特許異議申立
2020-700409
摺動部材およびその製造方法
- 審判番号
- 2020-700409
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2015-090280
- 登録番号
- 6641100
- 請求日
- 2020年06月15日
- 審決日
- 2022年06月06日
- 公報発行日
- 2022年09月30日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】東洋炭素株式会社
- 【権利者代理人】福島 祥人
- 【異議申立人】阿美 克生
- 審判長/審判官
- 審判長 平瀬 知明
- 審判官 内田 博之
- 審判官 段 吉享
- 分類
- P1651.121-YAA(F16C) / P1651.537-YAA(F16C) / P1651.857-YAA(F16C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第126条第7項、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第4項、特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6641100号発明「摺動部材およびその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6641100号の明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1、2、3、4、5、6、7について訂正することを認める。
特許第6641100号の請求項1~7に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6641100号の請求項1~5に係る特許についての出願は、平成27年4月27日に出願され、令和2年1月7日にその特許権の設定登録がされ、同年2月5日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許について、特許異議申立人阿美克生(以下「異議申立人」という。)により、請求項1~5に係る特許に対する特許異議の申立てがされた。
本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和2年 6月15日 : 異議申立人による特許異議の申立て
同年11月30日付け: 取消理由通知書
令和3年 1月29日 : 特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
同年 3月 2日 : 特許権者による、訂正請求書を補正対象とする手続補正書の提出
同年 7月 2日 : 異議申立人による意見書の提出
同年11月 2日 : 特許権者による、訂正請求書を補正対象とする手続補正書の提出
同年11月10日付け: 取消理由通知(決定の予告)
令和4年 1月11日 : 特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
同年 4月 4日 : 異議申立人による意見書の提出
第2 訂正の適否
1 訂正の内容
令和4年1月11日の訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、以下の(1)~(8)のとおりである(下線部は訂正箇所を示す。なお、令和3年3月2日に手続補正された令和3年1月29日の訂正請求書による訂正は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなされる。)。
(1)訂正事項1
訂正前の特許請求の範囲の請求項1に
「人造黒鉛のみを含む骨材と、添加剤としてのカオリンと、バインダとを含み、
前記骨材および前記添加剤の総量100重量部に対して、人造黒鉛92.5~95重量部を含む、摺動部材。」と記載されているものを、
「人造黒鉛のみを含む骨材と、添加剤としてのカオリンと、バインダとを含み、
前記骨材および前記添加剤の総量100重量部に対して、人造黒鉛92.5~95重量部を含み、
前記バインダは、ピッチおよびタールのうち少なくとも一方を含む、摺動部材。」に訂正する。
(2)訂正事項2
訂正前の特許請求の範囲の請求項2に
「前記骨材および前記添加剤の総量100重量部に対して、カオリン2~20重量部を含む、請求項1記載の摺動部材。」と記載されているものを、
「人造黒鉛のみを含む骨材と、添加剤としてのカオリンと、バインダとを含み、
前記骨材および前記添加剤の総量100重量部に対して、人造黒鉛92.5~95重量部を含み、
前記骨材および前記添加剤の総量100重量部に対して、カオリン2~20重量部を含み、
前記バインダは、ピッチおよびタールのうち少なくとも一方を含む、摺動部材。」に訂正する。
(3)訂正事項3
訂正前の特許請求の範囲の請求項3に
「前記骨材、前記添加剤および前記バインダの総重量に対して2~10重量%の灰分を含む、請求項1または2記載の摺動部材。」と記載されているものを、
「人造黒鉛のみを含む骨材と、添加剤としてのカオリンと、バインダとを含み、
前記骨材および前記添加剤の総量100重量部に対して、人造黒鉛92.5~95重量部を含み、
前記骨材、前記添加剤および前記バインダの総重量に対して2~10重量%の灰分を含み、
前記バインダは、ピッチおよびタールのうち少なくとも一方を含む、摺動部材。」に訂正する。
(4)訂正事項4
訂正前の特許請求の範囲の請求項4に
「前記骨材、前記添加剤および前記バインダの総重量に対して3~7重量%の灰分を含む、請求項3記載の摺動部材。」と記載されているものを、
「人造黒鉛のみを含む骨材と、添加剤としてのカオリンと、バインダとを含み、
前記骨材および前記添加剤の総量100重量部に対して、人造黒鉛92.5~95重量部を含み、
前記骨材、前記添加剤および前記バインダの総重量に対して3~7重量%の灰分を含み、
前記バインダは、ピッチおよびタールのうち少なくとも一方を含む、摺動部材。」に訂正する。
(5)訂正事項5
訂正前の特許請求の範囲の請求項5に
「人造黒鉛のみを含む骨材と添加剤としてのカオリンとを混合することにより混合粉末を調製する工程と、
調製された混合粉末とバインダとを混練することにより混合基材を作製する工程と、
前記混合基材を粉砕する工程と、
粉砕された混合基材を成形する工程と、
成形された混合基材を焼成する工程とを含み、
前記骨材および前記添加剤の総量100重量部に対して、人造黒鉛92.5~95重量部を含む、摺動部材の製造方法。」と記載されているものを
「人造黒鉛のみを含む骨材と添加剤としてのカオリンとを混合することにより混合粉末を調製する工程と、
調製された混合粉末とバインダとを混練することにより混合基材を作製する工程と、
前記混合基材を粉砕する工程と、
粉砕された混合基材を成形する工程と、
成形された混合基材を焼成する工程とを含み、
前記骨材および前記添加剤の総量100重量部に対して、人造黒鉛92.5~95重量部を含み、
前記バインダは、ピッチおよびタールのうち少なくとも一方を含む、摺動部材の製造方法。」に訂正する。
(6)訂正事項6
訂正前の特許請求の範囲の請求項3に
「前記骨材、前記添加剤および前記バインダの総重量に対して2~10重量%の灰分を含む、請求項1または2記載の摺動部材。」と記載されているものを、
「人造黒鉛のみを含む骨材と、添加剤としてのカオリンと、バインダとを含み、
