2019-700094
インサート成型用耐指紋性反射防止フィルム及びこれを用いた樹脂成型品
- 審判番号
- 2019-700094
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2014-144195外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2019年02月08日
- 審決日
- 2020年01月27日
- 公報発行日
- 2020年06月26日
- 結論
- 請求成立(取消)
- 分類
- P1651.536-ZAA(B32B) / P1651.537-ZAA(B32B)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法36条4項1号特許法36条6項2号特許法113条4号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第4項、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号
- データ出所
- 審決公報(SGML)
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結論
理由
目次 ▾ 8項目
第1 手続の経緯
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特許第6369187号(以下「本件特許」という。)の請求項1~4に係る特許についての出願は、平成26年7月14日に出願したものであって、平成30年7月20日にその特許権の設定登録がされ、平成30年8月8日に特許掲載公報が発行された。その特許についての本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
なお、令和元年6月18日の訂正請求書は、令和元年10月8日の訂正請求書が提出されたことにより、特許法第120条の5第7項の規定に従って取り下げられたものとみなす。
第2 訂正の請求についての判断
1 訂正の内容
令和元年10月8日の訂正請求書による訂正の請求は、「特許第6369187号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~4について訂正することを求める。」ものであり、その訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は以下のとおりである。
(訂正事項1)
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に「熱可塑性透明基材フィルム」とあるのを、
「ポリカーボネート樹脂及び/又はポリメチルメタクリレート樹脂からなるフィルム」に訂正する。(請求項1を引用する請求項2~4についても同様に訂正する。)
(訂正事項2)
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に「高屈折率層と、」とあるのを、
「単層の高屈折率層と、」に訂正する。(請求項1を引用する請求項2~4についても同様に訂正する。)
(訂正事項3)
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に「である、インサート成型用耐指紋性反射防止フィルム。」とあるのを、
「であり、皮脂汚れが付着する前の視感度反射率が2.0%以下、反射彩度が6.0未満であり、かつ、指紋付着前後のΔEが7.0以下である、インサート成型用耐指紋性反射防止フィルム。」に訂正する。(請求項1を引用する請求項2~4についても同様に訂正する。)
(訂正事項4)
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に「積層されており、」の後に、
「前記高屈折率層と、前記低屈折率層との間には界面が存在し、」を追加する。(請求項1を引用する請求項2~4についても同様に訂正する。)
ここで、訂正前の請求項1~4は、請求項2~4が、訂正の請求の対象である請求項1の記載を引用する関係にあるから、本件訂正は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項1~4について請求されている。
2 訂正の適否
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的
上記訂正事項1は、訂正前の請求項1の「熱可塑性透明基材フィルム」について、「ポリカーボネート樹脂及び/又はポリメチルメタクリレート樹脂からなるフィルム」に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮に該当するものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
上記訂正事項1は、上記アのとおりであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第6項に適合するものである。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記訂正事項1は、本件特許明細書の【0015】の「熱可塑性透明基材フィルムは、ポリカーボネート樹脂、及び/又はポリメチルメタクリレート樹脂からなるフィルムを使用できる。」の記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第5項に適合するものである。
(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的
上記訂正事項2は、訂正前の請求項1の「高屈折率層」について、「単層の」高屈折率層に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮に該当するものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
