特許異議申立
2018-700493
コンクリート組成物及びコンクリートの製造方法
- 審判番号
- 2018-700493
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2014-082348
- 登録番号
- 特許第6251626号(P6251626)
- 請求日
- 2018年06月18日
- 審決日
- 2019年12月20日
- 公報発行日
- 2020年03月27日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】株式会社 北岡組
- 【権利者代理人】豊栖 康司
- 【権利者代理人】豊栖 康弘
- 【権利者代理人】藤原 尚恵
- 【異議申立人】末吉 直子
- 審判長/審判官
- 審判長 服部 智
- 審判官 菊地 則義
- 審判官 金 公彦
- 分類
- P1651.537-YAA(C04B) / P1651.113-YAA(C04B) / P1651.121-YAA(C04B) / P1651.536-YAA(C04B) / P1651.851-YAA(C04B) / P1651.852-YAA(C04B)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第1項、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6251626号発明「コンクリート組成物及びコンクリートの製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6251626号の明細書、特許請求の範囲及び図面を訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲及び図面のとおり、訂正後の請求項〔1~6〕、7、8について訂正することを認める。
特許第6251626号の請求項1、3~7に係る特許を維持する。
特許第6251626号の請求項2及び8に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
本件特許第6251626号の請求項1~8に係る特許についての出願は、平成26年4月11日を出願日とするものであって、平成29年12月1日にその特許権の設定登録がされ、平成29年12月20日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
平成30年 6月18日付け:特許異議申立人末吉直子(以下、「申立人」という。)による特許異議の申立て(請求項1~8)
同年 8月24日付け:取消理由通知書
同年10月23日付け:特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
同年12月18日付け:申立人による意見書の提出
平成31年 1月28日付け:取消理由通知書(決定の予告)
同年 3月29日付け:特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和 元年 5月 8日付け:申立人による意見書の提出
同年 7月 8~9日:特許権者との応対記録(再々訂正案について計3回の応対)
同年 7月10日付け:取消理由通知書
同年 9月13日付け:特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
第2 訂正請求について
1.訂正請求の趣旨
令和元年9月13日付けの訂正請求は、訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲及び図面のとおり、訂正後の請求項〔1~6〕、7、8について訂正(以下、「本件訂正」という。)することを求めるものである。
なお、本件訂正請求により、平成30年10月23日付け訂正請求、平成31年3月29日付け訂正請求は、何れも取り下げられたものとみなす。
2.訂正の適否の判断
(1)訂正の内容
以下の(ア)~(シ)に示す訂正事項1~12のとおりである(下線部は訂正箇所)。
(ア)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1における
「水結合材質量比が40%以下であることを特徴とするコンクリート組成物。」との記載を、
「水結合材質量比が40%以下であり、
前記コンクリート組成物を養生させる際、打ち込み後温度20±2℃、湿度60±5%R.H.で前養生をした後、温度上昇速度15℃/hで50℃まで上昇させ、50℃の蒸気による水分供給状態を2時間継続した後蒸気を停止し、20℃まで自然冷却し、蒸気養生終了後に2回/日の散水養生を2週間行い、その後温度20±2℃、湿度60±5%R.H.で封緘養生を行って、28日後のCl-の実効拡散係数を0.05cm2/年未満とすることを特徴とするコンクリート組成物。」と訂正する。
