特許異議申立
2017-700987
水酸化マグネシウム難燃剤ナノ粒子及びその生産方法
- 審判番号
- 2017-700987
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2016-179303外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2017年10月12日
- 審決日
- 2018年05月21日
- 公報発行日
- 2018年08月31日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】ジョイント ストック カンパニー カウスティク
- 【権利者代理人】▲吉▼川 俊雄
- 【異議申立人】清水 すみ子
- 分類
- P1652.113-YAA(C09K) / P1652.121-YAA(C09K)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第120条の8
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6120035号発明「水酸化マグネシウム難燃剤ナノ粒子及びその生産方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6120035号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~7〕について訂正することを認める。
特許第6120035号の請求項1~4、及び7に係る特許を維持する。
特許第6120035号の請求項5に係る特許についての申立てを却下する。
理由
【理 由】
1 手続の経緯
特許第6120035号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~14に係る特許についての出願は、平成29年4月7日にその特許権の設定登録がされ、その後、同年10月12日に特許異議申立人清水すみ子(以下、単に「異議申立人」ともいう。)より請求項1~5、及び7に対して特許異議の申立てがされ、同年12月21日付けで取消理由が通知され、平成30年3月22日に意見書の提出及び訂正請求がされたものである。
なお、上記訂正請求に対して、異議申立人に期間を設定して意見書を提出する機会を与えたが、意見書の提出はなかった。
2 訂正の適否
(1) 訂正の内容
本件訂正請求の趣旨は、本件特許の特許請求の範囲を本件訂正請求書に添付した訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~7について訂正することを求める、というものであって、本件特許に係る願書に添付した明細書及び特許請求の範囲について、次のア~カの訂正事項1~6のとおり訂正することを求めるというものである。
ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1の「二次粒子90%の直径が5μmを超えず、」の後に、訂正前の請求項5及び請求項6に記載の発明特定事項である「吸油力が、水酸化マグネシウム100gに対して50g以下であり、空隙率が10.5x10―3cm3/g以下であり、」なる記載を追加する。
(請求項1を引用する請求項2~4、及び7も同様に訂正する。)
イ 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項5を削除する。
ウ 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項6を削除する。
エ 訂正事項4
願書に添付した明細書の段落【0003】、【0006】、【0010】、【0013】、【0026】、【0035】に記載された「回析」を「回折」に訂正する。
オ 訂正事項5
特許請求の範囲の請求項1に記載された「レーザー回析法」を「レーザー回折法」に訂正する。
(請求項1を引用する請求項2~4、及び7も同様に訂正する。)
カ 訂正事項6
特許請求の範囲の請求項2に記載された「レーザー回析法」を「レーザー回折法」に訂正する。
(2) 訂正の目的の適否、新規事項の有無、一群の請求項、特許請求の範囲の拡張・変更の存否及び独立特許要件について
ア 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
(ア) 訂正事項1について
上記訂正事項1は、訂正前の請求項5及び請求項6の記載に基き、請求項1に係る水酸化マグネシウム難燃剤ナノ粒子において、その吸油力及び空隙率を限定するものであり、当該訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号の「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載されている事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
