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特許異議申立

2017-701000

冷水可溶性ポリビニルアルコール/アルキルアクリレートコポリマーおよびそれらのフィルム

審判番号
2017-701000
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2015-216584外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2017年10月18日
審決日
2019年05月30日
公報発行日
2019年08月30日
結論
訂正認容
当事者
審判長/審判官
分類
P1651.113-YAA(C08F) / P1651.121-YAA(C08F) / P1651.536-YAA(C08F) / P1651.537-YAA(C08F)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法120条の8第1項特許法135条
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第9項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第44条第1項、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の8第1項
データ出所
審決公報(SGML)

事件の表示

特許第6117893号発明「冷水可溶性ポリビニルアルコール/アルキルアクリレートコポリマーおよびそれらのフィルム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

【結 論】 特許第6117893号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~10〕について訂正することを認める。 特許第6117893号の請求項1、3、6及び8ないし10に係る特許を維持する。 特許第6117893号の請求項2、4、5、7に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。

理由

【理 由】 第1 手続の経緯 特許第6117893号の請求項1ないし10に係る特許についての出願は、2011年(平成23年)12月16日(パリ条約による優先権主張 2010年(平成22年)12月22日(US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする特願2013-546257号の一部を、特許法第44条第1項の規定により、平成27年11月4日に新たな特許出願として分割したものであり、平成29年3月31日にその特許権の設定登録がされ、平成29年4月19日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許について、平成29年10月18日に特許異議申立人株式会社クラレ(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがなされたものである。 その後の手続は以下のとおりである。 平成30年2月13日付け:取消理由通知書(同年2月16日発送) 平成30年5月16日  :訂正請求書、意見書(特許権者) 平成30年6月21日  :意見書(申立人) (同年6月22日受付) 平成30年8月31日付け:取消理由通知書(決定の予告) (同年9月4日発送) 平成30年12月3日  :訂正請求書、意見書(特許権者) 平成31年1月10日  :意見書(申立人) (同年1月15日受付) 平成31年3月14日付け:審尋 (同年3月20日発送) 平成31年4月15日  :回答書(特許権者) なお、平成30年5月16日にされた訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなされる。 第2 訂正の適否 1 訂正事項 上記平成30年12月3日提出の訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)は、一群の請求項である請求項1ないし10からなる本件特許請求の範囲を、上記訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり訂正することを求めるものであって、その具体的訂正事項は次のとおりである。(下線は、訂正箇所を表す。) (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に 「ビニルアセテートモノマー(“VAM”)とアルキルアクリレート(“AA”)とを共重合させることによって製造される、ビニルアルコール(“VOH”)とアルキルアクリレート(“AA”)との冷水可溶性で実質的にランダムなコポリマーであって、3分未満の特徴的冷水フィルム溶解時間を示し、勾配溶出クロマトグラフィー分析における本質的に1つのピークの存在によって明示されるように組成ドリフトを実質的に含まない上記コポリマー」 とあるのを、 「ビニルアセテートモノマー(“VAM”)とアルキルアクリレート(“AA”)とを共重合させ、鹸化させることによって製造される、ビニルアルコール(“VOH”)とアルキルアクリレート(“AA”)との冷水可溶性で実質的にランダムなコポリマーであって、59秒以下の特徴的冷水フィルム溶解時間を示し、勾配溶出クロマトグラフィー分析における1つのピークの存在によって明示されるように組成ドリフトを実質的に含まず、2~8モル%のAAを含み、かつアルキルアクリレート(AA)がメチルアクリレートである、上記コポリマー」に訂正する。 (請求項1の記載を直接または間接的に引用する請求項3、6、8~10も同様に訂正する。) (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項2を削除する。 (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項3に 「コポリマーが3~10モル%のAAを含む、請求項1に記載の、ビニルアセテートモノマー(“VAM”)とAAとを共重合させることによって製造される、ビニルアルコール(“VOH”)とアルキルアクリレート(“AA”)との冷水可溶性で実質的にランダムなコポリマー。」 とあるのを、 「コポリマーが3~8モル%のAAを含む、請求項1に記載の、ビニルアセテートモノマー(“VAM”)とAAとを共重合させ、鹸化させることによって製造される、ビニルアルコール(“VOH”)とアルキルアクリレート(“AA”)との冷水可溶性で実質的にランダムなコポリマー。」に訂正する。 (4)訂正事項4 特許請求の範囲の請求項4を削除する。 (5)訂正事項5 特許請求の範囲の請求項5を削除する。 (6)訂正事項6 特許請求の範囲の請求項6に 「請求項1に記載の、ビニルアセテートモノマー(“VAM”)とAAとを共重合させることによって製造される、ビニルアルコール(“VOH”)とアルキルアクリレート(“AA”)との冷水可溶性で実質的にランダムなコポリマー。」 とあるのを、 「請求項1に記載の、ビニルアセテートモノマー(“VAM”)とAAとを共重合させ、鹸化させることによって製造される、ビニルアルコール(“VOH”)とアルキルアクリレート(“AA”)との冷水可溶性で実質的にランダムなコポリマー。」に訂正する。 (7)訂正事項7 特許請求の範囲の請求項7を削除する。 2 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)訂正事項1について ア 訂正の目的の適否 訂正事項1の内、「ビニルアセテートモノマー(“VAM”)とアルキルアクリレート(“AA”)とを共重合させることによって製造される、ビニルアルコール(“VOH”)とアルキルアクリレート(“AA”)との冷水可溶性で実質的にランダムなコポリマー」を、「ビニルアセテートモノマー(“VAM”)とアルキルアクリレート(“AA”)とを共重合させ、鹸化させることによって製造される、ビニルアルコール(“VOH”)とアルキルアクリレート(“AA”)との冷水可溶性で実質的にランダムなコポリマー」とする訂正(以下、「訂正事項1-1」という。)は、訂正前の特定では、「ビニルアセテートモノマー(“VAM”)」と「アルキルアクリレート(“AA”)」とを共重合させる(だけ)によっては、「ビニルアルコール(“VOH”)」と「アルキルアクリレート(“AA”)」とのコポリマーを製造することができるのか明確でなかったものを、「鹸化させる」との特定を加えることにより、コポリマーにおいて、「ビニルアセテートモノマー(“VAM”)」の単位が、鹸化により「ビニルアルコール(“VOH”)」の単位となることを明確にするものであるから、この訂正は、特許法第120条の5第2項のただし書第3号に掲げる、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 また、訂正事項1の内、「3分未満の特徴的冷水フィルム溶解時間を示し」、「組成ドリフトを実質的に含まない上記コポリマー」を、それぞれ「59秒以下の特徴的冷水フィルム溶解時間を示し」、「組成ドリフトを実質的に含まず、2~8モル%のAAを含み、かつアルキルアクリレート(AA)がメチルアクリレートである、上記コポリマー」とする訂正(以下、「訂正事項1-2」という。)は、「特徴的冷水フィルム溶解時間」の範囲を、「3分未満」から「59秒以下」に限定し、「コポリマー」が、「2~8モル%のAAを含み、かつアルキルアクリレート(AA)がメチルアクリレートである」ものであることを限定するものであるから、特許法第120条の5第2項のただし書第1号に掲げる、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、「勾配溶出クロマトグラフィー分析における本質的に1つのピークの存在によって明示されるように組成ドリフトを実質的に含まない」を、「勾配溶出クロマトグラフィー分析における1つのピークの存在によって明示されるように組成ドリフトを実質的に含まず、」とする訂正(以下、「訂正事項1-3」という。)は、「本質的に1つのピーク」という不明確な表現を「1つのピーク」という明確な表現にするものであり、特許法第120条の5第2項のただし書第3号に掲げる、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 イ 新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 訂正事項1-1は、本件明細書の段落【0008】の「共重合プロセスは、AAの量を2つの部分に分割すること;AAの第1の部分と、必要とされる全てのビニルアセテートモノマー(VAM)とを第1の反応器において共重合させること;そして残りのAAだけを第2の反応器中に加え、第1の反応器からのコポリマーと重合させること;を含むのが好ましい。鹸化すると、コモノマー組成分布が実質的にランダムであるPVOHは、大幅に改良された冷水可溶性を有する。」との記載に基づくものである。 また、訂正事項1-2の特徴的冷水フィルム溶解時間を「59秒」(以下)とする訂正は、同段落【0049】【表5】の実施例番号6の「溶解(s)」の結果に基づくものであり、「コポリマー」が、「2~8モル%のAAを含み、かつアルキルアクリレート(AA)がメチルアクリレートである、」とする訂正は、本件明細書の段落【0015】、【0016】、実施例で用いたAAがMA(メチルアクリレート)であることに基づくものである。 さらに、訂正事項1-3は、「本質的に1つのピーク」を「1つのピーク」とするものであり、図1のピークに基づくものである。 そうすると、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合し、また、これらの訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項にも適合する。 (2)訂正事項2、4、5及び7について 訂正事項2、4、5及び7は、特許請求の範囲の請求項2、4、5及び7を、それぞれ削除するものであるから、特許法第120条の5第2項のただし書第1号に掲げる、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であると共に、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条の第5項及び第6項にも適合する。 (3)訂正事項3、6について 訂正事項3、6の訂正は、上記(1)の訂正事項1-1と同じ内容のものである。 したがって、訂正事項3、6は、上記(1)で述べたように、特許法第120条の5第2項のただし書第3号に掲げる、明瞭でない記載の釈明をを目的とするものであり、また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であると共に、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条の第5項及び第6項にも適合する。 3 小括 上記2のとおり、それらの訂正事項はいずれも、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものに該当し、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。 よって、訂正後の請求項〔1ないし10〕について訂正することを認める。 第3 本件発明 上記「第2」のとおり、本件訂正は認容し得るものであるから、本件訂正後の請求項1ないし10に係る発明(以下、請求項1に係る発明を項番に対応して「本件発明1」、「本件発明1」に対応する特許を「本件特許1」などといい、併せて「本件発明」、「本件特許」ということがある。)の記載は、次のとおりである。 