特許異議申立
2024-700315
電子レンジ用パウチ
- 審判番号
- 2024-700315
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-206152
- 登録番号
- 7423996
- 請求日
- 2024年04月04日
- 審決日
- 2025年10月24日
- 公報発行日
- 2026年02月27日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】東洋製罐株式会社
- 【権利者代理人】藤本 信男
- 【権利者代理人】澤井 容子
- 【異議申立人】鈴木 多香子
- 審判長/審判官
- 審判長 岩谷 一臣
- 審判官 藤井 眞吾
- 審判官 稲葉 大紀
- 分類
- P1651.121-YAA(B65D) / P1651.113-YAA(B65D) / P1651.536-YAA(B65D) / P1651.537-YAA(B65D)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7423996号発明「電子レンジ用パウチ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7423996号の明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~3〕について訂正することを認める。
特許第7423996号の請求項1~3に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7423996号(以下「本件特許」という。)の請求項1~3に係る特許についての出願は、令和元年11月14日に出願され、令和6年1月22日にその特許権の設定登録(特許掲載公報令和6年1月30日発行)がされ、その後、その特許について、令和6年4月4日に特許異議申立人鈴木多香子(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、令和7年2月6日付けで取消理由が通知され、令和7年4月11日に特許権者から意見書の提出及び訂正の請求(以下「本件訂正請求」という。)がされ、令和7年6月13日に、この本件訂正請求について、申立人から意見書が提出されたものである。
第2 本件訂正請求について
1 訂正の内容
本件訂正請求は、「特許第7423996号の明細書、特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1-3について訂正することを求める。」ものであり、その訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、次の訂正事項からなるものである。なお、下線は、当審が訂正箇所に付したものである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「100℃でのシール強度が6~25N/15mmであり、かつ、常温から100℃の温度範囲内で設定された第1温度でのシール強度の、常温時でのシール強度に対する低下率が30%以上である」と記載されるのを、
「100℃でのシール強度が6~25N/15mmであり、60℃でのシール強度が30N/15mm以上、41N/15mm以下であり、かつ、60℃でのシール強度の、常温時でのシール強度に対する低下率が30%以上である」に訂正する。(請求項1を直接的又は間接的に引用する請求項2、3も同様に訂正する)
(2)訂正事項2
願書に添付した明細書の段落【0009】に「100℃でのシール強度が6~25N/15mmの範囲内の大きさであり、かつ、常温から100℃の温度範囲内で設定された第1温度でのシール強度の、常温時でのシール強度に対する低下率が30%以上の大きさである構成」と記載されるのを、
「100℃でのシール強度が6~25N/15mmであり、60℃でのシール強度が30N/15mm以上、41N/15mm以下であり、かつ、60℃でのシール強度の、常温時でのシール強度に対する低下率が30%以上の大きさである構成」に、
同じく段落【0009】に「ここに、「同等」とは、蒸気抜きシール部のシール強度と周縁シール部のシール強度とが厳密に全く同じ大きさであることを意味しているのではなく、ばらつきの範囲内でおよそ同等という意味である。また、「第1温度」は、例えば常温と100℃(高温時温度)との中間の温度とされ、具体的には60℃±5℃の範囲内の温度である。」と記載されるのを、
