特許異議申立
2023-700354
食品用包装フィルムおよび食品用包装体
- 審判番号
- 2023-700354
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-128972
- 登録番号
- 7153487
- 請求日
- 2023年04月07日
- 審決日
- 2023年06月09日
- 公報発行日
- 2023年07月28日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】三井化学東セロ株式会社
- 【権利者代理人】速水 進治
- 【異議申立人】平居 博美
- 【異議申立人】加藤 真弥
- 審判長/審判官
- 審判長 平塚 政宏
- 審判官 加藤 友也
- 審判官 中村 和正
- 分類
- P1651.113-Y (C08J) / P1651.121-Y (C08J) / P1651.536-Y (C08J) / P1651.537-Y (C08J)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法36条6項2号特許法113条4号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7153487号発明「食品用包装フィルムおよび食品用包装体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7153487号の請求項1ないし13に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7153487号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし13に係る特許についての出願は、平成30年7月6日の出願であって、令和4年10月5日にその特許権の設定登録(請求項の数13)がされ、同年同月14日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、令和5年4月7日に特許異議申立人 平居 博美(以下、「特許異議申立人A」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし13)がされ、同年同月11日に特許異議申立人 加藤 真弥(以下、「特許異議申立人B」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし13)がされたものである。
第2 本件特許発明
本件特許の請求項1ないし13に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいう。)は、それぞれ、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1ないし13に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
食品を包装するためのフィルムであって、
プロピレン系重合体を含む二軸延伸フィルム層を備え、
JIS K7127(1999)に準拠し、引張試験機を用いて測定温度23±2℃、50±5%RH、引張速度5mm/minの条件で測定される、前記食品用包装フィルムのMD方向の引張弾性率T1とTD方向の引張弾性率T2との合計値をT3としたとき、
前記T3が6600MPa以上7500MPa以下であり、
TD方向の引張弾性率T2とMD方向の引張弾性率T1との差(T2-T1)が2500Mpa以上4000MPa以下である食品用包装フィルム。
【請求項2】
請求項1に記載の食品用包装フィルムにおいて、
前記二軸延伸フィルム層に対して、示差走査熱量計を用いて、
昇温速度10℃/分で-50℃から250℃まで昇温する過程と、250℃で10分間保つ等温過程と、降温速度10℃/分で250℃から-50℃まで降温する過程とからなる一回目の示差走査熱量測定(1stRun)と、
昇温速度10℃/分で-50℃から250℃まで昇温する過程からなる二回目の示差走査熱量測定(2ndRun)と、
を続けて行ったとき、
前記二回目の示差走査熱量測定により得られたDSC曲線2において、150℃以上180℃以下の範囲に吸熱ピークAが観察され、
前記吸熱ピークAの熱量をQとしたとき、
T3/Qが50以上80以下である食品用包装フィルム。
【請求項3】
請求項1または2に記載の食品用包装フィルムにおいて、
前記食品用包装フィルムのMD方向の引張弾性率T1が1500MPa以上3000MPa以下である食品用包装フィルム。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の食品用包装フィルムにおいて、
前記二軸延伸フィルム層の少なくとも一方の面上にヒートシール層をさらに備える食品用包装フィルム。
【請求項5】
請求項4に記載の食品用包装フィルムにおいて、
前記ヒートシール層は前記二軸延伸フィルム層の前記一方の面に直接接するように設けられている食品用包装フィルム。
【請求項6】
請求項4または5に記載の食品用包装フィルムにおいて、
前記ヒートシール層がホモポリプロピレンおよびプロピレンと炭素数が2以上10以下のα-オレフィンとのランダム共重合体から選択される一種または二種以上を含む食品用包装フィルム。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか一項に記載の食品用包装フィルムにおいて、
前記二軸延伸フィルム層の一方の面上に表面層をさらに備える食品用包装フィルム。
【請求項8】
請求項7に記載の食品用包装フィルムにおいて、
前記表面層はアンチブロッキング剤を含む食品用包装フィルム。
【請求項9】
請求項7または8に記載の食品用包装フィルムにおいて、
前記表面層はホモポリプロピレンおよびプロピレンと炭素数が2以上10以下のα-オレフィンとのランダム共重合体から選択される一種または二種以上を含む食品用包装フィルム。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれか一項に記載の食品用包装フィルムにおいて、
前記二軸延伸フィルム層に含まれる粘着付与剤の含有量が、前記二軸延伸フィルム層の全体を100質量%としたとき、10質量%以下である食品用包装フィルム。
