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特許異議申立

2018-701070

耐汚染性艶消し水性塗料組成物及び耐汚染性艶消し塗膜形成方法

審判番号
2018-701070
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2014-164409
登録番号
特許第6351035号(P6351035)
請求日
2018年12月28日
審決日
2020年01月09日
公報発行日
2020年05月29日
結論
請求成立(取消)
当事者
  • 【権利者】関西ペイント株式会社
  • 【権利者代理人】青木 篤
  • 【権利者代理人】三橋 真二
  • 【権利者代理人】胡田 尚則
  • 【権利者代理人】出野 知
  • 【権利者代理人】高橋 正俊
  • 【異議申立人】清水 すみ子
審判長/審判官
  • 審判長 蔵野 雅昭
  • 審判官 木村 敏康
  • 審判官 天野 宏樹
分類
P1651.121-ZAA(C09D) / P1651.537-ZAA(C09D)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第120条の5第2項、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第9項、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の8第1項
データ出所
審決公報(SGML)

事件の表示

特許第6351035号発明「耐汚染性艶消し水性塗料組成物及び耐汚染性艶消し塗膜形成方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

【結 論】 特許第6351035号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~8〕について訂正することを認める。 特許第6351035号の請求項1~4及び6~8に係る特許を取り消す。 特許第6351035号の請求項5に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。

理由

【理 由】 第1 手続の経緯 特許第6351035号の請求項1~8に係る特許についての出願は、平成26年8月12日に特願2014-164409号として特許出願されたものであって、平成30年6月15日に特許権の設定登録がされ、同年7月4日にその特許掲載公報が発行され、その請求項1~8に係る発明の特許に対し、同年12月28日に清水すみ子(以下「特許異議申立人」という。)により、特許異議の申立てがされたものである。 特許異議の申立て後の手続の経緯は次のとおりである。 平成31年 2月26日付け 取消理由通知 同年 4月25日   意見書・訂正請求書・証拠説明書・乙第1~2号証(特許権者) 令和 元年 5月 9日付け 訂正請求があった旨の通知 同年 6月12日   意見書(特許異議申立人) 同年 7月17日付け 取消理由通知(決定の予告) 同年 9月20日   意見書・訂正請求書 同年 9月25日付け 訂正請求があった旨の通知 同年10月29日   意見書(特許異議申立人) 第2 訂正の適否 1.訂正請求の趣旨及び内容 平成31年4月25日付けの訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなされるところ、 令和元年9月20日付けの訂正請求による訂正(以下「本件訂正」という。)の「請求の趣旨」は「特許第6351035号の明細書、特許請求の範囲を本訂正請求書に添付した訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~8について訂正することを求める。」というものであり、その内容は、以下の訂正事項1~7のとおりである(なお、訂正に関連する箇所に下線を付す。)。 (1)訂正事項1 訂正前の請求項1において「且つ水性樹脂(A)固形分中に占める芳香族ビニル化合物の共重合割合が40質量%以下にあるものであり」とあるのを、 訂正後の請求項1において「且つ水性樹脂(A)が、芳香族ビニル化合物、(メタ)アクリロイル基含有化合物、及びその他の重合性不飽和モノマーの共重合体であるか、又は芳香族ビニル化合物及び(メタ)アクリロイル基含有化合物の共重合体であって、固形分中に占める芳香族ビニル化合物の共重合割合が40質量%以下にあるものであり」に訂正する。 訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2~4及び6~8も同様に訂正する。 (2)訂正事項2 訂正前の請求項1における「固形分中に占める芳香族ビニル化合物の共重合割合が40質量%以下にあるものであり、」との記載に続いて、 訂正後の請求項1において「グリコールエーテル化合物(C)が、 エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、トリエチレングリコールモノプロピルエーテル、トリプロピレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリプロピレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、トリプロピレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジプロピルエーテル、プロピレングリコールジプロピルエーテル、ジエチレングリコールジプロピルエーテル、ジプロピレングリコールジプロピルエーテル、トリエチレングリコールジプロピルエーテル、トリプロピレングリコールジプロピルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、プロピレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジプロピレングリコールジブチルエーテル、トリエチレングリコールジブチルエーテル、トリプロピレングリコールジブチルエーテル、2-エチルヘキシルジグリコール、並びにこれらの組み合わせからなる群から選択される化合物であり、」との記載を追加して訂正する。 訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2~4及び6~8も同様に訂正する。 (3)訂正事項3 訂正前の請求項1において「顔料分(B)が、着色顔料(b1)、薄片状体質顔料(b2)及び(b2)以外の体質顔料(b3)を含み」とあるのを、 訂正後の請求項1において「顔料分(B)が、着色顔料(b1)としての二酸化チタン、薄片状体質顔料(b2)としてのタルク、及び(b2)以外の体質顔料(b3)を含み」に訂正する。 訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2~4及び6~8も同様に訂正する。 (4)訂正事項4 訂正前の請求項5を削除する。 (5)訂正事項5 訂正前の請求項6において「請求項1ないし5のいずれか1項に記載の耐汚染性艶消し水性塗料組成物」とあるのを、 訂正後の請求項6において「請求項1ないし4のいずれか1項に記載の耐汚染性艶消し水性塗料組成物」に訂正する。 訂正前の請求項6を引用する請求項8も同様に訂正する。 (6)訂正事項6 訂正前の請求項7において「請求項1ないし5のいずれか1項に記載の耐汚染性艶消し水性塗料組成物」とあるのを、 訂正後の請求項7において「請求項1ないし4のいずれか1項に記載の耐汚染性艶消し水性塗料組成物」に訂正する。 訂正前の請求項7を引用する請求項8も同様に訂正する。 (7)訂正事項7 本件特許明細書の段落0054において「このようなグリコールエーテル化合物(C)の具体例としては、」との記載に続く化合物群から「テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメトキシエタン、ポリエチレンオキサイド、エチレングリコールモノメチルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート」を削除するとともに、同段落0085に記載の表3において「グリコールエーテル化合物」として記載されている「2-エチルヘキシルジグリコール」を前記化合物群に追記して訂正する。 2.訂正事項1~7の適否 (1)訂正事項1 訂正事項1は、訂正前の「水性樹脂(A)」の範囲を、本件特許明細書の段落0022の「本発明において水性樹脂(A)は、具体的には芳香族ビニル化合物、(メタ)アクリロイル基含有化合物、及びその他の重合性不飽和モノマーの共重合体を挙げることができる。」との記載、当該「その他の重合性不飽和モノマー」を用いた実施例4、並びに当該「その他の重合性不飽和モノマー」を用いていない実施例1~3及び5~8の記載に基づいて「芳香族ビニル化合物、(メタ)アクリロイル基含有化合物、及びその他の重合性不飽和モノマーの共重合体であるか、又は芳香族ビニル化合物及び(メタ)アクリロイル基含有化合物の共重合体」に限定するものであるから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内において「特許請求の範囲の減縮」を目的として訂正するものに該当する。 そして、訂正事項1は「特許請求の範囲の減縮」のみを目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。 さらに、請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2~4及び6~8も同様に訂正される。 したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当し、なおかつ、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。 (2)訂正事項2 訂正事項2は、訂正前の請求項1の「グリコールエーテル化合物(C)」の範囲を、本件特許明細書の段落0054及び0085の記載に基づいて「エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、トリエチレングリコールモノプロピルエーテル、トリプロピレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリプロピレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、トリプロピレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジプロピルエーテル、プロピレングリコールジプロピルエーテル、ジエチレングリコールジプロピルエーテル、ジプロピレングリコールジプロピルエーテル、トリエチレングリコールジプロピルエーテル、トリプロピレングリコールジプロピルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、プロピレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジプロピレングリコールジブチルエーテル、トリエチレングリコールジブチルエーテル、トリプロピレングリコールジブチルエーテル、2-エチルヘキシルジグリコール、並びにこれらの組み合わせからなる群から選択される化合物」に限定するものであるから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内において「特許請求の範囲の減縮」を目的として訂正するものに該当する。 そして、訂正事項2は「特許請求の範囲の減縮」のみを目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。 