「【請求項1】 ビニルアセテートモノマー(“VAM”)とアルキルアクリレート(“AA”)とを共重合させ、鹸化させることによって製造される、ビニルアルコール(“VOH”)とアルキルアクリレート(“AA”)との冷水可溶性で実質的にランダムなコポリマーであって、59秒以下の特徴的冷水フィルム溶解時間を示し、勾配溶出クロマトグラフィー分析における1つのピークの存在によって明示されるように組成ドリフトを実質的に含まず、2~8モル%のAAを含み、かつアルキルアクリレート(AA)がメチルアクリレートである、上記コポリマー、ここで、前記冷水フィルム溶解時間は、76μm×2.3cm×3.4cmの寸法のフィルムをスライドフレームに据え付け、温度を21℃±1℃に保持した撹拌下の400mlの水中にフィルムを浸漬させ、フィルムの残留ストリングとフィルム粒子がフレーム上に残らなくなるまでの合計時間である。 【請求項2】 (削除) 【請求項3】 コポリマーが3~8モル%のAAを含む、請求項1に記載の、ビニルアセテートモノマー(“VAM”)とAAとを共重合させ、鹸化させることによって製造される、ビニルアルコール(“VOH”)とアルキルアクリレート(“AA”)との冷水可溶性で実質的にランダムなコポリマー。 【請求項4】 (削除) 【請求項5】 (削除) 【請求項6】 コポリマーが単峰性GPECクロマトグラムを有する、請求項1に記載の、ビニルアセテートモノマー(“VAM”)とAAとを共重合させ、鹸化させることによって製造される、ビニルアルコール(“VOH”)とアルキルアクリレート(“AA”)との冷水可溶性で実質的にランダムなコポリマー。 【請求項7】 (削除) 【請求項8】 請求項1に記載のコポリマーから製造されるフィルム。 【請求項9】 10ミクロン~400ミクロンの厚さを有する、請求項8に記載のフィルム。 【請求項10】 ビニルアセテートから誘導されるモノマー単位を少なくとも75モル%有する請求項1に記載のコポリマー。」 第4 当審が通知した取消理由について 1 当審が平成30年8月31日付けで通知した取消理由(決定の予告)の概要 「3 理由3(特許法第36条第6項第1号) 訂正前の請求項1ないし10に係る発明は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載される発明の課題を解決することを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものであり、その発明に係る特許は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号の規定に適合していない特許出願に対してされたものであるから、取り消すべきものである。 4 理由4(特許法第36条第4項第1号) 本件明細書の発明の詳細な説明は、訂正前の請求項1ないし10に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでなく、その発明に係る特許は、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号の規定に適合していない特許出願に対してされたものであるから、取り消すべきものである。 5 理由5(特許法第36条第6項第2号) 訂正前の請求項1ないし10に係る発明は、明確でなく、その発明に係る特許は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号の規定に適合していない特許出願に対してされたものであるから、取り消すべきものである。」 2 平成30年2月13日付けで通知した取消理由のうち、平成30年8月31日付けで通知した取消理由(決定の予告)で採用しなかった取消理由の概要 当審が平成30年2月13日付けで通知した取消理由のうち、平成30年8月31日付けで通知した取消理由(決定の予告)で採用しなかった取消理由の概要は、次に示す理由1、2及び理由5(1)のとおりである。 「1 理由1(特許法第29条第1項第3号) 訂正前の請求項1ないし10に係る発明は、下記甲第1号証に記載された発明であり、訂正前の請求項1ないし8、10に係る発明は、下記甲第2号証に記載された発明であり、訂正前の請求項1ないし10に係る発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、その発明に係る特許は、取り消すべきものである。 2 理由2(特許法第29条第2項) 訂正前の請求項1ないし10に係る発明は、下記甲第1号証に記載された発明及び下記甲第1、2号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、又、下記甲第2号証に記載された発明及び下記甲第1、2号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その発明に係る特許は、取り消すべきものである。 5 理由5(特許法第36条第6項第2号) 訂正前の請求項1ないし10に係る発明は、明確でなく、その発明に係る特許は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号の規定に適合していない特許出願に対してされたものであるから、取り消すべきものである。 記 甲第1号証:国際公開第2007/021641号 甲第2号証:デュポンTMElvanol(R)80-18(当審注:原文の上付き丸囲みのRを、(R)で表す、以下同様)の製品データシート」 第5 当審で通知した取消理由(決定の予告)に対する判断 当審は、以下に述べるように、本件発明1、3、6及び8ないし10に係る特許について、取消理由(決定の予告)で通知した理由では取り消すことはできないと判断する。 そして、請求項2、4、5、7に係る特許は、これらの請求項が削除されたので、申立の対象が存在しないものとなった。 1 理由3(特許法第36条第6項第1号)について (1) 特許法第36条第6項第1号について 特許法第36条第6項第1号は、「第2項の特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。 一 特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」と定めている。 これは、特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきであることを意味する。 そこで、本件発明1、3、6及び8ないし10について、この観点から検討する。 (2) 取消理由(決定の予告)の概要 取消理由(決定の予告)の概要は以下のとおりである。 「ア 勾配溶出クロマトグラフィー分析における本質的に1つのピークの存在について ・・・ 図1及び図2との関係から、ビニルアセテートモノマー(VAM)とメチルアクリレート(MA)とのスプリットに応じて図2の別のピークの出現の程度が変化するといえるが、この別のピークがさらに、小さくなったとしても、どの様なピークの形状からを、実質的に単一のピークの範囲とするのかが明らかでない。 ・・・本件発明1のコポリマーの「勾配溶出クロマトグラフィー分析におけるピーク」を、「本質的に1つのピーク」という形状のみで特定しようとするのであれば、図1に記載されるような厳密に一つのピークだけが存在するもの以外のピーク形状を有するコポリマーも含まれ得ることとなり、コポリマーでは、コポリマーのランダム性も低下することになる。 そうすると、本件発明1の「本質的に1つのピーク」との特定により、本件発明1に含まれるか否かが曖昧な範囲のクロマトグラフを示すコポリマーが、本件発明1の発明の課題を解決できるものであることは、本件明細書の発明の詳細な説明の記載から明らかでない。 イ 冷水可溶性で実質的にランダムなコポリマーについて ・・・ ・・・本件明細書の発明の詳細な説明で、本件発明の課題が解決できることが実質的に示されているのは、本件明細書に記載される実施例に示されるような、「AAの量を2つの部分に、70:30に近いスプリットで分割すること;AAの第1の部分と、必要とされる全てのビニルアセテートモノマー(VAM)とを第1の反応器において共重合させること;そして残りのAAだけを第2の反応器中に加え、第1の反応器からのコポリマーと重合させること;鹸化する」ことにより製造されるPVOHコポリマーであって、メチルアクリレートをコポリマーとして所定量含むと共に、それに対応してビニルアルコールを所定量含み、所定の4%粘度を有するコポリマーを前提として、「59秒以下の特徴的冷水フィルム溶解時間を示し、勾配溶出クロマトグラフィー分析における(本質的に)1つのピークの存在によって明示されるように組成ドリフトを実質的に含まない」ものであるといえるから、本件の原出願の出願時の技術常識を加味したとしても、本件発明1は、本件明細書の発明の詳細な説明の記載により当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲を超えるものである。 ウ まとめ 上記ア及びイで述べたとおり、本件発明1は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載される発明の課題を解決することを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものである。 本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明2ないし10についても、同様である。」 (3) 本件発明の課題 本件明細書の段落【0005】には、「全てのPVOHコポリマーが、種々の液状・非液状(たとえば粉末状)製品を単位用量投与するための包装用フィルムの製造において有用な、あるいは肥料、農薬、家庭用・工業用洗浄剤、洗濯洗剤、および水処理用薬品等を含めたこれらの製品をカプセル封入する望ましい最良の水溶性を有しているわけではない。」との先行技術における問題が記載され、それを受けた同段落【0008】には、本件発明では、PVOHコポリマーを、AAの量を2つの部分に分割し、AAの第1の部分と、必要とされる全てのビニルアセテートモノマー(VAM)とを第1の反応器において共重合させ、そして残りのAAだけを第2の反応器中に加え、第1の反応器からのコポリマーと重合させた後、鹸化すると、コモノマー組成分布が実質的にランダムであるPVOHが製造され、大幅に改良された冷水可溶性を有することとなることが記載されている。 そうすると、本件発明の発明の課題は、発明の課題としての明示はないものの、「コモノマー組成分布が実質的にランダムであり、大幅に改良された冷水可溶性を有するPVOHコポリマーを得ること」にあるといえる。 (4) 明細書の記載事項 ア 明細書の記載事項 (ア) 「【0008】 逐次重合プロセスにおいて、ビニルアセテートモノマー供給量に対するアルキルアクリレート(AA)モノマー供給量を制御することによって、冷水可溶性であって組成上のずれ(compositional drift)を実質的に含まないポリマーが製造される、ということを本発明者らは見出した。共重合プロセスは、AAの量を2つの部分に分割すること;AAの第1の部分と、必要とされる全てのビニルアセテートモノマー(VAM)とを第1の反応器において共重合させること;そして残りのAAだけを第2の反応器中に加え、第1の反応器からのコポリマーと重合させること;を含むのが好ましい。鹸化すると、コモノマー組成分布が実質的にランダムであるPVOHは、大幅に改良された冷水可溶性を有する。こうした生成物は、粒状製品や液状製品を包装する際に使用されるフィルム用に、そして粒状製品や液状製品をカプセル封入するために使用されるフィルム用に特に有用である。供給することができるカプセル封入物としては、肥料や他の農業製品、医薬製品、生物医学品、および化粧品などがある。」 (イ) 「【0012】 それぞれの軸のスケールに対して正確に描かれている、添付の勾配極性溶出クロマトグラフ〔Gradient Polarity Elution Chromatograph(“GPEC”)〕図面によって、本発明をより詳細に説明する。図面は、ポリマーがGPECカラムから溶出するときのポリマーの極性〔ミリボルト(mV)表示での電気的応答〕を、溶出時間(分)に対してプロットしたものである。 【図1】図1は、VAMとメチルアクリレート(MA)との70:30スプリットのコモノマー添加比から得られる本発明のポリビニルアルコール-メチルアクリレートコポリマーのGPECトレースであり、水溶解性がかなり高いことを示している。グラフからわかるように、この溶出ポリマー組成物は、実質的に単一のピークによって示されていることから2分間隔以内のかなり近い極性(実質的なランダム性)を有する、あるいは言い換えれば、GPECクロマトグラムは実質的に単峰性である(すなわち、単一のポリマーピークを示す)。 【図2】図2は、VAMとMAとの50:50スプリットのコモノマー添加比から得られるポリビニルアルコール-メチルアクリレートコポリマーのGPECトレースであり、水溶解性が不確かであることを示している。ピークは、図1の場合と同様に実質的なランダム性を示しているが、同じ時間間隔内の一部分としての別のピークの出現によって示されるように、組成がわずかに広がっていることを示している。2つのピークは溶出時間がほぼ同じで、ベースラインからの高さの50%超が実質的に重なっている。本発明者らは、こうした種類のGPECクロマトグラムを近接極性(close polarity)GPECクロマトグラムと呼ぶ。 【図3】図3は、VAMとMAとの100:0スプリットのコモノマー添加比から得られるポリビニルアルコール-メチルアクリレートコポリマーのGPECトレースであり、水溶解性が低いことを示している。別個のピークが現れ始め、異なる極性を有するポリマー組成物が存在することを示している。図3の場合、二峰性のGPECクロマトグラムであると考えられる。」 (ウ) 「【0022】 前述したように、両方の反応ゾーンに連続的に供給される必要なMAの合計量を2つの部分に分割する:第1の反応ゾーンのための第1の部分、および第2の反応ゾーンのための残量(第2の部分)。“スプリット(split)”、すなわち第1の反応ゾーンに供給されるMAの量(第1の部分)と第2の反応ゾーンに供給されるMAの量(第2の部分)との間の比は、たとえば約50:50~約80:20、好ましくは約60:40~約75:25であってよい。」 (エ) 「【実施例】 【0031】 以下に実施例を挙げて、本発明をさらに説明する。実施例1~10は、種々のプロセス条件下での連続的プロセスによる、VAMとメチルアクリレートとのコポリマーの製造について説明している。 【0032】 重合は、還流冷却器、機械的攪拌機、および供給ラインを備えた、直列2つの2リットルのジャケット付きガラス反応器を使用して行った。反応器1に、ビニルアセテート(VAM)、ジ(2-エチルヘキシル)ペルオキシジカーボネート(Trigonox EHP)開始剤を含有するメタノール、およびメチルアクリレートを、それぞれ計量ポンプを使用して別々の供給ラインとして連続的に供給した。正確な供給速度を確実に得るために、各供給物をバランス上に配置し、経時的な重量差を測定することによって供給速度をチェックした。メチルアクリレートをさらに第2の反応器に連続的に供給して、組成ドリフトを最小限に抑えた〔反応器1(PK1)と反応器2(PK2)の間のスプリットは70:30であった〕。表1に、各試験に対する供給速度と開始剤濃度を示す。反応器1の温度は60℃、反応器2の温度は64℃であった。滞留時間は、それぞれの反応器において96分であった。反応器2から出てくるポリマー溶液をOldershaw(登録商標)カラムに送って、メタノール蒸気を使用して残留ビニルアセテートを除去した。重合を確実にラインアウトするために、各試験を12時間実施した。 【0033】 【表1】 【0034】 表2は、実施例においてメチルアクリレートとビニルアセテートとの重合から得られた結果を、15%メタノール溶液の粘度によって示されるポリマーの相対分子量、反応器2における固体の実際の百分率、および実際の固体%と理論的固体%(括弧外の数値)から算出される転化率(括弧内の数値)を含めて示す。 【0035】 【表2】 ・・・ 【0036】 表2は、ビニルアセテートとメチルアクリレートのポリマーへの全体的な転化率を示す。これらの理論的固体レベル(モノマーからコポリマーへの転化に直接関係する)を基準として、転化率は45.93~58.23%の範囲であった。残留メチルアクリレート(50ppm~100ppm)はGC分析によって測定した。 【0037】 VAM/MAコポリマーの鹸化は、反応器2からの流出液からVAMをストリッピングするのに使用されるOldershaw(登録商標)カラムから得られるペーストを、50重量%NaOH水溶液で種々の苛性モル比(CMR)値にて処理することによって行い、固体含量が35重量%となるよう、さらにメタノールで希釈した。実施例1~10は、実施例3のVAM/MAコポリマーに対してなされる鹸化条件を変えることの影響を表わしており、結果を表3に示す。 【0038】 【表3】 ・・・ 【0039】 苛性モル比(CMR)は、ポリマーが100%PVAcであると仮定して算出した。CMRの算出において少量のco-MAは無視した。 前述のように、50%NaOHをペーストに加えるときには、50%NaOHを充分なMeOHで希釈して固体含量が35%になるよう希釈した。NaOH/MeOHを、室温にて手でペースト中に混合した(10~20分のミキシング)。40℃での鹸化により、約1分のミキシング後にゲル化した。次いでペーストを、上記の表に示す時間と温度にて反応させた。実施例1~10に記載の手順に類似の鹸化手順を、実施例1~10のポリマーに対して施した。 【0040】 表4は、重合メチルアクリレート、重合VAM(PVAc)、および重合ビニルアルコール(PVOH)のモル%、C13NMRによって示される加水分解度、4%水溶液の粘度によって示される相対分子量、ならびに滴定によって示される加水分解度を含めた、表1と2の各実施例に対する鹸化ポリマーの組成と特性を示す。 【0041】 【表4】 【0042】 C13NMR分光法を使用して、コポリマーの組成とコポリマー中のMAのランダム性を決定することができる。MAの供給速度が、コポリマー中へのMA組み込みを制御する上での唯一の変数である。これとは別に、後述する溶解度試験やGPEC分析に基づいて、該コポリマーが実質的にランダムであるかどうかを決定することができる。 【0043】 形成されるコポリマーのランダム性をGPEC分析によって測定した。得られた結果を図1~3に示す。GPECは、溶媒と非溶媒との混合物を使用することによってポリマー中の化学組成分布を測定するのに使用できる手法であり、Coolsらによる「“Determination of the Chemical Composition Distribution of Copolymers of Styrene and Butadiene by Gradient Polymer Elution Chromatography”,Journal of Chromatograph A,736(Elsevier Science B.V.,1996),pp.125-130」(該文献の開示内容を参照により本明細書に含める)に説明されている。本発明のコポリマーに対し、以下の条件、材料、および装置を使用した:カラム:Agilent PLRP-S 1000A 5μm 50×4.6mm。移動相:1)5%アセト ニトリルと95%水でスタートする;2)6分かけて60%アセトニトリルと40%水の勾配にし、この比率を7.5分保持する;3)12分かけて5%アセトニトリルと95%水の勾配にする;4)22分までカラム5%アセトニトリルと95%水で状態調節し、試験を停止する。温度:65℃。流量:1ml/分。注入体積:2μl。検出器:ELSD。サンプル濃度:5mg/ml。 【0044】 図1~3のそれぞれに示されているポリマー組成は、極性ピークをカラムからのポリマー溶出液として示している。ピークが近いほど、コポリマーの組成における組成ドリフトは小さくなる。100:0スプリット比のモノマーを加えた場合(図3)、顕著な組成ドリフトを示す別個のピークが見られるだけでなく、別個のポリマーブロックやホモポリマー等が形成されていることを示すより多くのピークが見られる。図2の50:50スプリット比のポリマーは、形成されるポリマーの組成が、100:0スプリット比付加の場合より均一になる(組成ドリフトがより小さくなる)が、図1の70:30スプリット比付加ポリマーは、組成ドリフトが実質的に認められないことを示す単峰性のクロマトグラムを有する。 【0045】 表1~4のデータから、本発明の連続的プロセスを使用することで、VOHとMAとのコポリマーを、比較的高いMA組み込み量、高い転化率と生産性、高い加水分解度、および組成ドリフトの実質的な非存在にて得ることができる、ということがわかる。 【0046】 さらに一般的には、本発明は、ビニルアセテートとアクリレートもしくはアクリレート誘導体とのコポリマーを製造するための連続的プロセスを含む。アクリレートモノマーもしくはアクリレート誘導体モノマーおよびこれらを組み込んだコポリマーを、ここでは便宜上、それぞれアクリレートコモノマーおよびアクリレートコポリマーと呼ぶ。したがって本発明によれば、(a)ビニルアセテートとより高反応性のアクリレートコモノマーを含む反応混合物を反応ゾーンに連続的に供給する工程、ここでビニルアセテートコモノマーとアクリレートコモノマーを少なくともある程度消費させて中間反応混合物を形成させる;(b)この中間反応混合物に、より高反応性のアクリレートコモノマーを高含量にて含んだストリームを連続的に供給し、この追加のアクリレートコモノマーと中間反応混合物とを共重合させてビニルアセテート/アクリレートコポリマー生成物を形成させる工程;および(c)ビニルアセテート/アクリレートコポリマー生成物を連続的に回収する工程;を含む、ビニルアセテート/アクリレートコポリマーを製造するための連続的プロセスが提供される。 【0047】 本発明によって製造されるPVOHからフィルムを作製した。典型的な実験では、コポリマーの水溶液を調製し(4~10%固体)、ガラス板上にキャストした。この溶液を室温で一晩乾燥してから、ガラス板から剥がした。得られたフィルムを22℃、50%相対湿度にて24時間状態調節してから、特性を測定した。このようにして作製したフィルムの特性を、改良された水溶解度を含めて表5に示す。 【0048】 フィルムの溶解度特性は、米国特許第7,745,517号明細書(該明細書の全開示内容を参照により本明細書に含める)に記載のスライドフレーム試験によって測定することができ、試験方法は下記のとおりである。7%水溶液をガラス板上にキャストし、重力によって平らにし、約6~15%の含水率になるまで乾燥する(2~7日かかることがある)ことによって、配合物からフィルムを作製する。このペーストにある量の溶液を加えて、約76μmのターゲット厚さを有するフィルムを得る。フィルムの2.3×3.4cmサンプルをスライドフレームに据え付け、400mlの水を入れた500mlビーカー中に配置する。このビーカーをマグネチックスターラー上に置き、電磁撹拌バーにより400rpm(コントロールノブで設定)にて、渦がつくり出されるように水を撹拌する。水の温度を21℃±1℃に保持する。プラットホームで支持されたクランプを使用して、撹拌水がフィルムを押すように、フレームをビーカー中に固定する。フィルムは、ふくらみ始めるか又は波状になり始める。フィルムバルーンが破裂するときの崩壊時間を記録する。崩壊後、フレームが水中に残り、フィルムの残留ストリングとフィルム粒子がフレーム上に残らなくなるときの合計時間(崩壊時間を含めて)としての溶解時間を記録する。 【0049】 【表5】 【0050】 したがって本発明は、MAコモノマーの全部を同じ反応器に供給するのではなく、MAコモノマーを2つの部分に分けて2つの反応器に供給することによって改良された水溶解度を有するPVOHを製造する方法を説明している。比較のため、全てのモノマーと開始剤を1つの反応器に加えることによるコポリマーの製造を試みた。必要とされる全てのモノマーを第1の反応器だけに加えることによってコポリマーを製造すると、図6に示すように、不溶性であるか又は溶解性が著しく低下したPVOHが得られた。これは、コポリマー中にメチルアクリレートブロック及び/又はメチルアクリレートホモポリマーが形成されることによるものと考えられる。表6において、フィルムが3分以上の経過にて崩壊しない、あるいは10分超の溶出時間を有する場合でも、フィルムは上記の溶解試験に合格しないと考えられる。」 (オ) 「【図1】 【図2】 【図3】 」 イ 明細書の記載事項から読み取れる内容 「ア 勾配溶出クロマトグラフィー分析(以下、「GPEC」という。)における1つのピークの存在」するコポリマーについて、本件明細書の段落【0008】には、AAの量を2つの部分に分割すること;AAの第1の部分と、必要とされる全てのビニルアセテートモノマー(VAM)とを第1の反応器において共重合させること;そして残りのAAだけを第2の反応器中に加え、第1の反応器からのコポリマーと重合させること;鹸化することにより製造されたPVOHコポリマーが記載され、さらに同段落【0022】には、「“スプリット(split)”、すなわち第1の反応ゾーンに供給されるMAの量(第1の部分)と第2の反応ゾーンに供給されるMAの量(第2の部分)との間の比は、たとえば約50:50~約80:20、好ましくは約60:40~約75:25であってよい。」と記載されているが、同段落【0012】の【図2】には、VAMとMAとの50:50スプリットのコモノマー添加比から得られるポリビニルアルコール-メチルアクリレートコポリマーは、GPECトレースにおいて、同じ時間間隔内の一部分としての別のピークが存在し、「水溶解性が不確か」であることが記載されている。 一方、同段落の【図1】には、VAMとメチルアクリレート(MA)との70:30スプリットのコモノマー添加比から得られる本発明のポリビニルアルコール-メチルアクリレートコポリマーは、GPECトレースにおいて、実質的に単一のピークを示し、水溶解性がかなり高いことを示していることが記載されていることからすると、AAの量を2つの部分に、「70:30」に近い所定のスプリットで分割すること;AAの第1の部分と、必要とされる全てのビニルアセテートモノマー(VAM)とを第1の反応器において共重合させること;そして残りのAAだけを第2の反応器中に加え、第1の反応器からのコポリマーと重合させること;鹸化することによりPVOHコポリマーを製造することは、上記1の発明の課題を解決できる、大幅に改良された冷水可溶性を有し、コモノマー組成分布が実質的にランダムであるPVOHコポリマーを得る前提となるといえる。 また、「イ 冷水可溶性で実質的にランダムなコポリマー」について、本件明細書の発明の詳細な説明には、上記の図1について述べたように、メチルアクリレートを70:30のスプリットで分割添加したPVOHコポリマーについて、GPEC分析で1つのピークが存在するものとなることが示され、冷水可溶性を有する、コモノマー組成分布が実質的にランダムであるPVOHコポリマーを得られることが示されている(図1)。 また、同段落【0031】~【0050】には、ビニルアセテート(VAM)及びメチルアクリレートをスプリット70:30で反応させ(同段落【0032】)、鹸化した(同段落【0037】~【0039】)、MAを、4.1~7.6モル%、ビニルアルコール(PVOH)を、92.33~94.92モル%含み、4%粘度(15%メタノール溶液)が14.3~25.5であるコポリマー(実施例1~10、同段落【0041】【表1】)が記載され、冷水フィルム溶解時間で、60(s)以下の結果(同段落【0049】【表5】)が得られることが示されている。 (5) 判断 「ア 勾配溶出クロマトグラフィー分析(以下、「GPEC」という。)における1つのピークの存在」及び「イ 冷水可溶性で実質的にランダムなコポリマー」について まず、GPECにおける「1つのピーク」について、ビニルアセテートモノマー(VAM)とメチルアクリレート(MA)との70:30スプリットのコモノマー添加比から得られる本発明のポリビニルアルコール-メチルアクリレートコポリマーのGPECでは、実質的に単一のピークが出現する(同段落【0012】【図1】)ことが示されているといえるものの、図1の4つのピークのうち1つに、ピーク頭頂が2つに割れているピークがあり(図1の4mVで始まるピーク)、これも含めて「1つのピーク」というのか、「1つのピーク」の範囲が本件特許明細書に説明がなく、平成30年12月3日提出の意見書をみても明らかではなかった。 