特許異議申立
2023-700682
減衰力調整式緩衝器およびソレノイド
- 審判番号
- 2023-700682
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-562926
- 登録番号
- 7217756
- 請求日
- 2023年06月30日
- 審決日
- 2024年12月11日
- 公報発行日
- 2025年04月25日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】日立Astemo株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人広和特許事務所
- 【異議申立人】長屋 直樹
- 【異議申立人】牧谷 憲人
- 審判長/審判官
- 審判長 小川 恭司
- 審判官 中屋 裕一郎
- 審判官 尾崎 和寛
- 分類
- P1651.121-YAA(F16F) / P1651.536-YAA(F16F) / P1651.537-YAA(F16F) / P1651.55 -YAA(F16F)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第126条第1項、特許法第126条第6項、特許法第120条の5第9項、特許法第126条第5項、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第7項、特許法第36条第5項、特許法第2条第3項第1号、特許法第17条の2第3項、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7217756号発明「減衰力調整式緩衝器およびソレノイド」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7217756号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項〔1~3〕、〔4~7〕、8について訂正することを認める。
特許第7217756号の請求項1ないし8に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7217756号(以下「本件特許」という。)の請求項1~8に係る特許についての出願は、2019年(令和元年)11月20日(優先権主張 平成30年12月25日)を国際出願日とする出願であって、令和5年1月26日に特許権の設定登録がされ、同年2月3日に特許掲載公報が発行された。
その後、特許異議申立人長屋直樹(以下「申立人1」という。)による特許異議の申立て及び特許異議申立人牧谷憲人(以下「申立人2」という。)による特許異議の申立てがされた。本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和5年 6月30日 申立人1による特許異議の申立て
同年 7月26日 申立人2による特許異議の申立て
同年11月20日付け 取消理由通知書
令和6年 1月19日 特許権者による訂正請求書及び意見書の提出
同年 2月16日付け 訂正拒絶理由通知書
同年 6月21日付け 取消理由通知(決定の予告)
同年 7月31日 特許権者による訂正請求書及び意見書の提出
同年 9月 6日付け 訂正請求があった旨の通知
同年 9月25日 申立人2による意見書の提出
令和6年7月31日に特許権者による訂正の請求がなされたため、令和6年1月19日に特許権者によりなされた訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。
なお、令和6年9月6日付けの訂正請求があった旨の通知に対して、申立人1からは指定期間内に応答がなかった。
第2 本件訂正による訂正の適否
1 本件訂正の内容について
令和6年7月31日付けで提出された訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)は、本件特許の明細書、特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~8について訂正することを求めるものであり、その訂正の内容は以下の訂正事項1~11を含むものである(下線部が訂正箇所である。)。
(1)訂正事項1
本件特許請求の範囲の請求項1に「減衰力調整式緩衝器であって、該減衰力調整式緩衝器は、作動流体が封入されるシリンダと、前記シリンダ内に挿入されて前記シリンダ内をロッド側室とボトム側室とに画成するピストンと、前記ピストンに連結されて前記シリンダの外部へ延びるピストンロッドと、前記ピストンロッドの移動によって前記作動流体の流れが生じる流路と、前記流路に設けられソレノイドによって開閉動作が調整される減衰力調整バルブと、を備え、前記ソレノイドは、通電により磁力を発生するコイルと、前記コイルの内周側に設けられる第1,第2の固定鉄心と、前記第1,第2の固定鉄心の間に設けられ、前記第1,第2の固定鉄心に対してろう付けにより一体的に固定される非磁性部材と、前記第1,第2の固定鉄心および前記非磁性部材の内周側に配され、軸方向へ移動可能に設けられる可動鉄心と、前記可動鉄心に設けられる軸部と、前記軸部を支持する第1,第2のブッシュと、を備え、前記軸部の前記第2の固定鉄心側の端部には、前記減衰力調整バルブの弁体が設けられ、前記第1,第2の固定鉄心の内径と比して、前記非磁性部材の内径は大径または小径であり、前記非磁性部材は、ろう付け温度が1000度以上となるろう材を用いて前記ろう付けされることで温度を1000度以上に加熱し、該ろう付け処理の後には急冷処理が行われることにより該ろう付け前と比較して加工誘起マルテンサイトを除去し、該急冷処理後、加工を行わないことにより、加工した場合と比較して磁化され易くなるのを抑制することを特徴とする減衰力調整式緩衝器。」と記載されているのを、「作動流体が封入されるシリンダと、前記シリンダ内に挿入されて前記シリンダ内をロッド側室とボトム側室とに画成するピストンと、前記ピストンに連結されて前記シリンダの外部へ延びるピストンロッドと、前記ピストンロッドの移動によって前記作動流体の流れが生じる流路と、前記流路に設けられソレノイドによって開閉動作が調整される減衰力調整バルブと、を備え、前記ソレノイドは、通電により磁力を発生するコイルと、前記コイルの内周側に設けられる第1,第2の固定鉄心と、前記第1,第2の固定鉄心の間に設けられ、前記第1,第2の固定鉄心に対してろう付けにより一体的に固定される非磁性部材と、前記第1,第2の固定鉄心および前記非磁性部材の内周側に配され、軸方向へ移動可能に設けられる可動鉄心と、前記可動鉄心に設けられる軸部と、前記軸部を支持する第1,第2のブッシュと、を備え、前記軸部の前記第2の固定鉄心側の端部には、前記減衰力調整バルブの弁体が設けられ、前記第1,第2の固定鉄心の内径と比して、前記非磁性部材の内径は大径または小径である減衰力調整式緩衝器の製造方法であって、前記非磁性部材は、ろう付け温度が1000度以上となるろう材を用いて前記ろう付けされることで温度を1000度以上に加熱し、該ろう付け処理の後には急冷処理が行われることにより該ろう付け前と比較して加工誘起マルテンサイトを除去し、該急冷処理後、加工を行わないことにより、該加工をした場合と比較して磁化され易くなるのを抑制することを特徴とする減衰力調整式緩衝器の製造方法。」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2,3も同様に訂正する)。
(2)訂正事項2
本件特許請求の範囲の請求項2に「減衰力調整式緩衝器」と記載されているのを、「減衰力調整式緩衝器の製造方法」に訂正する(請求項2の記載を引用する請求項3も同様に訂正する)。
(3)訂正事項3
本件特許請求の範囲の請求項3に「減衰力調整式緩衝器」と記載されているのを、「減衰力調整式緩衝器の製造方法」に訂正する。
(4)訂正事項4
本件特許請求の範囲の請求項4に「通電により磁力を発生するコイルと、前記コイルの内周側に設けられる第1,第2の固定鉄心と、前記第1,第2の固定鉄心の間に設けられ、前記第1,第2の固定鉄心に対してろう付けにより一体的に固定される非磁性部材と、前記第1,第2の固定鉄心および前記非磁性部材の内周側に配され、軸方向へ移動可能に設けられる可動鉄心と、前記可動鉄心に設けられる軸部と、前記軸部を支持する第1,第2のブッシュと、を備え、前記第1,第2の固定鉄心の内径と比して、前記非磁性部材の内径は大径または小径であり、前記非磁性部材は、ろう付け温度が1000度以上となるろう材を用いて前記ろう付けされることで温度を1000度以上に加熱し、該ろう付け処理の後には急冷処理が行われることにより該ろう付け前と比較して加工誘起マルテンサイトを除去し、該急冷処理後、加工を行わないことにより、加工した場合と比較して磁化され易くなるのを抑制することを特徴とするソレノイド。」と記載されているのを、「通電により磁力を発生するコイルと、前記コイルの内周側に設けられる第1,第2の固定鉄心と、前記第1,第2の固定鉄心の間に設けられ、前記第1,第2の固定鉄心に対してろう付けにより一体的に固定される非磁性部材と、前記第1,第2の固定鉄心および前記非磁性部材の内周側に配され、軸方向へ移動可能に設けられる可動鉄心と、前記可動鉄心に設けられる軸部と、前記軸部を支持する第1,第2のブッシュと、を備え、前記第1,第2の固定鉄心の内径と比して、前記非磁性部材の内径は大径または小径であるソレノイドの製造方法であって、前記非磁性部材は、ろう付け温度が1000度以上となるろう材を用いて前記ろう付けされることで温度を1000度以上に加熱し、該ろう付け処理の後には急冷処理が行われることにより該ろう付け前と比較して加工誘起マルテンサイトを除去し、該急冷処理後、加工を行わないことにより、該加工をした場合と比較して磁化され易くなるのを抑制することを特徴とするソレノイドの製造方法。」に訂正する(請求項4の記載を引用する請求項5,6,7も同様に訂正する)。
(5)訂正事項5
本件特許請求の範囲の請求項5に「ソレノイド」と記載されているのを、「ソレノイドの製造方法」に訂正する(請求項5の記載を引用する請求項6,7も同様に訂正する)。
(6)訂正事項6
本件特許請求の範囲の請求項6に「ソレノイド」と記載されているのを、「ソレノイドの製造方法」に訂正する(請求項6の記載を引用する請求項7も同様に訂正する)。
(7)訂正事項7
本件特許請求の範囲の請求項7に「請求項4乃至6の何れか1項に記載のソレノイドにおいて、前記第1,第2の固定鉄心の内径を画定する内径部と、前記非磁性部材の内径を画定する内径部とは、ろう付け後に切削加工されていないことを特徴とするソレノイド。」と記載されているのを、「請求項4乃至6の何れか1項に記載のソレノイドの製造方法において、前記第1,第2の固定鉄心の内径を画定する内径部と、前記非磁性部材の内径を画定する内径部とは、ろう付け後に前記加工に含まれる切削加工をされていないことを特徴とするソレノイドの製造方法。」に訂正する。
(8)訂正事項8
本件特許請求の範囲の請求項8に「減衰力調整式緩衝器であって、該減衰力調整式緩衝器は、作動流体が封入されるシリンダと、前記シリンダ内に挿入されて前記シリンダ内をロッド側室とボトム側室とに画成するピストンと、前記ピストンに連結されて前記シリンダの外部へ延びるピストンロッドと、前記ピストンロッドの移動によって前記作動流体の流れが生じる流路と、前記流路に設けられソレノイドによって開閉動作が調整される減衰力調整バルブと、を備え、前記ソレノイドは、通電により磁力を発生するコイルと、前記コイルの内周側に設けられる第1,第2の固定鉄心と、前記第1,第2の固定鉄心の間に設けられ、前記第1,第2の固定鉄心に対してろう付けにより一体的に固定される非磁性部材と、前記第1,第2の固定鉄心および前記非磁性部材の内周側に配され、軸方向へ移動可能に設けられる可動鉄心と、前記可動鉄心の内周側に設けられる軸部と、前記軸部を支持する第1,第2のブッシュと、を備え、前記軸部の前記第2の固定鉄心側の端部には、前記減衰力調整バルブの弁体が設けられ、前記非磁性部材は、ろう付け温度が1000度以上となるろう材を用いて前記ろう付けされることで温度を1000度以上に加熱し、該ろう付け処理の後には急冷処理が行われることにより該ろう付け前と比較して加工誘起マルテンサイトを除去し、該急冷処理後、該非磁性部材の内径を画定する内径部は、ろう付け後、機械加工を行わないことにより、加工した場合と比較して磁化され易くなるのを抑制することを特徴とする減衰力調整式緩衝器。」と記載されているのを、「作動流体が封入されるシリンダと、前記シリンダ内に挿入されて前記シリンダ内をロッド側室とボトム側室とに画成するピストンと、前記ピストンに連結されて前記シリンダの外部へ延びるピストンロッドと、前記ピストンロッドの移動によって前記作動流体の流れが生じる流路と、前記流路に設けられソレノイドによって開閉動作が調整される減衰力調整バルブと、を備え、前記ソレノイドは、通電により磁力を発生するコイルと、前記コイルの内周側に設けられる第1,第2の固定鉄心と、前記第1,第2の固定鉄心の間に設けられ、前記第1,第2の固定鉄心に対してろう付けにより一体的に固定される非磁性部材と、前記第1,第2の固定鉄心および前記非磁性部材の内周側に配され、軸方向へ移動可能に設けられる可動鉄心と、前記可動鉄心の内周側に設けられる軸部と、前記軸部を支持する第1,第2のブッシュと、を備え、前記軸部の前記第2の固定鉄心側の端部には、前記減衰力調整バルブの弁体が設けられる減衰力調整式緩衝器の製造方法であって、前記非磁性部材は、ろう付け温度が1000度以上となるろう材を用いて前記ろう付けされることで温度を1000度以上に加熱し、該ろう付け処理の後には急冷処理が行われることにより該ろう付け前と比較して加工誘起マルテンサイトを除去し、該急冷処理後、該非磁性部材の内径を画定する内径部は、ろう付け後、機械加工を行わないことにより、加工した場合と比較して磁化され易くなるのを抑制することを特徴とする減衰力調整式緩衝器の製造方法。」に訂正する。
(9)訂正事項9
本件特許明細書の段落【0007】に「上述した課題を解決するため、本発明の一実施形態は、作動流体が封入されるシリンダと、前記シリンダ内に挿入されて前記シリンダ内をロッド側室とボトム側室とに画成するピストンと、前記ピストンに連結されて前記シリンダの外部へ延びるピストンロッドと、前記ピストンロッドの移動によって前記作動流体の流れが生じる流路と、前記流路に設けられソレノイドによって開閉動作が調整される減衰力調整バルブと、を備えてなる減衰力調整式緩衝器であって、前記ソレノイドは、通電により磁力を発生するコイルと、前記コイルの内周側に設けられる第1,第2の固定鉄心と、前記第1,第2の固定鉄心の間に設けられ、前記第1,第2の固定鉄心に対してろう付けにより一体的に固定される非磁性部材と、前記第1,第2の固定鉄心および前記非磁性部材の内周側に配され、軸方向へ移動可能に設けられる可動鉄心と、前記可動鉄心に設けられる軸部と、前記軸部を支持する第1,第2のブッシュと、を備え、前記軸部の前記第2の固定鉄心側の端部には、前記減衰力調整バルブの弁体が設けられ、前記第1,第2の固定鉄心の内径と比して、前記非磁性部材の内径は大径または小径であり、前記非磁性部材は、ろう付け温度が1000度以上となるろう材を用いて前記ろう付けされることで温度を1000度以上に加熱し、該ろう付け処理の後には急冷処理が行われることにより該ろう付け前と比較して加工誘起マルテンサイトを除去し、該急冷処理後、加工を行わないことにより、加工した場合と比較して磁化され易くなるのを抑制することを特徴としている。」と記載されているのを、「上述した課題を解決するため、本発明の一実施形態は、作動流体が封入されるシリンダと、前記シリンダ内に挿入されて前記シリンダ内をロッド側室とボトム側室とに画成するピストンと、前記ピストンに連結されて前記シリンダの外部へ延びるピストンロッドと、前記ピストンロッドの移動によって前記作動流体の流れが生じる流路と、前記流路に設けられソレノイドによって開閉動作が調整される減衰力調整バルブと、を備えてなる減衰力調整式緩衝器であって、前記ソレノイドは、通電により磁力を発生するコイルと、前記コイルの内周側に設けられる第1,第2の固定鉄心と、前記第1,第2の固定鉄心の間に設けられ、前記第1,第2の固定鉄心に対してろう付けにより一体的に固定される非磁性部材と、前記第1,第2の固定鉄心および前記非磁性部材の内周側に配され、軸方向へ移動可能に設けられる可動鉄心と、前記可動鉄心に設けられる軸部と、前記軸部を支持する第1,第2のブッシュと、を備え、前記軸部の前記第2の固定鉄心側の端部には、前記減衰力調整バルブの弁体が設けられ、前記第1,第2の固定鉄心の内径と比して、前記非磁性部材の内径は大径または小径である減衰力調整式緩衝器の製造方法であって、前記非磁性部材は、ろう付け温度が1000度以上となるろう材を用いて前記ろう付けされることで温度を1000度以上に加熱し、該ろう付け処理の後には急冷処理が行われることにより該ろう付け前と比較して加工誘起マルテンサイトを除去し、該急冷処理後、加工を行わないことにより、該加工をした場合と比較して磁化され易くなるのを抑制することを特徴としている。」に訂正する。
