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特許異議申立

2017-701085

圧電素子および圧電素子の製造方法

審判番号
2017-701085
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2016-575257外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2017年11月17日
審決日
2018年07月31日
公報発行日
2018年10月26日
結論
訂正認容
当事者
審判長/審判官
分類
P1651.113-YAA(H01L)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条の2、特許法第120条の5第2項第1号
データ出所
審決公報(SGML)

事件の表示

特許第6130085号発明「圧電素子および圧電素子の製造方法」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。

結論

【結 論】 特許第6130085号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1ないし7〕,〔8ないし12〕及び〔13ないし19〕について訂正することを認める。 特許第6130085号の請求項1ないし4,6ないし19に係る特許を維持する。 特許第6130085号の請求項5にかかる特許についての特許異議の申立てを却下する。

理由

【理 由】 第1 手続の経緯 特許第6130085号の請求項1ないし19に係る特許についての出願は,平成28年8月31日(優先権主張平成27年9月11日)に国際出願され,平成29年4月21日にその特許権の設定登録がされ,その後,その特許について,平成29年11月17日に特許異議申立人 浜俊彦 により特許異議の申立てがされ,平成30年2月23日付けで取消理由が通知され,その指定期間内である平成30年4月18日に意見書の提出及び訂正の請求があったものである。 第2 訂正の適否についての判断 1 訂正の内容 本件訂正請求による訂正の内容は,以下の(1)ないし(11)のとおりである。 (1) 訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に 「前記下部電極は、前記圧電層との境界部が結晶化された金属酸化物により形成されている、圧電素子。」 と記載されているのを, 「前記下部電極は、前記圧電層との境界部が結晶化された金属酸化物により形成されており,前記第1電極層上には、20nmより大きく1000nm以下の厚さを有する保護層が設けられており、前記第1の電極層の厚さは、2nm以上20nm以下である、圧電素子。」 に訂正する(請求項1の記載を直接的に又は間接的に引用する請求項2~4,6,7も同様に訂正する)。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項5を削除する。 (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項6に 「前記第2電極層は、還元性のある金属原子を含む、請求項5に記載の圧電素子。」 とあるのを, 「前記第2電極層は、還元性のある金属原子を含む、請求項1~4いずれか1項に記載の圧電素子。」 に訂正する(請求項6の記載を引用する請求項7も同様に訂正する)。 (4)訂正事項4 特許請求の範囲の請求項7に 「前記第1電極層上には、100nm以上の保護層が設けられている、請求項1~6のいずれか1項に記載の圧電素子。」 とあるのを, 「前記第1電極層上には、100nm以上の保護層が設けられている、請求項1、2、3、4または6に記載の圧電素子。」 に訂正する。 (5)訂正事項5 明細書の段落【0007】に 「下部電極は、圧電層との境界部が結晶化された金属酸化物により形成されている。」 とあるのを, 「下部電極は、圧電層との境界部が結晶化された金属酸化物により形成されおり,第1電極層上には、20nmより大きく1000nm以下の厚さを有する保護層が設けられており、第1の電極層の厚さは、2nm以上20nm以下である。」 に訂正する。 (6)訂正事項6 明細書の段落【0010】を削除する。 (7)訂正事項7 明細書の段落【0011】に 「この場合、好ましくは、」 とあるのを, 「上記第1の局面による圧電素子において,好ましくは,」 に訂正する。 (8)訂正事項8 特許請求の範囲の請求項8に 「前記下部電極を形成する工程は、前記圧電層との境界部を金属酸化物を結晶化して形成する工程を含む、圧電素子の製造方法。」 とあるのを, 「前記下部電極を形成する工程は、前記圧電層との境界部を金属酸化物を結晶化して形成する工程を含み,前記第1電極層上に、20nmより大きく1000nm以下の厚さを有する保護層を形成する工程をさらに備え,前記第1電極層を形成する工程は、厚さが2nm以上20nm以下になるように前記第1電極層を形成する工程を含む、圧電素子の製造方法。」 に訂正する(請求項8の記載を直接的に又は間接的に引用する請求項9~12も同様に訂正する)。 (9)訂正事項9 明細書の段落【0013】に 「下部電極を形成する工程は、圧電層との境界部を金属酸化物を結晶化して形成する工程を含む。」 とあるのを, 「下部電極を形成する工程は、圧電層との境界部を金属酸化物を結晶化して形成する工程を含み,第1電極層上に、20nmより大きく1000nm以下の厚さを有する保護層を形成する工程をさらに備え,第1電極層を形成する工程は、厚さが2nm以上20nm以下になるように前記第1電極層を形成する工程を含む。」 に訂正する。 (10)訂正事項10 特許請求の範囲の請求項13に 「前記下部電極は、前記圧電層との境界部が結晶化された金属酸化物により形成されている、圧電素子。」 とあるのを, 「前記下部電極は、前記圧電層との境界部が結晶化された金属酸化物により形成されており、前記第1電極層上には、20nmより大きく1000nm以下の厚さを有する保護層が設けられており、前記第1の電極層の厚さは、2nm以上20nm以下である、圧電素子。」 