特許異議申立
2018-700056
透明樹脂フィルムの製造方法、及び透明樹脂フィルムを有する積層体の製造方法
- 審判番号
- 2018-700056
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2016-199059外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2018年01月24日
- 審決日
- 2018年05月09日
- 公報発行日
- 2018年06月29日
- 結論
- 維持
- 分類
- P1652.121-Y (C08J)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第113条第2号
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6170224号発明「透明樹脂フィルムの製造方法、及び透明樹脂フィルムを有する積層体の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6170224号の請求項1及び5に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
1.手続の経緯
特許第6170224号(以下「本件特許」という。)の請求項1~5に係る特許についての出願は、平成28年10月7日(優先権主張 平成28年5月10日 日本国)に出願され、平成29年7月7日にその特許権の設定登録がされ、その後、その請求項1及び5に係る特許に対し、平成30年1月24日に特許異議申立人河野真鑑(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。
2.本件発明
本件特許の請求項1及び5に係る発明(以下「本件発明1及び5」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1及び5に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
溶媒、及び該溶媒に溶解している、ポリイミド、ポリアミドイミド及びポリアミドからなる群から選ばれる少なくとも1種の高分子を含有するワニスを支持体上に塗布する工程と、
塗布された前記ワニスから、熱重量-示差熱測定によって求められる120℃から250℃にかけての重量減少率が7%を超えて40%以下となるように前記溶媒の一部を除去し、残存した前記溶媒を含有する透明樹脂フィルムを前記支持体上に形成させて、前記支持体及び前記透明樹脂フィルムを有する積層体を得る工程と、
前記積層体をロール状に巻き取って前記積層体のロールを得る工程とを含み、
前記ポリアミドが、下記式(13)で表される繰返し単位を有する重合体であり、
【化1】
式(13)中、G3は下記式(20)、式(21)、式(22)、式(23)、式(24)、式(25)、式(26)、式(27)、式(28)若しくは式(29)で表される基の結合手のうち、隣接しない2つが水素原子に置き換わった基、又は炭素数6以下の鎖式炭化水素基で、A3は2価の有機基であり、
【化2】
式(20)、式(21)、式(22)、式(23)、式(24)、式(25)、式(26)、式(27)、式(28)及び式(29)中、*は結合手を表し、Zは、単結合、-O-、-CH2-、-CH2-CH2-、-CH(CH3)-、-C(CH3)2-、-C(CF3)2-、-Ar-、-SO2-、-CO-、-O-Ar-O-、-Ar-O-Ar-、-Ar-CH2-Ar-、-Ar-C(CH3)2-Ar-又は-Ar-SO2-Ar-を表し、Arはフッ素原子で置換されていてもよい炭素数6~20のアリーレン基を表し、
前記支持体が樹脂フィルム基材である、
積層体の製造方法。
【請求項5】
溶媒、及び該溶媒に溶解している、ポリイミド、ポリアミドイミド及びポリアミドからなる群から選ばれる少なくとも1種の高分子を含有するワニスを支持体上に塗布する工程と、
塗布された前記ワニスから、熱重量-示差熱測定によって求められる120℃から250℃にかけての重量減少率が7%を超えて40%以下となるように前記溶媒の一部を除去し、残存した前記溶媒を含有する透明樹脂フィルムを前記支持体上に形成させて、前記支持体及び前記透明樹脂フィルムを有する積層体を得る工程と、
前記積層体をロール状に巻き取って前記積層体のロールを得る工程と、
前記積層体のロールから前記積層体を巻き出し、巻き出された前記積層体から前記透明樹脂フィルムを剥離する工程と、
前記支持体から剥離した前記透明樹脂フィルムから、残存する前記溶媒の一部又は全部を除去する工程と、を備え、
前記ポリアミドが、下記式(13)で表される繰返し単位を有する重合体であり、
【化3】
式(13)中、G3は下記式(20)、式(21)、式(22)、式(23)、式(24)、式(25)、式(26)、式(27)、式(28)若しくは式(29)で表される基の結合手のうち、隣接しない2つが水素原子に置き換わった基、又は炭素数6以下の鎖式炭化水素基で、A3は2価の有機基であり、
【化4】
式(20)、式(21)、式(22)、式(23)、式(24)、式(25)、式(26)、式(27)、式(28)及び式(29)中、*は結合手を表し、Zは、単結合、-O-、-CH2-、-CH2-CH2-、-CH(CH3)-、-C(CH3)2-、-C(CF3)2-、-Ar-、-SO2-、-CO-、-O-Ar-O-、-Ar-O-Ar-、-Ar-CH2-Ar-、-Ar-C(CH3)2-Ar-又は-Ar-SO2-Ar-を表し、Arはフッ素原子で置換されていてもよい炭素数6~20のアリーレン基を表す、
