特許異議申立
2018-700666
階層的多孔性ゼオライト
- 審判番号
- 2018-700666
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2016-520732外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2018年08月10日
- 審決日
- 2019年12月18日
- 公報発行日
- 2020年03月27日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】アルケマ フランス
- 【権利者代理人】特許業務法人川口國際特許事務所
- 【異議申立人】水澤化学工業 株式会社
- 【異議申立人代理人】小野 尚純
- 【異議申立人代理人】奥貫 佐知子
- 分類
- P1651.121-YAA(C01B) / P1651.536-YAA(C01B) / P1651.537-YAA(C01B) / P1651.851-YAA(C01B) / P1651.854-YAA(C01B) / P1651.855-YAA(C01B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第9項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6280640号発明「階層的多孔性ゼオライト」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6280640号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の〔1~14〕について訂正することを認める。
特許第6280640号の請求項1、3~14に係る特許を維持する。
特許第6280640号の請求項2に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第6280640号(以下、「本件特許」という。)に係る出願は、2014年(平成26年) 8月 6日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 2013年 9月 2日 フランス共和国(FR))を国際出願日とする出願であって、平成30年 1月26日に特許権の設定登録がされ、同年 2月14日に特許掲載公報が発行され、同年 8月10日付けで特許異議申立人 水澤化学工業株式会社(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、同年10月30日付けで当審より取消理由が通知され、併せて審尋がされ、平成31年 1月31日付けで特許権者より意見書(以下、「特許権者意見書」という。)の提出及び訂正の請求がされ、同年 3月 6日付けで申立人より意見書が提出され、同年 4月 8日付けで当審より取消理由(決定の予告)が通知され、令和 1年 7月 9日付けで特許権者より意見書の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)がされ、同年 8月20日付けで申立人より意見書(以下、「申立人意見書」という。)が提出され、同年 9月27日付けで当審より訂正拒絶理由が通知され、同年11月19日付けで特許権者より意見書及び本件訂正請求の手続補正書(以下、「手続補正書」という。)が提出されたものである。
第2 手続補正書により補正された本件訂正請求による訂正の適否
1 訂正の内容
手続補正書により補正された本件訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)は、以下の訂正事項からなる(当審注:下線は訂正箇所であり、当審が付与した。)。
なお、平成31年 1月31日付けの訂正の請求は、本件訂正請求がなされたため、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。
(1)訂正事項1
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に
「少なくとも以下の特徴を備える階層的多孔性ゼオライト:」
と記載されているのを
「少なくとも以下の特徴を備える階層的多孔性Y型FAUゼオライト:」
に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2~14も同様に訂正する。)。
(2)訂正事項2
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に
「・ Si/Al原子比率が厳密に1.4より大きく6未満であり、」
と記載されているのを、
「・ 蛍光X線によって求められるSi/Al原子比率が厳密に1.4より大きく6未満であり、」
に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2~14も同様に訂正する。)。
(3)訂正事項3
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に
「・ cm3・g-1で表されるミクロ孔の容積Vμpが、式Vμp=VμpR±15%を満たし、」
と記載されているのを、
「・ ISO規格15901-3(2007)に準拠して、DubininとRaduskevitchの式を適用して窒素の吸着等温線から求められるcm3・g-1で表されるミクロ孔(ただし、径が厳密に2nm未満のものをいう)の容積Vμpが、式Vμp=VμpR±15%を満たし、」
に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2~14も同様に訂正する。)。
(4)訂正事項4
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に
「・ メソ孔の外表面積が40m2・g-1と400m2・g-1との間であるようなメソ多孔性。」
と記載されているのを、
「・ ISO規格15901-3(2007)に準拠して、Harkins-Juraの式を適用してt-プロット法により求められるメソ孔の外表面積が40m2・g-1と200m2・g-1との間であるようなメソ多孔性。」
に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2~14も同様に訂正する。)。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項2を削除する。
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項3に
「請求項1または2に記載のゼオライトであって、」
と記載されているのを、
「請求項1に記載のゼオライトであって、」
に訂正する(請求項3の記載を直接的又は間接的に引用する請求項4~14も同様に訂正する。)。
(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項4に
「請求項1から3のいずれか一項に記載のゼオライトであって、」
と記載されているのを、
「請求項1または3のいずれか一項に記載のゼオライトであって、」
に訂正する(請求項4の記載を直接的又は間接的に引用する請求項5~14も同様に訂正する。)。
(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項5に
「請求項1から4のいずれか一項に記載のゼオライトであって、」
と記載されているのを、
「請求項1及び3から4のいずれか一項に記載のゼオライトであって、」
に訂正する(請求項5の記載を直接的又は間接的に引用する請求項6~14も同様に訂正する。)。
(9)訂正事項9
特許請求の範囲の請求項6に
「請求項1から5のいずれか一項に記載のゼオライトの製造方法であって、」
と記載されているのを、
「請求項1及び3から5のいずれか一項に記載のゼオライトの製造方法であって、」
に訂正する(請求項6の記載を直接的又は間接的に引用する請求項7~14も同様に訂正する。)。
本件訂正前の請求項2~14は、いずれも、直接的または間接的に訂正前の請求項1を引用するものであるから、本件訂正前の請求項1~14は、一群の請求項である。
そして、本件訂正は、請求項間の引用関係の解消を目的とするものではなく、特定の請求項に係る訂正事項について別の訂正単位とする求めもないから、手続補正書により補正された本件訂正請求は、訂正後の請求項〔1~14〕を訂正単位とする訂正の請求をするものである。
2 訂正拒絶理由の概要
(ア)本件訂正請求による訂正は、以下の補正前訂正事項4、10を含むものである。
・補正前訂正事項4
本件訂正請求による訂正前の特許請求の範囲の請求項1に
「ここでVμpRは、同一の化学的性質および同一の結晶構造であるが、メソ孔の外表面積が厳密に40m2・g-1未満のゼオライトについて同一条件で測定したミクロ孔の容積をcm3・g-1で表すものである、」
と記載されているのを、
「ここでVμpRは、メソ孔の外表面積が厳密に40m2・g-1未満のY型FAUゼオライトについて同一条件で測定したミクロ孔の容積をcm3・g-1で表すものである、」
に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2~14も同様に訂正する。)。
・補正前訂正事項10
本件訂正請求による訂正前の特許請求の範囲の請求項5に
「ここでVμpRは、同一の化学的性質および同一の結晶構造であり、完全に結晶性であるが本発明の意義の範囲内ではメソ多孔性ではない、即ち、メソ孔の外表面積が厳密に40m2・g-1未満のゼオライトについて同一条件で測定したミクロ孔の容積を表すものである、」
と記載されているのを、
