特許異議申立
2024-700488
燃料電池車用着色冷却液組成物
- 審判番号
- 2024-700488
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-080207
- 登録番号
- 7392241
- 請求日
- 2024年05月24日
- 審決日
- 2026年05月27日
- 公報発行日
- 2026年09月25日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】シーシーアイホールディングス株式会社
- 【権利者代理人】山田 泰之
- 【異議申立人】山田 友則
- 審判長/審判官
- 審判長 光本 美奈子
- 審判官 村守 宏文
- 審判官 山田 貴之
- 分類
- P1651.113-YAA(C09K) / P1651.121-YAA(C09K) / P1651.537-YAA(C09K)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第2項、特許法第126条第6項、特許法第126条第5項、特許法第29条第1項第3号、特許法第36条、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第4項、特許法第126条第7項、特許法第36条第6項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7392241号発明「燃料電池車用着色冷却液組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7392241号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~4〕について訂正することを認める。
特許第7392241号の請求項1に係る特許を維持する。
特許第7392241号の請求項2~4に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
1 本件特許に係る出願は、2021年(令和3年)5月11日(優先権主張 令和2年12月4日)の出願であって、令和5年11月28日に請求項1~4に係る特許の設定登録がされ、同年12月6日に特許掲載公報が発行されたところ、令和6年5月24日に特許異議申立人 山田 友則(以下「申立人」という。)により全請求項に係る特許に対して特許異議の申立てがされたものである。
2 その後の手続きは以下のとおりである。
令和6年10月10日付け 当審において取消理由通知
同年11月22日 訂正請求書及び意見書の提出(特許権者)
同年12月23日 訂正請求書の手続補正書(方式)の提出(特許権者)
令和7年 1月30日付け 当審において訂正請求があった旨の通知
同年 3月 4日 意見書の提出(申立人)
同年 5月27日付け 当審において取消理由通知(決定の予告)
同年 8月 1日 訂正請求書及び意見書の提出(特許権者)
同年10月 6日 訂正請求書の手続補正書(方式)の提出(特許権者)
同年10月29日付け 当審において訂正請求があった旨の通知
令和8年 1月21日付け 当審において取消理由通知(決定の予告)
同年 3月27日 訂正請求書及び意見書の提出(特許権者)
その後、当審において令和8年4月8日付けで、申立人に対して意見書提出の期間を指定して、同年3月27日の訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)を行ったが、当該期間内に申立人から意見書の提出はなかった。
また、令和6年12月23日提出の訂正請求書による訂正の請求(以下「第1の訂正」という。)及び令和7年8月1日提出の訂正請求書による訂正の請求(以下「第2の訂正」という。)は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。
第2 訂正の適否
1 訂正内容
令和8年3月27日に提出された訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)は、次の訂正事項1~訂正事項6からなる。
(1)訂正事項1
訂正前の請求項1に記載の「水溶性高分子染料」を、「ポリエチレングリコール鎖にトリアリールメタン系染料が結合してなる水溶性高分子染料」に訂正する。
(2)訂正事項2
訂正前の請求項1に記載の「酸化防止剤である硫黄原子含有化合物及び/又は窒素原子含有化合物」を、「チオジグリコール」に訂正する。
(3)訂正事項3
訂正前の請求項1に記載の「燃料電池車用着色冷却液組成物」を、「水及びエチレングリコール」を含有するものに訂正する。
(4)訂正事項4
訂正前の特許請求の範囲の請求項2を削除する。
(5)訂正事項5
訂正前の特許請求の範囲の請求項3を削除する。
(6)訂正事項6
訂正前の特許請求の範囲の請求項4を削除する。
2 一群の請求項について
訂正前の請求項1~4について、訂正前の請求項2~4はそれぞれ訂正前の請求項1を引用しているものであって、訂正事項1~3によって記載が訂正される訂正後の請求項1に連動して訂正されるものである。したがって、訂正事項1~6は、特許法120条の5第4項に規定する一群の請求項についてなされたものである。
3 本件訂正についての検討
(1)訂正事項1
訂正事項1は、訂正前の請求項1に記載の「水溶性高分子染料」を、「ポリエチレングリコール鎖にトリアリールメタン系染料が結合してなる」との限定を付加したものに減縮するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。また、願書に添付した明細書には、「本発明の燃料電池車用着色冷却液組成物に含有される着色剤は、水溶性高分子鎖に染料を反応し結合させてなる、水溶性の高分子染料である。水溶性高分子鎖としては・・・なかでも、ポリエチレングリコール鎖及びポリプロピレングリコール鎖が好ましい。染料としては・・・なかでも、トリアリールメタン系染料やキノン系染料を採用することが好ましい。」(段落0012)との記載があるから、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であって、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