「ここに、「同等」とは、蒸気抜きシール部のシール強度と周縁シール部のシール強度とが厳密に全く同じ大きさであることを意味しているのではなく、ばらつきの範囲内でおよそ同等という意味である。」に訂正する。
(3)訂正事項3
願書に添付した明細書の段落【0010】に「常温から100℃の温度範囲内で設定された第1温度でのシール強度の、常温時でのシール強度に対する低下率が適正な大きさであることにより、」と記載されるのを、
「60℃でのシール強度の、常温時でのシール強度に対する低下率が適正な大きさであることにより、」に訂正する。
(4)訂正事項4
願書に添付した明細書の段落【0022】に「条件(B):常温から100℃の温度範囲内で設定された第1温度でのシール強度の、常温時でのシール強度に対する低下率が30%以上であること。」と記載されるのを、
「条件(B):60℃でのシール強度の、常温時でのシール強度に対する低下率が30%以上であること。」に訂正する。
(5)訂正事項5
願書に添付した明細書の段落【0025】に「条件(B)は、常温から100℃の温度範囲内で設定された第1温度に加熱された時点で、蒸気抜きシール部121のシール強度が所定の大きさまで低下していることが必要とされることを規定するものである。
蒸気抜きシール部121の自動開口が適性に行われるためには、常温から100℃の温度範囲内で設定された第1温度でのシール強度の、常温時でのシール強度に対する低下率は、30%以上60%以下であることが望ましく、35%以上57%以下であることがさらに望ましい。すなわち、第1温度でのシール強度の、常温時でのシール強度に対する低下率が過大であれば、高温時において十分な大きさのシール強度を維持することができず、周縁シール部105が後退し破袋するおそれがある。一方、第1温度でのシール強度の、常温時でのシール強度に対する低下率が過小であれば、蒸気抜きシール部121の自動開口が適正に行われないおそれがある。」と記載されるのを、
「条件(B)は、60℃に加熱された時点で、蒸気抜きシール部121のシール強度が所定の大きさまで低下していることが必要とされることを規定するものである。
蒸気抜きシール部121の自動開口が適性に行われるためには、60℃でのシール強度の、常温時でのシール強度に対する低下率は、30%以上60%以下であることが望ましく、35%以上57%以下であることがさらに望ましい。すなわち、60℃でのシール強度の、常温時でのシール強度に対する低下率が過大であれば、高温時において十分な大きさのシール強度を維持することができず、周縁シール部105が後退し破袋するおそれがある。一方、60℃でのシール強度の、常温時でのシール強度に対する低下率が過小であれば、蒸気抜きシール部121の自動開口が適正に行われないおそれがある。」に訂正する。
(6)訂正事項6
願書に添付した明細書の段落【0031】に「[実施例1~実施例5、比較例1~比較例2]
図1に示す構成を参照して、互いにゴム成分や添加剤の種類や添加量の異なるパウチ形成材料を用い、自動蒸気抜き機構を備えた四方シールタイプの7種類の電子レンジ用パウチ(以下、「サンプルA」~「サンプルG」という。)を作製した。
これらのサンプルA~サンプルGは、いずれも、幅寸法(図1において左右方向寸法)が130mm、長さ(図1において上下方向寸法)が175mmである。
自動蒸気抜き機構(120)を構成する蒸気抜きシール部(121)は、内径12mm、外径18mmの環状であって、蒸気抜き部(123)は、孔径2mmの貫通孔により形成した。また、蒸気抜きシール部(121)の形成位置は、貫通孔の中心点がパウチトップから32mm、サイドから25mmの位置である。
また、サンプルA~サンプルGの各々について、常温(23℃)での周縁シール部及び蒸気抜きシール部のシール強度を測定した。結果を下記表1に示す。シール強度の測定は、JIS Z0238:1998に準拠して、テンシロン万能材料試験機(株式会社エー・アンド・デイ製)を用いて行った。」と記載されるのを、
「[実施例1~実施例4、比較例1~比較例2]
図1に示す構成を参照して、互いにゴム成分や添加剤の種類や添加量の異なるパウチ形成材料を用い、自動蒸気抜き機構を備えた四方シールタイプの5種類の電子レンジ用パウチ(以下、「サンプルA」、「サンプルC」、「サンプルD」、「サンプルF」及び「サンプルG」という。)を作製した。
これらのサンプルA、サンプルC、サンプルD、サンプルF及びサンプルGは、いずれも、幅寸法(図1において左右方向寸法)が130mm、長さ(図1において上下方向寸法)が175mmである。
