特許異議申立
2025-700571
潤滑油基油及び潤滑油組成物
- 審判番号
- 2025-700571
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-057757
- 登録番号
- 7592535
- 請求日
- 2025年05月30日
- 審決日
- 2025年10月02日
- 公報発行日
- 2025年11月28日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】出光興産株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人大谷特許事務所
- 【異議申立人】黒田 泰
- 審判長/審判官
- 審判長 関根 裕
- 審判官 渡辺 陽子
- 審判官 山田 貴之
- 分類
- P1651.121-Y (C10M) / P1651.537-Y (C10M)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7592535号発明「潤滑油基油及び潤滑油組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7592535号の請求項1~5に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7592535号(以下「本件特許」という。)の請求項1~5に係る特許は、令和3年3月30日に出願され、令和6年11月22日にその特許権の設定登録がされ、同年12月2日に特許掲載公報が発行された。その後、令和7年5月30日に特許異議申立人 黒田 泰(以下「申立人」という。)により全請求項に係る特許に対して特許異議の申立てがされたものである。
第2 本件発明
本件特許の特許請求の範囲の請求項1~5に係る発明(以下「本件発明1」~「本件発明5」といい、これらをまとめて「本件発明」ともいう。)は、その特許請求の範囲に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】
下記要件(1)~(4)を満たす、潤滑油基油と、酸化防止剤とを含有し、設備油として用いられる、潤滑油組成物。
・要件(1):環分析(n-d-M法)による%CAが0.1以下であり、%CNが18~40であり、%CPが60以上である。
・要件(2):硫黄分が、前記潤滑油基油全量基準で、5質量ppm未満である。
・要件(3):クリーブランド開放法により測定される引火点が250℃以上である。
・要件(4):ASTM D2007に規定されるクレーゲル分析における極性物質が、前記潤滑油基油全量基準で、0.10質量%以下である。
【請求項2】
前記潤滑油基油の40℃における動粘度が、40mm2/s~450mm2/sである、請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項3】
さらに、清浄分散剤、極圧剤、油性剤、流動点降下剤、粘度指数向上剤、防錆剤、銅不活性化剤、及び消泡剤からなる群から選択される1種以上の添加剤を含有する、請求項1又は2に記載の潤滑油組成物。
【請求項4】
前記設備油が、油圧作動油、タービン油、圧縮機油、工作機械油、又は歯車油である、請求項1~3のいずれか1項に記載の潤滑油組成物。
【請求項5】
下記要件(1)~(4)を満たす、潤滑油基油を、酸化防止剤の酸化防止性能を引き出すために使用する方法。
・要件(1):環分析(n-d-M法)による%CAが0.1以下であり、%CNが18~40であり、%CPが60以上である。
・要件(2):硫黄分が、前記潤滑油基油全量基準で、5質量ppm未満である。
・要件(3):クリーブランド開放法により測定される引火点が250℃以上である。
・要件(4):ASTM D2007に規定されるクレーゲル分析における極性物質が、前記潤滑油基油全量基準で、0.10質量%以下である。」
第3 特許異議の申立ての理由
1 特許異議申立書に記載された理由の概要
(1)申立理由1(明確性要件)
本件特許に係る出願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たさないものであるから、本件発明1~5に係る特許は、同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。
(2)申立理由2(甲2又は甲3を主たる引用例とした進歩性)
本件発明1~5は、本件出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった後記2の甲2又は甲3に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件発明1~5に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。
2 証拠方法
