特許異議申立
2024-700875
はんだ組成物およびフレキシブル回路基板の製造方法
- 審判番号
- 2024-700875
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-150920
- 登録番号
- 7450318
- 請求日
- 2024年09月12日
- 審決日
- 2024年11月22日
- 公報発行日
- 2024年12月27日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】株式会社タムラ製作所
- 【権利者代理人】弁理士法人樹之下知的財産事務所
- 【異議申立人】赤松 智信
- 審判長/審判官
- 審判長 粟野 正明
- 審判官 池渕 立
- 審判官 土屋 知久
- 分類
- P1651.121-Y (B23K) / P1651.537-Y (B23K)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7450318号発明「はんだ組成物およびフレキシブル回路基板の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7450318号の請求項1~5に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7450318号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~5に係る特許についての出願(特願2021-150920号。以下、「本願」という。)は、令和 3年 9月16日の出願であって、令和 6年 3月 7日に特許権の設定登録がされ、同年同月15日に特許掲載公報が発行されたものであり、その後、同年 9月12日に、請求項1~5(全請求項)に係る特許に対し、特許異議申立人である赤松智信(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。
第2 本件特許発明
本件特許の特許請求の範囲の請求項1~5に係る発明(以下、「本件特許発明1」等という。また、これら発明を総称して「本件特許発明」という。)は、本願の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1~5(以下、「本件請求項1」等という。)に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
絶縁被膜がアルカリ現像型ソルダーレジスト膜であるフレキシブル回路基板の製造に用いるはんだ組成物であって、
(A)ロジン系樹脂(ただし、ロジンおよび分子内に水酸基を少なくとも4つ有するポリオールのロジンエステルを除く)、(B)活性剤、(C)チクソ剤、および(D)溶剤を含有するフラックス組成物と、(E)はんだ粉末とを含有し、
前記(B)成分が、(B1)炭素数が3以上8以下であるジカルボン酸を含有し、
前記(C)成分が、(C1)1分子中にヒドロキシ基を有するアマイド系チクソ剤、および(C2)1分子中にヒドロキシ基を有するグリセロール系チクソ剤からなる群から選択される少なくとも1つを含有し、
前記(A)成分の配合量が、前記フラックス組成物100質量%に対して、30質量%以上70質量%以下であり、
前記(B)成分の配合量が、前記フラックス組成物100質量%に対して、2質量%以上6質量%以下であり、
前記(B1)成分の配合量が、前記フラックス組成物100質量%に対して、2質量%以上6質量%以下であり、
前記(C1)成分および前記(C2)成分の合計配合量をXとし、前記(B1)成分の配合量をYとしたとき、下記数式(F1)で示される条件を満たす、
はんだ組成物。
2X/3≦Y≦3X/2・・・(F1)
【請求項2】
請求項1に記載のはんだ組成物において、
前記(C1)成分が、1分子中に2つ以上のヒドロキシ基を有するビスアマイド系チクソ剤である、
はんだ組成物。
【請求項3】
請求項1に記載のはんだ組成物において、
前記(B1)成分以外の有機酸、ハロゲン系活性剤、およびアミン系活性剤を含有しない、
はんだ組成物。
【請求項4】
請求項1に記載のはんだ組成物において、
前記(A)成分の配合量が、前記フラックス組成物100質量%に対して、35質量%以上70質量%以下である、
はんだ組成物。
【請求項5】
請求項1~請求項4のいずれか1項に記載のはんだ組成物を用いてはんだ付けを行うフレキシブル回路基板の製造方法であって、
フレキシブル配線基板上に、前記はんだ組成物を塗布する工程と、
前記はんだ組成物上に電子部品を配置する工程と、
リフロー炉により所定条件にて加熱して、前記電子部品を前記フレキシブル配線基板に実装する工程と、を備える、
フレキシブル回路基板の製造方法。」
第3 申立理由の概要
申立人は、証拠方法として、いずれも本願の出願前に公知となった下記3の甲第1~6号証(以下、それぞれ「甲1」~「甲6」という。)と参考文献1~3を提出し、以下の申立理由1~2により、本件特許の請求項1~5に係る特許は取り消されるべきものである旨主張している。
1 申立理由1(進歩性)
本件特許発明1は、甲1に記載された発明と甲2~甲4に記載された事項に基いて、本件特許発明2は、甲1に記載された発明と甲2~甲5に記載された事項に基いて、本件特許発明3~5は、甲1に記載された発明と甲2~甲6に記載された事項に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
2 申立理由2(サポート要件)
本件請求項1には「絶縁被膜がアルカリ現像型ソルダーレジスト膜であるフレキシブル回路基板の製造に用いるはんだ組成物」と記載されているが、本願の願書に添付した明細書(以下、「本件明細書」という。)には、本件特許発明のはんだ組成物の実施例として実施例1~8が記載されており、これら実施例において、用いられているプリント配線基板「基材:FR-4、基板厚:1.6mm、Cu厚:50μm」は、参考文献2に記載されているように、フレキシブル基板ではなくリジッドな基板であり、用いられているソルダーレジスト膜(タムラ製作所製の「DSR-2200」、フレキシブル配線基板用アルカリ現像型ソルダーレジスト、膜厚:20μm)は、参考文献3に記載されているように、リジッドな回路基板にも用いられるものであってフレキシブル基板専用ではない。
したがって、本件明細書の段落【0039】において、実施例1~8の評価が記載されているが、その評価はフレキシブル回路基板により評価されているのではなく、リジッドな回路基板で評価されているから、本件特許発明のはんだ組成物が、「絶縁被膜がアルカリ現像型ソルダーレジスト膜であるフレキシブル回路基板の製造」という特定の用途において用いることにより格別の効果が奏されることを説明しているものではないから、本件請求項1の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえない。