(イ)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。
(ウ)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3における
「請求項1又は2に記載のコンクリート組成物であって、」との記載を、
「請求項1に記載のコンクリート組成物であって、」と訂正する。
(エ)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4における
「請求項1~3のいずれか一に記載のコンクリート組成物であって、」との記載を、
「請求項1又は3に記載のコンクリート組成物であって、」と訂正する。
(オ)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5における
「請求項1~4のいずれか一に記載のコンクリート組成物であって、」との記載を、
「請求項1、3~4のいずれか一に記載のコンクリート組成物であって、」と訂正する。
(カ)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項6における
「請求項1~5のいずれか一に記載のコンクリート組成物であって、」との記載を、
「請求項1、3~5のいずれか一に記載のコンクリート組成物であって、」と訂正する。
(キ)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項7における
「該コンクリート組成物を蒸気養生させて硬化させる工程と
を含むことを特徴とするコンクリートの製造方法。」との記載を、
「該コンクリート組成物を蒸気養生させて硬化させる工程と
を含み、
該コンクリート組成物を養生させる際、打ち込み後温度20±2℃、湿度60±5%R.H.で前養生をした後、温度上昇速度15℃/hで50℃まで上昇させ、50℃の蒸気による水分供給状態を2時間継続した後蒸気を停止し、20℃まで自然冷却し、蒸気養生終了後に2回/日の散水養生を2週間行い、その後温度20±2℃、湿度60±5%R.H.で封緘養生を行って、28日後のCl-の実効拡散係数を0.05cm2/年未満とすることを特徴とするコンクリートの製造方法。」と訂正する。
(ク)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項8を削除する。
(ケ)訂正事項9
明細書の段落【0007】における
「水結合材質量比を40%以下とすることができる。」との記載を、
「水結合材質量比を40%以下であり、前記コンクリート組成物を養生させる際、打ち込み後温度20±2℃、湿度60±5%R.H.で前養生をした後、温度上昇速度15℃/hで50℃まで上昇させ、50℃の蒸気による水分供給状態を2時間継続した後蒸気を停止し、20℃まで自然冷却し、蒸気養生終了後に2回/日の散水養生を2週間行い、その後温度20±2℃、湿度60±5%R.H.で封緘養生を行って、28日後のCl-の実効拡散係数を0.05cm2/年未満とする。」と訂正する。
(コ)訂正事項10
明細書の段落【0015】における
「該コンクリート組成物を蒸気養生させて硬化させる工程とを含むことができる。」との記載を、
「該コンクリート組成物を蒸気養生させて硬化させる工程とを含み、該コンクリート組成物を養生させる際、打ち込み後温度20±2℃、湿度60±5%R.H.で前養生をした後、温度上昇速度15℃/hで50℃まで上昇させ、50℃の蒸気による水分供給状態を2時間継続した後蒸気を停止し、20℃まで自然冷却し、蒸気養生終了後に2回/日の散水養生を2週間行い、その後温度20±2℃、湿度60±5%R.H.で封緘養生を行って、28日後のCl-の実効拡散係数を0.05cm2/年未満とすることができる。」と訂正する。
(サ)訂正事項11
明細書の段落【0028】の【表1】中の左端の欄における
「二酸化炭素換算量合計(t)」との記載(5箇所すべて)を
「二酸化炭素換算量合計(kg)」と訂正する。
(シ)訂正事項12
図面の【図8】の縦軸における
「Cl-の実行拡散係数(cm2/年)」との記載を
「Cl-の実効拡散係数(cm2/年)」と訂正する。
(ス)一群の請求項等について
訂正事項1~6は特許請求の範囲についての訂正であり、これらに係る訂正前の請求項1~6については、請求項2~6がそれぞれ請求項1を引用するものであったことから一群の請求項を構成していたものである。
訂正事項7は特許請求の範囲についての訂正であり、これに係る訂正前の請求項7については、他の請求項との引用関係はなく、他の請求項と一群の請求項を構成するものではない。
訂正事項8は特許請求の範囲についての訂正であり、これに係る訂正前の請求項8については、他の請求項との引用関係はなく、他の請求項と一群の請求項を構成するものではない。
そして、訂正事項9~11は明細書についての訂正であり、訂正事項12は図面についての訂正である。
(2)訂正の目的
