2019-700746
転写用離型フィルム及びマット状成形体の製造方法
- 審判番号
- 2019-700746
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2017-114576外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2019年09月19日
- 審決日
- 2020年12月08日
- 公報発行日
- 2021年04月30日
- 結論
- 訂正認容
- 分類
- P1651.537-YAA(B32B) / P1651.121-YAA(B32B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第29条第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第4項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
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結論
理由
目次 ▾ 12項目
第1 手続の経緯
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特許第6486412号(以下「本件特許」という。)の請求項1~6に係る特許についての出願は、平成29年6月9日の出願であって、平成31年3月1日にその特許権の設定登録(特許掲載公報平成31年3月20日発行)がされ、その後、その特許について、令和1年9月19日に特許異議申立人山内博明(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、令和1年11月12日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である令和2年1月9日に特許権者から意見書が提出され、令和2年4月6日付けで取消理由(決定の予告)を通知し、その指定期間内である令和2年7月8日に意見書の提出及び訂正の請求(以下「本件訂正請求」という。)がされ、令和2年8月19日に申立人より意見書が提出されたものである。
第2 訂正の請求について
1.訂正の内容
本件訂正請求は、「特許第6486412号の特許請求の範囲を本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~6について訂正する」ことを求めるものであり、その訂正の内容は、本件特許に係る願書に添付した特許請求の範囲を、次のように訂正するものである。(下線は、訂正箇所を示す。)
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「前記転写面が、前記基材層の凹凸形状が反映されていない凹凸形状を有し、前記転写面の算術平均粗さRaが0.1~2μmであり、かつ前記転写面の60°グロスが5%未満である転写用離型フィルム」と記載されているのを、
「前記転写面が、前記基材層の凹凸形状が反映されていない凹凸形状を有し、前記転写面の算術平均粗さRaが0.3~0.6μmであり、かつ前記転写面の60°グロスが3.0%以下である転写用離型フィルム」に訂正する(請求項1を引用する請求項2、4~6も同様に訂正する。)。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項3に「ポリマー成分及び硬化樹脂前駆体成分から選択される少なくとも2つの成分が、湿式スピノーダル分解により相分離可能であり、前記ポリマー成分が、重合性基を有していてもよい(メタ)アクリル系重合体及びセルロースエステル類を含み、かつ前記硬化樹脂前駆体成分が、ウレタン(メタ)アクリレート、シリコーン(メタ)アクリレート及びフッ素含有硬化性化合物を含む請求項1又は2記載の転写用離型フィルム
」と記載されているのを、
「グロスの低いマット状成形体を転写によって製造するための転写用離型フィルムであって、基材層と、この基材層の少なくとも一方の面に形成され、かつ表面が転写面である凹凸層とを有し、前記凹凸層が、微粒子を含まず、1種以上のポリマー成分及び1種以上の硬化樹脂前駆体成分を含む硬化性組成物の硬化物であり、前記転写面が、前記基材層の凹凸形状が反映されていない凹凸形状を有し、前記転写面の算術平均粗さRaが0.1~2μmであり、かつ前記転写面の60°グロスが5%未満であり、前記ポリマー成分及び前記硬化樹脂前駆体成分から選択される少なくとも2つの成分が、湿式スピノーダル分解により相分離可能であり、前記ポリマー成分が、重合性基を有していてもよい(メタ)アクリル系重合体及びセルロースエステル類を含み、かつ前記硬化樹脂前駆体成分が、ウレタン(メタ)アクリレート、シリコーン(メタ)アクリレート及びフッ素含有硬化性化合物を含む転写用離型フィルム」に訂正する。
