特許異議申立
2019-700038
フラックス組成物、ソルダペースト組成物及び電子回路基板
- 審判番号
- 2019-700038
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2017-549359
- 登録番号
- 特許第6363307号(P6363307)
- 請求日
- 2019年01月22日
- 審決日
- 2020年09月14日
- 公報発行日
- 2020年12月25日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】株式会社タムラ製作所
- 【権利者代理人】太田 洋子
- 【異議申立人】上山 みち子
- 審判長/審判官
- 審判長 亀ヶ谷 明久
- 審判官 中澤 登
- 審判官 池渕 立
- 分類
- P1651.113-YAA(B23K) / P1651.121-YAA(B23K) / P1651.537-YAA(B23K) / P1651.57 -YAA(B23K)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6363307号発明「フラックス組成物、ソルダペースト組成物及び電子回路基板」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6363307号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項〔1~12〕について訂正することを認める。
特許第6363307号の請求項1に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
特許第6363307号の請求項2ないし12に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第6363307号の請求項1~12に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願(特願2017-549359号)は、2017年(平成29年)6月26日(優先権主張 平成28年6月29日、日本国)を国際出願日とするものであって、平成30年7月6日に特許権の設定登録がなされ、同年7月25日に特許掲載公報が発行されたものであり、その後の経緯は以下のとおりである。
平成31年 1月22日(提出日) 特許異議申立書(全請求項に対して)
特許異議申立人 上山みち子
(以下、「申立人」という。)
甲第1~5号証を添付
同年 2月21日(提出日) 特許異議申立書の手続補正書
(方式補正)
令和 1年 5月15日(発送日) 取消理由通知書
(起案日)令和1年5月8日
同年 7月10日(提出日) 訂正請求書及び意見書(特許権者)
同年 9月25日(提出日) 意見書(申立人)
甲第6号証を添付
同年11月18日(発送日) 訂正拒絶理由通知書
(特許権者の応答無し)
(起案日)令和1年11月13日
令和 2年 1月28日(発送日) 取消理由通知書(決定の予告)
(起案日)令和 2年 1月24日
同年 3月27日(提出日) 訂正請求書及び意見書(特許権者)
なお、令和2年3月27日に提出された特許権者の訂正請求書及び意見書を申立人に対して送付したが応答はなかった。
第2 訂正請求について
令和1年7月10日提出の訂正請求に対して、同年11月13日起案の訂正拒絶理由が通知されたところ、これに対する応答はなかったので、令和1年7月10日提出の訂正請求は認容されず、令和2年1月24日起案の取消理由(決定の予告)が通知され、これに対して同年3月27日提出の訂正請求書及び意見書が提出されたので、同年3月27日提出の訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)について検討する。
1.訂正請求の趣旨
本件訂正請求の趣旨は、特許第6363307号の明細書、特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~12について訂正することを求める、というものである。
2.訂正事項
以下の記載で、下線は訂正箇所を示す。
(1)訂正事項1
訂正前の請求項1を訂正後に削除する。
(2)訂正事項2
請求項2について、
訂正前に「前記はんだ合金粉末を構成するはんだ合金の溶融ピーク温度が130℃以上175℃未満の場合における前記有機酸エステル(D-1)の減量率(TG法を用いて測定。昇温温度10℃/min、窒素ガス流量200ml/min、サンプル量10mg)が100質量%となる温度は180℃以上且つ225℃未満であることを特徴とする請求項1に記載のフラックス組成物。」とあるのを、
訂正後に「はんだ合金粉末と混合してソルダペースト組成物を構成するフラックス組成物であって、
(A)ベース樹脂と、(B)活性剤と、(C)チクソ剤と、(D)溶剤とを含み、
前記溶剤(D)として(D-1)カルボキシル基及びヒドロキシル基のいずれをも有さない有機酸エステル(ただし、マレイン酸ジブチルを除く)を含み、
前記有機酸エステル(D-1)の減量率(TG法を用いて測定。昇温温度10℃/min、窒素ガス流量200ml/min、サンプル量10mg)が100質量%となる温度は180℃以上且つ前記はんだ合金粉末を構成するはんだ合金の溶融ピーク温度+50℃以下であり、
前記有機酸エステル(D-1)の配合量は前記溶剤(D)全量に対して10質量%から100質量%であり、
前記はんだ合金粉末を構成するはんだ合金の溶融ピーク温度が130℃以上175℃未満の場合における前記有機酸エステル(D-1)の減量率(TG法を用いて測定。昇温温度10℃/min、窒素ガス流量200ml/min、サンプル量10mg)が100質量%となる温度は180℃以上且つ225℃未満であることを特徴とするフラックス組成物。」と訂正する。
請求項2を直接または間接的に引用する請求項5、8~12も同様に訂正する。
(3)訂正事項3
請求項3について、
訂正前に「前記はんだ合金粉末を構成するはんだ合金の溶融ピーク温度が175℃以上205℃未満の場合における前記有機酸エステル(D-1)の減量率(TG法を用いて測定。昇温温度10℃/min、窒素ガス流量200ml/min、サンプル量10mg)が100質量%となる温度は180℃以上且つ255℃未満であることを特徴とする請求項1に記載のフラックス組成物。」とあるのを、
訂正後に「はんだ合金粉末と混合してソルダペースト組成物を構成するフラックス組成物であって、
(A)ベース樹脂と、(B)活性剤と、(C)チクソ剤と、(D)溶剤とを含み、
前記溶剤(D)として(D-1)カルボキシル基及びヒドロキシル基のいずれをも有さない有機酸エステル(ただし、マレイン酸ジブチルを除く)を含み、
前記有機酸エステル(D-1)の減量率(TG法を用いて測定。昇温温度10℃/min、窒素ガス流量200ml/min、サンプル量10mg)が100質量%となる温度は180℃以上且つ前記はんだ合金粉末を構成するはんだ合金の溶融ピーク温度+50℃以下であり、
前記有機酸エステル(D-1)の配合量は前記溶剤(D)全量に対して10質量%から100質量%であり、
前記はんだ合金粉末を構成するはんだ合金の溶融ピーク温度が175℃以上205℃未満の場合における前記有機酸エステル(D-1)の減量率(TG法を用いて測定。昇温温度10℃/min、窒素ガス流量200ml/min、サンプル量10mg)が100質量%となる温度は180℃以上且つ255℃未満であることを特徴とするフラックス組成物。」と訂正する。
請求項3を直接または間接的に引用する請求項6、8~12も同様に訂正する。
(4)訂正事項4
請求項4について、
訂正前に「前記はんだ合金粉末を構成するはんだ合金の溶融ピーク温度が205℃以上の場合における前記有機酸エステル(D-1)の減量率(TG法を用いて測定。昇温温度10℃/min、窒素ガス流量200ml/min、サンプル量10mg)が100質量%となる温度は180℃以上且つ前記溶融ピーク温度+50℃以下であることを特徴とする請求項1に記載のフラックス組成物。」とあるのを、
訂正後に「はんだ合金粉末と混合してソルダペースト組成物を構成するフラックス組成物であって、
(A)ベース樹脂と、(B)活性剤と、(C)チクソ剤と、(D)溶剤とを含み、
前記溶剤(D)として(D-1)カルボキシル基及びヒドロキシル基のいずれをも有さない有機酸エステル(ただし、マレイン酸ブチルを除く)を含み、
前記有機酸エステル(D-1)の減量率(TG法を用いて測定。昇温温度10℃/min、窒素ガス流量200ml/min、サンプル量10mg)が100質量%となる温度は180℃以上且つ前記はんだ合金粉末を構成するはんだ合金の溶融ピーク温度+50℃以下であり、
前記有機酸エステル(D-1)の配合量は前記溶剤(D)全量に対して10質量%から100質量%であり、
前記はんだ合金粉末を構成するはんだ合金の溶融ピーク温度が205℃以上の場合における前記有機酸エステル(D-1)の減量率(TG法を用いて測定。昇温温度10℃/min、窒素ガス流量200ml/min、サンプル量10mg)が100質量%となる温度は180℃以上且つ前記溶融ピーク温度+50℃以下であることを特徴とするフラックス組成物。」と訂正する。
請求項4を直接または間接的に引用する請求項7~12も同様に訂正する。
(5)訂正事項5
請求項5~7について、
訂正前に「有機酸エステル(D-1)」の具体例の列挙中に「マレイン酸ジブチル」が記載されているのを、訂正後に同列挙中から「マレイン酸ジブチル」を削除する。
