と記載されているのを、「(i)前記含フッ素エーテル化合物(A)におけるsが2であり、前記含フッ素エーテル化合物(B)におけるsが2であるか、(ii)前記含フッ素エーテル化合物(A)におけるsが2であり、前記含フッ素エーテル化合物(B)におけるsが3であるか、又は、(iii)前記含フッ素エーテル化合物(A)におけるsが3であり、前記含フッ素エーテル化合物(B)におけるsが2であり、」とすることは、「化合物(A)におけるs及び化合物(B)におけるsがそれぞれ2又は3の場合(4択)」から「化合物(A)におけるs及び化合物(B)におけるsがいずれも3の場合(1択)」を除外した「3択」とするものであって、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上の特許請求の範囲の拡張・変更にあたらない。
イ そして、訂正前の請求項1では、「r+sは3~8以下であり、」と記載されているのを、「r+sは3~8であり、」とすることは、「3~8」の「~8」が上限である「8以下」を示すことは明らかであるから、「3~8以下」を「3~8」とする訂正は、明らかな誤記を訂正するものである。
そうすると、訂正事項2に係る訂正は、誤記の訂正を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上の特許請求の範囲の拡張・変更にあたらない。
(3)訂正事項3について
訂正前の請求項5では、「Zaは、(r1+s1)価の連結基であり、Zbは、(r2+s2)価の連結基であり、」と記載されているのを、「Zaは、(r1+s1)価の連結基であり、前記(r1+s1)価の連結基は、・・・、前記オルガノポリシロキサン基は、・・・、Zbは、(r2+s2)価の連結基であり、前記(r2+s2)価の連結基は、・・・、前記オルガノポリシロキサン基は、直鎖状でもよく、分岐鎖状でもよく、環状でもよく、」とすることは、訂正後の請求項5において、「Zaは、(r1+s1)価の連結基であり、」及び「Zbは、(r2+s2)価の連結基であり、」をより具体的に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上の特許請求の範囲の拡張・変更にあたらない。
そして、訂正事項3に関して、本件明細書には、上記(1)に示したとおり、「Za」又は「Zb」が記載されている。
してみると、訂正事項3による訂正は、新たな技術的事項を導入するものとはいえない。
(4)訂正事項4について
訂正前の請求項5に「n2が0または1のときの(3-n)個のLb」と記載されているのを、「n2が0または1のときの(3-n2)個のLb」とすることは、式(B1)中の「-SiRbn2Lb3-n2」において、「Lb」が「(3-n2)」個であることが示されていたところ、「(3-n)個」と記載されていること、請求項5には「n」に係る記載がないことから、上記「(3-n)個」との誤記を改め、「(3-n2)個」と訂正したものである。
そうすると、訂正事項4は、誤記の訂正を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上の特許請求の範囲の拡張・変更にあたらない。
(5)訂正事項5について
訂正前の請求項5に「s1およびs2は、2または3であり、」と記載されているのを、「(i)s1が2であり、s2が2であるか、(ii)s1が2であり、s2が3であるか、又は、(iii)s1が3であり、s2が2であり、」とすることは、上記(2)アと同様の理由により、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上の特許請求の範囲の拡張・変更にあたらない。
3 独立特許要件について
本件訂正は、訂正前の全ての請求項1~11について特許異議の申立てがなされているので、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する第126条第7項に規定する要件(いわゆる独立特許要件)は課されない。
4 小括
よって、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第2号に掲げる目的に適合し、また、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するから、本件訂正を認める。
第3 本件訂正後の本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1~11に係る発明(以下、順に「本件発明1」のようにいい、これらをまとめて、「本件発明」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~11に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】含フッ素エーテル化合物(A)と含フッ素エーテル化合物(B)とを含む組成物であって、前記含フッ素エーテル化合物(A)と前記含フッ素エーテル化合物(B)とが、いずれも、下式(A/B)で表される含フッ素エーテル化合物(但し、下記式(1)で表されるパーフルオロ(ポリ)エーテル基含有アミドシランを除く)であり、前記組成物中に含まれる前記含フッ素エーテル化合物(A)と前記含フッ素エーテル化合物(B)との組合せにおいて、前記含フッ素エーテル化合物(A)におけるRfの炭素数が、前記含フッ素エーテル化合物(B)におけるRfの炭素数よりも少なく、続きを表示(全100行)前記含フッ素エーテル化合物(A)の含有量が、前記含フッ素エーテル化合物(A)と前記含フッ素エーテル化合物(B)との合計に対し、30~95質量%であることを特徴とする含フッ素エーテル組成物。[Rf-O-Q-RPF-]rZ[-SiRnL3-n]s ・・・(A/B)ただし、Rfは、ペルフルオロアルキル基であって、rが2以上の場合はr個のペルフルオロアルキル基は同一のペルフルオロアルキル基であり、Qは、単結合、1個以上の水素原子を含むオキシフルオロアルキレン基、または該オキシフルオロアルキレン基の2~5個が結合してなるポリオキシフルオロアルキレン基であり、該基を構成するオキシフルオロアルキレン基は全てが同一であっても異なっていてもよく、RPFは、下式(1-l)で表されるポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖であり、Zは、(r+s)価の連結基であり、前記(r+s)価の連結基は、(i)置換もしくは無置換の炭化水素基、(ii)置換もしくは無置換の炭化水素基の炭素-炭素原子間もしくは/および末端に、炭化水素基以外の基もしくは原子を有する基、または(iii)オルガノポリシロキサン基であり、前記無置換の炭化水素基は、直鎖状もしくは分岐状の飽和炭化水素基であり、前記置換の炭化水素基は、直鎖状もしくは分岐状の飽和炭化水素基の水素原子の一部もしくは全部が置換基で置換された基であり、前記置換基は、それぞれ独立に、水酸基、ハロゲン原子、アミノ基、ニトロ基、シアノ基、またはアミノカルボニル基であり、炭化水素基の炭素-炭素原子間もしくは/および末端に有する炭化水素基以外の基もしくは原子は、それぞれ独立に、エーテル性酸素原子、チオエーテル性硫黄原子、窒素原子、ケイ素原子、炭素原子、-N(R15)-、-C(O)N(R15)-、-C(O)N(R15)-、-OC(O)N(R15)-、-Si(R16)(R17)-、オルガノポリシロキサン基、-C(O)-、-C(O)-O-、または-C(O)-S-であり、R15は、水素原子、アルキル基、またはフェニル基であり、R16~R17は、それぞれ独立に、アルキル基またはフェニル基であり、前記オルガノポリシロキサン基は、直鎖状でもよく、分岐鎖状でもよく、環状でもよく、Lは水酸基または加水分解性基であり、Rは水素原子または1価の炭化水素基であり、nは0~2の整数であり、nが0または1のとき(3-n)個のLは、同一であっても異なっていてもよく、nが2のときn個のRは、同一であっても異なっていてもよく、rは1以上の整数であり、(i)前記含フッ素エーテル化合物(A)におけるsが2であり、前記含フッ素エーテル化合物(B)におけるsが2であるか、(ii)前記含フッ素エーテル化合物(A)におけるsが2であり、前記含フッ素エーテル化合物(B)におけるsが3であるか、又は、(iii)前記含フッ素エーテル化合物(A)におけるsが3であり、前記含フッ素エーテル化合物(B)におけるsが2であり、r+sは3~8であり、前記含フッ素エーテル化合物(A)および前記含フッ素エーテル化合物(B)それぞれが有する[-SiRnL3-n]は同一であっても異なっていてもよい。【化1】[図:0001406677000001.jpg][式(1)中:Rfは、それぞれ独立して、1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよい炭素数1~16のアルキル基を表し;PFPEは、それぞれ独立して、-(OC4F8)a-(OC3F6)b―(OC2F4)c-(OCF2)d-を表し、ここに、a、b、cおよびdは、それぞれ独立して0以上200以下の整数であって、a、b、cおよびdの和は少なくとも1であり、a、b、cまたはdを付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は式中において任意であり;X1は、単結合または2価の有機基を表し;R1は、水素原子、低級アルキル基またはフェニル基を表し;R2は、-X2-SiQ1kY13-kを表し;X2は、2価の有機基を表し;Y1は、加水分解可能な基を表し;Q1は、水素原子、低級アルキル基またはフェニル基を表し;pは、0または1であり;kは、0~2の整数である。](RFO)ml・・・(1-1)[式(1-1)中:RFはペルフルオロアルキレン基であり、mlは10~200の整数であり、(RFO)mlは、炭素数の異なる2種以上のRFOからなるものであってもよい。]