特許異議申立
2024-700102
プリプレグ用シリカガラスクロス
- 審判番号
- 2024-700102
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2022-182014
- 登録番号
- 7322266
- 請求日
- 2024年02月07日
- 審決日
- 2025年06月20日
- 公報発行日
- 2026年04月24日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】信越化学工業株式会社
- 【権利者代理人】好宮 幹夫
- 【権利者代理人】小林 俊弘
- 【権利者代理人】大塚 徹
- 【異議申立人】河原田 隆
- 審判長/審判官
- 審判長 岩谷 一臣
- 審判官 田口 傑
- 審判官 金丸 治之
- 分類
- P1651.121-YAA(D03D) / P1651.537-YAA(D03D) / P1651.536-YAA(D03D) / P1651.55 -YAA(D03D) / P1651.113-YAA(D03D)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号、特許法第17条の2第3項、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7322266号発明「プリプレグ用シリカガラスクロス」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7322266号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~2〕、3について訂正することを認める。
特許第7322266号の請求項3に係る特許を維持する。
特許第7322266号の請求項1~2に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7322266号の請求項1~3に係る特許についての出願(特願2022-182014号)は、令和元年10月16日に出願した特願2019-189364号の一部を令和4年11月14日に新たな特許出願としたものであって、令和5年7月28日にその特許権の設定登録がされ、令和5年8月7日に特許掲載公報が発行された。
本件の特許異議の申立てに係る手続の経緯の概要は、次のとおりである。
令和6年 2月 7日 :特許異議申立人河原田隆(以下「申立人」という。)による請求項1~3に係る特許に対する本件特許異議の申立て
令和6年 6月 6日付け:取消理由通知書
令和6年 8月 5日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和6年 9月20日 :申立人による意見書の提出
令和6年12月24日付け:取消理由通知書(決定の予告)
令和7年 2月28日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出(以下、この訂正請求書による訂正の請求を「本件訂正請求」といい、訂正自体を「本件訂正」という。)
令和7年 4月11日 :申立人による意見書の提出
令和6年8月5日に提出された訂正請求書による訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。
第2 本件訂正の適否
1 本件訂正の内容
本件訂正請求の趣旨は、「特許第7322266号の特許請求の範囲を、本件請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~3について訂正することを求める。」ものであり、本件訂正の内容は、訂正箇所に下線を付して示すと、次のとおりである。
(1)訂正事項1
請求項1を削除する。
(2)訂正事項2
請求項2を削除する。
(3)訂正事項3
ア 訂正事項3-1
本件訂正前の請求項3に記載された
「プリプレグ用加熱処理シリカガラスクロスの製造方法であって、」を、
「プリプレグ用加熱処理シリカガラスクロスの製造方法であって、
前記プリプレグ用加熱処理シリカガラスクロスが、ガラスフィラメントを束ねたガラスストランドに対して撚りを掛けたガラスヤーンを製織してなるものであり、」に訂正する。
イ 訂正事項3-2
本件訂正前の請求項3に記載された
「SiO2組成量が96.0~100.0質量%含まれるガラスフィラメントからなる非加熱処理シリカガラスクロスを準備する工程と、」を、
「SiO2組成量が96.0~100.0質量%含まれるガラスフィラメントを束ねたガラスストランドに対して撚りを掛けたガラスヤーンを製織して非加熱処理シリカガラスクロスを準備する工程と、」に訂正する。
ウ 訂正事項3-3
本件訂正前の請求項3に記載された
「前記非加熱処理シリカガラスクロスを450℃~1650℃の温度で、1分~72時間加熱処理して加熱処理シリカガラスクロスを得る工程を含み、」を、
「前記非加熱処理シリカガラスクロスを500℃~1650℃の温度で、1分~72時間加熱処理して加熱処理シリカガラスクロスを得る工程を含み、」に訂正する。
エ 訂正事項3-4
本件訂正前の請求項3に記載された
「前記加熱処理シリカガラスクロスの誘電正接tanδ1の前記非加熱処理シリカガラスクロスの周波数9GHz以上での誘電正接tanδ2に対する比tanδ1/tanδ2を0.7以下とする」を、
「前記加熱処理シリカガラスクロスの誘電正接tanδ1の前記非加熱処理シリカガラスクロスの周波数9GHz以上での誘電正接tanδ2に対する比tanδ1/tanδ2を0.47以下とする」に訂正する。
