特許異議申立
2024-700105
食品用包装フィルムおよび食品用包装体
- 審判番号
- 2024-700105
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-129071
- 登録番号
- 7321682
- 請求日
- 2024年02月07日
- 審決日
- 2024年05月10日
- 公報発行日
- 2024年06月28日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】三井化学東セロ株式会社
- 【権利者代理人】速水 進治
- 【異議申立人】平居 博美
- 審判長/審判官
- 審判長 磯貝 香苗
- 審判官 松本 陶子
- 審判官 植前 充司
- 分類
- P1651.113-Y (C08J) / P1651.121-Y (C08J) / P1651.536-Y (C08J)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法36条4項1号特許法113条4号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第113条第2号、特許法第36条第4項第1号、特許法第29条第2項、特許法第113条第4号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7321682号発明「食品用包装フィルムおよび食品用包装体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7321682号の請求項1~10に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7321682号(以下、本件特許という。)の請求項1~10に係る発明についての出願は、
平成30年 7月 6日に出願され、
令和 5年 7月28日にその特許権の設定登録(請求項の数10)がなされ、
令和 5年 8月 7日に特許掲載公報が発行された。
その後、当該特許に対し、
令和 6年 2月 7日に平居博美(以下、「特許異議申立人」という。)が、全ての請求項に係る特許に対して特許異議の申立てを行ったものである。
第2 本件発明について
本件特許の請求項1~10に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」~「本件発明10」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1~10に記載された事項により特定される。以下のとおりのものである。
「【請求項1】
食品を包装するためのフィルムであって、
プロピレン系重合体を含む二軸延伸フィルム層を備え、
前記プロピレン系重合体は、DSC測定による融点が137℃以上162℃以下の範囲にある第1プロピレン系重合体(ただし、高立体規則性プロピレン系重合体を除く)と、DSC測定による融点が163℃以上180℃以下の範囲にある第2プロピレン系重合体と、を含み、
前記二軸延伸フィルム層に含まれる前記第1プロピレン系重合体および前記第2プロピレン系重合体の合計量を100質量%としたとき、前記二軸延伸フィルム層中の前記第2プロピレン系重合体の含有量が1質量%以上85質量%以下であり、
前記プロピレン系重合体のASTM D1238に準拠し、230℃、2.16kg荷重の条件で測定されるメルトフローレート(MFR)は、7g/10分以下である食品用包装フィルムであり、
前記二軸延伸フィルム層の一方の面上にヒートシール層をさらに備え、
前記二軸延伸フィルム層の前記ヒートシール層が設けられた面とは反対側の面上に表面層をさらに備え、
前記第2プロピレン系重合体のアイソタクチックメソペンタッド分率(mmmm)が96.0%以上である食品用包装フィルム。
【請求項2】
請求項1に記載の食品用包装フィルムにおいて、
JIS K7127(1999)に準拠し、引張試験機を用いて測定温度23±2℃、50±5%RH、引張速度5mm/minの条件で測定される、前記食品用包装フィルムのMD方向の引張弾性率T1とTD方向の引張弾性率T2との合計値(T1+T2)が5000MPa以上10000MPa以下である食品用包装フィルム。
【請求項3】
請求項1または2に記載の食品用包装フィルムにおいて、
前記ヒートシール層は前記二軸延伸フィルム層の前記一方の面に直接接するように設けられている食品用包装フィルム。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の食品用包装フィルムにおいて、
前記ヒートシール層がホモポリプロピレンおよびプロピレンと炭素数が2以上10以下のα-オレフィンとのランダム共重合体から選択される一種または二種以上を含む食品用包装フィルム。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の食品用包装フィルムにおいて、
前記表面層はアンチブロッキング剤を含む食品用包装フィルム。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の食品用包装フィルムにおいて、
前記表面層はホモポリプロピレンおよびプロピレンと炭素数が2以上10以下のα-オレフィンとのランダム共重合体から選択される一種または二種以上を含む食品用包装フィルム。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか一項に記載の食品用包装フィルムにおいて、