(2)訂正事項2
訂正事項2は、訂正前の請求項1に記載の「酸化防止剤である硫黄原子含有化合物及び/又は窒素原子含有化合物」を、「チオジグリコール」に限定し減縮するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。また、願書に添付した明細書には、「本発明の燃料電池車用着色冷却液組成物に含有しても良い酸化防止剤としては、硫黄原子含有化合物及び/又は窒素原子含有化合物を使用する。・・・なかでも、チオジグリコールやキノリンが好ましい。」(段落0014)との記載があるから、訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であって、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
(3)訂正事項3
訂正事項3は、訂正前の請求項1に記載の「燃料電池車用着色冷却液組成物」を、「水及びエチレングリコール」を含有するものに限定し減縮するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。また、願書に添付した明細書には、「本発明の燃料電池車用着色冷却液組成物の基材としては、低導電率であって、不凍性を有するものが望ましい。具体的には、水、グリコール類、アルコール類及びグリコールエーテル類の中から選ばれる1種もしくは2種以上の混合物からなるものが好ましい。」(段落0007)、「グリコール類としては、エチレングリコール、プロピレングリコール・・・等から1種以上が挙げられる。」(段落0008)との記載があるから、訂正事項3は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であって、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
(4)訂正事項4~6
訂正事項4~6は、それぞれ、訂正前の請求項2~4を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものに該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものであるし、また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。
(5)独立特許要件について
本件においては、訂正前の全ての請求項1~4について特許異議申立てがされているので、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項に規定される独立特許要件が課される請求項はない。
(6)小括
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる事項を目的とするものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5、6項の規定に適合するものである。
4 訂正の適否についてのまとめ
したがって、本件特許の特許請求の範囲を令和8年3月27日提出の訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~4〕について訂正することを認める。
第3 本件訂正発明
前記第2のとおり、本件訂正の請求は認められたので、本件特許の請求項1~4に係る発明は、その特許の特許請求の範囲の請求項1~4に記載された以下のとおりのものである(以下、請求項1に係る発明を「本件訂正発明」ともいう。)。
「【請求項1】
水及びエチレングリコール、及び、ポリエチレングリコール鎖にトリアリールメタン系染料が結合してなる水溶性高分子染料、及び、チオジグリコールを含有する燃料電池車用着色冷却液組成物。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
(削除)」
第4 特許異議申立ての理由及び当審が通知した取消理由の概要
1 申立人が申し立てた理由の要旨は、次のとおりである。
(1)新規性、進歩性の欠如
ア 甲第1号証を主引用例とする新規性欠如
本件訂正前の請求項1~3に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
イ 甲第1号証を主引用例とする進歩性欠如
本件訂正前の請求項1~4に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
ウ 甲第2号証を主引用例とする進歩性欠如
本件訂正前の請求項1~4に係る発明は、甲第2号証及び甲第3号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(2)サポート要件違反
本件訂正前の請求項1~4は、「酸化防止剤」として「硫黄原子含有化合物及び/又は窒素原子含有化合物」が包括的に記載されているが、当該化合物の酸化防止効果の多寡にかかわらず、硫黄原子及び/又は窒素原子を含有する化合物であれば所望する本件特許発明の効果が得られるとはいえず、本件特許の出願当時の技術常識に照らしても、請求項1~4に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえないから、発明の詳細な説明に記載したものではなく、特許法第36条6項第1号に規定する要件を満たしていないから、本件特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
(3)明確性要件違反
本件訂正前の請求項1~4の記載は、「酸化防止剤である硫黄原子含有化合物及び/又は窒素原子含有化合物」なる記載について、用語の外縁が不明確であり、本件特許の出願当時の技術常識を考慮しても理解できないから、特許を受けようとする発明が明確ではなく、特許法第36条6項第2号に規定する要件を満たしていないから、本件特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
