特許異議申立
2022-700021
バリア性積層体、該バリア性積層体を備えるヒートシール性積層体および該ヒートシール性積層体を備える包装容器
- 審判番号
- 2022-700021
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-508017
- 登録番号
- 6902231
- 請求日
- 2022年01月13日
- 審決日
- 2024年10月22日
- 公報発行日
- 2025年01月31日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】大日本印刷株式会社
- 【権利者代理人】中村 行孝
- 【権利者代理人】宮嶋 学
- 【権利者代理人】堀田 幸裕
- 【権利者代理人】岡村 和郎
- 【権利者代理人】高田 泰彦
- 【権利者代理人】柏 延之
- 【異議申立人】末吉 直子
- 【異議申立人代理人】加藤 圭
- 審判長/審判官
- 審判長 金丸 治之
- 審判官 田口 傑
- 審判官 長清 吉範
- 分類
- P1651.121-YAA(B32B) / P1651.113-YAA(B32B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第2項、特許法第113条第2号、特許法第39条第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項、特許法第36条第6項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6902231号発明「バリア性積層体、該バリア性積層体を備えるヒートシール性積層体および該ヒートシール性積層体を備える包装容器」の特許異議申立事件について、令和5年7月7日付け異議の決定に対し、知的財産高等裁判所において決定の取消しの判決(令和5年(行ケ)第10091号、令和6年4月22日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6902231号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、3~11〕、2、12~16について訂正することを認める。
特許第6902231号の請求項1~16に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6902231号の請求項1~11に係る特許についての出願は、2020年(令和2年)9月29日(優先権主張 令和元年9月30日)を国際出願日とする出願であって、令和3年6月23日にその特許権の設定登録がされ、令和3年7月14日に特許掲載公報が発行された。
本件の特許異議の申立てに係る手続の経緯の概要は、次のとおりである。
令和4年 1月13日 :特許異議申立人末吉直子(以下「申立人」という。)による請求項1~11に係る特許に対する本件特許異議の申立て
令和4年 5月13日付け:取消理由通知書
令和4年 7月19日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和4年 9月 5日 :申立人による意見書の提出
令和4年10月14日付け:取消理由通知書(決定の予告)
令和4年12月27日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出(以下、この訂正請求書による訂正の請求を「本件訂正請求」といい、訂正自体を「本件訂正」という。)
令和5年 2月 8日 :申立人による意見書の提出
令和5年 7月 7日付け:異議の決定(以下「一次決定」という。)
令和5年 8月17日 :一次決定に対する訴えの提起
(令和5年(行ケ)第10091号)
令和6年 4月22日 :決定取消の判決の言渡(主文「1 特許庁が異議2022-700021号事件について令和5年7月7日にした決定を取り消す。2 訴訟費用は被告の負担とする。」)
令和6年 8月29日 :申立人による上申書の提出
令和4年7月19日にされた訂正の請求は、令和4年12月27日に訂正請求がされたから、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。
第2 本件訂正の適否1 本件訂正の内容
本件訂正の内容は、訂正箇所に下線を付して示すと、次のとおりである。
(1)訂正事項1
本件訂正前の請求項1に記載された
「前記ガスバリア性塗布膜の表面は、X線光電子分光法(XPS)により測定される珪素原子と炭素原子の比(Si/C)が、1.60以下であることを特徴とする、バリア性積層体。」を、
「前記ガスバリア性塗布膜の表面は、X線光電子分光法(XPS)により測定される珪素原子と炭素原子の比(Si/C)が、0.90以上1.60以下であることを特徴とする、ボイルまたはレトルト用バリア性積層体。」に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項3~11も同様に訂正する)。
(2)訂正事項2
本件訂正前の請求項2に記載された
「前記珪素原子と炭素原子の比が、0.50以上である、請求項1に記載のバリア性積層体。」を独立形式に改め、
「多層基材と、蒸着膜と、前記蒸着膜上に設けられたバリアコート層とを備えるバリア性積層体であって、
前記多層基材は、少なくともポリプロピレン樹脂層と表面コート層とを備え、
前記ポリプロピレン樹脂層は、延伸処理が施されており、
前記表面コート層が、極性基を有する樹脂材料を含み、
前記蒸着膜は、前記多層基材の表面コート層上に設けられており、
前記蒸着膜が、無機酸化物からなり、
前記バリアコート層が、金属アルコキシドと水溶性高分子との樹脂組成物から構成されるガスバリア性塗布膜であるか、または、金属アルコキシドと、水溶性高分子と、シランカップリング剤との樹脂組成物から構成されるガスバリア性塗布膜であり、
前記ガスバリア性塗布膜の表面は、X線光電子分光法(XPS)により測定される珪素原子と炭素原子の比(Si/C)が、0.92以上1.45以下であることを特徴とする、ボイルまたはレトルト用バリア性積層体。」に訂正する。
(3)訂正事項3
本件訂正前の請求項3に記載された
「請求項1または2に記載のバリア性積層体」を、
「請求項1に記載のボイルまたはレトルト用バリア性積層体」に訂正する(請求項3の記載を直接的又は間接的に引用する請求項4~11も同様に訂正する)。
(4)訂正事項4
本件訂正前の請求項4に記載された
「請求項1~3のいずれか一項に記載のバリア性積層体」を、
「請求項1または3に記載のボイルまたはレトルト用バリア性積層体」に訂正する(請求項4の記載を直接的又は間接的に引用する請求項5~11も同様に訂正する)。
(5)訂正事項5
本件訂正前の請求項5に記載された
「請求項1~4のいずれか一項に記載のバリア性積層体」を、
「請求項1,3,4のいずれか一項に記載のボイルまたはレトルト用バリア性積層体」に訂正する(請求項5の記載を直接的又は間接的に引用する請求項6~11も同様に訂正する)。
(6)訂正事項6
本件訂正前の請求項6に記載された
「請求項1~5のいずれか一項に記載のバリア性積層体」を、
「請求項1,3~5のいずれか一項に記載のボイルまたはレトルト用バリア性積層体」に訂正する(請求項6の記載を直接的又は間接的に引用する請求項7~11も同様に訂正する)。
(7)訂正事項7
本件訂正前の請求項7に記載された
「請求項1~6のいずれか一項に記載のバリア性積層体」を、
「請求項1,3~6のいずれか一項に記載のボイルまたはレトルト用バリア性積層体」に訂正する(請求項7の記載を直接的又は間接的に引用する請求項8~11も同様に訂正する)。
(8)訂正事項8
本件訂正前の請求項8に記載された
「請求項1~7のいずれか一項に記載のバリア性積層体」を、
「請求項1,3~7のいずれか一項に記載のボイルまたはレトルト用バリア性積層体」に訂正する(請求項8の記載を直接的又は間接的に引用する請求項9~11も同様に訂正する)。
(9)訂正事項9
本件訂正前の請求項9に記載された
「請求項1~8のいずれか一項に記載のバリア性積層体と、シーラント層とを備えることを特徴とする、ヒートシール性積層体」を、
「請求項1,3~8のいずれか一項に記載のバリア性積層体と、シーラント層とを備えることを特徴とする、ボイルまたはレトルト用ヒートシール性積層体」に訂正する(請求項9の記載を直接的又は間接的に引用する請求項10、11も同様に訂正する)。
(10)訂正事項10
本件訂正前の請求項10に記載された
「請求項9に記載のヒートシール性積層体」を、
「請求項9に記載のボイルまたはレトルト用ヒートシール性積層体」に訂正する(請求項10の記載を直接的又は間接的に引用する請求項11も同様に訂正する)。
