特許異議申立
2019-700533
石炭灰を原料に用いたコンクリート
- 審判番号
- 2019-700533
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2017-049224
- 登録番号
- 特許第6448066号(P6448066)
- 請求日
- 2019年07月08日
- 審決日
- 2020年04月21日
- 公報発行日
- 2020年08月28日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】大森建設株式会社
- 【権利者代理人】佐々 健太郎
- 【権利者代理人】佐々 紘造
- 【異議申立人】カイハツFRC 株式会社
- 【異議申立人代理人】佐々木 實
- 審判長/審判官
- 審判長 菊地 則義
- 審判官 宮澤 尚之
- 審判官 金 公彦
- 分類
- P1652.537-YAA(C04B) / P1652.536-YAA(C04B) / P1652.113-YAA(C04B) / P1652.121-YAA(C04B) / P1652.851-YAA(C04B) / P1652.852-YAA(C04B) / P1652.856-YAA(C04B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第1項第3号、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第4項第1号
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6448066号発明「石炭灰を原料に用いたコンクリート」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6448066号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~10〕について訂正することを認める。
特許第6448066号の請求項1、2に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第6448066号の請求項1~14に係る特許についての出願は、平成29年3月14日に特許出願され、平成30年12月14日にその特許権の設定登録がされ、平成31年1月9日に特許掲載公報の発行がされたものであり、その後、請求項1及び2に係る特許について、令和1年7月8日付けで、特許異議申立人カイハツFRC株式会社(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、令和1年10月16日付けで取消理由が通知され、令和1年12月25日付けで意見書の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)がされ、本件訂正請求に対して、申立人から令和2年2月26日付けで意見書(以下、「申立人意見書」という。)の提出がされたものである。
第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、以下のとおりである。(なお、訂正箇所に下線を付した。)
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1における
「加水して12時間以上放置した水分含有フライアッシュを原料とした生コンクリート」を
「加水して12時間以上放置しかつ含水率が10~40重量%の水分含有フライアッシュを原料とし、生コンクリートの総重量に対し石炭灰(加湿前のフライアッシュ+クリンカアッシュ)の重量比が0.5~0.7である、生コンクリート」に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2における
「加水して12時間以上放置した水分含有フライアッシュと、クリンカアッシュを原料とし、フライアッシュが細骨材、クリンカアッシュが粗骨材として用いられ」を
「加水して12時間以上放置しかつ含水率が10~40重量%の水分含有フライアッシュと、クリンカアッシュを原料とし、生コンクリートの総重量に対し石炭灰(加湿前のフライアッシュ+クリンカアッシュ)の重量比が0.5~0.7であり、フライアッシュが細骨材、クリンカアッシュが粗骨材として用いられ」に訂正する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項4における
「加水して12時間以上放置した水分含有フライアッシュと、クリンカアッシュを原料とし、フライアッシュが細骨材、クリンカアッシュが粗骨材として用いられ」を