2 当審において令和6年10月10日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
(甲第2号証を主引用例とする進歩性の欠如)
本件訂正前の請求項1~4に係る発明は、甲第2号証に記載された発明並びに甲第2号証、甲第3号証、甲第5号証、文献A及び文献Bに記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
3 当審において令和7年5月27日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の要旨は、次のとおりである。
(甲第2号証を主引用例とする進歩性の欠如)
第1の訂正後の特許請求の範囲の請求項1~4に係る発明は、甲第2号証に記載された発明並びに甲第2号証、甲第3号証、甲第5号証、文献B及び文献Cに記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
4 当審において令和8年1月21日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の要旨は、次のとおりである。
(甲第2号証を主引用例とする進歩性の欠如)
第2の訂正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、甲第2号証に記載された発明、甲第2号証及び甲第3号証に記載された事項並びに周知技術(要すれば甲第5号証、文献C~文献E等参照)に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
第5 証拠方法等の一覧
1 特許異議申立書とともに申立人が提出した証拠
甲第1号証:米国特許第5725794号明細書
甲第2号証:欧州特許第1809718号明細書
甲第3号証:国際公開第2006/092857号
甲第4号証:巴工業株式会社ホームページ、化学品事業TOP、商品情報、化成品、アミン類、[2024年4月19日印刷]、<URL:https://www.tomoe.co.jp/chemical/products/detail.php?id=25QU050>
甲第5号証:ミリケン・ケミカル社ホームページ、Liquitint(登録商標)の紹介ページ、[2024年4月22日印刷]、<URL:https://www.milliken.com/en-us/businesses/chemical/product/liquitint---home-and-laundry-care/>
甲第6号証:国際公開第2005/103193号
甲第7号証:エバーライト・ケミカル社ホームページ、Evertint(登録商標)の紹介ページ、[2024年4月22日印刷]、<URL:https://jp.everlight-uva.com/product/polymeric-colorants/evertint-for-polyurethane/>
以下、「甲第1号証」~「甲第7号証」を、それぞれ「甲1」~「甲7」ともいう。
2 当審において新たに引用した文献
文献A:韓国登録特許第10-1420746号公報(令和5年7月25日付け拒絶理由通知書において示した引用文献3)
文献B:特開平5-194865号公報(令和6年10月10日付け取消理由通知書で新たに引用した文献)
文献C:特開平9-235483号公報(令和7年5月27日付け取消理由通知書(決定の予告)で新たに引用した文献)
文献D:米国特許出願公開第2006/0063050号明細書(令和8年1月21日付け取消理由通知書(決定の予告)で新たに引用した文献)
文献E:欧州特許第0789987号明細書(令和8年1月21日付け取消理由通知書(決定の予告)で新たに引用した文献)
第6 取消理由についての判断
1 文献等に記載された事項
以下、下線は合議体による。
(1)甲2
甲2には以下の事項が記載されている。なお、甲2は外国語によるものであるから、合議体による日本語訳にて記載する。
(1-ア)「[0004]・・・新たな動力源(パワーソース)技術が継続的に開発され、特にエネルギー効率の改善を提供するものである。開発された代替動力源の例としては、・・・燃料電池・・・および/または同様なものなどの凝縮によって電力供給される。このような代替動力源は、単独で、または組み合わせて使用することができる、ハイブリッド自動車に用いられる。・・・
[0006]しかしながら、残念なことに、代替動力源、特に、電気や電荷をチャージするものでの使用には、従来の伝熱システムおよび伝熱流体は適さない(又は最適化されていない)。例えば、伝統的な従来技術の伝熱流体は、典型的には、非常に高い導電率を特徴とし、しばしば3000S・cm以上の範囲内である。代替動力源、特に電気に基づく代替動力源での高導電率の伝熱流体の使用は、は、電気衝撃、腐食、および/または電流の短絡をもたらす可能性がある。
・・・
[0013]例えば、十分な動力を生成するために、燃料電池ベースの自動車エンジンは、燃料電池スタックを形成するように互いに直列に接続された多くの燃料電池を有し得る。・・・自動車用燃料電池スタックの両端間のDC電圧は非常に高く、典型的には125~450V DCの範囲であり得る。
[0014]これらの同等の電圧が、自動車用燃料電池スタックにおいて使用される個々の燃料電池の伝熱流体システムにおいて経験される。電気ショックの危険を防止又は最小化するために、伝熱流体は非常に低い伝導率を有していなければならない。また、燃料電池伝熱流体の導電率が低いことは、伝熱流体システム内のシャント電流を低減し、システム効率の低下を最小限に抑えるために望ましい。
[0015]したがって、代替動力源と熱連通している伝熱システムで使用することを意図した「低導電率」の伝熱流体を提供する必要がある。
(1-イ)「[0019]最後に、自動車エンジンで使用される伝熱流体又は不凍剤のような伝熱流体は、ほとんど常に染料の添加により着色されており、それによって、特徴を付与し、他にはない伝熱流体技術と他の自動車用の機能性流体との混同を防止する。このような着色は、伝熱流体の濃度に関する情報を提供することを意図し、冷却システムでの使用中および使用後に伝熱流体を認識できるようにする。
