特許異議申立
2017-700398
缶体
- 審判番号
- 2017-700398
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2015-073707外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2017年04月20日
- 審決日
- 2018年03月23日
- 公報発行日
- 2018年06月29日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】東洋製罐株式会社
- 【権利者代理人】特許業務法人 英知国際特許事務所
- 【権利者】日本ナショナル製罐株式会社
- 【権利者代理人】特許業務法人 英知国際特許事務所
- 【異議申立人】横山 佳孝
- 分類
- P1651.121-YAA(B65D) / P1651.536-YAA(B65D) / P1651.537-YAA(B65D)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第126条第5項、特許法第36条第4項第1号、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6012804号発明「缶体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6012804号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項1及び2について訂正することを認める。
特許第6012804号の請求項1及び2に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
第1.手続の経緯
特許第6012804号の請求項1及び2に係る特許についての出願は、平成27年3月31日に特許出願され、平成28年9月30日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、特許異議の申立期間内である平成29年4月20日に特許異議申立人横山佳孝(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、同年6月5日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年8月1日に意見書の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正請求」といい、訂正自体を「本件訂正」という。)がされ、本件訂正請求に対して申立人から同年10月24日付けで意見書が提出され、同年12月14日付けで訂正拒絶理由が通知され、その指定期間内である平成30年1月18日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。
第2.訂正の適否についての判断
1.訂正の内容
平成30年1月18日に提出された手続補正書により補正された、本件訂正請求による訂正の内容は、以下のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「B=L+Y2-Y1を定義し」とあるのを、「B=L+Y1-Y2を定義し」に訂正する。
(2)訂正事項2
明細書の段落0009に「B=L+Y2-Y1を定義し」とあるのを、「B=L+Y1-Y2を定義し」に訂正する。
(3)訂正事項3
明細書の段落0023に
「α=(A+B)・E/Z
但し、
0<L<Y2の場合、
A=X・(L+Y1-Y2)/Y1,B=L+Y2-Y1
L≧Y2の場合、
A=X・(Y1+Y2-L)/Y1,B=L+Y1-Y2」とあるのを、
「α=(A+B)・E/Z
但し、
0<L<Y2の場合、
A=X・(L+Y1-Y2)/Y1,B=L+Y1-Y2
L≧Y2の場合、
A=X・(Y1+Y2-L)/Y1,B=L+Y1-Y2」に訂正する。
(4)訂正事項4
訂正事項4は、上記補正により削除された。
(5)訂正事項5
訂正事項5は、上記補正により削除された。
(6)訂正事項6
明細書の段落0032の表4について、「L≧Y2」、「0<L<Y2」の両欄を削除する。また、「成形高さ2.85mm、リフォーム径d0=47.6」の欄に「2.22」とあるのを「2.23」に訂正する。
(7)訂正事項7
明細書の段落0033の表5について、「L≧Y2」、「0<L<Y2」の両欄を削除する。
(8)訂正事項8
明細書の段落0037に
「表4に示す評価指数αの値で、成形高さが2.85mmの場合には、リフォーム径d0=46.6mm~47.6mmの範囲で全て0<L<Y2となり、評価指数αは1.66~2.23となるが、不意開口発生の虞有りと評価された値は、1.89~2.23であった。」とあるのを、