2.訂正の適否
(1)一群の請求項について
訂正前の請求項2~6は、訂正前の請求項1を、直接又は間接に引用するものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであり、本件訂正請求は、特許法第120条の5第4項に規定する、一群の請求項ごとにされたものである。
(2)訂正事項1について
ア 訂正事項1は、訂正前に「転写面の算術平均粗さRa」について「0.1~2μm」であったものを「0.3~0.6μm」と、同じく「転写面の60°グロス」について「5%未満」であったものを「3.0%以下」と、数値範囲を限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
イ 転写面の算術平均粗さRaについて、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件特許明細書」という。)には、段落【0023】に「このような凹凸層の転写面の算術平均表面粗さRaは0.1~2μmであり、好ましくは0.2~1.5μm(例えば0.25~1μm)、さらに好ましくは0.3~0.8μm(特に0.4~0.6μm)程度である。」と記載され、「0.3μm」以上であること、「0.6μm」以下であることが好ましいとされており、転写面の60°グロスについて、本件特許明細書には、段落【0086】の表2の実施例1に、60°グロスが「3.0%」である転写用離型フィルムが製造されたことが記載されていることから、訂正事項1は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内においてするものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。
ウ 訂正事項1は、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことも明らかであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。
(3)訂正事項2について
訂正事項2は、訂正前の請求項3の記載が訂正前の請求項1又は2の記載を引用する記載であったものを、請求項間の引用関係を解消し、請求項1及び2を引用しないものとし、独立形式請求項へ改めるための訂正であって、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に規定する「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものに該当する。
訂正事項2は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内においてするものであり、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6号の規定に適合するものである。
3.むすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1~6〕について訂正を認める。
第3 特許異議の申立てについて
1.請求項1~6に係る発明
上記のとおり、本件訂正請求が認められたから、本件特許の請求項1~6に係る発明(以下「本件発明1」等という。)は、それぞれ、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~6に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】グロスの低いマット状成形体を転写によって製造するための転写用離型フィルムであって、基材層と、この基材層の少なくとも一方の面に形成され、かつ表面が転写面である凹凸層とを有し、前記凹凸層が、微粒子を含まず、続きを表示(全19行)前記転写面が、前記基材層の凹凸形状が反映されていない凹凸形状を有し、前記転写面の算術平均粗さRaが0.3~0.6μmであり、かつ前記転写面の60°グロスが3.0%以下である転写用離型フィルム。【請求項2】凹凸層が、1種以上のポリマー成分及び1種以上の硬化樹脂前駆体成分を含む硬化性組成物の硬化物である請求項1記載の転写用離型フィルム。