特許異議申立
2023-700167
ラムジェットエンジン
- 審判番号
- 2023-700167
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-117430
- 登録番号
- 7121556
- 請求日
- 2023年02月16日
- 審決日
- 2024年02月27日
- 公報発行日
- 2024年06月28日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】川崎重工業株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人有古特許事務所
- 【権利者】日油株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人有古特許事務所
- 【異議申立人】狩野 芳正
- 審判長/審判官
- 審判長 山本 信平
- 審判官 倉橋 紀夫
- 審判官 吉村 俊厚
- 分類
- P1651.113-YAA(F02K) / P1651.121-YAA(F02K)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第120条の5第4項、特許法第29条第1項、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7121556号発明「ラムジェットエンジン」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7121556号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~8〕について訂正することを認める。
特許第7121556号の請求項8に係る特許を維持する。
特許第7121556号の請求項1~7に係る特許についての特許異議申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7121556号(以下「本件特許」という。)の請求項1~8に係る特許についての出願は、平成30年6月20日の出願であって、令和4年8月9日にその特許権の設定登録がなされ、令和4年8月18日に特許掲載公報が発行されたものである。本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和5年 2月16日 :特許異議申立人狩野芳正(以下「申立人」と いう。)による請求項1~8に係る特許に対 する特許異議の申立て
令和5年 5月25日付け:取消理由通知書
令和5年 7月21日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和5年 8月17日付け:手続補正指令書(方式)
令和5年 8月24日 :特許権者による手続補正書(方式)の提出
令和5年 9月 7日付け:訂正請求があった旨の通知書(特許法第12 0条の5第5項)
令和5年10月10日 :申立人による意見書の提出
令和5年12月13日付け:取消理由通知書(決定の予告)
令和6年 1月15日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
第2 訂正の適否
1 訂正の内容
上記令和6年1月15日提出の訂正請求書を、「本件訂正請求書」といい、訂正自体を、「本件訂正」という。本件訂正の内容は、以下のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1~7を削除する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項8を、引用先の本件訂正前請求項1の記載事項を含めて独立形式に改めるように訂正する。
2 一群の請求項について
本件訂正前の請求項1~8について、請求項2~8は、それぞれ請求項1を直接的又は間接的に引用しているものであって、上記訂正事項1によって訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。
よって、請求項1~8は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
3 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的について
訂正事項1は、特許請求の範囲の請求項1~7を削除するものである。
よって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項1は、上記アのとおり、特許請求の範囲の請求項1~7を削除するものであるから、特許明細書等に記載した事項の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものである。
よって、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。
ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項1は、上記アのとおり、特許請求の範囲の請求項1~7を削除するものである。
よって、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。
(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的について
訂正事項2は、本件訂正前の請求項8の記載を、引用先の本件訂正前請求項1の記載事項を含めて独立形式に改めるものであり、すなわち、本件訂正前の請求項1の記載を引用する本件訂正前の請求項8の記載を、当該請求項1の記載を引用しないものとするものである。
よって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に掲げる他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。
イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項2は、上記アのとおり、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものであるから、実質的な内容の補正を伴うものではない。
よって、訂正事項2に係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。
ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項2は、上記アのとおり、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。
4 小括
以上のとおり、本件訂正による訂正事項1及び2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項の規定に適合すると共に、同条第9項の規定によって準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~8〕について訂正を認める。
第3 本件発明
上記のとおり本件訂正が認められるから、本件特許の請求項1~8に係る発明(以下、「本件発明1」~「本件発明8」という。)は、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~8に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】 (削除)
【請求項2】 (削除)
【請求項3】 (削除)
【請求項4】 (削除)
【請求項5】 (削除)
【請求項6】 (削除)
【請求項7】 (削除)
【請求項8】
燃料搭載部と、
ラム圧により外部から空気を導入する空気導入部と、
ラムジェットエンジン駆動時から前記燃料搭載部より供給される燃料と、前記空気導入部から供給される空気とをラム圧により圧縮混合して燃焼させるラム燃焼器と、
前記ラム燃焼器内において前記燃焼により生じた燃焼ガスを後方へ向けて噴射する噴射部と、を備え、
前記ラム燃焼器における前記燃料と前記空気とに接触する内表面の少なくとも一部に、前記燃焼により燃焼する材料を含む炭化水素系の断熱材が設けられ、
前記断熱材は、無機系材料を基本成分として有機系材料を含む単一層であり、
前記断熱材の前記有機系材料の成分濃度は、前記断熱材の厚み方向において前記ラム燃焼器側である外方側よりも内方側が高い、ラムジェットエンジン。」
第4 取消理由通知書(決定の予告)に記載した取消理由の概要
当審が令和5年12月13日付けで通知した取消理由通知書(決定の予告)に記載した取消理由の概要は、次のとおりである。
1 取消理由1(特許法第29条第1項第3号)
本件特許の以下の請求項に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された以下の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、以下の請求項に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
・請求項1
引用文献2
2 取消理由2(特許法第29条第2項)
本件特許の以下の請求項に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された以下の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、以下の請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
・請求項1
引用文献2
・請求項2
引用文献2,4,5
・請求項3
引用文献2,6,7,8
・請求項4
引用文献1,2,8
・請求項5
引用文献1,2,8
・請求項6
引用文献2,10
・請求項7
引用文献2,9,11
