特許異議申立
2021-701165
鋼橋の保全工法
- 審判番号
- 2021-701165
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2017-010515
- 登録番号
- 6885577
- 請求日
- 2021年12月09日
- 審決日
- 2023年12月27日
- 公報発行日
- 2024年05月31日
- 結論
- 請求成立(取消)
- 当事者
- 【権利者】ヤマダインフラテクノス株式会社
- 【権利者代理人】岩田 康利
- 【異議申立人】末吉 直子
- 【異議申立人代理人】加藤 圭
- 審判長/審判官
- 審判長 刈間 宏信
- 審判官 菊地 牧子
- 審判官 田々井 正吾
- 分類
- P1651.121-ZAA(B24C) / P1651.537-ZAA(B24C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第2項、特許法第126条第7項、特許法第36条第6項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6885577号発明「鋼橋の保全工法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6885577号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1について訂正することを認める。
特許第6885577号の請求項1に係る特許を取り消す。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6885577号の請求項1に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願は、平成29年1月24日に出願され、令和3年5月17日にその特許権の設定登録がされ、令和3年6月16日に特許掲載公報が発行された。
本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和 3年12月 9日 :特許異議申立人末吉直子(以下「申立人」という。)による請求項1係る特許に対する特許異議の申立て
令和 4年 3月 3日付け:取消理由を通知
令和 4年 5月 9日 :特許権者ヤマダインフラテクノス株式会社(以下「特許権者」という。)による訂正請求と意見書の提出
令和 4年 5月17日付け:申立人へ訂正請求があった旨の通知
令和 4年 5月20日 :特許権者より面接を希望する旨の上申書の提出
令和 4年 6月16日 :申立人による意見書の提出
令和 4年 7月 7日 :特許権者に対し面接審理を実施
令和 4年 8月 3日付け:訂正拒絶理由を通知
令和 4年10月 3日 :特許権者による訂正請求(以下「第2訂正請求」という。)と意見書の提出
令和 4年10月20日付け:第2訂正請求に係る手続に対する却下理由を通知
令和 4年11月30日付け:第2訂正請求に係る手続の却下の決定
令和 5年 3月23日付け:取消理由を通知(決定の予告)
令和 5年 5月29日 :特許権者による訂正請求(以下「本件訂正」という。)と意見書(以下「特許権者意見書」という。)の提出
令和 5年 6月21日付け:申立人へ訂正請求があった旨の通知
令和 5年 7月20日 :申立人による意見書の提出
令和 5年 9月19日付け:訂正拒絶理由を通知
令和 5年10月25日 :特許権者による意見書の提出
第2 本件訂正の適否
1 請求の趣旨
本件訂正請求における請求の趣旨は、本件特許の特許請求の範囲を本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1について訂正することを求めるものである。
2 本件訂正
本件訂正の訂正事項は、以下のとおりである。(下線部は訂正箇所である。)
<訂正事項>
特許請求の範囲の請求項1に
「鋼橋に対して共通投射材を投射してブラスト処理とショットピーニング処理とを同時に行う同時処理工程を含む鋼橋の保全工法であって、
前記ブラスト処理は、前記共通投射材を前記鋼橋に対して投射することによって前記鋼橋の表面の素地調整をするものであり、
前記ショットピーニング処理は、前記共通投射材を前記鋼橋に対して投射することによって前記鋼橋の表面に圧縮残留応力を与えるものであり、
前記共通投射材が、
JIS B2711:2013に規定されたコンディションドカットワイヤショットであり、
さらに、
前記ブラスト処理及び前記ショットピーニング処理を同時に行う前記同時処理工程の後に前記鋼橋の表面に最終塗膜を形成するための最終仕上げ塗装を行う工程を含むことを特徴とする鋼橋の保全工法。」
と記載されているのを、
「既設の鋼橋に対して共通投射材を投射してブラスト処理とショットピーニング処理とを同時に行う同時処理工程を含む鋼橋の保全工法であって、
前記ブラスト処理は、前記共通投射材を前記鋼橋に対して投射することによって前記鋼橋の表面の素地調整をするものであり、
前記ショットピーニング処理は、前記共通投射材を前記鋼橋に対して投射することによって前記鋼橋の表面に圧縮残留応力を与えるものであり、
前記共通投射材が、
JIS B2711:2013に規定されて、前記鋼橋の表面を細かく切削及び打撃するコンディションドカットワイヤショット(JIS B2711:2013「ばねのショットピーニング」附属書JAにおいて規定された円形度が85%以上95%以下であること)であり、
前記同時処理工程において使用された前記共通投射材は、回収された後、当該共通投射材と、剥離した塗膜を含む異物と、を分別して再利用されるものであり、
さらに、
前記ブラスト処理及び前記ショットピーニング処理を同時に行う前記同時処理工程の後に前記鋼橋の表面に最終塗膜を形成するための最終仕上げ塗装を行う工程を含むことを特徴とする鋼橋の保全工法。」
に訂正する。
3 訂正要件の検討
本件特許異議の申立ては、訂正前の全ての請求項である請求項1に対してされているので、本件訂正請求に対して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
(1)訂正前の請求項1の「鋼橋に対して共通投射材を投射してブラスト処理とショットピーニング処理とを同時に行う同時処理工程」を「既設の鋼橋に対して共通投射材を投射してブラスト処理とショットピーニング処理とを同時に行う同時処理工程」に訂正する事項(以下、「事項A」という。)について
ア 訂正の目的
事項Aに係る訂正は、同時処理工程の対象である鋼橋について、「既設」のものであることを限定するものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記アの減縮が、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであることの事情は認められないから、事項Aに係る訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。
ウ 本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であること
同時処理工程の対象である鋼橋について「既設」のものであることは、本件明細書の段落【0037】に「なお、本発明における保全には、新設する際の鋼橋、あるいは既設の鋼橋に対して、腐食を予防するために行われる保全作業が含まれる。」と記載されているから、事項Aに係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてしたものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合する。
エ 事項Aに係る訂正の適否