(10)訂正事項10
本件特許明細書の段落【0008】に「また、本発明の一実施形態に係るソレノイドは、通電により磁力を発生するコイルと、前記コイルの内周側に設けられる第1,第2の固定鉄心と、前記第1,第2の固定鉄心の間に設けられ、前記第1,第2の固定鉄心に対してろう付けにより一体的に固定される非磁性部材と、前記第1,第2の固定鉄心および前記非磁性部材の内周側に配され、軸方向へ移動可能に設けられる可動鉄心と、前記可動鉄心に設けられる軸部と、前記軸部を支持する第1,第2のブッシュと、を備え、前記第1,第2の固定鉄心の内径と比して、前記非磁性部材の内径は大径または小径であり、前記非磁性部材は、ろう付け温度が1000度以上となるろう材を用いて前記ろう付けされることで温度を1000度以上に加熱し、該ろう付け処理の後には急冷処理が行われることにより該ろう付け前と比較して加工誘起マルテンサイトを除去し、該急冷処理後、加工を行わないことにより、加工した場合と比較して磁化され易くなるのを抑制することを特徴としている。」と記載されているのを、「また、本発明の一実施形態は、通電により磁力を発生するコイルと、前記コイルの内周側に設けられる第1,第2の固定鉄心と、前記第1,第2の固定鉄心の間に設けられ、前記第1,第2の固定鉄心に対してろう付けにより一体的に固定される非磁性部材と、前記第1,第2の固定鉄心および前記非磁性部材の内周側に配され、軸方向へ移動可能に設けられる可動鉄心と、前記可動鉄心に設けられる軸部と、前記軸部を支持する第1,第2のブッシュと、を備え、前記第1,第2の固定鉄心の内径と比して、前記非磁性部材の内径は大径または小径であるソレノイドの製造方法であって、前記非磁性部材は、ろう付け温度が1000度以上となるろう材を用いて前記ろう付けされることで温度を1000度以上に加熱し、該ろう付け処理の後には急冷処理が行われることにより該ろう付け前と比較して加工誘起マルテンサイトを除去し、該急冷処理後、加工を行わないことにより、該加工をした場合と比較して磁化され易くなるのを抑制することを特徴としている。」に訂正する。
(11)訂正事項11
本件特許明細書の段落【0009】に「さらに、本発明の一実施形態は、作動流体が封入されるシリンダと、前記シリンダ内に挿入されて前記シリンダ内をロッド側室とボトム側室とに画成するピストンと、前記ピストンに連結されて前記シリンダの外部へ延びるピストンロッドと、前記ピストンロッドの移動によって前記作動流体の流れが生じる流路と、前記流路に設けられソレノイドによって開閉動作が調整される減衰力調整バルブと、を備えてなる減衰力調整式緩衝器であって、前記ソレノイドは、通電により磁力を発生するコイルと、前記コイルの内周側に設けられる第1,第2の固定鉄心と、前記第1,第2の固定鉄心の間に設けられ、前記第1,第2の固定鉄心に対してろう付けにより一体的に固定される非磁性部材と、前記第1,第2の固定鉄心および前記非磁性部材の内周側に配され、軸方向へ移動可能に設けられる可動鉄心と、前記可動鉄心に設けられる軸部と、前記軸部を支持する第1,第2のブッシュと、を備え、前記軸部の前記第2の固定鉄心側の端部には、前記減衰力調整バルブの弁体が設けられ、前記非磁性部材は、ろう付け温度が1000度以上となるろう材を用いて前記ろう付けされることで温度を1000度以上に加熱し、該ろう付け処理の後には急冷処理が行われることにより該ろう付け前と比較して加工誘起マルテンサイトを除去し、該急冷処理後、該非磁性部材の内径を画定する内径部は、ろう付け後、機械加工を行わないことにより、加工した場合と比較して磁化され易くなるのを抑制することを特徴としている。」と記載されているのを、「さらに、本発明の一実施形態は、作動流体が封入されるシリンダと、前記シリンダ内に挿入されて前記シリンダ内をロッド側室とボトム側室とに画成するピストンと、前記ピストンに連結されて前記シリンダの外部へ延びるピストンロッドと、前記ピストンロッドの移動によって前記作動流体の流れが生じる流路と、前記流路に設けられソレノイドによって開閉動作が調整される減衰力調整バルブと、を備え、前記ソレノイドは、通電により磁力を発生するコイルと、前記コイルの内周側に設けられる第1,第2の固定鉄心と、前記第1,第2の固定鉄心の間に設けられ、前記第1,第2の固定鉄心に対してろう付けにより一体的に固定される非磁性部材と、前記第1,第2の固定鉄心および前記非磁性部材の内周側に配され、軸方向へ移動可能に設けられる可動鉄心と、前記可動鉄心に設けられる軸部と、前記軸部を支持する第1,第2のブッシュと、を備え、前記軸部の前記第2の固定鉄心側の端部には、前記減衰力調整バルブの弁体が設けられる減衰力調整式緩衝器の製造方法であって、前記非磁性部材は、ろう付け温度が1000度以上となるろう材を用いて前記ろう付けされることで温度を1000度以上に加熱し、該ろう付け処理の後には急冷処理が行われることにより該ろう付け前と比較して加工誘起マルテンサイトを除去し、該急冷処理後、該非磁性部材の内径を画定する内径部は、ろう付け後、機械加工を行わないことにより、加工した場合と比較して磁化され易くなるのを抑制することを特徴としている。」に訂正する。
2 訂正の適否に関する当審の判断
(1)訂正事項1について
ア.訂正の目的について
訂正事項1は、「減衰力調整式緩衝器」から「減衰力調整式緩衝器の製造方法」への訂正(以下「訂正事項1-1」という。)と、「加工」の関係の明確化に係る訂正(以下「訂正事項1-2」という。)とを含んでいる。
(ア)訂正事項1-1について
訂正前請求項1の記載は、「~ことを特徴とする減衰力調整式緩衝器。」であるから、訂正前請求項1発明の対象は、「減衰力調整式緩衝器」という「物」であることは明らかである。
そして、訂正前請求項1には、ソレノイドに設けられる非磁性部材について、「前記非磁性部材は、ろう付け温度が1000度以上となるろう材を用いて前記ろう付けされることで温度を1000度以上に加熱し、該ろう付け処理の後には急冷処理が行われることにより該ろう付け前と比較して加工誘起マルテンサイトを除去し、該急冷処理後、加工を行わない」と特定されていることから、非磁性部材を設けたソレノイドを有する「減衰力調整式緩衝器」に関し、その「製造方法」が記載されている。
ここで、「物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合において、当該特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号にいう『発明が明確であること』という要件に適合するといえるのは、出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情が存在するときに限られると解するのが相当である」(最高裁第二小法廷判決平成27年6月5日(平成24年(受)第1204号))と判示されている(以下「判示事項」という。)。
そこで、上記判示事項を踏まえて検討すると、訂正前請求項1には、「前記非磁性部材は、ろう付け温度が1000度以上となるろう材を用いて前記ろう付けされることで温度を1000度以上に加熱し、該ろう付け処理の後には急冷処理が行われることにより該ろう付け前と比較して加工誘起マルテンサイトを除去し、該急冷処理後、加工を行わない」との製造方法が記載されており、本件特許の明細書には「出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情が存在する」ことが示されていないから、「発明が明確であること」という要件を欠くおそれがあるものである。
そして、訂正事項1-1は、「発明が明確であること」という要件を欠くおそれがある訂正前請求項1を、非磁性部材を設けたソレノイドを有する「減衰力調整式緩衝器の製造方法」として、「前記非磁性部材は、ろう付け温度が1000度以上となるろう材を用いて前記ろう付けされることで温度を1000度以上に加熱し、該ろう付け処理の後には急冷処理が行われることにより該ろう付け前と比較して加工誘起マルテンサイトを除去し、該急冷処理後、加工を行わない」ことを特定する訂正後請求項1に訂正するものであって、この訂正後請求項1は「発明が明確であること」という要件を満たすものである。
したがって、訂正事項1-1は、特許法第126条第1項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。
(イ)訂正事項1-2について
訂正前請求項1には、「加工を行わないことにより、加工した場合と比較して磁化され易くなるのを抑制する」との特定があり、「加工を行わないことにより」の「加工」(以下「前者の加工」という。)と、「加工した場合と比較して」の「加工」(以下、「後者の加工」という。)との関係が不明瞭であるために、訂正前請求項1が「発明が明確であること」という要件を欠くおそれがあるものである。
訂正事項1-2は、上記訂正前請求項1の記載を、「加工を行わないことにより、該加工をした場合と比較して磁化され易くなるのを抑制する」と訂正することで、前者の加工と後者の加工とが同じものを指すという関係性を明確化し、訂正後請求項1を「発明が明確であること」という要件を満たすものにするものである。
したがって、訂正事項1-2は、特許法第126条第1項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。
イ.願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件特許明細書等」という。)に記載した事項の範囲内のものであるか否かについて
(ア)訂正事項1-1について
訂正事項1-1は、「前記非磁性部材は、ろう付け温度が1000度以上となるろう材を用いて前記ろう付けされることで温度を1000度以上に加熱し、該ろう付け処理の後には急冷処理が行われることにより該ろう付け前と比較して加工誘起マルテンサイトを除去し、該急冷処理後、加工を行わない」という製造方法で特定された「減衰力調整式緩衝器」に係る訂正前請求項1を、「前記非磁性部材は、ろう付け温度が1000度以上となるろう材を用いて前記ろう付けされることで温度を1000度以上に加熱し、該ろう付け処理の後には急冷処理が行われることにより該ろう付け前と比較して加工誘起マルテンサイトを除去し、該急冷処理後、加工を行わない」という「減衰力調整式緩衝器の製造方法」に係る訂正後請求項1に訂正するものであるが、製造方法に係る具体的な発明特定事項については訂正前後で変更はない。
よって、訂正事項1-1は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。
(イ)訂正事項1-2について
訂正事項1-2は、訂正前請求項1にあった「加工を行わないことにより、加工した場合と比較して磁化され易くなるのを抑制する」との記載を、訂正後請求項1の「加工を行わないことにより、該加工をした場合と比較して磁化され易くなるのを抑制する」との記載へと訂正するものである。
訂正前の本件特許明細書等には、「加工を行わない」の「加工」と、「加工した場合」の「加工」との関係について直接的に説明する記載はないが、他方で、両者の「加工」が異なるものであると積極的に解釈すべき事由も記載されてはいない。
そして、本件特許の請求項1に係る発明は、「非磁性部材は、接合後に機械加工(例えば、内周面を切削加工)を行うと、加工ひずみで磁気的な特性が変化し、非磁性部材が磁化され易くなるという問題」(訂正前の本件特許明細書の段落【0005】)を解決するために、「非磁性リング44には、第1,第2のステータコア36,40に対する接合後に機械加工(例えば、内周面を切削加工)を行う必要」をなくすることで(訂正前の本件特許明細書の段落【0078】)、「非磁性リング44の磁気的な特性が熱影響やひずみ等で変化することもなく」する(訂正前の本件明細書の段落【0078】)という技術思想、すなわち、接合後に“加工”をすると非磁性部材が磁化され易くなるので、接合後に“その加工”を行う必要をなくするという技術思想に基づいていることにかんがみれば、訂正前請求項1の記載における「加工した場合」の「加工」と「加工を行わない」の「加工」とは、同じ「加工」を指していると解釈するべきといえる。
したがって、本件特許明細書等の記載を総合すると、訂正前請求項1の記載における「加工した場合」の「加工」と「加工を行わない」の「加工」が、同じ「加工」を指すことは記載されていたに等しいといえ、両者が同じ「加工」であることを明確化する訂正事項1-2は、新たな技術的事項を導入するものとはいえない。
よって、訂正事項1-2は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。
ウ.訂正が実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであるか否かについて
(ア)訂正事項1-1について
a.発明が解決しようとする課題とその解決手段について
特許法第126条第6項は、第1項に規定する訂正がいかなる場合にも実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであってはならない旨を規定したものである。
また、特許法第36条第4項第1号の規定により委任された特許法施行規則の第24条の2には、「特許法第36条第4項第1号の経済産業省令で定めるところによる記載は、発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他のその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項を記載することによりしなければならない。」と規定されているから、訂正前請求項1発明と訂正後請求項1発明において、発明が解決しようとする課題及びその解決手段が、実質的に変更されたものか否かにより、訂正後請求項1発明の技術的意義が、訂正前請求項1発明の技術的意義を実質上拡張し、又は変更されたものであるか否かについて検討する。
訂正前の本件特許明細書の段落【0005】~【0007】の記載から、訂正前請求項1発明の課題は、「非磁性部材の特性を保つことができ、第1,第2の固定鉄心の間で可動鉄心に対する磁束密度を高く維持することができるようにした減衰力調整式緩衝器およびソレノイドを提供する」ことであり、その解決手段は「前記非磁性部材は、ろう付け温度が1000度以上となるろう材を用いて前記ろう付けされることで温度を1000度以上に加熱し、該ろう付け処理の後には急冷処理が行われることにより該ろう付け前と比較して加工誘起マルテンサイトを除去し、該急冷処理後、加工を行わない」ことである。
一方、訂正後の本件特許明細書の段落【0005】~【0007】の記載から、訂正後請求項1発明の課題は、「非磁性部材の特性を保つことができ、第1,第2の固定鉄心の間で可動鉄心に対する磁束密度を高く維持することができるようにした減衰力調整式緩衝器およびソレノイドを提供する」ことであり、その解決手段は「前記非磁性部材は、ろう付け温度が1000度以上となるろう材を用いて前記ろう付けされることで温度を1000度以上に加熱し、該ろう付け処理の後には急冷処理が行われることにより該ろう付け前と比較して加工誘起マルテンサイトを除去し、該急冷処理後、加工を行わない」ことである。
してみると、訂正前請求項1発明と訂正後請求項1発明の課題には、何ら変更はなく、訂正前請求項1発明と訂正後請求項1発明における課題解決手段も、実質的な変更はない。
したがって、訂正後請求項1発明の技術的意義は、訂正前請求項1発明の技術的意義を実質上拡張し、又は変更するものではない。
b.訂正による第三者の不測の不利益について
特許請求の範囲は、「特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項のすべて」が記載されたもの(特許法第36条第5項)である。
また、特許法第126条第6項は、第1項に規定する訂正がいかなる場合にも実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであってはならない旨を規定したものであって、訂正前の特許請求の範囲には含まれないとされた発明が訂正後の特許請求の範囲に含まれることとなる、言い換えれば、訂正前の発明の「実施」に該当しないとされた行為が訂正後の発明の「実施」に該当する行為となる場合、第三者にとって不測の不利益が生じるおそれがあるため、そうした事態が生じないことを担保したものである。
以上を踏まえ、訂正前請求項1発明と訂正後請求項1発明において、それぞれの発明の「実施」に該当する行為の異同により、訂正後請求項1発明の「実施」に該当する行為が、訂正前請求項1発明の「実施」に該当する行為を実質上拡張し、又は変更するものであるか否かについて検討する。
ここで、特許法第2条第3項第1号に規定された「物の発明」(訂正前請求項1発明)及び第3号に規定された「物を生産する方法の発明」(訂正後請求項1発明)の実施について比較する。
