特許拒絶査定不服審判
2019-014226
低損失でナノスケール構造的に均一なコアを有する光ファイバ
- 審判番号
- 2019-014226
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2016-144046外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2019年10月25日
- 審決日
- 2020年11月11日
- 公報発行日
- 2021年05月28日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】オーエフエス ファイテル,エルエルシー
- 【請求人代理人】岡部 讓
- 分類
- P18 .121-Z (G02B) / P18 .113-Z (G02B)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条1項3号特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2016-144046「低損失でナノスケール構造的に均一なコアを有する光ファイバ」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 2月 2日出願公開、特開2017- 27050〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
本願は、平成28年7月22日(パリ条約による優先権主張2015年7月24日、2016年3月31日 米国)の出願であって、その後の主な手続の経緯は、以下のとおりである。
平成28年11月 9日 :出願審査請求書の提出
平成29年11月13日付け:拒絶理由通知(同年11月16日発送)
平成30年 2月16日 :期間延長請求書の提出
同年 5月16日 :手続補正書・意見書の提出
同年10月29日付け:拒絶理由通知(同年11月1日発送)
平成31年 1月25日 :手続補正書・意見書の提出
令和元年 6月25日付け:拒絶査定(同年6月27日送達。
以下「原査定」という。)
同年10月25日 :審判請求書・手続補正書の提出
同年12月 9日 :手続補正書(方式)の提出
令和2年 7月 8日付け:審尋(同年7月9日発送)
なお、請求人に対して、令和2年7月8日付けで期限を指定して回答書を提出する機会を与えたが、請求人からは何ら応答がなかった。
第2 本願発明
本願の請求項1ないし9に係る発明は、令和元年10月25日付けの手続補正により補正された請求項1ないし9に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項6に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「【請求項6】
選択された屈折率プロファイルを形成するように構成されたそれぞれの量及び径方向位置で1つ以上の屈折率変更ドーパントでドープされたコア領域及び周囲のクラッド領域を含む複数の同心領域を備え、
ファイバが20MPaよりも大きい応力の大きさ及びコア半径の2倍と5倍の間の応力の径方向範囲を有する残留軸圧縮応力を有するように構成するそれぞれの量の1つ以上の粘度降下ドーパントで前記コア領域がドープされている、光ファイバ。」(なお、下線は、請求人が手続補正書において付したものである。)
第3 引用文献
1 原査定の拒絶の理由において引用文献1として引用された、特開2013ー122502号公報(以下「引用文献」という。)には、図面とともに、以下の記載がある(下線は、当審で付したものである。以下同様。)。
(1)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
石英ガラスからなる光ファイバであって、
中心軸を含む中心コアと、この中心コアを囲む光学クラッドと、この光学クラッドを囲むジャケットと、を備え、
前記中心コアは、GeO2を含み、前記光学クラッドを基準とした相対屈折率差Δcoreが0.2%以上0.32%以下であり、径方向位置rにおける比屈折率差をΔ(r)としコア半径をaとしたとき下記(1)式で表される屈折率体積vが9%・μm2以上18%・μm2以下であり、
