特許異議申立
2021-701215
低次酸化チタン及びその製造方法
- 審判番号
- 2021-701215
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2017-028466
- 登録番号
- 6892280
- 請求日
- 2021年12月20日
- 審決日
- 2023年05月10日
- 公報発行日
- 2023年08月25日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】テイカ株式会社
- 【権利者代理人】赤岡 和夫
- 【権利者代理人】赤岡 迪夫
- 【権利者代理人】吉岡 亜紀子
- 【異議申立人】浜 俊彦
- 審判長/審判官
- 審判長 宮澤 尚之
- 審判官 増山 淳子
- 審判官 後藤 政博
- 分類
- P1651.113-YAA(C01G) / P1651.121-YAA(C01G) / P1651.536-YAA(C01G) / P1651.537-YAA(C01G)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第9項、特許法第36条第6項、特許法第36条第4項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6892280号発明「低次酸化チタン及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6892280号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、2、4~7〕、3、8、9、10、11について訂正することを認める。
特許第6892280号の請求項1~11に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6892280号(以下「本件特許」という。)に係る出願は、平成29年2月17日を出願日とする特許出願であって、令和3年5月31日にその特許権の設定登録がされ、同年6月23日に特許掲載公報が発行された。
その後、本件特許の請求項1~7に係る特許に対し、特許異議申立人である浜俊彦より、令和3年12月20日に特許異議の申立てがされた。
以降の手続の経緯は、次のとおりである。
令和4年 4月 5日付け:取消理由通知
同年 6月 6日 :意見書の提出及び訂正の請求(特許権者)
同年 8月19日 :意見書の提出(特許異議申立人)
同年10月31日付け:取消理由通知
同年12月21日 :意見書の提出及び訂正の請求(特許権者)
令和5年 2月14日 :意見書の提出(特許異議申立人)
第2 訂正の適否についての判断
令和4年12月21日に特許権者より請求された訂正(以下「本件訂正」といい、この訂正の請求を「本件訂正請求」という。)は適法になされたものと判断する。
以下、その理由につき詳述する。
1 訂正の内容
本件訂正請求は、本件特許請求の範囲を訂正することを求めるものであって、特許法第120条の5第4項の規定に従い、本件訂正前の一群の請求項を構成する請求項〔1~7〕を訂正の単位として訂正することを求めるものであるところ、その訂正の内容(訂正事項)は、次のとおりである(下線は訂正箇所)。なお、本件訂正請求がされたので、令和4年6月6日にされた訂正の請求(以下、「先の訂正請求」という。)は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「BET法による比表面積が10~1000m2/gであり、そして粉体抵抗率が10.0Ω・cm以下であることを特徴とする低次酸化チタン粉体。」と記載されているのを、「BET法による比表面積が10~1000m2/gであり、粉体抵抗率が10.0Ω・cm以下であり、そして原料に含まれる不可避不純物および製造工程に由来して含まれる不可避不純物以外にSiとAlを含有していないことを特徴とする低次酸化チタン粉体。」に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2、4~7も同様に訂正する)。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項3に「Ti4O7が70重量%以上含まれていることを特徴とする請求項1又は2に記載の低次酸化チタン粉体。」と記載されているのを、「BET法による比表面積が10~1000m2/gであり、粉体抵抗率が10.0Ω・cm以下であり、そしてTi4O7が70重量%以上含まれていることを特徴とする低次酸化チタン粉体。」に訂正する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項4に「カーボン量が0~10重量%であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の低次酸化チタン粉体。」と記載されているのを、「カーボン量が0~10重量%であることを特徴とする請求項1に記載の低次酸化チタン粉体。」に訂正する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項5に「請求項1ないし4のいずれか1項に記載の低次酸化チタン粉体を使用した電極。」と記載されているのを、「請求項1に記載の低次酸化チタン粉体を使用した電極。」に訂正する(請求項5の記載を引用する請求項6も同様に訂正する)。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項7に「二酸化チタンとカーボン源としての有機化合物との混合物を不活性ガス雰囲気下にて焼成することにより、請求項1ないし4のいずれか1項に記載の低次酸化チタン粉体を製造する方法。」と記載されているのを、「二酸化チタンとカーボン源としての有機化合物との混合物を不活性ガス雰囲気下にて焼成することにより、請求項1に記載の低次酸化チタン粉体を製造する方法。」に訂正する。
