特許異議申立
2023-700786
メカニカルシールおよびこれを備える槽外撹拌機
- 審判番号
- 2023-700786
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2022-084256
- 登録番号
- 7219837
- 請求日
- 2023年07月28日
- 審決日
- 2024年06月24日
- 公報発行日
- 2024年09月27日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】古河産機システムズ株式会社
- 【権利者代理人】田中 秀▲てつ▼
- 【権利者代理人】廣瀬 一
- 【権利者代理人】森 哲也
- 【異議申立人】佐藤 孝光
- 審判長/審判官
- 審判長 平城 俊雅
- 審判官 小川 恭司
- 審判官 内田 博之
- 分類
- P1651.113-YAA(F16J) / P1651.121-YAA(F16J) / P1651.536-YAA(F16J) / P1651.537-YAA(F16J)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第1項、特許法第36条第4項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7219837号発明「メカニカルシールおよびこれを備える槽外撹拌機」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7219837号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~6〕について訂正することを認める。
特許第7219837号の請求項1~6に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯の概略
特許第7219837号の請求項1~6に係る特許(以下「本件特許」という。)についての手続の経緯は、概ね、次のとおりである。
令和 4年 5月24日 出願
令和 5年 1月31日 特許権の設定登録
令和 5年 2月 8日 特許掲載公報
令和 5年 7月28日 特許異議申立人佐藤孝光(以下「特許異議申立人」という。)による特許異議の申立て
令和 5年10月23日付け 取消理由通知書
令和 5年12月 8日 特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和 6年 1月24日 特許異議申立人による意見書の提出
令和 6年 2月16日付け 取消理由通知書(決定の予告)
令和 6年 4月 4日 特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
以下、令和6年4月4日に提出された訂正請求書に係る訂正を「本件訂正」という。なお、令和5年12月8日に提出された訂正請求書は、取り下げられたものと見なす(特許法120条の5第7項)。
また、令和6年4月19日付けで特許法120条の5第5項に基づく訂正請求があった旨の通知を特許異議申立人に対して行ったところ、特許異議申立人から何ら応答がなかった。
第2 本件訂正の適否
1 本件訂正の内容
本件訂正の請求は、特許第7219837号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~6について訂正することを求めるものであって、その訂正の内容は次のとおりである(下線は訂正箇所を示す。)。
(訂正事項1)
特許請求の範囲の請求項1において、
「金属若しくはエラストマ製の第二の弾性部材と、を備えることを特徴とするメカニカルシール。」と記載されているものを、
「金属若しくはエラストマ製の第二の弾性部材と、を備え、前記第一の弾性部材は、該第一の弾性部材の外周端部が、前記軸支ハウジング側の部材の内周側を向く面に形成された凹の円環溝からなる弾性部材固定溝に、径方向内側から嵌め込まれていることを特徴とするメカニカルシール。」に訂正する(請求項1を直接的又は間接的に引用する請求項5~6も同様に訂正する。)。
(訂正事項2)
特許請求の範囲の請求項2において、
「前記第二の弾性部材は、前記固定環に対しても更に軸方向で当接して前記固定環を前記第一の弾性部材と共に直接押圧するように介装されている請求項1に記載のメカニカルシール。」と記載されているものを、
「流体機器のケーシングに付設されるとともにケーシング内に駆動軸を回転可能に支承する軸支ハウジングに用いられるメカニカルシールであって、前記駆動軸とともに回転するように前記駆動軸の外周に固定される環状の回転環と、前記回転環に対して前記駆動軸の軸方向に対向配詈されて前記回転環の摺接面に摺接する摺接面を有するとともに前記軸支ハウジング側の部材に固定される固定環と、前記固定環と前記軸支ハウジングとの間に介装されて自身の弾性力により前記固定環と前記軸支ハウジングとの間を封止するとともに自身の弾性力により前記回転環と前記固定環相互の摺接面に面圧を与えるエラストマ製の第一の弾性部材と、前記第一の弾性部材と前記軸支ハウジング側の部材との間に介装されて自身の弾性力により前記回転環と前記固定環相互の摺接面に面圧を与えるように前記第一の弾性部材に対して軸方向に積層された金属若しくはエラストマ製の第二の弾性部材と、を備え、前記第二の弾性部材は、前記第一の弾性部材に軸方向で当接するとともに、前記固定環に対しても軸方向で当接して前記固定環を前記第一の弾性部材と共に直接押圧するように介装されていることを特徴とするメカニカルシール。」に訂正する(請求項2を直接的又は間接的に引用する請求項3~4、6も同様に訂正する。)。
2 本件訂正の適否について
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的
訂正事項1に係る本件訂正は、請求項1に係る発明における「第一の弾性部材」について、「前記第一の弾性部材は、該第一の弾性部材の外周端部が、前記軸支ハウジング側の部材の内周側を向く面に形成された凹の円環溝からなる弾性部材固定溝に、径方向内側から嵌め込まれている」ことを特定することで、第一の弾性部材をより具体的に特定するものである。
よって、訂正事項1に係る本件訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項の追加の有無
願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件特許明細書等」という。)には、「固定環支持ブロック80の前側の内周部には、駆動軸14と同軸をなす凹の環状段部により移動規制面84が形成されており、また、インロー装着部86の内周面の中央近傍に、径方向に形成された凹の円環溝からなる弾性部材固定溝85が形成されている。」(【0030】)と記載されており、図3からは、第一の弾性部材50の外周端部が、軸支ハウジング16B側の部材である固定支持ブロック80の内周側を向く面に形成された弾性部材固定溝85に、径方向内側から嵌め込まれていることが看取されるから、本件特許明細書等には、「前記第一の弾性部材は、該第一の弾性部材の外周端部が、前記軸支ハウジング側の部材の内周側を向く面に形成された凹の円環溝からなる弾性部材固定溝に、径方向内側から嵌め込まれている」ことが記載されていると認められる。
そうすると、訂正事項1に係る本件訂正は、本件特許明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであって、新規事項を追加するものではないから、本件特許明細書等に記載した事項の範囲においてしたものである。
ウ 訂正事項1に係る本件訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張、又は変更するものではない。
【図3】
[図:0001414173000001.jpg]