「物の発明」の実施(第1号)とは、「その物の生産、使用、譲渡等、輸出若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為」であり、「物を生産する方法」の実施(第3号)とは、「その方法の使用をする行為」(第2号)のほか、その方法により生産した「物の使用、譲渡等、輸出若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為」である。ここで、「物を生産する方法」の実施における「その方法の使用をする行為」とは、「その方法の使用により生産される物の生産をする行為」と解されることから、「物の発明」の実施における「その物の生産」をする行為に相当する。
すると、「物の発明」の実施においては、物の生産方法を特定するものではないのに対して、「物を生産する方法の発明」の実施においては、物の生産方法を「その方法」に特定している点で相違するが、その実施行為の各態様については、全て対応するものである。
そして、訂正前請求項1発明は、「前記非磁性部材は、ろう付け温度が1000度以上となるろう材を用いて前記ろう付けされることで温度を1000度以上に加熱し、該ろう付け処理の後には急冷処理が行われることにより該ろう付け前と比較して加工誘起マルテンサイトを除去し、該急冷処理後、加工を行わない」という製造方法(以下「特定の製造方法」という)により、「減衰力調整式緩衝器」という物が特定された「物の発明」であるから、前記特定の製造方法により製造された「減衰力調整式緩衝器」に加え、前記特定の製造方法により製造された「減衰力調整式緩衝器」と同一の構造・特性を有する物も、特許発明の実施に含むものである。
一方、訂正後請求項1発明は、上記特定の製造方法により「減衰力調整式緩衝器の製造方法」という方法が特定された「物を生産する方法の発明」であるから、前記特定の製造方法により製造された「減衰力調整式緩衝器」を、特許発明の実施に含むものである。
したがって、訂正後請求項1発明の「実施」に該当する行為は、訂正前請求項1発明の「実施」に該当する行為に全て含まれるので、第三者にとって不測の不利益が生じるおそれはないから、訂正前請求項1発明の「実施」に該当する行為を実質上拡張し、又は変更するものとはいえない。
c.小括
訂正後請求項1発明の技術的意義は、訂正前請求項1発明の技術的意義を実質上拡張し、又は変更するものではなく、訂正後請求項1発明の「実施」に該当する行為は、訂正前請求項1発明の「実施」に該当する行為を実質上拡張し、又は変更するものとはいえないから、訂正事項1-1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第126条第6項の規定に適合する。
(イ)訂正事項1-2について
訂正事項1-2は、訂正前請求項1の「加工を行わないことにより、加工した場合と比較して磁化され易くなるのを抑制する」との記載を、訂正後請求項1の「加工を行わないことにより、該加工をした場合と比較して磁化され易くなるのを抑制する」との記載へと訂正することで、前者の加工と後者の加工とが同じものを指すという関係性を明確化するものであり、この明確化自体は、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでなく、特許法第126条第6項の規定に適合する。
(2)訂正事項2について
上記(1)と同様の理由により、当該訂正は、特許法第126条第1項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当し、また、特許法第126条第5項、第6項の規定に適合する。
(3)訂正事項3について
上記(1)と同様の理由により、当該訂正は、特許法第126条第1項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当し、また、特許法第126条第5項、第6項の規定に適合する。
(4)訂正事項4について
ア.訂正の目的について
訂正事項4は、「ソレノイド」から「ソレノイドの製造方法」への訂正(以下「訂正事項4-1」という。)と、「加工」の関係の明確化に係る訂正(以下「訂正事項4-2」という。)とを含んでいる。
(ア)訂正事項4-1について
上記(1)ア.(ア)と同様に、当該訂正事項4-1は、特許法第126条第1項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。
(イ)訂正事項4-2について
訂正前請求項4には、「加工を行わないことにより、加工した場合と比較して磁化され易くなるのを抑制する」との特定があり、「加工を行わないことにより」の「加工」(以下「前者の加工」という。)と、「加工した場合と比較して」の「加工」(以下、「後者の加工」という。)との関係が不明瞭であるために、訂正前請求項4が「発明が明確であること」という要件を欠くおそれがあるものである。
訂正事項4-2は、上記訂正前請求項4の記載を、「加工を行わないことにより、該加工をした場合と比較して磁化され易くなるのを抑制する」と訂正することで、前者の加工と後者の加工とが同じものを指すという関係性を明確し、訂正後請求項4を「発明が明確であること」という要件を満たすものにするものである。
したがって、訂正事項4-2は、特許法第126条第1項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。
イ.本件特許明細書等に記載した事項の範囲内のものであるか否かについて
(ア)訂正事項4-1について
訂正事項4-1は、「前記非磁性部材は、ろう付け温度が1000度以上となるろう材を用いて前記ろう付けされることで温度を1000度以上に加熱し、該ろう付け処理の後には急冷処理が行われることにより該ろう付け前と比較して加工誘起マルテンサイトを除去し、該急冷処理後、加工を行わない」という製造方法で特定された「ソレノイド」に係る訂正前請求項4を、「前記非磁性部材は、ろう付け温度が1000度以上となるろう材を用いて前記ろう付けされることで温度を1000度以上に加熱し、該ろう付け処理の後には急冷処理が行われることにより該ろう付け前と比較して加工誘起マルテンサイトを除去し、該急冷処理後、加工を行わない」という「ソレノイドの製造方法」に係る訂正後請求項4に訂正するものであるが、製造方法に係る具体的な発明特定事項については訂正前後で変更はない。
よって、訂正事項4-1は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。
(イ)訂正事項4-2について
訂正事項4-2は、訂正前請求項4の「加工を行わないことにより、加工した場合と比較して磁化され易くなるのを抑制する」との記載を、前者の加工と後者の加工との関係を明確にするために、訂正後請求項4の「加工を行わないことにより、該加工をした場合と比較して磁化され易くなるのを抑制する」との記載へと訂正するものであり、上記(1)イ.(イ)と同様に、本件特許明細書等の記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものとはいえない。
よって、訂正事項4-2は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。
ウ.訂正が実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであるか否かについて
(ア)訂正事項4-1について
訂正前の本件特許明細書の段落【0005】~【0007】の記載から、訂正前請求項4発明の課題は、「非磁性部材の特性を保つことができ、第1,第2の固定鉄心の間で可動鉄心に対する磁束密度を高く維持することができるようにした減衰力調整式緩衝器およびソレノイドを提供する」ことであり、その解決手段は「前記非磁性部材は、ろう付け温度が1000度以上となるろう材を用いて前記ろう付けされることで温度を1000度以上に加熱し、該ろう付け処理の後には急冷処理が行われることにより該ろう付け前と比較して加工誘起マルテンサイトを除去し、該急冷処理後、加工を行わない」ことである。
一方、訂正後の本件特許明細書の段落【0005】~【0007】の記載から、訂正後請求項4発明の課題は、「非磁性部材の特性を保つことができ、第1,第2の固定鉄心の間で可動鉄心に対する磁束密度を高く維持することができるようにした減衰力調整式緩衝器およびソレノイドを提供する」ことであり、その解決手段は「前記非磁性部材は、ろう付け温度が1000度以上となるろう材を用いて前記ろう付けされることで温度を1000度以上に加熱し、該ろう付け処理の後には急冷処理が行われることにより該ろう付け前と比較して加工誘起マルテンサイトを除去し、該急冷処理後、加工を行わない」ことである。
してみると、訂正前請求項4発明と訂正後請求項4発明の課題には、何ら変更はなく、訂正前請求項4発明と訂正後請求項4発明における課題解決手段も、実質的な変更はない。
したがって、訂正後請求項4発明の技術的意義は、訂正前請求項4発明の技術的意義を実質上拡張し、又は変更するものではない。
そして、上記(1)ウ.(ア)b.と同様に、訂正後請求項4発明の「実施」に該当する行為は、訂正前請求項4発明の「実施」に該当する行為を実質上拡張し、又は変更するものとはいえない。
よって、訂正事項4-1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第126条第6項の規定に適合する。
(イ)訂正事項4-2について
訂正事項4-2は、訂正前請求項4の「加工を行わないことにより、加工した場合と比較して磁化され易くなるのを抑制する」との記載を、訂正後請求項4の「加工を行わないことにより、該加工をした場合と比較して磁化され易くなるのを抑制する」との記載へと訂正することで、前者の加工と後者の加工とが同じものを指すという関係性を明確化するものであり、この明確化自体は、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでなく、特許法第126条第6項の規定に適合する。
(5)訂正事項5について
上記(4)と同様の理由により、当該訂正は、特許法第126条第1項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当し、また、特許法第126条第5項、第6項の規定に適合する。
(6)訂正事項6について
上記(4)と同様の理由により、当該訂正は、特許法第126条第1項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当し、また、特許法第126条第5項、第6項の規定に適合する。
(7)訂正事項7について
ア.訂正の目的について
訂正事項7は、「ソレノイド」から「ソレノイドの製造方法」への訂正(以下「訂正事項7-1」という。)と、「加工」と「切削加工」との関係の明確化に係る訂正(以下「訂正事項7-2」という。)とを含んでいる。
(ア)訂正事項7-1について
上記(1)ア.(ア)と同様に、当該訂正事項7-1は、特許法第126条第1項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。
(イ)訂正事項7-2について
訂正前請求項4には、非磁性部材について「加工を行わない」との記載があり、この訂正前請求項4を引用する訂正前請求項7には、非磁性部材の内径を画定する内径部はろう付け後に「切削加工されていない」記載があるところ、訂正前請求項4の「加工」と訂正前請求項7の「切削加工」との関係が不明瞭であるために、訂正前請求項7が「発明が明確であること」という要件を欠くおそれがあるものであった。
訂正事項7-2は、上記訂正前請求項7の記載を、「前記加工に含まれる切削加工をされていない」との記載へと訂正することで、「加工」とは技術常識から考えられるすべての「加工」を含むものであり、「切削加工」はその「加工」に含まれている加工の一つであるという関係性を明確にし、訂正後請求項7を「発明が明確であること」という要件を満たすものにするものである。
したがって、訂正事項7-2は、特許法第126条第1項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。
イ.本件特許明細書等に記載した事項の範囲内のものであるか否かについて
(ア)訂正事項7-1について
訂正事項7-1は、「前記第1,第2の固定鉄心の内径を画定する内径部と、前記非磁性部材の内径を画定する内径部とは、ろう付け後に切削加工されていない」という製造方法で特定された「ソレノイド」に係る訂正前請求項7を、「前記第1,第2の固定鉄心の内径を画定する内径部と、前記非磁性部材の内径を画定する内径部とは、ろう付け後に前記加工に含まれる切削加工をされていない」という「ソレノイドの製造方法」に係る訂正後請求項7に訂正するものであるが、訂正前後で「加工」と「切削加工」との関係の明確化が図られている部分に違いはあるものの、その部分以外では製造方法に係る具体的な発明特定事項については訂正前後で変更はなく、「加工」と「切削加工」との関係の明確化が図られている部分についても、下記(イ)のとおり本件特許明細書等に記載した事項の範囲内である。
よって、訂正事項7-1は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。
(イ)訂正事項7-2について
訂正事項7-2は、訂正前請求項4には、非磁性部材について「加工を行わない」との記載があり、この訂正前請求項4を引用する訂正前請求項7には、非磁性部材の内径を画定する内径部はろう付け後に「切削加工されていない」との記載があったところ、訂正前請求項4の「加工」との関係で、上記訂正前請求項7の記載を「前記加工に含まれる切削加工をされていない」と訂正するものである。
そして、「加工」との用語の意味内容について訂正前の本件特許明細書等において特段の定義付け又は説明さがなされていないところ、「加工」とはその用語が有する通常の意味として解釈される。そうすると、「加工」とは、切削加工などの機械加工、電気・化学加工、その他の加工など、技術常識から考えられるすべての種類の加工を含むと解釈でき、この解釈を前提とすれば、「切削加工」がこの「加工」に含まれることは明らかであったといえる。したがって、訂正前請求項7の「切削加工されていない」記載を訂正後請求項7の「前記加工に含まれる切削加工をされていない」との記載へと訂正することにより、本件特許明細書等の記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項が導入されるとはいえない。
よって、訂正事項7-2は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。
ウ.訂正が実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであるか否かについて
(ア)訂正事項7-1について
訂正前の本件特許明細書の段落【0005】~【0007】の記載から、訂正前請求項7発明の課題は、「非磁性部材の特性を保つことができ、第1,第2の固定鉄心の間で可動鉄心に対する磁束密度を高く維持することができるようにした減衰力調整式緩衝器およびソレノイドを提供する」ことであり、その解決手段は「前記非磁性部材は、ろう付け温度が1000度以上となるろう材を用いて前記ろう付けされることで温度を1000度以上に加熱し、該ろう付け処理の後には急冷処理が行われることにより該ろう付け前と比較して加工誘起マルテンサイトを除去し、該急冷処理後、加工を行わ」ず、「前記第1,第2の固定鉄心の内径を画定する内径部と、前記非磁性部材の内径を画定する内径部とは、ろう付け後に切削加工」しいないことである。
一方、訂正後の本件特許明細書の段落【0005】~【0007】の記載から、訂正後請求項4発明の課題は、「非磁性部材の特性を保つことができ、第1,第2の固定鉄心の間で可動鉄心に対する磁束密度を高く維持することができるようにした減衰力調整式緩衝器およびソレノイドを提供する」ことであり、その解決手段は「前記非磁性部材は、ろう付け温度が1000度以上となるろう材を用いて前記ろう付けされることで温度を1000度以上に加熱し、該ろう付け処理の後には急冷処理が行われることにより該ろう付け前と比較して加工誘起マルテンサイトを除去し、該急冷処理後、加工を行わ」ず、「前記第1,第2の固定鉄心の内径を画定する内径部と、前記非磁性部材の内径を画定する内径部とは、ろう付け後に前記加工に含まれる切削加工」をしないことである。
してみると、訂正前請求項7発明と訂正後請求項7発明の課題には、何ら変更はなく、訂正前請求項7発明と訂正後請求項7発明における課題解決手段も、実質的な変更はない。
したがって、訂正後請求項7発明の技術的意義は、訂正前請求項7発明の技術的意義を実質上拡張し、又は変更するものではない。
そして、上記(1)ウ.(ア)b.と同様に、訂正後請求項7発明の「実施」に該当する行為は、訂正前請求項7発明の「実施」に該当する行為を実質上拡張し、又は変更するものとはいえない。