[0020]しかしながら、内燃エンジンで使用する伝熱流体に使用される染料及び着色剤は、典型的には、導電率の高いイオン種である。・・・このような染料は、燃料電池伝熱流体としては、非常に低い導電率を要するため、用いることができない。
[0021]このように、着色され、それでも非常に低い導電性を有し、燃料電池のような代替動力源と共に使用するのに好適な伝熱流体が必要とされている。」
(1-ウ)「[0036]一実施形態では、開示の着色伝熱流体に使用される非導電性着色剤は、少なくとも1種のアルコールまたはアルコールと水との混合物に、伝熱流体を着色するために必要な着色剤の使用濃度で、可溶であるかまたは分散性である非イオン性または弱イオン性種である。
・・・
[0038]一実施形態では、非導電性着色剤は、水性アルコール又はグリコール溶液中での加水分解に起因してイオン種を形成するであろう官能基を実質的に含まない。本明細書で使用する「実質的に含まない(Substantially free)」は、着色された伝熱流体の導電率が10μS/cm以上となる量を超えない量を意味する。・・・
[0039]一実施形態では、非導電性着色剤は、少なくとも一つの次の発色団を含む:アントラキノン・・・トリアリールメタン・・・
[0040]別の実施形態では、非導電性着色剤は、アルキレンオキシ基またはアルコキシ基、および上述のような少なくとも一つの発色団を含有するであろう。一実施形態では、着色剤に含まれる発色団は、アントラキノン・・・トリアリールメタン・・・からなる群から選択される。
[0041]あるいは、好適な非導電性着色剤は、以下の式の着色剤として記載され得る。
R{Ak[(B)nR1]m}x
式中、Rは、アントラキノン・・・トリアリールメタン・・・からなる群から選択される有機発色団であり;Aは、前記発色団中の連結部分であり、O、N及びSからなる群から選択され;kは、0又は1であり;Bは、1~8個の炭素原子を含有する1つ以上のアルキレンオキシ又はアルコキシ基からなる群から選択され;nは、1~100の整数であり;mは、1又は2であり;xは、1~5の整数であり;R1は、H、1~8個の炭素原子を含有するC1~C6アルキル基又はアルコキシ基、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される。
[0042]例示的な一実施形態では、好適な非導電性は、上記式の着色剤であり、式中、AはN又はO、Bは2~4個の炭素原子を含有する1つ以上のアルキレンオキシ構成要素の群から選択され、nは1~30であり、mは1又は2であり、Xは好ましくは1又は2であり、R1は好ましくはH又は1~6個の炭素原子を含有するC1~C4アルキル若しくはアルコキシ基である)の着色剤である。
[0043]例示的な一実施形態では、非導電性着色剤は、種々の公知の方法で調製でき、例えば、米国特許第4284729号、米国特許第6528564B1又はU.S.Milliken&Company,Spartanburg,SC,USAに対して発行された他の特許に記載されている。例えば、好適な着色剤は、第一級アミノ基を含有する染料中間体を対応するポリマー化合物に変換し、得られた化合物を使用して、分子中に発色団を有する化合物を生成することによって調製することができる。アゾ染料の場合、これは、公知の手順に従って、第一級芳香族アミンを適切な量のアルキレンオキシドまたはアルキレンオキシドの混合物(例えば、エチレンオキシドなど)と反応させ、次いで、得られた化合物を芳香族アミンのジアゾニウム塩とカップリングさせることによって達成することができる。トリアリールメタン系液体着色剤を調製するために、芳香族アミンを上記のようにアルキレンオキシドと反応させ、それを芳香族アルデヒドと縮合させ、得られた縮合生成物を酸化して、トリアリールメタン液体着色剤を形成する。他の好適な着色剤もまた、これらおよび他の公知の手順によって調製され得る。
・・・
[0045]一実施形態において、開示される着色熱伝達流体及び方法において使用するための好適な非導電性着色剤の市販の例としては、Milliken Chemical(Spartanburg,SC,USA)製のLiquitint(登録商標)Red若しくは他の同様のポリマー着色剤、又はChromatech(Canton,MI,USA)製の着色剤が挙げられる。他の例示的な着色剤としては、以下が挙げられる:・・・Liquitint Blue RE・・・Liquitint Blue HP・・・。」
(1-エ)「[0089]室温で脱イオン水中の着色剤濃度の相関として導電率を表1aごとに評価した。下記に示す様々な着色剤の溶液は室温下、単純に撹拌しながら、脱イオン水中で混合された。導電率は、Control Company,Friendswood,Tx,USA.製Traceble(R)(当審合議体注:「(R)」は丸で囲んだRを意味する。)卓上導電率計によって測定した。・・・
[0091]50重量%エチレングリコール+50%DI水溶液中の一連の着色剤50ppmの室温での導電率も表1bに従って評価した。
[図:0001439171000001.jpg]
・・・
実施例
[0098]開示された伝熱流体における使用に最も好ましい発色団を決定するために分析を行った。以下の表の結果は、トリアリールメタンおよびトリフェニルメタンが望ましい結果を提供することを示す。
[0099]前述の実施例において提供された試験結果は、Liquitint Blue RE・・・が、本質的に非導電性ポリマー着色剤であるため、燃料電池に使用される伝熱流体用の染料として使用できることを示す。FTIR、GC-MSを使用して、着色剤中の発色団の種類を以下のように決定した:Liquitint Blue RE-トリアリールメタン・・・」
(2)甲3
甲3には、以下の事項が記載されている。
(2-ア)「発明が解決しょうとする課題
