特許拒絶査定不服審判
2019-002265
インクジェットヘッド、インクジェットヘッドモジュール及びインクジェット記録装置
- 審判番号
- 2019-002265
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2016-548960外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2019年02月19日
- 審決日
- 2020年05月19日
- 公報発行日
- 2020年08月28日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】コニカミノルタ株式会社
- 【請求人代理人】特許業務法人光陽国際特許事務所
- 分類
- P18 .121-WZ (B41J)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2016-548960「インクジェットヘッド、インクジェットヘッドモジュール及びインクジェット記録装置」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 3月24日国際公開、WO2016/043303〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
本願は,平成27年9月18日を国際出願日(優先権主張日:平成26年9月19日)とする日本語国際特許出願であって,平成30年5月29日付けで拒絶理由が通知され,同年7月30日に意見書及び手続補正書が提出されたが,同年11月9日付けで拒絶査定がされ,同査定の謄本は同月20日に出願人に送達された。
これに対して,平成31年2月19日に拒絶査定不服審判の請求がされ,その後,当審において,令和1年12月4日付けで拒絶の理由(以下,「当審拒絶理由」という。)が通知され,令和2年2月7日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。
第2 本願発明
本願の請求項1ないし9に係る発明は,令和2年2月7日に提出された手続補正書の特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された事項により特定されるとおりのものであって,そのうち請求項1に係る発明(以下,「本願発明1」という。)はつぎのとおりのものである。
「【請求項1】
インクを吐出する複数のノズルを備えたノズル基板を有するヘッドチップと、
前記ヘッドチップの上部に位置し、前記ノズルに供給するインクを貯留するインク室と、を備え、取付部材に取り付けられるインクジェットヘッドであって、
前記ノズル基板と前記インク室との間に、当該インクジェットヘッドを前記取付部材に取り付ける際に、前記取付部材に突き当てて位置決めするための突き当て部が設けられた位置基準基板を有し、
前記位置基準基板は、前記ヘッドチップと前記インク室とを保持する保持基板であり、
前記保持基板を挟んで前記ヘッドチップと前記インク室とが前記保持基板に支持されており、
前記ヘッドチップは、複数の基板が積層されて構成され、
前記位置基準基板は、前記複数の基板に積層されており、
前記ヘッドチップの前記複数の基板の各々、及び前記位置基準基板は、円形の貫通孔であるアライメントマークを有し、
前記アライメントマークが重なるように前記ヘッドチップと前記位置基準基板とが積層されており、
前記複数の基板における複数の前記アライメントマークは、前記位置基準基板に近い基板の前記アライメントマークほど内径が大きく、
前記位置基準基板の前記アライメントマークの内径は、前記複数の基板のうち任意の基板の前記アライメントマークの内径より大きいことを特徴とするインクジェットヘッド。」
第3 当審拒絶理由の概要
当審拒絶理由において通知した理由は,概略つぎのとおりである。
本願の請求項 1、2、5~11に係る発明(平成30年7月30日提出の手続補正書の特許請求の範囲に記載のもの)は,本願の優先権主張日前に頒布され又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1(特開2013-1096号公報)及び引用文献2(特開2011-56926号公報)に記載された発明並びに周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
第4 引用文献に記載された事項及び引用発明について
1 引用文献1(特開2013-1096号公報)
(1)当審拒絶理由通知において引用した本願の優先権主張日(以下,「本願優先日」という。)前に出願公開された引用文献1には、次の事項が記載されている。(下線は,当審において,強調のため付加したもの。一部改行を省略している箇所がある。以下,第4において同じ。)
ア 「【技術分野】【0001】 本発明はインクジェットヘッドに関する。
