特許異議申立
2020-700990
耐剥離性に優れたポリオレフィン被覆鋼管およびその製造方法
- 審判番号
- 2020-700990
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2016-130315
- 登録番号
- 6762781
- 請求日
- 2020年12月18日
- 審決日
- 2022年02月15日
- 公報発行日
- 2022年05月27日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】日本製鉄株式会社
- 【権利者代理人】特許業務法人樹之下知的財産事務所
- 【権利者】日鉄防食株式会社
- 【権利者代理人】特許業務法人樹之下知的財産事務所
- 【異議申立人】豊田 敦子
- 審判長/審判官
- 審判長 藤原 直欣
- 審判官 石井 孝明
- 審判官 藤井 眞吾
- 分類
- P1651.113-YAA(B32B) / P1651.121-YAA(B32B) / P1651.536-YAA(B32B) / P1651.537-YAA(B32B)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6762781号発明「耐剥離性に優れたポリオレフィン被覆鋼管およびその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6762781号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項2について訂正することを認める。
特許第6762781号の請求項1に係る特許を維持する。
特許第6762781号の請求項2に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6762781号の請求項1~2に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願は、平成28年6月30日に出願され、令和2年9月11日にその特許権の設定登録がされ、令和2年9月30日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和2年12月18日 :特許異議申立人豊田敦子(以下「申立人」という。)による請求項1~2に係る特許に対する特許異議の申立て
令和3年6月29日付け:取消理由通知書
令和3年8月25日 :特許権者による意見書及び訂正請求書(以下、この訂正請求書による訂正の請求を「本件訂正請求」といい、訂正そのものを「本件訂正」という。)の提出
令和3年12月9日 :申立人による上申書の提出
第2 本件訂正の適否
1 本件訂正の内容
本件訂正の内容は、次のとおりである。
[訂正事項1]
特許請求の範囲の請求項2を削除する。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1は、請求項2を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
3 小括
上記のとおり、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項2について訂正することを認める。
第3 本件特許に係る発明
上記第2のとおり本件訂正が認められたことから、本件特許の請求項1に係る発明(以下「本件発明」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
予熱された鋼管表面に粉体エポキシ樹脂プライマー層、変性ポリオレフィン層、ポリオレフィン層を順次積層していく外面ポリオレフィン被覆鋼管において、鋼管表面のへげ割合が30%以下かつ鋼管表面の錆割合が10%以下であるブラスト処理を施したことを特徴とする耐剥離性に優れたポリオレフィン被覆鋼管。」
第4 取消理由通知書に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
本件特許の特許請求の範囲の請求項2に係る特許に対して、当審が令和3年6月29日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
本件特許は、特許請求の範囲の記載が、次の(1)及び(2)の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
(1)本件特許の請求項1に記載された「鋼管表面のへげ割合が30%以下かつ鋼管表面の錆割合が10%以下であるブラスト処理」が、「予熱された鋼管表面に粉体エポキシ樹脂プライマー層、変性ポリオレフィン層、ポリオレフィン層を順次積層していく外面ポリオレフィン被覆鋼管」の何に施されているのかが不明である。
(2)請求項2に記載されている「へげ割合」に関する特定は、請求項1に係る発明における「へげ割合」を特定するものではなく、請求項1に係る発明における「へげ割合」については、その意味が不明であり、請求項2に係る発明における「へげ割合」との異同も不明である。
2 当審の判断
(1)上記1の(1)について
本件特許の請求項1の「鋼管表面のへげ割合が30%以下かつ鋼管表面の錆割合が10%以下であるブラスト処理を施したこと」という事項は、「ポリオレフィン被覆鋼管」が、「鋼管表面のへげ割合が30%以下」であること、「鋼管表面の錆割合が10%以下であるブラスト処理を施したこと」を特定する事項であるところ、当該特定事項の「鋼管表面」は、請求項1に記載された「粉体エポキシ樹脂プライマー層、変性ポリオレフィン層、ポリオレフィン層」が「順次積層」される「鋼管表面」に他ならないから、「鋼管表面の錆割合が10%以下であるブラスト処理を施」されるものが「鋼管表面」であることは、明確である。
(2)上記1の(2)について
上記訂正事項1により、本件特許の請求項2は削除され、請求項1に係る発明における「へげ割合」と、請求項2に係る発明における「へげ割合」との異同が不明である点は解消した。
また、「へげ割合」の「割合」とは、物と物との比をいうものであり、「鋼管表面」における「へげ」の比を特定しているという意味で、当該事項は明確であるといえる。該「へげ割合」について、本件特許の発明の詳細な説明を参照すると、「【0007】・・・ここで言うへげ割合とは、ブラスト後の鋼材の断面を200倍で観察し、断面方向に連続して3視野中に存在する10μm以上のへげの長さの合計を3視野の断面方向の長さで除し百分率としたものである。」及び「【0018】 へげ割合は、ブラスト後の鋼材の断面を200倍で観察することで得られる。図3に代表的なブラスト後のポリオレフィン被覆鋼材のへげの断面写真を示す。へげ割合は、断面方向に連続して3視野中に存在するへげの長さの合計をそれぞれ3視野の断面方向の長さで除し百分率として得る。例えば図3におけるへげ割合は13%である。・・・」と記載されており、当該説明は上記理解と整合するものである。
(3)まとめ
上記(1)及び(2)のとおりであるから、本件発明は明確である。
したがって、本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしている。
第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 特許異議申立理由中、取消理由通知に採用しなかったものは、概略以下のとおりである。
(1)特許異議申立理由1(新規性)
本件訂正前の請求項1~2に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であり、本件訂正前の請求項1に係る発明は、甲第3号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、同法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
(2)特許異議申立理由2(進歩性)
本件訂正前の請求項1~2に係る発明は、甲第1号証に記載された発明又は甲第2号証に記載された発明、並びに甲第4~6号証に例示される周知技術及び甲第7号証に記載された事項に基いて、本件訂正前の請求項1に係る発明は、甲第3号証に記載された発明及び甲第7号証に記載された事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(3)特許異議申立理由3(実施可能要件)
