特許異議申立
2017-700187
免震システム
- 審判番号
- 2017-700187
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2014-150232
- 登録番号
- 特許第5980851号(P5980851)
- 請求日
- 2017年02月27日
- 審決日
- 2018年03月16日
- 公報発行日
- 2018年06月29日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】アイディールブレーン株式会社
- 【権利者代理人】安彦 元
- 【異議申立人】中川 賢治
- 審判長/審判官
- 審判長 中村 達之
- 審判官 中川 隆司
- 審判官 小関 峰夫
- 分類
- P1652.121-YAA(F16F) / P1652.537-YAA(F16F) / P1652.841-YAA(F16F) / P1652.851-YAA(F16F) / P1652.852-YAA(F16F) / P1652.853-YAA(F16F) / P1652.854-YAA(F16F) / P1652.855-YAA(F16F) / P1652.856-YAA(F16F) / P1652.857-YAA(F16F)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第9項、特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第7項、特許法第126条第7項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第5980851号発明「免震システム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第5980851号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項〔1-10〕について訂正することを認める。
特許第5980851号の請求項1ないし3、5、6、10に係る特許を維持する。
特許第5980851号の請求項4に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
【理 由】
第1.手続の経緯
本件特許第5980851号の請求項1ないし10に係る特許についての出願は、平成28年8月5日にその特許権の設定登録がされ、その後、平成29年2月27日に特許異議申立人中川賢治(以下、「異議申立人」という。)より特許異議の申立てがなされ、平成29年5月19日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成29年7月13日に意見書の提出及び訂正請求がなされ、平成29年10月10日付けで異議申立人より意見書の提出がなされ、平成29年12月18日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成30年2月6日に意見書の提出及び訂正請求(以下、当該訂正の請求を「本件訂正請求」といい、本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という。)がなされたものである。
なお、特許法第120条の5第7項の規定により、平成29年7月13日の訂正請求は取り下げたものとみなすが、本件訂正は、平成29年7月13日の訂正請求による全ての訂正事項に加えて、特許請求の範囲の請求項の削除を行うと共にそれに整合させるために明細書の発明の詳細な説明の記載の削除を行うものである。
第2.本件訂正請求について
1.本件訂正の内容
本件訂正請求による本件訂正の内容は、以下のとおりである。
(1)訂正事項1:特許請求の範囲の請求項1に「上記案内機構により他の方向に案内された線材に接続されて弾性変形自在な弾性部材と」とあるのを、「上記案内機構により他の方向に案内された線材に接続されて弾性変形自在なコイルばねからなる弾性部材と」に訂正する。(下線は訂正箇所を示す。以下同じ。)
(2)訂正事項2:特許請求の範囲の請求項2に「上記圧縮材は、上記可動部の周囲に位置する構造物の壁面に接触させつつ、上記弾性部材が略水平方向に向けて弾性変形自在なように寝かせて床に固定されていることを特徴とする請求項1記載の免震システム。」とあるのを、「免震対象物の地震動を吸収する免震システムにおいて、上記免震対象物を支持する可動部と、上記可動部に一端が接続された線材の延伸方向を他の方向に案内するための案内機構と、上記案内機構により他の方向に案内された線材に接続されて弾性変形自在なコイルばねからなる弾性部材と、地盤又はこれと一体挙動する構造物に対して固定されるとともに、上記弾性部材の固定端と上記案内機構とが接続される圧縮材とを備え、上記圧縮材は、管体で構成され、当該管体の内部に弾性部材が収納され、管体の内部に上記固定端が取り付けられると共に、その一端に上記案内機構が取り付けられ、上記弾性部材による弾性変形の復元力に基づく圧縮力が上記弾性部材の固定端と上記案内機構との間に負荷され、更に上記可動部の周囲に位置する構造物の壁面に接触させつつ、上記弾性部材が略水平方向に向けて弾性変形自在なように寝かせて床に固定されているこを特徴とする免震システム。」に訂正する。