【数1】
前記ジャケットは、前記光学クラッドを基準とした相対屈折率差ΔJが0.03%以上0.20%以下であり、
前記中心コアを構成するガラスの仮想温度が1400~1530℃であり、
前記中心コアに残留する応力が圧縮応力であり、
2mファイバカットオフ波長が1300nm以上であり、
ファイバ長100mでのカットオフ波長が1500nm以下であり、
波長1550nmにおける実効断面積が110μm2以上であり、
波長1550nmにおける伝送損失が0.18dB/km以下である、
ことを特徴とする光ファイバ。
【請求項2】
……
【請求項4】
前記中心コアに残留する応力の絶対値が30MPa以下であることを特徴とする請求項1に記載の光ファイバ。
【請求項5】
……
【請求項9】
前記中心コアと前記光学クラッド部との応力差が20MPa以下であることを特徴とする請求項1に記載の光ファイバ。
」
(2)「【背景技術】
【0002】
100Gbit/s以上の伝送速度に対応する光伝送ネットワークにおいて光伝送路として用いられる光ファイバには低損失および低非線形性が求められる。光ファイバの非線形屈折率をn2とし、光ファイバの実効断面積をAeffとすると、光ファイバの非線形性はn2/Aeffによって規定される。実効断面積Aeffが大きいほどコアへの光パワー密度の集中が避けられるので、非線形性は低減される。汎用のシングルモード光ファイバ(SMF)の実効断面積Aeffは波長1550nmにおいて約80μm2である。しかし、非線形性を低減した光ファイバとしては、実効断面積Aeffが110μm2~180μm2の範囲であることが望ましい。
【0003】
前述のように実効断面積Aeffが大きいほど非線形性が低減され得る。しかし、実効断面積Aeffが大きくなると、マイクロベンド損失が大きくなり、ケーブル化時に損失が大きくなる。また、実効断面積Aeffが大きくなると、汎用シングルモード光ファイバとの接続損失が大きくなる。光ファイバの屈折率構造、樹脂のヤング率および径等により異なるが、実効断面積Aeffがマイクロベンドや接続損失に与える影響を考慮した場合、実効断面積Aeffは130μm2~150μm2であるのが好ましい。
【0004】
……
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、本発明者は、中心コアがGeO2を含む場合、徐冷によりガラスの仮想温度を低減してレーリー散乱を低減しても、レーリー散乱以外の損失成分(以降「余剰損失」という。)が増加する場合があり、必ずしも低損失な光ファイバを得られるとは限らないことを見出した。
【0009】
本発明者の知る限り、ガラスの徐冷による光ファイバの低損失化について記載された非特許文献1および特許文献1や、中心コアとクラッドとの粘度整合による光ファイバの低損失化について記載された非特許文献2等には、中心コアにGeO2が添加されている光ファイバの余剰損失と中心コアの残留応力の絶対値の関係については言及されていない。」
(3)「【0020】
図1は、光ファイバ1の断面図である。光ファイバ1は、SiO2ガラスからなる光ファイバであって、中心軸を含む中心コア11と、この中心コア11を囲む光学クラッド12と、この光学クラッド12を囲むジャケット13とを備える。中心コア11は、GeO2を含み、更にフッ素元素を含んでいてもよい。光学クラッド12は、中心コア11の屈折率より低い屈折率を有する。光学クラッド12は、純SiO2ガラスであってもよいし、フッ素元素が添加されたSiO2ガラスからなってもよい。ジャケット13は、純SiO2ガラスで構成され、塩素元素を含んでいてもよい。
【0021】
…・・
【0024】
光ファイバ1の製造方法は以下のとおりである。先ず、VAD、OVD、MCVD、PCVDといった気相ガラス合成法により光が導波するコアを作成し、該コアの周囲にVAD、OVD、APVD、ロッドインコラプス法やそれに類する方法によりジャケット層を形成して、光ファイバ母材を形成する。ここでコアとジャケットとの間に更に、VAD、OVD、MCVD、ロッドインコラプス法やそれに類する方法により中間光学クラッド層を設けても良い。このようにして作成した光ファイバ母材を線引タワーに把持し、下端部を作業点以上の温度に加熱し、形成された種ガラスを適宜延伸して紡糸し、紡糸した光ファイバの外径を制御しながら、樹脂を付着させるダイス、樹脂を硬化させるUV炉等を経て光ファイバ素線となし、その光ファイバ素線を巻き取りボビンにより巻き取る。