また、本件請求項1を引用する本件請求項2~5についても同様である。
よって、本件請求項1~5の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえないから、同請求項に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
3 証拠方法
甲第1号証:特開2020-44562号公報
甲第2号証:特開2015-64545号公報
甲第3号証:特開2018-53215号公報
甲第4号証:国際公開第2008/007635号
甲第5号証:特開2015-123491号公報
甲第6号証:特開2019-150870号公報
参考文献1:特開2019-210439号公報
参考文献2:標準マイクロソルダリング技術第3版、編者:社団法人日本溶接協会マイクロソルダリング教育委員会、発行所:日刊工業新聞社、発行:2012年6月25日、88~89頁
参考文献3:特開平4-122086号公報
第4 当審の判断
上記申立理由1~2はいずれも採用できない。その理由は以下に記載のとおりである。
1 甲号証の記載及び甲号証に記載された発明
(1)甲1の記載、及び甲1に記載された発明
ア 甲1には、「レーザーはんだ付け用はんだ組成物および電子基板」(発明の名称)に関して、次の記載がある(なお、下線は当審が付したものであり、「…」は記載の省略を表す。以下同様。)。
(1ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ロジン系樹脂、(B)活性剤、(C)溶剤および(D)チクソ剤を含有するフラックス組成物と、(E)はんだ粉末とを含有し、
前記(A)成分が、(A1)軟化点が130℃以上であり、かつ酸価が200mgKOH/g以下である重合ロジンを含有する
ことを特徴とするレーザーはんだ付け用はんだ組成物。」
(1イ)「【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザーはんだ付け用はんだ組成物および電子基板に関する。」
(1ウ)「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載のようなはんだ組成物によれば、レーザーはんだ付けをする場合に、はんだボールの発生、フラックスの飛散およびフラックス残さの広がりの発生をある程度は抑制できる。しかしながら、はんだボールの発生の抑制については、未だ必ずしも十分なものではなく、更なる向上が求められていた。
なお、はんだボールの発生については、はんだ組成物中の活性剤の配合量を多くすることで、抑制できる傾向にある。しかしながら、活性剤の配合量が多すぎると、絶縁信頼性が低下するおそれがあるので、活性剤を過剰に配合することはできない。
【0006】
本発明は、レーザーはんだ付けをする場合に、はんだボールの発生を十分に抑制できるレーザーはんだ付け用はんだ組成物、およびそれを用いた電子基板を提供することを目的とする。」
(1エ)「【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決すべく、本発明は、以下のようなレーザーはんだ付け用はんだ組成物および電子基板を提供するものである。
本発明のレーザーはんだ付け用はんだ組成物は、(A)ロジン系樹脂、(B)活性剤、(C)溶剤および(D)チクソ剤を含有するフラックス組成物と、(E)はんだ粉末とを含有し、前記(A)成分が、(A1)軟化点が130℃以上であり、かつ酸価が200mgKOH/g以下である重合ロジンを含有することを特徴とするものである。
…
【0010】
本発明のレーザーはんだ付け用はんだ組成物によって、レーザーはんだ付けをする場合に、はんだボールの発生を十分に抑制できる理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。
すなわち、急加熱が行われるレーザーはんだ付けなどで、はんだボールの発生する理由は次の通りであると本発明者らは推察する。つまり、レーザー照射による急加熱によって、流動性が急上昇したフラックスがはんだ粉末の溶融よりも先にパッド外に流れ出し、そのときに、未溶融のはんだ粉末を同時にパッド外に流してしまうことによって生じているものと本発明者らは推察する。これに対し、本発明のレーザーはんだ付け用はんだ組成物は、(A1)軟化点が130℃以上であり、かつ酸価が200mgKOH/g以下である重合ロジンを含有している。そして、本発明では、急加熱を伴うはんだ付けの際に、(A1)成分が、はんだ組成物の表面を覆うように分布する傾向にあり、一時的に皮膜のようになる。かかる皮膜は、高融点の(A1)成分に、他の成分が分散しているものからなるために、比較的に流動性が低い。そのため、かかる皮膜により(B)活性剤や(C)溶剤が飛散してパッド外に流れ出すのを抑制できる。
また、本発明者らは、高融点のロジン系樹脂の中でも、重合ロジンを用いた場合には、驚くべきことに、はんだボールの発生を劇的に抑制できることを見出した。そして、この(A1)成分の作用により、上記本発明の効果が達成されるものと本発明者らは推察する。」
(1オ)「【0037】
[電子基板]
次に、本実施形態の電子基板について説明する。
本実施形態の電子基板は、以上説明したレーザーはんだ付け用はんだ組成物を用いたはんだ付け部を備えることを特徴とするものである。本発明の電子基板は、前記はんだ組成物を用いて電子部品を電子基板(プリント配線基板など)に実装することで製造できる。
本実施形態の電子基板は、具体的には、以下説明する塗布工程、搭載工程およびはんだ付け工程を備える方法で製造できる。
【0038】
塗布工程においては、配線基板の電極上に、塗布装置を用いて、レーザーはんだ付け用はんだ組成物を塗布する。
塗布装置としては、スクリーン印刷機、メタルマスク印刷機、ディスペンサー、およびジェットディスペンサーなどが挙げられる。
配線基板は、リジット基板であってもよく、フレキシブル基板であってもよい。配線基板の基材としては、特に限定されず、公知の基材を適宜用いることができる。
配線の金属としては、銅、銀、および金などが挙げられる。また、配線は、蒸着法、または、めっき法などで形成できる。」
(1カ)「【0042】
次に、本発明を実施例および比較例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。なお、実施例および比較例にて用いた材料を以下に示す。
((A1)成分)