よって、事項Aに係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とし、同法同条第9項で準用する同法第126条第5項、及び第6項に適合するものである。
(2)訂正前の請求項1の「JIS B2711:2013に規定されたコンディションドカットワイヤショット」を「JIS B2711:2013に規定されて、前記鋼橋の表面を細かく切削及び打撃するコンディションドカットワイヤショット」に訂正する事項(以下、「事項B」という。)について
ア 訂正の目的
事項Bに係る訂正は、JIS B2711:2013に規定されたコンディションドカットワイヤショットについて、「鋼橋の表面を細かく切削及び打撃する」ことを限定するものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記アの減縮が、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであることの事情は認められないから、事項Bに係る訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。
ウ 本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であること
同時処理工程の対象である鋼橋について「鋼橋の表面を細かく切削及び打撃する」ことは、本件明細書の段落【0037】に「具体的には、ブラスト処理とは「処理する鋼材表面に大きな運動エネルギーをもつ研削材を衝突させ、鋼材表面を細かく切削及び打撃することによって、鋼材表面の酸化物又は付着物を除去して鋼材表面を清浄化及び粗面化すること。」である。」と記載されているから、事項Bに係る訂正は、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合する。
エ 事項Bに係る訂正の適否
よって、事項Bに係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とし、同法同条第9項で準用する同法第126条第5項、及び第6項に適合するものである。
(3)訂正前の請求項1の「コンディションドカットワイヤショット」を「コンディションドカットワイヤショット(JIS B2711:2013「ばねのショットピーニング」付属書JAにおいて規定された円形度が85%以上95%以下であること)」に訂正する事項(以下、「事項C」という。)について
ア 訂正の目的
事項Cに係る訂正は、コンディションドカットワイヤショットについて、「JIS B2711:2013「ばねのショットピーニング」付属書JAにおいて規定された円形度が85%以上95%以下であること」を限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記アの減縮が、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであることの事情は認められないから、事項Cに係る訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。
ウ 本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であること
(ア)本件明細書等の記載について
本件明細書等の段落【0013】には「また、前記共通投射材が、(JIS B2711:2013に規定された)コンディションドカットワイヤショットであることが望ましい。」、段落【0028】には「また、前記同時処理で使用される共通投射材は、例えば(JIS B2711:2013に規定された)コンディションドカットワイヤショットが望ましい。コンディションドカットワイヤショットとしてはいわゆるラウンドカットワイヤが含まれる。」、及び段落【0037】には「・・・また、JIS B2711:2013「ばねのショットピーニング」において、ショットピーニングとは「ばねの表面層に球形に近い硬質粒子を高速度で打ち当てることによって、疲労強度及び耐応力腐食割れ性の向上を図る冷間加工法。表面に圧縮残留応力を与え、その表面を加工硬化させる。」ことである。」との記載があるものの、事項Cに係るJIS B2711:2013「ばねのショットピーニング」附属書JAに関し、「円形度が85%以上95%以下であること」については、本件明細書等には明示的な記載が存在しない。
(イ)JIS B2711:2013「ばねのショットピーニング」附属書JAの内容(甲第1号証を参照。)について
これに対して、事項Cに係るJIS B2711:2013「ばねのショットピーニング」附属書JA(甲第1号証)には、以下の内容が記載されている。
a 「JA.2.3 コンディションドカットワイヤショット
コンディションドカットワイヤショットは,カットワイヤショットの角の部分を丸めたもので・・・
なお,角の丸めの程度を表す円形度(JA.3.4.1参照)は85%以上でなければならない。
・・・」
b 「JA.3.4.1 円形度試験
コンディションドカットワイヤショットの球形の程度は,無作為に抽出した10個のショットについて,次の式から円形度を求め,その平均値で表す。円形度は%で表し,JIS Z 8401によって5%単位に丸める。
[図:0001410173000001.jpg]
ここに,C: 円形度
A: ショットの長手方向形状の投影面積(図JA.1参照)
S: 投影形状の周囲長(図JA.1参照)
[図:0001410173000002.jpg]
図JA.1-コンディションドカットワイヤショットの投影図
注記 円形度は画像処理法などによって求めるのが便利である。また、円形度は受渡当事者間の協定によって,無作為に抽出した10個以上のショットについて,図JA.2に示す形状写真と比較して判定してもよい。
[図:0001410173000003.jpg]
図JA.2-コンディションドカットワイヤショットの円形度
」
(ウ)新規事項について
上記のa、bからみて、JIS B2711:2013「ばねのショットピーニング」附属書JAにおいて、コンディションドカットワイヤショットの円形度は85%以上であって(上記a)、この円形度はJIS Z 8401によって5%単位に丸める(上記b)ものであり、円形度を求めるための比較写真である図JA.2として、円形度85%、90%、及び95%の3種類のみのコンディションドカットワイヤショットの形状写真が掲載されている。
そうすると、本件明細書等に事項Cの「円形度が85%以上95%以下であること」が明示的に記載されていないとしても、事項Cに係るJIS B2711:2013「ばねのショットピーニング」附属書JAには、円形度85%、90%、及び95%のコンディションドカットワイヤショットの内容について具体的に記載されており、JISは当業者にとって技術常識といえることから、当業者であれば、本件明細書等に記載されたコンディションドカットワイヤショットにおいては円形度が85%以上95%以下に規定されることが、自明な事項として理解できるものである。
したがって、事項Cに係る訂正は、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてした訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合する。
エ 事項Cに係る訂正の適否
よって、事項Cに係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とし、同法同条第9項で準用する同法第126条第5項、及び第6項に適合するものである。
(4)訂正前の請求項1に対して、「前記同時処理工程において使用された前記共通投射材は、回収された後、当該共通投射材と、剥離した塗膜を含む異物と、を分別して再利用されるものであり、」を追加して訂正する事項(以下、「事項D」という。)について
ア 訂正の目的