前記骨材および前記添加剤の総量100重量部に対して、人造黒鉛92.5~95重量部を含み、
前記骨材および前記添加剤の総量100重量部に対して、カオリン2~20重量部を含み、
前記骨材、前記添加剤および前記バインダの総重量に対して2~10重量%の灰分を含み、
前記バインダは、ピッチおよびタールのうち少なくとも一方を含む、摺動部材。」に訂正し、新たな請求項6とする。
(7)訂正事項7
訂正前の特許請求の範囲の請求項4に
「前記骨材、前記添加剤および前記バインダの総重量に対して3~7重量%の灰分を含む、請求項3記載の摺動部材。」と記載されているものを、
「人造黒鉛のみを含む骨材と、添加剤としてのカオリンと、バインダとを含む炭素基材を備え、
前記骨材および前記添加剤の総量100重量部に対して、人造黒鉛92.5~95重量部を含み、
前記骨材および前記添加剤の総量100重量部に対して、カオリン2~20重量部を含み、
前記骨材、前記添加剤および前記バインダの総重量に対して3~7重量%の灰分を含み、
前記炭素基材の気孔が樹脂材料により封止され、
前記気孔が前記樹脂材料により封止された前記炭素基材のかさ密度は、1.832Mg/m3以上1.87Mg/m3以下であり、
前記バインダは、ピッチおよびタールのうち少なくとも一方を含む、摺動部材。」に訂正し、新たな請求項7とする。
(8)訂正事項8
明細書の【0019】の「カオリンとは、カオリナイト、パイロフィライト等の結晶性粘土鉱物をいう。」との記載を、「カオリンとは、カオリナイトまたはパイロフィライトを主成分とする結晶性粘土鉱物をいう。」に訂正する。
2 訂正要件の適否について
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的
訂正事項1は、訂正前の請求項1における「バインダ」を「ピッチおよびタールのうち少なくとも一方を含む」と限定するものである。
よって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否、独立特許要件
訂正事項1は、上記アのとおり、訂正前の請求項1に係る発明を限定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでなく、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
そして、訂正事項1は特許異議の申立てがされている訂正前の請求項1に係るものであるから、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
ウ 新規事項の有無(下線は当審で付した。以下同様。)
願書に添付した明細書には
「【0023】
混合粉末とバインダとを例えば200~220℃で混練することにより混合基材を得る。バインダとしては、ピッチ、タール、熱硬化性樹脂等を用いることができ、これらのうち複数を混合して用いてもよい。」
と記載されている。
そうすると、訂正後の請求項1のとおりのバインダを用いることは、願書に添付した明細書の段落【0023】に記載された事項であるといえるから、訂正事項1は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的
訂正事項2は、訂正前の請求項2が訂正前の請求項1の記載を引用していたものを、請求項間の引用関係を解消して、独立形式の請求項の記載に改めるための訂正であって、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に規定する「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とする訂正である。
また、訂正事項2は、「バインダ」を「ピッチおよびタールのうち少なくとも一方を含む」と限定するものでもあるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものでもある。
イ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否、独立特許要件
訂正事項2は、上記アのとおり、独立形式の請求項の記載に改めるとともに、訂正前の請求項2に係る発明を限定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでなく、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
そして、訂正事項2は特許異議の申立てがされている訂正前の請求項2に係るものであるから、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
ウ 新規事項の有無
上記(1)ウのとおり、「バインダ」を「ピッチおよびタールのうち少なくとも一方を含む」とすることは、願書に添付した明細書の段落【0023】に記載された事項であるから、訂正事項2は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲(訂正前の請求項1及び2)に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
(3)訂正事項3について
ア 訂正の目的
訂正事項3は、訂正前の請求項3が訂正前の請求項1又は2の記載を引用していたものを、訂正前の請求項1の記載のみを引用するものに限定するとともに、請求項間の引用関係を解消して、独立形式の請求項の記載に改めるための訂正であって、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」及び同項ただし書き第4号に規定する「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とする訂正である。
また、訂正事項3は、「バインダ」を「ピッチおよびタールのうち少なくとも一方を含む」と限定するものでもあるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものでもある。
イ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否、新規事項の有無、独立特許要件
訂正事項3は、上記アのとおり、独立形式の請求項の記載に改めるとともに、訂正前の請求項3に係る発明を限定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでなく、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
そして、訂正事項3は特許異議の申立てがされている訂正前の請求項3に係るものであるから、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
ウ 新規事項の有無
上記(1)ウのとおり、「バインダ」を「ピッチおよびタールのうち少なくとも一方を含む」とすることは、願書に添付した明細書の段落【0023】に記載された事項であるから、訂正事項3は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲(訂正前の請求項1及び3)に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
(4)訂正事項4について
ア 訂正の目的