「加水して12時間以上放置しかつ含水率が10~40重量%の水分含有フライアッシュ(既成灰を除く)と、クリンカアッシュを原料とし、生コンクリートの総重量に対し石炭灰(加湿前のフライアッシュ+クリンカアッシュ)の重量比が0.5~0.7であり、フライアッシュが細骨材、クリンカアッシュが粗骨材として用いられ」に訂正する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲請求項5における
「前記水分含有フライアッシュの含水率が10~40重量%である」を
「加水して12~32時間放置した、」に訂正する。
ここで、訂正前の請求項3が訂正前の請求項2を引用し、訂正前の請求項5が訂正前の請求項1~4を引用し、さらに、訂正前の請求項6~10が訂正前の請求項1~5を引用しているため、請求項1~10は一群の請求項であって、訂正事項1~4の特許請求の範囲の訂正は、この一群の請求項〔1~10〕に対して請求されたものである。
2 訂正要件の判断
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の請求項1に記載された「水分含有フライアッシュ」の含水率を「10~40重量%」に限定し、さらに、「生コンクリート」における「石炭灰(加湿前のフライアッシュ+クリンカアッシュ)の重量比」を「0.5~0.7」に限定するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。そして、願書に添付された明細書の段落【0012】には、水分含有フライアッシュの含水率は10~40重量%とするのが好ましいことが記載され、段落【0014】には、生コンクリートの総重量に対し、石炭灰(加湿前のフライアッシュ+クリンカアッシュ)の重量比は0.5~0.7とするのが好ましいことが記載されているから、訂正事項1は、願書に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてなされたものである。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は、訂正前の請求項2に記載された「水分含有フライアッシュ」の含水率を「10~40重量%」に限定し、さらに、「生コンクリート」における「石炭灰(加湿前のフライアッシュ+クリンカアッシュ)の重量比」を「0.5~0.7」に限定するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。そして、願書に添付された明細書の段落【0012】及び【0014】の記載からして、訂正事項2は、願書に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてなされたものである。
(3)訂正事項3について
訂正事項3は、訂正前の請求項4に記載された「水分含有フライアッシュ」の含水率を「10~40重量%」に限定し、「水分含有フライアッシュ」を「水分含有フライアッシュ(既成灰を除く)」に限定し、さらに、「生コンクリート」における「石炭灰(加湿前のフライアッシュ+クリンカアッシュ)の重量比」を「0.5~0.7」に限定するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。そして、願書に添付された明細書の段落【0003】の「既成灰という特殊な原料を用いるという問題があった」との記載や、段落【0012】及び【0014】の記載からして、訂正事項3は、願書に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてなされたものである。
(4)訂正事項4について
訂正事項4は、訂正事項1~3により訂正された請求項1~4と重複する記載を削除するとともに、加水して放置する時間を「12~32時間」に限定するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」及び「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。そして、願書に添付された明細書の段落【0012】には、加水して放置する時間を12時間以上とすることが記載され、段落【0020】には、加水して放置する時間を32時間とすることが記載されているから、訂正事項4は、願書に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてなされたものである。
(5)独立特許要件について
