特許拒絶査定不服審判
2024-001041
液滴吐出器
- 審判番号
- 2024-001041
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2020-567639外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2024年01月22日
- 審決日
- 2024年10月02日
- 公報発行日
- 2025年03月28日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】スリーシー プロジェクト マネージメント リミテッド
- 【請求人代理人】津田 理
- 【請求人代理人】大野 浩之
- 分類
- P18 .121-Z (B41J)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第17条の2第6項、特許法第36条第6項第2号、特許法第17条の2第5項第2号、特許法第17条の2第5項第1号、特許法第17条の2第3項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2020-567639「液滴吐出器」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年 9月 6日国際公開、WO2019/166452、令和 3年 6月17日国内公表、特表2021-514880〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、2019年(令和1年)2月26日(パリ条約に基づく優先権主張外国庁受理 2018年2月27日、英国(GB))を国際出願日とする出願であって、手続の概略は以下のとおりである。
令和5年 1月13日付け:拒絶理由通知書
同年 4月21日 :意見書、手続補正書の提出
同年 5月25日付け:拒絶理由(最後の拒絶理由)通知書
同年 9月 4日 :意見書の提出
同月20日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
同月26日 :原査定の謄本の送達
令和6年 1月22日 :審判請求書、手続補正書の提出
第2 令和6年1月22日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和6年1月22日にされた手続補正を却下する。
[理由]
1 補正の内容
令和6年1月22日付け手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲について、下記(1)に示す本件補正前の(すなわち、令和5年4月21日に提出された手続補正書により補正された)特許請求の範囲を、下記(2)に示す本件補正後の特許請求の範囲へと補正することを含むものである。
(1)本件補正前の特許請求の範囲
「 【請求項1】
プリントヘッド用の液滴吐出器であって、取付面及び反対側のノズル面を有する基板と、前記基板の前記ノズル面の少なくとも一部の上に形成されたノズル形成層と、少なくとも一部は前記基板により且つ少なくとも一部は前記ノズル形成層により画定された流体チャンバであって、少なくとも一部は前記ノズル形成層のノズル部分によって画定された流体チャンバ出口を有し、前記ノズル部分が、前記流体チャンバ出口の方に近接して位置する内側部分と、前記ノズル部分の周縁部の方に近接して位置する外側部分とを備える、流体チャンバと、前記ノズル形成層の前記ノズル部分の前記内側部分に形成された内側アクチュエータ機構、及び前記ノズル形成層の前記ノズル部分の前記外側部分に形成された外側アクチュエータ機構のうちのいずれか又は両方とを備え、前記内側アクチュエータ機構及び/又は前記外側アクチュエータ機構並びに前記ノズル形成層のノズル部分の少なくとも1つは、起動時に前記ノズル部分の前記内側部分が第1向きに湾曲し、前記ノズル部分の前記外側部分が前記第1向きとは反対の第2向きに湾曲するように構成され、前記内側アクチュエータ機構は1つ又は複数の内側圧電アクチュエータを備え、前記1つ又は複数の内側圧電アクチュエータのうちの少なくとも1つが、内側の駆動電極の対の間に設けられた内側圧電体を備え、前記外側アクチュエータ機構は1つ又は複数の外側圧電アクチュエータを備え、前記1つ又は複数の外側圧電アクチュエータのうちの少なくとも1つが、外側の駆動電極の対の間に設けられた外側圧電体を備え、1つ若しくは複数の前記内側圧電体及び/又は1つ若しくは複数の前記外側圧電体が、450℃未満の温度で処理可能な1種又は複数種の圧電材料を含み、前記液滴吐出器が前記基板と一体化された少なくとも1つの電子部品を備える、液滴吐出器。
【請求項2】
1種又は複数種の前記圧電材料が、窒化スカンジウムアルミニウム(ScAlN)を含む、請求項1に記載の液滴吐出器。
【請求項3】
前記少なくとも1つの電子部品が、少なくとも1つの相補型金属酸化膜半導体(CMOS)電子部品を含む、請求項1又は2に記載の液滴吐出器。
【請求項4】
前記ノズル形成層の前記ノズル部分の前記外側部分は、前記ノズル形成層の前記ノズル部分の前記内側部分を少なくとも部分的に包囲している、請求項1~3のいずれか一項に記載の液滴吐出器。
【請求項5】
前記内側アクチュエータ機構を備え、
前記内側アクチュエータ機構は、前記流体チャンバ出口を少なくとも部分的に包囲している、請求項1~4のいずれか一項に記載の液滴吐出器。
【請求項6】
前記内側アクチュエータ機構が実質的に環状である及び/又は前記外側アクチュエータ機構が実質的に環状である、前記請求項1~5のいずれか一項に記載の液滴吐出器。
【請求項7】
前記内側アクチュエータ機構を備え、
前記内側アクチュエータ機構が、実質的に環状である単一の内側圧電アクチュエータからなる、前記請求項1~6のいずれか一項に記載の液滴吐出器。
【請求項8】
前記外側アクチュエータ機構を備え、
前記外側アクチュエータ機構が、実質的に環状である単一の外側圧電アクチュエータからなる、前記請求項1~7のいずれか一項に記載の液滴吐出器。
【請求項9】
前記単一の外側圧電アクチュエータが、前記単一の内側圧電アクチュエータを包囲している、請求項7に従属する請求項8に記載の液滴吐出器。
【請求項10】
前記内側アクチュエータ機構及び前記外側アクチュエータ機構を備え、
前記内側の駆動電極の対及び前記外側の駆動電極の対の両方が、駆動回路に電気的に接続され、前記駆動回路が、使用時に電源に接続されると、前記内側の電極の対の間に第1電位差を印加して第1方向における前記内側圧電体のたわみをもたらし、前記外側の電極の対の間に第2電位差を印加して前記第1方向とは反対の第2方向における前記外側圧電体のたわみをもたらすように構成されている、請求項1~9のいずれか一項に記載の液滴吐出器。
【請求項11】
1つ若しくは複数の前記内側圧電体及び/又は1つ若しくは複数の前記外側圧電体が、450℃未満の温度で堆積可能な1種又は複数種の圧電材料を含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の液滴吐出器。
【請求項12】
前記1種又は複数種の圧電材料が、PVD堆積した圧電材料である、請求項1~11のいずれか一項に記載の液滴吐出器。
【請求項13】
前記1種又は複数種の圧電材料が、窒化アルミニウム及び/又は酸化亜鉛を含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の液滴吐出器。
【請求項14】
窒化アルミニウムが、以下の元素:スカンジウム、イットリウム、チタン、マグネシウム、ハフニウム、ジルコニウム、スズ、クロム、ホウ素のうちの1種又は複数種をさらに含む、請求項13に記載の液滴吐出器。
【請求項15】
前記1種又は複数種の圧電材料が、アルミニウム及び窒素、並びに任意選択的に、スカンジウム、イットリウム、チタン、マグネシウム、ハフニウム、ジルコニウム、スズ、クロム、ホウ素から選択された1種又は複数種の元素を含むセラミック材料を含む、請求項1~14のいずれか一項に記載の液滴吐出器。
【請求項16】
前記1種又は複数種の圧電材料が非強誘電性圧電材料である、請求項1~15のいずれか一項に記載の液滴吐出器。
【請求項17】
1つ若しくは複数の前記内側圧電体及び/又は1つ若しくは複数の前記外側圧電体が、20pC/N未満の大きさを有するd31圧電定数を有する、請求項1~16のいずれか一項に記載の液滴吐出器。
【請求項18】
前記基板の前記取付面が、前記流体チャンバと流体連通する流体入口アパーチャを備える、請求項1~17のいずれか一項に記載の液滴吐出器。
【請求項19】
前記流体チャンバが実質的に円筒状であり、前記ノズル形成層の前記ノズル部分が実質的に環状である、請求項1~18のいずれか一項に記載の液滴吐出器。
【請求項20】
前記内側アクチュエータ機構及び前記外側アクチュエータ機構並びに前記ノズル形成層を覆う保護層をさらに備える、請求項1~19のいずれか一項に記載の液滴吐出器。
【請求項21】
請求項1~20のいずれか一項に記載の複数の液滴吐出器を備えるプリントヘッド。
【請求項22】
前記複数の液滴吐出器が共通の基板を共有する、請求項21に記載のプリントヘッド。
【請求項23】
請求項21又は22に記載の1つ又は複数のプリントヘッドを備えるプリンタ。
【請求項24】
請求項1~17のいずれか一項に記載の液滴吐出器を作動させる方法であって、前記内側アクチュエータ機構を作動させ且つ/又は前記外側アクチュエータ機構を作動させ、それにより、前記ノズル形成層の前記ノズル部分の少なくとも一部の変位、及び結果として前記流体チャンバから前記流体チャンバ出口を通る流体の吐出をもたらすステップを含む方法。
【請求項25】
前記液滴吐出器が、内側アクチュエータ機構及び外側アクチュエータ機構の両方を備え、前記方法が、前記内側アクチュエータ機構及び前記外側アクチュエータ機構の両方を作動させ、それにより、前記ノズル形成層の前記ノズル部分の少なくとも一部の変位、及び結果として前記流体チャンバから前記流体チャンバ出口を通る流体の吐出をもたらすステップを含む、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記内側アクチュエータ機構を作動させる前記ステップ及び前記外側アクチュエータ機構を作動させる前記ステップは、同時に行われる、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記内側アクチュエータ機構を作動させるステップが、前記内側の駆動電極の対の間に第1電位差を印加して、前記内側圧電体のたわみをもたらすことを含み、前記外側アクチュエータ機構を作動させるステップが、前記外側の駆動電極の対の間に第2電位差を印加して、前記外側圧電体のたわみをもたらすことを含む、請求項10に従属する請求項25又は26に記載の方法。
【請求項28】
前記第1電位差及び前記第2電位差が、前記内側圧電体及び前記外側圧電体が反対方向にたわむように、反対の極性を有する、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記第1電位差及び前記第2電位差が同時に印加される、請求項27又は28に記載の方法。」
(2)本件補正後の特許請求の範囲
下線は、補正箇所を示すために、合議体が付したものである。
「 【請求項1】
プリントヘッド用の液滴吐出器であって、
取付面及び反対側のノズル面を有する基板と、
前記基板の前記ノズル面の少なくとも一部の上に形成されたノズル形成層と、
前記基板と前記ノズル形成層との間に設けられた相互接続層と、
少なくとも一部は前記基板により且つ少なくとも一部は前記ノズル形成層により画定された流体チャンバであって、少なくとも一部は前記ノズル形成層のノズル部分によって画定された流体チャンバ出口を有し、前記ノズル部分が、前記流体チャンバ出口の方に近接して位置する内側部分と、前記ノズル部分の周縁部の方に近接して位置する外側部分とを備える、流体チャンバと、