(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的
訂正事項2に係る本件訂正は、請求項2の記載が請求項1の記載を引用する記載であったものを、請求項間の引用関係を解消して独立請求項へ改めるとともに、請求項2に係る発明における「前記第二の弾性部材」は「前記固定環」以外に、何に対して当接しているのか明瞭でなかったところ、「第一の弾性部材に軸方向で当接するとともに、前記固定環に対しても」当接していることを明確化するものであるから、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること、及び、明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正である。
イ 新規事項の追加の有無
願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件特許明細書等」という。)には、「第二の弾性部材56は、この移動規制面84との間に介装されて、固定環40の後端面に当接して固定環40を第一の弾性部材50と共に直接押圧している。」(【0041】)、「第二の弾性部材は、前記固定環に当接して前記固定環を前記第一の弾性部材と共に直接押圧するように介装されているので」(【0056】)と記載されており、図3からは、第二の弾性部材56が、第一の弾性部材50や固定環40に対して軸方向で当接していることが看取されるから、本件特許明細書等には、「第二の弾性部材は、第一の弾性部材に軸方向で当接するとともに、固定環に対しても軸方向で当接して」いることが記載されていると認められる。
そうすると、訂正事項2に係る本件訂正は、本件特許明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであって、新規事項を追加するものではないから、本件特許明細書等に記載した事項の範囲においてしたものである。
ウ 訂正事項2に係る本件訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張、又は変更するものではない。
(3)一群の請求項について
本件訂正前の請求項2~6は、直接的又は間接的に請求項1を引用する関係であるから、請求項1~6は一群の請求項である。そして、本件訂正は、請求項1~6について訂正することを求めるものであるから、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項に対してされたものである。
(4)まとめ
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第3号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであって、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~6〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
前記第2のとおり本件訂正は認められるから、本件特許の請求項1~6に係る発明(以下「本件発明1」「本件発明2」などという。)は、特許請求の範囲の請求項1~6に記載された事項により特定される次のとおりである。
【請求項1】
流体機器のケーシングに付設されるとともにケーシング内に駆動軸を回転可能に支承する軸支ハウジングに用いられるメカニカルシールであって、
前記駆動軸とともに回転するように前記駆動軸の外周に固定される環状の回転環と、
前記回転環に対して前記駆動軸の軸方向に対向配置されて前記回転環の摺接面に摺接する摺接面を有するとともに前記軸支ハウジング側の部材に固定される固定環と、
前記固定環と前記軸支ハウジングとの間に介装されて自身の弾性力により前記固定環と前記軸支ハウジングとの間を封止するとともに自身の弾性力により前記回転環と前記固定環相互の摺接面に面圧を与えるエラストマ製の第一の弾性部材と、
前記第一の弾性部材と前記軸支ハウジング側の部材との間に介装されて自身の弾性力により前記回転環と前記固定環相互の摺接面に面圧を与えるように前記第一の弾性部材に対して軸方向に積層された金属若しくはエラストマ製の第二の弾性部材と、
を備え、
前記第一の弾性部材は、該第一の弾性部材の外周端部が、前記軸支ハウジング側の部材の内周側を向く面に形成された凹の円環溝からなる弾性部材固定溝に、径方向内側から嵌め込まれていることを特徴とするメカニカルシール。
【請求項2】
流体機器のケーシングに付設されるとともにケーシング内に駆動軸を回転可能に支承する軸支ハウジングに用いられるメカニカルシールであって、
前記駆動軸とともに回転するように前記駆動軸の外周に固定される環状の回転環と、
前記回転環に対して前記駆動軸の軸方向に対向配置されて前記回転環の摺接面に摺接する摺接面を有するとともに前記軸支ハウジング側の部材に固定される固定環と、
前記固定環と前記軸支ハウジングとの間に介装されて自身の弾性力により前記固定環と前記軸支ハウジングとの間を封止するとともに自身の弾性力により前記回転環と前記固定環相互の摺接面に面圧を与えるエラストマ製の第一の弾性部材と、
前記第一の弾性部材と前記軸支ハウジング側の部材との間に介装されて自身の弾性力により前記回転環と前記固定環相互の摺接面に面圧を与えるように前記第一の弾性部材に対して軸方向に積層された金属若しくはエラストマ製の第二の弾性部材と、
を備え、
前記第二の弾性部材は、前記第一の弾性部材に軸方向で当接するとともに、前記固定環に対しても軸方向で当接して前記固定環を前記第一の弾性部材と共に直接押圧するように介装されていることを特徴とするメカニカルシール。
【請求項3】
前記固定環は、自身の外周面端部に形成されて縦断面がL字状をなし軸方向に沿った面および軸方向とは交差する面の二つの面をもつ段部を有し、
前記第一の弾性部材の内周端が、前記L字状の段部の二つの面にそれぞれ当接することで、前記固定環の径方向への移動および軸方向への移動のそれぞれに対して弾性力で押圧支持可能に構成されている請求項2に記載のメカニカルシール。
【請求項4】
前記回転環は、前記駆動軸若しくは駆動軸側に固定された部材に、軸方向での所定範囲の移動を許容する支持ピンによって支持されており、
前記固定環は、前記軸支ハウジング側に固定された部材に、軸方向および径方向での所定範囲の移動を許容する支持ピンによって支持されている請求項2に記載のメカニカルシール。
【請求項5】
前記回転環は、当該回転環の内周面と前記駆動軸の外周面との間に、第一の対向隙間を確保するように前記駆動軸若しくは駆動軸側に固定された部材に装着され、
前記固定環は、当該固定環の内周面と前記駆動軸の外周面との間に、前記第一の対向隙間よりも広い第二の対向隙間を確保するように前記軸支ハウジング側に固定された部材に装着されている請求項1に記載のメカニカルシール。
【請求項6】
ケーシングと、該ケーシングに付設されるとともにケーシング内に軸方向中央にインペラが設けられた駆動軸を両持ちされた状態で回転可能に支承する一対の軸支ハウジングと、を備え、前記駆動軸の正転・逆転の切替に応じて撹拌液を前記ケーシングの送液方向の一方から吸い込み他方に吐き出す2つの吸込吐出口のどちら向きにも送出できる槽外撹拌機であって、
前記駆動軸の両端が、前記一対の軸支ハウジングに内蔵されるメカニカルシールでシールされるとともに軸受によって回転自在に支持されており、
前記内蔵されるメカニカルシールとして、請求項1~5のいずれか一項に記載のメカニカルシールを備えることを特徴とする槽外撹拌機。
第4 取消理由(決定の予告)の概要
1 本件訂正前の本件特許に対し通知した取消理由(決定の予告)は、概ね、次のとおりである。
本件特許の請求項2~4、6に係る発明は明確でないから、請求項2~4、6に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