透明樹脂フィルムの製造方法。」
3.申立理由の概要
以下、「甲第1号証」等を「甲1」等といい、「甲第1号証に記載された発明」を「甲1発明」といい、「甲第2号証に記載された事項」等を「甲2記載事項」等という。
申立人は、証拠として、以下の甲1~甲3を提出し、本件発明1及び5は、甲1発明、あるいは、甲1発明及び甲2記載事項、あるいは、甲1発明及び甲3記載事項、あるいは、甲1発明、甲2記載事項及び甲3記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件発明1及び5に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである旨主張している。
(証拠一覧)
甲1:特開2012-233021号公報
甲2:特開2012-77130号公報
甲3:国際公開第2015/186594号
4.甲1~甲3記載事項、甲1発明
(1)甲1記載事項及び甲1発明
甲1には、以下の甲1発明が記載されている(特に、【0073】~【0084】、【0112】~【0117】及び【0119】~【0121】の実施例2)。
「工程a)ポリアミド酸オリゴマーを含む溶液(ポリイミド前駆体ポリマーワニス)と、ポリイミドオリゴマー溶液(ポリイミドオリゴマーワニス)とを混合し、撹拌後、ポリアミド酸オリゴマーと、ポリイミドオリゴマーとがそれぞれランダム化されることなく、ポリマー化したものであり、ポリアミド酸ブロックの数:ポリイミドブロックの数は、ほぼ2:1である、ブロックポリアミド酸イミドワニスを得、このワニスを、PETフィルム上に、コーティング装置を用いて塗工し、(【0112】、【0115】、【0119】)
工程b)PETフィルム上に塗工したポリアミド酸塗工膜を乾燥炉内で、10分かけて、60℃~120℃まで昇温し、タックフリーとし、それにより、ポリアミド酸含有フィルムとPETフィルムとの積層体のロールフィルムを得、PETフィルムと、乾燥されたポリアミド酸フィルムとの積層体を、ロールに巻き取り、(【0120】)
工程c)ポリアミド酸含有フィルム及びPETフィルムのロール状の積層体を巻き出しながら、ポリアミド酸含有フィルムをPETフィルムより剥離し、(【0120】)
工程d)剥離したポリアミド酸含有フィルムの端部を保持しながら乾燥炉に搬送し、窒素気流中、30分かけて120℃~270℃まで昇温し、前記ポリアミド酸をイミド化し、巻取装置を用いてロール状のポリイミドフィルムを得る、(【0121】)
ポリイミドフィルムの製造方法。」
(2)甲2記載事項
甲2には、
「ポリイミド樹脂フィルムを製造するに際し、ポリイミド樹脂を含有するポリイミド樹脂溶液を用いること」、
「溶液中のポリイミド樹脂は、アミド基含有酸二無水物(テトラカルボン酸二無水物)と、ジアミンから製造しうること」、
「基板上に塗布されるポリイミド樹脂溶液(ポリイミド樹脂ワニス)から有機溶媒を除去するに際し、溶媒乾燥段階である1段階目で残存溶媒を2~15%にすること」、が記載されている(【0031】、【0039】、【0071】)。
(3)甲3記載事項
甲3には、
「ポリイミド樹脂フィルムを製造するに際し、ポリアミドイミド樹脂またはポリアミド樹脂を含有する溶剤可溶性樹脂溶液(ワニス状)、ポリイミド系樹脂Bを含有するポリイミド系樹脂溶液B溶液(ワニス状)を用いること」、
「ポリイミド系樹脂Bは、塗膜形成後にイミド化反応を伴わない溶剤可溶型ポリイミド樹脂の他、塗膜形成後にイミド化反応の少ない部分イミド化したポリイミド樹脂や、ポリイミド前駆体(ポリアミック酸)であってもよいこと」、
「塗布された溶剤可溶性樹脂溶液(ポリアミドイミド樹脂ワニスまたはポリアミド樹脂ワニス)、ポリイミド系樹脂溶液(ワニス)から溶剤を除去するに際し、初期乾燥段階にて、塗膜中の溶存残存率が5重量%以上40重量%以下になるようにすること」、が記載されている(請求項1、請求項2、[0037]、[0065]、[0074]、[0076]、[0078]、[0087]、[0096]、[0100]、[0101])。
5.判断
(1)本件発明1について
本件発明1と甲1発明とを対比すると、両者は少なくとも以下の点で相違する。
<相違点1>
支持体(PETフィルム)に塗布する工程に用いられるワニスについて、本件発明1は、溶媒、及び該溶媒に溶解している、ポリイミド、ポリアミドイミド及びポリアミドからなる群から選ばれる少なくとも1種の高分子を含有するワニスであるのに対して、甲1発明は、ポリアミド酸オリゴマーを含む溶液(ポリイミド前駆体ポリマーワニス)と、ポリイミドオリゴマー溶液(ポリイミドオリゴマーワニス)とを混合し、撹拌して得たブロックポリアミド酸イミドワニスである点。
相違点1を検討する。
相違点1に係る本件発明1の「ポリイミド、ポリアミドイミド及びポリアミドからなる群から選ばれる少なくとも1種の高分子」に関して、本件特許明細書の段落【0022】に「本明細書において、ポリイミドは、イミド基を含む繰返し構造単位を主な繰返し構造単位として有する重合体を意味し、ポリアミドは、アミド基を含む繰返し構造単位を主な繰返し構造単位として有する重合体を意味する。ポリイミド系高分子は、ポリイミドの他に、イミド基及びアミド基を含む繰返し構造単位を主な繰返し構造単位として有する重合体(ポリアミドイミド)も含む。本明細書において、主な繰返し構造単位は、重合体全体のうち60質量%以上を構成する繰返し構造単位を意味する。主な繰返し構造単位は、2種以上の繰返し単位から構成され得る。例えば、ポリイミドがイミド基を含む2種以上の繰返し構造単位を含む場合、それら2種以上の繰返し構造単位の合計の割合が60質量%以上であればよい。」と定義されている。
