特許異議申立
2017-700919
積層フィルムおよび透明導電性フィルム
- 審判番号
- 2017-700919
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2013-191511外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2017年09月28日
- 審決日
- 2018年02月20日
- 公報発行日
- 2018年05月25日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】東レフィルム加工株式会社
- 【権利者代理人】一條 力
- 【異議申立人】高橋 麻衣子
- 分類
- P1651.113-YAA(B32B) / P1651.121-YAA(B32B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6103306号発明「積層フィルムおよび透明導電性フィルム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6103306号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項〔1-9〕について訂正することを認める。
特許第6103306号の請求項1~9に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
第1.手続の経緯
特許第6103306号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~9に係る特許についての出願は、平成25年9月17日の出願であって、平成29年3月10日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、同年9月28日に特許異議申立人高橋麻衣子(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、同年11月8日付けで取消理由が通知され、指定期間内である同年12月26日に意見書の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正請求」といい、その訂正自体を単に「本件訂正」という。)がされ、その訂正の請求に対して申立人から平成30年2月13日に意見書が提出されたものである。
第2.本件訂正の適否についての判断
1.訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、特許請求の範囲の請求項1に「基材フィルムの少なくとも一方の面に樹脂層が積層され、」と記載されているのを、「基材フィルムの少なくとも一方の面に樹脂層が積層され(ただし、東洋紡株式会社製“コスモシャイン(登録商標)”A4300を除く)、」に訂正するものである。(請求項1の記載を引用する請求項2~9も同様に訂正する。)
2.本件訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否、一群の請求項について
本件訂正は、請求項1に、「ただし、東洋紡株式会社製“コスモシャイン(登録商標)”A4300を除く」という要件を直列的に付加するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し、また、この訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。
さらに、この訂正は、請求項1に、「ただし、東洋紡株式会社製“コスモシャイン(登録商標)”A4300を除く」という要件を直列的に付加するものであって、請求項に係る発明が引用発明と重なるために新規性等(特許法第29条第1項第3号等)が否定されるおそれがある場合にその重なりのみを除くものであるから、新たな技術的事項を導入するものではなく、新規事項を付加するものではない。
そして、訂正前の請求項1~9について、請求項2~9は請求項1を引用しているものであって、この訂正によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、この訂正は、一群の請求項〔1-9〕に対して請求されたものである。
3.小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による本件訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項及び同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1-9〕について訂正を認める。
第3.特許異議の申立てについて
1.本件発明
本件訂正が認められることにより、本件特許の特許請求の範囲の請求項1~9に係る発明(以下「本件発明1」~「本件発明9」という。)は、本件訂正請求に係る訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~9にそれぞれ記載されたとおりのものと認められ、そのうち、請求項1には、以下の記載がある。
「【請求項1】
基材フィルムの少なくとも一方の面に樹脂層が積層され(ただし、東洋紡株式会社製“コスモシャイン(登録商標)”A4300を除く)、前記樹脂層上に第1活性エネルギー線硬化性樹脂層が直接に積層されており、前記第1活性エネルギー線硬化性樹脂層は粒子を含有し、この粒子による突起を第1活性エネルギー線硬化性樹脂層表面に有する積層フィルムであって、前記第1活性エネルギー線硬化性樹脂層の厚み(d)が2μm未満、前記第1活性エネルギー線硬化性樹脂層の厚み(d:μm)に対する前記粒子の平均粒子径(r:μm)の比率(r/d)が0.5以下であり、かつ前記樹脂層表面のぬれ張力が52mN/m以下であることを特徴とする、積層フィルム。」
