特許異議申立
2017-700257
離型フィルム
- 審判番号
- 2017-700257
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2015-505220外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2017年03月13日
- 審決日
- 2017年12月13日
- 公報発行日
- 2018年03月30日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】三井化学東セロ株式会社
- 【権利者代理人】特許業務法人浅村特許事務所
- 【権利者代理人】特許業務法人鈴木国際特許事務所
- 【異議申立人】森谷 晴美
- 分類
- P1651.536-YAA(B32B) / P1651.537-YAA(B32B) / P1651.113-YAA(B32B) / P1651.121-YAA(B32B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第126条第5項、特許法第36条第6項第1号、特許法第126条第6項、特許法第120条の5第4項、特許法第36条、特許法第36条第4項第1号、特許法第113条第4号、特許法第113条第2号
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第5992091号発明「離型フィルム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第5992091号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~4〕について訂正することを認める。
特許第5992091号の請求項1~4に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第5992091号(以下「本件特許」という。)の請求項1~4に係る特許についての出願は、平成25年9月19日(優先権主張平成25年3月14日 日本国)を国際出願日とする出願であって、平成28年8月26日にその特許権の設定登録がされ、その後、請求項1~4に係る特許について、特許異議申立人森谷晴美(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審において、平成29年6月13日付けで取消理由を通知したところ、指定期間内である平成29年8月10日に特許権者より意見書の提出及び訂正の請求(以下「本件訂正請求」という。)がされ、平成29年9月14日に本件訂正請求について申立人より意見書が提出されたものである。
第2 訂正の適否についての判断
1.訂正の内容
本件訂正請求は、本件特許の明細書及び特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~4について訂正することを求めるものであり、その訂正の内容は、本件特許に係る願書に添付した明細書、及び特許請求の範囲を、次のように訂正するものである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「ポリブチレンテレフタレート(A)からなる層を表層として含み、前記表層の表面粗さRa」と記載されているのを、「ポリブチレンテレフタレート(A)からなる層を表層として含む離型フィルムであって、当該離型フィルムを50μm厚のポリイミドフィルムと重ねあわせ180℃,3MPaで10分間プレスした場合の、前記表層の前記プレス後の表面粗さRa」に訂正する。(請求項1を引用する請求項2~4についても、同様に訂正する。)
(2)訂正事項2
願書に添付した明細書(以下「本件特許明細書」という。)の、段落【0032】、【0037】、【0043】、【0044】から、実施例5~7及び比較例4についての記載を削除する。
2.訂正の適否
(1)訂正事項1について
訂正前の請求項1では、「表層の表面粗さRa」が、「プレス前の表面粗さ」を含み得る記載であったところ、「プレス前」の表面粗さが0.1~4μmの範囲を満たしても、本件特許明細書の比較例1~7によれば、本件特許明細書にいう効果を奏するものではないため、請求項1に係る発明は、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものである旨、また、請求項1の「表層の表面粗さRa」が、「プレス前の表面粗さ」を意味するのか「プレス後の表面粗さ」を意味するのか明確ではないため、訂正事項1は、「表層の表面粗さRa」が、「プレス後の表面粗さ」を意味することを明確にするとともに、その測定条件も明確にするものであり、特許法第120条の5第2項ただし書き第3号に記載する、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