【請求項2】前記含フッ素エーテル化合物(A)におけるRfの炭素数が1~19、前記含フッ素エーテル化合物(B)におけるRfの炭素数が2~20である、請求項1に記載の含フッ素エーテル組成物。【請求項3】前記含フッ素エーテル化合物(A)におけるRfの炭素数が1、前記含フッ素エーテル化合物(B)におけるRfの炭素数が2または3であるか、前記含フッ素エーテル化合物(A)におけるRfの炭素数が2、前記含フッ素エーテル化合物(B)におけるRfの炭素数が3である、請求項1または2に記載の含フッ素エーテル組成物。【請求項4】前記rが1~3である、請求項1~3のいずれか一項に記載の含フッ素エーテル組成物。【請求項5】下式(A1)で表される含フッ素エーテル化合物(A1)(但し、下記式(1)で表されるパーフルオロ(ポリ)エーテル基含有アミドシランを除く)と、下式(B1)で表される含フッ素エーテル化合物(B1)(但し、下記式(1)で表されるパーフルオロ(ポリ)エーテル基含有アミドシランを除く)とを含み、前記含フッ素エーテル化合物(A1)の含有量が、前記含フッ素エーテル化合物(A1)と前記含フッ素エーテル化合物(B1)との合計に対し、30~95質量%であることを特徴とする含フッ素エーテル組成物。[Rfa-O-Qa-RPFa-]r1Za[-SiRan1La3-n1]s1 ・・・(A1)[Rfb-O-Qb-RPFb-]r2Zb[-SiRbn2Lb3-n2]s2 ・・・(B1)ただし、RfaおよびRfbは、ペルフルオロアルキル基であり、Rfaの炭素数は、Rfbの炭素数よりも少なく、QaおよびQbは、単結合、1個以上の水素原子を含むオキシフルオロアルキレン基、または該オキシフルオロアルキレン基の2~5個が結合してなるポリオキシフルオロアルキレン基であり、該基を構成するオキシフルオロアルキレン基は全てが同一であっても異なっていてもよく、RPFaおよびRPFbは、下式(1-1)で表されるポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖であり、Zaは、(r1+s1)価の連結基であり、前記(r1+s1)価の連結基は、(i)置換もしくは無置換の炭化水素基、(ii)置換もしくは無置換の炭化水素基の炭素-炭素原子間もしくは/および末端に、炭化水素基以外の基もしくは原子を有する基、または(iii)オルガノポリシロキサン基であり、前記無置の炭化水素基は、直鎖状もしくは分岐状の飽和炭化水素基であり、前記置換の炭化水素基は、直鎖状もしくは分岐状の飽和炭化水素基の水素原子の一部もしくは全部が置換基で置換された基であり、前記置換基は、それぞれ独立に、水酸基、ハロゲン原子、アミノ基、ニトロ基、シアノ基、またはアミノカルボニル基であり、炭化水素基の炭素-炭素原子間もしくは/および末端に有する炭化水素基以外の基もしくは原子は、それぞれ独立に、エーテル性酸素原子、チオエーテル性硫黄原子、窒素原子、ケイ素原子、炭素原子、-N(R15)-、-C(O)N(R15)-、-OC(O)N(R15)-、-Si(R16)(R17)-、オルガノポリシロキサン基、-C(O)-、-C(O)-O-、または-C(O)-S-であり、R15は、水素原子、アルキル基、またはフェニル基であり、R16~R17は、それぞれ独立に、アルキル基またはフェニル基であり、前記オルガノポリシロキサン基は、直鎖状でもよく、分岐鎖状でもよく、環状でもよく、Zbは、(r2+s2)価の連結基であり、前記(r2+s2)価の連結基は、(i)置換もしくは無置換の炭化水素基、(ii)置換もしくは無置換の炭化水素基の炭素-炭素原子間もしくは/および末端に、炭化水素基以外の基もしくは原子を有する基、または(iii)オルガノポリシロキサン基であり、前記無置換の炭化水素基は、直鎖状もしくは分岐状の飽和炭化水素基であり、前記置換の炭化水素基は、直鎖状もしくは分岐状の飽和炭化水素基の水素原子の一部もしくは全部が置換基で置換された基であり、前記置換基は、それぞれ独立に、水酸基、ハロゲン原子、アミノ基、ニトロ基、シアノ基、またはアミノカルボニル基であり、炭化水素基の炭素-炭素原子間もしくは/および末端に有する炭化水素基以外の基もしくは、原子は、それぞれ独立に、エーテル性酸素原子、チオエーテル性硫黄原子、窒素原子、ケイ素原子、炭素原子、-N-(R15)-、-C(O)N(R15)-、-OC(O)N(R15)-、-Si(R16)(R17)-、オルガノポリシロキサン基、-C(O)-、-C(O)-O-、または-C(O)-S-であり、R15は、水素原子、アルキル基、またはフェニル基であり、R16~R17は、それぞれ独立に、アルキル基またはフェニル基であり、前記オルガノポリシロキサン基は、直鎖状でもよく、分岐鎖状でもよく、環状でもよく、LaおよびLbは、水酸基または加水分解性基であり、RaおよびRbは水素原子または1価の炭化水素基であり、n1およびn2は0~2の整数であり、n1が0または1のときの(3-n1)個のLa、n2が0または1のときの(3-n2)個のLbはそれぞれ、同一であっても異なっていてもよく、n1が2のときn1個のRa、n2が2のときn2個のRbはそれぞれ、同一であっても異なっていてもよく、r1およびr2は1以上の整数であり、r1が2以上のときr1個のRfa、QaおよびRPFaはそれぞれ、同一であっても異なっていてもよく、r2が2以上のときr2個のRfb、QbおよびRPFbはそれぞれ、同ーであっても異なっていてもよく、(i)s1が2であり、s2が2であるか、(ii)s1が2であり、s2が3であるか、又は、(iii)s1が3であり、s2が2であり、s1個の[-SiRan1La3-n1]は、同ーであっても異なっていてもよく、s2個の[-SiRbn2Lb3-n2]は、同一であっても異なっていてもよい。【化2】[図:0001406677000002.jpg][式(1)中:Rfは、それぞれ独立して、1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよい炭素数1~16のアルキル基を表し;PFPEは、それぞれ独立して、-(OC4F8)a-(OC3F6)b-(OC2F4)c-(OCF2)d-を表し、ここに、a、b、cおよびdは、それぞれ独立して0以上200以下の整数であって、a、b、cおよびdの和は少なくとも1であり、a、b、cまたはdを付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は式中において任意であり;X1は、単結合または2価の有機基を表し;R1は、水素原子、低級アルキル基またはフェニル基を表し;R2は、-X2-SiQ1kY13-kを表し;X2は、2価の有機基を表し;Y1は、加水分解可能な基を表し;Q1は、水素原子、低級アルキル基またはフェニル基を表し;pは、0または1であり;kは、0~2の整数である。](RFO)m1・・・(1-1)[式(1-1)中:RFはペルフルオロアルキレン基であり、m1は10~200の整数であり、(RFO)m1は、炭素数の異なる2種以上のRFOからなるものであってもよい。]【請求項6】前記式(A1)中のr1が2以上のときr1個のRfaが同一である、請求項5に記載の含フッ素エーテル組成物。【請求項7】前記式(B1)中のr2が2以上のときr2個のRfbが同一である、請求項5または6に記載の含フッ素エーテル組成物。【請求項8】前記式(A1)中のRfaの炭素数が1~19、前記式(B1)中のRfbの炭素数が2~20である、請求項5~7のいずれか一項に記載の含フッ素エーテル組成物。【請求項9】前記式(A1)中のRfaの炭素数が1、前記式(B1)中のRfbの炭素数が2または3であるか、前記式(A1)中のRfaの炭素数が2、前記式(B1)中のRfbの炭素数が3である、請求項5~8のいずれか一項に記載の含フッ素エーテル組成物。【請求項10】請求項1~9のいずれか一項に記載の含フッ素エーテル組成物と、液状媒体とを含むことを特徴とするコーティング液。【請求項11】請求項1~9のいずれか一項に記載の含フッ素エーテル組成物から形成された表面層を有することを特徴とする物品。」
第4 特許異議申立書の申立理由と当審が通知した取消理由
1 特許異議申立書(以下「申立書」ということがある。)の申立理由
(1)申立理由1(明確性)
本件の特許請求の範囲の請求項1~11の記載は、同項に記載された特許を受けようとする発明が、下記の点で明確とはいえないから、特許法第36条第6項第2号に適合するものでない。
よって、本件の請求項1~11に係る発明の特許は、同法第36条第6項に規定する要件を満たさない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。
具体的な理由の概要は以下のとおり。