「ここでVμpRは、Y型FAUであり、完全に結晶性であるが本発明の意義の範囲内ではメソ多孔性ではない、即ち、メソ孔の外表面積が厳密に40m2・g-1未満のゼオライトについて同一条件で測定したミクロ孔の容積を表すものである、」
に訂正する(請求項5の記載を直接的又は間接的に引用する請求項6~14も同様に訂正する。)。
(イ)前記(ア)の補正前訂正事項4による訂正は、「メソ孔の外表面積が厳密に40m2・g-1未満のゼオライト」について、本件訂正請求による訂正前の請求項1の「同一の化学的性質および同一の結晶構造であるが、メソ孔の外表面積が厳密に40m2・g-1未満のゼオライト」との発明特定事項における「同一の化学的性質および同一の結晶構造であるが、」を削除して、「メソ孔の外表面積が厳密に40m2・g-1未満のY型FAUゼオライト」と訂正するものである。
(ウ)そして、「Y型FAUゼオライト」が、必ずしも「階層的多孔性Y型FAUゼオライト」と「同一の化学的性質」を有するとはいえないから、補正前訂正事項4による訂正により、「メソ孔の外表面積が厳密に40m2・g-1未満のゼオライト」は、「同一の化学的性質および同一の結晶構造」であったものが、「同一の化学的性質」を有しない「Y型FAUゼオライト」を包含するものとなるものである。
してみれば、補正前訂正事項4による訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであり、このことは、補正前訂正事項10による訂正についても同様である。
(エ)したがって、補正前訂正事項4、10による訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合しないので、本件訂正請求は適法な訂正請求とはいえず、拒絶すべきものである。
3 判断
(1)訂正拒絶理由について
本件訂正の内容は、前記1(1)~(9)に記載のとおりであって、本件訂正は補正前訂正事項4及び10を含まないので、前記2の訂正拒絶理由は解消した。
(2)訂正の目的の適否、新規事項及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(2-1)訂正事項1について
訂正事項1による訂正は、本件訂正前の請求項1に係る発明における「階層的多孔性ゼオライト」を「階層的多孔性Y型FAUゼオライト」に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、願書に添付した明細書の【0031】、【0034】には、
「【0031】
本発明者らは、メソ多孔性Y型FAUゼオライトを直接、・・・調製することが可能であることを見出した。本発明に従う階層的多孔性Y型FAUゼオライト(HPY)は、非常に有利であり、これ故直接法によって容易に工業化が可能であるという特徴を有する。」
「【0034】
好ましい実施形態によれば、本発明に従うゼオライトは、FAU型のゼオライトであり、特にY型のゼオライトFAUである。」(当審注:下線は当審が付与した。また、「・・・」は記載の省略を表す。以下、同様である。)
と記載されているから、本件訂正前の請求項1に係る発明における「階層的多孔性ゼオライト」を「階層的多孔性Y型FAUゼオライト」に限定する訂正事項1による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲、又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
更に、訂正事項1による訂正は、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
(2-2)訂正事項2について
訂正事項2による訂正は、「Si/Al原子比率」を「蛍光X線によって求められる」ものとして、「Si/Al原子比率」の測定方法を限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、願書に添付した明細書の【0087】~【0089】には、
「【0087】
<蛍光X線によるゼオライトのSi/Al原子比率の分析>
階層的多孔性ゼオライトの元素化学分析は、当業者に周知の様々な分析技術に従って行われ得る。これらの技術の中で、・・・例えばBruker社Tiger S8機での蛍光X線による化学分析技術(WDXRF)に関して言及することができる。
【0088】
蛍光X線は、試料の元素組成を確立するための、X線域での原子のフォトルミネッセンスを活用した非破壊分光技術である。通常X線ビームでの、または電子衝撃による原子の励起は、原子の基底状態に戻った後に特異的な放射を発生させる。蛍光X線スペクトルは、元素の化合にやや依存する利点を有し、これは、定量および定性の両方で、正確な決定をもたらす。各オキシドについて較正後、計測の不確実性0.4重量%未満が、慣例的に得られる。
【0089】
これら元素化学分析は、ゼオライトのSi/Al原子比率を確認することを可能にし、このSi/Al原子比率の計測の不確実性は±5%である。」
と記載されているから、「Si/Al原子比率」の測定方法を「蛍光X線によって求められる」ものに限定する訂正事項2による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲、又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
更に、訂正事項2による訂正は、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
(2-3)訂正事項3について
訂正事項3による訂正は、「ミクロ孔の容積Vμp」を「ISO規格15901-3(2007)に準拠して、DubininとRaduskevitchの式を適用して窒素の吸着等温線から求められる」ものとして、「ミクロ孔の容積Vμp」の測定方法を特定して明確にすると共に、「ミクロ孔」を「径が厳密に2nm未満のもの」に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮及び第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、願書に添付した明細書の【0023】、【0078】には、
「【0023】
・・・このミクロ孔の容積は、D.Verboekend(同書)によって、ミクロ孔の容積と小さいメソ孔の容積を同時に測定するt-プロット法を用いて測定されていると言う事実のため、このミクロ多孔性の劣化は、しかしながら表2でははっきりしない。Dubinin-Raduskevitchの式を用いたミクロ孔の容積の測定は、径が厳密に2nm未満のミクロ孔のみ考慮に入れる・・・。」
「【0078】
<ミクロ孔の容積(Dubinin-Raduskevitch容積)>
Dubinin-Raduskevitch容積は、窒素の、液化温度での吸着等温線の測定から決定される。・・・ミクロ孔の容積は、DubininとRaduskevitchに従って、得られた等温線から、ISO規格15901-3(2007)を適用して決定される。・・・」
と記載されているから、「ミクロ孔の容積Vμp」を「ISO規格15901-3(2007)に準拠して、DubininとRaduskevitchの式を適用して窒素の吸着等温線から求められる」ものとして、「ミクロ孔の容積Vμp」の測定方法を限定すると共に、「ミクロ孔」を「径が厳密に2nm未満のもの」に限定する訂正事項3による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲、又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
更に、訂正事項3による訂正は、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
(2-4)訂正事項4について
訂正事項4による訂正は、「メソ孔の外表面積」を「ISO規格15901-3(2007)に準拠して、Harkins-Juraの式を適用してt-プロット法により求められる」ものとして、「メソ孔の外表面積」の測定方法を限定するとともに、「メソ孔の外表面積」の上限値を「400m2・g-1」から「200m2・g-1」に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、願書に添付した明細書の【0032】、【0082】~【0084】には、
「【0032】
上に述べたように、および第一の態様に従えば、本発明は、以下の特徴を備える階層的多孔性ゼオライトに関する:
・・・
・ メソ孔の外表面積が40m2・g-1と400m2・g-1との間、好ましくは60m2・g-1と200m2・g-1との間、およびより好ましくは60m2・g-1と150m2・g-1との間であるようなメソ多孔性。」、
「【0082】
<t-プロット法によるメソ孔の外表面積(m2・g-1)の測定>
t-プロット計算法は、吸着等温線のデータQ ads=f(P/P0)を活用してミクロ孔の表面積を計算できるようにする。メソ孔の外表面積は、細孔の表面積の合計をm2・g-1で測定するBET表面積との違いを測定することによって、そこから推定され得る・・・。
【0083】
t-プロット法でミクロ孔の表面積を計算するために、曲線Q ads(cm3・g-1)は、t=分圧P/P0によって決まる層の厚さの関数としてプロットされ、これは参照の非多孔性固体に形成され(tはlogP/P0の関数:Harkins-Juraの式適用(ISO規格15901-3:2007)):
【0084】
【数1】
ここで、0.35nmと0.5nmとの間の距離tにおいて、直線をプロットすることができ、これは切片Q adsorbedを規定し、これはミクロ孔の表面積を計算することを可能にする。固体がミクロ多孔性でないとき、この直線は0を通る。」