甲1:日本工業規格 JIS K2514-3:2013 潤滑油-酸化安定度の求め方-第3部:回転圧力容器式酸化安定度, JISハンドブック 25石油, 1763-1773頁, 2024年7月25日
甲2:特開2017-119787号公報
甲3:Lube Base Oils Product Data Sheet, 2019年3月28日
甲4:Lube Base Oils Product Data Sheet, 2025年4月30日
なお、甲1は、2013年に制定されたJIS K2514-3に係る文書を2024年7月25日に複写したものであり、甲4は、2019年3月28日に作成された甲3に記載された「YUBASE 8」の性状が、甲4が作成された2025年まで変化していないことを示すための証拠として提出されたものである。
3 甲号証の記載について
(1)甲1には、次の記載がある。
「
[図:0001429033000001.jpg]
」
「
[図:0001429033000002.jpg]
」
「
[図:0001429033000003.jpg]
」
(2)甲2には、次の記載がある。
「【0012】
(基油)
本形態に係る潤滑油組成物の基油として、天然ガスの液体燃料化技術のフィッシャートロプッシュ法により合成されたGTL(ガストゥリキッド)の油が用いられる。このような基油を用いることで、本発明の系においては、酸化安定性を向上させると共に、蒸発損失を低減させることが可能となる。」
「【0016】これらGTL基油は、通例全硫黄分は10ppm未満が好適であり、全窒素分1ppm未満がより好適である。そのようなGTL基油商品の一例として、SHELL XHVI(登録商標)がある。」
「【0052】
【表1】
[図:0001429033000004.jpg]
」
「【0061】
【表3】
[図:0001429033000005.jpg]
」
(3)甲3には、次の記載がある。
「
[図:0001429033000006.jpg]
[図:0001429033000007.jpg]
」
(4)甲4には、次の記載がある。
「
[図:0001429033000008.jpg]
」
第4 申立理由1(明確性)についての判断
1 判断手法
特許請求の範囲の記載が、明確性要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載だけでなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきであるので、以下、この観点に立って検討する。
2 特許請求の範囲の記載
本件特許の請求項1は、次の特定事項を含むものである。
「・要件(1):環分析(n-d-M法)による%CAが0.1以下であり、%CNが18~40であり、%CPが60以上である。
・要件(2):硫黄分が、前記潤滑油基油全量基準で、5質量ppm未満である。
・要件(3):クリーブランド開放法により測定される引火点が250℃以上である。
・要件(4):ASTM D2007に規定されるクレーゲル分析における極性物質が、前記潤滑油基油全量基準で、0.10質量%以下である。」
これらの記載に、文言上不明な点はない。
3 明細書の記載
前記「要件(1)~(4)」で特定される数値の意味について、明細書の【0060】には「(1)芳香族分(%CA)、ナフテン分(%CN)、及びパラフィン分(%CP)
ASTM D3238:1995に準拠し、環分析(n-d-M法)により算出した。
(2)硫黄分
JIS K2541-2:2013の「原油及び石油製品-硫黄分試験方法-微量電量滴定式酸化法」に準拠して測定した。
(3)引火点(C.O.C法)
JIS K2265-4:2007に準拠し、クリーブランド開放法(C.O.C法)により測定した。
(4)極性物質の含有量
ASTM D2007に規定されるクレーゲル分析によって測定した。」と記載されている。
そうすると、請求項1で特定される数値の測定方法はASTMやJISの規定によるものであって、その値は所定の意味を持った比較可能な数値といえるから、請求項1の記載は、第三者の利益を不当に害するほどに不明確ではない。
請求項1の記載を引用する形式で記載された請求項2~4の記載や、請求項1と同様の特定事項を有する請求項5の記載についても、前記したのと同様の理由で、不明確とはいえない。
4 申立人の主張について
申立人は、甲1(前記第3の3(1)参照。)の「回転圧力容器式酸化安定度」に関する記載、具体的には、同1772頁の「11精度」において、回転圧力容器式酸化安定度の試験結果は許容誤差が大きいことを根拠に、本件明細書に実施例及び比較例として記載された基油1、基油4、比較基油1、及び比較基油2、又は、基油1、基油2、基油4、比較基油1、比較基油2、比較基油3、及び比較基油4は、酸化劣化抑制効果に大差がないことから、本件発明1の要件(1)、要件(2)、要件(3)、要件(4)の技術的意義が不明である、との趣旨の主張をしている。