(ア):訂正事項1は、訂正前のコンクリート組成物の発明について、特定の条件での養生を行うべきものであることを限定し、そのときの特性を発明特定事項として追加したものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的としたものである。
(イ)及び(ク):訂正事項2及び8は、請求項を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的としたものである。
(ウ)~(カ):訂正事項3~6は、訂正事項2の請求項2の削除に伴い、請求項3~6において、選択的に引用する請求項の一部を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的としたものである。
(キ):訂正事項7は、訂正前のコンクリートの製造方法の発明について、特定の条件で養生を行うことを限定し、そのときの特性を発明特定事項として追加したものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的としたものである。
(ケ):訂正事項9は、請求項1についての訂正事項1に係る訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るためのものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的としたものである。
(コ):訂正事項10は、請求項7についての訂正事項7に係る訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るためのものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的としたものである。
(サ)及び(シ):訂正事項11、12は、誤記の訂正を目的としたものであることは明らかであり、訂正される図面の記載は全ての請求項に係る発明に関わるものである。
以上のことから、訂正事項1~12に係る訂正の目的は適法である。
(3)新規事項追加の有無
(ア)、(キ)、(ケ)及び(コ)について
訂正事項1における実効拡散係数の点については、本件明細書【0064】の「フライアッシュ、高炉スラグ微粉末を混和した調合はN調合(比較例1)に比べCl-の実効拡散係数が大幅に小さくなり、良好な耐塩害性が得られるという結果となった」との記載、同じく【0075】の「さらにまたコンクリート中の塩化物イオンの拡散係数は、フライアッシュ及び高炉スラグ微粉末を混和することで、N調合(比較例1)に比べ大幅に減少した。これは、塩化物イオンの固定化やコンクリート組織の緻密化、空隙構造の変化等の作用によるものと考えられ、高い耐塩害性を付与させることが可能である。」との記載に加え、本件図面【図8】より、実施例3~6においてCl-の実効拡散係数が養生28日で何れも0.05(cm2/年)未満であることが明らかに把握できることに基づく。ここで、「0.05cm2/年未満」という数値範囲の上限を設けることについては、本件の明細書又は図面に明示されていたものではないが、この上限の数値により新たな技術的意義を持つものになったとはいえないから、新たな技術的事項は導入されておらず、新規事項の追加に該当するものではない。
また、訂正事項1における養生の条件の点については、これらの実施例3~6における養生の条件は、本件明細書【0030】の「ここで養生は、プレキャストコンクリートを想定した蒸気養生を行った。蒸気養生は、打ち込み後温度20±2℃、湿度60±5%R.H.で前養生をした後、温度上昇速度15℃/hで50℃まで上昇させ、50℃の蒸気による水分供給状態を2時間継続した後蒸気を停止し、20℃まで自然冷却した。蒸気養生終了後は2回/日の散水養生を2週間行い、その後温度20±2℃、湿度60±5%R.H.で封緘養生を行った」ものであるとの記載に基づく。
よって、訂正事項1は、本件の明細書又は図面に記載されていた範囲内のものである。
訂正事項7、更に、訂正事項9及び訂正事項10も同様である。
(イ)~(カ)及び(ク)について
請求項の削除に係るものであり、明らかに新規事項の追加に該当するものではない。
(サ)について
訂正事項11については、本件明細書【表1】中の他の欄でCO2が(kg)単位で記載されており、【表1】中の各成分の使用量(t)との比較からも、二酸化炭素(CO2)換算量合計が(t)単位となっていることが不自然であって(kg)の誤記であることは明らかであるから、新規事項の追加に該当するものではない。
(シ)について
訂正事項12については、本件図面【図8】中の「実行拡散係数」が技術的に意味を成していない一方、本件明細書【図面の簡単な説明】【0016】において「【図8】電気泳動試験から得られた結果をもとに算出した塩化物イオンの実効拡散係数を示すグラフである。」と記載されていることから、誤記であることは明らかであり、新規事項の追加に該当するものではない。
以上、訂正事項1~12は、いずれも新規事項の追加に該当しない。