2 一群の請求項について
本件訂正前の請求項1~2は、請求項2が、本件訂正前の請求項1の記載を引用する関係にあるから、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであり、訂正前の請求項1~2は、一群の請求項である。
また、本件訂正前の請求項3は、いずれの請求項を引用する関係にはなく、またいずれの請求項からも引用される関係にはないから、訂正事項3は、他のいずれの請求項とも一群の請求項を構成しない。
そうすると、本件訂正請求は、一群の請求項〔1~2〕、3について請求されたものである。
3 訂正の目的、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の適否について
(1)訂正事項1及び2について
訂正事項1は請求項1を、訂正事項2は請求項2を、それぞれ削除するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項1及び2は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。
また、訂正事項1及び2は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(2)訂正事項3
ア 訂正事項3-1について
訂正事項3-1は、本件訂正前の請求項3の「プリプレグ用加熱処理シリカガラスクロス」を「ガラスフィラメントを束ねたガラスストランドに対して撚りを掛けたガラスヤーンを製織してなるものであ」るものに限定したものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項3-1は、本件特許の明細書の【0015】の記載に基づくものであるから、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「本件特許明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてするものである。
また、訂正事項3-1は、発明のカテゴリーや対象を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
イ 訂正事項3-2について
訂正事項3-2は、本件訂正前の請求項3の「非加熱処理シリカガラスクロス」を、「ガラスフィラメントを束ねたガラスストランドに対して撚りを掛けたガラスヤーンを製織し」てなるものであるものに限定したものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項3-2は、本件特許の明細書の【0053】の記載に基づくものであるから、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。
また、訂正事項3-2は、発明のカテゴリーや対象を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
ウ 訂正事項3-3について
訂正事項3-3は、本件訂正前の請求項3の「加熱処理シリカガラスクロスを得る工程」の温度範囲を、「450℃~1650℃」から「500℃~1650℃」に限定したものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項3-3は、本件特許の明細書の【0050】の記載に基づくものであるから、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。
また、訂正事項3-3は、発明のカテゴリーや対象を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
エ 訂正事項3-4について
訂正事項3-4は、本件訂正前の請求項3の「tanδ1/tanδ2」の値を、「0.7以下」から「0.47以下」に限定したものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項3-4は、本件特許の明細書の【0066】及び【0072】の【表1】に示される実施例2に基づくものであるから、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。
また、訂正事項3-4は、発明のカテゴリーや対象を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
4 小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~2〕、3について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記第2のとおり本件訂正が認められたから、本件特許の請求項3に係る発明(以下「本件発明」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項3に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項3】
プリプレグ用加熱処理シリカガラスクロスの製造方法であって、
前記プリプレグ用加熱処理シリカガラスクロスが、ガラスフィラメントを束ねたガラスストランドに対して撚りを掛けたガラスヤーンを製織してなるものであり、
SiO2組成量が96.0~100.0質量%含まれるガラスフィラメントを束ねたガラスストランドに対して撚りを掛けたガラスヤーンを製織して非加熱処理シリカガラスクロスを準備する工程と、