「表4に示す評価指数αの値で、成形高さが2.85mmの場合には、リフォーム径d0=46.6mm~47.4mmの範囲で全て0<L<Y2となり、d0=47.6mmでは、L≧Y2(L=2.60,Y2=2.58)となり、評価指数αは1.66~2.22となるが、不意開口発生の虞有りと評価された値は、1.89~2.22であった。」に訂正する。
2.訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否及び一群の請求項
(1)訂正事項1~3について
本件発明は、「上段の缶体における缶底の脚部が、その下段の缶体におけるタブ先端と缶蓋表面との隙間に入り込み、てこの作用でタブを持ち上げて不意の開口が発生してしまう問題」の解決を課題とするものであるから(段落0005)、0<L<Y2の場合には、上段の缶体1の脚部31内側のうち、凹部32の底部dと下端cとの間の部分に下段の缶体1におけるタブ21の先端fが接触し、L≧Y2の場合には上段の缶体1の脚部31内側のうち、凹部32の底部dまたはそれより上方の部分に下段の缶体1におけるタブ21の先端fが接触するものと解することができる。
また、本件発明は、「タブ21の先端fより下ろした垂線と缶蓋2の表面との交差部eから缶蓋2のシーミングパネル22の頂部gまでの距離Eと脚部31の接地部aと脚部31の外側に連接する缶胴4の下端bまでの距離Zとの関係が、E<Zの関係にあることを前提条件とする。」ものである(段落0018)。
そして、本件発明は、「積み重ねられた上段の缶体1がバランスを崩した場合に、下段の缶体1におけるタブ21の先端fが上段の缶体1の脚部31内側のどの辺りに接触するかを仮想的に評価するための値」として、「L=D・cos(θ1-θ2)」を定義するものである(段落0019~0021)。
さらに、本件発明は、この値Lを用い、0<L<Y2の場合とL≧Y2の場合で区分して、缶蓋2と缶底3との寸法関係によって不意の開口が発生し易いことを評価する評価指数α=(A+B)・E/Zを定義し、評価指数αの値が大きい程、不意開口の発生が起こり易いと評価するものであるするものである(段落0022~0024)。
ここで、 L≧Y2の場合、
「 A=X・(Y1+Y2-L)/Y1,B=L+Y1-Y2」とされている(請求項2、段落0023)。
そして、下段の缶体の缶蓋近傍を示す図1と、上段の缶体の缶底近傍を示す図2とを重ねて「L=D・cos(θ1-θ2)」を書き込むと、下記の図のようになることが看て取れる。
また、Y1、Y2については、図3において次のように示されている。
これらのことから、L≧Y2の場合において、Bの意味は、「積み重ねられた上段の缶体1がバランスを崩した場合に、下段の缶体1におけるタブ21の先端fが上段の缶体1の脚部31内側のどの辺りに接触するかを仮想的に評価するための値」である「L」から、脚部31の接地部aから凹部32の下端cまでの高さである「Y2-Y1」を引いたもの、すなわちL-(Y2-Y1)=L+Y1-Y2」であり、タブ21の先端fが脚部31の凹部23の下端cからどれだけ上方に接触するかを仮想的に評価するものであることが明らかである。
そして、0<L<Y2の場合のBも、同じ「B」という記号を使っていることから、「L≧L2の場合」と同様に、タブ21の先端fが脚部31の凹部32の下端cからどれだけ上方に接触するかを仮想的に評価するものであると考えるのが自然である。
平成30年1月18日付け意見書に特許権者が掲載した下記の図は、このことを図示したものと解される。
さらに、0<L<Y2の場合にB=L+Y2-Y1であることは、評価指数α=(A+B)・E/Zにおいて、0<L<Y2の場合にB=L+Y2-Y1とすれば、段落0027の表1のE、段落0029の表2のZ、段落0030の表3のX、Y1、Y2をもとに評価指数αを計算すると、段落0032の表4、段落0033の表5のとおりとなることからも、裏付けられる。
よって、訂正事項1~3における「B=L+Y2-Y1」を「B=L+Y1-Y2」とする訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第2号及び第3号に規定する誤記の訂正及び明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正である。そして、訂正事項1~3は、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことは明らかであるから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
(2)訂正事項6について
ア.訂正前の明細書の段落0032の表4では、「成形高さ2.85mm、リフォーム径d0=47.6」が、「0<L<Y2」の欄に区分されている。