前記ノズル形成層の前記ノズル部分の前記内側部分に形成された内側アクチュエータ機構、及び前記ノズル形成層の前記ノズル部分の前記外側部分に形成された外側アクチュエータ機構のうちのいずれか又は両方とを備え、
前記内側アクチュエータ機構及び/又は前記外側アクチュエータ機構並びに前記ノズル形成層のノズル部分の少なくとも1つは、起動時に前記ノズル部分の前記内側部分が第1向きに湾曲し、前記ノズル部分の前記外側部分が前記第1向きとは反対の第2向きに湾曲するように構成され、
前記内側アクチュエータ機構は1つ又は複数の内側圧電アクチュエータを備え、前記1つ又は複数の内側圧電アクチュエータのうちの少なくとも1つが、内側の駆動電極の対の間に設けられた内側圧電体を備え、
前記外側アクチュエータ機構は1つ又は複数の外側圧電アクチュエータを備え、前記1つ又は複数の外側圧電アクチュエータのうちの少なくとも1つが、外側の駆動電極の対の間に設けられた外側圧電体を備え、
1つ若しくは複数の前記内側圧電体及び/又は1つ若しくは複数の前記外側圧電体が、450℃未満の温度で処理可能な1種又は複数種の圧電材料を含み、
前記液滴吐出器が前記基板と一体化された少なくとも1つの電子部品を備え、
前記基板内に設けられた電子回路が、前記相互接続層を介して前記内側アクチュエータ機構又は前記外側アクチュエータ機構に接続される、液滴吐出器。
【請求項2】
1種又は複数種の前記圧電材料が、窒化スカンジウムアルミニウム(ScAlN)を含む、請求項1に記載の液滴吐出器。
【請求項3】
前記少なくとも1つの電子部品が、少なくとも1つの相補型金属酸化膜半導体(CMOS)電子部品を含む、請求項1又は2に記載の液滴吐出器。
【請求項4】
前記ノズル形成層の前記ノズル部分の前記外側部分は、前記ノズル形成層の前記ノズル部分の前記内側部分を少なくとも部分的に包囲している、請求項1~3のいずれか一項に記載の液滴吐出器。
【請求項5】
前記内側アクチュエータ機構を備え、
前記内側アクチュエータ機構は、前記流体チャンバ出口を少なくとも部分的に包囲している、請求項1~4のいずれか一項に記載の液滴吐出器。
【請求項6】
前記内側アクチュエータ機構が実質的に環状である及び/又は前記外側アクチュエータ機構が実質的に環状である、前記請求項1~5のいずれか一項に記載の液滴吐出器。
【請求項7】
前記内側アクチュエータ機構を備え、
前記内側アクチュエータ機構が、実質的に環状である単一の内側圧電アクチュエータからなる、前記請求項1~6のいずれか一項に記載の液滴吐出器。
【請求項8】
前記外側アクチュエータ機構を備え、
前記外側アクチュエータ機構が、実質的に環状である単一の外側圧電アクチュエータからなる、前記請求項1~7のいずれか一項に記載の液滴吐出器。
【請求項9】
プリントヘッド用の液滴吐出器であって、
取付面及び反対側のノズル面を有する基板と、
前記基板の前記ノズル面の少なくとも一部の上に形成されたノズル形成層と、
少なくとも一部は前記基板により且つ少なくとも一部は前記ノズル形成層により画定された流体チャンバであって、少なくとも一部は前記ノズル形成層のノズル部分によって画定された流体チャンバ出口を有し、前記ノズル部分が、前記流体チャンバ出口の方に近接して位置する内側部分と、前記ノズル部分の周縁部の方に近接して位置する外側部分とを備える、流体チャンバと、
前記ノズル形成層の前記ノズル部分の前記内側部分に形成された内側アクチュエータ機構、及び前記ノズル形成層の前記ノズル部分の前記外側部分に形成された外側アクチュエータ機構のうちのいずれか又は両方とを備え、
前記内側アクチュエータ機構及び/又は前記外側アクチュエータ機構並びに前記ノズル形成層のノズル部分の少なくとも1つは、起動時に前記ノズル部分の前記内側部分が第1向きに湾曲し、前記ノズル部分の前記外側部分が前記第1向きとは反対の第2向きに湾曲するように構成され、
前記内側アクチュエータ機構は1つ又は複数の内側圧電アクチュエータを備え、前記1つ又は複数の内側圧電アクチュエータのうちの少なくとも1つが、内側の駆動電極の対の間に設けられた内側圧電体を備え、
前記外側アクチュエータ機構は1つ又は複数の外側圧電アクチュエータを備え、前記1つ又は複数の外側圧電アクチュエータのうちの少なくとも1つが、外側の駆動電極の対の間に設けられた外側圧電体を備え、
1つ若しくは複数の前記内側圧電体及び/又は1つ若しくは複数の前記外側圧電体が、450℃未満の温度で処理可能な1種又は複数種の圧電材料を含み、前記液滴吐出器が前記基板と一体化された少なくとも1つの電子部品を備え、
前記内側アクチュエータ機構を備え、
前記内側アクチュエータ機構が、実質的に環状である単一の内側圧電アクチュエータからなり、
前記外側アクチュエータ機構を備え、
前記外側アクチュエータ機構が、実質的に環状である単一の外側圧電アクチュエータからなり、
前記単一の外側圧電アクチュエータが、前記単一の内側圧電アクチュエータを包囲している、液滴吐出器。
【請求項10】
プリントヘッド用の液滴吐出器であって、
取付面及び反対側のノズル面を有する基板と、
前記基板の前記ノズル面の少なくとも一部の上に形成されたノズル形成層と、
少なくとも一部は前記基板により且つ少なくとも一部は前記ノズル形成層により画定された流体チャンバであって、少なくとも一部は前記ノズル形成層のノズル部分によって画定された流体チャンバ出口を有し、前記ノズル部分が、前記流体チャンバ出口の方に近接して位置する内側部分と、前記ノズル部分の周縁部の方に近接して位置する外側部分とを備える、流体チャンバと、
前記ノズル形成層の前記ノズル部分の前記内側部分に形成された内側アクチュエータ機構、及び前記ノズル形成層の前記ノズル部分の前記外側部分に形成された外側アクチュエータ機構のうちのいずれか又は両方とを備え、
前記内側アクチュエータ機構及び/又は前記外側アクチュエータ機構並びに前記ノズル形成層のノズル部分の少なくとも1つは、起動時に前記ノズル部分の前記内側部分が第1向きに湾曲し、前記ノズル部分の前記外側部分が前記第1向きとは反対の第2向きに湾曲するように構成され、
前記内側アクチュエータ機構は1つ又は複数の内側圧電アクチュエータを備え、前記1つ又は複数の内側圧電アクチュエータのうちの少なくとも1つが、内側の駆動電極の対の間に設けられた内側圧電体を備え、
前記外側アクチュエータ機構は1つ又は複数の外側圧電アクチュエータを備え、前記1つ又は複数の外側圧電アクチュエータのうちの少なくとも1つが、外側の駆動電極の対の間に設けられた外側圧電体を備え、
1つ若しくは複数の前記内側圧電体及び/又は1つ若しくは複数の前記外側圧電体が、450℃未満の温度で処理可能な1種又は複数種の圧電材料を含み、
前記液滴吐出器が前記基板と一体化された少なくとも1つの電子部品を備え、
前記内側アクチュエータ機構及び前記外側アクチュエータ機構を備え、
前記内側の駆動電極の対及び前記外側の駆動電極の対の両方が、駆動回路に電気的に接続され、前記駆動回路が、使用時に電源に接続されると、前記内側の電極の対の間に第1電位差を印加して第1方向における前記内側圧電体のたわみをもたらし、前記外側の電極の対の間に第2電位差を印加して前記第1方向とは反対の第2方向における前記外側圧電体のたわみをもたらすように構成されている、液滴吐出器。
【請求項11】
1つ若しくは複数の前記内側圧電体及び/又は1つ若しくは複数の前記外側圧電体が、450℃未満の温度で堆積可能な1種又は複数種の圧電材料を含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の液滴吐出器。
【請求項12】
前記1種又は複数種の圧電材料が、PVD堆積した圧電材料である、請求項1~11のいずれか一項に記載の液滴吐出器。
【請求項13】
前記1種又は複数種の圧電材料が、窒化アルミニウム及び/又は酸化亜鉛を含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の液滴吐出器。
【請求項14】
窒化アルミニウムが、以下の元素:スカンジウム、イットリウム、チタン、マグネシウム、ハフニウム、ジルコニウム、スズ、クロム、ホウ素のうちの1種又は複数種をさらに含む、請求項13に記載の液滴吐出器。
【請求項15】
前記1種又は複数種の圧電材料が、アルミニウム及び窒素、並びに任意選択的に、スカンジウム、イットリウム、チタン、マグネシウム、ハフニウム、ジルコニウム、スズ、クロム、ホウ素から選択された1種又は複数種の元素を含むセラミック材料を含む、請求項1~14のいずれか一項に記載の液滴吐出器。
【請求項16】
前記1種又は複数種の圧電材料が非強誘電性圧電材料である、請求項1~15のいずれか一項に記載の液滴吐出器。
【請求項17】
1つ若しくは複数の前記内側圧電体及び/又は1つ若しくは複数の前記外側圧電体が、20pC/N未満の大きさを有するd31圧電定数を有する、請求項1~16のいずれか一項に記載の液滴吐出器。
【請求項18】
前記基板の前記取付面が、前記流体チャンバと流体連通する流体入口アパーチャを備える、請求項1~17のいずれか一項に記載の液滴吐出器。
【請求項19】
前記流体チャンバが実質的に円筒状であり、前記ノズル形成層の前記ノズル部分が実質的に環状である、請求項1~18のいずれか一項に記載の液滴吐出器。
【請求項20】
前記内側アクチュエータ機構及び前記外側アクチュエータ機構並びに前記ノズル形成層を覆う保護層をさらに備える、請求項1~19のいずれか一項に記載の液滴吐出器。
【請求項21】
請求項1~20のいずれか一項に記載の複数の液滴吐出器を備えるプリントヘッド。
【請求項22】
前記複数の液滴吐出器が共通の基板を共有する、請求項21に記載のプリントヘッド。
【請求項23】
請求項21又は22に記載の1つ又は複数のプリントヘッドを備えるプリンタ。
【請求項24】
請求項1~17のいずれか一項に記載の液滴吐出器を作動させる方法であって、前記内側アクチュエータ機構を作動させ且つ/又は前記外側アクチュエータ機構を作動させ、それにより、前記ノズル形成層の前記ノズル部分の少なくとも一部の変位、及び結果として前記流体チャンバから前記流体チャンバ出口を通る流体の吐出をもたらすステップを含む方法。
【請求項25】
プリントヘッド用の液滴吐出器であって、取付面及び反対側のノズル面を有する基板と、前記基板の前記ノズル面の少なくとも一部の上に形成されたノズル形成層と、少なくとも一部は前記基板により且つ少なくとも一部は前記ノズル形成層により画定された流体チャンバであって、少なくとも一部は前記ノズル形成層のノズル部分によって画定された流体チャンバ出口を有し、前記ノズル部分が、前記流体チャンバ出口の方に近接して位置する内側部分と、前記ノズル部分の周縁部の方に近接して位置する外側部分とを備える、流体チャンバと、前記ノズル形成層の前記ノズル部分の前記内側部分に形成された内側アクチュエータ機構、及び前記ノズル形成層の前記ノズル部分の前記外側部分に形成された外側アクチュエータ機構のうちのいずれか又は両方とを備え、前記内側アクチュエータ機構及び/又は前記外側アクチュエータ機構並びに前記ノズル形成層のノズル部分の少なくとも1つは、起動時に前記ノズル部分の前記内側部分が第1向きに湾曲し、前記ノズル部分の前記外側部分が前記第1向きとは反対の第2向きに湾曲するように構成され、前記内側アクチュエータ機構は1つ又は複数の内側圧電アクチュエータを備え、前記1つ又は複数の内側圧電アクチュエータのうちの少なくとも1つが、内側の駆動電極の対の間に設けられた内側圧電体を備え、前記外側アクチュエータ機構は1つ又は複数の外側圧電アクチュエータを備え、前記1つ又は複数の外側圧電アクチュエータのうちの少なくとも1つが、外側の駆動電極の対の間に設けられた外側圧電体を備え、1つ若しくは複数の前記内側圧電体及び/又は1つ若しくは複数の前記外側圧電体が、450℃未満の温度で処理可能な1種又は複数種の圧電材料を含み、前記液滴吐出器が前記基板と一体化された少なくとも1つの電子部品を備える、液滴吐出器を作動させる方法であって、