前記非加熱処理シリカガラスクロスを500℃~1650℃の温度で、1分~72時間加熱処理して加熱処理シリカガラスクロスを得る工程を含み、
前記加熱処理シリカガラスクロスの誘電正接tanδ1を、周波数9GHz以上で0.0015以下とし、
前記加熱処理シリカガラスクロスの誘電正接tanδ1の前記非加熱処理シリカガラスクロスの周波数9GHz以上での誘電正接tanδ2に対する比tanδ1/tanδ2を0.47以下とすることを特徴とするプリプレグ用加熱処理シリカガラスクロスの製造方法。」
第4 取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
本件訂正前の請求項1~3に係る特許に対して、当審が取消理由通知(決定の予告)にて特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
(1)取消理由2(進歩性)
本件特許の請求項1~3に係る発明は、引用文献1に記載された発明及び周知技術に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(2)取消理由3(明確性要件)
本件の請求項1~2に係る特許は、特許請求の範囲の記載が以下の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
請求項1の記載には、「プリプレグ用加熱処理シリカガラスクロス」の製造段階での状態についての規定が含まれており、当該製造段階を経て現実に存在している具体的な物の、現実の状態を把握することによっては、当該発明特定事項を有するのか否かについて、たとえ当業者といえども判別することはできない。そうすると、現実に存在している具体的な物が、請求項に係る発明の範囲に入るか否かを当業者が理解することができず、本件特許の請求項1及びこれを引用する請求項2の記載は、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確である。
<引用文献等一覧>
甲6:特開2009-263824号公報(申立人の提示した甲第6号証)
甲11:特開2004-353132号公報(周知技術を示す文献、申立人の提示した甲第11号証)
引用文献1:特開2004-99376号公報(周知技術を示す文献、当審が引用した文献)
引用文献2:特開2004-99377号公報(同上)
引用文献3:特開2008-196101号公報(同上)
2 取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由についての当審の判断(1)引用文献の記載事項、引用発明
ア 甲6
(ア)甲6の記載
甲6には次の記載がある。下線は当審で付した。
「【請求項1】
平均フィラメント径が3μm以上9μm以下の石英ガラスフィラメントを15本以上49本以下の本数に束ねてストランドとし、該ストランドを撚り数40t/m以下の撚り掛けをするか又は撚り掛け処理を施さずに構成される石英ガラス糸を、タテ糸およびヨコ糸の織り密度がそれぞれ10本/cm以上95本/cm以下で織布されてなるガラスクロスであって、該ガラスクロスの表面はシランカップリング剤により被覆され且つ該ガラスクロスの両耳部はほつれ防止加工が施されてなり、タテ糸およびヨコ糸を合わせた総フィラメント数が80,000本/m2以上280,000本/m2以下であることを特徴とする石英ガラスクロス。」
「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石英ガラス繊維を用いた石英ガラスクロスに関し更に詳細には多層プリント配線基板、特に周波数が1GHz以上の高周波回路を形成する多層プリント配線基板に用いられる薄物石英ガラスクロスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ミリ波レーダー等に使用されるIC回路にはGHz領域の高い周波数の利用が検討されており一部実用化が進んでいる。このような回路に使用されるプリント配線基板には比誘電率や誘電正接の向上が要求されるが、これらの誘電特性は基板中に補強剤として使用されているガラスクロス基材の物性が大きな影響を与え、石英ガラスを素材として用いた場合非常に優れた特性が得られる。また同時に多層化が進んでおりこれに用いられるガラスクロスには肉薄化が要求されている。薄物石英ガラスクロスの製造方法としては、例えば、特許文献1は厚さが27μmの石英ガラスクロスを製造する方法を開示している。」
「【0019】
前記石英ガラスフィラメントの製造に用いられる石英ガラス素材は、不純物の少ない高純度なものを用いることが好ましく、石英ガラス素材中の不純物の濃度が、アルカリ金属であるNa、K、Liの総和が10ppm以下、Bが1ppm以下、Pが1ppm以下、Uが0.1ppb以下であることがより好ましい。この時、金属不純物濃度はサイズ剤を除去した後、原子吸光法により測定を行った。」
「【0034】
上記シランカップリング剤の濃度は通常0.1重量%~5重量%の間の希薄水溶液で使用されるが、特に0.1重量%~1重量%の間で使用するのが効果的である。本発明によるクロスを用いることで、上記シランカップリング剤が均一に付着しガラスクロス表面に対して、より均一な保護作用をもたらし取扱がし易くなるばかりでなく、プリプレグを製作する際に用いられる樹脂に対しても均一でムラのない塗布が可能となる。」
「【0037】
本発明によれば、1MHzおよび1GHzの比誘電率がそれぞれ3.9以下および4.0以下であり、誘電正接がそれぞれ1×10-4以下および2×10-4以下であり、高周波プリント配線基板用として十分な性能を持つ石英ガラスクロスを得ることができる。」