この点につき、平成31年3月14日付け審尋により、「1つのピーク」の範囲について特許権者に説明を求めたところ、平成31年4月15日提出の回答書において、図1のピークの頭が2つに分かれているピーク(4mVで始まるピーク)は「1つのピーク」には相当せず、このように小さなショルダーが存在するピークは今回の訂正により除かれ、厳密に「1つのピーク」のみからなるものとなった旨が回答された。 また、各図と実施例との対応関係、冷水フィルム溶解時間について審尋したところ、その回答から、図1、3の各ピークと実施例の対応が明らかとなり、特に、図1の「1つのピーク」を示す3つのピーク(図1の下から2番目から一番上まで:51713-11-SAP1、51713-21-SAP1、51713-31-SAP1)は、下から実施例5、実施例9、実施例8に対応し、冷水フィルム溶解時間はそれぞれ、52秒(実施例5)、30秒(実施例9)、47秒(実施例8)であり、メチルアクリレートの量は、4.6モル%(実施例5)、5.2モル%(実施例9)、4.1モル%(実施例8)であることが明らかとなった。なお、図1の「1つのピーク」ではない、ショルダーに小さなピークがある一番下の4mVから始まるピークは、実施例4に対応し、冷水溶解時間が40秒、メチルアクリレートの量は6.3モル%である。 ここで、上記審尋に対する回答書の内容も踏まえて検討する。 図1には、メチルアクリレートの添加比が70:30スピリットのポリビニルアルコール-メチルアクリレートコポリマーのGPECで、「1つのピーク」を有する3つの例が開示され、どのピークも冷水フィルム溶解時間は59秒以下である。一方、図2には、ビニルアルコールとメチルアクリレートとの50:50スピリットのコモノマー添加比から得られるポリビニルアルコール-メチルアクリレートコポリマーのGPECで、「1つのピーク」ではなく、近接する2つピークを有するものが示され、その冷水フィルム溶解時間は、回答書によれば59秒をこえると推認されるものである。さらに、図3には、100:0のスピリットのポリビニルアルコール-メチルアクリレートコポリマーのGPECが開示され、明らかに2つの別ピークからなるものであり、冷水フィルム溶解時間は10分以上である。 そうすると、本件発明1の「ビニルアルコール(“VOH”)とアルキルアクリレート(“AA”)とを共重合させ、鹸化させて得られる冷水可溶性で実質的にランダムなコポリマー」であって、「59秒以下の特徴的冷水フィルム溶解時間を示し、勾配溶出クロマトグラフィー分析における1つのピークの存在によって明示されるように組成ドリフトを実質的に含まない」、「2~8モル%のAAを含み、かつ、アルキルアクリレート(AA)がメチルアクリレートである」ポリマーであれば、「コモノマー組成分布が実質的にランダムであり、大幅に改良された冷水可溶性を有するPVOHコポリマーを得る」との課題を解決できることは明らかである。 よって、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載されたものである。 本件発明3は、本件発明1を引用し、AAの量を3~8モル%にさらに限定し、本件発明10はビニルアセテートから誘導されるモノマー単位の量を75モル%と特定するものであるが、前者は本件発明1の範囲内であり、また、後者は、AAの量以外はビニルアセテートに由来するモノマー単位の量であって本件発明1も満たすものであるから、これらは本件発明1と同様に本件発明の課題が解決できるものである。 本件発明6は、本件発明1を引用し、単峰性のGPECクロマトクロマトグラムを有することを特定するものであるが、本件発明1は、すでにGPECクロマトクロマトグラムで1つのピーク、つまり単峰性のピークを示すものであるから、本件発明1と同様に本件発明の課題が解決できるものである。 本件発明8、9は、本件発明1を直接又は間接的に引用し、本件発明1のコポリマーから製造されるフィルムに関するものであり、当該フィルムは本件発明1のコポリマーの有する特性を示すから、これらの発明も本件発明1と同様に判断され、発明の詳細な説明に記載されたものである。 (6) 平成31年1月10日に提出された意見書での申立人の主張についア 申立人の主張の概要 平成31年1月10日提出の意見書において、以下の主張をしている。 (ア) メチルアクリレート(MA)の含有量について、2モルである場合と4.1モルである場合とではコポリマーのフィルムの溶解時間にかなり差がみられることが技術常識である。そして、本件明細書には、当該含有量が4.1~7.6モル%という限定された範囲の実施例しか記載されておらず、当該含有量が下限値2モル%に近い場含でも、溶解時間又はGPEC分析の結果において、実施例の範囲と同じとなることは示されていない。 (イ) 本件明細書には、「70:30に近いスピリットで分割する」本件実施例記載の方法により製造されたことを前提としたポリビニルアルコール-メチルアクリレートコポリマーが冷水可溶性で実質的にランダムなコポリマーであることが記載されているものの、そのような前提がないポリマーまで、冷水に可溶性で実質的にランダムなコポリマーであることは記載されていない。 イ 申立人の主張に対する判断 (ア) 主張(ア)について、申立人は、2モルである場合と4.1モルである場合とではコポリマーのフィルムの溶解時間にかなり差がみられることが技術常識であるとする具体的な根拠を示しておらず、確かに2モルである場合と4.1モルである場合とで全く同じ結果であるとはいえないことは理解できるが、かなり差がみられるとまでいえるかは明らかでない。 また、回答書の審尋(6)に対する回答にあるように、特徴的冷水フィルム溶解時間はメチルアクリレートの含有量を少なくすると多少長くなる傾向にあるが、分子量や加水分解度などの要素により調整できるものであり、「冷水フィルム溶解時間が59秒以下」に調整し得ることは推認できるものといえる。 よって、この主張は採用できない。 (イ) 主張(イ)について、本件発明1では、「70:30に近いスピリットで分割する」ことは特定はされていない。 そして、本件明細書には、段落【0022】に、第1反応ゾーンと第2反応ゾーンとのMAの量のスピリットの比について、「好ましくは約60:40~約75:25」であってもよいと記載されており、かつ、スピリット比が50:50におけるピークが比較的近接していることからすると、実施例と同じMAモノマーを用いて近接した含有量であれば、70:30に極めて近いスピリット比以外であっても、「1つのピーク」となる蓋然性があるものと推認できるものである。 そして、本件発明1では、上記「70:30に近いスピリットで分割する」との製法による特定がないが、AAモノマーをMAとしてその含有量を実施例に近い範囲に特定し、GPECで「1つのピーク」を有するコポリマーとし、かつ、冷水フィルム溶解時間が59秒以下とすることで、上記(1)における「コモノマーの組成分布が実質的にランダムであり、大幅に改良された冷水可溶性を有するPVOHコポリマーを得られる」との課題を解決できる範囲を十分に特定できているものと認識できるものであり、この主張も採用できない。 (7) 小括 本件発明1は、本件明細書の発明の詳細な説明に、発明の課題を解決することを当業者が認識できるように記載された範囲のものである。 本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明3、6及び8ないし10についても、同様である。 よって、本件発明1、3、6及び8ないし10に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしてる特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当せず、取り消すべきものではない 2 理由4(特許法第36条第4項第1号)について (1) 特許法第36条第4項第1号について 特許法第36条第4項第1号は、 「前項第三号の発明の詳細な説明の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。 一 経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものであること。」 と定めている。 これは、その発明の属する技術分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が、明細書に記載した事項と出願時の技術常識とに基づき、その発明を実施することができる程度に、発明の詳細な説明を記載しなければならないことを意味するものである。 そして、特許法第36条第4項第1号は、上記のように発明の詳細な説明の記載のいわゆる実施可能要件を規定したものであって、物の発明においては、その物を作り、かつ、その物を使用する具体的な記載が発明の詳細な説明にあるか、そのような記載がない場合には、明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識に基づき、当業者が過度の試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要なく、その物を作り、その物を使用することができる程度にその発明が記載されていなければならないと解される。 (2) 理由の概要 「本件明細書の発明の詳細な説明に記載される、アルキルアクリレート(AA)の量を2つの部分に、70:30に近いスプリットで分割すること;AAの第1の部分と、必要とされる全てのビニルアセテートモノマー(VAM)とを第1の反応器において共重合させること;そして残りのAAだけを第2の反応器中に加え、第1の反応器からのコポリマーと重合させること;鹸化することにより製造されたPVOHコポリマーを前提とし、AAがメチルアクリレートであり、メチルアクリレートの含有量、及びビニルアルコールの含有量(鹸化率に対応する)及び4%粘度で表される相対分子量が実施例の範囲にあるPVOHコポリマーであれば、本件発明1ないし10の「59秒以下の特徴的冷水フィルム溶解時間を示し、勾配溶出クロマトグラフィー分析における本質的に1つのピークの存在によって明示されるように組成ドリフトを実質的に含まない」ものを製造することができることは、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されているといえるが、その範囲外の「ビニルアルコール(“VOH”)とアルキルアクリレート(“AA”)とのコポリマー」については、技術的に実質的な開示がなされていないことは、上記・・・に述べたとおりである。」 「本件発明1の「本質的に1つのピークの存在」の特定が曖昧で、本件発明1ないし10を実施するにあたり、勾配溶出クロマトグラフィー分析において、どの程度のピーク形状を本件発明1ないし10の範囲内のものとすればよいのか判別を行うことができない。」 「そうすると、本願発明1ないし10を実施するには、過度の試行錯誤が求められることになるし、勾配溶出クロマトグラフィー分析において、ピーク形状が1つのピークであるのかが曖昧な場合に、本願発明1ないし10を実施することができるとはいえないから、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1ないし10を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。」 (3) 判断 まず、審尋において、70:30でMAを分割(スピリット)したものであっても、「1つのピーク」とならないものとなるものが存在することから(上記の図1の4mVで始まるピーク)、どのような場合に「1つのピーク」となるのかについて特許権者に説明を求めた。 これについて、特許権者は回答書において、「1つのピーク」となるかどうかは不純物の多寡によるものであり、不純物量をコントロールすることで「1つのピーク」を得ることができる旨の回答を行った。 この審尋に対する回答書の内容を踏まえて判断をすると、図1、図2及び図3の関係から、メチルアクリレートの添加比が70:30に近ければ、GPECトレースが「1つのピーク」のみを示すコポリマーが得られ、そのフィルム溶解時間も59秒以下であることが理解できる。 そして、メチルアクリレートの添加比が70:30の場合であっても、不純物を多く含む場合はショルダーにピークが発生する場合があるが(例:図1の4mVから始まるピーク)、回答書の説明によると、このようなピークは不純物量をコントロールすることで「1つのピーク」とすることができるものといえる。 そうすると、本件発明1では製造方法や相対分子量による特定はないものの、AAモノマーの種類及び量が実施例に近接した範囲に限定され、さらに「1つのピーク」を有するコポリマーであることが明確となり、また、発明の詳細な説明に、本件発明1に係る複数の実施例が記載されていることを鑑みれば、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1ないし10を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているといえる。 (4) 平成31年1月10日に提出された意見書での申立人の主張について ア 申立人の主張の概要 「70:30に近いスピリットで分割する」本件実施例記載の方法により製造できることは、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されているものの、それ以外のコポリマーについては記載されていない。そうすると、当業者は、特徴的冷水フィルムの溶解時間の測定及びGPEC分析を評価しなければならないが、「1つのピーク」の特定が依然として不明なため、どの程度のピーク形状が本件発明の範囲か当業者が判別できない。 従って、本件明細書の発明の詳細な説明は、本件発明1、3、6及び8~10を実施することができる程度に記載されていない。 