しかし、当該表4は、サンプルAについての評価指数αの算出結果を示すものであって(段落0031)、サンプルAにおいてL=2.60(段落0027)である。Y2は段落0030の表3に示されるとおりのものであって、「成形高さ2.85mm、リフォーム径d0=47.6」の場合は、Y2=2.58である。
そうすると、L≧Y2となるサンプルAにおいて「成形高さ2.85mm、リフォーム径d0=47.6」の場合が、0<L<Y2の欄に区分されることは、表4の記載を不明瞭にするものといえる。
よって、訂正事項6における「L≧Y2」、「0<L<Y2」の両欄を削除する訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正である。
イ.訂正前の明細書の段落0032の表4では、「成形高さ2.85mm、リフォーム径d0=47.6」の欄には、「2.23」とある。
しかし、該表4は、サンプルAについての評価指数αの算出結果を示すものであって(段落0031)、サンプルAにおいてE=11.56、L=2.60(段落0027)、Z=12.38(段落0029)である。X、Y1、Y2は段落0030の表3に示されるとおりのものであって、「成形高さ2.85mm、リフォーム径d0=47.6」の場合は、X=0.66、Y1=1.71、Y2=2.58である。
そうすると、サンプルAにおいて、「成形高さ2.85mm、リフォーム径d0=47.6」の場合は、L≧Y2であって、その評価指数αの正しい算出結果は、
α=(A+B)・E/Z
={X・(Y1+Y2-L)/Y1+(L+Y1-Y2)}・E/Z
={0.66・(1.71+2.58-2.60)/1.71+(2.60+1.71-2.58)}
・11.56/12.38
=2.224
≒2.22
であることが明らかである。
よって、訂正事項6における「成形高さ2.85mm、リフォーム径d0=47.6」の欄に「2.22」とあるのを「2.23」に訂正する訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に規定する誤記の訂正を目的とするものである。
ウ.そして、訂正事項6は、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことは明らかであるから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
(3)訂正事項7について
訂正事項7は、段落0033の表5の記載様式を訂正後の段落0032の表4の様式に合わせることで記載を明瞭にするものであり、実質的な内容の変更を含まない。よって、訂正事項7は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、また、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことは明らかであるから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
(4)訂正事項8について
訂正事項8は、段落0037の記載を訂正事項6の訂正内容と整合させることで記載を明瞭にするものであり、実質的な内容の変更を含まない。よって、訂正事項8は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、また、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことは明らかであるから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
(5)一群の請求項
訂正事項2、3、6~8による明細書の訂正は、請求項1、2の全てに関連する訂正であるところ、請求項1、2の全てに対して請求されたものであるから、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第4項の規定に適合する。
3.小括
以上のとおり、本件訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第2号及び第3号に規定する事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第4項ないし第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項1及び2について訂正を認める。
4.申立人の意見について
(1)訂正事項1~3について
平成29年10月24日付け意見書において申立人は、訂正請求書において請求人が主張するBの定義は、本件明細書には全く存在していない旨を主張する。しかし、上記2.(1)のとおり、0<Y2<Lの場合においてもB=L+Y1-Y2であることは明らかである。
