特許異議申立
2019-700554
通しダイヤフラム溶接継手構造体、通しダイヤフラム溶接継手構造体の製造方法
- 審判番号
- 2019-700554
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2015-036844外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2019年07月16日
- 審決日
- 2020年06月25日
- 公報発行日
- 2020年09月25日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 分類
- P1651.113-YAA(B23K) / P1651.537-YAA(B23K)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第7項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6453109号発明「通しダイヤフラム溶接継手構造体、通しダイヤフラム溶接継手構造体の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6453109号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-5〕、〔6-10〕について訂正することを認める。
特許第6453109号の請求項1-3、6-8に係る特許を維持する。
特許第6453109号の請求項4-5、9-10に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第6453109号の請求項1ないし10に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、平成27年2月26日に出願され、平成30年12月21日にその特許権の設定登録がされ、平成31年1月16日に特許掲載公報が発行され、その特許について、令和1年7月16日に特許異議申立人・豊田敦子(以下、「異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされた。
その後の主な手続きの経緯は、次のとおりである。
令和 1年 9月20日付け:取消理由通知
令和 1年11月25日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和 1年12月27日 :異議申立人による意見書の提出
令和 2年 1月20日付け:取消理由通知(決定の予告)
令和 2年 3月17日 :特許権者と当審との面接
令和 2年 3月19日 :特許権者と当審とのファクシミリ及び電話に よる応対
令和 2年 3月24日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和 2年 4月27日 :異議申立人による意見書の提出
なお、令和1年11月25日の訂正は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。
第2 訂正の適否についての判断
1.一群の請求項1-5に係る訂正
(1)訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、以下のとおりである。
ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「ただし、βは」と記載されているのを、「ただし、cBMσu=WMσuは除くとともに、βは」に訂正する(請求項1を引用する請求項2-5も同様に訂正する)。
イ 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に「溶接金属」と記載されているのを、「前記溶接部の溶接後の溶接金属」に訂正する(請求項1を引用する請求項2-5も同様に訂正する)。
ウ 訂正事項3及び4
特許請求の範囲の請求項4及び5を削除する。
エ 訂正事項5
明細書の段落【0013】に「ただし、βは」と記載されているのを、「ただし、cBMσu=WMσuは除くとともに、βは」に訂正する。
オ 訂正事項6
明細書の段落【0013】に「溶接金属」と記載されているのを、「溶接部の溶接後の溶接金属」に訂正する。
カ 訂正事項7及び8
明細書の段落【0016】及び【0017】に記載された事項を削除する。
(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
ア 訂正事項1について