前記内側アクチュエータ機構を作動させ且つ/又は前記外側アクチュエータ機構を作動させ、それにより、前記ノズル形成層の前記ノズル部分の少なくとも一部の変位、及び結果として前記流体チャンバから前記流体チャンバ出口を通る流体の吐出をもたらすステップを含み、
前記液滴吐出器が、内側アクチュエータ機構及び外側アクチュエータ機構の両方を備え、前記方法が、前記内側アクチュエータ機構及び前記外側アクチュエータ機構の両方を作動させ、それにより、前記ノズル形成層の前記ノズル部分の少なくとも一部の変位、及び結果として前記流体チャンバから前記流体チャンバ出口を通る流体の吐出をもたらすステップを含む、方法。
【請求項26】
前記内側アクチュエータ機構を作動させる前記ステップ及び前記外側アクチュエータ機構を作動させる前記ステップは、同時に行われる、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記内側アクチュエータ機構を作動させるステップが、前記内側の駆動電極の対の間に第1電位差を印加して、前記内側圧電体のたわみをもたらすことを含み、前記外側アクチュエータ機構を作動させるステップが、前記外側の駆動電極の対の間に第2電位差を印加して、前記外側圧電体のたわみをもたらすことを含む、請求項10に従属する請求項25又は26に記載の方法。
【請求項28】
前記第1電位差及び前記第2電位差が、前記内側圧電体及び前記外側圧電体が反対方向にたわむように、反対の極性を有する、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記第1電位差及び前記第2電位差が同時に印加される、請求項27又は28に記載の方法。」
(3)補正の内容
上記(1)及び(2)によれば、本件補正は、次の補正事項を含むものである。
ア 本件補正前の請求項1に対し、「前記基板と前記ノズル形成層との間に設けられた相互接続層と」との記載とともに、「前記基板内に設けられた電子回路が、前記相互接続層を介して前記内側アクチュエータ機構又は前記外側アクチュエータ機構に接続される」との記載を追加する補正(以下「補正事項1」という。)
イ 本件補正前の請求項9に対し、請求項1~6のいずれか一項を引用する請求項7に従属する請求項8を引用する形式を、本件補正前の請求項1、7、8の発明特定事項で特定した独立形式の請求項とする補正(以下「補正事項2」という。)
ウ 本件補正前の請求項10に対し、請求項1~9のいずれか一項を引用する形式を、本件補正前の請求項1の発明特定事項で特定した独立形式の請求項とする(以下「補正事項3」という。)
ウ 本件補正前の請求項25に対し、請求項1~17のいずれか一項を引用する請求項24を引用する形式を、本件補正前の請求項1、24の発明特定事項で特定した独立形式の請求項とする(以下「補正事項4」という。)
2 補正の適否
(1)本件補正後の請求項1における「電子部品」及び「電子回路」の記載について
本件補正後の請求項1には、「前記基板と一体化された少なくとも1つの電子部品」及び「前記基板内に設けられた電子回路」の記載があり、まず、この記載について検討すると、本願明細書には、次の記載がある(下線は当審が付した。以下同様。)。
「【0033】
液滴吐出器は、基板と一体化された少なくとも1つの電子部品を備える場合がある。少なくとも1つの電子部品は、少なくとも1つの能動電子部品(たとえば、トランジスタ)を含むことができる。さらに又は別法として、少なくとも1つの電子部品は、少なくとも1つの受動電子部品(たとえば、抵抗器)を含むことができる。少なくとも1つの電子部品は、基板と一体化された少なくとも1つのCMOS(すなわち、相補型金属酸化膜半導体)電子部品を含むことができる。」
「【0128】
駆動回路は、基板と一体化されたCMOS回路(たとえば、CMOS電子回路)を備えることができる。CMOS電子部品(たとえば、CMOS回路の一部を形成するCMOS電子部品、すなわちCMOS電子回路)は、典型的には、標準的なCMOS製造方法によって基板上に形成される(たとえば、基板上で成長する)。たとえば、集積されたCMOS電子部品は、以下の方法:物理気相成長、化学気相成長、電気化学堆積、分子線エピタキシー、原子層堆積、イオン注入、フォトパターニング、反応性イオンエッチング、プラズマ照射のうちの1つ又は複数を用いて堆積させることができる。」
上記のとおり、電子部品の例としてCMOS電子部品が挙げられ、また、CMOS回路の一部を形成するCMOS電子部品がすなわちCMOS電子回路と表現されていることからすれば、本願明細書における「電子部品」及び「電子回路」は、回路の一部に他ならない電子部品について、デバイスの側面から電子部品というか、働きの側面から電子回路というか、という程度の表現上の差異にすぎず、「電子部品」及び「電子回路」を別の要素として区別して用いていると解することはできない。そうすると、本件補正後の請求項1における「前記基板内に設けられた電子回路」は、その前段に記載される「前記基板と一体化された少なくとも1つの電子部品」を指すものと解される。
(2)補正の目的について
ア 補正事項1について
前記(1)をふまえれば、補正事項1は、本件補正前の請求項1における発明を特定するために必要な事項である「電子部品(電子回路)」と「内側アクチュエータ機構」又は「前記外側アクチュエータ機構」について、「前記基板と前記ノズル形成層との間に設けられた」「相互接続層を介して」接続されるとの接続態様を限定するものである。
そして、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明とは、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一である。
そうすると、補正事項1は、特許法第17条の2第5項第2号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
イ 補正事項2~4について
補正事項2により、本件補正後の請求項9で特定された発明特定事項を備える請求項以外の請求項を引用する請求項、例えば、請求項2を引用する請求項6を引用する請求項8を引用する請求項9が削除されるものであるから、実質的に請求項の削除を目的としたものといえる。
補正事項3、4についても同様に請求項の削除を目的としたものといえる。
そうすると、補正事項2~4は、特許法第17条の2第5項第1号に規定する「第36条第5項に規定する請求項の削除」を目的とするものに該当する。
(3)新規事項の追加の有無について
本願の願書に最初に添付した明細書には、次の記載がある。
「【0176】
相互接続層300は、電子回路200及び基板100の上に直接形成され、電気絶縁体及び配線を備える。相互接続層300における配線は、チップ電子回路203をボンドパッド700とアクチュエータ電極駆動回路201及び202との両方に接続する。相互接続層300は、ノズルの間、チップの周辺部の辺り及び/又は駆動電子装置の上にルーティングされる電力及びデータのルーティング配線を含む。相互接続層300は、典型的には、異なる配線路を有する複数の層を備える。
【0177】
ノズルプレート500は、相互接続層300の上に形成されている。ノズルプレート500は、単一の材料又は複数の材料の積層体のいずれかから形成されている。ノズルプレート500は、チップの前面にわたって連続的であり、下方の相互接続層300と上方のアクチュエータ電極401との間の配線のための電気的開口部を有する。」
そうすると、補正事項1は、本願の願書に最初に添付した明細書における【0176】~【0177】の記載に基づくものであり、新たな技術的事項を導入するものではないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たす。
3 独立特許要件について
前記2.(2)のとおり、本件補正の補正事項1は、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするから、本件補正後の請求項1~8、11~24に係る発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について、以下、検討する。
3-1 理由1(特許法第29条第2項)
(1)本件補正後の請求項1に係る発明
本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本件補正発明」という。)は、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、本件補正後の請求項1の記載を再掲すると、次のとおりである。
「 【請求項1】
プリントヘッド用の液滴吐出器であって、
取付面及び反対側のノズル面を有する基板と、
前記基板の前記ノズル面の少なくとも一部の上に形成されたノズル形成層と、
前記基板と前記ノズル形成層との間に設けられた相互接続層と、
少なくとも一部は前記基板により且つ少なくとも一部は前記ノズル形成層により画定された流体チャンバであって、少なくとも一部は前記ノズル形成層のノズル部分によって画定された流体チャンバ出口を有し、前記ノズル部分が、前記流体チャンバ出口の方に近接して位置する内側部分と、前記ノズル部分の周縁部の方に近接して位置する外側部分とを備える、流体チャンバと、
前記ノズル形成層の前記ノズル部分の前記内側部分に形成された内側アクチュエータ機構、及び前記ノズル形成層の前記ノズル部分の前記外側部分に形成された外側アクチュエータ機構のうちのいずれか又は両方とを備え、
前記内側アクチュエータ機構及び/又は前記外側アクチュエータ機構並びに前記ノズル形成層のノズル部分の少なくとも1つは、起動時に前記ノズル部分の前記内側部分が第1向きに湾曲し、前記ノズル部分の前記外側部分が前記第1向きとは反対の第2向きに湾曲するように構成され、
前記内側アクチュエータ機構は1つ又は複数の内側圧電アクチュエータを備え、前記1つ又は複数の内側圧電アクチュエータのうちの少なくとも1つが、内側の駆動電極の対の間に設けられた内側圧電体を備え、
前記外側アクチュエータ機構は1つ又は複数の外側圧電アクチュエータを備え、前記1つ又は複数の外側圧電アクチュエータのうちの少なくとも1つが、外側の駆動電極の対の間に設けられた外側圧電体を備え、
1つ若しくは複数の前記内側圧電体及び/又は1つ若しくは複数の前記外側圧電体が、450℃未満の温度で処理可能な1種又は複数種の圧電材料を含み、
前記液滴吐出器が前記基板と一体化された少なくとも1つの電子部品を備え、
前記基板内に設けられた電子回路が、前記相互接続層を介して前記内側アクチュエータ機構又は前記外側アクチュエータ機構に接続される、液滴吐出器。」
(2)引用文献1
ア 引用文献1の記載事項
原査定で引用文献1として引用され、本願の優先権主張の日(以下「優先日」という。)前に発行された特開2015-58666号公報(平成27年3月30日公開、以下「引用文献1」という。)には、次の事項が記載されている。
(ア)「【技術分野】
【0001】
実施形態は、ノズルからインクを吐出するインクジェットヘッド、インクジェット記録装置及びインクジェットヘッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコン基板の表面に平面状の圧電素子を備えるノズルプレートを設ける一方、シリコン基板を裏面からウェットエッチングして加圧室(圧力発生室)を形成するインクジェットヘッドがある。
【0003】
シリコン基板を裏面からエッチングして圧力発生室を形成するインクジェットヘッドは、エッチングの精度によって、圧力発生室の形状あるいは寸法等に大きなばらつきを生じる恐れがある。インクジェットヘッドの圧力発生室の形状あるいは寸法等のばらつきにより、ノズルプレートの可動域がばらつくと、ノズルからのインク吐出能力がばらついて、高精度の画質を得られない恐れがある。