上記訂正事項2は、上記アのとおりであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第6項に適合するものである。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記訂正事項2は、本件特許明細書の【0124】~【0126】に「H層」(高屈折率層)が単層である実施例の記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第5項に適合するものである。
(3)訂正事項3について
ア 訂正の目的
上記訂正事項3は、訂正前の請求項1の「インサート成型用耐指紋性反射防止フィルム」について、「皮脂汚れが付着する前の視感度反射率が2.0%以下、反射彩度が6.0未満であり、かつ、指紋付着前後のΔEが7.0以下である」ものに限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮に該当するものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
上記訂正事項3は、上記アのとおりであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第6項に適合するものである。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記訂正事項3は、本件特許明細書の【0011】の「指紋等の皮脂汚れが付着する前の視感度反射率2.0%以下および反射彩度6.0未満となり、十分な反射防止性を達成できる。同時に、指紋付着前後のΔEが7.0以下となり、例え指紋が付着したとしてもこれが見え難く(目立たず)、耐指紋性も良好となる。」の記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第5項に適合するものである。
(4)訂正事項4について
ア 訂正の目的
上記訂正事項4は、訂正前の請求項1の「インサート成型用耐指紋性反射防止フィルム」について、「前記高屈折率層と、前記低屈折率層との間には界面が存在」することを限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮に該当するものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
上記訂正事項4は、上記アのとおりであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第6項に適合するものである。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記訂正事項4は、本件特許明細書の【0034】の「高屈折率層の屈折率は、1.50~1.65である。高屈折率層の屈折率が1.50未満の場合は、低屈折率層との屈折率差が小さ過ぎて高屈折率層と低屈折率層との界面での反射が弱くなり、反射防止性能及び耐指紋性が十分に発揮されない場合がある。また、高屈折率層の屈折率が1.65を超える場合は、高屈折率層と低屈折率層との界面での反射が強くなり、反射光の着色が強くなる。」の記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第5項に適合するものである。
(5)小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、並びに同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1~4〕について訂正することを認める。
第3 本件特許発明
上記のとおり本件訂正は認められるから、本件特許の請求項1~4に係る発明(以下「本件発明1~4」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~4に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】ポリカーボネート樹脂及び/又はポリメチルメタクリレート樹脂からなるフィルムの一面に、ハードコート層と、単層の高屈折率層と、低屈折率層とが、この順に各層が直接的に積層されており、前記高屈折率層と、前記低屈折率層との間には界面が存在し、前記高屈折率層の屈折率が1.50~1.65、膜厚が130~180nmであり、続きを表示(全12行)前記低屈折率層の屈折率が1.36~1.42、膜厚が70~100nmであり、皮脂汚れが付着する前の視感度反射率が2.0%以下、反射彩度が6.0未満であり、かつ、指紋付着前後のΔEが7.0以下である、インサート成型用耐指紋性反射防止フィルム。【請求項2】前記低屈折率層に防汚剤が含有されている、請求項1に記載のインサート成型用耐指紋性反射防止フィルム。【請求項3】前記ハードコート層は、アクリル変性不飽和ジカルボン酸(無水物)グラフト化ポリオレフィンを含む組成物を硬化してなる、請求項1または請求項2のいずれか一項に記載のインサート成型用耐指紋性反射防止フィルム。【請求項4】請求項1ないし請求項3のうちいずれか一項に記載のインサート成型用耐指紋性反射防止フィルムを表面に備える、樹脂成型品。」
第4 当審の判断
1 取消理由(決定の予告)の概要
令和元年8月16日付け取消理由通知(決定の予告)の概要は、以下のとおりである。
(1)(進歩性)本件発明1~4は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の甲第2号証に記載された発明、及び甲第1号証~甲第6号証に記載の事項に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1~4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