よって、訂正事項7-1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第126条第6項の規定に適合する。
(イ)訂正事項7-2について
訂正前請求項4に非磁性部材について「加工を行わない」との記載があり、この訂正前請求項4を引用する訂正前請求項7に、非磁性部材の内径を画定する内径部はろう付け後に「切削加工されていない」記載あったところ、この訂正前請求項7の記載を、訂正後請求項7の「前記加工に含まれる切削加工をされていない」との記載へと訂正することで、請求項4の「加工」と、請求項7の「切削加工」との関係性を明確化するものであり、この明確化自体は、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでなく、特許法第126条第6項の規定に適合する。
(8)訂正事項8について
ア.訂正の目的について
訂正事項8は、「減衰力調整式緩衝器」を「減衰力調整式緩衝器の製造方法」へと訂正するものであり、上記(1)ア.(ア)と同様に、特許法第126条第1項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。
イ.本件特許明細書等に記載した事項の範囲内のものであるか否かについて
訂正事項8は、「前記非磁性部材は、ろう付け温度が1000度以上となるろう材を用いて前記ろう付けされることで温度を1000度以上に加熱し、該ろう付け処理の後には急冷処理が行われることにより該ろう付け前と比較して加工誘起マルテンサイトを除去し、該急冷処理後、該非磁性部材の内径を画定する内径部は、ろう付け後、機械加工を行わない」という製造方法で特定された「減衰力調整式緩衝器」に係る訂正前請求項8を、「前記非磁性部材は、ろう付け温度が1000度以上となるろう材を用いて前記ろう付けされることで温度を1000度以上に加熱し、該ろう付け処理の後には急冷処理が行われることにより該ろう付け前と比較して加工誘起マルテンサイトを除去し、該急冷処理後、該非磁性部材の内径を画定する内径部は、ろう付け後、機械加工を行わない」という「減衰力調整式緩衝器の製造方法」に係る訂正後請求項8に訂正するものであり、製造方法に係る具体的な発明特定事項については訂正前後で変更はない。
よって、訂正事項8は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。
ウ.訂正が実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであるか否かについて
訂正前の本件特許明細書の段落【0005】~【0007】の記載から、訂正前請求項4発明の課題は、「非磁性部材の特性を保つことができ、第1,第2の固定鉄心の間で可動鉄心に対する磁束密度を高く維持することができるようにした減衰力調整式緩衝器およびソレノイドを提供する」ことであり、その解決手段は「前記非磁性部材は、ろう付け温度が1000度以上となるろう材を用いて前記ろう付けされることで温度を1000度以上に加熱し、該ろう付け処理の後には急冷処理が行われることにより該ろう付け前と比較して加工誘起マルテンサイトを除去し、該急冷処理後、該非磁性部材の内径を画定する内径部は、ろう付け後、機械加工を行わない」ことである。
一方、訂正後の本件特許明細書の段落【0005】~【0007】の記載から、訂正後請求項4発明の課題は、「前記非磁性部材は、ろう付け温度が1000度以上となるろう材を用いて前記ろう付けされることで温度を1000度以上に加熱し、該ろう付け処理の後には急冷処理が行われることにより該ろう付け前と比較して加工誘起マルテンサイトを除去し、該急冷処理後、該非磁性部材の内径を画定する内径部は、ろう付け後、機械加工を行わない」ことであり、その解決手段は「前記非磁性部材は、ろう付け温度が1000度以上となるろう材を用いて前記ろう付けされることで温度を1000度以上に加熱し、該ろう付け処理の後には急冷処理が行われることにより該ろう付け前と比較して加工誘起マルテンサイトを除去し、該急冷処理後、該非磁性部材の内径を画定する内径部は、ろう付け後、機械加工を行わない」ことである。
してみると、訂正前請求項8発明と訂正後請求項8発明の課題には、何ら変更はなく、訂正前請求項8発明と訂正後請求項8発明における課題解決手段も、実質的な変更はない。
したがって、訂正後請求項8発明の技術的意義は、訂正前請求項8発明の技術的意義を実質上拡張し、又は変更するものではない。
そして、上記(1)ウ.(ア)b.と同様に、訂正後請求項8発明の「実施」に該当する行為は、訂正前請求項8発明の「実施」に該当する行為を実質上拡張し、又は変更するものとはいえない。
よって、訂正事項8は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第126条第6項の規定に適合する。
(9)訂正事項9~11について
上記訂正事項9~11は、上記訂正事項1、4及び8の訂正に伴って、特許請求の範囲と明細書の記載の整合を図るものである。
したがって、当該訂正は、特許法第126条第1項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当し、また、特許法第126条第5項、第6項の規定に適合する。
3 一群の請求項について
訂正前の請求項1~3について、請求項2及び3は請求項1の記載を直接又は間接的に引用する関係にあるから、訂正前の請求項1~3に対応する訂正後の請求項1~3は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
訂正前の請求項4~7について、請求項5~7は請求項4の記載を直接又は間接的に引用する関係にあるから、訂正前の請求項4~7に対応する訂正後の請求項4~7は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
4 訂正の適否についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件審判の請求に係る訂正事項1~11は、特許法第126条第1項ただし書第1号、及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ同条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
したがって、特許請求の範囲及び明細書を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲及び訂正明細書のとおり、本件訂正後の請求項〔1~3〕、〔4~7〕、8について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記第2のとおり本件訂正は認められたから、本件特許の請求項1~8に係る発明(以下「本件発明1」~「本件発明8」という。)は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
作動流体が封入されるシリンダと、
前記シリンダ内に挿入されて前記シリンダ内をロッド側室とボトム側室とに画成するピストンと、
前記ピストンに連結されて前記シリンダの外部へ延びるピストンロッドと、
前記ピストンロッドの移動によって前記作動流体の流れが生じる流路と、
前記流路に設けられソレノイドによって開閉動作が調整される減衰力調整バルブと、を備え、
前記ソレノイドは、
通電により磁力を発生するコイルと、
前記コイルの内周側に設けられる第1,第2の固定鉄心と、
前記第1,第2の固定鉄心の間に設けられ、前記第1,第2の固定鉄心に対してろう付けにより一体的に固定される非磁性部材と、
前記第1,第2の固定鉄心および前記非磁性部材の内周側に配され、軸方向へ移動可能に設けられる可動鉄心と、
前記可動鉄心に設けられる軸部と、
前記軸部を支持する第1,第2のブッシュと、を備え、
前記軸部の前記第2の固定鉄心側の端部には、前記減衰力調整バルブの弁体が設けられ、
前記第1,第2の固定鉄心の内径と比して、前記非磁性部材の内径は大径または小径である減衰力調整式緩衝器の製造方法であって、
前記非磁性部材は、ろう付け温度が1000度以上となるろう材を用いて前記ろう付けされることで温度を1000度以上に加熱し、該ろう付け処理の後には急冷処理が行われることにより該ろう付け前と比較して加工誘起マルテンサイトを除去し、該急冷処理後、加工を行わないことにより、該加工をした場合と比較して磁化され易くなるのを抑制することを特徴とする減衰力調整式緩衝器の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の減衰力調整式緩衝器の製造方法において、
前記非磁性部材は、オーステナイト系ステンレス鋼からなる部材である減衰力調整式緩衝器の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の減衰力調整式緩衝器の製造方法において、
前記非磁性部材は、純銅ろうからなるろう材を用いて前記ろう付けしてなる減衰力調整式緩衝器の製造方法。
【請求項4】
通電により磁力を発生するコイルと、
前記コイルの内周側に設けられる第1,第2の固定鉄心と、
前記第1,第2の固定鉄心の間に設けられ、前記第1,第2の固定鉄心に対してろう付けにより一体的に固定される非磁性部材と、
前記第1,第2の固定鉄心および前記非磁性部材の内周側に配され、軸方向へ移動可能に設けられる可動鉄心と、
前記可動鉄心に設けられる軸部と、
前記軸部を支持する第1,第2のブッシュと、を備え、
前記第1,第2の固定鉄心の内径と比して、前記非磁性部材の内径は大径または小径であるソレノイドの製造方法であって、
前記非磁性部材は、ろう付け温度が1000度以上となるろう材を用いて前記ろう付けされることで温度を1000度以上に加熱し、該ろう付け処理の後には急冷処理が行われることにより該ろう付け前と比較して加工誘起マルテンサイトを除去し、該急冷処理後、加工を行わないことにより、該加工をした場合と比較して磁化され易くなるのを抑制することを特徴とするソレノイドの製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載のソレノイドの製造方法において、
前記非磁性部材は、オーステナイト系ステンレス鋼からなる部材であるソレノイドの製造方法。
【請求項6】
請求項4または5に記載のソレノイドの製造方法において、
前記非磁性部材は、純銅ろうからなるろう材を用いて前記ろう付けしてなるソレノイドの製造方法。
【請求項7】
請求項4乃至6の何れか1項に記載のソレノイドの製造方法において、
前記第1,第2の固定鉄心の内径を画定する内径部と、前記非磁性部材の内径を画定する内径部とは、ろう付け後に前記加工に含まれる切削加工をされていないことを特徴とするソレノイドの製造方法。
【請求項8】
作動流体が封入されるシリンダと、
前記シリンダ内に挿入されて前記シリンダ内をロッド側室とボトム側室とに画成するピストンと、
前記ピストンに連結されて前記シリンダの外部へ延びるピストンロッドと、
前記ピストンロッドの移動によって前記作動流体の流れが生じる流路と、
前記流路に設けられソレノイドによって開閉動作が調整される減衰力調整バルブと、を備え、
前記ソレノイドは、
通電により磁力を発生するコイルと、
前記コイルの内周側に設けられる第1,第2の固定鉄心と、
前記第1,第2の固定鉄心の間に設けられ、前記第1,第2の固定鉄心に対してろう付けにより一体的に固定される非磁性部材と、
前記第1,第2の固定鉄心および前記非磁性部材の内周側に配され、軸方向へ移動可能に設けられる可動鉄心と、
前記可動鉄心の内周側に設けられる軸部と、
前記軸部を支持する第1,第2のブッシュと、を備え、
前記軸部の前記第2の固定鉄心側の端部には、前記減衰力調整バルブの弁体が設けられる減衰力調整式緩衝器の製造方法であって、
前記非磁性部材は、ろう付け温度が1000度以上となるろう材を用いて前記ろう付けされることで温度を1000度以上に加熱し、該ろう付け処理の後には急冷処理が行われることにより該ろう付け前と比較して加工誘起マルテンサイトを除去し、該急冷処理後、該非磁性部材の内径を画定する内径部は、ろう付け後、機械加工を行わないことにより、加工した場合と比較して磁化され易くなるのを抑制することを特徴とする減衰力調整式緩衝器の製造方法。」
第4 取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由の概要
本件訂正前の請求項1及び2に係る特許に対して、当審が令和6年6月21日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
1.理由1(明確性)について
本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(1)請求項1~3について、物の発明に係る特許請求の範囲において、その物の製造方法が記載されており、明確でない。
(2)請求項1~3について、「加工」との記載に関し、明確でない。
(3)請求項4~7について、物の発明に係る特許請求の範囲において、その物の製造方法が記載されており、明確でない。
(4)請求項4~7について、「加工」との記載に関して、明確でない。
(5)請求項7について、「切削加工されていない」との記載に関して、明確でない。
(6)請求項8について、物の発明に係る特許請求の範囲において、その物の製造方法が記載されており、明確でない。
(7)請求項8について、「機械加工」、「加工」との記載に関し、明確でない。
2.理由2(新規事項)について
令和4年11月30日付けでした手続補正(以下「本件補正」という。)は、下記の点で願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「当初明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、本件特許は、特許法17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものである。
(1)本件補正の請求項1~3に係る補正は、当初明細書等に記載された事項の範囲においてしたものではない。
(2)本件補正の請求項4~7に係る補正は、当初明細書等に記載された事項の範囲においてしたものではない。
(3)本件補正の請求項8に係る補正は、当初明細書等に記載された事項の範囲においてしたものではない。
第5 取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由についての当審の判断
1.理由1(明確性)について
(1)請求項1~3について(物の発明に係る特許請求の範囲におけるその物の製造方法の記載に関して)
本件訂正前の請求項1~3は「減衰力調整式緩衝器」という物の発明として特定されていたが、本件訂正により、本件発明1~3は「減衰力調整式緩衝器の製造方法」という製造方法の発明へと訂正された。
したがって、上記第4 1.(1)の取消理由は解消しており、本件発明1~3は明確である。
(2)請求項1~3について(「加工」との記載に関して)
本件訂正前の請求項1においては、「加工を行わないことにより」との記載、及び、「加工した場合と比較して磁化され易くなるのを抑制する」との記載があり、前者の記載の「加工」と後者の記載の「加工」との関係(同じものを指すのか、異なるものを指すのか。)が不明瞭であったが、本件訂正により、訂正前の請求項1の「加工した場合と比較して磁化され易くなるのを抑制する」との記載が、本件発明1において、「該加工をした場合と比較して磁化され易くなるのを抑制する」との記載へと訂正され、後者の「加工」が前者の「加工」と同じであることが、明確になった。
したがって、上記第4 1.(2)の取消理由は解消しており、本件発明1~3は明確である。
(3)請求項4~7について(物の発明に係る特許請求の範囲におけるその物の製造方法の記載に関して)
本件訂正前の請求項4~7は「ソレノイド」という物の発明として特定されていたが、本件訂正により、本件発明4~7は、「ソレノイドの製造方法」という製造方法の発明へと訂正された。
したがって、上記第4 1.(3)の取消理由は解消しており、本件発明4~7は明確である。
(4)請求項4~7について(「加工」との記載に関して)
本件訂正前の請求項4においては、「加工を行わないことにより」との記載、及び、「加工した場合と比較して磁化され易くなるのを抑制する」との記載があり、前者の記載の「加工」と後者の記載の「加工」との関係(同じものを指すのか、異なるものを指すのか。)が不明瞭であったが、本件訂正により、訂正前の請求項4の「加工した場合と比較して磁化され易くなるのを抑制する」との記載が、本件発明4において、「該加工をした場合と比較して磁化され易くなるのを抑制する」との記載へと訂正され、後者の「加工」が前者の「加工」と同じであることが、明確になった。
したがって、上記第4 1.(4)の取消理由は解消しており、本件発明4~7は明確である。
(5)請求項7について(「切削加工されていない」との記載に関して)