訂正事項4は、訂正前の請求項4が訂正前の請求項3の記載を引用し、訂正前の請求項3が訂正前の請求項1又は2の記載を引用していたものを、訂正前の請求項3が訂正前の請求項1の記載を引用していたものに限定するとともに、請求項間の引用関係を解消して、独立形式の請求項の記載に改めるための訂正であって、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」及び同項ただし書き第4号に規定する「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とする訂正である。
また、訂正事項4は、「バインダ」を「ピッチおよびタールのうち少なくとも一方を含む」と限定するものでもあるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものでもある。
イ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否、独立特許要件
訂正事項4は、上記アのとおり、独立形式の請求項の記載に改めるとともに、訂正前の請求項4に係る発明を限定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでなく、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
そして、訂正事項4は特許異議の申立てがされている訂正前の請求項4に係るものであるから、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
ウ 新規事項の有無
上記(1)ウのとおり、「バインダ」を「ピッチおよびタールのうち少なくとも一方を含む」とすることは、願書に添付した明細書の段落【0023】に記載された事項であるから、訂正事項4は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲(訂正前の請求項1、3及び4)に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
(5)訂正事項5について
ア 訂正の目的
訂正事項5は、訂正前の請求項5における「バインダ」を「ピッチおよびタールのうち少なくとも一方を含む」と限定するものである。
よって、訂正事項5は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否、独立特許要件
訂正事項5は、訂正前の請求項5に係る発明を限定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでなく、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
そして、訂正事項5は特許異議の申立てがされている訂正前の請求項5に係るものであるから、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
ウ 新規事項の有無
上記(1)ウのとおり、「バインダ」を「ピッチおよびタールのうち少なくとも一方を含む」とすることは、願書に添付した明細書の段落【0023】に記載された事項であるから、訂正事項5は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
(6)訂正事項6について
ア 訂正の目的
訂正事項6は、訂正前の請求項3が訂正前の請求項1又は2の記載を引用していたものを、訂正前の請求項3が訂正前の請求項2の記載を引用し、訂正前の請求項2が訂正前の請求項1の記載を引用していたものに限定するとともに、請求項間の引用関係を解消して、独立形式の請求項の記載に改めるための訂正であって、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」及び同項ただし書き第4号に規定する「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とする訂正である。
また、訂正事項6は、「バインダ」を「ピッチおよびタールのうち少なくとも一方を含む」と限定するものでもあるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものでもある。
イ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否、独立特許要件
訂正事項6は、上記アのとおり、独立形式の請求項の記載に改めるとともに、訂正前の請求項3に係る発明を限定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでなく、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
そして、訂正事項6は特許異議の申立てがされている訂正前の請求項3に係るものであるから、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
ウ 新規事項の有無
上記(1)ウのとおり、「バインダ」を「ピッチおよびタールのうち少なくとも一方を含む」とすることは、願書に添付した明細書の段落【0023】に記載された事項であるから、訂正事項6は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲(請求項1、2及び3)に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
(7)訂正事項7について
ア 訂正の目的
訂正事項7は、訂正前の請求項4が間接的に引用する請求項1の「人造黒鉛のみを含む骨材と、添加剤としてのカオリンと、バインダとを含み」という特定事項を「人造黒鉛のみを含む骨材と、添加剤としてのカオリンと、バインダとを含む炭素基材を備え」と限定するとともに、「前記炭素基材の気孔が樹脂材料により封止され」と限定し、「前記気孔が前記樹脂材料により封止された前記炭素基材のかさ密度は、1.832Mg/m3以上1.87Mg/m3以下であり」と限定し、更に「バインダ」を「ピッチおよびタールのうち少なくとも一方を含む」と限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項7は、訂正前の請求項4が訂正前の請求項3を引用し、訂正前の請求項3が請求項1又は2の記載を引用していたものを、訂正前の請求項3が訂正前の請求項2の記載を引用し、訂正前の請求項2が訂正前の請求項1の記載を引用していたものに限定するとともに、請求項間の引用関係を解消して、独立形式の請求項の記載に改めるための訂正であって、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」及び同項ただし書き第4号に規定する「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とする訂正である。
イ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否、独立特許要件
訂正事項7は、上記アのとおり、独立形式の請求項の記載に改めるとともに、訂正前の請求項4に係る発明を限定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでなく、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
そして、訂正事項7は特許異議の申立てがされている訂正前の請求項4に係るものであるから、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
ウ 新規事項の有無