重合ロジンA:重合ロジン(軟化点:140℃、酸価:145mgKOH/g、ガードナー色数:8)、商品名「中国重合ロジン140」、荒川化学工業社製
重合ロジンB:重合ロジン(軟化点:140℃、酸価:145mgKOH/g、ガードナー色数:1以下)、商品名「KR-140」、荒川化学工業社製
((A2)成分)
ロジン系樹脂A:水添酸変性ロジン(軟化点:130℃、酸価:245mgKOH/g)、商品名「KE-604」、荒川化学工業社製
ロジン系樹脂B:完全水添ロジン(軟化点:80℃)、商品名「フォーラルAXE」、Eastman Chemical社製
ロジン系樹脂C:マレイン酸変性ロジン(軟化点:150℃、酸価:320mgKOH/g)、商品名「マルキードNo.33」、荒川化学工業社製
((B)成分)
活性剤A:グルタル酸
活性剤B:ジグリコール酸
活性剤C:エイコサン二酸、商品名「SL-20」、岡村製油社製
((C)成分)
溶剤:ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル(DEH)、日本乳化剤社製
((D1)成分)
チクソ剤A:ポリアマイド(軟化点:215℃)、商品名「ライトアマイドWH-215」、共栄社化学社製
((D2)成分)
チクソ剤B:商品名「スリパックスZHH」、日本化成社製
((E)成分)
はんだ粉末:粒子径は15~25μm、はんだ融点は216~220℃、はんだ組成はSn/Ag/Cu
(他の成分)
酸化防止剤:商品名「イルガノックス245」、BASF社製
【0043】
[実施例1]
重合ロジンA48質量%、活性剤A1.5質量%、活性剤B2質量%、活性剤C2質量%、溶剤38.5質量%、チクソ剤A2質量%、チクソ剤B4質量%、および酸化防止剤2質量%をそれぞれ容器に投入し、らいかい機を用いて混合してフラックス組成物を得た。
得られたフラックス組成物12.5質量%およびはんだ粉末87.5質量%(合計で100質量%)を容器に投入し、混練機にて混合することで、下記表1に示す組成を有するはんだ組成物を調製した。
【0044】
[実施例2~5]
下記表1に示す組成に従い各材料を配合した以外は実施例1と同様にして、はんだ組成物を得た。
[比較例1~3]
下記表1に示す組成に従い各材料を配合した以外は実施例1と同様にして、はんだ組成物を得た。」
(1キ)「【0045】
<はんだ組成物の評価>
はんだ組成物の評価(粘度、はんだボール、ぬれ性)を以下のような方法で行った。得られた結果を表1に示す。
(1)粘度
はんだ組成物の温度25℃における粘度を、スパイラル粘度計(製品名「PCU-02」、Malcom社製)を用いて測定した。
(2)はんだボール
下記の2つの試験条件で、はんだボールをそれぞれ評価した。
(i)試験1
直径0.3mmの銅パッドを100個有する基板に、130μm厚のメタルマスクを使用して、それぞれの銅パッド上にはんだ組成物を印刷した。その後、レーザー波長808nm、スポット径Φ400μm、照射時間0.5秒間の条件で、それぞれの銅パッドにレーザーはんだ付けを行い、試験基板を得た。そして、試験基板を目視にて観察し、以下の基準に従って、はんだボールを評価した。
◎:はんだボールの数が、0個である。
〇:はんだボールの数が、1個以上10個未満である。
×:はんだボールの数が、10個以上である。
(ii)試験2
直径1mmの銅パッドを100個有する基板に、130μm厚のメタルマスクを使用して、それぞれの銅パッド上にはんだ組成物を印刷した。その後、レーザー波長808nm、スポット径Φ1.2mm、照射時間1.0秒間の条件で、それぞれの銅パッドにレーザーはんだ付けを行い、試験基板を得た。そして、試験基板を目視にて観察し、以下の基準に従って、はんだボールを評価した。
◎:はんだボールの数が、30個以下である。
〇:はんだボールの数が、30個以上50個未満である。
△:はんだボールの数が、50個以上100個未満である。
×:はんだボールの数が、100個以上である。
(3)ぬれ性
上記(2)はんだボールの試験で得られた2枚の評価基板(試験1および試験2)のパッド(全200パッド)を、目視にて観察した。そして、以下の基準に従って、ぬれ性を評価した。
〇:ぬれ不足のパッドがない。
△:ぬれ不足のパッドの数が、1つ以上5つ未満である。
×:ぬれ不足のパッドの数が、5つ以上である。
【0046】
【表1】
[図:0001417675000001.jpg]
(当審注:表1の一部のみ抜粋)
【0047】
表1に示す結果からも明らかなように、本発明のレーザーはんだ付け用はんだ組成物を用いた場合(実施例1~5)には、レーザーはんだ付けをする場合に、はんだボールの発生を十分に抑制できることが確認された。」
イ 甲1に記載された発明
(ア)上記ア(1ウ)によれば、甲1の発明が解決しようとする課題の一つは、レーザーはんだ付けをする場合に、はんだボールの発生を十分に抑制できるレーザーはんだ付け用はんだ組成物を提供することである(以下、単に「課題」という。)。
(イ)上記ア(1エ)によれば、(A)ロジン系樹脂、(B)活性剤、(C)溶剤および(D)チクソ剤を含有するフラックス組成物と、(E)はんだ粉末とを含有し、前記(A)成分が、(A1)軟化点が130℃以上であり、かつ酸価が200mgKOH/g以下である重合ロジンを含有する、レーザーはんだ付け用はんだ組成物は、上記課題を解決し得るものであるとされており、上記ア(1キ)の【表1】には、いずれも、上記(A)~(E)の成分を含有するとともに、使用されている重合ロジンA、Bが「軟化点が130℃以上」かつ「酸価が200mgKOH/g以下」の条件を満たす実施例1~5は、「(2)はんだボールの試験1」の結果が◎、○のいずれか(はんだボールの数が10個未満)であって×(はんだボールの数が10個以上)ではなく、「(2)はんだボールの試験2」の結果が◎、○、△のいずれか(はんだボールの数が100個未満)であって×(はんだボールの数が100個以上)ではないから、上記課題を解決し得るものであることが確認されている。
(ウ)上記ア(1キ)の表1の、特に、実施例4のフラックス組成物及びはんだ組成物に注目し、上記ア(1カ)の記載も参照すると、当該フラックス組成物は、フラックス組成物計100.0質量%中に以下の成分を含有している。
(A)ロジン系樹脂のうち(A1)成分として、
・重合ロジンA:重合ロジン(軟化点:140℃、酸価:145mgKOH/g、ガードナー色数:8)、商品名「中国重合ロジン140」、荒川化学工業社製を12.0質量%、
(A)ロジン系樹脂のうち(A2)成分として、
・ロジン系樹脂A:水添酸変性ロジン(軟化点:130℃、酸価:245mgKOH/g)、商品名「KE-604」、荒川化学工業社製を36.0質量%、
(B)活性剤((B)成分)として、