「【0041】
(実施例2)
実施例1と同様に石英ガラス素材を加熱延伸することにより平均フィラメント径φ5μm、フィラメント本数49本の石英ガラスストランドを得た。この時ストランドには2%濃度の、澱粉に油剤エマルジョンを加えたものが1次サイズ剤として付与された。このストランドを同様に1.5%濃度の、澱粉に油剤エマルジョンを加えた2次サイズ剤を付与しながら撚糸機により撚り数10t/mで撚り掛けをした後、この糸の周りに5.5texの水溶性ポリビニルアルコール繊維を300t/mでカバリングしたものを用意した。
この石英ガラスのカバリング糸を用い、タテ糸25本/cm、ヨコ糸25本/cmの織り密度をもつガラスクロスを、手織り織機を用い幅250mm長さ400mmの大きさに平織りで製織し、総フィラメント本数245,000本/m2の製織クロスを得た。
【0042】
次に70℃のお湯に製織クロスを含浸し20分超音波をかけながらカバリング糸の溶解除去及び開繊処理を施した後、50℃のオーブンに入れ乾燥した。乾燥後、500℃、5時間大気炉中で熱処理を行い完全にカバリング糸を除去した。このクロスの目付けは13.0g/m2であった。石英ガラスクロスを観察したところ目付けが小さいにも拘わらず疎密が比較的均一であり、波状のうねりを示す滑らかなクロスを得ることができた。この時のストランド扁平率は6となった。この時のクロスの厚さは21μmであった。
更に本ガラスクロスをガンマアミノプロピルトリメトキシシランの0.5%水溶液に浸した後、乾燥し、両耳部の端より幅15mmにエチレン―酢酸ビニル共重合体を用いローラーで糊付けを行なった。これにより耳部より糸のほつれがないクロスを得る事が可能となった。」
(イ)甲6に記載の発明
上記(ア)より、甲6には、特に【0041】~【0042】の実施例2より、以下の発明(以下「甲6発明」という。)が記載されていると認める。
「高周波プリント配線基板用石英ガラスクロスの製造方法であって、
石英ガラス素材を加熱延伸したものを用い、フィラメント本数49本の石英ガラスストランドを撚糸機により撚り掛けをした後、平織りで製織してなる製織クロスを準備する工程と、
前記製織クロスを500℃で5時間熱処理を行う工程を含み、
前記熱処理を行った製織クロスの誘電正接tanδ1を、周波数1MHz及び1GHzでそれぞれ1×10-4及び2×10-4とする、
高周波プリント配線基板用石英ガラスクロスの製造方法。」
イ 周知技術について
(ア)甲11
甲11の【0020】【表2】のサンプル1~8について、以下の事項が記載されている。
「サンプル1~8の周波数1MHzにおける誘電正接(以下「tanδ1MHz」という。)と周波数10GHzにおける誘電正接(以下「tanδ10GHz」という。)の比tanδ1MHz/tanδ10GHzは、0.9又は0.5であること。
(イ)引用文献1
引用文献1の【0028】【表3】の実施例1、実施例2及び実施例3について、以下の事項が記載されている。
「実施例1、実施例2及び実施例3のtanδ1MHz/tanδ10GHzは0.5であること。」
(ウ)引用文献2
引用文献2の【0035】【表3】の実施例1及び実施例2について、以下の事項が記載されている。
「実施例1及び実施例2のtanδ1MHz/tanδ10GHzは0.5であること。」
(エ)引用文献3
引用文献3の【0020】【表2】、【0029】【表5】のサンプル1~10について、以下の事項が記載されている。
「サンプル1~9のtanδ1MHz/tanδ10GHzは0.9又は0.5であること。」
(オ)周知技術
上記(ア)のサンプル1及びサンプル2に関する【0018】及び【0019】の記載、上記(イ)の実施例1、実施例2及び実施例3に関する【0022】~【0027】の記載、上記(ウ)の実施例1及び実施例2に関する【0029】~【0034】の記載、さらに上記(エ)のサンプル1及びサンプル2に関する【0018】~【0019】の記載と、サンプル9及びサンプル10に関する【0027】~【0028】の記載より、上記(ア)~(エ)のものは、それぞれ石英ガラスクロスの製造方法及び繊維の構成が別異のものであるが、以下の事項は概ね周知の技術(以下「周知技術」という。)ということができる。
「高周波プリント配線基板用石英ガラスクロスにおいて、tanδ1MHz/tanδ10GHzは0.5~0.9程度であること。」
(2)取消理由2(進歩性)について
ア 対比
本件発明と甲6発明を対比する。
甲6発明の「高周波プリント配線基板用石英ガラスクロスの製造方法」は「500℃で5時間熱処理を行」う工程を有しているから、本件発明の「プリプレグ用加熱処理シリカガラスクロスの製造方法」との関係において、「加熱処理シリカガラスクロスの製造方法」である限りにおいてひとまず一致する。
石英ガラスがSiO2から構成されることは技術常識であり、また甲6の【0019】の「前記石英ガラスフィラメントの製造に用いられる石英ガラス素材は、不純物の少ない高純度なものを用いることが好ましく」という記載を踏まえると、甲6発明の「石英ガラス素材を加熱延伸したものを用い」は、本件発明の「SiO2組成量が96.0~100.0質量%含まれるガラスフィラメントからなる」に相当する。
甲6発明の「フィラメント本数49本の石英ガラスストランドを撚糸機により撚り掛けをした後、平織りで製織してなる製織クロスを準備する工程」は、本件発明の「ガラスフィラメントを束ねたガラスストランドに対して撚りを掛けたガラスヤーンを製織してなるものであるであり」、及び「ガラスフィラメントを束ねたガラスストランドに対して撚りを掛けたガラスヤーンを製織して非加熱処理シリカガラスクロスを準備する工程」に相当する。