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれか一項に記載の食品用包装フィルムにおいて、
下記の方法で測定される水蒸気透過度が6.0g/(m2・24h)以下である食品用包装フィルム。
(測定方法)
前記食品用包装フィルムをヒートシール層が内面になるように折り返し、2方をヒートシールして袋状にする。その後、内容物として塩化カルシウムを入れる。次いで、もう1方をヒートシールして表面積が0.01m2になるように袋を作製する。次いで、得られた袋を40℃、湿度90%RHの条件で72時間保管する。保管前後の塩化カルシウムの重量を測定し、その差から水蒸気透過度(g/(m2・24h))を算出する。
【請求項12】
請求項1乃至11のいずれか一項に記載の食品用包装フィルムにおいて、
外装包装袋に用いられる食品用包装フィルム。
【請求項13】
請求項1乃至12のいずれか一項に記載の食品用包装フィルムを用いた食品用包装体。」
第3 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要
1 特許異議申立人Aが提出した特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要
令和5年4月7日に特許異議申立人Aが提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書A」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。
(1)申立理由A1(甲第A1号証に基づく新規性・進歩性)
本件特許発明1ないし13は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第A1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲第A1号証に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし13に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(2)申立理由A2(甲第A2号証に基づく新規性・進歩性)
本件特許発明1ないし4及び10ないし13は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第A2号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、本件特許発明1ないし13は、甲第A2号証に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし13に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(3)申立理由A3(実施可能要件)
本件特許の請求項1ないし13に係る特許は、下記の点で特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
ア 本件特許発明1ないし13について
本件特許の実施例ではフィルムの製造条件について「押出設定温度:230~250℃・・・縦延伸温度:115~130℃・・・横延伸温度:140~175℃」という記載しかされていない(段落0080)。段落0018には「延伸処理時の延伸倍率、延伸時の温度、熱処理の温度や時間等を適宜調整することにより弾性率を調整し食品用包装フィルム100の引張弾性率を調整することができる」と記載しているにもかかわらず、上記のように幅をもたせた記載となっている。特に横延伸温度は上限と下限との間で35℃も幅がある記載となっており、35℃も差があるとフィルムの物性は大きく変わることは当業者であれば技術常識である上に特許権者自身も段落0018に延伸時の温度によってフィルムの物性が変化することを認める記載を行っている。
延伸時の温度によってフィルムの物性(ヤング率や剛性)が変化することは技術常識であることを裏付ける証拠として甲第A3号証及び甲第A4号証を提出する。甲第A3号証(段落0037及び0047)及び甲第A4号証(段落0042)には、延伸時の温度によってフィルムのヤング率や剛性が変化することが記載されている。
以上のことからフィルムの製造方法について当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえないため、本件特許発明1ないし13は実施可能要件違反である。
イ 本件特許発明4ないし13について
段落0079には「実施例および比較例で得られた二軸延伸ポリプロピレン系フィルムの一方の面上にヒートシール層を形成した」と記載されているが、どのようなヒートシール層とするのかについては一切開示がなく、ヒートシール層の組成も厚さも不明である。
また、本件明細書の段落0040~0050にはヒートシール層の好適な組成などが例示されているが幅広い記載がなされているに過ぎない。例えば、本件明細書の段落0045には「本実施形態に係るヒートシール層103は、例えば、ポリオレフィンを含むポリオレフィン系樹脂組成物(A)により構成される。ヒートシール層103を構成するポリオレフィンとしては、例えば、エチレン、プロピレン、ブテン-1、ヘキセン-1、4-メチル-ペンテン-1、オクテン-1等のα-オレフィンの単独重合体または共重合体;高圧法低密度ポリエチレン;線状低密度ポリエチレン(LLDPE);高密度ポリエチレン;ポリプロピレン;プロピレンと炭素数が2以上10以下のα-オレフィンとのランダム共重合体;エチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA);アイオノマー樹脂等が挙げられる。」とヒートシール層の組成が数多く例示されているに過ぎない。
以上のことからヒートシール層について当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえないため、本件特許発明4ないし13は実施可能要件違反である。
ウ 本件特許発明7ないし13について