・活性剤A:グルタル酸を1.5質量%、
・活性剤B:ジグリコール酸を2.0質量%、及び
・活性剤C:エイコサン二酸を2.0質量%、
(D)チクソ剤のうち(D1)成分として、
・チクソ剤A:ポリアマイド(軟化点:215℃)、商品名「ライトアマイドWH-215」、共栄社化学社製を2.0質量%、
(D)チクソ剤のうち(D2)成分として、
・チクソ剤B:商品名「スリパックスZHH」、日本化成社製を4.0質量%。
(エ)以上の検討によれば、実施例4のはんだ組成物に注目すると、甲1には、次のレーザーはんだ付け用はんだ組成物の発明が記載されているものと認められる。
「(A)ロジン系樹脂、(B)活性剤、(C)溶剤および(D)チクソ剤を含有するフラックス組成物と、(E)はんだ粉末とを含有し、前記(A)成分が、(A1)軟化点が130℃以上であり、かつ酸価が200mgKOH/g以下である重合ロジンを含有する、レーザーはんだ付け用はんだ組成物であって、
前記フラックス組成物計100.0質量%中に、
前記(A)ロジン系樹脂のうち(A1)成分として、
・重合ロジンA:重合ロジン(軟化点:140℃、酸価:145mgKOH/g、ガードナー色数:8)、商品名「中国重合ロジン140」、荒川化学工業社製を12.0質量%、
前記(A)ロジン系樹脂のうち(A2)成分として、
・ロジン系樹脂A:水添酸変性ロジン(軟化点:130℃、酸価:245mgKOH/g)、商品名「KE-604」、荒川化学工業社製を36.0質量%、
含み、
前記(B)活性剤として、
・活性剤A:グルタル酸を1.5質量%、
・活性剤B:ジグリコール酸を2.0質量%、
・活性剤C:エイコサン二酸を2.0質量%、
含み、
前記(D)チクソ剤のうち(D1)成分として、
・チクソ剤A:ポリアマイド(軟化点:215℃)、商品名「ライトアマイドWH-215」、共栄社化学社製を2.0質量%、
前記(D)チクソ剤のうち(D2)成分として、
・チクソ剤B:商品名「スリパックスZHH」、日本化成社製を4.0質量%
含む、レーザーはんだ付け用はんだ組成物。」
(以下「甲1発明」という。)
(2)甲2の記載
ア 甲2には、「感光性樹脂組成物、ドライフィルム、硬化物およびプリント配線板」(発明の名称)に関して、次の記載がある。
(2ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、感光性樹脂組成物、ドライフィルム、硬化物およびプリント配線板に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、電子機器等に用いられるプリント配線板において、不必要な部分にはんだが付着するのを防止すると共に、回路の導体が露出して酸化や湿気により腐食されるのを防ぐために、回路パターンの形成された基板上の接続孔を除く領域にソルダーレジストが形成される。
【0003】
基板上に所望のパターンのソルダーレジストを形成する方法の一つとして、フォトリソグラフィ技術を利用した形成方法が用いられている。例えば、アルカリ現像型の感光性樹脂組成物からなる感光性ソルダーレジストを、パターンマスクを通して露光した後、アルカリ現像することにより、露光部と非露光部とに生じたアルカリ現像液への溶解性の差を利用してパターンを形成することができる。
【0004】
従来、現像性等の観点から、アルカリ現像型の感光性樹脂組成物として、クレゾールノボラック型のエポキシ樹脂に、アクリル酸等の不飽和モノカルボン酸を反応させて生成した水酸基に、ヘキサヒドロフタル酸無水物等の飽和または不飽和多塩基酸無水物を反応させて得られるカルボキシル基含有樹脂を、樹脂成分の主成分として含有する組成物が主として用いられている(例えば特許文献1)。しかしながら、このような組成物を用いて作製したソルダーレジストは、プリント配線板の製造工程で必要なパンチングによる打ち抜きによって、クラックが入り易いという問題があった。」
(2イ)「【0061】
本発明のアルカリ現像型感光性樹脂組成物は、プリント配線板やフレキシブルプリント配線板のソルダーレジストや層間絶縁層等の硬化皮膜の形成に適している。」
(3)甲3の記載
ア 甲3には、「光硬化性熱硬化性樹脂組成物、ドライフィルム、硬化物およびプリント配線板」(発明の名称)に関して、次の記載がある。
(3ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、光硬化性熱硬化性樹脂組成物、ドライフィルム、硬化物およびプリント配線板に関する。」
(3イ)「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特開2015-121653号公報で提案されているように、ソルダーレジスト中に意図的に気泡を発生させると、気泡が存在する部分(マーキング部分)が、はんだリフロー時や金めっき時に、気泡が存在しない部分(ソルダーレジスト部分)と比較して耐性に劣ることがある。
【0006】
したがって、本発明の目的は、マーキングインキの機能を併せ持つソルダーレジストによって、ソルダーレジスト形成工程とマーキングインキ形成工程を一括で行い、プリント配線板の製造工程を短縮し、製造コストを低減することにある。より具体的には、異なる線量の活性エネルギー線を照射することで硬化塗膜表面に文字や記号を表示することができる光硬化性熱硬化性樹脂組成物を提供することである。」
(3ウ)「【0075】
[光硬化性熱硬化性樹脂組成物の用途]
上記した光硬化性熱硬化性樹脂組成物は、例えば有機溶剤で塗布方法に適した粘度に調整し、基材上に、ディップコート法、フローコート法、ロールコート法、バーコーター法、スクリーン印刷法、カーテンコート法等の方法により塗布し、約60~100℃の温度で組成物中に含まれる有機溶剤を揮発乾燥(仮乾燥)させることにより、タックフリーの乾燥塗膜を形成できる。その後、接触式(または非接触方式)により、パターンを形成したフォトマスクを通して選択的に活性エネルギー線により露光するか、あるいはレーザーダイレクト露光機により直接パターン露光し、未露光部をアルカリ水溶液(例えば0.3~3%炭酸ナトリウム水溶液)により現像してレジストパターンを形成することができる。続いて、レジストパターンを例えば約130~180℃の温度に加熱して熱硬化させることにより、(A)カルボキシル基含有樹脂と(E)熱硬化性成分とが反応し、耐熱性、耐薬品性、耐吸湿性、密着性、電気特性などの諸特性に優れた硬化被膜を形成することができる。
…
【0077】