と記載されているから、「メソ孔の外表面積」を「ISO規格15901-3(2007)に準拠して、Harkins-Juraの式を適用してt-プロット法により求められる」ものとして、「メソ孔の外表面積」の測定方法を限定するとともに、「メソ孔の外表面積」の上限値を「400m2・g-1」から「200m2・g-1」に限定する訂正事項4による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲、又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
更に、訂正事項4による訂正は、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
(2-5)訂正事項5について
訂正事項5による訂正は、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項2を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。
(2-6)訂正事項6~9について
訂正事項6~9による訂正は、いずれも、訂正事項5による訂正により本件訂正前の特許請求の範囲の請求項2が削除されたことに伴って、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項3~6における選択的引用請求項の一部を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。
(2-7)申立人意見書の主張について
ア 申立人意見書の主張の概要
申立人意見書における本件訂正請求に関する主張の概要は以下のとおりである。
(ア)本件訂正請求の補正前訂正事項3において「ミクロ孔」を「径が厳密に2nm未満のもの」とする訂正は、ミクロ孔の孔径が厳密に2nm以下であることの根拠が願書に添付した明細書、特許請求の範囲、又は図面に記載されていないし、ISO規格15901-3(2007)は、マクロポア、メソポア、ミクロポアの境界値を厳密に定義するものではないから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲、又は図面に記載した事項の範囲内の訂正ではない(申立人意見書の2頁20行~28行)。
(イ)同補正前訂正事項4において「メソ孔の外表面積が厳密に40m2・g-1未満のY型FAUゼオライト」とする訂正は、「同一の化学的性質」を有する旨の限定が削除され、「同一の化学的性質」を有しないものまでを「参照ゼオライト」に含むものであり、特許権者は、特許権者意見書に添付した参考資料1により、「同一の化学的性質」とは、「ゼオライトを構成する元素とその割合が同じである」との主張を行っているが、「メソ孔の外表面積が厳密に40m2・g-1未満のY型FAUゼオライト」は、その構成元素も構成割合も規定されていないから、特許請求の範囲を拡張しあるいは変更するものである(申立人意見書の2頁29行~3頁4行)。
イ 判断
(ア)前記(2-3)の願書に添付した明細書の【0023】、【0078】によれば、「ミクロ孔」の容積は、DubininとRaduskevitchに従って、得られた等温線からISO規格15901-3(2007)を適用して決定されるのであり、Dubinin-Raduskevitchの式を用いた「ミクロ孔」の容積の測定は、径が厳密に2nm未満の「ミクロ孔」のみ考慮に入れるものである。
そうすると、Dubinin-Raduskevitchの式を用いた「ミクロ孔」の容積の測定における「ミクロ孔」が、「径が厳密に2nm未満のもの」をいうことは明らかであるから、訂正事項3において、「ISO規格15901-3(2007)に準拠して、DubininとRaduskevitchの式を適用して窒素の吸着等温線から求められるcm3・g-1で表されるミクロ孔」を「径が厳密に2nm未満のもの」とする訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲、又は図面に記載した事項の範囲内の訂正というべきである。
(イ)前記ア(イ)の主張は前記2の訂正拒絶理由と実質的に同じものであって、前記訂正拒絶理由が解消したことは前記(1)に記載のとおりである。
(ウ)したがって、前記ア(ア)、(イ)の主張はいずれも採用できない。
4 小括
以上のとおりであるので、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものに該当し、同法同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1~14〕について訂正を認める。
第3 本件特許発明
本件訂正が認められることは前記第2に記載のとおりであるので、本件特許の請求項1、3~14に係る発明(以下、「本件発明1」、「本件発明3」~「本件発明14」といい、まとめて「本件発明」という。)は、本件特許の特許請求の範囲の請求項1~14に記載された事項により特定される以下のものである。
「【請求項1】
少なくとも以下の特徴を備える階層的多孔性Y型FAUゼオライト:
・ 蛍光X線によって求められるSi/Al原子比率が厳密に1.4より大きく6未満であり、
・ ISO規格15901-3(2007)に準拠して、DubininとRaduskevitchの式を適用して窒素の吸着等温線から求められるcm3・g-1で表されるミクロ孔(ただし、径が厳密に2nm未満のものをいう)の容積Vμpが、式Vμp=VμpR±15%を満たし、ここでVμpRは、同一の化学的性質および同一の結晶構造であるが、メソ孔の外表面積が厳密に40m2・g-1未満のゼオライトについて同一条件で測定したミクロ孔の容積をcm3・g-1で表すものである、および
・ ISO規格15901-3(2007)に準拠して、Harkins-Juraの式を適用してt-プロット法により求められるメソ孔の外表面積が40m2・g-1と200m2・g-1との間であるようなメソ多孔性。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
請求項1に記載のゼオライトであって、結晶の数平均径が、境界を含めて、0.1μmと20μmとの間である、ゼオライト。
【請求項4】
請求項1または3のいずれか一項に記載のゼオライトであって、純粋なゼオライト相を含む、ゼオライト。
【請求項5】
請求項1及び3から4のいずれか一項に記載のゼオライトであって、さらにミクロ孔の容積Vμpが、式Vμp=VμpR±10%を満たし、ここでVμpRは、同一の化学的性質および同一の結晶構造であり、完全に結晶性であるが本発明の意義の範囲内ではメソ多孔性ではない、即ち、メソ孔の外表面積が厳密に40m2・g-1未満のゼオライトについて同一条件で測定したミクロ孔の容積を表すものである、ゼオライト。
【請求項6】
請求項1及び3から5のいずれか一項に記載のゼオライトの製造方法であって、少なくとも以下のステップを含む方法:
a)0℃と60℃との間の温度で、シリカ源をアルミナ源と混合することによる、Y型のFAUゼオライトの合成用の成長ゲルの調製、
b)0℃と60℃との間の温度で、ステップa)の前記成長ゲルへの1以上の造核剤の添加、
c)反応媒体への1以上の構造化剤の添加、
d)前記温度を上げることによる結晶化反応、
e)得られたゼオライト結晶の濾過および洗浄、並びに
f)乾燥および焼成。
【請求項7】
造核剤が造核ゲルである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
造核ゲルの添加量が、成長ゲルの重量に対して、境界を含めて、0.1%と20%との間である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
造核剤が結晶である、請求項6に記載の方法。
【請求項10】
結晶の添加量が、成長ゲルの総重量に対して、0.1重量%と10重量%との間である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
シリカ源がケイ酸ナトリウムもしくはコロイド状シリカであり、且つアルミナ源がアルミナ三水和物である、請求項6から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
構造化剤がオルガノシランである、請求項6から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
請求項6から12のいずれか一項に記載の方法であって、構造化剤が、[3-(トリメトキシシリル)プロピル]オクタデシルジメチルアンモニウムクロリド、[3-(トリメトキシシリル)プロピル]ヘキサデシルジメチルアンモニウムクロリド、[3-(トリメトキシシリル)プロピル]ドデシルジメチルアンモニウムクロリド、[3-(トリメトキシシリル)プロピル]オクチルアンモニウムクロリド、N-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]アニリン、3-[2-(2-アミノエチルアミノ)エチルアミノ]プロピルトリメトキシシラン、N-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]-N’-(4-ビニルベンジル)エチレンジアミン、トリエトキシ-3-(2-イミダゾリン-1-イル)プロピルシラン、1-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]ウレア、N-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]エチレンジアミン、[3-(ジエチルアミノ)プロピル]トリメトキシシラン、(3-グリシジルオキシプロピル)トリメトキシシラン、3-(トリメトキシシリル)プロピルメタクリレート、[2-(シクロヘキセニル)エチル]トリエトキシシラン、ドデシルトリエトキシシラン、ヘキサデシルトリメトキシシラン、(3-アミノプロピル)トリメトキシシラン、(3-メルカプトプロピル)トリメトキシシラン、(3-クロロプロピル)トリメトキシシラン、およびさらにこれらの2種以上のあらゆる割合での混合物から選択される、方法。