に訂正する(請求項13の記載を直接的に又は間接的に引用する請求項14~19も同様に訂正する)。 (11)訂正事項11 明細書の段落【0015】に 「下部電極は、圧電層との境界部が結晶化された金属酸化物により形成されている。」 とあるのを, 「下部電極は、圧電層との境界部が結晶化された金属酸化物により形成されており、第1電極層上には、20nmより大きく1000nm以下の厚さを有する保護層が設けられており、第1の電極層の厚さは、2nm以上20nm以下である。」 に訂正する。 2 訂正の目的の適否,一群の請求項,新規事項の有無,及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)上記訂正事項1は,明細書の記載に基づいて導き出される構成である。 すなわち,「前記第1電極層上には、20nmより大きく1000nm以下の厚さを有する保護層が設けられており、前記第1の電極層の厚さは、2nm以上20nm以下である、」ことは,明細書の段落【0028】の 「また、第1上部電極層41は、保護層の厚さが厚い場合(たとえば、保護層の厚さが約20nmより大きく約1000nm以下の場合)には、たとえば、約2nm以上約40nm以下の厚さに形成することが好ましい。つまり、第1上部電極層41の厚さが約40nmより大きいと、保護層を厚くした場合でも割れる可能性が高くなる。さらに、第1上部電極層41は、約2nm以上約20nm以下の厚さに形成することがより好ましく、約20nm以下にすることで割れの発生がより低減される。また、第1上部電極層41は、第2上部電極層42としてTiを設ける場合、厚さが第2上部電極層42の厚さよりも大きくなるように形成されている。」 の記載に基づくものである(下線は当審で付与した。)。 したがって,上記訂正事項1の訂正は,明細書に記載された事項の範囲内において,第1上部電極及び保護層のそれぞれの厚さを限定したものと言える。 すなわち,訂正事項1の訂正は,特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって,新規事項の追加に該当せず,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。 (2)訂正事項2は請求項を削除するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって,新規事項の追加に該当せず,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。 (3)訂正事項3,4の訂正は,明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正であって,新規事項の追加に該当せず,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでもない。 (4)訂正事項5の訂正は,上記訂正事項1に係る訂正に伴い特許請求項の範囲と明細書の記載との整合を図るための訂正であり,明細書の段落【0028】には,「第1上部電極層41は、保護層の厚さが厚い場合(たとえば、保護層の厚さが約20nmより大きく約1000nm以下の場合)には、たとえば、約2nm以上約40nm以下の厚さに形成することが好ましい。つまり、第1上部電極層41の厚さが約40nmより大きいと、保護層を厚くした場合でも割れる可能性が高くなる。さらに、第1上部電極層41は、約2nm以上約20nm以下の厚さに形成することがより好ましく、」と記載されているので,明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正であって,新規事項の追加に該当せず,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでもない。 (5)訂正事項6の訂正は,明細書の段落【0010】を削除するものであるから,明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正であって,新規事項の追加に該当せず,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでもない。 (6)訂正事項7は,明細書の段落【0011】に「この場合、好ましくは、」とあるのを,「上記第1の局面による圧電素子において,好ましくは,」と訂正するものであるから,明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正であって,新規事項の追加に該当せず,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでもない。 (7)訂正事項8は,上記「(1)」と同様の理由により,特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって,新規事項の追加に該当せず,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。 (8)訂正事項9の訂正は,上記訂正事項8に係る訂正に伴い特許請求項の範囲と明細書の記載との整合を図るための訂正であり,明細書の段落【0028】には,「第1上部電極層41は、保護層の厚さが厚い場合(たとえば、保護層の厚さが約20nmより大きく約1000nm以下の場合)には、たとえば、約2nm以上約40nm以下の厚さに形成することが好ましい。つまり、第1上部電極層41の厚さが約40nmより大きいと、保護層を厚くした場合でも割れる可能性が高くなる。さらに、第1上部電極層41は、約2nm以上約20nm以下の厚さに形成することがより好ましく、」と記載されているので,明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正であって,新規事項の追加に該当せず,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでもない。 (9)訂正事項10は,上記「(1)」と同様の理由により,特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって,新規事項の追加に該当せず,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない (10)訂正事項11は,上記訂正事項10に係る訂正に伴い特許の範囲と明細書の記載との整合を図るための訂正であり,明細書の段落【0028】には,「第1上部電極層41は、保護層の厚さが厚い場合(たとえば、保護層の厚さが約20nmより大きく約1000nm以下の場合)には、たとえば、約2nm以上約40nm以下の厚さに形成することが好ましい。つまり、第1上部電極層41の厚さが約40nmより大きいと、保護層を厚くした場合でも割れる可能性が高くなる。さらに、第1上部電極層41は、約2nm以上約20nm以下の厚さに形成することがより好ましく、」と記載されているので,明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正であって,新規事項の追加に該当せず,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでもない。 (11)そして,これら訂正は,一群の請求項〔1ないし7〕,〔8ないし12〕及び〔13ないし19〕に対して請求されたものである。 3 小括 以上のとおりであるから,本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり,かつ,同条第4項及び同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので,訂正後の請求項〔1ないし7〕,〔8ないし12〕及び〔13ないし19〕について訂正を認める。 第3 特許異議の申立てについて 1 本件発明 本件訂正請求により訂正された訂正請求項1ないし4,6,7,8ないし12,13ないし19に係る発明(以下「本件発明1ないし4,6,7,8ないし12,13ないし19」という。)は,それぞれ,その特許請求の範囲の請求項1ないし4,6,7,8ないし12,13ないし19に記載された事項により特定されるとおりのものである(下線は,訂正部分を示す。)。 「【請求項1】 電子機器に組み込まれる圧電素子であって、 基板上または下地膜上に形成された下部電極と、 前記下部電極上に形成された圧電層と、 前記圧電層上に形成された上部電極とを備え、 前記上部電極は、少なくとも前記圧電層との境界部がアモルファス状の部分を含む金属酸化物により形成された第1電極層と、前記第1電極層上に形成された第2電極層とを含み、 前記下部電極は、前記圧電層との境界部が結晶化された金属酸化物により形成されており、 記第1電極層上には、20nmより大きく1000nm以下の厚さを有する保護層が設けられており、 前記第1の電極層の厚さは、2nm以上20nm以下である、圧電素子。 【請求項2】 前記下部電極は、前記基板上または前記下地膜上に形成された第1下部電極層と、前記第1下部電極層上に形成され、前記第1下部電極層とは異なる材料により形成された第2下部電極層と、前記第2下部電極層上に形成され、結晶化された金属酸化物により形成され、前記圧電層に接する第3下部電極層とを含み、 前記第2下部電極層の厚さは、前記第1下部電極層の厚さよりも大きい、請求項1に記載の圧電素子。 【請求項3】 前記第1下部電極層は、チタンにより形成されており、 前記第2下部電極層は、白金により形成されている、請求項2に記載の圧電素子。 【請求項4】 前記第1電極層の金属酸化物は、ルテニウム酸ストロンチウムを含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の圧電素子。 【請求項5】 (削除) 【請求項6】 前記第2電極層は、還元性のある金属原子を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の圧電素子。 【請求項7】 前記第1電極層上には、100nm以上の保護層が設けられている、請求項1、2、3、4または6に記載の圧電素子。 【請求項8】 基板上または下地膜上に下部電極を形成する工程と、 前記下部電極上に圧電層を形成する工程と、 前記圧電層上に上部電極を形成する工程とを備え、 前記上部電極を形成する工程は、少なくとも前記圧電層との境界部がアモルファス状の部分を含む金属酸化物により形成された第1電極層を形成する工程と、前記第1電極層の前記金属酸化物が結晶化する温度未満の温度条件下により、前記第1電極層上に第2電極層を形成する工程とを含み、 前記下部電極を形成する工程は、前記圧電層との境界部を金属酸化物を結晶化して形成する工程を含み、 前記第1電極層上に、20nmより大きく1000nm以下の厚さを有する保護層を形成する工程を更に備え、 前記第1電極層を形成する工程は,厚さが2nm以上20nm以下になるように前記第1電極層を形成する工程を含む、圧電素子の製造方法。 【請求項9】 前記下部電極を形成する工程は、前記基板上または前記下地膜上に第1下部電極層を形成する工程と、前記第1下部電極層上に前記第1下部電極層とは異なる材料により第2下部電極層を形成する工程と、前記第2下部電極層上に金属酸化物を結晶化して前記圧電層に接する第3下部電極層を形成する工程とを含み、 前記第2下部電極層を形成する工程では、前記第2下部電極層の厚さが前記第1下部電極層の厚さよりも大きくなるように前記第2下部電極層を形成する、請求項8に記載の圧電素子の製造方法。 【請求項10】 前記第1下部電極層は、チタンにより形成し、 前記第2下部電極層は、白金により形成する、請求項9に記載の圧電素子の製造方法。 【請求項11】 前記上部電極を形成する工程の後の全ての工程は、前記第1電極層の前記金属酸化物が結晶化する温度未満の温度条件下で行われるように構成されている、請求項8~10のいずれか1項に記載の圧電素子の製造方法。 【請求項12】 前記上部電極上に前記上部電極を覆うように絶縁層を形成する工程をさらに備える、請求項8~11のいずれか1項に記載の圧電素子の製造方法。 