[0006]しかし、従来の燃料電池用冷却液組成物にあっては、燃料電池作動中に冷却液中において基剤として使用されているグリコール類やアルコール類が酸化し、僅かではあるがイオン性物質を生成する。このため、長期に渡って使用することにより、冷却液中のイオン性物質の量が増加し、この結果、低導電率が維持できなくなるという事態を招く恐れがあった。
[0007]このような不具合の発生を解消するため、燃料電池の冷却系統の経路にイオン交換樹脂を配置し、冷却液中のイオン性物質を除去して、冷却液の導電率の上昇を抑えることも考えられる。
[0008]しかし、この場合、イオン交換樹脂は、基剤の酸化により生成されるイオン性物質の除去に費やされ、当該イオン交換樹脂のイオン交換量は速やかに低下し、交換寿命が著しく低下するという不具合が発生する恐れがあった。
[0009]本発明は、このような事情に鑑みなされたものであり、基剤の酸化による導電率の上昇が小さく、長期に渡って低導電率を維持することができる燃料電池用冷却液組成物を提供することを目的とするものである。」
(2-イ)「[0016]上記基剤中に分子内に少なくとも1個の硫黄原子を持つ含硫アルコール又は含硫フェノールが含まれているのである。これら含硫アルコール又は含硫フェノールは、 基剤の酸化を抑制する機能に優れたものである。これら含硫アルコール又は含硫フェノールを含有することで、当該組成物を水で希釈して所定の濃度となるように調整したとき、基剤の酸化による冷却液の導電率の上昇が抑えられ、燃料電池における発電力を低下させない低導電率、具体的には10μS/cm以下の導電率が維持され、長期に渡って使用した場合でも、当該冷却液の導電率の変動が0~10μS/cmの範囲内に維持されるようになっている。
・・・
[0018]含硫アルコール又は含硫フェノールの好ましい具体的としては・・
・チオジグリコール・・・を挙げることができる。」
(2-ウ)「[0035]以下、本発明の組成物の好ましい実施例を挙げ、比較例と対比しつつ、その性能を評価する。表1には実施例1~6並びに比較例1~4の組成物を挙げた。実施例1~6並びに比較例1~4の各組成物は、いずれもイオン交換水及びエチレングリコールを基剤としており、この基剤中に・・・チオジグリコールを添加したものを実施例5・・・とした。
・・・
[0037][表1]
[図:0001439171000002.jpg]
[0038]表1に示す実施例1~6並びに比較例1~4の各組成物について、酸化劣化後の酸の生成量並びに導電率(μS/cm)を測定した。その結果を表2に示した。尚、各組成物の酸化劣化は、100℃で500時間の条件で実施した。
[0039][表2]
[図:0001439171000003.jpg]
[0040]表2から、酸化劣化後の酸の生成量並びに導電率を見たとき、分子内に硫黄原子を持たないアルコールやフェールを含まない比較例1の酸の生成量が22、導電率が111μS/cmとなっているのに対し、比較例2~4の酸の生成量は22~27であり、導電率は103~115μS/cmとなっており、実質上、比較例1の組成物と比較例2~4の各組成物の性能はほとんど同じであると考えられるが、実施例1~6の各組成物の場合、酸の生成量は微量で測定困難な量であり、導電率も3.0~8.3μS/cmと低くなっており、含硫アルコール又は含硫フェールを含有することで、基剤の酸化による導電率の上昇が抑えられることが確認された。」
(3)甲5
甲5には、以下の事項が記載されている。なお、甲5は外国語によるものであるところ、特許異議申立書の日本語訳を付記した。
(3-ア)「
[図:0001439171000004.jpg]
」
[図:0001439171000005.jpg]
(4)文献C
文献Cには、以下の事項が記載されている。
(4-ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 有機硫黄系化合物、有機りん系化合物、フェノール系化合物からなる群より選ばれた少なくとも一種を有効成分として含有することを特徴とする染料の耐熱性向上剤。
・・・
【請求項3】 染料がトリフェニルメタン系染料である請求項1または請求項2のいずれかに記載の染料の耐熱性向上剤。
・・・
【請求項7】 有機硫黄系化合物、有機りん系化合物、フェノール系化合物からなる群より選ばれた少なくとも一種を有効成分として含有する染料の耐熱性向上剤と染料とからなる耐熱性染料を用いて基材を着色することを特徴とする着色物の製造方法。」
(4-イ)「【0003】
【発明が解決しようとする課題】ところが、色相の優れた染料を使用したい場合であっても、この染料が耐熱性に劣るときには、この染料を高温下にさらされる箇所には使用できないことになる。たとえば、トリフェニルメタン系染料は、色相が非常に優れた青色染料として知られているが、約150~180℃以上になると退色するものがあり、このため高温化では使用できないことがある。この場合、色相は劣るが耐熱性のあるアントラキノン系染料を使用せざるを得ないことになる。
【0004】したがって、この発明は、使用したい色相の染料に耐熱性を付与する耐熱性向上剤を提供することを目的としている。また、この発明は、耐熱性を有する染料を提供することを目的としている。さらに、この発明は、耐熱性を有する着色物の製造方法を提供することを目的としている。
・・・
【0009】有機硫黄系化合物、有機りん系化合物、フェノール系化合物は、染料の耐熱性を向上させる機能を有する。・・・
【0010】有機硫黄系化合物としては、たとえば、β-チオジグリコール、・
・・などが挙げられる。」
(5)文献D
文献Dには、以下の事項が記載されている。なお、文献Dは外国語によるものであるから、合議体による日本語訳にて記載する。
(5-ア)「実施例6
[0123]H+型カチオン樹脂及びOH-型陰イオン樹脂の混床イオン交換樹脂と低導電率を有する様々な処理/伝熱流体着色剤の適合性を評価した。
[0124]50重量%エチレングリコール+50重量%DI水中の50mg/l着色剤溶液を調製した。この溶液100gをビーカーに加えた。この溶液にMTO Dowex MR-3LC NG混合床樹脂2gを加えた。溶液を室温で清浄なテフロン被覆マグネットバーを使用して攪拌を維持した。溶液中の着色剤の濃度をUV-Vis分光測定により測定した。試験中に使用した着色剤は・・・L85071 Liquitint Blue REであった。・・・632nmの最大吸収ピークを、Liquitint Blue Re染料の濃度を決定するために使用した。以下の結果が得られた。