しかしながら、本件特許の請求項1において、回転圧力容器式酸化安定度の値自体が特定されているわけではないから、回転圧力容器式酸化安定度の試験結果は許容誤差が大きいからといって、請求項1の記載が不明確になるとはいえない。前記2、3で検討したとおり、請求項1を特定する数値自体は、それぞれ所定の意味を持った比較可能な数値であるから、実施例及び比較例の酸化劣化抑制効果を検討するまでもなく、請求項1~5の記載は、不明確であるとはいえない。
5 小括
したがって、本件発明1~5の記載は、第3者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。
第5 申立理由2についての判断
1 甲2を主たる引用例とした場合
(1)甲2に記載された発明
甲2(前記第3の3(2)参照。)の【0061】の【表3】の「比較例-9」に着目し、[0052]の[表1]に示された「基油-5」、同[0012]の記載を参酌すれば、甲2には次の発明(以下「甲2発明」及び「甲2’発明」)という。)が記載されているものと認められる。
(甲2発明)
「基油-4を63.39mass%、基油-5(Yubase-8)を17.88mass%、DH-2 DIパッケージ-1を14.00mass%、粘度指数向上剤溶液-1を4.7(ポリマー量2.82)mass%、粘度指数向上剤溶液-5を0.03mass%からなるディーゼルエンジン用潤滑油組成物であって、
基油-5(Yubase-8)は、環分析による%CAが0、%CNが22.9、%CPが77.1であり、硫黄含有量が4mass%であり、引火点が256℃である、
ディーゼルエンジン用潤滑油組成物。」
(甲2’発明)
「基油-5(Yubase-8)を、ディーゼルエンジン用潤滑油組成物を使用する方法であって、
基油-5(Yubase-8)は、環分析による%CAが0、%CNが22.9、%CPが77.1であり、硫黄含有量が4mass%であり、引火点が256℃である、
基油-5(Yubase-8)を使用する方法。」
(2)対比・判断
ア 本件発明1
(ア)本件発明1と甲2発明を対比すると、甲2発明の「基油-5」、「環分析による%CAが0、%CNが22.9、%CPが77.1」、及び「引火点が256℃」は、本件発明1の「潤滑油基油」、「・要件(1):環分析(n-d-M法)による%CAが0.1以下であり、%CNが18~40であり、%CPが60以上である。」及び「・要件(3):クリーブランド開放法により測定される引火点が250℃以上である。」に相当する。
また、甲2発明の「硫黄含有量が4mass%」は、甲2の「基油」に関する説明である【0016】の「これらGTL基油は、通例全硫黄分は10ppm未満が好適であり、全窒素分1ppm未満がより好適である。そのようなGTL基油商品の一例として、SHELL XHVI(登録商標)がある。」との記載や、甲2の「基油-5(Yubase-8)」について、甲3に「YUBASE 8 Sulfur,ppm <10」と記載されていることを総合すると、「硫黄含有量が4ppm」の誤記と認められるから、甲2発明の「硫黄含有量が4mass%」は、本件発明1の「・要件(2):硫黄分が、前記潤滑油基油全量基準で、5質量ppm未満である。」に相当する。
そうすると、両者の一致点及び相違点は次のとおりである。
<一致点>
「下記要件(1)~(3)を満たす、潤滑油基油を含有する、潤滑油組成物。
・要件(1):環分析(n-d-M法)による%CAが0.1以下であり、%CNが18~40であり、%CPが60以上である。
・要件(2):硫黄分が、前記潤滑油基油全量基準で、5質量ppm未満である。
・要件(3):クリーブランド開放法により測定される引火点が250℃以上である。」
<相違点1-1>
本件発明1は、「酸化防止剤とを含有し、設備油として用いられる」のに対し、甲2発明は、ディーゼルエンジン用のものであって、酸化防止剤を含有するかどうか不明である点。
<相違点1-2>
本件発明1は、潤滑油基油が「・要件(4):ASTM D2007に規定されるクレーゲル分析における極性物質が、前記潤滑油基油全量基準で、0.10質量%以下である。」という要件を満たすのに対し、甲2発明は、潤滑油組成物の基油が要件(4)を満たすか不明である点。
(イ)事案に鑑み、相違点1-2について検討する。
甲2発明の「基油」について、甲2の【0012】には「本形態に係る潤滑油組成物の基油として、天然ガスの液体燃料化技術のフィッシャートロプッシュ法により合成されたGTL(ガストゥリキッド)の油が用いられる。」と記載されているものの、クレーゲル分析における極性物質の含有量については記載がなく、また、極性物質の含有量を増加又は減少させることを動機づける記載も示唆もない。
甲1、甲3、甲4においても同様に、クレーゲル分析における極性物質の含有量については記載がなく、また、極性物質の含有量を増減させることを動機づける記載も示唆もない。
また、潤滑油組成物のASTM D2007に規定されるクレーゲル分析における極性物質の含有量を、潤滑油基油全量基準で0.10質量%以下とすることが出願時の技術常識であるとも認められない。