自動蒸気抜き機構(120)を構成する蒸気抜きシール部(121)は、内径12mm、外径18mmの環状であって、蒸気抜き部(123)は、孔径2mmの貫通孔により形成した。また、蒸気抜きシール部(121)の形成位置は、貫通孔の中心点がパウチトップから32mm、サイドから25mmの位置である。
また、サンプルA、サンプルC、サンプルD、サンプルF及びサンプルGの各々について、常温(23℃)での周縁シール部及び蒸気抜きシール部のシール強度を測定した。結果を下記表1に示す。シール強度の測定は、JIS Z0238:1998に準拠して、テンシロン万能材料試験機(株式会社エー・アンド・デイ製)を用いて行った。」に訂正する。
(7)訂正事項7
願書に添付した明細書の段落【0032】に「サンプルA~サンプルGの各々について、恒温槽付きのテンシロン万能試験機にて、23℃、60℃および100℃の温度にて引っ張り速度を300mm/分として、周縁シール部のシール強度を測定した。結果を下記表1に示す。
次いで、本加熱試験として、サンプルA~サンプルGの各々を、内容物として水を180g封入して、定格電力500W、加熱時間3分間の加熱条件で加熱し、蒸気抜きシール部の自動開口(蒸通)の有無及び周縁シール部の状態(周縁シール部の後退)を確認した。」と記載されるのを、
「サンプルA、サンプルC、サンプルD、サンプルF及びサンプルGの各々について、恒温槽付きのテンシロン万能試験機にて、23℃、60℃および100℃の温度にて引っ張り速度を300mm/分として、周縁シール部のシール強度を測定した。結果を下記表1に示す。
次いで、本加熱試験として、サンプルA、サンプルC、サンプルD、サンプルF及びサンプルGの各々を、内容物として水を180g封入して、定格電力500W、加熱時間3分間の加熱条件で加熱し、蒸気抜きシール部の自動開口(蒸通)の有無及び周縁シール部の状態(周縁シール部の後退)を確認した。」に訂正する。
(8)訂正事項8
願書に添付した明細書の段落【0033】の【表1】に「
[図:0001432020000001.jpg]
」と記載されるのを、
「
[図:0001432020000002.jpg]
」に訂正する。
(9)訂正事項9
願書に添付した明細書の段落【0034】に「表1に示すように、サンプルA~サンプルEにおいては、いずれも、周縁シール部の後退は確認されず、」と記載されるのを、
「表1に示すように、サンプルA、サンプルC及びサンプルDにおいては、いずれも、周縁シール部の後退は確認されず、」に訂正する。
(10)訂正事項10
願書に添付した明細書の段落【0035】に「蒸気抜きが適正に行われたサンプルA~サンプルEについては、いずれも、蒸気抜きシール部の高温時でのシール強度が6~25N/15mmの範囲内の大きさであって、第1温度としての60℃でのシール強度の常温でのシール強度に対する低下率が30%以上であることが明らかになった。」と記載されるのを、
「蒸気抜きが適正に行われたサンプルA、サンプルC及びサンプルDについては、いずれも、蒸気抜きシール部の高温時でのシール強度が6~25N/15mmの範囲内の大きさであって、60℃でのシール強度の常温でのシール強度に対する低下率が30%以上であることが明らかになった。」に訂正する。
(11)訂正事項11
願書に添付した明細書の段落【0036】の【表2】に「
[図:0001432020000003.jpg]
」と記載されるのを、
「
[図:0001432020000004.jpg]
」に訂正する。
(12)一群の請求項について
本件訂正前の請求項2、3は、直接的又は間接的に請求項1を引用するものであるから、訂正後の請求項〔1~3〕は、一群の請求項である。
また、明細書に係る訂正は、一群の請求項〔1~3〕について請求されたものである。
2 訂正の適否
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、常温から100℃の温度範囲内で設定された第1温度を「60℃」に特定すると共に、60℃でのシール強度を「30N/15mm以上、41N/15mm以下」の範囲であることを限定する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