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項8に、「BET法による比表面積が10~1000m2/gであり、粉体抵抗率が10.0Ω・cm以下であり、Ti4O7が70重量%以上含まれており、そしてカーボン量が0~10重量%であることを特徴とする低次酸化チタン粉体。」を追加する。
(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項9に、「BET法による比表面積が10~1000m2/gであり、粉体抵抗率が10.0Ω・cm以下であり、そしてTi4O7が70重量%以上含まれていることを特徴とする低次酸化チタン粉体を使用した電極。」を追加する。
(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項10に、「BET法による比表面積が10~1000m2/gであり、粉体抵抗率が10.0Ω・cm以下であり、そしてTi4O7が70重量%以上含まれていることを特徴とする低次酸化チタン粉体を使用した電極を備えた蓄電デバイス。」を追加する。
(9)訂正事項9
特許請求の範囲の請求項11に、「二酸化チタンとカーボン源としての有機化合物との混合物を不活性ガス雰囲気下にて焼成することにより、BET法による比表面積が10~1000m2/gであり、粉体抵抗率が10.0Ω・cm以下であり、そしてTi4O7が70重量%以上含まれていることを特徴とする低次酸化チタン粉体を製造する方法。」を追加する。
(10)別の請求単位とする求め
特許権者は、訂正後の請求項3及び8~11については、当該請求項についての訂正が認められる場合には、一群の請求項の他の請求項と別の請求単位とすることを求めている。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
ア 訂正事項1は、訂正前の請求項1に対して、願書に添付された明細書の実施例1における「水4500gが入った容器中に無定形の二酸化チタン(TiO2)500gを撹拌しながら投入し、10wt%二酸化チタンスラリーを調整した。水2350gが入った容器の中にポリビニルアルコール(PVA)150gを撹拌させながら投入後、90℃の温度で1時間保持後、冷却することで6wt%ポリビニルアルコール水溶液を調整した。10wt%二酸化チタンスラリー500gに6wt%ポリビニルアルコール水溶液250gを撹拌しながら混合し、二酸化チタン-PVA混合スラリーを調整した。10wt%二酸化チタンスラリー500gに6wt%ポリビニルアルコール水溶液250gを撹拌しながら混合し、二酸化チタン-PVA混合スラリーを調整した。その混合スラリーを噴霧式乾燥機(MDL-50B,藤崎電機社製)で乾燥し、低次酸化チタンの前駆体を得た。得られた前駆体20gをアルミナ製ルツボへ投入後、前駆体が入ったアルミナルツボをタンマン管式雰囲気焼成炉(NLT-2035D-SP モトヤマ製)の中へ入れ、窒素雰囲気下、焼成条件1000℃×3時間の条件で焼成することにより実施例1の低次酸化チタンを得た。」(【0021】)との、低次酸化チタン粉体の原料成分及び製造工程に関する記載から、低次酸化チタン粉体が「原料に含まれる不可避不純物および製造工程に由来して含まれる不可避不純物以外にSiとAlを含有していない」との記載を追加することにより、訂正後の請求項1に係る発明における「低次酸化チタン粉体」の成分を限定するものであり、また、これにより新たな技術的事項が導入されるものとはいえない。また、訂正後の請求項1を引用する訂正後の請求項2、4~7についても、同様のことがいえる。
そうすると、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、願書に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
イ 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、低次酸化チタン粉末の製造時に使用されるルツボとして、アルミナ以外の材料で形成されたルツボを選択できるため、願書に添付された明細書の実施例1(【0021】)の製造方法において、アルミナ製ルツボに由来するAl成分は不可避不純物に該当しないことを論拠として、訂正事項1は、願書に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものでない旨を主張している(令和5年2月14日付け意見書の3(1)及び(3))。