(ウ)してみると、相違点1-1について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2に記載された発明及び甲1~甲4に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
イ 本件発明2~4
本件発明2~4は、いずれも本件発明1を全て包含し、それぞれ個別の技術事項を追加したものである。そうすると、本件発明2~4は、前記アに示した理由と同様の理由により、甲2に記載された発明及び甲1~甲4に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
ウ 本件発明5
(ア)本件発明5と甲2’発明を対比すると、甲2’発明の「基油-5」、「環分析による%CAが0、%CNが22.9、%CPが77.1」及び「引火点が256℃」は、本件発明5の「潤滑油基油」、「・要件(1):環分析(n-d-M法)による%CAが0.1以下であり、%CNが18~40であり、%CPが60以上である。」及び「・要件(3):クリーブランド開放法により測定される引火点が250℃以上である。」に相当する。
また、前記ア(ア)のとおり、甲2’発明の「硫黄含有量が4mass%」は、本件発明5の「・要件(2):硫黄分が、前記潤滑油基油全量基準で、5質量ppm未満である。」に相当する。
そうすると、両者の一致点及び相違点は次のとおりである。
<一致点>
「下記要件(1)~(3)を満たす、潤滑油基油を使用する方法。
・要件(1):環分析(n-d-M法)による%CAが0.1以下であり、%CNが18~40であり、%CPが60以上である。
・要件(2):硫黄分が、前記潤滑油基油全量基準で、5質量ppm未満である。
・要件(3):クリーブランド開放法により測定される引火点が250℃以上である。」
<相違点1-1’>
本件発明5は、潤滑油基油を、「酸化防止剤の酸化防止性能を引き出すために」使用する方法であるのに対し、甲2’発明は、酸化防止剤の酸化防止性能を引き出すために使用することが特定されていない点。
<相違点1-2’>
本件発明5は、潤滑油基油が「・要件(4):ASTM D2007に規定されるクレーゲル分析における極性物質が、前記潤滑油基油全量基準で、0.10質量%以下である。」という要件を満たすのに対し、甲2’発明は、潤滑油組成物の基油が要件(4)を満たすか不明である点。
(イ)事案に鑑み、相違点1-2’について検討すると、前記アに示した理由と同様の理由により、相違点1-1’について検討するまでもなく、本件発明5は、甲2に記載された発明及び甲1~甲4に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
2 甲3を主たる引用例とした場合
(1)甲3に記載された発明
甲3(前記第3の3(3)参照。)の表に示されたTypical Dataに着目すると、甲3には次の発明(以下「甲3発明」及び「甲3’発明」)という。)が記載されているものと認められる。
(甲3発明)
「硫黄含有量が10ppm未満であり、
引火点が260℃である潤滑油基油。」
(甲3’発明)
「硫黄含有量が10ppm未満であり、
引火点が260℃である潤滑油基油を使用する方法。」
(2)対比・判断
ア 本件発明1
(ア)本件発明1と甲3発明を対比すると、甲3発明の「引火点が260℃」は、本件発明1の「・要件(3):クリーブランド開放法により測定される引火点が250℃以上である。」に相当する。
そうすると、両者の一致点及び相違点は次のとおりである。
<一致点>
「下記要件(3)を満たす、潤滑油基油。
・要件(3):クリーブランド開放法により測定される引火点が250℃以上である。」
<相違点2-1>
本件発明1は、潤滑油基油に加えて、「酸化防止剤とを含有し、設備油として用いられる、潤滑油組成物」であるのに対し、甲3発明は、酸化防止剤を含有せず、設備油として用いられる、潤滑油組成物であることが特定されていない点。
<相違点2-2>
本件発明1は、潤滑油基油が「・要件(1):環分析(n-d-M法)による%CAが0.1以下であり、%CNが18~40であり、%CPが60以上である。」という要件を満たすのに対し、甲3発明は、潤滑油組成物の基油が要件(1)を満たすか不明である点。
<相違点2-3>
本件発明1は、潤滑油基油が「・要件(2):硫黄分が、前記潤滑油基油全量基準で、5質量ppm未満である。」という要件を満たすのに対し、甲3発明は、潤滑油組成物の基油が要件(2)を満たすか不明である点。
<相違点2-4>
本件発明1は、潤滑油基油が「・要件(4):ASTM D2007に規定されるクレーゲル分析における極性物質が、前記潤滑油基油全量基準で、0.10質量%以下である。」という要件を満たすのに対し、甲3発明は、潤滑油組成物の基油が要件(4)を満たすか不明である点。
(イ)事案に鑑み、相違点2-4について検討する。
甲3発明の「潤滑油基油」について、甲3にはクレーゲル分析における極性物質の含有量については記載がなく、また、極性物質の含有量を増加又は減少させることを動機づける記載も示唆もない。