【請求項3】グロスの低いマット状成形体を転写によって製造するための転写用離型フィルムであって、基材層と、この基材層の少なくとも一方の面に形成され、かつ表面が転写面である凹凸層とを有し、前記凹凸層が、微粒子を含まず、1種以上のポリマー成分及び1種以上の硬化樹脂前駆体成分を含む硬化性組成物の硬化物であり、前記転写面が、前記基材層の凹凸形状が反映されていない凹凸形状を有し、前記転写面の算術平均粗さRaが0.1~2μmであり、かつ前記転写面の60°グロスが5%未満であり、前記ポリマー成分及び前記硬化樹脂前駆体成分から選択される少なくとも2つの成分が、湿式スピノーダル分解により相分離可能であり、前記ポリマー成分が、重合性基を有していてもよい(メタ)アクリル系重合体及びセルロースエステル類を含み、かつ前記硬化樹脂前駆体成分が、ウレタン(メタ)アクリレート、シリコーン(メタ)アクリレート及びフッ素含有硬化性化合物を含む転写用離型フィルム。【請求項4】ヘイズが50%以上である請求項1~3のいずれかに記載の転写用離型フィルム。【請求項5】請求項1~4のいずれかに記載の転写用離型フィルムの転写面を成形型とし、成形体の被転写面に、前記転写面が反転した形状である凹凸形状を形成する転写工程を含むマット状成形体の製造方法。【請求項6】マット状成形体が電磁波シールドフィルムである請求項5記載の製造方法。」
2.取消理由の概要
本件発明1、2、4~6に対して、令和2年4月6日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の要旨は以下のとおりである。
理由1)本件特許の請求項1、2及び4~6に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
理由2)本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
(1)理由1について
ア 引用刊行物
イ 本件発明1、2、4~6は、甲1発明及び甲3に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(2)理由2について
本件発明1の解決しようとする課題は、本件特許明細書の記載によれば、「凹凸形状の転写によってグロスが低いマット状成形体を製造でき」(段落【0010】)、「被転写体に微粒子や砂などの不純物が混入するのを抑制でき」(段落【0011】)、「高い生産性でマット状成形体を製造できる転写用離型フィルム」(段落【0012】)を提供することである。
しかし、このような微粒子を含まない凹凸層について、本件特許明細書には、特定の形成方法が記載されるのみであり(段落【0029】)、それ以外の形成方法は記載されておらず、当業者にとって技術常識であるともいえない。
よって、本件発明1は、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものであり、本件発明2、4~6も同様である。
3.理由2に係る当審の判断
まず、特許法第36条第6項第1号(サポート要件)に係る理由2について検討する。
(1)本件特許明細書の記載
ア 発明が解決しようとする課題について、本件特許明細書には、以下の記載がある。
(ア)「【0010】従って、本発明の目的は、凹凸形状の転写によってグロスが低いマット状成形体を製造できる転写用離型フィルム及びこの離型フィルムを用いてマット状成形体を製造する方法を提供することにある。」
(イ)「【0011】本発明の他の目的は、被転写体に微粒子や砂などの不純物が混入するのを抑制できる転写用離型フィルム及びこの離型フィルムを用いてマット状成形体を製造する方法を提供することにある。」
(ウ)「【0012】本発明のさらに他の目的は、高い生産性でマット状成形体を製造できる転写用離型フィルム及びこの離型フィルムを用いてマット状成形体を製造する方法を提供することにある。」
イ また、凹凸層について、本件特許明細書には、以下の記載がある。
(ア)「【0022】[凹凸層]本発明の転写用離型フィルムは、前記基材層の少なくとも一方の面に形成され、かつ表面が転写面である凹凸層を有している。この凹凸層は、前記基材層の少なくとも一方の面に形成されていればよく、両面に形成されていてもよいが、通常、一方の面に形成されている。凹凸層の表面は、凹凸形状を有する転写面となって、凹凸転写で被転写面に反転した凹凸形状を形成できる。【0023】続きを表示(全14行)このような凹凸層の転写面の算術平均表面粗さRaは0.1~2μmであり、好ましくは0.2~1.5μm(例えば0.25~1μm)、さらに好ましくは0.3~0.8μm(特に0.4~0.6μm)程度である。