【請求項14】
請求項6から13のいずれか一項に記載の方法であって、1または複数の構造化剤の量は、1または複数の構造化剤/原料Al2O3モル比が境界を含めて、0.005と0.20との間になるような量である、方法。」
第4 異議申立理由の概要
1 特許法第36条第6項第1号(サポート要件)、第2号(明確性要件)、第4項第1号(実施可能要件)について
(ア)本件訂正前の請求項1に係る発明(以下、「訂正前発明1」という。)における「同一の化学的性質および同一の結晶構造」が何を意味しているのか、当業者は全く理解できない。
そもそも、化学的性質及び結晶構造が全く同じであり、メソ孔の外表面積のみが異なる「参照ゼオライト」をどのように製造するのか、また、そのような「参照ゼオライト」は一種類しか存在しないのかが不明であり、化学的性質及び結晶構造が全く同じであるが、メソ孔の外表面積が厳密に40m2・g-1未満のゼオライトは、全て同じミクロ孔の容積の値を示すのか、そうでないならば、ミクロ孔は異なるが、化学的性質及び結晶構造が全く同じである全てのゼオライトに対して、Vμp=VμpR±15%を満たすということになるが、そのような測定は当業者には不可能である(5頁下から6行~6頁下から4行)。
(イ)訂正前発明1における「階層的多孔性ゼオライト」と「参照ゼオライト」は、メソ孔の外表面積が40m2・g-1の境界近傍となったとき、「階層的多孔性ゼオライト」となるのか「参照ゼオライト」となるのかが認識できない。
しかも、訂正前発明1においては、ミクロ孔やメソ孔の孔径について全く特定されていないから、訂正前発明1は明確でない(6頁下から3行~7頁15行)。
(ウ)訂正前発明1における「Si/Al原子比率が厳密に1.4より大きく6未満であ」る、との発明特定事項は、本件特許明細書の【0089】の「このSi/Al原子比率の計測の不確実性は±5%である。」との記載に照らして、意味が不明確である(7頁16行~22行)。
(エ)訂正前発明1は「メソ孔の外表面積が40m2・g-1と400m2・g-1との間であるようなメソ多孔性」との発明特定事項を有するが、実施例における外表面積は140m2・g-1に過ぎず、400m2・g-1という著しくメソ孔の外表面積が大きいゼオライトが得られるとは考えられないから、訂正前発明1はサポート要件を満たさない(7頁23行~下から3行)。
(オ)以上のように、訂正前発明1は著しく不明瞭であり、発明の詳細な説明に記載されているということはできず、特許法第36条第6項第1号、第2号の要件を満足しないし、発明の詳細な説明は、特許法第36条第4項第1号の要件を満足しない。
更に、訂正前発明1を直接的または間接的に引用する、本件訂正前の請求項2~5に係る発明(以下、「訂正前発明2~5」という。)も、特許法第36条第6項第1号、第2号の要件を満足しない(7頁下から2行~8頁5行)。
2 特許法第29条第2項(進歩性)について
[各甲号証]
甲第1号証:中国特許出願公開第103214003号明細書
甲第2号証:特公昭61-37206号公報
訂正前発明1~5、本件訂正前の請求項6~14に係る発明(以下、「訂正前発明6~14」という。)は、甲第1号証に記載される発明及び甲第2号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
第5 取消理由の概要
1 平成30年10月30日付け取消理由通知書の取消理由について
(1)特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について
(1-1)「同一の化学的性質および同一の結晶構造」について
本件特許明細書に記載される「参照非メソ多孔性ゼオライトY(CBV 100)」が、訂正前発明1において特定される、「同一の化学的性質および同一の結晶構造であるが、メソ孔の外表面積が厳密に40m2・g-1未満のゼオライト」(以下、「参照ゼオライト」という。)であると直ちにはいえないから、本件特許明細書に、「ここでVμpRは、同一の化学的性質および同一の結晶構造であるが、メソ孔の外表面積が厳密に40m2・g-1未満のゼオライトについて同一条件で測定したミクロ孔の容積をcm3・g-1で表すものである」との発明特定事項に相当するものが記載されていると直ちには理解できないので、訂正前発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明とはいえない。
このことは、訂正前発明2~14についても同様である。
(1-2)「厳密に」について
(ア)「Si/Al原子比率」の分析は厳密性を欠くものであるし、本件特許明細書には、「Si/Al原子比率」がどのような条件を満足することにより、「厳密に1.4より大きく6未満」であると判断されるのかが記載されるものではないから、本件特許明細書には、「Si/Al原子比率」について、訂正前発明1における「Si/Al原子比率が厳密に1.4より大きく6未満」である、との発明特定事項が記載されていると直ちにはいえないので、訂正前発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明とはいえない。
(イ)本件特許明細書に記載されるメソ孔の外表面積の測定は厳密性を欠くし、本件特許明細書に、「参照ゼオライト」が、どのような条件を満足することにより「メソ孔の外表面積が厳密に40m2・g-1未満」であると判断されるのかが記載されるものでもないので、本件特許明細書には、「参照ゼオライト」の「メソ孔の外表面積」について、「メソ孔の外表面積が厳密に40m2・g-1未満」である、との発明特定事項が記載されていると直ちにはいえないから、訂正前発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明とはいえない。
このことは、訂正前発明1を直接的または間接的に引用する訂正前発明2~14についても同様である。
(1-3)「メソ孔の外表面積」について
本件特許明細書の【0125】、【0126】の記載によれば、本件特許明細書において開示される階層的多孔性ゼオライトのメソ孔の外表面積は、最大で140m2・g-1にすぎない。
そして、技術常識からみれば、ミクロ孔の容積を損なわずにメソ孔の容積を増大させるには限界があることは明らかであり、本件特許明細書に、400m2・g-1のメソ孔の外表面積を有する階層的多孔性ゼオライトを製造するための機序が記載されるものでもない。
このため、本件特許明細書には、「階層的多孔性ゼオライト」について、「メソ孔の外表面積が40m2・g-1と400m2・g-1との間であるようなメソ多孔性」を備える「階層的多孔性ゼオライト」が記載されているとはいえず、訂正前発明1は、発明の詳細な説明に記載された範囲を超えるものである。
このことは、訂正前発明1を直接的または間接的に引用する訂正前発明2~14についても同様である。
(2)特許法第36条第6項第2号(明確性要件)について
(2-1)「同一の化学的性質および同一の結晶構造」について
(ア)訂正前発明1における「化学的性質」が、具体的にどのような性質を意味し、「結晶構造」が、具体的にどのような構造を意味するのかが不明確であり、また、「同一の化学的性質および同一の結晶構造」について、どのような条件を満足することにより、訂正前発明1における「階層的多孔性ゼオライト」と「参照ゼオライト」とが、「同一の化学的性質および同一の結晶構造」であると判断されるのかが不明確である。
(イ)また、本件特許明細書に記載される「参照非メソ多孔性ゼオライトY(CBV 100)」が、「参照ゼオライト」であると直ちにはいえないことは、前記(1)(1-1)に記載のとおりであって、本件特許明細書には、「VμpR」を測定するための「参照ゼオライト」が記載されているとはいえないし、更に、本件特許明細書には、「化学的性質」や「結晶構造」の意味が記載されるものでもなく、「同一の化学的性質および同一の結晶構造である」ことの意味が記載されるものでもなく、どのような条件を満足することにより、本件発明に係る「階層的多孔性ゼオライト」と「参照ゼオライト」が「同一の化学的性質および同一の結晶構造」であると判断されるのかが記載されるものでもない。
(ウ)そうすると、本件特許明細書の記載を参酌したとしても、「参照ゼオライト」の「化学的性質」及び「結晶構造」が不明確であることに変わりはないので、訂正前発明1は不明確である。
このことは、訂正前発明1を直接的または間接的に引用する訂正前発明2~14についても同様である。
(2-2)「厳密に」について
(ア)訂正前発明1における、「・ Si/Al原子比率が厳密に1.4より大きく6未満であり、」との発明特定事項について、どのような条件を満足することにより「Si/Al原子比率」が「厳密に1.4より大きく6未満」と判断されるのかが不明確である。
また、「Si/Al原子比率」の分析は厳密性を欠くものといえ、本件特許明細書に、「Si/Al原子比率」が、どのような条件を満足することにより「厳密に1.4より大きく6未満」であると判断されるのかが記載されるものでもないので、本件特許明細書の記載を参酌したとしても、訂正前発明1は不明確である。
(イ)訂正前発明1における、「メソ孔の外表面積が厳密に40m2・g-1未満」との発明特定事項について、どのような条件を満足することにより「メソ孔の外表面積」が「厳密に40m2・g-1未満」と判断されるのかが不明確である。