甲1、甲2、甲4においても同様に、クレーゲル分析における極性物質の含有量については記載がなく、また、極性物質の含有量を増減させることを動機づける記載も示唆もない。
また、潤滑油組成物のASTM D2007に規定されるクレーゲル分析における極性物質の含有量を、潤滑油基油全量基準で0.10質量%以下とすることが出願時の技術常識であるとも認められない。
(ウ)してみると、相違点2-1~相違点2-3について検討するまでもなく、本件発明1は、甲3に記載された発明及び甲1~甲4に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
イ 本件発明2~4
本件発明2~4は、いずれも本件発明1を全て包含し、それぞれ個別の技術事項を追加したものである。そうすると、本件発明2~4は、前記アに示した理由と同様の理由により、甲3に記載された発明及び甲1~甲4に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
ウ 本件発明5
(ア)本件発明1と甲3’発明を対比すると、甲3’発明の「引火点が260℃」は、本件発明1の「・要件(3):クリーブランド開放法により測定される引火点が250℃以上である。」に相当する。
そうすると、両者の一致点及び相違点は次のとおりである。
<一致点>
「下記要件(3)を満たす、潤滑油基油を使用する方法。
・要件(3):クリーブランド開放法により測定される引火点が250℃以上である。」
<相違点2-1’>
本件発明5は、潤滑油基油を、「酸化防止剤の酸化防止性能を引き出すために」使用する方法であるのに対し、甲3’発明は、酸化防止剤の酸化防止性能を引き出すために使用することが特定されていない点。
<相違点2-2’>
本件発明5は、潤滑油基油が「・要件(1):環分析(n-d-M法)による%CAが0.1以下であり、%CNが18~40であり、%CPが60以上である。」という要件を満たすのに対し、甲3’発明は、潤滑油組成物の基油が要件(1)を満たすか不明である点。
<相違点2-3’>
本件発明5は、潤滑油基油が「・要件(2):硫黄分が、前記潤滑油基油全量基準で、5質量ppm未満である。」という要件を満たすのに対し、甲3’発明は、潤滑油組成物の基油が要件(2)を満たすか不明である点。
<相違点2-4’>
本件発明5は、潤滑油基油が「・要件(4):ASTM D2007に規定されるクレーゲル分析における極性物質が、前記潤滑油基油全量基準で、0.10質量%以下である。」という要件を満たすのに対し、甲3’発明は、潤滑油組成物の基油が要件(4)を満たすか不明である点。
(イ)事案に鑑み、相違点2-4’について検討すると、前記アに示した理由と同様の理由により、相違点2-1’~相違点2-3’について検討するまでもなく、本件発明5は、甲3に記載された発明及び甲1~甲4に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
3 申立人の主張
申立人は、特許異議申立書2頁~3頁の表、及び13頁27行~14頁7行において、「本件特許の請求項1に係る発明の要件(4)を満たしていても、満たしていなくても、酸化安定性は同程度であることから、本件特許発明の構成要件H(要件(4))は、本発明の課題の解決には寄与せず、当該構成要件を有することにより、何らの有利な効果を奏するものではない。」ことを根拠に、要件(4)は実質的な相違点ではない、との趣旨の主張をしている。
しかしながら、甲2発明の「Yubase-8」や甲3発明の「YUBASE 8」のASTM D2007に規定されるクレーゲル分析における極性物質の含有量が、潤滑油基油全量基準で0.10質量%以下であることを示す証拠は提出されておらず、そのような技術常識も示されていないところ、要件(4)は実質的な相違点である。
そして、前記1(2)ア及び2(2)アに示したとおり、甲1~甲4には、潤滑油組成物のASTM D2007に規定されるクレーゲル分析における極性物質の含有量を増減させることを動機づける記載も示唆もない。また、潤滑油組成物のASTM D2007に規定されるクレーゲル分析における極性物質の含有量を、潤滑油基油全量基準で0.10質量%以下とすることが出願時の技術常識であるとも認められない。
そうすると、有利な効果を奏するかについて検討するまでもなく、本件発明は、甲2又は甲3に記載された発明及び甲1~甲4に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、申立人の主張は採用できない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、申立人による特許異議申立書の理由及び証拠によっては、本件特許の請求項1~5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1~5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2025-700571