Raが小さすぎると、凸形状がなだらかな形状となり、マット状成形体を製造できなくなり、大きすぎると、剥離性が低下して、マット状成形体の生産性が低下する。・・・・【0025】凹凸層の転写面の60°グロスは5%未満(例えば0.1~4.9%)であり、好ましくは1~4.5%(例えば1.5~4.2%)、さらに好ましくは2~4%(特に2.5~3.5%)程度である。60°グロスが大きすぎると、マット状成形体を製造できなくなる。・・・・【0027】凹凸層は、前記算術平均表面粗さRa及び60°グロスを有しているにも拘わらず、1μm以上の微粒子を含まない。そのため、被転写体に微粒子が混入するのを抑制できる。さらに、凹凸層は、微粒子自体(1μm未満の微粒子も含めた微粒子)を含まないのが好ましい。・・・・【0029】このような微粒子を含まない凹凸層は、1種以上のポリマー成分及び1種以上の硬化樹脂前駆体成分を含む硬化性組成物の硬化物であり、凹凸層の表面(転写面)は、液相からのスピノーダル分解(湿式スピノーダル分解)により形成された凹凸形状であってもよい。詳しくは、1種以上のポリマー成分と1種以上の硬化樹脂前駆体成分と溶媒とを含む組成物(混合液)を用い、この組成物の液相から、溶媒を乾燥などにより蒸発又は除去する過程で、濃度の濃縮に伴って、スピノーダル分解による相分離が生じることにより、形成された凹凸形状であってもよい。」
(イ)「【0085】得られた転写用離型フィルムの転写面の60°グロス及び算術平均表面粗さ(Ra)を測定した後、転写試験に供し、剥離性を評価した後、被転写面の60°グロスを測定した。結果を表2に示す。【0086】【表2】【0087】表2の結果から明らかなように、いずれの実施例で得られた被転写体も低グロスであった。さらに、実施例1で得られた離型フィルムは、剥離性も良好であった。」
(2)判断
ア 上記(1)アの本件発明1の解決しようとする課題について、
(ア)「凹凸形状の転写によってグロスが低いマット状成形体を製造」するとの課題は、「凹凸層の転写面の60°グロスは5%未満」(段落【0025】)、実施例1の「3.0%」の記載から、本件発明1の凹凸層の「転写面の60°グロスが3.0%以下」との構成により解決し得ると、
(イ)「被転写体に微粒子や砂などの不純物が混入するのを抑制」するとの課題は、「1μm以上の微粒子を含まない。そのため、被転写体に微粒子が混入するのを抑制できる。」(段落【0027】)の記載から、本件発明1の「凹凸層が、微粒子を含まず」との構成により解決し得ると、
(ウ)「高い生産性でマット状成形体を製造できる転写用離型フィルム」を提供するとの課題は、「凹凸層の転写面の算術平均表面粗さRaは0.1~2μmであり、好ましくは0.2~1.5μm(例えば0.25~1μm)、さらに好ましくは0.3~0.8μm(特に0.4~0.6μm)程度である。」(段落【0025】)、算術平均表面粗さRaが「0.5μm」である「実施例1で得られた離型フィルムは、剥離性も良好であった。」(段落【0087】)の記載から、本件発明1の凹凸層の「転写面の算術平均粗さRaが0.3~0.6μm」との構成により解決し得ると、それぞれ認識できるものである。
イ そして、転写用離型フィルムへの凹凸形状の形成方法として、国際公開第2014/156722号(甲第2号証)には、
(ア)「[0006]しかしながら、上記特許文献1の技術を用いて成型品表面に凹凸を付与する場合、高価な1つの金属金型から種々の形状の樹脂成形物を得ることができるものの、成型品を製造する際に不都合を生じることがある。たとえば、金型表面に樹脂硬化物が残存してしまう、用途に応じて凹凸模様を容易に変更することが困難である、凹凸を付与した成型品を量産できるものの、凹凸の形状を途中で変更することができない等の不都合があった。[0007]本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、成型品表面に簡便な手段で凹凸を付与することができ、かつ上記凹凸形状を簡単に変更することができる工程フィルムを提供するものである。」、
(イ)「[0036]次に、第一工程フィルム10に設ける凹凸300の形成方法について説明する。[0037]第一工程フィルム10に設ける凹凸300は、第一工程フィルム10の表面層にインラインまたはオフラインでエンボス加工により施される。ここで、インラインでエンボス加工とは、押出し成形によるフィルム製作の工程中においてエンボス加工を施すことを指す。オフラインでエンボス加工とは、押出し成形によりフィルムを製作した後、表面にエンボスを有するエンボスロールを用いてフィルム面にエンボス加工を施すことを指す。[0038]このように、本実施形態に係る製造方法によれば、インラインまたはオフラインで第一工程フィルム10に対してエンボス加工を施している。このため、成型品200に要求される特性に応じてエンボス加工条件を変更することによって、形成する凹凸300の形状を容易に変更することが可能である。」、