光硬化性熱硬化性樹脂組成物を塗布して塗膜を形成するための基材としては、予め回路形成されたプリント配線板やフレキシブルプリント配線板の他、紙-フェノール、紙-エポキシ、ガラス布-エポキシ、ガラス-ポリイミド、ガラス布/不繊布-エポキシ、ガラス布/紙-エポキシ、合成繊維-エポキシ、フッ素・ポリエチレン・ポリフェニレンエーテル,ポリフェニレンオキシド・シアネートエステル等を用いた高周波回路用銅張積層板等の材質を用いたもので全てのグレード(FR-4等)の銅張積層板、その他、ポリイミドフィルム、PETフィルム、ガラス基板、セラミック基板、ウエハ板等を用いることができる。」
(4)甲4の記載
ア 甲4には、「感光性アルカリ水溶液可溶型ポリイミド樹脂及びそれを含有する感光性樹脂組成物」(発明の名称)に関して、次の記載がある。
(4ア)「技術分野
[0001] 本発明は、アルカリ水溶液にて現像可能な感光性アルカリ水溶液可溶型ポリイミド樹脂及びそれを用いた感光性樹脂組成物及びその硬化物に関する。更に詳しくは、フレキシブルプリント配線板用ソルダーマスク及びカバーレイ、多層プリント配線板用層間絶縁膜等として有用な、現像性、フレキシブル性、密着性、耐熱性、耐薬品性、耐メッキ性等に優れた硬化物を与える感光性樹脂組成物及びその硬化物に関する。」
(4イ)「発明が解決しようとする課題
[0006] しかしながら、特許文献1に開示されたソルダーマスク組成物の硬化物を用いた場合、表面の耐クラック性は改善されるものの、フレキシブル性の点でまだ不十分であり極度の折り曲げに関しては追随できない点が課題であった。特許文献2の材料はフレキシブル性については良好だが、現在使用されているポリイミドフィルムを用いた力バーレイと比較し、耐熱性及び耐久性において問題があった。また、特許文献3の組成物は、感光性、耐熱性等、諸特性は満足するものの、現像時に使用するアルカリ水溶液が、比較的強いアルカリ水溶液を使用しなければいけないことと、価格が高価である等の問題があった。
本発明の目的は、今日のプリント配線板の高機能化に対応し得る微細な画像をパターニングでき、活性エネルギー線に対する感光性に優れ、希アルカリ水溶液による現像によりパターン形成できると共に、硬化膜が十分なフレキシブル性を有し、優れた耐熱性、無電解金メッキ耐性、基板密着性、耐薬品性等に優れたソルダーマスクインキ及びカバーレイに適する感光性樹脂組成物及びその硬化物を提供することにある。」
(5)甲5の記載
ア 甲5には、「はんだ組成物」(発明の名称)に関して、次の記載がある。
(5ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、はんだ組成物に関する。」
(5イ)「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のようにスズメッキやその他の処理を施したものであっても、はんだぬれ性は必ずしも十分ではなかった。
一方で、スズメッキなどが施された鋼板などのはんだぬれ性を、はんだ組成物の組成の観点から改良する技術としては、例えば、はんだ組成物中の活性剤に、活性の高いハロゲン系活性剤を用いたり、活性剤の配合量を多くしたりすることがある。しかしながら、このような場合には、はんだ付け部分に腐食が発生しやすいという問題や、はんだ組成物のペーストライフが短くなるという問題がある。
【0006】
すなわち、本発明は、スズメッキなどが施された鋼板などのはんだぬれ性を、はんだ組成物の組成の観点から改良した技術であり、本発明の目的は、スズメッキへのはんだぬれ性が優れ、かつはんだ付け部分での腐食を十分に抑制できるはんだ組成物を提供することにある。」
(5ウ)「【実施例】
【0033】
次に、本発明を実施例および比較例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。なお、実施例および比較例にて用いた材料を以下に示す。
((A2)成分)
ロジン系樹脂A:水添酸変性ロジン(軟化点:130℃)
ロジン系樹脂B:重合ロジン(軟化点:140℃)
ロジン系樹脂C:マレイン酸変性ロジン(軟化点:148℃)
((A1)成分)
ロジン系樹脂D:水添ロジンエステル(軟化点:85℃)
((B)成分)
活性剤:スベリン酸
((C)成分)
溶剤:ヘキシルジグリコール
((D)成分)
アミン系化合物:商品名「キュアゾール2E4MZ」、四国化成社製
((E)成分)
はんだ粉末:平均粒子径28μm、はんだ融点217~224℃、はんだ組成Sn98.3質量%/Ag1.0質量%/Cu0.7重量%
(他の成分)
チクソ剤:脂肪酸アマイド(脂肪酸アミド)、商品名「スリパックスH」、日本化成社製
酸化防止剤:ヒンダントフェノール系酸化防止剤、商品名「イルガノックス245」、チバ・ジャパン社製」
(5エ)「【0037】
【表1】
[図:0001417675000002.jpg]
」
(6)甲6の記載
ア 甲6には、「フラックス及びはんだペースト」(発明の名称)に関して、次の記載がある。
(6ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、はんだ付けに用いるフラックスに関し、とりわけ、リフローはんだ付けに用いるのに適したフラックスに関する。」
(6イ)「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、低分子二塩基酸ジアルキルエステル化合物は、フラックスに一般に使用されているロジン樹脂やグリコール系溶剤との相溶性が高いとは言えない。そのため、低分子二塩基酸ジアルキルエステル化合物をフラックスに添加すると、フラックスやはんだペーストを製造する際の混合効率が低下する。また、長期保存の際にフラックスが相分離するおそれもある。
【0005】
そこで、本発明は、製造効率や保存安定性を損なうことなく、ボイドの発生の少ないはんだ付けを実現できるはんだ付け用フラックスやはんだペーストを提供することを目的とする。」
(6ウ)「【0038】
結果を表1に示す。溶剤として2-ヘキシルデカノール(炭素数が16の一価のアルコール)とグリコール系溶剤を併用した実施例1-28のフラックスは、良好な乾燥性と低ボイド発生率を両立し、しかもはんだぬれ性も良好であった。
【表1】
[図:0001417675000003.jpg]
」
2 申立理由1(甲1を主引例とする進歩性)について
(1)本件特許発明1について
ア 本件特許発明1と甲1発明との対比
(ア)特許異議申立書において、甲1発明の「中国重合ロジン140」及び「KE-604」の構造式が示されていないため、「ロジンおよび分子内に水酸基を少なくとも4つ有するポリオールのロジンエステルを除く」ものに該当するか不明であることを踏まえると、甲1発明の「・重合ロジンA:重合ロジン(軟化点:140℃、酸価:145mgKOH/g、ガードナー色数:8)、商品名「中国重合ロジン140」、荒川化学工業社製」及び「・ロジン系樹脂A:水添酸変性ロジン(軟化点:130℃、酸価:245mgKOH/g)、商品名「KE-604」、荒川化学工業社製」と、本件特許発明1の「(A)ロジン系樹脂(ただし、ロジンおよび分子内に水酸基を少なくとも4つ有するポリオールのロジンエステルを除く)」とは、「ロジン系樹脂」である限りにおいて共通する。
