特許異議申立
2017-700277
多重ガーゼの製織方法および多重ガーゼ織物
- 審判番号
- 2017-700277
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2016-501686外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2017年03月15日
- 審決日
- 2017年09月21日
- 公報発行日
- 2017年11月24日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 分類
- P1651.121-Y (D03D)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第5999744号発明「多重ガーゼの製織方法および多重ガーゼ織物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第5999744号の請求項1~5に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
1.手続の経緯
特許第5999744号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~5に係る特許についての出願は、平成26年12月10日を国際出願日とする出願であって、平成28年9月9日にその特許権の設定登録がされたものであり、その後、その特許について、特許異議申立人日本タオル工業組合連合会により特許異議の申立てがされ、当審において平成29年5月11日付けで取消理由を通知し、その指定期間内である平成29年7月11日に意見書の提出がされたものである。
2.請求項1~5に係る発明
本件特許の請求項1~5に係る発明(以下、「本件発明1」等という。)は、本件特許の特許請求の範囲の請求項1~5に記載された事項により特定されるものであり、そのうち、本件発明1は以下のとおりのものである。
「【請求項1】
第1ビームから第1経糸を供給し、該第1経糸供給に対応して第1緯糸を供給し、強く張ったガーゼA層を形成するともに、
該第1ビームより供給速度の速い第2ビームから第2経糸を供給し、該第2経糸供給に対応して第2緯糸を供給し、該ガーゼ該A層より弛く張ったガーゼB層を形成し、
該ガーゼA層と該ガーゼB層とを接結する接結部を形成する
多重ガーゼの製織方法であって、
全ての前記第1経糸に対応して等間隔に第1緯糸を供給して交差させることで、前記ガーゼA層は組織的に均一な平織構造となる
ことを特徴とする多重ガーゼの製織方法。」
3.取消理由の概要
本件発明1~5に対して、特許権者に通知した取消理由の概要は以下のとおりである。なお、特許異議申立人の特許異議の申立ての理由は、すべて通知した。
本件特許の請求項1~5に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
記
甲1.特開平10-219544号公報
甲2.玉井浩二「高機能繊維を用いた多層構造織物の開発と液体用フィルター素材への応用に関する研究」愛媛県産業技術研究所研究報告、No.48、2010年、55~59頁
甲3.石丸祥司ほか「タオル製品デザイン企画手法開発研究-装飾性に優れたタオルマフラー製品試作開発(第2報)-」愛媛県産業技術研究所研究報告、No.50、2012年、48~51頁
甲4.日本紡績協会編集、「テキスタイル・エンジニアリング[2]織物・ニットから染色と仕上へ」繊維工業構造改善事業協会、平成3年12月、75頁
甲5.特開2011-144477号公報
甲6.足立達雄ほか「繊維工学II 織物」実教出版株式会社、1974年、282~287頁
甲7.特開2003-301347号公報
甲8.特開2007-70788号公報
請求項1~5に係る発明は、甲1に記載された発明に甲2~8に記載された技術的事項を適用して、容易に想到し得るものである。
4.当審の判断
(1)甲1の記載(特に、【0001】、【0007】、【0008】、【0017】)からみて、甲1には、
「表たて糸ビームと裏たて糸ビームとを備えた二重ビーム織機により表織地と裏織地を備えた二重織物を製織する方法であって、
表織地は表たて糸と表よこ糸から形成され、裏織地は裏たて糸と裏よこ糸から形成され、
接結点において裏たて糸を表よこ糸に交錯させて表織地と裏織地とを一体に製織し、
表織地と裏織地は別々の柄紋様を有し、表織地と裏織地の両面が使用できるリバーシブルな二重織物を製織する方法。」の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。
