特許異議申立
2018-700892
溶接継手、溶接継手の製造方法
- 審判番号
- 2018-700892
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2014-200902外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2018年11月08日
- 審決日
- 2019年10月18日
- 公報発行日
- 2020年03月27日
- 結論
- 請求成立(取消)
- 分類
- P1651.537-ZC (B23K) / P1651.536-ZC (B23K) / P1651.113-ZC (B23K)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法36条4項1号特許法36条6項1号特許法113条4号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号、特許法第29条第1項第3号、特許法第113条第4号
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6319027号発明「溶接継手、溶接継手の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
特許第6319027号の請求項3、4に係る特許を取り消す。
同請求項1、2、5、6に係る特許を維持する。
理由
第1.手続の経緯
特許第6319027号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし6に係る特許についての出願は、平成26年9月30日に出願され、平成30年4月13日にその特許権の設定登録がされ、平成30年5月9日に特許掲載公報が発行された。
本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
平成30年11月 8日 :特許異議申立人豊田敦子(以下、「異議申立人」という。)による請求項1ないし6に係る特許に対する特許異議の申立て
平成31年 1月23日付け:取消理由通知
平成31年 3月26日 :特許権者による意見書(以下、「意見書」という。)の提出
令和 元年 6月 6日付け:取消理由通知(決定の予告)
令和 元年 8月 9日 :異議申立人による上申書(以下、「上申書」という。)の提出
なお、期間を指定して通知した上記令和元年6月6日付けの取消理由(決定の予告)に対する特許権者の応答はなかった。
第2.本件発明
特許第6319027号の請求項1ないし6に係る発明(以下、それぞれ、「本件発明1」ないし「本件発明6」という。また、これらの総称を「本件発明」という。)は、特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
【請求項1】
レ形又はV形開先の完全溶け込み溶接継手であって、
開先角度をα(°)、ルートギャップをg(mm)、余盛り高さをe(mm)、溶接金属の引張強さをWMσu(N/mm2)、母材の引張強さをBMσu(N/mm2)、及び母材の厚さをt(mm)としたとき、下記式(1)及び式(2)を満たす溶接継手。
ただし、βは0以上であって、下記式(3)を満たすβ’及びαの値のうち小さい方の値をとる。
【請求項2】
前記溶接金属のビッカース硬さをWMHv、前記母材のビッカース硬さをBMHvとしたとき、さらに下記式(4)、式(5)が成り立つ請求項1に記載の溶接継手。
【請求項3】
溶接熱影響部の引張強さをHAZσu(N/mm2)としたとき、下式(6)を満たす請求項1又は2に記載の溶接継手。
【請求項4】
前記溶接熱影響部のビッカース硬さをHAZHv、前記母材のビッカース硬さをBMHvとしたとき、さらに下記式(7)、式(8)が成り立つ請求項3に記載の溶接継手。
【請求項5】
レ形又はV形開先の完全溶け込み溶接継手を製造する方法であって、
開先角度をα(°)、ルートギャップをg(mm)、余盛り高さをe(mm)、溶接金属の引張強さをWMσu(N/mm2)、母材の引張強さをBMσu(N/mm2)、及び母材の厚さをt(mm)として下記式(1)及び式(2)を満たすように設計し、これにより溶接をおこなう溶接継手の製造方法。
ただし、βは0以上であって、下記式(3)を満たすβ’及びαの値のうち小さい方の値をとる。
【請求項6】
前記溶接金属のビッカース硬さをWMHv、前記母材のビッカース硬さをBMHvとしたとき、前記WMσu(N/mm2)、前記BMσu(N/mm2)を下記式(4)、式(5)により求める請求項5に記載の溶接継手の製造方法。
第3.取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由の概要
1.(サポート要件)本件特許の請求項1ないし6についての特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
2.(実施可能要件)本件特許の請求項1ないし6についての特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
第4.当審の判断
1.取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由について
(1)特許法第36条第6項第1号について
ア.請求項1、2、5及び6について
