特許異議申立
2017-700463
加熱撹拌に対する安定性を備えた乳化色素製剤及びその利用
- 審判番号
- 2017-700463
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2012-128994
- 登録番号
- 特許第6027345号(P6027345)
- 請求日
- 2017年05月12日
- 審決日
- 2017年10月19日
- 公報発行日
- 2017年12月28日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】グリコ栄養食品株式会社
- 【権利者代理人】田中 順也
- 【権利者代理人】水谷 馨也
- 【異議申立人】松山 徳子
- 審判長/審判官
- 審判長 紀本 孝
- 審判官 佐々木 正章
- 審判官 莊司 英史
- 分類
- P1651.121-Y (A23L) / P1651.537-Y (A23L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6027345号発明「加熱撹拌に対する安定性を備えた乳化色素製剤及びその利用」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6027345号の請求項1~10に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第6027345号の請求項1~10に係る特許についての出願は、平成24年6月6日に出願したものであって、平成28年10月21日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、特許異議申立人松山徳子により特許異議申立がなされ、当審において平成29年7月19日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成29年9月22日に意見書が提出されたものである。
第2 特許異議申立について
1 本件発明
請求項1~10に係る発明(以下「本件発明1~10」、また、これらをあわせて「本件発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1~10に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
【請求項1】
カロテノイド色素、アラビアガム、水、及び1価の低級アルコールを含有し、且つアラビアガム以外の乳化剤と多価アルコールを実質的に含まない乳化色素製剤を、飲食品原料に添加して加熱撹拌する工程を含むことを特徴とする、カロテノイド色素含有飲食品の製造方法。
【請求項2】
前記アラビアガムが、脱塩化されたアラビアガムである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記1価の低級アルコールがエタノールである、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記カロテノイド色素が、トウガラシ色素である、請求項1~3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
前記乳化色素製剤における乳化粒子の平均粒径が0.1~2μmである、請求項1~4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
カロテノイド色素、アラビアガム、水、及び1価の低級アルコールを含有し、且つアラビアガム以外の乳化剤と多価アルコールを実質的に含まないことを特徴とする、加熱撹拌に供される飲食品原料に対して使用される乳化色素製剤。
【請求項7】
前記アラビアガムが、脱塩化されたアラビアガムである、請求項6に記載の乳化色素製剤。
【請求項8】
1価の低級アルコールがエタノールである、請求項6又は7に記載の乳化色素製剤。
【請求項9】
前記カロテノイド色素が、トウガラシ色素である、請求項6~8のいずれかに記載の乳化色素製剤。
【請求項10】
乳化粒子の平均粒径が0.1~2μmである、請求項6~9のいずれかに記載の乳化色素製剤。
2 取消理由の概要
当審において、請求項1~10に係る特許に対して通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
(1)特許法第29条第2項について
請求項1~10に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証~甲第4号証に記載された事項、又は甲第3号証に記載された発明及び甲第5号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
甲第1号証:特公昭61-28702号公報
甲第2号証:太田静行 他2名、「光琳テクノブックス9 たれ類-その製造と利用-」、株式会社 光琳、平成12年4月20日発行、p.162、163、173-176、179、184、202、219、220、228
甲第3号証:特開2007-289124号公報
甲第4号証:特開昭56-42565号公報
甲第5号証:片山豪、「アラビアガムを用いた油溶性色素の水溶化技術」、別冊フードケミカル10 食品着色料総覧、株式会社 食品化学新聞社、平成20年3月1日発行、p.37-40
(2)特許法第36条第6項第1号について