事項Dに係る訂正は、同時処理工程で投射して使用された共通投射材について、「回収された後、当該共通投射材と、剥離した塗膜を含む異物と、を分別して再利用される」ことを限定するものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記アの減縮が、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであることの事情は認められないから、事項Dに係る訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。
ウ 本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であること
同時処理工程で投射して使用された共通投射材が、「回収された後、当該共通投射材と、剥離した塗膜を含む異物と、を分別して再利用される」ことについて、本件明細書の段落【0026】に「また、上記手順と共に、粉塵の回収工程を実行する(S110)。具体的には、前記同時処理(S103)で発生した使用済み共通投射材、及び剥離物やサビ等を含む粉塵を分別しつつ回収していく。」と記載され、段落【0027】に「なお、回収した使用済み共通投射材は、投射によって破砕されていなければ再利用することができる。再利用可能な共通投射材は、剥離した塗膜やその他の異物と分別することで廃棄物の量を大幅に減少させることができる。」と記載され、その内容が図1に図示されているから、事項Dに係る訂正は、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合する。
エ 事項Dに係る訂正の適否
よって、事項Dに係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とし、同法同条第9項で準用する同法第126条第5項、及び第6項に適合するものである。
4 本件訂正の適否の結論
したがって、事項A~Dからなる訂正事項に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、同法同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
よって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記第2のとおり、本件訂正は認められたから、特許第6885577号の請求項1に係る発明(以下「本件発明」という。)は、願書に添付した特許請求の範囲の請求項1に記載した以下の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
既設の鋼橋に対して共通投射材を投射してブラスト処理とショットピーニング処理とを同時に行う同時処理工程を含む鋼橋の保全工法であって、
前記ブラスト処理は、前記共通投射材を前記鋼橋に対して投射することによって前記鋼橋の表面の素地調整をするものであり、
前記ショットピーニング処理は、前記共通投射材を前記鋼橋に対して投射することによって前記鋼橋の表面に圧縮残留応力を与えるものであり、
前記共通投射材が、
JIS B2711:2013に規定されて、前記鋼橋の表面を細かく切削及び打撃するコンディションドカットワイヤショット(JIS B2711:2013「ばねのショットピーニング」附属書JAにおいて規定された円形度が85%以上95%以下であること)であり、
前記同時処理工程において使用された前記共通投射材は、回収された後、当該共通投射材と、剥離した塗膜を含む異物と、を分別して再利用されるものであり、
さらに、
前記ブラスト処理及び前記ショットピーニング処理を同時に行う前記同時処理工程の後に前記鋼橋の表面に最終塗膜を形成するための最終仕上げ塗装を行う工程を含むことを特徴とする鋼橋の保全工法。」
第4 取消理由の概要
当審が令和5年3月23日付けで、「決定の予告」として特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
A.(サポート要件)本件特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
B.(進歩性)請求項1に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である甲第5号証、甲第2号証、及び周知技術(甲第4号証、及び周知技術例1を参照。)に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
第5 当審の判断
1 引用する証拠等
甲第2号証:特開2016-65443号公報(以下「甲2」という。)
甲第4号証:“航空機業界向コンディションドカットワイヤー”、[online]、平成19年5月4日(デジタルアーカイブである「WayBack Machine」 に保存された日付)、東洋製鋼株式会社、[令和3年11月25日検索]、インターネット<URL:https://web.archive.org/web/20070504024137/http://www.toyoseiko.co.jp/product/product06.html>[当業者の知識の認定の基礎として参照する周知技術を例示する文献。](以下「甲4」という。)
甲第5号証:長谷川正義、外2名、“鋼材溶接継手の疲労強度に及ぼす強ショットピーニング清掃および溶融亜鉛めっきの影響”、溶接学会論文集、一般社団法人溶接学会、2007年、第25巻、第4号、p.486~493(以下「甲5」という。)
周知技術例1:実願昭51-9802号(実開昭52-100839号)のマイクロフィルム[令和5年3月23日付け取消理由通知(決定の予告)において引用した、当業者の知識の認定の基礎として参照する周知技術を例示する文献。](以下「周1」という。)
2 取消理由通知書に記載した理由B(進歩性)
事案に鑑み、理由B(進歩性)から検討する。
(1)甲5の記載事項及び甲5発明
ア 甲5の記載事項
(ア)「一方,大きな応力を受ける橋梁および建築物等の大型構造物は強度が高く,その上安価な材料が要求されるので鋼材が用いられている.しかし鋼材は錆び易く,それによって強度が著しく低下するので,それを防止するための防錆処理が不可欠である.そのためには溶接により付着したスラグ,スパッタおよびヒューム等の汚れを除去して表面を清浄にする必要がある.この清掃作業には通常,電動タガネや電動ブラシ等が用いられているが,これらの清掃速度は約0.5mm/minと低いばかりでなく,鋼板表面に傷をつけ,それが応力集中となり疲労強度を著しく低下させる危険性が含まれている.
これに比べ,ショットピーニング処理速度は通常7~12m/minと高いことは周知のとおりである.そこで前述の大粒径の鋼球ショット材を用い,高投射圧力のもとで強ピーニング処理により鋼板表面の清掃(以下,これを強ピーニング清掃という)を行った.」(第486ページ右欄第9行~第487ページ左欄第2行)
(イ)「本研究では多数の防錆処理の中から溶融亜鉛めっきを採用したが,このめっきは亜鉛と鉄との間にできた合金層により付着力が強いので,めっき層が剥離することはほとんどなく,それに加え,犠牲防食作用もあるので防錆寿命が長く,しかも橋梁および港湾設備等に積極的に用いられているからである.また,これらの構造物はいずれも大型なので清掃面積が非常に広くなるため,清掃速度の大きな強ピーニング清掃がコストの面でも有利になるものと考えたからである.さらに,強ピーニング清掃により鋼板表面の黒皮が完全に除去されるため,その後の溶融亜鉛めっきに必要な酸洗いおよび水洗い時間は著しく短縮され,これによる水素の侵入が激減し,水素による疲労強度の低下防止もできるものと考えられる.また,強ピーニング清掃により形成された凹凸が溶融亜鉛めっきにアンカー効果を与え,さらに亜鉛めっき層の剥離を困難にする効果もあるものと思われる.