願書に添付した明細書には
「【0019】
次に、人造黒鉛粉末に添加剤(研削材)としてカオリンを添加し、これらを混合することにより混合粉末を調製する。」及び
「【0023】
混合粉末とバインダとを例えば200~220℃で混練することにより混合基材を得る。バインダとしては、ピッチ、タール、熱硬化性樹脂等を用いることができ、これらのうち複数を混合して用いてもよい。
【0024】
その後、混練により得られた混合基材を粉砕機にて粉砕する。この場合、混合基材全体のうち70~80重量%の混合基材の粒径が例えば63μmより小さくなるように、粉砕機の回転数および粉砕時間等の粉砕条件を調整する。
【0025】
その後、粉砕された混合基材を例えば約120MPaの圧力で例えばCIP(Cold Isostatic Pressing;冷間静水等方加圧)法により成形した後、約1000℃で焼成することにより炭素基材を作製する。炭素基材により、例えば、コンプレッサのパッキンまたは真空ポンプのベーン等の摺動部材を作製することができる。
【0026】
上記の焼成後の炭素基材に含浸処理を施すことにより炭素基材の気孔(微細な空隙)を封止する。含浸処理のための含浸材料としては、例えばフェノール樹脂またはフラン樹脂等の樹脂材料を用いることができる。」と記載されている。
また、願書に添付した明細書の段落【0051】の【表3】に記載された、摺動部材の実施例1~6の「かさ密度(Mg/m3)」は、最大値が実施例1~4の「1.87」であり、最小値が実施例6の「1.832」であって、実施例5のかさ密度は、この最大値と最小値の間の値である。
そうすると、骨材、添加剤及びバインダ(のうちの、焼成後の残存物)を含む炭素基材を摺動部材が備え、バインダがピッチおよびタールのうち少なくとも一方を含むことは、願書に添付した明細書の段落【0019】、【0023】~【0025】に記載された事項であり、炭素基材の気孔が樹脂材料により封止された摺動部材とすることは、願書に添付した明細書の段落【0026】に記載された事項であり、気孔が樹脂材料により封止された炭素基材のかさ密度が1.832Mg/m3以上1.87Mg/m3以下であることは、願書に添付した明細書の段落【0051】の【表3】に記載された事項であるといえるから、訂正事項7は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲(訂正前の請求項1~4)に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
(8)訂正事項8について
ア 訂正の目的
願書に添付した明細書の【0019】の「カオリンとは、カオリナイト、パイロフィライト等の結晶性粘土鉱物をいう。」という、通常カオリンの範疇に含まれない結晶性粘土鉱物であっても、カオリンの範疇に含まれ得るとも解釈できる不明瞭な記載を、「カオリンとは、カオリナイトまたはパイロフィライトを主成分とする結晶性粘土鉱物をいう。」というカオリンの主成分を特定する一般的な定義(特許権者が令和3年1月29日付け意見書に添付した乙第1~6号証等参照。)に基づく記載に改めるものであるから、訂正事項8は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否、新規事項の有無
訂正事項8は、上記アのとおり、カオリンに関する不明瞭な記載を、一般的な定義に基づく記載に改めるものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでなく、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合し、また、新たな技術的事項を導入するものでないから、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 明細書の訂正と関係する請求項について
訂正事項8は、明細書の「カオリン」の記載に係る訂正であり、訂正前の請求項1~5に係るものである。
したがって、本件訂正は、上記明細書の訂正に係る請求項を含む一群の請求項の全てについて行うものであるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第4項の規定に適合する。
3 一群の請求項及び別の訂正単位とする求めについて
訂正前の請求項1~4について、請求項2~4は、請求項1の記載を引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。
したがって、訂正前の請求項1~4に対応する訂正後の請求項1~4、6、7は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
また、訂正後の請求項2~4、6、7について、当該請求項についての訂正が認められる場合には、一群の請求項の他の請求項とは別の訂正単位とする求めがなされている(訂正請求書の6(3)ウ参照。)ところ、上記2(2)~(4)、(6)、(7)のとおり、訂正事項2~4、6、7は適法であるから、訂正後の請求項2~4、6、7についての訂正は、別の訂正単位として扱う。
4 小括
上記2のとおり、訂正事項1~8に係る訂正は、訂正の要件を満たしている。
したがって、明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1、2、3、4、5、6、7について訂正することを認める。
第3 本件訂正後の発明
上記第2のとおり本件訂正は認められるから、本件特許の請求項1~7に係る発明(以下、各々「本件発明1」~「本件発明7」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~7に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
人造黒鉛のみを含む骨材と、添加剤としてのカオリンと、バインダとを含み、
前記骨材および前記添加剤の総量100重量部に対して、人造黒鉛92.5~95重量部を含み、
前記バインダは、ピッチおよびタールのうち少なくとも一方を含む、摺動部材。
【請求項2】
人造黒鉛のみを含む骨材と、添加剤としてのカオリンと、バインダとを含み、
前記骨材および前記添加剤の総量100重量部に対して、人造黒鉛92.5~95重量部を含み、
前記骨材および前記添加剤の総量100重量部に対して、カオリン2~20重量部を含み、
前記バインダは、ピッチおよびタールのうち少なくとも一方を含む、摺動部材。
【請求項3】
人造黒鉛のみを含む骨材と、添加剤としてのカオリンと、バインダとを含み、
前記骨材および前記添加剤の総量100重量部に対して、人造黒鉛92.5~95重量部を含み、
前記骨材、前記添加剤および前記バインダの総重量に対して2~10重量%の灰分を含み、
前記バインダは、ピッチおよびタールのうち少なくとも一方を含む、摺動部材。
【請求項4】
人造黒鉛のみを含む骨材と、添加剤としてのカオリンと、バインダとを含み、
前記骨材および前記添加剤の総量100重量部に対して、人造黒鉛92.5~95重量部を含み、
前記骨材、前記添加剤および前記バインダの総重量に対して3~7重量%の灰分を含み、
前記バインダは、ピッチおよびタールのうち少なくとも一方を含む、摺動部材。
【請求項5】
人造黒鉛のみを含む骨材と添加剤としてのカオリンとを混合することにより混合粉末を調製する工程と、
調製された混合粉末とバインダとを混練することにより混合基材を作製する工程と、
前記混合基材を粉砕する工程と、
粉砕された混合基材を成形する工程と、