(11)訂正事項11
本件訂正前の請求項11に記載された
「包装容器」を、
「ボイルまたはレトルト用包装容器」に訂正する。
(12)訂正事項12
本件訂正前の請求項9に記載された
「請求項1~8のいずれか一項に記載のバリア性積層体と、シーラント層とを備えることを特徴とする、ヒートシール性積層体。」のうち、請求項1を引用する請求項2を引用するものを独立形式に改め、
「多層基材と、蒸着膜と、前記蒸着膜上に設けられたバリアコート層とを備えるバリア性積層体と、シーラント層とを備えることを特徴とする、ヒートシール性積層体であって、
前記多層基材は、少なくともポリプロピレン樹脂層と表面コート層とを備え、
前記ポリプロピレン樹脂層は、延伸処理が施されており、
前記表面コート層が、極性基を有する樹脂材料を含み、
前記蒸着膜は、前記多層基材の表面コート層上に設けられており、
前記蒸着膜が、無機酸化物からなり、
前記バリアコート層が、金属アルコキシドと水溶性高分子との樹脂組成物から構成されるガスバリア性塗布膜であるか、または、金属アルコキシドと、水溶性高分子と、シランカップリング剤との樹脂組成物から構成されるガスバリア性塗布膜であり、
前記ガスバリア性塗布膜の表面は、X線光電子分光法(XPS)により測定される珪素原子と炭素原子の比(Si/C)が、0.92以上1.45以下であることを特徴とする、ボイルまたはレトルト用ヒートシール性積層体。」に訂正した上で新たに請求項12とする。
(13)訂正事項13
本件訂正前の請求項10に記載された
「前記シーラント層が、前記ポリプロピレン樹脂層と同一の材料により構成され、前記同一材料は、ポリプロピレンである、請求項9に記載のヒートシール性積層体。」のうち、請求項1を引用する請求項2を引用する請求項9を引用するものを独立形式に改め、
「多層基材と、蒸着膜と、前記蒸着膜上に設けられたバリアコート層とを備えるバリア性積層体と、シーラント層とを備えることを特徴とする、ヒートシール性積層体であって、
前記多層基材は、少なくともポリプロピレン樹脂層と表面コート層とを備え、
前記ポリプロピレン樹脂層は、延伸処理が施されており、
前記表面コート層が、極性基を有する樹脂材料を含み、
前記蒸着膜は、前記多層基材の表面コート層上に設けられており、
前記蒸着膜が、無機酸化物からなり、
前記バリアコート層が、金属アルコキシドと水溶性高分子との樹脂組成物から構成されるガスバリア性塗布膜であるか、または、金属アルコキシドと、水溶性高分子と、シランカップリング剤との樹脂組成物から構成されるガスバリア性塗布膜であり、
前記ガスバリア性塗布膜の表面は、X線光電子分光法(XPS)により測定される珪素原子と炭素原子の比(Si/C)が、0.92以上1.45以下であることを特徴とし、
前記シーラント層が、前記ポリプロピレン樹脂層と同一の材料により構成され、
前記同一材料は、ポリプロピレンである、ボイルまたはレトルト用ヒートシール性積層体。」に訂正した上で新たに請求項13とする。
(14)訂正事項14
本件訂正前の請求項11に記載された
「請求項9または10に記載のヒートシール性積層体を備えることを特徴とする、包装容器。」のうち、請求項1を引用する請求項2を引用する請求項9を引用する請求項10を引用するものを独立形式に改め、
「多層基材と、蒸着膜と、前記蒸着膜上に設けられたバリアコート層とを備えるバリア性積層体と、シーラント層とを備えるヒートシール性積層体を備えることを特徴とする、包装容器であって、
前記多層基材は、少なくともポリプロピレン樹脂層と表面コート層とを備え、
前記ポリプロピレン樹脂層は、延伸処理が施されており、
前記表面コート層が、極性基を有する樹脂材料を含み、
前記蒸着膜は、前記多層基材の表面コート層上に設けられており、
前記蒸着膜が、無機酸化物からなり、
前記バリアコート層が、金属アルコキシドと水溶性高分子との樹脂組成物から構成されるガスバリア性塗布膜であるか、または、金属アルコキシドと、水溶性高分子と、シランカップリング剤との樹脂組成物から構成されるガスバリア性塗布膜であり、
前記ガスバリア性塗布膜の表面は、X線光電子分光法(XPS)により測定される珪素原子と炭素原子の比(Si/C)が、0.92以上1.45以下であることを特徴とし、
前記シーラント層が、前記ポリプロピレン樹脂層と同一の材料により構成され、
前記同一材料は、ポリプロピレンである、ボイルまたはレトルト用包装容器。」に訂正した上で新たに請求項14とする。
(15)訂正事項15
本件訂正前の請求項9に記載された
「請求項1~8のいずれか一項に記載のバリア性積層体と、シーラント層とを備えることを特徴とする、ヒートシール性積層体。」のうち、請求項1を引用する請求項2を引用する請求項7を引用するものを独立形式に改め、
「多層基材と、蒸着膜と、前記蒸着膜上に設けられたバリアコート層とを備え、包装容器用途に用いられるバリア性積層体と、シーラント層とを備えることを特徴とする、ヒートシール性積層体であって、
前記多層基材は、少なくともポリプロピレン樹脂層と表面コート層とを備え、
前記ポリプロピレン樹脂層は、延伸処理が施されており、
前記表面コート層が、極性基を有する樹脂材料を含み、
前記蒸着膜は、前記多層基材の表面コート層上に設けられており、
前記蒸着膜が、無機酸化物からなり、
前記バリアコート層が、金属アルコキシドと水溶性高分子との樹脂組成物から構成されるガスバリア性塗布膜であるか、または、金属アルコキシドと、水溶性高分子と、シランカップリング剤との樹脂組成物から構成されるガスバリア性塗布膜であり、
前記ガスバリア性塗布膜の表面は、X線光電子分光法(XPS)により測定される珪素原子と炭素原子の比(Si/C)が、0.92以上1.45以下であることを特徴とし、
前記シーラント層が、ポリプロピレンにより構成される、
ボイルまたはレトルト用ヒートシール性積層体。」に訂正した上で新たに請求項15とする。
(16)訂正事項16
本件訂正前の請求項11に記載された
「請求項9または10に記載のヒートシール性積層体を備えることを特徴とする、包装容器。」のうち、請求項1を引用する請求項2を引用する請求項9を引用するものを独立形式に改め、
「多層基材と、蒸着膜と、前記蒸着膜上に設けられたバリアコート層とを備えるバリア性積層体と、シーラント層とを備えるヒートシール性積層体を備えることを特徴とする、包装容器であって、
前記多層基材は、少なくともポリプロピレン樹脂層と表面コート層とを備え、
前記ポリプロピレン樹脂層は、延伸処理が施されており、
前記表面コート層が、極性基を有する樹脂材料を含み、
前記蒸着膜は、前記多層基材の表面コート層上に設けられており、
前記蒸着膜が、無機酸化物からなり、
前記バリアコート層が、金属アルコキシドと水溶性高分子との樹脂組成物から構成されるガスバリア性塗布膜であるか、または、金属アルコキシドと、水溶性高分子と、シランカップリング剤との樹脂組成物から構成されるガスバリア性塗布膜であり、
前記ガスバリア性塗布膜の表面は、X線光電子分光法(XPS)により測定される珪素原子と炭素原子の比(Si/C)が、0.92以上1.45以下であることを特徴とし、
前記シーラント層が、ポリプロピレンにより構成される、
ボイルまたはレトルト用包装容器。」に訂正した上で新たに請求項16とする。
2 一群の請求項、及び別の訂正単位とする求めについて
(1)一群の請求項
本件訂正前の請求項1~11は、請求項2~11が、本件訂正前の請求項1の記載を引用する関係にあるから、本件訂正請求は、一群の請求項について請求されたものである。
(2)別の訂正単位とする求め
本件訂正後の請求項2、12~16に係る訂正について、特許権者は、当該訂正が認められたならば、本件訂正前の一群の請求項とは別の訂正単位として扱われることを求めている。
3 訂正の目的、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の適否について
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、本件訂正前の請求項1の「珪素原子と炭素原子の比(Si/C)」の数値範囲を「0.90以上」とその下限値を付加し、「バリア性積層体」を「ボイルまたはレトルト用」とその用途を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項1のうち「珪素原子と炭素原子の比(Si/C)」の数値範囲を「0.90以上」とその下限値を付加する点は、本件明細書の【0076】の記載に基づくものであり、「バリア性積層体」の用途を「ボイルまたはレトルト用」と限定する点は、本件特許の明細書の【0161】~【0165】、【0186】~【0191】の記載に基づくものであるから、訂正事項1は、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件特許明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてするものである。