本件訂正前の請求項4には、「非磁性部材」について「加工を行わない」との記載があった。一方、訂正前の請求項4を引用する訂正前の請求項7には、「非磁性部材の内径を画定する内径部」について「ろう付け後に切削加工されていない」との記載があった。ここで、訂正前の請求項4の前記記載における「加工」と訂正前の請求項7の前記記載における「切削加工」との関係が不明瞭であり、「非磁性部材」においてどのような加工が行われないかについて、請求項4と請求項7の記載が整合していなかった。
しかしながら、本件訂正により、訂正前の請求項7の「ろう付け後に切削加工されていない」との記載が、本件発明7において、「ろう付け後に前記加工に含まれる切削加工をされていない」との記載へと訂正された。これにより、「加工」とは、技術常識から想定し得る全ての加工を包含するものであり、「切削加工」はそのような「加工」の一つであり、「加工」に含まれるという点が明確になった。
したがって、本件発明7は明確であり、上記第4 1.(5)の取消理由は解消した。
(6)請求項8について(物の発明に係る特許請求の範囲におけるその物の製造方法の記載に関して)
本件訂正前の請求項8は「減衰力調整式緩衝器」という物の発明として特定されていたが、本件訂正により、本件発明8は、「減衰力調整式緩衝器の製造方法」という製造方法の発明へと訂正された。
したがって、上記第4 1.(6)の取消理由は解消しており、本件発明8は明確である。
(7)請求項8について(「機械加工」、「加工」との記載に関して)
本件訂正前の請求項8には、「機械加工を行わないことにより」との記載、及び「加工した場合と比較して磁化され易くなるのを抑制する」との記載があり、前者の記載の「機械加工」と後者の記載の「加工」との関係(同じものを指すのか異なるものを指すのか)が不明瞭であるとの指摘をしていた。
しかし、特許権者が令和6年7月31日付けで提出した意見書で主張するとおり、前者の「機械加工」とは、例えば深絞りや切削加工のような非磁性部材に対するあらゆる機械的な加工を指すものとして、後者の「加工」は技術常識から想定し得る全ての加工を含むものとして、それぞれが意味するところは明確であるから、前者の「機械加工」と、後者の「加工」との関係は明らかである。
したがって、上記第4 1.(7)の取消理由は解消しており、本件発明8は明確である。
2.理由2(新規事項)について
(1)請求項1~3について
本件補正は、請求項1~3に記載された「前記非磁性部材は、ろう付け温度が1000度以上となるろう材を用いて前記ろう付けされ、ろう付け処理の後には急冷処理が行われる」という工程に関して、「前記非磁性部材は、ろう付け温度が1000度以上となるろう材を用いて前記ろう付けされることで温度を1000度以上に加熱し、該ろう付け処理の後には急冷処理が行われることにより該ろう付け前と比較して加工誘起マルテンサイトを除去し、該急冷処理後、加工を行わないことにより、加工した場合と比較して磁化され易くなるのを抑制する」ことを特定するものである。すなわち、本件補正は、ろう付け温度を1000℃以上とすることによる熱処理と、その後に続く急冷処理との双方を行うことによって加工誘起マルテンサイトを除去する、という技術的事項を本件発明1~3に追加するものと解せる。
この点に関し、当初明細書の段落【0079】には、「この場合、非磁性リング44は、オーステナイト系ステンレス鋼からなる非磁性部材であり、この非磁性リング44を第1のステータコア36と第2のステータコア40との間にろう付け部45、46により接合するときには、純銅ろう(ろう材)等を用いてろう付けを行う構成としている。即ち、オーステナイト系ステンレス鋼は、例えば1000℃以上で熱処理する固溶化熱処理を行うことにより、加工誘起マルテンサイトが除去され、結晶構造が非磁性材として理想的な面心立方構造に再び戻すことができる。」(下線は当審が付したもの。)との記載がある。
そして、特許権者が令和6年7月31日付けで提出した意見書に添付した乙1号証「JIS工業用語大辞典第4版」(第609ページ、1995年11月20日発行、財団法人日本規格協会)に示されるとおり、「固溶化熱処理」は技術常識ともいえる、ごく普通に用いられる技術であり、「鋼の合金の成分を固溶体に溶解する温度以上に加熱して十分な時間保持し、急冷してその析出を阻止する操作」として、当業者には広く知られているところ、上記の段落【0079】の記載における「1000℃以上で熱処理する固溶化熱処理」が、1000℃以上で十分な時間保持するという熱処理をした後に急冷する操作を伴うものであることは、当業者にしてみれば明らかである。すなわち、ろう付け温度を1000℃以上とすることによる熱処理と、その後に続く急冷処理との双方を行うことによって加工誘起マルテンサイトを除去するという技術的事項は、当業者にしてみれば当初明細書等に記載されているに等しい事項といえる。
よって、本件補正は、当初明細書等の記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであり、当初明細書等に記載した事項の範囲内でしたものである。
(2)請求項4~7について
本件補正は、請求項4~7に記載された「前記非磁性部材は、ろう付け温度が1000度以上となるろう材を用いて前記ろう付けされ、ろう付け処理の後には急冷処理が行われる」という工程に関して、「前記非磁性部材は、ろう付け温度が1000度以上となるろう材を用いて前記ろう付けされることで温度を1000度以上に加熱し、該ろう付け処理の後には急冷処理が行われることにより該ろう付け前と比較して加工誘起マルテンサイトを除去し、該急冷処理後、加工を行わないことにより、加工した場合と比較して磁化され易くなるのを抑制する」ことを特定するものである。すなわち、本件補正は、ろう付け温度を1000℃以上とすることによる熱処理と、その後に続く急冷処理との双方を行うことによって加工誘起マルテンサイトを除去する、という技術的事項を本件発明4~7に追加するものと解せる。
そして、本件補正は、上記(1)と同様に、当初明細書等の記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであり、当初明細書等に記載した事項の範囲内でしたものである。
(3)請求項8について
本件補正は、請求項8に記載された「前記非磁性部材は、ろう付け温度が1000度以上となるろう材を用いて前記ろう付けされ、ろう付け処理の後には急冷処理が行われ」るという工程に関して、「前記非磁性部材は、ろう付け温度が1000度以上となるろう材を用いて前記ろう付けされることで温度を1000度以上に加熱し、該ろう付け処理の後には急冷処理が行われることにより該ろう付け前と比較して加工誘起マルテンサイトを除去」することを特定するともに、「該非磁性部材の内径を画定する内径部は、ろう付け後、機械加工を行わないこと」に関して、「該急冷処理後、該非磁性部材の内径を画定する内径部は、ろう付け後、機械加工を行わないことにより、加工した場合と比較して磁化され易くなるのを抑制する」ことを特定正するものである。すなわち、本件補正は、ろう付け温度を1000℃以上とすることによる熱処理と、その後に続く急冷処理との双方を行うことによって加工誘起マルテンサイトを除去する、という技術的事項を本件発明8に追加するものと解せる。
そして、本件補正は、上記(1)と同様に、当初明細書等の記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであり、当初明細書等に記載した事項の範囲内でしたものである。
第6 取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった申立理由について
1.申立人1による異議申立理由
(1)本件発明1~8に係る進歩性
申立人1は、本件発明1~8は、甲第1~9号証に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、上記の請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものと主張する。
(申立人1が提示した証拠)
甲第1号証:特開2014-73018号公報
甲第2号証:実願平2-106646号(実開平4-63879号)のマクロフィルム
甲第3号証:実願昭58-120726(実開昭60-28671号)のマクロフィルム
甲第4号証:特開2005-262277号公報
甲第5号証:特開昭64-42371号公報
甲第6号証:特開平11-77294号公報
甲第7号証:特開平5-112899号公報
甲第8号証:特開平8-291885号公報
甲第9号証:特開2011-216139号公報
以下、申立人1が提示した甲第1号証~甲第9号証を「甲1」~「甲9」という
ア.甲各号証の記載
(ア)甲1
甲1には、図面とともに次の記載がある(下線は、当審が付したもの。)。
「【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば減衰力調整式油圧緩衝器の減衰力可変アクチュエータ等として好適に用いられるソレノイドに関する。」
「【0007】
上述した課題を解決するため、本発明は、通電により磁力を発生するコイルと、前記コイルの内周側に軸方向に離間して配され、磁性材料からなる第1、第2のステータコアと、前記ステータコアの内周側に配され、軸方向へ移動可能に設けられるプランジャと、前記第1、第2のステータコアの間であって、非磁性材料からなり前記第1、第2のステータコアを繋ぐリング状部材と、を備えるソレノイドであって、前記第1のステータコアの前記リング状部材側の端部には、第1筒状部が形成され、前記第2のステータコアの前記リング状部材側の端部には、第2筒状部が形成され、前記リング状部材は前記第1、第2の筒状部の内側に嵌合されて配置され、前記第1、第2の筒状部の外周側からレーザ溶接により前記第1、第2のステータコアと前記リング状部材とを溶着することを特徴としている。」
「【0011】
まず、本実施の形態によるソレノイド33が組込まれた減衰力調整式油圧緩衝器1(以下、油圧緩衝器1とする)について、図1を参照しつつ説明する。
【0012】
油圧緩衝器1の外殻をなす有底筒状の外筒2は、下端側がボトムキャップ3により溶接手段等を用いて閉塞され、上端側は、径方向内側に屈曲されたかしめ部2Aとなっている。かしめ部2Aと内筒4との間には、ロッドガイド9とシール部材10が設けられている。一方、外筒2の下部側には、後述する中間筒12の接続口12Cと同心に開口2Bが形成され、該開口2Bと対向して後述する減衰力調整装置17が取付けられている。また、ボトムキャップ3には、例えば車両の車輪側に取付けられる取付アイ3Aが設けられている。
【0013】
外筒2内には、該外筒2と同軸上に内筒4が設けられている。内筒4は、下端側がボトムバルブ13に嵌合して取付けられ、上端側はロッドガイド9に嵌合して取付けられている。内筒4内には作動液としての油液が封入されている。作動液としては油液、オイルに限らず、例えば添加剤を混在させた水等でもよい。
【0014】
内筒4と外筒2との間には、環状のリザーバ室Aが形成され、このリザーバ室A内には、前記油液と共にガスが封入されている。このガスは、大気圧状態の空気であってもよく、また圧縮された窒素ガス等の気体を用いてもよい。また、内筒4の長さ方向(軸方向)の途中位置には、ロッド側油室Bを環状油室Dに常時連通させる油穴4Aが径方向に穿設されている。
【0015】
ピストン5は、内筒4内に摺動可能に挿嵌されている。ピストン5は、内筒4内をロッド側油室Bとボトム側油室Cとに画成している。ピストン5には、ロッド側油室Bとボトム側油室Cとを連通可能とする油路5A,5Bがそれぞれ複数個、周方向に離間して形成されている。
【0016】
ここで、ピストン5の下端面には、伸長側のディスクバルブ6が設けられている。この伸長側のディスクバルブ6は、ピストンロッド8の伸長行程でピストン5が上向きに摺動変位するときに、ロッド側油室B内の圧力がリリーフ設定圧を越えると開弁し、このときの圧力を各油路5Aを介してボトム側油室C側にリリーフする。このリリーフ設定圧は、後述の減衰力調整装置17がハードに設定されたときの開弁圧より高い圧に設定される。
【0017】
ピストン5の上端面には、ピストンロッド8の縮小行程でピストン5が下向きに摺動変位するときに開弁し、これ以外のときには閉弁する縮み側逆止弁7が設けられている。この逆止弁7は、ボトム側油室C内の油液がロッド側油室Bに向けて各油路5B内を流通するのを許し、これとは逆向きに油液が流れるのを阻止するものである。この逆止弁7の開弁圧は、後述の減衰力調整装置17がソフトに設定されたときの開弁圧より低い圧に設定され、実質的に減衰力を発生しない。この実質的に減衰力を発生しないとは、ピストン5やシール部材10のフリクション以下の力であり、車の運動に対し影響しないものである。
【0018】
内筒4内を軸方向に延びるピストンロッド8は、下端側が内筒4内に挿入され、ナット8A等によりピストン5に固着して設けられている。また、ピストンロッド8の上端側は、ロッドガイド9を介して外筒2および内筒4の外部に突出している。なお、ピストンロッド8の下端をさらに延ばしてボトム部(例えば、ボトムキャップ3)側から外向きに突出させ、所謂、両ロッドとしてもよい。」
「【0025】
次に、油圧緩衝器1の発生減衰力を可変に調整するための減衰力調整装置17について、図1に加えて図2も参照しつつ説明する。なお、図2は、ソレノイド33のコイル34Aへの通電に基づいて、プランジャ46(作動ピン47)が図2の左側、即ち、パイロット弁部材32がパイロットボディ26の弁座部26Eに着座する側に移動(変位)した状態を示している。
【0026】
図1中に示すように、減衰力調整装置17は、その基端側(図1の左端側)がリザーバ室Aと環状油室Dとの間に介在して配置され、先端側(図1の右端側)が外筒2の下部側から径方向外向きに突出するように設けられている。減衰力調整装置17は、環状油室Dからリザーバ室Aへの油液の流通を、減衰力調整バルブ18により制御することで、減衰力を発生する。また、減衰力調整バルブ18の開弁圧を、減衰力可変アクチュエータとて用いられる後述のソレノイド33で調整することにより、発生減衰力を可変に調整する。」
「【0037】
次に、減衰力調整バルブ18と共に減衰力調整装置17を構成するソレノイド33に就いて、図1および図2に加えて図3および図4も参照しつつ説明する。
【0038】
減衰力調整装置17の減衰力可変アクチュエータとして用いられるソレノイド33は、モールドコイル34、第1のステータコア36,ヨーク部材38、リング状部材41、アンカ部材43、プランジャ46、作動ピン(ロッド)47、カバー部材48等により構成されている。このヨーク部材38とアンカ部材43とで、本発明の第2のステータコアを構成する。」
「【0048】
リング状部材41は、第1のステータコア36とヨーク部材38との間に配置され、これら第1のステータコア36とヨーク部材38と(言い換えると第1、第2のステータコア間)を繋ぐものである。リング状部材41は、例えばステンレス鋼等の非磁性材料からなり、円筒状(管状)に形成されている。リング状部材41は、その軸方向両端を、第1のステータコア36とヨーク部材38の第1、第2の段差部36C,38Cの内側に嵌合(内嵌)し、これにより、リング状部材41は、その外周側を径方向外側から部分的に第1、第2の段差部36C,38Cで覆われるように配置される。この状態で、第1、第2の段差部36C,38Cの外周側からレーザ溶接を施すことにより、第1、第2の段差部36C,38Cとリング状部材41との間に溶接部42を形成し、第1のステータコア36とヨーク部材38とリング状部材41とにより圧力容器を構成している。」
「【0052】
可動鉄心とも呼ばれるプランジャ46は、ステータコア36,38の内周側に配され、軸方向へ移動可能に設けられている。このために、プランジャ46は、後述の作動ピン47に一体的に固定され、該作動ピン47は、第1のステータコア36とアンカ部材43とにそれぞれブッシュ37,44を介して支持されている。プランジャ46は、例えば鉄系の磁性体により略円筒状に形成され、コイル34Aにより磁力を発生したときに、アンカ部材43に吸着されることにより推力を発生するものである。プランジャ46には、該プランジャ46の変位に対してステータコア36,38の油液が過度の抵抗とならないように連通路46Aが形成されている。
【0053】
プランジャ46の推力を伝達する部材である作動ピン47は、その中間部にプランジャ46が圧入等の手段を用いて一体的に固定(サブアッセンブリ)されている。作動ピン47の軸方向の両側は、第1のステータコア36とヨーク部材38(アンカ部材43)とにブッシュ37,44を介して軸方向の変位を可能に支持されている。作動ピン47の一端側(図1ないし図3の左側)は、アンカ部材43から突出すると共に、その突出端には、減衰力調整バルブ18のパイロット弁部材32が固定されている。従って、パイロット弁部材32は、プランジャ46と作動ピン47と共に一体的に移動(変位)する。換言すれば、パイロット弁部材32の開弁圧は、コイル34Aへの通電に基づくプランジャ46の推力に対応したものとなる。これにより、プランジャ46は、その軸方向の移動により、油圧緩衝器1のパイロットバルブ、即ち、パイロットボディ26に対するパイロット弁部材32の開閉弁を行う構成となっている。」