[0125]・・・L85071 Liquitint Blue REの濃度は変化が少なく、つまり、初期濃度50ppmに対して21.5時間で48ppmであり、非導電性伝熱流体着色剤として使用できることが示唆される。」
(6)文献E
文献Eには、以下の事項が記載されている。なお、文献Eは外国語によるものであるから、合議体による日本語訳にて記載する。
(6-ア)「
「ポリ(オキシアルキレン)置換着色剤は、繊維用の褪色防止剤(Kuhn、US3,157,633)、熱硬化性樹脂および熱可塑性樹脂用の着色剤(Cross et al.、US4,284,729、Baumgartner et al.、US4,640,690)、スプレーパターンインジケーター(Brendle、US5,387,745)、及び柔軟剤用の着色剤(WO94/10285)や、サウスカロライナ州スパルタンバーグのMilliken Chemicalから入手可能なLiquitint製品ラインの消費者製品としての用途が開示されている。」(第2頁第2欄第4~12行)
2 甲2に記載された発明
前記1(1)の甲2には、摘記事項(1-エ)のとおり、実施例1として、エチレングリコール50重量%とDI水50重量%に、Liquitint Blue RE等の着色剤50mg/lを加えて導電率を評価したこと(0091)及びその結果からみて、Liquitint Blue RE等は、本質的に非導電性ポリマー着色剤であるため、燃料電池で使用する伝熱流体として好適であること(段落0098~0099)が記載されている。
そうすると、甲2には、「エチレングリコール50重量%とDI水50重量%に、Liquitint Blue REを50ppm加えた燃料電池用着色伝熱流体」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。
3 取消理由(甲2を主引用例とする進歩性欠如)について(前記第4 2~4の取消理由及び前記第4 1(1)ウの特許異議申立ての理由に相当)
(1)対比
本件訂正発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「エチレングリコール50重量%とDI水50重量%」は、本件訂正発明の「水及びエチレングリコール」に相当する。
引用発明の「Liquitint Blue RE」は、甲2(摘記事項(1-エ))に記載のとおり、本質的に非導電性ポリマー着色剤であり、前記1(3)の甲5(摘記事項(3-ア))に記載のとおり、Liquitint着色剤は水溶性であるから、本件訂正発明の「水溶性高分子染料」に相当する。
また、甲2には、摘記事項(1-ア)のとおり、自動車用燃料電池スタックにおいて使用される個々の燃料電池の伝熱流体システムにおいて、「低導電率」の伝熱流体を提供することが課題であること(段落0013~0015)が記載されており、当該伝熱流体が冷却媒体として機能することも自明であるから、引用発明の「燃料電池用着色伝熱流体」は、本件訂正発明の「燃料電池車用着色冷却液組成物」に相当する。
そうすると、本件訂正発明と引用発明との一致点及び相違点は次のとおりである。
<一致点>
「水及びエチレングリコール、及び、水溶性高分子染料を含有する燃料電池車用着色冷却液組成物」
<相違点1>
本件訂正発明は、水溶性高分子染料が「ポリエチレングリコール鎖にトリアリールメタン系染料が結合してなる」のに対して、引用発明は、そのように特定されていない点
<相違点2>
本件訂正発明は、「チオジグリコール」を含有するのに対して、引用発明は、そのように特定されていない点
(2)相違点についての判断
ア 相違点1について
(ア)甲2(摘記事項(1-ア))に記載のとおり、Liquitint Blue RE着色剤中の発色団の種類はトリアリールメタンであり、また、前記1(6)の文献E(摘記事項(6-ア))に記載のとおり、Liquitint製品ラインは、ポリアルキレンオキシ置換の着色剤であることが知られている。そうすると、Liquitint Blue REは、トリアリールメタンのポリアルキレンオキシ置換の着色剤であることは当業者に自明であるし、特にポリエチレンオキシ(ポリエチレングリコール鎖)による置換体、すなわち、ポリエチレングリコール鎖にトリアリールメタン発色団が結合してなるものである蓋然性が高い。
(イ)ここで、仮にポリアルキレンオキシがポリエチレンオキシ(ポリエチレングリコール鎖)とまではいえないとしても、甲2には、摘記事項(1-ウ)のとおり、非導電性着色剤は、アルキレンオキシ基またはアルコキシ基、およびアントラキノン、トリアリールメタン等の発色団を含有し(段落0040)、好適には次の式:R{Ak[(B)nR1]m}xで記載できるものであり、式中、Rは、アントラキノン、トリアリールメタン等から選択される有機発色団、Bは2~4個の炭素原子を含有する1つ以上のアルキレンオキシ構成要素の群から選択され、nは1~30であること(段落0041、0042)、例えば、トリアリールメタン系液体着色剤を調製するために、芳香族アミンを適切な量のアルキレンオキシドまたはアルキレンオキシドの混合物(例えば、エチレンオキシドなど)と反応させ、それを芳香族アルデヒドと縮合させ、得られた縮合生成物を酸化して、トリアリールメタン液体着色剤を形成すること(段落0043)が記載されているところ、引用発明において、着色剤として、トリアリールメタン発色団のポリアルキレンオキシ置換が、ポリエチレンオキシ(ポリエチレングリコール鎖)置換であるものを用いることは、当業者が容易に想到できたことである。