前記二軸延伸フィルム層に含まれる粘着付与剤の含有量が、前記二軸延伸フィルム層の全体を100質量%としたとき、10質量%以下である食品用包装フィルム。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか一項に記載の食品用包装フィルムにおいて、
下記の方法で測定される水蒸気透過度が6.0g/(m2・24h)以下である食品用包装フィルム。
(測定方法)
前記食品用包装フィルムをヒートシール層が内面になるように折り返し、2方をヒートシールして袋状にする。その後、内容物として塩化カルシウムを入れる。次いで、もう1方をヒートシールして表面積が0.01m2になるように袋を作製する。次いで、得られた袋を40℃、湿度90%RHの条件で72時間保管する。保管前後の塩化カルシウムの重量を測定し、その差から水蒸気透過度(g/(m2・24h))を算出する。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか一項に記載の食品用包装フィルムにおいて、
外装包装袋に用いられる食品用包装フィルム。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれか一項に記載の食品用包装フィルムを用いた食品用包装体。」
第3 特許異議申立理由の概要
特許異議申立人は、本件特許に対する異議申立理由として、下記1~3の申立理由を主張し、4の証拠方法を提出した。
1 申立理由1(甲第1号証に基づく新規性)
本件特許の請求項1~3、8に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1~3、8に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
2 申立理由2(甲第1号証に基づく進歩性)
本件特許の請求項1~10に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明及び甲第4号証~甲第8号証に記載された技術事項に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1~10に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
3 申立理由3(実施可能要件)
本件特許の請求項8に係る特許は、下記の点で特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、特許法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
・本件特許発明8は、下記の方法で測定される水蒸気透過度が6.0g/(m2・24h)以下であることを規定する。
(測定方法)
前記食品用包装フィルムをヒートシール層が内面になるように折り返し、2方をヒートシールして袋状にする。その後、内容物として塩化カルシウムを入れる。次いで、もう1方をヒートシールして表面積が0.01m2になるように袋を作製する。次いで、得られた袋を40℃、湿度90%RHの条件で72時間保管する。保管前後の塩化カルシウムの重量を測定し、その差から水蒸気透過度(g/(m2・24h))を算出する。
加えて、本件特許発明明細書の段落0075では、以下のことが記載されている。
(7)水蒸気バリア性
食品用包装フィルムをヒートシール層が内面になるように折り返し、2方をヒートシールして袋状にした。その後、内容物として塩化カルシウムを入れた。次いで、もう1方をヒートシールして表面積が0.01m2になるように袋を作製した。次いで、得られた袋を40℃、湿度90%RHの条件で72時間保管した。保管前後の塩化カルシウムの重量を測定し、その差から水蒸気透過度(g/(m2・24h))をそれぞれ算出した。
ここで、実施例および比較例で得られた二軸延伸ポリプロピレン系フィルムの一方の面上にヒートシール層を形成した。
次いで、以下の基準により食品用包装フィルムの水蒸気バリア性を評価した。
◎◎:水蒸気透過度が5.0g/(m2・24h)以下
◎:水蒸気透過度が5.0g/(m2・24h)超過5.5g/(m2・24h)以下
〇:水蒸気透過度が5.5g/(m2・24h)超過6.0g/(m2・24h)以下
×:水蒸気透過度が6.0g/(m2・24h)超過
上記より、二軸延伸ポリプロピレン系フィルムの厚さは実施例で記載されておらず、如何なる厚さを有するフィルムについて水蒸気透過度を評価したのか記載されていない。
また、二軸延伸ポリプロピレン系フィルムの一方の面上にヒートシール層を形成しているものの、如何なる組成のヒートシール層を形成したのか記載しておらず、ヒートシール層の厚さも記載されていない。
さらに、表面層を設けたことも一切記載されていない。
水蒸気透過度は、二軸延伸ポリプロピレンフィルムの厚さやヒートシール層の厚さに応じて変動することが知られており、当業者は、二軸延伸ポリプロピレンフィルムの厚さやヒートシール層の厚さ、表面層が記載されていない本件特許発明明細書を参照しても、過度の試行錯誤を必要とするため、実施可能要件違反に該当する。
4 証拠方法
甲第1号証:特開2009-235228号公報
甲第2号証:特開2016-52787号公報
甲第3号証:特開2012-35624号公報