2 証拠方法
特許異議申立人提出の証拠方法は以下のとおりである。証拠番号に従い、「甲1」などという。
甲1:特開2021-162145号公報
甲2:実願平2-51071号(実開平4-10167号)のマイクロフィルム
甲3:特開2013-11325号公報
甲4:特開2005-315121号公報
第5 取消理由通知に記載した取消理由について
1 各証拠について
(1)甲1について
ア 甲1の記載事項
・「【0010】
本実施形態の遠心ポンプは、図1に示すように、前面が吸込側1inとされたケーシング1と、ケーシング1内の空間に片持ち支持されたインペラ3と、インペラ3を回転させるシャフト2と、シャフト2を水平に且つ回転自在に支持するハウジング4と、を備える。
ケーシング1は、シャフト2と直交する面に沿って略中央で二分割可能に構成され、上部中央が吐出側1outとされている。本実施形態のケーシング1は、その内周面の接液部を覆うように、耐摩耗に優れたゴム製のライナ5が装着される。」
・「【0013】
詳しくは、本実施形態の軸封装置30は、ケーシング1の背面に固定される略円筒状の固定側ベース33と、固定側ベース33に軸方向で対向して配置される、略円筒状の一次側回転環支持ベース31および略円筒状の二次側回転環支持ベース32と、を備える。
一次側回転環支持ベース31は、シャフト2のスリーブ6に対して支持ベース固定ねじ36によって一体回転するように固定される。二次側回転環支持ベース32は、一次側回転環支持ベース31の外周面に、略円筒状のすべり軸受(水中軸受)34を介して回転自在に支持される。」
・「【0017】
径方向内側の一次側メカニカルシール部10は、シャフト2側の一次側回転環支持ベース31に配置される円環状の回転環11と、ポンプのケーシング1側となる固定側ベース33に配置されて回転環11の摺接面に対して軸方向に対向する摺接面を有する円環状の静止環12と、ポンプのケーシング1側となる固定側ベース33に配置されて静止環12を回転環11の方向に押圧付勢する円環状のゴムスプリングパッキン13と、を備える。
【0018】
一次側メカニカルシール部10の回転環11は、略円環状に形成されて耐摩性に優れた金属またはセラミック製で縦断面視が略L字状の部材であり、軸方向前端面がシール部位MS1を構成する一方の摺接面とされている。
回転環11は、軸方向に沿ったすり割り部11sに、回転環支持ピン15が軸方向後方からスライド移動可能に嵌合された状態で、回転環11の基端部が円環状凹部31dに嵌合されることで、一次側回転環支持ベース31と一体で回転するとともに、軸方向の所定範囲でのスライド移動が可能に保持されている。
【0019】
また、一次側メカニカルシール部10の静止環12は、略円環状に形成されて耐摩性に優れた金属またはセラミック製で縦断面視が略L字状の部材であり、軸方向後端面がシール部位MS1を構成する他方の摺接面とされている。
静止環12は、軸方向に沿ったすり割り部12sに、静止環支持ピン16が軸直方向外側からスライド移動可能に嵌合されるとともにゴムスプリングパッキン13で軸方向後方に押圧され且つ径方向の位置が保持された状態で固定側ベース33の円環状凹部33aに支持されている。」
・「【0023】
なお、上述の、一次側メカニカルシール部10と二次側メカニカルシール部20とは、内外の径寸法が相違する以外は、摺動部自体の基本構成は同様なので、以下、共通する構成については併記するかたちで同時に説明する。
内外の各メカニカルシール部10、20のゴムスプリングパッキン13、23は、円環状に形成されたゴム製の部材であり、静止環支持ベース33の液室内面側に形成された円環状凹部33a,33bに嵌め込まれる円環状の固定部13a、23aと、この固定部13a、23aを基端側として各静止環12、22を押圧付勢する部分に向けて斜めに張り出す円錐面部13b、23bと、この円錐面部13b、23bの先端の位置から液室内面側に向けて径方向に延びる円筒状の押圧部13c、23cと、を有する。押圧部13c、23cの内部には金属製の心金が埋入されている。
【0024】
また、本実施形態では、内外の各メカニカルシール部10、20は、ゴムスプリングパッキン13、23の劣化による永久ひずみを回避するために、ゴムスプリングパッキン13、23の押圧部13c、23cを軸方向裏側から支持する、機械的な押圧部材として皿バネ14、24が設置されている。
つまり、各メカニカルシール部10、20は、ゴムスプリングパッキン13、23の円錐面部13b、23bの裏側(押圧部13c、23cの懐部分)に、静止環12、22への押圧付勢力を補助する押圧部材として皿バネ14、24が、ポンプのケーシング1側の部材である静止環支持ベース33の円環状凹部33a,33bの対向面との間に介装されている。」
・「 図2
[図:0001414173000002.jpg]
」
イ 図2から、静止環12は、回転環11に対してシャフト2の軸方向に対向配置されていること、ゴムスプリングパッキン13は静止環12と固定側ベース33との間に設けられていること、円環状凹部33aは軸方向後方と径方向内側が開放されている断面略L字形状であること、ゴムスプリングパッキン13の軸方向前方及び径方向外側のみが当該円環状凹部33aに接するように嵌め込まれていることが看取される。
また、甲1のメカニカルシール部10は、回転環11と静止環12との摺動部の組によるシール部位MS1でのシール機構であって、ゴム弾性を利用したスプリングパッキン13により摺動部のシール部位MS1に押圧力を加えるメカニカルシール機構を備えて構成されているから(【0012】参照)、当該メカニカルシール部10を構成しているゴムスプリングパッキン13が、自身の弾性力により静止環12と固定側ベース33との間を封止していることは明らかである。
ウ 甲1発明
上記ア、イを総合すると、甲1には、次の発明が記載されていると認められる。
(甲1発明)
「遠心ポンプのケーシング1に設けられるとともにケーシング1内にシャフト2を回転自在に支持する固定側ベース33に用いられる一次側メカニカルシール部10であって、
前記シャフト2と一体回転するように前記シャフト2のスリーブ6に固定される円環状の回転環11と、
前記回転環11に対して前記シャフト2の軸方向に対向配置されて前記回転環11の摺接面に対して軸方向に対向する摺接面を有するとともに前記固定側ベース33に配置される静止環12と、
前記静止環12と前記固定側ベース33との間に設けられて自身の弾性力により前記静止環12と前記固定側ベース33との間を封止するとともに静止環12を回転環11の方向に押圧付勢するゴム製の部材であるゴムスプリングパッキン13と、
前記ゴムスプリングパッキン13と前記固定側ベース33との間に介装されて静止環12への押圧付勢力を補助するようにゴムスプリングパッキン13を軸方向裏側から支持する皿バネ14と、
を備え、
前記ゴムスプリングパッキン13は、該ゴムスプリングパッキン13の軸方向前方と径方向外側のみが、前記固定側ベース33の液室内面側に形成された、軸方向後方及び径方向内側が開放されている断面略L字形状の円環状凹部33aに接するように嵌め込まれており、
前記皿バネ14は、前記ゴムスプリングパッキン13を軸方向裏側から支持するように設けられている
一次側メカニカルシール部10。」
(2)甲2について
ア 甲2の記載事項
・「〔産業上の利用分野〕
本考案は、機器に装着されて、静止側シールリングを回転側メイティングリングに押し付けるばねの外周をダイアフラムで覆った構造のメカニカルシールを改良するものである。
〔従来の技術〕
従来、メカニカルシールの一種として、第3図に示すように、ハウジング2の軸方向外側に装着され、非回転のシールリング10とハウジング2の間をエラストマー製ダイアフラム14で封鎖した構造であって、このダイアフラム14の変形性によりメイティングリング6の傾斜や偏心に対してシールリング10を良好に追随させるものが知られている。