本件特許明細書の段落【0007】には、
「本発明は、ポリブチレンテレフタレート(A)からなる層を含むフィルムであって、当該フィルムを50μm厚のポリイミドフィルムと重ねあわせ180℃,3MPaで10分間プレスした後の表面粗さRaが0.1μm以上であることを特徴とする離型フィルムを提供するものである。」と記載されており、訂正事項1は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内においてするものであり、特許法第120条の5第9項において準用する特許法第126条第5項の規定に適合する。
また、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことは明らかであり、特許法第120条の5第9項において準用する特許法第126条第6項の規定にも適合する。
(2)訂正事項2について
訂正前の本件特許明細書の段落【0032】、【0037】、【0043】、【0044】は、実施例5~7及び比較例4に係る記載を含むものであったところ、本件特許明細書の実施例5~7と比較例4は、外層とコア層の組成や厚み、エンボス処理等の処理が同一であるにもかかわらず、本件特許明細書記載の効果において相違しており、当業者がどのようにすれば、本件特許明細書記載の効果を奏するフィルムを得られるのかが不明であり、請求項1~4に係る発明を実施することができないため、訂正事項2は、外層とコア層の組成や厚み、エンボス処理等の処理が同一であっても効果が相違するという誤解を与える恐れがある記載を削除するものであり、特許法第120条の5第2項ただし書き第3号に記載する、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、訂正事項2は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内においてするものであること、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことは明らかであり、特許法第120条の5第9項において準用する特許法第126条第5項及び第6項の規定にも適合する。
(3)申立人の主張について
ア.申立人は、訂正事項1について、平成28年4月6日付け拒絶理由通知の理由3(4)に対し、特許権者は意見書において「表面粗さRaが0.1~4μmの範囲である」との記載は、「ロールトゥロール方式によるプリント配線基板製造用の離型フィルム」、即ち、最終的に得られた生産物の表面粗さを規定することを意味する旨記載しており、訂正事項1は、「最終的に得られた生産物の表面粗さ」を「10分間プレスした後の表面粗さ」にするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであると主張する。(申立人の意見書「3(2)ア」)
しかし、上記平成28年4月6日付け拒絶理由通知の理由3(4)は、
「当該フィルムを50μm厚のポリイミドフィルムと重ねあわせ180℃,3MPaで10分間熱プレス後の表面粗さRaが0.1~10μmの範囲である」との記載が、いわゆるプロダクト・バイ・プロセス・クレームである恐れがあるとする拒絶理由であり、特許権者が意見書で「最終的に得られた生産物の表面粗さを規定することを意味する」旨記載したのは、その拒絶理由に対して、請求項1の記載が「物の発明に係る請求項にその物の製造方法が記載されている」ものではないことを説明するためであり、申立人がいうように、10分プレスを行う前の「最終的に得られた離型フィルムの表面粗さ」を意味するとしたものではない。
そして、本件特許明細書の段落【0007】に「本発明は、ポリブチレンテレフタレート(A)からなる層を含むフィルムであって、当該フィルムを50μm厚のポリイミドフィルムと重ねあわせ180℃,3MPaで10分間プレスした後の表面粗さRaが0.1μm以上であることを特徴とする離型フィルムを提供するものである。」と記載されていることからすれば、訂正前の「表面粗さRaが0.1~4μmの範囲である」との記載が、10分プレスを行う前の「最終的に得られた離型フィルムの表面粗さ」を意味するものではないことは明らかである。