また、請求項1を引用する請求項2~4、及び7も同様に訂正されるものであって、当該請求項2~4、及び7に係る訂正は、請求項1と同様に、特許法第120条の5第2項ただし書第1号の「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載されている事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(イ) 訂正事項2、3について
上記訂正事項2、3は、請求項の削除であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号の「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載されている事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(ウ) 訂正事項4について
上記訂正事項4は、「レーザー回析法」(【0003】、【0035】)、「X線回析法」(【0006】)、「レーザー回析測定」(【0010】、【0013】、【0026】)という記載における「回析」を「回折」と訂正するものであるところ、「回析」という技術用語は存在せず、それらは、順に、「レーザー回折法」、「X線回折法」及び「レーザー回折測定」という技術用語を指していることは明らかである。
そうすると、上記訂正事項4は、「回析」という語句を、本来の意味である「回折」という語句に正すものであって、訂正前の記載が当然に訂正後の記載と同一の意味を有するものと客観的に認められるものである。
したがって、上記訂正事項4は、特許法第120条の5第2項ただし書第2号の「誤記又は誤訳の訂正」を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載されている事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(エ) 訂正事項5について
上記訂正事項4について述べたように、訂正事項5は、請求項1に記載された「レーザー回析法」という語句を、本来の意味である「レーザー回折法」という語句に正すものであって、訂正前の記載が当然に訂正後の記載と同一の意味を有するものと客観的に認められるものである。
また、請求項1を引用する請求項2~4、及び7も同様に訂正されるものであって、当該請求項2~4、及び7に係る訂正は、請求項1と同様に、特許法第120条の5第2項ただし書第2号の「誤記又は誤訳の訂正」を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載されている事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(オ) 訂正事項6について
上記訂正事項4について述べたように、訂正事項6は、請求項2に記載された「レーザー回析法」という語句を、本来の意味である「レーザー回折法」という語句に正すものであって、訂正前の記載が当然に訂正後の記載と同一の意味を有するものと客観的に認められるものである。
したがって、上記訂正事項6は、特許法第120条の5第2項ただし書第2号の「誤記又は誤訳の訂正」を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載されている事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
イ 一群の請求項について
訂正事項4について、「レーザー回析法」(【0003】、【0035】)、「X線回析法」(【0006】)、「レーザー回析測定」(【0010】、【0013】、【0026】)という語句は、請求項1~4、及び7に係る「水酸化マグネシウム難燃剤ナノ粒子」に直接関係し、請求項8~14に係る「水酸化マグネシウム難燃剤ナノ粒子の生産方法」には直接関係しない語句であるといえる。
そして、訂正前の請求項1~7は、請求項2~7が訂正の請求の対象である請求項1の記載を引用する関係にあるから、訂正前において一群の請求項に該当するものである。
したがって、本件訂正の請求は、一群の請求項ごとにされたものであるとともに、明細書の訂正に係る請求項を含む一群の請求項の全てについて行われたものである。
ウ 独立特許要件について
特許異議の申立ては、訂正前の請求項1~5、及び7に対してされているので、訂正後の請求項1~4、及び7に係る発明については、訂正を認める要件として、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。
(3) まとめ
以上のことから、上記訂正事項1~6は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第2号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項で準用する同法第126条第4項から第7項までの規定に適合するので、本件訂正請求書に添付した訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-7〕について訂正することを認める。