【0025】
……
【0033】
図4および図5は、光ファイバの伝送損失の仮想温度依存性を示すグラフである。これらの図は、非特許文献3の式(2)に基づいて作成されたものである。図4は、中心コアの比屈折率差が0.32%である場合を示し、図5は、中心コアの比屈折率差が0.2%である場合を示す。これらの図から、レーリー散乱、ブリルアン散乱、ラマン散乱に起因した損失以外の伝送損失(マクロベンドロスおよびマイクロベンドロスを含む)を余剰損失と定義した場合、余剰損失が0.03dB/km以上となると、仮想温度を1400℃としても、波長1550nmにおける伝送損失を0.18dB/kmとすることが困難であることが分かる。
【0034】
上記のように、徐冷によりガラスの仮想温度を低下させてレーリー散乱を低減したとしても、レーリー散乱成分以外の余剰損失が増加してしまう場合、安定して波長1550nmにおける伝送損失を0.18dB/km以下とすることは難しいことが分かる。そこで本発明者は、余剰損失の増加要因を解明し、その結果、余剰損失とコアの残留応力との間に良い相関が得られることを見出した。図6は、余剰損失のコアの残留応力依存性を示すグラフである。このように、コアの残留応力を圧縮応力として、その絶対値を5MPa以上(同図では、0MPa以下)とすることで、余剰損失を0.03dB/km以下にすることができることが分かる。」
(4)「【0039】
このような特性が得られる光ファイバ母材を徐冷線引することで光ファイバを製造する。図4および図5より、コアの仮想温度を1400~1530℃以下とすることで、レーリー散乱を低減することができる。更に仮想温度は低い方が望ましいが、徐冷線引により仮想温度1400℃以下を実現にする場合、L/Vを過度に大きくする必要があり、経済性を満足することが困難となる。更に低損失を得る場合には、コアの粘性を低減する添加物(アルカリ金属)を微量に添加することで実現できる。このように仮想温度を低減しながら、コアの残留歪が圧縮応力であれば、図6より余剰損失が0.03dB/km以下の範囲を実現することができ、波長1550nmにおける伝送損失が0.180dB/km以下となるファイバを容易に得ることができる。」
【0040】
……
【0043】
本実施形態の光ファイバは、GeO2を含む中心コアを有し、屈折率構造がステップ型、W型、トレンチ型、リングコア型のいずれであっても構わない。この場合、実質的に伝搬する光のパワーの大部分を占めモードフィールドを実質的に決定する屈折率構造部を中心コアと定義し、その中心コアを取り囲む部位を光学クラッドとする。
【0044】
光ファイバの残留応力は、例えば特許文献2に記載されているように、光ファイバ中の複屈折を利用して測定される。また、光ファイバの残留応力は、光ファイバ断面の屈折率の面分析を行って得られる屈折率の変化量および材料に固有の光弾性係数からも測定が可能である。図7は、光ファイバの残留応力の径方向分布を示すグラフである。GeO2がコアに含有された光ファイバであってジャケットが実質的に純石英からなる光ファイバでは、同温度におけるコアの粘性が低いので、線引後の光ファイバのコアには圧縮応力が残留する(同図、L/V=0s)。この圧縮応力は、線引張力により変化する。原理的に、線引張力が高いほど大きな圧縮応力が残留することが知られている。
【0045】
一方、徐冷された光ファイバでは、徐冷部において圧縮応力が緩和され、圧縮応力の絶対値が低下する。同図には、L/V=0s、0.12s、0.40sと変化させた場合の残留応力の変化が示されている。このように、徐冷部における光ファイバの滞在時間を長くすると、コアの圧縮応力の絶対値は徐々に低下することが分かる。コアに残留する応力を圧縮応力とするには、L/Vを0.4sよりも短くすることが望ましい。また、光ファイバが冷却される過程において、徐冷部に到達するまでの光ファイバの温度が徐冷部の内表面温度より高い状態に保たれることによっても、コアの圧縮応力を過度に低下させないことができる。また、原理的に、徐冷部が長いほど徐冷の効果は大きくなり圧縮応力の変化量は大きくなる。