(2)本件発明1と甲1発明を対比すると、本件発明1と甲1発明とは、
本件発明1が「第1ビームから第1経糸を供給し、該第1経糸供給に対応して第1緯糸を供給し、強く張ったガーゼA層を形成するともに、該第1ビームより供給速度の速い第2ビームから第2経糸を供給し、該第2経糸供給に対応して第2緯糸を供給し、該ガーゼ該A層より弛く張ったガーゼB層を形成し、該ガーゼA層と該ガーゼB層とを接結する接結部を形成する」のに対し、
甲1発明は「表たて糸ビームと裏たて糸ビームとを備えた二重ビーム織機により表織地と裏織地を備えた二重織物を製織する方法であって、表織地は表たて糸と表よこ糸から形成され、裏織地は裏たて糸と裏よこ糸から形成され、接結点において裏たて糸を表よこ糸に交錯させて表織地と裏織地とを一体に製織」するものではあるものの、表織地と裏織地とで、たて糸の供給速度を変えて、表織地と裏織地の一方を強く張った層、他方を弛く張った層に形成するか否か明らかでない点、で少なくとも相違する。
(3)以下、上記相違点について検討する。
ア.本件特許明細書には、以下の記載がある。
「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
タオル織ガーゼは、ガーゼの長所とタオルの長所を併せ持つものであるが、パイルを必須とするため、衣類や寝具類の生地に適用しようとすると、やや重い。すなわち、ガーゼ織物の特徴である軽量性および通気性を活かしきれない。
【0008】
従って、本発明が解決しようとする課題は、軽量性および通気性を維持しながら、防透性、保温性、吸水性、肌触り感(柔らかさ)に優れたガーゼ織物を提供することである。」
「【発明を実施するための形態】
【0021】
<第1実施形態>
~ガーゼ構成および製織方法~
・・・・
【0023】
表面層ガーゼは、経糸(縦糸)1,2と緯糸(横糸)3,4とから構成される。
【0024】
表面層の経糸1,2は、第1ビームから供給される。第1ビームの経糸供給速度は、一般的なガーゼ製織における供給速度と同程度である。
・・・・
【0027】
裏面層ガーゼは、経糸(縦糸)5,6と緯糸(横糸)7,8とから構成される。
【0028】
裏面層の経糸5,6は、第2ビームから供給される。第2ビームの供給速度は、第1ビームの供給速度より0.5~5.0%速い。好ましくは1.5~3.0%速い。
・・・・
【0032】
第2ビームの供給速度は第1ビームの供給速度より速いため、経糸5,6の長さは経糸1,2より長くなる。一方で、A層とB層の経糸方向の長さは同じである。その結果、B層はA層より弛くなる。
【0033】
A層形成およびB層形成とともに、適宜、A層とB層とを接結する。経糸により接結部を形成しても良いし、緯糸により接結部を形成しても良い。図示の例では、経糸2を緯糸8に絡ませるとともに、経糸5を緯糸4に絡ませて、接結部10を形成する。」
「【0034】
~効果~
図2は、一般的なガーゼを2枚重ねた2重ガーゼ織物(従来技術)である。従来技術と比較することにより本実施形態の効果について説明する。
【0035】
・防透性、保温性、吸水性、通気性の向上
従来技術では、1つのビームより、表面層の経糸および裏面層の経糸が供給される。当然、両経糸の供給速度は同じである。その結果、フラットな2重ガーゼが形成される。2枚のガーゼの間には空間がなく、防透性、保温性、吸水性については、2枚重ねた分、向上するが、飛躍的には改善されない。通気性については、2枚重ねた分、低下する。
【0036】
これに対し、第1実施形態では、弛みのあるB層により、2枚のガーゼの間には空間が生じる。薄い2枚のガーゼを用いて、2重ガーゼに厚みを持たせることができる。この空間および厚みにより、従来技術に比べて、防透性、保温性、吸水性、通気性の向上を図ることができる。
・・・・
【0040】
・肌触り感の向上
従来技術では、フラットな2重ガーゼであり、衣類や寝具類に適用した場合、汗をかくと生地が肌にべたつく。また、弾力性もなく肌触り感も硬い。
【0041】
これに対し、第1実施形態では、弛みのあるB層および接結部10により、凹凸が生じる。この凸部が肌に接触すると、適度な弾力性を発揮する。使用者は柔らかさを実感できる。また、凸部のみが肌に接触するため(接触面積が少ないため)、汗をかいてもべたつき感が少ない。このように、従来技術に比べて、肌触り感の向上を図ることができる。」
これらの記載からみて、本件発明1は、ガーゼB層への経糸の供給速度を、ガーゼA層よりも速くすることにより、「弛みのあるB層により、2枚のガーゼの間には空間が生じ」、「2重ガーゼに厚みを持たせることができる。この空間および厚みにより、従来技術に比べて、防透性、保温性、吸水性、通気性の向上を図ることができ」(段落【0036】)、また、「弛みのあるB層および接結部10により、凹凸が生じる。この凸部が肌に接触すると、適度な弾力性を発揮する。使用者は柔らかさを実感できる」(段落【0041】)との格別な作用効果を発揮するものであると理解される。