そこで検討すると、アルミナは安定な化合物であるから、上記実施例1のアルミナ製ルツボ中での焼成において、当該ルツボ内の低次酸化チタンには、アルミナ製ルツボに由来するAlがほぼ混入しないか、もしくは混入したとしてもごく微量となることを理解できるから、アルミナ製ルツボに由来するAl成分は、製造工程に由来して含まれる不可避不純物といえる。
よって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は、訂正前の請求項3が請求項1又は2を引用していたところ、請求項2を引用しないものに限定した上で、請求項1との引用関係を解消して請求項3を書き下し、独立形式請求項へ改めるための訂正である。
そうすると、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」及び第4号に掲げる「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものであって、願書に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(3)訂正事項3について
訂正事項3は、訂正前の請求項4が請求項1~3のいずれか1項を引用していたところ、請求項2、3を引用しないものに限定する訂正である。
そうすると、訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであって、願書に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(4)訂正事項4について
訂正事項4は、訂正前の請求項5が請求項1~4のいずれか1項を引用していたところ、請求項2~4を引用しないものに限定する訂正である。
そうすると、訂正事項4は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであって、願書に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(5)訂正事項5について
訂正事項5は、訂正前の請求項7が請求項1~4のいずれか1項を引用していたところ、請求項2~4を引用しないものに限定する訂正である。
そうすると、訂正事項5は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであって、願書に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(6)訂正事項6について
訂正事項6は、訂正前の請求項4が請求項1~3のいずれか1項を引用していたところ、引用する請求項3のうち請求項1を引用するものについて、請求項4を書き下した上で、独立形式請求項へ改めて、新たな請求項8にするための訂正である。
そうすると、訂正事項6は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」及び第4号に掲げる「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものであって、願書に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものでありまた、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(7)訂正事項7について
訂正事項7は、訂正前の請求項5が請求項1~4のいずれか1項を引用していたところ、引用する請求項3のうち請求項1を引用するものについて、請求項5を書き下した上で、独立形式請求項へ改めて、新たな請求項9にするための訂正である。
そうすると、訂正事項7は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」及び第4号に掲げる「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものであって、願書に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(8)訂正事項8について
訂正事項8は、訂正前の請求項6が請求項5を引用し、当該請求項5が請求項1~4のいずれか1項を引用していたところ、引用する請求項3のうち請求項1を引用するものについて、請求項6を書き下した上で、独立形式請求項へ改めて、新たな請求項10にするための訂正である。
そうすると、訂正事項8は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」及び第4号に掲げる「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものであって、願書に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(9)訂正事項9について
訂正事項9は、訂正前の請求項7が請求項1~4のいずれか1項を引用していたところ、引用する請求項3のうち請求項1を引用するものについて、請求項7を書き下した上で、独立形式請求項へ改めて、新たな請求項11にするための訂正である。
そうすると、訂正事項9は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」及び第4号に掲げる「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものであって、願書に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(10)独立特許要件について