【0046】
……
【0047】
その他のコアの応力の調整方法として、コア中にコアの粘性を低減する添加物を入れることで、コアの圧縮応力の絶対値を5MPa以上に調整することができる。アルカリ金属元素は、微量でシリカガラスの粘性を大きく低減することが可能であるので、濃度揺らぎによるレーリー散乱の増加への影響を軽微に抑制でき、添加物として望ましい。但し、アルカリ金属元素を過度に添加すると、ガラス構造欠陥が増加して、水素特性や放射線特性が悪化するので適切な添加量に調節されることが好ましい。線引後のコア中のアルカリ金属元素の濃度は1ppb~10ppmの範囲であることが望ましい。」
(5)「【0052】
本実施形態の光ファイバは、中心コア部にフッ素が添加されているのが好適である。また、温度1300℃においてジャケットの粘性が中心コアの粘性と比べて0.3Poise以上高いのが好適である。コア部にフッ素が含まれていることにより、コアの粘性が低下するので、コア部の残留応力を圧縮応力にすることが容易となり、波長無依存の伝送損失を低減することができる。但し、フッ素を増加させると濃度揺らぎに由来したレーリー散乱が増加するので、フッ素添加による屈折率低下量は-0.1%~0%となる濃度とすることが好ましい。」
(6)図1は、以下のものである。
1…光ファイバ
11…中心コア
12…クラッド
13…ジャケット
(7)図6は、以下のものである。
(8)図7は、以下のものである。
2 引用文献に記載された発明
(1)上記1(1)の記載からして、引用文献には、
「石英ガラスからなる光ファイバであって、
中心軸を含む中心コアと、この中心コアを囲む光学クラッドと、この光学クラッドを囲むジャケットと、を備え、
前記中心コアは、GeO2を含み、前記光学クラッドを基準とした相対屈折率差Δcoreが0.2%以上0.32%以下であり、径方向位置rにおける比屈折率差をΔ(r)としコア半径をaとしたとき下記(1)式で表される屈折率体積vが9%・μm2以上18%・μm2以下であり、
【数1】
前記ジャケットは、前記光学クラッドを基準とした相対屈折率差ΔJが0.03%以上0.20%以下であり、
前記中心コアを構成するガラスの仮想温度が1400~1530℃であり、
前記中心コアに残留する圧縮応力の絶対値が30MPa以下であり、
2mファイバカットオフ波長が1300nm以上であり、
ファイバ長100mでのカットオフ波長が1500nm以下であり、
波長1550nmにおける実効断面積が110μm2以上であり、
波長1550nmにおける伝送損失が0.18dB/km以下である、光ファイバ。」(請求項1-4)が記載されているものと認められる。
また、上記「光ファイバ」は、「カットオフ波長」が規定されていることから、モードフィールドの形状がガウス分布形状に類似した「シングルモード光ファイバ」であると認められる。
(2)上記1(2)の記載からして、以下のことが理解できる。
ア 汎用のシングルモード光ファイバ(SMF)の実効断面積Aeffは波長1550nmにおいて約80μm2であること。
イ 実効断面積Aeffが大きいほどコアへの光パワー密度の集中が避けられるが、マイクロベンドや接続損失に与える影響を考慮した場合、実効断面積Aeffは130μm2~150μm2程度が好ましいこと。
ウ 徐冷によりガラスの仮想温度を低減してレーリー散乱を低減しても、レーリー散乱以外の損失成分(以降「余剰損失」という。)が増加する場合があること。
エ 中心コアとクラッドとの粘度整合による光ファイバの低損失化が可能であることは、従来から知られていること。
(3)上記1(3)の記載からして、以下のことが理解できる。
ア 上記(1)の「光学クラッド」は、フッ素元素添加のSiO2ガラスであってもよいこと。
イ 上記(1)の「ジャケット」は、塩素元素添加のSiO2ガラスであってもよいこと。
ウ 上記(1)の「光ファイバ」は、光ファイバ母材を線引タワーに把持し、下端部を作業点以上の温度に加熱し、形成された種ガラスを適宜延伸して紡糸し、紡糸した光ファイバの外径を制御しながら、樹脂を付着させるダイス、樹脂を硬化させるUV炉等を経て光ファイバ素線となし、その光ファイバ素線を巻き取りボビンにより巻き取ることで製造されること。