さらに、請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2~4及び6~8も同様に訂正される。 したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当し、なおかつ、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。 (3)訂正事項3 訂正事項3は、訂正前の「着色顔料(b1)、薄片状体質顔料(b2)」の範囲を、本件特許明細書の段落0039及び0040の「着色顔料(b1)は…酸化チタン、…薄片状体質顔料(b2)としては…タルク」との記載に基づいて「着色顔料(b1)としての二酸化チタン、薄片状体質顔料(b2)としてのタルク、」に限定するものであるから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内において「特許請求の範囲の減縮」を目的として訂正するものに該当する。 そして、訂正事項3は「特許請求の範囲の減縮」のみを目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。 さらに、請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2~4及び6~8も同様に訂正される。 したがって、訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当し、なおかつ、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。 (4)訂正事項4~6 訂正事項4は、訂正前の請求項5を削除するものであり、訂正事項5~6は、択一的引用記載から請求項5を削除するものであるから、いずれも願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内において「特許請求の範囲の減縮」を目的として訂正するものに該当する。 そして、訂正事項4~6は「特許請求の範囲の減縮」のみを目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。 さらに、請求項6~7を引用する請求項8も同様に訂正される。 したがって、訂正事項4~6は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当し、なおかつ、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。 (5)訂正事項7 訂正事項7は、本件特許明細書の段落0054の「グリコールエーテル化合物(C)の具体例」の一覧記載において、同段落0085に記載された実施例で使用されている「2-エチルヘキシルジグリコール」の具体例が脱漏している点を修正し、グリコールエーテル化合物に該当しない「テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメトキシエタン、ポリエチレンオキサイド、エチレングリコールモノメチルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート」を削除して是正するためのものであるから、いずれも願書に最初に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内において「誤記の訂正」を目的として訂正するものに該当する。 そして、訂正事項7は明細書の誤記を本来意図する内容に訂正するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。 したがって、訂正事項7は、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に掲げる「誤記又は誤訳の訂正」を目的とするものに該当し、なおかつ、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。 (7)一群の請求項について 訂正前の請求項1~8について、請求項2~8はいずれも直接又は間接的に請求項1を引用しているものであるから、訂正前の請求項1~8に対応する訂正後の請求項1~8は特許法第120条の5第4項に規定される一群の請求項である。 したがって、訂正事項1~6による本件訂正は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項に対してなされたものである。 また、訂正事項7の明細書の訂正に係る請求項は、訂正前の請求項1~8であるから、訂正事項7と関係する一群の請求項が請求の対象とされている。 したがって、訂正事項7による本件訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第4項に適合するものである。 3.訂正の適否のまとめ 以上総括するに、訂正事項1~7による本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第2号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1~8〕について訂正を認める。 第3 本件発明 本件訂正により訂正された請求項1~8に係る発明(以下「本1発明」~「本8発明」ともいう。)は、その特許請求の範囲の請求項1~8に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 「【請求項1】水性樹脂(A)、顔料分(B)及びグリコールエーテル化合物(C)を含む水性塗料組成物であって、 水性樹脂(A)が、樹脂のガラス転移温度が10℃以上にあり、且つ水性樹脂(A)が、芳香族ビニル化合物、(メタ)アクリロイル基含有化合物、及びその他の重合性不飽和モノマーの共重合体であるか、又は芳香族ビニル化合物及び(メタ)アクリロイル基含有化合物の共重合体であって、固形分中に占める芳香族ビニル化合物の共重合割合が40質量%以下にあるものであり、 グリコールエーテル化合物(C)が、 エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、トリエチレングリコールモノプロピルエーテル、トリプロピレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリプロピレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、トリプロピレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジプロピルエーテル、プロピレングリコールジプロピルエーテル、ジエチレングリコールジプロピルエーテル、ジプロピレングリコールジプロピルエーテル、トリエチレングリコールジプロピルエーテル、トリプロピレングリコールジプロピルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、プロピレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジプロピレングリコールジブチルエーテル、トリエチレングリコールジブチルエーテル、トリプロピレングリコールジブチルエーテル、2-エチルヘキシルジグリコール、並びにこれらの組み合わせからなる群から選択される化合物であり、 顔料分(B)が、着色顔料(b1)としての二酸化チタン、薄片状体質顔料(b2)としてのタルク、及び(b2)以外の体質顔料(b3)を含み、 着色顔料(b1)、薄片状体質顔料(b2)、体質顔料(b3)及びグリコールエーテル化合物(C)の含有量が、水性樹脂(A)の固形分100質量部を基準として (b1)が5質量部以上、 (b2)が60~200質量部、 (b3)が20質量部以上、 (C)が5~25質量部の範囲内にあり、顔料体積濃度が35%以上にあることを特徴とする耐汚染性艶消し水性塗料組成物。 【請求項2】水性樹脂(A)が加水分解性シリル基を有することを特徴とする請求項1に記載の耐汚染性艶消し水性塗料組成物。 【請求項3】顔料分(B)に対する吸油量の合計量が、水性樹脂(A)の固形分100質量部あたり80ml以下にある請求項1または2に記載の耐汚染性艶消し水性塗料組成物。 【請求項4】光安定化剤を更に含む請求項1ないし3のいずれか1項に記載の耐汚染性艶消し水性塗料組成物。 【請求項5】(削除) 【請求項6】基材面に、請求項1ないし4のいずれか1項に記載の耐汚染性艶消し水性塗料組成物を塗装することを特徴とする耐汚染性艶消し塗膜形成方法。 【請求項7】基材面に、形成塗膜の伸び率が50%以上にある下塗り塗料を塗装した後、請求項1ないし4のいずれか1項に記載の耐汚染性艶消し水性塗料組成物を上塗り塗装することを特徴とする耐汚染性艶消し塗膜形成方法。 【請求項8】請求項6または7に記載の方法により得られる塗装物品。」 第4 取消理由の概要 訂正前の請求項1~8に係る発明の特許に対して令和元年7月17日付けの取消理由通知(決定の予告)で特許権者に通知した取消理由の概要は次のとおりである。 〔理由1〕本件特許の請求項1~8に係る発明は、本件出願日前に日本国内又は外国において頒布された以下の刊行物に記載された発明に基いて、本件出願日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 甲第1号証:特開2004-217897号公報(甲1) 甲第2号証:室井宗一著、「建築塗料における高分子ラテックスの応用」、株式会社工文社、第1版第1刷、昭和58年4月15日発行、53~54頁、99頁、178~179頁 甲第3号証:特開平10-219193号公報 甲第4号証:特開2005-320496号公報 甲第5号証:特開平11-227082号公報 甲第6号証:特開2001-187867号公報 甲第7号証:特開2010-65098号公報 参考文献A:特開2009-67870号公報 参考文献B:特公昭60-38424号公報 参考文献C:特公昭54-7297号公報 参考文献D:特開2006-159079号公報 参考文献E:特開2013-82809号公報 参考文献F:特開平11-116859号公報 よって、本件特許の請求項1~8に係る発明に係る特許は、同法第29条の規定に違反してなされたものであり、同法第113条第1項第2号の規定により取り消されるべきものである。 〔理由2〕本件特許の請求項1~8に係る発明は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に適合するものではない。 2.(3)訂正後のグリコールエーテル化合物(C)の点 2.(4)訂正後の水性樹脂(A)の共重合体の点 よって、本件特許の請求項1~8に係る発明に係る特許は、同法第36条第6項の規定を満たさない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第1項第4号の規定により取り消されるべきものである。 〔理由3〕本件特許の請求項1~8に係る発明は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に適合するものではない。 3.(1)芳香族ビニル化合物の共重合割合の点 3.(2)着色顔料(b1)と薄片状体質顔料(b2)の点 よって、本件特許の請求項1~8に係る発明に係る特許は、同法第36条第6項の規定を満たさない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第1項第4号の規定により取り消されるべきものである。 第5 当審の判断 1.理由1(進歩性)について (1)甲第1~7号証及び参考文献A~Fの記載事項 甲第1号証には、次の記載がある。 