訂正事項1に係る請求項1についての訂正は、訂正前の請求項1に係る特許発明において、式(2)で「cBMσu」と「WMσu」との大小関係について、「≧」とすることで、少なくとも両者が同じ、又は、cBMσuがWMσuより大きいことを特定しているのに対し、訂正後の請求項1は、「cBMσu=WMσuは除くとともに」を追加することにより、訂正後の請求項1に係る発明における「cBMσu」と「WMσu」との大小関係はcBMσuがWMσuより大きい範囲のみに限定して減縮するものであるから特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
イ 訂正事項2について
訂正事項2に係る請求項1についての訂正は、訂正前の請求項1に係る特許発明において「溶接金属の引張強さをWMσu(N/mm2)」と規定して、当該溶接金属の引張強さが溶接前の溶接金属の引張強さを表すのか、溶接した後の溶接部に存在する溶接金属の引張強さを表すのかが不明瞭であったものを、「前記溶接部の溶接後の溶接金属の引張強さをWMσu(N/mm2)」とすることにより当該溶接金属の引張強さが有する意味を明瞭にしたものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、本件特許に係る出願の願書に添付した明細書には、
「【0106】
・・・一方、溶接金属引張強さWMσuはJIS Z3111:2005に従い、板厚の1/4または1/2を中心として採取した丸棒引張試験により求めた。」と記載されていることから、「溶接金属の引張強さ」が「溶接部の溶接後の溶接金属」のものであることは明らかであるから、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
ウ 訂正事項3及び4について
訂正事項3及び4に係る請求項4及び5についての訂正は、請求項を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的としており、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
エ 訂正事項5-8について
訂正事項5-8に係る明細書の段落【0013】、【0016】及び【0017】についての訂正は、訂正事項1-4に係る特許請求の範囲の訂正に伴って、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合性を図るために訂正したものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、訂正事項1-4と同様に新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(3)小括
上記のとおり、訂正事項1-8に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の一群の請求項〔1-5〕について訂正することを認める。
2.一群の請求項6-10に係る訂正
(1)訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、以下のとおりである。
ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項6に「ただし、βは」と記載されているのを、「ただし、cBMσu=WMσuは除くとともに、βは」に訂正する(請求項6を引用する請求項7-10も同様に訂正する)。
イ 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項6に「溶接金属」と記載されているのを、「前記溶接部の溶接後の溶接金属」に訂正する(請求項6を引用する請求項7-10も同様に訂正する)。
ウ 訂正事項3及び4
特許請求の範囲の請求項9及び10を削除する。
エ 訂正事項5
明細書の段落【0018】に「ただし、βは」と記載されているのを、「ただし、cBMσu=WMσuは除くとともに、βは」に訂正する。
オ 訂正事項6
明細書の段落【0018】に「溶接金属」と記載されているのを、「溶接部の溶接後の溶接金属」に訂正する。
カ 訂正事項7及び8
明細書の段落【0021】及び【0022】に記載された事項を削除する。
(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
ア 訂正事項1について
訂正事項1に係る請求項6についての訂正は、訂正前の請求項6に係る特許発明において、式(2)で「cBMσu」と「WMσu」との大小関係について、「≧」とすることで、少なくとも両者が同じ、又は、cBMσuがWMσuより大きいことを特定しているのに対し、訂正後の請求項6は、「cBMσu=WMσuは除くとともに」を追加することにより、訂正後の請求項6に係る発明における「cBMσu」と「WMσu」との大小関係はcBMσuがWMσuより大きい範囲のみに限定して減縮するものであるから特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