本件特許は、発明の詳細な説明の記載が、次のとおりであるから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
熱延鋼板については、ショットブラスト後のヘゲ(表面欠陥)の割合が、Si、Al、V、Ca、O、Mn等の化学成分の含有量によって変動すること、ショットブラスト後のスケール疵(微小ヘゲ状)の割合が、スラブ加熱条件によって変動することが公知であるが、発明の詳細な説明の記載では、どのような化学成分の鋼材を、どのような条件で製造した鋼管(実施例では熱延鋼板)に、ブラスト処理を施せば、「鋼管表面のへげ割合が30%以下」になるのか明らかでないから、当業者は、ブラスト処理を施して「鋼管表面のへげ割合が30%以下」の鋼管とするために、過度の試行錯誤を繰り返さなければならない。
したがって、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではない。
(4)特許異議申立理由4(サポート要件)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が、次のとおりであるから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
本件特許の明細書の発明の詳細な説明の記載では、どのような化学成分の鋼材を、どのような条件で製造した鋼管(実施例では熱延鋼板)に、ブラスト処理を施せば、「鋼管表面のへげ割合が30%以下」になるのか明らかでないから、「鋼管表面のへげ割合が30%以下かつ鋼管表面の錆割合が10%以下であるブラスト処理を施した」と特定した本件特許の請求項1に係る発明は、「へげといった密着阻害要因を除去すること」で、「耐剥離性に優れたポリオレフィン被覆鋼管を提供する」という発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載されているとはいえない。
したがって、本件特許の請求項1に係る発明、及び請求項1を引用する本件請求項2に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものではない。
(5)特許異議申立理由5(明確性要件)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が、次のとおりであるから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
本件特許の請求項1には、「ポリオレフィン被覆鋼管」という物の発明について、「ブラスト処理を施した」という、その「ポリオレフィン被覆鋼管」の製造方法が記載されているが、出願時においてその「ポリオレフィン被覆鋼管」をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情が存在するとはいえない。
また、ブラスト処理は、被覆していない鋼管に施すものであり、その後、鋼管に、被覆を順次積層していき、被覆鋼管とした場合、製造された外面ポリオレフィン被覆鋼管に、どのようなブラスト処理が施されたのか確認することができず、不明である。
したがって、本件特許の請求項1に係る発明は、明確であるとはいえない。
2 特許異議申立理由1(新規性)及び特許異議申立理由2(進歩性)について
(1)甲各号証
甲第1号証:Application Guide for Primers for Multi-layer Polyolefin Coatings,Jotun Powder Coatings,Revised December 2013,page 1/10-10/10
甲第2号証:JIS G 3477-1:2012 ポリエチレン被覆鋼管-第1部:3層ポリエチレン押出被覆鋼管,一般財団法人 日本規格協会,平成24年11月20日
甲第3号証:特開2005-280345号公報
甲第4号証:特開2012-12702号公報
甲第5号証:特開2014-189862号公報
甲第6号証:特開平6-33146号公報
甲第7号証:特開昭47-31292号公報
甲第8号証:特開平9-206675号公報
以下、甲第1~8号証は、それぞれ「甲1」~「甲8」という。
(2)甲1~8に記載された事項
以下、下線は、理解の便宜又は強調のため、当審が付した。
ア 甲1について
甲1には、日本語に訳すと、次の事項が記載されている。
「1.0 はじめに
この文書は多層ポリオレフィンコーティングシステム用の融着エポキシ(FBE)プライマーの工場適用のためのガイドラインを提供する。」(2ページ17~19行)
「2.0 一般的な概要
FBEコーティングは、石油、ガス、スラリーおよび水の輸送に使用されるパイプラインの高品質な腐食および機械的保護を提供する。
多層ポリオレフィンコーティングは、耐腐食性FBEプライマー、特別に設計された接着剤層、およびポリオレフィントップコートからなる。トップコートは、パイプラインの温度要件に合わせてポリエチレン(PE)またはポリプロピレン(PP)のいずれかで作ることができる。」(2ページ20~25行)
「3.0 表面処理及び清浄性
研磨剤洗浄の前に鋼管表面の洗浄と準備に適切な注意を払うことは、完成したコーティング最終的な品質にかなりの影響を及ぼす。」(3ページ2~4行)
「4.0 ブラスト洗浄
研磨ブラスト洗浄の目的は、平均プロファイル深さが50~100ミクロン(2~4ミル)の角ばった表面プロファイルを有する清浄な表面を達成することである。表面の清浄度は、以下の仕様のいずれかに記載された少なくとも「ニアホワイトメタル」品質を満たすべきものとする:
[図:0001384038000001.jpg]
これは、砥粒媒体として鋼グリットを用いた遠心式ブラスト装置で最も効果的に達成できる。」(3ページ下から8~1行)
「5.0 クリーニング手順
2つの送風チャンバが存在する場合には、ショットを第1のチャンバにおいて予備洗浄のために使用し、第2のチャンバにおいてグリットを使用することができる。ショットとグリットを同じチャンバ内で混合することは推奨されない。単一のブラスト装置が作動している場合は、鋼製グリットのみを使用することを推奨する。
最初の洗浄ステップで基本的な清浄度を確立する。また、スリバー、バリ、ラミネート、スカブ(へげ)、ガウジなどのパイプ欠陥も検出する。これらの欠陥を削除するためには、ディスク研削または他の適切な方法を使用しなければならない。重大な欠陥が存在する場合は、この段階でパイプをリジェクトする必要がある。
次のステップは、G-25またはG-40(またはコーティング仕様の要求に応じて)鋼グリットを媒体として使用し、50~60ロックウェルCの硬度を有する第二の研磨剤洗浄プロセスである。このステップの主な目的は、最終的な所望の清浄度および所望のアンカープロファイルを達成することである。第1段階が効率的に実施されている場合、最良の性能を得るためには「軽い」ブラストのみが必要であることが多い。」(5ページ1~13行)
「8.0 予熱
管継手の正しい加熱は、融着エポキシ管被覆の成功した適用における最も重要なステップの一つである。鋼は、FBEコーティングの最適性能を達成するために、FBEメーカーが推奨する適切な適用温度に達しなければならない。予熱温度は、材料のグレードによって異なる。金属の温度は、冶金的な欠陥や表面の欠陥が発生する可能性があるので、275℃(527°F)を超えないようにする。」(5ページ下から9~3行)
「9.0 FBEコーティングの適用
粉体の塗布には静電噴霧が最適である。
流動化粉体供給と適切な再生システムを使用することが重要である。数多く使用されているガンは、必要なフィルムの厚さとパイプの直径によって異なる。ガンが適切に設置されている場合、パウダー室内でのオーバースプレーは比較的少ないはずである。」(第6ページ15~19行)
「10.0 接着剤の塗布
適切な時間に接着剤を塗布することが、塗布を成功させる鍵となる。接着剤は通常、次の2つの方法のいずれかで塗布する。
a) サイドラップ押し出し
接着材料は、リボンが回転パイプに巻き付けられるように配置されたダイから幅の広いリボンに押し出される。溶融リボンは、典型的には、幅が6~12インチであり、215~240℃(419~464°F)の範囲の温度である。包装後、加圧ローラでプライマーに圧着する。