この訂正は、本件明細書の段落【0033】の【表1】、及び段落【0035】の記載に基づくものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件特許明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてするものである。
また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(2)訂正事項2~5について
訂正事項2~5は、いずれも、訂正事項1の請求項1に係る訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
また、訂正事項1と同様、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(3)訂正事項6~11について
訂正事項6~11は、訂正事項1の請求項1に係る訂正に伴い、訂正後の請求項1の数値範囲から外れた実施例を除くことで、特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
また、訂正事項1と同様、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
3 本件訂正請求についてのまとめ
したがって、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、本件訂正後の請求項〔1~3〕について訂正を認める。
第3 本件特許発明
上記のとおり、本件訂正請求が認められるから、本件特許の請求項1~3に係る発明(以下「本件発明1」等といい、総称して「本件発明」ともいう。)は、それぞれ、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~3に記載された、次のとおりのものである。
「【請求項1】
加熱時に収容部内の蒸気を自動的に逃がす自動蒸気抜き機構を備えた電子レンジ用パウチであって、
前記自動蒸気抜き機構は、2つの短辺の周縁シール部内端中央に内接する仮想円の円周上または該円周の内側の位置にシール剥離開始点が位置されるように設けられ加熱時に収容部の内圧が上昇することで剥離を開始するように構成された蒸気抜きシール部と、前記蒸気抜きシール部によって囲まれた蒸気開放部とを備え、
前記蒸気抜きシール部は、前記収容部を包囲する周縁シール部と同等の大きさのシール強度を有し、100℃でのシール強度が6~25N/15mmであり、60℃でのシール強度が30N/15mm以上、41N/15mm以下であり、かつ、60℃でのシール強度の、常温時でのシール強度に対する低下率が30%以上であることを特徴とする電子レンジ用パウチ。
【請求項2】
前記蒸気抜きシール部が環状であって、前記シール剥離開始点が前記収容部の中央に最も近い部位であることを特徴とする請求項1に記載の電子レンジ用パウチ。
【請求項3】
前記蒸気抜きシール部が前記周縁シール部に連続するよう設けられていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の電子レンジ用パウチ。」
第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の要旨
(1)取消理由1(甲第1号証を主引用例とする進歩性)
本件特許の請求項1~3に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第4号証に記載された事項に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(2)取消理由2(甲第2号証を主引用例とする進歩性)
本件特許の請求項1~3に係る発明は、甲第2号証に記載された発明に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(3)取消理由3(サポート要件)
本件特許の請求項1~3に係る特許は、次の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
本件訂正前の請求項1の「常温から100℃の温度範囲内で設定された第1温度でのシール強度の、常温時でのシール強度に対する低下率が30%以上である」との事項が、温度に応じてシール強度が変化することが技術常識であることを踏まえると、第1温度を常温から100℃の温度範囲の何℃にするかにより当該低下率は大きく異なることは明らかであり、第1温度が常温から100℃の温度範囲のあらゆる温度を含む本件発明1の範囲まで、第1温度を60℃のみで検討した発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。