(3)訂正事項3:特許請求の範囲の請求項1に「上記弾性部材による弾性変形の反力に基づく圧縮力が」とあるのを、「上記弾性部材による弾性変形の復元力に基づく圧縮力が」に訂正する。
(4)訂正事項4:特許請求の範囲の請求項4を削除する。
(5)訂正事項5:特許請求の範囲の請求項5に「請求項1記載の免震システム」とあるのを、「請求項2記載の免震システム」に訂正する。
(6)訂正事項6:特許請求の範囲の請求項6に「上記床の上に固定され」とあるのを、「上記床に固定され」に訂正する。
(7)訂正事項7:明細書の段落【0009】に「上記案内機構により他の方向に案内された線材に接続されて弾性変形自在な弾性部材と」とあるのを、「上記案内機構により他の方向に案内された線材に接続されて弾性変形自在なコイルばねからなる弾性部材と」に訂正する。
(8)訂正事項8:明細書の段落【0010】に「請求項2記載の免震システムは、請求項1記載の発明において、上記圧縮材は、上記可動部の周囲に位置する構造物の壁面に接触させつつ、上記弾性部材が略水平方向に向けて弾性変形自在なように寝かせて床に固定されていることを特徴とする。」とあるのを、「請求項2記載の免震システムは、免震対象物の地震動を吸収する免震システムにおいて、上記免震対象物を支持する可動部と、上記可動部に一端が接続された線材の延伸方向を他の方向に案内するための案内機構と、上記案内機構により他の方向に案内された線材に接続されて弾性変形自在なコイルばねからなる弾性部材と、地盤又はこれと一体挙動する構造物に対して固定されるとともに、上記弾性部材の固定端と上記案内機構とが接続される圧縮材とを備え、上記圧縮材は、管体で構成され、当該管体の内部に弾性部材が収納され、管体の内部に上記固定端が取り付けられると共に、その一端に上記案内機構が取り付けられ、上記弾性部材による弾性変形の復元力に基づく圧縮力が上記弾性部材の固定端と上記案内機構との間に負荷され、更に上記可動部の周囲に位置する構造物の壁面に接触させつつ、上記弾性部材が略水平方向に向けて弾性変形自在なように寝かせて床に固定されているこを特徴とする。」に訂正する。
(9)訂正事項9:明細書の段落【0009】に「上記弾性部材による弾性変形の反力に基づく圧縮力が」とあるのを、「上記弾性部材による弾性変形の復元力に基づく圧縮力が」に訂正する。
(10)訂正事項10:明細書の段落【0012】の記載を削除する。
(11)訂正事項11:明細書の段落【0013】に「請求項1記載の発明において」とあるのを、「請求項2記載の発明において」に訂正する。
(12)訂正事項12:明細書の段落【0014】に「上記床の上に固定され」とあるのを、「上記床に固定され」に訂正する。
(13)訂正事項13:明細書の段落【0019】の記載を削除する。
2.訂正の目的の適否、新規事項の有無、一群の請求項、特許請求の範囲の拡張・変更、及び、独立特許要件違反の存否
(1)訂正事項1について
訂正事項1に関連する記載として、本件訂正前の明細書の段落【0023】には、「案内機構32により他の方向に案内された線材に接続されたコイルばね33と」と記載されている。 したがって、訂正事項1は、本件訂正前の請求項1の「弾性部材」について、「コイルばねからなる弾性部材」と限定するものといえるから、特許法120条の5第2項ただし書き1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2)訂正事項2について
訂正事項2のうち、請求項2が請求項1の記載を引用する記載であったものを、請求項間の引用関係を解消し、請求項1を引用しないものとし、独立形式請求項へ改める訂正は、特許法120条の5第2項ただし書第4号に掲げる他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。
また、訂正事項2のうち、本件訂正前の請求項2が引用する請求項1の「弾性部材」について、「コイルばねからなる弾性部材」とする訂正は、上記(1)で述べたとおり特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