また、訂正事項1は、本件訂正前の請求項1に係る発明の発明特定事項をさらに限定するものであり、また、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(2)訂正事項2、12~14について
訂正事項2は、本件訂正前の請求項1を引用する請求項2について、独立形式に改め、さらに、「珪素原子と炭素原子の比(Si/C)」の数値範囲を「0.92以上1.45以下」とその数値範囲を限定し、「バリア性積層体」の用途を「ボイルまたはレトルト用」と限定するものであるから、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること、及び特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項2のうち「珪素原子と炭素原子の比(Si/C)」の数値範囲を「0.92以上1.45以下」とその数値範囲を限定する点は、本件特許の明細書の【0190】【表6】の記載に基づくものであり、「バリア性積層体」を「ボイルまたはレトルト用」と限定する点は、本件特許の明細書の【0161】~【0165】、【0186】~【0191】の記載に基づくものであるから、訂正事項2は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。
また、訂正事項2は、本件訂正前の請求項2に係る発明の発明特定事項をさらに限定するものであり、また、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
同様に、訂正事項12~14は、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること、及び特許請求の範囲の減縮を目的とし、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(3)訂正事項3~9について
訂正事項3~9は、本件訂正前の請求項3~9について、「バリア性積層体」の用途を「ボイルまたはレトルト用」と限定し、引用する請求項の数を減少させるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項3~9は、上記のとおり、本件特許の明細書の【0161】~【0165】、【0186】~【0191】の記載に基づくものであるから、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。
また、訂正事項3~9は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(4)訂正事項10、11について
訂正事項10、11は、本件訂正前の請求項10についての「ヒートシール性積層体」、及び本件訂正前の請求項11についての「包装容器」の用途を「ボイルまたはレトルト用」と限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項10、11は、上記のとおり、本件特許の明細書の【0161】~【0165】、【0186】~【0191】の記載に基づくものであるから、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。
また、訂正事項10、11は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(5)訂正事項15、16について
訂正事項15は、本件訂正前の請求項1を引用する請求項2を引用する請求項7を引用する請求項9について、独立形式に改め、さらに、「珪素原子と炭素原子の比(Si/C)」の数値範囲を「0.92以上1.45以下」と限定し、「シーラント層」を「ポリプロピレンにより構成される」と限定し、「ヒートシール性積層体」の用途を「ボイルまたはレトルト用」と限定するものであるから、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること、及び特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項15のうち、「珪素原子と炭素原子の比(Si/C)」の数値範囲を「0.92以上1.45以下」と限定する点は、本件特許の明細書の【0190】【表6】の記載に基づくものであり、「シーラント層」を「ポリプロピレンにより構成される」と限定する点は、本件特許の明細書の【0089】の記載に基づくものであり、「ヒートシール性積層体」の用途を「ボイルまたはレトルト用」と限定する点は、上記のとおり、本件特許の明細書の【0161】~【0165】、【0186】~【0191】の記載に基づくものであるから、訂正事項15は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。
また、訂正事項15は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
同様に、訂正事項16は、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること、及び特許請求の範囲の減縮を目的とし、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
4 小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項並びに第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
また、上記2の(2)に記載したように、本件訂正後の請求項2、12~16については、これらの請求項に対する訂正が認められたならば、別の訂正単位とすることが求められている。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、3~11〕、2、12~16について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記第2のとおり本件訂正が認められたから、本件特許の請求項1~16に係る発明(以下「本件発明1」等という。また、本件発明1~16を「本件発明」と総称することもある。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~16に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
【請求項1】
多層基材と、蒸着膜と、前記蒸着膜上に設けられたバリアコート層とを備えるバリア性積層体であって、
前記多層基材は、少なくともポリプロピレン樹脂層と表面コート層とを備え、
前記ポリプロピレン樹脂層は、延伸処理が施されており、
前記表面コート層が、極性基を有する樹脂材料を含み、
前記蒸着膜は、前記多層基材の表面コート層上に設けられており、
前記蒸着膜が、無機酸化物からなり、
前記バリアコート層が、金属アルコキシドと水溶性高分子との樹脂組成物から構成されるガスバリア性塗布膜であるか、または、金属アルコキシドと、水溶性高分子と、シランカップリング剤との樹脂組成物から構成されるガスバリア性塗布膜であり、
前記ガスバリア性塗布膜の表面は、X線光電子分光法(XPS)により測定される珪素原子と炭素原子の比(Si/C)が、0.90以上1.60以下であることを特徴とする、ボイルまたはレトルト用バリア性積層体。
【請求項2】
多層基材と、蒸着膜と、前記蒸着膜上に設けられたバリアコート層とを備えるバリア性積層体であって、
前記多層基材は、少なくともポリプロピレン樹脂層と表面コート層とを備え、
前記ポリプロピレン樹脂層は、延伸処理が施されており、
前記表面コート層が、極性基を有する樹脂材料を含み、
前記蒸着膜は、前記多層基材の表面コート層上に設けられており、
前記蒸着膜が、無機酸化物からなり、
前記バリアコート層が、金属アルコキシドと水溶性高分子との樹脂組成物から構成されるガスバリア性塗布膜であるか、または、金属アルコキシドと、水溶性高分子と、シランカップリング剤との樹脂組成物から構成されるガスバリア性塗布膜であり、
前記ガスバリア性塗布膜の表面は、X線光電子分光法(XPS)により測定される珪素原子と炭素原子の比(Si/C)が、0.92以上1.45以下であることを特徴とする、ボイルまたはレトルト用バリア性積層体。
【請求項3】
前記多層基材の総厚さに対する、前記表面コート層の厚さの割合が、0.08%以上20%以下である、請求項1に記載のボイルまたはレトルト用バリア性積層体。