すなわちこのメカニカルシールは、ハウジング2に挿通された回転軸4の外周に、ハウジング2の軸方向外側に位置して気密的に嵌着され、カラー8に背面を支持されるとともに周方向に係合されたメイティングリング6と、回転軸4の外周に遊嵌され、ばね12によってハウジング2の軸方向外側へ向けて付勢された非回転のシールリング10と、ハウジング2とシールリング100間に介在してばね12の外周側を覆ったエラストマー製ダイアフラム14とを備え、非回転のシールリング10が回転軸4と一体回転するメイティングリング6にばね12で押圧されて密封摺動面Sを形成し、ハウジング2の内側の密封空間Aから外側の大気Bへの流体の漏れを阻止するものである。
上記ダイアフラム14は、シールリング10の外径フランジ部10aの背面および該背面の内径に形成した筒状部10bの外周面にリテーナ16によって密着固定される断面L字形の内径固定部14aと、該内径固定部14aから湾曲部14bを経て形成され、ばね12の外側の空間を覆うように略テーパ状に展開した可撓部14cと、環状のホルダ18を介してボルト20によりハウジング2の外側端面2aに密着固定される外径固定部14dとからなるものである。
〔考案が解決しようとする課題〕
しかし、上記従来のメカニカルシールは、密封空間A内の流体圧力Pが上昇した場合、第4図に示すように、ダイアフラム14の湾曲部14bがその内側から上記圧力Pを受けて、シールリング10の外径フランジ部10a外周から軸方向へ張り出すように膨出変形することから、シールリング10の外径フランジ部10a背面外径縁との圧接部14eに集中的な摩耗や屈曲が生じて破損しやすくなり、また、内径固定部14aが外径側へ引っ張られてシールリングl0から浮き上がり、該シールリング10との間のシール性が不安定になることがあるといった問題があった。」(2頁6行~5頁12行)
・「
[図:0001414173000003.jpg]
」
イ 第3図から、ばね12は、リテーナ16に軸方向で当接していることが看取される。
ウ 甲2発明
上記ア、イを総合すると、甲2には、次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
(甲2発明)
「機器のハウジング2に付設されるとともにハウジング2内に回転軸4を回転可能に支承するハウジング2に用いられるメカニカルシールであって、
前記回転軸4とともに回転するように前記回転軸4の外周に固定される環状のメイティングリング6と、
前記メイティングリング6に対して前記回転軸4の軸方向に対向配置されて前記メイティングリング6の摺接面に摺接する摺接面を有するとともに前記ハウジング2側の部材に固定されるシールリング10と、
前記シールリング10と前記ハウジング2との間に介装されて自身の弾性力により前記シールリング10と前記ハウジング2との間を封止するエラストマー製のダイアフラム14と、
前記ダイアフラム14と前記ハウジング2側の部材との間に介装されて自身の弾性力により前記メイティングリング6と前記シールリング10相互の摺接面に面圧を与えるように前記ダイアフラム14に対して軸方向に積層されたばね12と、
を備え、
前記第ダイアフラム14は、環状のホルダ18を介してボルト20によりハウジング2の外側端面2aに密着固定され、
前記ばね12は、リテーナ16に軸方向で当接するとともに、前記シールリング10を軸方向外側へ付勢するように介装されている
メカニカルシール。」
(3)甲3について
ア 甲3の記載事項
・「【0021】
〔実施例1〕
実施例1に係るメカニカルシールMは、図1,2に示すように、回転密封輪5、静止密封輪6、ベローズ7等を有し、めっき槽(機械の一例)Tの側壁(固定部の一例)2の外側にボルト止めによって液密に取り付けられた装着壁3と、回転軸(シンクロール軸)1とに跨るように構成されている。回転軸1の側壁2から外部に延ばされた延出軸部1Aに、合成樹脂(例:クロロスルホン化ポリエチレン)製のリテーナ4が締付バンド11を用いて外嵌係止され、そのリテーナ4の側壁側端に回転密封輪5が内嵌支持されている。
【0022】
軸心Pを有する回転軸1の延出軸部1Aに嵌装される状態の回転密封輪5は、例としてSic製で延出軸部1Aと一体回転する。12は、回転密封輪5をリテーナ4に固定させるための締付バンドであり、8はリテーナ4を補強するための金属製バックアップリング板である。静止密封輪6の材質の例としてはセラミックが挙げられる。また、21はリテーナ4の延出軸部1Aへの係止状態を補強するストッパーリングであり、eはシール対象流体の一例としてのめっき液である。
【0023】
ベローズ7は、装着壁3に係止固定される固定部側の端部である基端部7A、静止密封輪6を内嵌保持する静止密封輪側となる先端部7B、及びそれら基端部7Aと先端部7Bとを繋ぐ一段の蛇腹部7Cとを有して構成される弾性材(例:クロロスルホン化ポリエチレン)製の蛇腹筒である。ベローズ7の他の材料としては、NBR、フッ素ゴム、EPDMなどのゴム材が可能である。このベローズ7は、静止密封輪6を軸心P方向で回転密封輪5に押圧付勢して接触型のシール部Sを形成させる弾性機構を兼ねている。蛇腹部7Cの内側は、ベローズ7の内部空間(ベローズ7と延出軸部1Aとの間の空間部)における蛇腹形状に伴う径外側に膨出する環状膨出部7Vとなっている。
【0024】
装着壁3における回転軸1の挿通孔3aの径外側には、軸心P方向で先拡がり状の側周溝10が形成されており、ベローズ7の先窄まり状断面を持つ基端部7Aが側周溝10に側方から差し込まれている。そして、ベローズ7の基端部7Aと蛇腹部7Cとの境目の凹周溝13に嵌り込み外装される基端側環状板(例:ステンレス鋼板製)14を、軸心Pに関する周上に配置されて装着壁3に螺装される複数のボルト・ナット25で装着壁3側に押付けることにより、基端部7Aの先端部を側周溝10に押付けてこれら両者7A,3を液密に接合させてある。なお、本実施例においては、装着壁3は側壁2の一部(つまりは固定部)であるとみなして良い。
【0025】
先端部7Bの内周面には静止密封輪6が内嵌装着(直接に内嵌支持)されており、外周面には締付バンド15が装備されている。先端部7Bと蛇腹部7Cとの境目には、先端側環状板17が嵌り込み外装される凹周溝16が形成されている。例えばステンレス鋼板製の先端側環状板17の外周側に螺着される複数のボルト18にはコイルスプリング19が嵌装されており、先端側環状板17と基端側環状板14とを、つまりは、基端部7Aと先端部7Bとを互いに軸心P方向で離反する方向に弾性付勢する外装弾性機構20を構成している。なお、ボルト・ナット25が挿通される基端側環状板14は先端側環状板17よりも大径に形成されている。
【0026】
詳しくは、図2に示すように、外装弾性機構20は、基端部7Aに外装される基端側環状板14と、先端部7Bに外装される先端側環状板17と、これら両環状板14,17の間に配置される圧縮型バネ手段bと、を有して構成されている。圧縮型バネ手段bは、実施例1においては、軸心Pの周りに複数配備されるコイルスプリング19を有して構成されている。それらコイルスプリング19は、先端側環状板17に螺着される支軸の一例であるボルト18に遊外嵌される状態で装備されている。このような構成においては、基端側環状板14は、基端部7Aの先端部をボルト・ナット25で側周溝10に押付けるための構造体として、かつ、外装弾性機構20を構成するための構造体として機能する部材になっている。
【0027】