成形された混合基材を焼成する工程とを含み、
前記骨材および前記添加剤の総量100重量部に対して、人造黒鉛92.5~95重量部を含み、
前記バインダは、ピッチおよびタールのうち少なくとも一方を含む、摺動部材の製造方法。
【請求項6】
人造黒鉛のみを含む骨材と、添加剤としてのカオリンと、バインダとを含み、
前記骨材および前記添加剤の総量100重量部に対して、人造黒鉛92.5~95重量部を含み、
前記骨材および前記添加剤の総量100重量部に対して、カオリン2~20重量部を含み、
前記骨材、前記添加剤および前記バインダの総重量に対して2~10重量%の灰分を含み、
前記バインダは、ピッチおよびタールのうち少なくとも一方を含む、摺動部材。
【請求項7】
人造黒鉛のみを含む骨材と、添加剤としてのカオリンと、バインダとを含む炭素基材を備え、
前記骨材および前記添加剤の総量100重量部に対して、人造黒鉛92.5~95重量部を含み、
前記骨材および前記添加剤の総量100重量部に対して、カオリン2~20重量部を含み、
前記骨材、前記添加剤および前記バインダの総重量に対して3~7重量%の灰分を含み、
前記炭素基材の気孔が樹脂材料により封止され、
前記気孔が前記樹脂材料により封止された前記炭素基材のかさ密度は、1.832Mg/m3以上1.87Mg/m3以下であり、
前記バインダは、ピッチおよびタールのうち少なくとも一方を含む、摺動部材。」
第4 取消理由の概要
当審が令和3年11月10日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の概要は、次のとおりである。
(進歩性)
本件特許の請求項1~7に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の引用文献1に記載された発明及び周知技術に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本件特許は取り消すべきものである。
引用文献1:特開昭63-96316号公報(異議申立人の甲第1号証)
第5 当審の判断
1 引用文献等
(1)引用文献1・引用発明等
引用文献1には、図面とともに、次の事項が記載されている。
ア 「本発明の添加物である上記ガラス状炭素は、グラファイトやクレー、タルク等の添加物を結合するもので、硬く、高い強度を有し、しかも不透過性に優れていて、全体の強度および耐摩耗性を向上させる。添加量が10wt%未満であると、結合材としての役割が弱くなり、強度、耐摩耗性に劣るようになる。また添加量が48wt%を越えると、摩擦係数が大きくなりすぎる。より望ましい範囲は15~28wt%の範囲である。
上記ガラス状炭素は、フェノール樹脂、フラン樹脂、フルフリールアルコール、ポリイミド等の熱硬化性樹脂またはそれらの混合樹脂を高温の不活性雰囲気中で焼成して炭化させ、さらに必要に応じて黒鉛化することによって得られる。また、水素/炭素原子比を調整したピッチから誘導された酸素官能基を有する炭素前駆体物質を粉末成形した後、同様に焼成して炭化し、さらに必要に応じて黒鉛化することによって得られる。
固体潤滑剤であるグラファイトは、六方晶系の結晶構造を有し、へき開し易いために自己潤滑性があり、摩擦係数を小さくする。添加量が50wt%未満であると潤滑性に劣り、摩擦係数が大となる。他方、添加量が88wt%を越えると、グラファイト自身の強度、耐摩耗性が小さいため全体の強度が小となり、耐摩耗性が低下する。より望ましい範囲は55~75wt%の範囲である。
上記グラファイトとしては人造黒鉛又は天然黒鉛を用いることができ、形状は偏片状又は粒状のものを、粒径としては300μm以下のものを、さらに結晶性はd002=3.41Å以下のものを用いることができる。望ましくは、形状が粒状、粒径が200μm以下、結晶性がd002=3.37Å以下のものがよい。
さらに、上記クレー(焼成カオリン、焼成クレー)、タルク、シリカ又はアルミナの1種以上は、炭素系摺動材料が摺接する相手材へのグラファイト、ガラス状炭素の凝着物を取除く働きがある。そしてグラファイトよりも硬さ、耐摩耗性の点で優れているので、全体の耐摩耗性が向上するようになる。添加量が2wt%未満であると耐摩耗性が劣り、しかも相手材への凝着物の取除き効果が発揮できないため、摩擦が不安定となり易い、また20wt%を越えると、相手材にキズを付けたり、摩耗させたりするので、全体の耐摩耗性が低下するようになる。より望ましい範囲は5~15wt%の範囲である。
また必要に応じて含浸されるオイルは、一層摩擦係数を下げるために含浸させたもので、摩擦界面にオイルが存在すると固体接触が減少し、耐摩耗性も向上する。特に水をシールするメカニカルシールに用いた場合には、オイルは水を撥水させる効果があるので、界面からの水洩れ防止に効果がある。含浸量が、上述した添加物の全体に対して0.1Vol%未満では上記効果が発揮されず、また20Vol%を越えると、その状態はオイルを含浸させるための空孔が多く存在することを意味するので、その多くの空孔により強度が低下し、しかも耐摩耗性も低下することとなる。より望ましい範囲は2~10Vol%の範囲である。
上記オイルとしては、スピンドル油、ダイナモ油、タービン油、エンジン油、ディーゼルエンジン油、ギヤ油等に用いられる鉱油、合成油を用いることができる。」(2頁左上欄8行~2頁右下欄10行)
イ 「以下図示実施例について本発明を説明する。先ず本発明に係る炭素系摺動材料の製造方法について説明すると、フェノール樹脂、フラン樹脂、フルフリールアルコールのガラス状炭素用材料と、グラファイトと、クレー、タルク等とを所要の配合比で配合し、ホットロール又はニーダによって混練する。次にこれを粉砕した後、200~500Kg/cm2の圧力で成形し、さらに熱処理を施して焼成する。この焼成は、ガラス状炭素用材料を炭素化するだけであれば、800~1500℃の不活性ガスによって、黒鉛化する場合には1800℃以上の不活性ガスによってそれぞれ行なわれる。
さらに、オイルを含浸させる場合には、含油率が0.1~2Vol%程度までは、上述の製造方法によって炭素系摺動材料を製造すれば約2%程度までの空孔を形成できるので、その空孔にオイルを含浸させればよい。含油率がそれ以上の場合には、上記配合中に造孔剤として、例えば重炭酸アンモニウムのように焼成時に揮発する成分を含油率に応じた量だけ添加して、熱処理を施せばよい。
上記オイルの含浸方法としては、加熱したオイル中に炭素系摺動材料を浸漬させ、徐冷してから取出せばよい。または、圧力容器中に炭素系摺動材料を収容し、真空ポンプにて圧力容器内を真空にして炭素系摺動材料の空孔から空気を除去する。そしてその状態でオイルを注入し、加圧状態で加熱した後、徐冷するようにしてもよい。
次に、下記の第1表、第2表は、それぞれ本発明に係る炭素系摺動材料の組成と比較材としての炭素系摺動材料の組成とを示すとともに、それらについて摩擦係数と摩耗量とを計測した結果を示したものである。そして、第1表がオイルを含まない炭素系摺動材料に関するもので、試料1~18が本発明品を、試料18~24が比較材を示している。また第2表がオイルを含浸する炭素系摺動材料に関するもので、試料25~35が本発明品を、試料36~38が比較材を示している。」(2頁右下欄12行~3頁右上欄9行)
ウ 引用文献1において、炭素系摺動材料の各添加物の量は、一貫して「wt%」で表記されていることから、第3頁左下欄に記載された第1表にある試料の「本発明品10」の欄には、ガラス状炭素25wt%、グラファイト70wt%、クレー5wt%とした炭素系摺動材料が記載されていると認められる。