イ 訂正事項2について
訂正事項2に係る請求項6についての訂正は、訂正前の請求項6に係る特許発明において「溶接金属の引張強さをWMσu(N/mm2)」と規定して、当該溶接金属の引張強さが溶接前の溶接金属の引張強さを表すのか、溶接した後の溶接部に存在する溶接金属の引張強さを表すのかが不明瞭であったものを、「前記溶接部の溶接後の溶接金属の引張強さをWMσu(N/mm2)」とすることにより当該溶接金属の引張強さが有する意味を明瞭にしたものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、本件特許に係る出願の願書に添付した明細書には、
「【0106】
・・・一方、溶接金属引張強さWMσuはJIS Z3111:2005に従い、板厚の1/4または1/2を中心として採取した丸棒引張試験により求めた。」と記載されていることから、「溶接金属の引張強さ」が「溶接部の溶接後の溶接金属」のものであることは明らかであるから、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
ウ 訂正事項3及び4について
訂正事項3及び4に係る請求項9及び10についての訂正は、請求項を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的としており、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
エ 訂正事項5-8について
訂正事項5-8に係る明細書の段落【0018】、【0021】及び【0022】についての訂正は、訂正事項1-4に係る特許請求の範囲の訂正に伴って、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合性を図るために訂正したものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、訂正事項1-4と同様に新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(3)小括
上記のとおり、訂正事項1-8に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の一群の請求項〔6-10〕について訂正することを認める。
第3 訂正後の本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1-10に係る発明(以下、それぞれ請求項に付された番号に従い、「本件特許発明1」等という。)は、令和2年3月24日付け訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1-10に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
通しダイヤフラムに角形鋼管を溶接してなる通しダイヤフラム溶接継手構造体であって、
溶接部のレ形開先の開先角度をα(°)、ルートギャップをg(mm)、余盛り高さをe(mm)、前記溶接部の溶接後の溶接金属の引張強さをWMσu(N/mm2)、前記角形鋼管の角部の引張強さをcBMσu(N/mm2)、及び前記角形鋼管の角部の厚さをt(mm)としたとき、下記式(1)及び式(2)を満たす通しダイヤフラム溶接継手構造体。
ただし、cBMσu=WMσuは除くとともに、βは0以上であって、下記式(3)を満たすβ’及びαの値のうち小さい方の値をとる。
【請求項2】
前記溶接金属のビッカース硬さをWMHv、前記角形鋼管の角部のビッカース硬さをcBMHvとしたとき、さらに下記式(4)、式(5)が成り立つ請求項1に記載の通しダイヤフラム溶接継手構造体。
【請求項3】
前記角形鋼管を構成する材料の、前記角形鋼管とする前における引張強さをfBMσu(N/mm2)としたとき、さらに下記式(6)が成り立つ請求項1又は2に記載の通しダイヤフラム溶接継手構造体。
【請求項4】(削除)
【請求項5】(削除)
【請求項6】
通しダイヤフラムに角形鋼管を溶接してなる通しダイヤフラム溶接継手構造体を製造する方法であって、
溶接部のレ形開先の開先角度をα(°)、ルートギャップをg(mm)、余盛り高さをe(mm)、前記溶接部の溶接後の溶接金属の引張強さをWMσu(N/mm2)、前記角形鋼管の角部の引張強さをcBMσu(N/mm2)、及び前記角形鋼管の角部の厚さをt(mm)として下記式(1)及び式(2)を満たすように設計し、これにより溶接をおこなう通しダイヤフラム溶接継手構造体の製造方法。