甲第4号証:国際公開第2017/170330号
甲第5号証:特開2015-199228号公報
甲第6号証:特開2001-114908号公報
甲第7号証:特開2016-50222号公報
甲第8号証:「ガスバリア包装材料の技術動向」,成形加工,第21巻,第5号,2009年,第234頁~第240頁
なお、証拠の表記については、おおむね、特許異議申立書の記載にしたがった。以下、各証拠を「甲1」のようにいう。
第4 当審の判断
1 主な証拠に記載された事項
(1)甲1に記載された事項等
ア 甲1に記載された事項
甲1には、「ポリプロピレン製延伸フィルム」に関し、おおむね次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付したものである。他の文献についても同様である。
「【技術分野】
【0001】
本発明は、特定のポリプロピレン組成物からなる二軸延伸フィルム等のポリプロピレン製延伸フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
二軸延伸ポリプロピレンフィルム等の延伸フィルムは、その優れた透明性、機械的強度、防湿性、剛性等を活かして包装材料をはじめ種々の用途に広く用いられている。また、ポリプロピレン二軸延伸フィルムの強度、透明度をさらに改良して更に広い用途への利用が期待される。
【0003】
本発明は、ポリプロピレン二軸延伸フィルム等の延伸フィルムの機械的強度の向上および耐熱性の向上を目的とするものであり、特定の関係にある2成分のポリプロピレンを含む組成物からなる二軸延伸フィルムを用いることにこの目的を達成することができることを見いだしたものである。」
「【0006】
ポリプロピレン
少なくとも一方向に延伸された延伸フィルムのポリプロピレンは、特定の2成分を含むことを特徴としている。
これらのポリプロピレンの成分は、従来公知のポリプロピレンから選択して用いることができる。また、並列あるは直列の多段重合によってこれらの成分を調製しポリプロピレン組成物を調製することも行われる。
これらポリプロピレンの成分は、一般にポリプロピレンの名称で製造・販売されているプロピレンを主体とする重合体であり、通常、密度が0.890~0.930g/cm3、MFR(ASTM D1238 荷重2160g、温度230℃)が0.001~60g/10分、好ましくは0.5~10g/10分、更に好ましくは1~5g/10分のプロピレンの単独重合体若しくはプロピレンと他の少量例えば、1質量%以下のα-オレフィン、例えばエチレン、ブテン、ヘキセン-1等との共重合体、あるいは単独重合体と共重合体との組成物である。」
「【0015】
実施例6ないし8
逐次二軸延伸ポリプロピレンフィルムの製造
プライムポリマー社製F300SV[密度:910Kg/m3、MFR:3.0g/10分(230℃)、ペンタッド分率98%]50質量%及びプライムポリマー社製F113G[密度:910Kg/m3、MFR:3g/10分(230℃)、ペンタッド分率92%]50質量%を用い、スクリュー押出機で溶融押出し、逐次二軸延伸フィルム成形装置を用い、テンター(予熱温度:188℃、延伸温度:166℃及び熱セット温度:170℃並びに緩和率;タテ方向:4%及びヨコ方向:4%)を用い、タテ方向(MD)及びヨコ方向に表3に示す倍率で延伸して、厚さ30ミクロン(μm)の逐次二軸延伸ポリプロピレンフィルムを得た。
結果を表3に示す。」
「【0017】
[図:0001411361000001.jpg]
」
「【産業上の利用可能性】
【0018】
本発明によれば、延伸性に優れたポリプロピレン組成物により機械的物性に優れ、耐熱性に優れた延伸フィルムを得ることができ、包装材料としてばかりでなく、離型フィルム等の種々の産業材用途への利用が可能である。」
イ 甲1に記載された発明
上記アの記載のうち、実施例6~8を中心にまとめると、甲1には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認める。
<甲1発明>
「プライムポリマー社製F300SV[MFR:3.0g/10分(230℃)、ペンタッド分率98%]50質量%及びプライムポリマー社製F113G[MFR:3g/10分(230℃)、ペンタッド分率92%]50質量%を含む組成物からなる二軸延伸ポリプロピレンフィルム。」
(2)甲2に記載された事項
甲2には、次の事項が記載されている。
「【0119】
(a)ポリプロピレン系樹脂
・PP-1:プライムポリプロ社製「プライムPP F300SV(商品名)」(MFR3.0g/10分)
再昇温時には166℃にポリプロピレンのα晶に由来する結晶融解ピーク温度(Tmα)のみが検出され、β晶に由来する結晶融解ピーク温度(Tmβ)は検出されなかった。すなわち、PP-1のみではβ活性を有していなかった。」
(3)甲3に記載された事項
甲3には、次の事項が記載されている。
「【0074】
(2)プロピレン系重合体(B-1):
プロピレンの単独重合体
〔(株)プライムポリマー製、商品名 F113G〕:密度0.91g/cm3、融点159℃、表面固有抵抗値:3×1016Ω/□。MFR:3(230℃)。」
2 申立理由1(甲第1号証に基づく新規性)及び申立理由2(甲第1号証に基づく進歩性)について
(1)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲1発明を対比する。