【請求項13】 電子機器に組み込まれる圧電素子であって、 基板上または下地膜上に形成された下部電極と、 前記下部電極上に形成された圧電層と、 前記圧電層上に形成された上部電極と、 前記上部電極上に形成され、前記上部電極を覆う絶縁層とを備え、 前記上部電極は、少なくとも前記圧電層との境界部がアモルファス状の部分を含む金属酸化物により形成された第1電極層と、前記第1電極層上に形成された第2電極層とを含み、 前記下部電極は、前記圧電層との境界部が結晶化された金属酸化物により形成されており、 記第1電極層上には、20nmより大きく1000nm以下の厚さを有する保護層が設けられており、 前記第1の電極層の厚さは、2nm以上20nm以下である、圧電素子。 【請求項14】 前記下部電極は、前記基板上または前記下地膜上に形成された第1下部電極層と、前記第1下部電極層上に形成され、前記第1下部電極層とは異なる材料により形成された第2下部電極層と、前記第2下部電極層上に形成され、結晶化された金属酸化物により形成され、前記圧電層に接する第3下部電極層とを含み、 前記第2下部電極層の厚さは、前記第1下部電極層の厚さよりも大きい、請求項13に記載の圧電素子。 【請求項15】 前記第1下部電極層は、チタンにより形成されており、 前記第2下部電極層は、白金により形成されている、請求項14に記載の圧電素子。 【請求項16】 前記上部電極上に沿って形成され、前記絶縁層とともに前記上部電極を覆う引出配線をさらに備える、請求項13~15のいずれか1項に記載の圧電素子。 【請求項17】 前記絶縁層は、前記下部電極の上面と、前記圧電層の側面と、前記上部電極の上面とに沿って覆うように配置されている、請求項13~16のいずれか1項に記載の圧電素子。 【請求項18】 前記絶縁層は、前記下部電極の上面と、前記圧電層の側面と、前記圧電層の縁部上面と、前記上部電極の上面とに沿って覆うように配置されている、請求項13~17のいずれか1項に記載の圧電素子。 【請求項19】 前記絶縁層は、前記下部電極の上面と、前記圧電層の側面と、前記圧電層の縁部上面と、前記上部電極の上面とに沿って覆うように配置され、 前記上部電極上に沿って形成され、前記絶縁層とともに前記上部電極を覆う引出配線をさらに備える、請求項13~18のいずれか1項に記載の圧電素子。」 2 取消理由の概要 訂正前の請求項1ないし19に係る特許に対して平成30年2月23日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は,次のとおりである。 ア 請求項1ないし19に係る発明は,その出願の日前の特許出願であって,その出願後に特許掲載公報の発行又は出願公開がされた甲第1号証の特許出願の願書に最初に添付された明細書,特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり,しかも,この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく,またこの出願の時において,その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので,特許法第29条の2の規定により,特許を受けることができないから,その発明に係る特許は取り消すべきものである。 3 甲号証の記載 (1)甲第1号証(特願2014-239589号(特開2016-72589号公報))の特許出願の願書に最初に添附された明細書、特許請求の範囲又は図面(以下,「明細書等」という。)には,以下の記載がある(下線は当審で付与した。以下同じ。)。 「【技術分野】 【0001】 本発明は、薄膜状の圧電体および電極を有する薄膜圧電体素子およびその製造方法並びにその薄膜圧電体素子を有するヘッドジンバルアセンブリ、ハードディスク装置、インクジェットヘッド、可変焦点レンズおよびセンサに関する。」 「【0058】 薄膜圧電体素子12b(薄膜圧電体素子12aも同様)は、図5に示すように、下地膜15と、下部電極膜17と、下部密着膜16aと、圧電体膜13と、上部密着膜16bと、上部電極膜27および応力均衡化膜14とを有し、これらが順に積層されている積層構造を有している。薄膜圧電体素子12bは、後述する素子応力F12と内部応力F14との均衡が確保されるように、応力均衡化膜14が上部電極膜27上に形成されている。薄膜圧電体素子12b、12aは図示しないエポキシ樹脂を用いてベース絶縁層5の表面に固着されている。」 「【0063】 さらに、図20に示すように、凹凸面13Aは、凸部13aと凹部13bとの高さの差(表面粗さともいう)がt13になっている。そして、この表面粗さt13よりも、後述する上部密着膜16bの膜厚t16b(35nm程度)が同程度か幾分大きい。上部密着膜16bの下面から上面までの少なくとも半分の部分が凹部13bの中に入り込めばよく、図6に示すように、ほぼ全体が入り込んでもよい。これにより、図6、図8に示すように、上部密着膜16bが圧電体膜13の凹凸面13Aに応じた凹凸構造を備え、上部密着膜16bの上面が凹凸面13Aに応じた凹凸面になる。この場合、上部密着膜16bの上面は、凹凸面13Aに対応した凸部と凹部とを有している。」 「【0066】 下部電極膜17は、例えば、Ptを主成分とする金属材料(Ptのほかに、Au,Ag,Pd,Ir,Ru,Cuを含んでもよい)からなる薄膜(膜厚は100nm程度)であって、下地膜15上に形成されている。下部電極膜17の結晶構造は面心立方構造である。下部密着膜16aは、例えば、SrRuO3(SROともいう)等のエピタキシャル成長した導電性材料からなる薄膜(膜厚は20nm程度)であって、下部電極膜17の圧電体膜13側の上面に形成されている。この下部密着膜16a上に圧電体膜13が形成されている。」 「【0067】 上部密着膜16bは、例えば、SrRuO3等のアモルファス導電性材料からなる薄膜(膜厚は35nm程度)であって、圧電体膜13の凹凸面13A上に形成されている。前述したように、上部密着膜16bの上面が凹凸面13Aに応じた凹凸面となっている。 【0068】 上部電極膜27は、例えば、Ptを主成分とする金属材料(Ptのほかに、Au,Ag,Pd,Ir,Rh,Ni,Pb,Ru,Cuを含んでもよい)を用いた多結晶の薄膜(膜厚は50nm程度)であって、上部密着膜16b上に形成されている。