ただし、cBMσu=WMσuは除くとともに、βは0以上であって、下記式(3)を満たすβ’及びαの値のうち小さい方の値をとる。
【請求項7】
前記溶接金属のビッカース硬さをWMHv、前記角形鋼管の角部のビッカース硬さをcBMHvとしたとき、前記WMσu(N/mm2)、前記cBMσu(N/mm2)を下記式(4)、式(5)により求める請求項6に記載の通しダイヤフラム溶接継手構造体の製造方法。
【請求項8】
前記角形鋼管を構成する材料の、前記角形鋼管とする前における引張強さをfBMσu(N/mm2)としたとき、さらに下記式(6)により前記cBMσu(N/mm2)を求める請求項6に記載の通しダイヤフラム溶接継手構造体の製造方法。
【請求項9】(削除)
【請求項10】(削除)」
第4 取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由について
1.取消理由の概要
令和1年11月25日付け訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1-2、6-7に係る特許に対して、当審が令和2年1月20日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
請求項1、2、6、7に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるといえ、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1、2、6、7に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
2.甲号証の記載
(1)甲第1号証の記載事項
甲第1号証(中川 佳、外4名「550N/mm2級冷間プレス成形角形鋼管の部材性能に関する実験的研究」、日本建築学会大会学術講演梗概集(中国)、2008年9月、第549-550頁)には、以下の事項が記載されている。
ア「一般的に構造物のエネルギー吸収能力を向上させるためには,柱崩壊型とならないようにすることが重要であり,高強度柱材はその点で有用である.本研究では,550N/mm2級冷間プレス成形角形鋼管について,正負交番繰り返し載荷試験を行い,1(*1)塑性変形性能,2(*1)破壊モード,3(*1)「NBFW法」1)の効果を検討する.」(*1:○の中に数字)(549頁左欄第2-7行)
イ「3-1.試験体形状
図2に試験体,表1に試験体一覧を示す.試験体は中央部に通しダイアフラムを溶接した3点曲げ試験体であり,鋼管断面の径・板厚,載荷方向,ダイアフラム溶接部の仕様がパラメータとなっている.」(549頁左欄第19-23行)
ウ「3-2.素材試験
表2に鋼管素材の成分,表3に鋼管素材の機械的性質を示す.本鋼材では冷間加工を受けた鋼管角部においても高い靱性を有している.なお,鋼管角部のダイアフラム溶接部で,鋼管母材と同等以上の強度を確保するために溶接材料はYGW21を使用し,溶接条件は,予熱なし,入熱30kJ/cm以下,パス間温度250℃以下とした.」(549頁左欄第31-37行)
エ「[参考文献]
1)日本建築センター:冷間成形角形鋼管設計・施工マニュアル(改訂版),pp133-134」(550頁右欄第16-18行)
オ 甲第1号証の表1には、試験体「C2」及び「C5」について、鋼管板厚「t」が32mmであることが開示されている。また、試験体「C2」及び「C5」の「ダイアフラム溶接法」が「NBFW」であることが開示されている。
カ 甲第1号証の表3には、試験体「C2」について、「角部」の引張強さ「TS」が654N/mm2、試験体「C5」について、「角部」の引張強さ「TS」が651N/mm2であるとともに、「溶接材料」の引張強さ「TS」が644N/mm2であることが開示されている。
キ 甲第1号証の表3の脚注4)には、「溶接材料」の引張強さ「TS」の測定にはJIS Z3111 A1号の試験片を用いることが開示されている。
ク 甲第1号証の図2右側には、NBFW法について、溶接部のレ形開先の開先角度が35°、ルートギャップが7mmであることが開示されている。
(2)甲第1号証の記載事項から認定できる事項
上記(1)の記載事項から以下の事項が認定できる。
ア 上記(1)オ より、鋼管板厚「t」は全周において略同じであると認められるから、角部の厚さも32mmであると認められる。
イ 上記(1)キ より、JIS Z3111 A1号の試験片は、所定の施工方法によって溶接施工された溶接部より採取される、その平行部が純粋な溶接金属からなる丸棒引張試験片であるから、甲第1号証の表3に開示された「溶接材料」の引張強さ「TS」の値は、「C1」-「C5」のいずれかの試験体の溶接部の溶接後の値であると認められる。