・・・
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この発明が解決しようとする課題は、ノズルプレートの可動域のばらつきを抑えて、安定したインク吐出能力を得ることにより、高画質を得る、信頼性の高いインクジェットヘッド、インクジェット記録装置及びインクジェットヘッドの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を達成するために、実施形態のインクジェットヘッドは、エッチング規制部を備えインクを充填する圧力室と、前記圧力室に連通するノズルを備え、可動域端部が前記エッチング規制部に固定されるノズルプレートと、圧電体を備え、前記ノズルプレートに配置される面状の駆動部と、を備える。」
(イ)「【0012】
画像形成部20は、例えばインクジェットヘッド100C、100M、100Y、100Kを備える。インクジェットヘッド100C、100M、100Y、100Kは、それぞれシアン、マゼンダ、イエロ、ブラックのインクを吐出して、保持ローラ13表面に保持される記録紙Pに、所望の画像をプリントする。
【0013】
剥離部21は、除電チャージャ21aと剥離爪21bを備える。除電チャージャ21aは、記録紙Pに電荷を供給して記録紙Pを除電する。剥離爪21bは、記録紙Pを保持ローラ13の表面から剥離する。プリントを終了していれば、剥離部21は、保持ローラ13から剥離した記録紙Pを、排紙搬送部17により排紙トレイ12に排紙する。両面プリントする場合は、剥離部21は、保持ローラ13から剥離した記録紙Pを、反転部16で反転し、再び保持ローラ13に供給する。反転部16は、例えば記録紙Pの前後方向を逆にスイッチバックさせる反転経路16aを備え、保持ローラ13から剥離した記録紙Pを反転する。クリーニング部22は、保持ローラ13表面をクリーニングする。
【0014】
画像形成部20のインクジェットヘッド100C、100M、100Y、100Kについて述べる。インクジェットヘッド100C、100M、100Y、100Kはそれぞれ使用するインクが異なるものの同じ構成である。したがって共通の符号を用いて説明する。
【0015】
図2に圧電MEMS(Micro Electro Mechanical System)型のインクジェットヘッド100の一例を示す。インクジェットヘッド100は、圧力室構造体50、バックプレート52、ノズルプレート30及びインク流路構造体54を備える。インクジェットヘッド100は、インクタンク101、制御部102に接続する。
【0016】
ノズルプレート30は、圧力室構造体50の第1の面に形成され、バックプレート52は、圧力室構造体50のノズルプレート30と対向する第2の面に配置される。
【0017】
インクジェットヘッド100は、インクタンク101から供給されるインクを、インク流路構造体54を介して、圧力室構造体50に形成される圧力室である円形の圧力発生室51に充填する。インクジェットヘッド100は、圧力発生室51に充填されるインクを、ノズルプレート30に形成される複数のノズル31から、インク滴としてそれぞれ吐出する。複数のノズル31は、ノズルプレート30に例えば二列に配列される。
【0018】
インク流路構造体54は、インク流入口56、インク流路57及びインク排出口58を備える。インク流路構造体54は、インク流入口56からインク流路57に供給されるインクを、バックプレート52のインク孔53から圧力発生室51に流入する。インク流路57内のインクはインク排出口58からインクタンク101に排出する。インクジェットヘッド100は、インクタンク101とインク流路57との間でインクを循環する。
【0019】
図3及び図4に示すように、ノズルプレート30は、ノズル31周囲に駆動部である面状の圧電素子40を備える。ノズルプレート30は、面状の圧電素子40の動作により厚み方向に変動する。インクジェットヘッド100は、ノズルプレート30の変動により圧力発生室51内に発生するエネルギ変化によって、ノズル31からインクを吐出する。
【0020】
圧力発生室51は、例えばシリコン基板(Si基板)からなる圧力室構造体50に平面形状が円形となるように形成される。シリコン基板の厚さは、例えば100~600μm程度であれば良い。隣接する圧力発生室51間の隔壁55の剛性を保ち、且つ円形状の圧力発生室51の配列密度を高めるには、シリコン基板の厚さを、150~250μm程度とするのがより望ましい。圧力発生室51は、ノズルプレート30、隔壁55及びバックプレート52に囲まれて構成される。
【0021】
隔壁55は、エッチング規制部であり、内径(直径)α1として、厚さwとする円環状のシリコン酸化膜側壁55aを備える。隔壁55は、内径(直径)α2の圧力室構造体50のエッチング面が形成されるシリコン膜側壁55bを備える。圧力発生室51は内径α1の領域と内径α2の領域を備える。
【0022】
ノズルプレート30は、例えば圧力室構造体50と一体に形成される二酸化シリコン(SiO2)膜からなり、圧力室構造体50の隔壁55と一体に形成される。シリコン酸化膜側壁55aの上端及びシリコン膜側壁55bの上端は、ノズルプレート30の固定端となっている。ノズルプレート30は、シリコン酸化膜側壁55aに規制されて、直径α1の可動域を備える。ノズルプレート30の厚さは、例えば1~5μmとされる。
【0023】
二酸化シリコン(SiO2)膜は非晶質であることにより均等な変形を実現出来るという観点から、ノズルプレート30として望ましい。また安定した組成及び特性を備える膜の製造が容易という観点からも、ノズルプレート30として非晶質である二酸化シリコン(SiO2)膜を使用するのが望ましい。更に従来の半導体製造プロセスとの整合性が良いという観点からも、ノズルプレート30として非晶質である二酸化シリコン(SiO2)膜を使用するのが望ましい。ノズルプレート30の材料は二酸化シリコン(SiO2)膜に限定されない。均等な変形を実現するために、ノズルプレートとして非晶質のシリコン窒化(SiN)膜を用いることも望ましい。
【0024】
ノズル31は、例えばエッチングによりノズルプレート30に形成される。圧力発生室51の大きさとノズル31の大きさは、ノズル31から吐出するインク滴の量、インク吐出スピード、インク吐出周波数に応じて最適化する。例えば、1インチ当たり360個のインク滴を記録する場合には、ノズル31を、数十μmの溝幅で精度良く形成するのが望ましい。
【0025】
圧電素子40は、各ノズル31の周囲に配置され、圧電体である圧電膜42を挟んで下部電極41及び上部電極43を積層する。下部電極41の一部41aは延長されて外部配線141の一部とされる。外部配線141は、2つの端子部141aに接続する。また、上部電極43の一部43aは、下層にある圧電膜42及び下部電極41とともに延長されて外部配線143の一部とされる。外部配線143は、下部電極41の2つの端子部141aの間に並んで配置される複数の端子部143aにそれぞれ接続する。
【0026】
制御部102は、端子部143aへの電圧のオン/オフを制御して、圧電素子40に電気信号を供給する。圧電素子40は、圧力発生室51の周囲領域32の上方においてノズルプレート30に形成される。
【0027】
ノズルプレート30のノズル31周囲のホール領域である直径βの円形の中央部33には、圧電素子40は形成されない。圧電素子40は、ノズルプレート30の隔壁55の上方から、ノズル31に向かって圧力発生室51領域上方まで延在する円環形状である。円環形状の圧電素子40が形成されないノズルプレート30の中央部33は、厚み方向に自由に変動可能となる。ノズルプレート30の中央部33の幅は、圧電素子40の動作によりノズルプレート30が変動可能な範囲であれば限定されない。
【0028】
圧電素子40の圧電膜42として、チタン酸ジルコン酸鉛((Pb(Zr,Ti)O3、PZT)等の電歪定数の大きな圧電材料が適している。圧電膜42にPZTを使用した場合、下部電極41或いは上部電極43の材料として、Pt(白金)、Au(金)、Ir(イリジウム)等の貴金属、或いはSrRuO3(ルテニウム酸ストロンチウム)等の導電性の酸化物が適している。
【0029】
圧電膜42は、窒化アルミニウム(AlN)或いは二酸化亜鉛(ZnO2)等のシリコンプロセスに適した圧電材料を使用することも可能である。圧電膜42として窒化アルミニウム或いは二酸化亜鉛等を使用する場合には、下部電極41或いは上部電極43として、Al(アルミニウム)或いはCu(銅)等の、一般の電極材料や配線材料を使用できる。」
(ウ)「【0041】
次に、ノズルプレート30と対向する側の隔壁55に、バックプレート52を接着して圧力発生室51を形成する(図5g)。バックプレート52は、例えば、真空雰囲気中で双方の接着部分を清浄処理後に密着して、圧力室構造体50に加圧接着する、シリコンダイレクトボンディング法を用いても良い。あるいは有機接着剤を用いて圧力室構造体50に接着しても良い。」
(エ)「【0047】
図7に、下部電極41と上部電極43の間に30Vの電圧を印加した場合の、シミュレータで計算されたノズルプレート30の変形を模式的に示す。電圧印加により圧電膜42は、矢印qで示す面方向に収縮する。圧電膜42の収縮により、ノズルプレート30の周囲領域32はバイモルフ効果により凹状に変形する。ノズルプレート30の圧電膜42が形成されていない中央部33は、周囲領域32の変形に伴い面方向に対して垂直に凸状に変形する。」
(オ)「【0054】
(第2の実施形態)
第2の実施形態のインクジェットヘッド200を、図8乃至図10を参照して説明する。第2の実施形態は、第1の実施形態において、圧電素子をノズルプレートの中央部に配置するものである。第2の実施形態にあって、前述の第1の実施形態で説明した構成と同一構成については同一符号を付して詳細な説明を省略する。
【0055】
ノズルプレートの面上に配置される圧電素子によりノズルプレートを変形駆動するためには、圧電素子をノズルプレートの中央寄り或いは周囲寄りに配置することが望ましい。例えば上述の第1の実施形態は、圧電素子40をノズルプレート30の周囲寄りに配置して、中央部33を圧電素子40が形成されないホール領域とする。第2の実施形態では、圧電素子をノズルプレートの中央寄りに配置して、周囲に圧電素子が形成されない領域を設ける。
【0056】
図8及び図9に示すように、インクジェットヘッド200のノズルプレート30は、ノズル31寄りに直径γ1の面状の圧電素子60を備える。圧電素子60は、ノズル31毎に、圧電体である圧電膜62をはさんで下部電極61及び上部電極63が積層される。下部電極61の端部61aは延長されて外部配線141の一部とされる。上部電極63の端部63aは、下層にある圧電膜42及び下部電極41とともに延長されて外部配線143の一部とされる。
【0057】
ノズルプレート30の圧電素子60の外周から隔壁55の内径までの幅δ2の円環状の周囲部66には、外部配線141、143との接続領域をのぞいて、圧電素子60は形成されない。
【0058】
圧電素子60の直径γ1(周囲部66の幅δ2)のサイズは、圧電素子60による駆動時にノズルプレート30の変形を妨げない範囲で任意である。」
(カ)「【図2】
[図:0001420035000001.jpg]
【図3】
[図:0001420035000002.jpg]
【図4】
[図:0001420035000003.jpg]
」
(キ)「【図7】
[図:0001420035000004.jpg]
【図8】
[図:0001420035000005.jpg]
【図9】
[図:0001420035000006.jpg]
」
イ また、引用文献1について、以下の事項が把握できる。