さらに、訂正事項2のうち、本件訂正前の請求項2が引用する請求項1の「その下端に」とあるのを、「その一端に」とする訂正は、本件訂正前の明細書の段落【0028】には「線材31は、ワイヤー、ロープ、紐等、あらゆる線状体で構成されてなり、その一端は、上述したように可動板21に接続される。また線材31は案内機構32を介してその延伸方向が案内され、他端がコイルばね33に接続されている。」と記載されていること、及び【図16】には、圧縮材35の一端に案内機構32が取り付けられることが見て取れることから、「その下端に」というは誤記であることは明らかであって、「その下端に」とあるのを「その一端に」とする訂正は、特許法120条の5第2項ただし書き2号に掲げる誤記又は誤訳の訂正を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
また、訂正事項2のうち、本件訂正前の請求項2が引用する請求項1の「上記弾性部材による弾性変形の反力に基づく圧縮力が」とあるのを、「上記弾性部材による弾性変形の復元力に基づく圧縮力が」とする訂正は、本件訂正前の明細書の段落【0043】には、「コイルばね33からの復元力を作用させることができ、」と記載されていることから、「反力」が「復元力」のことであると明瞭化するものといえるから、特許法120条の5第2項ただし書き3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(3)訂正事項3について
訂正事項3は、上記(2)で述べたとおり明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(4)訂正事項4について
訂正事項4は、請求項4の記載を削除しようとするものであるから、特許法120条の5第2項ただし書き1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(5)訂正事項5について
訂正事項5は、訂正前の請求項1を引用する請求項2の訂正事項2に伴って、請求項5の引用関係を整合させるものであるから、特許法120条の5第2項ただし書き3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、訂正事項1及び2と同様に新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかである。
(6)訂正事項6について
訂正事項6に関連する記載として、本件訂正前の明細書の段落【0059】には、「可動板21を基台11上に載置する場合には、圧縮材35もその基台11上に固定するものであってもよい。この基台11は、床1ひいては地盤に固定されているため、圧縮材35も地盤に固定されているものとみなすことができる。」と記載されていることから、圧縮材は床に固定される基台上に取り付けられるものであると解される。
したがって、本件訂正前の請求項6において、「上記床の上に固定され」とあるのを、「上記床に固定され」とする訂正は、特許法120条の5第2項ただし書き3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(7)訂正事項7ないし12について
訂正事項7ないし12は、訂正事項1ないし6に伴って、それぞれ明細書の記載を特許請求の範囲の記載に整合させるものであるから、特許法120条の5第2項ただし書き3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、訂正事項1ないし6と同様に新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかである。
(8)訂正事項13について
訂正事項13は、明細書から、存在しない請求項に関する記載である段落【0019】の記載を削除するものであって、明細書の記載を特許請求の範囲の記載に整合させるものであるから、特許法120条の5第2項ただし書き3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでない。
(9)一群の請求項
訂正前の請求項1の記載を請求項2ないし10は引用する関係にあるから、上記訂正事項1ないし13に係る訂正は、一群の請求項に対して請求されたものである。
(10)特許異議の申立てがされていない請求項に係る発明の独立特許要件について
訂正前の請求項7ないし9に対しては特許異議の申立てはなされていないので、訂正前の請求項1を直接的または間接的に引用する請求項7ないし9に係る訂正事項1及び3については、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の規定により、訂正後の請求項1を直接的または間接的に引用する請求項7ないし9に記載されている事項により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならない。