(ア)甲1発明の「二軸延伸ポリプロピレンフィルム」は、本件特許発明1の「フィルム」に相当するとともに、本件特許発明1の「プロピレン系重合体を含む二軸延伸フィルム層を備え」との特定事項をも満たす。
(イ)甲1発明の「二軸延伸ポリプロピレンフィルム」に含まれる「プライムポリマー社製F300SV」及び「プライムポリマー社製F113G」の融点は、甲1には記載がないが、甲2及び甲3の記載から、それぞれ、166℃、159℃であることは明らかである。
さらに、「プライムポリマー社製F113G」は「ペンタッド分率92%」であるから、本件特許発明1(あるいは、本件特許の発明の詳細な説明【0030】)でいうところの「高立体規則性プロピレン系重合体」にも該当しない。
してみると、甲1発明の「プライムポリマー社製F113G」及び「プライムポリマー社製F300SV」はそれぞれ、本件特許発明1の「第1プロピレン系重合体」及び「第2プロピレン系重合体」に相当するとともに、甲1発明の「プライムポリマー社製F300SV」及び「プライムポリマー社製F113G」を含む組成物からなる「二軸延伸ポリプロピレンフィルム」は、本件特許発明1の「前記プロピレン系重合体は、DSC測定による融点が137℃以上162℃以下の範囲にある第1プロピレン系重合体(ただし、高立体規則性プロピレン系重合体を除く)と、DSC測定による融点が163℃以上180℃以下の範囲にある第2プロピレン系重合体と、を含み、」との特定事項を満たすものである。
(ウ)甲1発明の「二軸延伸ポリプロピレンフィルム」は、「プライムポリマー社製F300SV」を50質量%、「プライムポリマー社製F113G」を50質量%含むものであるから、本件特許発明1の「前記二軸延伸フィルム層に含まれる前記第1プロピレン系重合体および前記第2プロピレン系重合体の合計量を100質量%としたとき、前記二軸延伸フィルム層中の前記第2プロピレン系重合体の含有量が1質量%以上85質量%以下であり、」との特定事項を満たす。
(エ)甲1発明の「二軸延伸ポリプロピレンフィルム」で用いられる、「プライムポリマー社製F300SV」及び「プライムポリマー社製F113G」のMFRはそれぞれ、「3.0g/10分(230℃)」及び「3g/10分(230℃)」と、ともに「7g/10分以下」の材料であるから、これら2種の材料を用いて得られる「二軸延伸ポリプロピレンフィルム」のMFRもまた、「7g/10分以下」であるといえる。
よって、甲1発明の「二軸延伸ポリプロピレンフィルム」は、本件特許発明1の「前記プロピレン系重合体のASTM D1238に準拠し、230℃、2.16kg荷重の条件で測定されるメルトフローレート(MFR)は、7g/10分以下である食品用包装フィルムであり、」との特定事項のうち、「前記プロピレン系重合体のASTM D1238に準拠し、230℃、2.16kg荷重の条件で測定されるメルトフローレート(MFR)は、7g/10分以下であるフィルムであり、」の限りにおいて一致する。
(オ)甲1発明の「二軸延伸ポリプロピレンフィルム」で用いられる「プライムポリマー社製F300SV」は「ペンタッド分率98%」であるから、本件特許発明1の「前記第2プロピレン系重合体のアイソタクチックメソペンタッド分率(mmmm)が96.0%以上である」との特定事項を満たす。
そうすると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「フィルムであって、
プロピレン系重合体を含む二軸延伸フィルム層を備え、
前記プロピレン系重合体は、DSC測定による融点が137℃以上162℃以下の範囲にある第1プロピレン系重合体(ただし、高立体規則性プロピレン系重合体を除く)と、DSC測定による融点が163℃以上180℃以下の範囲にある第2プロピレン系重合体と、を含み、
前記二軸延伸フィルム層に含まれる前記第1プロピレン系重合体および前記第2プロピレン系重合体の合計量を100質量%としたとき、前記二軸延伸フィルム層中の前記第2プロピレン系重合体の含有量が1質量%以上85質量%以下であり、
前記プロピレン系重合体のASTM D1238に準拠し、230℃、2.16kg荷重の条件で測定されるメルトフローレート(MFR)は、7g/10分以下であるフィルムであり、
前記第2プロピレン系重合体のアイソタクチックメソペンタッド分率(mmmm)が96.0%以上であるフィルム。」
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点1>
本件特許発明1においては、「食品を包装するためのフィルム」であって、「一方の面上にヒートシール層をさらに備え」、「前記ヒートシール層が設けられた面とは反対側の面上に表面層をさらに備え」ることが特定されているのに対し、甲1発明においては、「フィルム」の用途や、「ヒートシール層」及び「表面層」の有無が特定されていない点。
イ 判断
両者の間に相違点がある以上、本件特許発明1は甲1発明であるとはいえない。
また、甲1には、「機械的物性に優れ、耐熱性に優れた延伸フィルムを得ることができ、包装材料としてばかりでなく、離型フィルム等の種々の産業材用途への利用が可能である。」(甲1の発明の詳細な説明の【0018】)との記載はあるものの、食品包装用途を伺わせる記載はないし、また他の全ての証拠の記載をみても、甲1発明において、相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載はない。そして、本件特許発明1の「厚みムラが小さく、水蒸気バリア性が向上した食品用包装フィルムを提供することができる。」(本件特許の発明の詳細な説明【0012】)という効果は、甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項からみて、本件特許発明1の構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものである。