(ア)上記ア(イ)の【0014】の「画像形成部20のインクジェットヘッド100C、100M、100Y、100Kについて述べる。インクジェットヘッド100C、100M、100Y、100Kはそれぞれ使用するインクが異なるものの同じ構成である。したがって共通の符号を用いて説明する。」との記載からすれば、上記ア(イ)【0015】以降に記載のインクジェットヘッド100は、上記ア(イ)【0012】の「インクジェットヘッド100C、100M、100Y、100Kは、それぞれシアン、マゼンダ、イエロ、ブラックのインクを吐出して、保持ローラ13表面に保持される記録紙Pに、所望の画像をプリントする。」との記載におけるインクジェットヘッド100C、100M、100Y、100Kと同視できるから、「インクジェットヘッド100」は「インクを吐出して、保持ローラ13表面に保持される記録紙Pに、所望の画像をプリントする」ものと認められる。
(イ)上記ア(カ)の図3及びア(キ)の図7からは、ノズルプレートの周囲領域32には、圧電素子40が設けられていることが見て取れる。
(ウ)上記ア(カ)の図3及び図4からは、ノズルプレートのノズル31の周囲に中央部33があり、その周囲に周囲領域32があり、圧力発生室51が、周囲領域32及び中央部33を含むノズル31の周囲で区画されることが見て取れる。
(エ)上記ア(キ)の図7からは、ノズルプレート30の周囲領域32及び中央部33のいずれも湾曲して変形することが見て取れる。
(オ)上記ア(キ)の図8及び図9からは、ノズルプレートのノズル31の周囲にγ1の領域があり、その外側にγ2で表される領域66があり、圧力発生室51が、γ1及びγ2で表されるノズル31の周囲で区画されることが見て取れる。
上記ア(オ)の【0056】~【0058】の図8及び図9の説明にある「幅δ2の円環状の周囲部66」との記載をみれば、図8及び図9における領域66のγ2は、上記記載のδ2の誤記と解するのが相当である。さらに、上記ア(オ)の「直径γ1の面状の圧電素子60」との記載から、図8及び図9の看取事項は、圧力発生室51が、ノズルプレートの「直径γ1の面状の圧電素子60」に対応する領域と、その外側の「幅δ2の円環状の周囲部66」で区画されると認められる。
(カ)上記ア(オ)の【0054】の「第2の実施形態のインクジェットヘッド200を、図8乃至図10を参照して説明する。第2の実施形態は、第1の実施形態において、圧電素子をノズルプレートの中央部に配置するものである。第2の実施形態にあって、前述の第1の実施形態で説明した構成と同一構成については同一符号を付して詳細な説明を省略する。」との記載からみて、【0055】~【0057】で説明される第2の実施形態の圧電素子60、圧電膜62、下部電極61及び上部電極63は、上記ア(イ)に記載される第1の実施形態のインクジェットヘッドにおける、圧電素子40、圧電膜42、下部電極41及び上部電極43に換えて設けられるものと理解できる。
ウ 引用発明1
前記ア及びイより、引用文献1には、第1の実施形態及び第2の実施形態に係るインクジェットヘッドについて、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。
「インクを吐出して、保持ローラ13表面に保持される記録紙Pに、所望の画像をプリントする(【0012】)インクジェットヘッド100であって、
インクジェットヘッド100は、圧力室構造体50、バックプレート52、ノズルプレート30及びインク流路構造体54を備え(【0015】)、
ノズルプレート30は、圧力室構造体50の第1の面に形成され、バックプレート52は、圧力室構造体50のノズルプレート30と対向する第2の面に配置され(【0016】)、
バックプレート52は、圧力室構造体50に加圧接着し(【0041】)、
インクを、圧力室構造体50に形成される圧力室である円形の圧力発生室51に充填し、圧力発生室51に充填されるインクを、ノズルプレート30に形成される複数のノズル31から、インク滴としてそれぞれ吐出し(【0017】)、
ノズルプレート30は、ノズル31周囲に駆動部である面状の圧電素子40を備え、ノズルプレート30は、面状の圧電素子40の動作により厚み方向に変動するものであって(【0019】)、
圧力室構造体50は、シリコン基板(Si基板)からなり、圧力発生室51は、ノズルプレート30、隔壁55及びバックプレート52に囲まれて構成され(【0020】)、
ノズルプレートのノズル31の周囲に中央部33があり、その周囲に周囲領域32があり、圧力発生室51が、周囲領域32及び中央部33を含むノズル31の周囲で区画され(上記イ(ウ))、
隔壁55は、内径(直径)α2の圧力室構造体50のエッチング面が形成されるシリコン膜側壁55bを備え(【0021】)、
圧電素子40は、各ノズル31の周囲に配置され、圧電体である圧電膜42を挟んで下部電極41及び上部電極43を積層するものであって、下部電極41の一部41aは延長されて外部配線141の一部とされ、外部配線141は、2つの端子部141aに接続する。また、上部電極43の一部43aは延長されて外部配線143の一部とされ(【0025】)、圧力発生室51の周囲領域32の上方においてノズルプレート30に形成され(【0026】)、
制御部102は、端子部143aへの電圧のオン/オフを制御して、圧電素子40に電気信号を供給し(【0026】)、
ノズルプレート30のノズル31周囲のホール領域である直径βの円形の中央部33には、圧電素子40は形成されない。圧電素子40は、ノズルプレート30の隔壁55の上方から、ノズル31に向かって圧力発生室51領域上方まで延在する円環形状であり(【0027】)、
圧電膜42は、窒化アルミニウム(AlN)等のシリコンプロセスに適した圧電材料を使用し(【0029】)、
電圧印加により圧電膜42は収縮し、圧電膜42の収縮により、ノズルプレート30の周囲領域32はバイモルフ効果により凹状に変形し、ノズルプレート30の圧電膜42が形成されていない中央部33は、周囲領域32の変形に伴い面方向に対して垂直に凸状に変形し(【0047】)、ノズルプレート30の周囲領域32及び中央部33は湾曲して変形しており(上記イ(エ)、
ノズルプレートの周囲領域32には、圧電素子40が設けられている(上記イ(イ))、
インクジェットヘッド100、
又は、
圧電素子40、圧電膜42、下部電極41及び上部電極43に換えて、ノズルプレート30は、ノズル31寄りに直径γ1の面状の圧電素子60を備え、圧電素子60は、ノズル31毎に、圧電体である圧電膜62をはさんで下部電極61及び上部電極63が積層され(上記イ(カ)、【0056】)、
ノズルプレート30の圧電素子60の外周から隔壁55の内径までの幅δ2の円環状の周囲部66には、外部配線141、143との接続領域をのぞいて、圧電素子60は形成されず(【0057】)、
圧力発生室51が、ノズルプレートの直径γ1の面状の圧電素子60に対応する領域と、その外側の幅δ2の円環状の周囲部66で区画され(上記イ(オ))、
インクジェットヘッド200。」
(3)引用文献2
ア 引用文献2の記載事項
原査定で引用文献2として引用され、本願の優先日前に発行された特開2014-46580号公報(平成26年3月17日公開、以下「引用文献2」という。)には、次の事項が記載されている。
(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、インクジェットヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
画像信号に従ってノズルからインク滴を吐出させて、記録紙上にインク滴による画像を形成するオンデマンド型インクジェット記録方式が知られている。オンデマンド型インクジェット記録方式として発熱素子型と圧電素子型とが知られる。
【0003】
発熱素子型においては、インク流路に設けられた発熱体によってインク中に気泡が発生し、その気泡によって押されたインクがノズルから吐出される。圧電素子型においては、圧電素子が変形することでインク室に貯蔵されたインクに圧力変化が生じ、インクがノズルから吐出する。
【0004】
圧電素子(ピエゾ素子)は、電気-機械変換素子であり、電界を加えられると、伸張または剪断変形を起こす。代表的な圧電素子として、チタン酸ジルコン酸鉛が使われている。
【0005】
圧電素子を利用したインクジェットヘッドとして、圧電性材料で形成されたノズルプレートを用いた構成が知られている。当該インクジェットヘッドのノズルプレートは、例えば、インクを吐出させるノズルを備える圧電体膜と、前記ノズルを囲むように前記圧電性膜の両面に形成された金属電極膜と、を有するアクチュエータを備える。
【0006】
上記インクジェットヘッドは、前記ノズルに接続された圧力室を有する。インクが圧力室とノズルプレートのノズルに入り込み、ノズル内でメニスカスを形成してノズル内に維持される。ノズル周囲に設けた二つの電極に駆動波形(電圧)を印加すると、当該電極を介して分極の方向と同方向の電界が圧電体膜に印加される。これにより、アクチュエータは電界方向と直交する方向に伸縮する。この伸縮を利用してノズルプレートが変形する。ノズルプレートが変形することで圧力室内のインクに圧力変化が発生し、ノズル内のインクが吐出される。
【0007】
駆動波形を前記電極に印加する駆動回路は、ICのような電子部品に形成される。当該電子部品は、例えばフレキシブルプリント配線板またはその他の配線を介して、前記電極に接続される。フレキシブルプリント配線板を利用する場合、例えばアクチュエータを有するノズルプレートに形成されたパッドに、当該フレキシブルプリント配線板が接続される。
・・・
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
インク吐出時の消費電力の低い圧電素子型インクジェットを、精度良く且つ安価に形成することに関して、インクジェットヘッドには未だ改良の余地がある。
【0010】
本発明の目的は、吐出時の消費電力を低減できるインクジェットヘッドを提供することにある。」
(イ)「【0015】
図1に示すように、インクジェットヘッド1は、ノズルプレート100と圧力室構造体200と、セパレートプレート300と、インク供給路構造体400とを備えている。圧力室構造体200は、基材の一例である。圧力室構造体200と、セパレートプレート300と、インク供給路構造体400とは、例えばエポキシ系接着剤で固定されている。
【0016】
ノズルプレート100は、矩形の板状に形成されている。ノズルプレート100は、圧力室構造体200の上に、後述する成膜プロセスによって形成される。このため、ノズルプレート100は、圧力室構造体200に固着している。
【0017】
ノズルプレート100に、インク吐出用の複数のノズル(インク吐出孔)101がある。ノズル101は、円形の孔であり、ノズルプレート100をその厚さ方向に貫通している。ノズル101の直径は、例えば20μmである。
【0018】
圧力室構造体200は、シリコンウエハによって矩形の板状に形成されている。」
(ウ)「【0031】
次に、ノズルプレート100および駆動回路103について説明する。図2および図3に示すように、ノズルプレート100は、上記の複数のノズル101と、複数のアクチュエータ102と、複数のパッド部104と、二つの共有電極端子部105と、共有電極106と、配線電極端子部107と、複数の配線電極108と、振動板(CMOSパッシベーション層)109と、保護膜113と、撥インク膜116とを有している。共有電極106は、第1の電極の一例である。配線電極108は、第2の電極の一例である。」
(エ)「【0037】
図3に示すように、アクチュエータ102は、圧電体膜111と、共有電極106の電極部分106aと、配線電極108の電極部分108aと、絶縁膜112とを有している。圧電体膜111は、圧電体の一例である。
【0038】