2.取消理由の概要
本件発明1~9に係る特許に対して平成29年11月8日付けで通知した取消理由の要旨は、以下のとおりである。なお、特許異議申立書に記載された申立理由は、すべて通知した。
以下、甲第1号証等を「甲1」等という、また、甲1に記載された発明を「甲1発明」、甲1等に記載された事項を「甲1事項」等という。
(理由1)本件発明1~3、5、6は、甲2~5事項に鑑みると甲1発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
(理由2)本件発明1~9は、甲1発明及び甲2~8事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
甲1:特開2012-27401号公報
甲2:東洋紡株式会社ホームページ 「光学 コスモシャイン 超高透明ポリエステルフィルム」
http://www.toyobo.co.jp/seihin/film/kogyo/list/optics/index.html
甲3:特許決定第1318073号公報(異議2016-700453号)
甲4:特開2009-194071号公報
甲5:特開2013-67737号公報
甲6:特開2012-92236号公報
甲7:国際公開第2006/109419号
甲8:特開2011-167914号公報
3.甲各号証の記載事項
(1)甲1発明
甲1(特に段落0062、0096~0102参照)には、以下の甲1発明が記載されている。
《甲1発明》
東洋紡績株式会社製「A4300」であるポリエステルフィルム2の裏面上に第2のハードコート層4が直接に積層されており、第2のハードコート層4形成用の紫外線硬化型樹脂組成物としてアクリル系紫外線硬化型樹脂にシリカ粒子を分散させたものを用い、シリカ粒子の一部が第2のハードコート層4の表面から突出するフィルムであって、第2のハードコート層4の厚みが1.0μm、シリカ粒子の平均粒子径が100nmである、フィルム。
(2)甲2事項
甲2には、以下の甲2事項が記載されている。
《甲2事項》
東洋紡株式会社製超高透明ポリエステルフィルム“コスモシャイン”A4300には、両面易接着処理がなされている。
(3)甲3事項
甲3(特に1頁32-37行(空白行は除いて数える。以下同様。)、2頁24-33行、4頁17-21行、8頁24-33行を参照。)には、以下の甲3事項が記載されている。
《甲3事項》
東洋紡績株式会社製コスモシャインA4300は、基材層の表裏面にハードコート接着層を積層したフィルムであり、この接着層は樹脂層といい得る。
(4)甲4事項
甲4(特に段落0048を参照。)には、以下の甲4事項が記載されている。
《甲4事項》
東洋紡製A4300は、両面に水系ポリエステルからなる易接着材層21b、21cが形成されたPET製透明基材である。
(5)甲5事項
甲5(特に段落0088、0101、0104の表1を参照。)には、以下の甲5事項が記載されている。
《甲5事項》
東洋紡績(株)社製コスモシャインA4300の、JIS K6768に準拠して評価した濡れ張力は50mN/mである。
(6)甲6事項
甲6(特に段落0039、0042を参照。)には、以下の甲6事項が記載されている。
《甲6事項》
ハードコートフィルムにおいて、耐ブロッキング性に適しかつクリア性を損なわない表面粗さとしては、ハードコート層の算術表面粗さRaが2~20nmであることが好ましい。
(7)甲7事項
甲7(特に段落0006、0009を参照。)には、以下の甲7事項が記載されている。
《甲7事項》
光学積層体において、光学特性にも優れたハードコート層を提供するため、基材として緩衝縞防止用のポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを用いた場合は、基材の屈折率が1.65、基材状のハードコート層との密着性を出すために必要なプライマー層の屈折率は1.55から1.57、ハードコート層の屈折率は1.47から1.53程度がよい。
(8)甲8事項
甲8(特に請求項1、7、段落0019、0096を参照。)には、以下の甲8事項が記載されている。
《甲8事項》
透明プラスチック基材フィルムの少なくとも片面に中間層を介して硬化型樹脂を主たる構成成分とする硬化物層を有する積層フィルムにおいて、硬化物層面に透明導電性薄膜層を設ける。
4.当審の判断
(1)本件発明1について
ア.対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明における第2のハードコート層4は、紫外線硬化型樹脂組成物としてアクリル系紫外線硬化型樹脂を用いるものであるから、本件発明1の「第1活性エネルギー線硬化性樹脂層」に相当する。
また、甲1発明における第2のハードコート層4は、厚みが1.0μmである限りにおいて、本件発明1の「厚み(d)が2μm未満」である「第1活性エネルギー線硬化性樹脂層」と一致する。
甲1発明における「シリカ粒子」は、その一部が第2のハードコート層4の表面から突出するものであるから、本件発明1における「第1活性エネルギー線硬化性樹脂層」に突起を形成する「粒子」に相当する。
甲1発明における「厚みが1.0μm」である「第2のハードコート層4」及び「平均粒子径が100nm」であるシリカ粒子は、層の厚みに対する粒子の平均粒子径の比率が0.1である限りにおいて、「第1活性エネルギー線硬化性樹脂層の厚み(d:μm)に対する前記粒子の平均粒子径(r:μm)の比率(r/d)が0.5以下」である本件発明1と一致する。
イ.一致点・相違点
そうすると、本件発明1と甲1発明における一致点及び相違点は、以下のとおりである。
《一致点》