よって、訂正事項1は、申立人がいう実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、上記主張は採用できない。
イ.また、申立人は、訂正事項2について、実施例5~7及び比較例4についての記載を削除することにより、同じプレス処理の条件でも同じ表面粗さとはならないと理解できる根拠となる記載を削除したもので、この削除により、同じプレス処理の条件でも同じ表面粗さとはならないと理解されないのであるから、訂正事項2は、実質的に訂正前の明細書に記載されていない事項を明細書に記載するものである旨主張する。
しかし、実施例5~7及び比較例4は、実施例1~4、8、9及び比較例1~3、5~8の記載とともに、表層を構成する樹脂の組成や厚み、エンボス処理の有無、オーブン熱処理の有無、プレス前後の表面粗さの各条件と、カバーレイ自然剥離時間や耐シワ性等の各性能の評価との関係を示すものであり、実施例5~7及び比較例4が削除されたからといって、各条件と各性能の関係についての理解が変わるものでもない。
よって、訂正事項2は、申立人がいう実質的に訂正前の明細書に記載されていない事項を明細書に記載するものではなく、上記主張は採用できない。
(4)一群の請求項について
訂正前の請求項1~4について、訂正前の請求項2~4は、訂正前の請求項1を、直接又は間接に引用するものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連関して訂正されるものである。
したがって、訂正前の請求項1~4は、特許法第120条の5第4項に規定する、一群の請求項である。
3.むすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1~4〕について訂正を認める。
第3 特許異議の申立てについて
1.請求項1~4に係る発明
上記のとおり、本件訂正請求が認められるから、本件特許の請求項1~4に係る発明(以下「本件発明1」等という。)は、それぞれ、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~4に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
ポリブチレンテレフタレート(A)からなる層を表層として含む離型フィルムであって、当該離型フィルムを50μm厚のポリイミドフィルムと重ねあわせ180℃,3MPaで10分間プレスした場合の、前記表層の前記プレス後の表面粗さRaが0.1~4μmの範囲であることを特徴とするロールトゥロール方式によるプリント配線基板製造用の離型フィルム。
【請求項2】
23℃で測定される引張弾性率が600MPa~2000MPaである請求項1に記載のロールトゥロール方式によるプリント配線基板製造用の離型フィルム。
【請求項3】
ポリブチレンテレフタレート(A)の固有粘度(IV)が1.0~1.3である請求項1または2に記載のロールトゥロール方式によるプリント配線基板製造用の離型フィルム。
【請求項4】
裏面層あるいは内層に、融点が50℃から150℃の樹脂を45質量%以上含む請求項1~3の何れかに記載のロールトゥロール方式によるプリント配線基板製造用の離型フィルム。」
2.取消理由の概要
本件発明1~4に対して、特許権者に通知した取消理由の概要は以下のとおりである。なお、申立人が特許異議申立書において主張した理由は、すべて通知した。
理由1)本件特許は、明細書及び特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号、第6項第2号及び第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
理由2)本件発明1~4は、その優先日前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
理由3)本件発明1~4は、その優先日前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
甲1:特開2010-234794号公報
甲2:国際公開第2005/002850号
甲3:森猛他3名、「鋼材の表面粗さパラメータと高力ボルト摩擦接合継手のすべり係数」、土木学会論文集A1(構造・地震工学)、2011年、Vol.67、No.2、446~453頁
甲4:特開昭62-277792号公報
甲5:「新しいエチレン系コポリマー アクリフト」、住友化学工業株式会社、2011年6月
[理由1]