請求項1~10に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものでないから、特許法第36条第6項第1号の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
2 当審の判断
(1)特許法第29条第2項について
ア 甲第1号証を主引用例とした場合
(ア)甲第1号証記載の発明
甲第1号証の第1欄に「カロチノイド類色素は広く食品分野の着色剤として・・・重宝がられている」と記載されているから、甲第1号証には、カロチノイド類色素を使用した食品の製造方法が記載されているといえる。
したがって、甲第1号証の第1欄~第2欄を参照すると、第4~5欄の実施例(表-1~表-3)には、以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。
「アナトー色素、20%アラビアガム液、水、アルコール(95%エチルアルコール)、を含むカロチノイド類色素を使用した食品の製造方法。」
(イ)対比
本件発明1と甲1発明を対比すると、甲1発明の「アナトー色素」、「20%アラビアガム液」、「アルコール(95%エチルアルコール)」、「カロチノイド類色素」、「カロチノイド類色素を使用した食品」は、それぞれ本件発明1の「カロテノイド色素」、「アラビアガム」、「1価の低級アルコール」、「乳化色素製剤」、「カロテノイド色素含有飲食品」に相当する。
また、甲1発明の「カロチノイド類色素」は、アラビアガム以外の乳化剤及び多価アルコールを含有しないから、本件発明1と同様に「アラビアガム以外の乳化剤と多価アルコールを実質的に含まない」といえる。
甲1発明の「カロチノイド類色素を使用」する態様は、食品の製造過程においてカロチノイド類色素を添加する工程を有することであるから、本件発明1の「乳化色素製剤を、飲食品原料に添加」する「工程」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲1発明とは、以下の点で一致し、以下の点で相違する。
<一致点1>
「カロテノイド色素、アラビアガム、水、及び1価の低級アルコールを含有し、且つアラビアガム以外の乳化剤と多価アルコールを実質的に含まない乳化色素製剤を、飲食品原料に添加する工程を含む、カロテノイド色素含有飲食品の製造方法。」
<相違点1>
乳化色素製剤を、飲食品原料に添加する工程が、本件発明1は、添加して加熱撹拌する工程であるのに対して、甲1発明は、加熱攪拌するとされていない点。
(ウ)当審の判断
上記相違点1について検討する。
甲第2号証には、「4-1-13 着色料」(163頁)の欄に、たれの色どりをさらによくするための着色料として、「アナトー」、「パプリカ」、「ニンジン」及び他の色素が記載されており、また、たれ類の製造法として、材料を混合溶解後、加熱攪拌する「びん詰熱処理」方式と「生パック」方式が記載されている(219~220頁)。
しかし、甲第2号証の「4-1-13 着色料」の欄には、アナトー色素について耐熱性が△(やや悪い、変化のあるもの)であることが記載されて
いるから、甲1発明のカロチノイド類色素を使用した食品を甲第2号証のたれとしたとしても、アナトー色素が熱に弱いことを考慮すると、加熱攪拌する「びん詰熱処理」方式で製造するとはいえないし、「びん詰め熱処理」方式で製造するとしても、加熱することを考慮すると、着色料として、耐熱性がやや悪いアナトー色素を加熱攪拌前に添加することは考え難い。
甲第1号証には、カロチノイド類色素として、アナトー系に並んでパプリカ系やキャロット系の色素を用いることが記載されている(特許請求の範囲、第2欄19~22行)が、甲第1号証に、実施例のアラビアガム液を配合した系において、アナトー色素に変えてパプリカ系色素又はキャロット系色素としたものが記載されているとはいえない。また、甲1発明において、アナトー色素に変えてパプリカ系色素又はキャロット系色素を用いた上で、さらに、当該カロチノイド類色素を甲第2号証の「びん詰熱処理」方式のたれの製造に用いる動機付けは認められない。
そして、甲第3、4号証には、乳化色素製剤を飲食品原料に添加して加熱攪拌をすることについて記載はない。
したがって、本件発明1は、甲1発明及び甲第2~4号証記載の事項から当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
イ 甲第3号証を主引用例とした場合
(ア)甲第3号証記載の発明
甲第3号証の【0011】の乳化組成物を添加して飲料を製造することを参照すると、甲第3号証の実施例1(【0012】、【0013】)には、以下の発明(以下「甲3発明」という。)が記載されている。
「脱金属アラビアガム、イオン交換水、エタノールを含有する乳化組成物を、飲料原料に添加し、飲料を製造する方法。」
(イ)対比
本件発明1と甲3発明を対比すると、甲1発明の「脱金属アラビアガム」、「イオン交換水」、「エタノール」は、それぞれ本件発明1の「アラビアガム」、「水」、「1価の低級アルコール」に相当する。
また、甲3発明は、脱金属アラビアガム以外の乳化剤及び多価アルコールを含有しないから、本件発明1と同様に「アラビアガム以外の乳化剤と多価アルコールを実質的に含まない」といえる。
甲3発明の「脱金属アラビアガム、イオン交換水、エタノールを含有する乳化組成物」と、本件発明1の「カロテノイド色素、アラビアガム、水、及び1価の低級アルコールを含有し、且つアラビアガム以外の乳化剤と多価アルコールを実質的に含まない乳化色素製剤」とは、「アラビアガム、水、及び1価の低級アルコールを含有し、且つアラビアガム以外の乳化剤と多価アルコールを実質的に含まない乳化製剤」の限りで共通し、甲3発明の「乳化組成物を、飲料原料に添加」する態様と、本件発明1の「乳化色素製剤を、飲食品原料に添加して加熱撹拌する工程」とは、「乳化製剤を、飲食品原料に添加する工程」の限りで共通する。