前述したように、上部電極膜27の上面も、凹凸面13Aに応じた凹凸面である。また、結晶構造は面心立方構造である。 【0069】 応力均衡化膜14は、上部電極膜27上に形成されている。応力均衡化膜14は、合金材料を用いた多結晶の薄膜(膜厚は100nm程度)であって、後述する素子応力F12を打ち消し得る(相殺し得る)内部応力F14を有している。」 「【0076】 保護絶縁層25は、接続配線11および薄膜圧電体素子12a、薄膜圧電体素子12bの表面全体を覆うように、ベース絶縁層5の表面を被覆している。保護絶縁層25は例えばポリイミドを用いて形成され、5μm~10μm程度の厚さを有している。この保護絶縁層25は、フレクシャ6の図示しないカバー層と共用にして一体に製造されることが望ましい。ただし、薄膜圧電体素子12a、12bが予め保護絶縁層を有しているときは、保護絶縁層25によって薄膜圧電体素子12a、12bを覆わなくてもよい」 「【0081】 続いて、下部電極膜形成工程を実行する。この工程では、スパッタリングによってPtを主成分とする金属材料を下地膜15上にエピタキシャル成長させる。このエピタキシャル成長によって下部電極膜17を形成する。次いで、下部密着膜形成工程を実行する。この工程では、例えばSROを用いてスパッタリングによって、下部電極膜17の上面に下部密着膜16aを形成する。 【0082】 その後、圧電体膜形成工程を実行する。この工程では、図13に示すように、スパッタリングによって、PZT等の圧電材料を下部密着膜16a上にエピタキシャル成長させる。その際、第1の成膜パラメータを制御することにより、圧電材料の表面に粗さを持たせ、上面が前述の凹凸面13Aとなるようにして圧電体膜13を形成する。」 「【0089】 続いて、上部密着膜形成工程を実行する。この工程では、図14に示すように、例えばSROを用いてスパッタリングによって圧電体膜13の凹凸面13A上に上部密着膜16bを形成する。」 「【0093】 そして、上部電極膜形成工程では、スパッタリングによってPtを主成分とする金属材料を上部密着膜16b上に成長させ、上部電極膜27を形成する。上部電極膜はエピタキシャル成長膜ではなく、多結晶の無配向膜、または(110)面や(111)面の優先配向膜である。」 「【0095】 その後、応力均衡化膜形成工程を実行する。この工程では、スパッタリングによって、鉄(Fe)を主成分とする合金材料(例えば、Fe、CoおよびMoを含む合金材料)を用いて応力均衡化膜14を形成する。すると、薄膜圧電体素子12bが得られる。 【0096】 なお、薄膜圧電体素子12bは基板51を用いて製造しているが、下地膜15とともにその基板51を研磨やエッチング等によって除去する。それから、必要に応じてポリイミド等の保護膜を形成し、端子を形成した後、薄膜圧電体素子12a、12bが、エポキシ樹脂を用いて後に舌部19となる部分に固着される。」 【図5】 (2)以上の記載によれば,甲第1号証には以下の発明(以下,「先願発明1」及び「先願発明2」という。)が記載されていると認められる。 先願発明1: 「薄膜圧電体素子を有するヘッドジンバルアセンブリ、ハードディスク装置、インクジェットヘッド、可変焦点レンズおよびセンサの薄膜圧電対素子12bであって, 下地膜15上に積層された下部電極膜17と, 下部電極膜17上に積層された下部密着膜16aと, 下部密着膜16a上に積層された圧電対膜13と, 圧電対膜13上に積層された上部密着膜16bと, 上部密着膜16b上に積層された上部電極膜27と, 上部電極膜27上に積層された応力均衡化膜14と, 応力均衡化層14に積層された保護絶縁膜25を有し, 上部密着膜16bは,SrRuO3等のアモルファス導電性材料からなる薄膜であり, 下部密着膜16aは,面心立方構造を有す金属材料からなる下部電極膜17上にエピタキシャル成長した,SrRuO3等の導電性材料からなる薄膜であり, 保護絶縁膜25の膜厚は5μm~10μm程度であり, 圧力均衡化膜14の膜厚は400nm程度であり, 上部電極膜27の膜厚は50nm程度であり, 上部密着膜16bの膜厚は35nm程度である, 薄膜圧電対素子12b。」 先願発明2: 「金属材料を下地膜15上にエピタキシャル成長させ,面心立方構造を有す金属材料からなる下部電極膜17を形成する下部電極膜形成工程と, 下部電極膜17上にエピタキシャル成長させ,SrRuO3等の導電性材料からなる薄膜を形成する下部密着膜形成工程と, 下部密着膜16a上に圧電材料をエピタキシャル成長させる圧電体膜形成工程と, 圧電体膜13上にSrRuO3等のアモルファス導電性材料からなる上部密着膜16bを形成する上部密着膜形成工程と, 金属材料を上部密着膜16b上に成長させ、上部電極膜27を形成する上部電極膜形成工程と, 上部電極膜27上に応力均衡化膜14を形成する応力均衡化膜形成工程と, ポリイミド等の保護絶縁膜25を形成する工程, を備え, 保護絶縁膜25の膜厚は5μm~10μm程度であり, 圧力均衡化膜14の膜厚は400nm程度であり, 上部電極膜27の膜厚は50nm程度であり, 上部密着膜16bの膜厚は35nm程度である, 薄膜圧電対素子12bの製造方法。」 (2)甲第2号証(特開2004-335708号公報)には、以下の記載がある。 「【請求項1】 半導体基板と、 前記半導体基板の上方に設けられ、下部電極と、上部電極と、前記下部電極と前記上部電極との間に設けられた誘電体膜とを含むキャパシタと、 を備え、 前記下部電極は、貴金属膜及び貴金属酸化物膜の中から選択された導電膜と、前記誘電体膜と前記導電膜との間に設けられ、ABO3で表され、且つBサイト元素として第1の金属元素を含むペロブスカイト型金属酸化物膜と、前記導電膜と前記金属酸化物膜との間に設けられ、且つペロブスカイト型金属酸化物のBサイト元素である第2の金属元素を含む金属膜と、を備え、 前記第2の金属元素が酸化物を生成するときのギブスの自由エネルギーの減少量の方が、前記第1の金属元素が酸化物を生成するときのギブスの自由エネルギーの減少量より大きく、 前記金属酸化物膜の厚さは5nm以下である ことを特徴とする半導体装置。」 