3 引用文献一覧
引用文献1:米国特許第4441312号明細書(甲第3号証)
引用文献2:Advisory Group For Aerospace Research and Development, “Ramjet and Ramrocket Propulsion Systems for Missiles ”, Defense Technical Information Center, 1984年10月, p.4-1-4-20(甲第6号証)
引用文献3:特開平10-288090号公報(甲第7号証)
引用文献4:Xiong Chen, et al., ”Thermal Response and Ablation Re search of EPDM Thermal Protection Material in Ramjet” , [online], 2015年3月9日, Advanced Materials Research, Vols. 1092-1093, インターネット<URL:https://www.sci entific.net/AMR.1092-1093.534>(甲第4号証)
引用文献5:永田晴紀ら、「ウェットタオル式ハイブリッドロケットに関 する基礎研究」、日本航空宇宙学会誌、日本航空宇宙学会、 1997年7月5日、第45巻、第522号、p.365- 370(甲第5号証)
引用文献6:特開2006-95733号公報(甲第8号証)
引用文献7:「成果報告書 極超音速複合サイクルエンジンの概念設計と 極超音速推進性能の実験的検証」、国立研究開発法人 宇宙 航空研究開発機構、平成30年5月、p.68-70(甲第 11号証)
引用文献8:白石紀子ら、「局所燃料後退速度に基づく酸化剤流旋回型ハ イブリッドロケットエンジン性能パラメータの時刻変化予測 手法について」、日本航空宇宙学会論文集、日本航空宇宙学 会、2013年6月5日、第61巻、第3号、2013、p .71-78(甲第12号証)
引用文献9:米国特許第3052092号明細書(甲第10号証)
引用文献10:George P. Sutton, et al., “Rocket Propulsion Elemen ts Eighth Edition”, John Wiley & Sons Inc., 2010年, p.289-295(甲第14号証)
引用文献11:Charles H. Carlson, “Preliminary Scramjet Design fo r Hypersonic Airbreathing Missile Application”, NAS A, 1983年11月1日, p.23-26(甲第16号証)
第5 取消理由通知書(決定の予告)に記載した取消理由に対する判断
本件発明1~7は削除されたから、取消理由通知書(決定の予告)に記載した取消理由1又は2によって取り消されるべきものではない。
第6 取消理由通知書(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由について
1 取消理由通知書(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由の概要
(1)理由1
本件発明8は、甲第3号証に記載された発明並びに甲第3号証、甲第4号証、甲第5号証、甲第8号証及び甲第17号証に記載された事項に基いて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明8に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(2)理由2
本件発明8は、甲第6号証に記載された発明並びに甲第3号証、甲第4号証、甲第5号証、甲第8号証及び甲第17号証に記載された事項に基いて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明8に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(3)理由3
本件発明8は、甲第7号証に記載された発明並びに甲第3号証、甲第4号証、甲第5号証、甲第8号証及び甲第17号証に記載された事項に基いて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明8に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(4)上記第4の3の引用文献一覧に記載した以外の甲号証一覧
甲第17号証:特開平2-27151
2 各甲号証について
(1)甲第3号証
ア 甲第3号証に記載された発明
甲第3号証(特に、1欄1行、同欄17行~19行、同欄42行~44行、2欄16行~22行、同欄37行~59行、3欄3行~35行、同欄43行~4欄1行、同欄23行~30行、図1~8参照。)には、以下の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されている。