摘記1a:請求項1 「【請求項1】合成樹脂エマルション、水分散型撥水剤、及び無機質顔料を含有する水性塗料組成物であって、 合成樹脂エマルションの固形分100重量部に対し、水分散型撥水剤を固形分で1~100重量部含み、 顔料容積濃度が30~90%であり、 無機質顔料として、平均粒子径0.1~1μm、白色度95以上の白色顔料、及び平均粒子径0.1~200μm、白色度80以上95未満の体質顔料を含み、白色顔料と体質顔料の体積比率が1:5~1:50である ことを特徴とする水性塗料組成物。」 摘記1b:段落0007、0014~0015、0018及び0022 「【0007】これらの課題を解決するため本発明者は鋭意検討を行い、合成樹脂エマルション、水分散型撥水剤、及び無機質顔料を必須成分とし、無機質顔料として、特定の物性を有するものを複数種併用することにより、消石灰を使用しなくても漆喰調の外観を表出することができ、耐水性、割れ防止性、剥離防止性等の塗膜物性にも優れる水性塗料組成物が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。… 【0014】…本発明の水性塗料組成物は、(a)合成樹脂エマルション(以下「(a)成分」という)、(b)水分散型撥水剤(以下「(b)成分」という)、及び(c)無機質顔料(以下「(c)成分」という)を含有するものである。 【0015】このうち(a)成分は、本発明組成物のバインダーとして機能するものである。具体的に(a)成分としては、例えば、酢酸ビニル樹脂エマルション、塩化ビニル樹脂エマルション、エポキシ樹脂エマルション、アクリル樹脂エマルション、ウレタン樹脂エマルション、アクリルシリコン樹脂エマルション、フッ素樹脂エマルション等、あるいはこれらの複合系等を挙げることができる。これらは1種または2種以上で使用することができる。… 【0018】(a)成分のガラス転移温度(以下「Tg」という)は通常-30~60℃、好ましくは-10~40℃に設定する。Tgが-30℃より低い場合は、塗膜表面に汚染物質が付着しやすくなる。Tgが60℃より高い場合は、塗膜に割れが発生しやすくなる。… 【0022】上述のエポキシ基含有モノマー、カルボキシル基含有モノマーと共重合可能なモノマーとしては、例えば、…ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ-(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、γ-(メタ)アクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン等のアルコキシシリル基含有モノマー;…等が挙げられる。」 摘記1c:段落0033 「【0033】本発明における(c)成分は、形成塗膜における顔料容積濃度が30~90%、好ましくは50~80%、より好ましくは55~75%となるように配合する。このような顔料容積濃度であれば、漆喰調の質感を表出することが可能となる。また、耐汚染性と割れ防止性のバランスに優れた塗膜を形成することができる。顔料容積濃度が30%より小さい場合は、肉厚感が得られ難く、また塗膜の耐汚染性が低下する傾向となる。顔料容積濃度が90%より大きい場合は、塗膜に割れが発生しやすくなる。」 摘記1d:段落0037~0038 「【0037】本発明組成物においては、上述の成分の他に、通常塗料に使用可能な成分を含むこともできる。このような成分としては、例えば、有機質顔料、染料、骨材、繊維、増粘剤、造膜助剤、レベリング剤、湿潤剤、可塑剤、凍結防止剤、pH調整剤、防腐剤、防黴剤、防藻剤、抗菌剤、分散剤、消泡剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、触媒、架橋剤等が使用可能である。 【0038】本発明の水性塗料組成物は、建築物内外壁や土木構築物等の基材表面に対して塗装することができる。適用可能な基材としては、例えば、コンクリート、モルタル、磁器タイル、繊維混入セメント板、セメント珪酸カルシウム板、スラグセメントパーライト板、石綿セメント板、ALC板、サイディング板、押出成形板、石膏ボード、合板、鋼板、プラスチック板等が挙げられる。これら基材の表面は、何らかの表面処理(例えば、シーラー、サーフェーサー、フィラー等)が施されたものでもよく、既に塗膜が形成されたものや、既に壁紙が貼り付けられたもの等であってもよい。」 摘記1e:段落0063~0065及び0071 「【0063】 [塗料の製造] ・配合例1 樹脂A200重量部に対し、撥水剤8重量部、白色顔料36重量部、体質顔料A74重量部、体質顔料B184重量部、体質顔料C110重量部、造膜助剤24重量部、分散剤10重量部、繊維22重量部、消泡剤4重量部を常法により混合・攪拌することによって塗料を製造した。 ・配合例2~7 表1に示す配合に従い、配合例1と同様にして塗料を製造した。 なお、原料としては下記のものを使用した。 【0064】 ・樹脂A:アクリル樹脂エマルション(メチルメタクリレート-スチレン-2-エチルヘキシルアクリレート-メタクリル酸共重合体、固形分50重量%、Tg5℃) ・樹脂B:コアシェル型アクリル樹脂エマルション(メチルメタクリレート-スチレン-2-エチルヘキシルアクリレート-グリシジルメタクリレート-メタクリル酸共重合体、固形分50重量%、トータルTg5℃、コアTg-20℃、シェルTg25℃) ・樹脂C:コアシェル型アクリル樹脂エマルション(メチルメタクリレート-スチレン-2-エチルヘキシルアクリレート-グリシジルメタクリレート-メタクリル酸-4-メタクリロイルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン共重合体、固形分50重量%、トータルTg5℃、コアTg-20℃、シェルTg25℃) ・撥水剤:水分散型撥水剤(アミノ基含有ジメチルシロキサン化合物の乳化分散体、固形分50重量%) ・白色顔料:ルチル型酸化チタン(平均粒子径0.2μm、白色度97) ・体質顔料A:タルク(平均粒子径8μm、白色度93) ・体質顔料B:珪石粉(平均粒子径60μm、白色度90) ・体質顔料C:炭酸カルシウム(平均粒子径60μm、白色度89) ・体質顔料D:珪藻土(平均粒子径30μm、白色度88) ・光触媒:アナターゼ型酸化チタン(平均粒子径0.02μm) ・造膜助剤:2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールモノイソブチレート ・分散剤:ポリカルボン酸系分散剤(固形分30重量%) ・繊維:パルプ繊維(平均繊維長0.1mm) ・増粘剤:ヒドロキシエチルセルロース3重量%水溶液 ・消泡剤:鉱物油系消泡剤 【0065】【表1】 … 【0071】【表2】 」 甲第2号証には、次の記載がある。 摘記2a:;第99頁第9~12行 「1.1 体質顔料のはたらき 体質顔料(extender)は,ラテックス塗料において,…塗膜をツヤ消しにする.」 甲第3号証には、次の記載がある。 摘記3a:0045及び0048~0051 「【0045】ところで、当該有機溶剤(C)とは、本発明に係る架橋性水性塗料組成物において、乳化重合体(A)の粒子内と、水相とに分配せしめ、該乳化重合体(A)の造膜性を向上させると共に、粒子表面を膨潤させて、架橋剤との架橋反応を促進せしめ、さらに、水と混合して得られる塗料の表面張力を低下せしめて、顔料の分散性や、塗料の基材に対する濡れなどを向上し、ひいては、塗装作業性ならびに基材付着性などを向上せしめることの出来る、必須の構成成分である。… 【0048】後者の沸点の方は、常圧において、約130~約220℃なる範囲内にあるということが、是非とも必要となる。この沸点が約130℃未満のものの場合には、どうしても、塗膜の乾燥過程で以て、主溶剤たる水と共に揮散し易く、ひいては、塗料の造膜性などが劣るというようになるばかりか、平滑なる塗膜表面が得られ難くなるので、いずれの場合も好ましくない。 【0049】一方、沸点が約220℃を超えて余りにも高くなる場合には、どうしても、塗膜を形成したのちにおいても、塗膜中に、溶剤が残存し易くなり、ひいては、塗膜の軟化に伴う塗膜汚染性や耐水性の低下などが生じ易くなるので、いずれの場合も好ましくない。 【0050】かくして、使用できる有機溶剤として特に代表的なもののみを挙げるにとどめれば、3-メトキシブタノール、3-メトキシ-3-メチルブタノール、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノ(n-ないしはi-)プロピルエーテル、エチレングリコールモノ(n-、i-ないしはtert-)ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノ(n-、またはi-)プロピルエーテル、プロピレングリコールモノ(n-、i-ないしはtert-)ブチルエーテル、 【0051】ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドンまたはエチレングリコールメチルエーテルアセテートなどであるが、本発明は、決して、これらの例示例のみに限定されるものではない。」 甲第4号証には、次の記載がある。 摘記4a:請求項8 「【請求項8】基材に対し、形成塗膜の伸び率が50%以上である下塗材を塗付した後、上塗材として請求項1~7のいずれかに記載の水性塗料組成物を塗付することを特徴とする塗膜形成方法。」 摘記4b:段落0033~0034及び0058 「【0033】(c-1)成分としては、平均粒子径とモース硬度が所定の範囲内であれば特に限定されず、公知の無機質粉体を使用することができる。このような(c-1)成分としては、例えば、タルク、ろう石、珪藻土、クレー、カオリン、焼成クレー、マイカ、酸化鉄、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化亜鉛、ドロマイト、酸化チタン等が挙げられる。この中でも、タルク、クレー、カオリン、マイカ等の鱗片状無機質粉体は、下地への追従性の点で好適である。 【0034】(c-1)成分の吸油量は、通常200ml/100g以下、好ましくは150ml/100g以下、より好ましくは100ml/100g、さらに好ましくは80ml/100g以下である。(c-1)成分の吸油量が大きすぎる場合は、下地への追従性が不十分となるおそれがある。… 【0058】本発明組成物の塗付前には、何らかの下塗材を塗付することもできる。この場合、下塗材としては、形成塗膜の伸び率が50%以上(好ましくは100%以上、より好ましくは150%以上)である下塗材が好適である。このような下塗材を使用することにより、基材への密着性、エフロレッセンス防止効果等において十分な性能を確保することができる。さらに、本発明組成物は、このような弾性下塗材に対しても十分な追従性を発揮することができる。なお、本発明における伸び率は、JISA6909:20037.29「伸び試験」の「20℃時の伸び試験」によって測定される値である。」 甲第5号証には、次の記載がある。 摘記5a:段落0007 「【0007】また、熱分解型発泡剤およびマイクロカプセル型発泡剤を、前記水性エマルジョン樹脂100重量部に対して、それぞれ5~25重量部、0.5~3重量部含有していることを特徴とするものである。こうすることで、発泡樹脂層が発泡倍率の高いボリューム感のある層となり、しかもマイクロカプセル型発泡剤の添加量が少ないため、発泡樹脂層の上面に形成される凹凸形状がなだらかになり、艶消し(しっくい感)の意匠性を創出し、エンボス性にも優れた高意匠性の化粧材となる。」 甲第6号証には、次の記載がある。 摘記6a:段落0001 「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、各種建築物の壁や天井などの内装若しくは外装の化粧塗装に適した水性塗料に関する。