また、同意見書において申立人は、訂正事項1はBの定義を変更するものであって、特許請求の範囲を実質上変更したものであると主張する。しかし、訂正事項1が特許請求の範囲を実質上変更するものとはいえないことは、上記2.(1)に示したとおりである。
(2)訂正事項6、7について
同意見書において申立人は、訂正事項6、7が何を意図し、どのような意味を有しているのか不明であること、そもそも表4、5の意味するところがまったく不明である旨を主張する。
しかし、上記2.(2)ア.で示したとおり、訂正前の明細書の段落0032の表4では、「成形高さ2.85mm、リフォーム径d0=47.6」が、「0<L<Y2」の欄に区分されているが、この場合は「0<L<Y2」ではないことが明らかであるから、「L≧Y2」、「0<L<Y2」の両欄を削除する訂正は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、上記2.(2)イ.で示したとおり、訂正前の明細書の段落0032の表4に「成形高さ2.85mm、リフォーム径d0=47.6」の欄で「2.22」とあるのが正しくは「2.23」であることも明らかであり、上記2.(3)で示したとおり、訂正事項7は、段落0033の表5の記載様式を訂正後の段落0032の表4の様式に合わせることで記載を明瞭にするものである。
(3)訂正事項8について
同意見書において申立人は、訂正事項8が本件明細書のどこに根拠があるのか不明である旨を主張する。しかし、訂正事項8は、段落0037の記載を訂正事項6の訂正内容と整合させることで記載を明瞭にするものであり、訂正事項6の訂正の根拠は上記2.(2)で示したとおりである。
第3.特許異議の申立てについて
1.本件発明
上記第2.のとおり本件訂正は認められるから、本件特許の請求項1及び2に係る発明(以下「本件発明1」及び「本件発明2」という。)は、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
開口用のタブを備える缶蓋と、中央を内側に凹ませるドーム部と該ドーム部の周囲にて下側に向けて環状に突出する脚部とを備える缶底を具備し、前記ドーム部と前記脚部の連接部分に当該脚部の外側に向いた凹部を設けた缶体であって、
E<Zの条件で下記式、
L=D・cos(θ1-θ2),
A=X・(L+Y1-Y2)/Y1,
B=L+Y1-Y2を定義し、
0<L<Y2の場合に、
(A+B)・E/Z<1.88を満たすことを特徴とする缶体。
式中、D:前記タブの先端から前記缶蓋の表面までの距離、
E:前記タブの先端より下ろした垂線と前記缶蓋の表面との交差部から前記缶蓋のシーミングパネル頂部までの距離、
θ1:前記交差部と前記シーミングパネル頂部とを結ぶ直線と垂線との角度、
Z:前記脚部の接地部と当該脚部の外側に連接する缶胴の下端までの距離、
θ2:前記接地部と前記缶胴の下端とを結ぶ直線と垂線との角度、
Y1:前記凹部の底部と該凹部の下端までの距離、
Y2:前記底部と前記接地部までの距離、
X:前記凹部の下端を通る垂線と前記底部との距離、
をそれぞれ示す。
【請求項2】
開口用のタブを備える缶蓋と、中央を内側に凹ませるドーム部と該ドーム部の周囲にて下側に向けて環状に突出する脚部とを備える缶底を具備し、前記ドーム部と前記脚部の連接部分に当該脚部の外側に向いた凹部を設けた缶体であって、
E<Zの条件で下記式、
L=D・cos(θ1-θ2),
A=X・(Y1+Y2-L)/Y1,
B=L+Y1-Y2を定義し、
L≧Y2の場合に、
(A+B)・E/Z<1.85を満たすことを特徴とする缶体。
式中、D:前記タブの先端から前記缶蓋の表面までの距離、
E:前記タブの先端より下ろした垂線と前記缶蓋の表面との交差部から前記缶蓋のシーミングパネル頂部までの距離、
θ1:前記交差部と前記シーミングパネル頂部とを結ぶ直線と垂線との角度、
Z:前記脚部の接地部と当該脚部の外側に連接する缶胴の下端までの距離、
θ2:前記接地部と前記缶胴の下端とを結ぶ直線と垂線との角度、
Y1:前記凹部の底部と該凹部の下端までの距離、
Y2:前記底部と前記接地部までの距離、
X:前記凹部の下端を通る垂線と前記底部との距離、
をそれぞれ示す。」
2.取消理由の概要
本件訂正前の請求項1及び2に係る特許に対して平成29年6月5日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
なお、特許異議申立書に記載された申立理由は、すべて通知した。
以下、甲第1号証等を「甲1」等と、甲1に記載された発明等を「甲1発明」等、甲1に記載された事項等を「甲1事項」等という。
(1)取消理由1