(4)引用刊行物
甲第1号証:特開2003-192042号公報
甲第2号証:特開2019-151343号公報
甲第3号証:特開2019-163080号公報
甲第4号証:松浦洋一、「ポリマーブレンドによる無延伸フィルムの開発」、食品の包装、包装食品技術協会、平成29年8月25日発行、第49巻、第1号、7~11ページ
以下、甲第1号証~甲第4号証を、それぞれ「甲1」~「甲4」という。
2 取消理由1(甲1を主引用例とする進歩性)について
(1)甲1に記載された発明、甲4に記載された事項
ア 甲1に記載された発明
甲1の、特に【請求項1】、【請求項6】、【0001】、【0014】~【0017】、【0023】、【0027】、図1~図3の記載からみて、甲1には次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「電子レンジで加熱した際に包装袋内部に発生する蒸気等を自動的に逃がす蒸気抜きシール部6を備えた電子レンジ用包装袋であって、
蒸気抜きシール部6は、包装袋の2つの短辺の周縁シール部内端中央に内接する円Rの円周上またはその内側に初期破断点Bが位置するように設けられ加熱する際の内圧上昇に伴い破断を始めるドーナツ状の外側シール部3と、前記外側シール部3の内側に設けられた貫通孔からなる弱化部5とを備え、
前記外側シール部3は、包装袋の周縁シール部2と同等の大きさのシール強度を有し、
前記初期破断点Bが前記円Rの中心点Pに最も近い部位であり、
スタンディングパウチである、電子レンジ用包装袋。」
イ 甲4に記載された事項
(ア)甲4の7ページ左欄5行~12行、7ページ右欄19行~8ページ右欄3行、9ページの図7を参照すると、甲4には以下の事項(以下「甲4記載事項1」という。)が記載されていると認められる。
「食品などの内容物と直接接触するシーラントフィルムに用いるレトルト食品包装用CPPフィルムにおいて、
市場で展開している前記CPPフィルムであるZK99S、ZK100、ZK207又はZK500のヒートシール強度は、
ZK99Sが、20℃で60~70N/15mmの間、60℃で30~40N/15mmの間、100℃で10~20N/15mmの間であり、
ZK100が、20℃で50~60N/15mmの間、60℃で30N/15mm未満、100℃で10~20N/15mmの間であり、
ZK207が、20℃で50~60N/15mmの間、60℃で30N/15mm未満、100℃で10~20N/15mmの間であり、
ZK500が、20℃で50~60N/15mmの間、60℃で30N/15mm未満、100℃で10N/15mm未満であること。」
(イ)また、同10ページ、図8の記載から、以下の事項(以下「甲4記載事項2」という。)も記載されていると認められる。
「ヒートシールの強度は、シール温度で変化すること。」
(2)本件発明1について
ア 本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「電子レンジで加熱した際に包装袋内部に発生する蒸気等を自動的に逃がす蒸気抜きシール部6」は、本件発明1の「加熱時に収容部内の蒸気を自動的に逃がす自動蒸気抜き機構」に相当する。
甲1発明の「電子レンジ用包装袋」は、「スタンディングパウチである」から、本件発明1の「電子レンジ用パウチ」に相当する。
甲1発明の「包装袋の2つの短辺の周縁シール部内端中央に内接する円Rの円周上またはその内側に初期破断点Bが位置するように設けられ加熱する際の内圧上昇に伴い破断を始めるドーナツ状の外側シール部3」は、本件発明1の「2つの短辺の周縁シール部内端中央に内接する仮想円の円周上または該円周の内側の位置にシール剥離開始点が位置されるように設けられ加熱時に収容部の内圧が上昇することで剥離を開始するように構成された蒸気抜きシール部」に相当する。
甲1発明の「前記外側シール部3の内側に設けられた貫通孔からなる弱化部5」は、ドーナツ状の外側シール部3の内側にあり、外側シール部3によって囲まれているといえるから、本件発明1の「前記蒸気抜きシール部によって囲まれた蒸気開放部」に相当する。
甲1発明の「前記外側シール部3は、包装袋の周縁シール部2と同等の大きさのシール強度を有」することは、本件発明1の「前記蒸気抜きシール部は、前記収容部を包囲する周縁シール部と同等の大きさのシール強度を有」することに相当する。
イ そうすると、本件発明1と甲1発明の一致点及び相違点は、次のとおりである。