接着剤はエポキシプライマーで化学的に活性になるように変性され、接着剤とエポキシとの間で反応が起こる。これにより、2つの層の間に強い結合が生じる。接着剤を塗布する時間は、必要な接着強度を達成するために重要である。塗布が早すぎると、エポキシはまだ液状であり、加圧ローラによって絞り出される。塗布が遅すぎると、エポキシには結合を形成するのに十分な反応性が残っていない。「コーティング間の合間」はFBE粉体のゲル化時間のバランス、塗布温度およびライン速度によって制御される。
この種の塗布に必要な予熱温度は、特定の条件で他の温度を使用してもよいが、典型的には200~220℃(392~428°F)の範囲である。
b)粉体の塗布
接着剤はまた、FBE粉体と全く同じ方法で噴霧することにより粉体の形態で塗布されてもよい。この方法にはいくつかの利点があり、最も顕著なのは、ゲル化途中のFBE上に粉体が直接塗布され得るので、FBEの「コーティング間の合間」を考慮する必要がないことである。
接着剤が溶けて均ーなフィルムになるようにするには、より高い予熱温度が必要である。」(7ページ21~8ページ9行)
「多層ポリオレフィンコーティングの重要な試験は剥離試験である。これは、多くの方法および異なる温度で行うことができるが、本質的には、エポキシプライマーに対する接着剤の接着強度を試験する。」(8ページ下から3~1行)
以上の記載事項から、甲1には次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。
「予熱した鋼管表面に、耐腐食性融着エポキシプライマー、特別に設計された接着剤層、およびポリオレフィントップコートからなる多層ポリオレフィンコーティングをしており、融着エポキシは粉体であり、
鋼管表面は、平均プロファイル深さが50~100ミクロン(2~4ミル)の角ばった表面プロファイルを有する清浄な表面を達成しており、表面の清浄度は、SSPC-SP10、NACE No.2又はSa21/2のいずれかに記載された少なくとも「ニアホワイトメタル」品質を満たす研磨ブラスト洗浄を行った、鋼管。」
イ 甲2について
甲2には、次の事項が記載されている。
「ポリエチレン被覆鋼管-第1部:3層ポリエチレン押出被覆鋼管
・・・
1 適用範囲
この規格は,ガス,油,」(本文1ページ1~11行(ヘッダーのG3477-1:2012の行を除く。以下同様。))
「3 用語及び定義
この規格で用いる主な用語及び定義は,JIS K 5500, JIS K 6900 及びJIS Z 0103 によるほか,次による。
3.1
接着性ポリエチレン
ポリエチレンは極性をもたず接着性に乏しいため,ポリエチレンに極性基を導入し接着性を付与した樹脂。マレイン酸,アクリル酸などでポリエチレンを変性した樹脂で鋼材にもポリエチレンにも接着性を有している。
3.2
エポキシ樹脂プライマー
接着性ポリエチレンと鋼材とを媒介し,接着耐久性の向上を目的として,鋼材表面に塗布されるエポキシ樹脂系のプライマー。常温で液状の液状プライマーと粉末状の粉体プライマーとがあり,加熱によって硬化する性質を有する。」(本文2ページ22~33行)
「6 製造方法
6.1 前処理
原管に付着している有害となる程度の油分,さび及びその他の異物は,機械的(ブラスト処理など)又は化学的な方法によって除去する。除去した後の原管に化成処理を施してもよい。また,鋼材表面のラミネーション,割れ,かききずなどはあらかじめグラインダー研削などで除去してもよいが,鋼管の厚さ規定の最小値を超えて研削してはならない。
ブラスト処理時の管理項目を参考として附属書Bに示す。
6.2 被覆方法
前処理を行った原管の外面をあらかじめ加熱し,適切な方法によってエポキシ樹脂プライマーを塗布(液状プライマーで通常5~50μm,粉体プライマーで通常80~500μm)し,更に接着性ポリエチレンを被覆(通常0.05~0.5mm)する。次に押出し法によって3層用ポリエチレンを被覆する。接着性ポリエチレンと3層用ポリエチレンとは,共押出し法によって同時に被覆してもよい。被覆時の管理項目を参考として附属書Bに示す。
6.3 内面塗装
受渡当事者間の協定によって,鋼管の内面にエポキシ樹脂塗料などを塗装してもよい。
7 被覆綱管
7.1 被覆性能
被覆鋼管の被覆性能は,表6による。
注記 ピンホール及び接着性を除く他の被覆性能の試験は,形式試験としている。
[図:0001384038000002.jpg]
」(本文5ページ1行(表5を除く)~6ページ表6)
「附属書B
(参考)
製造工程の管理項目
B.1 適用範囲
この附属書は,注文者と被覆鋼管の製造業者との協定によって,被覆鋼管の製造業者が実施する製造工程の管理項目及び内容について参考として示す。
B.2 管理項目
ブラスト処理によって除せいする場合の管理項目を表B.1に,被覆工程における管理項目を表B.2に示す。
[図:0001384038000003.jpg]
」(本文16ページ)
以上の記載事項から、甲2には次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されている。
「前処理として、原管に付着している有害となる程度の油分,さび及びその他の異物は,ブラスト処理によって除去し、前処理を行った原管の外面をあらかじめ加熱し,エポキシ樹脂プライマーを塗布(粉体プライマーで通常80~500μm)し,更にマレイン酸,アクリル酸などでポリエチレンを変性した樹脂である接着性ポリエチレンを被覆(通常0.05~0.5mm)する。次に押出し法によって3層用ポリエチレンを被覆し、原管のブラスト処理面の除せい度がSa21/2である3層ポリエチレン押出被覆鋼管。」
ウ 甲3について
甲3には、次の事項が記載されている。
「【請求項1】
軸方向の引張試験により得られる公称応力-公称歪み曲線の比例限から歪量5%までのいずれの歪量においても公称応力/公称歪みの勾配が正であり且つ一様伸びが5%以上、降伏比が80%以下の鋼管の表面に、防食被覆の少なくとも一部として、180~220℃の温度範囲で完全硬化するまでの時間が3分以下である粉体塗料による樹脂被覆層を有することを特徴とする耐震性及び防食性に優れた樹脂被覆鋼管。
【請求項2】
粉体塗料がエポキシ粉体塗料であることを特徴とする請求項1に記載の耐震性及び防食性に優れた樹脂被覆鋼管。
【請求項3】
防食被覆が、粉体塗料による樹脂被覆層と、その上層に形成される1層以上のポリオレフィン樹脂被覆層からなることを特徴とする請求項1又は2に記載の耐震性及び防食性に優れた樹脂被覆鋼管。
【請求項4】
軸方向の引張試験により得られる公称応力-公称歪み曲線の比例限から歪量5%までのいずれの歪量においても公称応力/公称歪みの勾配が正であり且つ一様伸びが5%以上、降伏比が80%以下の鋼管の表面に、180~220℃の温度範囲で完全硬化するまでの時間が3分以下である粉体塗料を塗装して180~220℃の温度で熱硬化させることにより、防食被覆の少なくとも一部となる樹脂被覆層を形成することを特徴とする耐震性及び防食性に優れた樹脂被覆鋼管の製造方法。
【請求項5】
粉体塗料がエポキシ粉体塗料であることを特徴とする請求項4に記載の耐震性及び防食性に優れた樹脂被覆鋼管の製造方法。
【請求項6】
防食被覆として、粉体塗料による樹脂被覆層を形成した後、その上層に1層以上のポリオレフィン樹脂被覆層を形成することを特徴とする請求項4又は5に記載の耐震性及び防食性に優れた樹脂被覆鋼管の製造方法。」
「【技術分野】
【0001】
本発明は、耐震性と防食性がともに優れた樹脂被覆鋼管及びその製造方法に関する。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以上のことから、上記のような耐震性鋼管に対して樹脂被覆によって高い防食性能を付与すれば、ラインパイプ等に好適な高度の耐震性と防食性を兼ね備えた鋼管を得ることができると考えられた。しかし、そのような防食被覆鋼管を実現するために本発明者らが実験を行ったところ、鋼管に高い防食性能を付与するために粉体塗料による樹脂被覆を施した場合、その鋼管本来の耐震性が大きく損なわれてしまうという事実が判明した。
したがって本発明の目的は、耐震性と防食性がともに優れた樹脂被覆鋼管及びその製造方法を提供することにある。」
「【0031】
[実施例1]
C:0.04mass%、Si:0.15mass%、Mn:1.5mass%、Cu:0.25mass%、Ni:0.2mass%、Mo:0.1mass%、Nb:0.01mass%、残部Fe及び不可避不純物からなる化学成分のスラブを1100℃に加熱して熱間圧延した後、720℃から380℃までを5℃/secの平均冷却速度で冷却し、その後、放冷し、板厚30mmの熱延鋼板(Ar3:754℃)を製造した。この熱延鋼板をOD24inch×30mmWTのUOE鋼管に製管した。