甲6発明の「熱処理を行った製織クロス」は、本件発明の「加熱処理シリカガラスクロス」に相当する。
甲6発明の「製織クロスを500℃で5時間熱処理を行う工程を含み」は、甲6発明の「500℃」という温度が本件発明の「500℃~1650℃」という温度範囲に含まれており、甲6発明の「5時間」という時間が本件発明の「1分~72時間」という時間範囲に含まれていることから、本件発明の「前記非加熱処理シリカガラスクロスを450℃~1650℃の温度で、1分~72時間加熱処理して加熱処理シリカガラスクロスを得る工程を含み」に相当する。
以上より、本件発明と甲6発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「加熱処理シリカガラスクロスの製造方法であって、
前記加熱処理シリカガラスクロスが、ガラスフィラメントを束ねたガラスストランドに対して撚りを掛けたガラスヤーンを製織してなるものであり、
SiO2組成量が96.0~100.0質量%含まれるガラスフィラメントを束ねたガラスストランドに対して撚りを掛けたガラスヤーンを製織して非加熱処理シリカガラスクロスを準備する工程と、
前記非加熱処理シリカガラスクロスを500℃~1650℃の温度で、1分~72時間加熱処理して加熱処理シリカガラスクロスを得る工程を含む、加熱処理シリカガラスクロスの製造方法。」
<相違点1>
「加熱処理シリカガラスクロス」について、本件発明では、「プリプレグ用」であるのに対して、甲6発明では、「高周波プリント配線基板用」である点。
<相違点2>
本件発明では、「前記プリプレグ用加熱処理シリカガラスクロスの誘電正接tanδ1を、周波数9GHzで0.0010以下とし、」ており、また、「前記加熱処理シリカガラスクロスの誘電正接tanδ1の前記非加熱処理シリカガラスクロスの周波数9GHz以上での誘電正接tanδ2に対する比tanδ1/tanδ2を0.47以下とする」のに対し、甲6発明では、「前記高周波プリント配線基板用石英ガラスクロスの誘電正接tanδ1を、周波数1MHz及び1GHzでそれぞれ1×10-4及び2×10-4とし、」ており、また、本件発明のようなtanδ1/tanδ2の特定はしていない点。
イ 判断
事案に鑑み<相違点2>から検討する。
<相違点2>について
本件発明において、「前記加熱処理シリカガラスクロスの誘電正接tanδ1の前記非加熱処理シリカガラスクロスの周波数9GHz以上での誘電正接tanδ2に対する比tanδ1/tanδ2を0.47以下とする」と規定することについて検討すると、上記<一致点>のところでも整理したとおり、本件発明と甲6発明とは、「前記加熱処理シリカガラスクロスが、ガラスフィラメントを束ねたガラスストランドに対して撚りを掛けたガラスヤーンを製織してなるものであ」ること、「SiO2組成量が96.0~100.0質量%含まれるガラスフィラメントを束ねたガラスストランドに対して撚りを掛けたガラスヤーンを製織して非加熱処理シリカガラスクロスを準備する工程」を含むこと、「前記非加熱処理シリカガラスクロスを500℃~1650℃の温度で、1分~72時間加熱処理して加熱処理シリカガラスクロスを得る工程を含む」ことが共通しており、その製造方法には一定の共通点がみられる。しかし、甲6の【0041】には、「このストランドを同様に1.5%濃度の、澱粉に油剤エマルジョンを加えた2次サイズ剤を付与しながら撚糸機により撚り数10t/mで撚り掛けをした後、この糸の周りに5.5texの水溶性ポリビニルアルコール繊維を300t/mでカバリングしたものを用意した。」と記載され、【0042】には、「次に70℃のお湯に製織クロスを含浸し20分超音波をかけながらカバリング糸の溶解除去及び開繊処理を施した後、50℃のオーブンに入れ乾燥した。乾燥後、500℃、5時間大気炉中で熱処理を行い完全にカバリング糸を除去した。」と記載されており、一方で、本件発明では、「ガラスヤーン」のカバリング、及び加熱処理によるカバリング糸の除去は行っていない。そうすると、本件発明と甲6発明とに上記のような共通点が存在しているとしても、甲6発明の「高周波プリント配線基板用石英ガラスクロス」において、熱処理後の周波数9GHzでの誘電正接tanδ1の熱処理前の周波数9GHzでの誘電正接tanδ2に対する比tanδ1/tanδ2が、本件発明1の数値範囲と同程度となっている蓋然性が高いとまではいえない。
加えて、上記(1)イ(オ)で示した周知技術を参酌したとしても「tanδ1/tanδ2」を0.47以下とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。
ウ 小括
よって、本件発明は、他の相違点について検討するまでもなく、甲6発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)取消理由3(明確性)について
本件訂正により、請求項1及び請求項2は削除されたことより、取消理由3(明確性)については解消した。
(4)取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由についての当審の判断のまとめ
よって、本件発明3は、取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由によって取り消すことはできない。
第5 取消理由通知(決定の予告)に採用しなかった特許異議申立書に記載の申立理由について