と記載されるように、転写用離型フィルムの凹凸形状を、表面にエンボスを有するエンボスロールにより形成することが周知技術である。
そうすると、本件特許明細書には、転写用離型フィルムの凹凸形状の形成方法として、1種以上のポリマー成分と1種以上の硬化樹脂前駆体成分と溶媒とを含む組成物(混合液)を用い、この組成物の液相から、溶媒を乾燥などにより蒸発又は除去する過程で、濃度の濃縮に伴って、スピノーダル分解による相分離により形成する方法が記載されているが(段落【0029】)、上述のように、エンボスロールにより形成することが周知技術であるから、当業者であれば、本件発明1の上記課題は、本件特許明細書に記載された相分離が生じる材料を用いることのみではなく、上記周知技術によっても解決することができると認識するものといえる。
ウ よって、本件発明1は、発明の課題を解決するための手段が反映されていないとはいえず、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものとはいえない。
また、本件発明1を引用する本件発明2、4~6も、同様に、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものとはいえない。
4.理由1に係る当審の判断
(1)甲1に記載された発明
ア 甲1には、以下の記載がある。
(ア)「【背景技術】【0002】従来、表面に凹凸が付された粗面化フィルムは、種々の用途で使用されており、例えば、工程フィルムとして使用されることがある。工程フィルムは、例えば、そのフィルム上で各種シート部材等が製造されるものであるが、その製造過程において、工程フィルムの凹凸が各種シート部材に転写されることになる。具体的には、粗面化フィルムの凹凸面上に、各種材料をキャストしてシート部材を形成すると、そのキャスト時に粗面化フィルムの凹凸がシート部材に転写される。そのため、粗面化フィルムは、シート部材に、凹凸により意匠性等を持たせたり、その他各種の機能を持たせたりすることが可能である。また、粗面化フィルムは、凹凸転写以外にも様々な目的で使用されており、例えば、フィルム裏面を凹凸面として、ブロッキング防止に使用されることもある。」
(イ)「【発明が解決しようとする課題】【0005】しかしながら、サンドブラスト法や、特許文献1に示すように微粒子により凹凸を形成すると、残砂や微粒子の脱落により、異物混入のおそれがあり、さらには、微粒子の分散性を確保することも難しく、高品質の粗面化フィルムを得ることは困難である。一方で、特許文献2の方法では、残砂や微粒子による異物混入がなく、凹部も比較的均一に形成されるが、凹凸面の表面粗さ(Ra)が10~80nm程度のものしかできず、高い粗面化効果を発揮することが難しい。また、意匠性等が要求される分野では、凹凸面は、特異な形状を有することが望ましいが、特許文献1、2の方法によれば、特異な形状の凹凸面を形成することが難しい。【0006】本発明は、以上の問題点を鑑みてなされたものであり、残砂や微粒子による異物混入が生じることなく、簡単な方法で、粗面化効果が高く、かつ特異な形状の凹凸を有する粗面化フィルムを得ることを課題とする。」
(ウ)「【発明を実施するための形態】【0010】以下、本発明について実施形態を用いてさらに詳細に説明する。図1に示すように、本発明の一実施形態に係る粗面化フィルム10は、基材11と、基材11の一方の面に設けられる樹脂層12とを備えるものであり、樹脂層12の表面12Aには、凹凸が形成される。以下、各部材についてより詳細に説明する。続きを表示(全19行)・・・・【0012】[樹脂層]樹脂層12は、炭素数4~18のアルキル基を有するアルキル化メラミン樹脂(以下、単にアルキル化メラミン樹脂(A)ともいう)を主成分として含む硬化性材料を硬化してなるものである。本発明では、炭素数が比較的大きいアルキル基を有するアルキル化メラミン樹脂(A)により樹脂層12を形成することで、樹脂層12の表面12Aに、平均山高さが0.5μm以上となる稜線15(図2参照)が存在するように凹凸が設けられる。【0013】このように特定のアルキル化メラミン樹脂(A)を含む硬化性材料を硬化すると、樹脂層の表面12Aに、稜線15が存在するように凹凸が形成される原理は明らかではないが、以下のように推定される。