[一致点1]
「加熱時に収容部内の蒸気を自動的に逃がす自動蒸気抜き機構を備えた電子レンジ用パウチであって、
前記自動蒸気抜き機構は、2つの短辺の周縁シール部内端中央に内接する仮想円の円周上または該円周の内側の位置にシール剥離開始点が位置されるように設けられ加熱時に収容部の内圧が上昇することで剥離を開始するように構成された蒸気抜きシール部と、前記蒸気抜きシール部によって囲まれた蒸気開放部とを備え、
前記蒸気抜きシール部は、前記収容部を包囲する周縁シール部と同等の大きさのシール強度を有する電子レンジ用パウチ。」
[相違点1]
蒸気抜きシール部のシール強度に関して、本件発明1は「100℃でのシール強度が6~25N/15mmであり、60℃でのシール強度が30N/15mm以上、41N/15mm以下であり、かつ、60℃でのシール強度の、常温時でのシール強度に対する低下率が30%以上である」のに対して、甲1発明はそのような特定がない点。
ウ 上記相違点1について検討する。
甲1発明は、「弱化部を有する蒸気抜きシール部を設けた電子レンジ用包装袋において、包装袋を構成するプラスチック積層フイルムの蒸気抜きシール部における界面剥離が生じない電子レンジ用包装袋を、コストアップを生じずに提供すること」(【0007】)を課題とし、蒸気抜きシール部の外側シール部と弱化部の間に緩衝部4を設けることによって前記課題を解決するものであるところ、甲1には、蒸気抜きシール部の、高温(100℃)、60℃及び常温におけるシール強度に着目する記載も示唆もないから、相違点1に係る「100℃でのシール強度が6~25N/15mmであり、60℃でのシール強度が30N/15mm以上、41N/15mm以下であり、かつ、60℃でのシール強度の、常温時でのシール強度に対する低下率が30%以上である」ものとする動機付けはない。
ここで、シーラントフィルムには多数の種類が存在するところ、甲4記載事項1には、当該相違点に係るシール強度を一見満足するシーラントフィルムとして「ZK99S」が示されている。しかし、甲4記載事項2のとおり、シール強度はシール温度で変化し、そうすると常に当該シール強度を満足するものとはいえず、仮に甲1のシーラントフィルムとして単に「ZK99S」を採用しても、当該相違点1に係るヒートシール強度を得ることができるとは必ずしもいうことができない。その上、そもそも甲1に、高温(100℃)、60℃及び常温におけるシール強度に着目する記載がない以上、甲4を参照して、甲4に例示されるシーラントフィルムの中から、「ZK99S」を採用しようという動機付けもない。
さらに、当該相違点1に係る事項は、甲2及び甲3にも記載も示唆もされていない。
よって、本件発明1の相違点1に係る構成は、甲1発明及び甲2~甲4に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に想到し得たものではない。
エ 以上より、本件発明1は、甲1発明及び甲2~甲4に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)本件発明2、3について
本件発明2、3は、本件発明1の発明特定事項をすべて備えるものであるところ、上記(2)で述べたように、本件発明1は、甲1発明及び甲2~甲4に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明2、3も、甲1発明及び甲2~甲4に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
3 取消理由2(甲2を主引用例とする進歩性)について
(1)甲2に記載された発明
甲2の、特に【請求項1】、【0017】~【0018】、【0069】~【0070】、【0100】、【0119】~【0122】、【0142】~【0144】、図10からみて、甲2には次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
「袋10に収容された内容物を加熱する際に発生する蒸気を外部に逃がすための蒸気抜き機構20を備え、収容部を有する電子レンジ用パウチであって、
前記蒸気抜き機構20は、前記袋10の外縁に位置する外縁シール部よりも前記収容部の中心点側に位置し、前記収容部の圧力の増加により剥離する蒸気抜きシール部20aと、前記蒸気抜きシール部20aに囲われた貫通孔20cとを備え、
前記蒸気抜きシール部20aは、東レフィルム加工株式会社製の未延伸ポリプロピレンフィルムZK500をヒートシールすることで構成され、