本件発明1~11は、化合物(A)、(B)の分子構造(分子長)の差が水滴滑落性に影響を及ぼすと思料され、特にRPF鎖と連結基Zが分子長に影響を及ぼすが、RPF鎖及び連結基Zとして、実施例で示された具体例と比べて広範な範囲の構造が含まれ、明らかに効果が得られない範囲を含んでいるから、明確でない。
(2)申立理由2(サポート要件)
本件訂正前の請求項1~11の記載は、同各項に記載された特許を受けようとする発明が、下記の点で発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえないから、特許法第36条第6項第1号に適合するものではない。
よって、本件訂正前の請求項1~11に係る発明の特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たさない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
具体的な理由の概要は以下のとおり。
本件発明1~11は、実施例で示された具体例と比べて広範な範囲の構造が含まれ、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものである。
2 証拠方法
(1)申立書に添付した証拠方法
申立人が、申立書に添付した証拠は、以下のとおりである。
(以下、甲第1号証、甲第2号証をそれぞれ「甲1」、「甲2」という。)
(2)令和5年9月8日付け意見書とともに提出された証拠方法
申立人が、令和5年9月8日付け意見書とともに提出した証拠方法は、以下のとおりである。
(以下、甲第3号証、甲第4号証をそれぞれ「甲3」、「甲4」という。)
3 当審が通知した令和5年5月30日付け取消理由
・取消理由1(同日出願)
本件特許の請求項1~11についての特許は、同日出願された特願2018-568501号(特許第6652203号)に係る発明と同一であり、かつ、同日出願に係る発明は特許されており協議をすることができないから、特許法第39条第2項の規定により特許を受けることができないものであって、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
・取消理由2(サポート要件)
本件特許の請求項1~11についての特許は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
具体的な理由の概要は以下のとおり。
連結基として「(i)」又は「(ii)」であって、かつ、「置換の炭化水素基」が選択された場合、「置換の炭化水素基は、炭化水素基の水素原子の一部もしくは全部が置換基で置換された基であり」との定義からすると、例えば芳香族炭化水素環式基のオルト位に位置する場合を含み得るから、本件発明の課題を解決し得ない場合を含み得る。
・取消理由3(明確性)
本件特許の請求項5~11についての特許は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
具体的な理由の概要は以下のとおり。
本件発明5の式(B1)の説明において、「n2が0または1のときの(3-n)個のLb」との特定があるところ、式(B1)には、「(3-n)」が存在しない。
第5 当審の判断
1 取消理由1(同日出願)について
・請求項 1~11
・特願2018-568501号(特許第6652203号)(以下、「同日出願」という。)
(1)上記同日出願は、本件と同一の優先日である優先基礎出願を有し、令和2年1月27日に設定登録された後、特許異議の申立てがなされ、令和3年7月30日提出の訂正請求書により訂正された請求項1~11に係る発明は、以下のとおりである。
「【請求項1】含フッ素エーテル化合物(A)と含フッ素エーテル化合物(B)とを含む組成物であって、前記含フッ素エーテル化合物(A)と前記含フッ素エーテル化合物(B)とが、いずれも、下式 (A/B)で表される含フッ素エーテル化合物であり、前記組成物中に含まれる前記含フッ素エーテル化合物(A)と前記含フッ素エーテル化合物(B)との組合せにおいて、前記含フッ素エーテル化合物(A)におけるRfの炭素数が、前記含フッ素エーテル化合物(B)におけるRfの炭素数よりも少なく、続きを表示(全52行)前記含フッ素エーテル化合物(A)の含有量が、前記含フッ素エーテル化合物(A)と前記含フッ素エーテル化合物(B)との合計に対し、30~95質量%であることを特徴とする含フッ素エーテル組成物。[Rf-O-Q-RRF-]rZ[-SiRnL3-n]s ・・・(A/B)ただし、Rfは、ペルフルオロアルキル基であって、rが2以上の場合はr個のペルフルオロアルキル基は同一のペルフルオロアルキル基であり、Qは、単結合、1個以上の水素原子を含むオキシフルオロアルキレン基、または該オキシフルオロアルキレン基の2~5個が結合してなるポリオキシフルオロアルキレン基であり、該基を構成するオキシフルオロアルキレン基は全てが同一であっても異なっていてもよく、RRFは、ポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖であり、Zは、(r+s)価の連結基であり、該連結基は、置換または無置換で、炭素-炭素原子間または/および末端に炭化水素基以外の基または原子を有することのできる直鎖状または分岐状の飽和炭化水素基であり、Lは水酸基または加水分解性基であり、Rは水素原子または1価の炭化水素基であり、nは0~2の整数であり、nが0または1のとき(3-n)個のLは、同一であっても異なっていてもよく、nが2のときn個のRは、同一であっても異なっていてもよく、rは1以上の整数であり、sは3であり、r+sは4~8であり、前記含フッ素エーテル化合物(A)および前記含フッ素エーテル化合物(B)それぞれが有する [-SiRnL3-n]は同一であっても異なっていてもよい。【請求項2】前記含フッ素エーテル化合物(A)におけるRfの炭素数が1~19、前記含フッ素エーテル化合物(B)におけるRfの炭素数が2~20である、請求項1に記載の含フッ素エーテル組成物。【請求項3】前記含フッ素エーテル化合物(A)におけるRfの炭素数が1、前記含フッ素エーテル化合物(B)におけるRfの炭素数が2または3であるか、前記含フッ素エーテル化合物 (A)におけるRfの炭素数が2、前記含フッ素エーテル化合物(B)におけるRfの炭素数が3 である、請求項1または2に記載の含フッ素エーテル組成物。【請求項4】前記rが1~3である、請求項1~3のいずれか一項に記載の含フッ素エーテル組成物。【請求項5】下式(A1)で表される含フッ素エーテル化合物(A1)と下式(B1)で表される含フッ素エーテル化合物(B1)とを含み、前記含フッ 素エーテル化合物(A1)の含有量が、前記含フッ素エーテル化合物(A1)と前記含フッ素エーテル化合物(B1)との合計に対し、30~95質量%であることを特徴とする含フッ素エーテル組成物。[Rfa-O-Qa-RRFa-]r1Za[-SiRan1La3-n1]s1 ・・・(A1)[Rfb-O-Qb-RRFb-]r2Zb[-SiRbn2Lb3-n2]s2 ・・・(B1)ただし、RfaおよびRfbは、ペルフルオロアルキル基であり、Rfaの炭素数は、Rfbの炭素数よりも少なく、QaおよびQbは、単結合、1個以上の水素原子を含むオキシフルオロアルキレン基、または該オキシフルオロアルキレン基の2~5個が結合してなるポリオキシフルオロアルキレン基であり、該基を構成するオキシフルオロアルキレン基は全てが同一であっても異なっていてもよく、RRFaおよびRRFbは、ポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖であり、Zaは、(r1+s1)価の連結基であり、該連結基は、置換または無置換で、炭素-炭素原子間または/および末端に炭化水素基以外の基または原子を有することのできる直鎖状または分岐状の飽和炭化水素基であり、Zbは、(r2+s2)価の連結基であり、該連結基は、置換または無置換で、炭素-炭素原子間または/および末端に炭化水素基以外の基または原子を有することのできる直鎖状または分岐状の飽和炭化水素基であり、LaおよびLbは、水酸基または加水分解性基であり、RaおよびRbは水素原子または1価の炭化水素基であり、n1およびn2は0~2の整数であり、n1が0または1のときの(3-n1)個のLa、n2が0または1のときの(3-n)個のLbはそれぞれ、同一であっても異なっていてもよく、n1が2のときn1個のRa、n2が2のときn2個のRaはそれぞれ、同一であっても異なっていてもよく、r1およびr2は1以上の整数であり、r1が2以上のときr1個のRfa、QaおよびRRFaはそれぞれ、同一であっても異なっていてもよく、r2が2以上のときr2個のRfb、Qb およびRRFbはそれぞれ、同一であっても異なっていてもよく、s1およびs2は、3であり、s1個の[-SiRan1La3-n1]は、同一であっても異なっていてもよく、s2個の[-SiRbn2Lb3-n2]は、同一であっても異なっていてもよい。【請求項6】前記式(A1)中のr1が2以上のときr1個のRfaが同一である、請求項5に記載の含フッ素エーテル組成物。【請求項7】前記式(A2)中のr2が2以上のときr2個のRfbが同一である、請求項5または6に記載の含フッ素エーテル組成物。【請求項8】前記式(A1)中のRfaの炭素数が1~19、前記式(B1)中のRfbの炭素数が2~20である、請求項5~7のいずれか一項に記載の含フッ素エーテル組成物。【請求項9】前記式(A1)中のRfaの炭素数が1、前記式(B1)中のRfbの炭素数が2または3であるか、前記式(A1)中のRfaの炭素数が2、前記式(B1)中のRfbの炭素数が3である、請求項5~8のいずれか一項に記載の含フッ素エーテル組成物。【請求項10】請求項1~9のいずれか一項に記載の含フッ素エーテル組成物と、液状媒体とを含むことを特徴とするコーティング液。【請求項11】請求項1~9のいずれか一項に記載の含フッ素エーテル組成物から形成された表面層を有することを特徴とする物品。」