訂正事項1~4は、「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正を含むところ、これらの訂正の対象となる一群の請求項である訂正前の請求項3~10には、特許異議の申立てがされていないから、訂正後の請求項3~10に係る発明については、独立特許要件について検討する必要がある。
しかしながら、訂正前の請求項3~10に係る発明は、拒絶理由を発見しないとして特許されたものであり、また、訂正後の請求項3~10に係る発明は、下記「第3 特許異議申立について」において検討する、訂正後の請求項1及び2に係る発明と同様に、新たな拒絶理由が生じるものではないし、さらに、訂正後の請求項4(請求項4を引用する請求項5~10も同様)における「既成灰を除く」ことは、自然加水によって所定量の水分を含有することとなった既成灰を含まないことを明示的に特定するものであって、不明な点はないから、訂正後の請求項3~10に係る発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるといえる。
3 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項~第7項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1~10〕について訂正を認める。
第3 特許異議申立について
1 本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1~14に係る発明は、訂正特許請求の範囲の請求項1~14に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、特許異議の申立てがされた請求項1及び2に係る特許の発明(以下、「本件発明1」及び「本件発明2」という。)は、次のとおりのものである。
「【請求項1】
AE剤を含まない、加水して12時間以上放置しかつ含水率が10~40重量%の水分含有フライアッシュを原料とし、生コンクリートの総重量に対し石炭灰(加湿前のフライアッシュ+クリンカアッシュ)の重量比が0.5~0.7である、生コンクリート。
【請求項2】
加水して12時間以上放置しかつ含水率が10~40重量%の水分含有フライアッシュと、クリンカアッシュを原料とし、生コンクリートの総重量に対し石炭灰(加湿前のフライアッシュ+クリンカアッシュ)の重量比が0.5~0.7であり、フライアッシュが細骨材、クリンカアッシュが粗骨材として用いられ、硬化促進剤を含まない生コンクリート。」
2 取消理由の概要
訂正前の請求項1及び2に係る特許に対して、令和1年10月16日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は次のとおりである。
(1)特許法第36条第6項第1号の取消理由
発明の詳細な説明の段落【0002】~【0004】の記載からみて、請求項1及び2に係る発明の課題(以下、「本件課題」という。)は、生コンクリートの原料に石炭灰が多く含まれたり、砂利や砂が全て石炭灰に置き換えられてしまうと、硬化後のコンクリートの強度が大きく低下してしまう問題があることである。
そして、発明の詳細な説明の実施例1及び実施例2の実験例には、フライアッシュに、含水率が20~36%になる量の水を事前に加水し、小型ミキサーで撹拌し、15~32時間放置したものを水分含有フライアッシュとして用い、生コンクリートの総重量に対する石炭灰(加湿前のフライアッシュとクリンカアッシュ)の重量比が0.54~0.64であって、水分含有フライアッシュとクリンカアッシュの重量比が92:8~100:0となる量の水分含有フライアッシュ及びクリンカアッシュを含有した生コンクリートが記載され、表5、表9及び表10には、実験例の硬化後の圧縮強度が、比較実験例の硬化後の圧縮強度よりも大きくなることが記載されていることから、実施例1及び2の実験例の生コンクリートであれば、本件課題を解決できる範囲であると当業者が認識できるものである。
これに対して、訂正前の請求項1及び2に係る発明は、「加水して12時間以上放置した水分含有フライアッシュ」における「含水率」の数値範囲を特定していないところ、発明の詳細な説明の段落【0012】の記載からして、含水率は少なすぎても多すぎても、本件課題を解決できるといえないから、水分含有フライアッシュの含水率を特定しない訂正前の請求項1及び2に係る発明は、本件課題を解決できない態様を含み、本件課題を解決できる範囲のものであると当業者が認識できない。