エ 余剰損失とは、伝送損失であること。
(3)また、上記1(3)の記載を踏まえて、図6を見ると、以下のことが理解できる。
ア 残留する圧縮応力(以下「残留圧縮応力」という。)が大きくなる程、余剰損失が低下すること。
イ 残留圧縮応力を20MPa以上にすることで、余剰損失を0.02dB/km以下にできること。
(4)上記1(4)の記載からして、以下のことが理解できる。
ア 上記(1)の「光ファイバ」は、GeO2を含む中心コアを有し、屈折率構造がステップ型、W型、トレンチ型、リングコア型のいずれであっても構わないこと。
イ 線引速度Vを低下させないために、コアの粘性を低減する添加物(アルカリ金属)を微量に添加すること。
(5)また、上記1(4)の記載を踏まえて、図1及び図7を見ると、以下のことが理解できる。
ア 線引速度Vを小さくする(L/Vが大きくなる)と、徐冷部において残留圧縮応力が緩和され、絶対値は徐々に低下すること。
イ 「L/V=0.12s」の場合、中心コアの残留圧縮応力が30MPa以下、かつ、コアの中心から半径20μm程度の範囲内で残留圧縮応力が20MPa以上になること。
(6)上記(1)ないし(5)の検討からして、引用文献には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
「石英ガラスからなるシングルモード光ファイバであって、
中心軸を含む中心コアと、この中心コアを囲む光学クラッドと、この光学クラッドを囲むジャケットと、を備え、
前記中心コアは、GeO2及びコアの粘性を低減する添加物(アルカリ金属)を含み、
前記光学クラッドは、フッ素元素を含み、
前記ジャケットは、塩素元素を含み、
前記中心コアの残留圧縮応力が30MPa以下、かつ、コアの中心から半径20μm程度の範囲内で残留圧縮応力が20MPa以上であり、
2mファイバカットオフ波長が1300nm以上であり、
ファイバ長100mでのカットオフ波長が1500nm以下であり、
波長1550nmにおける実効断面積が110μm2以上であり、
波長1550nmにおける伝送損失が0.18dB/km以下である、シングルモード光ファイバ。」
第4 判断
1 対比
(1)本願発明と引用発明とを対比すると、以下のことがいえる。
ア(ア)引用発明の「GeO2」、「フッ素元素」及び「塩素元素」は、石英ガラスの屈折率を変更する元素であることから、本願発明の「屈折率変更ドーパント」に相当する。
(イ)引用発明の「中心コア」及び「光学クラッド及びジャケット」は、それぞれ、本願発明の「コア領域」及び「周囲のクラッド領域」に相当する。
(ウ)引用発明の「中心コアは、GeO2及びコアの粘性を低減する添加物(アルカリ金属)を含み、」、「光学クラッドは、フッ素元素を含み、」及び「ジャケットは、塩素元素を含」むから、引用発明の「中心軸を含む中心コアと、この中心コアを囲む光学クラッドと、この光学クラッドを囲むジャケット」は、「選択された屈折率プロファイルを形成するように構成されたそれぞれの量及び径方向位置で1つ以上の屈折率変更ドーパントでドープされ」ているといえる。
(エ)よって、本願発明と引用発明とは、「選択された屈折率プロファイルを形成するように構成されたそれぞれの量及び径方向位置で1つ以上の屈折率変更ドーパントでドープされたコア領域及び周囲のクラッド領域を含む複数の同心領域を備える」点で一致する。
イ(ア)引用発明の「コアの粘性を低減する添加物(アルカリ金属)」及び「残留圧縮応力」は、それぞれ、本願発明の「粘度降下ドーパント」及び「残留軸圧縮応力」に相当する。
(イ)本願発明の「コア半径の2倍と5倍の間の応力の径方向範囲」に関連して、本願明細書には、以下の記載がある。
「【0060】
図18Bに示すように、Kドープファイバにおいて、軸圧縮応力は、半径が約25μmまで拡大しており、34gmで線引きされたファイバ及び122gmで線引きされた同一のファイバの双方において、コア半径の約5倍に拡大している。圧縮応力ファイバの径方向の拡大は、主にファイバの線引き中のドーパントの拡散の結果として生じる。
【0061】
……
【0063】