前記蒸気抜きシール部20aにおける、100℃のときの15mm幅における熱間シール強度は9.2Nであり、25℃のときの15mm幅における常温シール強度は62Nである、電子レンジ用パウチ。」
(2)本件発明1について
ア 本件発明1と甲2発明とを対比する。
甲2発明の「袋10に収容された内容物を加熱する際に発生する蒸気を外部に逃がすための蒸気抜き機構20」は、本件発明1の「加熱時に収容部内の蒸気を自動的に逃がす自動蒸気抜き機構」に相当する。
甲2発明の「電子レンジ用パウチ」は、本件発明1の「電子レンジ用パウチ」に相当する。
甲2発明の「前記袋10の外縁に位置する外縁シール部よりも前記収容部の中心点側に位置し、前記収容部の圧力の増加により剥離する蒸気抜きシール部20a」は、本件発明1の「2つの短辺の周縁シール部内端中央に内接する仮想円の円周上または該円周の内側の位置にシール剥離開始点が位置されるように設けられ加熱時に収容部の内圧が上昇することで剥離を開始するように構成された蒸気抜きシール部」と、「加熱時に収容部の内圧が上昇することで剥離を開始するように構成された蒸気抜きシール部」という限りにおいて一致する。
甲2発明の「前記蒸気抜きシール部20aに囲われた貫通孔20c」は、本件発明1の「前記蒸気抜きシール部によって囲まれた蒸気開放部」に相当する。
蒸気抜きシール部のシール強度について、甲2発明の「100℃のときの15mm幅における熱間シール強度は9.2Nであり、25℃のときの15mm幅における常温シール強度は62Nである」ことは、本件発明1の「100℃でのシール強度が6~25N/15mmであり、60℃でのシール強度が30N/15mm以上、41N/15mm以下であり、かつ、60℃でのシール強度の、常温時でのシール強度に対する低下率が30%以上である」ことと、「100℃でのシール強度が6~25N/15mmである」ことで一致する。
イ そうすると、本件発明1と甲2発明の一致点及び相違点は、次のとおりである。
[一致点2]
「加熱時に収容部内の蒸気を自動的に逃がす自動蒸気抜き機構を備えた電子レンジ用パウチであって、
前記自動蒸気抜き機構は、加熱時に収容部の内圧が上昇することで剥離を開始するように構成された蒸気抜きシール部と、前記蒸気抜きシール部によって囲まれた蒸気開放部とを備え
前記蒸気抜きシール部は、100℃でのシール強度が6~25N/15mmである、電子レンジ用パウチ。」
[相違点2-1]
蒸気抜きシール部の位置に関して、本件発明1の蒸気抜きシール部は、「2つの短辺の周縁シール部内端中央に内接する仮想円の円周上または該円周の内側の位置にシール剥離開始点が位置されるように設けられ」るのに対し、甲2発明の蒸気抜きシール部20aは、「前記袋10の外縁に位置する外縁シール部よりも前記収容部の中心点側に位置」するように設けられている点。
[相違点2-2]
本件発明1の「前記蒸気抜きシール部は、前記収容部を包囲する周縁シール部と同等の大きさのシール強度を有」するのに対し、甲2発明はそのような特定がない点。
[相違点2-3]
蒸気抜きシール部の60℃でのシール強度について、本件発明1は「60℃でのシール強度が30N/15mm以上、41N/15mm以下であり、かつ、60℃でのシール強度の、常温時でのシール強度に対する低下率が30%以上である」のに対し、甲2発明はそのような特定がない点。
ウ 事案に鑑み、上記相違点2-3より検討する。
甲2発明の蒸気抜きシール部20aは、「東レフィルム加工株式会社製の未延伸ポリプロピレンフィルムZK500」により形成されるところ、上記甲4記載事項1によれば、ZK500の60℃でのヒートシール強度は30N/15mm未満であるから、当該相違点2-3に係る強度を満足しない。
また、甲2には、蒸気抜きシール部の高温(100℃)になる前の時点(60℃)のシール温度に着目する記載も示唆もなく、相違点2-3に係る「60℃でのシール強度が30N/15mm以上、41N/15mm以下であり、かつ、60℃でのシール強度の、常温時でのシール強度に対する低下率が30%以上である」ものとする動機付けはない。
この点、申立人は意見書(3~4ページ)において、甲4に記載されたシーラントフィルム「ZK99S」を挙げるが、この点に関する判断は上記2(2)ウのとおりである。
さらに、この点は、甲1及び甲3にも記載も示唆もされていない。