(1)請求項1には、「ポリブチレンテレフタレート(A)からなる層を表層として含み、前記表層の表面粗さRaが0.1~4μmの範囲であること」と記載されているが、「表層の表面粗さRa」が、「プレス前の表面粗さ」を意味するのか、「プレス後の表面粗さ」を意味するのか特定されていない。このため、「表層の表面粗さRa」は「プレス前」の表面粗さである場合も含み得る記載であるが、「プレス前」の表面粗さが0.1~4μmの範囲を満たしても、本件特許明細書の比較例1~7によれば、本件特許明細書にいう効果を奏するものではなく、請求項1に係る発明は、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものである。また、請求項1の「表層の表面粗さRa」が、何を示すのか明確ではない。
(2)本件特許明細書の実施例5~7と比較例4は、外層とコア層の組成や厚み、エンボス処理等の処理が同一であるにもかかわらず、本件特許明細書記載の効果を奏するか否かにおいて相違する。このため、本件特許明細書の記載では、当業者がどのようにすれば、本件特許明細書記載の効果を奏するフィルムを得られるのかが不明であり、請求項1~4に係る発明を実施することができない。
[理由2、理由3]
本件発明1~4は、甲1に記載された発明である。また、仮に相違点が実質的なものであるとしても、甲1に記載された発明から容易に想到することができたものである。
本件発明1~4は、甲2に記載された発明及び甲1、3~5に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
3.当審の判断
(1)理由1(特許法第36条)に係る取消理由についての判断
ア.(ア)上記のように本件訂正請求が認められ、本件発明1には、「表層の表面粗さRa」について、「当該離型フィルムを50μm厚のポリイミドフィルムと重ねあわせ180℃,3MPaで10分間プレスした場合の、前記表層の前記プレス後の表面粗さRa」と特定され、「表面粗さRa」は、「50μm厚のポリイミドフィルムと重ねあわせ180℃,3MPaで10分間プレスした」後の「表面粗さRa」であることが明確である。
(イ)また、本件発明1の「50μm厚のポリイミドフィルムと重ねあわせ180℃,3MPaで10分間プレスした場合の、前記表層の前記プレス後の表面粗さRaが0.1~4μmの範囲」には、本件特許明細書の効果を奏しない比較例1~7は該当せず、本件発明1は、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものではない。
(ウ)なお、申立人は、意見書において、本件特許明細書の段落【0027】に「プレス」なる記載があり、エンボス処理の「プレス」と解釈可能であり、上記の「10分間プレスした場合の、前記表層の前記プレス後の表面粗さRa」との事項の根拠が本件特許明細書にはなく、「表層の表面粗さRa」が何を示すのか、依然として明確でない旨主張する。
しかし、上記「第2 2.(1)」のように、「10分間プレスした場合の、前記表層の前記プレス後の表面粗さRa」との事項は、本件特許明細書の段落【0007】にも記載されており、申立人がいう根拠となる記載がないものではなく、申立人の主張は採用できない。
イ.(ア)上記のように本件訂正請求が認められ、外層とコア層の組成や厚み、エンボス処理等の処理が同一であっても効果が相違するという誤解を与える恐れのあった実施例5~7及び比較例4の記載が削除されたが、本件特許明細書には、表層を構成する樹脂の組成や厚み、エンボス処理の有無、オーブン熱処理の有無、プレス前後の表面粗さの、それぞれの組み合わせが示された実施例1~4、8、9及び比較例1~3、5~8の記載があり、これらの記載を踏まえれば、当業者であれば、本件発明1~4を実施することができるものといえる。
(イ)申立人は、意見書において、本件特許明細書の実施例1及び2は、同じ材料を用いたものであり、加熱エンボスロールの温度は同じであるが、オーブン熱処理の有無が異なるだけで、プレス後の表面粗さRaの値に20~30%の相違が生じており、加熱エンボスロールの温度で表面粗さRaの値を容易に制御はできず、当業者であっても過度の試行錯誤が必要となること等から、本件発明1~4を容易に実施することができない旨主張する。
しかし、同じ材料でオーブン熱処理の有無が異なる例として、実施例1及び2のほか、比較例1及び2があり、いずれも、オーブン熱処理が有りの場合は、無い場合と比べてプレス後の表面粗さRaが大きくなっており、この実施例と比較例の結果を踏まえれば、当業者にとって、本件発明1~4を実施する上で、過度の試行錯誤が必要となるものとはいえず、申立人の主張は採用できない。