以下の第3.4(1)ウ.(ア)に示すように、訂正後の請求項1に係る発明は取消理由によっては取消すことができないから、訂正後の請求項1に係る発明を全て含む請求後の請求項7ないし9に係る発明も取り消すことができず、請求後の請求項7ないし9に係る発明は特許出願の際独立して特許を受けることができたものである。
したがって、本件訂正は、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の規定を満たしている。
3.むすび
したがって、上記訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号ないし第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項で準用する同法第126条第4項ないし第7項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1-10〕について訂正を認める。
第3 特許異議の申立てについて
1.本件発明1ないし6及び10
本件訂正請求により訂正された訂正請求項1ないし6及び10に係る発明(以下、それぞれを「本件発明1」ないし「本件発明6」及び「本件発明10」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1ないし6及び10に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
免震対象物の地震動を吸収する免震システムにおいて、
上記免震対象物を支持する可動部と、
上記可動部に一端が接続された線材の延伸方向を他の方向に案内するための案内機構と、
上記案内機構により他の方向に案内された線材に接続されて弾性変形自在なコイルばねからなる弾性部材と、
地盤又はこれと一体挙動する構造物に対して固定されるとともに、上記弾性部材の固定端と上記案内機構とが接続される圧縮材とを備え、
上記圧縮材は、管体で構成され、当該管体の内部に弾性部材が収納され、管体の内部に上記固定端が取り付けられると共に、その下端に上記案内機構が取り付けられ、上記弾性部材による弾性変形の復元力に基づく圧縮力が上記弾性部材の固定端と上記案内機構との間に負荷されること
を特徴とする免震システム。
【請求項2】
免震対象物の地震動を吸収する免震システムにおいて、
上記免震対象物を支持する可動部と、
上記可動部に一端が接続された線材の延伸方向を他の方向に案内するための案内機構と、
上記案内機構により他の方向に案内された線材に接続されて弾性変形自在なコイルばねからなる弾性部材と、
地盤又はこれと一体挙動する構造物に対して固定されるとともに、上記弾性部材の固定端と上記案内機構とが接続される圧縮材とを備え、
上記圧縮材は、管体で構成され、当該管体の内部に弾性部材が収納され、管体の内部に上記固定端が取り付けられると共に、その一端に上記案内機構が取り付けられ、上記弾性部材による弾性変形の復元力に基づく圧縮力が上記弾性部材の固定端と上記案内機構との間に負荷され、更に上記可動部の周囲に位置する構造物の壁面に接触させつつ、上記弾性部材が略水平方向に向けて弾性変形自在なように寝かせて床に固定されていること
を特徴とする免震システム。
【請求項3】
上記弾性部材は、予荷重が予め付加されてなること
を特徴とする請求項1項記載の免震システム。
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
上記圧縮材は、上記可動部が載置される床若しくは基台に、上記弾性部材が略水平方向に向けて弾性変形自在なように寝かせて固定されていること
を特徴とする請求項2記載の免震システム。
【請求項6】
上記圧縮材は、上記床に固定され、かつ上記可動部が載置される基台上に取り付けられていること
を特徴とする請求項5項記載の免震システム。
【請求項10】
上記可動部には複数箇所に開口が設けられるとともに、当該各開口に一の圧縮材を設け、上記各案内機構に向けて延伸されてきた2本の線材の延伸方向を略一方向に向けて上記圧縮材へ案内してなり、
更に上記複数箇所の開口間で上記案内機構に向けて延伸される線材の延伸方向を互いに異ならせてなること
を特徴とする請求項1記載の免震システム。」
2.取消理由の概要
(1)訂正前の特許請求の範囲の請求項1ないし6及び10に係る特許に対して平成29年5月19日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は次のとおりである。
ア.特許法第36条第6項第2号について