本件明細書には表面層を用いた実施例が記載されていない。また、本件明細書の段落0054~0064には表面層の好適な組成などが例示されているが幅広い記載がなされているに過ぎない。例えば、段落0060には「本実施形態に係る表面層105は、例えば、ポリオレフィンを含むポリオレフィン系樹脂組成物(B)により構成される。表面層105を構成するポリオレフィンとしては、例えば、エチレン、プロピレン、ブテン-1、ヘキセン-1、4-メチル-ペンテン-1、オクテン-1等のα-オレフィンの単独重合体または共重合体;高圧法低密度ポリエチレン;線状低密度ポリエチレン(LLDPE);高密度ポリエチレン;ポリプロピレン;プロピレンと炭素数が2以上10以下のα-オレフィンとのランダム共重合体;エチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA);アイオノマー樹脂等が挙げられる。」と表面層の組成が数多く例示されているに過ぎない。
以上のことから表面層について当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえないため、本件特許発明7ないし13は実施可能要件違反である。
(4)証拠方法
甲第A1号証:国際公開第2017/169952号
甲第A2号証:国際公開第2015/012324号
甲第A3号証:国際公開第2020/137788号
甲第A4号証:特開2017―125184号公報
証拠の表記は、特許異議申立書Aの記載におおむね従った。以下、順に「甲A1」のようにいう。
2 特許異議申立人Bが提出した特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要
令和5年4月11日に特許異議申立人Bが提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書B」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。
(1)申立理由B1(甲第B1号証に基づく新規性・進歩性)
本件特許発明1、3ないし8及び11ないし13は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第B1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、本件特許発明1ないし13は、甲第B1号証に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし13に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(2)申立理由B2(甲第B4号証に基づく新規性・進歩性)
本件特許発明1ないし5及び11ないし13は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第B4号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲第B4号証に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし5及び11ないし13に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(3)申立理由B3(サポート要件)
本件特許の請求項1ないし13に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
・本件特許発明1では、TD方向の引張弾性率T2とMD方向の引張弾性率T1との差(T2-T1)が2500MPa以上4000MPa以下であると規定されている。
しかしながら、本件明細書の[表1]~[表2]に記載の実施例1~11では、(T2-T1)の最大値が実施例7の3130(MPa)であり、(T2-T1)の上限値が4000MPaとなることの技術的裏付けが明細書等に開示されておらず、臨界的意義を見出すことができない。
したがって、本件特許発明1及び請求項1を直接又は間接的に引用して特定する本件特許発明2ないし13は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求しようとするものである。
(4)申立理由B4(明確性要件)
本件特許の請求項6ないし13に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
ア 本件特許発明6では、ヒートシール層が「ホモポリプロピレンおよびプロピレンと炭素数が2以上10以下のα-オレフィンとのランダム共重合体から選択される一種又は二種以上を含む」と規定されている。
しかしながら、選択される樹脂の種類が、「ホモポリプロピレン」及び「プロピレン」と「炭素数が2以上10以下のα-オレフィンとのランダム共重合体」から選択されるのか、『「ホモポリプロピレン及びプロピレン」と「炭素数が2以上10以下のα-オレフィン」とのランダム共重合体』から選択されるのか、「ホモポリプロピレン」及び「プロピレンと炭素数が2以上10以下のα-オレフィンとのランダム共重合体」から選択されるのか不明である。
したがって、本件特許発明6及び請求項6を直接又は間接的に引用して特定する本件特許発明7ないし13は明確でない。
イ 本件特許発明9では、表面層が「ホモポリプロピレンおよびプロピレンと炭素数が2以上10以下のα-オレフィンとのランダム共重合体から選択される一種又は二種以上を含む」と規定されている。
しかしながら、選択される樹脂の種類が、「ホモポリプロピレン」及び「プロピレン」と「炭素数が2以上10以下のα-オレフィンとのランダム共重合体」から選択されるのか、『「ホモポリプロピレン及びプロピレン」と「炭素数が2以上10以下のα-オレフィン」とのランダム共重合体』から選択されるのか、「ホモポリプロピレン」及び「プロピレンと炭素数が2以上10以下のα-オレフィンとのランダム共重合体」から選択されるのか不明である。
したがって、本件特許発明9及び請求項9を直接又は間接的に引用して特定する本件特許発明10ないし13は明確でない。
(5)証拠方法
甲第B1号証:国際公開第2017/169952号
甲第B2号証:特開2013-180778号公報
甲第B3号証:特開2001-26067号公報
甲第B4号証:国際公開第2015/012324号