ウ 上記(1)カ より、試験体「C2」及び「C5」については、「角部」の引張強さ「TS」がそれぞれ記載されているが、「溶接材料」の引張強さ「TS」については644N/mm2の1つが記載されているのみであり、この値が「C1」-「C5」のどの試験体の「溶接材料」の引張強さ「TS」を表しているのかは明らかではなく、また、後述の4.(2)で詳述するように、試験体「C1」-「C5」のすべての「溶接材料」の引張強さ「TS」が同じ644N/mm2であるとは考えづらいことから、試験体「C2」及び「C5」の「溶接材料」の引張強さ「TS」は不明であると言わざるを得ない。
(3)引用発明
以上によれば、甲第1号証は以下の発明(以下「引用発明」という。)を開示していると認められる。
「通しダイアフラムに角形鋼管を溶接してなる試験体C2及びC5に係る3点曲げ試験体であって、
溶接部のレ形開先の開先角度をα(°)、ルートギャップをg(mm)、前記角形鋼管の角部の引張強さをcBMσu(N/mm2)、及び前記角形鋼管の角部の厚さをt(mm)としたとき、α=35(°)、g=7(mm)、cBMσu=654(N/mm2)又は651(N/mm2)、t=32(mm)である試験体C2及びC5に係る3点曲げ試験体。」
3.当審の判断
(1)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と引用発明とを対比すると、引用発明の「通しダイアフラム」は本件特許発明1の「通しダイヤフラム」に相当し、以下同様に「試験体C2及びC5に係る3点曲げ試験体」は「通しダイヤフラム溶接継手構造体」に相当する。
また、引用発明が「α=35(°)、g=7(mm)、cBMσu=654(N/mm2)又は651(N/mm2)、t=32(mm)である」ことと本件特許発明1が「下記式(1)及び式(2)を満たす」
「
ただし、cBMσu=WMσuは除くとともに、βは0以上であって、下記式(3)を満たすβ’及びαの値のうち小さい方の値をとる。
」ことを対比すると、「各値が所定の関係を満たす」という点に限れば一致する。
そうすると、本件特許発明1と引用発明とは以下の点で一致するとともに、相違する。
[一致点]
「通しダイヤフラムに角形鋼管を溶接してなる通しダイヤフラム溶接継手構造体であって、
溶接部のレ形開先の開先角度をα(°)、ルートギャップをg(mm)、前記角形鋼管の角部の引張強さをcBMσu(N/mm2)、及び前記角形鋼管の角部の厚さをt(mm)としたとき、各値が所定の関係を満たす通しダイヤフラム溶接継手構造体。」
[相違点]
本件特許発明1は、「余盛り高さe(mm)」及び「溶接部の溶接後の溶接金属の引張強さWMσu(N/mm2)」をパラメータとして、「下記式(1)及び式(2)を満た」し、「ただし、cBMσu=WMσuは除くとともに、βは0以上であって、下記式(3)を満たすβ’及びαの値のうち小さい方の値をとる」のに対し、引用発明は、余盛り高さ及び溶接部の溶接後の溶接金属の引張強さが不明のため、式(1)-(3)を満たす(ただし、cBMσu=WMσuは除く)かどうか不明な点。
イ 判断
上記相違点について検討する。
上記2.(2)ウで述べたとおり、引用発明において、試験体「C2」及び「C5」の「溶接材料」の引張強さ「TS」は不明であると言わざるを得ないことから、溶接部の溶接後の溶接金属(溶接材料)の引張強さWMσu(N/mm2)と角形鋼管の角部の引張強さcBMσu(N/mm2)の大小関係を比較することはできず、本件特許発明1の式(2)を満たしているかを確認することはできない。
そうすると、本件特許発明1は上記式(2)を満たすのに対し、引用発明は上記式(2)を満たしているか不明な点で、両者は少なくとも相違することになる。
ウ 小括
よって、本件特許発明1は、引用発明であるとはいえない。
(2)本件特許発明6について
本件特許発明6は、本件特許発明1に対応する製造方法の発明であるところ、本件特許発明1と同様に、「余盛り高さe(mm)」及び「溶接部の溶接後の溶接金属の引張強さWMσu(N/mm2)」をパラメータとして、「下記式(1)及び式(2)を満た」し、「ただし、cBMσu=WMσuは除くとともに、βは0以上であって、下記式(3)を満たすβ’及びαの値のうち小さい方の値をとる」
という構成を備えるから、引用発明と対比すると、上記(1)アの相違点と同様の相違点が存在する。
したがって、上記(1)イと同様の理由により、本件特許発明6は、引用発明であるとはいえない。
(3)本件特許発明2及び7について