また、訂正前の請求項1及び2に係る発明は、「加水して12時間以上放置した水分含有フライアッシュ」における「放置時間」の上限値を特定していないところ、参考文献(石炭灰混合材料有効利用ガイドライン(エージング灰(既成灰)編)、平成28年3月、一般財団法人石炭エネルギーセンター、<http://www.jcoal.or.jp/ashdb/ashguideline/upload/aging-ash_H28_r2.pdf>)の「第2章」の「2.2.1 性状」の記載を考慮すると、水分含有フライアッシュは、加水後の放置時間が実施例1及び2の実験例に比べて長すぎると、その表面に析出物が生じて変性が生じるため、実施例1及び2の実験例と同様な効果が得られるとは認識できないから、加水後の放置時間の上限値を特定しない訂正前の請求項1及び2に係る発明は、本件課題を解決できない態様を含み、本件課題を解決できる範囲のものであると当業者が認識できない。
さらに、訂正前の請求項1及び2に係る発明は、水分含有フライアッシュの含有量が特定されておらず、また、石炭灰の含有量も特定していないため、フライアッシュあるいは石炭灰を少量しか含有しない生コンクリートのような、本件課題と関係のない生コンクリートも包含するし、また、発明の詳細な説明の段落【0014】の記載からして、石炭灰の含有量が多すぎる場合は、強度が低下して、本件課題を解決できるといえないから、水分含有フライアッシュの含有量を特定しない訂正前の請求項1及び2に係る発明は、本件課題を解決できる範囲のものであると当業者が認識できない。
したがって、訂正前の請求項1及び2に係る発明は、発明の詳細な説明の記載により当業者が本件課題を解決できると認識できる範囲のものとはいえず、また、その記載や示唆がなくとも当業者が本件特許に係る出願時の技術常識に照らし本件課題を解決できると認識できる範囲のものでもない。
よって、訂正前の請求項1及び2に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
3 取消理由の検討
(1)特許法第36条第6項第1号の取消理由
ア 当審の判断
本件発明1の「生コンクリート」は、「AE剤を含まない、加水して12時間以上放置しかつ含水率が10~40重量%の水分含有フライアッシュを原料とし、生コンクリートの総重量に対し石炭灰(加湿前のフライアッシュ+クリンカアッシュ)の重量比が0.5~0.7である」ことに特定された。
まず、本件発明1の「加水して12時間以上放置しかつ含水率が10~40重量%の水分含有フライアッシュ」について検討すると、段落【0012】に「加える水の量で含水率(重量%)を計算する。」と記載されていることからして、含水率を特定することは作為的に加水することになるから、「加水して12時間以上放置しかつ含水率が10~40重量%の水分含有フライアッシュ」は、自然加水されるだけで作為的に加水されていない既成灰を包含しないことは明らかである。
そして、本件発明1では、加水後の放置時間の上限値の特定はないものの、段落【0016】の「放置する時間が長いほど、フライアッシュの粒子表面の凹凸に水が行きわたり、空隙の空気が追い出されるので好ましい。」との記載からして、当該放置時間は、フライアッシュの粒子表面の凹凸に水が行きわたり、空隙から空気を追い出すための時間であることは明らかであるし、また、放置により既成灰のように変性が生じるような時間でないことも明らかであるから、本件発明1の「放置」とは、フライアッシュの粒子表面の凹凸に水が行きわたり、空隙から空気を追い出すための状態であって、既成灰のような変性が生じない状態に維持することを意味していることは明らかであって、その「時間」は、上記効果を奏する範囲であって、任意の上限値まで拡張することを意味していないと解することが妥当である。
また、本件発明1においては、水分含有フライアッシュの含水率は「10~40重量%」であり、生コンクリートの総重量に対し石炭灰(加湿前のフライアッシュ+クリンカアッシュ)の重量比は「0.5~0.7」である。