すなわち、メラミン樹脂の架橋は、アルコールや水の脱離で進行するため、架橋の進み具合により高分子と低分子でのアルキル化比率が乖離する。そして、アルキル基の炭素数が大きいことと相俟って、先行して高分子量化した成分と、遅れて高分子量化した成分とで相溶性が低下し、それにより乾燥後の膜厚に差異が出るためと推定される。・・・・【0025】また、樹脂層12の表面12Aは、算術平均粗さRaが0.1~5μmであるとともに、粗さ曲線における最大山高さRpが0.3~10μmであることが好ましい。これらRa、Rpが以上の範囲となることで樹脂層12の凹凸差が大きくなり、粗面化効果を高めやすくなる。また、算術平均粗さRaは、より好ましくは0.2~4μm、さらに好ましくは0.5~3.5μmであるとともに、粗さ曲線における最大山高さRpは、より好ましくは0.5~9μmであるとともに、さらに好ましくは1~8μmである。なお、これら算術平均粗さRa及び最大山高さRpは、接触式表面粗さ計を用いてJISB0601-2001に準拠して測定したものである。・・・・【0029】[粗面化フィルムの使用方法]本発明の粗面化フィルムは、各種の用途に使用されるものであるが、樹脂層表面の凹凸を他の部材に転写する転写フィルムとして使用されることが好ましい。本発明では、樹脂層表面の凹凸形状が特異であるため、その凹凸を他の部材に転写することで、特異な表面形状を有する各種部材を容易に製造することが可能になる。また、粗面化フィルムは、樹脂層の上に各種材料が例えばキャストないし塗布されることで、各種シート部材が製造され、その製造過程において各種シート部材に凹凸を転写する工程フィルムであることがより好ましい。なお、工程フィルム上で製造されるシート部材としては、化粧シート、光学フィルム、粘着シート、電磁波シールドフィルム、マーキングシート等が挙げられる。なお、工程フィルム上に形成された各種のシート部材は、工程フィルムから剥離されて各種用途に使用されるものである。・・・・」
(エ)また、段落【0042】の【表1】には、粗面化フィルムの算術平均粗さRaとして、「0.68μm」(実施例2)、「0.20μm」(実施例3)のものが示されている。
イ そうすると、甲1には、次の「甲1発明」が記載されているものといえる。
「電磁波シールドフィルムに凹凸を転写するための粗面化フィルムであって、粗面化フィルムは、基材と、この基材の一方の面に形成され、かつ表面に凹凸を有する転写面である樹脂層とを有し、表面に凹凸を有する転写面である樹脂層は、炭素数4~18のアルキル基を有するアルキル化メラミン樹脂を主成分として含む硬化性材料を硬化してなるものであり、樹脂層には、残砂や微粒子が混入しておらず、粗面化フィルムの樹脂層表面の算術平均粗さRaは、0.1~5μmである、粗面化フィルム。」
(2)本件発明1について
ア 本件発明1と甲1発明を対比すると、甲1発明の「粗面化フィルム」、「基材」、「表面に凹凸を有する転写面である樹脂層」、「樹脂層」は、それぞれ、本件発明1の「転写用離型フィルム」、「基材層」、「表面が転写面である凹凸層」、「凹凸層」に相当し、
本件発明1と甲1発明とは、「基材層と、この基材層の少なくとも一方の面に形成され、かつ表面が転写面である凹凸層とを有し、凹凸層が、微粒子を含まない、転写用離型フィルム。」で一致し、次の相違点1で相違する。
《相違点1》
本件発明1の転写用離型フィルムが、「グロスの低いマット状成形体を転写によって製造するため」、「転写面が、前記基材層の凹凸形状が反映されていない凹凸形状を有し、前記転写面の算術平均粗さRaが0.3~0.6μmであり、かつ前記転写面の60°グロスが3.0%以下である」のに対し、甲1発明の粗面化フィルムは、電磁波シールドフィルムに凹凸を転写するものであって、表面に凹凸を有する転写面である樹脂層は、炭素数4~18のアルキル基を有するアルキル化メラミン樹脂を主成分として含む硬化性材料を硬化してなるものであり、粗面化フィルムの樹脂層表面の算術平均粗さRaは、0.1~5μmである点。
イ この相違点1について検討する。
甲1発明の粗面化フィルムの樹脂層表面の算術平均粗さRaについて、甲1には、「樹脂層12の表面12Aは、算術平均粗さRaが0.1~5μmであるとともに、粗さ曲線における最大山高さRpが0.3~10μmであることが好ましい。これらRa、Rpが以上の範囲となることで樹脂層12の凹凸差が大きくなり、粗面化効果を高めやすくなる。また、算術平均粗さRaは、より好ましくは0.2~4μm、さらに好ましくは0.5~3.5μmである」(段落【0025】)と記載され、さらに、申立人の令和2年8月19日の意見書に添付された特開2009-202442号(甲第7号証)によれば、「剥離層の表面粗さを増すことによって、剥離力をほぼ比例して増加させることが可能である」(段落【0053】)ことからすれば、