よって、本件発明1の相違点2-3に係る構成は、甲2発明及び甲1、甲3、甲4に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に想到し得たものではない。
エ 以上より、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2発明及び甲1、甲3、甲4に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)本件発明2、3について
本件発明2、3は、本件発明1の発明特定事項をすべて備えるものであるところ、上記(2)で述べたように、本件発明1は、甲2発明及び甲2、甲3、甲4に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明2、3も、甲2発明及び甲1、甲3、甲4に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
4 取消理由3(サポート要件)について
取消理由3は、本件訂正により、請求項1の蒸気抜きシール部のシール強度について、「60℃でのシール強度の、常温時でのシール強度に対する低下率が30%以上である」と訂正されたため、理由のないものとなった。
第5 取消理由通知に採用しなかった特許異議申立理由について
(1)申立理由
申立人は、取消理由通知で採用した取消理由のほか、次の申立理由を主張する。
ア 申立理由1(甲2に基づく新規性)
請求項1、3に係る発明は、甲2に記載された発明である。
イ 申立理由2(実施可能要件)
本件明細書からは、パウチの構成材料やシール条件をどのように設定すれば、この「蒸気抜きシール部」が本件の請求項1で特定するシール強度になるのか何ら記載されておらず、請求項1~3の電子レンジ用パウチについて、当業者がその実施をすることができる程度に明確にかつ十分に記載されているものとはいえない。
ウ 申立理由3(サポート要件)
本件明細書からは、パウチの構成材料やシール条件をどのように設定すれば、この「蒸気抜きシール部」が本件の請求項1で特定するシール強度になるのか何ら記載されていないため、請求項1~3の全範囲にまで拡張ないし一般化することはできず、サポート要件を満たしていない。
エ 申立理由4(明確性要件)
請求項1の「第1温度でのシール強度の、常温時でのシール強度に対する低下率」が一義的に決まらないため、本件の請求項1で特定されている「常温から100℃の温度範囲内で設定された第1温度でのシール強度の、常温時でのシール強度に対する低下率が30%以上」との文言は不明確であり、明確性要件を満たしていない。
(2)申立理由の判断
ア 申立理由1(甲2に基づく新規性)について
上記第4の3(2)イで述べたように、本件発明1、3と甲2発明とは、少なくとも相違点2-3で相違するところ、これは実質的なものであるから、本件発明1、3は甲2発明ではない。
したがって、甲2に基づく新規性に係る申立理由1は採用できない。
イ 申立理由2(実施可能要件)について
本件明細書の、シール強度は、パウチの構成材料やシール条件を調整することにより行うことができる旨の記載(【0023】)、ゴム成分や添加剤の種類や添加量を異ならせることによりシール強度を異なるものとする実施例、比較例の記載(【0031】~【0036】)より、当業者であれば本件発明を実施することができる。
したがって、実施可能要件に係る申立理由2は採用できない。
ウ 申立理由3(サポート要件)について
本件発明1の「100℃でのシール強度が6~25N/15mmであり、60℃でのシール強度が30N/15mm以上、41N/15mm以下であり、かつ、60℃でのシール強度の、常温時でのシール強度に対する低下率が30%以上」を満たす実施例(サンプルA、C、D)が、本件発明の課題を解決することが本件明細書において確認されているから、この発明特定事項を備える本件発明は、発明の課題を解決し得ると認識できるものである。
したがって、サポート要件に係る申立理由3は採用できない。
エ 申立理由4(明確性要件)について
本件訂正により、第1温度は「60℃」に特定された。
したがって、明確性要件に係る申立理由4は採用できない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては、請求項1~3に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1~3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-700315