以下では、同日出願における請求項1~11に係る発明を、「同日発明1」~「同日発明11」という。
(2)本件特許に係る請求項1~11に記載された事項
本件特許の請求項1~11に記載された発明は、上記第3に示したとおりである。
(3)検討
(3-1)本件発明1について
本件発明1と同日発明1とを対比する。
本件発明1の「Zは、(r+s)価の連結基であり」、「前記(r+s)価の連結基」が、「(i)置換もしくは無置換の炭化水素基」であり、「前記無置換の炭化水素基は、直鎖状もしくは分岐状の飽和炭化水素基であ」ることは、同日発明1における「Zは、(r+s)価の連結基であり、該連結基は、置換または無置換で、炭素-炭素原子間または/および末端に炭化水素基以外の基または原子を有することのできる直鎖状または分岐状の飽和炭化水素基であ」ることに相当する。つまり、「Z」である「連結基」として、本件発明1の「無置換」の「直鎖状もしくは分岐状の飽和炭化水素基」を有する含フッ素エーテル化合物が、同日発明1の「無置換」の「直鎖状もしくは分岐状の飽和炭化水素基」を有する含フッ素エーテル化合物と同一である。
しかしながら、本件発明1の「s」については、「(i)前記含フッ素エーテル化合物(A)におけるsが2であり、前記含フッ素エーテル化合物(B)におけるsが2であるか、(ii)前記含フッ素エーテル化合物(A)におけるsが2であり、前記含フッ素エーテル化合物(B)におけるsが3であるか、又は、(iii)前記含フッ素エーテル化合物(A)におけるsが3であり、前記含フッ素エーテル化合物(B)におけるsが2であり、」であるのに対し、同日発明1の「s」については、「sは3であり、」であり、両者は共通する「s」の組み合わせを有しない。
してみると、本件発明1は、同日発明1と同一でない。
(3-2)本件発明2~4について
本件発明2~4と同日発明2~4とを対比する。
本件発明2~4は、本件発明1を直接又は間接的に引用する発明であり、該本件発明2~4は、同日発明1を直接又は間接的に引用する同日発明2~4と同じ発明特定事項を有するものであるが、上記(3-1)に示したとおり、本件発明1と同日発明1とは同一でないことから、本件発明2~4は、同日発明2~4と互いに同一となりえない。
(3-3)本件発明5について
本件発明5と同日発明5とを対比する。
本件発明5の「Zaは、(r1+s1)価の連結基であり、前記(r1+s1)価の連結基は、(i)置換もしくは無置換の炭化水素基」であり、「前記無置換の炭化水素基は、直鎖状もしくは分岐状の飽和炭化水素基であり」、「Zbは、(r2+s2)価の連結基であり、前記(r2+s2)価の連結基は、(i)置換もしくは無置換の炭化水素基」であり、「前記無置換の炭化水素基は、直鎖状もしくは分岐状の飽和炭化水素基であ」ることは、同日発明5における「Zaは、(r1+s1)価の連結基であり、該連結基は、置換または無置換で、炭素-炭素原子間または/および末端に炭化水素基以外の基または原子を有することのできる直鎖状または分岐状の飽和炭化水素基であり、Zbは、(r2+s2)価の連結基であり、該連結基は、置換または無置換で、炭素-炭素原子間または/および末端に炭化水素基以外の基または原子を有することのできる直鎖状または分岐状の飽和炭化水素基であ」ることに相当する。つまり、「Za」、「Zb」である「連結基」として、本件発明5の「無置換」の「直鎖状もしくは分岐状の飽和炭化水素基」を有する含フッ素エーテル化合物が、同日発明5の「無置換」の「直鎖状もしくは分岐状の飽和炭化水素基」を有する含フッ素エーテル化合物と同一である。
しかしながら、本件発明5の「s1」及び「s2」については、「(i)s1が2であり、s2が2であるか、(ii)s1が2であり、s2が3であるか、又は、(iii)s1が3であり、s2が2であり、」であるのに対し、同日発明5の「s1」及び「s2」については、「s1およびs2は、3であり、」であり、両者は共通する「s1」及び「s2」の組み合わせを有しない。
してみると、本件発明5は、同日発明5と同一でない。
(3-4)本件発明6~9について
本件発明6~9と同日発明6~9とを対比する。
本件発明6~9は、本件発明5を直接又は間接的に引用する発明であり、該本件発明6~9は、同日発明5を直接又は間接的に引用する同日発明6~9と同じ発明特定事項を有するものであるが、上記(3-3)に示したとおり、本件発明5と同日発明5とは同一でないことから、本件発明6~9は、同日発明6~9と互いに同一となりえない。
(3-5)本件発明10、11について
本件発明10、11と同日発明10、11とを対比する。
本件発明10、11は、本件発明1、5を直接又は間接的に引用する発明であり、該本件発明10、11は、同日発明1、5を直接又は間接的に引用する同日発明10、11と同じ発明特定事項を有するものであるが、上記(3-1)、(3-3)に示したとおり、本件発明1、5と同日発明1、5とは同一でないことから、本件発明10、11は、同日発明10、11とそれぞれ同一となりえない。
(4)小括
本件発明1~11は、同日発明1~11と同一ではない。
2 取消理由2(サポート要件)について
(1)サポート要件の判断基準
特許法第36条第6項は、「第二項の特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」と規定し、その第1号において「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」と規定している。
同号は、明細書のいわゆるサポート要件を規定したものであって、特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
以下、この観点で検討する。
(2)本件明細書等の発明の詳細な説明の記載について
本件明細書等には、以下の記載がある。
「【発明が解決しようとする課題】【0006】しかし、本発明者によれば、特許文献1に記載の含フッ素エーテル化合物、組成物または混合物によって形成される表面層は、水滴滑落性が不充分であることが分かった。なお、水滴滑落性とは、傾斜面において水滴が滑落しやすい(転落角が小さい、または/および滑落速度が速い)性質である。本発明は、水滴滑落性に優れる表面層を形成できる含フッ素エーテル組成物およびコーティング液、ならびに水滴滑落性に優れる表面層を有する物品の提供を目的とする。」
「【0017】化合物(A)が有するRf基の炭素数は、化合物(B)が有するRf基の炭素数よりも少ない。つまり本組成物は、RPF鎖とRf基と基(I)とを有する含フッ素エーテル化合物として、Rf基の炭素数が異なる2種を含む。これにより、表面層の水滴滑落性が優れる。化合物(A)および化合物(B)それぞれが有するRPF鎖および基(I)はそれぞれ、同一であっても異なっていてもよい。」
「【0020】Rf基の組み合わせとしては、化合物(A)が有するRf基がCF3-、化合物(B)が有するRf基がCF3CF2-の組み合わせ、化合物(A)が有するRf基がCF3-、化合物(B)が有するRf基がCF3CF2CF2-の組み合わせ、化合物(A)が有するRf基がCF3CF2-、化合物(B)が有するRf基がCF3CF2CF2-の組み合わせが好ましく、化合物(A)が有するRf基がCF3-、化合物(B)が有するRf基がCF3CF2-の組み合わせが特に好ましい。」
「【0028】化合物(A)、化合物(B)それぞれが有するRPF鎖は1個でもよく2個以上でもよい。耐摩擦性の点から、1~3個が好ましく、1~2個が特に好ましい。RPF鎖の数、ひいてはRf基の数が1以上であることで、表面層の水滴滑落性、撥水撥油性、耐久性、指紋汚れ除去性、潤滑性に優れる。RPF鎖の数が前記範囲の上限値以下であれば、表面層の外観に優れる。化合物(A)、化合物(B)がRPF鎖を2個以上有する場合、各RPF鎖は同一であっても異なっていてもよい。」
「【0034】化合物(A)、化合物(B)それぞれが有する基(I)は1個でもよく2個以上でもよい。表面層の水滴滑落性にさらに優れる点から、1~3個が好ましく、表面層の耐摩擦性にさらに優れる点から、2個または3個が特に好ましい。化合物(A)、化合物(B)が基(I)を2個以上有する場合、各基(I)は全てが同一の基であってもよく同一の基でなくてもよい。化合物(A)の製造のしやすさの点では、全てが同一の基であることが好ましい。」