3 本件特許発明
上記2で述べたように、本件訂正は認められるから、本件特許の請求項1~4、及び7~14に係る発明は、訂正特許請求の範囲の請求項1~4、及び7~14に記載された事項によって特定される次のとおりのものである(以下、項番号に対応して、「本件発明1」などといい、これらをまとめて「本件発明」という。)。
「【請求項1】
板状六方構造をもち、BET法測定による比表面積が20m2/g以下、レーザー回折法測定による二次粒子の平均径が2μm以下であり、表面処理されていない水酸化マグネシウム難燃剤ナノ粒子であって、水酸化マグネシウム難燃剤ナノ粒子は、その二次粒子10%の直径が0.8μmを超えず、二次粒子90%の直径が5μmを超えず、吸油力が、水酸化マグネシウム100gに対して50g以下であり、空隙率が10.5x10―3cm3/g以下であり、なおかつ、上記水酸化マグネシウムの一次粒子が板状六方形を呈し、一次粒子の縦の長さが150~900nm、厚さが15~150nmであることを特徴とする、水酸化マグネシウム難燃剤ナノ粒子。
【請求項2】
レーザー回折法測定による二次粒子の平均径が0.7~1.7μmであることを特徴とする、請求項1に記載の水酸化マグネシウム難燃剤ナノ粒子。
【請求項3】
BET法測定による比表面積が2~15m2/gであることを特徴とする、請求項1に記載の水酸化マグネシウム難燃剤ナノ粒子。
【請求項4】
一次粒子の縦の長さが200~600nm、厚さが40~100nmであることを特徴とする、第1項に従う水酸化マグネシウム難燃剤ナノ粒子。
【請求項7】
三酸化二鉄に換算した鉄分含有量が0.01%以下であることを特徴とする、請求項1に記載の水酸化マグネシウム難燃剤ナノ粒子。
【請求項8】
塩化マグネシウム水溶液とアルカリ成分との相互反応による表面処理が行われておらず、二段階より成る、水酸化マグネシウム難燃剤ナノ粒子の生産方法であって、第一段階において、温度100℃以下、常圧、OH-イオン対Mg++イオンのモル比が1.9~2.1:1の範囲において、塩化マグネシウム水溶液とアルカリ成分との相互反応が行われ、第二段階においては、温度120~220℃、圧力0.18~2.3MPa、継続時間2~24時間において水酸化マグネシウム粒子の水熱再結晶化がおこなれ、なおかつ、凝集による、その後の一次粒子の増大及び二次粒子の粗大化を防ぐことを目的として水熱再結晶化が行われる際に、温度160~240℃、圧力0.6~3,3MPaにおいて、過熱蒸気による周期的な液圧衝撃が反応塊に対して加えられることを特徴とする、水酸化マグネシウム難燃剤ナノ粒子の生産方法。
【請求項9】
塩化マグネシウムとして、天然由来または合成由来の塩化マグネシウムを使用することを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
塩化マグネシウム水溶液が、鉄、及び/または臭素、及び/またはホウ素、及び/または硫酸塩、及び/またはマンガン、その他の不純物を前もって除去されたものであることを特徴とする、請求項8または請求項9に記載の方法。
【請求項11】
アルカリ成分として、水酸化ナトリウム、または水酸化カリウム、または水酸化アンモニウムのそれぞれの水溶液、または水酸化カルシウム懸濁液が使われることを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
水酸化マグネシウムナノ粒子の生成が、周期的または連続的条件で行われることを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項13】
水熱再結晶化が、反応母液媒質中または脱イオン水中で行われることを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項14】
液圧衝撃が、任意の断面形状をもつ孔を経由して行われることを特徴とする、請求項8に記載の方法。」
4 当審の判断
(1) 取消理由通知に記載した取消理由について
訂正前の請求項1~5、及び7に係る特許に対して、平成29年12月21日付で通知した取消理由の概要は、以下のとおりであり、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由の概要と同じである。
「1 この特許の請求項1~5に係る発明は、その出願前日本国内において頒布された下記の甲第1号証(以下、項番号に応じて、「甲1」などという。)に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、特許を受けることができず、この特許の請求項1~5に係る特許は取り消すべきものである。
2 この特許の請求項1~5及び7に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の甲1~甲5に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず、この特許の請求項1~5及び7に係る特許は取り消すべきものである。
記