本件特許発明2は、本件特許発明1の構成全てを引用した発明であって、本件特許発明1の相違点に係る構成と同一の構成を備えるものである。
また、本件特許発明7は、本件特許発明6の構成全てを引用した発明であって、本件特許発明6の相違点に係る構成と同一の構成を備えるものである。
したがって、上記(1)イ及び上記(2)と同様の理由により、本件特許発明2及び7は、引用発明であるとはいえない。
4.異議申立人の意見について
(1)異議申立人の意見の概要
ア 甲第1号証の表3(溶接材料の引張強さ)について
甲第1号証は、鋼管断面の径・板厚、載荷方向、ダイアフラム溶接部の仕様をパラメータとした試験体の性能を検証したものであるから、これらのパラメータ以外の溶接条件(溶接材料の化学成分組成、溶接施工条件)を同一として、各パラメータが継手構造に与える性能のみを評価していることは明らかである。
そして、化学成分組成が同一の溶接材料を用いて、鋼管板厚が32mmと同じ試験体C2-C5に対して、予熱なし、入熱30kJ/cm以下、パス間温度250℃以下の同じ施工条件で溶接を行えば、各試験体における溶接材料は同じ熱履歴を被ることから、表3に示された溶接材料(溶接金属)のTSの値「644N/mm2」は、基準試験体C2-C5のいずれにも該当すると解することが、最も自然な解釈である。
特許権者は、「溶接条件が同じであっても、(溶接部の溶接後の溶接金属における)引張強さには相当のばらつきが生じる」ことを、乙第4-9号証の記載を根拠にして主張しているが、乙第4及び5号証は、試験体C2及びC5について、甲第1号証における溶接材料YGW21の引張強さTSが650N/mm2以下であることを裏付ける、又はその蓋然性が高いことを強く示唆するものであり、乙第6-9号証は、試験体C2及びC5がイーブンマッチング又はオーバーマッチングである(アンダーマッチングでない)ことを何ら示すものではない。
イ 甲第1号証の「鋼管角部のダイヤフラム溶接部で、鋼管母材と同等以上の強度を確保するために溶接材料はYGW21を使用し」の記載について
甲第1号証記載の「鋼管角部のダイアフラム溶接部で,鋼管母材と同等以上の強度を確保する」は、溶接継手の引張強さが、鋼管角部の母材の引張強さと同等以上であることを示している。
したがって、甲第1号証に記載された試験体C2及びC5において、溶接継手の強度(JIS Z3131)が角形鋼管の角部の強度(JIS Z2201)より高いという上記記載の条件を満たしつつ、溶接部の溶接後の溶接金属の引張強さ(JIS Z3111)が角形鋼管の角部の引張強さ(JIS Z2241(2201))より小さいというアンダーマッチングの態様であることは、甲第1号証において、何ら矛盾しない。
また、乙第10-14号証の記載から、アンダーマッチングの態様を排除するとはいえない。
ウ アンダーマッチングの周知性について
乙第10-14号証に示すように、建築分野では、一般的にオーバーマッチング又はイーブンマッチングによる溶接継手が周知である。しかし、参考資料4、5に示すように、鋼材の高強度化に伴って、オーバーマッチング又はイーブンマッチングとなるべく溶接材料を選択しても、意図せずにアンダーマッチングとなることも広く知られており、実際、甲第1号証、及び参考資料6に記載されるように、建築分野において、レ形開先を有するT字のアンダーマッチング継手構造も周知の事項である。
(2)異議申立人の意見に対して
ア 甲第1号証の表3(溶接材料の引張強さ)についての意見に対して
乙第5及び6号証に記載されるとおり、同じ規格の溶接材料であっても、メーカーによりその化学成分が異なることから、溶接材料(溶接金属)の引張強さにばらつきが生じることはよく知られたことである。また、仮に溶接条件が全く同じであったとしても、溶接後の溶接材料(溶接金属)の引張強さは、溶接時の熱影響によりその値は変化しばらつきを有するものである。そうすると、甲第1号証のC1-C5の試験全てにおいて、溶接部の溶接後の溶接金属(溶接材料)の引張強さが下一桁に至るまで値が同じであることは不自然と言わざるを得ない。
甲第1号証と乙第4号証とで、同じYGW21の溶接金属を用いて、同じ入熱、同じパス間温度で溶接していたとしても、上記のとおり、溶接後の溶接材料(溶接金属)の引張強さが同じになるとは限らないことから、乙第4号証において、溶接金属の引張強さが650N/mm2未満であったとしても、甲第1号証の溶接金属の引張強さも同様に650N/mm2未満であるという根拠にはならない。
同様に、甲第1号証と乙第5号証とで、同じYGW21の溶接金属を用いて、同じ入熱、同じパス間温度で溶接していたとしても、溶接後の溶接材料(溶接金属)の引張強さが同じになるとは限らないことから、溶接条件を統一しても、ばらつきを完全に押さえることができるとはいえない。また、甲第1号証において、溶接条件を統一してもC2-C5の試験体の溶接金属のTSは、同一の644N/mm2になるとはいえない。