さて、外装弾性機構20により、ベローズ7によって静止密封輪6を回転密封輪5に押圧付勢する機能、即ちシール部Sを生じさせる機能を補助並びに強化することが可能である。例えば、静止密封輪6をより強く押す補強用として、また、ベローズ7が劣化してその弾性機能が低下した際でも十分な弾性付勢力、即ちシール部Sの機能を維持させて必要十分なシール性能を発揮させる補助用として機能させることができる。基端側環状板14および先端側環状板17のその他の材料としては、機内液(めっき液)が漏れたときのことを考慮すれば、ステンレス鋼板と同等以上の耐食性を有するものが望ましく、また両板14,17は互いに同一材料であるのが妥当である。
【0028】
外装弾性機構20を持たない構造では、ベローズ7は、静止密封輪6と装着壁3との間からめっき液eを外部に漏らさない液漏れ防止機能と、静止密封輪6を回転密封輪5に押付ける押圧付勢機能との二つの役割を持つことが要求される。これに対して、外装弾性機構20を持つ構造では、ベローズ7は前記液漏れ防止機能を、そして外装弾性機構20は前記押圧付勢機能を、という具合に機能分担させることも可能である。従って、ベローズ7の劣化を遅らせて耐久性を高められるとか、劣化したとしても前記押圧付勢機能は維持されてシール部Sの良好なシール性を発揮し続けさせることができる、という効果が得られる。なお、コイルスプリング19の材料としてシリコンマンガン鋼、クロムバナジウム鋼、クロムモリブデン鋼、ステンレス鋼であるが、その他でも良い。」
・「 図2
[図:0001414173000004.jpg]
」
イ 甲3発明
上記アを総合すると、甲3には、次の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されていると認められる。
(甲3発明)
「めっき槽の側壁2に付設されるとともに側壁2内に回転軸1を回転可能に支承する装着壁3に用いられるメカニカルシールMであって、
前記回転軸1とともに回転するように前記回転軸1の外周に固定される環状の回転密封輪5と、
前記回転密封輪5に対して前記回転軸1の軸方向に対向配置されて前記回転密封輪5の摺接面に摺接する摺接面を有するとともに前記装着壁3の部材に固定される静止密封輪6と、
前記静止密封輪6と前記装着壁3との間に介装されて自身の弾性力により前記静止密封輪6と前記装着壁3との間を液密に接合するとともに自身の弾性力により前記回転密封輪5と前記静止密封輪6相互の摺接面に面圧を与えるゴム材製のベローズ7と、
前記ベローズ7と前記装着壁3との間に介装されて自身の弾性力により前記回転密封輪5と前記静止密封輪6相互の摺接面に面圧を与えるように、前記ベローズ7の基端部7Aに外装される基端側環状板14と、前記ベローズ7の先端部7Bに外装されるステンレス鋼板製の先端側環状板17と、これら両環状板14,17の間に配置されるシリコンマンガン鋼等からなるコイルスプリング19とからなる外装弾性機構20と、
を備え、
前記ベローズ7は、前記基端部7Aが前記装着壁3に係止固定され、前記先端部7Bが前記静止密封輪6を内嵌保持しており、
前記外装弾性機構20は、前記ベローズ7に軸方向で当接して、前記ベローズ7によって前記静止密封輪6を前記回転密封輪5に押圧付勢する機能を補助並びに強化する
メカニカルシールM。」
(4)甲4について
ア 甲4の記載事項
・「【0001】
本発明は、インペラが正逆両方向に回転して被送液体の輸送方向を反転可能な軸流ポンプの軸封構造に関する。」
・「【0012】
図2及び図3に示すように、軸流ポンプ1は、チューブ状のケーシング3、ケーシング3内で正逆両方向に回転可能なインペラ9、インペラ9が中間に固定されたシャフト11、ケーシング3の両端にある2つの吸込吐出口5A、5B、シャフト11を正逆両方向に回転させる駆動装置(図示せず)を備える。
ケーシング3の吸込吐出口5Aとインペラ9との間の区間7Aに、軸封装置取付管13Aが形成されており、吸込吐出口5Bとインペラ9との間の区間7Bに、軸封装置取付管13Bが形成されている。シャフト11の一端が軸封装置取付管13Aを貫通してケーシング3の外部に突出し、他端も軸封装置取付管13Bを貫通してケーシング3の外部に突出し、それぞれ、軸受17に支承されている。軸封装置取付管13Aの端部に軸封装置15Aが装着されており、軸封装置取付管13Bの端部に軸封装置15Bが装着されており、軸封装置15A、15Bがシャフト11の突出部分とケーシング3との間をシールしている。なお、軸封装置15A、15Bは無注水のメカニカルシールである。
【0013】
軸封装置15Aの内側に位置する軸封装置取付管13Aと、ケーシング3の区間7Bとが、連結管19Aによって接続されており、軸封装置15Bの内側に位置する軸封装置取付管13Bと、ケーシング3の区間7Aとが、連結管19Bによって接続されている。
軸流ポンプ1は、インペラ9が正方向に回転すると、吸込吐出口5Aから吸い込まれた被送液体を吸込吐出口5Bから吐出し、インペラ9が逆方向に回転すると、吸込吐出口5Bから吸い込まれた被送液体を吸込吐出口5Aから吐出し、消化槽21の汚泥を撹拌可能に構成されている。」
2 進歩性(甲1を主引例とする場合)について
(1)本件発明1について
本件発明1と甲1発明とを、その機能、構造又は技術的意義を考慮して対比すると、甲1発明の「遠心ポンプ」は本件発明1の「流体機器」に相当し、以下同様に、「ケーシング1」は「ケーシング」に、「設けられる」という事項は「付設される」という事項に、「シャフト2」は「駆動軸」に、「回転自在」は「回転可能」に、「支持」は「支承」に、「固定側ベース33」は「軸支ハウジング」に、「一次側メカニカルシール部10」は「メカニカルシール」に、「一体回転するように」という事項は「ともに回転するように」という事項に、「スリーブ6」は「(駆動軸の)外周」に、「円環状」は「環状」に、「回転環11」は「回転環」に、「前記回転環11の摺接面に対して軸方向に対向する摺接面」は「前記回転環の摺接面に摺接する摺接面」に、「前記固定側ベース33に配置される」という事項は「前記軸支ハウジング側の部材に固定される」という事項に、「静止環12」は「固定環」に、「設けられ」という事項は「介装され」という事項に、「静止環12を回転環11の方向に押圧付勢する」という事項は「自身の弾性力により前記回転環と前記固定環相互の摺接面に面圧を与える」という事項に、「ゴム製の部材であるゴムスプリングパッキン13」は「エラストマ製の第一の弾性部材」に、「静止環12への押圧付勢力を補助する」という事項は「自身の弾性力により前記回転環と前記固定環相互の摺接面に面圧を与える」という事項に、「ゴムスプリングパッキン13を軸方向裏側から支持する」という事項は「前記第一の弾性部材に対して軸方向に積層された」という事項に、「皿バネ14」は「軸方向に積層した第二の弾性部材」に、それぞれ相当する。
甲1発明の「前記ゴムスプリングパッキン13は、該ゴムスプリングパッキン13の軸方向前方及び径方向外側のみが、前記固定側ベース33の液室内面側に形成された、軸方向後方と径方向内側が開放されている断面略L字形状の円環状凹部33aに接するように嵌め込まれている」という事項と、本件発明1の「前記第一の弾性部材は、該第一の弾性部材の外周端部が、前記軸支ハウジング側の部材の内周側を向く面に形成された凹の円環溝からなる弾性部材固定溝に、径方向内側から嵌め込まれている」という事項とは、「前記第一の弾性部材は、該第一の弾性部材の所定部位が、前記軸支ハウジング側の所定箇所に嵌め込まれている」という点で共通する。
したがって、本件発明1と甲1発明とは、次の一致点1-1で一致し、相違点1-1及び1-2で相違するものと認められる。
<一致点1-1>
「流体機器のケーシングに付設されるとともにケーシング内に駆動軸を回転可能に支承する軸支ハウジングに用いられるメカニカルシールであって、
前記駆動軸とともに回転するように前記駆動軸の外周に固定される環状の回転環と、
前記回転環に対して前記駆動軸の軸方向に対向配置されて前記回転環の摺接面に摺接する摺接面を有するとともに前記軸支ハウジング側の部材に固定される固定環と、