イ 申立人の主張に対する判断について 「1つのピーク」について、特許権者に対する審尋への回答により、文言通り「1つのピーク」であることが明確になった。 また、本件発明1に製法の特定はないものの、AAを実施例に用いたメチルアクリレートとし、その割合も実施例に近い範囲としたことにより、メチルアクリレートを「70:30に近いスピリットで分割する」本件実施例に記載する方法と近似する方法によって、本件発明1が実施できることは明らかである。 したがって、本件明細書の発明の詳細な説明は、本件発明1、3、6及び8~10を実施することができる程度に記載されていないとはいえない。 (5) 小括 本件発明1,3,6,8ないし10に係る特許は、明細書の発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願明細書に対してされたものではなく、同法第113条第4号に該当せず、取り消すべきものではない。 3 理由5(特許法第36条第6項第2号)の(2)本件発明1の「実質的にランダム」及び「本質的に1つのピーク」の記載について (1) 理由の概要 「本件発明1には、コポリマーに対して、「実質的にランダム」との特定がなされているが、「実質的にランダム」が、どの程度の「ビニルアセテートモノマー(“VAM”)」と「アルキルアクリレート(“AA”)」とのランダム性までを含むのか明確でない。 また、本件発明1のコポリマーを特定する記載である「勾配溶出クロマトグラフィー分析における本質的に1つのピーク」の「本質的」が、どの様な形状のピークまで含むものであるのか明確でない。 そうすると、本件発明1において、コポリマーが、明確に特定されているとはいえない。 本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明2ないし10についても、同様である。」 (2) 判断 訂正により、本件発明1のコポリマーは、「勾配溶出クロマトグラフィー分析における1つのピーク」を有するものとなり、当該「1つピーク」は文言通り「1つのピーク」であるから、明確となった。 また、本件発明1の「実質的にランダム」との点については訂正がないものの、「勾配溶出クロマトグラフィー分析における1つのピーク」の存在によって組成ドリフトを実質的に含まないことが明示されるのであるから、1つのピークが明確となったことに対応して、組成ドリフトがどの程度の範囲まで意味するのかも明確となり、かつ、上記「1つのピーク」を有するコポリマーとなるようなAAモノマーの「実質的にランダム」な程度についても理解できるものとなったから、当該「実質的にランダム」との記載は明確である。 (3) 小括 本件発明1の特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしてる特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当せず、取り消すべきものではない。 本件発明1と直接又は間接的に引用する本件発明3、6及び8ないし10に係る特許についても、同様である。 第6 平成30年2月13日付け取消理由についての当審の判断 当審は、平成30年2月13日付け取消理由の理由1、2及び理由5(1)については、それらの理由がないものと判断したので、以下、詳述する。なお、その他の理由3、4、及び理由5(2)については、上記第5で判断したとおりである。 1 理由1及び2について (1)甲1号証及び甲2号証に記載の事項 以下、甲第1号証等を「甲1」のようにいう。 ア 甲1(国際公開第2007/021641号) 甲1には、以下の記載がある(訳文は、申立人提出のものによるが、注釈を付している箇所は、当審によるものである。)。 (ア1)第2頁12~17行 「It is desirable to have a storage stable single dosage oxidizing agent for treatment of recreational waters. Such an agent requires that a stable pouch material be used to package such moisture-sensitive acidic materials to avoid loss of cold-water solubility, acetic acid formation, and other indicators of deterioration on prolonged storage. The present invention provides such a product.」 (レクリエーション用水域を処理するための単回量の酸化剤は貯蔵安定性を有することが望ましい。このような剤は、感湿性の酸性物質などを包装するために使用される安定なパウチ材料が、冷水溶解性の低下、酢酸形成、および、長期保管を低下させる他の要因を回避することを必要とする。本発明は、このような製品を提供する。) (イ1)第2頁18~23行 「SUMMARY OF THE INVENTION The present invention comprises an oxidizing agent comprising a pre-measured amount of stabilized potassium hydrogen peroxymonosulfate and a buffer in a sealed water-soluble pouch, said pouch comprising a hydrolyzed copolymer of vinyl acetate and at least one of acrylic acid, methacrylic acid, maleic acid, itaconic acid, and esters thereof.」 (発明の概要 本発明は、予備計量された量の安定化ペルオキシ一硫酸水素カリウムおよびバッファーを密封水溶性パウチ中に含む酸化剤を包含し、該パウチは、ビニルアセテートと、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸およびこれらのエステルの少なくとも1種との加水分解コポリマーを含む。) (ウ1)第4頁3~9行 「The present invention provides storage-stable prepackaged blends of an oxidizing agent comprising stabilized potassium hydrogen peroxymonosulfate packaged in a water-soluble pouch, for use in treating re-circulating water(especially swimming pools and spas). Preferably, the prepackaged blends are single dosage units. Specifically, the cold-water-soluble film employed for the pouch is made from a resin comprising a hydrolyzed copolymer of vinyl acetate and a second anionic monomer.」 (本発明は、再循環水(特にスイミングプールおよびスパ)の処理において使用される、水溶性パウチ中にパッケージ化された安定化ペルオキシ一硫酸水素カリウムを含む、貯蔵安定な予備パッケージ化された酸化剤ブレンドを提供する。好ましくは、該パッケージ化されたブレンドは、単回量ユニットである。具体的には、パウチに使用される冷水溶解性フィルムは、ビニルアセテートと第2アニオン性モノマーとの加水分解コポリマーを含む樹脂から作られる。) (エ1)第4頁13~17行 「The composition of the copolymer films used in the present invention comprises hydrolyzed copolymers of vinyl acetate with at least one of acrylic acid, acrylate ester, methacrylic acid, methacrylate ester, maleic acid, maleic ester, itaconic acid, and itaconic acid ester. Esters of acrylic acid are preferred; methyl acrylate is more preferred.」 (本発明において使用されるコポリマーフィルムの組成物は、ビニルアセテートと少なくとも1種のアクリル酸、アクリレートエステル、メタクリル酸、メタクリレートエステル、マレイン酸、マレインエステル、イタコン酸およびイタコン酸エステルとの加水分解コポリマーを含む。アクリル酸のエステルが好ましく、メチルアクリレートがより好ましい。) (オ1)第4頁19~31行 「Copolymers of vinyl acetate and methyl(meth)acrylate can be prepared, for example, in methanol, which acts as both a chain transfer agent and a solvent, and in the presence of a free radical initiator to form the copolymer. The amount of the acrylic comonomer is about 1 to about 12 mol%, preferably about 2 to about 8 mol%, and more preferably about 4 to about 6 mol%. When the copolymer is transesterified in methanol, carboxyl groups react with adjacent alcohol groups to form a lactone structure along the polymer chain that is readily detected by infrared analysis at about 1740 cm-1. The copolymer in lactone form is soluble in hot but not cold water. Subsequent reaction with a basic substance in the presence of water causes hydrolysis of the lactone to the carboxylate salt form, which is cold-water soluble in the film form. Amines and alkali metal (Group I of periodic table) hydroxides are convenient hydrolysis agents, and sodium hydroxide is preferred.」 (ビニルアセテートとメチル(メタ)アクリレートとのコポリマーは、例えば、連鎖移動剤及び溶媒の両方として作用するメタノール中、フリーラジカル開始剤の存在下で、該コポリマーを形成して、製造することができる。アクリル系コモノマーの量は、約1~約12モル%であり、好ましくは約2~約8モル%であり、より好ましくは約4~約6モル%である。コポリマーがメタノール中でトランスエステル化される際、カルボキシル基が隣接するアルコール基と反応し、ポリマー鎖に沿ってラクトン構造を形成し、これは赤外分光法において約1740cm-1に簡単に検出される。ラクトン形態のコポリマーは温水溶解性であるが冷水溶解性ではない。水の存在下で塩基性物質を用いる続く反応において、ラクトンの加水分解が起こり、カルボキシレート塩形態となり、これはフィルム形状において冷水溶解性である。アミンおよびアルカリ金属(周期表の第1族)水酸化物が加水分解剤として使用しやすく、水酸化ナトリウムが好ましい。) (カ1)第5頁1~2行 「The reactions for making the preferred films are shown below in Reaction Sequence 1.」 (好ましいフィルムを製造するための反応を以下の反応順序1に示す。) (キ1)第5頁、反応順序1 「 」 ( ) (ク1)第5頁4~10行 「The vinyl alcohol-gamma lactone copolymer (denoted Hot-water soluble lactone in Reaction Sequence 1) preferably has a 4% solution viscosity in the range of from about 5 to about 50 cPs (0.005 to 0.050 Pa.s) at 20℃.(68°F.) More preferably the vinyl alcohol-gamma lactone copolymer has a 4% solution viscosity in the range of from about 8 to about 35 cPs (0.008 to 0.035 Pa.s) and, most preferably, the vinyl alcohol-gamma lactone copolymer has a 4% solution viscosity in the range of from about 15 to about 25 cPs (0.015 to 0.025 Pa.s).」 (ビニルアルコール-ガンマラクトンコポリマー(反応順序1中「温水溶解性ラクトン」と記載される)は、20℃(68°F)で、好ましくは約5~約50cPs(0.005~0.050Pa.s)の4%溶液粘度を有する。