(ウ)また、本件特許明細書には、「実施例1~6によれば、染料として水溶性高分子染料を採用し、かつ特定の酸化防止剤を含有させることにより、長期でのイオン交換樹脂適合性、耐酸化劣化性に優れ・・・また、染料として水溶性高分子染料を採用するものの、酸化防止剤を含有させない実施例7及び9~11・・・によれば、イオン交換樹脂適合性は優れ・・・これに対して、高分子染料ではない従来の染料を用いた比較例1及び2によれば、イオン交換樹脂適合性に劣っていた。」(段落0025)と記載されており、すなわち、本件訂正発明の水溶性高分子染料を採用することにより、イオン交換樹脂適合性に優れることが記載されているところ、その点についても検討する。
(エ)前記1(5)の文献Dには、摘記事項(5-ア)のとおり、イオン交換樹脂と低導電率を有する伝熱流体着色剤の適合性評価において、50重量%エチレングリコール+50重量%DI水中の50mg/l着色剤(Liquitint Blue RE)溶液、すなわち、引用発明と同等の組成物を用いた試験の結果から、Liquitint Blue REの濃度の変化は少なく、非導電性伝熱流体の着色剤として使用できることが示唆される(段落0123~0125)と記載されている。そうすると、引用発明の着色剤が、同様にイオン交換樹脂適合性に優れることは、当業者が予測できた範囲内のことである。
イ 相違点2について
(ア)前記1(2)の甲3には、摘記事項(2-ア)~(2-ウ)のとおり、燃料電池作動中に冷却液中において基剤として使用されているグリコール類やアルコール類が酸化し、僅かではあるがイオン性物質を生成し、この結果低導電率が維持できなくなる、燃料電池の冷却系統の経路にイオン交換樹脂を配置し、冷却液中のイオン性物質を除去して、冷却液の導電率の上昇を抑えることも考えられるが、この場合、イオン交換樹脂は、基剤の酸化により生成されるイオン性物質の除去に費やされ、当該イオン交換樹脂のイオン交換量は速やかに低下し、交換寿命が著しく低下するという課題に対し、含硫アルコール又は含硫フェノールを含有することで、基剤の酸化による冷却液の導電率の上昇を抑えられ、具体的には10μS/cm以下の導電率が維持され、長期に渡って使用した場合でも、当該冷却液の導電率の変動が0~10μS/cmの範囲内に維持されること(段落0006~0009、0016)、含硫アルコール又は含硫フェノールの好ましい具体例としてチオジグリコールを挙げられ(段落0018)、イオン交換水及びエチレングリコールを基剤とし、チオジグリコールを添加した実施例5では、基剤の酸化による導電率の上昇が抑えられたこと(段落0035~0040)が記載されている。
(イ)一方、甲2には、摘記事項(1-ア)のとおり、燃料電池等の代替動力源と熱連通している伝熱システムで使用することを意図した「低導電率」の伝熱流体を提供する必要がある(段落0015)と記載されているとおり、引用発明も伝熱流体の低導電率という課題を有する点において共通するものであるところ、引用発明において、基剤の酸化による導電率の上昇を抑制し、特に長期に渡って使用した場合でも導電率を10μS/cm以下に維持するために、基剤にチオジグリコールを添加してみることは、当業者が容易に想到できたことである。
(ウ)また、本件特許明細書には、「実施例1~6および13、14では・・・特定の酸化防止剤を使用することにより、100℃で504時間という長期間の負荷をかけた後にも着色剤が残存し導電率の変化、劣化生成物量も少なく抑えられており、耐酸化劣化性にも優れ、より好ましい。」(段落0025)と記載されており、すなわち、本件訂正発明の特定の酸化防止剤を使用することにより、水溶性高分子染料の耐酸化劣化性にも優れることが記載されているところ、その点についても検討する。
(エ)甲3に記載のとおり、チオジグリコール等の含硫アルコールが酸化防止剤として機能することを踏まえれば、引用発明において、チオジグリコールを添加することにより、水溶性高分子染料の酸化に起因する色褪せや劣化を抑制し得ることはある程度予測できたものといえる。しかしながら、本件特許明細書には、本件訂正発明に相当する実施態様(実施例1、4)において、試験開始504h経過後吸光度残存率は98%、99%(段落0021、表1)であることが記載されており、すなわち、水溶性高分子染料の耐酸化劣化性が顕著に優れることが記載されており、前記甲3の記載をもって、このような顕著な効果までを当業者が予測できたとはいえない。また、前記1(4)の文献Cには、摘記事項(4-ア)、(4-イ)のとおり、チオジグリコール等の有機硫黄系化合物が、約150~180℃以上で退色するトリフェニルメタン系染料の耐熱性を改善すること(特許請求の範囲、段落0003、0004、0009、0010)が記載されており、チオジグリコール等の添加により、トリフェニルメタン系染料の高温下での劣化を改善し得ることは公知である。しかしながら、文献Cでは、「染料の耐熱性向上剤と染料とからなる耐熱性染料を用いて基材を着色」(請求項7)した場合に、着色物の高温下(約150~180℃以上)での劣化を改善し得ることが示唆されているのみであるから、この示唆をもって、本件訂正発明のように、トリアリールメタン系染料が水及びエチレングリコールからなる基剤と共存し、100℃の加熱でも酸化劣化を生じる態様においても、チオジグリコール等の添加により、染料の耐酸化劣化性が十分に改善し得ること、特に、本件訂正発明に相当する実施態様と同等の顕著に優れた耐酸化劣化性の効果までを当業者が予測できたとはいえない。
(3)小括
したがって、本件訂正発明は、甲2に記載された発明、甲2及び甲3に記載された事項並びに周知技術(要すれば甲5、文献C~文献E等参照)に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
よって、本件訂正発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではないから、その発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当せず、前記第4 2~4の取消理由及び前記第4 1(1)ウの特許異議申立ての理由によって取り消すべきものではない。
第7 取消理由で採用しなかった特許異議申立ての理由について
1 甲1を主引用例とする新規性欠如、進歩性欠如について(前記第4 1(1)ア及びイの特許異議申立ての理由に相当)