「ガス発生器13と、
空気が入るインレット5、7と、
ロケットからラムジェット動作へ移行してから前記ガス発生器13より排出されるガスと、前記インレット5、7から入る空気とを燃焼させる燃焼室9と、
前記燃焼室9内において前記燃焼により生じたエンジン排気を後方へ向けて噴射する巡航ノズル11と、を備え、
前記燃焼室9の金属壁15上に、断熱材としても機能し、ヒドロキシ末端ポリブタジエン(HTPB)及び架橋ポリスチレン(CLPS)からなる固体ラムジェット燃料10が成形されている、複合サイクルラムジェットエンジン。」
イ 甲第3号証に記載された事項
「The air inlets 5, 6, 7, and 8 for the ramjet phase of operation all have covers, as illustrated 16 and 17 for air inlets 5 and 7, that are used during rocket boost to seal the inlets so that proper operation of the rocket can be accomplished. The exhaust nozzle 19 size required for boost is different than the nozzle size 11 for the cruise portion of flight. The rocket nozzle 19 is inserted inside of the cruise nozzle 11. The rocket propellant 18 is placed inside of the solid ramjet fuel 10.
The rocket propellant burns during the boost phase of the missile flight as illustrated in FIG. 6. Once the rocket boost is complete and the rocket fuel 18 expended, the rocket nozzle 19 and inlet covers 17 are released and depart from the missile as illustrated in FIG. 7. The gas generator 13 is then ignited and then exhausts into the combustion chamber 9 through the gas generator exit 14 and plenum 12. Air is now entering the inlets 5, 7 and the solid fuel 10 is ignited by the hot gases coming out of the gas generator exit 14. The engine is now operating in the cruise mode of the missile flight.
A primary object of the invention is to provide a novel insulating lining for a combined rocket-ramjet missile engine combustion chamber that also provides additional fuel for combustion as the liner ablates away.」(3欄43行~4欄1行)
(ラムジェットの作動段階のためのエアーインレット5、6、7、8には全てカバーがあり、エアーインレット5、7に対して図示された16、17のように、ロケットのブースト中にインレットを密閉してロケットが適切な作動を行えるように使用される。ブーストにおける必要な排気ノズル19のサイズは、飛行の巡航部分におけるノズルサイズ11とは異なる。ロケットノズル19は、巡航ノズル11の内側に挿入されている。ロケット推進剤18は、固体ラムジェット燃料10の内部に配置されている。
ロケット推進剤は、図6に示されるように、ミサイル飛行のブースト段階中に燃焼する。ロケットブーストが完了し、ロケット燃料18が消費されると、図7に示すように、ロケットノズル19とインレットカバー17とが外され、ミサイルから離れる。 次に、ガス生成器13が点火され、次いでガス生成器出口14と高圧空間12とを通過して燃焼室9に排出される。その時、空気がインレット5、7に入り、ガス発生器出口14から出てくる高温ガスにより固体燃料10が点火される。この時、エンジンはミサイル飛行の巡航モードで作動する。
本発明の主な目的は、ロケット-ラムジェット複合ミサイルエンジンの燃焼室のために、ライナがアブレートする際に燃焼するための追加燃料も提供する、新たな断熱ライニングを提供することにある。)