1 取消理由通知(決定の予告)で採用しなかった申立理由の概要について
取消理由通知(決定の予告)で採用しなかった特許異議申立理由の概要は次のとおりである。
(1)申立理由1(明確性要件)
本件特許は、特許請求の範囲の請求項1~3の記載が以下の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
「誘電正接」について、測定時の温度と湿度が特定されていないため、どのような温度及び湿度条件で測定された値によって請求項1~3に係る発明の技術的範囲が定めされているのか不明である。
請求項1の「前記加熱処理シリカガラスクロスの誘電正接tanδ1の前記非加熱処理シリカガラスクロスの周波数9GHz以上での誘電正接tanδ2に対する比tanδ1/tanδ2を0.47以下とする」について、当該記載の根拠とされる【0066】の記載と整合していない。
(2)申立理由2(サポート要件)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が以下の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
請求項1及び3の「SiO2組成量が96.0~100.0質量%含まれるガラスフィラメント」という組成要件について、請求項1及び3において、他に規定される物性要件を満たし得るものであることを、発明の詳細な説明に記載や示唆又は本願出願時の技術常識から当業者が認識することができず、サポート要件に適合しない。
請求項3に係る発明は、出願人が令和5年5月1日の提出した意見書で示した、本発明の範囲外とされる「参考例」を含むものであり、請求項3の記載はサポート要件に適合しない。
請求項1及び3では誘電正接tanδ2について特定していないが、誘電正接tanδ2が取り得るあらゆる範囲のものまで本件発明を拡張ないし一般化することはできない。
(3)申立理由3(実施可能要件)
本件特許は、明細書の記載が以下の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
実施例4と実施例5の、加熱温度、加熱時間、tanδ1の値及びtanδ1/tanδ2の値を比較すると、実施例4の条件でtanδ1の値及びtanδ1/tanδ2の値が下限に達していると認められ、実施例4の条件でのtanδ1の値未満及びtanδ1/tanδ2の値未満の数値範囲を含む請求項1~3に係る発明は、明らかに実施できない範囲を含むものである。
tanδ1/tanδ2の値が所定の数値範囲となるためには、tanδ2の値が影響することが明らかであるところ、tanδ2については規定しておらず、tanδ1/tanδ2の値を所定の数値範囲とすることはできない。
請求項3に係る発明の、加熱処理時間「1分~72時間」は、tanδ1/tanδ2の値を所定の数値範囲とすることができない数値範囲を含むものである。
(4)申立理由4(新規事項)
本件特許は、令和5年5月1日付け手続補正書でした補正が、以下の点で願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
請求項1の「前記加熱処理シリカガラスクロスの誘電正接tanδ1の前記非加熱処理シリカガラスクロスの周波数9GHz以上での誘電正接tanδ2に対する比tanδ1/tanδ2を0.47以下とする」について、当該記載の根拠とされる【0066】には記載されていない。
(5)申立理由5-1(甲7を引用例とする新規性)
本件特許の請求項1及び3に係る発明は、甲7に記載の発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、当該請求項に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
(6)申立理由5-2(甲7を主引用例とする進歩性)
本件特許の請求項1及び3に係る発明は、甲7及び甲10に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(7)申立理由6-1(甲11を引用例とする新規性)
本件特許の請求項1に係る発明は、甲11に記載の発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、当該請求項に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
(8)申立理由7-1(甲6を主引用例とする進歩性)
本件特許の請求項1及び2に係る発明は、甲6及び甲13に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(9)申立理由7-2(甲6を引用例とする新規性)
本件特許の請求項3に係る発明は、甲6に記載の発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、当該請求項に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
<引用文献等一覧>
甲7:実願平5-43470号(実開平7-10694号)のCD-ROM(申立人の提示した甲第7号証)
甲10:特開平5-170483号公報(同甲第10号証)
甲11:特開2004-353132号公報(上記甲11)
甲13:特開平7-157972号公報(申立人の提示した甲第13号証)
2 取消理由通知(決定の予告)で採用しなかった申立理由についての当審の判断
(1)甲7及び甲10の記載並びに引用発明
ア 甲7
甲7の【0011】~【0012】、【0016】~【0019】より、以下の発明(以下「甲7発明」という。」)が記載されていると認める。