(ア)請求項1に係る発明における「圧縮材」との用語、及び「弾性変形の反力に基づく圧縮力が上記弾性部材の固定端と上記案内機構との間に負荷される」との表現は不明確である。
請求項1をに係る発明引用する請求項2ないし6及び10に係る発明も同様の理由で明確でない。
(イ)請求項2に係る発明の「弾性部材が略水平方向に向けて弾性変形自在なように寝かせて床に固定されている」という記載と、請求項2に係る発明が引用する請求項1に係る発明の「上記圧縮材は、・・・その下端に上記案内機構が取り付けられ」という記載が矛盾しているため請求項2に係る発明の記載は不明確である。
請求項5に係る発明の記載も同様の理由で不明確である。
イ.特許法第36条第6項第1号について
請求項6に係る発明の「上記圧縮材は、上記床の上に固定され、かつ上記可動部が載置される基台上に取り付けられている」との発明特定事項は、発明の詳細な説明に記載されていない。
ウ.特許法第29条第2項について
(ア)請求項1、4及び10に係る発明は、甲第1号証に記載された発明(引用発明)に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(イ)請求項2、3及び5に係る発明は、甲第1号証に記載された発明(引用発明)及び甲第2号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(2)平成29年7月13日付け訂正請求による特許請求の範囲の請求項4に係る特許に対して平成29年12月18日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は次のとおりである。
特許法第36条第6項第2号について
請求項4に係る発明では「弾性部材」は「定荷重ばね」であると特定しつつ、請求項4が引用する請求項1に係る発明では、「弾性部材」は「コイルばねからなる弾性部材」と記載されているため、請求項4に係る発明における「弾性部材」が「定荷重ばね」であるか「コイルばね」であるか明確でない。
3.甲各号証の記載
(1)甲第1号証:株式会社日経BPが運営するホームページ「日経アーキテクチュア」の2014年7月9日付の記事「厚さ5mmの床免震、『手術室だけでも』に応える」 」(http://kenplatz.nikkeibp.co.jp/article/building/news/20140708/670049))
甲第1号証には、「厚さ5mmの床免震、『手術室だけでも』に応える」に関して、図面(特に第1ページの左下の「シミズ安震フロアの断面図(資料:清水建設)の[平常時]、[地震時]」参照。)とともに、次の事項が記載されている。
ア.「清水建設と新日鉄住金は共同で、薄い鋼板を2枚重ねただけの簡単な構造の床免震システム『シミズ安震フロア』を開発した。厚さはわずか5mm弱。建物全体ではなく、例えば手術室だけを安価に免震構造にできる。」(第1ページ上)
イ.「地震時に免震プレートがフロアプレートの上を滑ることで、免震効果を発揮する。ばねは揺れの収束時に、免震プレートを元の位置に引き戻す役割がある。」(第2ページ中央)
ウ.シミズ安震フロアの断面図(資料:清水建設)の[平常時](以下、「平常時断面図」という。)から、フロアプレート上に免震プレートが設けられ、免震プレートにワイヤーが接続され、ワイヤーは滑車により他の方向に案内されることが見て取れる。
エ.平常時断面図から、定荷重ばねがケースに内に収容されることが見て取れ、弾性変形自在な定荷重ばねの一端がワイヤーに固定され、他端はケースに固定されることは明らかである。
オ.シミズ安震フロアの断面図(資料:清水建設)の[地震時](以下、「地震時断面図」という。)には、「ゆっくり揺れるので手術台の転倒、移動が生じない」、「フロアプレートの上を免震プレートがすべる」と記載されている。
カ.平常時断面図と地震時断面図とを併せてみれば、手術台は免震プレートに支持され、定荷重ばねが収容されたケースは、定荷重ばねが略水平方向に向けて弾性変形自在なように寝かせて床に固定されていることが見て取れる。
これらの記載事項、認定事項び図面の図示内容を総合し、本件発明1の記載ぶりに則って整理すると、甲第1号証には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されている。
「手術台の地震動を吸収する床免震システムにおいて、
上記手術台を支持する免震プレートと、
上記免震プレートに一端が接続されたワイヤーの延伸方向を他の方向に案内するための滑車と、
上記滑車により他の方向に案内されたワイヤーに接続されて弾性変形自在な定荷重ばねからなる弾性部材と、
フロアプレートに対して固定されるとともに、上記弾性部材の固定端が接続されるケースとを備え、
上記ケースは、内部に弾性部材が収納され、内部に上記固定端が取り付けられる