「
[図:0001411270000001.jpg]
」
(2)甲第4号証
ア 甲第4号証に記載された事項
「Polymeric Ablative Materials (PAMs) are used provide insulation to Solid Rocket Motors [1-4]. Ethylene Propylene Dine Monomer (EPDM) exhibits outstanding resistance to oxidation, ozonization, weathering effects, and excellent low temperature properties, so it is widely used as the insulation in chamber, especially as the insulation for long working time ramjet chamber.」(534頁20行~22行「Introduction」欄1~4行))
(高分子アブレーション材料(PAMs)は、固体ロケットモータに断熱材を提供するために使用される[1-4]。エチレンプロピレンジエンモノマー(EPDM)は、酸化、オゾン化、風化効果及び優れた低温特性に対する優れた耐性を示すため、チャンバー内の断熱材、特に長時間稼働するラムジェットチャンバーの断熱材として広く使用される。)
(3)甲第5号証
ア 甲第5号証に記載された事項
「HANに腐食されにくい燃料としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ニトリルゴム、EPDM等が候補に挙げられる1).」(366頁左欄14行~16行)
(4)甲第6号証
ア 甲第6号証に記載された発明
甲第6号証(特に、4-1頁8行~14行、4-1頁48行~59行、4-3頁39行~56行、4-4頁32行~50行、4-7頁22行~4-8頁19行、図12参照。)には、以下の発明(以下、「甲6発明」という。)が記載されている。
「ラムジェット燃料搭載部と、
ラム空気流を流入するエアーインレットポートと、
ラムジェット作動への移行時から前記ラムジェット燃料搭載部より供給されるラムジェット燃料と、前記エアーインレットポートから流入するラム空気流とを燃焼させる二重目的燃焼室と、
前記二重目的燃焼室内において前記燃焼により生じた燃焼ガスを後方へ向けて噴射するラムジェットノズルと、を備え、
前記二重目的燃焼室の内部に、アブレーションにより可燃性炭化水素が発生し燃焼する熱防護材が設けられている、一体型ロケットラムジェット。」
(5)甲第7号証
ア 甲第7号証に記載された発明
甲第7号証(特に、【0001】、【0008】~【0010】、【0012】~【0013】、【0017】~【0018】、図1参照。)には、以下の発明(以下、「甲7発明」という。)が記載されている。
「燃料タンク15と、
燃焼室1中に送り込む空気を取り入れる空気取り入れダクト12a,12bと、
動作時に前記燃料タンク15より送り出される燃料と、前記空気取り入れダクト12a,12bから送り込まれた空気とを燃焼させる燃焼室1と、
前記燃焼室1の下流側に設置され、燃焼ガスを排出する排気ノズル14と、を備え、
前記燃焼室1の内壁に断熱材3が内張されている、ラムジェットエンジン。」
(6)甲第8号証
ア 甲第8号証に記載された事項
「【0004】
固体ロケットモータのモーターケースの内面に設けられるインシュレーション材は、固体推進薬の燃焼中に発生する高温、高圧、高速の燃焼ガスからモーターケースを熱的に保護するために使用されるものである。このインシュレーション材は固体ロケットモータの推進力の発生に寄与するものではないため、固体ロケットモータの高性能化を図るためには、極限までその軽量化を図る必要がある。また、インシュレーション材はモーターケースと固体推進薬の間に存在して、固体推進薬をモーターケース内に保持するための仲介材としての機能をも果たすものであるため、適切な強度、伸びを有していることが求められると共に、モーターケースとインシュレーション、インシュレーションと固体推進薬の間において十分な強度を有する接着層を形成できるもの、気密性が高いものが求められている。」
「【0007】
従来、固体ロケットモータのインシュレーション材には、耐熱性、アブレーション特性を高め、補強効果を得るためにフィラーを混入させるのが一般的であり、このフィラーとしては、無機質繊維であってブレーキライニングやパッキンシート、あるいは耐火被覆や吸音・断熱用建材として使用されてきたアスベスト(石綿;クリソタイル Mg3Si2(OH)4O5)繊維が使用されていた。」
「【0018】
固体ロケットモータ用のインシュレーション材は、バインダーとしての機能を果たすエラストマーと、強度等の機械的な物性とアブレーション特性を向上させるフィラーと、種々の機能を果たす添加物とから構成されるのが一般的である。本発明ではインシュレーション材は少なくとも加硫可能なエラストマー及びフィラーを含む。