(イ)上記(ア)の検討を踏まえ、甲1発明の「中国重合ロジン140」及び「KE-604」の含有量の合計が48.0質量%になることも勘案すると、
甲1発明の「前記フラックス組成物計100.0質量%中に、
前記(A)ロジン系樹脂のうち((A1)成分)として、
・重合ロジンA:重合ロジン(軟化点:140℃、酸価:145mgKOH/g、ガードナー色数:8)、商品名「中国重合ロジン140」、荒川化学工業社製を12.0質量%、
前記(A)ロジン系樹脂のうち((A2)成分)として、
・ロジン系樹脂A:水添酸変性ロジン(軟化点:130℃、酸価:245mgKOH/g)、商品名「KE-604」、荒川化学工業社製を36.0質量%、
含」むことと、
本件特許発明1の「(A)ロジン系樹脂(ただし、ロジンおよび分子内に水酸基を少なくとも4つ有するポリオールのロジンエステルを除く)」「を含有し」、「前記(A)成分の配合量が、前記フラックス組成物100質量%に対して、30質量%以上70質量%以下であ」ることとは、
「(A)ロジン系樹脂」「を含有し」、「前記(A)成分の配合量が、前記フラックス組成物100質量%に対して、30質量%以上70質量%以下であ」る限りにおいて共通する。
(ウ)甲1発明の「(B)活性剤」、「(D)チクソ剤」、「(C)溶剤」、「フラックス組成物」、「(E)はんだ粉末」、「はんだ組成物」は、それぞれ、本件特許発明1の「(B)活性剤」、「(C)チクソ剤」、「(D)溶剤」、「フラックス組成物」、「(E)はんだ粉末」、「はんだ組成物」に相当する。
(エ)甲1発明において、「前記フラックス組成物計100.0質量%中に」、「前記(B)活性剤として、・活性剤A:グルタル酸を1.5質量%、・活性剤B:ジグリコール酸を2.0質量%、・活性剤C:エイコサン二酸を2.0質量%」を含むことは、技術常識によれば、グルタル酸は、構造式が
[図:0001417675000004.jpg]
で、炭素数5のジカルボン酸であり、ジグリコール酸は、構造式が
[図:0001417675000005.jpg]
、
で、炭素数4のジカルボン酸であり、エイコサン二酸は、構造式が
[図:0001417675000006.jpg]
で、炭素数が20のジカルボン酸であり、また、ジカルボン酸の含有量の合計が1.5+2.0+2.0=5.5質量%であり、炭素数が3以上8以下であるジカルボン酸の含有量の合計が1.5+2.0=3.5質量%であることを勘案すると、本件特許発明1において、「前記(B)成分が、(B1)炭素数が3以上8以下であるジカルボン酸を含有し」、「前記(B)成分の配合量が、前記フラックス組成物100質量%に対して、2質量%以上6質量%以下であり」、「前記(B1)成分の配合量が、前記フラックス組成物100質量%に対して、2質量%以上6質量%以下であ」ることに相当する。
(オ)甲1発明において、「商品名「ライトアマイドWH-215」、共栄社化学社製」の構造式は、
[図:0001417675000007.jpg]
と推定されるから(共栄社化学社のウエブサイトにおいて製品情報を掲示した、「https://kyoeisha.co.jp/product/toryou/product/light_amide.php」には、ライトアマイドシリーズは、エチレンビスステアロアマイド(EBS)系の構造を有することが記載されており、また、独立行政法人製品評価技術基盤機構の化審法データベースのウエブサイトである、「https://www.nite.go.jp/chem/jcheck/detail.action?cno=110-30-5&mno=2-0831&request_locale=ja」には、エチレンビスステアロマイドの上記構造式が掲載されている。)、本件特許発明1の「(C1)1分子中にヒドロキシ基を有するアマイド系チクソ剤、および(C2)1分子中にヒドロキシ基を有するグリセロール系チクソ剤」のいずれに該当するものでもなく、
「商品名「スリパックスZHH」、日本化成社製」の構造式は、
[図:0001417675000008.jpg]
であるから(National Library of MedicineのウエブサイトにおいてHexamethylene bis-hydroxystearamideについて掲示した「https://pubchem.ncbi.nlm.nih.gov/compound/Hexamethylene-bis-hydroxystearamide」には、上記構造式が掲載され、また、2.4 Synonymsには上記化合物の別名が「SLIPACKS ZHH」であることが示されている。)、本件特許発明1の「(C1)1分子中にヒドロキシ基を有するアマイド系チクソ剤」に該当することを踏まえると、甲1発明において「前記フラックス組成物計100.0質量%中に」、「前記(D)チクソ剤のうち((D1)成分)として、
・チクソ剤A:ポリアマイド(軟化点:215℃)、商品名「ライトアマイドWH-215」、共栄社化学社製を2.0質量%、
前記(D)チクソ剤のうち((D2)成分)として、
・チクソ剤B:商品名「スリパックスZHH」、日本化成社製を4.0質量%
含む」ことは、本件特許発明1において「前記(C)成分が、(C1)1分子中にヒドロキシ基を有するアマイド系チクソ剤、および(C2)1分子中にヒドロキシ基を有するグリセロール系チクソ剤からなる群から選択される少なくとも1つを含有」することに相当する。
(カ)上記(オ)の検討を踏まえると、甲1発明における「前記(C1)成分および前記(C2)成分の合計配合量」である「X」は、(C1)成分に該当する「スリパックスZHH」の含有量(単位は質量%)「4.0」であり(なお、(C1)成分と(C2)成分のいずれにも該当しない「ライトアマイドWH-215」は「X」に貢献しない。)、上記(エ)の検討を踏まえると、甲1発明における「前記(B1)成分の配合量」である「Y」は、「グルタル酸」と「ジグリコール酸」の合計含有量である「3.5」であるから、
2X/3=2×4/3=2.67
3X/2=3×4/2=6
となるので、「2X/3≦Y≦3X/2」なる条件を満たしている。
(キ)以上の検討によれば、本件特許発明1と甲1発明の一致点及び相違点は以下のとおりである。
(一致点)
「(A)ロジン系樹脂、(B)活性剤、(C)チクソ剤、および(D)溶剤を含有するフラックス組成物と、(E)はんだ粉末とを含有し、
前記(B)成分が、(B1)炭素数が3以上8以下であるジカルボン酸を含有し、