そこで本研究では,黒皮付きのSM490Aを用い,溶融亜鉛めっきの前処理と疲労強度の改善を同時に行うために,強ピーニング清掃を行った場合の疲労強度の改善効果を平滑母材,余盛付溶接継手について検討すると共に溶融亜鉛めっきした余盛付溶接継手の疲労強度の改善に及ぼす強ピーニング清掃の効果についても調べた.その結果について報告する.」(第487ページ左欄第3~25行)
(ウ)「強ピーニング清掃は,大粒径の鋼球ショット材(平均粒径600μm)を用い,高投射圧力(0.4MPa)で平滑母材および余盛付溶接継手の溶融亜鉛めっきを行うにあたって障害となる汚れを除去した.この強ピーニング清掃速度は予備実験の結果から溶融亜鉛めっきが可能となる表面が得られる速度の上限である約10m/minを採用した.
・・・
平滑母材および余盛付溶接継手疲労試験片は強ピーニング清掃した場合としない場合およびそれに溶融亜鉛めっきをした場合としない場合の種々の表面状態を作成した.」(第487ページ左欄下から第5行~右欄最終行)
(エ)「Fig.3は平滑母材に各種処理を行った場合の疲労試験結果を比較して示したものである.●印の強ピーニング清掃のみした場合の疲労限度は約320MPaで,◯印の清掃しない場合のそれ(約245MPa)に比べ,約75MPaの改善効果が見られた.また▲印の強ピーニング清掃後に溶融亜鉛めっきした場合の疲労限度は約250MPaで,母材とほぼ同程度まで低下(約70MPaの低下)していることが認められる.・・・
Fig.4は余盛付溶接継手に各種処理を行った場合の疲労試験結果を示したものである.■印の試験片の表裏全体を強ピーニング清掃のみした継手の疲労限度は約300MPaで,□印の溶接のままの継手のそれ(約170MPa)に比べ,約130MPaの著しい上昇が認められる.・・・また,◆で示す強ピーニング清掃後に溶融亜鉛めっきした溶接継手の疲労限度は約220MPaでめっきにより約80MPaも低下することが認められる.」(第488ページ左欄下から第5行~右欄下から第7行)
(オ)「溶融亜鉛めっきした場合には強ピーニング清掃の有無にかかわらず,鋼板表面から約20μmまではいずれも約HV40程度の軟化域が存在することが認められる.この軟化域は亜鉛浴で723Kに加熱後,水冷するまで約1分程度空冷されたために軟化したものと思われる.」(第490ページ左欄第20~25行)
(カ)「溶融亜鉛めっきを行なうことにより,鋼板表面の圧縮残留応力(-200MPa)および最大圧縮残留応力値(-430MPa)はいずれも著しく減少していることが認められた.
益本らの研究5)では,鋼板に亜鉛めっきを行ない,直ちに急冷した場合には圧縮残留応力が増大し,それに伴って疲労強度も増加すると報告しているが,本研究の場合は既に述べたように,めっきにより著しく低下している.これはできるだけ実際の橋梁等の溶融亜鉛めっき処理と同一の実験を行なったため,約723Kの温度のまま約1分程度空冷されたため,圧縮残留応力が減少したものと考えられる.」(第490ページ右欄第28~38行)
(キ)「5.結言
SM490A溶接継手に付着したスラグおよびスパッタ等の汚れを大粒径の鋼球ショット材を用いて強ピーニング清掃を行った場合の清掃状況,清掃能率について検討した.また,溶接継手の疲労強度に及ぼす強ピーニング清掃および溶融亜鉛めっきの影響についても調べた.得られた結果は次のとおりである.
1)強ピーニング清掃した溶接継手の疲労限度は約300MPaで平滑母材の約245MPaに比べ,著しく高い値である.
2)強ピーニング清掃した平滑母材の疲労限度は約320MPaで,清掃しない場合の約245MPaに比べ,きわめて高い値である.
3)強ピーニング清掃による清掃は高能率で,清掃後の表面状態も良好で,直接溶融亜鉛めっき処理が可能であった.
4)強ピーニング清掃による溶接継手の疲労限度(300MPa)の著しい上昇原因は溶接継手の疲労限度(約170MPa,約57%)にピーニング清掃による改善効果(約130MPa,約43%)が加わったものである.改善効果としては余盛止端部の硬さの上昇(約68MPa,23%),応力集中の緩和(約43MPa,約14%),圧縮残留応力の増加(約136MPa,約45%)および表面粗さの増大による減少(約-96MPa,約-32%)が考えられる.