また、メソ孔の外表面積(m2・g-1)の測定は厳密性を欠くものといえ、本件特許明細書に、「参照ゼオライト」が、どのような条件を満足することにより「メソ孔の外表面積が厳密に40m2・g-1未満」であると判断されるのかが記載されるものでもないので、本件特許明細書の記載を参酌したとしても、訂正前発明1は不明確である。
(ウ)そして、上記(ア)~(イ)の事項は、訂正前発明1を直接的または間接的に引用する訂正前発明2~14についても同様である。
(2-3)「メソ孔の外表面積が40m2・g-1と400m2・g-1との間である」について
訂正前発明1における、「メソ孔の外表面積が40m2・g-1と400m2・g-1との間である」との発明特定事項は、「メソ孔の外表面積」が、「40m2・g-1」と「400m2・g-1」とを含んで、「40m2・g-1と400m2・g-1との間」に含まれることを意味するのか、「40m2・g-1」と「400m2・g-1」とを含まずに、「40m2・g-1と400m2・g-1との間」に含まれることを意味するのかが不明確であるので、訂正前発明1は不明確である。
そして、このことは、訂正前発明1を直接的または間接的に引用する訂正前発明2~14についても同様である。
(2-4)ミクロ孔及びメソ孔の孔径について
技術常識からみれば、ゼオライトのような細孔を有する物質について細孔の容積を特定する場合には、その細孔径の範囲を特定しなければならないが、訂正前発明1においては、ミクロ孔やメソ孔の孔径について特定されていない。
このため、訂正前発明1に係る「階層的多孔性ゼオライト」の構成が不明確であるので、訂正前発明1は不明確である。
そして、このことは、訂正前発明1を直接的または間接的に引用する訂正前発明2~14についても同様である。
(3)特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)について
(3-1)「参照ゼオライト」について
(ア)本件特許明細書に記載される「参照非メソ多孔性ゼオライトY(CBV 100)」が「参照ゼオライト」であるとはいえないことは、前記(1)(1-1)に記載のとおりであり、本件特許明細書の記載を参酌したとしても、「参照ゼオライト」の「化学的性質」及び「結晶構造」が不明確であるので、本件特許明細書に接した当業者は、「参照ゼオライト」が、どのような「化学的性質」及び「結晶構造」を有するものであるのかを理解することができない。
(イ)また、訂正前発明1の発明特定事項からみれば、訂正前発明1における「階層的多孔性ゼオライト」と「参照ゼオライト」とは、メソ孔の外表面積が40m2・g-1を境にして異なるものであり、その場合、技術常識からみれば、訂正前発明1における「階層的多孔性ゼオライト」と「参照ゼオライト」とは、メソ孔の外表面積の違いに起因して、「化学的性質」及び「結晶構造」が異なるものとなることは明らかであり、訂正前発明1において特定される「参照ゼオライト」は、「階層的多孔性ゼオライト」と、メソ孔の外表面積が40m2・g-1が異なるにも関わらず、「同一の化学的性質および同一の結晶構造」のものであるから、技術常識に反するものである。
そして、本件特許明細書の記載に接した当業者は、技術常識に反する上記「参照ゼオライト」が、どのようにして製造できるのかを理解することができない。
(ウ)更に、訂正前発明1におけるメソ孔の外表面積(m2・g-1)は、t-プロット計算法により、細孔の表面積の合計をm2・g-1で測定するBET表面積との違いを測定することによって、そこから推定され得るものであって、技術常識からみれば、そのような測定ないし推定は必然的に測定誤差が生じるものである。
そうすると、40m2・g-1のメソ孔の外表面積を境にして異なっている、訂正前発明1における「参照ゼオライト」と「階層的多孔性ゼオライト」とが、メソ孔の外表面積(m2・g-1)が40m2・g-1の近傍で、測定誤差の範囲で重複して測定され得ることは明らかであるから、「参照ゼオライト」と「階層的多孔性ゼオライト」とを、本件特許明細書に記載された方法により明確に区別することができないことも明らかである。
このため、本件特許明細書の記載に接した当業者は、「参照ゼオライト」と「階層的多孔性ゼオライト」とを、明確に区別することもできない。
(エ)上記(ア)~(ウ)によれば、本件特許明細書の記載に接した当業者は、訂正前発明1において特定される「参照ゼオライト」の「化学的性質」、「結晶構造」及びその製造方法を理解することができないから、発明の詳細な説明は、訂正前発明1を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。
このことは、訂正前発明1を直接的または間接的に引用する訂正前発明2~14についても同様である。
(3-2)「Si/Al原子比率」について
本件発明における「Si/Al原子比率」の分析は厳密性を欠くものといえ、本件特許明細書に、「Si/Al原子比率」がどのような条件を満足することにより「厳密に1.4より大きく6未満」と判断されるのかが記載されるものでもない。
すると、本件特許明細書の記載に接した当業者は、「Si/Al原子比率」の分析結果に基づいて、「Si/Al原子比率が厳密に1.4より大きく6未満」であるか否かを判断することができないから、発明の詳細な説明は、訂正前発明1を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。
このことは、訂正前発明1を直接的または間接的に引用する訂正前発明2~14についても同様である。
(3-3)「メソ孔の外表面積」について
本件特許明細書の記載によれば、本件特許明細書において開示される「階層的多孔性ゼオライト」のメソ孔の外表面積は、最大で140m2・g-1にすぎず、技術常識からみれば、ミクロ孔の容積を損なわずにメソ孔の容積を増大させるには限界があることは明らかであり、発明の詳細な説明に、400m2・g-1のメソ孔の外表面積を有する「階層的多孔性ゼオライト」を製造するための機序が記載されるものでもない。
すると、本件特許明細書に接した当業者は、訂正前発明1において特定される、「メソ孔の外表面積が40m2・g-1と400m2・g-1との間であるようなメソ多孔性」を備える「階層的多孔性ゼオライト」をどのようにして製造できるのかを理解することができないから、発明の詳細な説明は、訂正前発明1を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。
このことは、訂正前発明1を直接的または間接的に引用する訂正前発明2~14についても同様である。
(4)審尋
本件特許明細書の【0040】、【0041】には、「同一の化学的性質および同一の結晶構造であり、完全に結晶性であるが本発明の意義の範囲内では非メソ多孔性であるゼオライト」という表現は、同条件で調製されたゼオライトであるが、直接法であれ、および/または後処理であれ、メソ多孔性を作り出すために特別な処理が用いられていないゼオライトを意味することが記載され、更に、「ミクロ孔の容積VμpR」が「0.34cm3・g-1」であるゼオライトの一例が記載されている。
ところが、前記【0040】の記載は、「同一の化学的性質および同一の結晶構造」を明らかにする記載とはいえないし、本件特許の優先日の時点で、本件特許明細書の【0041】に記載されるゼオライトの「化学的性質」、「結晶構造」及び製造方法が公知のものであったとしても、「参照ゼオライト」の「化学的性質」、「結晶構造」及び製造方法が自明のものであったとはいえない。
更に、本件特許明細書に記載される「参照非メソ多孔性ゼオライトY(CBV 100)」が「参照ゼオライト」であると直ちにはいえないから、本件特許の優先日の時点で、「参照非メソ多孔性ゼオライトY(CBV 100)」の「化学的性質」、「結晶構造」及び製造方法が公知のものであったとしても、「参照ゼオライト」の「化学的性質」、「結晶構造」及び製造方法が自明のものとはいえないので、本件特許明細書の記載からは、「参照ゼオライト」の「化学的性質」、「結晶構造」及び製造方法を理解することができない。
そこで、当審より、「参照ゼオライト」の具体的な「化学的性質」、「結晶構造」及び製造方法について疑義を解消すべく、明らかにすることを求めたものである。
2 平成31年 4月 8日付け取消理由通知書(決定の予告)の取消理由について
(1)特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について
本件特許明細書の【0094】~【0126】によれば、本件特許明細書においては、「実施例4からのゼオライトHPY」(以下、「HPY」という。)に対して参照するゼオライトとして、「参照非メソ多孔性ゼオライトY(CBV 100)」が記載されているが、「参照非メソ多孔性ゼオライトY(CBV 100)」が「HPY」と「同一の化学的性質」のゼオライトであるとはいえないから、「参照非メソ多孔性ゼオライトY(CBV 100)」が「参照ゼオライト」であるとはいえないので、本件特許明細書には、「参照ゼオライト」に相当するものが記載されていると理解できない。
このため、平成31年 1月31日付け訂正請求書により訂正された請求項1に係る発明(以下、「訂正発明1」という。)は、発明の詳細な説明に記載されたものでない。
このことは、訂正発明1を直接的または間接的に引用する、平成31年 1月31日付け訂正請求書により訂正された請求項2~14に係る発明(以下、「訂正発明2」~「訂正発明14」という。)についても同様である。
(2)特許法第36条第6項第2号(明確性要件)について
(2-1)「参照ゼオライト」について
本件特許明細書の記載を参酌したとしても、「参照ゼオライト」における「同一の化学的性質」の意味が不明確であり、このため、当業者は、「参照ゼオライト」の構成を理解できないから、訂正発明1は不明確である。
そして、このことは、訂正発明1を直接的または間接的に引用する訂正発明2~訂正発明14についても同様である。