圧電体膜111は、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)によって膜状に形成されている。なお、圧電体膜111はこれに限らず、例えば、PTO(PbTiO3:チタン酸鉛)、PMNT(Pb(Mg1/3Nb2/3)O3-PbTiO3)、PZNT(Pb(Zn1/3Nb2/3)O3-PbTiO3)、ZnO、およびAlNのような種々の材料によって形成されても良い。」
(オ)「【0047】
図3に示すように、圧力室構造体200の取付面200aに、駆動回路103が設けられている。駆動回路103は、例えば、インクジェットヘッド1を駆動するための、論理回路、設定回路、およびアナログ回路を有する半導体集積回路である。また、振動板109に、相互接続層110が設けられている。相互接続層110は、駆動回路103に接続されて形成されている。駆動回路103および相互接続層110については、後で詳述する。
【0048】
パッド部104は、相互接続層110に接続されている。パッド部104は、駆動回路103に、電源接続、グランド接続、および入出力信号の送受信を行うための電極である。パッド部104に、例えば、インクジェットプリンタの制御部に接続された配線が接続される。
【0049】
配線電極端子部107は、配線電極108の端部に設けられ、相互接続層110に接続されている。配線電極端子部107は、駆動回路103のアナログ回路出力に接続され、アクチュエータ102を駆動させるための信号を伝送する。
【0050】
図2に示すように、複数の配線電極端子部107のそれぞれの間隔は、ノズル101のX軸方向の間隔と同じである。配線電極108の幅に比べて、配線電極端子部107のX軸方向の幅は広い。このため、配線電極端子部107は、相互接続層110に容易に接続される。
【0051】
共有電極端子部105は、例えば、振動板109の第2の面502に設けられている。共有電極端子部105は、共有電極106の端部であって、GND(グランド接地=0V)に接続される。
【0052】
配線電極108は、対応するアクチュエータ102の圧電体膜111に個別に繋がり、アクチュエータ102を駆動するための信号を伝送する。配線電極108は、圧電体膜111を独立に動作させるための個別電極として用いられる。複数の配線電極108は、上記の電極部分108aと、配線部と、上記の配線電極端子部107とをそれぞれ有している。」
(カ)「【0066】
図5は、駆動回路103の周辺を拡大して示すインクジェットヘッド1の断面図である。なお、図5において、圧力室構造体200は、説明のためにハッチングを省略されている。
【0067】
図5に示すように、駆動回路103は、CMOSトランジスタ700を有している。図5に示すCMOSトランジスタ700は、出力回路606に含まれる。駆動回路103は、他の複数のCMOSトランジスタおよび配線パターンを有している。また、駆動回路103は、例えばMESFETトランジスタのような他の半導体素子を有しても良い。
【0068】
CMOSトランジスタ700は、シリコンウエハによって形成された圧力室構造体200の取付面200aに直接形成されている。言い換えると、p型シリコンウエハによって形成された圧力室構造体200に、例えばイオン注入を含む種々の加工を施すことで、CMOSトランジスタ700が作り込まれる。CMOSトランジスタ700はゲート701を通じてレベルシフト回路605に接続されている。
【0069】
CMOSトランジスタ700は、プラグ702を介してドレイン703に接続されている。ドレイン703に、配線電極端子部107が接続される。これにより、CMOSトランジスタ700が配線電極108を介してアクチュエータ102に接続される。
【0070】
図5に示すように、振動板109は、第1層706と、第2層707と、第3層708とを有している。第1ないし第3層706~708は、SiO2によって形成されている。なお、第1ないし第3層706~708はこれに限らず、SiN(窒化ケイ素)、Al2O3(酸化アルミニウム)、HfO2(酸化ハフニウム)、DLC(Diamond Like Carbon)によって形成されても良い。振動板109の材料選択は、例えば、耐熱性、絶縁性(導電率の高いインクを使用した場合における、アクチュエータ102の駆動によるインク変質の影響を考慮)、熱膨張係数、平滑性、インクに対する濡れ性が考慮される。また、第1ないし第3層706~708の材料がそれぞれ異なっても良い。
【0071】
第1層706は、圧力室構造体200の取付面200aに接している。第1層706は、CMOSトランジスタ700を形成する複数の突出部の間の隙間、およびCMOSトランジスタ700と他のCMOSトランジスタとの間の隙間に入り込む。言い換えると、第1層706は、複数の半導体素子の間を隔てる。第1層706は、いわゆる素子分離として利用される。
【0072】
第2層707は、第1層706に積層され、ゲート701を覆う。第2層707は、CMOSトランジスタ700とドレイン703との間に介在する。第2層707は、いわゆる層間絶縁膜として利用される。プラグ702は、第1および第2層706,707を貫通する。
【0073】
第3層708は、第2層707に積層され、CMOSトランジスタ700に接続されるpチャンネルドレインやnチャンネルドレインを覆う。言い換えると、第3層708は、駆動回路103を覆っている。第3層708は、いわゆるパッシベーション層として利用される。なお、第1ないし第3層706~708がCMOSトランジスタ700を覆って保護する絶縁膜であるので、振動板109はパッシベーション層と呼称され得る。ドレイン703は、第3層708から露出されている。
【0074】
図5において、駆動回路103および相互接続層110は、二点鎖線で示される。すなわち、CMOSトランジスタ700および複数の他のCMOSトランジスタを含む部分が駆動回路103として示され、CMOSトランジスタ700と配線電極108とを接続するドレイン703を含む部分が相互接続層110として示される。しかし、図5における駆動回路103および相互接続層110は、説明の便宜上示されたものであり、それぞれを厳密に規定したものではない。駆動回路103は、CMOSトランジスタ700を含み、アクチュエータ102を駆動させるための信号を出力する回路である。相互接続層110は、駆動回路103と配線電極端子部107との間に介在する部分である。
【0075】
上述のインクジェットヘッド1は、次のように印字(画像形成)を行う。インクジェットプリンタのインクタンクから、インクがインク供給路構造体400のインク供給口401に供給される。インクは、インク絞り301を通って、圧力室201に供給される。圧力室201に供給されたインクは、対応するノズル101内に供給され、ノズル101にメニスカスを形成する。インク供給口401から供給されるインクは適切な負圧となるように保たれ、ノズル101内のインクはノズル101から漏れることなく保たれる。」
(キ)「【0107】
第1の実施形態のインクジェットヘッド1によれば、駆動回路103が、振動板109が固定される圧力室構造体200の取付面200aに設けられる。これにより、駆動回路103とアクチュエータ102との間の距離を近くし、配線抵抗を小さくすることができる。したがって、駆動回路103から発信した信号の減衰を低減し、インク吐出時の消費電力を低減することができる。また、圧力室構造体200に駆動回路103を設けたとしても、記録紙のような媒体に面する保護膜113および撥インク膜116を平坦に形成できる。このため、媒体とノズル101との間の距離を近くすることができ、インク吐出精度を保つことができる。
【0108】
駆動回路103のCMOSトランジスタ700は、シリコンウエハによって形成された圧力室構造体200に直接形成されている。これにより、圧力室構造体200の他に半導体基板を用意する必要がなく、インクジェットヘッド1の製造費を低減できる。」
イ 引用発明2
前記アより、引用文献2には、次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されているものと認められる。
「画像信号に従ってノズルからインク滴を吐出させて、記録紙上にインク滴による画像を形成するオンデマンド型インクジェット記録方式において、
ノズルプレート100と圧力室構造体200を備えているインクジェットヘッド1であって、
圧力室構造体200は、シリコンウエハによって矩形の板状に形成されており
ノズルプレート100は、配線電極端子部107を有しており、
圧力室構造体200の取付面200aに、駆動回路103が設けられており、
相互接続層110は、駆動回路103に接続されて形成されており、
配線電極端子部107は、配線電極108の端部に設けられ、相互接続層110に接続され、配線電極端子部107は、駆動回路103のアナログ回路出力に接続され、アクチュエータ102を駆動させるための信号を伝送し、
アクチュエータ102は、圧電体膜111と、共有電極106の電極部分106aと、配線電極108の電極部分108aと、絶縁膜112とを有しており、
配線電極108は、圧電体膜111を独立に動作させるための個別電極として用いられ、複数の配線電極108は、配線電極端子部107とをそれぞれ有し、
圧電体膜111は、ZnO、AlNのような種々の材料によって形成されても良く、
駆動回路103は、CMOSトランジスタ700を有し、
CMOSトランジスタ700は、シリコンウエハによって形成された圧力室構造体200の取付面200aに直接形成され、
相互接続層110は、駆動回路103と配線電極端子部107との間に介在する部分であり、
駆動回路103が、振動板109が固定される圧力室構造体200の取付面200aに設けられることにより、駆動回路103とアクチュエータ102との間の距離を近くし、配線抵抗を小さくすることができ、駆動回路103から発信した信号の減衰を低減し、インク吐出時の消費電力を低減することができ、
駆動回路103のCMOSトランジスタ700は、シリコンウエハによって形成された圧力室構造体200に直接形成されていることにより、圧力室構造体200の他に半導体基板を用意する必要がなく、インクジェットヘッド1の製造費を低減できる、
インクジェットヘッド」
(4)対比
本件補正発明と引用発明1とを対比する。
ア 引用発明1の「インクジェットヘッド100」は、「インクを吐出して」「記録紙Pに、所望の画像をプリントする」ものであり、プリントに用いられており、かつ、インクを「インク滴として」吐出する以上、液滴を吐出していることは明らかであるから、本件補正発明の「プリントヘッド用の液滴吐出器」に相当する。また、引用発明1の「インクジェットヘッド200」も同様に、本件補正発明の「プリントヘッド用の液滴吐出器」に相当する。
イ 引用発明1の「圧力室構造体50」は、「シリコン基板(Si基板)から」なるものであり、本件補正発明の「基板」に相当する。そして、引用発明1の「圧力室構造体50の第1の面」には、「ノズルプレート30」が形成されるから、当該「第1の面」は本件補正発明の「ノズル面」に相当する。一方、引用発明1の「圧力室構造体50のノズルプレート30と対向する第2の面」には「バックプレート52が配置」され、バックプレート52は「圧力室構造体50に加圧接着」されるところ、当該「第2の面」は、バックプレートが取り付けられる面といえるから、本件補正発明の「取付面」に相当する。そうすると、引用発明1の「圧力室構造体50」と本件補正発明の「圧力室構造体50」とは、「取付面及び反対側のノズル面を有する」点で一致する。
ウ 引用発明1の「ノズルプレート30」は、複数のノズル31が形成され、プレートである以上層状をなすから、本件補正発明の「ノズル形成層」に相当する。そして、引用発明1の「ノズルプレート30」は「圧力室構造体50の第1の面」に形成されており、当該面の少なくとも一部の上に形成されることは明らかであるから、引用発明1の「ノズルプレート30」と本件補正発明の「ノズル形成層」とは、「基板のノズル面の少なくとも一部の上に形成された」点で一致する。