この鋼管の外面に対して、グリットブラストによる前処理(粗さRz:50~70μm、清浄度Sa:2.5以上)を施した後、クロメート処理(乾燥温度:80℃)を施し、次いで、下記粉体塗料(A),(B)のいずれかを用いた塗装を施して鋼管表面に防食被覆を形成し、その後、水冷により鋼管を常温まで冷却し、樹脂被覆鋼管を得た。
・・・
【0036】
[実施例2]
実施例1と同様の鋼管(前処理、クロメート処理も同様)に、下記粉体塗料(A),(B)、液体塗料(C)のいずれかを用いた塗装を施して鋼管表面にプライマー層を形成した。
・粉体塗料(A):220℃で完全硬化するまでの時間が約110秒のフェノール硬化系エポキシ粉体塗料(密度:1.4、粉体粒径:250μm以下、Tg:105±5℃)
・粉体塗料(B):220℃で完全硬化するまでの時間が約210秒のジシアンジアミド硬化系エポキシ粉体塗料(密度:1.44、粉体粒径:200μm以下、Tg:108±3℃)
・液体塗料(C):160℃で完全硬化するまでの時間が約60秒のエポキシ液体塗料(ジャパンエポキシレジン(株)製、主剤:エピコート828+はじき止め処方剤、硬化剤:エポメートB002、主剤と硬化剤の配合比率2:1)
【0037】
引き続きこのプライマー層の上層に、下記(i)又は(ii)の防食被覆層(ポリオレフィン樹脂層)を形成し、その後、水冷により常温まで鋼管を冷却し、樹脂被覆鋼管を得た。
(i)変性ポリエチレン樹脂接着層(無水マレイン酸変性ポリエチレン、融点121℃、MFR1.0、膜厚0.2~0.5mm)とポリエチレン樹脂層(高密度ポリエチレン、密度0.943、融点124℃、MFR0.24、膜厚3.0mm)からなる2層溶融押出樹脂シートを螺旋状に鋼管に巻き付けて防食被覆層を形成した。
(ii)変性ポリプロピレン樹脂接着層(無水マレイン酸変性ポリプロピレン、融点160℃、MFR0.9(230℃,2.16kg)、膜厚0.2~0.5mm)とポリプロピレン樹脂層(ブロックタイプポリプロピレン、密度0.9、融点140℃、MFR10(230℃,2.16kg)、膜厚3.0mm)からなる2層溶融押出樹脂シートを螺旋状に鋼管に巻き付けて防食被覆層を形成した。
【0038】
なお、上記プライマー塗装に関しては、粉体塗装の場合には、鋼管をインダクションヒーターで所定の焼付け温度に予熱した後、静電粉体塗装法により粉体塗料の塗装を行い、鋼管予熱温度による焼付時間を3分とした。また、液体塗料の塗装の場合には、予め主剤と硬化剤をそれぞれ80℃に加温しておき、エアスプレーガンのガン先で所定配合比率で混合し、スプレー塗装することにより塗料を鋼管表面に塗布した後、インダクションヒーターで6分焼付処理した。
製造された樹脂被覆鋼管について、実施例1と同様の方法で、公称応力-公称歪み曲線の勾配、降伏比及び一様伸びの測定を行った。また、防食性は、ポリエチレン樹脂による防食被覆層(上記(i)の防食被覆層)を有する発明例1~6及び比較例1~5については、実施例1と同様の方法・基準で評価し、ポリプロピレン樹脂による防食被覆層(上記(ii)の防食被覆層)を有する発明例7については、下記の方法・基準で評価した。それらの結果を、樹脂被覆鋼管の製造条件とともに表2に示す。
【0039】
[防食性]
ASTM G8に準拠して、以下に示す条件で行った陰極剥離試験により防食性を評価した。初期孔端からの剥離距離が7mm以下のものを“○”、7mm超のものを“×”とした。
・初期孔:6mmφ
・電圧:-1.5V
VS SCE
・電解質:3%食塩水
・温度:100℃
・期間:30日
【0040】
【表2】
[図:0001384038000004.jpg]
」
以上の記載事項、特に実施例2に関する記載に着目すると、甲3には次の発明(以下「甲3発明」という。)が記載されている。
「C:0.04mass%、Si:0.15mass%、Mn:1.5mass%、Cu:0.25mass%、Ni:0.2mass%、Mo:0.1mass%、Nb:0.01mass%、残部Fe及び不可避不純物からなる化学成分のスラブを1100℃に加熱して熱間圧延した後、720℃から380℃までを5℃/secの平均冷却速度で冷却し、その後、放冷し、板厚30mmの熱延鋼板(Ar3:754℃)を製造し、この熱延鋼板をOD24inch×30mmWTのUOE鋼管に製管し、
この鋼管の外面に対して、グリットブラストによる前処理(粗さRz:50~70μm、清浄度Sa:2.5以上)を施した後、クロメート処理(乾燥温度:80℃)を施し、
粉体塗料(A):220℃で完全硬化するまでの時間が約110秒のフェノール硬化系エポキシ粉体塗料(密度:1.4、粉体粒径:250μm以下、Tg:105±5℃)又は粉体塗料(B):220℃で完全硬化するまでの時間が約210秒のジシアンジアミド硬化系エポキシ粉体塗料(密度:1.44、粉体粒径:200μm以下、Tg:108±3℃)のいずれかを用いた塗装を施して鋼管表面にプライマー層を形成し、プライマー塗装に関しては、粉体塗装の場合には、鋼管をインダクションヒーターで所定の焼付け温度に予熱した後、静電粉体塗装法により粉体塗料の塗装を行い、鋼管予熱温度による焼付時間を3分とし、
引き続きこのプライマー層の上層に、(i)変性ポリエチレン樹脂接着層(無水マレイン酸変性ポリエチレン、融点121℃、MFR1.0、膜厚0.2~0.5mm)とポリエチレン樹脂層(高密度ポリエチレン、密度0.943、融点124℃、MFR0.24、膜厚3.0mm)からなる2層溶融押出樹脂シート、又は(ii)変性ポリプロピレン樹脂接着層(無水マレイン酸変性ポリプロピレン、融点160℃、MFR0.9(230℃,2.16kg)、膜厚0.2~0.5mm)とポリプロピレン樹脂層(ブロックタイプポリプロピレン、密度0.9、融点140℃、MFR10(230℃,2.16kg)、膜厚3.0mm)からなる2層溶融押出樹脂シートを、螺旋状に鋼管に巻き付けて防食被覆層(ポリオレフィン樹脂層)を形成し、その後、水冷により常温まで鋼管を冷却して得た、樹脂被覆鋼管。」
エ 甲4について
甲4には、次の事項が記載されている。
「【0027】
本発明では、生産性、特にスラブ段階での割れや介在物起因で発生するヘゲ(表面欠陥)の発生を抑制するために、以下のようにV、Ca、Oを低減することが重要である。」
「【0034】
・FFV値≦9.0
FFV値は、Cr+3×Si+16×Ti+Mo+2×Al-2×Mn-4×(Ni+Cu)-40×(C+N)+20×V(ただし、各元素記号は、それら元素の含有量(質量%)である)で表され、本発明において、製造性を示す指標として新たに導き出したものである。このFFV値は、熱延中の相バランスを考慮したもので、上記のような成分調整、特にAl含有や、V、Ca、Oの上限の規制を行った上で、この値を小さくすることにより、スラブ段階での割れや介在物を起因とした表面欠陥の発生を著しく少なくすることができる。F値を考案した際には考慮していなかったAl量を考慮した新たなパラメータの最適化を図ることにより表面欠陥の発生による歩留低下を大きく抑えることに成功したのが本発明の大きな特徴である。FFV値の最適化による製造性改善の機構は必ずしも明らかになっているわけではないが、FFV値を9.0以下とすることで製造性が著しく改善されることから、FFV値を9.0以下とする。好ましくは8.5以下である。なお、FFV値を小さくするには、Cr量を減らしたり、C、N量を増やしたりすることが有効となるが、このようにすると耐食性の低下が懸念される。このため、FFV値の下限は5.0以上とするのが好ましい。さらに好ましい範囲は6.0以上である。
【0035】
熱延板あるいは熱延焼鈍板の状態で使用される本発明鋼板では、表面欠陥を少なくするためにはスラブ段階での割れや介在物を制御することが重要である。表面欠陥の発生は歩留を大きく低下させる割れやヘゲといった部分は見かけが悪いばかりでなく、錆発生の起点とも成り得るため、製品として出荷する際には対象の部分を切り落とさなければならないためである。なお、上記FFV値の式にはMo、V、Cuが含まれているが、これらは鋼中に含有されない場合もあり、これらが含有されない場合には、これらのうち含有されない成分を0%としてFFV値を算出する。」
「【0050】