「【0041】前記rは、前記RPF鎖の数、ひいてはRf基の数を表し、1以上の整数である。rは、前記のように、耐摩擦性の点から、1~3が好ましく、1~2が特に好ましい。前記sは基(I)の数を表し、前記のように、表面層の水滴滑落性にさらに優れる点から、1~3が好ましく、表面層の耐摩擦性にさらに優れる点から、2または3が特に好ましい。また、上記の点から、r+sは2~6であることが好ましく、3~5であることが特に好ましい。続きを表示(全14行)(r+s)価の連結基であるZとしては、後述のZa、Zbで表される連結基が好ましく、たとえば置換または無置換の炭化水素基、置換または無置換の炭化水素基の炭素-炭素原子間または/および末端に、炭化水素基以外の基または原子を有する基、オルガノポリシロキサン基等が挙げられる。好ましいZは、後述の好ましいZaやZbと同じ連結基である。・・・【0046】Zaとしては、たとえば(r1+s1)価の置換または無置換の炭化水素基、置換または無置換の炭化水素基の炭素-炭素原子間または/および末端に、炭化水素基以外の基または原子を有する(r1+s1)価の基、(r1+s1)価のオルガノポリシロキサン基等が挙げられる。Zbとしては、価数が(r2+s2)価である以外はZaと同様のものが挙げられる。【0047】無置換の炭化水素基としては、たとえば直鎖状または分岐状の飽和炭化水素基、芳香族炭化水素環式基(たとえばベンゼン環、ナフタレン環等の芳香族炭化水素環から(a+b)個の水素原子を除いた基)、直鎖状または分岐状の飽和炭化水素基と芳香族炭化水素環式基との組み合わせからなる基(たとえば前記芳香族炭化水素環式基に置換基としてアルキル基が結合した基、前記飽和炭化水素基の炭素原子間または/および末端にフェニレン基等のアリーレン基を有する基等)、2以上の芳香族炭化水素環式基の組み合わせからなる基等が挙げられる。これらの中でも直鎖状または分岐状の飽和炭化水素基が好ましい。置換の炭化水素基は、炭化水素基の水素原子の一部または全部が置換基で置換された基である。置換基としては、たとえば水酸基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子、アミノ基、ニトロ基、シアノ基、アミノカルボニル基等が挙げられる。【0048】炭化水素基の炭素-炭素原子間または/および末端に有する炭化水素基以外の基または原子としては、たとえばエーテル性酸素原子(-O-)、チオエーテル性硫黄原子(-S-)、窒素原子(-N<)、ケイ素原子(>Si<)、炭素原子(>C<)、-N(R15)-、-C(O)N(R15)-、-OC(O)N(R15)-、-Si(R16)(R17)-、オルガノポリシロキサン基、-C(O)-、-C(O)-O-、-C(O)-S-等が挙げられる。ただし、R15は水素原子、アルキル基またはフェニル基であり、R16~R17はそれぞれ独立にアルキル基またはフェニル基である。オルガノポリシロキサン基は、直鎖状でもよく、分岐鎖状でもよく、環状でもよい。」
「【0097】(本組成物の組成)本組成物において、化合物(A)および化合物(B)のうち、Rf基の炭素数が少ない方の含有量は、化合物(A)と化合物(B)との合計に対し、30~95質量%であり、40~90質量%が好ましく、40~80質量%が特に好ましい。Rf基の炭素数が少ない方の含有量が前記範囲内であれば、表面層の水滴滑落性に優れる。」
「【0104】〔物品〕本発明の物品は、本組成物から形成された表面層を基材の表面に有する。【0105】(表面層)本組成物においては、化合物(A)および化合物(B)中の基(I)におけるLが加水分解性基である場合には、基(I)が加水分解反応することによってシラノール基(Si-OH)が形成され、該シラノール基は分子間で反応してSi-O-Si結合が形成され、または該シラノール基が基材の表面の水酸基(基材-OH)と脱水縮合反応して化学結合(基材-O-Si)が形成される。したがって、表面層は、化合物(A)および化合物(B)を、化合物(A)および化合物(B)それぞれの基(I)の一部または全部が加水分解反応した状態で含む。基(I)におけるLが水酸基である場合には、加水分解反応を経ずに上記反応が進む。」
「【0113】〔作用効果〕本組成物および本コーティング液にあっては、化合物(A)および化合物(B)を含み、それらのうちRf基の炭素数が少ない化合物(A)の含有量が、化合物(A)および化合物(B)の合計に対し30~95質量%であるため、水滴滑落性に優れる表面層を形成できる。化合物(A)および化合物(B)はそれぞれ、RPF鎖の一方の末端にRf基が結合していることにより、RPF鎖の他方の末端側に基(I)が存在する。かかる構造を有する化合物(A)および化合物(B)によれば、基材上に表面層を形成したときに、各化合物のRf基が基材側とは反対側に配向しやすい。Rf基が基材側とは反対側に配向することで、形成される表面層の表面エネルギーが低くなる。これに加えて、化合物(A)および化合物(B)それぞれのRf基の炭素数が異なることにより、表面層の表面に炭素数の異なるRf基が特定の比率で分散配置されており、物性的または物理的な微細凹凸構造が形成されると考えられる。これにより、表面層の表面の撥水性がさらに高まり、水滴の接触角や転落角が小さくなって優れた水滴滑落性が発揮されると考えられる。」
「【実施例】【0116】以下、実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。以下、「%」は特に断りのない限り「質量%」である。例1~10のうち、例3~9は実施例であり、例1~2、10は比較例である。続きを表示(全80行)【0117】〔物性および評価〕(数平均分子量)含フッ素エーテル化合物の数平均分子量は、1H-NMRおよび19F-NMRによって、末端基を基準にしてオキシペルフルオロアルキレン基の数(平均値)を求めることによって算出した。末端基は、たとえば基(I)またはRf基である。【0118】(水滴の転落角)水平に保持した物品の表面(表面層)に50μLの水滴を滴下した後、物品を徐々に傾け、水滴が転落しはじめた時の物品と水平面との角度(転落角)を測定した。【0119】(水滴の滑落速度)物品の表面と水平面との角度(傾斜角)を40°に設定し、物品の表面(表面層)に50μLの水滴を滴下し、水滴が50mm移動したときの時間を測定した。この移動時間を滑落速度とする。【0120】〔合成例1〕国際公開第2013/121984号の実施例6に記載の方法にしたがい、化合物(14I-1)を得た。CF3-O-(CF2CF2O-CF2CF2CF2CF2O)x3(CF2CF2O)-CF2CF2CF2-C(O)OCH3・・・(14I-1)化合物(14I-1):単位数x3の平均値13、数平均分子量4,700。【0121】50mLのナスフラスコに、化合物(14I-1)の9.0gおよびH2N-CH2-C(CH2CH=CH2)3の0.45gを入れ、12時間撹拌した。NMRから、化合物(14I-1)がすべて化合物(17I-1)に変換していることを確認した。また、副生物であるメタノールが生成していた。得られた溶液をCF3CH2OCF2CF2H(旭硝子社製、AE-3000)の9.0gで希釈し、シリカゲルカラムクロマトグラフィ(展開溶媒:AE-3000)で精製し、化合物(17I-1)の7.6g(収率84%)を得た。CF3-O-(CF2CF2O-CF2CF2CF2CF2O)x3(CF2CF2O)-CF2CF2CF2-C(O)NH-CH2-C(CH2CH=CH2)3・・・(17I-1)化合物(17I-1):単位数x3の平均値13、数平均分子量4,800。【0122】10mLのPFA製サンプル管に、化合物(17I-1)の6.0g、白金/1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン錯体のキシレン溶液(白金含有量:2%)の0.07g、HSi(OCH3)3の0.78g、ジメチルスルホキシドの0.02g、1,3-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン(東京化成工業社製)の0.49gを入れ、40℃で10時間撹拌した。反応終了後、溶媒等を減圧留去し、1.0μm孔径のメンブランフィルタでろ過し、化合物(A-1)の6.7g(収率100%)を得た。CF3-O-(CF2CF2O-CF2CF2CF2CF2O)x3(CF2CF2O)-CF2CF2CF2-C(O)NH-CH2-C[CH2CH2CH2-Si(OCH3)3]3・・・(A-1)【0123】化合物(A-1)のNMRスペクトル;1H-NMR(300.4MHz、溶媒:CDCl3、基準:TMS) δ(ppm):0.8(6H)、1.3~1.6(12H)、3.4(2H)、3.7(27H)。19F-NMR(282.7MHz、溶媒:CDCl3、基準:CFCl3) δ(ppm):-55.2(3F)、-82.1(54F)、-88.1(54F)、-90.2(2F)、-119.4(2F)、-125.4(52F)、-126.2(2F)。単位数x3の平均値:13、化合物(A-1)の数平均分子量:5,100。【0124】〔合成例2〕国際公開第2013/121984号の実施例2に記載の方法にしたがい、化合物(14I-2)を得た。CF3CF2-O-(CF2CF2O-CF2CF2CF2CF2O)x4(CF2CF2O)-CF2CF2CF2-C(O)OCH3・・・(14I-2)化合物(14I-2):単位数x4の平均値13、数平均分子量4,800。【0125】化合物(14I-1)の代わりに、化合物(14I-2)を用いた以外は例1-2と同様にして、化合物(17I-2)の8.4g(収率93%)を得た。CF3CF2-O-(CF2CF2O-CF2CF2CF2CF2O)x4(CF2CF2O)-CF2CF2CF2-C(O)NH-CH2-C(CH2CH=CH2)3・・・(17I-2)化合物(17I-2):単位数x4の平均値13、数平均分子量4,900。