請求項5~7を直接または間接的に引用する請求項8~12も同様に訂正する。
(6)訂正事項6
請求項8について、
訂正前に「請求項1~請求項7のいずれか1項に記載の」とされているのを、訂正後に「請求項2~請求項7のいずれか1項に記載の」と訂正する。
請求項8を直接または間接的に引用する請求項9~12も同様に訂正する。
(7)訂正事項7
請求項9について、
訂正前に「請求項1~請求項8のいずれか1項に記載の」とされているのを、訂正後に「請求項2~請求項8のいずれか1項に記載の」と訂正する。
請求項9を直接または間接的に引用する請求項10~12も同様に訂正する。
(8)訂正事項8
本件特許明細書の【0070】について、
ア 訂正前に「表1から表4に記載の各成分を混練し、実施例1から34、及び比較例1から13に係る各フラックス組成物を得た。次いで当該各フラックス組成物11質量%と、以下に挙げるはんだ合金粉末89質量%とを混練し、実施例1から34、及び比較例1から13に係る各ソルダペースト組成物を得た。」とあるのを、
訂正後に「表1から表4に記載の各成分を混練し、実施例1から12、15から34、参考例13、14及び比較例1から13に係る各フラックス組成物を得た。次いで当該各フラックス組成物11質量%と、以下に挙げるはんだ合金粉末89質量%とを混練し、実施例1から12、15から34、参考例13、14及び比較例1から13に係る各ソルダペースト組成物を得た。」と訂正する。
イ 訂正前に「実施例1から20及び比較例1から8:Sn-3Ag-0.5Cuはんだ合金粉末(溶融ピーク温度:219℃)」とあるのを、
訂正後に「実施例1から12、15から20、参考例13、14及び比較例1から8:Sn-3Ag-0.5Cuはんだ合金粉末(溶融ピーク温度:219℃)」と訂正する。
(9)訂正事項9
本件特許明細書の【表1】(【0071】)について、
訂正前に「実施例13」、「実施例14」とあるのを、訂正後に「参考例13」、「参考例14」とそれぞれ訂正する。
(10)訂正事項10
本件特許明細書の【0076】について、
訂正前に「・実施例1から20及び比較例1から8:プリヒートを170℃から180℃で90秒間、ピーク温度230℃、220℃以上が30秒以下、ピーク温度から200℃までの冷却速度は3℃から8℃/秒」とあるのを、
訂正後に「・実施例1から12、15から20、参考例13、14及び比較例1から8:プリヒートを170℃から180℃で90秒間、ピーク温度230℃、220℃以上が30秒以下、ピーク温度から200℃までの冷却速度は3℃から8℃/秒」と訂正する。
(11)訂正事項11
本件特許明細書の【0078】について、
訂正前に「・実施例1から20及び比較例1から8:プリヒートを170℃から190℃で110秒間、ピーク温度260℃、200℃以上が70秒間及び220℃以上が60秒間、ピーク温度から200℃までの冷却速度は3℃から8℃/秒」とあるのを、
訂正後に「・実施例1から12、15から20、参考例13、14及び比較例1から8:プリヒートを170℃から190℃で110秒間、ピーク温度260℃、200℃以上が70秒間及び220℃以上が60秒間、ピーク温度から200℃までの冷却速度は3℃から8℃/秒」と訂正する。
(12)訂正事項12
本件特許明細書の【表5】(【0081】)について、
訂正前に「実施例13」、「実施例14」とあるのを、訂正後に「参考例13」、「参考例14」とそれぞれ訂正する。
(13)訂正事項13
本件特許明細書の【0085】について、
訂正前に「以上に示す通り、実施例1から34に係るソルダペースト組成物は、使用するはんだ合金粉末を構成するはんだ合金の溶融ピーク温度に合わせた前記有機酸エステル(D-1)を使用することにより安定した連続印刷性を確保でき、またリフローはんだ付時のボイド発生を抑制しつつはんだ付後のフラックス残さのべとつきを抑制し得ることが分かる。」とあるのを、
訂正後に「以上に示す通り、実施例1から12、15から34、参考例13、14に係るソルダペースト組成物は、使用するはんだ合金粉末を構成するはんだ合金の溶融ピーク温度に合わせた前記有機酸エステル(D-1)を使用することにより安定した連続印刷性を確保でき、またリフローはんだ付時のボイド発生を抑制しつつはんだ付後のフラックス残さのべとつきを抑制し得ることが分かる。」と訂正する。
3.訂正の可否
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の請求項1を削除するものであるから、特許請求の範囲を減縮することを目的とするものであり、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であって新たな技術的事項を追加するものでなく、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものでなく、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものでもない。
(2)訂正事項2~4について
ア 訂正事項2は、訂正前の請求項1の全ての記載を訂正後の請求項2へ繰り入れるものだから、訂正前の請求項1を引用していた訂正前の請求項2を、請求項間の引用関係を解消して請求項1を引用しないものとし、独立形式の記載へ改めるための訂正であり、「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものにあたる。
イ また、訂正事項2は、上記繰り入れにあたり、訂正前の「(D-1)カルボキシル基及びヒドロキシル基のいずれをも有さない有機酸エステル」について、訂正後に「(D-1)カルボキシル基及びヒドロキシル基のいずれをも有さない有機酸エステル(ただし、マレイン酸ジブチルを除く)」とするものであるところ、「マレイン酸ジブチル」は、訂正前の本件特許明細書【0052】~【0054】に記載され、訂正前の「実施例13」「実施例14」(例えば【表1】【0071】)に用いられていたものだから、訂正後の請求項2において「マレイン酸ジブチルを除く」ことは特許請求の範囲の減縮にもあたるものである。
ウ そして、上記ア、イのことから、訂正事項2は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であって新たな技術的事項を追加するものでなく、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものでなく、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものでもない。
エ 訂正事項3、4についても同様である。
(3)訂正事項5について
訂正事項5は、請求項2を引用する請求項5、請求項3を引用する請求項6、請求項4を引用する請求項7において、訂正後に「マレイン酸ジブチルを除く」こととするもので、これは訂正事項2~4により「マレイン酸ジブチルを除く」こととなった訂正後の請求項2~4と記載を整合させるためのものであるから、明瞭でない記載の釈明にあたり、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であって新たな技術的事項を追加するものでなく、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものでなく、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものでもない。
(4)訂正事項6、7について
訂正事項6、7は、訂正事項1により訂正後に請求項1が削除されたことに伴い、訂正前の請求項8、9で、訂正前の請求項1を引用請求項としていたものを、訂正後に引用請求項から請求項1を削除することで、記載を整合させるためのものであるから、明瞭でない記載の釈明にあたり、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であって新たな技術的事項を追加するものでなく、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものでなく、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものでもない。
(5)訂正事項8~13について
訂正事項8~13は、訂正事項2~4において、訂正後の請求項2~4で「マレイン酸ジブチルを除く」こととされたので、訂正前に「(D-1)カルボキシル基及びヒドロキシル基のいずれをも有さない有機酸エステル」として「マレイン酸ジブチル」を用いていた「実施例13」「実施例14」を「比較例13」「比較例14」とすることで記載を整合させるための訂正であるから、明瞭でない記載の釈明にあたり、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であって新たな技術的事項を追加するものでなく、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものでなく、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものでもない。
(6)一群の請求項について
本件訂正前の請求項1~12について、請求項2~12はそれぞれ直接又は間接的に請求項1を引用しているものであり、訂正事項1によって記載が訂正(削除)される請求項1に連動して訂正されるものであるから、本件訂正前の請求項1~12は一群の請求項であるところ、本件訂正請求は、上記一群の請求項についてされたものであるから、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。