(4)特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1~12は、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(5)独立特許要件
本件異議申立ては全ての請求項が対象となっており、異議申立てがされていない請求項についての訂正事項はないから、独立特許要件の検討は要しない。
3.小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号~第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものであるから、訂正後の請求項〔1~6〕、7、8について訂正を認める。
第3 訂正後の本件特許に係る発明
令和元年9月13日付けの訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の記載は次のとおりであり、本件訂正後の請求項1、3~7に係る発明(それぞれ「本件発明1」~「本件発明7」、まとめて「本件発明」という。)は、その請求項1、3~7に記載された事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
結合材と、
水と、
細骨材と、
粗骨材と、
高性能減水剤とを含むコンクリート用のコンクリート組成物であって、
前記結合材が、
普通ポルトランドセメントを45質量%~55質量%と、
高炉スラグ微粉末を35質量%~55質量%と、
フライアッシュを10質量%以下含み、
水結合材質量比が40%以下であり、
前記コンクリート組成物を養生させる際、打ち込み後温度20±2℃、湿度60±5%R.H.で前養生をした後、温度上昇速度15℃/hで50℃まで上昇させ、50℃の蒸気による水分供給状態を2時間継続した後蒸気を停止し、20℃まで自然冷却し、蒸気養生終了後に2回/日の散水養生を2週間行い、その後温度20±2℃、湿度60±5%R.H.で封緘養生を行って、28日後のCl-の実効拡散係数を0.05cm2/年未満とすることを特徴とするコンクリート組成物。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
請求項1に記載のコンクリート組成物であって、
空気量が3.0~6.0%であることを特徴とするコンクリート組成物。
【請求項4】
請求項1又は3に記載のコンクリート組成物であって、
前記高炉スラグ微粉末が、ブレーン比表面積3000~6000cm2/gであることを特徴としたコンクリート組成物。
【請求項5】
請求項1、3~4のいずれか一に記載のコンクリート組成物であって、
前記高炉スラグ微粉末が、JIS A 6206高炉スラグ微粉末4000の規定に該当するものを使用することを特徴としたコンクリート組成物。
【請求項6】
請求項1、3~5のいずれか一に記載のコンクリート組成物であって、
前記フライアッシュが、JIS A 6201フライアッシュII種に該当するものを使用することを特徴としたコンクリート組成物。
【請求項7】
コンクリートの製造方法であって、
普通ポルトランドセメントを45質量%~55質量%と、高炉スラグ微粉末を35質量%~55質量%と、フライアッシュを0質量%~10質量%とを含む結合材と、水と、細骨材と、粗骨材と、高性能減水剤を含み、かつ水結合材質量比が40%以下、空気量が3.0~6.0%のコンクリート組成物を、混練する工程と、
該コンクリート組成物を蒸気養生させて硬化させる工程と
を含み、
該コンクリート組成物を養生させる際、打ち込み後温度20±2℃、湿度60±5%R.H.で前養生をした後、温度上昇速度15℃/hで50℃まで上昇させ、50℃の蒸気による水分供給状態を2時間継続した後蒸気を停止し、20℃まで自然冷却し、蒸気養生終了後に2回/日の散水養生を2週間行い、その後温度20±2℃、湿度60±5%R.H.で封緘養生を行って、28日後のCl-の実効拡散係数を0.05cm2/年未満とすることを特徴とするコンクリートの製造方法。
【請求項8】
(削除) 」
第4 取消理由通知書に記載した取消理由について
1.令和元年7月10日付け取消理由通知書について
(1)取消理由の概要
当審が、令和元年7月10日付けの取消理由通知書で特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
本件特許は、特許請求の範囲の記載に以下の(ア)及び(イ)の不備があるため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(ア)平成31年3月29日付けの訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1、2、7、8の「コンクリート組成物を養生させる際、・・・封緘養生を行った場合に」との記載では、養生条件の限定なのか、例示なのか明らかでない。