【請求項4】
前記表面コート層の厚さが、0.02μm以上10μm以下である、請求項1または3に記載のボイルまたはレトルト用バリア性積層体。
【請求項5】
前記樹脂材料が、エチレンビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリエステル、ポリエチレンイミン、水酸基含有(メタ)アクリル樹脂、ナイロン6、ナイロン6,6、MXDナイロン、アモルファスナイロンおよびポリウレタンから選択される1以上の樹脂材料である、請求項1,3,4のいずれか一項に記載のボイルまたはレトルト用バリア性積層体。
【請求項6】
前記表面コート層は、水系エマルジョンまたは溶剤系エマルジョンを用いて形成された層である、請求項1,3~5のいずれか一項に記載のボイルまたはレトルト用バリア性積層体。
【請求項7】
包装容器用途に用いられる、請求項1,3~6のいずれか一項に記載のボイルまたはレトルト用バリア性積層体。
【請求項8】
前記無機酸化物が、シリカ、酸化炭化珪素またはアルミナである、請求項1,3~7のいずれか一項に記載のボイルまたはレトルト用バリア性積層体。
【請求項9】
請求項1,3~8のいずれか一項に記載のバリア性積層体と、シーラント層とを備えることを特徴とする、ボイルまたはレトルト用ヒートシール性積層体。
【請求項10】
前記シーラント層が、前記ポリプロピレン樹脂層と同一の材料により構成され、
前記同一材料は、ポリプロピレンである、請求項9に記載のボイルまたはレトルト用ヒートシール性積層体。
【請求項11】
請求項9または10に記載のヒートシール性積層体を備えることを特徴とする、ボイルまたはレトルト用包装容器。
【請求項12】
多層基材と、蒸着膜と、前記蒸着膜上に設けられたバリアコート層とを備えるバリア性積層体と、シーラント層とを備えることを特徴とする、ヒートシール性積層体であって、
前記多層基材は、少なくともポリプロピレン樹脂層と表面コート層とを備え、
前記ポリプロピレン樹脂層は、延伸処理が施されており、
前記表面コート層が、極性基を有する樹脂材料を含み、
前記蒸着膜は、前記多層基材の表面コート層上に設けられており、
前記蒸着膜が、無機酸化物からなり、
前記バリアコート層が、金属アルコキシドと水溶性高分子との樹脂組成物から構成されるガスバリア性塗布膜であるか、または、金属アルコキシドと、水溶性高分子と、シランカップリング剤との樹脂組成物から構成されるガスバリア性塗布膜であり、
前記ガスバリア性塗布膜の表面は、X線光電子分光法(XPS)により測定される珪素原子と炭素原子の比(Si/C)が、0.92以上1.45以下であることを特徴とする、ボイルまたはレトルト用ヒートシール性積層体。
【請求項13】
多層基材と、蒸着膜と、前記蒸着膜上に設けられたバリアコート層とを備えるバリア性積層体と、シーラント層とを備えることを特徴とする、ヒートシール性積層体であって、
前記多層基材は、少なくともポリプロピレン樹脂層と表面コート層とを備え、
前記ポリプロピレン樹脂層は、延伸処理が施されており、
前記表面コート層が、極性基を有する樹脂材料を含み、
前記蒸着膜は、前記多層基材の表面コート層上に設けられており、
前記蒸着膜が、無機酸化物からなり、
前記バリアコート層が、金属アルコキシドと水溶性高分子との樹脂組成物から構成されるガスバリア性塗布膜であるか、または、金属アルコキシドと、水溶性高分子と、シランカップリング剤との樹脂組成物から構成されるガスバリア性塗布膜であり、
前記ガスバリア性塗布膜の表面は、X線光電子分光法(XPS)により測定される珪素原子と炭素原子の比(Si/C)が、0.92以上1.45以下であることを特徴とし、
前記シーラント層が、前記ポリプロピレン樹脂層と同一の材料により構成され、
前記同一材料は、ポリプロピレンである、ボイルまたはレトルト用ヒートシール性積層体。
【請求項14】
多層基材と、蒸着膜と、前記蒸着膜上に設けられたバリアコート層とを備えるバリア性積層体と、シーラント層とを備えるヒートシール性積層体を備えることを特徴とする、包装容器であって、
前記多層基材は、少なくともポリプロピレン樹脂層と表面コート層とを備え、
前記ポリプロピレン樹脂層は、延伸処理が施されており、
前記表面コート層が、極性基を有する樹脂材料を含み、
前記蒸着膜は、前記多層基材の表面コート層上に設けられており、
前記蒸着膜が、無機酸化物からなり、
前記バリアコート層が、金属アルコキシドと水溶性高分子との樹脂組成物から構成されるガスバリア性塗布膜であるか、または、金属アルコキシドと、水溶性高分子と、シランカップリング剤との樹脂組成物から構成されるガスバリア性塗布膜であり、
前記ガスバリア性塗布膜の表面は、X線光電子分光法(XPS)により測定される珪素原子と炭素原子の比(Si/C)が、0.92以上1.45以下であることを特徴とし、
前記シーラント層が、前記ポリプロピレン樹脂層と同一の材料により構成され、
前記同一材料は、ポリプロピレンである、ボイルまたはレトルト用包装容器。
【請求項15】
多層基材と、蒸着膜と、前記蒸着膜上に設けられたバリアコート層とを備え、包装容器用途に用いられるバリア性積層体と、シーラント層とを備えることを特徴とする、ヒートシール性積層体であって、
前記多層基材は、少なくともポリプロピレン樹脂層と表面コート層とを備え、
前記ポリプロピレン樹脂層は、延伸処理が施されており、
前記表面コート層が、極性基を有する樹脂材料を含み、
前記蒸着膜は、前記多層基材の表面コート層上に設けられており、
前記蒸着膜が、無機酸化物からなり、
前記バリアコート層が、金属アルコキシドと水溶性高分子との樹脂組成物から構成されるガスバリア性塗布膜であるか、または、金属アルコキシドと、水溶性高分子と、シランカップリング剤との樹脂組成物から構成されるガスバリア性塗布膜であり、
前記ガスバリア性塗布膜の表面は、X線光電子分光法(XPS)により測定される珪素原子と炭素原子の比(Si/C)が、0.92以上1.45以下であることを特徴とし、
前記シーラント層が、ポリプロピレンにより構成される、
ボイルまたはレトルト用ヒートシール性積層体。
【請求項16】
多層基材と、蒸着膜と、前記蒸着膜上に設けられたバリアコート層とを備えるバリア性積層体と、シーラント層とを備えるヒートシール性積層体を備えることを特徴とする、包装容器であって、
前記多層基材は、少なくともポリプロピレン樹脂層と表面コート層とを備え、
前記ポリプロピレン樹脂層は、延伸処理が施されており、
前記表面コート層が、極性基を有する樹脂材料を含み、
前記蒸着膜は、前記多層基材の表面コート層上に設けられており、
前記蒸着膜が、無機酸化物からなり、
前記バリアコート層が、金属アルコキシドと水溶性高分子との樹脂組成物から構成されるガスバリア性塗布膜であるか、または、金属アルコキシドと、水溶性高分子と、シランカップリング剤との樹脂組成物から構成されるガスバリア性塗布膜であり、
前記ガスバリア性塗布膜の表面は、X線光電子分光法(XPS)により測定される珪素原子と炭素原子の比(Si/C)が、0.92以上1.45以下であることを特徴とし、
前記シーラント層が、ポリプロピレンにより構成される、
ボイルまたはレトルト用包装容器。
第4 取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
令和4年7月19日に提出された訂正請求書により訂正された請求項1、3~11に係る特許に対して、当審が令和4年10月14日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
取消理由(進歩性)
本件特許の請求項1、3~11に係る発明は、以下の甲3に記載された発明、以下の甲4に記載された記載事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、請求項1、3~11に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
甲3:特開2009-154449号公報(甲第3号証)
甲4:特開2017-211082号公報(甲第4号証)
2 当審の判断
当審合議体は、合議の結果、上記取消理由通知(決定の予告)で通知した取消理由によっては、本件発明1~16は取り消されるべきではないものと判断する。
(1)引用文献に記載された事項及び引用発明
ア 甲3
甲3には次の記載がある。
「【請求項1】
高分子フィルム基材の表面に金属酸化物蒸着層と有機無機ハイブリッドバリア層が順次設けられたバリア性フィルムであって、該有機無機ハイブリッドバリア層は、X線光電子分光分析法によるアトミックパーセントの分析において、炭素と酸素と珪素が、それぞれ15~50%、30~65%、5~30%の割合で存在することが確認されることを特徴とするバリア性フィルム。