【0126】化合物(17I-1)の代わりに、化合物(17I-2)を用いた以外は例1-3と同様にして、化合物(B-1)の6.7g(収率100%)を得た。CF3CF2-O-(CF2CF2O-CF2CF2CF2CF2O)x4(CF2CF2O)-CF2CF2CF2-C(O)NH-CH2-C[CH2CH2CH2-Si(OCH3)3]3・・・(B-1)【0127】化合物(B-1)のNMRスペクトル;1H-NMR(300.4MHz、溶媒:CDCl3、基準:TMS) δ(ppm):0.8(6H)、1.3~1.6(12H)、3.4(2H)、3.7(27H)。19F-NMR(282.7MHz、溶媒:CDCl3、基準:CFCl3) δ(ppm):-84.0(54F)、-88.2(3F)、-89.2(58F)、-119.7(2F)、-126.5(54F)。単位数x4の平均値:13、化合物(B-1)の数平均分子量:5,200。【0128】〔例1~10〕化合物(A-1)と化合物(B-1)とを使用し、表1に示す質量比で混合して組成物を調製し、下記評価に供した。ただし、例1では化合物(A-1)のみ、例2では化合物(B-1)のみを使用した。【0129】(評価)例1~10で得た各化合物または組成物を用いて、基材の表面処理を行い、基材の表面に表面層を有する物品を得た。表面処理方法として、各例について下記のドライコーティング法およびウェットコーティング法をそれぞれ用いた。基材としては化学強化ガラス(ドラゴントレイル)を用いた。得られた物品について、水接触角および水滴の滑落速度を評価した。結果を表1に示す。【0130】<ドライコーティング法>ドライコーティングは、真空蒸着装置(ULVAC社製、VTR-350M)を用いて行った(真空蒸着法)。例1~10で得た各化合物または組成物の0.5gを真空蒸着装置内のモリブデン製ボートに充填し、真空蒸着装置内を1×10-3Pa以下に排気した。組成物を配置したボートを昇温速度10℃/分以下の速度で加熱し、水晶発振式膜厚計による蒸着速度が1nm/秒を超えた時点でシャッターを開けて基材の表面への成膜を開始させた。膜厚が約50nmとなった時点でシャッターを閉じて基材の表面への成膜を終了させた。組成物が堆積された基材を、120℃で30分間加熱処理し、AK-225にて洗浄することによって、基材の表面に表面層を有する物品を得た。【0131】<ウェットコーティング法>例1~10で得た各化合物または組成物と、液状媒体としてのC4F9OC2H5(3M社製、ノベック(登録商標)7200)とを混合して、固形分濃度0.05%のコーティング液を調製した。コーティング液に基材をディッピングし、30分間放置後、基材を引き上げた(ディップコート法)。塗膜を120℃で30分間乾燥させ、AK-225にて洗浄することによって、基材の表面に表面層を有する物品を得た。【0132】【表1】[図:0001406677000003.jpg]【0133】化合物(A-1)と化合物(B-1)とを含み、化合物(A-1)の含有量が、それらの合計に対して30~95質量%である例3~9の組成物は、化合物(A-1)、化合物(B-1)をそれぞれ単独で用いた例1、2に比べて、転落角が低く滑落速度が速く、表面層の水滴滑落性に優れていた。化合物(A-1)の含有量が、それらの合計に対して30質量%未満の例10における表面層の水滴滑落性は、例1と同等であった。【0134】(例11~20)市販のCF3O{(CF2CF2O)m(CF2O)n}CF2CH2OHで表される化合物(mの平均値が20、nの平均値が21)を使用し、特許5761305号の合成例11~15記載の方法にしたがい、下記化合物(A-2)を得た。CF3-O-{(CF2CF2O)20-(CF2O)21}-CF2CH2OCH2CH2CH2-Si[CH2CH2CH2-Si(OCH3)3]3・・・(A-2)また、国際公開第2017/038830号の実施例1に記載の方法にしたがい、下記化合物(B-2)を得た。CF3CF2CF2-O-(CF2CF2O)2{(CF2O)21(CF2CF2O)20}-CF2-CH2OCH2-C[CH2OCH2CH2CH2-Si(OCH3)3]3・・・(B-2)上記化合物(A-2)と化合物(B-2)を用いて、例1~10と同様にして、基材にドライコーティングし、得られた物品について転落角及び転落速度を評価した。結果を表2に示す。【0135】【表2】[図:0001406677000004.jpg]【0136】化合物(A-2)と化合物(B-2)とを含み、化合物(A-2)の含有量が、それらの合計に対して30~90質量%である例13~19の組成物は、化合物(A-2)、化合物(B-2)をそれぞれ単独で用いた例11、12に比べて、転落角が低く滑落速度が速く、表面層の水滴滑落性に優れていた。化合物(A-2)の含有量が、それらの合計に対して30質量%未満の例20における表面層の水滴滑落性は、例11と同等であった。」
(3)本件発明の課題について
本件発明が解決しようとする課題は、本件明細書の段落【0006】の記載によると、「水滴滑落性に優れる表面層を形成できる含フッ素エーテル組成物およびコーティング液、ならびに水滴滑落性に優れる表面層を有する物品の提供」であると認められる。
(4)本件発明1について
本件明細書の段落【0113】の記載によると、本件発明による優れた水滴滑落性は、化合物(A)及び化合物(B)が特定の構造、すなわち、RPF(当審注:「ポリ(オキシペルフルオロアルキレン)」のこと)鎖の一方の末端にRf基が結合し、RPF鎖の他方の末端に基(I)(当審注:「-SiRnL3-n」のこと)が存在する構造を有すること、化合物(A)及び化合物(B)であれば、基材上に表面層を形成したときに、各化合物のRf基が基材側とは反対側に配向しやすく、その結果として形成される表面層の表面エネルギーが低くなること、化合物(A)および化合物(B)それぞれのRf基の炭素数が異なることにより、表面層の表面に炭素数の異なるRf基が特定の比率で分散配置されており、物性的または物理的な微細凹凸構造が形成され、表面層の表面の撥水性がさらに高まり、水滴の接触角や転落角が小さくなって優れた水滴滑落性が発揮されることが理解できる。
そして、本件明細書の実施例の【表1】には、含フッ素エーテル化合物(A)であるA-1と、含フッ素エーテル化合物(B)であるB-1とを特定の質量比で含む組成物、同【表2】には、含フッ素エーテル化合物(A)であるA-2と、含フッ素エーテル化合物(B)であるB-2とを特定の質量比で含む組成物を用いた場合の転落角及び転落速度の評価結果が示されている。詳細には、化合物A-1と化合物B-1とを特定の質量比で含む組成物(例3~9)、化合物A-2と化合物B-2とを特定の質量比で含む組成物(例13~19)は、各化合物単独の場合(例1、2、11、12)やA-1、A-2が20質量%の場合(例10、20)に比べて、水滴滑落性に優れていたことが示されている。
これらの実施例は、含フッ素エーテル化合物(A)及び同(B)として、RPF鎖の一方の末端にRf基が結合し、RPF鎖の他方の末端に基(I)が存在する構造を有することで、炭素数の異なるRf基が基材側とは反対側に配向して、その結果として形成される表面層の表面エネルギーが低くなることを裏付けている。
また、含フッ素エーテル化合物(A)及び同(B)は、RPF鎖と基(I)との間に連結基Zを有するものであるところ、本件発明1では、該連結基Zが、「(i)置換もしくは無置換の炭化水素基、(ii)置換もしくは無置換の炭化水素基の炭素-炭素原子間もしくは/および末端に、炭化水素基以外の基もしくは原子を有する基、または(iii)オルガノポリシロキサン基であ」ることを特定することにより、芳香族炭化水素環式基のオルト位のような、各化合物のRf基が基材側に配向する連結基は除外されている。
してみると、含フッ素エーテル化合物(A)及び同(B)のRf基が基材側とは反対側に配向し、各々のRf基の炭素数に差異が有ることから、水滴滑落性が高まり、本件発明の課題を解決しうることが理解できる。
ここで、本件発明1では、含フッ素エーテル化合物(A)及び同(B)のそれぞれの基(I)の数「s」が2又は3である場合(両方が3である場合以外)が特定されているところ、上記実施例では、含フッ素エーテル化合物(A)及び含フッ素エーテル化合物(B)として、基(I)の数「s」が両方とも3のもので水滴滑落性が評価されているので、念のため、この点における影響について考察する。
本件明細書等には、「前記sは基(I)の数を表し、前記のように、表面層の水滴滑落性にさらに優れる点から、1~3が好ましく、表面層の耐摩擦性に優れる点から、2または3が特に好ましい。」ことが記載されていることから(【0041】)、基(I)の数が2又は3であれば課題を解決できるものといえる。
そうすると、本件明細書等の段落【0113】及び上記実施例から見て、含フッ素エーテル化合物(A)及び同(B)の基(I)の数が両方とも3でない場合であっても、いずれかが2又は3から選択されるのであれば、本件発明の課題を解決しうることが理解できる。
してみると、本件明細書等によれば、本件発明1は、本件発明1の発明特定事項を備えることで、上記(3)に示した本件発明の課題を解決できることを理解できるから、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明である。