【0019】
加硫可能なエラストマーとしては、不飽和結合を有し、硫黄架橋を可能としたエチレン-プロピレン-ジエン三元共重合体(以下EPDMという)、ポリイソプレン構造をもつ天然ゴム(以下NRという)、天然ゴムと同じポリイソプレン構造を有し、化学合成されたイソプレンゴム(以下IRという)や、アクリロニトリルとブタジエンの共重合体であるアクリロニトリルブタジエンゴム(以下NBRという) 、液状ブタジエンゴム(以下BRという)(1,2-BR、1,4-BR)、液状イソプレンゴム(1,4-イソプレンゴム)、液状NBRゴム、液状SBRゴム、液状ポリブテン、液状ウレタンゴムなどが使用される。これらのエラストマーは、一種類のゴムを単独で使用することも、各ゴムの持つ利点をそれぞれ利用するためにこれらのゴムをブレンドして使用することもできる。
【0020】
フィラーとしては、芳香族ポリアミド繊維(以下アラミド繊維という)、芳香族ポリアミド系パルプ状繊維(以下パルプ状アラミド繊維という)、炭素繊維、ガラス繊維、カーボンブラック、アスベスト、粒状シリカなどが使用される。これらは単独で使用することも、2種以上をブレンドして使用することもできる。」
(7)甲第17号証
ア 甲第17号証に記載された事項
「この場合、このような傾斜機能を持たせず、断熱材粒子が多量に分散した層に断熱材粒子が分散していない層を積層したような断熱材粒子分散量が急激に変化するような構成では、両層の強度、機械的特性や耐熱性が著しく相違し、断熱材粒子分散量が急変する界面においてこれらの物理的特性値が急変し、機械的応力、熱的応力が該界面に集中する。このため、ロケットエンジンの超高速燃焼ガスに耐え得ず、亀裂等が生じるおそれがあり、断熱作用、冷却作用を保証し得ない場合があるが、本発明は断熱材粒子が内面から外面にかけて漸減する傾斜機能を有するため、強度、機械的特性や耐熱性などの物理的特性が内面から外面にかけて漸次変化していくものであり、従って部分的に機械的応力、熱的応力が集中するようなことがなく、燃焼ガスを確実に受けとめ、断熱作用、冷却作用を保障する支持機能に優れているものである。
それ故、本発明はこのように金属母材に断熱材粒子を分散させて一体的に傾斜機能を有する燃焼室を形成してあるため、十分な冷却効率を確保しつつ、十分な断熱効果を発揮させることができ、しかも燃焼室の肉厚を薄くして軽量化を図り、その冷却機構を小型化し、燃焼噴射機構全体の軽量化を図ることができると共に、冷却剤の沸騰を防止して冷却効率を高め、十分な断熱効果を発揮させることができるので、燃焼室の内面に沿ってロケット推進薬を噴出させる必要をなくして小口径の燃焼室にも好適に使用し得るものである。」(2頁右下欄8行~3頁左上欄16行)
「本発明に係るロケットエンジン燃焼室は、第1図に示したようにロケットエンジン燃焼室体1を形成する金属母材2中に断熱材粒子3を均一に、かつ該燃焼室体1の内面4から外面5に向かうに従い上記粒子3の分散量が漸次減少するように分散してなるものである。
ここで、母材2としては、ニッケル、Ni-P、Ni-B、Ni-Co、Ni-Fe等のニッケル合金、銅、Cu-ZnやCu-Zn-Sn等の銅合金、鉄、鉄合金などが使用できるが、強度、耐熱性、熱伝導率、価格等の面からニッケル、ニッケル合金が最も好適に用いられる。
一方、断熱材粒子3としては、無機材料でも有機材料でもよいが、1000~3500℃の耐熱性を有するものが好ましく、特に断熱性、強度、耐熱性、価格等の点からジルコニア、イツトリア、セリア、シリカ、アルミナ、チタニア、ムライト等の無機粒子が好適に使用され、中でもジルコニア、シリカ、イツトリアが最も有効である。」(3頁右上欄8行~左下欄6行)
3 理由1について
(1)対比
本件発明8と甲3発明とを対比すると、後者の「ガス発生器13」は前者の「燃料搭載部」に相当する。また、甲3発明は、ラムジェット動作となる複合サイクルラムジェットエンジンであるから、ラムジェットエンジンの基本原理より、当然「インレット5、7」は、ラム圧により外部から空気を導入しており、「燃焼室9」は、ガスと空気とをラム圧により圧縮混合して燃焼させているといえる。よって、後者の「空気が入るインレット5、7」は前者の「ラム圧により外部から空気を導入する空気導入部」に相当し、以下同様に、「ロケットからラムジェット動作へ移行してから」は「ラムジェットエンジン駆動時から」に、「前記ガス発生器13より排出されるガスと、前記インレット5、7から入る空気とを燃焼させる燃焼室9」は「前記燃料搭載部より供給される燃料と、前記空気導入部から供給される空気とをラム圧により圧縮混合して燃焼させるラム燃焼器」に、「燃焼室9」は「ラム燃焼器」に、「エンジン排気」は「燃焼ガス」に、「巡航ノズル11」は「噴射部」に、「前記燃焼室9の金属壁15上」は「前記ラム燃焼器における前記燃料と前記空気とに接触する内表面」に、「断熱材としても機能し、ヒドロキシ末端ポリブタジエン(HTPB)及び架橋ポリスチレン(CLPS)からなる固体ラムジェット燃料10」は「前記燃焼により燃焼する材料を含む炭化水素系の断熱材」に、「成形されている」は「設けられ」に、「複合サイクルラムジェットエンジン」は「ラムジェットエンジン」に、それぞれ相当する。