甲第B5号証:特開2018―103402号公報
甲第B6号証:特開2004-107417号公報
甲第B7号証:特開2018―1631号公報
証拠の表記は、特許異議申立書Bの記載におおむね従った。以下、順に「甲B1」のようにいう。
第4 当審の判断
特許異議申立書A及びBに記載した申立ての理由について、以下検討する。
なお、甲A1と甲B1は同じ文献であり、甲A2と甲B4も同じ文献であるから、申立理由A1と申立理由B1は併せて検討し、申立理由A2と申立理由B2も併せて検討する。
1 主な証拠に記載された事項等
(1)甲A1に記載された事項等
ア 甲A1に記載された事項
甲A1には、「二軸延伸積層ポリプロピレンフィルム」に関して、おおむね次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付したものである。他の文献についても同様。
・「背景技術
[0002] 従来、ポリプロピレンの延伸フィルムは、食品や様々な商品の包装用、電気絶縁用、表面保護フィルム等、広範囲な用途で汎用的に用いられていた。」
・「発明が解決しようとする課題
[0006] しかしながら、前述した特許文献2では帯電防止性に改善の余地があった。
本発明は、上記の事情に鑑み、高い剛性を有し、耐熱性に優れ、しかも帯電防止性にも優れる二軸延伸積層ポリプロピレンフィルムの提供を課題として掲げた。」
・「発明の効果
[0008] 本発明のポリプロピレンフィルムは、高結晶性のA層と低結晶性のB層との少なくとも2層を有し、B層が最表面側に配置される積層構造を有しているので、少なくとも一方の層に練り込んだ帯電防止剤が最表面側に配置される低結晶性のB層の表面にブリードアウトしてくる。その結果、高結晶性のA層の有する優れた耐熱性や剛性を維持したまま、良好な帯電防止性も発揮することができるようになった。」
・「[0057] 本発明の二軸延伸積層ポリプロピレンフィルムは、シーラントフィルム、コンデンサーやモーター等の絶縁フィルム、太陽電池のバックシート、無機酸化物のバリアフィルム、ITO等の透明導電フィルムなどに使用するためのベースフィルム(基材層)として使用可能である。」
・「[0067]7)引張弾性率(ヤング率(単位:GPa))
JIS K7127に準拠してフィルムのMD方向およびTD方向のヤング率を23℃にて測定した。ヤング率の測定には、フィルムをMD方向とTD方向のそれぞれにおいて、幅15mm、長さ200mmにカットした試験片を用いた。」
・「[0075](実施例1)
A層には、表1に示すポリプロピレン単独重合体PP-1を用い、B層には、表1に示すポリプロピレン単独重合体PP-2を用いた。なおA層原料には、帯電防止剤としてステアリルジエタノールアミンを0.5質量%配合した。また、B層には、アンチブロッキング剤として、シリカを0.15質量%配合した。A層は60mm押出機、B層は65mm押出機を用いて、250℃でTダイからシート状に押し出し、30℃のチルロールで冷却固化した後、135℃でMD方向に4.5倍に延伸した。次いでテンター内で、フィルム幅方向両端をクリップで挟み、175℃で予熱後、160℃で幅方向に8.2倍に延伸し、リラックスを6.7%させながら170℃で熱固定した。A層とB層が1層ずつ積層された二軸延伸積層ポリプロピレンフィルムを得た。積層ポリプロピレンフィルムのB層側にコロナ処理を施し、ワインダーで巻き取った。得られたフィルムの厚みは20μmであった。表1にフィルムを構成するポリプロピレンの構造を、表2に製膜条件をそれぞれ示す。得られたフィルムの物性は、表3に示すとおりである。
[0076](実施例2~10,比較例1~3)
表1および表3に示したポリプロピレンを用い、表2と表3に示した製造条件を用いた以外は、実施例1と同様にして二軸延伸積層ポリプロピレンフィルムを得た。実施例9、10は、フィードブロックを用いてA層をコア層に、B層を両スキン層とした2種3層のフィルムの例である。比較例3は、B層を積層しなかった例である。フィルム物性を表3に示す。」
・「[0079]
[表3A]
[図:0001399430000001.jpg]
[0080]
[表3B]
[図:0001399430000002.jpg]
」
イ 甲A1に記載された発明
甲A1に記載された事項を、特に実施例10に関して整理すると、甲A1には次の発明(以下、「甲A1発明」という。)が記載されていると認める。
<甲A1発明>
「JIS K7127に準拠して23℃にて測定したフィルムのMD方向のヤング率が2.5GPa、TD方向のヤング率が5.0GPaである二軸延伸積層ポリプロピレンフィルム。」
(2)甲A2に記載された事項等
ア 甲A2に記載された事項
甲A2には、「延伸ポリプロピレンフィルム」に関して、おおむね次の事項が記載されている。
・「背景技術
[0002] 従来、ポリプロピレンの延伸フィルムは、食品や様々な商品の包装用、電気絶縁用、表面保護フィルムなど広範囲な用途で汎用的に用いられていた。」
・「発明が解決しようとする課題
[0010] 本発明は、かかる従来技術の課題を背景になされたものである。すなわち、本発明の目的は、150℃でポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムに匹敵する低収縮率を有し、高剛性である延伸ポリプロピレンフィルムを提供することにある。」
・「発明の効果
[0014] 本発明の延伸ポリプロピレンフィルムによれば、150℃でポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムに匹敵する低収縮率、高剛性を発現することができ、ひいては薄膜化が可能になる。」
・「[0061] 本発明の延伸ポリプロピレンフィルムは上記の様な従来にはない優れた特性を有する。包装フィルムとしても用いた場合には、高剛性であるため薄肉化が可能であり、コストダウン、軽量化ができる。
また本発明の延伸ポリプロピレンフィルムは、耐熱性が高いため、コートや印刷時に高温での処理が可能となり、生産の効率化や従来用いられにくかったコート剤やインキ、ラミネート接着剤などを用いることができる。さらには、本発明の延伸ポリプロピレンフィルムは、コンデンサーやモーターなどの絶縁フィルム、太陽電池のバックシート、無機酸化物のバリアフィルム、ITOなどの透明導電フィルムのベースフィルムとして用いることも可能である。」