(ア)当審は、「明細書の段落【0099】の表1には、試験片による試験結果が記載され、材質が「490N/mm2級鋼材」の上から、4番目の試験片が、WMσu/BMσu[%]が99%であって、破断位置、及び、破断位置予測がともに母材となっているものの、当該試験片のルートギャップg、余盛り高さeの値が不明であるから、当該試験片が、本件発明1における式(1)を満たすものであるかどうか不明である。」旨の平成31年1月23日付けの取消理由を通知した。
この点に関して、意見書の主張によれば、ルートギャップgは、明細書の段落【0096】及び同段落【0097】に記載された7mm、余盛り高さeは、明細書の段落【0096】に記載された8mmであることが明らかになったから、発明の詳細な説明は本件発明1及び本件発明5における式(1)を満たすものを開示しているといえる。
したがって、本件特許の請求項1及び5についての特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしている特許出願に対してなされたものである。
また、本件発明2は請求項1を引用する形式で記載され、また、本件発明6は請求項5を引用する形式で記載されているから、本件発明1及び本件発明5と同様の理由で、本件特許の請求項2及び6についての特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしている特許出願に対してなされたものである。
(イ)異議申立人の主張
異議申立人は、上申書4ページ7ないし9行において「したがって、WMσu/BMσuが99%のアンダーマッチングである唯一の実施例を以てして、本件特許発明1、5が大合議判決で判示されたサポート要件を満たしているとは到底いえません。」と主張する。
しかしながら、請求項1及び5の式(1)ないし(3)は、アンダーマッチングであっても、溶接金属よりも先に母材が破壊されるための条件が理論的に導かれたものであって、請求項1及び5の式(1)ないし(3)を満たし、所望の効果が得られる実施例が少なくとも1つ実証された以上、これらの式を導いた理論に誤りはないと解され、式(1)ないし(3)は正しいものと推認できるから、請求項1及び5の記載はサポート要件を満たしているといい得る。また、異議申立人は、上記の推認を妨げる具体的な事実、すなわち、これらの式を満たすにもかかわらず、溶接金属が先に破壊されることを示す実験例や、これらの式を導く理論が誤っていることを上申書で具体的に説明しているわけでもない。
そうすると、異議申立人の当該主張は理由がない。
(ウ)小活
以上のとおり、本件特許の請求項1、2、5及び6についての特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしている特許出願に対してなされたものである。
イ.請求項3及び4について
当審は、「本件特許発明3は、請求項1を引用する形式で記載されているから、請求項1の式(2)と請求項3の式(6)とを同時に満たなければならない。ここで、明細書の段落【0102】の表2には、試験片による試験結果が記載されているものの、表2には、WMσu/BMσu[%]の数値が記載されていないことから、表2の試験片が請求項1の式(2)と請求項3の式(6)とを同時に満たしているかどうかが明らかでない。そうすると、本件特許発明3はその実施例がないこととなるから、上記1.の理由に加えて、当該理由でも、本件特許発明3は、発明の詳細な説明に記載されたものであるとはいえない。」旨の平成31年1月23日付けの取消理由を通知した。
これに対して、意見書では「これに対しては、上記『(5.1.1)本件特許発明1』の『(5.1.1.2)第二』の説明の通り、本件特許発明3についても実施例を必要としないものであるから、本件特許発明3も発明の詳細な説明に記載されたものである。」と主張するのに留まり、表2の試験片が請求項1の式(2)と請求項3の式(6)とを同時に満たすかどうかは明らかになっていない。
また、「(5.1.1.2)第二」の説明とは、要するに、本件特許における式(1)ないし式(3)について、本件特許の明細書において、数式を得る過程が当業者に理解できるように順を追って説明しており、当業者であれば、数式の技術的な意味を理解でき、数式が示す範囲と得られる効果の関係も理解できるから、明細書に実施例が記載されていなくてもサポート要件を満たすというものである。
しかし、式(1)ないし式(3)について、数式を得る過程が当業者に理解できるように説明されているとしても、式(6)については、式(1)において、WMσuの代わりにHAZの引張強さをHAZσuを用いること(段落【0044】参照。)が記載されているにすぎず、WMσuとHAZσuとの関係、例えば、WMσuとHAZσuとが常に等しいというような関係について、何らの説明もないから、式(6)を得る過程を理解したとしても、式(6)を満たす場合に式(2)を常に満たすかどうかを理解できるとはいえない。
なお、この点に関しては、異議申立人による特許異議申立書の26ページ24行ないし27ページ2行に「HAZ部のビッカース硬さの最小値HAZHvは、溶接金属のビッカース硬さWMHvより数%以上小さい(HAZHv<WMHv)ことが通常である。そうすると、仮にHAZHvがWMHvより1%小さいとしても、式(7)からビッカース硬さを引張強さに換算して求めたHAZσuの値はWMσuより1%小さいから、WMσu=HAZσuとの仮定は成り立たない。そして、上記のHAZσu/BMσuが99%又は100%である溶接継手は、WMσu/BMσuが100%を超える(式(2)を満たさない)ことが明らかであるから、式(6)と式(2)を同時に満たす具体例は記載されていない。」と記載されているように、HAZσu<WMσuとの関係が指摘されており、そうすると、式(6)を満たす場合に、式(2)を常に満たすとまではいえない。