また、甲3発明の「飲料」と、本件発明1の「カロテノイド色素含有飲食品」とは、「食品」の限りで共通する。
そうすると、本件発明1と甲3発明とは、以下の点で一致し、以下の点で相違する。
<一致点2>
「アラビアガム、水、及び1価の低級アルコールを含有し、且つアラビアガム以外の乳化剤と多価アルコールを実質的に含まない乳化製剤を、飲食品原料に添加する工程を含む、食品の製造方法。」
<相違点2>
食品が、本件発明1は、カロテノイド色素を含有する乳化色素製剤を添加したカロテノイド色素含有飲食品であるのに対して、甲3発明は、カロテノイド色素を含有するとされていない飲料である点。
<相違点3>
乳化製剤を、飲食品原料に添加する工程が、本件発明1は、添加して加熱撹拌するのに対して、甲1発明は、加熱攪拌するとされていない点。
(ウ)当審の判断
上記相違点について検討する。
<相違点2について>
甲第3号証には、色素を用いることについて記載も示唆もないから、甲第5号証にアラビアガムがカロテノイド色素などの油溶性色素を乳化する目的で使用することが記載されている(37頁)としても、甲3発明において、カロテノイド色素を使用することの動機付けはない。
<相違点3について>
甲第3号証の【0017】に「70℃×10分の殺菌」を行うことが記載されている。
しかし、飲料の加熱殺菌装置としては、チューブ式、プレート式等の攪拌を伴わない様々な殺菌装置が広く採用されており、甲3発明において、加熱殺菌を行うとしても、必ず攪拌を伴う加熱殺菌(加熱攪拌)を行うとはいえず、そして、攪拌を伴う加熱殺菌を採用する動機付けもない。
<本件発明1の奏する効果について>
本件発明1は、飲食品原料に添加して加熱攪拌を行っても色調変化を生じず、鮮やかな色調を保持するという格別な効果を奏するものである。
ウ 請求項2~10について
請求項2~5は、請求項1の発明特定事項を全て含み、更に限定を付加した発明であるから、上記ア、イで検討したのと同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
また、請求項6は、請求項1のカロテノイド色素含有飲食品の製造方法に用いる乳化色素製剤の発明であるから、上記ア、イで検討したのと同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
さらに、請求項7~10は、請求項6の発明特定事項を全て含み、更に限定を付加した発明であるから、上記ア、イで検討したのと同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
エ 小括
したがって、請求項1~10に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証~甲第4号証に記載された事項、又は甲第3号証に記載された発明及び甲第5号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとはいえない。
(2) 特許法第36条第6項第1号について
ア 特許法第36条第6項第1号違反の概要
取消理由に引用した異議申立の特許法第36条第6項第1号違反の概要は以下のとおりである。
一般的に、有る溶液にエタノール(1価アルコール)を混合する場合と、プロピレングリコール(多価アルコール)を混合する場合を比較すると、エタノールを混合した溶液の法が表面張力が下がることから、油層成分とアラビアガムとからなる水中油滴エマルションを製造する場合、1価のアルコールは、多価のアルコールよりも乳化粒子を不安定にさせることが技術常識である。
したがって、1価のアルコールを用いた方が、多価のアルコールを用いた場合より、加熱、振動に対し強いエマルションを得られるという効果が得られるのは、本件明細書の実施例で示されている組成及び配合で調整した乳化色素製剤のみと考えられるから、本件発明は、発明の詳細な説明に記載された範囲内のものでない。
イ 当審の判断
本件発明は、アラビアガムを使用し、他の乳化剤を使用しないものであるところ、一般的な乳化剤は、1分子に1つの疎水基1つの親水基を有するものであるのに対して、アラビアガムは1分子当たり複数の疎水基と複数の親水基を有しており、構造が異なることから、一般的な乳化剤を使用した乳化組成物とアラビアガムを使用した乳化組成物とでは、同様の結果になるとはいえない。
そして、本件明細書の【0042】から【0053】には、例えば、実施例7と比較例2を比べると、1価のアルコールを用いた方が、多価のアルコールを用いた場合より、加熱攪拌工程に供しても、色調変化が生じずに鮮やかな色調を保つことができることが示されているから、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載されているといえる。
したがって、請求項1~10に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえない。
第4 むすび
したがって、取消理由通知に記載した取消理由によっては、請求項1~10に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1~10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2017-700463