5)溶融亜鉛めっきを行った溶接継手の疲労限度は著しく減少する.これは表面の硬さの低下(約HV40),圧縮残留応力の減少(約-188MPa)およびめっきに伴う諸因子の影響によるものと思われる.」(第493ページ左欄下から第18行~右欄第9行)
イ 甲5の記載事項の整理
上記アより、甲5には以下の技術的事項が記載されている。
(ア)甲5には「鋼材溶接継手の疲労強度に及ぼす強ショットピーニング清掃および溶融亜鉛めっきの影響」に関する研究内容が記載されており、その適用例として橋梁に用いられる鋼材が挙げられ(上記ア(ア))、この橋梁に用いられる鋼材である平滑母材や余盛付溶接継手の表面に対して、鋼球ショット材を用いて、高投射圧力のもとで強ピーニング処理により清掃(以下「強ピーニング清掃」という。)を行う(上記ア(ア)及び(イ))ことが記載されている。
(イ)上記(ア)における強ピーニング清掃については、溶接継手の表面の汚れと黒皮を除去し(上記ア(イ)及び(ウ))、凹凸を形成して(上記ア(イ))溶融亜鉛めっきの前処理を行うこと、及びこの前処理によって形成される凹凸は、溶融亜鉛めっきにアンカー効果を与えるものであり、上記前処理と同時に前記鋼球ショット材を溶接継手に対して投射することによって表面に圧縮残留応力を与え(上記ア(エ)及び(キ)の特に4)の項)、疲労強度の改善を行うこと(上記ア(イ))が記載されている。
(ウ)上記ア(ア)及び(イ)の記載からみて、甲5の鋼球ショット材は橋梁に用いられる鋼材である平滑母材や余盛付溶接継手の表面を強ピーニング清掃するショットであり、甲5の処理は強ピーニング清掃の後に溶融亜鉛めっきを行う工程を含む防錆処理であることが理解される。
(エ)平滑母材や余盛付溶接継手の疲労試験は、強ピーニング清掃の後に溶融亜鉛めっきをした場合の試験だけではなく、強ピーニング清掃のみを行い、溶融亜鉛めっきをしない場合の試験も行われており(上記ア(ウ)及び(エ))、めっきをした場合の方が、残留圧縮応力や、疲労限度が著しく低下すること(上記ア(エ)、(オ)、(カ)及び(キ)の特に5)の項)が記載されている。
また、溶融亜鉛めっきは、橋梁に積極的に用いられる防錆処理であること(上記ア(イ))が記載されている。
ウ 甲5発明
したがって、甲5には以下の発明(以下「甲5発明」という。)が記載されている。
「橋梁で用いられる鋼材である平滑母材や余盛付溶接継手(以下「橋梁用鋼材継手等」という。)に対して鋼球ショット材を投射して溶融亜鉛めっきの前処理と疲労強度の改善を同時に行うための強ピーニング清掃を含む橋梁用鋼材継手等の防錆処理であって、
前記前処理は、前記鋼球ショット材を前記橋梁用鋼材継手等に対して投射することによって前記橋梁用鋼材継手等の表面の汚れや黒皮を除去して凹凸を形成するものであり、
前記疲労強度の改善は、前記鋼球ショット材を前記橋梁用鋼材継手等に対して投射することによって前記橋梁用鋼材継手等の表面に圧縮残留応力を与えるものであり、
前記鋼球ショット材は前記橋梁用鋼材継手等の表面を強ピーニング清掃するショットであり、
上記強ピーニング清掃の後に溶融亜鉛めっきを行う工程を含む橋梁用鋼材継手等の防錆処理。」
(2)本件発明と甲5発明の一致点及び相違点
ア 対比
本件発明と甲5発明を対比すると以下の相当関係が認められる。
(ア)甲5発明の「橋梁用鋼材継手等」は本件発明の「鋼橋」に、以下同様に、「鋼球ショット材」は「共通投射材」に、「防錆処理」は「保全工法」に、それぞれ相当する。
(イ)甲5発明の「溶融亜鉛めっきの前処理」は、橋梁用鋼材継手等に対して鋼球ショット材を投射することで、橋梁用鋼材継手等の表面の「汚れや黒皮を除去して、凹凸を形成」するものであるが、ここで、当該「汚れや黒皮」は溶融亜鉛めっきの障害となるものであり、橋梁用鋼材継手等の表面に形成される凹凸は溶融亜鉛めっきにアンカー効果を与えるものである。これに対して、本件発明の「素地調整」は、サビ等を取り除いたり、古い塗膜を取り除いたりすることと解される(本件特許明細書の段落【0012】)から、甲5発明の「汚れや黒皮を除去して、凹凸を形成」することは本件発明の「素地調整」をすることに相当する。したがって、甲5発明の「溶融亜鉛めっきの前処理」は、素地調整をするという観点からみて、本件発明の「ブラスト処理」に相当する。
(ウ)甲5発明の「疲労強度の改善」は、「圧縮残留応力を与えるもの」である点で共通しているため、本件発明の「ショットピーニング処理」に相当する。
(エ)上記(イ)、(ウ)より、甲5発明の「強ピーニング清掃」は、本件発明の「同時処理工程」に相当する。
(オ)甲5発明の「溶融亜鉛めっきを行う工程」と、本件発明の「前記鋼橋の表面に最終塗膜を形成するための最終仕上げ塗装を行う工程」を対比すると、「前記鋼橋の表面に防錆処理を行う工程」という点で一致する。
(カ)したがって、本件発明と甲5発明は、以下のイの点で一致し、ウの点で相違する。
イ 一致点
鋼橋に対して共通投射材を投射してブラスト処理とショットピーニング処理とを同時に行う同時処理工程を含む鋼橋の保全工法であって、
前記ブラスト処理は、前記共通投射材を前記鋼橋に対して投射することによって前記鋼橋の表面の素地調整をするものであり、
前記ショットピーニング処理は、前記共通投射材を前記鋼橋に対して投射することによって前記鋼橋の表面に圧縮残留応力を与えるものであり、
前記ブラスト処理及び前記ショットピーニング処理を同時に行う前記同時処理工程の後に前記鋼橋の表面に防錆処理を行う工程を含む
鋼橋の保全工法。
ウ 相違点
(ア)相違点1
本件発明の共通投射材が、「JIS B2711:2013に規定されて、前記鋼橋の表面を細かく切削及び打撃するコンディションドカットワイヤショット(JIS B2711:2013「ばねのショットピーニング」附属書JAにおいて規定された円形度が85%以上95%以下であること)」であるのに対して、甲5発明の共通投射材は鋼球ショット材である点。
(イ)相違点2
本件発明が「既設」の鋼橋を対象とし、その表面に「最終塗膜を形成するための最終仕上げ塗装」を行う工程を含むのに対して、甲5発明が対象とする鋼橋は、技術常識からみて既設のものとはいえず、その表面に行う工程が「溶融亜鉛めっき」である点。
(ウ)相違点3
本件発明においては「前記同時処理工程において使用された前記共通投射材は、回収された後、当該共通投射材と、剥離した塗膜を含む異物と、を分別して再利用されるもの」であるのに対して、甲5発明においては共通投射材の使用後の処置は不明である点。
(3)相違点の検討