【背景技術】【0002】従来、インクジェット記録装置に設けられ、複数の微細なノズルからインクを吐出して記録媒体に画像を形成するインクジェットヘッドが知られている。近年、インクジェット記録装置による高精度・高精細な画像形成を実現するために、インクジェットヘッドにおけるノズルの高密度配置が求められている。
ノズルを高密度に配置するために近年ではノズルを二次元に高密度配置することが知られている(特許文献1参照)。」
イ 「【発明が解決しようとする課題】【0004】 ところで、ノズルを二次元に高密度配置した場合、各ノズルから引き出される配線の設置スペースが確保しにくくなってしまうおそれがあった。
本発明の課題は、ノズルの高密度配置を実現しつつも配線の設置スペースを確保することである。」
ウ 「【0011】 図1は、本発明に係るインクジェットヘッドユニットを搭載したラインヘッドの概略構成を示す下面図である。図1に示すようにラインヘッド1は、記録媒体の搬送方向に直交する主走査方向に沿って延在している。このラインヘッド1には、複数のインクジェットヘッドユニット2が主走査方向Bに沿って配列されている。
【0012】 図2はインクジェットヘッドユニット2の概略構成を示す説明図であり、(a)が上面図、(b)が正面図である。また、図3は図2(a)のIII-III切断線から見た断面図である。図4はインクジェットヘッドユニット2の概略構成を示す斜視図である。
この図2~図4に示すように、インクジェットヘッドユニット2には、一対のインクジェットヘッド3が備えられている。
インクジェットヘッド3は、ヘッドチップ4と、インク供給部5と、これらヘッドチップ4及びインク供給部5を一体的に保持するフレーム部9とを備えている。
【0013】 インク供給部5は、耐インク性を持つ樹脂の成形や削りだしにより形成された筐体部80を備えており、一対のインクジェットヘッド3で共通化されている。この筐体部80の内部には、一対のインクジェットヘッド3のそれぞれのヘッドチップ4にインクを供給するため共通化されたインク室81が形成されている。また、筐体部80の上部からはインク室81にインクを供給するためのインク供給口82と、インク室81内のインクを排出するためのインク排出口83とが上方に向かって延出している。
【0014】 フレーム部9は、上面にインク供給部5が設置され、下面に一対のヘッドチップ4が設置されている。フレーム部9におけるインク供給部5とヘッドチップ4との間の領域には空間が形成されていて、インク供給部5とヘッドチップ4とを連通している。このため、インク供給部5はヘッドチップ4と対向して配置されなければならず、ヘッドチップ4の配置位置に対応するようにインク供給部5はフレーム部9の上面に配置されている。
フレーム部9の両端部には、それぞれ外側に向けて突出した突出部91が形成されている。この突出部91には、フレーム部9をインクジェットヘッドユニット2の基台(図示省略)に固定するための固定孔92が形成されている。
【0015】 ヘッドチップ4は、複数のノズル11を備えた板状の部材である。図5はヘッドチップ4の概略構成を示す部分断面図である。なお、図5は、一個のノズル11に係る構成要素のみを図示しているが、ヘッドチップ4を構成する層部材自体を除く各構成要素は、複数のノズル11に個別に対応して複数設けられている。
図5に示すように、ヘッドチップ4は、ノズルプレート層10、中間プレート層20、ボディプレート層30、第一接着層40、配線層50及び第二接着層60の6つの層部材が、この順で積層されて構成されている。
【0016】 このうち、ノズルプレート層10は、シリコン製の基板であり、ヘッドチップ4の最下層に位置している。このノズルプレート層10には、複数のノズル11が形成されている。
ノズル11は、略マトリクス状となるようにノズル面12上に配列されている。
【0017】 中間プレート層20は、ガラス製の基板であり、ノズルプレート層10の上面に積層され、接合されている。中間プレート層20には、ノズルプレート層10のノズル11と連通する貫通孔201が形成されている。
【0018】 ボディプレート層30は、圧力室層31と振動板32とから構成されている。
圧力室層31は、シリコン製の基板であり、中間プレート層20の上面に積層され、接合されている。圧力室層31には、ノズル11から吐出されるインクに吐出圧力を付与する圧力室311が、当該圧力室層31を貫通するように形成されている。圧力室311は、貫通孔201及びノズル11の上方に設けられ、これら貫通孔201及びノズル11と連通している。また、圧力室層31には、圧力室311と連通する連通孔312が、当該圧力室層31を貫通しつつ水平方向に延在するように形成されている。
振動板32は、圧力室311の開口を覆うように圧力室層31の上面に積層され、接合されている。すなわち、振動板32は、圧力室311の上壁部を構成している。振動板32の表面には、酸化膜が形成されている。また、振動板32には、連通孔312と連通する貫通孔321が形成されている。