よって、両者は、以下の点で一致する。
[一致点1]
「ラム圧により外部から空気を導入する空気導入部と、
ラムジェットエンジン駆動時から前記燃料搭載部より供給される燃料と、前記空気導入部から供給される空気とをラム圧により圧縮混合して燃焼させるラム燃焼器と、
前記ラム燃焼器内において前記燃焼により生じた燃焼ガスを後方へ向けて噴射する噴射部と、を備え、
前記ラム燃焼器における前記燃料と前記空気とに接触する内表面の少なくとも一部に、前記燃焼により燃焼する材料を含む炭化水素系の断熱材が設けられている、ラムジェットエンジン。」
そして、両者は、以下の点で相違する。
[相違点1]
断熱材に関し、本件発明8は、「無機系材料を基本成分として有機系材料を含む単一層であり、前記断熱材の前記有機系材料の成分濃度は、前記断熱材の厚み方向において前記ラム燃焼器側である外方側よりも内方側が高い」のに対し、甲3発明は、そのように構成されていない点。
(2)判断
当該相違点1に係る本件発明8の構成は、上記の各甲号証のいずれにも記載されていない。
例えば、甲第8号証には、EPDMのような加硫可能なエラストマーにフィラーを混入させた固体ロケットモータのインシュレーション材が記載されているが、EPDMのような加硫可能なエラストマーは有機系材料といえるから、当該インシュレーション材は「無機系材料を基本成分として有機系材料を含む単一層であ」る断熱材であるとはいえない。
また、甲第17号証には、「金属母材に断熱材粒子を分散させて一体的に傾斜機能を有する燃焼室を形成してある」が、あくまでも燃焼室の金属母材に断熱材粒子を分散させたものであり、燃焼器の内表面に設けられた断熱材を「無機系材料を基本成分として有機系材料を含む単一層」としたものではない。
よって、甲3発明に甲第3号証、甲第4号証、甲第5号証、甲第8号証及び甲第17号証に記載された事項を採用して、相違点1に係る本件発明8の構成が容易に想到し得るとする理由は、見いだせない。
(3)小括
したがって、本件発明8は、当業者が甲3発明並びに甲第3号証、甲第4号証、甲第5号証、甲第8号証及び甲第17号証に記載された事項に基いて容易に発明をすることができたとはいえないから、本件発明8に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではなく、上記理由1によっては、本件発明8に係る特許を取り消すことはできない。
4 理由2について
(1)対比
本件発明8と甲6発明とを対比すると、後者の「ラムジェット燃料搭載部」は前者の「燃料搭載部」に相当し、以下同様に、「ラム空気流を流入するエアーインレットポート」は「ラム圧により外部から空気を導入する空気導入部」に、「ラムジェット作動への移行時から」は「ラムジェットエンジン駆動時から」に、それぞれ相当する。また、甲6発明は、ラムジェット作動する一体型ロケットラムジェットであるから、ラムジェットエンジンの基本原理より、当然「二重目的燃焼室」は、ラムジェット燃料とラム空気流とをラム圧により圧縮混合して燃焼させているといえる。よって、後者の「前記ラムジェット燃料搭載部より供給されるラムジェット燃料と、前記エアーインレットポートから流入するラム空気流とを燃焼させる二重目的燃焼室」は前者の「前記燃料搭載部より供給される燃料と、前記空気導入部から供給される空気とをラム圧により圧縮混合して燃焼させるラム燃焼器」に相当し、以下同様に、「二重目的燃焼室」は「ラム燃焼器」に、「ラムジェットノズル」は「噴射部」に、「二重目的燃焼室の内部」は「前記ラム燃焼器における前記燃料と前記空気とに接触する内表面」に、「アブレーションにより可燃性炭化水素が発生し燃焼する熱防護材」は「前記燃焼により燃焼する材料を含む炭化水素系の断熱材」に、「一体型ロケットラムジェット」は「ラムジェットエンジン」に、それぞれ相当する。
よって、両者は、以下の点で一致する。
[一致点2]
「ラム圧により外部から空気を導入する空気導入部と、
ラムジェットエンジン駆動時から前記燃料搭載部より供給される燃料と、前記空気導入部から供給される空気とをラム圧により圧縮混合して燃焼させるラム燃焼器と、
前記ラム燃焼器内において前記燃焼により生じた燃焼ガスを後方へ向けて噴射する噴射部と、を備え、
前記ラム燃焼器における前記燃料と前記空気とに接触する内表面の少なくとも一部に、前記燃焼により燃焼する材料を含む炭化水素系の断熱材が設けられている、ラムジェットエンジン。」
そして、両者は、以下の点で相違する。
[相違点2]
断熱材に関し、本件発明8は、「無機系材料を基本成分として有機系材料を含む単一層であり、前記断熱材の前記有機系材料の成分濃度は、前記断熱材の厚み方向において前記ラム燃焼器側である外方側よりも内方側が高い」のに対し、甲6発明は、そのように構成されていない点。