そして、本件訂正請求は、訂正後の請求項〔1~12〕を訂正単位として訂正の請求をするものである。
また、本件訂正請求は、訂正事項8~13と関係する請求項を含む一群の請求項の全てを請求の対象とするから、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第4項の規定に適合するものである。
(7)独立特許要件について
本件特許異議申立においては、全ての請求項について特許異議申立の対象とされているので、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
4.訂正請求の結言
したがって、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1、3、4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項及び同条第9項において準用する同法第126条第4~6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1~12〕について訂正を認める。
第3 本件発明について
以上のとおり、本件訂正請求が認められるので、本件特許の請求項1~12に係る発明(以下、「本件発明1」~「本件発明12」といい、まとめて「本件発明」という。)は、その訂正特許請求の範囲の請求項1~12に記載された事項により特定される次のものである。
【請求項1】
(削除)
【請求項2】
はんだ合金粉末と混合してソルダペースト組成物を構成するフラックス組成物であって、
(A)ベース樹脂と、(B)活性剤と、(C)チクソ剤と、(D)溶剤とを含み、
前記溶剤(D)として(D-1)カルボキシル基及びヒドロキシル基のいずれをも有さない有機酸エステル(ただし、マレイン酸ジブチルを除く)を含み、
前記有機酸エステル(D-1)の減量率(TG法を用いて測定。昇温温度10℃/min、窒素ガス流量200ml/min、サンプル量10mg)が100質量%となる温度は180℃以上且つ前記はんだ合金粉末を構成するはんだ合金の溶融ピーク温度+50℃以下であり、
前記有機酸エステル(D-1)の配合量は前記溶剤(D)全量に対して10質量%から100質量%であり、
前記はんだ合金粉末を構成するはんだ合金の溶融ピーク温度が130℃以上175℃未満の場合における前記有機酸エステル(D-1)の減量率(TG法を用いて測定。昇温温度10℃/min、窒素ガス流量200ml/min、サンプル量10mg)が100質量%となる温度は180℃以上且つ225℃未満であることを特徴とするフラックス組成物。
【請求項3】
はんだ合金粉末と混合してソルダペースト組成物を構成するフラックス組成物であって、
(A)ベース樹脂と、(B)活性剤と、(C)チクソ剤と、(D)溶剤とを含み、
前記溶剤(D)として(D-1)カルボキシル基及びヒドロキシル基のいずれをも有さない有機酸エステル(ただし、マレイン酸ジブチルを除く)を含み、
前記有機酸エステル(D-1)の減量率(TG法を用いて測定。昇温温度10℃/min、窒素ガス流量200ml/min、サンプル量10mg)が100質量%となる温度は180℃以上且つ前記はんだ合金粉末を構成するはんだ合金の溶融ピーク温度+50℃以下であり、
前記有機酸エステル(D-1)の配合量は前記溶剤(D)全量に対して10質量%から100質量%であり、
前記はんだ合金粉末を構成するはんだ合金の溶融ピーク温度が175℃以上205℃未満の場合における前記有機酸エステル(D-1)の減量率(TG法を用いて測定。昇温温度10℃/min、窒素ガス流量200ml/min、サンプル量10mg)が100質量%となる温度は180℃以上且つ255℃未満であることを特徴とするフラックス組成物。
【請求項4】
はんだ合金粉末と混合してソルダペースト組成物を構成するフラックス組成物であって、
(A)ベース樹脂と、(B)活性剤と、(C)チクソ剤と、(D)溶剤とを含み、
前記溶剤(D)として(D-1)カルボキシル基及びヒドロキシル基のいずれをも有さない有機酸エステル(ただし、マレイン酸ブチルを除く)を含み、
前記有機酸エステル(D-1)の減量率(TG法を用いて測定。昇温温度10℃/min、窒素ガス流量200ml/min、サンプル量10mg)が100質量%となる温度は180℃以上且つ前記はんだ合金粉末を構成するはんだ合金の溶融ピーク温度+50℃以下であり、
前記有機酸エステル(D-1)の配合量は前記溶剤(D)全量に対して10質量%から100質量%であり、
前記はんだ合金粉末を構成するはんだ合金の溶融ピーク温度が205℃以上の場合における前記有機酸エステル(D-1)の減量率(TG法を用いて測定。昇温温度10℃/min、窒素ガス流量200ml/min、サンプル量10mg)が100質量%となる温度は180℃以上且つ前記溶融ピーク温度+50℃以下であることを特徴とするフラックス組成物。
【請求項5】
前記有機酸エステル(D-1)はアジピン酸ジメチルであることを特徴とする請求項2に記載のフラックス組成物。
【請求項6】
前記有機酸エステル(D-1)はアジピン酸ジメチル、アジピン酸ジイソプロピル、セバシン酸ジメチル、アジピン酸ジイソブチル及びセバシン酸ジエチルから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項3に記載のフラックス組成物。
【請求項7】
前記有機酸エステル(D-1)はアジピン酸ジメチル、アジピン酸ジイソプロピル、セバシン酸ジメチル、アジピン酸ジイソブチル、セバシン酸ジエチル、セバシン酸ジイソプロピル、セバシン酸ジブチル及びセバシン酸ジオクチルから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項4に記載のフラックス組成物。
【請求項8】
前記ベース樹脂(A)は(A-1)ロジン系樹脂及び(A-2)合成樹脂の少なくとも一方を含み、
前記合成樹脂(A-2)はアクリル樹脂、スチレン-マレイン酸樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、フェノキシ樹脂、テルペン樹脂、ポリアルキレンカーボネート及びカルボキシル基を有するロジン系樹脂とダイマー酸誘導体柔軟性アルコール化合物とを脱水縮合してなる誘導体化合物からなる群より選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項2から請求項7のいずれか1項に記載のフラックス組成物。
【請求項9】
請求項2から請求項8のいずれか1項に記載のフラックス組成物と、はんだ合金粉末とを含むことを特徴とするソルダペースト組成物。
【請求項10】
前記はんだ合金粉末はAgを2質量%以上3.1質量%以下と、Cuを0質量%超1質量%以下と、Sbを1質量%以上5質量%以下と、Biを0.5質量%以上4.5質量%以下と、Niを0.01質量%以上0.25質量%以下含み、残部がSnからなることを特徴とする請求項9に記載のソルダペースト組成物。
【請求項11】
前記はんだ合金粉末は更にCoを0.001質量%以上0.25質量%以下含むことを特徴とする請求項10に記載のソルダペースト組成物。
【請求項12】
請求項9から請求項11のいずれか1項に記載のソルダペースト組成物を用いて形成されたはんだ接合体を有することを特徴とする電子回路基板。
第4 異議申立理由の概要
申立人は、以下の概要の異議申立理由を主張している。
<異議申立理由1>(新規性・進歩性)
(1)請求項1、3、4、6~9、12に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものだから、同発明に係る特許は取り消されるべきものである。
(2)請求項1~12に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基いて、又は、甲第1号証に記載された発明と、甲第2号証に記載の技術手段又は甲第3、4号証に記載の技術手段に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものだから、同発明に係る特許は取り消されるべきものである。
<異議申立理由2>(サポート要件)
(1)(異議申立書31頁下から2行~34頁下から9行)
請求項1に係る発明は、甲第5号証の記載内容と整合しない特定事項を有するから、甲第5号証の記載内容と整合するために当該特定事項が成立するための何らかの別の特定事項を要するはずだが、請求項1に係る発明は当該別の特定事項を有するものではない。
したがって、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものであるとはいえず、同発明に係る特許は、特許法第36条第6項第1号の規定を満たしていない発明に対してされたものであるので、取り消されるべきものである。
請求項1を引用する請求項2~12についても同様である。
(2)(異議申立書34頁下から8行~35頁10行)
発明の詳細な説明には、課題を解決出来ることが確認できた「(B)活性剤」の実施例としてただ一つの組合せが記載されているにすぎず、出願時の技術常識に照らしても、発明の詳細な説明に開示された内容を、請求項1に係る発明の範囲にまで拡張ないし一般化できるものとはいえない。