甲1発明の粗面化フィルムの剥離力を適切なものとするために、粗面化フィルムの樹脂層表面の算術平均粗さRaを調整することは、当業者が容易に成し得たものといえる。
しかし、「転写面の算術平均粗さRaが0.3~0.6μm」であり、かつ「転写面の60°グロスが3.0%以下」とすることについては、甲1に記載されておらず、示唆もされていない。
甲3には、「算術平均粗さRa0.3μm、グロス7.4%」である比較例1、「算術平均粗さRa0.6μm、グロス6.1%」である実施例7が記載される一方、「算術平均粗さRa0.8μm、グロス1.7%」である実施例8が記載されており、算術平均粗さRaを0.3~0.6μmとすれば、グロスが3%以下になるとはいえないから、甲3の記載から、「算術平均粗さRaが0.3~0.6μm」かつ「60°グロスが3.0%以下」を選択することが、容易に成し得るものとはすることができない。
また、申立人が提出した他の証拠(上記甲第2号証、特開2014-85371号公報(甲第4号証)、国際公開第2011/108394号(甲第5号証))にも、このような凹凸層について、記載も示唆もされていない。
そして、本件発明1は、凹凸層を、「微粒子を含まず」、「転写面の算術平均粗さRaが0.3~0.6μm」であり、かつ「転写面の60°グロスが3.0%以下」とすることにより、上記3.(1)アの課題を解決することができるものである。
よって、本件発明1の相違点1に係る構成は、甲1発明及び甲3に記載された技術的事項、並びに申立人が提出した他の証拠の記載事項に基いて、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
ウ したがって、本件発明1は、甲1発明及び甲3に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)本件発明2、4~6について
請求項1を引用する請求項2、4~6に係る本件発明2、4~6は、本件発明1の発明特定事項を全て含むものであるところ、上記(2)のとおり、本件発明1は、甲1発明及び甲3に記載された技術的事項に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明2、4~6も、甲1発明及び甲3に記載された技術的事項に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
5.取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)本件発明3に対する甲1発明に基づく申立理由
ア 申立人は、特許異議申立書(23~26頁)において、本件発明3も、甲1発明、並びに甲3、甲第4号証及び甲第5号証に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである旨主張する。
イ そこで、本件発明3と甲1発明を対比すると、両者は、「基材層と、この基材層の少なくとも一方の面に形成され、かつ表面が転写面である凹凸層とを有し、凹凸層が、微粒子を含まない、転写用離型フィルム。」で一致し、次の相違点2で相違する。
《相違点2》
本件発明3の転写用離型フィルムが、「グロスの低いマット状成形体を転写によって製造するため」、「1種以上のポリマー成分及び1種以上の硬化樹脂前駆体成分を含む硬化性組成物の硬化物であり、前記転写面が、前記基材層の凹凸形状が反映されていない凹凸形状を有し、前記転写面の算術平均粗さRaが0.1~2μmであり、かつ前記転写面の60°グロスが5%未満であり、前記ポリマー成分及び前記硬化樹脂前駆体成分から選択される少なくとも2つの成分が、湿式スピノーダル分解により相分離可能であり、前記ポリマー成分が、重合性基を有していてもよい(メタ)アクリル系重合体及びセルロースエステル類を含み、かつ前記硬化樹脂前駆体成分が、ウレタン(メタ)アクリレート、シリコーン(メタ)アクリレート及びフッ素含有硬化性化合物を含む」ものであるのに対し、
甲1発明の粗面化フィルムは、電磁波シールドフィルムに凹凸を転写するものであって、表面に凹凸を有する転写面である樹脂層は、炭素数4~18のアルキル基を有するアルキル化メラミン樹脂を主成分として含む硬化性材料を硬化してなるものであり、粗面化フィルムの樹脂層表面の算術平均粗さRaは、0.1~5μmである点。
ウ この相違点2について検討する。