「【0022】 本実施形態の比較例として、シリコン基板上に、SiO2膜、チタン膜(厚さ10nm)、プラチナ膜(厚さ100nm)、SRO膜(厚さ10nm)及びPZT膜(厚さ130nm)を順次形成した試料を作製した。SRO膜及びPZT膜に関しては、アモルファス膜をスパッタリングによって形成した後、酸素雰囲気中でのアニールにより結晶化を行った。また、本実施形態に対応する試料として、シリコン基板上に、SiO2膜、チタン膜(厚さ10nm)、プラチナ膜(厚さ100nm)、チタン膜(厚さ1.5nm)、SRO膜(厚さ2.5nm)及びPZT膜(厚さ130nm)を順次形成した試料を作製した。SRO膜に関しては、基板温度550℃で、In-situ結晶化プロセスのスパッタリングにより形成した。PZT膜に関しては、アモルファス膜をスパッタリングによって形成した後、酸素雰囲気中でのアニールにより結晶化を行った。」 (3)甲第3号証(特開平11-195768号公報)には、以下の記載がある。 「【0013】Pb(Zr,Ti)O3膜の上に上部電極を形成すると、SrRuO3/Pb(Zr,Ti)O3/上部電極が積層された強誘電体キャパシタが得られる。SrRuO3膜の成膜時に基板加熱を行わないため、酸素欠陥を制御しやすい。また、大口径の基板の使用に適し、量産性に優れる。 【0014】本発明の他の観点によると、SiO2が表出した主表面を有する下地基板と、前記下地基板の主表面上に形成され、該主表面と上層との接着力を高めるための接着層と、前記接着層の上に形成されたPt膜と、前記Pt膜の上に形成された下部SrRuO3膜と、前記下部SrRuO3の上に形成されたPb(Zr,Ti)O3膜と、前記Pb(Zr,Ti)O3の上に形成された上部SrRuO3膜とを有する電子装置が提供される。」 「【0020】たとえば、シリコン基板1の表面を熱酸化し、SiO2膜2を形成する。SiO2膜2の上に、TiターゲットをAr雰囲気中でスパッタリングすることにより、厚さ約10nm~20nmのTi膜3を形成する。Ti膜3の上に、PtターゲットをAr雰囲気中でスパッタリングすることにより、厚さ約80nm~90nmの下部Pt膜4を形成する。 【0021】下部Pt膜4の上に、RFマグネトロンスパッタリングにより、厚さ5nm~100nm、好ましくは厚さ約80nm~90nmの下部SRO膜5を形成する。SRO膜5の形成は、例えば、容量20リットル程度のスパッタリング装置を用い、スパッタガスとしてAr、ターゲットとしてSr1.2RuO3(SRO)の焼結体を用い、印加RF電力を120W、Arガス流量を30sccm、ガス圧を10mTorrとして行う。 【0022】ターゲットSROの組成Sr1.2RuO3は、化学量論組成Sr1Ru1O3と較べ、Srリッチの(過剰なSrを含む)組成である。現在のスパッタリング技術では、正確に化学量論組成のSRO膜を作成することは容易ではない。SROがRuリッチになると、Ruの拡散が生じ易くなり、近傍の絶縁膜の絶縁性劣化し易い。Srリッチの組成にすることにより、Ruの拡散を低減できる。但し、重要なことはRuリッチのSRO膜の形成を避けることであり、形成されるSRO膜は化学量論組成であってもよい。技術の進歩により、正確に化学量論組成のSRO膜を作成できるようになった場合は、意図的に化学量論組成のSRO膜を形成してもよい。 【0023】スパッタリングにおいて、基板の積極的な加熱は行わない。しかし、成膜中の基板温度は、プラズマに晒されることにより、約100℃程度になっているものと思われる。なお、基板ホルダに冷却水を流して積極的に冷却し、基板温度を室温程度に維持しておいてもよい。他の冷却手段を用いてもよい。 【0024】積極的な基板加熱を行わないで成膜したSRO膜はアモルファス状態となる。アモルファスのSRO膜を、酸素を含む酸化性雰囲気中で、例えばランプアニール等により熱処理して結晶化させる。この熱処理は、例えば、容積20リットル程度のアニール装置内に酸素を5リットル/分程度流し、昇温速度1℃/秒で600℃まで昇温し、600℃の温度を30分間維持し、30分かけて200℃まで降温させ、その後自然冷却することにより行う。 【0025】この熱処理により、アモルファスのSRO膜を多結晶化することができる。昇温温度、昇温状態の維持時間は、この例に限らない。たとえば100℃/秒の昇温温度で600℃まで昇温し、600℃の温度を2分間維持してもよい。アニール温度も600℃に限らない。 【0026】多結晶化したSRO膜5の上に、ゾル-ゲル法により、厚さ約300nmのPZT膜6を形成する。まず、PbとZrとTiとのモル組成比が110:52:48となるように調整された有機金属化合物(ゾルゲル溶液)を準備する。PZTの化学量論組成に対してPbリッチの組成である。PbリッチのPZTは、後述するように、パイロクロア相の発生を防止し、テトラゴナル相のペロブスカイトを形成するのに有効である。」 (4)甲第4号証(特開2014-54745号公報)には、以下の記載がある。 「【0024】 ノズルプレート100Aは、アクチュエータ102Aを駆動するための信号を伝送する個別電極103と共有電極107とを有する。さらに、個別電極103は、配線部103aが個別電極端子部104に接続される。個別電極端子部104は、インクジェットヘッドの外部からインクジェットヘッドにおける個々のノズルを駆動する信号を受ける個別電極用の端子部である。共有電極端子部105は、共有電極の配線部に接続され、インクジェットヘッドを駆動する信号を受ける共有電極用の端子部である。 【0025】 アクチュエータ102A、個別電極103、個別電極端子部104、共有電極107、共有電極端子部105、絶縁体109は、振動板106上に形成される。図4に示すように、アクチュエータ102A、個別電極103、共有電極107および絶縁体109は、少なくとも振動板106上のインク圧力室201に対応する領域EAにおいて、ノズル穴101に対して軸対称となるように構成する。」 【図4】 (5)甲第5号証(特開2003-179282号公報)には、以下の記載がある。 