そうしてみると、上記2(1)に記載した実施例の実験例1及び2の結果や、発明の詳細な説明の「含水率は10~40重量%とするのが好ましく、・・・特に好ましい。含水率が低いと、流動性能が低下するとともに、多孔質であるフライアッシュの細孔(空隙)中に、空気が多く残る。空隙内の空気はコンクリートを蒸気養生させるときに、急激な昇温により膨張し、内部破裂を引き起こし、硬化後のコンクリートの圧縮強度を低下させる。含水率が高いと、混練する際フライアッシュが団粒化し、均一に混練するのが難しくなり、硬化後のコンクリートの圧縮強度が低下する。」(段落【0012】)、「生コンクリートの総重量に対し、石炭灰(加湿前のフライアッシュ+クリンカアッシュ)の重量比に特に制限はないが、好ましくは0.5~0.7である。重量割合が高すぎると強度が低下してしまう可能性があるし、低すぎては、石炭灰の活用を進めるという点から不都合である。」(段落【0014】)、及び、「加水して放置する時間は、12時間以上が好ましく、・・・である。放置する時間が長いほど、フライアッシュの粒子表面の凹凸に水が行きわたり、空隙の空気が追い出されるので好ましい。」(段落【0016】)との記載を考慮すれば、本件発明1は、発明の詳細な説明の記載により当業者が本件課題を解決できると認識できる範囲のものといえる。
また、本件発明2について検討しても、同様の理由により、発明の詳細な説明の記載により当業者が本件課題を解決できると認識できる範囲のものといえる。
したがって、取消理由に理由はない。
イ 申立人の主張の検討
申立人は、本件発明1及び2の「加水して12時間以上放置しかつ含水率が10~40重量%の水分含水フライアッシュ」との特定事項は、どの様な状態で放置されるかによって、加水した水分含水率が変わるから、明確でないし、このような特定事項を含む本件発明1及び2は、本件課題を解決できると認識できる範囲を超えた態様を含むため、サポート要件を満たしていないし、また、本件発明1及び2の「放置時間」の上限値が14日であるとの技術常識は存在しないから、「加水して12時間以上放置」の上限値は依然として特定されているといえず、サポート要件違反である旨を主張している(申立人意見書第3頁第21行~第5頁第24行)。
しかしながら、上記アで検討したとおり、本件発明1及び2の「含水率」は、「加える水の量で含水率(重量%)を計算する」(段落【0012】)ため、放置状態に関係なく、「含水率」は明確であるし、また、本件発明1及び2の「放置」とは、フライアッシュの粒子表面の凹凸に水が行きわたり、空隙から空気を追い出すための状態であって、既成灰のような変性が生じない状態に維持することを意味していることは明らかであって、その「時間」は、任意の上限値まで拡張することを意味していないことも明らかであるから、申立人の上記主張は採用できない。
4 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)特許法第36条第6項第1号の申立理由
ア 申立人は、訂正前の請求項1及び2の「水分含有フライアッシュ」における「フライアッシュ」は、飛灰としてのフライアッシュ、石炭燃焼ボイラから発生し、集塵機で回収された石炭灰、JIS A 6201に適合する石炭灰のいずれに相当するのか明らかでないため、訂正前の請求項1及び2に係る発明は、本件課題を解決できると認識できる範囲を超えた態様を含むため、サポート要件を満たしていない旨を主張している(特許異議申立書第11頁第19行~第12頁第20行)。
そこで検討するに、発明の詳細な説明の記載や技術常識からして、本件発明1及び2の「フライアッシュ」は、飛灰としてのフライアッシュを示していることが明らかであるし、段落【0012】及び【0016】の記載を考慮すれば、実施例1及び2に記載されたフライアッシュ以外のフライアッシュを使用した場合にも、当業者が本件課題を解決できると認識できる範囲のものであるから、申立人の上記主張は採用できない。
イ 申立人は、訂正前の請求項1及び2の「水分含有フライアッシュ」との特定事項は、「単に水分を含有するフライアッシュ」であって、「適宜時間放置され自然加水されたもの」を含むと解釈されるから、訂正前の請求項1及び2に係る発明は、本件課題を解決できると認識できる範囲を超えた態様を含むため、サポート要件を満たしていない旨を主張している(特許異議申立書第13頁第17行~第14頁第1行)。
そこで検討するに、上記3(1)アで検討したとおり、本件発明1及び2では、加水する量(含水量)が特定されているため、本件発明1及び2の「水分含有フライアッシュ」に、適宜時間放置され自然加水されただけで当該含水量となったものが含まれなくなっており、課題を解決できないとはいえないから、申立人の主張は採用できない。
(2)特許法第36条第6項第2号の申立理由
ア 申立人は、訂正前の請求項1及び2の「加水して12時間以上放置した水分含有フライアッシュ」との特定事項は、製造方法による物の特定であるところ、不可能・非実際的事情があるといえないから、訂正前の請求項1及び2に係る発明は明確でない旨を主張している(特許異議申立書第14頁第2行~第15頁末行)。