前記固定環と前記軸支ハウジングとの間に介装されて自身の弾性力により前記固定環と前記軸支ハウジングとの間を封止するとともに自身の弾性力により前記回転環と前記固定環相互の摺接面に面圧を与えるエラストマ製の第一の弾性部材と、
前記第一の弾性部材と前記軸支ハウジング側の部材との間に介装されて自身の弾性力により前記回転環と前記固定環相互の摺接面に面圧を与えるように前記第一の弾性部材に対して軸方向に積層された第二の弾性部材と、
を備え、
前記第一の弾性部材は、該第一の弾性部材の所定部位が、前記軸支ハウジング側の所定箇所に嵌め込まれている
メカニカルシール。」
<相違点1-1>
第一の弾性部材に関し、本件発明1は「金属若しくはエラストマ製の」第二の弾性部材であるのに対し、甲1発明の皿バネ14の材質は明らかではない点。
<相違点1-2>
第一の弾性部材は、該第一の弾性部材の所定部位が、軸支ハウジング側の所定箇所に嵌め込まれている点に関し、本件発明1では、第二の弾性部材は、該第一の弾性部材の「外周端部が、前記軸支ハウジング側の部材の内周側を向く面に形成された凹の円環溝からなる弾性部材固定溝に、径方向内側から」嵌め込まれているのに対し、甲1発明では、「軸方向前方及び径方向外側のみが、前記固定側ベース33の液室内面側に形成された、軸方向後方と径方向内側が開放されている断面略L字形状の円環状凹部33aに接するように」嵌め込まれている点。
事案に鑑み、相違点1-2について先に検討すると、第一の弾性部材は、「該第一の弾性部材の外周端部が、前記軸支ハウジング側の部材の内周側を向く面に形成された凹の円環溝からなる弾性部材固定溝に、径方向内側から」嵌め込まれているという、第一の弾性部材の固定構造は、甲1~4のいずれにも記載されておらず、また、本願出願前において周知技術であるともいえない。
そして、本件発明1は、相違点1-2に係る発明特定事項を備えることにより、「流体機器における駆動軸の軸方向での熱膨張への追従性および軸振れに対する径方向への移動の追従性により優れたメカニカルシールを提供する」(【0007】)という格別の効果を奏するものである。
したがって、本件発明1は、相違点1-1を検討するまでもなく、当業者であっても甲1発明、甲2~4に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものとは認められない。
(2)本件発明2について
本件発明2と甲1発明とを、その機能、構造又は技術的意義を考慮して対比すると、上記(1)における相当事項において相当し、加えて、甲1発明の「前記皿バネ14は、前記ゴムスプリングパッキン13を軸方向裏側から支持するように設けられている」という事項と本件発明2の「前記第二の弾性部材は、前記第一の弾性部材に軸方向で当接するとともに、前記固定環に対しても軸方向で当接して前記固定環を前記第一の弾性部材と共に直接押圧するように介装されている」という事項とは、「前記第二の弾性部材は、前記第一の弾性部材に軸方向で当接するように介装されている」という点で共通する。
したがって、本件発明2と甲1発明とは、次の一致点1-2で一致し、相違点1-1及び1-3で相違するものと認められる。
<一致点1-2>
「流体機器のケーシングに付設されるとともにケーシング内に駆動軸を回転可能に支承する軸支ハウジングに用いられるメカニカルシールであって、
前記駆動軸とともに回転するように前記駆動軸の外周に固定される環状の回転環と、
前記回転環に対して前記駆動軸の軸方向に対向配置されて前記回転環の摺接面に摺接する摺接面を有するとともに前記軸支ハウジング側の部材に固定される固定環と、
前記固定環と前記軸支ハウジングとの間に介装されて自身の弾性力により前記固定環と前記軸支ハウジングとの間を封止するとともに自身の弾性力により前記回転環と前記固定環相互の摺接面に面圧を与えるエラストマ製の第一の弾性部材と、
前記第一の弾性部材と前記軸支ハウジング側の部材との間に介装されて自身の弾性力により前記回転環と前記固定環相互の摺接面に面圧を与えるように前記第一の弾性部材に対して軸方向に積層された第二の弾性部材と、
を備え、
前記第二の弾性部材は、前記第一の弾性部材に軸方向で当接するように介装されている
メカニカルシール。」
<相違点1-1>
第二の弾性部材に関し、本件発明1は「金属若しくはエラストマ製の」第二の弾性部材であるのに対し、甲1発明の皿バネ14の材質は明らかではない点。
<相違点1-3>
第二の弾性部材は、第一の弾性部材に軸方向で当接するように介装されている点に関し、本件発明2の第二の弾性部材は、前記第一の弾性部材に軸方向で当接する「とともに、前記固定環に対しても軸方向で当接して前記固定環を前記第一の弾性部材と共に直接押圧する」ように介装されているのに対し、甲1発明の皿バネ14(第二の弾性部材)は、静止環12(固定環)に対して軸方向で当接していない点。
事案に鑑み、相違点1-3について先に検討すると、第二の弾性部材は、前記第一の弾性部材に軸方向で当接する「とともに、前記固定環に対しても軸方向で当接して前記固定環を前記第一の弾性部材と共に直接押圧する」ように介装されているという構成は、甲1~4には記載されておらず、また、本願出願前において周知技術であるともいえない。
そして、本件発明2は、相違点1-3に係る発明特定事項を備えることにより、第一の弾性部材による押圧力に加え、第二の弾性部材で固定環自体の後端面を直接的に押圧可能とし、二段の弾性部材により摺接面の面圧が規定され、摺接面での所望の面圧を長期に亘って可及的に維持できるようになっており(【0042】参照)、二段の軸方向追従性を奏するメカニカルシール構造を備える槽外撹拌機用軸封装置としてより好適である(【0056】)という格別の効果を奏するものである。
したがって、本件発明2は、相違点1-1を検討するまでもなく、当業者であっても甲1発明、甲2~4に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものとは認められない。
(3)本件発明3~6について
本件発明1又は2を引用する本件発明3~6も、上記(1)(2)と同様の理由により、甲1発明、甲2~4に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。
3 明確性について
訂正前の請求項2における「前記第二の弾性部材は、前記固定環に対しても更に軸方向で当接して前記固定環を前記第一の弾性部材と共に直接押圧するように介装されている」との記載は、日本語としての係り受けと、「前記第二の弾性部材」は「前記固定環」以外に、何に対して当接するのかが不明瞭であったが、訂正後の請求項2における「前記第二の弾性部材は、前記第一の弾性部材に軸方向で当接するとともに、前記固定環に対しても軸方向で当接して前記固定環を前記第一の弾性部材と共に直接押圧するように介装されている」との記載は日本語の係り受けが明確であり、また、「前記第二の弾性部材」は「第一の弾性部材」と「固定環」に軸方向で当接することが明確であるため、訂正後の特許請求の範囲の請求項2における記載は、特許を受けようとする発明が明確である。
よって、請求項2に係る発明、及び、請求項2を引用する請求項3~4、6に係る発明は明確であるから、本件の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしている。
第6 取消理由通知において採用しなかった特許異議の申立ての理由について
1 取消理由通知において採用しなかった特許異議の申立ての理由は、概ね、次のとおりである。
(1)本件発明1~6は、甲2に記載された発明と甲1~2、4に記載された技術的事項及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(2)本件発明1、5は、甲3に記載された発明であるから、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、本件発明6は、甲3に記載された発明と甲4に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(3)本件発明2~4、6は、特許を受けようとする発明が明確でなく、また、発明の詳細な説明において当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでないから、本件発明2~4、6に係る特許は、特許法第36条第4項第1号及び同条第6項第2号の規定に違反してされたものである。