したがって、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものであるとはいえず、同発明に係る特許は、特許法第36条第6項第1号の規定を満たしていない発明に対してされたものであるので、取り消されるべきものである。
請求項1を引用する請求項2~12についても同様である。
(3)(異議申立書35頁11行~40頁下から2行)
発明の詳細な説明からは、本件発明として確認できるのは実施例に記載されている組成についてのものにすぎず、発明の詳細な説明は、請求項1で規定される範囲と得られる効果(性能)との関係の技術的な意味が、特許出願時において、具体的な開示がなくとも当業者に理解できる程度に記載されておらず、また、特許出願時の技術常識を参酌して、本件の特許請求の範囲の各請求項で規定される範囲内であれば、所望の効果が得られると当業者において認識できるものでもない。
したがって、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものであるとはいえず、同発明に係る特許は、特許法第36条第6項第1号の規定を満たしていない発明に対してされたものであるので、取り消されるべきものである。
請求項1を引用する請求項2~12についても同様である。
<証拠方法>
○甲第1号証:特許第4458043号公報
○甲第2号証:特開2003-225795号公報
○甲第3号証:国際公開2014/163167号
○甲第4号証:特許第5722302号公報
○甲第5号証:特開2007-136491号公報
○甲第6号証:新・注解 特許法〔第2版〕【上巻】、中山信弘ら 編、青林書院、
2017年10月5日第2版第1刷発行、292~293頁
なお、以下で甲各号証を「甲1」~「甲6」と記載することがある。
第5 令和1年5月8日付け取消理由及び令和2年1月24日付け取消理由(決定の予告)
当審は令和1年5月8日付け取消理由を通知したが、取消理由の概要は次のものである。
A.上記異議申立理由1の(1)
B.本件発明2、5についての新規性要件違反の取消理由(当審で発見)
C.上記異議申立理由1の(2)の内の本件発明2,5,8,9,12のみについて進歩性要件違反の取消理由
D.異議申立理由2の(2)のみについての取消理由
E.記載不備についての取消理由(当審で発見)
当該取消理由に対する令和1年7月10日提出の訂正請求に対して、令和1年11月13日付け訂正拒絶理由が通知されたが応答がなかったため、同訂正請求は認容されず、上記取消理由と同内容の令和2年1月24日付け取消理由(決定の予告)を通知した。
これに対して、本件訂正請求がなされ、上記第2のようにこれが認容されたので、当該訂正請求により訂正された上記請求項2~12(請求項1は削除)に係る本件発明2~12について、以下で、取消理由及び異議申立理由の存否を検討する。
第6 取消理由の判断
1.新規性、進歩性についての判断
取消理由(決定の予告)で通知された新規性、進歩性に関する上記「第5」の「A」「B」「C」は、いずれも甲第1号証に記載の発明を主引例として判断するものであり、取消理由として通知しなかった異議申立理由の進歩性についてのもの(請求項3、4、6、7、10、11)も、同様に甲第1号証に記載の発明を主引例として判断するものであるから、ここで両者をまとめて判断する。
1-1.甲第1号証の記載
甲第1号証には以下の事項が記載されている。
(ア)「【発明の開示】
本発明は、モジュール基板のように広い印刷面積を有する基板や、BGA基板のように微細な印刷面積を有する基板でもボイドの発生が少なく、特に大径ボイドの発生を確実に防止でき、かつ連続印刷性の良いソルダペーストを提供する。」(3頁33~36行)
(イ)「そこで、本発明では、TG曲線での減量率が15質量%になる温度を目安として採用する。
TG曲線は測定条件により変動する。本発明におけるTG測定条件は、昇温速度10℃/min、窒素ガス気流300ml/minである。
本発明は、フラックスと粉末はんだとを混合したソルダペーストに関する。フラックス中に含まれる溶剤は、TG法による測定(TG曲線)で減量率が15質量%になる温度が該粉末はんだの溶融ピーク温度より5℃以上高い溶剤から主に構成される。」(3頁43~49行)
(ウ)「つまり、共晶以外のはんだは、一定の溶融温度を示さない。そこで、本発明では、溶融温度の目安として、溶融ピーク温度を採用する。溶融ピーク温度とは、DSC(示差走査熱量測定法)チャートにおける昇温時の溶融による吸熱がピークとなる温度であって、固相線温度と液相線温度との間に位置する。」(4頁6~9行)
(エ)「本発明に従って、フラックスの溶剤として、TG-15温度がはんだの溶融ピーク温度より5℃以上高温である溶剤を用いると、はんだが溶融するまでに気化する溶剤は、最大でも15質量%より少なく、溶剤の気化は、ソルダペーストが完全に融解し、はんだがぬれ性を示した後に盛んになる。そのため、溶剤はスムースに溶融はんだから排除され、溶剤によるボイド発生が著しく抑制され、特に大径ボイドの発生を実質的に完全に防止することができる。」(5頁10~15行)
(オ)「本発明では、フラックスの溶剤として、TG-15温度(TG曲線において減量率が10質量%になる時の温度)がはんだの溶融ピーク温度より5℃以上、好ましくは10℃以上高い、溶剤を使用する。そのような溶剤の具体例を、はんだの溶融ピーク温度のレベルごとに、次に例示する。
(1)溶融ピーク温度が250℃~330℃の高温はんだ[例えば、Sn-95Pbはんだ(固相線温度:300℃、液相線温度:314℃、溶融ピーク温度:310℃)]の場合、TG-15温度がそれより高い適当な溶剤は植物油および鉱物油から選択することができる。そのような植物油の例としては、ひまわり(サンフラワー)油、オリーブ油、サフラワー(紅花)油、ナタネ油、ダイズ油、コーン油、ツバキ油、ラッカセイ油、エゴマ油、ゴマ油、コメ油、コットン油、パーム油、アボガド油、グレープシード油を挙げることができる。そのような鉱物油の好適な例はハイサーム100(新日本石油製)である。
(2)溶融ピーク温度が175℃~250℃未満の中温はんだ[例えば、Sn-37Pbはんだ(固相線温度=液相線温度=溶融ピーク温度:183℃)やSn-3Ag-0.5Cu鉛フリーはんだ(固相線温度:217℃、液相線温度:220℃、溶融ピーク温度:218℃)]の場合、上記(1)に列挙した植物油および鉱物油も使用することができるが、TG-15温度がより低い溶剤も使用可能である。使用可能な追加の溶剤の例として、ハイサーム68およびハイサーム32(いずれも新日本石油製)のような鉱物油、さらには流動パラフィン、イソボルニルシクロヘキサノール、セキスイサイザー90(積水化学工業製の塩化ビニル用可塑剤)、フタル酸ジオクチル、セバシン酸ジオクチル、セバシン酸ジブチル、テトラエチレングリコール、イソヘキサデカノールを挙げることができる。
(3)溶融ピーク温度が175℃未満の低温はんだ[例えば、Sn-1Ag-57Biはんだ(固相線温度:138℃、液相線温度:204℃、溶融ピーク温度139℃)]の場合、上記の(1)および(2)に列挙した溶剤も使用できるが、TG-15温度がより低い溶剤も使用可能である。使用可能な追加の溶剤の例として、フタル酸ジブチル、マレイン酸ジブチル、安息香酸ベンジルが挙げられる。
上述したようなTG-15温度がはんだの溶融ピーク温度より高い溶剤は、1種類のみを使用しても、2種以上を使用してもよい。また、TG-15温度がはんだの溶融ピーク温度より低い溶剤も、本発明の効果を著しく損なわない範囲の量、望ましくは溶剤全体の30質量%以内の量であれば、溶剤の一部として使用することができる。
例えば、TG-15温度が150℃より低い溶剤も、望ましくは溶剤全体の30質量%以下の量であれば、上記(1)~(3)のいずれのはんだに対しても使用できる。そのような溶剤の例としては、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、2-エチル-1,3-ヘキセンジオール、安息香酸ブチルなどが挙げられる。」(6頁4~39行)
(カ)「【実施例】
以下の実施例は本発明を例示するものであり、本発明を実施例に制限するものではない。実施例中、%は特に指定しない限り質量%である。また、はんだの合金組成の数字は質量%での含有量を意味する。・・・
(フラックス)
フラックスa~gにおいて、水素添加ヒマシ油はチキソ剤、ジフェニルグアニジン臭化水素酸塩は活性剤である。かっこ内の温度は、各溶剤のTG-15温度である。
フラックスa
重合ロジン 40%
水素添加ヒマシ油 5%
ジフェニルグアニジン臭化水素酸塩 2%
サフラワー油(397℃) 40%
ジエチレングリコールモノブチルエーテル(124℃) 10%
安息香酸ブチル(130℃) 3%
フラックスb
重合ロジン 40%
水素添加ヒマシ油 5%
ジフェニルグアニジン臭化水素酸塩 2%
ハイサーム32(鉱物油、254℃) 40%
ジエチレングリコールモノブチルエーテル(124℃) 10%
安息香酸ブチル(130℃) 3%
フラックスc
重合ロジン 40%
水素添加ヒマシ油 5%
ジフェニルグアニジン臭化水素酸塩 2%
流動パラフィン(265℃) 40%
ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル(141℃) 10%
安息香酸ブチル(130℃) 3%
フラックスd
重合ロジン 40%
水素添加ヒマシ油 5%
ジフェニルグアニジン臭化水素酸塩 2%
イソヘキサデカノール(186℃) 40%
ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル(141℃) 10%
安息香酸ブチル(130℃) 3%
フラックスe
重合ロジン 40%
水素添加ヒマシ油 5%
ジフェニルグアニジン臭化水素酸塩 2%
マレイン酸ジブチル(155℃) 40%
ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル(141℃) 10%
安息香酸ブチル(130℃) 3%
フラックスf(特開平9-277081号)
重合ロジン 50%
水素添加ヒマシ油 5%
ジフェニルグアニジン臭化水素酸塩 2%
1-メチル-4-イソプロピル-1-シクロヘキセン-8-オール(112℃)
40%
安息香酸ブチル(130℃) 3%
フラックスg(一般的なフラックス)
重合ロジン 50%
水素添加ヒマシ油 5%
ジフェニルグアニジン臭化水素酸塩 2%
ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル(141℃) 40%
安息香酸ブチル(130℃) %
これらのソルダペーストの連続印刷性およびボイド発生率を下記の試験方法により評価した。試験結果を、フラックス中の主溶剤(最も量の多い溶剤)のTG-15温度、はんだの溶融ピーク温度、およびそれらの温度差と共に、表2に示す。」(6頁下から6行~8頁19行)(当審注:フラックスgについて「安息香酸ブチル(130℃)」の配合量は記載がないが、「3%」であると推定される。)
(キ)表2(9頁)
(ク)「・・・従って、現代の小型化した電子機器および電子部品に用いられる微小なパッドでも、実接合面積のばらつきやそれによる接合強度の低下が発生せず、信頼性の高い電子機器および電子部品を作ることが何能となる。
【産業上の利用可能性】
本発明は、BGAなどモジュール基板のバンプ形成用のソルダペーストとして最適である。・・・」(10頁9~14行)
1-2.甲第1号証に記載された発明
i)甲1の記載事項(ア)から、甲1には、ボイドの発生が少なく、特に大径ボイドの発生を防止することを課題とするソルダペーストについて記載されている。
ii)同(イ)~(エ)から、同課題を解決する手段として、ソルダペーストのフラックス中に含まれる溶剤として、TG法による測定(TG曲線:昇温速度10℃/min、窒素ガス気流300ml/min)で減量率が15質量%になる温度(以下、「TG-15」と記すことがある。)が、粉末はんだの溶融ピーク温度(DSC(示差走査熱量測定法)チャートにおける昇温時の溶融による吸熱がピークとなる温度。以下、「Mp」と記すことがある。)より5℃以上高い溶剤を主として用いることが記載されている。
iii-1)ここで同(カ)には「フラックスa」~「フラックスg」が記載され、それらの全てで使用される「ジフェニルグアニジン臭化水素酸塩」の次に記載される二つ乃至三つの物質は、上記(オ)の記載から溶剤である。
そして、それら溶剤中で、「カルボキシル基及びヒドロキシル基のいずれをも有さない有機酸エステル」であるのは「安息香酸ブチル」「マレイン酸ジブチル」であり、同有機酸エステルの溶剤全量に対する配合量が「10質量%から100質量%」に範囲にあることが明らかなのは「フラックスe」のみである。
iii-2)そこで、ソルダペーストのフラックスとして「フラックスe」に着目すると、上記(カ)から、「フラックスe」は、「重合ロジン 40質量%」と、「ジフェニルグアニジン臭化水素酸塩 2質量%」と、「水素添加ヒマシ油 5質量%」と、「ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル 10質量%」と、「安息香酸ブチル 3質量%」と、「マレイン酸ジブチル 40質量%」とを含む。
そして、「マレイン酸ジブチル」と「安息香酸ブチル」の配合量は、全溶剤である「ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル 10質量%」「安息香酸ブチル 3質量%」「マレイン酸ジブチル 40質量%」(記載されている数値はフラックス中の割合)に対して
81.1質量%(=100×(40+3)/(10+3+40))である。
また、「安息香酸ブチル」のみであれば、同配合量は、5.7%である。
すなわち、「フラックスe」は、「重合ロジン」(「ベースとなる樹脂」)と、「ジフェニルグアニジン臭化水素酸塩」(「活性剤」)と、「水素添加ヒマシ油」(「チキソ剤」)と、「ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル」(「溶剤」)と、別の溶剤である「安息香酸ブチル」と「マレイン酸ジブチル」を含み、「安息香酸ブチル」と「マレイン酸ジブチル」の配合量は溶剤全量に対して81.1質量%となるが、「安息香酸ブチル」のみでは同配合量は5.7%となるものである。
iv)同(イ)、(カ)及び(キ)の表2と同表の欄外の注「2TG-15」から、「フラックスe」については、「フラックスe」において、主溶剤すなわち最も多く配合されている溶剤である「マレイン酸ジブチル」は「昇温速度10℃/min、窒素ガス気流300ml/minで減量率が15質量%になる温度」である「TG-15」を有し、それは具体的には「155℃」であるが、「TG-15」が粉末はんだの溶融ピーク温度より5℃以上高いものであると、同(エ)から、「溶剤によるボイド発生が著しく抑制され、特に大径ボイドの発生を実質的に完全に防止」できるという効果を奏するといえる。
そして、同効果について、上記(オ)には「TG-15温度がはんだの溶融ピーク温度より低い溶剤も、本発明の効果を著しく損なわない範囲の量、望ましくは溶剤全体の30質量%以内の量であれば、溶剤の一部として使用することができる。」と記載されている。
これは具体的には、「安息香酸ブチル」の「TG-15」は、上記(カ)から「130℃」であり、上記(キ)であげられている全ての「粉末はんだ」の「溶融ピーク温度」より低いが、「安息香酸ブチル」は溶剤全体の5.7%だから、「安息香酸ブチル」が「マレイン酸ジブチル」と共に使用されても、「マレイン酸ジブチル」の「TG-15」が粉末はんだの溶融ピーク温度より5℃以上高いものであれば、「マレイン酸ジブチル」により、上記効果が奏されるといえる。
v)そして、本件特許明細書【0070】の記載から本件発明の実施例で使用されるはんだ合金粉末の溶融ピーク温度は最大でも248℃であることを考慮し、同(キ)の表2から、使用する粉末はんだの溶融ピーク温度毎に「フラックスe」を用いる場合の「ソルダペースト」について、以下の1)2)3)の3種類に着目する。
1)ペースト番号19 「粉末はんだC:Sn-3Ag-0.5Cu Mp=218℃」と「フラックスe」でなる「ソルダペースト」
2)ペースト番号26 「粉末はんだD:Sn-1Ag-57Bi Mp=139℃」と「フラックスe」でなる「ソルダペースト」
3)ペースト番号12 「粉末はんだB:Sn-37Pb Mp=183℃」と「フラックスe」でなる「ソルダペースト」
ここで、同(キ)の表2から、1)及び3)の「ソルダペースト」は、「マレイン酸ジブチル」の「TG-15」(155℃)が、「粉末はんだの溶融ピーク温度より5℃以上高いもの」でないので「大径ボイド数(個)」「ボイド総数(個)」が共に多く、2)の「ソルダペースト」のみが、「マレイン酸ジブチル」の「TG-15」(155℃)が、「粉末はんだの溶融ピーク温度より5℃以上高いもの」なので、「大径ボイド数(個)」をゼロにでき、「ボイド総数(個)」を少なく出来て、甲第1号証に記載の発明の同(ア)の課題を解決できるものであるが、1)~3)の「ソルダペースト」が甲第1号証に記載されていることは同表2から把握されるものである。
vi)上記1)2)3)の 「ソルダペースト」で用いるフラックスについて、本件発明2~4を特定する請求項2~4の記載に則して整理すると、甲第1号証には、以下に記す引用発明1~3が記載されていると認められる。
1)「はんだ合金粉末と混合してソルダペーストを構成するフラックス組成物であって、重合ロジンと、ジフェニルグアニジン臭化水素酸塩と、水素添加ヒマシ油と、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテルと、安息香酸ブチルと、マレイン酸ジブチルを含み、
前記はんだ合金粉末を構成するはんだ合金の溶融ピーク温度が218℃の場合におけるマレイン酸ジブチルの減量率(TG法を用いて測定。昇温温度10℃/min、窒素ガス流量300ml/min)が15質量%となる温度は155℃であり、
前記安息香酸ブチルの配合量は前記溶剤全量に対して5.7質量%であるフラックス組成物。」(以下、「引用発明1」という。)
2)「はんだ合金粉末と混合してソルダペーストを構成するフラックス組成物であって、重合ロジンと、ジフェニルグアニジン臭化水素酸塩と、水素添加ヒマシ油と、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテルと、安息香酸ブチルと、マレイン酸ジブチルを含み、
前記はんだ合金粉末を構成するはんだ合金の溶融ピーク温度が139℃の場合におけるマレイン酸ジブチルの減量率(TG法を用いて測定。昇温温度10℃/min、窒素ガス流量300ml/min)が15質量%となる温度は155℃であり、
前記安息香酸ブチルの配合量は前記溶剤全量に対して5.7質量%であるフラックス組成物。」(以下、「引用発明2」という。)