<刊行物>
(2)(サポート要件)本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(3)(明確性要件)本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
請求項1の「指紋付着前後のΔEが7.0以下である」とは、指紋付着後の視感度反射率(E)が、甲第6号証に記載されているように、人によって、又は女性の頬を触った後や男性の額を触った後であるか等、状況によって大きく変わることが技術常識であるところ、請求項1の「指紋付着前後のΔE」がどのような指紋を付着させた際の「ΔE」であるのか、本件特許明細書を参酌しても明確でない。
また、請求項1を引用する請求項2~4についても同様である。
(4)(実施可能要件 )本件特許は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
請求項1~4の「指紋付着前後のΔEが7.0以下である」について、本件特許明細書には、【0117】及び【0119】に、視感度反射率の測定方法及びその視感度反射率から反射色差ΔEを算出することについて記載されているものの、指紋付着後の視感度反射率(E)が、どのような指紋を付着させた際のものであるのかについて記載されておらず、本件特許明細書は、「指紋付着前後のΔEが7.0以下である」ことについて、当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていない。
2 令和元年8月16日付け取消理由についての判断
(1)明確性要件について
ア 本件発明1の「指紋付着前後のΔEが7.0以下である」に関して、本件特許明細書には、以下の記載がある。
「【0117】[視感度反射率]測定面の裏面反射を除くため、裏面をサンドペーパーで粗し、黒色塗料で塗りつぶしたものを分光光度計(大塚電子(株)製、商品名:FE3000)により、光の波長380nm~780nmの5°、-5°正反射スペクトルを測定した。得られる380nm~780nmの分光反射率と、CIE標準イルミナントD65の相対分光分布を用いて、JIS Z8701で想定されているXYZ表色系における、反射による物体色の三刺激値Yを視感度反射率(%)とした。」
「【0119】[反射色差ΔE]視感度反射率で測定した光の波長380~780nmの分光反射率と、CIE標準イルミナントD65の相対分光分布を用いて、JISZ8729に規定される色空間CIE1976L*a*b*表色系を計算し、JIS Z8730に規定されるΔE*a* b*={(ΔL*)2+(Δa*)2+(Δb*)2}1/2を計算した。」
そうすると、本件発明1の「指紋付着前後のΔE」は、上記【0117】及び【0119】の方法で算出されるものである。
イ 一方、指紋付着後の視感度反射率ΔEは、人によって、又は女性の頬を触った後や男性の額を触った後であるか等、指紋の付着条件によって大きく変わること(甲第6号証の5頁右欄19~末行、6頁図8等参照。)が技術常識である。
そうすると、「指紋付着前後のΔE」は、同じインサート成型用耐指紋性反射防止フィルムであっても、どのような指紋を付着したかによって大きく変わるものであるところ、本件特許明細書には、本件発明1の「指紋付着前後のΔE」について、どのような指紋を付着させた際の「指紋付着前後のΔE」であるのかについて記載されていない。
ウ したがって、指紋の付着条件が規定されておらず、本件特許明細書にも当該付着条件について記載がない、本件発明1の「指紋付着前後のΔE」は、一義的に理解することができず、「指紋付着前後のΔEが7.0以下である」は、不明確である。
エ また、請求項1を引用する請求項2~4についても同様である。
オ 以上のとおりであるから、本件発明1~4は不明確であり、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
カ ここで、請求人は、令和元年10月8日提出の意見書において、指紋の付着条件は、当業者であれば自明な事項である旨主張し、具体的に(a)指紋を付着する者の条件、(b)指紋を付着させる際の条件及びΔEの測定条件を説明する。
しかし、当該指紋の付着条件が自明である旨を示す証拠は何ら示されておらず、甲第6号証において、指紋付着前後のΔEは指紋の付着条件に依存するが故に、様々な指紋の付着条件で指紋付着前後のΔEを測定していることも参照すると、請求人の主張する当該指紋の付着条件が当業者に自明であるとまではいえず、請求人の主張は採用できない。
(2)実施可能要件について
本件発明1~4の「指紋付着前後のΔEが7.0以下である」について、本件特許明細書には、【0117】及び【0119】に、その算出方法が記載されている。
しかし、指紋付着後の視感度反射率ΔEは、どのような指紋を付着させた際のものであるのかによって大きく変わるものであるところ、本件特許明細書には、どのような指紋を付着させた際の「指紋付着前後のΔE」であるのかについて記載されていない。
そうすると、本件発明1~4の「指紋付着前後のΔEが7.0以下である」ことについて、本件特許明細書には、当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていない。
したがって、本件発明1~4は、本件特許明細書の記載が上記の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
第5 むすび
以上のとおりであるから、その他の理由について検討するまでもなく、本件発明1~4に係る特許は、特許請求の範囲及び明細書の記載が不備のため、特許法第36条第6項第2号、及び同条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
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