床免震システム。」
また、同様に、本件発明2の記載ぶりに則って整理すると、甲第1号証には、次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されている。
「手術台の地震動を吸収する床免震システムにおいて、
上記手術台を支持する免震プレートと、
上記免震プレートに一端が接続されたワイヤーの延伸方向を他の方向に案内するための滑車と、
上記滑車により他の方向に案内されたワイヤーに接続されて弾性変形自在な定荷重ばねからなる弾性部材と、
フロアプレートに対して固定されるとともに、上記弾性部材の固定端が接続されるケースとを備え、
上記ケースは、内部に弾性部材が収納され、内部に上記固定端が取り付けられ、上記弾性部材が略水平方向に向けて弾性変形自在なように寝かせて床に固定されている
床免震システム。」
(2)甲第2号証:特開2013-64418号公報
甲第2号証には、「滑り免震機構」に関して、図面(特に【図1】、【図14】参照。)とともに、次の事項が記載されている。
ア.「【0001】
本発明は建物や精密機器等を対象とする免震構造に関連し、特に免震対象物を滑り面を介して支持部上に滑動自在に支持する滑り免震機構に関する。」
イ.「【0020】
・・・(中略)・・・免震対象物1を免震床2を介して支持部(構造床)4上に水平変位自在に支持して設置するもので、・・・(後略)」
ウ.「【0024】
そして、本実施形態では、図1~図2に示すように、上記の定荷重ばね6を支持部4に設置したケース9内に収容してワイヤー10を介して免震対象物1に接続するが、その際、ワイヤー10に戻り止めのストッパー11を設けておくことにより定荷重ばね6を上記の予引張力Fが生じるような所定の限界変位を与えた状態でケース9内に収容する。・・・(後略)」
エ.「【0035】
特に、復元ばね5としては、上記のようにそのばね定数と免震対象物1の自重Wとにより定まる固有周期が4秒以上となるようなコイルばねを引張ばねとして用いることも好適である。
その場合には、図14(a)に示すようにコイルばね14に対して定荷重ばね6の場合と同様に上記の予引張力Fが生じるような所定の限界変位を与えた状態でケース9内に収納し、戻り止めのストッパー11によって限界変位以上の変位を許容しつつ限界変位以下に復元することを規制する状態で設置すれば良い。
このようなコイルばね14を復元ばね5として用いる場合には、その復元特性は(b)に示すように反力(復元力)が変位に依存するような特性を呈するものとはなるが、実質的に定荷重ばね6を用いる場合と同様に機能し同様の効果が得られるものとなる。」
(3)甲第3号証の1:2014年7月9日付毎日新聞の第7面
甲第3号証の1には、「病院を部分的免震」と題する記事が記載されている。
(4)甲第3号証の2:2014年7月9日付日刊工業新聞の第12面
甲第3号証の2には、「手術室、10日で免震化」と題する記事が記載されている。
(5)甲第3号証の3:2014年7月9日付読売新聞の第10面
甲第3号証の3には、「新免震技術を開発」と題する記事が記載されている。
(6)甲第3号証の4:2014年7月9日付日本経済新聞の第12面
甲第3号証の4には、「手術室向けの免震設備開発」と題する記事が記載されている。
(7)甲第4号証:特開2014-231862号公報
甲第4号証には、「滑り免震機構」に関して、図面(特に【図5】参照。)とともに、次の事項が記載されている。
ア.「【0028】
(第二実施形態)
以下、本発明の第二実施形態の滑り免震機構1Bを図面に基づいて説明する。なお、本実施形態では、上述した第一実施形態との相違点を中心に述べ、同様の部分についてはその説明を省略する。
図5に示すように、本実施形態の滑り免震機構1Bの復元力機構7は、復元材として円形孔8と滑り材5とを接続する複数(本実施形態においては4本)の直線状の部材である直線状弾性体15を有している。直線状弾性体15は、引張コイルばねであって、円形孔8の縁部と滑り材5における円形孔8の中心部Cとを接続している。具体的には、直線状弾性体15は、滑り材5上であって円形孔8の中心部Cに設けられたピン16を介して支持部3と接続されている。
なお、直線状弾性体15の本数は4本に限ることはなく、要求される復元力などに応じて適宜変更することができる。また、直線状弾性体15である引張コイルばねのばね定数(弾性率)も適宜変更することができる。」
4.判断
(1)訂正前の特許請求の範囲の請求項1ないし6及び10に係る特許に対して平成29年5月19日付けで特許権者に通知した取消理由についての判断
ア.特許法第36条第6項第2号について