ア 相違点1について
(ア)甲2記載の技術的事項1
甲2の段落【0015】には、以下の記載がある。
「【0015】
・・・また、JIS B 2711:2013「ばねのショットピーニング」において、ショットピーニングとは「ばねの表面層に球形に近い硬質粒子を高速度で打ち当てることによって、疲労強度及び耐応力腐食割れ性の向上を図る冷間加工法。表面に圧縮残留応力を与え、その表面を加工硬化させる。」ことである。ただし、ばね以外の金属材料に対して行うショットピーニングという表面処理方法は一般的であり、本発明における鋼構造物に対するショットピーニングも同様の内容である。すなわち、本発明においてブラスト処理を行うために用いられる研削材にはグリットが対応すると共に、ショットピーニング処理を行うために用いられる硬質粒子にはショットが対応する。なお、グリットとして、いわゆるスチールカットワイヤーが採用されてもよい。また、ショットとしていわゆるラウンドカットワイヤーが採用されてもよい。」
上記段落【0015】の記載より、甲2には、「鋼橋のような鋼構造物の保全塗装工法におけるショットピーニングとして、JIS B2711:2013「ばねのショットピーニング」と同様の内容の処理を行うこと、及びこのショットピーニング処理を行うために用いられる硬質粒子のショットとしてラウンドカットワイヤーが採用されてもよいこと」(以下「甲2記載の技術的事項1」という。)が記載されている。
(イ)周1の記載事項
周1には以下の記載がある。
a 「2、実用新案登録請求の範囲
エッジ部分を近似鍛造的処理により圧潰成形して概略球形状にしたカットワイヤペレットより成る研掃材。」(明細書第1ページ第4~7行)
b 「本考案は、金属の表面研掃およびショットピーニングに用いる研掃材に関する。
上記のような金属の表面研掃を行なうショットブラストや、またばね等に靱性をもたせる意味でその表面に研掃材を吹付けるピーニング加工用(一種の冷間加工)としての研掃材には、鋳鉄や鋳鋼を使用したボール形状の物が存する。」(明細書第1ページ第9~15行)
c 「特に上記したピーニング加工を行なう場合には被処理物の靱性をどの部分においても均一化することが不可能となる致命的な欠陥を生じる。そのため、一定線径の線材(ワイヤ)を使用し、該線材を一定長さに切断して得たカットワイヤペレットを研掃材として使用することが考えられた。」(明細書第2ページ第12~18行)
d 「本考案はかかる点に鑑み成されたもので、上記カットワイヤペレットより成る研掃材であり乍ら、一貫的な生産工程を経て得られた研掃材が既でに概略球形状化されたエッジ部分を有すると共に、先に述べた従来のボール状研掃材およびカットワイヤ研掃材よりも遙かに高い靱性を発揮する研掃材を提供しようとするもので、その特徴とするところは、エッジ部を近似鍛造的処理により圧潰成形して概略球形状にしたカットワイヤペレットから成ることにある。」(明細書第3ページ第8~17行)
e 「上記近似鍛造的処理とは・・・遠心投射加工方式や、・・・カットワイヤペレットを転動させ且つそのエッジ部分を互に衝突摩耗させる処理を指しており、これらの処理により第2図の如く研掃材3のエッジ部分4が圧潰されて球面化すると共に、・・・」(明細書第4ページ第7~15行)
f 「以上詳述したことによって明らかなように、本考案研掃材は従来のカットワイヤ研掃材と同様に、品質が一定するため被処理面に凹凸を生じさせなく、ピンホールの発生による割れがなく従って長日月使用できる等の効果を有するものであり乍ら、上記従来カットワイヤ研掃材の如きエッジ部分による被処理面の傷みをなくすることができると共に、近似鍛造的処理を経ることによってそれ自身の靱性を飛躍的に高められるため、強力な耐摩耗性、耐圧性を発揮するに至り、研掃処理、ピーニング処理に使用するに効果が大きく、また使用寿命が向上する。」(明細書第6ページ第1~12行)
g 第2図
「
[図:0001410173000004.jpg]
」
(ウ)甲4の記載事項
甲4の第1ページ上部の写真の下には、以下の記載がある。
「東洋精鋼のラウンドカットワイヤー(コンディションドカットワイヤー)は、航空機業界で高い評価を受けています。」
(エ)甲5発明への甲2記載の技術的事項1の適用について
上記甲2記載の技術的事項1における「ラウンドカットワイヤー」は、スチールカットワイヤーを球状化処理したものであり、例えば甲4(上記(ウ))にも記載されているように、「コンディションドカットワイヤー」と同じものとして当業者間に認識されていることが技術常識である。また、甲2には、ショットピーニングの説明おいて、JIS B2711:2013が引用され、その付属書JAには、コンディションドカットワイヤショットの定義がされているから、甲2記載の技術的事項1における「ラウンドカットワイヤー」を用いるショットは、本件発明におけるJIS B2711:2013に規定された「コンディションドカットワイヤショット」の仕様に合致するものといえる。
この甲2記載の技術的事項1におけるコンディションドカットワイヤショットについては、JIS B2711:2013の附属書JAにおいて、上記第2の3(3)ウ(ウ)でも言及したように、円形度85%、90%、及び95%の3種類のもののみが具体的に記載されていることから、円形度が85%以上95%以下に規定されることが理解でき、この点は、相違点1に係る本件発明の「円形度が85%以上95%以下であること」と共通である。また、特許権者も、JIS B2711:2013に規定されたコンディションドカットワイヤショットに関し、実質上100%が存在しないこと(円形度の上限が95%であること)を認めている(令和5年10月25日に提出した意見書第2~3ページ)。
そして、甲5の鋼球ショット材は、鋼橋の保全工法におけるピーニングのための投射材であるから、このようなピーニングのための投射材に関する甲2記載の技術的事項1により、JIS B2711:2013に規定されたコンディションドカットワイヤショットを採用する動機があり、その円形度は85%以上95%以下に規定されるのであるから、甲5発明に甲2記載の技術的事項1を適用して、相違点1に係る構成に想到することは、当業者が容易になし得たことである。
(オ)上記(エ)の適用に関し、コンディションドカットワイヤショットを共通投射材とすることが、本件特許出願時に技術常識であったことについて