さらに、コアの半径の好ましくは1.2倍、より好ましくは2倍の応力の径方向の範囲で、20MPaよりも大きい十分な大きさの残留軸圧縮応力によって、光学的な伝送性能に対して重要なコア及び隣接領域での良好な構造的均一性が得られる。それはこの半径範囲内を有意な光パワーが伝搬するからである。圧縮応力の径方向の範囲における下限は、構造的に均一であり、それゆえに低減衰領域における光パワー伝搬の大部分を確保するような要求によって規定される。種々のファイバ設計は異なる空間的なパワー分布を有するので、圧縮応力プロファイルは、99%よりも大きく、より好ましくは99.9%よりも大きい総光パワーを伝搬させる径方向の下限を有すべきである。」
また、図18Bは、以下のものである。
上記記載からして、「コア半径の2倍と5倍の間の応力の径方向範囲」とは、上記図18Bにおいて、コアの中心(0)から、例えば、右側(片側)に着目した際に、応力がコアの中心からコア半径の2~5倍の範囲に広がっていることを意味するものと解される。
(ウ)一方、引用発明は、「中心コアは、GeO2及びコアの粘性を低減する添加物(アルカリ金属)を含み」、「中心コアの残留圧縮応力が30MPa以下、かつ、コアの中心から半径20μm程度の範囲内で残留圧縮応力が20MPa以上」であるから、本願発明と引用発明とは、「ファイバが20MPaよりも大きい応力の大きさ及びコア半径の所定倍の応力の径方向範囲を有する残留軸圧縮応力を有するように構成するそれぞれの量の1つ以上の粘度降下ドーパントでコア領域がドープされている」点で一致する。
ウ 引用発明の「シングルモード光ファイバ」は、本願発明の「光ファイバ」に相当する。
(2) 以上のことから、本願発明と引用発明とは、以下の点で一致する。
<一致点>
「選択された屈折率プロファイルを形成するように構成されたそれぞれの量及び径方向位置で1つ以上の屈折率変更ドーパントでドープされたコア領域及び周囲のクラッド領域を含む複数の同心領域を備え、
ファイバが20MPaよりも大きい応力の大きさ及びコア半径の所定倍の応力の径方向範囲を有する残留軸圧縮応力を有するように構成するそれぞれの量の1つ以上の粘度降下ドーパントで前記コア領域がドープされている、光ファイバ。」
(3)一方、両者は、以下の点で相違する。
<相違点>
応力の径方向範囲に関して、
本願発明は、「コア半径の2倍と5倍の間」であるのに対して、
引用発明は、コア半径が不明で、「コア半径の2倍と5倍の間」であるか否か不明である点。
2 判断
(1)上記<相違点>について検討する。
ア 本願発明において、応力の径方向範囲を「コア半径の2倍と5倍の間」とする技術的意義について、本願明細書の記載を参酌して検討する。
(ア)本願明細書には、以下の記載がある。
「【0062】
……ファイバにおけるKドーパントの濃度及び径方向の拡大は、いずれかのドーパントと同じように、ガラスでの拡散の程度に依存し、それゆえに熱履歴、プリフォームにおける初期のドーピングの空間的プロファイル、及びガラス組成により影響される。
【0063】
さらに、コアの半径の好ましくは1.2倍、より好ましくは2倍の応力の径方向の範囲で、20MPaよりも大きい十分な大きさの残留軸圧縮応力によって、光学的な伝送性能に対して重要なコア及び隣接領域での良好な構造的均一性が得られる。それはこの半径範囲内を有意な光パワーが伝搬するからである。圧縮応力の径方向の範囲における下限は、構造的に均一であり、それゆえに低減衰領域における光パワー伝搬の大部分を確保するような要求によって規定される。種々のファイバ設計は異なる空間的なパワー分布を有するので、圧縮応力プロファイルは、99%よりも大きく、より好ましくは99.9%よりも大きい総光パワーを伝搬させる径方向の下限を有すべきである。
【0064】
圧縮応力の径方向の範囲における上限は、幾つかのファクタによって決定される。第一に、圧縮応力領域を光パワーがほとんど伝搬しない径方向の領域へと拡大させることにより光学減衰を低減することには有意な効果はない。第二に、ファイバ処理中に、大きな半径へのアルカリの拡散に起因する過多なアルカリ希釈の兆候がある軸圧縮応力領域は、あまり広く拡大させるべきではない。第三に、線引き張力が解放された後に、コアの中央領域における軸圧縮応力が外側クラッド領域における軸伸長応力と釣り合わなければならないように、ファイバ断面の全体で軸応力σzの平衡が確立されることが知られている。すなわち、