図2は硫酸-硫酸銅腐食試験後の試験片断面の観察例を示す光学顕微鏡写真である。この写真のように溶接熱影響部において、粒界腐食が認められたり、さらにひどい深いピット状の腐食が認められた場合をC、わずかに腐食が認められた場合をB、光学顕微鏡の観察では腐食が認められなかった場合をAとして評価した。また、熱延焼鈍板の酸洗後の表面状態を全長に亘って観察した。全長に対し、スラブ割れあるいは介在物が起因となる表面欠陥が観察された長さの割合を指標とし、欠陥発生の割合が3%以下をa、3%超え30%までをb、30%超えをcとして評価した。これらの結果を表2に示す。
【0051】
その結果、本発明の範囲内の本発明鋼板であるNo.1~5、10~13、15では、溶接部の耐食性が良好で、しかも表面状態も極めて良好であった。これに対し、F値が本発明の範囲から外れる比較鋼板であるNo.9および14では、溶接熱影響部でのマルテンサイト生成量が少ないため、耐粒界腐食性が明らかに劣っていた。また、Siが本発明の範囲よりも高く、Alが本発明の範囲よりも低い比較鋼板であるNo.6およびFFV値が本発明の範囲から外れる比較鋼板であるNo.7、8、9および14では、熱延焼鈍後の表面観察において、スラブ起因の割れや介在物起因のヘゲが多く観察された。
【0052】
本発明鋼板は熱延板あるいは熱延焼鈍板の状態で使用されるため、ヘゲの発生は歩留まりを大きく低下させる。ヘゲ部は見かけが悪いばかりでなく、錆発生の起点ともなり得るため、製品として出荷する際には対象の部分を切り落とさなければならないためである。
【0053】
【表1】
[図:0001384038000005.jpg]
【0054】
【表2】
[図:0001384038000006.jpg]
」
オ 甲5について
甲5には、次の事項が記載されている。
「【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために耐食性におよぼす溶接部の組織や成分などの影響について鋭意研究を行った。
【0009】
その結果、以下の知見を得た。
・・・
【0011】
(2)FFV値を適正な範囲とすること、およびOを0.0045%以下とすることにより、スラブ割れや介在物起因の表面欠陥を著しく減らすことができること。その結果、平滑な表面となることで腐食の発生起点を減少できること。」
「【0043】
FFV値≦9.0
FFV値は、Cr+3×Si+16×Ti+Mo+2×Al-2×Mn-4×(Ni+Cu)-40×(C+N)+20×V(ただし、式中の各元素記号は、各元素の含有量(質量%)を表す)で表され、製造性を示す指標として導き出したものである。このFFV値は、熱延中の相バランスを考慮したもので、上記のような成分調整、特にAl含有や、V、Oの上限の規制を行った上で、この値を小さくすることにより、スラブ段階での割れや介在物を起因とした表面欠陥の発生を著しく少なくすることができる。
【0044】
FFV値の最適化による表面欠陥抑制の機構は必ずしも明らかになっているわけではないが、FFV値を9.0以下とすることで表面欠陥の発生が著しく改善されることから、FFV値を9.0以下とする。好ましくは8.5以下である。
【0045】
なお、上記FFV値の式にはMo、V、Cuが含まれているが、これらは鋼中に含有されない場合もあり、これらが含有されない場合には、これらのうち含有されない成分を0%としてFFV値を算出する。」
「【0065】
【表2】
[図:0001384038000007.jpg]
・・・
【0067】
表面品質を評価するため、熱延焼鈍板の酸洗後の表面状態を全長に亘って観察した。全長に対し、スラブ割れあるいは介在物が起因となる表面欠陥が観察された長さの割合を指標とし、欠陥発生の割合が3%以下をa、3%超え30%までをb、30%超えをcとして評価した。結果を表2に示す。表面欠陥は錆発生の起点となり得るため、熱延板あるいは熱延焼鈍板の状態で使用される本発明では、ヘゲ等の表面欠陥はないほうが好ましい。本発明例であるNo.1~No.17および比較例であるNo.19~No.21では表面欠陥はほとんど観察されなかった。Mnが成分範囲から外れるNo18、酸素が成分範囲から外れるNo.22およびFFV値が範囲から外れるNo.23、No.24では表面欠陥の発生が顕著であった。」
カ 甲6について
甲6には、次の事項が記載されている。
「【0003】熱延板表面に生じるスケール疵にはいくつかの形態が認められるが、その断面は微小なヘゲ状を呈しており、金属の「かぶさり」の下に酸化物が食い込む形で存在しているものが大多数である。しかして、従来から熱延板表面にこうした疵が生じることを抑制する技術がいくつか開示されている。」
「【0010】本発明者等は、Cr系ステンレス鋼の熱延板表面のスケール疵発生の原因を解明すべく、加熱炉出側、熱間圧延工程における粗圧延機出側、仕上圧延後及び酸洗後の各段階における材料表面を徹底的に調査し、いくつかの再現実験も試みた結果、以下のような知見を得た。
1)スラブ加熱炉出側におけるスラブ表面は、疵の出易い鋼種では、瘤状の形態の酸化スケールが多数認められるか、もしくはスケールが極端に厚いところと薄いところとが混在した状態であり、瘤状のスケールや極端に厚いスケールの下は、周りよりも酸化が深く進行しているため、結果として金属表面はその部分で窪んでいる。これに対し、疵の出難い鋼種では、全面が、素材の酸化抵抗に応じてその厚さは異なるものの、数百μm~数十μm程度の一様な厚さのスケールで覆われ、結果として金属表面は凹凸が少ない。
【0011】2)前記の瘤状のスケール或いは極端に厚いスケールは、いずれも二層構造であり、外層はFeに富む酸化物であって、内層は密着性の良いCrに富む酸化物である。この外層酸化物と内層酸化物の境界は元の金属表面位置にほぼ対応している。
3)スラブ加熱炉の出側におけるスラブ表面に存在する前記酸化物起因の金属表面の窪みは、粗熱間圧延でその縁が延ばされて「かさぶた」状になってその下の酸化物を覆う形となり、さらに仕上圧延においてこの形態が広がるとともに板厚方向においては浅くなり、微小なヘゲ状でその下には酸化物が食い込んだ形の表面疵となる。この状況は、実験室的にも再確認された。
【0012】4)酸洗後の材料表面に認められるスケール疵は、大部分が前記3)項に述べた表面疵と酷似しており、微小ヘゲ状でその下には酸化物が存在している。
5)前記1)項で説明した材料金属表面に激しい凹凸をもたらす不均一な酸化形態は、実験室的な耐酸化性が良好な鋼種において発生し易く、また実際の熱延板の表面疵もこうした鋼種で発生頻度が高い。」
「【0031】さらに、厚さ50mm、幅100mm、長さ200mmの角状試験片を上記と同様に、A及びEについて採取し、スラブ表層側表面の酸化形態を変化させるために、表3中に示す加熱条件で同時に2個づつ加熱後、1個は表面酸化形態を調査するためにそのまま放冷し、残りのものを直ちに熱間圧延した後、表面の疵発生状態を調査した。熱間圧延に際しては、加熱炉抽出後、直ちに表面の剥離スケールを治具で除去するとともに、研磨したワークロールを試験片3個毎に用いた。また、パス回数11回で圧下率は15~35%の範囲とし、最終パス温度は880~940℃の範囲で、最終板厚3.2mmに仕上た。こうして得られた熱延板の長手方向の中央の長さ1.5mについて、ショットブラストで粗デスケール処理した後、70℃の硝酸と弗酸の混合溶液中で60秒酸洗デスケール処理したスラブ表層側表面のスケール疵発生状況を目視調査した。結果を表3中に示す。
・・・
【0036】次に、実機生産ラインにて実施した例について説明する。表5に化学組成を示すF及びGの2種のCr系ステンレス鋼の250mm厚CCスラブを、LNG燃焼の加熱炉を用いて表6中に記載した種々の条件で加熱した後、通常のCr系ステンレス鋼と同様に、熱間圧延にて厚さ4mmの熱延コイルを製造し、デスケール処理した後、表裏面についてスケール疵発生の有無を観察した。結果を表6中に併記する。この場合のスケール疵発生状況の判定は、熱延コイル全長を長さ1m毎の区画に分け、スケール疵の発生した区画数を1本の熱延コイルの全区画数で除した値を「スケール疵発生率」として%単位で表示し、この値が2%未満のものを「良好」と判定して○印で表示し、2%以上60%未満のものを×印で、また60%以上の「重度発生」のものを××印で表示した。なお、この場合、1本の熱延コイルにおける全区画数はいずれも表裏合計で700程度であった。
・・・
【0040】
【表3】
[図:0001384038000008.jpg]
・・・
【0043】
【表6】
[図:0001384038000009.jpg]
」
キ 甲7について