イ.一方、甲1には、
「【0002】
【従来の技術】従来、この種の二重織物として、図10に示すように、色糸の表たて糸31と表よこ糸32、別色の裏たて糸33と裏よこ糸34とを用い、表裏を途中で全く交換して絞様を織り出した風通織物が知られている。
【0003】ところが、この二重織物は、内部に袋状の空間35、即ち風通部があって一体感が欠け、耐久性が劣ると共に使用中に皺が発生することがある等の欠点があり、さらに、柄絞様は、表面裏面がほぼ同じようなものとなりリバーシブル性が劣ると共に、格子柄等に柄絞様が限定され、例えば、花柄模様等の大きな絞様が作成しにくい等の問題点がある。
【0004】
【発明の課題】そこで、この発明の課題は、別々の色柄絞様を有する完全に一体の表織地と裏織地とからなるリバーシブル性の高い二重織物を提供することである。」と記載されている。
すなわち、甲1発明は、従来の二重織物が有する、内部に袋状の空間があって一体感に欠け、使用中に皺が発生するとの課題を解決するために、表織地と裏織地との間を、袋状の空間が存在せず、皺も発生しない「完全に一体」の二重織物とするものである。
すると、上記のような甲1発明において、あえて、本件発明1のように、ガーゼA層とガーゼB層とで経糸の供給速度を変えて、ガーゼの間に空間を生じさせ、凹凸を生じさせようとする動機付けが見いだせない。また、甲2~甲8にも、甲1発明において、空間を生じさせ、凹凸を生じさせる動機付けを示唆する記載はない。むしろ、甲1発明において、そのような構成を採用することは、上記の「一体感に欠け、使用中に皺が発生する」との課題を解決しないものであるから、当該構成の採用を阻害する事由があるというべきである。
ウ.特許異議申立人は、「経糸の送り出し量の調整、すなわち、ビームの供給速度によって、経糸や生地の張力を調整することは、通常の製織において行われていることであり、このことに格別の技術的意義は認められない。」(特許異議申立書17頁10~13行)旨主張する。
しかし、本件発明1は、「第1ビームから第1経糸を供給し、該第1経糸供給に対応して第1緯糸を供給し、強く張ったガーゼA層を形成するともに、該第1ビームより供給速度の速い第2ビームから第2経糸を供給し、該第2経糸供給に対応して第2緯糸を供給し、該ガーゼ該A層より弛く張ったガーゼB層を形成し、該ガーゼA層と該ガーゼB層とを接結する接結部を形成する」構成により、ガーゼの間に空間を生じさせ、凹凸を生じさせて、防透性、保温性、吸水性、肌触り感(柔らかさ)に優れたガーゼ織物を提供することができるとの格別な作用効果を発揮するものであるから、特許異議申立人が主張する「ビームの供給速度によって、経糸や生地の張力を調整することは、通常の製織において行われていることであり、このことに格別の技術的意義は認められない。」というものではない。
エ.よって、本件発明1は、甲1発明及び甲2~甲8に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
なお、甲1の段落【0002】、【0003】及び図10には、内部に袋状の空間35があり、使用中に皺が発生することがある二重織物が記載されているが、「第1ビームから第1経糸を供給し、該第1経糸供給に対応して第1緯糸を供給し、強く張ったガーゼA層を形成するともに、該第1ビームより供給速度の速い第2ビームから第2経糸を供給し、該第2経糸供給に対応して第2緯糸を供給し、該ガーゼ該A層より弛く張ったガーゼB層を形成」するとの事項を備える本件発明1が、導き出せるものではない。
(4)本件発明2~5は、本件発明1の発明特定事項を全て含むものであるところ、本件発明1は、上記のように、甲1発明及び甲2~甲8に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に想到し得たものとはいえないから、本件発明2~5も、甲1発明及び甲2~甲8に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
5.むすび
以上のとおり、本件発明1~5に係る特許については、取消理由通知に記載した取消理由によっては取り消すことはできない。
また、他に本件発明1~5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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