「加熱処理高珪酸ガラス繊維クロスの製造方法であって、
前記加熱処理高珪酸ガラス繊維クロスが、SiO296%以上を含有する高珪酸ガラス繊維の織布からなり、
700℃で48時間加熱する、加熱処理高珪酸ガラス繊維クロスの製造方法。」
イ 甲10
甲10の【請求項1】、【請求項7】、【0012】、【0021】より、以下の事項が記載されていると認める。
「加熱によってシラノール基量を低減し、これにより誘電正接を低下すること。」
(2)申立理由1(明確性要件)について
請求項に係る発明が明確に把握されるためには、請求項に係る発明の範囲が明確であること、すなわち、ある具体的な物や方法が請求項に係る発明の範囲に入るか否かを当業者が理解できるように記載されていることが必要である。
ここで、本件特許の請求項3の
「プリプレグ用加熱処理シリカガラスクロスの製造方法であって、
前記プリプレグ用加熱処理シリカガラスクロスが、ガラスフィラメントを束ねたガラスストランドに対して撚りを掛けたガラスヤーンを製織してなるものであり、
SiO2組成量が96.0~100.0質量%含まれるガラスフィラメントを束ねたガラスストランドに対して撚りを掛けたガラスヤーンを製織して非加熱処理シリカガラスクロスを準備する工程と、
前記非加熱処理シリカガラスクロスを500℃~1650℃の温度で、1分~72時間加熱処理して加熱処理シリカガラスクロスを得る工程を含み、
前記加熱処理シリカガラスクロスの誘電正接tanδ1を、周波数9GHz以上で0.0015以下とし、
前記加熱処理シリカガラスクロスの誘電正接tanδ1の前記非加熱処理シリカガラスクロスの周波数9GHz以上での誘電正接tanδ2に対する比tanδ1/tanδ2を0.47以下とすることを特徴とするプリプレグ用加熱処理シリカガラスクロスの製造方法。」という記載は、プリプレグ用加熱処理シリカガラスクロスの製造方法を規定するものとして明確であり、ある具体的な方法が請求項に係る発明の範囲に入るか否かを当業者が理解できるものである。
申立人は、「誘電正接」について、測定時の温度と湿度が特定されていない旨主張するが、申立人の示す甲4から把握できる「誘電正接は、測定時の温度と湿度に対しての依存性がある」とは、低温から200℃を越える使用環境について考慮したものであるところ、本件特許の【0002】の記載より、本件発明が極低温や高温を含む使用環境を想定しているとはいえない。すなわち、本件発明において、当業者が通常想定し得る温度と湿度で測定した「誘電正接」で把握し得るものである。
また申立人は、「前記加熱処理シリカガラスクロスの誘電正接tanδ1の前記非加熱処理シリカガラスクロスの周波数9GHz以上での誘電正接tanδ2に対する比tanδ1/tanδ2を0.47以下とする」について、【0066】の記載と整合していない旨主張するが、tanδ1及びtanδ2の実測値の有効数字等を考慮すれば、整合していないとまではいえない。
よって、申立理由1は理由がない。
(3)申立理由2(サポート要件)について
特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。以下検討する。
本件特許の【0010】の記載から、本件特許に係る発明が解決しようとする課題は「誘電正接が低く、伝送損失が小さい基板(「基板」とは、プリプレグ、プリント配線板、又はこれらの積層板等を含む概念である)を作製することのできるシリカガラスクロス、前記シリカガラスクロスを用いたプリプレグ、及びプリント配線板を提供すること」である。
そして、請求項3では、プリプレグ用加熱処理シリカガラスクロスの材料としての構成、加熱処理条件、加熱処理シリカガラスクロスの誘電正接tanδ1及び加熱処理シリカガラスクロスの誘電正接tanδ1の非加熱処理シリカガラスクロスの誘電正接tanδ2に対する比tanδ1/tanδ2を規定しており、本件特許の【0061】~【0074】に示される実施例を参照することにより、請求項3に記載が、発明の詳細な説明の記載により、上記発明が解決しようとする課題を解決できると認識できる範囲のものであると判断できる。
申立人は、請求項1及び3の「SiO2組成量が96.0~100.0質量%含まれるガラスフィラメント」という組成要件について、他に規定される物性要件を満たし得るものであることを、発明の詳細な説明の記載や示唆又は本願出願時の技術常識から当業者が認識することができない旨主張しているが、請求項3において、上記組成要件と、他に規定される物性要件とをともに規定することによって、発明が解決しようとする課題を解決できると認識できるものである。
また、本件訂正によって訂正された請求項3には、出願人が令和5年5月1日の提出した意見書で示した、「参考例」は含まれない。
さらに申立人は、請求項3では誘電正接tanδ2について特定していない旨主張するが、加熱処理シリカガラスクロスの誘電正接tanδ1及び加熱処理シリカガラスクロスの誘電正接tanδ1の非加熱処理シリカガラスクロスの誘電正接tanδ2に対する比tanδ1/tanδ2を規定すれば、誘電正接tanδ2を導出することができるものである。
よって、申立理由2は理由がない。
(4)申立理由3(実施可能要件)について
物の発明について実施可能要件を満たすためには、明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が、その記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、当該発明に係る物を作り、使用をすることができる程度のものでなければならない。以下検討する。