以上のとおり、発明の詳細な説明において、請求項1の式(2)と請求項3の式(6)とを同時に満たすかどうかは明らかでなく、本件特許の請求項3についての特許は、発明の詳細な説明に記載されたものでないから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。
また、本件発明4は請求項3を引用する形式で記載されているから、本件発明3と同様の理由で、本件特許の請求項4についての特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。
(2)特許法第36条第4項第1号について
ア.請求項1、2、5及び6について
当審は、「式(1)と式(2)とを満たすための、試験片のルートギャップg、余盛り高さeの値が発明の詳細な説明に記載されていない。そのため、本件特許の発明の詳細な説明は、当業者においても、本件特許発明1を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。」旨の平成31年1月23日付けの取消理由を通知した。
この点に関して、意見書の主張によれば、ルートギャップgは7mm、余盛り高さeは8mmであることが明らかになったから、特許発明1及び特許発明5を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでないとはいえない。
したがって、本件特許の請求項1及び5についての特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしている特許出願に対してなされたものである。
また、本件発明2は請求項1を引用する形式で記載され、また、本件発明6は請求項5を引用する形式で記載されているから、本件発明1及び本件発明5と同様の理由で、本件特許の請求項2及び6についての特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしている特許出願に対してなされたものである。
イ.請求項3及び4について
当審は、「式(2)と式(6)とを満たす、試験片のデータが発明の詳細な説明に記載されていない。そのため、本件特許の発明の詳細な説明は、当業者においても、本件特許発明3を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。」旨の平成31年1月23日付けの取消理由を通知した。
これに対して、意見書では「式(2)については上記『(5.2.1)本件特許発明1』で説明したとおり、発明の詳細な説明に、実施することができる程度に明確かつ十分に記載されている。一方、式(6)については、式(6)でさらに追加的に必要とされる要素はHAZσuのみであり、この要素も当業者には技術常識であるとともに、発明の詳細な説明にもHAZσuについて記載している。そうすると、上記『(5.2.1)本件特許発明1』で説明したように、当業者が実施できる程度に明確にかつ十分に記載された発明の詳細な説明に基づいて式(2)を満たすような溶接条件を得て、これに基づいてその中からHAZσuを考慮して式(6)を満たすような要件を算出し、溶接を実施することは当業者には容易である。」と主張するのに留まり、請求項1の式(2)と請求項3の式(6)とを同時に満たすかどうかは明らかになっていない。
以上のとおり、発明の詳細な説明において、請求項1の式(2)と請求項3の式(6)とを同時に満たすかどうかは明らかでないから、発明の詳細な説明が本件特許の請求項3についての特許を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。
特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。
したがって、本件特許の請求項3についての特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
また、本件発明4は請求項3を引用する形式で記載されているから、本件発明3と同様の理由で、本件特許の請求項4についての特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。
したがって、本件特許の請求項4についての特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
2.取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)特許法第29条第1項第3号について
ア.申立理由の概要
異議申立人は、証拠として、下記の甲第1ないし4号証を提出して、請求項1、2、5及び6に係る特許は、甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1、2、5及び6に係る特許に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。
甲第1号証:小柳津悠、新井陽介、見村博明、「高強度鋼(H-SA700B)を用いた溶接継手の疲労強度に関する研究(その1 材料特性と溶接継手の動的引張り強度)」、日本建築学会大会学術講演梗概集(関東)、2011年8月、753ないし754ページ