「【0063】
例えば、ピストンロッド8の伸び行程時には、内筒4内のピストン5の移動によってピストン5の縮み側逆止弁7が閉じる。ピストン5のディスクバルブ6の開弁前には、ロッド側油室Bの油液が加圧され、内筒4の油穴4A、環状油室D、中間筒12の接続口12Cを通じて減衰力調整バルブ18の筒形ホルダ20の油路20Bに流入する。このとき、ピストン5が移動した分の油液は、リザーバ室Aからボトムバルブ13の伸び側逆止弁16を開いてボトム側油室Cに流入する。なお、ロッド側油室Bの圧力がディスクバルブ6の開弁圧力に達すると、該ディスクバルブ6が開き、ロッド側油室Bの圧力をボトム側油室Cにリリーフする。
【0064】
減衰力調整装置17では、筒形ホルダ20の油路20Bに流入した油液は、メインディスクバルブ23の開弁前(ピストン速度低速域)においては、図2に矢印Xで示すように、バルブ部材21の中心孔21A、パイロットピン24の中心孔24B、パイロットボディ26の中心孔26Cを通り、パイロット弁部材32を押し開き、パイロットボディ26の内側に流入する。そして、パイロットボディ26の内側に流入した油液は、パイロット弁部材32のフランジ部32Aとディスクバルブ29との間、保持プレート30の油路30A、キャップ31の切欠き31A、バルブケース19の油室19Cを通ってリザーバ室Aへ流れる。ピストン速度の上昇に伴って、筒形ホルダ20の油路20Bの圧力、即ち、ロッド側油室Bの圧力が、メインディスクバルブ23の開弁圧力に達すると、筒形ホルダ20の油路20Bに流入した油液は、図2に矢印Yで示すように、バルブ部材21の油路21Bを通り、メインディスクバルブ23を押し開き、バルブケース19の油室19Cを通ってリザーバ室Aへ流れる。
【0065】
一方、ピストンロッド8の縮み行程時には、内筒4内のピストン5の移動によってピストン5の縮み側逆止弁7が開き、ボトムバルブ13の伸び側逆止弁16が閉じる。ボトムバルブ13(ディスクバルブ15)の開弁前には、ボトム側油室Cの油液がロッド側油室Bに流入する。これと共に、ピストンロッド8が内筒4内に浸入した分に相当する油液が、ロッド側油室Bから減衰力調整バルブ18を介してリザーバ室Aに、伸び行程時と同様の経路で流れる。なお、ボトム側油室C内の圧力がボトムバルブ13(ディスクバルブ15)の開弁圧力に達すると、ボトムバルブ13(ディスクバルブ15)が開き、ボトム側油室Cの圧力をリザーバ室Aにリリーフする。
【0066】
これにより、ピストンロッド8の伸び行程時と縮み行程時に、減衰力調整バルブ18のメインディスクバルブ23の開弁前は、パイロットピン24のオリフィス24Cとパイロット弁部材32の開弁圧力とによって減衰力が発生し、メインディスクバルブ23の開弁後は、該メインディスクバルブ23の開度に応じて減衰力が発生する。この場合、ソレノイド33のコイル34Aへの通電によってパイロット弁部材32の開弁圧力を調整することにより、ピストン速度に拘わらず、減衰力を直接制御することができる。
【0067】
具体的には、コイル34Aへの通電電流を小さくしてプランジャ46の推力を小さくすると、パイロット弁部材32の開弁圧力が低下し、ソフト側の減衰力が発生する。一方、コイル34Aへの通電電流を大きくしてプランジャ46の推力を大きくすると、パイロット弁部材32の開弁圧力が上昇し、ハード側の減衰力が発生する。このとき、パイロット弁部材32の開弁圧力によって、その上流側の油路25を介して連通する背圧室27の内圧が変化する。これにより、パイロット弁部材32の開弁圧力を制御することにより、メインディスクバルブ23の開弁圧力を同時に調整することができ、減衰力特性の調整範囲を広くすることができる。」
「【0073】
これに対し、本実施の形態では、図3に詳示するように、リング状部材41の軸方向両端を、第1のステータコア36とヨーク部材38の第1、第2の段差部36C,38C(第1、第2の筒状部)の内側に嵌合(内嵌)した状態で、第1、第2の段差部36C,38Cの外周側からレーザ溶接を施すことにより、第1、第2の段差部36C,38Cとリング状部材41との間に溶接部42を形成する構成としている。即ち、リング状部材41は、外周側を部分的に第1、第2の段差部36C,38Cで覆われるように配置され、これら第1、第2の段差部36C,38Cの外周側からレーザ溶接により第1のステータコア36とヨーク部材38とリング状部材41とを溶着する構成としている。」
上記記載から、甲1には次の技術的事項が記載されていると認められる。
a.減衰力調整式油圧緩衝器は、油液が封入されている内筒4を備えている(段落【0013】)。
b.減衰力調整式油圧緩衝器は、内筒4内に摺動可能に挿嵌されて、内筒4内をロッド側油室Bとボトム側油室Cとに画成しているピストン5を備えている(段落【0015】)。
c.減衰力調整式油圧緩衝器は、ピストン5が固着して設けられ、その上端側が内筒4の外部に突出しているピストンロッド8を備えている(段落【0018】)。
d.段落【0063】には「例えば、ピストンロッド8の伸び行程時には、内筒4内のピストン5の移動によってピストン5の縮み側逆止弁7が閉じる。ピストン5のディスクバルブ6の開弁前には、ロッド側油室Bの油液が加圧され、内筒4の油穴4A、環状油室D、中間筒12の接続口12Cを通じて減衰力調整バルブ18の筒形ホルダ20の油路20Bに流入する。」との記載が、段落【0064】には、「減衰力調整装置17では、筒形ホルダ20の油路20Bに流入した油液は、・・・(中略)・・・、パイロットボディ26の内側に流入する。そして、パイロットボディ26の内側に流入した油液は、パイロット弁部材32のフランジ部32Aとディスクバルブ29との間、保持プレート30の油路30A、キャップ31の切欠き31A、バルブケース19の油室19Cを通ってリザーバ室Aへ流れる。」との記載があるところ、段落【0063】~【0065】の記載から、減衰力調整式油圧緩衝器には、“ピストンロッド8の伸び行程時及び縮み工程時に油液が流れる、ロッド側油室Bからリザーバ室Aに至る経路”が備わっているといえ、そのロッド側油室Bからリザーバ室Aに至る経路に、減衰力調整バルブ18が設けられているといえる。
また、この減衰力調整バルブ18は、ソレノイド33によってパイロット弁部材32の開弁圧力を調整し、メインディスクバルブ23の開弁圧力を同時に調整するものである(段落【0066】及び【0067】)。
e.ソレノイド33は、通電により磁力を発生するコイル34Aを備えている(段落【0007】及び【0025】)。
f.ソレノイドが、コイルの内周側に軸方向に離間して配され、磁性材料からなる第1、第2のステータコアを備える(段落【0007】)。そして、段落【0038】に、「このヨーク部材38とアンカ部材43とで、本発明の第2のステータコアを構成する」との記載がある。
g.ソレノイド33は、第1のステータコア36及び第2のステータコアの間に配置され、これらを繋ぐ非磁性材料からなるリング状部材41を備えている(段落【0048】)。
h.ソレノイド33は、第1のステータコア36及び第2のステータコアと内周側に配置され、軸方向へ移動可能に設けられるプランジャ46を備えている(段落【0007】及び【0052】)。また、図3から、プランジャ46は、非磁性材料からなるリング状部材41に対しても、内周側に配置されている点が看て取れる。
i.ソレノイド33は、プランジャ46に一体的に固定される作動ピン47を備えている(段落【0052】)。図3からは、作動ピン47が、プランジャ46の中心軸線に沿う中心穴に挿入されて配置されている点が看て取れる。また、ソレノイド33には、この作動ピン47を支持するブッシュ37、44が備えられている(段落【0052】)。
j.作動ピン47のアンカ部材43から突出する突出端にパイロット弁体32が固定されている(段落【0053】)。
k.図3から、第1のステータコア36の小径穴部36Dの内径と比して、非磁性材料からなるリング状部材41が大径である点が、アンカ部材43の穴部43Cの内径と比して、非磁性材料からなるリング状部材41が大径である点が、それぞれ看て取れる。
以上を総合すると、甲1には、減衰力調整式油圧緩衝器の製造方法に係る次の発明(以下「甲1A発明」という。)が、また、ソレノイドの製造方法に係る次の発明(以下「甲1B発明」という。)が記載されていると認められる。
[甲1A発明]
油液が封入されている内筒4と、
内筒4内に摺動可能に挿嵌されて、内筒4内をロッド側油室Bとボトム側油室Cとに画成しているピストン5と、
ピストン5が固着して設けられ、その上端側が内筒4の外部に突出しているピストンロッド8と、
ピストンロッド8の伸び行程時及び縮み工程時に油液が流れる、ロッド側油室Bからリザーバ室Aに至る経路と、
ロッド側油室Bからリザーバ室Aに至る経路に設けられ、ソレノイド33によってパイロット弁部材32の開弁圧力を調整し、メインディスクバルブ23の開弁圧力を同時に調整する、減衰力調整バルブ18と、を備え
前記ソレノイド33は、
通電により磁力を発生するコイル34Aと、
前記コイルの内周側に軸方向に離間して配される第1のステータコア36、及びヨーク部材38とアンカ部材43で構成される第2のステータコアと、
第1のステータコア36及びヨーク部材38の間に配置され、これらを繋ぐ非磁性材料からなるリング状部材41であって、レーザ溶接によって第1のステータコア36とヨーク部38に溶着される非磁性材料からなるリング状部材41と、
第1のステータコア36及び第2のステータコア、及び非磁性材料からなるリング状部材41の内周側に配置され、軸方向へ移動可能に設けられるプランジャ46と、
プランジャ46の中心軸線に沿う中心穴に挿入されて配置される作動ピン47と、
作動ピン47を支持するブッシュ37、44とを備え、
作動ピン47のアンカ部材43から突出する突出端にパイロット弁体32が固定され、
第1のステータコア36の小径穴部36Dの内径と比して、また、アンカ部材43の穴部43Cの内径と比して、非磁性材料からなるリング状部材41が大径である、減衰力調整式油圧緩衝器の製造方法。
[甲1B発明]
通電により磁力を発生するコイル34Aと、
前記コイルの内周側に軸方向に離間して配される第1のステータコア36、及びヨーク部材38とアンカ部材43で構成される第2のステータコアと、
第1のステータコア36及びヨーク部材38の間に配置され、これらを繋ぐ非磁性材料からなるリング状部材41であって、レーザ溶接よって第1のステータコア36とヨーク部38に溶着される非磁性材料からなるリング状部材41と、
第1のステータコア36及び第2のステータコア、及び非磁性材料からなるリング状部材41の内周側に配置され、軸方向へ移動可能に設けられるプランジャ46と、
プランジャ46の中心軸線に沿う中心穴に挿入されて配置される作動ピン47と、
作動ピン47を支持するブッシュ37、44とを備え、
第1のステータコア36の小径穴部36Dの内径と比して、また、アンカ部材43の穴部43Cの内径と比して、非磁性材料からなるリング状部材41が大径である、ソレノイド33の製造方法。
(イ)甲2
甲2には、図面とともに次の記載がある(下線は、当審が付したもの。)。
「第1図において、このソレノイド弁は、固定コア1と、ヨーク2と、固定コアlおよびヨーク2間に形成されている弁室3内に収納されるプランジヤ4と、弁室3に臨んでヨーク2に固定された弁座部材5と、弁座部材5への着座を可能としてプランジヤ4に設けられる球状弁体6と、球状弁体6を弁座部材5に着座させる方向にプランジヤ4を付勢すべく弁室3内でプランジヤ4および固定コア1間に介設される戻しばね7と、励磁時に前記戻しばね7のばね力に抗してプランジヤ4を固定コア1側に吸引するためのコイル20とを備える。
固定コア1は鉄系金属等の磁性金属から成る磁性円筒体9に嵌合される。
また磁性金属から成るヨーク2の一部と、非磁性金属たとえばステンレス鋼から成る非磁性円筒体10とでプランジヤ4を案内するガイド筒8が構成されるものであり、非磁性円筒体10の一端は嵌合状態で磁性円筒体9にろう付けされ、非磁性円筒体10の他端は嵌合状態でヨーク2にろう付けされる。」(第5頁第12行~第6頁第14行)
「固定コア1は、半径方向外方に張出した鍔部1aを一端に有して基本的に円柱状に形成されており、磁性円筒体9の一端部を前記鍔部1aに当接させるまで該磁性円筒体9内に嵌合され、固定コア1の外面には磁性円筒体9の内面に接触するOリング11が嵌着される。また磁性円筒体9の他端部には、段部を介して外径を小径とした嵌合筒部9aが設けられる。さらに非磁性円筒体10には、前記嵌合筒部9aを嵌合させる第1大径嵌合孔10aと、第1大径嵌合孔10aよりも小径であって磁性円筒体9の内径と同径である案内孔l0bと、前記第1大径嵌合孔10aと同径の第2大径嵌合孔10cとが同軸に連なって設けられる。しかもヨーク2には前記第2大径嵌合孔10cに嵌合される嵌合筒部2aが突設される。而して非磁性円筒体10の第1および第2大径嵌合孔l0a、10cに嵌合筒部9a、2aを嵌合した状態で、非磁性円筒体10および固定コア1間、ならびに非磁性円筒体10およびヨーク2間でろう付けにより相互にそれぞれ結合され、その結合状態で固定コア1および非磁性円筒体10の外面はほぼ面一となり、非磁性円筒体10および嵌合筒部2aの内面もほぼ面一となる。」(第7頁第1行~第8頁第6行)
上記記載から、甲2には次の技術的事項が記載されているといえる。
[甲2記載の技術的事項]
ソレノイド弁を製造する際、固定コア1に嵌合される磁性円筒体9と磁性金属から成るヨーク2に対して非磁性円筒体10をろう付けにより一体的に固定すること。
(ウ)甲3
甲3には、図面とともに次の記載がある(下線は、当審が付したもの。)。
「10は磁性体からなるバルブ本体を示し、このバルブ本体10には弁孔11が貫通され、この弁孔11に第1の流体通路12に連通されたポート13が半径方向に開口されている。」(第3頁第14~17行参照)
「バルブ本体10の外周には非磁性体からなるスリーブ17が銅ロウによって固着され、このスリーブ17の内周上部には磁性体からなるヨーク18が銅ロウによって固着され、このヨーク18の下端とバルブ本体10の上端との間には所定の空隙が形成されている。スリーブとヨーク18とを溶着する部分の下部で、ヨーク18の外周にはロウ留り18aが形成されている。スリーブ17の外周には非磁性体からボビン19に巻かれたソレノイド20が取付けられている。」(第4頁第3~12行)
「図面は本考案の実施例を示すリニアソレノイドバルブの断面図である。」(第8頁第5~6行)
上記記載から、甲3には次の技術的事項が記載されているといえる。
[甲3記載の技術的事項]
リニアレノイドバルブを製造する際、磁性体からなるバルブ本体1と磁性体からなるヨーク18に対して非磁性体からなるスリーブ17をろう付けにより一体的に固定すること。
(エ)甲4
甲4には、図面とともに次の記載がある(下線は、当審が付したもの。)。
「【技術分野】
【0001】
本発明は、熱交換装置に広く用いられるフィンつきの熱交換パイプに係り、熱交換効率のよいパイプに関するものである。」
「【0014】
次に、図1に示した伝熱パイプ1と放熱フィン2の接合に要する構成について説明する。熱交換パイプとして利用される材料としては、鋼系あるいは軟鉄系の鉄パイプ、ステンレス鋼パイプ、銅パイプなどを代表的なものとして採用するが、放熱フィンとの接合の良さを考えると、鉄パイプには鉄、ステンレス鋼、あるいは銅製のフィンを適合する。また、ステンレス鋼パイプに対しては、ステンレス鋼、あるいは銅製の放熱フィンを接合する。なお、銅製の伝熱パイプに対しては銅製の放熱フィンを接合する。接合材料としては、ろう粉末をペーストに練りこんだろう材を用いる。それぞれの材質に対する接合に用いるろう粉末としては、表1に示した組成を適合する。なお、各欄に開示されたろう材は、それぞれ公知のろう材であるが、これらを混合して用いるという意味ではなく、銅ろうであればそれを単独で、ニッケルろうであればそれを単独にて用いる。ペーストに求められる条件としては、ろう粉末がペーストに対して極力均一に練りこまれ、かつブレージング炉において加熱した場合には完全に焼却されて残留しない材質が選択される。ろう粉末は、ろう継手を構成するものであるから、母材よりも低い温度で熔融することが必要である。」
「【0016】