2 上記「1(1)」(甲2を主引例とする場合の進歩性)について
(1)本件発明1について
本件発明1と甲2発明とを、その機能、構造又は技術的意義を考慮して対比すると、甲2発明の「機器」は本件発明1の「流体機器」に相当し、以下同様に、「ハウジング2」は「ケーシング」に、「回転軸4」は「駆動軸」に、「ハウジング2」は「軸支ハウジング」に、「メイティングリング6」は「回転環」に、「密封摺動面」は「摺接面」に、「シールリング10」は「固定環」に、「エラストマー製」は「エラストマ製」に、「ダイアフラム14」は「第一の弾性部材」に、「バネ12」は「第二の弾性部材」に、それぞれ相当する。
甲2発明の「前記第ダイアフラム14は、環状のホルダ18を介してボルト20によりハウジング2の外側端面2aに密着固定されている」という事項と本件発明1の「前記第一の弾性部材は、該第一の弾性部材の外周端部が、前記軸支ハウジング側の部材の内周側を向く面に形成された凹の円環溝からなる弾性部材固定溝に、径方向内側から嵌め込まれている」という事項とは、「前記第一の弾性部材は、ハウジングに固定されている」という点で共通する。
したがって、本件発明1と甲2発明とは、次の一致点2-1で一致し、相違点2-1~2-3で相違するものと認められる。
<一致点2-1>
「流体機器のケーシングに付設されるとともにケーシング内に駆動軸を回転可能に支承する軸支ハウジングに用いられるメカニカルシールであって、
前記駆動軸とともに回転するように前記駆動軸の外周に固定される環状の回転環と、
前記回転環に対して前記駆動軸の軸方向に対向配置されて前記回転環の摺接面に摺接する摺接面を有するとともに前記軸支ハウジング側の部材に固定される固定環と、
前記固定環と前記軸支ハウジングとの間に介装されて自身の弾性力により前記固定環と前記軸支ハウジングとの間を封止するエラストマ製の第一の弾性部材と、
前記第一の弾性部材と前記軸支ハウジング側の部材との間に介装されて自身の弾性力により前記回転環と前記固定環相互の摺接面に面圧を与えるように前記第一の弾性部材に対して軸方向に積層された第二の弾性部材と、
を備え、
前記第一の弾性部材は、ハウジングに固定されている
メカニカルシール。」
<相違点2-1>
本件発明1における第一の弾性部材は、「自身の弾性力により前記回転環と前記固定環相互の摺接面に面圧を与える」ものであるのに対し、甲2発明のダイアフラム14(第一の弾性部材)は、上記「第5 1(2)ア」によれば、シールリング10とハウジング2の間を封鎖するものであって、密封空間A内の流体圧力Pが上昇した場合に膨張変形するものの、自身の弾性力により密封摺接面に面圧を与えているか明らかではない点。
<相違点2-2>
第二の弾性部材に関し、本件発明1は「金属若しくはエラストマ製の」第二の弾性部材であるのに対し、甲2発明のばね12の材質は明らかではない点。
<相違点2-3>
前記第一の弾性部材は、ハウジングに固定されている点に関し、本件発明1の第一の弾性部材は、「該第一の弾性部材の外周端部が、前記軸支ハウジング側の部材の内周側を向く面に形成された凹の円環溝からなる弾性部材固定溝に、径方向内側から嵌め込まれている」のに対し、甲2発明では、「環状のホルダ18を介してボルト20によりハウジング2の外側端面2aに密着固定されている」点。
事案に鑑み、相違点2-3について先に検討する。
甲2発明のダイアフラム14と本件発明1の第一の弾性部材とは構造が大きく異なるものであるし、相違点2-3は、上記「第5 2(1)」における相違点1-2と同等の相違点であるから、上記「第5 2(1)」において検討したとおりである。
したがって、本件発明1は、相違点2-1、2-2を検討するまでもなく、当業者であっても甲2発明、甲1、3~4に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものとは認められない。
(2)本件発明2について
本件発明2と甲2発明とを、その機能、構造又は技術的意義を考慮して対比すると、上記(1)における相当事項において相当し、加えて、甲2発明の「前記ばね12は、リテーナ16に軸方向で当接するとともに、前記シールリング10を軸方向外側へ付勢するように介装されている」という事項と本件発明2の「前記第二の弾性部材は、前記第一の弾性部材に軸方向で当接するとともに、前記固定環に対しても軸方向で当接して前記固定環を前記第一の弾性部材と共に直接押圧するように介装されている」という事項とは、「前記第二の弾性部材は、前記固定環を押圧するように介装されている」という点で共通する。
したがって、本件発明2と甲2発明とは、次の一致点2-2で一致し、相違点2-1、2-2及び2-4で相違するものと認められる。
<一致点2-2>
「流体機器のケーシングに付設されるとともにケーシング内に駆動軸を回転可能に支承する軸支ハウジングに用いられるメカニカルシールであって、
前記駆動軸とともに回転するように前記駆動軸の外周に固定される環状の回転環と、
前記回転環に対して前記駆動軸の軸方向に対向配置されて前記回転環の摺接面に摺接する摺接面を有するとともに前記軸支ハウジング側の部材に固定される固定環と、
前記固定環と前記軸支ハウジングとの間に介装されて自身の弾性力により前記固定環と前記軸支ハウジングとの間を封止するエラストマ製の第一の弾性部材と、
前記第一の弾性部材と前記軸支ハウジング側の部材との間に介装されて自身の弾性力により前記回転環と前記固定環相互の摺接面に面圧を与えるように前記第一の弾性部材に対して軸方向に積層された第二の弾性部材と、
を備え、
前記第二の弾性部材は、前記固定環を押圧するように介装されている
メカニカルシール。」
<相違点2-1>
本件発明2における第一の弾性部材は、「自身の弾性力により前記回転環と前記固定環相互の摺接面に面圧を与える」ものであるのに対し、甲2発明のダイアフラム14(第1の弾性部材)は、上記「第5 1(2)ア」によれば、シールリング10とハウジング2の間を封鎖するものであって、密封空間A内の流体圧力Pが上昇した場合に膨張変形するものの、自身の弾性力により密封摺接面に面圧を与えているか明らかではない点。
<相違点2-2>
第一の弾性部材に関し、本件発明2は「金属若しくはエラストマ製の」第二の弾性部材であるのに対し、甲2発明のばね12の材質は明らかではない点。
<相違点2-4>
第二の弾性部材に関し、本件発明2では「前記第一の弾性部材に」軸方向で当接する「とともに、前記固定環に対しても軸方向で当接して」前記固定環を「前記第一の弾性部材と共に直接」押圧するように介装されているのに対し、甲2発明のばね12(第二の弾性部材)は、リテーナ16に当接していて、ダイアフラム14(第一の弾性部材)やシールリング10(固定環)には当接しておらず、シールリング10を「ダイアフラム14と共に直接」押圧するものではない点。
事案に鑑み、相違点2-4について先に検討する。
相違点2-4は、上記「第5 2(2)」における相違点1-3と同等の相違点であるから、上記「第5 2(2)」において検討したとおりである。
したがって、本件発明2は、相違点2-1、2-2を検討するまでもなく、当業者であっても甲2発明、甲1、3~4に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものとは認められない。
(3)本件発明3~6について