・・・
【請求項3】
前記金属酸化物蒸着層が、酸化アルミニウムからなる蒸着層であり、該蒸着層には、X線光電子分光分析法によってアルミニウムと酸素とが、1:1.5~1:3.0の割合で含まれていることが確認されることを特徴とする請求項1又は2に記載のバリア性フィルム。
・・・
【請求項5】
高分子フィルム基材の表面にアンカーコート層を設けた事を特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載のバリア性フィルム。
【請求項6】
前記アンカーコート層が、アクリルポリオール、イソシアネート化合物、及び一般式R’Si(OR)3(R’はアルキル基、ビニル基、グリシドキシプロピル基、アミノ基、イソシアネート基及びメルカプト基のいずれか1種)であらわされる3官能オルガノシランまたはその加水分解物を含む組成物からなることを特徴とする請求項5に記載のバリア性フィルム。」
「【技術分野】
【0001】
本発明は、食品、医薬品、精密電子部品等の包装材料として用いられるガスバリア性フィルムに関する。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、可撓性を有するとともに酸素、水蒸気などに対するガスバリア性に優れ、耐熱性、耐湿性、耐水性を有し、かつ製造が容易なガスバリア性フィルムを提供することを目的とする。」
「【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、食品、医薬品、精密電子部品等の包装材料として使用可能な、高いガスバリア性、耐熱性、耐湿性、耐水性並びに変形に耐えられる可撓性を有する透明ガスバリア性フィルムが、安価なコストで得られる。」
「【0023】
高分子フィルム基材1の材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリスチレン、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリアクリロニトリル、ポリイミド等が用いられ、延伸、未延伸のどちらでも良く、用途に応じて機械的強度や寸法安定性等の特性を考慮して適当な材料が選択される。・・・
【0024】
高分子フィルム基材1の厚さはとくに制限を受けるものではないが、包装材料としての適性や、他の層を積層する場合の加工性等を考慮すると、実用的には3~200μmの範囲であり、一般的には6~30μmとすることが好ましい。また量産性を考慮すれば、連続的に各層を形成できるように連続長尺フィルム状とすることが望ましい。
【0025】
次に、金属酸化物蒸着層4について説明する。金属酸化物蒸着層4の材料としては、例えば、珪素、アルミニウム、マグネシウム、チタン、ジルコニウム、錫などの酸化物を挙げることができる。好ましくは、酸化アルミニウムや酸化珪素や酸化マグネシウムなどのような透明な金属酸化物を使用することが好ましい。金属の窒化物、弗化物などが混合していてもかまわない。」
「【0029】
次に有機無機ハイブリッドバリア層5は、水酸基を有する水溶性高分子と、1種以上の金属アルコキシド及びその加水分解物、及び水/アルコール混合溶液を主剤とするコーティング剤を高分子フィルム基材1の表面に塗布し、加熱乾燥することによって形成される。」
「【0044】
そこで、発明者は、種々のサンプルについてその有機無機ハイブリッドバリア層の表面
をXPSによって分析し、炭素、酸素、珪素のアトミックパーセントに着目した結果、炭素、酸素、珪素の割合が、それぞれ15~50%、30~65%、5~30%の割合で存在するときに、最も好ましい結果が得られることを見いだした。
炭素の割合が50%より多い場合、バリア性が温度、湿度の影響を受け易く、15%より少ない場合、バリア性が悪くなり、膜質が脆くなる。酸素の割合が30~65%より多い場合、少ない場合ともに、また、珪素の割合が5~30%より多い場合、少ない場合ともに、Si-O-Siの架橋構造に欠陥が生じ、緻密な膜質でなくなる結果、バリア性フィルムのガスバリア性が悪くなる。」
「【0052】
アンカーコート層2を設ける目的は、高分子フィルム基材1と金属酸化物蒸着層4との接着性を高めることにより、バリア性フィルムの揉みや折り曲げに対する耐性を高め、ガスバリア性を安定的に発揮させることにある。」
「【0055】
アンカーコート層2の膜厚としては、均一な塗膜を形成することができれば特に限定されないが、一般的に0.01~2μmの範囲であることが好ましい。厚さが0.01μmより薄いと均一な塗膜が得られにくく密着性が低下する場合がある。また厚さが2μmを越える場合は、塗膜にフレキシビリティを保持させることができず、外的要因により塗膜に亀裂を生じる恐れがあるため好ましくない。特に好ましいのは0.05~0.2μmの範囲内にあることである。」
「【図2】
[図:0001418180000001.jpg]
」
甲3の図2の図示事項から、金属酸化物蒸着層はアンカーコート層上に設けられることが認められる。
甲3の上記記載事項及び認定事項から、【請求項1】を引用する【請求項3】を引用する【請求項5】を引用する【請求項6】を引用するもの、及び【0029】の記載を参照すると、甲3には次の「甲3発明」が記載されている。
「高分子フィルム基材の表面に金属酸化物蒸着層と有機無機ハイブリッドバリア層が順次設けられたバリア性フィルムであって、該有機無機ハイブリッドバリア層は、X線光電子分光分析法によるアトミックパーセントの分析において、炭素と酸素と珪素が、それぞれ15~50%、30~65%、5~30%の割合で存在することが確認されるバリア性フィルムであって、
前記金属酸化物蒸着層が、酸化アルミニウムからなる蒸着層であり、該蒸着層には、X線光電子分光分析法によってアルミニウムと酸素とが、1:15~1:3.0の割合で含まれていることが確認され、
高分子フィルム基材の表面にアンカーコート層を設け、
前記金属酸化物蒸着層は前記アンカーコート層上に設けられ、
前記アンカーコート層が、アクリルポリオール、イソシアネート化合物、及び一般式R’SiR(OR)3(R’はアルキル基、ビニル基、グリシドキシプロピル基、アミノ基、イソシアネート基及びメルカプト基のいずれか1種)であらわされる3官能オルガノシランまたはその加水分解物を含む組成物からなり、
有機無機ハイブリッドバリア層は、水酸基を有する水溶性高分子と、1種以上の金属アルコキシド及びその加水分解物、及び水/アルコール混合溶液を主剤とするコーティング剤を高分子フィルム基材の表面に塗布し、加熱乾燥することによって形成される、食品等の包装材料として使用可能なバリア性フィルム。」
イ 甲4
甲4には次の記載がある。
「【0001】
本開示は、真空断熱材用外包材等に関するものである。」
「【発明が解決しようとする課題】
・・・
【0008】
本開示は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、高温高湿な環境においても長期間断熱性能を維持することができる真空断熱材を形成可能な真空断熱材用外包材等を提供することを主目的とする。」
「【0062】
2.外側無機層付きフィルム(第2フィルム)
・・・
【0063】
(1)無機層
無機層は、第2樹脂基材の少なくとも一方の面側に配置され、外側無機層付きフィルムのガスバリア性に主に寄与するものである。上記無機層は、所望のガスバリア性を発揮できるものであれば特に限定されるものではなく、透明性を有していてもよく、有さなくてもよい。このようなガスバリア性を有する層としては、例えば、金属層、無機化合物を主成分とする層などを用いることができる。上記金属層としては、アルミニウム、ステンレス、チタン、ニッケル、鉄、銅等の金属またはこれらを含む合金から構成される金属蒸着膜等を挙げることができる。」
「【0111】
(1)オーバーコート層
本態様におけるオーバーコート層は、上記無機層の上記樹脂基板とは反対の面側に配置され、親水基含有樹脂を含むものである。上記親水基含有樹脂の有無は、例えば、赤外線吸収スペクトルなどにより判別することができる。また、上記オーバーコート層を構成する原子における、炭素原子に対する金属原子の比率(金属原子数/炭素原子数)は、0.1以上、2以下の範囲内であり、中でも0.5以上、1.9以下の範囲内、特には0.8以上、1.6以下の範囲内であることが好ましい。比率が上記範囲に満たないと、オーバーコート層の脆性が大きくなり、得られるオーバーコート層の耐水性および耐候性等が低下する場合がある。一方、比率が上記範囲を超えると、得られるオーバーコート層のガスバリア性が低下する場合がある。
【0112】