したがって、引用文献1には、本発明品10に係る発明として、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているといえる。
[引用発明1]
「グラファイト70wt%と、添加物であるクレー5wt%と、ガラス状炭素25wt%とを含む炭素系摺動材料。」
また、引用文献1に記載された本発明品10に係る製造方法に関して、引用文献1に「先ず本発明に係る炭素系摺動材料の製造方法について説明すると、フェノール樹脂、フラン樹脂、フルフリールアルコールのガラス状炭素用材料と、グラファイトと、クレー、タルク等とを所要の配合比で配合し、ホットロール又はニーダによって混練する。次にこれを粉砕した後、200~500Kg/cm2の圧力で成形し、さらに熱処理を施して焼成する。」(2頁右下欄第12~20行)と記載されているから、引用文献1には、次の製造方法に関する発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されているといえる。
[引用発明2]
「フルフリールアルコールのガラス状炭素用材料と、グラファイトと、クレーとを所要の配合比で配合し、ホットロール又はニーダによって混練する工程と、
前記混練したものを粉砕する工程と、
前記粉砕したものを成形する工程と、
前記成形したものを焼成する工程とを含み、
焼成する工程の後の重量比がグラファイト70wt%、クレー5wt%、ガラス状炭素25wt%である、炭素系摺動材料の製造方法。」
(2)甲第3~5号証
令和3年7月2日に異議申立人により提出された意見書に添付された甲第3~5号証は、次のとおりである。
甲第3号証:ニューマテリアルセンター、“炭素-グラファイト(黒鉛)複合材料の特性とその応用”、NMCマンスリー:Vol.8,No.12(1997年12月号)通巻96号、1997年
甲第4号証:鳥羽雄一、“応用編 不浸透炭素製品”、炭素 1972(No.68)、pp23-29、炭素材料学会
甲第5号証:石川敏功、“耐高熱性不滲透炭素製品について”、炭素 VOL.7 No.2、pp13-19、炭素材料学会
ア 甲第3号証の記載事項
「3.複合材料の製造法
炭素と黒鉛の複合材料は、コールタール・ピッチで、両者を結合して製造される。混合物はニヤ・ネットシェイプに造型した後、ピッチを炭化するために必要な温度で焼結する。(中略)この焼結中のポアーの形成は却って好都合な面もある。ポアーに充填剤として、樹脂、金属、炭素或は無機塩を含浸させると、複合材の強度、熱伝導度、摩耗特性を向上させることができる。」(22頁中欄1~16行)
イ 甲第4号証の記載事項
(ア)「2.不浸透炭素(黒鉛)およびその製法
すでに御承知の通り通常の炭素(黒鉛)素材は焼成,黒鉛化工程で生じた細孔を残しているので流体の浸透はさけられず,このままでは化学機器材料としての用をなさない。そこでこの細孔に合成樹脂を含浸し熱硬化させることにより液体または気体を通過させない不浸透な材料としたものが不浸透炭素(黒鉛)である。」(23頁左欄19~25行)
(イ)「2.2 含浸樹脂
耐蝕性に優れ、含浸硬化に適した樹脂を用いることになるが現在もっとも使用されているものとして
イ フェノール系樹脂
ロ フラン系樹脂
ハ ジビニルベンゼン樹脂
がある。」(24頁左欄7~13行)
(ウ)「3.特性
3.1 物理的特性
表1に通常質(非含浸品)と不浸透質炭素及び黒鉛の物理特性を比較して示す。」(24頁右欄1~4行)
(エ)24頁の表1の、「材料」の「不浸透黒鉛質(普通品)」についての「特性」の「見掛比重」の欄に「1.85」と記載されており、普通品の不浸透黒鉛質の見掛比重は1.85であることが理解できる。
ウ 甲第5号証の記載事項
(ア)「しかるに戦後合成樹脂を黒鉛及び炭素製品の孔に充填することにより、ガスや液体の漏洩防止に成功し,化学工業用材料として画期的発展を見るに至つた。」(13頁左欄12~16行)
(イ)17頁の「Table4 不滲透炭素製品の物理的特性」の記載内容から、「レスボン(phenol系)」の見掛比重は1.84であることが理解できる。
2 取消理由について
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と引用発明1とを対比する。
引用文献1には、ガラス状炭素について、「本発明の添加物である上記ガラス状炭素は、グラファイトやクレー、タルク等の添加物を結合するもので、硬く、高い強度を有し、しかも不透過性に優れていて、全体の強度および耐摩耗性を向上させる。」(2頁左上欄8~12行)と記載されているから、引用発明1の「ガラス状炭素」は、本件発明1の「バインダ」に相当する。
さらに、引用発明1の「添加物であるクレー」と、本件発明1の「添加剤であるカオリン」とは、「添加物であるクレー」の限りにおいて共通する。
また、引用発明1の炭素系摺動材料において、添加剤及びバインダに相当するクレー及びガラス状炭素を除くとグラファイトのみが残るので、引用発明1は、グラファイトのみが骨材であるといえるから、引用発明1の「グラファイト」と本件発明1の「人造黒鉛のみを含む骨材」とは、「グラファイトのみを含む骨材」の限りにおいて共通する。
そして、引用発明1の「グラファイト70wt%」及び「クレー5wt%」の数値について、グラファイトとクレーの総量を100重量部として換算すると、グラファイトは93.3重量部となるから、本件発明1の「92.5~95重量部」の範囲内であるといえる。
そしてまた、引用発明1の「炭素系摺動材料」は、引用文献1において「摩擦係数と摩耗量とを計測」(3頁右上欄3行)できるものとして記載されており、摩耗量が把握できる部材としての形態を有しているといえるから、本件発明1の「摺動部材」に相当するといえる。
したがって、本件発明1と引用発明1とは、
「グラファイトのみを含む骨材と、添加剤としてのクレーと、バインダとを含み、
前記骨材および前記添加剤の総量100重量部に対して、グラファイト92.5~95重量部を含む、摺動部材。」
の限りにおいて一致し、以下の相違点1及び2で相違する。
[相違点1]
「グラファイト」及び「クレー」が、本件発明1は「人造黒鉛」及び「カオリン」であるのに対し、引用発明1は、このような特定がない点。
[相違点2]
本件発明1は、「バインダは、ピッチおよびタールのうち少なくとも一方を含む」ものであるのに対し、引用発明1のバインダは「ガラス状炭素」である点。
イ 検討
事案に鑑み、相違点2について先に検討する。
引用文献1には、「ガラス状炭素」を、「ピッチおよびタールのうち少なくとも一方を含む」ものに置き換えることは、記載も示唆もされていない。
また、骨材としてグラファイトのみを含み、添加剤としてクレーを含む摺動部材の技術分野において、バインダとしてのガラス状炭素を、ピッチおよびタールのうち少なくとも一方を含むものに置き換えることが周知技術であったとも認められない。
さらにまた、上記1(1)アの「本発明の添加物である上記ガラス状炭素は、グラファイトやクレー、タルク等の添加物を結合するもので、硬く、高い強度を有し、しかも不透過性に優れていて、全体の強度および耐摩耗性を向上させる」との記載を参酌すれば、強度及び耐摩耗性を向上させる「ガラス状炭素」を、「ピッチおよびタールのうち少なくとも一方を含む」ものに置き換える動機付けはないといえる。
そうであれば、相違点1について検討するまでもなく、引用発明1に基づいて本件発明1の構成とすることは、当業者であっても容易に想到し得たものとはいえない。