より詳細には、本発明は、水性塗料として要求される各種の塗料性能並びに塗膜物性を充足するとともに、漆喰特有の落ち着いた艶消しの質感を有し且つ調湿機能のある塗膜を形成する塗料に関する。さらに本発明は該塗料組成物を塗布してなる塗装物に関する。」 甲第7号証には、次の記載がある。 摘記7a:段落0017 「【0017】(A)成分のガラス転移温度(以下「Tg」という)は0~80℃であり、好ましくは10~60℃、より好ましくは20~50℃である。Tgが0℃よりも低い場合は、被膜の硬度が不十分となり、耐摩耗性等においても満足な物性が得られ難くなる。Tgが80℃よりも高い場合は、造膜性、耐割れ性等において安定した性能を確保することが困難となる。(A)成分のTgをこのような範囲内にするには、上述のモノマー成分の種類及び比率を適宜設定すればよい。なお、TgはFOXの計算式より求められる値である。」 参考文献Aには、次の記載がある。 摘記A1:段落0006 「【0006】本発明の目的は、多彩模様塗料としての意匠性、質感、鮮映性を損なうことなく下地への追随性と耐汚染性に優れた多彩模様塗膜を形成するのに適する水性多彩模様塗料を提供することにある。」 摘記A2:段落0027及び0031 「【0027】本発明において、上記カルボニル基含有共重合体(A)は、モノマー(a)、(b)及び(c)以外のその他の重合性不飽和モノマー(d)を必要に応じて共重合してもよい。そのようなその他の重合性不飽和モノマーの具体例としては、…スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエンなどのビニル芳香族化合物…等を挙げることができ、単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。… 【0031】また、上記カルボニル基含有共重合体(A)の製造において、モノマー(a)、(b)、(c)及び(d)の好適な共重合割合としては、…モノマー(d)が、0~69.9質量%、好ましくは0~39質量%であることが、最終的に形成される塗膜の仕上がり性が良好であり、耐汚染性、耐水性、耐候性などの塗膜物性をバランスよく発揮することができ、適している。」 摘記A3:段落0034~0035、0057、0088及び0092 「【0034】…使用可能な親水性有機溶剤としては、…ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル系有機溶剤;エチレングリコールモノメチルエーテル…等のエチレングリコールエーテル系有機溶剤;…プロピレングリコールモノエチルエーテル…等のプロピレングリコールエーテル系有機溶剤…等が挙げられ、…特に、プロピレングリコールエーテル系有機溶剤を使用すると…水性多彩模様塗料の貯蔵安定性、形成塗膜の耐水性、耐候性の点から適している。 【0035】 上記の通り得られるカルボニル基含有共重合体(A)の重量平均分子量としては1000~50000、特に1000~30000の範囲内であると、本発明の水性多彩模様塗料から形成される塗膜の表層にカルボニル基含有共重合体(A)が配向することができ、塗膜表面が親水化されるので、効率よく耐汚染性を発揮することができるとともに多彩模様塗膜に適度な柔軟性を与え下地追随性を向上させることができる… 【0057】上記水性塗料組成物は、さらに、必要に応じて、バルーン粒子等の比重調整材、消泡剤、硬化触媒、顔料分散剤、芳香剤、脱臭剤、抗菌剤、中和剤、界面活性剤、水性撥水剤、分散剤、防腐剤、防カビ剤、凍結防止剤、紫外線吸収剤、光安定化剤、造膜助剤、亜鉛ウィスカ、ホルムアルデヒド吸着剤、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、水酸化アルミニウム等の難燃化剤などを含有することができる。… 【0088】本発明の水性多彩模様塗料を適用することができる基材表面としては、例えば、石膏ボード、コンクリート壁、モルタル壁、スレート板…等の基材の表面…などを挙げることができる。… 【0092】本発明の水性多彩模様塗料は、例えば、保護塗膜用として、基材表面に、予め下塗り塗料を塗装した後、形成される下塗り塗面上に本発明の水性多彩模様塗料を塗装することができる。」 参考文献Bには、次の記載がある。 摘記B1:第3欄第21~28行及び第4欄第19~25行 「本発明者らは、下地の亀裂の伸縮によく追随することができ、長時間にわたつて完全な防水性能を発揮しうる塗膜を形成する塗料組成物を開発すべく鋭意研究を重ねた結果、…本発明をなすに至つた。… この(b)成分としてはスチレン及び前記したメタクリル酸アルキルエステルの中の少なくとも1種を12~40重量%の範囲で用いることが必要であり、この量が12重量%未満では形成される皮膜の強じん性が小さくなるし、また40重量%を超えると柔軟性が失われる上に、耐水性、耐アルカリ性も低下する。」 摘記B2:第5欄第17~23行 「次に粉粒状無機質充てん材としては、例えば炭酸カルシウム、バライト粉、硫酸バリウム、炭酸バリウム、炭酸石灰粉、クレー、シリカ、アルミナ、パーライト、酸化チタン、酸化鉄などがあり、繊維状又はリン片状無機質充てん材としては、例えばアスベスト、ロツクウール、綿タルク、マイカなどがある。」 参考文献Cには、次の記載がある。 摘記C1:第3欄第36~42行 「用いられる体質顔料には扁平粒子状タルクは不可欠であり、その含有率は全体質顔料中の重量比で50~100、好ましくは60から90%がよい。ここでタルク粒子は扁平状であるため膜面方向に平行に累積し、塗膜の膜面方向の収縮、膨張を拘束するので球形粒子よりも付着により良い影響を与える。」 参考文献Dには、次の記載がある。 摘記D1:段落0024 「【0024】…該体質顔料(C)としては、例えばタルク、炭酸カルシウム、シリカ、硫酸バリウム、クレ-、マイカなどの体質顔料が挙げられ、これらは単独でまたは2種以上併用して用いることができる。これらのうち特に薄片板状のタルク、シリカ、マイカなどが好適に使用できる。」 摘記D2:段落0030及び0036 「【0030】上記耐候性助剤(D)の配合量は目的に応じて任意に選択できるが、組成物中の樹脂固形分100重量部に対して、紫外線吸収剤が0.1~10重量部、好ましくは0.5~5重量部、光安定剤が0.1~5重量部、好ましくは0.3~3重量部が適当である。… 【0036】被塗物面としては、例えば、建物外壁、橋脚、トンネル内面、ガードレール、電柱、電話ボックス等の屋外構造物の表面(素材面や塗膜面等);二輪、四輪などの自動車車両、鉄道車両、飛行機、鋼製家具、建材、家電製品、厨房機器等の工業製品の表面(素材面や塗膜面等)などが挙げられる。」 参考文献Eには、次の記載がある。 摘記E1:段落0001及び0084~0085 「【0001】…本発明の塗料用水性樹脂組成物は、例えば、無機質建材をはじめ建築物の外壁などを塗装する際に好適に使用することができる。… 【0084】本発明の塗料用水性樹脂組成物には、必要により、成膜助剤を含有させてもよい。成膜助剤としては、例えば、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールモノイソブチレート、ブチルセロソルブ、ブチルカルビトールアセテート、2-エチルヘキシルジグリコール、プロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコール、n-プロピルエーテル、プロピレングリコールn-ブチルエーテル、ジプロピレングリコールn-ブチルエーテル、トリプロピレングリコールn-ブチルエーテル、3-メチル-3-メトキシブタノール、3-メチル-3-メトキシブチルアセテートなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの成膜助剤は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。 【0085】樹脂エマルションの不揮発分100質量部あたりの成膜助剤の量は、成膜性を向上させる観点から、好ましくは1質量部以上、より好ましくは5質量部以上であり、耐ブロッキング性を向上させる観点から、好ましくは100質量部以下、より好ましくは50質量部以下である。」 摘記E2:段落0088 「【0088】無機顔料としては、例えば、二酸化チタン、赤色酸化鉄、黒色酸化鉄、酸化鉄、酸化クロムグリーン、カーボンブラック、フェロシアン化第二鉄(プルシアンブルー)、ウルトラマリン、クロム酸鉛などをはじめ、雲母(マイカ)、クレー、アルミニウム粉末、タルク、ケイ酸アルミニウムなどの扁平形状を有する顔料、炭酸カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、硫酸バリウム、炭酸マグネシウムなどの体質顔料などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの無機顔料は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。顔料のなかでは、耐候性を向上させる観点から、二酸化チタンがより好ましい。」 参考文献Fには、次の記載がある。 摘記F1:段落0001及び0004 「【0001…本発明の組成物は、建築内・外部、屋根、乾式建材、車両、橋梁、船舶、家電、家具、木工などの塗装に適用可能である。… 【0004】…本発明者らは、上記問題を解決すべく鋭意検討した結果、模様をつなぐ連続部分を形成する成分として水性樹脂を配合することによって、形成膜の耐水性、水浸漬時の耐白化性、耐候性に優れた多彩模様塗料組成物が得られることを見出し本発明に到達した。」 摘記F2:段落0010及び0013 「【0010】上記アクリル系共重合体(A-1)は、上記アクリル系モノマ-を少なくとも20重量%以上、好ましくは50重量%以上含有するモノマ-混合物を共重合してなるものであり、特に耐候性、耐水性の点からスチレン0~50重量%、好ましくは10~30重量%、アクリル系モノマ-20~100重量%、好ましくは50~90重量%、及びその他のモノマ-0~80重量%、好ましくは0~40重量%を含有するモノマ-混合物を共重合したものが好適である。… 【0013】またアクリル系共重合体(A-1)は、ガラス転移温度(Tg)が0~80℃、好ましくは10~60℃であることが望ましく、該Tgが0℃未満ではエナメル分散粒子の安定性や塗膜の耐水性が低下し、また汚れやすくなり、一方80℃を越えると造膜性が低下し塗膜が脆くなるので好ましくない。」 摘記F3:段落0015、0023、0043及び0048 「【0015】架橋性官能基含有モノマ-としては、例えば…ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ-(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロイルオキシプロピルジメトキシメチルシランなどのアルコキシシリル基含有モノマ-;…などが挙げられ、これらは1種又は2種以上適宜選択して使用できる。… 【0023】また共重合体(A-2)及び(A-3)は、ガラス転移温度(Tg)が-10~80℃、好ましくは5~60℃であることが望ましく、該Tgが-10℃未満ではエナメル分散粒子の安定性や塗膜の耐水性が低下し、また汚れやすくなり、一方80℃を越えると造膜性が低下し塗膜が脆くなるので好ましくない。… 【0043】上記水系分散媒には、さらに必要に応じて電解質(塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム等)、湿潤剤、造膜助剤、凍結防止剤、消泡剤、染料などを分散粒子の安定性等を損なわない程度に適宜添加してもよい。… 【0048】該水性樹脂(D)としては、従来公知の水性樹脂が使用可能であるが、耐候性、耐水性に優れたアクリル系エマルション、フッ素系エマルション及びシリコン系エマルションから選ばれる少なくとも1種以上であることが望ましく、特に水浸漬時の耐白化性の点からは、アルコキシシリル基を導入してなるシリコン系エマルションが好適である。」 