そこで検討するに、水分含有フライアッシュの細孔内の水分又は空気の量及び分布を特定できたとしても、その違いに係る構造又は特性を文言により一概念に特定することは不可能であるといえるため、本件発明1及び2には、不可能・非実際的事情があるから、申立人の上記主張は採用できない。
イ 申立人は、訂正前の請求項1の「水分含有フライアッシュを原料とする」との特定事項、及び、訂正前の請求項2の「水分含有フライアッシュと、クリンカアッシュを原料とする」との特定事項は、「水分含有フライアッシュ」又は「水分含有フライアッシュとクリンカアッシュ」の何れかだけを原料とすることであるのか、これらを原料の一部とするのかが明らかでないため、訂正前の請求項1及び2に係る発明は明確でない旨を主張している(特許異議申立書第18頁第11~21行)。
そこで検討するに、本件発明1及び2では、「生コンクリートの総重量に対し石炭灰(加湿前のフライアッシュ+クリンカアッシュ)の重量比が0.5~0.7であ」ることが特定されていることからして、本件発明1及び2の上記特定事項は、原料の一部を示していることは明らかである。
よって、申立人の上記主張は採用できない。
(3)特許法第36条第4項第1号の申立理由
ア 申立人は、発明の詳細な説明には、「水、セメント、フライアッシュ」、「水、セメント、フライアッシュ、AE剤」、「水、セメント、フライアッシュ、クリンカアッシュ」、及び、「水、セメント、フライアッシュ、クリンカアッシュ、AE剤」の生コンクリートの実施例しか記載されておらず、これら生コンクリートに、砂利、砂又は混和剤を加えた実施例が記載されていないため、発明の詳細な説明には、訂正前の請求項1及び2に係る発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていないから、実施可能要件違反である旨を主張している(特許異議申立書第17頁第24行~第18頁第10行、第18頁第21行~第19頁第13行)。
そこで検討するに、発明の詳細な説明の段落【0012】及び【0016】の記載によれば、本件発明1及び2は、フライアッシュの粒子表面の凹凸に水が行きわたらせて、空隙の空気を追い出すことを作用機序とするものであるから、当該作用機序に直接影響しない砂利、砂又は混和剤を加えても、実施例1及び2と同様に実施できると当業者であれば認識できるから、申立人の上記主張は採用できない。
イ 申立人は、発明の詳細な説明には、訂正前の請求項1及び2に係る発明の「水分含有フライアッシュ」と「既成灰」の違いを明確に特定できる記載がないため、訂正前の請求項1及び2に係る発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえず、実施可能要件違反である旨を主張している(特許異議申立書第19頁第24行~第21頁第30行)。
そこで検討するに、上記3(1)アで検討したとおり、本件発明1及び2の「水分含有フライアッシュ」は、自然加水されただけで作為的に加水されていない、あるいは、変性が生じた既成灰を包含するものでないから、申立人の上記主張は採用できない。
ウ 申立人は、発明の詳細な説明の段落【0012】に記載された技術的事項は、技術常識に反するため、当該技術的事項を裏付ける証拠資料無しに、訂正前の請求項1及び2に係る発明を当業者が実施できないから、実施可能要件違反である旨を主張している(特許異議申立書第22頁第1行~第23頁第6行)。
そこで検討するに、申立人は、技術常識に反する根拠となる証拠を示していないし、仮に段落【0012】の記載に不備があるとしても、実施例1及び2において実施できることが確認されているから、申立人の上記主張は採用できない。
エ 申立人は、発明の詳細な説明の段落【0023】及び図4のデータからみて、実施例のフライアッシュは、石炭灰でなく、遊離石灰や金属アルミといった物質を含む焼却飛灰が疑われ、正しい分析結果に基づく技術的事項を開示したものでないから、実施可能要件を満足していない旨を主張している(特許異議申立書第23頁第7行~第25頁第5行)。
そこで検討するに、申立人は、実施例のフライアッシュが石炭灰でないことの根拠となる証拠を示していないし、また、遊離石灰や金属アルミといった物質を含むことが石炭灰を含まないことの根拠にならないから、申立人の上記主張は採用できない。
オ 申立人は、訂正前の請求項1及び2に係る発明の「生コンクリート」は、中間物質であって、発明の詳細な説明に記載された作用効果は、所定の性状維持環境下で得られたコンクリート体のものであり、「生コンクリート」の直接的な作用効果といえないから、発明の詳細な説明の記載に不備がある旨を主張している(特許異議申立書第26頁第12行~第28頁第7行)。