・「[0073]9)ヤング率(単位:GPa)
JIS K 7127に準拠してフィルムのMD方向およびTD方向のヤング率を23℃にて測定した。」
・「[0080](実施例1)
ポリプロピレン樹脂として、Mw/Mn=7.7、Mz+1/Mn=140、MFR=5.0g/10分、メソペンタッド分率[mmmm]=97.3%であるプロピレン単独重合体(日本ポリプロ(株)製「ノバテック(登録商標)PP SA4L」:共重合モノマー量は0モル%;以下「PP-1」と略する)を用いた。
このポリプロピレン樹脂を、60mm押出機を用いて、250℃でTダイよりシート状に押出し、30℃の冷却ロールで冷却固化した後、135℃で長さ方向(MD方向)に4.5倍に縦延伸し、次いで両端をクリップで挟み、熱風オーブン中に導いて、170℃で予熱後、160℃で横方向(TD方向)に8.2倍に横延伸し、次いで6.7%のリラックスを掛けながら168℃で熱処理した。その後、フィルムの片面にコロナ処理を行い、ワインダーで巻き取って、本発明の延伸ポリプロピレンフィルムとした。
得られたフィルムの厚みは20μmであった。」
・「[0085](実施例6)
ポリプロピレン樹脂として、Mw/Mn=4.0、Mz+1/Mn=23、MFR=6.0g/10分、[mmmm]=98.7%であるプロピレン単独重合体(共重合モノマー量は0モル%;以下「PP-4」と略する)を用いた以外は、実施例1と同様にして、本発明の延伸ポリプロピレンフィルムを得た。
得られたフィルムの厚みは20μmであった。表1にフィルムを構成するポリプロピレンの構造を、表2に製膜条件をそれぞれ示す。得られたフィルムの物性は、表3に示すとおりであった。」
・「[0092]
[表3]
[図:0001399430000003.jpg]
」
イ 甲A2に記載された発明
甲A2に記載された事項を、特に実施例6に関して整理すると、甲A2には次の発明(以下、「甲A2発明」という。)が記載されていると認める。
<甲A2発明>
「JIS K 7127に準拠して23℃にて測定したフィルムのMD方向のヤング率が2.4GPa、TD方向のヤング率が5.0GPaであるMD方向に4.5倍に縦延伸し、TD方向に8.2倍に横延伸した延伸ポリプロピレンフィルム。」
2 申立理由A1(甲A1に基づく新規性・進歩性)及び申立理由B1(甲B1に基づく新規性・進歩性)について
(1)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲A1発明を対比する。
両者は次の点で一致する。
<一致点>
「フィルムであって、
プロピレン系重合体を含む二軸延伸フィルム層を備えるフィルム。」
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点A1-1>
本件特許発明1においては、「食品を包装するための」「フィルム」と特定されているのに対し、甲A1発明においては、「フィルム」の用途は特定されていない点。
<相違点A1-2>
本件特許発明1においては、「JIS K7127(1999)に準拠し、引張試験機を用いて測定温度23±2℃、50±5%RH、引張速度5mm/minの条件で測定される」、「フィルムのMD方向の引張弾性率T1とTD方向の引張弾性率T2との合計値をT3としたとき、
前記T3が6600MPa以上7500MPa以下であり、
TD方向の引張弾性率T2とMD方向の引張弾性率T1との差(T2-T1)が2500Mpa以上4000MPa以下である」と特定されているのに対し、甲A1発明においては、「JIS K7127に準拠して23℃にて測定したフィルムのMD方向のヤング率が2.5GPa、TD方向のヤング率が5.0GPaである」と特定されている点。
なお、特許異議申立人A及びBは、特許異議申立書A及びBにおいて、相違点A1-1及び相違点A1-2は相違点ではない旨主張している(特許異議申立書Aの第15及び16ページ並びに特許異議申立書Bの第11及び12ページ)。
そこで、該主張について検討する。
甲A1発明の認定の根拠である実施例10の用途は、[0057]によると、「食品を包装するための」という用途に限られていないから、相違点A1-1は相違点ではないとはいえない。
また、甲A1には、「50±5%RH、引張速度5mm/minの条件」について全く記載されていないし、「50±5%RH、引張速度5mm/minの条件」が異なっていても、測定される値に影響はないことが当業者の技術常識であるともいえないから、相違点A1-2は相違点ではないとはいえない。
したがって、特許異議申立人A及びBの上記主張はいずれも採用できない。
イ 判断
両者の間に相違点がある以上、本件特許発明1は甲A1発明であるとはいえない。
事案に鑑み、相違点A1-2について検討する。
甲A1には、甲A1発明において、相違点A1-2に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載はない(上記1(1)ア参照。)し、他の証拠にもない。
そして、本件特許発明1の「厚みムラが小さく、水蒸気バリア性が向上した食品用包装フィルムを提供することができる。」(本件特許の発明の詳細な説明の【0012】)という効果は、甲A1発明並びに甲A1及び他の証拠に記載された事項からみて、本件特許発明1の構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものである。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲A1発明並びに甲A1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(2)本件特許発明2ないし12について
本件特許発明2ないし12は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲A1発明であるとはいえないし、甲A1発明並びに甲A1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(3)本件特許発明13について