摘記F4:段落0067 「【0067】【表1】 」 (2)甲第1号証の刊行物に記載された発明 摘記1cの「形成塗膜における顔料容積濃度が30~90%…であれば、漆喰調の質感を表出することが可能となる。また、耐汚染性と割れ防止性のバランスに優れた塗膜を形成することができる。」との記載、 摘記1dの「本発明の水性塗料組成物は、建築物内外壁や土木構築物等の基材表面に対して塗装することができる。」との記載、並びに 摘記1eの「樹脂A200重量部に対し、撥水剤8重量部、白色顔料36重量部、体質顔料A74重量部、体質顔料B184重量部、体質顔料C110重量部、造膜助剤24重量部、分散剤10重量部、繊維22重量部、消泡剤4重量部を常法により混合・攪拌することによって塗料を製造した。…なお、原料としては下記のものを使用した。…樹脂A:アクリル樹脂エマルション(メチルメタクリレート-スチレン-2-エチルヘキシルアクリレート-メタクリル酸共重合体、固形分50重量%、Tg5℃)…白色顔料:ルチル型酸化チタン…体質顔料A:タルク…体質顔料B:珪石粉…体質顔料C:炭酸カルシウム…造膜助剤:2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールモノイソブチレート」との記載、及び 表1の「顔料容積濃度(%)…60」との記載からみて、甲1の刊行物には、 『樹脂A:アクリル樹脂エマルション(メチルメタクリレート-スチレン-2-エチルヘキシルアクリレート-メタクリル酸共重合体、固形分50重量%、Tg5℃)200重量部に対し、白色顔料(ルチル型酸化チタン)36重量部、体質顔料A(タルク)74重量部、体質顔料B(珪石粉)184重量部、体質顔料C(炭酸カルシウム)110重量部、及び造膜助剤(2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールモノイソブチレート)24重量部を配合してなる、形成塗膜における顔料容積濃度が60%であることで、漆喰調の質感を表出することができ、耐汚染性と割れ防止性のバランスに優れた塗膜を形成することができる水性塗料組成物。』についての発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているといえる。 (3)対比 ア.本1発明と甲1発明とを対比する。 イ.甲1発明の「樹脂A:アクリル樹脂エマルション(メチルメタクリレート-スチレン-2-エチルヘキシルアクリレート-メタクリル酸共重合体、固形分50重量%、Tg5℃)200重量部」は、 水性の塗料組成物を形成するための「エマルション」であって、本件特許明細書の段落0014の「水性樹脂(A)は…水分散性であってもよく、…アクリル系樹脂…等が挙げられ」との記載にある「水分散性」の「アクリル系樹脂」に該当するところ、当該「樹脂A」が「水性」の性質を有することは自明であり、 その「200重量部」は「固形分50重量%」での重量部であり、 その「メチルメタクリレート-スチレン-2-エチルヘキシルアクリレート-メタクリル酸共重合体」という共重合体は、その共重合成分である「スチレン」が「芳香族ビニル化合物」に該当し、その共重合成分である「メチルメタクリレート」と「2-エチルヘキシルアクリレート」と「メタクリル酸」が「(メタ)アクリロイル基含有化合物」に該当し、その「メチルメタクリレート-スチレン-2-エチルヘキシルアクリレート-メタクリル酸共重合体」は「芳香族ビニル化合物、(メタ)アクリロイル基含有化合物、及びその他の重合性不飽和モノマーの共重合体であるか、又は芳香族ビニル化合物及び(メタ)アクリロイル基含有化合物の共重合体」に該当するから、 本1発明の「水性樹脂(A)」及び「水性樹脂(A)の固形分100質量部」並びに「水性樹脂(A)が、芳香族ビニル化合物、(メタ)アクリロイル基含有化合物、及びその他の重合性不飽和モノマーの共重合体であるか、又は芳香族ビニル化合物及び(メタ)アクリロイル基含有化合物の共重合体」に相当する。 ウ.甲1発明の「白色顔料(ルチル型酸化チタン)36重量部」は、 白色に着色するための「白色顔料」であるから、本1発明の「着色顔料(b1)としての二酸化チタン」及び「(b1)が5質量部以上」に相当し、 甲1発明の「体質顔料A(タルク)74重量部」は、摘記4bの「タルク…等の鱗片状無機質粉体は、下地への追従性の点で好適」との記載、摘記B2の「リン片状無機質充てん材としては、例えば…綿タルク、マイカなど」との記載、摘記C1の「体質顔料…タルク粒子は扁平状である」との記載、摘記D1の「体質顔料(C)としては…特に薄片板状のタルク…が好適に使用できる」との記載、及び摘記E2の「タルク…などの扁平形状を有する顔料」との記載にあるように、当該「タルク」は「薄片状」の「体質顔料」として普通に認識されていることから、本1発明の「薄片状体質顔料(b2)としてのタルク」及び「(b2)が60~200質量部」に相当し、 甲1発明の「体質顔料B(珪石粉)184重量部」及び「体質顔料C(炭酸カルシウム)110重量部」は、体質顔料A(タルク)以外の体質顔料であり、かつ、薄片状体質顔料でもないから、本1発明の「(b2)以外の体質顔料(b3)」及び「(b3)が20質量部以上」に相当する。 エ.甲1発明の「白色顔料(ルチル型酸化チタン)36重量部、体質顔料A(タルク)74重量部、体質顔料B(珪石粉)184重量部、体質顔料C(炭酸カルシウム)110重量部」は、 本1発明の「着色顔料(b1)としての二酸化チタン、薄片状体質顔料(b2)としてのタルク、及び(b2)以外の体質顔料(b3)を含」む「顔料分(B)」に相当する。 オ.甲1発明の「形成塗膜における顔料容積濃度が60%であることで、漆喰調の質感を表出することができ、耐汚染性と割れ防止性のバランスに優れた塗膜を形成することができる水性塗料組成物」は、 摘記5aの「艶消し(しっくい感)の意匠性」との記載、及び摘記6aの「漆喰特有の落ち着いた艶消しの質感」との記載にあるように、甲1発明の「漆喰調の質感」の中に「艶消しの質感」が含まれることは自明であって、摘記2aの「体質顔料…塗膜をツヤ消しにする」との記載、及び本件特許明細書の段落0049の「顔料体積濃度が35%未満では艶消し塗膜の艶消し感…が不十分となり」との記載をも参酌するに、多量の「体質顔料」を用い、顔料容積濃度(PVC)が60%である甲1発明の「水性塗料組成物」によって形成される塗膜が「ツヤ消し」の質感にあることも自明であるから、 本1発明の「顔料体積濃度が35%以上」にある「耐汚染性艶消し水性塗料組成物」に相当する。 カ.甲1発明の「造膜助剤(2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールモノイソブチレート)24重量部」と、本1発明の「グリコールエーテル化合物(C)」について、検討する。 摘記E1の「成膜助剤としては、例えば、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールモノイソブチレート、…2-エチルヘキシルジグリコール、…トリプロピレングリコールn-ブチルエーテル…などが挙げられる」との記載によれば、本件特許明細書の段落0085の表3の実施例3で用いられている「2-エチルヘキシルジグリコール」及び実施例1~2及び4~9で用いられている「トリプロピレングリコールn-ブチルエーテル」という「グリコールエーテル化合物」は、甲1発明の「2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールモノイソブチレート」と同等の有用性を示す「造膜助剤」として周知慣用のものである(なお、甲第2号証の第55頁には「成膜助剤…成膜性を改良する目的で添加される」との記載があるところ、甲1発明の「造膜助剤」は「造膜性を向上させる目的で添加される剤」を意味するものとして普通に認識される。)。 また、本件特許明細書の段落0053の「該グリコールエーテル化合物(C)を含むことにより、造膜性を向上させ、下地追従性を向上させるという効果がある。」との記載にあるように、本1発明の「グリコールエーテル化合物(C)」は「造膜性を向上」させるための成分として使用されているものである。 したがって、甲1発明の「造膜助剤(2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールモノイソブチレート)24重量部」は、本1発明の「グリコールエーテル化合物(C)」と「造膜性を向上させる化合物(C)」という点において共通し、本1発明の「(C)が5~25質量部の範囲内」に相当する。 キ.してみると、本1発明と甲1発明は、両者とも『水性樹脂(A)、顔料分(B)及び造膜性を向上させる化合物(C)を含む水性塗料組成物であって、 水性樹脂(A)が、芳香族ビニル化合物、(メタ)アクリロイル基含有化合物、及びその他の重合性不飽和モノマーの共重合体であるか、又は芳香族ビニル化合物及び(メタ)アクリロイル基含有化合物の共重合体であって、 顔料分(B)が、着色顔料(b1)としての二酸化チタン、薄片状体質顔料(b2)としてのタルク、及び(b2)以外の体質顔料(b3)を含み、 着色顔料(b1)、薄片状体質顔料(b2)、体質顔料(b3)及び造膜性を向上させる化合物(C)の含有量が、水性樹脂(A)の固形分100質量部を基準として (b1)が5質量部以上、 (b2)が60~200質量部、 (b3)が20質量部以上、 (C)が5~25質量部の範囲内にあり、顔料体積濃度が35%以上にある耐汚染性艶消し水性塗料組成物。』という点において一致し、次の〔相違点α〕及び〔相違点β〕の2つの点において相違する。 〔相違点α〕造膜性を向上させる化合物(C)が、本1発明においては「グリコールエーテル化合物(C)」であって「グリコールエーテル化合物(C)が、エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、トリエチレングリコールモノプロピルエーテル、トリプロピレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリプロピレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、トリプロピレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジプロピルエーテル、プロピレングリコールジプロピルエーテル、ジエチレングリコールジプロピルエーテル、ジプロピレングリコールジプロピルエーテル、トリエチレングリコールジプロピルエーテル、トリプロピレングリコールジプロピルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、プロピレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジプロピレングリコールジブチルエーテル、トリエチレングリコールジブチルエーテル、トリプロピレングリコールジブチルエーテル、2-エチルヘキシルジグリコール、並びにこれらの組み合わせからなる群から選択される化合物」であるのに対して、甲1発明においては「2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールモノイソブチレート」である点(なお、理解を容易にするため、甲第3号証や参考文献A及びEなどに記載のあるものの一部などの選択肢に下線を付した。)。 〔相違点β〕水性樹脂(A)が、本1発明においては「樹脂のガラス転移温度が10℃以上にあり、且つ…固形分中に占める芳香族ビニル化合物の共重合割合が40質量%以下にあるもの」であるのに対して、甲1発明においては「Tg5℃」の「メチルメタクリレート-スチレン-2-エチルヘキシルアクリレート-メタクリル酸共重合体」であって、その芳香族ビニル化合物(スチレン)の共重合割合が不明である点。 (4)判断 ア.相違点αについて 甲1発明は、甲第1号証の段落0007(摘記1b)の「漆喰調の外観を表出することができ、耐水性、割れ防止性、剥離防止性等の塗膜物性にも優れる水性塗料組成物が得られる」との記載にあるように「耐水性」や「塗膜物性」に優れた「水性塗料組成物」を提供することを課題とした発明であって、同段落0037(摘記1d)の「本発明組成物においては、上述の成分の他に、通常塗料に使用可能な成分を含むこともできる。このような成分としては、例えば、…造膜助剤…等が使用可能である。」との記載にあるように、必要に応じて「造膜助剤」を更に含むことができるとしているものである。 そして、甲第3号証の段落0048~0050(摘記3a)には「塗料の造膜性」や「塗膜汚染性や耐水性」などの観点から、沸点が130~220℃の範囲の有機溶剤を用いることが好ましく、特に代表的なものとして、沸点が135℃のエチレングリコールモノエチルエーテル(セロソルブ)や、沸点が133℃のプロピレングリコールモノエチルエーテル等のグリコールエーテル化合物が例示され、 参考文献Aの段落0034(摘記A3)には「エチレングリコールモノエチルエーテル」などの各種の「親水性有機溶剤」の中でも「形成塗膜の耐水性、耐候性」の観点から「プロピレングリコールモノエチルエーテル」などのプロピレングリコールエーテル系有機溶剤を使用することが特に好ましいことが記載され、 参考文献Eの段落0084~0085(摘記E1)には「成膜性を向上させる観点」から「2-エチルヘキシルジグリコール」や「トリプロピレングリコールn-ブチルエーテル」などの「成膜助剤」を「塗料用水性樹脂組成物」に含有させることが好ましいことが記載されている。 してみると、甲1発明の「耐水性」や「塗膜物性」に優れた水性塗料組成物の提供という課題に照らして、また、通常塗料に使用可能な成分として「造膜助剤」を更に含むことができるとしている点に照らして、 甲第3号証の「造膜性」や「耐水性」などの観点から好ましいとされる「エチレングリコールモノエチルエーテル」等の沸点が130~220℃の範囲の各種のグリコールエーテル化合物や、 参考文献Aの「耐水性」などの観点から好ましいとされる「プロピレングリコールモノエチルエーテル」等のグリコールエーテル化合物や、 参考文献Eの「成膜性」などの観点から好ましいとされる「2-エチルヘキシルジグリコール」や「トリプロピレングリコールn-ブチルエーテル」などの化合物を、 甲1発明の「水性塗料組成物」の組成に好適な範囲で更に含有させる、或いは甲1発明の2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールモノイソブチレート(テキサノール)に置き換えて含有させることには、強い「動機付け」と明示的な示唆があるといえる。 してみれば、甲1発明に、甲第3号証並びに参考文献A及びEに記載された技術を適用して、相違点αの構成とすることは、当業者が容易に相当し得るものと認められる。 イ.相違点βについて (ア)ガラス転移温度について 甲第1号証の段落0018(摘記1b)には「(a)成分のガラス転移温度(以下「Tg」という)は通常-30~60℃、好ましくは-10~40℃に設定する。Tgが-30℃より低い場合は、塗膜表面に汚染物質が付着しやすくなる。Tgが60℃より高い場合は、塗膜に割れが発生しやすくなる。」との記載があるので、甲第1号証に記載されたガラス転移温度の範囲内で、甲1発明の「樹脂A」のガラス転移温度の値を好適化することには動機付けがあるといえる。 しかも、甲第1号証には、ガラス転移温度(Tg)を高めに設定すれば耐汚染性が良好になる(塗膜表面に汚染物質が付着しにくくなる)ことが明示されているので、甲1発明の「Tg5℃」というガラス転移温度の値を甲第1号証に記載された「-10~40℃」の範囲内で高めに設定することは、当業者にとって通常の創作能力の発揮の範囲である。 (イ)スチレンの共重合割合について 例えば、参考文献Aの段落0027及び0031(摘記A2)の「スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエンなどのビニル芳香族化合物…の好適な共重合割合としては、…好ましくは0~39質量%であることが、最終的に形成される塗膜の仕上がり性が良好であり、耐汚染性、耐水性、耐候性などの塗膜物性をバランスよく発揮することができ、適している。」との記載、 参考文献Bの第4欄(摘記B1)の「この(b)成分としてはスチレン…を12~40重量%の範囲で用いることが必要であり、この量が12重量%未満では形成される皮膜の強じん性が小さくなるし、また40重量%を超えると柔軟性が失われる上に、耐水性、耐アルカリ性も低下する。」との記載、及び 参考文献Fの段落0010(摘記F2)の「アクリル系共重合体(A-1)は、…特に耐候性、耐水性の点からスチレン0~50重量%、好ましくは10~30重量%…を含有するモノマ-混合物を共重合したものが好適である。」との記載にあるように、 スチレンなどの「芳香族ビニル化合物」の共重合割合が「40重量%を超える」と「耐水性」や「耐候性」の点で問題が生じることは当業者にとって周知の技術事項であるから、甲1発明の「メチルメタクリレート-スチレン-2-エチルヘキシルアクリレート-メタクリル酸共重合体」における「スチレン」の共重合割合が「40質量%」を超える範囲にあるとは普通には解せず、芳香族ビニル化合物(スチレン)の共重合割合の点に実質的な差異があるとは認められない。 また、この点に実質的な差異があるとしても、芳香族ビニル化合物(スチレン)の共重合割合を参考文献A、B及びFに記載される好適な範囲で好適化することは、当業者にとって通常の創作能力の発揮の範囲である。 ウ.本1発明の効果について 本件特許明細書の段落0085の表1には、グリコールエーテル化合物(C)として「トリプロピレングリコールn-ブチルエーテル」又は「2-エチルヘキシルジグリコール」という特定の化合物を使用し、水性樹脂のガラス転移温度として25~27℃の範囲のものを使用した場合に、仕上がり性、耐汚染性、下地追従性、及び耐候性の点で効果があることが示されているところ、 例えば、甲第3号証の段落0048~0049(摘記3a)の「沸点が約130℃未満のもの…塗料の造膜性などが劣る…沸点が約220℃を超えて…塗膜汚染性や耐水性の低下などが生じ」との記載からみて、本1発明のグリコールエーテル化合物(C)の全て(例えば、沸点が124℃の「エチレングリコールモノメチルエーテル」など)が、耐汚染性や造膜性(仕上がり性や下地追従性)などの点で格別の効果を奏し得ると直ちに認めることができず、 例えば、甲第7号証の段落0017(摘記7a)の「ガラス転移温度…が80℃よりも高い場合は、造膜性、耐割れ性等において安定した性能を確保することが困難となる」との記載からみて、本1発明の「ガラス転移温度が10℃以上」という上限を設けない温度の広範な範囲の全てが格別の効果を奏し得ると直ちに認めることができず(本件特許の実施例1~8のものはTgが「25~27℃」の範囲であり、比較例6のものはTgが「-2℃」であるところ、甲1発明の「Tg5℃」及び摘記1bに記載のガラス転移温度の範囲に比して、本1発明の「10℃以上」という広範な範囲に格別の効果があるとは認められない。)、 例えば、甲第1号証の段落0033(摘記1c)の「顔料容積濃度が…55~75%となるように配合する。このような顔料容積濃度であれば…耐汚染性と割れ防止性のバランスに優れた塗膜を形成することができる」との記載からみて、本1発明の「顔料体積濃度が35%以上」という上限を設けない顔料体積濃度の広範な範囲の全てが格別の効果を奏し得ると直ちに認めることができず(本件特許の実施例のものは「38~52%」の範囲)、 例えば、甲第1号証の請求項1(摘記1a)の「白色顔料と体質顔料の体積比率が1:5~1:50」との記載からみて、本1発明の「(b1)が5質量部以上」という上限を設けない着色顔料の含有量の広範な範囲の全てが格別の効果を奏し得ると直ちに認めることができず(本件特許の実施例のものは「70~100質量部」の範囲)、 例えば、参考文献Cの第3欄(摘記C1)の「扁平粒子状タルク…の含有率は全体質顔料中の重量比で…60から90%がよい」との記載からみて、本1発明の「(b3)が20質量部以上」という上限を設けない薄片状以外の体質顔料の含有量の広範な範囲の全てが格別の効果を奏し得ると直ちに認めることができない(本件特許の実施例のものは「50質量部」の範囲)。 したがって、本1発明に、甲1発明において相違点α及びβに係る特定を備えることにより、甲第1~6号証及び参考文献A~Fに記載された事項から予測することができない格別の効果があるとは認められない。 エ.本1発明の進歩性のまとめ 以上総括するに、本1発明は、甲1発明、甲第2及び5~6号証などに記載の技術事項(艶消し)、甲第3号証などに記載の技術事項(造膜性を向上させる化合物)、甲第4号証などに記載の技術事項(タルク等の薄片状体質顔料)、甲第7号証などに記載の技術事項(ガラス転移温度20~50℃)、並びに参考文献A~Fに記載の技術事項ないし周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 (5)本件特許の請求項2~4及び6~8に係る発明について ア.請求項2について 本件特許の請求項2に係る発明は、本1発明において「水性樹脂(A)が加水分解性シリル基を有すること」を更に特徴とするものであるところ、甲第1号証の段落0015及び0022(摘記1b)の「具体的に(a)成分としては…アクリルシリコン樹脂エマルショ…を挙げることができる。…共重合可能なモノマーとしては…ビニルトリメトキシシラン…等が挙げられる。」との記載、及び参考文献Fの段落0015(摘記F3)の「γ-(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン…などのアルコキシシリル基含有モノマ-」との記載からみて、当該請求項に係る発明に進歩性はない。 イ.請求項3について 本件特許の請求項3に係る発明は、本1発明又は本件特許の請求項2に係る発明において「顔料分(B)に対する吸油量の合計量が、水性樹脂(A)の固形分100質量部あたり80ml以下にある」ことを更に特徴とするものであるところ、甲第4号証の段落0033~0034(摘記4b)の「(c-1)成分としては、…タルク、…炭酸カルシウム、…酸化チタン等が挙げられる。…(c-1)成分の吸油量は、…さらに好ましくは80ml/100g以下である。」との記載からみて、当該請求項に係る発明に進歩性はない。 ウ.請求項4について 本件特許の請求項4に係る発明は、本1発明又は本件特許の請求項2~3に係る発明において「光安定化剤を更に含む」ことを更に特徴とするものであるところ、参考文献Aの段落0057(摘記A3)の「水性塗料組成物は…光安定化剤…を含有することができる。」との記載、及び参考文献Dの段落0030(摘記D2)の「組成物中の樹脂固形分100重量部に対して、…光安定剤が0.1~5重量部…が適当である。」との記載からみて、当該請求項に係る発明に進歩性はない。 エ.請求項6について 本件特許の請求項6に係る発明は、本1発明又は本件特許の請求項2~4に係る発明の「耐汚染性艶消し水性塗料組成物」を「基材面」に「塗装すること」を特徴とする「耐汚染性艶消し塗膜形成方法」に関するものであるところ、甲第1号証の段落0038(摘記1d)の「本発明の水性塗料組成物は、建築物内外壁や土木構築物等の基材表面に対して塗装することができる」との記載からみて、当該請求項に係る発明に進歩性はない。 オ.