ア 申立人は、特許異議申立書において、甲1から以下の甲1-1発明~甲1-3発明(以下、まとめて「甲1発明」ともいう。)を認定し、本件訂正前の請求項1~3に係る発明は、甲1に記載された発明であり、新規性がないし、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に想到できたものであり、進歩性がない旨主張する。
<甲1-1発明>
A’ 水溶性高分子染料、及び、
B’ 腐食防止剤であるメルカプトベンゾチアゾール及び/又はモノエタノールアミンを含有する、
C’ 動力用着色冷却液組成物。
<甲1-2発明>
D’ 甲1-1発明に対し、さらに水、エチレングリコール及び多価アルコールを含有する、
(C’)動力用着色冷却液組成物。
<甲1-3発明>
D1’ 甲1-2発明において、エチレングリコールを含有する、
(C’)動力用着色冷却液組成物。
イ そこで、本件訂正発明と甲1発明とを対比すると、両者は少なくとも以下の相違点2’で相違する。
<相違点2’>
本件訂正発明は、「チオジグリコール」を含有するのに対して、甲1発明は、そのように特定されていない点
ウ 前記相違点2’について検討する。
申立人は、特許異議申立書において、甲1発明は、腐食防止剤であるメルカプトベンゾチアゾール及び/又はモノエタノールアミンを含有し、ここで、腐食防止剤とは酸化防止剤の一態様とみることができるし、モノエタノールアミンは、本件特許明細書の段落0014に酸化防止剤として例示されているアミノアルコール類に該当し、甲1発明においても、モノエタノールアミンは酸化防止剤として機能している旨主張している。しかしながら、甲1には、腐食防止剤として、メルカプトベンゾチアゾールに加え、多数の化合物が挙げられているものの(第3欄第14~33行)、チオジグリコールは記載も示唆もされていないし、甲1の記載全体を参酌しても、モノエタノールアミンをチオジグリコールで転換し得るとの記載や示唆も見当たらない。
エ したがって、前記アの申立人の主張は採用できず、本件訂正発明は、甲1に記載された発明ではないし、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
オ なお、前記第6 3(2)イ(ア)のとおり、甲3には、燃料電池作動中に冷却液中において基剤として使用されているグリコール類やアルコール類が酸化し、僅かではあるがイオン性物質を生成し、この結果低導電率が維持できなくなること、含硫アルコール又は含硫フェノールを含有することで、基剤の酸化による冷却液の導電率の上昇を抑えられること、含硫アルコール又は含硫フェノールの好ましい具体例としてチオジグリコールを挙げられることが記載されている。一方で、甲1発明は、動力用着色冷却液組成物であるものの、甲1の記載によれば、内燃エンジンにおける冷却液としての使用に適するものであり(第2欄第63~66行)、甲1の記載全体を参酌しても、燃料電池の冷却液としての使用が示唆されるものではない。そうすると、甲1発明において、前記甲3に記載された技術、すなわち、冷却液にチオジグリコール等を含有させて導電率の上昇を抑える技術を適用する動機付けがあるとはいえない。
カ よって、本件訂正発明は、特許法第29条第1項第3号により特許を受けることができないものではないし、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものでもないから、その発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当せず、前記第4 1(1)ア及びイの特許異議申立ての理由によって取り消すべきものではない。
2 サポート要件違反について(前記第4 1(2)の特許異議申立ての理由に相当)
本件訂正発明は、訂正事項1のとおり、水溶性高分子染料を「ポリエチレングリコール鎖にトリアリールメタン系染料が結合してなる水溶性高分子染料」に特定し、訂正事項2のとおり、酸化防止剤を「チオジグリコール」に特定している。
一方、本件特許明細書には、本件訂正発明の実施態様に相当する実施例1、4について、「染料として水溶性高分子染料を採用し、かつ特定の酸化防止剤を含有させることにより、長期でのイオン交換樹脂適合性、耐酸化劣化性に優れ・・・中でも、酸化防止剤としてチオジグリコールを採用した実施例1~5は全ての結果が優れていた」(段落0025)との記載とともに、段落0021の表1に具体的な評価結果が記載されており、これらの記載により、前記特定の水溶性高分子染料及び酸化防止剤を含有する本件訂正発明は、段落0004に記載された課題を解決できるものであるから、本件訂正発明は発明の詳細な説明に記載したものである。
したがって、本件訂正発明は、発明の詳細な説明に記載された発明であって、特許法第36条第6項第1号に適合するものであるから、この発明に係る特許は、同法第113条第4号に該当せず、前記第4 1(2)の特許異議申立ての理由によって取り消されるべきものではない。
3 明確性要件違反について(前記第4 1(3)の特許異議申立ての理由に相当)
本件訂正発明は、訂正事項2のとおり、酸化防止剤を「チオジグリコール」に特定しており、その用語の外縁は明確であるから、特許を受けようとする発明が明確であり、特許法第36条第6項第2号に適合するものであるから、この発明に係る特許は、同法第113条第4号に該当せず、前記第4 1(3)の特許異議申立ての理由によって取り消すべきものではない。
第8 むすび
前記第6及び第7のとおり、本件訂正発明に係る特許は、前記第4 1(1)~(3)の特許異議申立ての理由、前記第4 2~4の取消理由によっては、取り消すことができない。
また、他に本件訂正発明に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、本件訂正により請求項2~4は削除され、請求項2~4に係る特許異議の申立ては対象となる請求項が存在しないものとなったから、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
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2024-700488