本件特許発明13は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有する食品包装用フィルムを用いた食品用包装体であるから、甲A1に記載された発明であるとはいえないし、甲A1に記載された発明並びに甲A1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(4)特許異議申立人Bの甲A1の実施例1、3及び6ないし9のいずれかから認定した発明に基づく本件特許発明1、3ないし8及び11ないし13に対する新規性・進歩性違反並びに本件特許発明2、9及び10に対する進歩性違反の主張について
特許異議申立人Bは、甲A1の実施例1、3及び6ないし9のいずれかから認定した発明に基づく本件特許発明1、3ないし8及び11ないし13に対する新規性・進歩性違反も主張しているが、上記(1)ないし(3)と同様に判断される。すなわち、本件特許発明1、3ないし8及び11ないし13は、甲A1の実施例1、3及び6ないし9のいずれかから認定した発明であるとはいえないし、本件特許発明1ないし13は、甲A1の実施例1、3及び6ないし9のいずれかから認定した発明並びに甲A1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(5)申立理由A1及びB1についてのむすび
したがって、本件特許発明1ないし13は特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえないし、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるともいえないから、本件特許の請求項1ないし13に係る特許は、同法第113条第2号に該当せず、申立理由A1及びB1によっては取り消すことはできない。
3 申立理由A2(甲A2に基づく新規性・進歩性)及び申立理由B2(甲B4に基づく新規性・進歩性)について
(1)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲A2発明を対比する。
両者は次の点で一致する。
<一致点>
「フィルムであって、
プロピレン系重合体を含む二軸延伸フィルム層を備えるフィルム。」
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点A2-1>
本件特許発明1においては、「食品を包装するための」「フィルム」と特定されているのに対し、甲A2発明においては、「フィルム」の用途は特定されていない点。
<相違点A2-2>
本件特許発明1においては、「JIS K7127(1999)に準拠し、引張試験機を用いて測定温度23±2℃、50±5%RH、引張速度5mm/minの条件で測定される」、「フィルムのMD方向の引張弾性率T1とTD方向の引張弾性率T2との合計値をT3としたとき、
前記T3が6600MPa以上7500MPa以下であり、
TD方向の引張弾性率T2とMD方向の引張弾性率T1との差(T2-T1)が2500Mpa以上4000MPa以下である」と特定されているのに対し、甲A2発明においては、「JIS K 7127に準拠して23℃にて測定したフィルムのMD方向のヤング率が2.4GPa、TD方向のヤング率が5.0GPaである」と特定されている点。
なお、特許異議申立人A及びBは、特許異議申立書A及びBにおいて、相違点A2-1及び相違点A2-2は相違点ではない旨主張している(特許異議申立書Aの第21及び22ページ並びに特許異議申立書Bの第14及び15ページ)。
そこで、該主張について検討する。
甲A2発明の認定の根拠である実施例6の用途は、[0061]によると、「食品を包装するための」という用途に限られていないから、相違点A2-1は相違点ではないとはいえない。
また、甲A2には、「50±5%RH、引張速度5mm/minの条件」について全く記載されていないし、「50±5%RH、引張速度5mm/minの条件」が異なっていても、測定される値に影響はないことが当業者の技術常識であるともいえないから、相違点A2-2は相違点ではないとはいえない。
したがって、特許異議申立人A及びBの上記主張はいずれも採用できない。
イ 判断
両者の間に相違点がある以上、本件特許発明1は甲A2発明であるとはいえない。
事案に鑑み、相違点A2-2について検討する。
甲A2には、甲A2発明において、相違点A2-2に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載はない(上記1(2)ア参照。)し、他の証拠にもない。
そして、本件特許発明1の「厚みムラが小さく、水蒸気バリア性が向上した食品用包装フィルムを提供することができる。」という効果は、甲A2発明並びに甲A2及び他の証拠に記載された事項からみて、本件特許発明1の構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものである。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲A2発明並びに甲A2及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(2)本件特許発明2ないし5及び10ないし12について
本件特許発明2ないし5及び10ないし12は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲A2発明であるとはいえないし、甲A2発明並びに甲A2及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(3)本件特許発明6ないし9について
本件特許発明6ないし9は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲A2発明並びに甲A2及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(4)本件特許発明13について
本件特許発明13は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有する食品包装用フィルムを用いた食品用包装体であるから、甲A2に記載された発明であるとはいえないし、甲A2に記載された発明並びに甲A2及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(5)申立理由A2及びB2についてのむすび