一方、乙第6-9号証は、溶接条件が同じであっても、(溶接部の溶接後の溶接金属における)引張強さにはばらつきが生じることを示す文献であって、甲第1号証と同じYGW21を用いた溶接後の溶接金属の具体的な引張強さについて何も示されていなくても、何ら問題はない。
以上のとおり、溶接後の溶接材料(溶接金属)の引張強さはばらつきを有するものであり、甲第1号証の表3には「溶接材料」の引張強さが一つしか記載されていないことから、試験体C2及びC5の引張強さが644N/mm2であるかは不明であり、甲第1号証の表3から、試験体C2及びC5がアンダーマッチングであるということはできない。
イ 甲第1号証の「鋼管角部のダイヤフラム溶接部で、鋼管母材と同等以上の強度を確保するために溶接材料はYGW21を使用し」の記載についての意見に対して
甲第1号証の表3には、試験体C1-C5の角部の引張強さの数値と、溶接材料の引張強さの数値が記載されているが、それらの数値の大小を比較することは記載されておらず、甲第1号証の実験的研究において、アンダーマッチングを意図した研究が行われているとはいえない。
また、上記アで説示するとおり、表3の溶接材料の引張強さの数値が、試験体C2及びC5の溶接部での溶接材料の引張強さかどうかは、不明である。
そうすると、上記の記載を根拠に、甲第1号証の試験体C2及びC5がアンダーマッチングであることまでは認定できないから、異議申立人の主張は、当審の判断を左右するものではなく、採用できない。
ウ アンダーマッチングの周知性についての意見に対して
建築分野を含む溶接技術分野において、アンダーマッチングが周知であったとしても、乙第10-14号証に記載されるとおり、一般的にはイーブンマッチング又はオーバーマッチングによる溶接継手も周知であることから、甲第1号証の試験体C2及びC5がアンダーマッチングに限定される根拠にはならない。
第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1.特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について
本件特許発明の解決しようとする課題は、「アンダーマッチング溶接であっても溶接金属部で破壊が生じることを防止できる通しダイヤフラム溶接継手構造体を提供する」ことであるが、発明の詳細な説明には、本件特許発明の課題を解決する具体例が1例しか記載されていない。
(1)これに対して、本件特許発明1及び6は、式(1)-(3)で特定する以外の特定を有さないから、本件特許発明の課題を解決し得るのか、当業者が認識することのできない発明を含む。
(2)請求項2及び7に記載の式(4)及び式(5)は、引張強さとビッカース硬さの関係を示すだけのものであるから、請求項2及び7に係る発明は、課題を解決し得るのか不明な発明を含む。
(3)請求項3及び8に記載の式(6)は、角形鋼管の角部の引張強さと角形鋼板とする前の引張強さfBMσuとの関係を示すだけのものであるから、請求項3及び8に係る発明は、課題を解決し得るのか不明な発明を含む。
2.申立理由の検討
本件特許発明1及び6の式(1)-(3)は、明細書の段落【0058】-【0102】に記載されるように、アンダーマッチング溶接である(式(2)を満たす)場合に、溶接金属で破壊することなく、母材である鋼管角部で破壊するための各部が備えるべき強度(式(1)及び(3))を論理的に導いたものである。
そして、式(1)-(3)を満たして課題を解決する具体例が少なくとも1つ記載されている以上、式(1)-(3)は正しいものと推認できるから、明細書の段落【0058】-【0102】に記載された論理に不備はなく、本件特許発明1及び6はサポートされているといえる。
本件特許発明2、3、7及び8は、本件特許発明1及び6の式(1)-(3)の条件に加えて、さらに条件を付加したものであるから、本件特許発明1及び6と同様サポートされているといえる。
第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1-3及び6-8に係る特許を取り消すことはできない。また、他に本件請求項1-3及び6-8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
請求項4-5、9-10に係る発明は、上記のとおり、訂正により削除された。これにより、特許異議申立人による特許異議の申立てについて、請求項4-5、9-10に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2019-700554