上述した装置、および構成を用いて熱交換パイプを製造するには、先ず図3に示したように伝熱パイプ1が放熱フィン2の内周に挿通されるように押込んで仮装着を行う。この状態では放熱フィン2は伝熱パイプ1に対して摩擦およびかしめられただけであり、フィンによる放熱効果は期待できない。続いて、ペーストにろう粉末を練りこんだろう材を伝熱パイプ1とフィン2の接合部に塗布する。ペーストはこの種のろう付けに一般的に用いられるフラックスとは異なり、高熱下で完全に焼却される性質であるから、長時間放置すれば乾燥してしまい、ろう粉末が塗布面から脱落するので、ペーストが乾燥しない状態にて図2に示したブレージング炉10に投入する。ブレージング炉10における加熱温度は、母材の材質によって異なるが、母材の溶解温度よりも低く、ろう材の熔融温度よりも高い温度にて処理を行うことはいうまでもない。炉中では、水素ガスが充満していることによって還元雰囲気にあるので、ろう材が熔融しても表面に酸化被膜が生成されることはなく、安定した状態の熱交換パイプが完成する。
【0017】
ところで、本発明では特定の組成の伝熱パイプおよび放熱フィンについて、さらなる効果を発揮する。即ち、ステンレス鋼や一般の鋼材からなる伝熱パイプおよび放熱フィンの場合には、オーステナイト系の組成であればブレージング炉において高熱を与えるとマルテンサイト系に変態してしまう。そして、これを徐冷すればマルテンサイト変態を維持し、硬いが脆く、かつ加工硬化を引き起こして容易に発錆するような組成になってしまう。ところが、本発明のように還元雰囲気においてブレージングを行えば伝熱パイプ、放熱フィンおよびろう材表面は酸化されないので、発錆に強い構成とすることができる。さらに、図2の急冷装置17を経由させ、ワーク取出口15直後のワーク温度が1000℃以上のものを1秒あたり3℃以上の温度降下で700℃程度まで急冷すれば、いったんマルテンサイト変態をしたものがオーステナイト系に復元するという固溶化が行われる。したがって、本発明においては、この種の変態を引き起こす素材にはより効果的結果を得ることができる。なお、ステンレス鋼としてはオーステナイト系だけでなく、フェライト系、マルテンサイト系もあるが、本発明ではこれらのステンレス鋼を伝熱パイプ材として採用することも、もちろん可能である。」
上記記載から、甲4には次の技術的事項が記載されているといえる。
[甲4記載の技術的事項]
オーステナイト系ステンレス鋼からなる伝熱パイプと放熱フィンの接合材料として、熔融温度が1000度以上のろう材を用い、1000度以上に加熱してろう付けし、ワーク温度が1000℃以上のものを1秒あたり3℃以上の温度降下で700℃程度まで急冷することで、ブレージング炉の高温でマルテンサイト系に変態したものをオーステナイト系に復元するという固溶化を行うこと。
(オ)甲5
甲5は、図面とともに次の記載がある(下線は、当審が付したもの。)。
「(産業業上の利用分野)
本発明は、例えば、パワー半導体モジュール基板等の大量の熱を発生する基板として使用される良熱伝導性基板等を形成する場合の2枚の板部材をろう材により接合する方法に関するものである。」(第1頁右下欄第8~12行)
「(発明が解決しようとする問題点)
このように、ろう材が溶融し、両方の板部材が溶融ろう材で相互に濡れた後に、真空室外周を冷却する方法では、板部材が冷却されるまで長時間かかる。したがって、その板部材が溶融状態または固化してもなお高温状態のろう材に長時間さらされることになり、一般内に「はんだくわれ」と呼ばれているが、高温のろう材の下地金属への拡散(また同時に下地金属のろう材中への拡散)現象が生じ、2枚の板部材間の接合強度および接合信頼性が低下するという問題がある。
本発明の目的は、このような問題点を解決することにあり、はんだくわれを防止し、高品質の良熱伝導性基板を形成するためのろう材による接合方法を提供しようとするものである。
(問題点を解決するための手段)
本発明は、一方の板部材13と他方の板部材15との間に介在するろう材14に熱を加えてこのろう材14を溶融し、一方の板部材13および他方の板部材15の金属表面問をろう付けする接合方法において、少なくとも一方の板部材13と接触する加熱用固体熱媒体12を加熱することにより前記ろう材14を溶融した後に、前記加熱用固体熱媒体12を急冷することにより、両方の板部材13、15からなる接合体を強制的に急冷するものである。」(第2頁左上欄第7行~右上欄第12行)
上記記載から、甲5には次の技術的事項が記載されているといえる。
[甲5記載の技術的事項]
良熱伝導性基板等を形成する場合の2枚の板部材をろう材により接合する際、一方の板部材13と他方の板部材15との間に介在するろう材14に熱を加えてこのろう材14を溶融した後、両方の板部材13、15からなる接合体を強制的に急冷すること。
(カ)甲6
甲6は、図面とともに次の記載がある(下線は、当審が付したもの。)。
「【0002】
【従来の技術】従来、ワークをロウ付けする場合、ワークとして例えば、図3および図4に示す自動車のトルクコンバータ1を構成するシェル10と多数のブレード11との組み付け部を、より強固に連結し使用に耐える強度をもつ機能部品とするため、確実にロウ付けできるように、減圧下において銅ロウを溶融するとともに、ロウ付け対象部にスムーズに充填させ、ロウ付けを行う減圧ロウ付け方法が用いられている。
【0003】この減圧ロウ付け方法では、例えば、図8に示す搬送可能な載置台2に複数段設けられた載置棚20に、ロウ付け対象とする複数個のトルクコンバータ1を図略の銅ロウとともに載置し、図7に示す真空炉5a内に搬入し、密閉状態とした真空炉5aを排気し所定の減圧雰囲気に保持しつつ、各トルクコンバータ1を加熱し(図5のa領域参照)、銅ロウの融点(1083°C)以上に昇温させた後所定時間、保持する(図5のb領域参照)。
【0004】すると、銅ロウが溶融し各トルクコンバータ1のロウ付け対象部に充填する。ついで、各トルクコンバータ1は載置台2とともに図7に示す冷却室5b内に搬送され、大気圧以上に加圧した不活性ガスをファン6で攪拌しつつ、下段側から上段側に向かって循環させることによって、急速に冷却される(図5のd領域参照)。
【0005】これによって、各トルクコンバータ1は、常温にまで冷却されると、載置台2とともに冷却室5b外に搬出される。」
上記記載から、甲6には次の技術的事項が記載されているといえる。
[甲6記載の技術的事項]
トルクコンバータのシェルにブレードをロウ付けにより組み付ける際、ロウ付け対象とするトルクコンバータを銅ロウの融点である1083度以上に加熱し、銅ロウを溶融させてトルクコンバータのロウ付け対象部に充填した後、トルクコンバータを急速に冷却すること。
(キ)甲7
甲7は、図面とともに次の記載がある(下線は、当審が付したもの。)。
「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、オーステナイト系ステンレス鋼の製造方法に関し、特に、冷間圧延により仕上げられるオーステナイト系ステンレス鋼鋼材の表面肌を良好に保つことのできる製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】アングル等のオーステナイト系ステンレス形鋼は従来より、酸化、腐食の生じやすい環境において主に構造材として使用されてきたが、近年、一般構造物や建築物の外装、内装部材としても使用されるようになってきた。このため、出荷時の製品においてその表面肌が美麗であることが要求されるようになり、仕上げを熱間圧延ではなく、冷間圧延とする工程が行なわれるようになってきた。この冷間圧延による従来のオーステナイト系ステンレス形鋼の製造工程を図1(a)により説明する。
【0003】まず、形鋼の形状を作り出すための熱間圧延を行なった(ステップS1)後、一旦冷却し(ステップS2)、1050℃程度に加熱して固溶化熱処理を行なう(ステップS3)。この固溶化熱処理によりステンレス形鋼の表面に酸化層(スケール)が生成するため、ショットブラスト(ステップS4)及び酸洗(ステップS5)を行なって表面スケールを除去する。そして、熱間圧延により荒れた表面肌を滑らかにするため、15~20%程度の加工度で冷間圧延を行なう(ステップS6)。
【0004】しかし、この冷間加工により硬さが上昇し、オーステナイト系ステンレス鋼鋼材の諸規格(JISG 4303等)で規定される固溶化処理後の硬さ規格(ビッカース硬さで200以下)を満足しなくなる。また、オーステナイト系ステンレス鋼の場合、特にそれが使用されるのは、錆びないという特性の他に、非磁性であるという特性によることが多い。ところが、この冷間加工により一部のオーステナイトがマルテンサイト(加工誘起マルテンサイト)に変態し、僅かながら磁性を有するようになる。従って、冷間圧延による硬さの上昇及び透磁率(オーステナイト系ステンレス鋼の磁性は比透磁率μにより評価される)の上昇を元に戻すため、1050℃程度の温度で焼鈍処理(固溶化処理)を行なう(ステップS7)。この焼鈍熱処理によってもやはりスケールが生成するため、再度、ショットブラスト(ステップS8)及び酸洗(ステップS9)を行なう。しかし、このショットブラストにより表面肌が荒れるため、5%程度の低い加工度による冷間圧延(スキンパス圧延)を行ない(ステップS10)、冷間圧延ステンレス形鋼製品に仕上げる。」
上記記載から、甲7には次の技術的事項が記載されているといえる。
[甲7記載の技術的事項]
一般構造物や建築物の外装、内装部材としても使用されるオーステナイト系ステンレス形鋼を製造するにあたり、冷間加工によって一部のオーステナイトが加工誘起マルテンサイトに変態して生じる硬さの上昇及び透磁率の上昇を戻すため、1050℃程度の温度で固溶化処理を行うこと。
(ク)甲8
甲8は、図面とともに次の記載がある(下線は、当審が付したもの。)。
「【請求項1】 ステンレス製等の金属製パイプ(1)と、
その外周に固定された金属製リング(2)からなるフランジと、
金属製リング(2)に接する適宜位置において、パイプを径外方向に変形させることにより形成された突出部(3)(4)とを有し、
この突出部(3)(4)が、金属製リング(2)と接触して、金属製リング(2)を仮固定するものであり、
これらの突出部(3)(4)を含むパイプ(1)の外周面と金属製リング(2)とがロー付けにより固定されたことを特徴とするフランジを有する金属製パイプ。」
「【0013】第3工程は、突出部3,4を含むパイプ1外周面と金属製リング2とをロー付けにより固定する工程である(図3)。この工程は、ロー付けの常法によって行えばよいが、その一例を示すと、金属製リング2の前後何れか一方の端面とパイプ1の外周面との間にロー材7を配位し、炉内に挿入し、加熱する。これより、ロー材7が毛細管現象等により、金属製リング2の他方の端面の方に、図3の矢印に示すように流れて、突出部3,4を含むパイプ1外周面とリングとがロー付けされる。本願発明では、第2工程でパイプ1と金属製リング2とが仮固定されているため、この第3工程で、ロー材を配位する際やパイプの炉内への移送の際に、特段に慎重な作業を行わずとも、パイプ1と金属製リング2との直交状態は確実に維持され、ロー付けの作業の低下を招くことはない。また、突出部3,4を設けたことにより、金属リング2と、突出部3,4を含むパイプ1外周面との接触面積が増え、ロー付け強度が向上する。」
「【0020】また、パイプ1には、蛇腹部分32が加工され、フレキシブル性が付与されている。そして、この蛇腹部分32には、固溶化熱処理を施す必要があるが、本願発明を実施することにより、この固溶化熱処理のための加熱と、前述の金属製リング2のロー付けのための加熱とを、同時に行うことができる。即ち、炉内に、パイプ全体を搬入して加熱することにより、ロー付けと固溶化熱処理のための加熱とを同時に行うことができ、作業性の向上及び省エネルギー並びに低コスト化に貢献することができる。その際、袋ナット5の内径が、蛇腹部分32の最大外径よりも小さい場合には、袋ナット5をパイプ1に挿通した状態で、金属製リング2の固定がなされることになる。尚、本願発明は、この図5の場合の他、あらゆるフランジを形成する加工に応用して実施し得ることは言うまでもない。」
上記記載から、甲8には次の技術的事項が記載されているといえる。
[甲8記載の技術的事項]
フランジを有し、蛇腹部32が加工された金属製パイプを製造する際、パイプ1外周面への金属製リング2のロー付けのための加熱と、パイプ1の蛇腹部分32の固溶化熱処理のための加熱とを同時に行うこと。
(ケ)甲9
甲9は、図面とともに次の記載がある(下線は、当審が付したもの。)。
「【技術分野】
【0001】
本発明は、情報を担持したマスター担体とスレーブ媒体とを密着させ、転写用磁界を印加して前記情報をスレーブ媒体に転写する際に、マスター担体を保持するホルダープレートを製造する方法および磁気転写装置に関する。」
「【0040】
次に、ホルダープレート8,9の製造方法について説明する。ホルダープレート8,9の材料としては、SUS304に代表されるオーステナイト系ステンレスを使用する。オーステナイト系ステンレス材の中でもSUS304Lは、結晶中の炭素含有率が少ないために、粒界部でCrの炭化物が生成されにくく、オーステナイト相が安定しやすく、局所的な結晶変態が起こりにくい点から、ホルダープレート8,9の材料として特に好ましい。
【0041】
まず、オーステナイト系ステンレス材を、切削加工等の加工方法により、ホルダープレート8,9の形状に加工して加工体を形成する(加工処理)。この加工処理において、少なくとも大きな力を作用させなければいけないような加工、つまり、オーステナイト系ステンレス材にマルテンサイト化を誘起するような加工は全部終わらせておく。これにより、引き続き行われる固溶化熱処理による磁化消去後にさらにホルダープレートの磁気特性が変動してしまうことを防止できる。
【0042】
次に、加工体を電気炉内に設置し、重りを載せた状態で、1010~1150℃の範囲内の温度に加熱して、4時間以上維持した後、急冷する(固溶化熱処理)。ここでいう急冷とは定めた温度での熱処理時間を経過した後、すぐさま少なくとも1分を超えない時間に室温以下の温度下に移動させて充分放置して冷やすことであり、ここではホルダープレートのあらゆる部位の表面温度が100℃以下まで冷却するのに要する時間が30分未満である冷却法を指すこことする。」
上記記載から、甲9には次の技術的事項が記載されているといえる。
[甲9記載の技術的事項]
オーステナイト系ステンレスを使用してホルダープレート8、9を製造する際、固溶化熱処理による磁化消去後に磁気特性が変動してしまうことを防止するため、ホルダープレート8、9の形状に加工して加工体を形成する加工処理において、オーステナイト系ステンレス材にマルテンサイト化を誘起するような加工は全部終わらせておき、その後に固溶化熱処理による磁化消去を行うこと。
イ.本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲1A発明とを対比する。
a.甲1A発明の「油液」及び「内筒4」はそれぞれ、本件発明1の「作動流体」及び「シリンダ」に相当する。
b.甲1A発明の「内筒4内に摺動可能に挿嵌され」ることは、本件発明1の「前記シリンダ内に挿入され」ることに相当する。甲1A発明の「ロッド側油室B」及び「ボトム側油室C」はそれぞれ、本件発明1の「ロッド側室」及び「ボトム側室」に相当する。そして、甲1A発明の「ピストン5」は、本件発明1の「ピストン」に相当する。
c.甲1A発明の「ピストン5が固着して設けられ」ることは、本件発明1の「前記ピストンに連結されて」ることに相当し、甲1A発明の「その上端側が内筒4の外部に突出している」ことは、本件発明1の「前記シリンダの外部へ延びる」ことに相当し、甲1A発明の「ピストンロッド8」は、本件発明1の「ピストンロッド8」に相当する。
d.甲1A発明の「ピストンロッド8の伸び」及び「縮み」は、本件発明1の「ピストンロッドの移動」に相当するから、甲1A発明の「ピストンロッド8の伸び行程時及び縮み工程時に油液が流れる」ことは、本件発明1の「前記ピストンロッドの移動によって前記作動流体の流れが生じる」ことに相当する。そして、甲1A発明の「ロッド側油室Bからリザーバ室Aに至る経路」は、本件発明1の「流路」に相当する。
e.甲1A発明の「ロッド側油室Bからリザーバ室Aに至る経路に設けられ」ることは、本件発明1の「前記流路に設けられ」ることに相当する。甲1A発明の「ソレノイド33」は、本件発明1の「ソレノイド」に相当し、甲1A発明の「ソレノイド33によってパイロット弁部材32の開弁圧力を調整し、メインディスクバルブ23の開弁圧力を同時に調整する」ことは、本件発明1の「ソレノイドによって開閉動作が調整される」ことに相当する。そして、甲1A発明の「減衰力調整バルブ18」は、本件発明1の「減衰力調整バルブ」に相当する。
f.甲1A発明の「コイル34A」は、本件発明1の「コイル」に相当する。
g.甲1A発明の「前記コイルの内周側に軸方向に離間して配される」ことは、本件発明1の「前記コイルの内周側に設けられる」ことに相当する。また、甲1A発明の「第1のステータコア36」及び「ヨーク部材38とアンカ部材43で構成される第2のステータコア」はそれぞれ、本件発明1の「第1の固定鉄心」及び「第2の固定鉄心」に相当する。