3)「はんだ合金粉末と混合してソルダペーストを構成するフラックス組成物であって、重合ロジンと、ジフェニルグアニジン臭化水素酸塩と、水素添加ヒマシ油と、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテルと、安息香酸ブチルと、マレイン酸ジブチルを含み、
前記はんだ合金粉末を構成するはんだ合金の溶融ピーク温度が183℃の場合におけるマレイン酸ジブチルの減量率(TG法を用いて測定。昇温温度10℃/min、窒素ガス流量300ml/min)が15質量%となる温度は155℃であり、
前記安息香酸ブチルの配合量は前記溶剤全量に対して5.7質量%であるフラックス組成物。」(以下、「引用発明3」という。)
以下、用いられる「はんだ合金の溶融ピーク温度」の共通するもの同士で、本件発明と引用発明を対比検討する。
1-3.本件発明2について
(1)本件発明2と引用発明2との対比
i)ここで、ソルダペーストにおいて「重合ロジン」がフラックスのベースとなる樹脂であることは技術常識といえ、上記(カ)から、「ジフェニルグアニジン臭化水素酸塩」は「活性剤」であり、「水素添加ヒマシ油」は「チキソ剤」であり、「安息香酸ブチル」と「マレイン酸ジブチル」は「カルボキシル基及びヒドロキシル基のいずれをも有さない有機酸エステル」である溶剤であり、「ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル」は別の溶剤であるといえる。
すると、引用発明2の「はんだ合金粉末と混合してソルダペーストを構成するフラックス組成物であって、重合ロジンと、ジフェニルグアニジン臭化水素酸塩と、水素添加ヒマシ油と、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテルと、安息香酸ブチルと、マレイン酸ジブチルを含み、」は、本件発明2の「はんだ合金粉末と混合してソルダペースト組成物を構成するフラックス組成物であって、(A)ベース樹脂と、B)活性剤と、(C)チクソ剤と、(D)溶剤とを含み」に相当する。
ii)本件発明2の「有機酸エステル」は「カルボキシル基及びヒドロキシル基のいずれをも有さない有機酸エステル(ただし、マレイン酸ジブチルを除く)」であるから、引用発明2の「マレイン酸ジブチルと安息香酸ブチル」の内の「安息香酸ブチル」が、本件発明2の「カルボキシル基及びヒドロキシル基のいずれをも有さない有機酸エステル(ただし、マレイン酸ジブチルを除く)」に相当する。
iii)引用発明2の対象とする「はんだ合金粉末を構成するはんだ合金の溶融ピーク温度が139℃」だから、これは本件発明2の「はんだ合金粉末を構成するはんだ合金の溶融ピーク温度が130℃以上175℃未満」に包含される。
iv)すると、本件発明2と引用発明2とは、
「はんだ合金粉末と混合してソルダペースト組成物を構成するフラックス組成物であって、
(A)ベース樹脂と、(B)活性剤と、(C)チクソ剤と、(D)溶剤とを含み、
前記溶剤(D)として(D-1)カルボキシル基及びヒドロキシル基のいずれをも有さない有機酸エステルである安息香酸ブチルを含み、はんだ合金粉末を構成するはんだ合金の溶融ピーク温度が130℃以上175℃未満である、 フラックス組成物。」である点で一致し、次の点で相違する。
<相違点1>溶剤(D)として、本件発明2では「マレイン酸ジブチル」を含まないが、引用発明2では「マレイン酸ジブチル」を含む点。
<相違点2>本件発明2では「前記有機酸エステル(D-1)の減量率(TG法を用いて測定。昇温温度10℃/min、窒素ガス流量200ml/min、サンプル量10mg)が100質量%となる温度は180℃以上且つ前記はんだ合金粉末を構成するはんだ合金の溶融ピーク温度+50℃以下」であるのに対して、引用発明2では、「有機酸エステル(D-1)」にあたる「安息香酸ブチル」において「減量率(TG法を用いて測定。昇温温度10℃/min、窒素ガス流量200ml/min、サンプル量10mg)が100質量%となる温度は180℃以上且つ前記はんだ合金粉末を構成するはんだ合金の溶融ピーク温度+50℃以下」であるのか、不明な点。
<相違点3>「前記溶剤(D)全量に対して」の「有機酸エステル(D-1)の配合量」について、本件発明1では「10質量%から100質量%である」のに対して、引用発明2では「有機酸エステル(D-1)」にあたる「安息香酸ブチル」が「5.7質量%」である点。
<相違点4>「はんだ合金粉末を構成するはんだ合金の溶融ピーク温度が130℃以上175℃未満の場合」において、本件発明2では、「前記有機酸エステル(D-1)の減量率(TG法を用いて測定。昇温温度10℃/min、窒素ガス流量200ml/min、サンプル量10mg)が100質量%となる温度は180℃以上且つ225℃未満である」のに対して、引用発明2では「マレイン酸ジブチルの減量率(TG法を用いて測定。昇温温度10℃/min、窒素ガス流量300ml/min)が15質量%となる温度は155℃」である点。
(2)相違点の検討
事案に鑑み相違点1について検討する。
上記「1-2.iv)」での検討から、引用発明2で用いる「フラックスe」において、主溶剤すなわち最も多く配合されている溶剤である「マレイン酸ジブチル」の「昇温速度10℃/min、窒素ガス気流300ml/minで減量率が15質量%になる温度」(「TG-15」)が粉末はんだの溶融ピーク温度より5℃以上高いものであると、上記(エ)から、「溶剤によるボイド発生が著しく抑制され、特に大径ボイドの発生を実質的に完全に防止」できるという効果を奏するものである。
すると、引用発明2は、「マレイン酸ジブチル」がフラックス組成物から除去されると上記効果を奏することができないものとなるので、「マレイン酸ジブチル」は当該効果を奏するために引用発明2において必須の成分といえる。
したがって、引用発明2において、「マレイン酸ジブチル」を除外することには阻害要因があるといえ、相違点1に係る特定事項は容易に想到できない。
なお、他の甲各号証には、以下に記載するように、上記阻害要因を緩和できるような記載や示唆は見いだせない。
ア 甲第2号証の記載
甲第2号証には、「ハンダペースト」の「長期の保存」のために「吸湿性」のある「チキソトロピック剤の含有率を減じて吸湿性を抑制」するために、「二塩基酸の一価アルコールエステル」を「ハンダペースト」の「フラックス」に含ませることが記載され、「二塩基酸の一価アルコールエステル」として本件発明の「カルボキシル基及びヒドロキシル基のいずれをも有さない有機酸エステル(ただし、マレイン酸ジブチルを除く)」に相当する物質が記載されている。(【請求項1】【請求項7】【0013】【0014】)
しかし、引用発明2(ボイドの発生防止)と甲第2号証に記載の技術手段(長期保存)とは課題が相違するから、引用発明に甲第2号証に記載の技術手段を適用する動機付けに欠け、適用できるとしても、引用発明において上記阻害要因を緩和できるものとはいえない。
イ 甲第3号証の記載
甲第3号証には、「厳しい温度サイクル」に「長期間耐えられるだけでなく」「縁石への乗り上げや前の車との衝突などで発生する外部からの力に対しても長期間耐える事が可能なはんだ合金」を得るために、はんだ合金元素として「Bi」「Sb」を添加することが記載されている。([0011][0013])
したがって、甲第3号証に記載の技術手段ははんだ合金に関するものだから、「フラックス」の成分に関する引用発明2の上記阻害要因の検討に資することはできない。
ウ 甲第4号証の記載
甲第4号証には、「はんだ付けの際に実装品の熱損傷を防ぐ」ために「はんだ付け温度を低減する」に際し、「鉛フリーはんだ合金」に「Biを添加すればよいが、Biを大量に添加すると、はんだが非常に脆くなる」ので、その添加量を調整することが記載されている。(【0005】【0008】)
したがって、甲第4号証に記載の技術手段ははんだ合金に関するものだから、「フラックス」の成分に関する引用発明2の上記阻害要因の検討に資することはできない。
エ 甲第5号証の記載
甲第5号証は記載不備の指摘のために引用された文献であるが検討しておく。
甲第5号証には、「水添ロジン(ロジン系樹脂)」「ジフェニルグアニジン臭化水素酸塩(活性剤)」「アジピン酸(活性剤)」「水添ヒマシ油(チクソ剤)」「エチレングリコールモノブチルエーテル(溶剤)」「マロン酸ジメチル」からなるソルダペーストのフラックスが記載されており、この構成は本件発明の「はんだ合金粉末と混合してソルダペースト組成物を構成するフラックス組成物であって、(A)ベース樹脂と、(B)活性剤と、(C)チクソ剤と、(D)溶剤とを含み、前記溶剤(D)として(D-1)カルボキシル基及びヒドロキシル基のいずれをも有さない有機酸エステル(ただし、マレイン酸ジブチルを除く)を含」むものにあたり、ボイドの発生を低減する事を課題としている。(【0008】【0018】)
しかしながら、甲第5号証には、「有機酸エステル」の「TG法」に関する「減量率」についての記載も示唆もなく、「マレイン酸ジブチル」についての記載もない。
したがって、引用発明2に甲第5号証に記載の技術手段を適用できたとしても、引用発明において上記阻害要因を緩和できるものとはいえない。
オ 甲第6号証について
甲第6号証は、意見書等で主張された効果の参酌について記載されたもので、技術的内容は記載がない。
(3)本件発明2についての結言
以上から、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明2は、引用発明2と同一発明とはいえないし、また、引用発明2に基づいて、又は、引用発明2と甲第3~6号証の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