(2-2)ミクロ孔及びメソ孔の孔径について
技術常識からみれば、ゼオライトのような細孔を有する物質について細孔の容積を特定する場合には、その細孔径の範囲を特定しなければならないが、訂正発明1においては、ミクロ孔やメソ孔の孔径について特定されていない。
このため、訂正発明1に係る「階層的多孔性ゼオライト」の構成が不明確であるので、訂正発明1は不明確である。
そして、このことは、訂正発明1を直接的または間接的に引用する訂正発明2~訂正発明14についても同様である。
(3)特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)について
本件特許明細書の記載に接した当業者は、訂正発明1において特定される「参照ゼオライト」が、どのような「化学的性質」を有するものであるのかを理解することができないし、その製造方法を理解することもできないから、発明の詳細な説明は、訂正発明1を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。
このことは、訂正発明1を直接的または間接的に引用する訂正発明2~訂正発明14についても同様である。
第6 取消理由についての判断
前記第5の2(1)、同(2)(2-1)、(2-2)、同(3)の取消理由は、それぞれ、前記第5の1(1)(1-1)、同(2)(2-1)、(2-4)、同(3)(3-1)の取消理由と実質的に同じものであるので、以下、平成30年10月30日付け取消理由通知書の取消理由について検討する。
1 特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について
(1)「同一の化学的性質および同一の結晶構造」について
(ア)本件発明1は、「少なくとも以下の特徴を備える階層的多孔性Y型FAUゼオライト」との発明特定事項を有するものであり、「階層的多孔性Y型FAUゼオライト」は、「Y型FAUゼオライト」に該当する。
ここで、特許権者意見書に添付された参考資料1である「一般社団法人日本ゼオライト学会ホームページ」(http://www.jaz-online.org/introduction/qanda.html)によれば、「Y型FAUゼオライト」とは、一般的に、理想化学組成が|(Ca2+,Mg2+,Na+2)29(H2O)240|[Al58Si134O384]であり、細孔構造が<111>12 7.4×7.4Åであるゼオライトをいうことは、当業者にとって明らかである。
(イ)一方、本件特許明細書の【0124】~【0126】には、以下の記載がある。
「【0124】
図3は、参照非メソ多孔性ゼオライトY(CBV 100)のディフラクトグラム(a)および実施例4からのゼオライトHPYのディフラクトグラム(b)を示す。この比較は、参照ゼオライトと本発明(実施例4)のゼオライトとの間の回折ピーク強度の類似点を強調する。これは、これら2種のゼオライトで結晶性(およびこれ故ミクロ孔の容積)が同じであることを示す。
【0125】
実施例1、2、3および4のこれら階層的多孔性ゼオライト(HPY)の特徴づけの結果を以下の表1に要約する。
【0126】
【表1】
」
前記記載によれば、本件特許明細書には、本件発明1に係る「階層的多孔性Y型FAUゼオライト」の実施例である実施例4の「ゼオライトHPY」の「参照非メソ多孔性ゼオライト」として、Zeolyst International製の「ゼオライトY CBV100」が挙げられている。
そして、「ゼオライトY CBV100」は、結晶相が本件発明1に係る実施例と同じ純FAUであり、「Y型FAUゼオライト」であるから、本件発明1に係る「階層的多孔性Y型FAUゼオライト」と同じ化学組成及び細孔構造のものといえ、更にメソ孔の外表面積が20m2・g-1であるから、「メソ孔の外表面積が厳密に40m2・g-1未満」のものといえ、本件特許明細書においては、そのような「ゼオライトY CBV100」が「参照ゼオライト」とされていることは明らかである。
(ウ)前記(ア)、(イ)によれば、本件特許明細書の記載に接した当業者は、「同一の化学的性質および同一の結晶構造」「のゼオライト」が、本件発明1に係る「階層的多孔性Y型FAUゼオライト」と同じ化学組成及び細孔構造の「Y型FAUゼオライト」、すなわち、理想化学組成が|(Ca2+,Mg2+,Na+2)29(H2O)240|[Al58Si134O384]であり、細孔構造が<111>12 7.4×7.4Åであるゼオライトを意味することを理解できるので、発明の詳細な説明には、「VμpRは、同一の化学的性質および同一の結晶構造であるが、メソ孔の外表面積が厳密に40m2・g-1未満のゼオライトについて同一条件で測定したミクロ孔の容積をcm3・g-1で表すものである」との発明特定事項に相当するものが記載されているといえる。
したがって、「同一の化学的性質および同一の結晶構造」に関して、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明というべきである。
そして、このことは、本件発明1を直接的または間接的に引用する本件発明3~14についても同様である。
(2)「厳密に」について
(ア)本件発明1は、「・ 蛍光X線によって求められるSi/Al原子比率が厳密に1.4より大きく6未満であり、」との発明特定事項を有するものである。
(イ)一方、本件特許明細書の【0087】~【0089】には、第2の3(2)(2-2)に摘示したとおりの記載がある。
そして、前記記載によれば、蛍光X線スペクトルは、計測の不確実性0.4重量%未満が慣例的に得られるものであるから、本件発明においては、計測の不確実性0.4重量%未満の範囲で合致すれば「・ 蛍光X線によって求められるSi/Al原子比率が厳密に1.4より大きく6未満であ」る、とされることは明らかであり、このことと、前記(ア)によれば、発明の詳細な説明には、「Si/Al原子比率」について、「蛍光X線によって求められるSi/Al原子比率が厳密に1.4より大きく6未満」であることが記載されているといえる。
(ウ)本件発明1は、「・ ISO規格15901-3(2007)に準拠して、Harkins-Juraの式を適用してt-プロット法により求められるメソ孔の外表面積が40m2・g-1と200m2・g-1との間であるようなメソ多孔性」との発明特定事項を有するものであり、本件発明1における「メソ孔の外表面積が厳密に40m2・g-1未満」との発明特定事項における「メソ孔の外表面積」もまた、「ISO規格15901-3(2007)に準拠して、Harkins-Juraの式を適用してt-プロット法により求められる」ことは明らかである。
(エ)一方、本件特許明細書の【0082】~【0084】には、第2の3(2)(2-4)に摘示したとおりの記載があり、本件特許明細書には、「メソ孔の外表面積」が、「ISO規格15901-3(2007)に準拠して、Harkins-Juraの式を適用してt-プロット法により求められる」ことが記載されるものである。
そして、本件発明において、「ISO規格15901-3(2007)に準拠して、Harkins-Juraの式を適用してt-プロット法」における通常の誤差範囲内で合致すれば、「メソ孔の外表面積が厳密に40m2・g-1未満」である、とされることは明らかであり、このことと、前記(ウ)によれば、発明の詳細な説明には、「参照ゼオライト」の「メソ孔の外表面積」について、「メソ孔の外表面積が厳密に40m2・g-1未満」であることが記載されているといえる。
(オ)前記(イ)、(エ)によれば、「・ 蛍光X線によって求められるSi/Al原子比率が厳密に1.4より大きく6未満であ」る、との発明特定事項、及び、「メソ孔の外表面積が厳密に40m2・g-1未満」である、との発明特定事項は、発明の詳細な説明に記載されたものといえるから、これらの点について、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載されたものというべきである。
そして、このことは、本件発明1を直接的または間接的に引用する本件発明3~14についても同様である。
(3)「メソ孔の外表面積」について
本件発明1は、「・ ISO規格15901-3(2007)に準拠して、Harkins-Juraの式を適用してt-プロット法により求められるメソ孔の外表面積が40m2・g-1と200m2・g-1との間であるようなメソ多孔性」との発明特定事項を有するものである一方、前記(1)(イ)(【0126】)によれば、本件特許明細書には、HPY実施例3として、階層的多孔性ゼオライトのメソ孔の外表面積が140m2・g-1の実施例が記載されている。
そして、本件特許明細書の記載に接した当業者は、HPY実施例3に基づき、構造化剤の種類や量を調整することで、「メソ孔の外表面積が40m2・g-1と200m2・g-1との間であるようなメソ多孔性」を備える「階層的多孔性Y型FAUゼオライト」が製造し得ることを理解できるものである。
してみれば、本件発明1は、「メソ孔の外表面積」に関して、発明の詳細な説明に記載された範囲を超えるものであるとはいえないので、発明の詳細な説明に記載された発明というべきである。
そして、このことは、本件発明1を直接的または間接的に引用する本件発明3~14についても同様である。
(4)小括
以上のとおりであるので、本件特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第1号の規定に適合するから、前記第5の1(1)、同2(1)の取消理由はいずれも理由がない。
2 特許法第36条第6項第2号(明確性要件)について
(1)「同一の化学的性質および同一の結晶構造」について