甲1:西沢 仁監修、「高分子の難燃化技術」、株式会社シーエムシー出版、2002年11月27日普及版第1刷発行、第244~254頁
甲2:経営開発センター出版部企画編集、「無機物質とポリマーとの相互作用」、経営開発センター出版部、昭和61年1月31日発行、第395~411頁
甲3:フィラー研究会編、「フィラー活用事典」、株式会社大成社、平成6年(1994)5月31日初版第1刷発行、第40~43頁、第96~100頁
甲4:日本工業標準調査会 審議、「JIS 顔料試験方法-第13部:吸油量-第1節:精製あまに油法 JIS K5101-13-1:2004(ISO 787-5:1980)(JICIA/JSA)」、日本規格協会発行、官報公示:平成16年2月20日、第1~3頁
甲5:特開2006-160603号公報
本件発明1~5は、甲1に記載された発明である。
また、本件発明1~5と、甲1に記載された発明とに相違があったとしても、本件発明1~5は、甲1~甲5に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
そして、本件発明7は、甲1~甲5に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。」
(2) 判断
甲1の244~254頁から、「キスマ5」について、次のア~ウの事項が理解できる(当審注:括弧内は、甲1の対応箇所。)。
ア 表面処理されていない難燃剤水酸化マグネシウムである(246頁には、「キスマ5は・・・表面処理技術で樹脂への相溶性を高め,これらの問題を解決した難燃剤水酸化マグネシウムである」という記載があり、キスマ5は、それ自体には表面処理はなされておらず、キスマ5に対する表面処理技術を経ることで樹脂への相溶性が高められるものであることがわかる。そして、このことは、248頁の「表3 キスマ5の各グレイドと物性および特長」の表に、「キスマ5」を異なる表面処理剤でコートした各グレイドが「5A」、「5B」等と表記されており、表面処理されていない「キスマ5」と、表面処理されている「5A」等の各グレイドのものとが、表面処理の有無によって異なる表記となっていることからもわかる。)。
イ 結晶粒子は、六角板状の形状であって、その結晶粒子径(1次粒子径)が約0.6~1.0μm(当審注:約600~1000nm)、厚さが100~300nm(246頁には、「結晶粒子の形状は,図2のSEM写真で示されている六角板状である」という記載がある。また、247頁の「図2 水酸化マグネシウムとそのPP複合体破断面のSEM写真」の「キスマ5」についての写真から、水酸化マグネシウムの結晶粒子(1次粒子)は、「六角板状」の形状であることが看取される。さらに、246頁には、「その結晶粒子径(1次粒子径)は,約0.6~1.0μm,厚さは0.1~0.3μm(当審注:100~300nm)である」という記載がある。)。
ウ レーザー回折法測定による二次粒子の平均径が0.86μm(246頁には、「レーザー回折,散乱法による粒度分布測定結果の一例を図3に示す」という記載がある。そして、247頁の「図3 粒度分布(レーザー回折,散乱法)」の表には、「キスマ5」の「平均2次粒子径」について、「0.86μm(当審注:860nm)」という記載がある。)のナノ粒子である。
そうすると、甲1には、「キスマ5」として、
「六角板状の形状をもち、レーザー回折法測定による二次粒子の平均径が0.86μmである、表面処理されていない難燃剤水酸化マグネシウムナノ粒子であって、上記水酸化マグネシウムの一次粒子が六角板状を呈し、一次粒子の結晶粒子径(1次粒子径)が約600~1000nm、厚さが100~300nmである、表面処理されていない難燃剤水酸化マグネシウムナノ粒子。」の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
ここで、本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「六角板状の形状」は、本件発明1の「板状六方構造」及び「一次粒子が板状六方形を呈」する構成に相当する。
また、甲1発明の「表面処理されていない難燃剤水酸化マグネシウムナノ粒子」は、本件発明1の「表面処理されていない水酸化マグネシウム難燃剤ナノ粒子」に相当する。
また、甲1発明の「レーザー回折法測定による二次粒子の平均径」は、本件発明1の範囲に含まれる。
さらに、本件発明1の「一次粒子の」「厚さが15~150nm」と、甲1発明の「一次粒子の」「厚さが100~300nm」とは、「一次粒子の」「厚さが100~150nm」の範囲で一致する。
そうすると、本件発明1と甲1発明とは、
「板状六方構造をもち、レーザー回折法測定による二次粒子の平均径が2μm以下であり、表面処理されていない水酸化マグネシウム難燃剤ナノ粒子であって、上記水酸化マグネシウムの一次粒子が板状六方形を呈し、一次粒子の厚さが100~150nmである水酸化マグネシウム難燃剤ナノ粒子。」である点で一致し、次の相違点1~5で相違する。
【相違点1】