前記(C)成分が、(C1)1分子中にヒドロキシ基を有するアマイド系チクソ剤、および(C2)1分子中にヒドロキシ基を有するグリセロール系チクソ剤からなる群から選択される少なくとも1つを含有し、
前記(A)成分の配合量が、前記フラックス組成物100質量%に対して、30質量%以上70質量%以下であり、
前記(B)成分の配合量が、前記フラックス組成物100質量%に対して、2質量%以上6質量%以下であり、
前記(B1)成分の配合量が、前記フラックス組成物100質量%に対して、2質量%以上6質量%以下であり、
前記(C1)成分および前記(C2)成分の合計配合量をXとし、前記(B1)成分の配合量をYとしたとき、下記数式(F1)で示される条件を満たす、
はんだ組成物。
2X/3≦Y≦3X/2・・・(F1)」の点。
(相違点1)
「はんだ組成物」が、本件特許発明1では「絶縁被膜がアルカリ現像型ソルダーレジスト膜であるフレキシブル回路基板の製造に用いる」ものであるのに対して、甲1発明ではそのような特定がなされていない点。
(相違点2)
「ロジン系樹脂」が、本件特許発明1では「(ただし、ロジンおよび分子内に水酸基を少なくとも4つ有するポリオールのロジンエステルを除く)」ものであるのに対して、甲1発明ではそのようなものであるか不明である点。
イ 相違点についての検討
事案に鑑み、最初に相違点2について検討する。
(ア)甲1~甲6のいずれにも、甲1発明に含まれる「中国重合ロジン140」及び「KE-604」の分子構造は記載されていないため、「(ただし、ロジンおよび分子内に水酸基を少なくとも4つ有するポリオールのロジンエステルを除く)」ものであるか不明であるから、相違点2は一致点であるか相違点であるか不明である。
(イ)仮に、相違点2が相違点であるとすると、甲1~甲6のいずれにも、ロジン樹脂として、「(ただし、ロジンおよび分子内に水酸基を少なくとも4つ有するポリオールのロジンエステルを除く)」ものを採用することを動機付ける記載は認められないので、甲1発明において、相違点2に係る本件特許発明1の特定事項とすることが、当業者にとって容易になし得たことであるとはいえない。
(ウ)なお、申立人は、相違点2に関して、特許異議申立書の第11頁において、「甲第1号証の明細書【0015】には、ロジン系樹脂が記載されており、ロジンおよび分子内に水酸基を少なくとも4つ有するポリオールのロジンエステルを除いたものも記載されている。」と記載するに留まり、甲1に記載されたロジン系樹脂のいずれが「(ただし、ロジンおよび分子内に水酸基を少なくとも4つ有するポリオールのロジンエステルを除く)」ものに該当するか何ら説明していないため、相違点2が実質的ではないといえるか、相違点2に係る本件特許発明1の特定事項とすることが当業者にとって容易になし得たことであるとはいえる根拠はない。
(エ)仮に、相違点2が相違点ではないか、相違点であるとしても甲1発明において、相違点2に係る本件特許発明1の特定事項とする動機がある場合、すなわち、甲1発明に含有されるロジン系樹脂の「中国重合ロジン140」及び「KE-604」の少なくともいずれか一方が「(ただし、ロジンおよび分子内に水酸基を少なくとも4つ有するポリオールのロジンエステルを除く)」ものに該当するものであるか、又は、甲1発明において、ロジン系樹脂として「(ただし、ロジンおよび分子内に水酸基を少なくとも4つ有するポリオールのロジンエステルを除く)」ものとする動機がある場合に、甲1発明において、相違点1に係る本件特許発明1の特定事項とすることが、当業者にとって容易になし得たことであるかについて、以下検討する。
(オ)甲1には、上記1(1)ア(1オ)に、甲1のはんだ組成物を用いて、電子部品をフレキシブル基板に実装することができることが記載されており(【0038】参照。)、また、フレキシブル回路基板の絶縁被膜をアルカリ現像型ソルダーレジスト膜とすることは、甲2(上記1(2)ア(2イ)参照)、甲3(上記1(3)ア(3ウ)参照)、甲4(上記1(4)ア(4ア)参照)に記載されているように、当業者にとって周知の技術事項であるといえるから、甲1発明のはんだ組成物を、「絶縁被膜がアルカリ現像型ソルダーレジスト膜であるフレキシブル回路基板の製造に用いる」ものとすること、すなわち、甲1発明において、相違点1に係る本件特許発明1の特定事項とすることは当業者にとって容易になし得たことであるといえる。
(カ)しかしながら、本件明細書によれば、従来、アルカリ現像型ソルダーレジスト膜は、フレキシブル配線基板の絶縁被膜に用いた場合に、はんだ耐熱性に欠点があり、特に、リフローの際、はんだ組成物中に含まれるフラックス成分がソルダーレジスト膜の開口部への浸み込み、剥離が生じやすい傾向にある(【0030】参照)という問題があったが、本件特許発明のはんだ組成物は上記絶縁被膜に作用しにくいものであること(【0007】参照)、具体的には、本件明細書の段落【0038】に記載された「(1)はんだ耐熱性(ベタ塗、パターン)」試験の結果が表示されている【表1】に「◎」又は「○」で示されているように、絶縁被膜に変化は認められず、絶縁被膜が剥離しないものであるという優れた効果を奏するものであることが確認されている。そして、本件特許発明1の奏する当該優れた効果については、いずれの甲号証にも記載も示唆もされておらず、当業者が予測可能なものとはいえない。
(キ)したがって、本件特許発明1は、甲1発明と甲2~甲4の記載に基いて、さらに甲5、甲6の記載を参照したとしても、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(2)本件特許発明2~5について
本件特許発明1を直接又は間接的に引用することにより、本件特許発明1の全ての特定事項を備えた本件特許発明2~5についても、上記(1)と同様の理由によって、甲1に記載された発明と甲2~4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。また、甲5~6の記載をさらに参照したとしてもこの判断は変わらない。
(3)小括
以上のとおりであるから、本件特許発明1~5は、甲1に記載された発明と甲2~6に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
したがって、申立理由1によっては、本件特許の請求項1~5に係る特許を取り消すことはできない。
3 申立理由2(サポート要件)について
(1)本件明細書の段落【0004】の「本発明は、絶縁被膜に作用しにくく、はんだの広がり性に優れるはんだ組成物、並びに、これを用いたフレキシブル回路基板の製造方法を提供することを目的とする。」との記載によれば、本件特許発明が解決しようとする課題は、絶縁被膜に作用しにくく、はんだの広がり性に優れるはんだ組成物、並びに、これを用いたフレキシブル回路基板の製造方法を提供することであると認められる(以下、単に「課題」という。)。