本件発明が、本件特許の請求項3に記載のとおりのものであるところ、【0061】~【0074】には、実施例が示され、本件発明の発明特定事項を有する実施例2~5が【0010】の記載から把握できる本件特許に係る発明が解決しようとする課題を解決するものとして記載されている。
これらの記載を参照することにより、当業者が、その記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、本件発明を実施できるものである。
申立人は、実施例4と実施例5からして請求項3に係る発明は、明らかに実施できない範囲を含むものであると主張するが、規定する全ての範囲について実施できることを求めるものではないことは明らかである。
また、申立人は、請求項3では誘電正接tanδ2について特定していない旨主張するが、加熱処理シリカガラスクロスの誘電正接tanδ1及び加熱処理シリカガラスクロスの誘電正接tanδ1の非加熱処理シリカガラスクロスの誘電正接tanδ2に対する比tanδ1/tanδ2を規定すれば、誘電正接tanδ2を導出することができるものである。
さらに申立人は、請求項3に係る発明の、加熱処理時間「1分~72時間」は、tanδ1/tanδ2の値を所定の数値範囲とすることができない数値範囲を含むものであると主張するが、加熱処理時間「1分~72時間」の全ての範囲でtanδ1/tanδ2の値が所定の数値範囲となることが説明されていることを求めるものではないことは明らかである。
よって、申立理由3は理由がない。
(5)申立理由4(新規事項)について
「前記加熱処理シリカガラスクロスの誘電正接tanδ1の前記非加熱処理シリカガラスクロスの周波数9GHz以上での誘電正接tanδ2に対する比tanδ1/tanδ2を0.47以下とする」について、【0066】の記載との整合性については、tanδ1及びtanδ2の実測値の有効数字等を考慮すれば、整合していないとまではいえない。
よって、申立理由4は理由がない。
(6)申立理由5-1、5-2(甲7を引用例とする新規性、進歩性)について
ア 対比
本件発明と甲7発明とを対比する。
甲7発明の「加熱処理高珪酸ガラス繊維クロス」は、本件発明の「プリプレグ用加熱処理シリカガラスクロス」と、甲7発明では700℃で48時間加熱することより、「加熱処理シリカガラスクロス」である限りにおいて一致する。
甲7発明の「SiO296%以上を含有する」ことは、本件発明の「SiO2組成量が96.0~100.0質量%含まれる」ことに相当する。
また、甲7発明の「700℃で48時間加熱する」ことは、本件発明の「500℃~1650℃の温度で、1分~72時間加熱処理」することに相当する。
したがって、本件発明と甲7発明とは、
「加熱処理シリカガラスクロスの製造方法であって、
SiO2組成量が96.0~100.0質量%含まれ、500℃~1650℃の温度で、1分~72時間加熱処理して加熱処理シリカガラスクロスを得る工程を含む、加熱処理シリカガラスクロスの製造方法。」
で一致し、少なくとも以下の点で相違する。
<相違点3>
本件発明が「前記加熱処理シリカガラスクロスの誘電正接tanδ1を、周波数9GHz以上で0.0015以下」とするのに対し、甲7発明は、当該規定を有しない。
イ 判断
上記<相違点3>について検討する。
<相違点3>は実質的な相違点である。
また、甲7発明における、加熱処理高珪酸ガラス繊維クロスは、甲7の【0001】の「本考案は内燃機関排気ガス用配管などに用いる保温カバーに関する。」と記載されており、高周波に晒されることを想定したものではないことは明らかである。そうすると、誘電正接について考慮すること及び特定の数値範囲とすることは、甲10の記載を参酌しても、当業者が容易に想到したことではない。
ウ 小括
よって、本件発明は、他の相違点について検討するまでもなく、甲7発明ではない。
また、本件発明は、他の相違点について検討するまでもなく、甲7発明及び甲10に記載の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(7)申立理由6(甲11を引用例とする新規性)について
本件訂正により、請求項1は削除された。
(8)申立理由7-1、7-2(甲6を引用例とする進歩性、新規性)について
本件訂正により、請求項1及び請求項2は削除された。
また、本件発明と甲6発明を対比すると第4の2(2)アで示した<相違点1>及び<相違点2>で相違するが、第4の2(2)イのとおり<相違点2>は実質的な相違点である。したがって、本件発明は甲6発明でない。
(9)取消理由通知(決定の予告)で採用しなかった申立理由についての当審の判断のまとめ
よって、本件発明3は、取消理由通知(決定の予告)に採用しなかった申立理由によって取り消すことはできない。
第6 むすび
以上のとおり、請求項3に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては取り消すことはできない。さらに、他に請求項3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、本件特許の請求項1~2は、本件訂正により削除されたため、請求項1~2に係る特許についての本件特許異議の申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったから、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2024-700102