そこで検討するに、「生コンクリート」のような中間物質でも発明は成立するし、発明の詳細な説明に記載された測定方法により、所定の性状維持環境下で硬化されたコンクリート体の強度を確認することで、「生コンクリート」の作用効果も確認できるから、申立人の上記主張は採用できない。
(4)特許法第29条第1項第3号及び第2項の申立理由
ア 申立人は、訂正前の請求項1及び2に係る発明は、本件特許に係る出願前に頒布された甲第2号証(特許第5474036号公報)に記載された発明であるか、または、甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである旨を主張している。
イ 甲第2号証に記載された発明
甲第2号証には、
「【請求項1】
所定粒径以下に選別した所定量の既成灰に対して該既成灰の含水率に応じて加減した所定割合の乾灰を必要に応じて混合してなる石炭灰と、該石炭灰に対して所定割合となるセメントと、これら石炭灰およびセメントに対して所定割合となるミキシング水とを、攪拌・粉砕・混合して造粒物を製造するようにしたことを特徴とする石炭灰造粒物の製造方法。」、
「【0039】
既成灰は、石炭火力発電所などから産業廃棄物として排出され、埋立処分場などに埋め立てるなどして含水してしまった石炭灰であり、この発明の石炭灰造粒物の製造方法に利用するときには、含水率が5ないし50%の含水率にあるのが良く、さらに望ましくは25%±5の含水率に調整するのが望ましく、それらの範囲を超えている場合にも、この発明の石炭灰造粒物の製造方法によって含水率に応じて加減した乾灰と混合し、含水率5ないし50%、望ましくは含水率25%±5の範囲に制御して利用することができる。」、
「【実施例1】
【0044】
図1に示す事例は、混合造粒装置4への材料供給系統を、湿潤材供給路1、乾燥材供給路2、水供給路3の合計3つの供給路に分離・隔離してなる造粒プラントを用い、該湿潤材供給路1を通じて既成灰ECを供給し、乾燥材供給路2を通じてセメントC、同乾燥材供給路2を通じて乾灰DC、および、水供給路3を通じてミキシング水Wを、夫々、当該混合造粒装置4に供給して強制的に攪拌・粉砕・混合し、石炭灰造粒物Gを製造するようにした、この発明の石炭灰造粒物の製造方法における代表的な一実施例を示すものである。・・・」、及び、
「【0048】
当該水供給路3は、水計量器30を有して前記混合造粒装置4攪拌・粉砕・混合ミキサー40に、所定量のミキシング水Wを計量・供給可能なものとしてあり、これら既成灰供給路1、乾燥材供給路2(セメント供給路20、乾灰供給路24)、水供給路3の下に配した、混合造粒装置4は、それらから所定量の既成灰EC、セメントC、乾灰DC、ミキシング水Wを受け入れ可能、且つ周回り方向に低速・正転および/または逆転動可能なドラム41、および、該ドラム41内で高速・正転および/または逆転動可能なインペラ(図示せず)を設けてなる攪拌・粉砕・混合ミキサー40を有するものとし、さらに、該攪拌・粉砕・混合ミキサー40下には、同攪拌・粉砕・混合ミキサー40が送出する石炭灰造粒物Gを一時的に収容可能な下部ホッパ42、および、該下部ホッパ42が供給する石炭灰造粒物Gを受けて、2方向の何れか一方に選択的に搬送可能な両方向搬送ベルトコンベア43を配したものとしてある。」
ことが記載され、上記記載を、「攪拌・粉砕・混合ミキサー40」内の固まる前の状態の「混合物」に注目して整理すると、甲第2号証には、
「5ないし50%の含水率、望ましくは25%±5の含水率である既成灰と、既成灰の含水率に応じて加減した所定割合の乾灰を混合してなる石炭灰と、該石炭灰に対して所定割合となるセメントと、これら石炭灰及びセメントに対して所定割合となるミキシング水とからなる、固まる前の状態の混合物。」
の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されているといえる。
ウ 対比、検討
本件発明1と甲2発明を対比すると、甲2発明の「固まる前の状態の混合物」は、本件発明1の「生コンクリート」に相当するところ、本件発明1の生コンクリートは、「加水して12時間以上放置しかつ含水率が10~40重量%の水分含有フライアッシュ」を含有しているのに対して、甲2発明の生コンクリート(固まる前の状態の混合物)は、「5ないし50%の含水率、望ましくは25%±5の含水率である既成灰と、既成灰の含水率に応じて加減した所定割合の乾灰を混合してなる石炭灰」を含有している点で少なくとも相違している(以下、「相違点」という。)。