表面処理されていない水酸化マグネシウム難燃剤ナノ粒子の「BET法測定による比表面積」について、本件発明は「20m2/g以下」であるのに対し、甲1発明は不明な点。
【相違点2】
表面処理されていない水酸化マグネシウム難燃剤ナノ粒子の「二次粒子10%の直径」及び「二次粒子90%の直径」について、本件発明は、「二次粒子10%の直径が0.8μmを超えず、二次粒子90%の直径が5μmを超えず」であるのに対し、甲1発明のそれらは不明な点。
【相違点3】
水酸化マグネシウム難燃剤ナノ粒子の「吸油力」について、本件発明は、「吸油力が、水酸化マグネシウム100gに対して50g以下であ」るのに対し、甲1発明は不明な点。
【相違点4】
水酸化マグネシウム難燃剤ナノ粒子の「空隙率」について、本件発明は、「空隙率が10.5x10―3cm3/g以下であ」るのに対し、甲1発明は不明な点。
【相違点5】
水酸化マグネシウム難燃剤ナノ粒子の「一次粒子の縦の長さ」について、本件発明1は「150~900nm」であるのに対し、甲1発明は一次粒子の結晶粒子径(1次粒子径)が約600~1000nmであるものの、その縦の長さは不明な点。
ここで、相違点について検討する。
事案に鑑み、まず、相違点4について検討する。
異議申立人が主張するように、甲2には、キスマ5の比表面積(BET)及び吸油量が、それぞれ7m2/g及び50ml/100gであることが開示され、甲3には、粒度分布において、各粒子径の存在比率を積算していくことで累積分布が得られること、前記累積分布は、粒子径の小さい側から存在比率を積算していくものであること、及び粒度分布より求められる累積分布から10%粒子径及び90%粒子径を読み取ることができることが記載され、甲4には、顔料及び体質顔料の吸油量を精製あまに油を用いて測定するための一般試験方法について規定したものであること、及び吸油量を試料100g当たりのgで表す換算式がQ2=93V/m〔V:消費したあまに油の容量(ml)、m:試料の質量(g)〕であることが記載され、甲5には、水酸化マグネシウムにおける不純物として金属換算(Fe+Mn)の合計量が0.01重量%以下であることが記載されているとしても、甲1~甲5のいずれにも、上記相違点4に係る本件発明1の発明特定事項である、「水酸化マグネシウム難燃剤ナノ粒子」について、「空隙率が10.5x10―3cm3/g以下であ」る点は、記載も示唆もされていない。また、この点に関して、異議申立人は何ら主張ないし立証を行っていない。
そして、上記本件発明1の「空隙率」に関する発明特定事項は、とりわけ、本件発明8や本件明細書の【0014】、【0038】~【0041】の【実施例1】~【実施例3】に記載された生産方法によって生産された「水酸化マグネシウム難燃剤ナノ粒子」が備えるものと認められるところ、甲1~甲5は、そのような生産方法を、開示も示唆もするものではない。
また、甲1発明の「表面処理されていない水酸化マグネシウム難燃剤ナノ粒子」の「空隙率」が、本件発明1の範囲のものであるという技術常識は見当たらないし、さらに、該「表面処理されていない水酸化マグネシウム難燃剤ナノ粒子」が、本件発明8や本件明細書に記載された生産方法によって生産されるものであるという根拠も見当たらない。
そうすると、甲1発明の「表面処理されていない水酸化マグネシウム難燃剤ナノ粒子」の「空隙率」が、本件発明1の範囲のものである蓋然性は低い。さらに、該「表面処理されていない水酸化マグネシウム難燃剤ナノ粒子」に本件発明1で規定される「空隙率」を備えるようにする動機付けもない。
したがって、本件発明1は、甲1発明と同一であるとはいえず、しかも、甲1発明及び甲2~甲5に記載されたものに基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえないから、取消理由通知に記載した取消理由によっては、本件発明1に係る特許を取り消すことはできない。
そして、本件発明2~4、及び7は、本件発明1をさらに限定したものであるから、本件発明2~4、及び7に係る特許も、本件発明1と同様に、取り消すことはできない。
5 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件特許の請求項1~4、及び7に係る特許を取り消すことはできない。
そして、他に本件特許の請求項1~4、及び7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、本件特許の請求項5に係る特許は、訂正により削除されたため、本件特許の請求項5に対して、申立人がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。よって、本件特許の請求項5に係る特許異議の申立ては不適法であって、その補正をすることができないものであるから、特許法第120条の8で準用する同法第135条の規定により、却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
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2017-700987