【0019】 第一接着層40は、振動板32の上面に積層されている。この第一接着層40は、振動板32と配線層50とを接着する感光性樹脂層であるとともに、その内部に空間41を形成する隔壁層となっている。空間41は、第一接着層40を貫通するように圧力室311の上方に形成され、内部に圧電素子42を収容している。
圧電素子42は、圧力室311と略同一の平面視形状に形成され、振動板32を挟んで圧力室311と対向する位置に設けられている。この圧電素子42は、振動板32を変形させるためのPZT(lead zirconium titanate)からなるアクチュエータである。また、圧電素子42には、上面及び下面に2つの電極421,422が設けられており、このうち下面側の電極422が振動板32に接続されている。
また、第一接着層40には、振動板32の貫通孔321と連通する貫通孔401が、空間41とは独立して形成されている。
【0020】 線層50は、シリコン製の基板であるインターポーザ51を備えている。インターポーザ51の下面には、2層の酸化ケイ素の絶縁層52,53が被覆され、上面には、同じく酸化ケイ素の絶縁層54が被覆されている。そして、絶縁層52,53のうち下方に位置する絶縁層53が、第一接着層40の上面に積層され、接合されている。
インターポーザ51には、スルーホール511が形成されており、このスルーホール511には、貫通電極55が挿通されている。貫通電極55の下端には、水平方向に延在するアルミ基板56の一端が接続されており、このアルミ基板56の他端には、圧電素子42上面の電極421に設けられたスタッドバンプ423が、空間41内に露出した半田561を介して接続されている。また、アルミ基板56は、インターポーザ51下面の2層の絶縁層52,53によって挟まれて保護されている。
また、インターポーザ51には、第一接着層40の貫通孔401と連通するインレット512が、当該インターポーザ51を貫通するように形成されている。
【0021】 第二接着層60は、配線層50の上面に配設された配線61を覆いつつ、インターポーザ51の絶縁層54の上面に積層され、接合されている。この第二接着層60は、フレーム部9とヘッドチップ4とを接着する感光性樹脂層であるとともに、配線61を保護する保護層となっている。配線61は、水平方向に延在されて、一端が貫通電極55の上端に接続されるとともに、他端が図示しないフレキシブル基板を介してドライバに接続されている。また、第二接着層60には、インレット512と連通する貫通孔601が形成されている。
また、ヘッドチップ4の連通孔312、貫通孔321,401,601及びインレット512は、インク室81と圧力室311とを連通する流路70を構成するので、インク室81のインクはこの流路70を介してノズル11に供給される。」
エ 「【0030】 次に、一対のヘッドチップ4のうち、搬送方向の上流側に配置されるヘッドチップ4と、下流側に配置されるヘッドチップ4との位置ズレについて説明する。図6においては、主走査方向から見たノズル列をなすノズルの搬送方向に並ぶ個数は、全て14個なければならないが、ヘッドチップ4が搬送方向に対して傾いているために、その両端(二点鎖線で囲った部分)では一つのヘッドチップ4では14個未満となってしまう。このため、一対のヘッドチップ4の隣接部分においては、互いに補完しあうことで主走査方向から見たノズル列をなすノズルの搬送方向に並ぶ個数が14個となるように、搬送方向の上流側に配置されるヘッドチップ4と、下流側に配置されるヘッドチップ4とを位置ズレさせている(真ん中の二点鎖線で囲った部分)。
【0031】 このように、一対のインクジェットヘッド3は、主走査方向から見た当該一対のインクジェットヘッド3のそれぞれのノズル列のノズル11の搬送方向に並ぶ個数が同数となるよう互いに補完して配置されている。
また、両端の二点鎖線で囲った部分においては、図1に示すように別のインクジェットヘッドユニット2で補完しあうことで、主走査方向から見たノズル列をなすノズル11の搬送方向に並ぶ個数を同数としている。」
オ 上記アを考慮すれば、上記ウ、エに記載されたインクジェットヘッド3及びインクジェットヘッドユニット2が、インクジェット記録装置に備えられるものであることは、技術常識から見て明らかである。
(2)引用文献1に記載された発明
上記(1)アないしオから、引用文献1には,次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「インクを吐出する複数のノズル11が形成されたシリコン製の基板であるノズルプレート層10、及びフレーム部9とヘッドチップ4とを接着する感光性樹脂層である第二接着層60を有し,ノズルプレート層10、中間プレート層20、ボディプレート層30、第一接着層40、配線層50及び第二接着層60の6つの層部材が、この順で積層されて構成されているヘッドチップ4と、