そこで、相違点について検討するに、甲2発明の「既成灰」及び「乾灰」は、甲第2号証の段落【0039】~【0040】の記載からして、それぞれ、「含水してしまった石炭灰」及び「乾燥状態のままにある石炭灰」である。これに対して、本件発明1の「加水して12時間以上放置しかつ含水率が10~40重量%の水分含有フライアッシュ」は、上記3(1)アで検討したとおり、作為的に加水されていない、あるいは、変性の生じた既成灰を包含するものでないし、また、水分を含有しない乾灰も包含するものでないから、上記相違点は実質的な相違点であって、本件発明1は、甲第2号証に記載された発明といえない。
また、容易想到性について検討するに、甲第2号証には、「加水して12時間以上放置しかつ含水率が10~40重量%の水分含有フライアッシュ」を用いることは記載も示唆もされていないし、そのような技術常識も存在しないから、本件発明1は、甲第2号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
次に、本件発明2と甲2発明を対比すると、少なくとも上記相違点が存在するから、本件発明2も、甲第2号証に記載された発明であるといえないし、また、甲第2号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとも認められない。
エ 小活
以上のとおりであるから、申立人が主張する、特許法第29条第1項第3号及び第2項の申立理由に理由はない。
5 申立人意見書における新たな主張について
(1)特許法第36条第6項第2号に関する主張
ア 申立人は、予め性状を調査した「既成灰」を使用した生コンクリートと、本件発明1及び2の「水分含有フライアッシュ」を使用した生コンクリートとの差異が明らかでないから、本件発明1及び2は明確でいない旨を主張している(申立人意見書第6頁第6行~第7頁第7行)。
そこで検討するに、上記3(1)アで検討したとおり、本件発明1及び2の「加水して12時間以上放置しかつ含水率が10~40重量%の水分含有フライアッシュ」は、作為的に加水されていない、あるいは、変性の生じた既成灰を包含するものでなく、既成灰のように変性することなく、水分が含有したものであり、その差異は明らかであるから、申立人の上記主張は採用できない。
イ 申立人は、本件発明1及び2の「水分含有フライアッシュ」は、請求項4に「水分含有フライアッシュ(既成灰を除く)」と記載されていることを考慮すると、既成灰が除かれているのかどうか明らかでないから、本件発明1及び2は明確でない旨を主張している(申立人意見書第9頁第26行~第10頁第9行)。
そこで検討するに、上記3(1)アで検討したとおり、本件発明1及び2の「加水して12時間以上放置しかつ含水率が10~40重量%の水分含有フライアッシュ」は、作為的に加水されていない、あるいは、変性の生じた既成灰を包含するものでないことは明らかである。
また、請求項4の「既成灰を除く」ことは、自然加水だけで水分を含有することとなった既成灰を含まないことを明示的に特定するものであるから、当該記載が、本件発明1及び2の記載を不明確とするものでない。
よって、申立人の上記主張は採用できない。
ウ 申立人は、本件発明1及び2の「加水して12時間以上放置しかつ含水率が10~40重量%の水分含水フライアッシュ」との特定事項における「放置」の技術的意味が不明であるし、「含水率が10~40重量%」の測定時期も明らかでないため、本件発明1及び2は明確でない旨を主張している(申立人意見書第10頁第10行~第11頁第25行)。
そこで検討するに、上記3(1)アで検討したとおり、発明の詳細な説明の段落【0016】の記載や、本件発明1及び2の「加水して12時間以上放置しかつ含水率が10~40重量%の水分含水フライアッシュ」に自然加水だけで水分を含有することになった既成灰が含まれないことからして、「放置」とは、フライアッシュの粒子表面の凹凸に水が行きわたり、空隙から空気を追い出すための状態であって、既成灰のような変性が生じない状態に維持することを意味していることは明らかである。
また、上記3(1)アで検討したとおり、本件発明1及び2の「含水率」は、「加える水の量で含水率(重量%)を計算する」(段落【0012】)ため、その測定時期は、加水時であることも明らかである。
よって、申立人の上記主張は採用できない。
第4 むすび
以上のとおりであるから、取消理由及び申立理由によっては、本件請求項1及び2に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1及び2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2019-700533