甲第2号証:甲第1号証に記載された溶接継手において、本件特許発明の式(3)を満たすβ’を求め、式(1)の右辺を計算するためのエクセル表、異議申立人が作成
甲第3号証:「JISハンドブック1 鉄鋼I」、日本規格協会、2011年1月21日発行 2091ないし2094ページ
甲第4号証:志村保美、「建築鉄骨『材料編』」、溶接学会誌、第80巻、第4号、2011年、311ないし316ページ
イ.各甲号証の記載
(ア)甲第1号証
a.甲第1号証に記載された事項
甲第1号証には、図面と共に次に掲げる事項が記載されている。(下線部は理解の一助のため当審で付したものである。)
(a)「1.はじめに
近年、建築物の高層化、大型化、軽量化に伴い、鉄鋼材料の高強度化が進み高強度鋼材を用いた建築物が多く見られる。本研究で用いる建築構造用高強度鋼H-SA700B鋼材は震度7クラスの地震に対しても弾性域を維持し建築構造物を無損傷で保つために新しく開発された鋼材である。」
(753ページ左欄1ないし7行)
(b)「
」(753ページ 図1 試験片形状・寸法)
(c)「2. 実験概要
2.1 試験片形状・寸法
図1に本研究で用いる試験片形状及び寸法を示す。使用鋼材は建築構造用高強度鋼(H-SA700B)とし、溶接継ぎ手の種類は図1-(a)横突合わせ溶接継手裏当て金あり(BT)及び図1(b)横突合わせ溶接継手裏当て金なし(NBT)及び図1-(c)十字突合せ溶接継手(BJ)の3種類でありBT及びBJの裏当て金にはSN490Bを用いた。また、BT及びBJはレ型開先を有する完全溶け込み溶接であり、NBTはK型開先を有する裏はつり溶接である。本研究で用いる試験片は柱-はり接合部のフランジをモデル化したものである。溶接方法はCO2アーク溶接であり、溶接金属はMG-80、Φ1.2mmを用い接合を行った。表1に溶接施工条件を示す。図2に断面マクロ写真を示す。BT及びBJは5層9パスであり、NBTは表側を4層6パスとし裏側を2パスとした。図3に硬さ試験の結果を示す。測定ライン1/4t、1/2tいずれの場合も溶接金属部の硬度は母材部の硬度よりも低い値になっている。また、HAZ部の硬度も溶接時の割れ防止に必要な硬度の目安となるHv<350となっている。」(753ページ右欄1ないし20行)
(d)「
」(753ページ 図2 断面マクロ写真)
(e)「
」(753ページ 図3 硬さ試験結果)
(f)「2.2 鋼材の機械的性質と化学成分
H-SA700Bの機械的性質調査のため素材試験を行った。試験には、母材及び各溶接継手作成時に使われた溶接金属(MG-80、Φ1.2mm)引張試験片を用いて行った。図4に溶接金属引張試験片の寸法及び形状、採取位置を示す。また、表2に素材試験から得られた機械的性質、表3にミルシート値による化学成分、図5に応力-ひずみ関係を示す。試験より最大応力σBは母材で826MPaに対し溶接金属BTで812MPa、NBTで794MPaと低い値を示し本試験片はアンダーマッチングであることが分かった。」(754ページ左欄1ないし11行)
b.甲第1号証に記載された発明
上記摘記事項(a)ないし(f)、及び、技術常識を勘案すると、甲第1号証には、次の発明が記載されていると認められる。
「レ形開先の完全溶け込み溶接継手であって、
開先角度αを35°、ルートギャップgを7mm、溶接金属の最大応力が812MPa(N/mm2)、母材の最大応力が826MPa(N/mm2)、及び母材の厚さtが20mmである溶接継手。」(以下、「甲第1号証に記載された発明1」という。)
また、甲第1号証には、次の発明が記載されていると認められる。
「レ形開先の完全溶け込み溶接継手を製造する方法であって、
開先角度αを35°、ルートギャップgを7mm、溶接金属の最大応力が812MPa(N/mm2)、母材の最大応力が826MPa(N/mm2)、及び母材の厚さtが20mmである溶接継手を製造する方法。」(以下、「甲第1号証に記載された発明2」という。)
(イ)甲第2号証
甲第1号証に記載された溶接継手において、本件特許発明の式(3)を満たすβ’を求め、式(1)の右辺を計算するためのエクセル表である。
(ウ)甲第3号証
a.甲第3号証に記載された事項
(a)「11.硬さ換算表(SAE J417)
1.ここに示す硬さ換算表(以下、表という。)は,SAE J417*によるもので,参考として示したものである。
2.表では,鋼のビッカース,ブリネル,ロックウエル及びショア硬さの近似の関係と相当する近似の引張強さを示す。近似の関係になっているのは寸法,質量,化学成分及び熱処理方法等の避けられない影響があって,正確な関係として示すことが出来ないからである。」(2091ページ1ないし5行)
(エ)甲第4号証
a.甲第4号証に記載された事項
(a)「2.建築構造用鋼材の種類(適用材料と製造プロセス)
建築鉄骨において使用されている鋼材には,建築基準法で指定されているJIS規格製品(表1参照)と国土交通大臣による大臣認定を受けた鋼材(表2)がある.」(311ページ左欄10ないし14行)
ウ.本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲第1号証に記載された発明1とを対比する。