フィルム上に第1活性エネルギー線硬化性樹脂層が直接に積層されており、前記第1活性エネルギー線硬化性樹脂層は粒子を含有し、この粒子による突起を第1活性エネルギー線硬化性樹脂層表面に有する積層フィルムであって、前記第1活性エネルギー線硬化性樹脂層の厚み(d)が2μm未満、前記第1活性エネルギー線硬化性樹脂層の厚み(d:μm)に対する前記粒子の平均粒子径(r:μm)の比率(r/d)が0.5以下である、積層フィルム。」
《相違点》
本件発明1が「基材フィルムの少なくとも一方の面に樹脂層が積層」され、「前記樹脂層表面のぬれ張力が52mN/m以下」であり、かつ「ただし、東洋紡株式会社製“コスモシャイン(登録商標)”A4300を除く」フィルムを用いるのに対し、甲1発明は「東洋紡績株式会社製「A4300」であるポリエステルフィルム」を用いるものである点。
ウ.判断
(ア)取消理由1(特許法第29条第1項第3号)について
上記イ.に示したとおり本件発明1と甲1発明との間には相違点が存在し、この相違点は実質的な相違点であるから、本件発明1は甲1発明ではない。
(イ)取消理由2(特許法第29条第2項)について
甲1発明において、ポリエステルフィルムについて、東洋紡株式会社製「A4300」以外のものに置き換えるとともに、そのフィルムを「基材フィルムの少なくとも一方の面に樹脂層が積層」され、「前記樹脂層表面のぬれ張力が52mN/m以下」であるものとすることは、甲1、あるいは甲2~8に記載も示唆もされておらず、そのようにする動機づけもない。
これに対し本件発明1は、「東洋紡株式会社製“コスモシャイン(登録商標)”A4300を除く」フィルムを用いながら、そのフィルムを「基材フィルムの少なくとも一方の面に樹脂層が積層」され、「前記樹脂層表面のぬれ張力が52mN/m以下」であるものとすることで、本件特許の明細書の段落0024に記載のように、「第1活性エネルギー線硬化性樹脂層表面に粒子による突起が十分に形成されず、良好な耐ブロッキング性が得られない」という事態を防ぐという格別な効果を得るものである。
よって、本件発明1は、甲1発明および甲2~8事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
エ.申立人の意見について
(ア)平成30年2月13日付け意見書の「3.ア.」において申立人は、参考資料1~3を挙げて、東洋紡株式会社製“コスモシャイン(登録商標)”A4300以外にも、基材フィルムの少なくとも一方の面に樹脂層(易接着層)が積層され、樹脂層(易接着層)表面のぬれ張力が52mN/m以下であるものは周知の技術である旨を主張する。
しかし、本件発明1のように「第1活性エネルギー線硬化性樹脂層は粒子を含有し、この粒子による突起を第1活性エネルギー線硬化性樹脂層表面に有する積層フィルム」において、基材フィルムの少なくとも一方の面に樹脂層が積層され、前記樹脂層表面のぬれ張力が52mN/m以下にすることは、参考資料1~3には記載も示唆もされていない。
そして、上記ウ.(イ)で示したとおり、本件発明1は、「東洋紡株式会社製“コスモシャイン(登録商標)”A4300を除く」フィルムを用いながら、そのフィルムを「基材フィルムの少なくとも一方の面に樹脂層が積層」され、「前記樹脂層表面のぬれ張力が52mN/m以下」であるものとすることで、本件特許の明細書の段落0024に記載のように、「第1活性エネルギー線硬化性樹脂層表面に粒子による突起が十分に形成されず、良好な耐ブロッキング性が得られない」という事態を防ぐという格別な効果を得るものである。このような効果を得ることも、参考文献1~3には記載も示唆もされていない。
よって、申立人の意見書の「3.ア.」に係る主張を採用することはできない。
(イ)同意見書の「3.イ.」において申立人は、本件特許の明細書の段落0249の表1において、比較例9および10ではぬれ張力が53mN/mおよび54mN/mである場合に耐ブロッキング性が○評価であり、樹脂層表面のぬれ張力が52mN/mを超えても、対ブロッキング性が良好になるという実験事実が示されているから、表面のぬれ張力が52mN/mである樹脂層が積層された機材フィルムを用いることに起因する効果は本件特許の明細書には示されていない旨を主張する。
しかし、当該表1においては、本件発明1と同様に「第1活性エネルギー線硬化性樹脂層の厚み(d)が2μm未満」であるもの(実施例1~8、比較例1~4)について、樹脂層の表面のぬれ張力が52mN/m以下で耐ブロッキング性が○または△であり、52mN/mより大きいと耐ブロッキング性が×であることが示されている。よって、表面のぬれ張力が52mN/mである樹脂層が積層された機材フィルムを用いることに起因する効果は、本件特許の明細書には示されているということができる。
よって、申立人の意見書の「3.イ.」に係る主張を採用することはできない。
(2)本件発明2~9について
本件発明2~9は、本件発明1の発明特定事項をすべて含み、さらに限定されたものである。よって、本件発明1と同様の理由で、本件発明2、3、5、6は甲1発明ではなく、本件発明2~9は、甲1発明及び甲2~8事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
第4.むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立書に記載された理由をすべて含む取消理由通知に記載した取消理由によっては、本件発明1~9に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1~9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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