そして、本件発明1は、人造黒鉛のみを含む骨材と、添加剤としてのカオリンと、バインダとしてピッチおよびタールのうち少なくとも一方を含む摺動部材の構成によって「液体中または高湿度雰囲気中での耐摩耗性が向上される」(本件特許の明細書の段落【0014】参照。)という作用効果を奏すると認められる。
そうであれば、本件発明1は、引用発明1に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(2)本件発明2~4、6及び7について
本件発明2~4、6及び7は、実質的には、本件発明1の発明特定事項を全て含み、更に限定を付加したものである。
そうすると、本件発明2~4、6及び7は、本件発明1と同様に「バインダは、ピッチおよびタールのうち少なくとも一方を含む」との構成を有しているから、上記(1)イと同様の理由により、本件発明2~4、6及び7は、引用発明1に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3)本件発明5について
ア 対比
本件発明5と引用発明2とを対比する。
上記(1)アの対比を踏まえると、引用発明2の「グラファイト」と、本件発明5の「人造黒鉛のみを含む骨材」とは「グラファイトのみを含む骨材」の限りで共通し、引用発明2の「添加剤としてのクレー」と本件発明5の「添加剤としてのカオリン」とは、「添加剤としてのクレー」の限りで共通する。
引用発明2の「フルフリールアルコールのガラス状炭素用材料」は、本件発明5の「バインダ」に相当する。
引用発明2の「フルフリールアルコールのガラス状炭素用材料と、グラファイトと、クレーとを所要の配合比で配合し、ホットロール又はニーダによって混練」したものは、「成形する工程」に至るまで成分が変更される工程は存在しないから、引用発明2の「前記混練したもの」、「前記粉砕したもの」及び「前記成形したもの」は、本件発明5の「混合基材」に相当する。
引用発明2の「炭素系摺動材料」は本件発明5の「摺動部材」に相当する。
そして、引用発明2の「グラファイト70wt%」及び「クレー5wt%」の数値について、グラファイトとクレーの総量を100重量部として換算すると、グラファイトは93.3重量部となるから、本件発明5の「92.5~95重量部」の範囲内であるといえる。
したがって、本件発明5と引用発明2とは
「グラファイトのみを含む骨材と添加剤としてのクレーとバインダとを混練することにより混合基材を作製する工程と、
前記混合基材を粉砕する工程と、
粉砕された混合基材を成形する工程と、
成形された混合基材を焼成する工程とを含み、
前記骨材および前記添加剤の総量100重量部に対して、グラファイト92.5~95重量部を含む、摺動部材の製造方法。」の点で一致し、以下の相違点3~5で相違する。
[相違点3]
「グラファイト」及び「クレー」が、本件発明5では「人造黒鉛」及び「カオリン」であるのに対し、引用発明2は、このような特定がない点。
[相違点4]
本件発明5は 「人造黒鉛のみを含む骨材と添加剤としてのカオリンとを混合することにより混合粉末を調製する工程と、調製された混合粉末とバインダとを混練することにより混合基材を作製する工程と」を含むのに対し、引用発明2は「フルフリールアルコールのガラス状炭素用材料と、グラファイトと、クレーとを所要の配合比で配合し、ホットロール又はニーダによって混練する工程」を含む点。
[相違点5]
本件発明5は、「バインダは、ピッチおよびタールのうち少なくとも一方を含む」のに対し、引用発明2のバインダは「フルフリールアルコールのガラス状炭素用材料」である点。
イ 検討
事案に鑑み、相違点5について先に検討する。
引用文献1には、「フルフリールアルコールのガラス状炭素用材料」を、「ピッチおよびタールのうち少なくとも一方を含む」ものに置き換えることは、記載も示唆もされていない。
また、骨材としてグラファイトを含み、添加剤としてクレーを含む摺動部材の技術分野において、バインダとしてのガラス状炭素を、ピッチおよびタールのうち少なくとも一方を含むものに置き換えることが周知技術であったとも認められない。
また、上記1(1)アの「ガラス状炭素は、グラファイトやクレー、タルク等の添加物を結合するもので、硬く、高い強度を有し、しかも不透過性に優れていて、全体の強度および耐摩耗性を向上させる」との記載を参酌すれば、強度および耐摩耗性を向上させるための「フルフリールアルコールのガラス状炭素用材料」を、「ピッチおよびタールのうち少なくとも一方を含む」ものに置き換える動機付けはないといえる。
そうであれば、相違点3及び4について検討するまでもなく、引用発明2に基いて本件発明5の構成とすることは、当業者であっても容易に想到し得たものとはいえない。
そして、本件発明5は、人造黒鉛のみを含む骨材と、添加剤としてのカオリンと、バインダとしてピッチおよびタールのうち少なくとも一方を含む原材料によって、製造される摺動部材が「液体中または高湿度雰囲気中での耐摩耗性が向上される」(本件特許の明細書の段落【0014】参照。)という作用効果を奏すると認められる。
そうであれば、本件発明5は、引用発明2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
3 決定の予告において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)特許法第29条第1項第3号について
異議申立人は、特許異議申立書において、甲第1号証(引用文献1)を提示して、訂正前の特許請求の範囲に関し、請求項1、2、5に係る発明は、甲第1号証に記載された発明(比較材24、バインダはフェノール樹脂)と同一である旨を主張する。
また、甲第2号証(特開2014-152805号公報)を提示して、訂正前の特許請求の範囲に関し、請求項1、2、5に係る発明は、甲第2号証に記載された発明(比較例4、添加剤はタルク)と同一である旨を主張する。
しかしながら、本件訂正により、訂正前の特許請求の範囲の請求項1、2、5に「バインダは、ピッチおよびタールのうち少なくとも一方を含む」との事項が追加され、本件発明1、2、5と甲第1号証に記載された発明(比較材24)とではバインダが異なるものとなったため、本件発明1、2、5は甲第1号証に記載された発明と同一でない。
また、甲第2号証に記載された発明(比較例4)は、添加剤がタルクであってカオリンではないから、本件発明1、2、5は甲第2号証に記載された発明と同一でない。
よって、上記異議申立人の主張を採用することはできない。
(2)特許法第29条第2項について
異議申立人は、特許異議申立書において、甲第1号証を提示して、訂正前の特許請求の範囲に関し、請求項1~5に係る発明は、甲第1号証に記載された発明(比較材24)から当業者が容易に発明をすることができた旨を主張する。
また、甲第2号証を提示して、訂正前の特許請求の範囲に関し、請求項1~5に係る発明は、甲第2号証に記載された発明(比較例4)から当業者が容易に発明をすることができた旨を主張する。
しかしながら、本件訂正により、訂正前の特許請求の範囲の請求項1~5に「バインダは、ピッチおよびタールのうち少なくとも一方を含む」との事項が追加されて本件発明1~7となっている。
そして、上記甲第1号証に記載された発明(比較材24)は甲第1号証に記載された本発明品1~18と比べて摩擦係数及び摩耗量が劣るもの(甲第1号証の第1表参照。)であって、性能向上等のために試行錯誤に供されるものではなく、上記甲第1号証に記載された発明(比較材24)のバインダであるフェノール樹脂を、ピッチおよびタールのうち少なくとも一方を含むものに置き換える動機付けはないから、本件発明1~7は上記甲第1号証に記載された発明(比較材24)から当業者が容易に発明をすることができたものでない。