より好ましくは、該ビニルアルコール-ガンマラクトンコポリマーは、約8~約35cPs(0.008~0.035Pa.s)の範囲の4%溶液粘度を有し、最も好ましくは、該ビニルアルコール-ガンマラクトンコポリマーは、約15~約25cPs(0.015~0.025Pa.s)の範囲の4%溶液粘度を有する。) (ケ1)第6頁4~11行 「The copolymer and any additives as described above are slurried in water with about 30 to about 100%, preferably about 60 to about 80%, of the stoichiometric amount of a base, such as an amine or alkali metal hydroxide and preferably sodium hydroxide, to hydrolyze the lactone, as shown in Reaction Sequence 1. The slurry is heated to 70-100℃ to dissolve the polymer and cause hydrolysis of lactones. The solution containing the cold-water soluble and hydrolyzed form of the copolymer is solution-cast into films using any conventional method.」 (前記コポリマーおよび上記の任意の添加剤を、約30~約100%、好ましくは約60~約80%の化学量論量の塩基(例えばアミンまたはアルカリ金属水酸化物、好ましくは水酸化ナトリウム)と共に水中でスラリー化し、反応順序1に示されるように、ラクトンを加水分解する。該スラリーを70~100℃に加熱し、ポリマーを溶解させてラクトンを加水分解させる。冷水溶解性かつ加水分解形態のコポリマーを含有する溶液は、任意の従来法を用いて、フィルムへと溶液キャストされる。) (コ1)第6頁13~17行 「The solution-casting procedure creates a film having a thickness in the range of from about 0.0005 to about 0.007 inches (about 0.013 to about 0.18 mm), preferably about 0.001 to about 0.005 inches (about 0.025 to about 0.13 mm), and more preferably from about 0.001 to about 0.003 inches (about 0.025 to about 0.076 mm).」 (溶液キャスト法により、約0.0005~約0.007インチ(約0.013~約0.18mm)、好ましくは約0.001~約0.005インチ(約0.025~約0.13mm)、より好ましくは約0.001~約0.003インチ(約0.025~約0.076mm)の範囲の厚さを有するフィルムが作られる。) (サ1)第6頁22~26行 「A preferred requirement of the film, and therefore the formed package, is that it be capable of complete dissolution in water in a relatively short period of time. A preferred film of the present invention has a thickness of about 1.5 mil (about 0.038 mm). Films useful in the present invention have a dissolution time in water at about 10℃ of less than 150 seconds, preferably less than 60 seconds.」 (フィルム、すなわち、形成されたパッケージに対する好ましい要求は、比較的短時間に水中に完全に溶解できることである。本発明の好ましいフィルムは、約1.5ミル(約0.038mm)の厚さを有する。本発明において有用なフィルムは、約10℃の水に150秒以下、好ましくは60秒以下の溶解時間を有する。) (シ1)第8頁30~32行 「Alternatively and preferably, the solid potassium hydrogen peroxymonosulfate is tightly wrapped by the water-soluble film by stretching the film around the solid composition so as to make a suitably densely packed pouch.」 (あるいは、及び、好ましくは、適度に密集して詰められたパウチにするために、固形状のぺルオキシ一硫酸水素カリウムを、該固形状組成物の周りに水溶性フィルムを引き延ばすことにより、水溶性フィルムでしっかりと包む。) (ス1)第9頁6~8行 「The package or pouch contents of the present invention are all dry free-flowing granular, solid materials and anhydrous salts, and comprise stabilized potassium hydrogen peroxymonosulfate with a buffer.」 (本発明のパッケージ又はパウチの内容物は、全て、乾燥流動性顆粒、固体物質および無水塩であり、安定化ペルオキシ一硫酸水素カリウムをバッファーと共に含む。) (セ1)第10頁7~12行 「The hydrolyzed copolymer film used for the pouch in the present invention is as described above. Preferably, it is a water-soluble copolymer of hydrolyzed vinyl acetate and methyl acrylate, prepared and solution-cast as described above. The monomer proportions are about 90 to about 98 mole% vinyl acetate/alcohol and about 2 to about 10 mole% methyl acrylate. The level of hydrolysis is greater than 98%.」 (当審訳)(本発明におけるパウチに使用する加水分解コポリマーフィルムは、上記に述べたとおりである。好ましくはこれは、加水分解されたビニルアセテート、とメチルアクリレートとの水溶解性コポリマーであり、上記に述べたように製造され、溶液キャストされる。モノマー割合は、約90~約98モル%のビニルアセテート/アルコール、および、約2~約10モルのメチルアクリレートである。加水分解レベルは、98%より大きい。) (ソ1)第17頁1~7行 「CLAIMS What is claimed is: 1. An oxidizing agent comprising a pre-measured amount of stabilized potassium hydrogen peroxymonosulfate and a buffer in a sealed water-soluble pouch, said pouch comprising a hydrolyzed copolymer of vinyl acetate and at least one of acrylic acid, methacrylic acid, maleic acid, itaconic acid, and esters thereof.」 (請求項 特許請求の範囲: 1.予備計量された量の安定化ペルオキシ一硫酸水素カリウムおよびバッファーを密封水溶性パウチ中に含む酸化剤であって、該パウチは、ビニルアセテートと、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸およびそれらのエステルの少なくとも1種との加水分解コポリマーを含む、酸化剤。) イ 甲2(デュポンTMElvanol(R)80-18の製品データシート) 甲2には、以下の記載がある。(訳文は、申立人のものによる。) (ア2)表題 「DuPontTM Elvanol(R)80-18 POLYVINYL ALCOHOL Product Date Sheet」 (デュポンTMElvanol(R)80-18 ポリビニルアルコール 製品データシート) (イ2)第1頁左欄1~5行 「Description Elvanol(R)80-18 is a unique copolymer of polyvinyl alcohol and another monomer. Elvanol(R)80-18 is designed to provide cold-water solubility in the final product when reacted properly with caustic.」 (説明 Elvanol(R)80-18はポリビニルアルコールと他のモノマーとのユニークなコポリマーである。Elvanol(R)80-18は、苛性物質と適当に反応させる場合、最終製品において冷水溶解性を与えるように設計されている。) (ウ2)第1頁左欄6~15行 「Suggested Uses While Elvanol(R)80-18 is not cold water soluble as supplied, it is appropriate for use in applications that require quick dissolution of the final product in cold water. Those applications include films for sachets to contain detergents or other products to be processed in cold water solutions. This may eliminate contact with chemicals, or provide pre-measured dosage. In order to have that cold water solubility, the Elvanol(R)80-18 must be reacted with the proper ratio of caustic. Contact your DuPont technical representative for further details.」 (推奨される用途 Elvanol(R)80-18は、供給時において冷水溶解性ではないが、冷水中での最終製品の迅速な溶解が要求される用途において使用するに適している。これら用途としては、冷水溶液中で処理される洗剤又は他の製品を含有するサシェ用のフィルムが挙げられる。これによって、化学物質との接触が除去され得るか、又は、予備計量された投与がもたらされ得る。冷水溶解性を有するためには、Elvanol(R)80-18を適当な割合の苛性物質と反応させねばならない。さらなる詳細については、デュポン技術者にお問合わせ下さい。) (エ2)第3頁下枠内第1行 「Copyright(C) 2005 DuPont.」 (著作権(C)2005デュポン) (2) 甲1及び甲2に記載された発明 ア 甲1に記載された発明 甲1の上記摘示(ソ1)には、「予備計量された量の安定化ペルオキシ一硫酸水素カリウムおよびバッファーを密封水溶性パウチ中に含む酸化剤であって、該パウチは、ビニルアセテートと、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸およびそれらのエステルの少なくとも1種との加水分解コポリマーを含む、酸化剤」が記載されており、また、この加水分解コポリマーに着目すれば、上記摘示(セ1)には、所定の「水溶解性コポリマー」が記載されており、また、上記摘示(オ1)、(ケ1)及び(サ1)の記載によれば、甲1で加水分解して得られる加水分解コポリマーは、「冷水溶解性」であるといえるから、上記摘示(セ1)に記載される「水溶解性コポリマー」は、「冷水溶解性コポリマー」であるといえる。 そうすると、甲1(上記摘示(セ1))には、 「加水分解されたビニルアセテート、とメチルアクリレートとの冷水溶解性コポリマーであり、モノマー割合は、約90~98モル%のビニルアセテート/アルコール、および、約2~約10モルのメチルアクリレートであり、加水分解レベルは、98%より大きい冷水溶解性コポリマー」(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。 イ 甲2に記載された発明 まず、甲2には、「著作権(C)2005デュポン」(当審注:原文の上付き丸囲みのCを、(C)で表す、以下同様)との記載があり、甲2に記載の事項は、本件の原出願の優先日前に、日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載されたもの又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったものであると認めることができる。 そして、甲2の上記摘示(イ2)には、Elvanol(R)80-18は「ポリビニルアルコールと他のモノマーとのユニークなコポリマー」であることが記載され、上記摘示(イ2)及び(ウ2)の記載によれば、Elvanol(R)80-18に苛性物質を反応させたコポリマーは、「冷水溶解性」であるといえる。 