本件特許の明細書には、下記ア.~ウ.の不備が見られるため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。またこのため、発明の課題をどのように解決でき、発明の詳細な説明に記載された具体例からどのように請求項1及び2に係る発明まで拡張ないし一般化できるのかを当業者が理解することができないから、同法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
ア.段落0027の表1及び段落0029の表2におけるD、E、θ1、θ2の値は、段落0020における「L=D・cos(θ1-θ2)」の関係を満たしていない。
イ.段落0032の表4及び段落0033の表5における評価指数αの数値は、段落0027の表1、段落0029の表2及び段落0030の表3の数値と段落0023の数式に沿って計算される数値と整合しない。
ウ.本件発明1及び2は、評価指数αの下限値が定められておらず、その下限値がどの程度のものまで本件発明1及び2に含まれるのかが不明である。
エ.缶蓋の湾曲の度合いは缶体の内圧、缶蓋の材料や板厚、缶蓋の直径等により変化するが、本件発明1及び2では缶体の内圧、缶蓋の材料や板厚、缶蓋の直径等が定められておらず、どのように課題が解決できるのかが当業者には認識できない。
(2)取消理由2
本件特許の請求項1及び2に係る発明は、甲1発明及び甲2~4事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
甲1:実願昭57-74169号(実開昭58-177325号公報)のマイクロフィルム
甲2:特開2014-54999号公報
甲3:実用新案登録第2577010号公報
甲4:特開平1-182246号公報
3.判断
(1)取消理由1について
ア.上記2.(1)ア.及びイ.については、上記第2.のとおり本件訂正が認められることにより、これらの不備は解消された。
イ.上記2.(1)ウ.について、評価指数α=(A+B)・E/Zの値は、タブ21の先端fから缶蓋2の表面(交差部e)までの距離Dに比例する値Lが大きい程、大きな値になり、不意開口の発生が起こり易いものである(段落0024参照)。よって、その値が小さいほど、缶体1の脚部31内側がタブ21の先端fの下に入り込みにくく、不意の開口が起こり難いものであるから、評価指数αの下限値を定める必要がないことは明らかである。
ウ.上記2.(1)エ.について、本件発明1、2は、耐内圧強度を高めるために設けた「ドーム部と脚部の連接部分に当該脚部の外側に向いた凹部」によってタブ先端と缶蓋表面との隙間に脚部が入り込み易くなり、発生し易くなる不意の開口を抑止するものである(段落0005~0007参照)。よって、「ドーム部と脚部の連接部分に当該脚部の外側に向いた凹部」によってタブ先端と缶蓋表面との隙間に脚部が入り込み易くなる程度を考慮すればよく、必ずしも缶蓋の湾曲の度合いを変化させる缶体の内圧、缶蓋の材料や板厚、缶蓋の直径等を考慮する必要がないことは明らかである。
ウ.小括
以上のとおり、本件発明1及び2に係る特許は、特許法第36条第4項第1号及び第6項第1号の規定に違反してされたものではなく、同法第113条第4号に該当しないから、取り消すことはできない。
(2)取消理由2について
ア.甲1発明
甲1(特に第3頁第5行~第4頁11行、第2、3図参照)の記載から、甲1には以下の甲1発明が記載されていると認められる。
「タブ(4)が取付けられた蓋(2)と、
中央を内側に凹ませるドーム部と
該ドーム部の周囲にて下側に向けて環状に突出する環状凸部(9)とを備える底部を具備する缶(1)」
イ.本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲1発明とを対比すると、両者は少なくとも以下の点で相違する。
《相違点1》
本件発明1が「前記ドーム部と前記脚部の連接部分に当該脚部の外側に向いた凹部」を設けたものであるのに対し、甲1発明はこのような凹部を設けない点。
《相違点2》
本件発明1が
「E<Zの条件で下記式、
L=D・cos(θ1-θ2),
A=X・(L+Y1-Y2)/Y1,
B=L+Y1-Y2を定義し、
0<L<Y2の場合に、
(A+B)・E/Z<1.88を満たすことを特徴とする缶体。
式中、D:前記タブの先端から前記缶蓋の表面までの距離、
E:前記タブの先端より下ろした垂線と前記缶蓋の表面との交差部から前記缶蓋のシーミングパネル頂部までの距離、
θ1:前記交差部と前記シーミングパネル頂部とを結ぶ直線と垂線との角度、
Z:前記脚部の接地部と当該脚部の外側に連接する缶胴の下端までの距離、
θ2:前記接地部と前記缶胴の下端とを結ぶ直線と垂線との角度、
Y1:前記凹部の底部と該凹部の下端までの距離、
Y2:前記底部と前記接地部までの距離、
X:前記凹部の下端を通る垂線と前記底部との距離、
をそれぞれ示す。」
であるのに対し、甲1発明がこのような構成を有しない点。
(イ)判断