また、上記甲第2号証に記載された発明(比較例4)は、甲第2号証に記載された実施例1~5と比べて摩擦係数、摺動温度差及び厚み減少量(耐摩耗性)が劣るもの(甲第2号証の【表2】参照。)であって、性能向上等のために試行錯誤に供されるものではなく、添加剤に相当するタルクをカオリンに置き換える動機付けはないから、本件発明1~7は上記甲第2号証に記載された発明(比較例4)から当業者が容易に発明をすることができたものでない。
よって、上記異議申立人の主張を採用することはできない。
(3)特許法第36条第4項第1号について
ア 「灰分」の「重量%」について
異議申立人は、特許異議申立書において、訂正前の特許請求の範囲の請求項3及び4に係る発明の「灰分」についての測定方法が、発明の詳細な説明に記載されていないから、当業者が容易に発明を実施することができない旨主張する。
しかしながら、本件発明3、4、6及び7における「灰分」は、摺動部材の炭素成分を完全燃焼した後に残った灰を意味することは当業者にとって明らかであるから、発明の詳細な説明の記載は、「灰分」の「重量%」を限定する本件発明3、4、6及び7を、当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されている。
よって、上記異議申立人の主張を採用することはできない。
イ 「灰分のばらつき」の欄の表記について
異議申立人は、特許異議申立書において、明細書の【表2】の「灰分のばらつき」の欄が記号で表記されていて、どの範囲であれば、その記号に該当するか判定できないため、当業者が発明を実施できない旨主張する。
しかしながら、明細書の【表2】の「灰分のばらつき」の欄の記載から、灰分のばらつきの程度の大小が把握できれば、当業者であれば、本件発明3、4、6及び7を実施することに支障はないから、発明の詳細な説明の記載は、「灰分」の「重量%」を限定する本件発明3、4、6及び7を、当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されている。
よって、上記異議申立人の主張を採用することはできない。
ウ 「総合評価」の欄の表記について
異議申立人は、特許異議申立書において、明細書の【表6】の「総合評価」の欄が記号で表記されていて、どの範囲であれば、その記号に該当するか判定できないため、当業者が発明を実施できない旨主張する。
しかしながら、明細書の【表6】の「総合評価」の欄の記載から、摺動性能の均一性、水中での耐摩耗性及び大気中での耐摩耗性、の程度の大小が把握できれば、当業者が本件発明1~7を実施することに支障はないから、発明の詳細な説明の記載は、本件発明1~7を、当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されている。
よって、上記異議申立人の主張を採用することはできない。
エ 「カオリン」について
異議申立人は、特許異議申立書において、どのような組成のカオリンを総量100重量部に対してカオリン2~20重量部添加すれば、本件特許明細書の実施例の特性が得られるか不明であり、当業者が発明を実施できる程度に記載されていない旨主張する。
しかしながら、訂正された明細書の段落【0019】には、「カオリンとは、カオリナイトまたはパイロフィライトを主成分とする結晶性粘土鉱物をいう。」と記載されており、本件発明1~7に係るカオリンの組成は、通常カオリンと呼ばれる結晶性粘土鉱物の範疇の組成であり、そのようなカオリンであれば、本件特許明細書の実施例1~6のと同様の特性が得られると当業者であれば理解できるから、発明の詳細な説明の記載は、本件発明1~7を、当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されている。
よって、上記異議申立人の主張を採用することはできない。
(4)特許法第36条第6項第1号について
ア 焼成した組成か否かについて
異議申立人は、特許異議申立書において、訂正前の請求項1~4に係る発明の組成は、焼成前の混合基材に関する組成であり、本願明細書の実施例1~6の炭素基材は混合基材を1000℃で焼成したものであるから、訂正前の請求項1~4に係る発明は、明細書の発明の詳細な説明に記載されたものでない旨主張する。
しかしながら、本件発明1~4、6及び7は、「摺動部材」であって、焼成後のものであることは明らかであるから、本件発明1~4、6及び7の組成は、実施例1~6に対応するものであって、明細書の発明の詳細な説明に記載されたものである。
よって、上記異議申立人の主張を採用することはできない。
イ 発明の効果の記載について
異議申立人は、特許異議申立書において、発明の詳細な説明に発明の効果を裏付けるデータが記載されていないから、訂正前の請求項1~5に係る発明は、摺動性能の均一性が確保できるという効果を奏する摺動部材に関する発明でない旨主張する。
しかしながら、骨材に人造黒鉛を用いることにより、骨材に天然黒鉛を用いるより摺動性能の均一性が確保できることは、データを見るまでもなく当業者にとって自明の事項であるから、発明の詳細な説明に摺動性能の均一性が確保できたことを裏付けるデータが詳細に記載されていないことをもって、本件発明1~7が、明細書の発明の詳細な説明に記載されたものでないとはいえない。
よって、上記異議申立人の主張を採用することはできない。
4 異議申立人の意見について
異議申立人は、令和4年4月4日付けの意見書において、甲第6号証(特開2008-128477号公報)及び甲第7号証(特開2008-127269号公報)を追加し、特にバインダにピッチやタールを含む摺動部材の周知技術1として甲第2号証、甲第3号証、甲第6号証及び甲第7号証を示し、本件発明1~7に係る発明は、引用発明1(本発明品10)と周知技術1である甲第2号証、甲第3号証、甲第6号証及び甲第7号証の記載事項から当業者が容易に発明をすることができた旨主張する。
しかしながら、引用文献1に「本発明の添加物である上記ガラス状炭素は、グラファイトやクレー、タルク等の添加物を結合するもので、硬く、高い強度を有し、しかも不透過性に優れていて、全体の強度および耐摩耗性を向上させる。」(上記1(1)ア参照。)と記載されていることから、引用発明1(本発明品10)は、ガラス状炭素の存在が前提となる発明であると解され、また、摺動部材のバインダの種類が変われば、強度や耐摩耗性が変わることが技術常識であることも考慮すると、引用発明1のバインダであるガラス状炭素を別の種類のバインダに置き換える動機づけがあったとはいえず、引用発明1(本発明品10)のガラス状炭素を、ピッチやタールを含む従来周知のバインダに置き換えることは、当業者であっても容易であるとは認められないので、本件発明1~7は引用発明1(本発明品10)及び周知技術1である甲第2号証、甲第3号証、甲第6号証及び甲第7号証の記載事項から当業者が容易に発明をすることができたものでない。
よって、上記異議申立人の主張を採用することはできない。
第6 むすび
以上のとおり、本件発明1~7に係る特許は、取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては取り消すことができない。さらに、他に本件発明1~7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2020-700409