前記ヘッドチップ4の配置位置に対応するようにフレーム部9の上面に配置され、ヘッドチップ4にインクを供給するため共通化されたインク室81を有するインク供給部5と、を備え、インクジェットヘッドユニット2の基台に固定されるインクジェットヘッド3であって、
前記フレーム部9の両端部には、それぞれ外側に向けて突出した突出部91が形成されており、前記突出部91には、フレーム部9をインクジェットヘッドユニット2の基台に固定するための固定孔92が形成されており、
前記フレーム部9は、ヘッドチップ4及びインク供給部5を一体的に保持しており、
前記フレーム部9は、上面にインク供給部5が設置され、下面にヘッドチップ4が設置されている、
インクジェットヘッド3」
2 引用文献2(特開2011-56926号公報)
(1)当審拒絶理由通知において引用した本願優先日前に出願公開された引用文献2には、次の事項が記載されている。
ア 「【技術分野】【0001】 本発明は液体吐出ヘッド、液体吐出ヘッドユニット及び画像形成装置に関する。」
イ 「【発明が解決しようとする課題】【0009】 上述したように、複数個のヘッドを搭載する場合、キャリッジに直接取付けると、各ヘッドの各ノズル間の位置を高精度に維持するためにキャリッジに対するヘッドの組立作業が煩雑になる。また、ヘッドの一つが故障等により交換の必要が出てきた場合には、交換する単位のヘッド又はヘッドユニットの外形部とノズルの位置が高精度に形成されていなければならない。
【0010】 しかしながら、上記の特許文献1 、2 に開示の構成は、いずれも複数個のヘッドの支持部材との当接面とノズルの位置が高精度に組み立てられておらず、キャリッジ搭載時に特殊な検出機構を持って位置合わせを行うものであり、ヘッド交換時に容易に交換が出来ないという課題がある。」
ウ 「【0011】 本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、ヘッド支持部材に液体吐出ヘッドを高精度に位置決めできるようにすることを目的とする。」
エ 「【0036】 そして、この液体吐出ヘッドにおいては、図3に示すように、フレーム部材17の外周面に、ヘッド支持部材の位置決め部(図4の被当接部(位置決め部)42参照)と当接する当接部31が複数個所に設けられている。この当接部31は、紫外線硬化型の樹脂を用いて形成している。」
オ 「【0044】 次に、本発明に係る液体吐出ヘッドユニットの実施形態について図4を参照して説明する。なお、図4は同ヘッドユニットの平面説明図である。
この液体吐出ヘッドユニットは、上述した実施形態に係る複数個(ここでは5個とする。)の液体吐出ヘッド40をヘッド支持部材41に千鳥状に配列したモジュール構成となっている。ヘッド支持部材41には、各ヘッド40の当接部31が当接する被当接部(位置決め部)42が形成されている。被当接部42は、高精度に加工されており、それぞれの位置精度は例えば5μmとしている。また、ヘッド支持部材41には、ヘッド40を被当接部42に押し当てるための押圧手段、例えばスプリング45が設けられている。
【0045】 このように構成されたモジュールとしての液体吐出ヘッドユニットは、特別な調整がなくても複数のヘッド40ノズルの相対位置を高精度に位置決めでき、吐出異常等によって交換が生じたヘッド40を容易に交換することができるようになる。」
(2)上記(1)のアないしオによれば,引用文献2には,つぎの発明(以下,「引用発明2」という。)が記載されているものと認められる。
「複数個の液体吐出ヘッド40をヘッド支持部材41に千鳥状に配列したモジュール構成となっている液体吐出ヘッドユニットであって,液体吐出ヘッドは、フレーム部材17の外周面に、ヘッド支持部材の位置決め部と当接する当接部31が複数個所に設けられており,ヘッド支持部材41には、各液体吐出ヘッド40の当接部31が当接する被当接部42が形成され,ヘッド40を被当接部42に押し当てるための押圧手段であるスプリング45が設けられている液体吐出ヘッドユニット」
第5 当審の判断
1 本願発明1と引用発明1との対比
(1)本願発明1と引用発明1とを対比する。
ア 引用発明1の「複数のノズル11」、「シリコン製の基板であるノズルプレート層10」、「ヘッドチップ4」、「インクジェットヘッドユニット2の基台」、「インクジェットヘッド3」は、それぞれ本願発明1の「複数のノズル」、「ノズル基板」、「ヘッドチップ」、「取付部材」、「インクジェットヘッド」に相当する。
イ 引用発明1の「ヘッドチップ4」が,「ノズルプレート層10、中間プレート層20、ボディプレート層30、第一接着層40、配線層50及び第二接着層60の6つの層部材が、この順で積層されて構成されている」ことは,本願発明1の「ヘッドチップは、複数の基板が積層されて構成され」ていることに相当する。