ウ.よって、本件発明1~4は、特許法第36条第6項第1号又は第2号の規定に違反するものではなく、また、本件特許明細書は、特許法第36条第4項第1号の規定に違反するものではないから、本件発明1~4に係る特許は、特許法第113条第4号に該当するものではない。
(2)理由2(特許法第29条第1項第3号)、理由3(特許法第29条第2項)に係る取消理由についての判断
ア.(ア)甲1(特に、請求項1、段落【0048】)には、以下の発明が記載されている。
「第三成分としてジオール化合物を共重合させたポリブチレンテレフタレート系樹脂(A)と、ポリメチルペンテン樹脂(B)とを主成分とし、樹脂(A):樹脂(B)の質量比が100:20~100:5である樹脂組成物からなる2層の離型層の間に、樹脂成分100質量部に対し、曲げ弾性率が600MPa以下のポリブチレンテレフタレート系樹脂(E)を75~50質量部、融点が110~140℃である合成樹脂(F)を20~50質量部含む樹脂組成物からなる中間層を有する多層構造であって、前記離型層と前記中間層の厚さの比が、離型層:中間層=1:10~1:3であり、総厚が20~160μmであり、前記離型層の表面は、三次元中心面平均粗さSRaが0.3~10μmである、離型フィルム」(以下「甲1発明」という。)
(イ)本件発明1と甲1発明を対比すると、表層の表面粗さについて、本件発明1が「離型フィルムを50μm厚のポリイミドフィルムと重ねあわせ180℃,3MPaで10分間プレスした場合の、前記表層の前記プレス後の表面粗さRaが0.1~4μmの範囲」であるのに対し、甲1発明は「三次元中心面平均粗さSRaが0.3~10μm」である点(以下「相違点1」という。)で、少なくとも相違する。
(ウ)この相違点1について検討する。
甲1には、「プリント配線基板、フレキシブルプリント基板、多層プリント配線基板等の製造工程における熱プレス工程に好適に用いられる」離型フィルム(段落【0001】)について、「離型フィルムの離型層表面の片面または両面」には、「表面粗化処理を行うことができ」、「表面粗化処理を行うことにより、離型フィルムを熱プレスに使用する時の折りシワの発生を防ぐことができる。表面粗化処理を行う場合、離型層表面の三次元中心面平均粗さSRaが0.3~10μmとなるようにすることが好ましく、さらに、0.5~5μmとなるようにすることが好ましい。この三次元中心面平均粗さが0.3μm未満では、離型フィルムの熱収縮による凹凸と回路部との空間にある空気が抜けにくくなることから、折りシワを抑制する効果が良好に得られなくなる。一方、10μmを超えると、離型面の凹凸度合が過剰に大きくなり、熱プレス時の圧力のばらつきや、接着剤のにじみ出しにつながる可能性がある。」(段落【0048】下線は当審で付記したもの。)と記載されている。
この記載からすると、甲1発明の「離型フィルム」の離型層表面の三次元中心面平均粗さSRaの「0.3~10μm」は、熱プレス前の測定値を意味するものといえる。ここで、甲1発明の「離型フィルム」を「50μm厚のポリイミドフィルムと重ねあわせ180℃,3MPaで10分間プレスした場合」に、「離型フィルム」の離型層表面の三次元中心面平均粗さSRaがどの程度変化するか、甲1には記載も示唆もされておらず、本件発明1の「表面粗さRaが0.1~4μmの範囲」に相当するとは、必ずしもいえるものではない。
よって、本件発明1は甲1発明ではない。
(エ)なお、申立人は、意見書(「3(3)ウ」)において、「本件訂正後の請求項1に記載の10分プレスを行うことにより、本件明細書、特に表2の記載からみて、表面粗さは、約1/2(実施例2)~約1/70(比較例6)の範囲で減少して」おり、「この減少の程度を踏まえ、甲1に記載のものの10分プレスを行った後の表面粗さは0.004~5μmと推定され、本件発明の0.1~4μmの範囲と重複一致している」旨主張する。
しかし、上記(ウ)で述べたように、プレス後、どの程度変化するかは、甲1に記載も示唆もされておらず、フレキシブルプリント配線基板の製造工程での離型性向上のために、プレス後の表面粗さに着目するものではないから、甲1発明の離型フィルムが、本件発明1のように「50μm厚のポリイミドフィルムと重ねあわせ180℃,3MPaで10分間プレスした場合の、前記表層の前記プレス後の表面粗さRaが0.1~4μmの範囲」にあるとは、直ちにはいえない。