【数2】
であり、圧縮応力はr=0とr=R1の間にあり、引張応力はr=R1とr=R=クラッド半径の間にある。」
上記記載からして、
圧縮応力の径方向の範囲を、コアの半径の好ましくは1.2倍、より好ましくは2倍とすることで、有意な光パワーが伝搬するコア及び隣接領域を低減衰領域にでき、それ以上に範囲を広げても有意な効果のないことが理解できる。
(イ)上記(ア)の検討からして、本願発明において、上記<相違点>に係る構成を採用する技術的意義は、有意な光パワーが伝搬する領域、つまり、コア半径の1.2倍程度の領域を低減衰領域にすることにあるものと認められる。
また、他の記載を見ても、「5倍」に臨界的な技術的意義は認められない。
イ(ア)一方、引用発明については、図7を見ると、位置「0」近辺に「(アルカリ金属により粘度が低下した)中心コア」が位置し、その左右両側に応力の範囲が20μm程度まで拡大していることが読み取れる。
(イ)そして、引用発明の「シングルモード光ファイバ」の「『波長1550nmにおける』『実効断面積110μm2以上』」を近似式「有効断面積(110μm2)=π×(モールドフィールド径の半径)2」を用いてモードフィールド径(MFD)を換算すると、略12μ程度となり、さらに、下記に示す「モードフィールド径(MFD)とコア径との関係」からして、「コア径」は、4ないし6μm程度か、10ないし12μm程度であるが、モードフィールド径(MFD)は、光電力の86.5%が集まる範囲(ガウス分布形状の中心部のビークから1/e2となる部分の直径)であることから、「コア径」は、4ないし6μm程度ではなく、10ないし12μm程度であると推定できる。
(ウ)よって、引用発明の「残留圧縮応力(残留軸圧縮応力)」の径方向範囲は20μm程度であり、コア半径は5ないし6μm程度であるから、引用発明においても、「コア半径の2倍ないし5倍の間」程度であるといえる。
なお、「近似式」及び「モードフィールド径(MFD)とコア径との関係」について、必要ならば、例えば、それぞれ特表2014ー511125号公報(【0035】)及び特開平2ー140706号公報(第4図)を参照。
ちなみに、第4図は、以下のものである。
ウ そうすると、上記<相違点>は、実質的な相違点ではない。
よって、本願発明は、引用発明である。
仮に、相違点であるとしても、引用発明において、「中心コアの残留圧縮応力が30MPa以下、……残留圧縮応力が20MPa以上」とする技術的意義は、余剰損失を低減することにあるから、実効断面積(又はモードフィールド径)が残留圧縮応力の範囲内に位置するように、「コア半径の2倍ないし5倍の間」とすることは、当業者が容易になし得ることである。
エ 効果
本願発明の効果は、引用発明の奏する効果から予測し得る範囲内のものである。
(2)以上の検討によれば、本願発明は、引用発明である。
また、引用発明において、上記<相違点>に係る本願発明の構成を採用することは、当業者が容易になし得たことである。
3 審判請求書の手続補正書(方式)における主張について
(1)請求人は、引用文献1が教示しているのは「中心コアと光学クラッドとの応力差を20MPa以下とする」ことであって、「20MPaよりも大きい応力の大きさ」については教示されていない旨主張する(「(2)意見の内容」を参照。)。
引用文献1は、審決で引用する引用文献である。
請求人が指摘する「中心コアと光学クラッドとの応力差を20MPa以下とする」とは、下記の図7(再掲)において、「中心コアの圧縮応力値」と「光学クラッド部の圧縮応力値」の差(応力差)に関するものである(引用文献の請求項9を参照。)が、一方で、上記1(1)イ(ウ)で説示したように、引用発明は「20MPaよりも大きい応力の大きさ」との構成を有している。
(2)以上のことから、請求人の主張は、採用できない。
4 まとめ
本願発明は、引用発明である。
また、本願発明は、当業者が引用発明に基づいて容易に発明をすることができたものである。
第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
また、本願発明は、当業者が引用発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2019-014226