エ 引用発明1の「圧力発生室51」は、インクが充填されるものであり、インクなる流体が充填される室構造といえるから、本件補正発明の「流体チャンバ」に相当する。そして、引用発明1の「圧力発生室51」は、ノズルプレート30、隔壁55に囲まれて構成され、隔壁55は、圧力室構造体50のエッチング面が形成されるシリコン膜側壁55bを備えるから、一部分はノズルプレート30により、他の一部分は圧力室構造体50により画定されるといえる。したがって、引用発明1の「圧力発生室51」と本件補正発明の「流体チャンバ」とは、「少なくとも一部は基板により且つ少なくとも一部はノズル形成層により画定された」点で一致する。
オ 引用発明1の「ノズル31」は、「圧力発生室51に充填されるインクを」「吐出」するものであるから、圧力発生室51のノズル31側は、本件補正発明の「流体チャンバ出口」に相当する。また、引用発明1の「中央部33」は、ノズルプレートのノズル31の周囲にあり、引用発明1の「周囲領域32」は、中央部33の周囲にあって、かつ、圧力発生室51を区画するから、「中央部33」及び「周囲領域32」の双方が「ノズル部分」に相当し、「中央部33」及び「周囲領域32」はそれぞれ、「流体チャンバ出口の方に近接して位置する内側部分」及び「ノズル部分の周縁部の方に近接して位置する外側部分」に相当する。
同様に、引用発明1のノズルプレート30の「直径γ1の面状の圧電素子60に対応する領域」、「幅δ2の円環状の周囲部66」の双方も「ノズル部分」に相当し、「直径γ1の面状の圧電素子60に対応する領域」及び「幅δ2の円環状の周囲部66」はそれぞれ、「流体チャンバ出口の方に近接して位置する内側部分」及び「ノズル部分の周縁部の方に近接して位置する外側部分」に相当する。
また、引用発明1の「圧力発生室51」と本件補正発明の「流体チャンバ」とは、「少なくとも一部はノズル形成層のノズル部分によって画定された流体チャンバ出口を有」する点で一致する。
カ 引用発明1の「圧電素子40」は、ノズルプレートの周囲領域32に設けられ、「電気信号を供給」し、その動作によりノズルプレートを厚み方向に変動させるものであるから、引用発明1の「「圧電素子40」は、「圧電アクチュエータ機構」といえ、また、中央部33に比べて外側の周囲領域32にあるといえるから、引用発明1の「「圧電素子40」は、本件特許発明の「ノズル形成層のノズル部分の外側部分に形成された1つの外側アクチュエータ機構」に相当する。
他方、引用発明1の「圧電素子60」も同様の構成を有すると解されるところ、引用発明1の「圧電素子60」は、「幅δ2の円環状の周囲部66」に比べて内側の「直径γ1の面状の圧電素子60に対応する領域」にあるアクチュエータ機構といえるから、「ノズル形成層のノズル部分の内側部分に形成された1つの内側アクチュエータ機構」に相当する。
本件補正発明は、「前記ノズル形成層の前記ノズル部分の前記内側部分に形成された内側アクチュエータ機構、及び前記ノズル形成層の前記ノズル部分の前記外側部分に形成された外側アクチュエータ機構のうちのいずれか又は両方とを備え」とあり、「いずれか又は両方」なる選択肢で記載されるところ、「いずれか」とした発明特定事項と仮定すれば、本件補正発明と引用発明1は、「前記ノズル形成層の前記ノズル部分の前記内側部分に形成された内側アクチュエータ機構、及び前記ノズル形成層の前記ノズル部分の前記外側部分に形成された外側アクチュエータ機構のうちのいずれかを備え」る点で一致する。よって、引用発明1は、本件特許発明の「前記ノズル形成層の前記ノズル部分の前記内側部分に形成された内側アクチュエータ機構、及び前記ノズル形成層の前記ノズル部分の前記外側部分に形成された外側アクチュエータ機構のうちのいずれか又は両方とを備え」るといえる。
キ 引用発明1の「圧電素子40」は、「圧電体である圧電膜42を挟んで下部電極41及び上部電極43を積層するもの」であり、下部電極41及び上部電極43は、圧電素子として駆動するための電極であることは明らかであるから、引用発明1の「圧電膜42」、「下部電極41及び上部電極43」は、それぞれ本件補正発明の「圧電体」、「駆動電極の対」に相当する。また、引用発明1の「圧電素子40」が外側の周囲領域32にあるアクチュエータ機構であるから、引用発明1の「圧電膜42」、「下部電極41及び上部電極43」も「外側圧電体」、「外側の駆動電極の対」といえる。さらに、「圧電素子40」は1つのアクチュエータとなっているから、引用発明1の「圧電素子40」と本件補正発明の「外側圧電アクチュエータ機構」は、「1つの外側圧電アクチュエータを備え、前記1つの外側圧電アクチュエータのうちの1つが、外側の駆動電極の対の間に設けられた外側圧電体を備え」る点で一致する。
また、同様に、引用発明1の「圧電膜62」、「下部電極61及び上部電極63」も、それぞれ本件補正発明の「内側圧電体」、「内側の駆動電極の対」に相当する。そうすると、引用発明1の「圧電素子60」と本件補正発明の「内側圧電アクチュエータ」は、「1つの内側圧電アクチュエータを備え、前記1つの内側圧電アクチュエータのうちの1つが、内側の駆動電極の対の間に設けられた内側圧電体を備え」る点で一致する。
よって、引用発明1は、「前記内側アクチュエータ機構は1つ又は複数の内側圧電アクチュエータを備え、前記1つ又は複数の内側圧電アクチュエータのうちの少なくとも1つが、内側の駆動電極の対の間に設けられた内側圧電体を備え、
前記外側アクチュエータ機構は1つ又は複数の外側圧電アクチュエータを備え、前記1つ又は複数の外側圧電アクチュエータのうちの少なくとも1つが、外側の駆動電極の対の間に設けられた外側圧電体を備え」るといえる。
ク 引用発明1の「ノズルプレート」は、圧電膜42の収縮により、周囲領域32はバイモルフ効果により凹状に変形し、圧電膜42が形成されていない中央部33は、周囲領域32の変形に伴い面方向に対して垂直に凸状に変形するものであり、周囲領域32及び中央部33は湾曲しているから、中央部33は凸状に湾曲し、周囲領域32はその反対の向きに凹状に湾曲するといえ、「ノズル部分の内側部分が第1向きに湾曲し、前記ノズル部分の外側部分が前記第1向きとは反対の第2向きに湾曲する」といえる。さらに、圧電膜42は圧電素子40を構成し、圧電膜42を収縮させる電圧印加は、制御部102が行う電圧のオン、すなわち起動によることは明らかである。そうすると、引用発明1の「圧電素子40」と「ノズルプレート30」の「周囲領域32及び中央部33」は、起動時に上記の変形を生じるように構成されるといえる。したがって、引用発明1の「圧電素子40」と「ノズルプレート30」の「周囲領域32及び中央部33」と本件補正発明の「外側アクチュエータ機構並びにノズル形成層のノズル部分の少なくとも1つ」とは、「起動時にノズル部分の内側部分が第1向きに湾曲し、前記ノズル部分の外側部分が前記第1向きとは反対の第2向きに湾曲するように構成され」る点で一致する。
また、引用発明1の「圧電膜62」により、いかなる変形となるかは明示がないが、技術常識をふまえれば、圧電膜42と同様の原理で変形がなされると解されるから、引用発明1の「圧電素子60」と「ノズルプレート30」の「直径γ1の面状の圧電素子60に対応する領域及び幅δ2の円環状の周囲部66」と本件補正発明の「外側アクチュエータ機構並びにノズル形成層のノズル部分の少なくとも1つ」とは、少なくとも「起動時にノズル部分の内側部分が第1向きに湾曲し、前記ノズル部分の外側部分が前記第1向きとは反対の第2向きに湾曲するように構成され」る点で一致する。
よって、引用発明1は、「前記内側アクチュエータ機構及び/又は前記外側アクチュエータ機構並びに前記ノズル形成層のノズル部分の少なくとも1つは、起動時に前記ノズル部分の前記内側部分が第1向きに湾曲し、前記ノズル部分の前記外側部分が前記第1向きとは反対の第2向きに湾曲するように構成され」るといえる。
ケ 本願明細書【0110】には、「窒化アルミニウム化合物(及び、特に、窒化スカンジウムアルミニウム)を含む窒化アルミニウム並びに酸化亜鉛は、450℃未満、又はより好ましくは300℃未満の温度で堆積させることができる圧電材料である。」との記載がなされるところ、引用発明1の「圧電膜42」又は「圧電膜62」は、窒化アルミニウム(AlN)等のシリコンプロセスに適した圧電材料を使用しており、上記本願明細書の記載を踏まえれば、引用発明1の「窒化アルミニウム(AlN)」の圧電材料を使用した「圧電膜42」又は「圧電膜62」と本件補正発明の「圧電体」とは、「450℃未満の温度で処理可能な1種の圧電材料を含」む点で一致する。
よって、引用発明1は、「1つ若しくは複数の前記内側圧電体及び/又は1つ若しくは複数の前記外側圧電体が、450℃未満の温度で処理可能な1種又は複数種の圧電材料を含」むといえる。
そうすると、本件補正発明と引用発明1とは、
[一致点]
「 プリントヘッド用の液滴吐出器であって、
取付面及び反対側のノズル面を有する基板と、
前記基板の前記ノズル面の少なくとも一部の上に形成されたノズル形成層と、
少なくとも一部は前記基板により且つ少なくとも一部は前記ノズル形成層により画定された流体チャンバであって、少なくとも一部は前記ノズル形成層のノズル部分によって画定された流体チャンバ出口を有し、前記ノズル部分が、前記流体チャンバ出口の方に近接して位置する内側部分と、前記ノズル部分の周縁部の方に近接して位置する外側部分とを備える、流体チャンバと、
前記ノズル形成層の前記ノズル部分の前記内側部分に形成された内側アクチュエータ機構、及び前記ノズル形成層の前記ノズル部分の前記外側部分に形成された外側アクチュエータ機構のうちのいずれか又は両方とを備え、
前記内側アクチュエータ機構及び/又は前記外側アクチュエータ機構並びに前記ノズル形成層のノズル部分の少なくとも1つは、起動時に前記ノズル部分の前記内側部分が第1向きに湾曲し、前記ノズル部分の前記外側部分が前記第1向きとは反対の第2向きに湾曲するように構成され、
前記内側アクチュエータ機構は1つ又は複数の内側圧電アクチュエータを備え、前記1つ又は複数の内側圧電アクチュエータのうちの少なくとも1つが、内側の駆動電極の対の間に設けられた内側圧電体を備え、
前記外側アクチュエータ機構は1つ又は複数の外側圧電アクチュエータを備え、前記1つ又は複数の外側圧電アクチュエータのうちの少なくとも1つが、外側の駆動電極の対の間に設けられた外側圧電体を備え、
1つ若しくは複数の前記内側圧電体及び/又は1つ若しくは複数の前記外側圧電体が、450℃未満の温度で処理可能な1種又は複数種の圧電材料を含む、液滴吐出器」
である点で一致し、以下の点で相違する。
[相違点]
本件補正発明が、「前記基板と前記ノズル形成層との間に設けられた相互接続層」を有し、「前記液滴吐出器が前記基板と一体化された少なくとも1つの電子部品を備え」、「前記基板内に設けられた電子回路が、前記相互接続層を介して前記内側アクチュエータ機構又は前記外側アクチュエータ機構に接続される」ものであるのに対し、引用発明1は、基板と一体化された少なくとも1つの電子部品(電子回路)を備えていない点。
(5)判断
上記相違点について検討する。
ア 引用発明2の「インクジェットヘッド1」は、「記録紙上にインク滴による画像を形成するオンデマンド型インクジェット記録方式」におけるものであるから、「プリントヘッド用の液滴吐出器」に相当する。
イ 引用発明2の「圧力室構造体200」は、「シリコンウエハによって矩形の板状に形成」されているから、本件補正発明の「基板」に相当する。また、引用発明2の「ノズルプレート100」、「相互接続層110」は、用語の意味からみて「ノズル形成層」、「相互接続層」に相当する。さらに、引用発明2の「アクチュエータ102」は、その機能からみて、本件補正発明の「内側アクチュエータ機構又は外側アクチュエータ機構」と「アクチュエータ機構」との概念で共通する。また、引用発明2の「駆動回路103」は、CMOSトランジスタ700を有するから、本件補正発明の「電子回路」及び「電子部品」に相当する。