「【0057】薄膜圧電体素子8は、それぞれ第1電極膜11と第2電極膜13とで挟まれた圧電体薄膜12からなる2個の積層体10をそれらの第2電極膜13同士を接着層14で接着することによって積層一体化した二層積層体に、さらに絶縁保護膜15および接続電極膜16を成膜し、所定のパターン形成を行うことで構成されている。」 【図1】(B) (6)甲第6号証(特開2010-219153号公報)には、以下の記載がある。 【図6】 4 判断 (1)取消理由通知に記載した取消理由について ア 特許法第29条の2について (ア) 本件発明1について 本件発明1と先願発明1とを対比する。 a 先願発明1の「ヘッドジンバルアセンブリ、ハードディスク装置、インクジェットヘッド、可変焦点レンズおよびセンサ」は,本件発明1の「電子機器」に相当する。 そうすると,先願発明1の「薄膜圧電体素子を有するヘッドジンバルアセンブリ、ハードディスク装置、インクジェットヘッド、可変焦点レンズおよびセンサの薄膜圧電対素子12b」は,下記[相違点1]及び[相違点2]を除き,本件発明1の「電子機器に組み込まれる圧電素子」に相当する。 b 先願発明1の「下地膜15」及び「圧電対膜13」,それぞれ本件発明の「下地膜」及び「圧電層」に相当する。 c 先願発明1の「上部密着膜16b」は,「圧電対膜13」上に積層されており,SrRuO3等のアモルファス導電性材料からなる薄膜であるから,本件発明1の「上部電極」のうち,以下の[相違点1]を除き,「少なくとも前記圧電層との境界部がアモルファス状の部分を含む金属酸化物により形成された第1電極層」に相当する。 また,先願発明1の「上部電極膜27」は,「上部密着膜16b」上に積層されていることから,本件発明1の「前記第1電極層上に形成された第2電極層」に相当する。 そうすると,先願発明1の「上部密着膜16b」及び「上部電極膜27」は,本件発明1の「少なくとも前記圧電層との境界部がアモルファス状の部分を含む金属酸化物により形成された第1電極層と、前記第1電極層上に形成された第2電極層とを含」む「上部電極」に相当する。 d 先願発明1の「下部密着膜16a」は,面心立方構造を有す金属材料からなる下部電極膜17上にエピタキシャル成長した,SrRuO3等の導電性材料からなる薄膜であるから,結晶構造を有していると認められる。加えて,「下部密着膜16a」上には「圧電体膜13」が積層されていることから,先願発明1の「下部密着膜16a」は,本件発明1の「下部電極」のうち「前記圧電層との境界部が結晶化された金属酸化物により形成され」た層に相当する。 そして,先願発明1の「下部電極膜17」は,「下地膜15」上に積層されていることから,先願発明1の「下部電極膜17」及び「下部密着膜16a」は,本件発明1の「基板上または下地膜上に形成された下部電極」に相当する。 e 本件特許明細書段落【0027】の「なお、保護層は、第1上部電極層41よりも上層の層である。つまり、保護層は、第2上部電極層42、第3上部電極層43、絶縁層5および引出配線6を含む。」の記載から,先願発明1の「上部密着膜16b」上に積層された,「上部電極膜27」,「応力均衡化膜14」及び「保護絶縁膜2」は,以下の[相違点2]を除き,本件発明1の「保護層」に相当する。 f 上記a~eより,本件発明1と先願発明1とは以下の点で相違する。 [相違点1] 本件発明1の「第1の電極層」の厚さは、2nm以上20nm以下であるのに対して,先願発明1の「上部密着膜16b」の厚さは35nm程度である点。 [相違点2] 本件発明1の「保護層」の厚さは,20nmより大きく1000nm以下であるのに対して,先願発明1の「上部電極膜27」,「応力均衡化膜14」及び「保護絶縁膜2」の厚さはそれぞれ,50nm程度,400nm程度及び5μm~10μm程度である点。 g 相違点の判断 本件明細書の段落【0028】に「また、第1上部電極層41は、保護層の厚さが厚い場合(たとえば、保護層の厚さが約20nmより大きく約1000nm以下の場合)には、たとえば、約2nm以上約40nm以下の厚さに形成することが好ましい。つまり、第1上部電極層41の厚さが約40nmより大きいと、保護層を厚くした場合でも割れる可能性が高くなる。さらに、第1上部電極層41は、約2nm以上約20nm以下の厚さに形成することがより好ましく、約20nm以下にすることで割れの発生がより低減される。」と記載されていることから,本件発明1では「第1電極層」の厚さを[相違点1]の数値範囲に限定することで,電極層の「割れの発生がより低減される」ものであり,[相違点1]は,課題解決のための具体化手段における微差であるということはできない。 h 小括 したがって,本件発明1は,先願発明1と同一ではなく,特許法第29条の2の規定に違反してされたものではない。 (イ) 本件発明2ないし4,6,7について 本件発明2ないし4,6,7は,請求項1を直接的に又は間接的に引用する発明であるから,上記「(ア)」と同様の理由により,本件発明2ないし4,6,7は,先願発明1と同一ではなく,特許法第29条の2の規定に違反してされたものではない。 (ウ) 本件発明8について 本件発明8と先願発明2とを対比する。 a 先願発明2の「下部密着膜形成工程」は,面心立方構造を有す金属材料からなる下部電極膜17上にSrRuO3等の導電性材料からなる薄膜をエピタキシャル成長させる工程であるから,エピタキシャル成長させた薄膜は結晶構造を有していると認められる。 そして,「圧電体膜形成工程」によって,下部密着膜16a上に圧電材料をエピタキシャル成長させているから,「下部密着膜形成工程」によってエピタキシャル成長させた薄膜は,本件発明8の「前記圧電層との境界部」に形成されたものに相当する。 そうすると,先願発明2の「下部密着膜形成工程」は,本件発明8の「前記圧電層との境界部を金属酸化物を結晶化して形成する工程」に相当する。 してみれば,先願発明2の「下部電極膜形成工程」及び「下部密着膜形成工程」は,本件発明8の「基板上または下地膜上に下部電極を形成する工程」に相当する。 b 先願発明2の「圧電体膜形成工程」は,本件発明8の「前記下部電極上に圧電層を形成する工程」に相当する。 c 先願発明2の「圧電体膜13上にSrRuO3等のアモルファス導電性材料からなる上部密着膜16bを形成する上部密着膜形成工程」は,以下の[相違点3]を除き,本件発明8の「前記圧電層との境界部がアモルファス状の部分を含む金属酸化物により形成された第1電極層を形成する工程」に相当する。 