本件訂正により、請求項1における「弾性変形の反力に基づく圧縮力」が「弾性変形の復元力に基づく圧縮力」と訂正された結果、「圧縮材」とは、「弾性変形の復元力に基づく圧縮力が上記弾性部材の固定端と上記案内機構との間に負荷される」ものであると明確となった。
また、本件訂正により、請求項2は請求項1を引用しないものとなるるとともに、「その下端に」が「その一端に」と訂正された結果、矛盾が解消され、請求項2は明確となった。
イ.特許法第36条第6項第1号について
本件訂正により、請求項6における「上記床の上に固定され」は、「上記床に固定され」と訂正された結果、請求項6の記載は、発明の詳細な説明に記載されたものとなった。
ウ.特許法第29条第2項について
(ア)本件発明1について
a.対比
本件発明1と引用発明1とを対比すると、その機能、構造からみて、引用発明1における「手術台」は本件発明1における「免震対象物」に相当し、以下同様に、「床免震システム」は「免震システム」に、「免震プレート」は「可動部」に、「ワイヤー」は「線材」に、「滑車」は「案内機構」に、「フロアプレート」は「地盤又はこれと一体挙動する構造物」に、「ケース」は「圧縮材」に、それぞれ相当する。
また、引用発明1における「定荷重ばねからなる弾性部材」は、「弾性部材」という限りで、本件発明1における「コイルばねからなる弾性部材」と共通する。
さらに、引用発明1における「ケース」はその軸方向の断面形状が明らかでないが、定荷重ばねが収容されるものであるから管体であるといえる。
以上の点からみて、本件発明1と引用発明1とは、
[一致点]
「免震対象物の地震動を吸収する免震システムにおいて、
上記免震対象物を支持する可動部と、
上記可動部に一端が接続された線材の延伸方向を他の方向に案内するための案内機構と、
上記案内機構により他の方向に案内された線材に接続されて弾性変形自在な弾性部材と、
地盤又はこれと一体挙動する構造物に対して固定されるとともに、上記弾性部材の固定端が接続される圧縮材とを備え、
上記圧縮材は、管体で構成され、当該管体の内部に弾性部材が収納され、管体の内部に上記固定端が取り付けられる
免震システム。」
である点で一致し、
次の点で相違する。
[相違点1]
本件発明1は、「弾性部材」が「コイルばねからなる弾性部材」であって、「圧縮材」は、「その下端に案内機構が取り付けられ、上記弾性部材による弾性変形の復元力に基づく圧縮力が上記弾性部材の固定端と上記案内機構との間に負荷される」のに対し、引用発明1は、「弾性部材」が「定荷重ばねからなる弾性部材」であって、「ケース」はその端部に滑車が取り付けられるものでなく、上記弾性部材による弾性変形の復元力に基づく圧縮力が上記弾性部材の固定端と上記案内機構との間に負荷されるものでない点。
b.判断
相違点1について検討する。
甲第2号証及び甲第4号証には、「弾性部材」が「コイルばねからなる弾性部材」であって、「圧縮材」は、「その下端に案内機構が取り付けられ、上記弾性部材による弾性変形の復元力に基づく圧縮力が上記弾性部材の固定端と上記案内機構との間に負荷される」ことが記載も示唆もない。
本件発明1は、上記相違点1に係る構成を備えることで、可動板21の過大変位を拘束することができるものである(本件特許明細書の特に段落【0042】を参照。)。
してみると、引用発明1並びに甲第2号証に記載された事項及び甲第4号証に記載された事項から、上記相違点1に係る本件発明1の発明特定事項を当業者が容易に想到し得たとはいえない。
よって、本件発明1は、引用発明1並びに甲第2号証に記載された事項及び甲第4号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
(イ)本件発明2について
a.対比
本件発明2と引用発明2とを対比すると、それらの発明特定事項は、本件発明1と引用発明1と同様の対応関係を有する。
したがって、本件発明2と引用発明2とは、
[一致点]
「免震対象物の地震動を吸収する免震システムにおいて、
上記免震対象物を支持する可動部と、
上記可動部に一端が接続された線材の延伸方向を他の方向に案内するための案内機構と、
上記案内機構により他の方向に案内された線材に接続されて弾性変形自在な弾性部材と、
地盤又はこれと一体挙動する構造物に対して固定されるとともに、上記弾性部材の固定端が接続される圧縮材とを備え、
上記圧縮材は、管体で構成され、当該管体の内部に弾性部材が収納され、管体の内部に上記固定端が取り付けられ、上記弾性部材が略水平方向に向けて弾性変形自在なように寝かせて床に固定されている
免震システム。」
である点で一致し、
次の点で相違する。
[相違点2]