本件特許の訂正前の請求項1~7の全ての請求項について特許異議の申立てがされたものであるから、訂正事項1~9に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
そして、特許権者から、上記1(10)のとおり、訂正後の請求項3、8~11については、一群の請求項の他の請求項とは別の訂正単位とする求めがあったことから、訂正後の請求項3、8、9、10、11についての訂正は、それぞれ、請求項〔1、2、4~7〕とは別の訂正単位として扱う。
したがって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、2、4~7〕、3、8、9、10、11について訂正することを認める。
第3 本件特許請求の範囲の記載(本件発明)
上記第2のとおり本件訂正請求は適法になされたものであるから、本件特許の特許請求の範囲の請求項1~11に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」~「本件発明11」といい、纏めて「本件発明」という。)は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~11に記載された事項により特定される、次のとおりのものである(下線は訂正箇所)。
「【請求項1】
BET法による比表面積が10~1000m2/gであり、粉体抵抗率が10.0Ω・cm以下であり、そして原料に含まれる不可避不純物および製造工程に由来して含まれる不可避不純物以外にSiとAlを含有していないことを特徴とする低次酸化チタン粉体。
【請求項2】
低次酸化チタンは、一般式:TinO2n-1(2≦n≦10)で表されることを特徴とする請求項1に記載の低次酸化チタン粉体。
【請求項3】
BET法による比表面積が10~1000m2/gであり、粉体抵抗率が10.0Ω・cm以下であり、そしてTi4O7が70重量%以上含まれていることを特徴とする低次酸化チタン粉体。
【請求項4】
カーボン量が0~10重量%であることを特徴とする請求項1に記載の低次酸化チタン粉体。
【請求項5】
請求項1に記載の低次酸化チタン粉体を使用した電極。
【請求項6】
請求項5記載の電極を備えた蓄電デバイス。
【請求項7】
二酸化チタンとカーボン源としての有機化合物との混合物を不活性ガス雰囲気下にて焼成することにより、請求項1に記載の低次酸化チタン粉体を製造する方法。
【請求項8】
BET法による比表面積が10~1000m2/gであり、粉体抵抗率が10.0Ω・cm以下であり、Ti4O7が70重量%以上含まれており、そしてカーボン量が0~10重量%であることを特徴とする低次酸化チタン粉体。
【請求項9】
BET法による比表面積が10~1000m2/gであり、粉体抵抗率が10.0Ω・cm以下であり、そしてTi4O7が70重量%以上含まれていることを特徴とする低次酸化チタン粉体を使用した電極。
【請求項10】
BET法による比表面積が10~1000m2/gであり、粉体抵抗率が10.0Ω・cm以下であり、そしてTi4O7が70重量%以上含まれていることを特徴とする低次酸化チタン粉体を使用した電極を備えた蓄電デバイス。
【請求項11】
二酸化チタンとカーボン源としての有機化合物との混合物を不活性ガス雰囲気下にて焼成することにより、BET法による比表面積が10~1000m2/gであり、粉体抵抗率が10.0Ω・cm以下であり、そしてTi4O7が70重量%以上含まれていることを特徴とする低次酸化チタン粉体を製造する方法。」
第4 取消理由通知書に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
当審が特許権者に通知した、令和4年10月31日付けの取消理由(決定の予告)の概要は、次のとおりである。
(1)取消理由1(明確性要件違反)
取消理由1は、要するに、先の訂正請求により訂正された請求項1に係る発明の「SiおよびAlを含有していない」との特定事項は、原料に含まれる不可避不純物以外に微量のSi及びAlを含有することを示しているのか、あるいは、原料に含まれる不可避不純物以外にも微量のSi及びAlを含有することを示しているのか不明であるから、本件特許は、特許法第36条第6項第2項に規定する要件(明確性要件)を満たしていない特許出願に対してされたものである。
2 当審の判断
(1)取消理由1(明確性要件違反)について
本件訂正請求によって、先の訂正請求により訂正された請求項1に係る発明の「SiおよびAlを含有していない」との特定事項は、「原料に含まれる不可避不純物および製造工程に由来して含まれる不可避不純物以外にSiとAlを含有していない」に訂正された。
そして、上記訂正により、本件発明1において、原料及び製造工程に起因する不可避不純物であるSi、Alを含有することは許容されることとなった。
したがって、取消理由1で指摘した点は明確となった。
(2)特許異議申立人の主張について
ア 特許異議申立人の主張の概要