ウ 引用発明1の「インク供給部5」は、ヘッドチップ4の配置位置に対応するようにフレーム部9の上面に配置され、ヘッドチップ4にインクを供給するため共通化されたインク室81を有するものであるから、本願発明1の「前記ヘッドチップの上部に位置し、前記ノズルに供給するインクを貯留するインク室」に相当する。
エ 本願発明1の「位置基準基板」は、インクジェットヘッドを取付部材に取り付ける際に、その取付位置の基準となる機能を有するものであるところ、引用発明1の「フレーム部9」は、当該フレーム部9に設けられた固定孔92によってインクジェットヘッドユニット2の基台に固定されていることから、引用発明1の「フレーム部9」は、当該固定孔92によって、本願発明1と同様に取付位置の基準となる機能を有していると認められる。したがって、引用発明1の「フレーム部9」は、本願発明1の「位置基準基板」に相当する。
また、引用発明1の「フレーム部9」は、ヘッドチップ4及びインク供給部5を一体的に保持しており、上面にインク供給部5が設置され、下面にヘッドチップ4が設置されていることから、本願発明1と引用発明1とは、「前記ノズル基板と前記インク室との間に位置基準基板を有し、前記位置基準基板は、前記ヘッドチップと前記インク室とを保持する保持基板であり、前記保持基板を挟んで前記ヘッドチップと前記インク室とが前記保持基板に支持されている」点で共通するものである。
オ そして,引用発明1の「ヘッドチップ4」の「第二接着層60」は,「フレーム部9」と「ヘッドチップ4」とを接着する感光性樹脂層であるので,引用発明1の「ヘッドチップ4」と「フレーム部9」は,第二接着層を介して積層されているといい得るから,引用発明1の「インクを吐出する複数のノズル11が形成されたシリコン製の基板であるノズルプレート層10及びフレーム部9とヘッドチップ4とを接着する感光性樹脂層である第二接着層60を有し,ノズルプレート層10、中間プレート層20、ボディプレート層30、第一接着層40、配線層50及び第二接着層60の6つの層部材が、この順で積層されて構成されているヘッドチップ4」及び当該「ヘッドチップ4」の「第二接着層」を介して積層されている「フレーム部9」は,本願発明1の「位置基準基板」は、「前記複数の基板に積層されて」いることに相当する。
(2)したがって、本願発明1と引用発明1とは、以下の一致点で一致し、以下の相違点で相違する。
<一致点>
「インクを吐出する複数のノズルを備えたノズル基板を有するヘッドチップと、
前記ヘッドチップの上部に位置し、前記ノズルに供給するインクを貯留するインク室と、を備え、取付部材に取り付けられるインクジェットヘッドであって、
前記ノズル基板と前記インク室との間に位置基準基板を有し、
前記位置基準基板は、前記ヘッドチップと前記インク室とを保持する保持基板であり、
前記保持基板を挟んで前記ヘッドチップと前記インク室とが前記保持基板に支持されており,
前記ヘッドチップは、複数の基板が積層されて構成され、
前記位置基準基板は、前記複数の基板に積層されていることを特徴とするインクジェットヘッド。」
<相違点1>
本願発明1の「位置基準基板」には、「インクジェットヘッド」を「取付部材に取り付ける際」に「取付部材に突き当てて位置決めするための突き当て部」が設けられているのに対し、引用発明1の「フレーム部」には,「インクジェットヘッド」を「インクジェットヘッドユニットの基台」に固定する際に「取付部材に固定するための固定孔92」が設けられている点。
<相違点2>
本願発明1の「ヘッドチップ」の「複数の基板の各々」及び「位置基準基板」が「円形の貫通孔であるアライメントマーク」を有しており,「アライメントマークが重なる」ように「前記ヘッドチップと前記位置基準基板とが積層されているものであり,
前記複数のアライメントマークは,それぞれ「前記複数の基板における複数の前記アライメントマークは、前記位置基準基板に近い基板の前記アライメントマークほど内径が大きく、前記位置基準基板の前記アライメントマークの内径は、前記複数の基板のうち任意の基板の前記アライメントマークの内径より大きい」ものであるのに対して,
引用発明1の「ヘッドチップ」及び「フレーム部」が,アライメントマークを備えるものであることが特定されない点。
2 相違点についての判断
(1)相違点1について
上記第4の2(2)にて摘記したとおり、引用文献2には、「複数個の液体吐出ヘッド40をヘッド支持部材41に千鳥状に配列したモジュール構成となっている液体吐出ヘッドユニットであって,液体吐出ヘッドは、フレーム部材17の外周面に、ヘッド支持部材の位置決め部と当接する当接部31が複数個所に設けられており,ヘッド支持部材41には、各液体吐出ヘッド40の当接部31が当接する被当接部42が形成され,ヘッド40を被当接部42に押し当てるための押圧手段であるスプリング45が設けられている液体吐出ヘッドユニット」の発明が記載されている。