請求項7について 本件特許の請求項7に係る発明は、本1発明又は本件特許の請求項2~4に係る発明の「耐汚染性艶消し水性塗料組成物」を「基材面に、形成塗膜の伸び率が50%以上にある下塗り塗料を塗装した後」に「上塗り塗装すること」を特徴とする「耐汚染性艶消し塗膜形成方法」に関するものであるところ、甲第1号証の段落0038(摘記1d)の「基材の表面は…既に塗膜が形成されたもの…であってもよい」との記載、及び甲第4号証の請求項8(摘記4a)の「基材に対し、形成塗膜の伸び率が50%以上である下塗材を塗付した後、上塗材として…水性塗料組成物を塗付する…塗膜形成方法」との記載からみて、当該請求項に係る発明に進歩性はない。 カ.請求項8について 本件特許の請求項8に係る発明は、本件特許の請求項6~7に係る発明の「耐汚染性艶消し塗膜形成方法」により得られる「塗装物品」に関するものであるところ、甲第1号証の段落0038(摘記1d)の「本発明の水性塗料組成物は、建築物内外壁や土木構築物等の基材表面に対して塗装することができる」との記載からみて、この「塗装」された「建築物内外壁や土木構築物」が「塗装物品」となることが自明なので、当該請求項に係る発明に進歩性はない。 キ.本件特許の請求項2~4及び6~8に係る発明の進歩性のまとめ したがって、本件特許の請求項2~4及び6~8に係る発明は、甲第1~7号証の刊行物に記載された発明及び参考文献A~Fに記載の技術事項ないし周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 (6)特許権者の主張について 令和元年9月20日付けの意見書の第7頁において、特許権者は『相違点1が想到容易とはいえないことは、特許権者が平成31年4月25日付けで提出した意見書の8頁~14頁において詳細に説明したとおりである。本意見書では繰り返さないが、…相違点1についての認定判断は妥当なものとはいえないと思料する。』と主張している。 そして、平成31年4月25日付けの意見書の第8~14頁において、特許権者は『甲第1号証の…「耐水性」の評価を達成している主たる要因は、撥水剤の配合の有無であって、造膜助剤である2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールモノイソブチレートの配合の有無ではない。…甲第3号証の…沸点が130~220℃の範囲の有機溶剤を塗料の配合成分として用いることが「形成塗膜の耐水性、耐候性」の観点から好ましいとの知見が…塗料分野における配合成分について広く妥当するものとして一般化されるものではない。…参考文献Aのプロピレングリコールモノメチルエーテル等の有機溶剤は…溶液重合法を適用するための重合溶媒であり、甲第1号証記載の2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールモノイソブチレートと…用途が全く異なるものである。…相違点1は甲第1号証、甲第3号証、及び参考文献Aの記載に基づいて想到容易であったといい得る合理的な根拠は見出せない。』と主張している。 しかしながら、甲1発明は「耐水性」や各種の「塗膜物性」にも優れた「建築物内外壁」等の基材表面に対して塗装する「水性塗料組成物」の提供を課題とした発明であり、 参考文献Aの段落0034~0035(摘記A3)などに記載された発明は「塗膜に適度な柔軟性」を与えて「下地追随性を向上」させた塗料において「プロピレングリコールエーテル系有機溶剤」を使用すると「形成塗膜の耐水性」などの点から適するとした水性塗料に関するものであり、 甲第3号証の段落0045及び0050(摘記3a)などに記載された発明は「水性塗料組成物」の「造膜性」や「塗料の基材に対する濡れ」や「基材付着性」などを向上させるために「エチレングリコールモノエチルエーテル」や「プロピレングリコールモノエチルエーテル」などの「有機溶剤(C)」を「必須の構成成分」としたものであるから、 甲1発明に、参考文献Aや甲第3号証に記載の技術を適用することが想到容易ではないとはいえないことは上述のとおりである。また、本件発明の全ての態様において、実施例と同様の効果が奏されるとはいえないことも上述のとおりである。したがって、上記主張は採用できない。 また、令和元年9月20日付けの意見書の第8頁において、特許権者は『あえて甲1発明では解決済みのはずの「耐水性」や「塗膜物性」を、甲1発明がさらに解決しなければならない課題と設定するのであれば、そのような課題設定は技術的にみて合理性に欠けると思われる。したがって、かかる点からも、相違点1についての取消理由の認定判断は妥当なものとはいえないと思料する。』と主張している。 しかしながら、更なる性能向上は、当業者が常に意識している課題であるから、上記主張も採用できない。 2.理由2(サポート要件)について (1)本件発明の解決しようとする課題と発明特定事項について 一般に『特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであり,明細書のサポート要件の存在は,特許出願人(…)が証明責任を負うと解するのが相当である。…当然のことながら,その数式の示す範囲が単なる憶測ではなく,実験結果に裏付けられたものであることを明らかにしなければならないという趣旨を含むものである。』とされている〔平成17年(行ケ)10042号判決参照〕。 そして、本件特許の請求項1~8に係る発明は、上記「第3 本件発明」の項に示したとおりのものであって、 本件特許明細書の段落0009の記載からみて、本件発明の解決しようとする課題は『長期にわたり耐汚染性と耐候性を両立でき、下地追従性にも優れた艶消しタイプの水性塗料組成物及びこれを用いた塗膜形成方法の提供』にあるものと認められる。 また、訂正後の本1発明は「グリコールエーテル化合物(C)を含む水性塗料組成物」であって「水性樹脂(A)の固形分100質量部を基準」として「(C)が5~25質量部の範囲内」にあること、及び「グリコールエーテル化合物(C)が、エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、トリエチレングリコールモノプロピルエーテル、トリプロピレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリプロピレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、トリプロピレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジプロピルエーテル、プロピレングリコールジプロピルエーテル、ジエチレングリコールジプロピルエーテル、ジプロピレングリコールジプロピルエーテル、トリエチレングリコールジプロピルエーテル、トリプロピレングリコールジプロピルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、プロピレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジプロピレングリコールジブチルエーテル、トリエチレングリコールジブチルエーテル、トリプロピレングリコールジブチルエーテル、2-エチルヘキシルジグリコール、並びにこれらの組み合わせからなる群から選択される化合物」であること(なお、実施例において用いられているものに下線を付した。)を発明特定事項とし、 さらに「水性樹脂(A)が、芳香族ビニル化合物、(メタ)アクリロイル基含有化合物、及びその他の重合性不飽和モノマーの共重合体であるか、又は芳香族ビニル化合物及び(メタ)アクリロイル基含有化合物の共重合体であって、固形分中に占める芳香族ビニル化合物の共重合割合が40質量%以下にある」ことを発明特定事項とし、 本件特許明細書の段落0010には、課題を解決するための手段として「特定の水性樹脂に、特定組成の顔料分及びグリコールエーテル化合物を特定量配合することによって、艶消し感を有し、耐汚染性、耐候性及び下地追従性に優れた塗膜が得られることを見出し、本発明に到達した。」との記載がなされている。 (2)本件特許明細書の記載について 本件特許明細書の段落0053には「グリコールエーテル化合物(C)を含むことにより、造膜性を向上させ、下地追従性を向上させるという効果がある」ことが記載され、同段落0054には「グリコールエーテル化合物(C)の具体例」が多数列挙されるとともに「特に沸点が200℃以上の化合物を使用することが適している」との記載がなされ、同段落0055~0056には「グリコールエーテル化合物(C)の含有量」について記載され、同段落0085の表3には「グリコールエーテル化合物(C)の具体例」として「トリプロピレングリコールn-ブチルエーテル」又は「2-エチルヘキシルジグリコール」を用いた実施例1~8及び比較例1~7の「 」という実験結果が記載されている。 (3)訂正後のグリコールエーテル化合物(C)について ア.グリコールエーテル化合物の有用性 訂正後の請求項1の「グリコールエーテル化合物(C)が、エチレングリコールモノメチルエーテル、…トリプロピレングリコールモノブチルエーテル、…2-エチルヘキシルジグリコール、並びにこれらの組み合わせからなる群から選択される化合物」という発明特定事項について、 例えば、甲第3号証の段落0048~0050(摘記3a)には、沸点が約130℃未満の化合物は塗料の造膜性などが劣り、沸点が約220℃を超える化合物は塗膜汚染性や耐水性の低下などの問題を生じ易いことから、塗料用のグリコールエーテル化合物としては「エチレングリコールモノエチルエーテル」や「プロピレングリコールモノエチルエーテル」などの特定の化合物でなければならないことが記載されており、 参考文献Aの段落0034~0035(摘記A3)には「耐汚染性を発揮することができる」とともに「塗膜に適度な柔軟性を与え下地追従性を向上させる」ことができる共重合体を得るためのグリコールエーテル化合物としては特に「プロピレングリコールエーテル系」の化合物が「耐水性」や「耐候性」の点から適していることが記載されているところ、 塗料用のグリコールエーテル化合物の「有用性」は、その「沸点」などの特性の違いに応じて異なることが一般に知られており、本件特許の請求項1に記載された「グリコールエーテル化合物(C)」の各々が「耐汚染性」や「耐候性」や「下地追従性」などの点において同程度の「有用性」を示し得る範囲にあるといえる根拠は見当たらない。 また、乙第1号証(中嶋純著、「水性エマルション塗料,無機質塗料のつくり方-ノウハウ集-」、第1版第1刷、株式会社技術情報協会、2004年3月29日、第130~133頁)の第131頁には、塗料用の溶剤としてのグリコールエーテル化合物の有用性が「セロソルブ系」と「カルビトール系」とで異なることが記載され、摘示すると「実際には,実験的に,溶剤の種類,量を選択することになる。」と記載されているところ、塗料に用いられる「グリコールエーテル化合物」の有用性の有無や大小は「技術的に自明なこと」ではなく、その「種類」や「量」を「実験的」に確認しなければならないことが、当業者の「技術常識」として普通に認識されているといえる。 イ.本件特許明細書の裏付け これに対して、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、その段落0085の実施例1~8の試験結果において、グリコールエーテル化合物(C)として「トリプロピレングリコールn-ブチルエーテル」又は「2-エチルヘキシルジグリコール」を「10質量%」又は「15質量%」の含有量で用いた場合に、その「下地追随性」が「○:ひび割れ発生なし」又は「△:わずかにひび割れが認められる」の評価になることが示されているものの、当該「トリプロピレングリコールn-ブチルエーテル」又は「2-エチルヘキシルジグリコール」以外の「グリコールエーテル化合物(C)」の広範な選択肢の全てが上記本件発明の課題を解決できると認識できる範囲にあることを裏付ける「実験結果」や「作用機序」の説明の記載が見当たらない。 