特許異議申立人は、(i)低次酸化チタン粉末の製造時に使用されるルツボとして、アルミナ以外の材料で形成されたルツボを選択できるため、アルミナルツボに由来するAl成分は不可避不純物に該当しないから、本件発明1の「原料に含まれる不可避不純物および製造工程に由来して含まれる不可避不純物以外にSiとAlを含有していない」との特定事項は、Si及びAlがどの程度含有していることを示しているのかが明らかでないこと、及び、(ii)原料や製造工程は「低次酸化チタン粉末」という物を特定する事項でないため、本件発明1の「原料に含まれる不可避不純物および製造工程に由来して含まれる不可避不純物以外にSiとAlを含有していない」との特定事項の意義が明確でないことを論拠にして、本件発明1は明確性要件を満足しない旨を主張している(令和5年2月14日付け意見書の3(1)及び(2))。
イ 特許異議申立人の主張の検討
本件特許の願書に添付された明細書(以下、「本件明細書」という。)の実施例においては、アルミナ製のルツボ中で焼成を行っているところ、上記第2の2(1)イで検討したとおり、焼成工程によっては低次酸化チタンにAlはほぼ混入しないか、もしくは混入したとしてもごく微量となる。そして、混入した場合においては、そのAlは、製造工程に由来して含まれる不可避不純物であり、意図的に添加された場合のAl量とは明確に区別がつくものである。
加えて、原料に由来する不可避不純物も、製造工程に由来する不可避不純物も、「低次酸化チタン粉末」という物を特定する事項であって、意図的に添加された不純物と明確に区別がつくものである。
したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
(3)取消理由1についてのまとめ
以上のとおりであるから、取消理由1に理由はない。
第5 取消理由において採用しなかった特許異議申立理由について
1 特許異議申立理由の概要
標記の特許異議申立理由(以下、「申立理由」という)は、概略、以下のとおりである。
ここで、特許異議申立人が提出した証拠方法は、次のものである。
甲第1号証:Guoqing Chai et al.,「Preparation and characterization of λ-Ti3O5 by carbothermal reduction of TiO2」, Journal of Alloys and Compounds, Volume.621, 2015, Page 404-410
甲第2号証:Yun Chen et al.,「Sol-gel preparation and characterization of black titanium oxides Ti2O3 and Ti3O5」, Journal of Material Science, Volume 25, 2014, Page 1284-1288
甲第3号証:Ziyang Guo et al.,「Leaf-like Graphene oxide with a Carbon Nanotube Midrib and Its Application in Energy Storage Devices」, Advanced functional materials, 2013,vol.23, Page 4840-4846
甲第4号証:特開2015-142438号公報
甲第5号証:特開2012-256480号公報
(1)申立理由1(実施可能要件違反)
「低次酸化チタン」は種々の化学組成をとり得るものであるところ、本件明細書中、BET法による比表面積が10~1000m2/gであり、粉体抵抗率が10.0Ω・cm以下である低次酸化チタン粉体として実際に製造されているのは、Ti4O7が主成分、より具体的にはTi4O7純度が82%以上のもののみである。そうすると、上記物性を有し、かつ、Ti4O7が主成分ではない、より具体的にはTi4O7純度が82%を下回る低次酸化チタンを、どのようにすれば製造しうるのか、当業者が実施可能な程度に記載されていない。
また、粉体抵抗率は「10Ω・cm以下」とされ、下限が記載されていないが、実際に製造されているのは4.2×10-1Ω・m以上のもののみであるところ、粉体抵抗率が4.2×10-1Ω・m以下のものをどのようにすれば製造しうるのか、当業者が実施可能な程度に記載されていない。
したがって、本件特許は、特許法第36条第4項第1号に記載する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるものである。
(2)申立理由2(甲第1号証を主たる証拠とする)
設定登録時の請求項1、2、4に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、また、設定登録時の請求項4に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、その特許は、同法第29条第1項又は第2項の規定に違反したものあるから、同法第113条第2号に該当し、取り消されるものである。
(3)申立理由3(甲第2号証を主たる証拠とする)
設定登録時の請求項1、2に係る発明は、甲第2号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、また、設定登録時の請求項4~6に係る発明は、甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、その特許は、同法第29条第1項又は第2項の規定に違反したものあるから、同法第113条第2号に該当し、取り消されるものである。