ウ 引用発明2の「相互接続層110」は、駆動回路103と配線電極端子部107との間に介在する部分であり、駆動回路103が圧力室構造体200の取付面200aに設けられ、配線電極端子部107は、ノズルプレート100が有しているから、引用発明2の「相互接続層110」と本件補正発明の「相互接続層」とは、「基板とノズル形成層との間に設けられた」点で一致する。
エ 引用発明2の「駆動回路103」は、CMOSトランジスタ700を有し、CMOSトランジスタ700は、シリコンウエハによって形成された圧力室構造体200の取付面200aに直接形成されるから、引用発明2の「駆動回路103」と本件補正発明の「電子部品」とは、「液滴吐出器が」「備え」、「基板と一体化された」点で一致する。また、引用発明2の「駆動回路103」と本件補正発明の「電子回路」とは、「基板内に設けられた」点で一致する。
オ 引用発明2の「駆動回路103」は、相互接続層110が接続されて形成されており、相互接続層110が配線電極端子部107に接続され、アクチュエータ102は、配線電極108の電極部分108aを有し、配線電極108は、配線電極端子部107を有するのであるから、駆動回路103は、相互接続層110を介してアクチュエータに接続されていることは明らかである。
よって、引用発明2の「駆動回路103」と本件補正発明の「電子回路」とは、「相互接続層を介してアクチュエータ機構に接続される」との概念で一致する。
したがって、「基板とノズル形成層との間に設けられた相互接続層」を有し、「液滴吐出器が基板と一体化された少なくとも1つの電子部品を備え」、「基板内に設けられた電子回路が、相互接続層を介してアクチュエータ機構に接続される」との発明特定事項は、引用発明2が備えるものである。
カ そして、引用発明1と引用発明2は、いずれもアクチュエータを備える液滴吐出器で共通の技術分野に属するものである。
また、引用発明2は、インク吐出時の消費電力の低減や製造費の低減を課題とするものであるところ、インクジェットヘッドの分野においては、インク吐出時の消費電力の低減や製造費の低減は、一般的な課題であって、引用発明1においても同様の課題を有するものと認識できるものである。したがって、引用発明1と引用発明2とは、解決しようとする課題が共通するといえる。
してみると、引用発明1の「圧電素子40」、「圧電素子60」、及び「圧力室構造体50」に対し、駆動回路を圧力構造体内に設け、相互接続層を介してアクチュエータに接続する引用発明2を採用し、上記相違点1に係る発明特定事項となすことは、当業者が容易に想到し得るものである。
キ そして、本件補正発明の奏する作用効果は、引用発明1及び引用発明2の作用効果に照らして当業者が予測し得る程度のものにすぎない。
ク 審判請求人は、令和6年1月22日提出の審判請求書において、「前回提出した意見書でも述べましたが、引用文献2の[0089]には「圧電体膜111は、成膜後、圧電体膜111に圧電性を付与するために、500℃で3時間熱処理される。」と記載されております。
このように、特許文献2は、圧電膜111が動作するためには、500℃の温度で処理されなければならないことが示されております。
引用文献1が低温処理可能な圧電材料(例えば450℃未満)を有するアクチュエータを使用し、引用文献2が特に処理可能な圧電材料(例えば450℃以上)に関連する場合、当業者は、引用文献1の基板上に電子部品を実装するために引用文献2の教示に反しようとは思いません。したがって、当業者であれば、引用文献2は高温処理可能な圧電材料(例えば450℃以上)を含む圧電アクチュエータに関するものであるため、引用文献2の教示は引用文献1と両立しないことを認識し、引用文献1に引用文献2を組み合わせることはないものと思料致します」と主張する。
しかしながら、上記(3)ア(ウ)に示すとおり、引用文献2の【0038】には、「圧電体膜111は、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)によって膜状に形成されている。」とした上で、圧電体膜として酸化亜鉛や窒化アルミニウムのような低温処理可能な材料によって形成されてもよいことが示されているのであって、引用文献2の【0089】の記載における「500℃で3時間熱処理される」との事項は、技術常識を踏まえれば、単にPZTを用いた場合の処理条件を記載したにすぎず、引用発明2は高温処理可能な圧電材料(例えば450℃以上)を含む圧電アクチュエータに関するものに限られるとは解することはできない。したがって、引用文献2の教示は引用文献1と両立しないものではない。
また、審判請求人は上記審判請求書において、「引用文献2にも
(b)基板100とノズル形成層との間に相互接続層300が設けられ、
(c)基板100内に設けられた電子回路200が、相互接続層300を介して内側アクチュエータ機構又は外側アクチュエータ機構に接続される、
という構成は開示されておりません。」と主張するが、上記(3)ア(ウ)に示すとおり、引用文献2に記載されているといえる。
したがって、審判請求人の主張はいずれも採用することができない。
エ よって、本件補正発明は、引用発明1及び2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件補正発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
3-2 理由2(特許法第36条第6項第2号)
(1)本件補正後の請求項の記載
本件補正後の請求項25~27の記載を再掲すると、次のとおりである。
「 【請求項25】
プリントヘッド用の液滴吐出器であって、取付面及び反対側のノズル面を有する基板と、前記基板の前記ノズル面の少なくとも一部の上に形成されたノズル形成層と、少なくとも一部は前記基板により且つ少なくとも一部は前記ノズル形成層により画定された流体チャンバであって、少なくとも一部は前記ノズル形成層のノズル部分によって画定された流体チャンバ出口を有し、前記ノズル部分が、前記流体チャンバ出口の方に近接して位置する内側部分と、前記ノズル部分の周縁部の方に近接して位置する外側部分とを備える、流体チャンバと、前記ノズル形成層の前記ノズル部分の前記内側部分に形成された内側アクチュエータ機構、及び前記ノズル形成層の前記ノズル部分の前記外側部分に形成された外側アクチュエータ機構のうちのいずれか又は両方とを備え、前記内側アクチュエータ機構及び/又は前記外側アクチュエータ機構並びに前記ノズル形成層のノズル部分の少なくとも1つは、起動時に前記ノズル部分の前記内側部分が第1向きに湾曲し、前記ノズル部分の前記外側部分が前記第1向きとは反対の第2向きに湾曲するように構成され、前記内側アクチュエータ機構は1つ又は複数の内側圧電アクチュエータを備え、前記1つ又は複数の内側圧電アクチュエータのうちの少なくとも1つが、内側の駆動電極の対の間に設けられた内側圧電体を備え、前記外側アクチュエータ機構は1つ又は複数の外側圧電アクチュエータを備え、前記1つ又は複数の外側圧電アクチュエータのうちの少なくとも1つが、外側の駆動電極の対の間に設けられた外側圧電体を備え、1つ若しくは複数の前記内側圧電体及び/又は1つ若しくは複数の前記外側圧電体が、450℃未満の温度で処理可能な1種又は複数種の圧電材料を含み、前記液滴吐出器が前記基板と一体化された少なくとも1つの電子部品を備える、液滴吐出器を作動させる方法であって、
前記内側アクチュエータ機構を作動させ且つ/又は前記外側アクチュエータ機構を作動させ、それにより、前記ノズル形成層の前記ノズル部分の少なくとも一部の変位、及び結果として前記流体チャンバから前記流体チャンバ出口を通る流体の吐出をもたらすステップを含み、
前記液滴吐出器が、内側アクチュエータ機構及び外側アクチュエータ機構の両方を備え、前記方法が、前記内側アクチュエータ機構及び前記外側アクチュエータ機構の両方を作動させ、それにより、前記ノズル形成層の前記ノズル部分の少なくとも一部の変位、及び結果として前記流体チャンバから前記流体チャンバ出口を通る流体の吐出をもたらすステップを含む、方法。
【請求項26】
前記内側アクチュエータ機構を作動させる前記ステップ及び前記外側アクチュエータ機構を作動させる前記ステップは、同時に行われる、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記内側アクチュエータ機構を作動させるステップが、前記内側の駆動電極の対の間に第1電位差を印加して、前記内側圧電体のたわみをもたらすことを含み、前記外側アクチュエータ機構を作動させるステップが、前記外側の駆動電極の対の間に第2電位差を印加して、前記外側圧電体のたわみをもたらすことを含む、請求項10に従属する請求項25又は26に記載の方法。」
(2)請求項27には、「請求項10に従属する請求項25又は26に記載の方法」との記載があるが、請求項25は、上記(1)のとおり独立形式の請求項であるから、「請求項10に従属する請求項25」とは、いかなる事項を特定しようとするのか、明確ではない。請求項25を引用する請求項26についても同様に請求項10に従属していないから、同様である。
(3)よって、この出願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
4 補正の却下の決定のむすび
前記3-1及び3-2により、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記したとおり却下されたので、本願請求項1~29に係る発明は、本件補正前の令和5年4月21日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1~29に記載された事項により特定されるものであり、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、前記第2の1(2)で特定されるとおりである。
2 原査定における拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、令和5年5月25付け拒絶理由通知書に記載した次の理由を含むものである。
この出願の請求項1に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった次の引用文献1、2記載の発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
引用文献1:特開2015-58666号公報
引用文献2:特開2014-46580号公報
3 引用文献
令和5年5月25日付けの拒絶理由通知書で引用された引用文献、及び、その記載内容は前記第2の3-1(2)及び(3)に記載したとおりである。
4 対比・判断
本願発明は、前記第2の3-1(1)で検討した本件補正発明から、「前記基板と前記ノズル形成層との間に設けられた相互接続層」、「前記基板内に設けられた電子回路が、前記相互接続層を介して前記内側アクチュエータ機構又は前記外側アクチュエータ機構に接続される」との事項を削除したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記第2の3-1に記載したとおり、引用発明1及び引用発明2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明1及び引用発明2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
第4 むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、引用発明1及び引用発明2に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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2024-001041