上述したような比率を有するオーバーコート層は、例えば、オーバーコート層形成用組成物における親水基含有樹脂の含有量を、後述するアルコキシドの合計量100質量部に対して5質量部以上、500質量部以下の範囲内、中でも20質量部以上、200質量部以下の範囲内の配合割合とすることにより得ることができる。上記オーバーコート層形成用組成物の一例としては、A液(ポリビニルアルコール(PVA)、イソプロピルアルコールおよびイオン交換水からなる混合液)に、予め調製したB液(テトラエトキシシラン(TEOS)、イソプロピルアルコール、塩酸およびイオン交換水からなる加水分解液)を、TEOS100質量部に対してPVAが特定の割合となるように加えて撹拌し、ゾルゲル法により得られる、無色透明のオーバーコート層形成用組成物を挙げることができる。
【0113】
オーバーコート層における炭素原子に対する金属原子の比率の測定方法は特に限定されるものではなく、例えば、X線光電子分光法や、外包材断面からのエネルギー分散型X線分光法(EDX)などにより測定することができる。また、上記X線光電子分光法により測定する際はエッチングを行い、オーバーコート層の内部を評価してもよい。
【0114】
上述したA液およびB液を用い、TEOS100質量部に対してPVAが5質量部以上、500質量部以下の範囲内となるように調製されたオーバーコート層形成用組成物を用いて作製されたオーバーコート層における、炭素原子に対する金属原子の比率を下記表1に示す。原子比率の測定は、X線光電子分光法により、測定装置としてESCA5600(アルバック・ファイ株式会社製)を用いて行った。なお、下記表1においては、炭素原子(C)に対する金属原子としての珪素(Si)の比率を示す。
【0115】
【表1】
[図:0001418180000002.jpg]
【0116】
このような、親水基含有樹脂を含み、上記オーバーコート層を構成する原子における、炭素原子に対する金属原子の比率が特定の範囲内のものである層としては、一般式R1nM2(OR2)m(ただし、式中、R1、R2は、炭素数1以上、8以下の有機基を表し、M2は、金属原子を表し、nは、0以上の整数を表し、mは、1以上の整数を表し、n+mは、M2の原子価を表す。)で表される少なくとも1種以上のアルコキシドと、親水基含有樹脂とを含有するゾルゲル化合物を含む層を用いることができ、中でも上記ゾルゲル化合物を主成分とする層であることが好ましい。上記ゾルゲル化合物は、界面における接着強度が高く、また、製膜時の処理を比較的低温において行なうことができるため、上記樹脂基板等の熱による劣化を抑制することができるからである。」
「【0139】
(d)ゾルゲル化合物を主成分とするオーバーコート層の形成方法
本態様において、上記ゾルゲル化合物を主成分とする上記オーバーコート層は、以下の方法で製造することができる。
まず、上記のアルコキシシラン等のアルコキシド、シランカップリング剤、親水基含有樹脂、ゾル-ゲル法触媒、酸、水、有機溶媒、および、必要に応じて、金属アルコキシド等を混合し、原料液を調製する。混合により、原料液は、重縮合反応が開始および進行する。」
「【0142】
なお、エチレン・ビニルアルコール共重合体単独、またはポリビニルアルコール系樹脂とエチレン・ビニルアルコール共重合体との混合組成物を用いて得られたオーバーコート層は、熱水処理後のガスバリア性に優れる。一方、ポリビニルアルコール系樹脂単独を主成分とするオーバーコート層を設ける場合にはそのオーバーコート層の上に、エチレン・ビニルアルコール共重合体を含有するオーバーコート層を積層すると、熱水処理後のガスバリア性を向上させることができる。」
「【0144】
(2)無機層
本態様におけるオーバーコート層付きフィルムの無機層は、所望のガスバリア性を発揮することができるものであれば特に限定されるものではない。このような無機層としては、「(I)第1態様、2.外側無機層付きフィルム、(1)無機層」の項において説明されているものと同様のものを用いることができる。本態様においては、初期のガスバリア性や耐劣化性等の観点から、無機化合物を主成分とする層が好適に用いられ、より具体的には、珪素酸化物、アルミニウム酸化物、マグネシウム酸化物、チタン酸化物、スズ酸化物、珪素亜鉛合金酸化物、インジウム合金酸化物、珪素窒化物、アルミニウム窒化物、チタン窒化物、酸化窒化珪素等を主成分とする層を挙げることができる。上記無機化合物は、単独で用いてもよいし、上記材料を任意の割合で混合して用いてもよい。」
甲4の上記記載事項から、甲4には次の「甲4記載事項」が記載されている。
「真空断熱材用外包材において、アルミニウム酸化物等の金属酸化物である無機層上に配置されたオーバーコート層が、一般式R1nM2(OR2)m(ただし、式中、R1、R2は、炭素数1以上、8以下の有機基を表し、M2は、金属原子を表し、nは、0以上の整数を表し、mは、1以上の整数を表し、n+mは、M2の原子価を表す。)で表される少なくとも1種以上のアルコキシドと、親水基含有樹脂とを含有するゾルゲル化合物を含む層であり、オーバーコート層を構成する原子における、炭素原子に対する金属原子の比率(金属原子数/炭素原子数)は0.8以上、1.6以下の範囲内であるもの。」
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲3発明とを対比する。
甲3発明の「金属酸化物蒸着層」は本件発明1の「蒸着膜」に相当し、以下同様に、「有機無機ハイブリッドバリア層」は「バリアコート層」に、「バリア性フィルム」は「バリア性積層体」に、「アンカーコート層」は「表面コート層」相当する。
甲3発明の「高分子フィルム基材」の表面に「アンカーコート層」を設けたものは本件発明1の「多層基材」に相当する。
甲3発明の「前記高分子フィルム基材の表面にアンカーコート層を設け、前記金属酸化物蒸着層は前記アンカーコート層上に設けられ」ることは、本件発明1の「前記蒸着膜は、前記多層基材の表面コート層上に設けられ」ることに相当する。
甲3発明の「高分子フィルム基材」と本件発明1の「延伸処理が施されて」いる「ポリプロピレン樹脂層」とは、「樹脂層」である限りで一致する。
甲3発明の「前記アンカーコート層」が、「アクリルポリオール、イソシアネート化合物、及び一般式R’Si(OR)3(R’はアルキル基、ビニル基、グリシドキシプロピル基、アミノ基、イソシアネート基及びメルカプト基のいずれか1種)であらわされる3官能オルガノシランまたはその加水分解物を含む組成物」からなることは、本件発明1の「表面コート層」が「極性基を有する樹脂材料」を含む、ことに相当する。
甲3発明の「有機無機ハイブリッドバリア層は、水酸基を有する水溶性高分子と、1種以上の金属アルコキシド及びその加水分解物、及び水/アルコール混合溶液を主剤とするコーティング剤を高分子フィルム基材の表面に塗布し、加熱乾燥することによって形成される」ものは、本件発明1の「前記バリアコート層が、金属アルコキシドと水溶性高分子との樹脂組成物から構成されるガスバリア性塗布膜であるか、または、金属アルコキシドと、水溶性高分子と、シランカップリング剤との樹脂組成物から構成されるガスバリア性塗布膜であ」るものに相当する。
そうすると、本件発明1と甲3発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
[一致点]
「多層基材と、蒸着膜と、前記蒸着膜上に設けられたバリアコート層とを備えるバリア性積層体であって、
前記多層基材は、少なくとも樹脂層と表面コート層とを備え、
前記表面コート層が、極性基を有する樹脂材料を含み、
前記蒸着膜は、前記多層基材の表面コート層上に設けられており、
前記蒸着膜が、無機酸化物からなり、
前記バリアコート層が、金属アルコキシドと水溶性高分子との樹脂組成物から構成されるガスバリア性塗布膜であるか、または、金属アルコキシドと、水溶性高分子と、シランカップリング剤との樹脂組成物から構成されるガスバリア性塗布膜である、バリア性積層体。」
[相違点1]
「樹脂層」に関して、本件発明1のものは「延伸処理が施されて」いる「ポリプロピレン樹脂層」であるのに対して、甲3発明のものは「高分子フィルム基材」である点。
[相違点2]
本件発明1は、「前記ガスバリア性塗布膜の表面は、X線光電子分光法(XPS)により測定される珪素原子と炭素原子の比(Si/C)が、0.90以上1.60以下である」のに対して、甲3発明は「該有機無機ハイブリッドバリア層は、X線光電子分光分析法によるアトミックパーセントの分析において、炭素と酸素と珪素が、それぞれ15~50%、30~65%、5~30%の割合で存在することが確認される」点。
[相違点3]
本件発明1は、用途が「ボイルまたはレトルト用」であるのに対して、甲3発明は「食品等の包装材料として使用可能」なものである点。