(オ)そして、この相違点1に関し、記載あるいは示唆する証拠が示されておらず、本件発明1は、この相違点1に係る「表面粗さRaが0.1~4μmの範囲」とすることにより、「プレス後のカバーレイからの自然剥離時間が30秒未満と短く、とくにロールトゥロール方式でフレキシブルプリント配線基板の製造工程での離型性に優れ、機械的に行なわれる離型の際にシワを発生することがなく、耐熱性、耐汚染性、を有するので、エポキシ樹脂系接着剤が用いられるプリント配線基板、フレキシブルプリント配線基板、多層プリント配線基板などの製造に好適に使用し得る」(段落【0010】)との効果を奏するものである。
よって、本件発明1は、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(カ)本件発明2~4は、本件発明1の全ての発明特定事項を有しているから、本件発明2~4についても、甲1発明ではなく、また、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
イ.(ア)甲2(特に、請求項1、請求項2、請求項6)には、以下の発明が記載されている。
「温度180℃における粘弾性率が50~250MPaであるポリブチレンテレフタレート系樹脂を含む離型層を有してなる離型フィルムであって、離型層の表面10点平均粗さ(Rz)が10~45μmである、離型フィルム」(以下「甲2発明」という。)
(イ)本件発明1と甲2発明を対比すると、表層の表面粗さについて、本件発明1が「離型フィルムを50μm厚のポリイミドフィルムと重ねあわせ180℃,3MPaで10分間プレスした場合の、前記表層の前記プレス後の表面粗さRaが0.1~4μmの範囲」であるのに対し、甲2発明は「離型層の表面10点平均粗さ(Rz)が10~45μm」である点(以下「相違点2」という。)で、少なくとも相違する。
(ウ)この相違点2について検討する。
甲2には、従来、「フレキシブルプリント配線板 (以下、FPCということがある)は、ポリイミドフィルムなど絶縁基材の表面に所定の回路を設けたフレキシブル回路部材より構成されて」おり、「このようなFPCは、通常、フレキシブル回路部材を、接着剤付きの耐熱樹脂フィルムであるカバーレイで被覆して絶縁及び回路保護を行い、離型フィルムを介在させてプレス機を用いプレスラミネートして製造される」(明細書1頁12~16行)が、この「離型フィルム」について、「離型層の表面粗さは、Rz=10~45μm、好ましくは15~43μmである。表面粗さが前記の範囲より小さいと離型層破れが発生することがある。一方、前記の範囲を超えると、エンボス柄がFRCに転写される」(明細書4頁8~11行)と記載されている。
この記載からすると、甲2発明の「離型フィルム」の離型層の表面10点平均粗さ(Rz)の「10~45μm」は、プレス機でプレスする前の測定値を意味するものといえる。この甲2発明の「離型フィルム」を「50μm厚のポリイミドフィルムと重ねあわせ180℃,3MPaで10分間プレスした場合」に、「離型フィルム」の離型層の表面10点平均粗さ(Rz)がどの程度変化するか、甲2には記載も示唆もされておらず、本件発明1の「表面粗さRaが0.1~4μmの範囲」に相当するとは、必ずしもいえるものではない。
そして、この相違点2に関し、記載あるいは示唆する証拠が示されておらず、本件発明1は、この相違点2に係る「表面粗さRaが0.1~4μmの範囲」とすることにより、「プレス後のカバーレイからの自然剥離時間が30秒未満と短く、とくにロールトゥロール方式でフレキシブルプリント配線基板の製造工程での離型性に優れ、機械的に行なわれる離型の際にシワを発生することがなく、耐熱性、耐汚染性、を有するので、エポキシ樹脂系接着剤が用いられるプリント配線基板、フレキシブルプリント配線基板、多層プリント配線基板などの製造に好適に使用し得る」(段落【0010】)との効果を奏するものである。
よって、本件発明1は、甲2発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(エ)本件発明2~4は、本件発明1の全ての発明特定事項を有しているから、本件発明2~4についても、甲2発明及び甲1、3~5の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
ウ.よって、本件発明1~4は、特許法第29条第1項第3号に該当せず、また、特許法第29条第2項の規定に違反するものでもないから、本件発明1~4に係る特許は、特許法第113条第2号に該当するものではない。
(3)むすび
以上のとおりであるから、上記取消理由によっては、本件発明1~4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1~4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2017-700257