(2)本件明細書には、絶縁被膜に作用しにくく、はんだの広がり性に優れるはんだ組成物について、次の記載がある(下線は当審が付した。)。
「【0008】
本実施形態に係るはんだ組成物は、(A)ロジン系樹脂、(B)活性剤、(C)チクソ剤、および(D)溶剤を含有するフラックス組成物と、(E)はんだ粉末とを含有し、前記(B)成分が、(B1)炭素数が3以上8以下であるジカルボン酸を含有し、前記(C)成分が、(C1)1分子中にヒドロキシ基を有するアマイド系チクソ剤、および(C2)1分子中にヒドロキシ基を有するグリセロール系チクソ剤からなる群から選択される少なくとも1つを含有し、前記(C1)成分および前記(C2)成分の合計配合量をXとし、前記(B1)成分の配合量をYとしたとき、下記数式(F1)で示される条件を満たすものである。
X/2≦Y≦5X・・・(F1)
【0009】
本実施形態によれば、絶縁被膜に作用しにくく、はんだの広がり性に優れるはんだ組成物が得られる理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。
すなわち、プリント配線基板上の絶縁被膜には、フラックス組成物中の有機酸が悪影響を及ぼす。また、有機酸の炭素鎖が短いほど、絶縁被膜への悪影響を及ぼす。しかしながら、炭素鎖が短い有機酸は、はんだの広がり性の観点からは必須の成分である。
これに対し、本実施形態に係るはんだ組成物は、(B1)炭素数が3以上8以下であるジカルボン酸と、(C1)1分子中にヒドロキシ基を有するアマイド系チクソ剤、および(C2)1分子中にヒドロキシ基を有するグリセロール系チクソ剤からなる群から選択される少なくとも1つとを併用している。これらの組合せで使用した場合には、驚くべきことに、(B1)成分による絶縁被膜への悪影響を低減できることが分かった。この理由について、本発明者らは、(C1)成分または(C2)成分により形成される三次元構造によって、(B1)成分による絶縁被膜への悪影響を低減できるものと推察している。
さらに、本発明者らは、(C1)成分および(C2)成分の合計配合量Xと、(B1)成分の配合量Yとが、上記数式(F1)で示される条件を満たすようにすれば、絶縁被膜に作用しにくさと、はんだの広がり性とを両立できることを見出した。以上のようにして、上記本発明の効果が達成されるものと本発明者らは推察する。」
(3)上記(2)の記載によれば、「(A)ロジン系樹脂、(B)活性剤、(C)チクソ剤、および(D)溶剤を含有するフラックス組成物と、(E)はんだ粉末とを含有し、前記(B)成分が、(B1)炭素数が3以上8以下であるジカルボン酸を含有し、前記(C)成分が、(C1)1分子中にヒドロキシ基を有するアマイド系チクソ剤、および(C2)1分子中にヒドロキシ基を有するグリセロール系チクソ剤からなる群から選択される少なくとも1つを含有し、前記(C1)成分および前記(C2)成分の合計配合量をXとし、前記(B1)成分の配合量をYとしたとき、下記数式(F1)で示される条件を満たすものである。
X/2≦Y≦5X・・・(F1)」との要件を満たすはんだ組成物であれば、絶縁被膜に作用しにくく、はんだの広がり性に優れている、すなわち、上記課題を解決し得るものであることを当業者であれば認識できるといえる。
また、上記要件を満たすはんだ組成物の実施例1~8が、絶縁被膜に作用しにくく、はんだの広がり性に優れるはんだ組成物であることは、本件明細書の段落【0039】の【表1】に示されているとおり、実験結果として確認されている。
(4)そして、本件特許発明1~5は、上記要件の全ての事項が特定されているから、上記課題を解決することができることを当業者が認識できる範囲内のものであるといえる。
(5)申立人による上記第3の2の主張について
ア 申立人による上記第3の2の主張は次のとおりである。すなわち、本件明細書に記載された実施例1~8で使用されているのは、リジッドな基板「基材:FR-4、基板厚:1.6mm、Cu厚:50μm」と、リジッドな回路基板にも用いられるソルダーレジスト膜(タムラ製作所製の「DSR-2200」、フレキシブル配線基板用アルカリ現像型ソルダーレジスト、膜厚:20μm)であるから、本件明細書の段落【0039】に記載された実施例1~8の評価は、フレキシブル回路基板により評価されているのではなく、リジッドな回路基板で評価されているので、本件特許発明のはんだ組成物が、「絶縁被膜がアルカリ現像型ソルダーレジスト膜であるフレキシブル回路基板の製造」という特定の用途において用いることにより格別の効果が奏されることを説明しているものではないと主張している。
イ しかしながら、本件特許発明が解決しようとする課題は、上記(1)に記載したように、「絶縁被膜に作用しにくく、はんだの広がり性に優れるはんだ組成物、並びに、これを用いたフレキシブル回路基板の製造方法を提供すること」であって、本件特許発明1~5が当該課題を解決し得るのは、上記(3)、(4)に説示したとおりである。
ウ なお、上記アの主張について、上記実施例1~8で使用されているソルダーレジスト「DSR-2200」は、本件明細書の段落【0038】に明記されているように、「フレキシブル配線基板用アルカリ現像型ソルダーレジスト」である。そして、【表1】の実施例1~8の評価は、当該ソルダーレジストを用いて形成された絶縁被膜が、はんだ耐熱性と広がり性が優れていることをリジッドな基板上で確認したものではあるが、そのような絶縁被膜がフレキシブル回路基板に適用された場合にも同様の効果を奏することは十分推認することができる。
また、申立人は、上記実施例1~8で使用されているソルダーレジスト「DSR-2200」が、フレキシブル回路基板に適用された場合に、本件特許発明のはんだ組成物が、実際に上記課題を解決することができないことを示すための、文献や実験結果等の具体的な根拠を示しているわけでもない。
エ したがって、申立人の上記主張を採用することはできない。
(6)小括
以上の検討によれば、本件特許発明1~5は、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲のものである。
したがって、申立理由2によっては、本件特許の請求項1~5に係る特許を取り消すことはできない。
第5 結び
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件特許の請求項1~5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1~5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-700875