ここで、この「Elvanol(R)80-18」に関する甲4のクラレアメリカのDr.G.Michael Collinsによる「宣誓に代わる宣言」(訳文は申立人のものによる)の中での 「3.2002年、デュポンは、ポリビニルアルコール(PVOH)/メチルアクリレート(MA)コポリマーを、Elvanol(R)の商標名のもとで供給した。Elvanol(R)80-18の製品データシートをここに添付する。この製品データシートは、2005年から配布されていた。Elvanol(R)80-18は、8.5~10重量%のメチルアクリレート、61~71の範囲の鹸化価、および、17.0~23.0cpsの範囲の粘度を有するPVOH/MAコポリマーである。 4.この記載と一致する、Elvanol(R)80-18(lot L2G011)の分析証明書(2002年10月24日付け)をここに添付する。分析証明書に示されるように、Elvanol(R)80-18(lot L2G011)は、9.3重量%のメチルアクリレート(これはElvanol(R)80-18中でラクトン環を構成する)を含み、67.05の鹸化価及び18.7cpsの粘度を有していた。9.3重量%のメチルアクリレートは、5.1モル%のメチルアクリレートに相当する。L2G011のElvanol(R)80-18は、少なくとも90モル%のビニルアルコール単位を含んでいた。」の宣言や甲4bのデュポンによるLisa Campbell宛のElvanol(R)80-18(lot L2G011)の上記「分析証明書」によれば、Elvanol(R)80-18(lot L2G011)は、ビニルアルコールと9.3重量%(5.1モル%)のメチルアクリレートを含み、67.05の鹸化価のコポリマーであると認めることができる。 また、上記「宣誓に代わる宣言」での「5.Elvanol(R)80-18のロット番号L2G009は、L2G011からロット番号が2つ離れており、lot L2G011と同時代に製造された。通常業務に従い保管されている記録によれば、ロット番号L2G009のElvanol(R)80-18の特性は次のとおりである: メチルアクリレート 重量%(モル%) 9.7(5.3) 鹸化価                69.48 ビニルアルコール単位(モル%)    90より大 ・・・」 との宣言、及びL2G009は、L2G011からロット番号が2つしか離れておらず、製品の組成等が大きく異なるものとはいえないことを考慮すると、Elvanol(R)80-18(lot L2G009)は、上記「宣誓に代わる宣言」で宣言しているとおりの、ビニルアルコールと9.7重量%(5.3モル%)のメチルアクリレートを含み、69.48の鹸化価のコポリマーであると認めることができる。 そうすると、甲2には、Elvanol(R)80-18と苛性物質が反応したコポリマーとして、 「ビニルアルコールと、9.3重量%(5.1モル%)又は9.7重量%(5.3モル%)のメチルアクリレートを含み、67.05又は69.48の鹸化価のコポリマーを苛性物質と反応させた冷水溶解性のコポリマー」(以下、「甲2発明」という。)が記載されているといえる。 (3) 対比・検討 事案に鑑み、まず、甲2発明との対比・検討を行い、その後、甲1発明との対比・検討を行う。 ア 甲2発明を主発明とした場合 (ア)本件発明1について 本件発明1と甲2発明を対比する。 ○甲2発明の「ビニルアルコール」、「メチルアクリレート」及び「冷水溶解性」は、それぞれ、本件発明1の「ビニルアルコール(“VOH”)」、「アルキルアクリレート(AA)がメチルアクリレート」及び「冷水可溶性」に相当する。 ○甲2発明の「ビニルアルコールと、9.3重量%(5.1モル%)又は9.7重量%(5.3モル%)のメチルアクリレートを含み、67.05又は69.48の鹸化価のコポリマーを苛性物質と反応させた冷水溶解性のコポリマー」の「苛性物質と反応させた・・・コポリマー」について、苛性物質との反応は、加水分解であり、コポリマーの鹸化価を上昇させ、ビニルアルコールの含有量を上昇させるものであることが技術的な常識であるといえるから、甲2発明の「苛性物質と反応させた冷水溶解性のコポリマー」も、ポリビニルアルコールとメチルアクリレートのコポリマーであると解するのが妥当である。また、そのコポリマーに含まれるメチルアクリレートは、5.1モル%又は5.3モル%であるといえるから、本件発明1のコポリマーに含まれるAAの2~8モル%の範囲に含まれている。 そうすると、本件発明1と甲2発明は、「ビニルアルコール(“VOH”)とアルキルアクリレート(“AA”)との冷水可溶性のコポリマーであって、2~8モル%のAAを含み、かつアルキルアクリレート(AA)がメチルアクリレートである、上記コポリマー」である点で一致し、以下の点で相違しているといえる。 【相違点1】 コポリマーについて、本件発明1では、「ビニルアセテートモノマー(“VAM”)とアルキルアクリレート(“AA”)とを共重合させ、鹸化させることによって製造される」、「アルキルアクリレート(AA)がメチルアクリレートである」とされているのに対し、甲2発明では、ビニルアセテートモノマーとメチルアクリレートとを共重合させ、鹸化させることによって製造されているものであるのか明らかでない点。 【相違点2】 コポリマーについて、本件発明1では、「実質的にランダム」であるのに対し、甲2発明では、実質的にランダムであるのか明らかでない点。 【相違点3】 コポリマーについて、本件発明1では、「59秒以下の特徴的冷水フィルム溶解時間、ここで、冷水フィルム溶解時間は、76μm×2.3cm×3.4cmの寸法のフィルムをスライドフレームに据え付け、温度を21℃±1℃に保持した撹拌下の400mlの水中にフィルムを浸漬させ、フィルムの残留ストリングとフィルム粒子がフレーム上に残らなくなるまでの合計時間である(以下、単に、「特徴的冷水フィルム溶解時間」という。)、を示すのに対し、甲2発明では、特徴的冷水フィルム溶解時間が明らかでない点。 【相違点4】 コポリマーについて、本件発明1では、「勾配溶出クロマトグラフィー分析における1つのピークの存在によって明示されるように組成ドリフトを実質的に含まない」のに対し、甲2発明では、組成ドリフトを実質的に含まないのか明らかでない点。 事案に鑑み、まず、上記相違点3について検討する。 【相違点3】について 甲3の株式会社クラレの新居真輔による「実験結果報告書」「7.」では、メチルアクリレートに由来するラクトン構造単位に対して3種類の水酸化ナトリウムの濃度(1.0モル当量、0.5モル当量、0.25モル当量)でElvanol(R)80-18の反応を行ってラクトン環開環物(加水分解物)を調製し、特許第5931088号公報(本件原出願の特許公報)の段落[0047]に従いフィルムを作製し、同段落[0048]に従い「冷水溶解時間」を測定したところ、水酸化ナトリウムの濃度1.0モル当量、フィルムの厚みが75μmで、60秒、水酸化ナトリウムの濃度0.5モル当量、フィルムの厚みが63μmで、83秒、水酸化ナトリウムの濃度0.25モル当量、フィルムの厚みが54μmで、87秒という結果が示されている。 ここで、この実験に用いているElvanol(R)80-18のLotは必ずしも明らかでないものの上記の水酸化ナトリウムの濃度が1.0モル当量の場合に関する「7-1-1 ラクトン環開環物(ア)の調製」には、『先の「6-2-1 Elvanol(R)80-18のラクトン環開環物の調製方法」に記載の方法と同様にして、ラクトン環開環物(ア)の水溶液を得た。』との記載があり、この「6-2-1 Elvanol(R)80-18のラクトン環開環物(ア)の調製方法」を見ると、Elvanol(R)80-18のLotは、「3012075026」とされている。そして、上記「実験結果報告書」の[表1]の記載によれば、Elvanol(R)80-18(lot 3012075026)は、製造販売時期が2013年のものであり、製造販売時期が本件原出願の優先日前の2002年のElvanol(R)80-18(lot L2G009)との比較で、メチルアクリレート変性量、鹸化価及び4%水溶液の粘度で若干ではあるが違いがある。 そうすると、上述の「冷水溶解時間」の測定は、甲2に記載される本件原出願の優先日前に製造販売されたElvanol(R)80-18に基づく正確な再現実験とまではいうことができない。仮に、「実験結果報告書」の[表1]に記載されるメチルアクリレート変性量、鹸化価及び4%水溶液の粘度で表される若干の違いが、「冷水フィルム溶解時間」に影響を与えるものではないとしても、フィルムの厚みが、本件発明1の「76μm」よりも薄い「75μm」であっても溶解時間は、「60秒」であり、本件発明1の「59秒未満」の条件を満たしていないから、上記相違点3は、実質的な相違点となるものである。 また、甲2の上記摘示(ウ2)には、「Elvanol(R)80-18は、供給時において冷水溶解性ではないが、冷水中での最終製品の迅速な溶解が要求される用途において使用するに適している。」との記載があり、Elvanol(R)80-18と苛性物質を反応させたものが迅速な冷水溶解を示すものであることは分かるが、甲2には、この冷水溶解性を「さらに」高めようとする動機付けがあるとはいえない。仮に、冷水溶解性をさらに高めようと試みたとしても、それを実現する手段が、甲2及び甲1の記載を見ても不明である。 そうすると、甲2発明において、そもそも「特徴的冷水フィルム溶解時間」は認識されていないが、「特徴的冷水フィルム溶解時間」を59秒以下とすることは、甲1及び甲2の記載を考慮したとしても、当業者が容易に想到し得るものではない。 よって、上記相違点3は、実質的な相違点であるし、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえないから、上記相違点1、2、4を検討するまでもなく、本件発明1は、甲2発明ではないし、甲2発明及び甲1及び2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (イ) 本件発明3、6及び8ないし10について 本件発明3、6及び8ないし10は、本件発明1の発明特定事項をさらに限定したものであるか、または、本件発明1にさらに他の発明特定事項を付加したものであるから、本件発明1と同様に、本件発明3、6、8、10は、甲2に記載された発明ではないし、また、本件発明3、6及び8ないし10は、甲2に記載された発明及び甲1及び2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 イ 甲1発明を主発明とした場合 (ア) 本件発明1について 本件発明1と甲1発明を対比する。 ○甲1発明の「ビニルアセテート」及び「メチルアクリレート」、「ビニル・・・アルコール」及び「冷水溶解性」は、それぞれ、本件発明1の「ビニルアセテートモノマー(“VAM”)」及び「アルキルアクリレート(AA)がメチルアクリレート」、「ビニルアルコール(“VOH”)」及び「冷水可溶性」に相当する。 ○甲1発明において、(加水分解されたビニルアセテートの)加水分解レベルは、98%より大きいということは、「ビニルアセテート/アルコール」とされる加水分解されたビニルアセテートのほとんどは、ビニルアルコールであるといえるから、甲1発明の「加水分解されたビニルアセテート(加水分解レベルは、98%より大きい)、とメチルアクリレートとの・・・コポリマー」は、本件発明1の「ビニルアルコール(“VOH”)とアルキルアクリレート(“AA”)との・・・コポリマー」に相当する。 ○上記摘示(オ1)及び(キ1)で、甲1での加水分解コポリマーを得る反応として、ビニルアセテートとメチルアクリレートからコポリマーを形成(とを共重合)した後、加水分解させており、この加水分解は、「鹸化」に相当していることからすると、甲1発明の「加水分解されたビニルアセテート、とメチルアクリレートとの水溶解性コポリマー」は、「ビニルアセテートとメチルアクリレート」とを共重合させ、鹸化させることにより製造されているといえる。 ○甲1発明のコポリマーに含まれるメチルアクリレートの含有量(約2~約10モル%)は、本件発明1のコポリマーに含まれるAAの2~8モル%の範囲と一部重複する。 そうすると、本件発明1と甲1発明は、「ビニルアセテートモノマー(“VAM”)とアルキルアクリレート(“AA”)とを共重合させ、鹸化させることによって製造される、ビニルアルコール(“VOH”)とアルキルアクリレート(“AA”)との冷水可溶性コポリマーであって、2~8モル%のAAを含み、かつアルキルアクリレート(AA)がメチルアクリレートである、上記コポリマー」である点で一致し、以下の点で相違しているといえる。 【相違点5】 コポリマーについて、本件発明1では、「実質的にランダム」であるのに対し、甲1発明では、実質的にランダムであるのか明らかでない点。 【相違点6】 コポリマーについて、本件発明1では、「59秒以下の特徴的冷水フィルム溶解時間を示す」のに対し、甲1発明では、特徴的冷水フィルム溶解時間が明らかでない点。 【相違点7】 コポリマーについて、本件発明1では、「勾配溶出クロマトグラフィー分析における1つのピークの存在によって明示されるように組成ドリフトを実質的に含まない」のに対し、甲1発明では、組成ドリフトを実質的に含まないのか明らかでない点。 事案に鑑み、まず、上記相違点6について検討する。 【相違点6】について 甲1発明は、「加水分解されたビニルアセテート、とメチルアクリレートとの冷水溶解性コポリマー」であり、上記摘示(サ1)の記載によれば、約1.5ミル(約0.038mm)の厚さを有するフィルムが、約10℃の水に150秒以下、好ましくは60秒以下の溶解時間を有するような、冷水溶解性に優れたコポリマーであることを考慮しても、甲1発明のコポリマーが、「59秒以下の特徴的冷水フィルム溶解時間を示す」ものであるのかは不明である。ここで、甲1発明で、好ましくは60秒以下の溶解時間を有するフィルムの厚みは、約1.5ミル(約38μm)であるのに対し、本件発明1の特徴的冷水フィルム溶解時間を測定する際のフィルムの厚みは76μmであるところ、フィルムの厚みが厚くなれば、溶解時間はより長くなるといえるから、この点からも、甲1発明のコポリマーの特徴的冷水フィルム溶解時間が、59秒という本件発明1の範囲にあるということはできない。 