したがって、本件特許発明1は甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
ウ 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、特許異議申立書において、上記相違点1は相違点ではない旨を主張している(特許異議申立書の第30~31、33~34頁)。
しかしながら、上記イのとおり、甲1発明には「食品を包装するため」という用途を伺わせるものではないから、上記相違点1は実質的な相違点である。
また、甲1のフィルムの用途からみて、「二軸延伸ポリプロピレンフィルム」の面上にヒートシール層や表面層を設けることが当業者にとって技術常識であるとも言えない。
したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
(2)本件特許発明2~10について
本件特許発明2~3,8は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲1発明であるとはいえないし、甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
また、本件特許発明4~7,9は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
さらに、本件特許発明10は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有する食品包装用フィルムを用いた食品用包装体であるから、甲1に記載された発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(3)申立理由1及び2についてのむすび
したがって、本件特許発明1~3,8は特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえないし、本件特許発明1~10は同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるともいえないから、本件特許の請求項1~10に係る特許は、同法第113条第2号に該当せず、申立理由1及び2によっては取り消すことはできない。
3 申立理由(実施可能要件)について
(1)実施可能要件の判断基準
上記第2のとおり、本件特許発明1~10は物の発明であるところ、物の発明について実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産し、使用することができる程度の記載があることを要する。
そこで、検討する。
(2)実施可能要件の判断
本件特許の発明の詳細な説明(以下、「発明の詳細な説明」という。)の【0024】~【0063】には、「食品用包装フィルム」の材料が具体的に記載され、同【0064】には、「食品用包装フィルム」の製造方法が具体的に記載され、同【0065】~【0066】には「食品用包装フィルム」の用途が具体的に記載され、同【0021】には、「水蒸気透過度」の測定方法が具体的に記載されており、また、発明の詳細な説明の【0068】~【0079】には、具体的な実施例の記載もある。
したがって、発明の詳細な説明には、当業者が過度の試行錯誤を要することなく、本件特許発明1~10を使用し、実施することができる程度の記載があるといえる。
よって、本件特許発明1~10に関して、発明の詳細な説明の記載は実施可能要件を充足する。
(3)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、上記第3の3のとおり、主張する。
しかしながら、上記(2)のとおり、本件特許発明1~10の食品用包装フィルムを製造するにあたり、用いることのできる材料、方法が具体的に記載され、かつ、測定方法も明らかにされていること、具体的な実施例の記載があることを踏まえるならば、これらの記載を考慮の上で適宜調整し為すことは、当業者にとって過度の試行錯誤を要するものとまではいえない。
したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
(4)申立理由3についてのむすび
したがって、本件特許の請求項1~10に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるとはいえないから、同法第113条第4号に該当せず、申立理由3によっては取り消すことはできない。
第5 結語
以上のとおりであるから、特許異議申立人が提出した特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件特許の請求項1~10に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1~10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-700105