1-4.本件発明3について
(1)本件発明3と本件発明2の関係、及び、引用発明3と引用発明2の関係
本件発明3と本件発明2とは、「はんだ合金の溶融ピーク温度」(以下、「Mp」と記すことがある。)と「減量率(TG法を用いて測定。昇温温度10℃/min、窒素ガス流量200ml/min、サンプル量10mg)が100質量%となる温度」(以下、「TG-100」と記すことがある。)について、前者が「175℃≦Mp<205℃」で「180℃≦(TG-100)<255℃」であるのに対して、後者は「130℃≦Mp<175℃」で「180℃≦(TG-100)<225℃」である点のみで異なり、その余の点で一致する。
また、引用発明3と引用発明2とは、「(TG-15)=155℃」となるときのMpについて、前者が「Mp=183℃」であるのに対して、後者は「Mp=139℃」である点のみで異なり、その余の点で一致する。
(2)本件発明3と引用発明3との対比
上記(1)と「1-3.(1)」の検討を踏まえると、本件発明3と引用発明3とは、
「はんだ合金粉末と混合してソルダペースト組成物を構成するフラックス組成物であって、
(A)ベース樹脂と、(B)活性剤と、(C)チクソ剤と、(D)溶剤とを含み、
前記溶剤(D)として(D-1)カルボキシル基及びヒドロキシル基のいずれをも有さない有機酸エステルである安息香酸ブチルを含み、はんだ合金粉末を構成するはんだ合金の溶融ピーク温度が175℃以上205℃未満である、 フラックス組成物。」である点で一致し、次の点で相違する。
<相違点1*>溶剤(D)として、本件発明3では「マレイン酸ジブチル」を含まないが、引用発明3では「マレイン酸ジブチル」を含む点。
<相違点2*>本件発明3では「前記有機酸エステル(D-1)の減量率(TG法を用いて測定。昇温温度10℃/min、窒素ガス流量200ml/min、サンプル量10mg)が100質量%となる温度は180℃以上且つ前記はんだ合金粉末を構成するはんだ合金の溶融ピーク温度+50℃以下」であるのに対して、引用発明3では、「有機酸エステル(D-1)」にあたる「安息香酸ブチル」において「減量率(TG法を用いて測定。昇温温度10℃/min、窒素ガス流量200ml/min、サンプル量10mg)が100質量%となる温度は180℃以上且つ前記はんだ合金粉末を構成するはんだ合金の溶融ピーク温度+50℃以下」であるのか、不明な点。
<相違点3*>「前記溶剤(D)全量に対して」の「有機酸エステル(D-1)の配合量」について、本件発明3では「10質量%から100質量%である」のに対して、引用発明3では「有機酸エステル(D-1)」にあたる「安息香酸ブチル」が「5.7質量%」である点。
<相違点4*>「はんだ合金粉末を構成するはんだ合金の溶融ピーク温度が175℃以上205℃未満の場合」において、本件発明3では、「前記有機酸エステル(D-1)の減量率(TG法を用いて測定。昇温温度10℃/min、窒素ガス流量200ml/min、サンプル量10mg)が100質量%となる温度は180℃以上且つ255℃未満である」のに対して、引用発明3では「マレイン酸ジブチルの減量率(TG法を用いて測定。昇温温度10℃/min、窒素ガス流量300ml/min)が15質量%となる温度は155℃」である点。
(3)相違点の検討
相違点1*は、上記「1-3(1)」の相違点1と同じなので、「1-3(2)相違点の検討」を援用する。
引用発明3において、相違点1*に係る特定事項とすることは容易に想到できない。
(4)本件発明3についての結言
以上から、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明3は、引用発明3と同一発明とはいえないし、また、引用発明3に基づいて、又は、引用発明3と甲第3~6号証の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
1-5.本件発明4について
(1)本件発明4と本件発明2の関係、及び、引用発明1と引用発明2の関係
本件発明4と本件発明2とは、前者が「205℃≦Mp」で「180℃≦(TG-100)<Mp+50℃」であるのに対して、後者は「130℃≦Mp<175℃」で「180℃≦(TG-100)<225℃」である点のみで異なり、その余の点で一致する。
また、引用発明1と引用発明2とは、「(TG-15)=155℃」となるときのMpについて、前者が「Mp=218℃」であるのに対して、後者は「Mp=139℃」である点のみで異なり、その余の点で一致する。
(2)本件発明4と引用発明1との対比
上記(1)と「1-3.(1)」の検討を踏まえると、本件発明4と引用発明1とは、
「はんだ合金粉末と混合してソルダペースト組成物を構成するフラックス組成物であって、
(A)ベース樹脂と、(B)活性剤と、(C)チクソ剤と、(D)溶剤とを含み、
前記溶剤(D)として(D-1)カルボキシル基及びヒドロキシル基のいずれをも有さない有機酸エステルである安息香酸ブチルを含み、はんだ合金粉末を構成するはんだ合金の溶融ピーク温度が205℃以上である、 フラックス組成物。」である点で一致し、次の点で相違する。
<相違点1※>溶剤(D)として、本件発明4では「マレイン酸ジブチル」を含まないが、引用発明1では「マレイン酸ジブチル」を含む点。
<相違点2※>本件発明4では「前記有機酸エステル(D-1)の減量率(TG法を用いて測定。昇温温度10℃/min、窒素ガス流量200ml/min、サンプル量10mg)が100質量%となる温度は180℃以上且つ前記はんだ合金粉末を構成するはんだ合金の溶融ピーク温度+50℃以下」であるのに対して、引用発明1では、「有機酸エステル(D-1)」にあたる「安息香酸ブチル」において「減量率(TG法を用いて測定。昇温温度10℃/min、窒素ガス流量200ml/min、サンプル量10mg)が100質量%となる温度は180℃以上且つ前記はんだ合金粉末を構成するはんだ合金の溶融ピーク温度+50℃以下」であるのか、不明な点。
<相違点3※>「前記溶剤(D)全量に対して」の「有機酸エステル(D-1)の配合量」について、本件発明4では「10質量%から100質量%である」のに対して、引用発明1では「有機酸エステル(D-1)」にあたる「安息香酸ブチル」が「5.7質量%」である点。
<相違点4※>「はんだ合金粉末を構成するはんだ合金の溶融ピーク温度が205℃以上の場合」において、本件発明4では、「前記有機酸エステル(D-1)の減量率(TG法を用いて測定。昇温温度10℃/min、窒素ガス流量200ml/min、サンプル量10mg)が100質量%となる温度は180℃以上且つ前記溶融ピーク+50℃以下である」のに対して、引用発明1では「マレイン酸ジブチルの減量率(TG法を用いて測定。昇温温度10℃/min、窒素ガス流量300ml/min)が15質量%となる温度は155℃」である点。
(3)相違点の検討
相違点1※は、上記「1-3(1)」の相違点1と同じなので、「1-3(2)相違点の検討」を援用する。
引用発明1において、相違点1※に係る特定事項とすることは容易に想到できない。
(4)本件発明4についての結言
以上から、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明4は、引用発明1と同一発明とはいえないし、また、引用発明1に基づいて、又は、引用発明1と甲第3~6号証の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
1-6.異議申立理由及び当審取消理由の新規性、進歩性についての結言
また、本件発明5~12は、いずれも本件発明2~4を直接又は間接的に引用した上で、本件発明2~4をさらに特定するものであるから、本件発明2~4と同様である。
以上から、本件発明3、4、6~9、12は甲第1号証に記載された発明ではなく、本件発明2~12は甲第1号証に記載された発明及び甲第2~6号証に記載の技術手段に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
2.記載不備について
取消理由で通知した記載不備の理由は、上記「第5」でみたように、「D.異議申立理由2の(2)」及び「E.記載不備についての取消理由(当審で発見)」の二つであり、これらについて判断する。
2-1.D.異議申立理由2の(2)について
(1)申立人の主張の概要
発明の詳細な説明には、課題を解決出来ることが確認できた「(B)活性剤」についての実施例がただ一つ(全実施例、全比較例を通じて「マロン酸0.5%」「コハク酸0.5%」「スベリン酸1.5%」「ピコリン酸1.0%」「2-ブロモヘキサン1.5%」を全て用いた組合せの場合のみ)記載されているにすぎず、出願時の技術常識に照らしても、発明の詳細な説明に開示された内容を、本件発明の範囲にまで拡張ないし一般化できるものとはいえない。
したがって、本件発明は、発明の詳細な説明に記載されたものであるとはいえず、同発明に係る特許は、特許法第36条第6項第1号の規定を満たしていない発明に対してされたものであるので、取り消されるべきものである。
(2)当審の判断