甲第1号証に記載された発明1の「溶接金属の最大応力」は本件発明1の「溶接金属の引張強さWMσu」に相当し、同様に、「母材の最大応力」は「母材の引張強さBMσu」に相当し、甲第1号証に記載された発明1における「溶接金属の最大応力/母材の最大応力」は、「812/826=0.983」であるから、甲第1号証に記載された発明1は、本件発明1の式(2)を満たす。
そうすると、本件発明1と甲第1号証に記載された発明1は、以下の点で一致し、かつ相違する。
[一致点]
「レ形開先の完全溶け込み溶接継手であって、
開先角度をα(°)、ルートギャップをg(mm)、溶接金属の引張強さをWMσu(N/mm2)、母材の引張強さをBMσu(N/mm2)、及び母材の厚さをt(mm)としたとき、下記式(2)を満たす溶接継手。
」
[相違点]
本件発明1は、溶接継手が「開先角度をα(°)、ルートギャップをg(mm)、余盛り高さをe(mm)、溶接金属の引張強さをWMσu(N/mm2)、母材の引張強さをBMσu(N/mm2)、及び母材の厚さをt(mm)としたとき、下記(1)式を満たす。
ただし、βは0以上であって、下記式(3)を満たすβ’及びαの値のうち小さい方の値をとる。
」のに対し、甲第1号証に記載された発明1は、余盛り高さe(mm)が明らかでないから、溶接継手が式(1)及び式(3)を満たすかどうかが明らかでない点。
(イ)相違点の判断
本件発明1と甲第1号証に記載された発明1とは上記相違点を有する。
したがって、本件発明1は甲第1号証に記載された発明1ではない。
(ウ)異議申立人の主張
異議申立人は、特許異議申立書16ページ下から5行ないし末行において「そして、(1-4)図2の左上には、図1(a)の溶接継手(BT)の断面図に対応する断面マクロ写真が掲載されており、この写真を拡大し、高さ方向にスケール表示を組み合わせた図が以下の図Aである。図Aによると、この溶接継手(BT)の余盛り高さは、1mmと2mmの間のいずれかの値であることが分かる。」と主張する。
しかしながら、甲第1号証の「図2 断面マクロ写真」には、もともとは高さ方向のスケール表示がなく、また、甲第1号証には、「余盛り高さ」に関する記載はなく、さらに、甲第1号証の「図2 断面マクロ写真」のどの部分が余盛り高さに該当するかも明確でない。
そうすると、甲第1号証の「図2 断面マクロ写真」の余盛り高さeが、1mmと2mmの間のいずれかの値であるとはいえないから、異議申立人の主張は理由がない。
また、異議申立人は、上申書5ページ6ないし11行において「そして、上記の断面マクロ写真からは、以下の図Aに示すように、縦方向の板厚tが20mmであることを高さ方向のスケール基準として、母材の表面から盛り上がる溶接金属の高さが1mmより大きく2mmより小さいことが見て取れます。なお、以下の図Aは、上記の断面マクロ写真をより明確にするために、甲第1号証をより高精細にに示すDVDに格納された資料(参考資料2)の断面マクロ写真を用いて示したものです。」と主張する。
しかしながら、異議申立書29ページ9行には、甲第1号証について、写しを提出する旨が記載され、原本は提出されていない。そうすると、上申書に添付された参考資料2は、本件特許に係る特許掲載公報の発行の日から6月を経過した後に提出された新たな証拠というほかなく、参考資料2に基いて取消理由を検討すれば、審理に著しい遅延が生じることは明らかであるから、参考資料2に基く異議申立人の当該主張は採用できない。
(エ)小括
以上のとおり、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明1ではないから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当しない。
エ.本件発明2について
本件発明2は、本件発明1を引用する発明であるから、本件発明1と同様に、甲第1号証に記載された発明1ではないから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当しない。
オ.本件発明5
本件発明5は、本件発明1の溶接継手という物の発明に対応する溶接継手の製造方法の発明であって、本件発明1に対応する構成を備えるものであるから、上記イ.(a)b.において認定した甲第1号証に記載された発明2と対比すると、その判断は本件発明1と同様に甲第1号証に記載された発明2ではない。
したがって、本件発明5は、甲第1号証に記載された発明2ではないから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当しない。
カ.本件発明6
本件発明6は、本件発明5を引用する発明であるから、本件発明5と同様に、甲第1号証に記載された発明2ではないから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当しない。
第5.むすび
以上のとおり、本件特許の請求項3及び4についての特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件及び特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであるから、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
また、本件請求項1、2、5及び6に係る特許については、取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1、2、5及び6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2018-700892