したがって、本件特許発明1ないし5及び10ないし13は特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえないし、本件特許発明1ないし13は同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるともいえないから、本件特許の請求項1ないし13に係る特許は、同法第113条第2号に該当せず、申立理由A2及びB2によっては取り消すことはできない。
4 申立理由A3(実施可能要件)について
(1)実施可能要件の判断基準
上記第2のとおり、本件特許発明1ないし13は物の発明であるところ、物の発明について実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産し、使用することができる程度の記載があることを要する。
そこで、検討する。
(2)実施可能要件の判断
本件特許の発明の詳細な説明(以下、「発明の詳細な説明」という。)には、本件特許発明1ないし13の各発明特定事項について、具体的に記載されている。
また、発明の詳細な説明の【0018】には「T3」の「値」の達成方法が具体的に記載され、同【0019】には「Q」の値の達成方法が具体的に記載され、同【0067】には「食品用包装フィルム」の製造方法が具体的に記載され、同【0068】には「食品用包装フィルム」の用途が具体的に記載されている。
そして、発明の詳細な説明の【0071】ないし【0083】には、実施例についてその製造方法を含め具体的に記載されている。
すなわち、発明の詳細な説明には、本件特許発明1ないし13の各発明特定事項について具体的に記載され、実施例についてもその製造方法を含め具体的に記載されている。
したがって、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づき、過度の試行錯誤を要することなく、本件特許発明1ないし13を生産し、使用することができる程度の記載があるといえる。
よって、本件特許発明1ないし13に関して、発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件を充足する。
(3)特許異議申立人Aの主張について
特許異議申立人Aの申立理由A3における主張について検討するに、次のとおりいずれも採用できない。
ア 申立理由A3のアについて
発明の詳細な説明の【0080】の記載は、温度の条件に幅があるものの、当業者であればその範囲内で適宜調整して、実施例1ないし11を実施できる。
すなわち、発明の詳細な説明には、当業者が過度の試行錯誤を要することなく、本件特許発明1ないし13を生産することができる程度の記載があるといえる。
したがって、申立理由A3のアの主張は採用できない。
イ 申立理由A3のイについて
発明の詳細な説明の【0040】ないし【0053】及び【0067】には、本件特許発明6における「ヒートシール層」について具体的に記載されている。
そうすると、発明の詳細な説明の【0079】にどのような「ヒートシール層」とするのか並びに「ヒートシール層」の組成及び厚さの記載がないとしても、上記【0040】ないし【0053】及び【0067】の記載を参考にして、「ヒートシール層」を設けることは、当業者であれば実施できる。
すなわち、発明の詳細な説明には、当業者が過度の試行錯誤を要することなく、本件特許発明4ないし13を生産することができる程度の記載があるといえる。
したがって、申立理由A3のイの主張は採用できない。
ウ 申立理由A3のウについて
発明の詳細な説明の【0054】ないし【0067】には、本件特許発明7における「表面層」について具体的に記載されている。
そうすると、発明の詳細な説明に表面層を用いた実施例が記載されていなかったとしても、上記【0054】ないし【0067】の記載を参考にして、「表面層」を設けることは、当業者であれば実施できる。
すなわち、発明の詳細な説明には、当業者が過度の試行錯誤を要することなく、本件特許発明7ないし13を生産することができる程度の記載があるといえる。
したがって、申立理由A3のウの主張は採用できない。
(4)申立理由A3についてのむすび
したがって、本件特許の請求項1ないし13に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるとはいえないから、同法第113条第4号に該当せず、申立理由A3によっては取り消すことはできない。
5 申立理由B3(サポート要件)について
(1)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
そこで、検討する。
(2)サポート要件の判断
本件特許の特許請求の範囲の記載は上記第2のとおりである。
発明の詳細な説明の【0001】ないし【0008】によると、本件特許発明1ないし12の解決しようとする課題は「厚みムラが小さく、水蒸気バリア性が向上した食品用包装フィルムを提供すること」であり、本件特許発明13の解決しようとする課題は「厚みムラが小さく、水蒸気バリア性が向上した食品用包装フィルムを用いた食品用包装体を提供すること」である(以下、総称して「発明の課題」という。)。
また、発明の詳細な説明の【0009】には「MD方向の引張弾性率とTD方向の引張弾性率との合計値を特定の範囲に制御することによって、厚みムラが小さく、水蒸気バリア性が向上した食品用包装フィルムが得られることを見出し、本発明に至った。」と記載され、同【0011】及び【0020】には、本件特許発明1ないし13に対応する記載がある。