(ア)本件特許明細書の記載に接した当業者は、「同一の化学的性質および同一の結晶構造」「のゼオライト」が、理想化学組成が|(Ca2+,Mg2+,Na+2)29(H2O)240|[Al58Si134O384]であり、細孔構造が<111>12 7.4×7.4Åであるゼオライトを意味することを理解できることは、前記1(1)(ウ)に記載のとおりであり、本件発明1における「メソ孔の外表面積が厳密に40m2・g-1未満」との発明特定事項における「メソ孔の外表面積」が、「ISO規格15901-3(2007)に準拠して、Harkins-Juraの式を適用してt-プロット法により求められる」こと、及び、本件発明において、「ISO規格15901-3(2007)に準拠して、Harkins-Juraの式を適用してt-プロット法」における通常の誤差範囲内で合致すれば、「メソ孔の外表面積が厳密に40m2・g-1未満」である、とされることは明らかであることは、前記1(2)(ウ)、(エ)に記載のとおりである。
(イ)そうすると、本件発明1の「同一の化学的性質および同一の結晶構造」の発明特定事項は明確であるから、この点について、本件発明1は明確であるというべきである。
そして、このことは、本件発明1を直接的または間接的に引用する本件発明3~14についても同様である。
(2)「厳密に」について
(ア)本件発明においては、計測の不確実性0.4重量%未満の範囲で合致すれば「・ 蛍光X線によって求められるSi/Al原子比率が厳密に1.4より大きく6未満であ」る、とされることは明らかであることは、前記1(2)(イ)に記載のとおりであり、そうすると、「・ 蛍光X線によって求められるSi/Al原子比率が厳密に1.4より大きく6未満であり、」との発明特定事項は明確であるから、この点について、本件発明1は明確であるというべきである。
そして、このことは、本件発明1を直接的または間接的に引用する本件発明3~14についても同様である。
(イ)本件発明において、「ISO規格15901-3(2007)に準拠して、Harkins-Juraの式を適用してt-プロット法」における通常の誤差範囲内で合致すれば、「メソ孔の外表面積が厳密に40m2・g-1未満」である、とされることは明らかであることは、前記1(2)(エ)に記載のとおりであり、そうすると、「メソ孔の外表面積が厳密に40m2・g-1未満」である、との発明特定事項は明確であるから、この点について、本件発明1は明確であるというべきである。
そして、このことは、本件発明1を直接的または間接的に引用する本件発明3~14についても同様である。
(3)「メソ孔の外表面積が40m2・g-1と400m2・g-1との間である」について
本件訂正により、本件発明1は、「階層的多孔性Y型FAUゼオライト」について、「・ メソ孔の外表面積が40m2・g-1と200m2・g-1との間であるようなメソ多孔性」との発明特定事項を有するものと訂正されたが、例えば本件特許明細書の【0063】の、「1または複数の構造化剤の量は、広い割合の範囲内で変化してもよく、通常は、1または複数の構造化剤/原料Al2O3モル比が境界を含めて0.005と0.20との間、好ましくは0.01と0.15との間、およびより好ましくは0.02と0.08との間になるような量である。」との記載と同様に、前記発明特定事項は、「メソ孔の外表面積」が「40m2・g-1」、「200m2・g-1」を含むものと解するのが妥当である。
また、このことは、「特許権者意見書」(13頁17行~14頁下から5行目)の『「40m2・g-1」と「200m2・g-1」とは、当該数値範囲に含まれる。』との主張にも裏付けられるから、この点について、本件発明1は明確であるというべきであり、このことは、本件発明1を直接的または間接的に引用する本件発明3~14についても同様である。
(4)ミクロ孔及びメソ孔の孔径について
本件発明1は、「・ ISO規格15901-3(2007)に準拠して、DubininとRaduskevitchの式を適用して窒素の吸着等温線から求められるcm3・g-1で表されるミクロ孔(ただし、径が厳密に2nm未満のものをいう)の容積Vμpが、式Vμp=VμpR±15%を満たし、」との発明特定事項を有するものであり、前記発明特定事項によれば、本件発明1におけるミクロ孔は「径が厳密に2nm未満のもの」をいい、メソ孔は径が「2nm」以上のものをいうことが明らかであり、更に、本件発明1の「・ ISO規格15901-3(2007)に準拠して、Harkins-Juraの式を適用してt-プロット法により求められるメソ孔の外表面積が40m2・g-1と200m2・g-1との間であるようなメソ多孔性」との発明特定事項によれば、ミクロ孔の容積及びメソ孔の外表面積の測定方法も明確である。
してみれば、ミクロ孔及びメソ孔の孔径について、本件発明1は明確であるというべきであり、このことは、本件発明1を直接的または間接的に引用する本件発明3~14についても同様である。
(5)小括
以上のとおりであるので、本件特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第2号の規定に適合するから、前記第5の1(2)、同2(2)の取消理由はいずれも理由がない。
3 特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)について
(1)「参照ゼオライト」について
(ア)本件発明1における「同一の化学的性質および同一の結晶構造」の発明特定事項は明確であることは、前記2(1)(イ)に記載のとおりであり、また、本件特許明細書においては、「ゼオライトY CBV100」が「参照ゼオライト」とされていることは明らかであることは、前記1(1)(イ)に記載のとおりであり、これらのことが、特段、技術常識に反するとはいえない。
そして、仮に、「参照ゼオライト」の製造方法が明らかでないとしても、当業者は、「ゼオライトY CBV100」を入手することで本件発明を実施できるものである。
(イ)更に、本件発明において、「ISO規格15901-3(2007)に準拠して、Harkins-Juraの式を適用してt-プロット法」における通常の誤差範囲内で合致すれば、「メソ孔の外表面積が厳密に40m2・g-1未満」である、とされることは明らかであることは、前記1(2)(エ)に記載のとおりであり、その場合、「参照ゼオライト」と「階層的多孔性Y型FAUゼオライト」とは、「ISO規格15901-3(2007)に準拠して、Harkins-Juraの式を適用してt-プロット法により求められる」際の通常の誤差範囲内で区別できることも明らかである。
(ウ)前記(ア)~(イ)によれば、発明の詳細な説明の記載に接した当業者は、「参照ゼオライト」を理解でき、発明を実施することができるから、発明の詳細な説明は、本件発明1を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものというべきである。
そして、このことは、本件発明1を直接的または間接的に引用する本件発明3~14についても同様である。
(2)「Si/Al原子比率」について
本件発明においては、計測の不確実性0.4重量%未満の範囲で合致すれば「・ 蛍光X線によって求められるSi/Al原子比率が厳密に1.4より大きく6未満であ」る、とされることは明らかであることは、前記1(2)(イ)に記載のとおりであり、発明の詳細な説明に接した当業者は、「Si/Al原子比率」の分析結果に基づいて、「Si/Al原子比率が厳密に1.4より大きく6未満」であるか否かを判断できるから、発明の詳細な説明は、本件発明1を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものというべきである。
そして、このことは、本件発明1を直接的または間接的に引用する本件発明3~14についても同様である。
(3)「メソ孔の外表面積」について
本件特許明細書の記載に接した当業者は、HPY実施例3に基づき、構造化剤の種類や量を調整することで、「メソ孔の外表面積が40m2・g-1と200m2・g-1との間であるようなメソ多孔性」を備える「階層的多孔性Y型FAUゼオライト」が製造し得ることを理解できることは、前記1(3)に記載のとおりであるから、発明の詳細な説明は、本件発明1を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものというべきである。
そして、このことは、本件発明1を直接的または間接的に引用する本件発明3~14についても同様である。
(4)小括
以上のとおりであるので、本件特許請求の範囲の記載は特許法第36条第4項第1号の規定に適合するから、前記第5の1(3)、同2(3)の取消理由はいずれも理由がない。
4 審尋について
発明の詳細な説明の記載に接した当業者は、「参照ゼオライト」を理解でき、発明を実施することができることは、前記3(1)(ウ)に記載のとおりであり、このことは、本件特許明細書の【0040】、【0041】の記載事項に左右されないから、前記第5の1(4)の審尋の疑義は解消した。
第7 取消理由通知書で採用しなかった異議申立理由についての判断
前記第4の1(ア)~(エ)の異議申立理由は、いずれも前記第6の1~3で検討したので、以下、前記第4の2の異議申立理由について検討する。
1 特許法第29条第2項(進歩性)について
(1)甲第1号証の記載事項及び甲第1号証に記載される発明
甲第1号証には以下の記載がある。
(1a)「
」(2頁1行~12行)
(当審訳:1.メソ細孔Y型ゼオライト系モレキュラーシーブの製造方法、その特徴は以下のステップを含むことである:
(1)水ガラス、水酸化ナトリウム、メタアルミン酸ナトリウムと水をモル比SiO2: Na2O: Al2O3: H2O=(0.8~1.2):(1.0~1.5):(0.04~0.1):(20~26)に従い均一に混合して、30~35℃で24~48h熟成してY型ゼオライト指示剤を得る;