本件発明は、リフローはんだ付時のボイド発生を抑制しつつはんだ付後のフラックス残さのべとつきを抑制し得るフラックス組成物を得ることを課題とし(【0009】)、その解決手段として、活性剤が溶剤中で電離して有機酸イオン(RCOO-)やハロゲン化物イオンが発生しても、それらが溶媒和しないように、有機酸エステル(D-1)は上記カルボキシル基及びヒドロキシル基のいずれをも有さないので、活性剤がはんだ合金粉末と反応せず、リフロー加熱まで活性が保たれるもの(【0050】)とするものであることが記載され、それゆえ、「(B)活性剤」はそのような性質を有するものである必要があるといえるし、本件特許明細書【0039】~【0043】にはそのような性質を持つ種々の活性剤について記載されているといえる。
そうであれば、課題を解決するための機序は明らかであり、当該機序に従い得る種々の活性剤の具体例も記されているのだから、実験により課題が解決できることが確認できた事例が一つしか記載されていないとしても、当業者であれば、実験例で効果が確認されていなくても、本件発明の活性剤であれば課題を解決できることを十分に認識し得るといえる。
それゆえ、本件発明は特許法第36条第6項第1号の規定を満たすものである。
2-2.E.記載不備についての取消理由(当審で発見)について
本取消理由は、本件特許公報記載の請求項1に係る発明において、使用されるはんだ合金について何ら特定がないところ、技術常識に照らして、同発明があらゆるはんだ合金(溶融ピーク温度)に対して課題を解決できるものとは認められないので、出願時の技術常識に照らして、同請求項1に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえず、請求項1の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載されたものでないとするものであったところ、上記した本件訂正請求により請求項1が削除されたため、本取消理由の対象となる請求項がなくなったので、本取消理由は解消されたものである。
第7 取消理由として通知しなかった異議申立理由の判断
取消理由として通知しなかった上記「第4」の<異議申立理由2>(1)(3)について判断する。
1.「第4」の<異議申立理由2>(1)について
(1)申立人の主張の概要
甲第5号証の「ソルダペースト組成物」のフラックスは本件発明の「フラックス組成物」に相当し、「低分子二塩基酸ジアルキルエステル系化合物」は本件発明の「(D-1)カルボキシル基及びヒドロキシル基のいずれをも有さない有機酸エステル(ただし、マレイン酸ジブチルを除く)」にあたるといえる。
そして、甲第5号証には、「ボイドの発生を減少」させる「ソルダペースト組成物」が記載され、同組成物のフラックスにおいて、「低分子二塩基酸ジアルキルエステル系化合物」の添加量は「0.1%以上10.0%以下、特に0.3%~1%が好ましい。添加量0.1%未満ではソルダペーストへ添加した効果が見られず、添加量10.0%以上では、はんだ付性が悪くなる。」(【0014】)ことが記載されている。
すると、甲第5号証で「低分子二塩基酸ジアルキルエステル系化合物」は「添加量10.0%以上」は添加できないから、本件発明でも同様であるはずなのに、本件特許明細書【0055】から本件発明では「(D-1)カルボキシル基及びヒドロキシル基のいずれをも有さない有機酸エステル(ただし、マレイン酸ジブチルを除く)」をフラックス組成物全量に対して65質量%まで添加できるとされているから、「10.0%」を超える添加の可能な理由が別途存在するはずだが、請求項の記載からはそれは特定されておらず、当該理由の特定されない本件発明は明細書の記載により裏付けられているものとは言えない。
したがって、本件発明は、発明の詳細な説明に記載されたものであるとはいえず、同発明に係る特許は、特許法第36条第6項第1号の規定を満たしていない発明に対してされたものであるので、取り消されるべきものである。
(2)当審の判断
本件発明は「リフローはんだ付時のボイド発生を抑制しつつはんだ付後のフラックス残さのべとつきを抑制し得るフラックス組成物及びソルダペースト組成物を提供する」(【0009】)ことを課題とし、(A)ベース樹脂として「ロジン系樹脂」(【0025】)を、(B)活性剤として「マロン酸」「コハク酸」等(【0040】)を、(C)チクソ剤として「水素添加ヒマシ油」「飽和脂肪酸アミド」「オキシ脂肪酸類」等(【0048】)を、(D)溶剤として「ブチルカルビトール」等(【0049】)を、溶剤(D)として(D-1)カルボキシル基及びヒドロキシル基のいずれをも有さない有機酸エステルを含むものである。
これに対して、甲5に記載の発明は「はんだ付部におけるボイドの発生を減少」(【0001】)することを課題とし、「樹脂成分」として「ロジン系樹脂」(【0011】)を、「活性剤」として「マロン酸」「コハク酸」等(【0012】)を、「チキソ剤」として「水素添加ヒマシ油」「脂肪酸アマイド類」「オキシ脂肪酸類」等(【0013】)を、「溶剤」として「ブチルカルビトール」等(【0049】)を、「低分子二塩基酸ジアルキルエステル系化合物」(【0014】)を含むものである。
ここで、本件発明の「(D-1)カルボキシル基及びヒドロキシル基のいずれをも有さない有機酸エステル(ただし、マレイン酸ジブチルを除く)」は「低分子二塩基酸ジアルキルエステル系化合物」を含むといえるから、本件発明と甲5に記載の発明とは「フラックス組成物」として類似するものといえる。
しかしながら、本件発明は、少なくとも「有機酸エステル(D-1)」について「有機酸エステル(D-1)の減量率(TG法を用いて測定。昇温温度10℃/min、窒素ガス流量200ml/min、サンプル量10mg)が100質量%となる温度は180℃以上且つ前記はんだ合金粉末を構成するはんだ合金の溶融ピーク温度+50℃以下であ」るという特定事項を別途有するものであり、この点は甲5に記載も示唆もない。
すると、本件発明は、「有機酸エステル(D-1)」について、「カルボキシル基及びヒドロキシル基のいずれをも有さない」こととは別に、上記特定事項も有するものであるから、甲5に前者に関する含有量の規定があるからといって、それとは別に後者の特定事項も合わせて有する本件発明の「有機酸エステル(D-1)」が、甲5の前者に関する含有量の規定があてはまらなければならないという必然性は認められない。
したがって、本件発明はサポート要件に適合しないとはいえず、特許法第36条第6項第1号の規定を満たすものである。
2.「第4」の<異議申立理由2>(3)について
(1)申立人の主張の概要
本件特許明細書の実施例では、同じフラックス組成物であっても溶融ピーク温度の異なるはんだ合金を用いたり、溶剤の比率を若干変化させたりするだけで試験結果が変わることが示されているが、このような相違が本件発明を満たすあらゆる材料で発生するとまでは言えない。あらゆるフラックス組成物で、実施例で確認できているような効果の差が発生することまでは実施例で示されておらず、当業者は所望の効果が得られるとまで認識できない。
すなわち、本件特許明細書で確認できるのは実施例に記載されている組成にすぎず、本件特許明細書の記載は、特許請求の範囲の各請求項で規定される範囲と得られる効果(性能)との関係の技術的な意味が、特許出願時において、具体的な開示がなくとも当業者に理解できる程度に記載されておらず、また、特許出願時の技術常識を参酌して、本件の特許請求の範囲の各請求項で規定される範囲内であれば、所望の効果が得られると当業者において認識できるものでもない。
したがって、本件発明は、発明の詳細な説明に記載されたものであるとはいえず、本件発明に係る特許は、特許法第36条第6項第1号の規定を満たしていない発明に対してされたものであるので、取り消されるべきものである。
(2)当審の判断
本件発明の課題は、リフローはんだ付時のボイド発生を抑制しつつはんだ付後のフラックス残さのべとつきを抑制し得るフラックス組成物を得ること(【0009】)であり、その解決手段として、活性剤が溶剤中で電離して有機酸イオン(RCOO-)やハロゲン化物イオンが発生しても、それらが溶媒和しないように、有機酸エステル(D-1)は上記カルボキシル基及びヒドロキシル基のいずれをも有さないので、活性剤がはんだ合金粉末と反応せず、リフロー加熱まで活性が保たれるもの(【0050】)とするものであるという本件発明の機序は本件特許明細書において明らかにされており、さらに、はんだ合金の溶融ピーク温度と有機酸エステル(D-1)のTG法での減量率との関係(【0052】~【0054】)も明らかにされている。
そして本件の特許請求の範囲の各請求項には、上記機序とはんだ合金の溶融ピーク温度と有機酸エステル(D-1)のTG法での減量率との関係が記載されており、その技術的意味は十分に理解される特定となっている。
そうであれば、実施例として記載されているのが、上記機序に従ういくつかの例にすぎず、請求項に記載の範囲を過不足なく示すものでないとしても、本件特許明細書に記載の上記機序等に従うものであれば本件発明の課題を解決できることは明らかであり、本件発明が本件特許明細書に記載されていないとはいえない。
それゆえ、本件発明は特許法第36条第6項第1号の規定を満たすものである。
第8 むすび
以上のとおりであるから、当審の取消理由及び特許異議申立理由によっては、本件請求項2~12に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項2~12に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、訂正により請求項1が削除されたため、請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2019-700038