(イ)平成31年3月29日付けの訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項2及び8の「中性化速度係数」について、発明の詳細な説明の記載を参酌してもどのように定められるものであるのかが明確でない。
(2)当審の判断
(ア)本件発明1及び7では、「コンクリート組成物を養生させる際、・・・封緘養生を行って」と特定されており、養生条件の限定であることが明確になっている。
(イ)本件訂正により、請求項2及び8は何れも削除された。
したがって、当該取消理由通知書で指摘した特許法第36条第6項第2号違反に係る取消理由は理由がない。
2.平成31年1月28日付け取消理由通知書(決定の予告)について
(1)取消理由の概要
当審が、平成31年1月28日付けの取消理由通知書で特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
(ア)本件特許は、平成30年10月23日付け訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項2及び8の記載に不備があるため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである(理由1)。
(イ)平成30年10月23日付け訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~3、6に係る発明は、甲第1号証又は甲第7号証に記載された発明であるから、本件特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである(理由2)。
(ウ)平成30年10月23日付け訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~6に係る発明は、甲第1~7号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである(理由3)。
(エ)本件特許は、平成30年10月23日付け訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項7、8の記載に不備があり、「該コンクリート組成物を蒸気養生させて硬化させ、28日後のCl-の実効拡散係数を0.05cm2/年未満とする工程」あるいは「該コンクリート組成物を気中養生させて硬化させた状態で、中性化速度係数を0.8mm√週以下とする工程」との発明特定事項だけでは、当業者であっても、本件発明の課題が解決されることは認識できないものと認められるため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである(理由4)。
(2)当審の判断
ア.理由1は、本件訂正により、請求項2及び8が何れも削除されたので、理由はない。
イ.理由2及び理由3について
(ア)各甲号証について(以下、甲第1~7号証について、それぞれ「甲1」・・・「甲7」などという。)
甲1:上田隆雄他,”フライアッシュ及び高炉スラグ微粉末を使用したプレキャストコンクリート部材の長期耐久性と微細構造”,2013,2012年度日本建築学会関東支部研究報告集I,p.125-128
甲2:”エンサイクロペディア[セメント・コンクリート化学の基礎解説]”,1996,第1版第1刷,p.94-95,社団法人セメント協会発行
甲3: 笠井芳夫他編,”改訂版 セメント・コンクリート用混和材料”,1993,改定版第1刷,p.39
甲4:JIS A 6206:2013,”コンクリート用高炉スラグ微粉末”
甲5:日本フライアッシュ協会編,”石炭灰ハンドブック第5版”,2010,p.I-18~I-19
甲6:JIS A 6201:1999,”コンクリート用フライアッシュ”
甲7:宮本欣明他,”高炉セメントB種にフライアッシュを用いた高流動コンクリートの流動特性およびコンクリートの品質に関する研究”,日本建築学会構造系論文集,2004年3月,第577号,p.1-7
(イ)甲1に記載された発明
甲1には、以下の(1a)~(1d)の記載がある。
(1a)「本研究ではコンクリートの物性および耐久性試験として,圧縮強度,中性化,塩害抑制効果について検討を行った。
2.1 供試体の作製
供試体は表-1に示す調合で作製した。本研究で対象とする供試体の調合は,普通ポルトランドセメントを水結合材比(W/B)42%で高性能AE減水剤を加えたもの(以下Nシリーズ),高炉スラグ微粉末をセメントの質量に対し内割で55%置換したもの(以下BFSシリーズ),また,セメントから10%および15%をフライアッシュ,45%および40%を高炉スラグ微粉末で置換したもの(以下FA10,FA15シリーズ)の4種類とした。」(p125左欄下から6行~同右欄7行)