イ 判断
事案に鑑み相違点2、相違点3についてまとめて検討する。
(ア)甲3発明における珪素原子と炭素原子の比(Si/C)について
甲3発明における「炭素と酸素と珪素が、それぞれ15~50%、30~65%、5~30%の割合で存在すること」は、珪素原子と炭素原子の比(Si/C)という点では、0.1(炭素と酸素と珪素の割合が、それぞれ50%、45%、5%)以上、2(同じく15%、55%、30%)以下となり、この数値範囲は、本件発明1の数値範囲を包含する。しかしながら、炭素と酸素と珪素の数値範囲で一体の技術的意義を示している甲3発明から「ボイルまたはレトルト用」と特定した上で炭素と珪素だけを抽出し、「珪素原子と炭素原子の比(Si/C)が、0.90以上1.60以下」とする合理的な理由及び技術的な必然性は認められない。
(イ)甲4記載事項の適用について
甲4記載事項において、本件発明1の用語で表現すれば、蒸着膜上にバリアコート層が設けられており、バリアコート層が、金属アルコキシドと水溶性高分子との樹脂組成物から構成されるガスバリア性塗布膜であり、ガスバリア性塗布膜の表面は、金属原子と炭素原子の比が、0.80以上1.60以下であることといえ、また、甲4の【0115】には、金属原子と炭素原子の比として、珪素原子と炭素原子の比(Si/C)が1.25、1.03のものが例示されている。
しかしながら、甲3発明は、食品等の包装材料として使用可能なバリア性フィルムに関するものであるのに対して、甲4記載事項は、真空断熱材用外包材に用いられるものであり、技術分野が共通するものではなく、積層構造も異なるものであり、さらにレトルトやボイルを前提とする記載がなされているわけではない。
また、バリアコート層の脆性に関して、甲3には、「炭素の割合が・・・15%より少ない場合、バリア性が悪くなり、脆性が脆くなる」(【0044】)と記載されているのに対して、甲4には、炭素原子に対する金属原子の比率(金属原子数/炭素原子数)の記載に続き「比率が上記範囲(注「0.5」又は「0.8」)に満たないと(注:炭素原子数が大きくなる場合)、オーバーコート層の脆性が大きくなり、得られるオーバーコート層の耐水性および耐候性等が低下する場合がある。」(【0111】)と記載されており、正反対の内容の記載がある。
そうすると、当業者において、甲3発明の食品包装材料についてボイル又はレトルト用途とするとしても、甲4におけるオーバーコート層を構成する原子における金属原子の比率は加熱によってもガスバリア性が維持されるかどうかとは関わりのないものであること、甲4には炭素原子と金属原子の比率と膜質の脆性について甲3と正反対の記載があることに鑑みても、甲3発明とは技術分野も積層構造も異なる真空断熱材用外包材に関する甲4の積層体の中から、オーバーコート層付きフィルムの中のオーバーコート層及び無機層に関する記載に着目した上、オーバーコート層における炭素原子に対する金属原子の比率(金属原子数/炭素原子数)を参酌して、甲3発明に適用する動機付けはない。
(ウ)申立人の主張について
申立人は、令和6年8月29日に提出した上申書(第4ページ10行~第5ページ22行)において、甲4には、「また、延伸時のフィルムの耐レトルト性などの低下が回避される。」(【0127】)、「なお、エチレン・ビニルアルコール共重合体単独、またはポリビニルアルコール系樹脂とエチレン・ビニルアルコール共重合体との混合組成物を用いて得られたオーバーコート層は、熱水処理後のガスバリア性に優れる。一方、ポリビニルアルコール系樹脂単独を主成分とするオーバーコート層を設ける場合にはそのオーバーコート層の上に、エチレン・ビニルアルコール共重合体を含有するオーバーコート層を積層すると、熱水処理後のガスバリア性を向上させることができる。」(【0142】)との記載があることから、甲4がレトルトやボイルを想定していないとはいえない旨主張する。
確かに、甲4に上記記載はあるものの、当該記載により、甲3発明に甲4記載事項を適用する動機付けが存在するとはできない。すなわち、仮に甲4がレトルトやボイルを想定していないとはいえないとしても、上記(イ)のとおり、甲4におけるオーバーコート層を構成する原子における金属原子の比率は加熱によってもガスバリア性が維持されるかどうかとは関わりのないものであり、甲4には炭素原子と金属原子の比率と膜質の脆性について甲3と正反対の記載がなされているものである。加えて、甲4における主目的は、地球温暖化防止のため温室効果ガスの削減が推進され、電気製品等の省エネルギー化が求められている中、消費電力量低減の観点から、電気製品等への真空断熱材の採用が進められていることを背景として、高温高湿な環境においても長期間断熱性能を維持することができる真空断熱材を形成可能な真空断熱材用外包材等を提供することである(【0001】~【0008】)。この「高温高湿な環境においても長期間断熱性能を維持する」目的を踏まえれば、「高温多湿な環境」は想定されていても、物を入れて積極的に加熱殺菌処理をする行為であるレトルトやボイルについて記載されているとは認められない。
したがって、申立人の上記主張に首肯することはできない。
ウ 小括
よって、本件発明1は、甲3発明及び甲4記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)本件発明2について
本件発明2は、珪素原子と炭素原子の比(Si/C)が「0.92以上1.45以下」と、本件発明1より狭い数値範囲としたものである。
そうすると、本件発明2は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに発明特定事項を限定するものであるから、甲3発明及び甲4記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4)本件発明3~10について
本件発明3~10は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに発明特定事項を加えるものであるから、いずれも甲3発明及び甲4記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(5)本件発明11について
甲3発明を包装材料として用いた包装(以下「甲3発明の2」という。)の「包装」は、本件発明11の「包装容器」に相当する。
そして、本件発明11は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、甲3発明の2との対比において相違点2と相違点3を有するものである。
この相違点についての判断は上記(2)イにおける検討と同様であるから、本件発明11は、甲3発明の2及び甲4記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(6)本件発明12、13、15について
本件発明12、13、15は、本件発明2の発明特定事項を全て含み、甲3発明との対比において相違点2と相違点3を有するものである。
この相違点についての判断は上記(2)イにおける検討と同様であるから、本件発明12、13、15は、甲3発明及び甲4記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(7)本件発明14、16について
本件発明14、16は、本件発明2の発明特定事項を全て含み、甲3発明の2との対比において相違点2と相違点3を有するものである。
この相違点についての判断は上記(2)イにおける検討と同様であるから、本件発明14、16は、甲3発明の2及び甲4記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
第5 取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由について
1 取消理由通知(決定の予告)に採用しなかった特許異議申立理由の概要
(1)申立理由1(同日出願)
本件発明9~11は、甲1の請求項1、3又は9に係る発明と同一であるから、特許法39条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
(2)申立理由2(甲2に基づく新規性・進歩性)
請求項1~11に係る発明は、甲2に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるため、請求項1~11に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