また、甲2に記載されるElvanol(R)80-18を苛性物質と反応(加水分解)させたコポリマーは、上記ア(ア)で述べたように、加水分解されたビニルアセテート(ビニルアルコール)、とメチルアクリレートとの冷水溶解性コポリマーであり、甲1発明の冷水溶解性に優れたコポリマーに類似するものであるが、上記ア(ア)「【相違点3】について」で述べたように、甲2に記載されるElvanol(R)80-18を苛性物質と反応(加水分解)させたコポリマーが、本件発明1の特徴的冷水フィルム溶解時間(59秒以下)の範囲を満たすものということはできないから、甲2を考慮したとしても、甲1発明のコポリマーが、本件発明1の特徴的冷水フィルム溶解時間(59秒以下)の範囲を満たすものということはできない。 さらに、甲1発明のコポリマーは、冷水溶解性に優れたコポリマーであるではあるが、甲1には、甲1発明のコポリマーの冷水溶解性を「さらに」高めようとする記載はなく、仮に、冷水溶解性をさらに高めようと試みたとしても、それを実現する手段が、甲2及び甲1の記載を見ても不明である。 そうすると、甲1発明において、「特徴的冷水溶解時間」を59秒以下とすることは、甲1及び甲2の記載を考慮したとしても、当業者が容易に想到し得るものではない。 よって、上記相違点6は、実質的な相違点であるし、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえないから、上記相違点5、7を検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明ではないし、甲1発明及び甲1及び2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (イ) 本件発明3、6及び8ないし10について 本件発明3、6及び8ないし10は、本件発明1の発明特定事項をさらに限定したものであるか、または、本件発明1にさらに他の発明特定事項を付加したものであるから、本件発明1と同様に、本件発明3、6及び8ないし10は、甲1に記載された発明ではないし、甲1に記載された発明及び甲1及び2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 ウ 平成30年6月21日に提出された意見書での申立人の主張について (ア) 申立人の主張の概要 a 上記ア(ア)「【相違点3】について」及びイ(ア)「【相違点6】について」に関連して、申立人は、 『フィルムの作製方法や測定方法等に起因した誤差に鑑みれば、ラクトン環開環物(ア)に関するフィルム厚み約75μmで測定された冷水溶解時間60秒(甲3の「7-5 考察」及び「8 総括」)は、フィルム厚さ76μmで測定された特徴的冷水フィルム溶解時間59秒以下に実質的に相当する。』(第4頁第15~19行) と主張している。 b 申立人は、『甲2の(2-4)におけるElvanol(R)80-18は、供給時において 冷水溶解性ではないが、冷水中での最終製品の迅速な溶解が要求される用途において使用するに適している」との記載は、上記用途に使用される冷水溶解性コポリマーについて、より迅速な溶解、すなわちより短い冷水溶解時間が望ましいことを示唆している。また、取消理由通知書(19頁)において認定されているように、Elvanol(R)80-18の加水分解物に相当する甲1A発明に対する課題の1つとして迅速な冷水溶解性の観点がある。・・・甲1にも甲2にも、上記のとおり明らかに、冷水溶解性フィルムを製造するためのコポリマーの冷水溶解時間を60秒より短く、すなわち59秒以下にする示唆は存在する。 ・・・そこで、上記実施例1~10について、(2)アルキルアクリレートの含有量と(3)4%粘度で表される相対分子量とが特徴的冷水フィルム溶解時間に及ぼす影響をグラフとして以下に示す。・・・このように、実施例1~10の結果には、(2)アルキルアクリレートの含有量および(3)4%粘度で表される相対分子量の調整により特徴的冷水フィルム溶解時間を調整できるという当業者における技術常識が反映されているにすぎない。・・・ よって、冷水溶解時間を59秒以下にすることは当業者ならば甲2A発明及び甲1の記載に基づいて容易に想到できる程度の事項』(第5頁第19行~第8頁第3行)である、 と主張している。 (イ) 申立人の主張に対する判断 a 主張aについて、上記ア(ア)「【相違点3】について」で述べたように、上述の「冷水溶解時間」の測定は、甲2に記載される本件原出願の優先日前に製造販売されたElvanol(R)80-18に基づく正確な実験ということができないから、甲3に示された「フィルム厚み約75μmで測定された冷水溶解時間60秒」と、本件発明1の「フィルム厚さ76μmで測定された特徴的冷水フィルム溶解時間59秒以下」という近接した条件の異同を判断することができない。 また、上記の主張は、具体的な根拠をもって、甲3に示された冷水溶解時間の結果が誤差により、本件発明1の条件に合致することを示すものではない。仮に、測定値が誤差による多少変動を含むものであるとするならば、甲3における冷水溶解時間の実際の値は、測定値の60秒より、より大きい可能性もある。 そうすると、甲3のラクトン環開環物(ア)に関するフィルム厚み約75μmで測定された冷水溶解時間60秒は、本件発明1のフィルム厚さ76μmで測定された特徴的冷水フィルム溶解時間59秒以下に実質的に相当するとすることはできない。 b 主張bについて、甲1及び甲2発明のコポリマーは、いずれも冷水溶解性に優れるものであるといえるが、上記ア(ア)「【相違点3】について」及び上記イ(ア)「【相違点6】について」で述べたように、甲1及び甲2には、この冷水溶解性を「さらに」高めようとする動機付けが存在するとまではいえない。仮に、冷水溶解性をさらに高めようと試みたとしても、それを実現する手段が、甲2及び甲1の記載を見ても不明である。 また、上記主張は、本件明細書の実施例の結果に基づき、アルキルアクリレートの含有量及び4%粘度で表される相対分子量の調整により特徴的冷水フィルム溶解時間を調整することかできることを示しているが、これは、本件原出願の優先日前には知られていなかった本件発明1の実施例の結果を前提とするものであるから、採用することができない。 してみると、上記の申立人の主張は、採用することができない。 エ 小括 本件発明1、3、6及び8ないし10に係る発明は、甲1に記載された発明であるとはいえないし、本件発明1、3、6、8、10に係る発明は、甲2に記載された発明であるとはいえない。また、本件発明1、3、6及び8ないし10は、甲1に記載された発明又は甲2に記載された発明、及び甲1、2に記載の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、本件発明1、3、6及び8ないし10は、特許法第29条第1項第3号に該当し、または、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではなく、これらの特許は、同法第113条第2号に該当しないから、取り消すべきものではない。 2 理由5(1)について (1)「ビニルアセテートモノマー(“VAM”)とアルキルアクリレート(“AA”)とを共重合させ」たものと、「ビニルアルコール(“VOH”)とアルキルアクリレート(“AA”)との・・・コポリマー」の対応について (1) 理由の概要 「訂正前の請求項1に係る発明では、「ビニルアセテートモノマー(“VAM”)とアルキルアクリレート(“AA”)とを共重合させることによって製造される、ビニルアルコール(“VOH”)とアルキルアクリレート(“AA”)との冷水可溶性で実質的にランダムなコポリマー」と特定されているが、「ビニルアセテートモノマー(“VAM”)」と「アルキルアクリレート(“AA”)」とを共重合させること(ことだけ)によっては、ビニルアルコール(“VOH”)とアルキルアクリレート(“AA”)との「冷水可溶性で実質的にランダムな」コポリマーを製造することができない。 そうすると、請求項1の記載は、明確でない。」 (2) 判断 本件訂正により、「ビニルアセテートモノマー(“VAM”)とアルキルアクリレート(“AA”)とを共重合させ、鹸化させることによって製造される、ビニルアルコール(“VOH”)とアルキルアクリレート(“AA”)との冷水可溶性で実質的にランダムなコポリマー」と特定されることにより、コポリマーにおいて、「ビニルアセテートモノマー(“VAM”)」の単位が、鹸化により「ビニルアルコール(“VOH”)」の単位となることが明確となった。 そうすると、「ビニルアセテートモノマー(“VAM”)とアルキルアクリレート(“AA”)とを共重合させ」たものと、「ビニルアルコール(“VOH”)とアルキルアクリレート(“AA”)との・・・コポリマー」の対応が、不明確であるとはいえない。 よって、当該理由は訂正により解消しており、本件発明1の特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしてる特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当せず、取り消すべきものではない。 第7 取消理由で採用しなかった特許異議申立ての理由 申立人から申立てられた特許異議申立ての理由のうち、平成30年2月13日付け取消理由通知において採用しなかった以下の申立理由につき、本件の請求項1、3、6及び8ないし10に係る発明の特許について、検討する。 また、請求項2、4、5及び7に係る発明の特許は、これらの請求項が削除されたので、特許異議の申立てを却下する。 1 申立理由の概要 「1 記載不備(2)(特許法第36条第6項第2号)(以下、「申立理由」という。) 訂正前の請求項1ないし10に係る発明は、明確でなく、その発明に係る特許は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号の規定に適合していない特許出願に対してされたものであるから、取り消すべきものである。」 「 本件発明1には、「ビニルアセテートモノマー(“VAM”)とアルキルアクリレート(“AA”)とを共重合させ、鹸化させることによって製造される、ビニルアルコール(“VOH”)とアルキルアクリレート(“AA”)との冷水可溶性で実質的にランダムなコポリマー」との特定があるが、該コポリマーは、「ビニルアセテートモノマー(“VAM”)とアルキルアクリレート(“AA”)とを共重合させ、鹸化させることによって製造される」ことが特定されており、該コポリマーの製造方法が記載されていると認められる。 ・・・ したがって、物の発明に係る請求項において、その物の製造方法が記載されている本件発明1は、明確でない。また、本件発明1に直接又は間接に従属する本件発明2~10も同様に明確ではない。」 2 判断 ビニルアルコールは単量体として存在せず、ポリビニルアルコールを得るには酢酸ビニルを単量体として重合したポリ酢酸ビニル(ビニルアセテート)をアルカリ等でケン化して得なければならないという技術常識(例えば、化学大辞典編集委員会編「化学大辞典8 縮刷版」(1993年6月1日縮刷版第34刷発行)共立出版株式会社、第767頁「ポリビニルアルコール」参照)である。 上記技術常識に照らせば、ビニルアルコール(“VOH”)とアルキルアクリレート(“AA”)とのコポリマーは、必ず、「ビニルアセテートモノマー(“VAM”)とアルキルアクリレート(“AA”)とを共重合させ、鹸化させることによって製造される」ものであり、この特定は、製造方法としての何の特徴も特定するものではなく、コポリマーのビニルアルコール(“VOH”)がビニルアセテートモノマー(“VAM”)単位の鹸化によるものであるという技術常識を示しているに過ぎないものと見ることができる。 そうすると、本件発明1は、コポリマーを、「製造方法」により特定しようとするものであるとはいえないから、上記の申立理由で、本件発明1は明確でないとすることはできない。 本件発明1と直接又は間接的に引用する本件発明3、6及び8ないし10についても、同様である。 よって、上記申立人の申立理由は採用できない。 第8 むすび 以上のとおり、請求項1、3、6及び8ないし10に係る特許は、取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立ての理由によっては取り消すことはできない。 また、他に、請求項1、3、6及び8ないし10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 請求項2、4、5及び7は削除されたので、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により、これらの特許についての特許異議の申立てを却下する。 よって、結論のとおり決定する。

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2017-701000

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  • 2025-700874異議申立 / 2026-06-18 / 訂正認容アルカリ可溶性樹脂、感光性樹脂組成物、硬化物、及び画像表示装置
    共通の審決分類: 113・C08F、121・C08F、536・C08F、537・C08F
  • 2025-700634異議申立 / 2026-02-19 / 訂正認容グラフト共重合体樹脂
    共通の審決分類: 113・C08F、121・C08F、536・C08F、537・C08F
  • 2025-700751異議申立 / 2025-10-23 / 維持共重合体、組成物、ワニス、及びそれらの硬化体
    共通の審決分類: 113・C08F、121・C08F、536・C08F、537・C08F
  • 2024-700904異議申立 / 2025-06-19 / 訂正認容フッ素樹脂及びその製造方法
    共通の審決分類: 113・C08F、121・C08F、536・C08F、537・C08F

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