(1b)「養生方法は,気中養生と,プレキャストコンクリートを想定した蒸気養生の2種類を行った。気中養生は20±1℃,60±5%R.H.とし,蒸気養生は,打ち込み後20±1℃,60±5%R.H.で前養生したのち,昇温温度15℃/hで50℃まで昇温させ,50℃の蒸気による水分供給状態を2時間継続したのち20℃まで自然冷却した。蒸気養生終了後,試験材齢までは20±1℃,60±5%R.H.で気中養生とした。」(p125右欄8~15行)
(1c)「
」(p125 表1 コンクリートの調合)
(1d)「
」 (p127 図-8 空隙率とCl-実行拡散係数の関係)
上記(1a)、(1c)より、甲1には、コンクリートに関し、中性化を含む物性及び耐久性試験の対象となった供試体として具体的に4種類のものが記載されており、その内のFA10シリーズは、普通ポルトランドセメントから10%をフライアッシュ、45%を高炉スラグ微粉末で置換したものであって、高性能AE減水剤が加えられており、水結合材比が37%であり、水、セメント、フライアッシュ、高炉スラグ微粉末、細骨材、粗骨材、減水剤が調合されたものであると認められる。
普通ポルトランドセメント、高炉スラグ微粉末とフライアッシュが結合材を構成し、硬化前のものがコンクリート組成物であることは明らかである。また、コンクリート組成物における(蒸気)養生の条件は、上記(1b)のとおりであり、その材齢3ヶ月のCl-の実効拡散係数は、上記(1d)より、蒸気養生されたFA10のもので約0.05~0.06(cm2/年)程度であるから、甲1には、
「結合材と、水と、細骨材と、粗骨材と、高性能減水剤とを含むコンクリート用のコンクリート組成物であって、前記結合材が、普通ポルトランドセメントから10%をフライアッシュ、45%を高炉スラグ微粉末で置換したものであり、水結合材比が37%であり、
前記コンクリート組成物を養生させる際、打ち込み後20±1℃、60±5%R.H.で前養生した後、昇温速度15℃/hで50℃まで昇温させ、50℃の蒸気による水分供給状態を2時間継続したのち20℃まで自然冷却し、蒸気養生終了後、試験材齢までは20±1℃,60±5%R.H.で気中養生を行って、材齢3ヶ月のCl-の実効拡散係数を約0.05~0.06(cm2/年)程度としたものを一例としたコンクリート組成物。」
の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
(ウ)対比、判断(理由2:本件発明1について)
本件発明1と引用発明1とを対比する。
引用発明1の一例となる結合材の成分割合は、表1に示されているFA10シリーズでのセメント、高炉スラグ微粉末、フライアッシュの単位量(kg/m3)が、それぞれ182、182、41であることから、普通ポルトランドセメント45質量%、高炉スラグ微粉末45質量%、フライアッシュ10質量%と換算されるので、本件特許発明1の普通ポルトランドセメント45質量%~55質量%、高炉スラグ微粉末35質量%~55質量%、フライアッシュ10質量%以下含むことに相当しており、養生前のコンクリートにおける組成は一致する。
また、両発明は、前養生から昇温し、蒸気養生終了までの養生条件についても、一致しているが、
本件発明1は、コンクリート組成物が「蒸気養生終了後に2回/日の散水養生を2週間行い、その後温度20±2℃、湿度60±5%R.H.で封緘養生を行って、28日後のCl-の実効拡散係数を0.05cm2/年未満とする」ものであるのに対し、
引用発明1は、コンクリート組成物が「蒸気養生終了後、試験材齢までは20±1℃,60±5%R.H.で気中養生を行って、材齢3ヶ月のCl-の実効拡散係数を約0.05~0.06cm2/年程度とする」ものである点で相違する。
この相違点について検討するに、引用発明1の養生して28日後の実効拡散係数の数値は明示されていないものの、材齢3ヶ月のもので約0.05~0.06cm2/年程度であれば、その2ヶ月程度前の実効拡散係数は更に数値が大きかったであろうことは自明であるから、この相違点は、蒸気養生終了後の養生条件に基づくものとして、実質的なものである。
してみれば、本件発明1は甲1に記載された発明ではない。
次に、甲7には、高炉セメントB種、即ち普通ポルトランドセメントに高炉スラグを40~45%混入したものにフライアッシュを添加し置換した高流動コンクリートに関し、調合要因が流動特性および硬化コンクリートの品質に及ぼす効果について検討した実験結果に係る養生前のコンクリートについて、その組成が本件発明1と同様の発明が記載されている。
しかしながら、上記の引用発明1との対比と同様、甲7に記載された発明も、本件発明1と養生条件において相違しており、その28日後のCl-の実効拡散係数を0.05cm2/年未満とすることについては記載も示唆もない。
よって、本件発明1は甲7に記載された発明ではない。
(エ)対比、判断(理由2:本件発明3~6について)
本件発明3~6は、何れも本件発明1の発明特定事項を全て含みさらに限定を付したものであるから、甲1に記載された発明ではなく、甲7に記載された発明でもない。
(オ)対比、判断(理由3:本件発明1、3~6について)