そして、本件特許明細書の段落0054には「このようなグリコールエーテル化合物(C)の具体例としては、…特に沸点が200℃以上の化合物を使用することが適している。」との記載がなされており、グリコールエーテル化合物(C)の「有用性」が「沸点」などの特性の違いにより異なることが記載されている。 ウ.グリコールエーテル化合物(C)の「種類」の範囲 してみると、本件特許明細書の段落0053~0056及び0085を含む発明の詳細な説明の開示によっては、当該実施例1~8で用いられた「2-エチルヘキシルジグリコール」及び「トリプロピレングリコールn-ブチルエーテル」以外の「グリコールエーテル化合物(C)」の選択肢の全てが、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとは認められず、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとも認められない。 エ.グリコールエーテル化合物(C)の「含有量」の範囲 さらに、本件特許明細書の実施例1~4及び6~8のものは、いずれも造膜助剤(商品名:CS-12)10質量部を併用することで、仕上り性、耐汚染性、下地追従性、耐候性の評価が「○」以上になるという実験結果が示されているところ、当該「造膜助剤(商品名:CS-12)」の含有量が「10質量部」以外の「5質量部」や「25質量部」であっても、本件特許の請求項1の「(C)が5~25質量部の範囲内」という広範な含有量の範囲内であれば、上記『長期にわたり耐汚染性と耐候性を両立でき、下地追従性にも優れた艶消しタイプの水性塗料組成物及びこれを用いた塗膜形成方法の提供』という課題を解決できることについては、発明の詳細な説明に「実験結果」や「作用機序」の説明による裏付けがなく、また、そのような裏付けがなくとも当該発明の課題を解決できると当業者が認識できるといえる「技術常識」の存在も見当たらない。 オ.特許権者の立証及び主張 令和元年9月20日付けの意見書の第11~12頁において、特許権者は『本件特許明細書の段落0054では、グリコールエーテル化合物として種々の具体的化合物が記載されており、また段落0055にはグリコールエーテル化合物の配合量が記載されている。そして本件特許明細書の実施例では、2種類のグリコールエーテル化合物(…)を用いた場合について、…優れた評価結果が得られたことを確認している(本件特許明細書の段落0085記載の表3参照)。…そして、訂正後の本件特許の請求項1において「グリコールエーテル化合物(C)」として特定されている化合物群は、本件特許明細書記載の化合物分に対応した特定のグリコールエーテル化合物であるから、訂正後の本件特許の請求項1に係る発明は、本件特許明細書の記載によって十分サポートされていると思料する。』と主張している。 しかしながら、本件特許明細書の段落0054の「これらの中でも特に沸点が200℃以上の化合物を使用することが適している。」との記載を参酌するに、実施例1~8で用いられたトリプロピレングリコールn-ブチルエーテル(沸点274℃)、又は2-エチルヘキシルジグリコール(沸点277℃)という「沸点が200℃以上の化合物」の試験結果によっては、例えば、本件特許の訂正後の請求項1の冒頭に記載されたエチレングリコールモノメチルエーテル(沸点124℃)のような低い沸点範囲のものが、実施例の高い沸点範囲のものと同程度の有用性を示し得るとは認められない。 また、本件特許明細書の段落0055の「グリコールエーテル化合物(C)の含有量としては…好ましくは7~20質量部の範囲がよい。」との記載を参酌するに、本件特許の訂正後の請求項1の「(C)が5~25質量部の範囲内にあり」という広範な範囲のものが、上記課題を解決できると認識できる範囲にあるとは認められない。 加えて、平成31年4月25日付けの意見書の第14頁第19~21行における特許権者の「ある具体的な塗料組成物においてその使用が適するか否かはケース・バイ・ケースである。」との主張をも斟酌するに、実施例1~8の組成において「トリプロピレングリコールn-ブチルエーテル」と「2-エチルヘキシルジグリコール」の2種類が「10質量部」又は「15質量部」の配合量で有用性を示し得たからといって、それ以外の場合に有用性を示し得るか否かは、実際に試験してみなければ判らないと帰結せざるを得ない。 したがって、特許権者の立証及び主張によっては、訂正後の「グリコールエーテル化合物(C)」の種類と含有量の広範な範囲の全てが、課題を解決できると認識できる範囲にあると認めるに至らない。 カ.訂正後の請求項2~4及び6~8について 訂正後の請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2~4及び6~8の記載は、訂正後の請求項1に記載された「グリコールエーテル化合物(C)」の種類や含有量の範囲を更に限定するものではない。このため、これら従属項の「グリコールエーテル化合物(C)」の種類と含有量の範囲の全てが、課題を解決できると認識できる範囲にあるとはいえない。 キ.グリコールエーテル化合物(C)についての総括 以上総括するに、本件特許の請求項1並びにその従属項の記載は、その「グリコールエーテル化合物(C)」の種類と含有量の広範な範囲の全てが、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとは認められず、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとも認められない。 したがって、本件特許の請求項1~4及び6~8の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載されたものではなく、特許法第36条第6項第1号に適合するものではない。 (4)訂正後の水性樹脂(A)の共重合体について ア.塗料組成物に用いる水性樹脂の有用性 訂正後の請求項1の「水性樹脂(A)が、芳香族ビニル化合物、(メタ)アクリロイル基含有化合物、及びその他の重合性不飽和モノマーの共重合体であるか、又は芳香族ビニル化合物及び(メタ)アクリロイル基含有化合物の共重合体であって、固形分中に占める芳香族ビニル化合物の共重合割合が40質量%以下にある」という発明特定事項について、 例えば、参考文献Fの段落0010(摘記F2)等には「建築内・外部」の塗装に適用可能な「塗料組成物」において「特に耐候性、耐水性の点からスチレン…10~20重量%、アクリル系モノマー…50~90重量%、及びその他のモノマー…0~40重量%を含有するモノマー混合物を共重合したものが好適」であることが記載されているところ、例えば、スチレンの共重合割合が「1重量%未満」である場合や、その他のモノマーの共重合割合が「80重量%超」である場合には、耐候性や耐水性の点で満足する性能を発揮し得ないことが、当業者の技術常識として普通に知られている。 イ.本件特許明細書の裏付け これに対して、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、訂正後の本1発明の具体例として実施例1~8のみが記載されているところ、当該実施例1~8の水性樹脂(A)の共重合体の組成は『固形分中に占める芳香族ビニル化合物の共重合割合が5~10質量%であり、その他の重合性不飽和モノマーがビニルトリメトキシシランであって、固形分中に占めるその他の重合性モノマーの共重合割合が10質量%以下である』ものに限られている。 ウ.水性樹脂(A)の共重合体の範囲 してみると、訂正後の本1発明の範囲には、例えば『水性樹脂(A)が、芳香族ビニル化合物1質量%、(メタ)アクリロイル基含有化合物1質量%、及びその他の重合性不飽和モノマー(例えばプロピレンや酢酸ビニルなどの広範な種類の重合性不飽和モノマー)98質量%の共重合体』のような場合も含まれているところ、このような広範な範囲のもの全てが上記『長期にわたり耐汚染性と耐候性を両立でき、下地追従性にも優れた艶消しタイプの水性塗料組成物及びこれを用いた塗膜形成方法の提供』という課題を解決できることについては、発明の詳細な説明に「実験結果」や「作用機序」の説明による裏付けがなく、また、そのような裏付けがなくとも当該発明の課題を解決できると当業者が認識できるといえる「技術常識」の存在も見当たらない。 エ.特許権者の立証及び主張 この点に関して、令和元年9月20日付けの意見書の第14頁において、特許権者は『芳香族ビニル化合物の共重合割合についても、数値範囲は一般的に一定範囲の連続数であり、その中には、無限の数の数字が含まれるから、数値範囲の全範囲について実施例に挙げることは不可能である。…数値範囲の全範囲を実施例によって立証しなくても、代表例(実施例や明細書本文中の最適範囲)によって、正しく課題が解決されていることが裏付けられておれば十分である。』と主張している。 しかしながら、上記に例示した『水性樹脂(A)が、芳香族ビニル化合物1質量%、(メタ)アクリロイル基含有化合物1質量%、及びその他の重合性不飽和モノマー(例えばプロピレンや酢酸ビニルなどの広範な種類の重合性不飽和モノマー)98質量%の共重合体』のような場合という一点での指摘にさえ、正しく課題を解決できると認識できる程度の「試験結果」や「作用機序」や「技術常識」の存在についての立証がなされていないので、特許権者の立証及び主張によっては、訂正後の「水性樹脂(A)」の「共重合体」を構成するモノマーの種類と共重合割合の広範な範囲の全てが、課題を解決できると認識できる範囲にあると認めるに至らない。 オ.訂正後の請求項2~4及び6~8について 訂正後の請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2~4及び6~8の記載は、訂正後の請求項1に記載された「水性樹脂(A)」の種類や含有量の範囲を更に限定するものではない。このため、これら従属項の「水性樹脂(A)」の種類と含有量の範囲の全てが、課題を解決できると認識できる範囲にあるとはいえない。 カ.水性樹脂(A)についての総括 以上総括するに、本件特許の請求項1並びにその従属項の記載は、その「水性樹脂(A)が、芳香族ビニル化合物、(メタ)アクリロイル基含有化合物、及びその他の重合性不飽和モノマーの共重合体であるか、又は芳香族ビニル化合物及び(メタ)アクリロイル基含有化合物の共重合体」の種類と共重合割合の広範な範囲の全てが、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとは認められず、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとも認められない。 したがって、本件特許の請求項1~4及び6~8の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載されたものではなく、特許法第36条第6項第1号に適合するものではない。 第6 むすび 以上のとおり、本件特許の請求項1~4及び6~8に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反する特許出願に対してされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。 また、本件特許の請求項1~4及び6~8に係る発明の特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。 さらに、訂正前の請求項5は削除されているので、請求項5に係る特許についての特許異議の申立ては、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下すべきものである。 よって、結論のとおり決定する。

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2018-701070

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