甲3には、電磁波シールドフィルム表面の保護層を、意匠性を目的に、凹凸層の60°グロスが1.7%、表面粗さRaが0.8μmの転写フィルム(実施例8)が記載され、上記甲第4号証には、防眩層の凹凸を液相からのスピノーダル分解(湿式スピノーダル分解)により形成することが記載されているが(特許異議申立書23~24頁)、甲第4号証の方法で形成される凹凸の算術平均粗さRaについては記載されていないから、甲1発明の凹凸層に、甲第4号証のスピノーダル分解による凹凸の形成手法を採用しても、凹凸層を「算術平均粗さRaが0.1~2μm」であり、かつ「60°グロスが5%未満」とすることを想到できるとはいえない。
また、上記甲第5号証には、「多官能アクリル系UV硬化性化合物」等の多官能性単量体にフッ素化した「フッ素含有硬化性化合物」を用いること(特許異議申立書25頁)が記載されているものの、凹凸構造を「算術平均粗さRaが0.1~2μm」であり、かつ「60°グロスが5%未満」とすることは、記載も示唆もされていない。
よって、本件発明3の相違点2に係る構成は、甲1発明、並びに甲3、甲第4号証及び甲第5号証に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
エ したがって、本件発明3は、甲1発明、並びに甲3、甲第4号証及び甲第5号証に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではなく、請求項3を引用する請求項4~6に係る本件発明4~6も同様である。
(2)特許法第29条第2項(甲第2号証に基づく進歩性)に係る申立理由
申立人は、特許異議申立書(29~36頁)において、本件発明1、4~6は、甲第2号証(国際公開第2016/133101号)に記載された発明及び甲1又は甲3に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである旨主張する。
しかし、甲第2号証は、LED蛍光体やLED光拡散フィルム等に使用する成形品に透過光または反射光を拡散させる機能を付与させるための工程フィルム(甲第2号証の[0066])に係る発明であり、成形品に転写される工程フィルムの凹凸を、マット状(艶消し状)とするために、本件発明のように、転写面の算術平均粗さRaを0.3~0.6μmとし、かつ60°グロスを3.0%以下とする動機付けはないから、本件発明1、4~6は、甲第2号証に記載された発明及び甲1又は甲3に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
よって、申立人の、甲第2号証に基づく特許法第29条第2項に係る申立理由は採用できない。
(3)特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)に係る申立理由
申立人は、特許異議申立書(37~40頁)において、「本件特許明細書は、少なくとも本件特許発明を当業者が作ることができることが具体的に示されていないため、本件特許は、特許法第36条第4項第1号で規定する要件を満たさないものである。」旨主張する。
しかし、本件特許明細書には、段落【0029】に「液相からのスピノーダル分解(湿式スピノーダル分解)により形成」する方法が記載され、実施例1に、本件発明1に特定される数値範囲を満たす転写用離型フィルムが示されているから、申立人の、特許法第36条第4項第1号に係る申立理由は採用できない。
(4)特許法第36条第6項第2号(明確性要件)に係る申立理由
申立人は、特許異議申立書(43~44頁)において、「本件特許発明1において、当該微粒子の大きさ(粒径)が規定されておらず、「微粒子」との語が、どの程度の大きさの粒子を示しているのかを明確に把握することができない。」旨主張する。
しかし、本件特許明細書の段落【0027】には、「凹凸層は、前記算術平均表面粗さRa及び60°グロスを有しているにも拘わらず、1μm以上の微粒子を含まない。そのため、被転写体に微粒子が混入するのを抑制できる。さらに、凹凸層は、微粒子自体(1μm未満の微粒子も含めた微粒子)を含まないのが好ましい。」と記載されており、本件発明1の「凹凸層が、微粒子を含まず」の「微粒子」は、粒径が「1μm」をしきい値としていることは明らかであり、申立人の、特許法第36条第6項第2号に係る申立理由は採用できない。
6.むすび
以上のとおりであるから、本件発明1~6に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては取り消すことはできない。
また、他に本件発明1~6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2019-700746