甲7には、次の事項が記載されている。
「本発明の疵取り方法によれば、グラインダ等による研削の結果生じたスラブ表面の凸凹は、非常に滑らかになり、研掃前の研削かえり、研削不良部のヘゲ等の圧延上望ましくない個所は全く消失し、・・・」(2ページ左上欄3~7行)
「[実施例1]
SUS27ステンレス鋼塊を分塊後スラブとし、スラブグラインダにて高圧着力研削を行ない、全面粗疵取りを実施した。・・・その結果、スラブ表面の凸凹は非常に滑らかになり、成品のグラインダスリバー、ヘゲによる疵等は肉眼では全く判別できない程度であつた。」(2ページ左上欄13行~右上欄6行)
ク 甲8について
甲8には、次の事項が記載されている。なお、以下、円囲い文字は、○に文字を付して記載する。
「【0027】試験板○2:上記原板をサンドブラスト処理してSIS Sa2.5(表面がニアホワイトの金属光沢を有する、除錆率95%以上)の状態として試験板○2とした。」
(3)甲1発明を主引用発明とした新規性及び進歩性について
ア 対比
本件発明と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「鋼管」は、本件発明の「鋼管」に相当する。
甲1発明の「融着エポキシは粉体であ」る「耐腐食性融着エポキシプライマー」及び「ポリオレフィントップコート」は、それぞれ、本件発明の「粉体エポキシ樹脂プライマー層」及び「ポリオレフィン層」に相当する。
本件発明の「変性ポリオレフィン層」について、本件特許の明細書の発明の詳細な説明には「【0024】接着剤の被覆方法としては、押出機のダイスを用いて加熱溶融した変性ポリオレフィン樹脂で直接鋼材を被覆する押出被覆方法を用いることができる。あるいは加熱した鋼材に予め成形した変性ポリオレフィン樹脂シートを貼り付ける方法、粉砕した変性ポリオレフィン樹脂を粉体塗装して溶融して被膜を形成する方法等がある。これらの方法により、0.05~1mmの膜厚を有する変性ポリオレフィン樹脂接着剤層を形成する。膜厚が0.05mm未満ではプライマー層との溶融濡れが悪く、接着力が不十分である。また、1mmを越えると経済性の観点から好ましくない。」と記載されているから、甲1発明の「接着剤層」と本件発明の「変性ポリオレフィン層」とは、「接着剤層」の限りで一致する。
そうすると、甲1発明の「予熱した鋼管表面に、耐腐食性融着エポキシプライマー、接着剤層、およびポリオレフィントップコートからなる多層ポリオレフィンコーティングをして」いる「鋼管」と、本件発明の「予熱された鋼管表面に粉体エポキシ樹脂プライマー層、変性ポリオレフィン層、ポリオレフィン層を順次積層していく外面ポリオレフィン被覆鋼管」とは、「予熱された鋼管表面に粉体エポキシ樹脂プライマー層、接着剤層、ポリオレフィン層を順次積層していく外面ポリオレフィン被覆鋼管」の限りで一致する。
甲8の記載によれば、「Sa2.5」「に記載された」「「ニアホワイトメタル」品質を満たす」ことは、すなわち「除錆率95%以上」を意味するから、本件発明の「平均プロファイル深さが50~100ミクロン(2~4ミル)の角ばった表面プロファイルを有する清浄な表面を達成しており、表面の清浄度は、SSPC-SP10、NACE No.2又はSa21/2のいずれかに記載された少なくとも「ニアホワイトメタル」品質を満たす研磨ブラスト洗浄を行った」ことと、本件発明の「鋼管表面のへげ割合が30%以下かつ鋼管表面の錆割合が10%以下であるブラスト処理を施したこと」とは、「鋼管表面の錆割合が10%以下であるブラスト処理を施した」ことの限りで一致する。
したがって、本件発明と甲1発明とは、次の一致点で一致し、相違点で相違する。
[一致点]
「予熱された鋼管表面に粉体エポキシ樹脂プライマー層、接着剤層、ポリオレフィン層を順次積層していく外面ポリオレフィン被覆鋼管において、鋼管表面の錆割合が10%以下であるブラスト処理を施した、ポリオレフィン被覆鋼管。」
[相違点1]
「接着剤層」について、本件発明は「変性ポリオレフィン層」であるのに対し、甲1発明はどのような接着剤層であるのかが不明である点。
[相違点2]
「鋼管表面の錆割合が10%以下であるブラスト処理を施した」ことについて、本件発明の「ブラスト処理」は「鋼管表面のへげ割合が30%以下かつ鋼管表面の錆割合が10%以下」となるものであるのに対し、甲1発明の「研磨ブラスト洗浄」は「鋼管表面のへげ割合が30%以下」となるものであるか否かが不明である点。
[相違点3]
本件発明の「外面ポリオレフィン被覆鋼管」は「耐剥離性に優れた」ものであるのに対し、甲1発明の「予熱した鋼管表面に、耐腐食性融着エポキシプライマー、接着剤層、およびポリオレフィントップコートからなる多層ポリオレフィンコーティングをして」いる「鋼管」はその点不明である点。
イ 判断
まず、相違点2について検討する。
甲1~8の記載をみても、鋼管表面のブラスト処理後の錆割合からへげ割合を算出することは公知又は周知ではないから、甲1発明の「平均プロファイル深さが50~100ミクロン(2~4ミル)の角ばった表面プロファイルを有する清浄な表面を達成しており、表面の清浄度は、SSPC-SP10、NACE No.2又はSa21/2のいずれかに記載された少なくとも「ニアホワイトメタル」品質を満たす研磨ブラスト洗浄」は、「鋼管表面のへげ割合が30%以下」となるものとはいえない。
したがって、相違点2は実質的な相違点である。
そして、甲1発明の「平均プロファイル深さが50~100ミクロン(2~4ミル)の角ばった表面プロファイルを有する清浄な表面を達成しており、表面の清浄度は、SSPC-SP10、NACE No.2又はSa21/2のいずれかに記載された少なくとも「ニアホワイトメタル」品質を満たす研磨ブラスト洗浄を行った」ことについては、甲1に「これは、砥粒媒体として鋼グリットを用いた遠心式ブラスト装置で最も効果的に達成できる。」(甲1の3ページ下から2~1行)及び「2つの送風チャンバが存在する場合には、ショットを第1のチャンバにおいて予備洗浄のために使用し、第2のチャンバにおいてグリットを使用することができる。」(甲1の4ページ下から2~3行)と記載されているが、本件特許の明細書【0029】の【表1】の比較例3に関する記載によれば、ブラスト処理をスチールグリットで実施しても、へげ割合は41%になる場合もあり、また、【表1】の実施例1~3に関する記載によれば、ブラスト処理1回目をスチールショットで実施し、2回目をスチールグリットで実施した場合であっても、スチールショット及びスチールグリットの平均粒径により、鋼管表面の錆割合とへげ割合は変化し、単に、ブラスト処理1回目をスチールショットで実施し、2回目をスチールグリットで実施すれば、必ず「鋼管表面のへげ割合が30%以下かつ鋼管表面の錆割合が10%以下」になるわけではない。
そして、甲1~8のいずれにも、「ポリオレフィン被覆鋼管」に「鋼管表面のへげ割合が30%以下かつ鋼管表面の錆割合が10%以下であるブラスト処理を施した」ことは記載されていないから、甲1発明において、相違点2に係る本件発明のように構成することは、当業者が容易に想到し得たことではない。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明は甲1発明ではなく、また、本件発明は甲1発明に基いて当業者が容易に発明できたものではない。
(3)甲3発明を主引用発明とした新規性及び進歩性について
ア 対比
甲3発明の「C:0.04mass%、Si:0.15mass%、Mn:1.5mass%、Cu:0.25mass%、Ni:0.2mass%、Mo:0.1mass%、Nb:0.01mass%、残部Fe及び不可避不純物からなる化学成分のスラブを1100℃に加熱して熱間圧延した後、720℃から380℃までを5℃/secの平均冷却速度で冷却し、その後、放冷し、板厚30mmの熱延鋼板(Ar3:754℃)を製造し、この熱延鋼板を」「製管し」た「OD24inch×30mmWTのUOE鋼管」は、本件発明の「鋼管」相当する。
甲3発明の「粉体塗料(A):220℃で完全硬化するまでの時間が約110秒のフェノール硬化系エポキシ粉体塗料(密度:1.4、粉体粒径:250μm以下、Tg:105±5℃)又は粉体塗料(B):220℃で完全硬化するまでの時間が約210秒のジシアンジアミド硬化系エポキシ粉体塗料(密度:1.44、粉体粒径:200μm以下、Tg:108±3℃)のいずれかを用いた塗装を施して鋼管表面に」「形成し、プライマー塗装に関しては、粉体塗装の場合には、鋼管をインダクションヒーターで所定の焼付け温度に予熱した後、静電粉体塗装法により粉体塗料の塗装を行い、鋼管予熱温度による焼付時間を3分とし」た「プライマー層」は、本件発明の「予熱された鋼管表面に」「積層された」「粉体エポキシ樹脂プライマー層」に相当する。