2 申立理由に対する当審の判断
(1)申立理由1について
本件発明1は、文言上、低次酸化チタンとしてあらゆる低次酸化チタンを含有しうるものとなっている。
しかしながら、本件発明1は「粉体抵抗率が10.0Ω・cm以下」という特定もあるため、低次酸化チタンはこの物性を充足する必要がある。そうすると、本件発明1の「低次酸化チタン」が文言上あらゆる低次酸化チタンを包含することになっていたとしても、「粉体抵抗率が10.0Ω・cm以下」という特定によって、自ずとこの物性を充足する低次酸化チタンへの限定が行われているといえる。したがって、「粉体抵抗率が10.0Ω・cm以下」を充足する範囲内で低次酸化チタンを選択すればよいため、本件発明1を実施するに際して、当業者の過度の試行錯誤を要するとはいえない。
また、抵抗率の下限が記載されていない場合は、限りなく小さな抵抗率の実施例の開示が求められるものでもない。加えて、実施例において、粉体抵抗率が4.2×10-1Ω・m~1.2×100Ω・cmの粉体抵抗率の低次酸化チタンが得られているところ、焼成温度によって、粉末抵抗率を調整することができることも見て取れ得るから、粉体抵抗率が4.2×10-1Ω・m以下のものについても、当業者の過度の試行錯誤を要することなく、実施できるといえる。本件発明2~11についても同様である。
以上のとおりであるから、申立理由1に理由はない。
(2) 申立理由2について(新規性、進歩性について)
申立理由2は、設定登録時の請求項1、2、4に係る特許を対象とするものであるところ、本件発明1~11のうち、本件発明3、5~7に係る特許は、申立理由2の対象でないし、さらに、本件発明8~11は、上記第2で検討したとおり、設定登録時の請求項3又は請求項3を引用する請求項5を書き下して独立項に改めたものであるため、本件発明8~11に係る特許も申立理由2の対象にならない。
したがって、本件発明1、2、4に係る特許について、以下検討する。
ア 甲第1号証に記載された発明
甲第1号証には、「SiO2,Al2O3等の無機物でコーティングされたナノTiO2を炭素熱還元して調製されたλ-Ti3O5粉末であって、比表面積(BET)が12.82m2g-1であり、且つ試料の導電率が0.68Ωcm-1であるλ-Ti3O5粉末。」が記載されている(ABSTRACT)。また、得られた粉末のラマンスペクトル分析で、Si-O-Si、Si-O-Ti、Al-O-Al、Al-Oのピークが観測されるが、水酸化ナトリウムエッチングによってこのピークが消滅する、即ち、無機コーティング層が水酸化ナトリウムによってエッチングされていることが記載されているところ(p.408 左欄12-27行)、得られたλ-Ti3O5粉末は、SiO2、Al2O3等の無機物コーティングを有していることが理解される。そうすると、甲第1号証には、「SiO2,Al2O3等の無機物でコーティングされたナノTiO2を炭素熱還元して調製された、SiO2,Al2O3等の無機物でコーティングされたλ-Ti3O5粉末であって、比表面積(BET)が12.82m2g-1であり、且つ試料の導電率が0.68Ωcm-1であるλ-Ti3O5粉末。」(以下、「甲1発明」という)の発明が記載されていると認められる。
イ 本件発明1について
(ア)本件発明1と甲1発明との対比
甲1発明における「λ-Ti3O5粉末」、「比表面積(BET)が12.82m2g-1」は、それぞれ、本件発明1の「低次酸化チタン粉体」、「BET法による比表面積が10~1000m2/g」に相当する。
したがって、本件発明1と甲1発明とは、
「BET法による比表面積が10~1000m2/gである低次酸化チタン粉体。」である点で一致し、
本件発明1が「原料に含まれる不可避不純物および製造工程に由来して含まれる不可避不純物以外にSiとAlを含有していない」のに対し、甲1発明では「SiO2,Al2O3等の無機物でコーティングされたλ-Ti3O5粉末」である点で相違し(以下、「相違点1」という)、
また、本件発明1が「粉体抵抗率が10.0Ω・cm以下」であるのに対し、甲1発明では「導電率が0.68Ωcm-1」である点で相違する(以下、「相違点2」という)。
(イ)相違点の検討
相違点1について検討する。
甲第1号証には、「前駆体粒子(TiO2)表面上の二重コーティングの無機シェルは、λ-Ti3O5の形成に重要な役割を果たす」ことが記載されている( 5.Conclusionの第12~15行 )。そうすると、甲1発明においては、積極的にSiO2,Al2O3等の無機物でコーティングされた原料を用いているといえるため、甲1発明において、SiO2、Al2O3等の無機コーティングのない原料を用いること、即ちSiO2、Al2O3等の無機コーティングのないλ-Ti3O5粉末を得ることに動機付けはなく、SiO2、Al2O3等の無機コーティングのないλ-Ti3O5粉末を得て、「原料に含まれる不可避不純物および製造工程に由来して含まれる不可避不純物以外にSiとAlを含有していない」ものとすることは、当業者が容易に想到しえたものとはいえない。
なお、甲第3号証~甲第5号証は、粉末抵抗率の単位についての技術常識を示す証拠であるから、甲第3号証~甲第5号証の記載は、相違点1に係る上記判断に影響するものでない。