また、発明の詳細な説明の【0015】には「本実施形態に係る食品用包装フィルム100は、食品を包装するためのフィルムであって、プロピレン系重合体を含む二軸延伸フィルム層101を備え、JIS K7127(1999)に準拠し、引張試験機を用いて測定温度23±2℃、50±5%RH、引張速度5mm/minの条件で測定される、上記食品用包装フィルムのMD方向の引張弾性率T1とTD方向の引張弾性率T2との合計値をT3としたとき、上記T3が6600MPa以上であり、7000MPa以上であることがより好ましく、7100MPa以上であることがさらに好ましく、そして7500MPa以下である。これにより、厚みムラが小さく、水蒸気バリア性が向上した食品用包装フィルムを実現することができる。」と記載され、同【0018】には「まず、上記T3が上記下限値以上であることにより、二軸延伸フィルム層101の結晶性を高めることができ、その結果、本実施形態に係る食品用包装フィルム100の水蒸気バリア性を向上させることができる、と考えられる。また、上記T3が上記上限値以下であることにより、二軸延伸フィルム層101の結晶化による延伸ムラを低減することができ、その結果、二軸延伸フィルム層101の延伸時に生じる厚みムラを小さくすることができる、と考えられる。」と記載されている。
そして、発明の詳細な説明の【0071】ないし【0083】において、「食品を包装するためのフィルムであって、プロピレン系重合体を含む二軸延伸フィルム層を備え、JIS K7127(1999)に準拠し、引張試験機を用いて測定温度23±2℃、50±5%RH、引張速度5mm/minの条件で測定される、前記食品用包装フィルムのMD方向の引張弾性率T1とTD方向の引張弾性率T2との合計値をT3としたとき、前記T3が6600MPa以上7500MPa以下」である「フィルム」は「厚みムラ」が小さく、「水蒸気バリア性が向上」していることを確認している。
そうすると、当業者は、「食品を包装するためのフィルムであって、プロピレン系重合体を含む二軸延伸フィルム層を備え、JIS K7127(1999)に準拠し、引張試験機を用いて測定温度23±2℃、50±5%RH、引張速度5mm/minの条件で測定される、前記食品用包装フィルムのMD方向の引張弾性率T1とTD方向の引張弾性率T2との合計値をT3としたとき、前記T3が6600MPa以上7500MPa以下」である「食品用包装フィルム」及び該「食品用包装フィルム」を用いた「食品用包装体」は、発明の課題を解決できると認識できる。
そして、本件特許発明1ないし12は、上記発明の課題を解決できると認識できる「食品用包装フィルム」をさらに限定したものであり、本件特許発明13は上記発明の課題を解決できると認識できる「食品用包装フィルム」を用いた「食品用包装体」をさらに限定したものである。
したがって、本件特許発明1ないし13は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
よって、本件特許発明1ないし13に関して、特許請求の範囲の記載は、サポート要件に適合する。
(3)特許異議申立人Bの主張について
特許異議申立人Bの申立理由B3における主張について検討するに、次のとおり採用できない。
上記(2)によれば、「(T2-T1)」の値は、そもそも、サポート要件の判断に影響を与えるものではないといえるから、「(T2-T1)」の値の数値範囲に臨界的意義があるかどうかは、サポート要件の判断とは関係がない。
(4)申立理由B3についてのむすび
したがって、本件特許の請求項1ないし13に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるとはいえないから、同法第113条第4号に該当せず、申立理由B3によっては取り消すことはできない。
6 申立理由B4(明確性要件)について
(1)明確性要件の判断基準
特許を受けようとする発明が明確であるかは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
そこで、検討する。
(2)明確性要件の判断
本件特許の請求項1ないし13の記載は、上記第2のとおりであり、それ自体に不明確な記載はなく、また、発明の詳細な説明の記載とも整合している。
したがって、本件特許発明1ないし13に関して、特許請求の範囲の記載は、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。
(3)特許異議申立人Bの主張について
特許異議申立人Bの申立理由B4における主張について検討するに、次のとおり採用できない。
ア 申立理由B4のアについて
「ホモポリプロピレン」という「重合体」と「および」という接続詞で並列されるのは「ホモポリプロピレン」以外の「重合体」であることは当業者に明らかである。
そうすると、本件特許の請求項6の「ホモポリプロピレンおよびプロピレンと炭素数が2以上10以下のα-オレフィンとのランダム共重合体から選択される」という記載の意味を当業者は「「ホモポリプロピレン」及び「プロピレンと炭素数が2以上10以下のα-オレフィンとのランダム共重合体」から選択される」と理解するから、本件特許発明6は明確であるし、請求項6を直接又は間接的に引用して特定する本件特許発明7ないし13も明確である。
したがって、申立理由B4のアの主張は採用できない。
イ 申立理由B4のイについて
「ホモポリプロピレン」という「重合体」と「および」という接続詞で並列されるのは「ホモポリプロピレン」以外の「重合体」であることは当業者に明らかである。
そうすると、本件特許の請求項9の「ホモポリプロピレンおよびプロピレンと炭素数が2以上10以下のα-オレフィンとのランダム共重合体から選択される」という記載の意味を当業者は「「ホモポリプロピレン」及び「プロピレンと炭素数が2以上10以下のα-オレフィンとのランダム共重合体」から選択される」と理解するから、本件特許発明9は明確であるし、請求項9を直接又は間接的に引用して特定する本件特許発明10ないし13も明確である。
したがって、申立理由B4のイの主張は採用できない。
(4)申立理由B4についてのむすび
したがって、本件特許の請求項1ないし13に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるとはいえないから、同法第113条第4号に該当せず、申立理由B4によっては取り消すことはできない。
第5 結語
上記第4のとおり、本件特許の請求項1ないし13に係る特許は、特許異議申立書A及びBに記載した申立ての理由によっては、取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし13に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700354