本件発明1又は2を引用する本件発明3~6も、上記(1)(2)と同様の理由により、甲2発明、甲1、3~4に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。
3 上記「1(2)」(甲3を主引例とする場合の新規性、進歩性)について
(1)本件発明1について
本件発明1と甲3発明とを、その機能、構造又は技術的意義を考慮して対比すると、甲3発明の「めっき槽」は本件発明1の「流体機器」に相当し、以下同様に、「側壁2」は「ケーシング」に、「回転軸1」は「駆動軸」に、「装着壁3」は「軸支ハウジング」に、「メカニカルシールM」は「メカニカルシール」に、「回転密封輪5」は「回転環」に、「静止密封輪6」は「固定環」に、「液密に接合する」という事項は「封止する」という事項に、「ゴム材製」は「エラストマ製」に、「ベローズ7」は「第一の弾性部材」に、それぞれ相当する。
甲3発明の「前記ベローズ7と前記装着壁3との間に介装されて自身の弾性力により前記回転密封輪5と前記静止密封輪6相互の摺接面に面圧を与えるように、前記ベローズ7の基端部7Aに外装される基端側環状板14と、前記ベローズ7の先端部7Bに外装されるステンレス鋼板製の先端側環状板17と、これら両環状板14,17の間に配置されるシリコンマンガン鋼等からなるコイルスプリング19とからなる外装弾性機構20」と本件発明1の「前記第一の弾性部材と前記軸支ハウジング側の部材との間に介装されて自身の弾性力により前記回転環と前記固定環相互の摺接面に面圧を与えるように前記第一の弾性部材に対して軸方向に積層された金属若しくはエラストマ製の第二の弾性部材」とは、「前記第一の弾性部材と前記軸支ハウジング側の部材との間に介装されて自身の弾性力により前記回転環と前記固定環相互の摺接面に面圧を与える金属製の第二の部材」という点で共通する。
したがって、本件発明1と甲3発明とは、次の一致点3で一致し、相違点3-1及び3-2で相違するものと認められる。
<一致点3>
「流体機器のケーシングに付設されるとともにケーシング内に駆動軸を回転可能に支承する軸支ハウジングに用いられるメカニカルシールであって、
前記駆動軸とともに回転するように前記駆動軸の外周に固定される環状の回転環と、
前記回転環に対して前記駆動軸の軸方向に対向配置されて前記回転環の摺接面に摺接する摺接面を有するとともに前記軸支ハウジング側の部材に固定される固定環と、
前記固定環と前記軸支ハウジングとの間に介装されて自身の弾性力により前記固定環と前記軸支ハウジングとの間を封止するとともに自身の弾性力により前記回転環と前記固定環相互の摺接面に面圧を与えるエラストマ製の第一の弾性部材と、
前記第一の弾性部材と前記軸支ハウジング側の部材との間に介装されて自身の弾性力により前記回転環と前記固定環相互の摺接面に面圧を与える金属製の第二の部材と、
を備える、
メカニカルシール。」
<相違点3-1>
第二の部材に関し、本件発明1では、「前記第一の弾性部材に対して軸方向に積層された」「弾性部材」であるのに対し、甲3発明では、「前記ベローズ7の基端部7Aに外装される基端側環状板14と、前記ベローズ7の先端部7Bに外装される」「先端側環状板17と、これら両環状板14,17の間に配置される」「コイルスプリング19とからなる外装弾性機構」である点。
<相違点3-2>
第一の弾性部材の固定構造に関し、本件発明1では「該第一の弾性部材の外周端部が、前記軸支ハウジング側の部材の内周側を向く面に形成された凹の円環溝からなる弾性部材固定溝に、径方向内側から嵌め込まれている」のに対し、甲3発明では「前記基端部7Aが前記装着壁3に係止固定され、前記先端部7Bが前記静止密封輪6を内嵌保持して」いる点。
事案に鑑み、相違点3-2について先に検討する。
甲3発明のベローズ7と本件発明1の第一の弾性部材とは構造が大きく異なるものであるし、相違点3-2は、上記「第5 2(1)」における相違点1-2と同等の相違点であるから、上記「第5 2(1)」において検討したとおりである。
したがって、本件発明1は甲3発明ではない。また、本件発明1は、相違点3-1を検討するまでもなく、当業者であっても甲3発明、甲1~2、4に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものとは認められない。
(2)本件発明5について
本件発明1を引用する本件発明5も、上記(1)と同様の理由により、甲3発明ではないし、当業者であっても甲3発明、甲1~2、4に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものとは認められない。
4 上記「1(3)」のうち、明確性について
異議申立ての具体的な理由は、請求項2~4、6において、「第一の弾性部材と軸支ハウジング側の部材との間に介装され、かつ第一の弾性部材と積層関係にある第二の弾性部材が、どのようにして第二の弾性部材が固定環に対して当接し、どのようにして該固定環を直接押圧できるのか、その具体的構成が不明である。また、固定環について、第一の弾性部材と第二の弾性部材の両方に直接押圧される構成が不明瞭である。」というものである。
この点について検討すると、【0039】には「第二の弾性部材56は、固定環40に対して固定環自体を直接押圧可能に配置されることが好ましく、第一の弾性部材50の後部を支える機能を設けない若しくは補助的に有することができる。」と記載されており、図3には、第一の弾性部材、第二の弾性部材、固定環、軸支ハウジング側の部材の形状を工夫して、第一の弾性部材と軸支ハウジング側の部材との間に介装され、かつ第一の弾性部材と積層関係にある第二の弾性部材が、第一の弾性部材と固定環に対してそれぞれ当接し、第一の弾性部材は固定環に当接するものが記載されている。この構造によって、第二の弾性部材が固定環を直接押圧できることや、固定環が第一の弾性部材と第二の弾性部材の両方に直接押圧されることは明らかである。
したがって、請求項2~4、6に係る発明は明確である。
5 上記「1(3)」のうち、実施可能要件について
異議申立ての具体的な理由は、第二の弾性部材が、請求項2では「固定環」と「軸支ハウジング側の部材」との間に介装されていないのにもかかわらず、「固定環」も直接押圧することとなっているという構成を有しており、「第二の弾性部材」は「第一の弾性部材」と「固定環」を共に直接押圧しているが、「第二の弾性部材」が弾性係数の異なる「第一の弾性部材」と「固定環」をどのようにして共に直接押圧できるのか不明であるから、発明の詳細な説明の記載は、当業者が請求項2~4、6に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものではないというものである。
この点について検討すると、まず、請求項1を引用する請求項2において、第二の弾性部材が「固定環」と「軸支ハウジング側の部材」との間に介装されていないとは特定されていないから、上記異議申立の理由には前提において誤りがある。また、上記「4」で検討したとおり、【0039】には「第二の弾性部材56は、固定環40に対して固定環自体を直接押圧可能に配置されることが好ましく、第一の弾性部材50の後部を支える機能を設けない若しくは補助的に有することができる。」と記載されており、図3には第二の弾性部材が第一の弾性部材と固定環とを共に直接押圧している例が記載されているから、発明の詳細な説明の記載は、当業者が請求項2~4、6に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものであると認められる。
第7 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては、本件の請求項1~6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件の請求項1~6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700786