周1は、昭和51年(1976年)にされた実用新案登録出願の明細書及び図面に係るものであって、上記(イ)の記載事項からみて、「エッジ部分を近似鍛造的処理により圧潰成形して概略球形状にしたカットワイヤペレットより成る研掃材を使用してブラスト処理(研掃処理)又はショットピーニング処理(ピーニング処理)の両処理を行うこと」が記載されている。
そして、JIS B2711:2013は、周1に係る実用新案登録出願後の2009年に発行されたISOを基に作成され、2013年に改正された日本工業規格であり、その附属書JA(上記第2の3(3)ウ(イ)a)には,「コンディションドカットワイヤショットは,カットワイヤショットの角の部分を丸めたもの」と定義されていることから、当業者であれば、周1が記載された当時の「エッジ部分を近似鍛造的処理により圧潰成形して概略球形状にしたカットワイヤペレットより成る研掃材」は、JIS B2711:2013の「コンディションドカットワイヤショット」に該当すると理解するといえる。
したがって、コンディションドカットワイヤショットのような研掃材がブラスト処理又はショットピーニング処理のいずれにも利用できる共通投射材となり得ることは、本件特許が出願される約40年前に既に見出されており、本件特許出願前の技術常識であったことが認められる。
そして、周1に示される本件特許出願前の技術常識を踏まえれば、やはり上記(エ)で検討したとおり、甲5発明の強ピーニング清掃のショット材として、甲2記載の技術的事項1に示すコンディションドカットワイヤショットを採用することで、相違点1に係る構成を想到することは、当業者が容易になし得たことである。
イ 相違点2について
(ア)甲2記載の技術的事項2
甲2の段落【0002】、【0029】、【0035】には、以下のaの事項が記載され、その内容に関し、図1にはbの内容が図示されている。
a 「【背景技術】
【0002】
従来から、鋼橋等の鋼構造物はサビ等の発生を防ぐ目的や、経年劣化によって変色してしまった塗装の塗り替えのために、定期的に再塗装(保全塗装)が施されている。再塗装を施すためには古い塗装やサビ等を取り除く必要があり、近年ではブラスト処理(1種ケレン)によって除去し、その後、新規の塗装を施すことが行われている。」
「【0029】
図1に示すように、鋼橋(鋼構造物)の保全塗装手順としては、まず保全塗装の対象となる鋼橋に足場を仮設する。これと共に、外部に粉塵が漏出しないように防塵シートを張設し、非塗装部分の養生を行い、ブラスト処理及びショットピーニング処理を行うための装置を設置する事前準備(S101)を行う。」
「【0035】
こうして素地面の確認が済んだ部分に対して最終塗膜を形成するための最終仕上げ塗装を行う(S106)。かかる塗装工程により、本発明にかかる工程Cが構成される。なお、かかる塗装は、例えば防錆塗装として下塗り塗装、該防錆塗装を保護する中塗り塗装、及び最終仕上げ塗装となる上塗り塗装のように複数回にわたって層状に塗装されることが一般的である。」
b 【図1】
「
[図:0001410173000005.jpg]
」
上記段落【0002】により、甲2記載の保全塗装は、再塗装を施すような「既設の」鋼橋を対象とすることが理解されるから、段落【0035】、図1(S101)の記載内容も合わせれば、甲2には、「既設の鋼橋に対して行う保全塗装において、最終塗膜を形成するための防錆塗装を含む最終仕上げ塗装を行うこと」(以下「甲2記載の技術的事項2」という。)が記載されていることが認められる。
(イ)甲5発明への甲2記載の技術的事項2の適用について
甲5における研究は、溶融亜鉛めっきの前処理と疲労強度の改善を同時に行うために強ピーニング清掃を行った場合の疲労強度の改善効果を調べること(上記(1)ア(イ))である。そして、めっきの付着力が強く、防錆寿命が長く、橋梁に積極的に用いられていることなどを理由として、多数の防錆処理の中から溶融亜鉛めっきを採用しているが、疲労試験については、強ピーニング清掃の後に溶融亜鉛めっきをした場合の試験だけではなく、強ピーニング清掃のみを行い、溶融亜鉛めっきをしない場合の試験も行われ(上記(1)ア(ウ)、(エ))、めっきをした場合の方が、残留圧縮応力や、疲労限度が低下すること(上記(1)ア(エ)、(オ)、(カ)、(キ)の特に5)の項)が記載されている。
また、溶融亜鉛めっきをした場合の方が残留圧縮応力や疲労限度が低下する理由について、実際の橋梁等の溶融亜鉛めっき処理と同一の実験、すなわち、約723Kの温度のまま約1分程度空冷されるように実験したことにより、軟化されたと推測している(上記(1)ア(オ)、(カ))。
甲5におけるこれらの記載に接した当業者であれば、多数の防錆処理の中から溶融亜鉛めっきを採用すると、めっきを行う工程において軟化が生じ、残留圧縮応力や疲労限度が低下することを理解するところ、そのような残留圧縮応力や疲労限度の低下が、当業者にとって望ましくないことは明らかである。
このように、甲5における研究は、主に疲労強度の改善効果を調べることを目的として、疲労強度に関する数値を実験で取得しているのに対して、付着力や寿命などの溶融亜鉛めっきの特性に関する実験はしていないから、溶融亜鉛めっきの特性を改善することを目的とした研究とはいえない。そのため、甲5に接した当業者は、甲5の強ピーニング清掃の対象として、溶融亜鉛めっきを行うもののみを認識するとまではいえない。
むしろ、甲5には、溶融亜鉛めっきが疲労強度の改善に望ましくない影響を与えることが示されているから、当業者は、甲5の強ピーニング清掃の対象として、溶融亜鉛めっき以外の防錆処理を施すものを採用することに強く動機付けられるといえる。
そして、上記甲2記載の技術的事項2のような防錆塗装であれば、高温に加熱後に空冷されることがなく、軟化されないことが明らかであるから、甲5発明の溶融亜鉛めっきに替えて、上記甲2記載の技術的事項2を適用することは、当業者が容易に想到し得たことであるといえるし、甲2の段落【0002】に記載されるように、塗装は経年劣化するから再塗装する必要があること、すなわち、「既設」の鋼橋を対象として保全塗装を施す必要があることは当然である。
したがって、甲5発明の溶融亜鉛めっきに替えて、上記甲2記載の技術的事項2を適用し、「既設の鋼橋に対して行う保全塗装において、最終塗膜を形成するための防錆塗装を含む最終仕上げ塗装を行う」ものとすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
ウ 相違点3について
(ア)甲2記載の技術的事項3
甲2の段落【0038】には以下の事項が記載され、その内容に関し、図1には上記イ(ア)bの内容が図示されている。