(2)判断
上記相違点2は、上記3(1)に記載した相違点1と実質的に同一である。
よって、上記3(2)の判断と同様に、甲6発明に甲第3号証、甲第4号証、甲第5号証、甲第8号証及び甲第17号証に記載された事項を採用して、相違点2に係る本件発明8の構成が容易に想到し得るとする理由は、見いだせない。
(3)小括
したがって、本件発明8は、当業者が甲6発明並びに甲第3号証、甲第4号証、甲第5号証、甲第8号証及び甲第17号証に記載された事項に基いて容易に発明をすることができたとはいえないから、本件発明8に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではなく、上記理由2によっては、本件発明8に係る特許を取り消すことはできない。
5 理由3について
(1)対比
本件発明8と甲7発明とを対比すると、後者の「燃料タンク15」は前者の「燃料搭載部」に相当する。また、甲7発明は、ラムジェットエンジンであるから、ラムジェットエンジンの基本原理より、当然「空気取り入れダクト12a,12b」は、ラム圧により外部から空気を導入しており、「燃焼室1」は、燃料と空気とをラム圧により圧縮混合して燃焼させているといえる。よって、後者の「燃焼室1中に送り込む空気を取り入れる空気取り入れダクト12a,12b」は前者の「ラム圧により外部から空気を導入する空気導入部」に相当し、以下同様に、「動作時に」は「ラムジェットエンジン駆動時から」に、「前記燃料タンク15より送り出される燃料と、前記空気取り入れダクト12a,12bから送り込まれた空気とを燃焼させる燃焼室1」は「前記燃料搭載部より供給される燃料と、前記空気導入部から供給される空気とをラム圧により圧縮混合して燃焼させるラム燃焼器」に、「前記燃焼室1の下流側に設置され、燃焼ガスを排出する排気ノズル14」は「前記ラム燃焼器内において前記燃焼により生じた燃焼ガスを後方へ向けて噴射する噴射部」に、「前記燃焼室1の内壁に」は「前記ラム燃焼器における前記燃料と前記空気とに接触する内表面」に、「内張されている」は「設けられている」に、それぞれ相当する。
そして、後者の「断熱材3」と前者の「前記燃焼により燃焼する材料を含む炭化水素系の断熱材」とは、「断熱材」という限りにおいて一致する。
よって、両者は、以下の点で一致する。
[一致点3]
「燃料搭載部と、
ラム圧により外部から空気を導入する空気導入部と、
ラムジェットエンジン駆動時から前記燃料搭載部より供給される燃料と、前記空気導入部から供給される空気とをラム圧により圧縮混合して燃焼させるラム燃焼器と、
前記ラム燃焼器内において前記燃焼により生じた燃焼ガスを後方へ向けて噴射する噴射部と、を備え、
前記ラム燃焼器における前記燃料と前記空気とに接触する内表面に、断熱材が設けられている、ラムジェットエンジン。」
そして、両者は、以下の点で相違する。
[相違点3]
断熱材に関し、本件発明8は、「前記燃焼により燃焼する材料を含む炭化水素系の断熱材」であるのに対し、甲7発明は、そのようなものであるのか不明な点。
[相違点4]
断熱材に関し、本件発明8は、「無機系材料を基本成分として有機系材料を含む単一層であり、前記断熱材の前記有機系材料の成分濃度は、前記断熱材の厚み方向において前記ラム燃焼器側である外方側よりも内方側が高い」のに対し、甲6発明は、そのように構成されていない点。
(2)判断
上記相違点4は、上記3(1)に記載した相違点1と実質的に同一である。
よって、上記3(2)の判断と同様に、甲7発明に甲第3号証、甲第4号証、甲第5号証、甲第8号証及び甲第17号証に記載された事項を採用して、相違点4に係る本件発明8の構成が容易に想到し得るとする理由は、見いだせない。
(3)小括
上記(2)のとおり、相違点4に係る本件発明8の構成が容易に想到し得るとする理由は、見いだせないから、相違点3について検討するまでもなく、本件発明8は、当業者が甲7発明並びに甲第3号証、甲第4号証、甲第5号証、甲第8号証及び甲第17号証に記載された事項に基いて容易に発明をすることができたとはいえないから、本件発明8に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではなく、上記理由3によっては、本件発明8に係る特許を取り消すことはできない。
第7 むすび
以上のとおり、取消理由通知書(決定の予告)に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件発明8に係る特許を取り消すことはできない。また、他に本件発明8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、本件の請求項1~7に係る特許については、本件訂正により削除された。これにより、特許異議申立人による申立のうち、請求項1~7に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700167