また、請求項1~11に係る発明は、甲2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許を受けることができないものであるため、請求項1~11に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(3)申立理由3(甲4に基づく進歩性)
請求項1~11に係る発明は、甲4に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許を受けることができないものであるため、請求項1~11に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(4)申立理由4(サポート要件)
請求項1~11に係る発明は、次の点で発明の詳細な説明に記載したものでないから、本件特許の特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に適合しないため、請求項1~11に係る特許は、同法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
請求項1に係る発明は、「ガスバリア性塗布膜の表面は、X線光電子分光法(XPS)により測定される珪素原子と炭素原子の比(Si/C)」が、「1.60以下」であることを特定しているが、本件明細書において、実際に課題を解決できたものとして示されているものは、Si/C比率が0.83以上である場合のみであり、また、本件明細書の発明の詳細な説明には、Si/C比率が小さくなることで屈曲させてもガスバリア性の低下が抑制できるという理論的な説明もなされていないから、Si/C比率が0以上0.83未満である場合には、本件明細書の発明の詳細な説明から課題を解決できることを当業者が認識することができないため、請求項1及び請求項1を引用する請求項3~7に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものではない。
また、請求項2に係る発明は、請求項1において「珪素原子と炭素原子の比が0.50以上である」というものであり、Si/C比率が0.50以上0.83未満である場合には、本件明細書の発明の詳細な説明から課題を解決できることを当業者が認識することができないため、請求項2に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものではない。
(5)提出された証拠
甲1:特許第6895135号公報(甲第1号証)
甲2:特開平10-264292号公報(甲第2号証)
甲3:特開2009-154449号公報(甲第3号証)
甲4:特開2017-211082号公報(甲第4号証)
2 当審の判断
(1)申立理由1(同日出願)について
本件訂正により、本件発明9~11と同日出願である甲1の請求項1、3、9に係る発明は、それぞれ同一ではないものとなった。よって申立理由1は、理由がない。
(2)申立理由2(甲2に基づく新規性・進歩性)について
甲2(【0001】~【0005】、【0018】、【0025】、【0031】、【0035】、【0051】、【0058】、【0074】、【0075】、【0080】~【0083】、【0091】、【0097】)には、特に、テスト16(【0091】)に用いられた、「バリア性被覆層のある構成」の実施例4(【0075】)に着目すると、次の「甲2発明」が記載されている。
「厚さ20μmの二軸延伸ポリプロピレンフィルムの片面に、アクリルポリオール樹脂とイソシアネート樹脂を(アクリルポリオール樹脂のOH基):(イソシアネート樹脂のNCO基)が1:1になるように混合したプライマーAを0.10μmの厚みでコーティングにより積層し、プライマー層上に、無機化合物からなるガスバリア性の薄膜層として酸化アルミニウムからなる薄膜層を100~300Åの厚さになるように積層し、さらに、ガスバリア性被膜として、テトラエトキシシラン10.4gに塩酸(0.1N)89.6gを加え、30分間撹拌し加水分解させた固形分3wt%(SiO換算)の加水分解溶液であるA液とポリビニルアルコールの3wt%水/イソプロピルアルコール溶液(水:イソプロピルアルコール重量比で90:10)であるB液とを配合比(wt%)で60/40に混合したコーティング剤を0.3μmの厚さに積層し、最後に、ドライラミネート法により、ウレタン系接着剤層を介して、ヒートシール性の樹脂として厚み30μmの未延伸ポリプロピレンフィルムを積層した、食品等に用いられるパウチを作製するための積層体。」
本件発明1と甲2発明とを対比すると、少なくとも上記相違点2、相違点3と同様の点で相違する。そして、当該相違点についての判断は、上記第4の2(2)イにおける検討と同様である。
よって、本件発明1は、甲2発明ではなく、また、甲2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
同様に、本件発明2~16は、甲2発明ではなく、また、甲2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)申立理由3(甲4に基づく進歩性)について
甲4(【請求項3】、【0003】、【0055】、【0058】、【0108】~【0115】、【0146】、【0180】~【0183】、【0188】~【0197】)には、特に、実施例4、実施例5に着目すると、次の「甲4発明」が記載されている。
「第1フィルム(PETフィルム/接着剤/金属酸化物リン酸層)と、接着剤と、オーバーコート層付きフィルム(PETフィルム/接着剤/シリカ蒸着層/接着剤/オーバーコート層)と、熱溶着可能なフィルムの順で積層された層構成を有する外包材であって、熱溶着可能なフィルムは、未延伸ポリプロピレンフィルムであり、接着剤は、ポリエステルを主成分とする主剤、脂肪族系ポリイソシアネートを含む硬化剤、および酢酸エチルを、重量配合比が主剤:硬化剤:酢酸エチル=10:1:14となるように混合して得られる2液硬化型の接着剤であり、オーバーコート層は、A液およびB液を用いたオーバーコート層形成用組成物におけるポリビニルアルコール(PVA)の含有量が、テトラエトキシシラン(TEOS)100質量部に対して50質量部となるように調製されたオーバーコート層形成用組成物を用いて作製されたものであって、バリア性を有するPVA-TEOS層であり、A液がPVA、イソプロピルアルコールおよびイオン交換水からなる混合液であり、B液が、TEOS、イソプロピルアルコール、塩酸およびイオン交換水からなる加水分解液であり、PVA-TEOS層の、X線光電子分光法により測定されたSi及びC(原子比率)の比率(Si/C)が1.03である、袋体を有する真空断熱材用外包材。」
本件発明1と甲4発明とを対比すると、少なくとも次の点で相違する。
[相違点4]
「積層体」に関して、 本件発明1は「ボイルまたはレトルト用バリア性積層体」であるのに対して、甲4発明は「真空断熱材用外包材」である点。
相違点4について検討する。
甲4発明は、地球温暖化防止のため温室効果ガスの削減が推進され、電気製品等の省エネルギー化が求められている中、消費電力量低減の観点から、電気製品等への真空断熱材の採用が進められていることを背景として、高温高湿な環境においても長期間断熱性能を維持することができる真空断熱材を形成可能な真空断熱材用外包材等を提供することを主目的とするものである(【0001】~【0008】)。
ここで、甲4において、「高温多湿な環境」は想定されていても、物を入れて積極的に加熱殺菌処理をする行為であるレトルトやボイルまで想定しているとは考えられない。したがって、このような甲4発明に基づいて、ボイルまたはレトルト用バリア性積層体を想到することは、当業者が容易になし得たことではない。
よって、本件発明1は、甲4発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。同様に、本件発明2~16は、甲2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4)申立理由4(サポート要件)について
申立人の主張は、Si/C比率が0以上0.83未満又は0.50以上0.83未満である場合には、本件明細書の発明の詳細な説明から課題を解決できることを当業者が認識することができないというものであるところ、本件訂正により、Si/C比率の下限は「0.90」となったから、上記主張は当たらないものとなった。
第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、請求項1~16に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1~16に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2022-700021