(2)水ガラス、水、ステップ(1)で獲得した指示剤を室温で均一に混合し、1~4h撹拌後に、N、N-ジメチル-N-[3-(トリメトキシシラン)プロピル]オクタデシル塩化アンモニウム(TPOAC)をゆっくり添加し、2~6h撹拌を継続し;最後に、硫酸アルミニウム8水和物水溶液とメタアルミン酸ナトリウムと水酸化ナトリウムの混合水溶液を添加し、室温で1~3h撹拌し、粘性を有するアルミノケイ酸塩ゲルを得る;最後の混合系中のモル比Na2O:Al2O3:SiO2:TPOAC:H2O=(3.8~4.5):(0.8~1.3):(8.5~9.7):(0.28~0.36):(158~179);
(3)ステップ(2)で作成した材料を密閉したステンレス製反応釜中に入れ、90~110℃で24~60h結晶化し、結晶化終了後、固体生成物を吸引濾過し、洗浄し、乾燥後、空気中にて550~600℃、5~8h焼成して、有機鋳型剤を除去して、メソ細孔Y型ゼオライト系モレキュラーシーブを得る。)
(1b)「
」(2頁29行)
(当審訳:9.請求項1の前記製造方法から得るメソ細孔Y型ゼオライト系モレキュラーシーブ。)
(ア)前記(1a)、(1b)によれば、甲第1号証には「メソ細孔Y型ゼオライト系モレキュラーシーブ」に係る発明が記載されており、当該「メソ細孔Y型ゼオライト系モレキュラーシーブ」は、「(1)水ガラス、水酸化ナトリウム、メタアルミン酸ナトリウムと水をモル比SiO2: Na2O: Al2O3: H2O=(0.8~1.2):(1.0~1.5):(0.04~0.1):(20~26)に従い均一に混合して、30~35℃で24~48h熟成してY型ゼオライト指示剤を得る;(2)水ガラス、水、ステップ(1)で獲得した指示剤を室温で均一に混合し、1~4h撹拌後に、N、N-ジメチル-N-[3-(トリメトキシシラン)プロピル]オクタデシル塩化アンモニウム(TPOAC)をゆっくり添加し、2~6h撹拌を継続し;最後に、硫酸アルミニウム8水和物水溶液とメタアルミン酸ナトリウムと水酸化ナトリウムの混合水溶液を添加し、室温で1~3h撹拌し、粘性を有するアルミノケイ酸塩ゲルを得る;最後の混合系中のモル比Na2O:Al2O3:SiO2:TPOAC:H2O=(3.8~4.5):(0.8~1.3):(8.5~9.7):(0.28~0.36):(158~179);(3)ステップ(2)で作成した材料を密閉したステンレス製反応釜中に入れ、90~110℃で24~60h結晶化し、結晶化終了後、固体生成物を吸引濾過し、洗浄し、乾燥後、空気中にて550~600℃、5~8h焼成して、有機鋳型剤を除去して、メソ細孔Y型ゼオライト系モレキュラーシーブを得る」、という製造方法により得られるものである。
(イ)すると、甲第1号証には、以下の発明が記載されているといえる。
「(1)水ガラス、水酸化ナトリウム、メタアルミン酸ナトリウムと水をモル比SiO2: Na2O: Al2O3: H2O=(0.8~1.2):(1.0~1.5):(0.04~0.1):(20~26)に従い均一に混合して、30~35℃で24~48h熟成してY型ゼオライト指示剤を得る;
(2)水ガラス、水、ステップ(1)で獲得した指示剤を室温で均一に混合し、1~4h撹拌後に、N、N-ジメチル-N-[3-(トリメトキシシラン)プロピル]オクタデシル塩化アンモニウム(TPOAC)をゆっくり添加し、2~6h撹拌を継続し;最後に、硫酸アルミニウム8水和物水溶液とメタアルミン酸ナトリウムと水酸化ナトリウムの混合水溶液を添加し、室温で1~3h撹拌し、粘性を有するアルミノケイ酸塩ゲルを得る;最後の混合系中のモル比Na2O:Al2O3:SiO2:TPOAC:H2O=(3.8~4.5):(0.8~1.3):(8.5~9.7):(0.28~0.36):(158~179);
(3)ステップ(2)で作成した材料を密閉したステンレス製反応釜中に入れ、90~110℃で24~60h結晶化し、結晶化終了後、固体生成物を吸引濾過し、洗浄し、乾燥後、空気中にて550~600℃、5~8h焼成して、有機鋳型剤を除去して、メソ細孔Y型ゼオライト系モレキュラーシーブを得る、
との製造方法により得られる、メソ細孔Y型ゼオライト系モレキュラーシーブ。」(以下、「甲1発明」という。)
(2)対比・判断
ア 対比
(ア)本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明における「メソ細孔Y型ゼオライト系モレキュラーシーブ」は、本件発明1における「メソ多孔性」である「多孔性Y型ゼオライト」に相当する。
(イ)すると、本件発明1と甲1発明とは、
「少なくとも以下の特徴を備える多孔性Y型ゼオライト:
・ メソ多孔性。」
の点で一致し、以下の点で相違している。
相違点1:本件発明1は、「階層的多孔性Y型FAUゼオライト」に係るものであるのに対して、甲1発明に係る「多孔性Y型ゼオライト」が「階層的多孔性Y型FAUゼオライト」であるか否かが不明である点。
相違点2:本件発明1は、「・ 蛍光X線によって求められるSi/Al原子比率が厳密に1.4より大きく6未満である」、との発明特定事項を有するのに対して、甲1発明が前記発明特定事項を有するか否かが不明である点。
相違点3:本件発明1は、「・ ISO規格15901-3(2007)に準拠して、DubininとRaduskevitchの式を適用して窒素の吸着等温線から求められるcm3・g-1で表されるミクロ孔(ただし、径が厳密に2nm未満のものをいう)の容積Vμpが、式Vμp=VμpR±15%を満たし、ここでVμpRは、同一の化学的性質および同一の結晶構造であるが、メソ孔の外表面積が厳密に40m2・g-1未満のゼオライトについて同一条件で測定したミクロ孔の容積をcm3・g-1で表すものである、および・ ISO規格15901-3(2007)に準拠して、Harkins-Juraの式を適用してt-プロット法により求められるメソ孔の外表面積が40m2・g-1と200m2・g-1との間であるようなメソ多孔性」「を備える」、との発明特定事項を有するのに対して、甲1発明は、「メソ多孔性」ではあるものの、前記発明特定事項を有するか否かが不明である点。
イ 判断
(ア)事案に鑑み、前記相違点3から検討すると、甲第1号証及び甲第2号証には、前記相違点3に係る発明特定事項について、記載も示唆もされていない。
(イ)ここで、仮に、前記(1)(1a)に記載される「メソ細孔Y型ゼオライト系モレキュラーシーブの製造方法」(以下、「甲1方法」という。)が、本件発明1に係る「階層的多孔性Y型FAUゼオライト」の製造方法(以下、「本件方法」という。)と合致すれば、甲1発明が前記相違点3に係る発明特定事項を有するものと推認することができる。
(ウ)そこで、「本件方法」と「甲1方法」とが合致するか否かについて検討すると、「本件方法」は、具体的には、本件特許明細書の【0094】~【0119】の実施例1~5の方法により製造されるものであるが、これらは、いずれも、造核ゲルを添加する工程を有するものである。
一方、前記(1)(1a)によれば、「甲1方法」は、造核ゲルを添加する工程を有するものではないから、この点で、「甲1方法」と「本件方法」とは相違する。
(エ)また、本件特許明細書の【0098】~【0101】によれば、「本件方法」の実施例1~3においては、焼成を、30分の、200℃への昇温、この後200℃の定常段階で1時間、この後3時間の、550℃への昇温、および最後に550℃の定常段階で1.5時間の温度プロファイルで行うものであり、同【0110】~【0114】によれば、実施例4~5においては、焼成を、30分の、200℃への昇温、この後200℃の定常段階で1時間、この後3時間の、550℃への昇温、および最後に550℃の定常段階で1.5時間の温度プロファイルで行うものである。
一方、前記(1)(1a)によれば、「甲1方法」においては、ステップ(3)において、空気中にて550~600℃、5~8h焼成するものであって、焼成の工程について「本件方法」と「甲1方法」とを対比した場合、「本件方法」が550℃の定常段階で1.5時間であるのに対して、「甲1方法」が550~600℃、5~8hである点で相違する。
(オ)前記(ウ)、(エ)によれば、「甲1方法」と「本件方法」とは、少なくとも、造核ゲルを添加する工程の有無と、焼成時間について相違する。
そして、前記「甲1方法」と「本件方法」の間のそれらの相違が、「ミクロ孔(ただし、径が厳密に2nm未満のものをいう)の容積Vμp」や「メソ孔の外表面積」に影響することは明らかであるので、甲1発明が前記相違点3に係る発明特定事項を有するものと推認することはできない。
(カ)前記(ア)、(オ)によれば、甲1発明は、前記相違点3に係る本件発明1の発明特定事項を有するものではないし、甲1発明において、前記相違点3に係る本件発明1の発明特定事項を有するものとすることを、甲第2号証の記載事項に基づいて当業者が容易になし得るものでもないから、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲第1号証に記載される発明及び甲第2号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
そして、このことは、本件発明1を引用する本件発明3~14についても同様である。
2 小括
したがって、前記第4の2の異議申立理由は理由がない。
第8 むすび
以上のとおり、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、本件発明1、3~14に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1、3~14に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、本件発明2に係る特許に対して申立人がした特許異議申立てについては、対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2018-700666