(ウ)小括
したがって、相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明ではないし、甲第1号証に記載された発明及び甲第3号証~甲第5号証に記載された技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
ウ 本件発明2、4について
本件発明2、4は、本件発明1を引用するものであって、本件発明1の特定事項を全て含むものであるから、上記イに示した理由と同様の理由により、甲第1号証に記載された発明ではないし、甲第1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
エ 小括
以上のとおりであるから、申立理由2に理由はない。
(3)申立理由3について(新規性、進歩性について)
申立理由3は、設定登録時の請求項1、2、4~6に係る特許を対象とするものであるところ、本件発明1~11のうち、本件発明3、7に係る特許は、申立理由3の対象でないし、さらに、本件発明8~11は、上記第2で検討したとおり、設定登録時の請求項3又は請求項3を引用する請求項5を書き下して独立項に改めたものであるため、本件発明8~11に係る特許も申立理由3の対象にならない。
したがって、本件発明1、2、4~6に係る特許について、以下検討する。
ア 甲第2号証に記載された発明
甲第2号証には、「粒径が50-200nm、粉末電気抵抗率が4.7×10-3Ωm、球状及び板状の混合型構造を有するTi3O5の粉末」(以下、「甲2発明」という)の発明が記載されていると認められる(Abstract)。
イ 本件発明1について
(ア)本件発明1と甲2発明との対比
甲2発明における「Ti3O5の粉末」は、本件発明1の「低次酸化チタン粉末」に相当する。また、粉末電気抵抗率が4.7×10-3Ωmは、単位をΩmからΩcmにすれば、4.7×10-1Ωcmとなる。そうすると、甲2発明の「粉末電気抵抗率が4.7×10-3Ωm」は、本件発明1の「粉体抵抗率が10.0Ω・cm以下」に相当する。
したがって、本件発明1と甲2発明とは、「粉体抵抗率が10.0Ω・cm以下の低次酸化チタン粉体」である点で一致し、
本件発明1が「BET法による比表面積が10~1000m2/g」であるのに対し、甲2発明ではそのような特定のない点で相違し(以下、「相違点3」という)、
本件発明1が「原料に含まれる不可避不純物および製造工程に由来して含まれる不可避不純物以外にSiとAlを含有していない」のに対し、甲1発明ではそのような特定がない点で相違する(以下、「相違点4」という)。
(イ)相違点の検討
相違点3について検討する。
甲第2号証には、比表面積についての直接的な記載や示唆はない。
また、甲2発明のTi3O5の粉末は、粒径が50~200nmであるが、粒径のみから比表面積は算出できないから、甲2発明Ti3O5の粉末が、「BET法による比表面積が10~1000m2/g」であるということはできない。
また、本件明細書には、BET法による比表面積を10~1000m2/gとすることによって、電極として用いた際に、優れた反応効率が得られることが記載されている(【0004】)。他方、甲第2号証には、比表面積と反応効率についての記載や示唆はないし、このようなことが技術常識であるとの証拠もないため、甲2発明において、優れた反応効率を得ることを目的として、比表面積を10~1000m2/gとすることは、当業者が容易に想到しうることではない。
(ウ)特許異議申立人の主張の検討
特許異議申立人は、本件明細書の実施例では、1次粒子径が10~130nmであれば比表面積が11~952m2/gとなっていることから、甲2発明の粒径が50-200nmの粉末は10~1000m2/gの範囲内の比表面積となる蓋然性が高い旨主張している。
しかしながら、粒子の比表面積は、粒子の形状やその表面状態などによっても変化し、1次粒径のみで決まる物性ではない。そして、本件明細書の実施例では球形に近い粒子であるところ、甲2発明の粉末は、球状及び板状の混合型構造となっており、粒子の形状も異なっている。
よって、上記主張を採用することはできない。
(エ)小括
したがって、相違点4について検討するまでもなく、本件発明1は、甲第2号証に記載された発明ではないし、甲第2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
ウ 本件発明2、4~6について
本件発明2、4~6は、本件発明1を引用するものであって、本件発明1の特定事項を全て含むものであるから、上記(3)イに示した理由と同様の理由により、甲第2号証に記載された発明ではないし、甲第2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
エ 小括
以上のとおりであるから、申立理由3に理由はない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、本件特許の請求項1~11に係る発明は、特許異議申立書に記載された申立理由、及び、取消理由通知書(決定の予告)に記載した取消理由によっては、取り消すことができない。また、他に当該請求項1~11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2021-701215