甲3発明の「引き続きこのプライマー層の上層に、(i)変性ポリエチレン樹脂接着層(無水マレイン酸変性ポリエチレン、融点121℃、MFR1.0、膜厚0.2~0.5mm)とポリエチレン樹脂層(高密度ポリエチレン、密度0.943、融点124℃、MFR0.24、膜厚3.0mm)からなる2層溶融押出樹脂シート、又は(ii)変性ポリプロピレン樹脂接着層(無水マレイン酸変性ポリプロピレン、融点160℃、MFR0.9(230℃,2.16kg)、膜厚0.2~0.5mm)とポリプロピレン樹脂層(ブロックタイプポリプロピレン、密度0.9、融点140℃、MFR10(230℃,2.16kg)、膜厚3.0mm)からなる2層溶融押出樹脂シートを、螺旋状に鋼管に巻き付けて」「形成し」た「防食被覆層(ポリオレフィン樹脂層)」のうち「変性ポリエチレン樹脂接着層(無水マレイン酸変性ポリエチレン、融点121℃、MFR1.0、膜厚0.2~0.5mm)」又は「変性ポリプロピレン樹脂接着層(無水マレイン酸変性ポリプロピレン、融点160℃、MFR0.9(230℃,2.16kg)」は、本件発明の「変性ポリオレフィン層」に相当し、甲3発明の「ポリエチレン樹脂層(高密度ポリエチレン、密度0.943、融点124℃、MFR0.24、膜厚3.0mm)」又は「ポリプロピレン樹脂層(ブロックタイプポリプロピレン、密度0.9、融点140℃、MFR10(230℃,2.16kg)、膜厚3.0mm)」は、本件発明の「ポリオレフィン層」に相当する。
そうすると、甲3発明の「C:0.04mass%、Si:0.15mass%、Mn:1.5mass%、Cu:0.25mass%、Ni:0.2mass%、Mo:0.1mass%、Nb:0.01mass%、残部Fe及び不可避不純物からなる化学成分のスラブを1100℃に加熱して熱間圧延した後、720℃から380℃までを5℃/secの平均冷却速度で冷却し、その後、放冷し、板厚30mmの熱延鋼板(Ar3:754℃)を製造し、この熱延鋼板を」「製管し」た「OD24inch×30mmWTのUOE鋼管」「表面にプライマー層を形成し、プライマー塗装に関しては、粉体塗装の場合には、鋼管をインダクションヒーターで所定の焼付け温度に予熱した後、静電粉体塗装法により粉体塗料の塗装を行い、鋼管予熱温度による焼付時間を3分とし、引き続きこのプライマー層の上層に、(i)変性ポリエチレン樹脂接着層(無水マレイン酸変性ポリエチレン、融点121℃、MFR1.0、膜厚0.2~0.5mm)とポリエチレン樹脂層(高密度ポリエチレン、密度0.943、融点124℃、MFR0.24、膜厚3.0mm)からなる2層溶融押出樹脂シート、又は(ii)変性ポリプロピレン樹脂接着層(無水マレイン酸変性ポリプロピレン、融点160℃、MFR0.9(230℃,2.16kg)、膜厚0.2~0.5mm)とポリプロピレン樹脂層(ブロックタイプポリプロピレン、密度0.9、融点140℃、MFR10(230℃,2.16kg)、膜厚3.0mm)からなる2層溶融押出樹脂シートを、螺旋状に鋼管に巻き付けて防食被覆層を形成し、その後、水冷により常温まで鋼管を冷却して得た、」「樹脂被覆鋼管」は、本件発明の「予熱された鋼管表面に粉体エポキシ樹脂プライマー層、変性ポリオレフィン層、ポリオレフィン層を順次積層していく外面ポリオレフィン被覆鋼管」に相当する。
甲8の記載によれば、「Sa2.5」「に記載された」「「ニアホワイトメタル」品質を満たす」ことは、すなわち「除錆率95%以上」を意味するから、甲3発明の「この鋼管の外面に対して、グリットブラストによる前処理(粗さRz:50~70μm、清浄度Sa:2.5以上)を施した」ことと、本件発明の「鋼管表面のへげ割合が30%以下かつ鋼管表面の錆割合が10%以下であるブラスト処理を施したこと」とは、「鋼管表面の錆割合が10%以下であるブラスト処理を施した」ことの限りで一致する。
したがって、本件発明と甲3発明とは、次の一致点で一致し、相違点で相違する。
[一致点]
「予熱された鋼管表面に粉体エポキシ樹脂プライマー層、変性ポリオレフィン層、ポリオレフィン層を順次積層していく外面ポリオレフィン被覆鋼管において、鋼管表面の錆割合が10%以下であるブラスト処理を施した、ポリオレフィン被覆鋼管。」
[相違点4]
「鋼管表面の錆割合が10%以下であるブラスト処理を施した」ことについて、本件発明の「ブラスト処理」は「鋼管表面のへげ割合が30%以下かつ鋼管表面の錆割合が10%以下」となるものであるのに対し、甲3発明の「グリットブラストによる前処理(粗さRz:50~70μm、清浄度Sa:2.5以上)」は「鋼管表面のへげ割合が30%以下」となるものであるか否かが不明である点。
[相違点5]
本件発明の「外面ポリオレフィン被覆鋼管」は「耐剥離性に優れた」ものであるのに対し、甲3発明の「樹脂被覆鋼管」はその点不明である点。
イ 判断
まず、相違点4について検討する。
甲1~8の記載をみても、鋼管表面のブラスト処理後の錆割合からへげ割合を算出することは公知又は周知ではないから、甲3発明の「グリットブラストによる前処理(粗さRz:50~70μm、清浄度Sa:2.5以上)」は、「鋼管表面のへげ割合が30%以下」となるものとはいえない。
したがって、相違点4は実質的な相違点である。
そして、甲3発明の「グリットブラストによる前処理(粗さRz:50~70μm、清浄度Sa:2.5以上)」は、ブラスト処理をグリットで実施したものであるところ、本件特許の明細書【0029】の【表1】の比較例3に関する記載によれば、ブラスト処理をスチールグリットで実施しても、へげ割合は41%になる場合もあるから、単に、ブラスト処理をグリットで実施すれば、必ず「鋼管表面のへげ割合が30%以下かつ鋼管表面の錆割合が10%以下」になるわけではない。
そして、甲1~8のいずれにも、「ポリオレフィン被覆鋼管」に「鋼管表面のへげ割合が30%以下かつ鋼管表面の錆割合が10%以下であるブラスト処理を施した」ことは記載されていないから、甲3発明において、相違点4に係る本件発明のように構成することは、当業者が容易に想到し得たことではない。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明は甲3発明ではなく、また、本件発明は甲3発明に基いて当業者が容易に発明できたものではない。
(4)甲2発明を主引用発明とした進歩性について
ア 対比
甲2発明の「3層ポリエチレン押出被覆鋼管」の「原管」は、本件発明の「鋼管」に相当する。
甲2発明の「エポキシ樹脂プライマーを塗布(粉体プライマーで通常80~500μm)し」たものは、本件発明の「粉体エポキシ樹脂プライマー層」に相当し、甲2発明の「マレイン酸,アクリル酸などでポリエチレンを変性した樹脂である接着性ポリエチレンを被覆(通常0.05~0.5mm)」したものは、本件発明の「変性ポリオレフィン層」に相当し、甲2発明の「押出し法によって3層用ポリエチレンを被覆し」ものは、本件発明の「ポリオレフィン層」に相当する。
そうすると、甲2発明の「前処理を行った原管の外面をあらかじめ加熱し,エポキシ樹脂プライマーを塗布(粉体プライマーで通常80~500μm)し,更にマレイン酸,アクリル酸などでポリエチレンを変性した樹脂である接着性ポリエチレンを被覆(通常0.05~0.5mm)する。次に押出し法によって3層用ポリエチレンを被覆し」た「3層ポリエチレン押出被覆鋼管」は、本件発明の「予熱された鋼管表面に粉体エポキシ樹脂プライマー層、変性ポリオレフィン層、ポリオレフィン層を順次積層していく外面ポリオレフィン被覆鋼管」に相当する。
甲8の記載によれば、「Sa2.5」「に記載された」「「ニアホワイトメタル」品質を満たす」ことは、すなわち「除錆率95%以上」を意味するから、甲2発明の「前処理として、原管に付着している有害となる程度の油分,さび及びその他の異物は,ブラスト処理によって除去し」、「原管のブラスト処理面の除せい度がSa21/2である」ことと、本件発明の「鋼管表面のへげ割合が30%以下かつ鋼管表面の錆割合が10%以下であるブラスト処理を施したこと」とは、「鋼管表面の錆割合が10%以下であるブラスト処理を施したこと」の限りで一致する。
したがって、本件発明と甲2発明とは、次の一致点で一致し、相違点で相違する。