一方、甲1発明の「ブロックポリアミド酸イミドワニス」は、ポリアミド酸オリゴマーを含む溶液(ポリイミド前駆体ポリマーワニス)と、ポリイミドオリゴマー溶液(ポリイミドオリゴマーワニス)とを混合し、撹拌して得たものであるが、このうちポリアミド酸オリゴマーを含む溶液(ポリイミド前駆体ポリマーワニス)の繰り返しの単位は「ポリアミド酸」であり、「ポリアミド酸」は、ポリイミドの前駆体であって、イミド化されていないものである。この点について、甲1の【0011】には、「上述したように、ポリイミドフィルムのカールの抑制のためには、ポリアミド酸含有フィルムを支持体から剥離した状態で、ポリアミド酸のイミド化を行うことが、重要である。本発明者らは、このポリアミド酸のイミド化に際し、ポリアミド酸含有フィルムを低温から昇温することによって、得られるポリイミドフィルムに外観不良や白化が生じることがないことを見出し、本発明に至った。」と、同じく【0017】には、「本発明のポリイミドフィルムの製造方法によれば、ポリアミド酸含有フィルムを剥離した状態で、イミド化を行うことから、得られるポリイミドフィルムがカールしないものとできる。また、イミド化を低い温度から昇温することによって、白化や発泡がなく、外観性が良好であり、かつ線膨張係数も低いポリイミドフィルムを得ることができる。」とあり、ポリアミド酸のイミド化は、ポリアミド酸含有フィルムを支持体(PETフィルム)から剥離した状態で行うことが重要で、それによって甲1発明の効果を奏するとされている。このようなことから、甲1発明は、PETフィルムから剥離後にポリアミド酸をイミド化する工程dを備えるものである。
そうすると、支持体(PETフィルム)に塗布する工程に用いられるワニスを、甲1発明は、白化や発泡を防ぐために、ポリイミドの前駆体である「ブロックポリアミド酸イミド」のワニスとしているのに、それを「ポリイミド、ポリアミドイミド及びポリアミドからなる群から選ばれる少なくとも1種の高分子」のワニスに変更しようとする動機付けがなく、変更することにより、甲1発明の上記の本来の効果(甲1の【0017】)を発揮できず、そのようにすることには、阻害事由も認められる。
また、甲2あるいは甲3には、「ブロックポリアミド酸イミド」のワニスを「ポリイミド、ポリアミドイミド及びポリアミドからなる群から選ばれる少なくとも1種の高分子」のワニスに変更することの動機付けを示唆する記載はない。
よって、甲1発明について、相違点1に係る本件発明1の構成を得ることは、当業者が容易に想到し得ることではない。
そして、本件発明1は、相違点1に係る構成を有することにより、「本発明の一側面によれば、極性溶媒に可溶なポリイミド等の高分子を含有する透明樹脂フィルムを有する積層体を製造する場合において、積層体をロール状に巻取ること、・・・を、透明樹脂フィルムの透明性を維持しながら、より容易に行えるようにすることができる方法が提供される」(本件特許明細書【0013】)という作用効果を奏するものである。
よって、本件発明1は、甲1発明、あるいは、甲1発明及び甲2記載事項、あるいは、甲1発明及び甲3記載事項、あるいは、甲1発明、甲2記載事項及び甲3記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(2)本件発明5について
本件発明5と甲1発明とを対比すると、両者は少なくとも以下の点で相違する。
<相違点2>
支持体(PETフィルム)に塗布する工程に用いられるワニスについて、本件発明5は、溶媒、及び該溶媒に溶解している、ポリイミド、ポリアミドイミド及びポリアミドからなる群から選ばれる少なくとも1種の高分子を含有するワニスであるのに対して、甲1発明は、ポリアミド酸オリゴマーを含む溶液(ポリイミド前駆体ポリマーワニス)と、ポリイミドオリゴマー溶液(ポリイミドオリゴマーワニス)とを混合し、撹拌して得たブロックポリアミド酸イミドワニスである点。
相違点2を検討する。
相違点2に係る本件発明5の構成は、相違点1に係る本件発明1の構成と実質的に同じであるから、上記相違点1について述べたのと同様の理由により、本件発明5は、甲1発明、あるいは、甲1発明及び甲2記載事項、あるいは、甲1発明及び甲3記載事項、あるいは、甲1発明、甲2記載事項及び甲3記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)小括
以上のとおり、本件発明1及び5は、上記(1)及び(2)に述べたように、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではなく、本件発明1及び5に係る特許は、特許法第113条第2号に該当するものではない。
6.むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1及び5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1及び5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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