甲1発明において、相違点1、2に係る構成とすることは、甲1にはもちろん、甲2~4にも記載されておらず、示唆する記載もない。
これに対し、本件発明1は、相違点1、2に係る構成を備えることで、「ドーム部と脚部の連接部分に当該脚部の外側に向いた凹部」を設けて耐内圧強度を高めながら(段落0003、0007参照)、当該凹みによって発生し易くなる不意の開口の発生を抑止できる(段落0005~0007参照)という作用効果を奏するものである。
よって、本件発明1は、甲1発明及び甲2~4事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(ウ)申立人の意見について
特許異議申立書において申立人は、相違点2については甲2事項、相違点3については缶胴について甲2の図4、缶蓋について甲3の図3の測定値が満たすものである旨を主張する。
しかし、缶底や缶蓋には様々な形状や寸法のものが存在することが技術常識であるところ、このような様々な形状や寸法の缶底や缶蓋の中から、甲1発明において、缶底についての甲2事項と、缶蓋についての甲3事項とを組み合わせて採用する動機付けは、存在しない。
これに対し本件発明1は、「ドーム部と脚部の連接部分に当該脚部の外側に向いた凹部」を設けて耐内圧強度を高めながら、不意の開口が発生するのを抑止できるという、甲1~4に接した当業者であっても予測できない作用効果を奏するものである。
ウ.本件発明2について
(ア)対比
本件発明2と甲1発明とを対比すると、両者は少なくとも、上記イ.(ア)で示した相違点1のほか、以下の相違点3で相違する。
《相違点3》
本件発明2が
「E<Zの条件で下記式、
L=D・cos(θ1-θ2),
A=X・(Y1+Y2-L)/Y1,
B=L+Y1-Y2を定義し、
L≧Y2の場合に、
(A+B)・E/Z<1.85を満たすことを特徴とする缶体。
式中、D:前記タブの先端から前記缶蓋の表面までの距離、
E:前記タブの先端より下ろした垂線と前記缶蓋の表面との交差部から前記缶蓋のシーミングパネル頂部までの距離、
θ1:前記交差部と前記シーミングパネル頂部とを結ぶ直線と垂線との角度、
Z:前記脚部の接地部と当該脚部の外側に連接する缶胴の下端までの距離、
θ2:前記接地部と前記缶胴の下端とを結ぶ直線と垂線との角度、
Y1:前記凹部の底部と該凹部の下端までの距離、
Y2:前記底部と前記接地部までの距離、
X:前記凹部の下端を通る垂線と前記底部との距離、
をそれぞれ示す。」
であるのに対し、甲1発明がこのような構成を有しない点。
(イ)判断
甲1発明において、相違点1、3に係る構成とすることは、甲1にはもちろん、甲2~4にも記載されておらず、示唆する記載もない。
これに対し、本件発明2は、相違点1、3に係る構成を備えることで、「ドーム部と脚部の連接部分に当該脚部の外側に向いた凹部」を設けて耐内圧強度を高めながら(段落0003、0007参照)、当該凹みによって発生し易くなる不意の開口の発生を抑止できる(段落0005~0007参照)という作用効果を奏するものである。
よって、本件発明2は、甲1発明及び甲2~4事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(ウ)申立人の意見について
特許異議申立書において申立人は、相違点2については甲2事項、相違点3については缶胴について甲2の図4、缶蓋について甲4の第2図の測定値が満たすものである旨を主張する。
しかし、缶底や缶蓋には様々な形状や寸法のものが存在することが技術常識であるところ、このような様々な形状や寸法の缶底や缶蓋の中から、甲1発明において、缶底についての甲2事項と、缶蓋についての甲4事項とを組み合わせて採用する動機付けは、存在しない。
これに対し本件発明2は、ドーム部と脚部の連接部分に当該脚部の外側に向いた凹部」を設けて耐内圧強度を高めながら、当該凹みによって発生し易くなる不意の開口の発生を抑止できるという、甲1~4に接した当業者であっても予測できない作用効果を奏するものである。
エ.小括
以上のとおり、本件発明1及び2は、甲1発明及び甲2~4事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、本件発明1及び2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではなく、同法第113条第2号に該当しないから、取り消すことはできない。
第4.むすび
以上のとおり、取消理由通知に記載した上記取消理由によっては、本件発明1及び2に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1及び2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2017-700398