(5)本件発明5について
本件発明5が解決しようとする課題も、水滴滑落性に優れる表面層を形成できる含フッ素エーテル組成物およびコーティング液、ならびに水滴滑落性に優れる表面層を有する物品の提供であると認められる。
そして、上記(4)で述べたのと同様の理由により、本件発明5が、上記課題を解決できることを当業者が認識できるものである。
したがって、本件発明5は、発明の詳細な説明に記載された発明である。
(6)本件発明2~4、6~11について
本件発明2~4、6~11は、本件発明1、5を直接又は間接的に引用するものであるから、上記(4)、(5)で本件発明1、5について述べたのと同じ理由により、発明の詳細な説明に記載された発明である。
(7)令和5年9月8日提出の意見書による主張について
申立人は、令和5年9月8日提出の意見書において以下のように主張する。
ア 申立人は、本件出願が特許査定となるまでの審査段階において、令和3年5月19日付け拒絶理由通知に対する出願人(特許権者)の令和3年9月2日付け手続補正書と同時に提出した意見書における以下イ(ア)、(イ)の主張をもとに、本件発明との齟齬を指摘しつつ、以下ウ(b2)~(b7)に基づいて、本件発明1、5はサポート要件を満たしていないとの主張をしている。
イ 出願人(特許権者)の意見
(ア)引用文献1(当審注:甲2のこと)の表面処理剤には、本願発明(当審注:本件発明のこと)の「含フッ素エーテル化合物(A)(但し、式(1)で表されるパーフロオロ(ポリ)エーテル基含アミドシランを除く)」及び「含フッ素エーテル化合物(B)(但し、式(1)で表されるパーフロオロ(ポリ)エーテル基含アミドシランを除く)」の少なくともいずれかが含まれていないため、引用文献1の表面処理剤は、含フッ素エーテル化合物(A)と含フッ素エーテル化合物(B)とを含むことで初めて奏される本願発明の効果「水滴滑落性に優れる表面層を形成できる」を奏するものではない。(令和5年9月8日提出の意見書第6頁第26行~第7頁第4行)
(イ)RPFとSiRnL3-nとを連結する連結基の構造は、水滴滑落性への影響が小さいものである。(同意見書第8頁第25行~第26行)
ウ 申立人の主張
(b2)本件発明1では、連結基Zとして、(i)~(iii)が特定されており、非常に広範な範囲の構造を取り得るところ、本件明細書等では実施例で含フッ素エーテル化合物(A)、(B)における連結基Zとして、特定の炭化水素基とアミド基の組み合わせ、特定の炭化水素基とエーテル基の組み合わせを用いたものが示されているにすぎず、これらが本件発明の課題を解決できたからといって、上述の非常に広範な範囲の連結基Zを有する含フッ素エーテル化合物(A)及び同(B)の全てにおいて、本件発明1に係る発明が本件発明の課題を解決できると認識できない。(同意見書第13頁第7行~第15頁第6行の(b2))
(b3)本件明細書等の段落【0041】には、連結基Zとして、例えば置換または無置換の炭化水素基、置換または無置換の炭化水素基の炭素-炭素原子間または/および末端に、炭化水素基以外の基または原子を有する基、オルガノポリシロキサン基等が挙げられることが記載されているが、具体的な構造は示されていないし、同【0015】、【0016】、【0028】、【0034】、【0113】によると、Rf基の数が1以上であること及び基(I)が1個以上であれば、水滴滑落性に優れる表面層が得られると解されるところ、甲3では、Rf基と基(I)を有し、Rf基と基(I)とを連結する連結基が異なる含フッ素有機ケイ素化合物間において、連結基が異なることにより水滴滑落性が異なること、及び、甲4では、Rf基と基(I)とを連結する連結基が異なる含フッ素有機ケイ素化合物間において、連結基が異なることにより、水滴滑落性が異なることから、上記イ(イ)のような主張は成り立たない。(同意見書第15頁第7行~第23頁第15行の(b3))
(b4)甲2には、その実施例において、化合物(i)として(G)又は(H)と化合物(ii)として(B)(当審注:本件発明1、5において除かれた式(1)に該当)とを用いており、これらの化合物は、本件発明と同様にRPF鎖の一方の末端にRf基が結合し、RPF鎖の他方の末端に基(I)が存在する構造を有すること、及び、それぞれのRf基の炭素数が異なっていることから、物性的または物理的な微細凹凸構造が形成されることになると解されるところ、特許権者は上記イ(ア)に示したように、引用文献1(当審注:甲2のこと)の表面処理剤は、含フッ素エーテル化合物(A)と含フッ素エーテル化合物(B)とを含むことで初めて奏される本件発明の効果「水滴滑落性に優れる表面層を形成できる」を奏するものではないと自認しているし、上記(G)と(B)とは連結基Zが異なるものであり、上記(b3)のとおり、連結基の構造により水滴滑落性に差異が生じるものであって、引用文献1の実施例のように所定の水滴滑落性が得られない場合があり、本件発明の作用効果が具体的に立証されている範囲に比して、本件発明の範囲が広すぎるといえ、本件発明1、5は、本件明細書等の記載により当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものとは言えない。(同意見書第23頁第16行~第26頁第20行の(b4))
(b5)本件発明1において、化合物(A)、(B)の[-SiRnL3-n]基側の末端が基材と結合し、[Rf-O-Q-RPF-]側の末端が基材から離間する方向に存在し、Rf基が基材側とは反対側に配向して、表面層の表面に炭素数の異なるRf基が特定の比率で分散配置され、物性的または物理的な微細凹凸構造が形成される場合、この微細凹凸構造における凹凸の程度などの物理的状態は化合物(A)、(B)における[-SiRnL3-n]基からRf基の末端までの分子鎖の長さの影響を受けると思われるところ、本件発明では分子鎖を直鎖状とした状態で分子構造式エディタソフトウェアChemDraw3Dにより計算すると、本件明細書等の実施例ではRf基の炭素数の大きな化合物(微細凹凸構造において凸)が分子鎖の長い化合物であり、Rf基の炭素数の小さな化合物が分子鎖の短い化合物(微細凹凸構造において凹)であって、微細凹凸構造が形成される本件発明の効果のメカニズムと合致している一方で、甲2の実施例ではRf基の炭素数の大きな化合物(微細凹凸構造において凸)が分子鎖の短い化合物であり、Rf基の炭素数の小さな化合物が分子鎖の長い化合物(微細凹凸構造において凹)であって、微細凹凸構造が形成される本件発明の効果のメカニズムと合致していないから、甲2では本件発明の効果「水滴滑落性に優れる表面層を形成できる」を奏するものではないと考えられ、非常に広範な範囲の構造のものを取り得る連結基Zを含フッ素エーテル化合物(A)、(B)の全ての組み合わせにおいて形成される表面層の表面に微細凹凸構造が形成されるとは限らず、本件発明1、5は、本件明細書等の記載により当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものとは言えない。(同意見書第26頁第21行~第30頁第6行の(b5))
(b6)及び(b7) 本件発明1において、「Zは、(r+s)価の連結基」であり、「(i)置換もしくは無置換の炭化水素基、(ii)置換もしくは無置換の炭化水素基の炭素-炭素原子間もしくは/および末端に、炭化水素基以外の基もしくは原子を有する基、または(iii)オルガノポリシロキサン基」であるから、(i)~(iii)のいずれの場合において、(r+s)個の結合手をとり得るところ、「(r+s)価の連結基」が「(iii)オルガノポリシロキサン基」である場合、シロキサン結合(Si-O-Si)を構成する互いに隣接する2個のケイ素原子上に結合手(連結サイト)がある場合(同意見書第31頁中央に記載の構造式を有する化合物)には、(結合手が)芳香族炭化水素環式基のオルト位に位置する場合と同様に、[Rf-O-Q-RPF-]基におけるRf基が[-SiRnL3-n]基が結合する基材側の反対側に配向することが困難になるといえ、連結基Zによっては本件発明の課題を解決できない場合を含み得るものであるから、本件発明1、5は、本件明細書等の記載により当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものとはいえない。(同意見書第30頁第7行~第32頁末行の(b6)及び(b7))
エ 申立人の主張の検討
a (b2)について
上記2(4)、(5)に示したように、本件発明1、5は、RPF鎖の一方の末端にRf基が結合し、RPF鎖の他方の末端側に基(I)が存在する、含フッ素エーテル化合物(A)及び同(B)の骨格を有することにより、本件発明の課題を解決するものであるから、(b2)における主張は採用できない。
b (b3)について
上記2(4)、(5)に示したように、本件発明1、5は、RPF鎖の一方の末端にRf基が結合し、RPF鎖の他方の末端側に基(I)が存在する、含フッ素エーテル化合物(A)及び同(B)の骨格を有することにより、本件発明の課題を解決するものである。
ここで、甲3、甲4に例示された化合物は、いずれも一方の末端にRf基を、他方の末端に基(I)を有するものの、RPF鎖を有しないものであるから、本件発明の化合物(A)、(B)とは異なるものである。