[一致点]
「予熱された鋼管表面に粉体エポキシ樹脂プライマー層、変性ポリオレフィン層、ポリオレフィン層を順次積層していく外面ポリオレフィン被覆鋼管において、鋼管表面の錆割合が10%以下であるブラスト処理を施した、ポリオレフィン被覆鋼管。」
[相違点6]
「鋼管表面の錆割合が10%以下であるブラスト処理を施した」ことについて、本件発明の「ブラスト処理」は「鋼管表面のへげ割合が30%以下かつ鋼管表面の錆割合が10%以下」となるものであるのに対し、甲2発明の「ブラスト処理」は「鋼管表面のへげ割合が30%以下」となるものであるか否かが不明である点。
[相違点7]
本件発明の「外面ポリオレフィン被覆鋼管」は「耐剥離性に優れた」ものであるのに対し、甲2発明の「3層ポリエチレン押出被覆鋼管」はその点不明である点。
イ 判断
甲2発明の「前処理として、原管に付着している有害となる程度の油分,さび及びその他の異物は,ブラスト処理によって除去し」、「原管のブラスト処理面の除せい度がSa21/2である」ことは、ブラスト処理の詳細が不明であるところ、本件特許の明細書【0029】の【表1】の比較例1及び比較例3に関する記載によれば、ブラスト処理の方法によっては、鋼管表面の錆割合が10%以下としても、へげ割合は46%や41%になる場合もあるから、単に、ブラスト処理を実施すれば、必ず「鋼管表面のへげ割合が30%以下かつ鋼管表面の錆割合が10%以下」になるわけではない。
そして、甲1~8のいずれにも、「ポリオレフィン被覆鋼管」に「鋼管表面のへげ割合が30%以下かつ鋼管表面の錆割合が10%以下であるブラスト処理を施した」ことは記載されていないから、甲2発明において、相違点6に係る本件発明のように構成することは、当業者が容易に想到し得たことではない。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明は甲2発明に基いて当業者が容易に発明できたものではない。
(5)まとめ
以上のとおり、本件発明は、特許法第29条第1項第3号に該当しないから、同法第29条第1項の規定に違反してされたものでなく、また、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものでもない。
3 特許異議申立理由3(実施可能要件)について
本件特許の発明の詳細な説明には、次の記載がある。
「【0027】
〔実施例、比較例の作製方法〕
以下、本発明を実施例によって具体的に説明する。
鋼材サンプルとして、9mm×100mm×150mmの熱延鋼板を用意した。
実施例1~3として粒径の異なるスチールショット、スチールグリット(いずれもIKKショット(株)製)を用いて1回目、2回目のブラスト処理を各15分行った。
また比較例1として、1回目、2回目のブラスト処理をスチールショットで各15分行った。比較例2として、1回目、2回目のブラスト処理をスチールグリットで各15分行った。比較例3として、1回目のブラスト処理をスチールグリット、2回目のブラスト処理をスチールショットで各15分行った。
これら鋼板サンプルにクロメート処理を行い、鋼板を200℃に加熱し、粉体エポキシ樹脂プライマーを静電粉体塗装で150μmに塗装し、予め200℃で加熱した厚さ0.2mmの変性ポリエチレン樹脂のシートと厚さ3mmのポリエチレン樹脂のシートを順に被覆し、本発明の実施例、比較例の被覆鋼材サンプルを作製した。」
「【0028】
上記実施例および比較例によって得られたポリエチレン被覆鋼材サンプルを下記に従って評価試験を行った。
〔粒径の評価〕
JIS Z 8801に規定される試験用ふるいを用い、目開きの大きいふるいが上段になるように重ね、最上段のふるいに測定する研掃材を投入し機械振動を与える。各々のふるい上に残った研掃材の重量を量り、粒径の重量分率を算出する。そして重量が50%となる粒径D50を平均粒径とした。
〔錆割合の評価〕
ブラスト後の鋼材の断面を200倍で観察し、断面方向に連続して3視野中に存在する10μm以上の錆の長さの合計をそれぞれ3視野の断面方向の長さで除し百分率として得た。
〔へげ割合の評価〕
ブラスト後の鋼材の断面を200倍で観察し、断面方向に連続して3視野中に存在する10μm以上のへげの長さの合計をそれぞれ3視野の断面方向の長さで除し百分率として得た。
〔冷熱サイクル性能の評価〕
ポリエチレン被覆鋼材サンプルにおいて、四辺の外側から1.0mmの被覆を切断・削除して被覆層端部を露出させ、-30℃で1時間、60℃で1時間保持を100回繰り返した後、被覆層をタガネではぎ取り、被覆層端部からの剥離距離を測定した。
〔陰極剥離性能の評価〕
ISO21809-1(印加電圧:-1.5V、試験温度:80℃、試験期間:28日間)に準拠し、試験を行った。試験終了後塗膜の剥離半径を測定した。
本発明の実施例及び比較例の結果を表1に示す。
【0029】
【表1】
[図:0001384038000010.jpg]
」
これら記載によれば、「1回目、2回目のブラスト処理をスチールショットで各15分行」う場合、「1回目、2回目のブラスト処理をスチールグリットで各15分行」う場合、「1回目のブラスト処理をスチールグリット、2回目のブラスト処理をスチールショットで各15分行」う場合には、本件発明の「鋼管表面のへげ割合が30%以下かつ鋼管表面の錆割合が10%以下」を達成できないが、「粒径の異なるスチールショット、スチールグリット(いずれもIKKショット(株)製)を用いて1回目、2回目のブラスト処理を各15分行」えば、本件発明の「鋼管表面のへげ割合が30%以下かつ鋼管表面の錆割合が10%以下」を達成できることがわかる。
そうすると、当業者は、どのような化学成分の鋼材を、どのような条件で製造した鋼管であったとしても、粒径の異なるスチールショット、スチールグリットを用いて1回目、2回目のブラスト処理を各15分行うことを基本として、スチールショット及びスチールグリットの粒径やブラスト処理の処理時間を調整して試行錯誤すれば良く、このように調整事項が絞られた試行錯誤が、当業者に過度な試行錯誤を強いるものであるとまではいえない。
したがって、本件特許の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものである。
4 特許異議申立理由4(サポート要件)について
本件特許の発明が解決しようとする課題(以下、単に「課題」という。)については、本件特許の発明の詳細な説明には、「耐剥離性に優れたポリオレフィン被覆鋼管およびその製造方法を提供すること」(本件特許の明細書【0006】)と記載されている。
そして、当該課題の解決について、本件特許の発明の詳細な説明には、「へげ割合が30%を超える場合は、容易に剥離するへげが多く存在するために、繰り返し応力による剥離が大きくなる。」(本件特許の明細書【0018】)と記載され、「鋼管表面のへげ割合が30%以下」である実施例1~3は、「冷熱サイクル性能」及び「陰極剥離性能」の値が低く、耐剥離性に優れていることが確認されている(本件特許の明細書【0028】~【0030】)。
そうすると、「鋼管表面のへげ割合が30%以下」を発明特定事項とする本件発明は、本件特許の発明の詳細な説明に記載された発明を解決することができる発明である。
したがって、本件発明は、発明の詳細な説明に記載したものである。
5 特許異議申立理由5(明確性要件)について
本件特許の請求項1の記載によれば、本件発明の「外面ポリオレフィン被覆鋼管」は、「鋼管表面に粉体エポキシ樹脂プライマー層、変性ポリオレフィン層、ポリオレフィン層を順次積層」された物の発明であり、請求項1に「鋼管表面のへげ割合が30%以下かつ鋼管表面の錆割合が10%以下であるブラスト処理を施した」とは、「外面ポリオレフィン被覆鋼管」を構成する「鋼管」の表面の状態を表していることは明らかである。
したがって、本件発明は明確である。
第6 むすび
以上のとおり、取消理由通知に記載した取消理由、及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、本件特許の請求項1に係る特許を取り消すことはできない。さらに、他に本件特許の請求項1に係る特許を取り消すべき理由は発見しない。
また、本件特許の請求項2に係る特許は、本件訂正により削除されたため、申立人による特許異議の申立てについて、本件特許の請求項2に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2020-700990