本件発明2は、「弾性部材」が「コイルばねからなる弾性部材」であって、「圧縮材」は、「その一端に案内機構が取り付けられ、上記弾性部材による弾性変形の復元力に基づく圧縮力が上記弾性部材の固定端と上記案内機構との間に負荷される」のに対し、引用発明2は、「弾性部材」が「定荷重ばねからなる弾性部材」であって、「ケース」はその端部に滑車が取り付けられるものでなく、上記弾性部材による弾性変形の復元力に基づく圧縮力が上記弾性部材の固定端と上記案内機構との間に負荷されるものでない点。
[相違点3]
本件発明2は、「圧縮材」が「上記可動部の周囲に位置する構造物の壁面に接触させつつ」「床に固定されている」のに対し、引用発明2は、「ケース」が「上記免震プレートの周囲に位置する構造物の壁面に接触させつつ」「床に固定されている」ものではない点。
b.判断
相違点2について検討するに、上記相違点1の検討結果と同様に、引用発明2並びに甲第2号証に記載された事項及び甲第4号証に記載された事項から、上記相違点2に係る本件発明2の発明特定事項を当業者が容易に想到し得たとはいえない。
よって、本件発明2は、相違点3を検討するまでもなく、引用発明2並びに甲第2号証に記載された事項及び甲第4号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
(ウ)本件発明3及び10について
本件発明3及び10は、本件発明1の全てを含んだものであるところ、本件発明1は、前記(ア)に記載したとおり、引用発明1並びに甲第2号証に記載された事項及び甲第4号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、本件発明3及び10も同様に引用発明1並びに甲第2号証に記載された事項及び甲第4号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
(エ)本件発明5及び6について
本件発明5及び6は、本件発明2の全てを含んだものであるところ、本件発明2は、前記(イ)に記載したとおり、引用発明2並びに甲第2号証に記載された事項及び甲第4号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、本件発明5及び6も同様に引用発明2並びに甲第2号証に記載された事項及び甲第4号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
(2)平成29年7月13日付け訂正請求による特許請求の範囲の請求項4に係る特許に対して平成29年12月18日付けで特許権者に通知した取消理由について
特許法第36条第6項第2号について
本件訂正により、請求項4が削除されたため、取消理由は解消した。
(3)異議申立人の主張について
異議申立人は、平成29年10月10日の意見書第2ページ第18行ないし第27行において、「3 本件において進歩性の判断において検討されるべきは、あくまでも定荷重ばねについて開示している甲第1号証において、この定荷重ばねをコイルばねに置き換えることが当業者にとって容易に想到できるか否かである。当然ながら、証拠を挙げるまでもなく、定荷重ばねもコイルばねも、ばねの一形態として極めて周知のものであり、ばねを採用するにあたって、これらは適宜選択されるものである。一方で、甲第1号証において、定荷重ばねをコイルばねに置き換えることにつき、阻害するような事情等もない。また、上述したように、コイルばねを採用することによる有利な作用効果も存在しない。」と主張する。
しかしながら、本件発明1と引用発明1との相違点を検討するにあたって、「弾性部材」が、「コイルばね」であるか、「定荷重ばね」であるかだけではなくて、弾性部材と密接に関連し、弾性部材が収納される「圧縮材」(引用発明1における「ケース」に相当。)が「その下端に案内機構が取り付けられ、上記弾性部材による弾性変形の復元力に基づく圧縮力が上記弾性部材の固定端と上記案内機構との間に負荷される」ものであるかどうかも併せて検討すべきものである。
したがって、「弾性部材」と、弾性部材が収納される「圧縮材」とを切り離して検討した異議申立人の主張を採用することはできない。
(4)取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由はない。
第4.むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1ないし3、5、6及び10に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1ないし3、5、6及び10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、本件請求項4に係る特許は、訂正により削除されたため、本件特許の請求項4に対して、異議申立人がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2017-700187