そして、仮に甲3、甲4に例示された化合物が、その連結基の種類によって、水滴滑落性に多少の影響を与えるとしても、本件発明1、5では、化合物(A)、(B)を併用して微細凹凸構造が形成されることで、水滴滑落性が発揮されるものであり、連結基の構造が異なっていても微細凹凸構造が形成されることに変わりはないから、連結基の種類による影響が甲3、甲4に例示された化合物と同様であるとまではいえない。
したがって、化合物(A)、(B)を用いる場合には、特許権者が上記イ(イ)で述べたとおり、連結基の構造は水滴滑落性への影響が小さいものと解され、(b3)における主張は採用できない。
c (b4)について
申立人は、上記イ(ア)に示した特許権者の主張に対して、「引用文献1(当審注:甲2のこと)の表面処理剤は、含フッ素エーテル化合物(A)と含フッ素エーテル化合物(B)とを含むことで初めて奏される本願発明の効果「水滴滑落性に優れる表面層を形成できる」を奏するものではないと自認している」と述べている。
しかしながら、上記イ(ア)は、「含フッ素エーテル化合物(A)(但し、式(1)で表されるパーフロオロ(ポリ)エーテル基含有アミドシランを除く)」及び「含フッ素エーテル化合物(B)(但し、式(1)で表されるパーフロオロ(ポリ)エーテル基含有アミドシランを除く)」の少なくともいずれかが含まれていない場合、引用文献1の表面処理剤は、含フッ素エーテル化合物(A)と含フッ素エーテル化合物(B)とを含むことで初めて奏される本件発明の効果「水滴滑落性に優れる表面層を形成できる」を奏するものではないことを述べるものであって、甲2において、化合物(ii)である(B)、すなわち本件発明1、5の式(1)で表されるパーフロオロ(ポリ)エーテル基含有アミドシランが除かれているものであるから、甲2には、本件発明における含フッ素エーテル化合物(A)及び同(B)を含むことは示されておらず、連結基の相違による水滴滑落性の違いがあるとの申立人の主張は妥当でない。
そうであるから、特許権者の上記イ(ア)の主張には首肯できる一方で、連結基Zの相違により、所定の水滴滑落性が得られない場合があって、本件発明の課題を解決できない場合があるという、申立人の主張は妥当でない。
そして、(b3)をもとにして甲2を考察するも、(b3)については、上記bに示したように本件発明1、5に直接適用できないものである。
してみると、(b4)における主張は採用できない。
d (b5)について
本件発明の課題を解決するには、本件明細書等の段落【0113】に示されていたとおり、化合物(A)及び同(B)が、RPF鎖の一方の末端にRf基を、他方の末端に基(I)を有すること、化合物(A)及び同(B)のそれぞれのRf基の炭素数が異なることを要するものであり、化合物(A)及び同(B)の分子長については、本件発明1、5及び本件明細書等をみても、何ら記載されていない。
そして、甲2において、その実施例では、化合物(i)である(G)又は(H)と、化合物(ii)である(B)(当審注:本件発明で除かれた式(1)に該当)とを併用した表面処理剤を用いて形成した表面処理層に対して、水の静的接触角を観察することで摩擦耐久性を評価することが記載されているから、表面処理剤の組成により摩擦耐久性を向上させようとすることは窺えるものの、それら化合物の分子長に関しては記載されていないし、そのような分子長の差により摩擦耐久性を調整しようとすることも読み取れない。
そもそも、本件発明1、5では、甲2における化合物(ii)である(B)、すなわち本件発明1、5の式(1)で表されるパーフルオロ(ポリ)エーテル基含有アミドシランが除かれているため、化合物(ii)である(B)を必須とする甲2の実施例に基づいた主張は当を得たものでない。
してみると、(b5)における主張は採用できない。
e (b6)及び(b7)について
芳香族炭化水素環式基は、平面状のリジッドな骨格を有するのに対し、オルガノポリシロキサン基は、芳香族炭化水素環式基の炭素-炭素結合長からすれば、Si-O-Siのような三原子を介する長い結合長を有し、また結合角も広く、さらに単結合で結合しているものであるから、芳香族炭化水素環式基と同じ程度にリジッドな骨格であるとはいえず、オルガノポリシロキサン基中のSi-O-Si結合が芳香族炭化水素環式基のオルト位と同様に必ず基材と同じ側を向くように配向するとまではいえない。
また、意見書第31頁中央に記載の構造式を有する化合物は、本件発明1、5の式(1)で表されるパーフルオロ(ポリ)エーテル基含有アミドシランに該当するところ、連結基に結合しているRPF鎖を介してRf基を有する構造をとることから、本件発明と同様に基材側と反対側に配向するものといえる。
してみると、(b6)及び(b7)における主張は採用できない。
(8)小括
以上のとおり、本件発明1~11は、当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであり、本件明細書等の発明の詳細な説明に記載したものであるから、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしており、取消理由通知書に記載した取消理由1(サポート要件)により取り消すことができない。
3 取消理由3(明確性)について
・請求項 5~11
本件訂正により、式(B1)の説明において、「(3-n)」が「(3-n2)」に訂正されたことにより、明確性における取消理由3は解消した。
よって、請求項5~11に係る発明は明確である。
4 取消理由通知において採用しなかった申立理由1(明確性)、申立理由2(サポート要件)について
(1)申立人は以下の主張をしている。
甲1の実施例に例示された化合物は、Rf基と基(I)とを有する含フッ素化合物を二種使用し、各々の含フッ素化合物のRf基はいずれもC8F17基であり、含フッ素化合物の分子長の差を有する二種を用いて、撥水撥油防汚性を付与できたものである一方で、本件発明1、5では、RPF鎖の一方の末端にRf基が結合し、RPF鎖の他方の末端側に基(I)が存在する含フッ素エーテル化合物(A)及び同(B)の骨格を有し、各々のRf基の炭素数が異なることにより、物性的または物理的な微細凹凸構造を構成しており、本件発明1、5の二種の含フッ素エーテル化合物において、物性的または物理的な微細凹凸構造を構成する要因が、甲1に記載されたような分子長の差であるならば、上記含フッ素エーテル化合物において、分子長の差を設けるために幅広い連結基Zの構造を取り得るところ、分子長の差はRf基の炭素数の差を相殺するに十分であって、含フッ素エーテル化合物(A)及び同(B)の組み合わせは、明らかに効果を奏しない範囲を含んでおり不明確であるし、本件発明1、5の含フッ素エーテル化合物(A)及び同(B)の分子長の差を広範囲に包含する組み合わせの全てにおいて、本件明細書等の実施例の特定の化合物の組み合わせと同様に、本件発明の効果を奏することが理解できない。(申立書第16頁第16行~第26頁第2行)
しかしながら、甲1の実施例に例示された二種の含フッ素化合物は、末端のペルフルオロアルキル基が同じ炭素数を有するものであって、かつポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖を有しないものである。
してみると、甲1の含フッ素化合物は、本件発明1、5の含フッ素エーテル化合物の構造とは異なり、本件発明1、5では、含フッ素エーテル化合物の分子長の差を有することで水滴滑落性を生じさせるものではないから、上記主張は採用できない。
(2)また、申立人は以下の主張をしている。
甲2では、X基(当審注:本件発明1、5の連結基Zに該当)として直鎖状、分岐状、環状のオルガノポリシロキサン基が挙げられ、該X基が式(B1)(当審注:本件発明1、5で除かれた式(1)に該当)などの置換基Tを有する構造であるところ、本件発明1、5の具体例としては、実施例に示された3つの特定の連結基Zの場合のみであり、表面層の水滴滑落性に影響を及ぼすであろう、含フッ素エーテル化合物(A)及び同(B)の分子長の差がそれほど大きくないし、連結基Zの選択によっては表面層の水滴滑落性の改善効果を生じない分子長の差となる場合もあり、そのような連結基Zを含む含フッ素エーテル化合物(A)及び同(B)の組み合わせは、ただちに実施例における組み合わせと同等の作用効果を奏するとはいえないし、明らかに効果を奏しない範囲を含んでおり不明確である。(申立書第26頁第3行~第28頁第22行)
しかしながら、上記2(7)エeに示したとおり、環状のポリシロキサンであれば、芳香族炭化水素環式基のオルト位の場合のように、必ず基材と同じ側を向いて配向するとは解されないし、上記(1)に示したとおり、本件発明1,5では分子長の差を有することで水滴滑落性を生じさせるものではないから、上記主張は採用できない。
(3)よって、本件発明1、5は、明確であるし、本件明細書等に記載した範囲を超えるものではない。
(4)また、本件発明1、5を引用する本件発明2~4、6~11についても、同様の理由により、明確であるし、本件明細書等に記載した範囲を超えるものではない。
第6 むすび
以上のとおり、本件特許に対する訂正は適法であるから、これを認める。
そして、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1~11に係る特許を取り消すことはできない。
他に本件請求項1~11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2022-700866