ここで、複数のノズルの相対位置を高精度に位置決めすることやインクジェットヘッドの交換を容易とすることは、インクジェットヘッドの分野において当業者が当然考慮すべき自明の課題である。また、引用文献1の【0031】において、「両端の二点鎖線で囲った部分においては、図1に示すように別のインクジェットヘッドユニット2で補完しあうことで、主走査方向から見たノズル列をなすノズル11の搬送方向に並ぶ個数を同数としている。」と記載されているように、引用文献1においても、複数のヘッドチップ間のノズルを高精度に位置決めする必要性が示唆されているものである。
してみれば、引用発明1において、複数のノズルの相対位置を高精度に位置決めし、かつインクジェットヘッドの交換を容易とすることを目的として、引用文献2に記載された発明を適用し、フレーム部の両端の突出部に形成された固定孔により固定することに代えて、インクジェットヘッドユニットの基台に取付部材を設け,当該取付部材に突き当てて位置決めするための突き当て部を設ける構成とすることにより,上記相違点1に係る本願発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものである。
よって、上記相違点1は,当業者が容易に想到し得る程度のことである。
(2)相違点2について
ア 例えば,本願優先日前に出願公開がされた特開2004-9344号公報(特に図6及び図7及び段落【0024】の位置ズレ確認孔を参照),特開2006-264006号公報(特に,図7及び段落【0073】ないし【0077】検査孔を参照)及び特開平7-156390号公報(特に,図2及び段落【0013】貫通孔A及びA’を参照)に記載されているように,本願優先日前において,複数枚の基板によりインクジェットヘッドを形成するに際して,各基板の位置合わせのための位置ずれ確認用のアライメントマークを円形の孔により形成し,各円形の孔の径を積層方向の一方側から他方側に順次大きく形成し,それらの孔の中心が一致するよう積層することで位置合わせを行うようにすることは,本願優先日前に従来周知の技術であったものと認められる。
イ 上記周知技術の「アライメントマーク」は,積層する基板の一方の側に形成された基板の孔の直径がほかに比べて大きなものとなっている点で,本願発明1の「前記複数の基板における複数の前記アライメントマークは、前記位置基準基板に近い基板の前記アライメントマークほど内径が大きく、前記位置基準基板の前記アライメントマークの内径は、前記複数の基板のうち任意の基板の前記アライメントマークの内径より大きい」ことと共通している。
ウ ところで,引用発明1は,「ヘッドチップ4」が「ノズルプレート層10」、「中間プレート層20」,「ボディプレート層30」,及び「配線層50」という複数の基板層を正確に位置決めして組み立てることにより形成されているものであり,また,そのように組み立てられた「ヘッドチップ4」と「フレーム部9」とが「第二接着層」を介して「積層」される際にも,正確に位置決めして組み立てる必要があることは明らかである。
してみると,上記周知技術を知るところの当業者であれば,「ヘッドチップ4」の組み立て,及び,「ヘッドチップ4」と「フレーム部4」との積層において,それらの位置決めを正確に行うようにするために,上記周知の技術を採用するにあたっては,「ヘッドチップ4」の各基板及び「フレーム部9」にそれぞれ設けられる位置ズレ確認用の円形の孔の直径を一方の側から他方の側に向けて順次大きくしていけば良いことは,当然想起し得る設計的要素であるといえる。
エ 以上のことからすれば,引用発明1の「ヘッドチップ4」及び「フレーム部9」を組み立てる際に,上記周知のアライメントマークを採用することにより,本願発明1の相違点2に係る構成とすることは,当業者が適宜なし得る程度の設計的事項というべきである。
オ よって,上記相違点2は,当業者が容易に想到し得る程度のことである。
(3)本願発明の作用効果についても,引用発明1及び引用発明2並びに周知技術に基づいて当業者が予測し得る程度のことであって,格別のものということはできない。
3 小括
以上のとおり,本願発明1は,引用発明1及び引用発明2並びに周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
第5 むすび
上記第4のとおり,本願発明1は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから,その余の請求項について論及するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。
よって,上記の結論のとおり審決する。
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2019-002265