「【0038】
また、上記手順と共に、粉塵の回収工程を実行する(S110)。具体的には、前記ブラスト処理(S103)で発生した使用済みグリット、前記ショットピーニング処理(S104)で発生した使用済みショット、及び、各工程で生じた剥離物やサビ等を含む粉塵を分別しつつ回収していく。」
上記段落【0038】、図1(S110)の記載より、甲2には、「粉塵の回収工程において、ブラスト処理で発生した使用済みグリット、ショットピーニング処理で発生した使用済みショット、及び各工程で生じた剥離物やサビ等を含む粉塵を分別しつつ回収すること、及び分別したグリットおよびショットを再利用すること」(以下「甲2記載の技術的事項3」という。)が記載されていることが認められる。
(イ)甲5発明への甲2記載の技術的事項3の適用について
ブラスト処理のグリットや、ショットピーニング処理のショットを、機能を失うまで再利用することは、コストの増大や資源の浪費を避けるためにごく一般的に行われているが、甲5には、「また,これらの構造物はいずれも大型なので清掃面積が非常に広くなるため,清掃速度の大きな強ピーニング清掃がコストの面から有利になると考えたからである.」(上記(1)ア(イ))と記載されるなど、甲5発明においても、コストの増大を避けることが示されている。
そして、強ピーニング清掃で清掃対象から除去したものは、投射材と共に再度清掃対象に吹き付けることのないように、再利用される投射材とは分別されるべきであることは当然であるから、甲5発明において、甲2記載の技術的事項3を適用し、相違点3に係る本件発明の「前記同時処理工程において使用された前記共通投射材は、回収された後、当該共通投射材と、剥離した塗膜を含む異物と、を分別して再利用されるもの」とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
(4)特許権者の主張
特許権者の令和5年5月29日提出の意見書(以下単に「意見書」という。)における理由B(進歩性)に関する主張(第4~6ページの5(8)「進歩例について」)について検討する。
ア 主張の概要
(ア)主張1(本件発明と甲5発明の差違に基づく主張)
投射材について、甲5発明では、円形度が100%の鋼球ショットとし、鋼材に溶融亜鉛めっき処理をすることから新規の鋼橋を建造する際に採用されるものであるのに対して、本件発明では、円形度が100%のものを除いた85%以上95%以下のコンディションドカットワイヤショットであり、既設の鋼橋を対象とするものである点で相違している。
(イ)主張2(本件発明の共通投射材の回収、分別、及び再利用に関する主張)
本件発明が、共通投射材を投射した後に回収し、当該共通投射材と、剥離した塗膜を含む異物と、を分別して再利用する工程を含むのに対して、このような工程はいずれの文献にも記載がない。
(ウ)主張3(周1に関する主張)
周1は、圧潰成形して概略球形状にしたカットワイヤペレットが開示されているところ、円形度について一切開示がなく、本件発明の共通投射材に含まれるか否かは判別できず、単に研掃材としての一例が示されているにすぎない。
(エ)主張4(本件発明の作用効果に関する主張)
本件発明は、鋼球ショットのような精緻な球形(すなわち円形度100%)のコンディションドカットワイヤショットを除くことで、既設の鋼橋表面のi)清浄化、ii)粗面化、iii)疲労強度及び耐応力腐食割れ性の向上という課題を解決できる作用効果を奏する。
イ 主張に対する検討
(ア)主張1について
本件発明と甲5発明の円形度が異なる点については、上記相違点1に関して上記(3)ア(エ)、(オ)で検討したとおり、甲5発明の強ピーニング清掃のショット材として、甲2記載の技術的事項1を参照することにより、JIS B2711:2013に規定されたコンディションドカットワイヤショットであって、附属書JAにおいて規定された円形度が85%以上95%以下であるものを採用することに、格別の困難性が存在したということはできないから、この点に関する主張は採用できない。
そして、本件発明が「既設の」鋼橋を、甲5発明が「新規の」鋼橋を対象とする点については、上記相違点2に関して上記(3)イ(イ)で検討したとおり、甲5発明の溶融亜鉛めっきに替えて、上記甲2記載の技術的事項2を適用することで、当然に「既設の」鋼橋を対象とすることになるから、この点に関する主張は採用できない。
(イ)主張2について
共通投射材の回収、分別、及び再利用について、上記相違点3について上記(3)ウ(ア)~(イ)で検討したとおり、甲2記載の技術的事項3が甲2に記載され、甲5発明への適用は、当業者が容易に想到し得たことであるから、主張2は採用できない。
(ウ)主張3について
上記相違点1に関して上記(3)ア(オ)で検討したとおり、周1の研掃材は、JIS B2711:2013において規定されたコンディションドカットワイヤショットの定義に該当するから、当業者は、周1の研掃材をコンディションドカットワイヤショットとして認識する。
そして、周1の研掃材の円形度について一切開示がないとしても、上記相違点1の判断に影響を与えるものではないから、主張3は採用できない。
(エ)主張4について
上記相違点1に関して上記(3)ア(エ)で検討したとおり、甲2記載の技術的事項1におけるラウンドカットワイヤーは、JIS B2711:2013に規定されたコンディションドカットワイヤショットの仕様に合致するといえ、円形度が85%以上95%以下である点で本件発明と共通する。 したがって、甲5発明に甲2記載の技術的事項を適用すれば、本件発明と同様に、主張4の鋼球ショットのような精緻な球形のコンディションドカットワイヤショットを除くことで、i)~iii)の課題を解決できるという作用効果を奏することから、本件発明の奏する作用効果が顕著なものとまではいえず、当業者が予測し得た程度のものである。
ウ 特許権者の主張の採否
したがって、特許権者の主張は、いずれも採用することができない。
(5)小括
以上のとおりであるから、本件発明は、周知技術(甲4、周1を参照。)が示す技術常識を勘案すれば、甲5発明及び甲2記載の技術的事項1~3に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものである。
第6 むすび
したがって、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2021-701165