d 先願発明2の「上部密着膜形成工程」により形成された「アモルファス導電性材料からなる上部密着膜16b」は、後の工程により結晶化することを避けなければいけないことは明らかである。 そうすると、「上部密着膜形成工程」の後の工程である,先願発明2の「上部電極膜形成工程」は,「アモルファス導電性材料からなる上部密着膜16b」が結晶化しないように,「アモルファス導電性材料からなる上部密着膜16b」が結晶化する温度未満の温度条件により,上部電極膜を形成しなければならないことは,当業者にとって自明である。 してみれば,先願発明2の「上部電極膜形成工程」は,本件発明8の「前記第1電極層の前記金属酸化物が結晶化する温度未満の温度条件下により、前記第1電極層上に第2電極層を形成する工程」に相当する。 e 本件特許明細書段落【0027】の「なお、保護層は、第1上部電極層41よりも上層の層である。つまり、保護層は、第2上部電極層42、第3上部電極層43、絶縁層5および引出配線6を含む。」の記載から,先願発明2の,「上部電極膜形成工程」により形成された「上部電極膜27」,「応力均衡化膜形成工程」により形成された「応力均衡化膜14」及び「ポリイミド等の保護絶縁膜25を形成工程」により形成された「保護絶縁膜25」は,以下の[相違点4]を除き,本件発明8の「保護層」に相当する。 そうすると,先願発明2の「上部電極膜形成工程」,「応力均衡化膜形成工程」及び「ポリイミド等の保護絶縁膜25を形成工程」と,本件発明8の「前記第1電極層上に、20nmより大きく1000nm以下の厚さを有する保護層を形成する工程」は,「前記第1電極層上に、保護層を形成する工程」である点で共通する。 f 上記a~eより,本件発明8と先願発明2とは以下の点で相違する。 [相違点3] 本件発明8の「第1電極層を形成する工程」は,厚さが2nm以上20nm以下になるように前記第1電極層を形成する工程であるのに対して,先願発明2の「上部密着膜形成工程」により形成された「上部密着膜」の厚さは35nm程度である点。 [相違点4] 本件発明8の「保護層を形成する工程」で形成された保護増は、20nmより大きく1000nm以下の厚さを有する保護層であるのに対して,先願発明2の「上部電極膜形成工程」,「応力均衡化膜形成工程」及び「ポリイミド等の保護絶縁膜25を形成工程」で形成された「上部電極膜27」,「圧力均衡化膜14」及び「保護絶縁膜25」の厚さはそれぞれ,50nm程度,400nm程度及び5μm~10μm程度である点。 g 相違点の判断 本件明細書の段落【0028】に「また、第1上部電極層41は、保護層の厚さが厚い場合(たとえば、保護層の厚さが約20nmより大きく約1000nm以下の場合)には、たとえば、約2nm以上約40nm以下の厚さに形成することが好ましい。つまり、第1上部電極層41の厚さが約40nmより大きいと、保護層を厚くした場合でも割れる可能性が高くなる。さらに、第1上部電極層41は、約2nm以上約20nm以下の厚さに形成することがより好ましく、約20nm以下にすることで割れの発生がより低減される。」と記載されていることから,本件発明8では「第1電極層」の厚さを[相違点3]の数値範囲に限定することで,電極層の「割れの発生がより低減される」ものであり,[相違点3]は,課題解決のための具体化手段における微差であるということはできない。 h 小括 したがって,本件発明8は,先願発明2と同一ではなく,特許法第29条の2の規定に違反してされたものではない。 (エ) 本件発明9ないし12について 本件発明9ないし12は,請求項8を直接的に又は間接的に引用する発明であるから,上記「(ウ)」と同様の理由により,本件発明9ないし12は,先願発明2と同一ではなく,特許法第29条の2の規定に違反してされたものではない。 (オ) 本件発明13 本件発明13は,本件発明1に「前記上部電極上に形成され、前記上部電極を覆う絶縁層」を備えるとの限定を加えたものである。 先願発明1の「保護絶縁膜25」は,本件発明13の「前記上部電極上に形成され、前記上部電極を覆う絶縁層」に相当するから,本件発明13と先願発明1とは以下の点で相違する。 [相違点5] 本件発明13の「第1の電極層」の厚さは、2nm以上20nm以下であるのに対して,先願発明1の「上部密着膜16b」の厚さは35nm程度である点。 [相違点6] 本件発明13の「保護層」の厚さは,20nmより大きく1000nm以下であるのに対して,先願発明1の「上部電極膜27」,「応力均衡化膜14」及び「保護絶縁膜2」の厚さはそれぞれ,50nm程度,400nm程度及び5μm~10μm程度である点。 そして,上記「(ア)g」と同じ理由により,[相違点5]は,課題解決のための具体化手段における微差であるということはできない。 したがって,本件発明13は,先願発明1と同一ではなく,特許法第29条の2の規定に違反してされたものではない。 (カ) 本件発明14ないし19について 本件発明14ないし19は,請求項13を直接的に又は間接的に引用する発明であるから,上記「(オ)」と同様の理由により,本件発明14ないし19は,先願発明1と同一ではなく,特許法第29条の2の規定に違反してされたものではない。 第4 むすび 以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1ないし4,6ないし19に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項1ないし4,6ないし19に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 請求項5に係る発明は,訂正により,削除されたため,本件特許の請求項5に対して,特許異議申立人 浜俊彦 がした特許異議の申立てについては,対象となる請求項が存在しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2017-701085

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