本件発明1と引用発明1との相違点については、上記(ウ)に示したとおりである。甲2~甲7には、引用発明1において、この相違点に係る養生条件を採択することについては記載も示唆もなく、養生を行って28日後のCl-の実効拡散係数を0.05cm2/年未満とすることについての記載も示唆もない。また、出願時の技術常識を考慮しても、甲2~甲7に記載された事項から、引用発明1において、相違点に係る養生条件とすることや養生を行って28日後のCl-の実効拡散係数を0.05cm2/年未満とすることを導き出すことはできない。
よって、本件発明1は、甲1~甲7に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
また、本件発明3~6は、何れも本件発明1の発明特定事項を全て含みさらに限定を付したものであるから、甲1~甲7に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(カ)小括
以上のとおりであり、本件訂正により請求項2は削除されているから、理由2及び理由3は何れも理由がない。
ウ.本件発明7は、本件訂正により、本件明細書【0030】に記載された養生の条件がさらに特定され、本件発明の課題が解決できるものであることを当業者が認識できるものとなった。
また、本件訂正により、請求項8は削除された。
よって、理由4は理由がない。
3.平成30年8月24日付け取消理由通知書について
(1)取消理由の概要
当審が、平成30年8月24日付けの取消理由通知書で特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
(ア)本件特許は、訂正前の特許請求の範囲の請求項2の記載に不備があるため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである(理由1)。
(イ)訂正前の特許請求の範囲の請求項1、3、6~8に係る発明は、甲第1号証又は甲第7号証に記載された発明であるから、本件特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである(理由2)。
(ウ)訂正前の特許請求の範囲の請求項1、3~8に係る発明は、甲第1もしくは7号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである(理由3)。
(2)当審の判断
(ア)理由1は、本件訂正により、請求項2が削除されたので、理由はない(イ)理由2及び理由3について、本件発明1、3~6については、上記2.(2)で検討したと同様であり、何れも理由はない。
本件発明7は、本件訂正により「該コンクリート組成物を養生させる際、打ち込み後温度20±2℃、湿度60±5%R.H.で前養生をした後、温度上昇速度15℃/hで50℃まで上昇させ、50℃の蒸気による水分供給状態を2時間継続した後蒸気を停止し、20℃まで自然冷却し、蒸気養生終了後に2回/日の散水養生を2週間行い、その後温度20±2℃、湿度60±5%R.H.で封緘養生を行って、28日後のCl-の実効拡散係数を0.05cm2/年未満とする」という本件発明1と同様の発明特定事項が更に追加されたコンクリートの製造方法の発明であり、甲1に記載された発明と対比した場合に、上記2.(2)イ.(ウ)で示したと同様の相違点を有するといえる。そうすると、本件発明7は、同様に、甲1に記載された発明ではなく、甲7に記載された発明でもないし、甲1もしくは甲7に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
また、本件訂正により、請求項8は削除された。
よって、理由2及び理由3は何れも理由がない。
第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
申立人は、訂正前の請求項2に係る発明について、明細書及び特許請求の範囲の記載に不備があり、本件特許は、特許法第36条第4項第1号及び第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであることも主張しているが、請求項2は、本件訂正により削除された。
第6.むすび
以上のとおり、請求項1、3~7に係る特許については、取消理由通知書に記載した取消理由又は特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。また、他に請求項1、3~7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
請求項2、8は、訂正により削除されたため、これらの請求項に係る特許に対する特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しないものとなったから、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2018-700493