h.甲1A発明において、「ヨーク部材38」は「第2のステータコア」を構成するものであるから、甲1A発明において、「第1のステータコア36及びヨーク部材38の間に配置され、これらを繋ぐ」ことは、“第1のステータコア36及び第2のステータコアの間に配置され、これらを繋ぐ”ことといえるから、本件発明1の「前記第1,第2の固定鉄心の間に設けられ」ることに相当する。同様に、甲1A発明の「レーザ溶接によって第1のステータコア36とヨーク部38に溶着される」ことは、“レーザ溶接によって第1のステータコア36と第2のステータコアに溶着される”ことといえ、本件発明1の「前記第1,第2の固定鉄心に対してろう付けにより一体的に固定される」こととの対比において、「前記第1,第2の固定鉄心に対して一体的に固定される」という限度で一致する。そして、甲1A発明の「非磁性材料からなるリング状部材41」は、本件発明1の「非磁性部材」に相当する。
i.甲1A発明の「第1のステータコア36及び第2のステータコア、及び非磁性材料からなるリング状部材41の内周側に配置され」ることは、本件発明1の「前記第1,第2の固定鉄心および前記非磁性部材の内周側に配され」ることに相当し、甲1A発明の「プランジャ46」は、本件発明1の「可動鉄心」に相当する。
j.甲1A発明の「プランジャ46の中心軸線に沿う中心穴に挿入されて配置される」ことは、本件発明1の「前記可動鉄心に設けられる」ことに相当し、甲1A発明の「作動ピン47」は、本件発明1の「軸部」に相当する。
k.甲1A発明の「ブッシュ37、44」は、本件発明1の「第1,第2のブッシュ」に相当する。
l.甲1A発明において、「アンカ部材43」は「第2のステータコア」を構成するものであるから、甲1A発明の「作動ピン47のアンカ部材43から突出する突出端」は、“作動ピン47の第2のステータコアから突出する突出端”といえ、本件発明1の「前記軸部の前記第2の固定鉄心側の端部」に相当する。甲1A発明の「パイロット弁体32が固定され」ることは、本件発明1の「減衰力調整バルブの弁体が設けられ」ることに相当する。
m.甲1A発明の「第1のステータコア36の小径穴部36Dの内径と比して」、「非磁性材料からなるリング状部材41が大径である」ことは、本件発明1の「前記第1」「の固定鉄心の内径と比して、前記非磁性部材の内径は大径または小径である」ことに相当する。甲1A発明において、「アンカ部材43」は「第2のステータコア」を構成するものであるから、甲1A発明において、「アンカ部材43の穴部43Cの内径」は、“第2のステータコアの内径”といえ、甲1A発明の「アンカ部材43の穴部43Cの内径と比して、非磁性材料からなるリング状部材41が大径である」ことは、本件発明1の「第2の固定鉄心の内径と比して、前記非磁性部材の内径は大径または小径である」ことに相当する。
以上のことから、本件発明1と甲1A発明とは、次の一致点で一致し、次の相違点1で相違する。
[一致点]
作動流体が封入されるシリンダと、
前記シリンダ内に挿入されて前記シリンダ内をロッド側室とボトム側室とに画成するピストンと、
前記ピストンに連結されて前記シリンダの外部へ延びるピストンロッドと、
前記ピストンロッドの移動によって前記作動流体の流れが生じる流路と、
前記流路に設けられソレノイドによって開閉動作が調整される減衰力調整バルブと、を備え、
前記ソレノイドは、
通電により磁力を発生するコイルと、
前記コイルの内周側に設けられる第1,第2の固定鉄心と、
前記第1,第2の固定鉄心の間に設けられ、前記第1,第2の固定鉄心に対して一体的に固定される非磁性部材と、
前記第1,第2の固定鉄心および前記非磁性部材の内周側に配され、軸方向へ移動可能に設けられる可動鉄心と、
前記可動鉄心に設けられる軸部と、
前記軸部を支持する第1,第2のブッシュと、を備え、
前記軸部の前記第2の固定鉄心側の端部には、前記減衰力調整バルブの弁体が設けられ、
前記第1,第2の固定鉄心の内径と比して、前記非磁性部材の内径は大径または小径である減衰力調整式緩衝器の製造方法。
[相違点1]
本件発明1は、非磁性部材が、前記第1,第2の固定鉄心に対して「ろう付け」により一体的に固定されるものであり、非磁性部材は、「ろう付け温度が1000度以上となるろう材を用いて前記ろう付けされることで温度を1000度以上に加熱し、該ろう付け処理の後には急冷処理が行われることにより該ろう付け前と比較して加工誘起マルテンサイトを除去し、該急冷処理後、加工を行わないことにより、該加工をした場合と比較して磁化され易くなるのを抑制する」ものであるのに対して、甲1A発明は、非磁性材料からなるリング状部材41が、「レーザ溶接」によって第1のステータコア36とヨーク部38に「溶着」される点。
(イ)判断
上記相違点1について検討する。
甲2記載の技術的事項(上記ア.(イ))の「固定コア1に嵌合される磁性円筒体9」、「磁性金属から成るヨーク2」及び「非磁性円筒体10」はそれぞれ、本件発明1の「第1の固定鉄心」、「第2の固定鉄心」及び「非磁性部材」に相当する。また、甲3記載の技術的事項(上記ア.(ウ))の「磁性体からなるヨーク18」、「磁性体からなるバルブ本体1」、「非磁性体からなるスリーブ17」はそれぞれ、本件発明1の「第1の固定鉄心」、「第2の固定鉄心」及び「非磁性部材」にそれぞれ相当する。これら甲2及び甲3記載の技術的事項が示すように、ソレノイドバルブを製造する際、非磁性部材を「ろう付け」によって第1及び第2の固定鉄心に一体的に固定することは周知技術といえる。
ここで、甲1A発明は、非磁性材料からなるリング状部材41を、「レーザ溶接」よって第1のステータコア36とヨーク部38に溶着するものであるが、甲1には「レーザ溶接」に代えて他の固定方法を採用することに関して記載も示唆もなく、さらには、非磁性材料からなるリング状部材41についての、機械加工により生じる加工誘起マルテンサイトの問題や、加工誘起マルテンサイトに起因して磁化され易い特性が生じるという問題についての記載も示唆もない。
そうすると、甲1A発明において、非磁性材料からなるリング状部材41を第1のステータコア36とヨーク部38に一体的に固定する方法として、「レーザ溶接」に代えて周知技術である「ろう付け」を採用する動機付けがあるとは言えない。
そして、仮に、甲2及び甲3記載の技術的事項が示す周知技術を適用して、甲1A発明において、「レーザ溶接」に代えて「ろう付け」によって非磁性材料からなるリング状部材41を第1及び第2の固定鉄心によって一体的に固定するようにしたとしても、甲1には、加工誘起マルテンサイトの問題や、加工誘起マルテンサイトに起因して磁化され易い特性が生じるという問題についての記載も示唆もないことにかんがみれば、本件発明1のように「ろう付け温度が1000度以上となるろう材を用い、該ろう付け処理の後には急冷処理が行われることにより該ろう付け前と比較して加工誘起マルテンサイトを除去」することを、当業者が容易に想到し得えるということはできない。
また、申立人1は、ろう付け処理の後に急冷処理が行われることにより、該ろう付け前と比較して加工誘起マルテンサイトを除去することが周知技術であると、甲4~8を用いて主張している。(申立人1が提出した申立書第26頁第34行~第28頁第6行参照)
しかし、甲4~8記載の技術的事項はいずれも、ソレノイドバルブにおける非磁性部材の取り付けに係る技術に関するものでない。
また、甲4には、「1000度以上に加熱してろう付けし、ワーク温度が1000℃以上のものを1秒あたり3℃以上の温度降下で700℃程度まで急冷することで、ブレージング炉の高温でマルテンサイト系に変態したものをオーステナイト系に復元するという固溶化を行うこと」が記載されているもの、甲4には、加工誘起マルテンサイトの問題や、加工誘起マルテンサイトに起因して磁化され易い特性が生じるという問題に関しては、記載も示唆も甲4はない。
甲5には「ろう材14を溶融した後、両方の板部材13、15からなる接合体を強制的に急冷すること」が、甲6には「1083度以上に加熱し、銅ロウを溶融させてトルクコンバータのロウ付け対象部に充填した後、トルクコンバータを急速に冷却すること」がそれぞれ記載されているものの、甲5、及び甲6には、それにより加工誘起マルテンサイトを除去することに関する記載も示唆もない。
甲7には、「冷間加工によって一部のオーステナイトが加工誘起マルテンサイトに変態して生じる硬さの上昇及び透磁率の上昇を戻すため、1050℃程度の温度で固溶化処理を行うこと」が記載れているが、甲7記載の技術的事項は、ろう付けによる加熱に関するものではない。
以上とおり、加工誘起マルテンサイトを除去するために、ろう付け温度が1000度以上となるろう材を用いて前記ろう付けされることで温度を1000度以上に加熱し、該ろう付け処理の後には急冷処理が行われることは、甲4~7のいずれにも記載されていないし、このことが甲4~7から周知技術であるということもできない。
さらに、甲8には、「フランジを有し、蛇腹部32が加工された金属製パイプを製造する際、パイプ1外周面への金属製リング2のロー付けのための加熱と、パイプ1の蛇腹部分32の固溶化熱処理のための加熱とを同時に行う」という技術的事項が記載されている。しかし、甲8には、「また、パイプ1には、蛇腹部分32が加工され、フレキシブル性が付与されている。そして、この蛇腹部分32には、固溶化熱処理を施す必要がある」(甲8の段落【0020】)との記載はあるものの、固溶化熱処理を行う目的が加工誘起マルテンサイトを除去するためであるとの明記はない。仮に、甲8記載の技術的事項が加工誘起マルテンサイトを除去することを目的とすることが当業者には自明であったとしても、加工誘起マルテンサイトの問題や、加工誘起マルテンサイトに起因して磁化され易い特性が生じるという問題についての記載も示唆も甲1にはないことにかんがみれば、甲1A発明のリング状部材41の第1のステータコア36、ヨーク部38への接合に、それらとは形状・構造や接合態様が異なるフランジとパイプ1の接合に係る甲8記載の技術的事項を適用することを当業者が想起し得たということはできない。
したがって、仮に、甲2及び甲3記載の技術的事項が示す周知技術を適用して、甲1A発明において、「レーザ溶接」に代えて「ろう付け」によって非磁性材料からなるリング状部材41を第1及び第2の固定鉄心によって一体的に固定するようにしたとしても、そのようなものにおいて、甲4~8の記載の技術的事項を適用して、「ろう付け温度が1000度以上となるろう材を用いて前記ろう付けされることで温度を1000度以上に加熱し、該ろう付け処理の後には急冷処理を行うことにより該ろう付け前と比較して加工誘起マルテンサイトを除去」することに想到することはできない。
さらに、甲9は、「急冷処理後、加工を行わないこと」に関する証拠として、申立人1が提出した証拠であり(申立人1が提出した申立書第28頁第16~24行参照)、甲4~8記載の技術的事項と同様にソレノイドバルブにおける非磁性部材の取り付けに係る技術に関するものでもないし、加工誘起マルテンサイトを除去するために、ろう付け温度が1000度以上となるろう材を用いてろう付けして急冷処理を行うことに関する記載も示唆もない。よって、甲9をもってしても、「ろう付け温度が1000度以上となるろう材を用いてろう付けされることで温度を1000度以上に加熱し、該ろう付け処理の後には急冷処理を行うことにより該ろう付け前と比較して加工誘起マルテンサイトを除去」することに想到することはできない。
そして、本件発明1は、「ろう付け温度が1000度以上となるろう材を用いてろう付けされることで温度を1000度以上に加熱し、該ろう付け処理の後には急冷処理を行うこと」により、「切削加工で生じた加工誘起マルテンサイト(体心立方構造)を除去でき、磁気特性として理想的な面心立方構造の金属組織を得ることができ」(本件特許明細書段落【0086】)、「ろう付け後の形状補正を目的とした切削加工は行わないため、加工誘起マルテンサイトを生じさせずに、非磁性材として理想的な金属組織が維持され、ろう付け処理での熱変形を抑制させる構造とすることができる」(本件特許明細書段落【0086】)という、甲1~9からは予想し得ない格別な効果を奏する。
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲1A発明、及び甲2~9記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ.本件発明2及び3について
本件発明2及び3は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに限定を加えるものであるから、上記イ.で検討したのと同じ理由により、本件発明2及び3は、甲1A発明、及び甲2~9記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
エ.本件発明4について
(ア)対比
本件発明4と甲1B発明とを対比すると、本件発明4の発明特定事項と甲1B発明の特定事項との間には、上記イ.(ア)f.~k.及びm.と同様の相当関係があり、本件発明と甲1B発明とは、次の点で一致し、本件発明4と甲1B発明とは、次の一致点で一致し、次の相違点2で相違する。
[一致点]
通電により磁力を発生するコイルと、
前記コイルの内周側に設けられる第1,第2の固定鉄心と、
前記第1,第2の固定鉄心の間に設けられ、前記第1,第2の固定鉄心に対して一体的に固定される非磁性部材と、
前記第1,第2の固定鉄心および前記非磁性部材の内周側に配され、軸方向へ移動可能に設けられる可動鉄心と、
前記可動鉄心に設けられる軸部と、
前記軸部を支持する第1,第2のブッシュと、を備え、
前記軸部の前記第2の固定鉄心側の端部には、前記減衰力調整バルブの弁体が設けられ、
前記第1,第2の固定鉄心の内径と比して、前記非磁性部材の内径は大径または小径である減衰力調整式緩衝器の製造方法。
[相違点2]
本件発明4は、非磁性部材が、前記第1,第2の固定鉄心に対して「ろう付け」により一体的に固定されるものであり、非磁性部材は、「ろう付け温度が1000度以上となるろう材を用いて前記ろう付けされることで温度を1000度以上に加熱し、該ろう付け処理の後には急冷処理が行われることにより該ろう付け前と比較して加工誘起マルテンサイトを除去し、該急冷処理後、加工を行わないことにより、該加工をした場合と比較して磁化され易くなるのを抑制する」ものであるのに対して、甲1B発明は、非磁性材料からなるリング状部材41が、「レーザ溶接」によって第1のステータコア36とヨーク部38に「溶着」される点。
(イ)判断
上記相違点2は、上記イ.(ア)の相違点1と同じである。
したがって、上記相違点2に係る本件発明4の発明特定事項は、上記イ.(イ)で説示したとおり、当業者が容易に想到し得えるものではない。
よって、本件発明4は、甲1B発明、及び甲2~9記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
オ.本件発明5~7について
本件発明5~7は、本件発明4の発明特定事項を全て含み、さらに限定を加えるものであるから、上記エ.で検討したのと同じ理由により、本件発明5~7は、甲1B発明、及び甲2~9記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
カ.本件発明8について
(ア)対比
本件発明8と甲1A発明とを対比すると、まず、本件発明8の発明特定事項と甲1A発明の特定事項との間には、上記イ.(ア)a.~i.と同様の相当関係がいえる。
そして、甲1A発明の「プランジャ46の中心軸線に沿う中心穴」の内側は、プランジャ46の“内周側”といえるから、甲1A発明の「プランジャ46の中心軸線に沿う中心穴に挿入されて配置される」ことは、本件発明4の「前記可動鉄心の内周側に設けられる」ことに相当する。また、甲1A発明の「作動ピン47」は、本件発明8の「軸部」に相当する。
さらに、本件発明4の発明特定事項と甲1A発明の特定事項との間には、上記イ.(ア)k.及びl.と同様の相当関係がいえる。
そうすると、本件発明8と甲1A発明とは、次の一致点で一致し、次の相違点3で相違する。
[一致点]
作動流体が封入されるシリンダと、
前記シリンダ内に挿入されて前記シリンダ内をロッド側室とボトム側室とに画成するピストンと、
前記ピストンに連結されて前記シリンダの外部へ延びるピストンロッドと、
前記ピストンロッドの移動によって前記作動流体の流れが生じる流路と、
前記流路に設けられソレノイドによって開閉動作が調整される減衰力調整バルブと、を備え、
前記ソレノイドは、
通電により磁力を発生するコイルと、
前記コイルの内周側に設けられる第1,第2の固定鉄心と、
前記第1,第2の固定鉄心の間に設けられ、前記第1,第2の固定鉄心に対して一体的に固定される非磁性部材と、
前記第1,第2の固定鉄心および前記非磁性部材の内周側に配され、軸方向へ移動可能に設けられる可動鉄心と、
前記可動鉄心の内周側に設けられる軸部と、
前記軸部を支持する第1,第2のブッシュと、を備え、
前記軸部の前記第2の固定鉄心側の端部には、前記減衰力調整バルブの弁体が設けられる減衰力調整式緩衝器の製造方法。
[相違点3]
本件発明8は、非磁性部材が、前記第1,第2の固定鉄心に対して「ろう付け」により一体的に固定されるものであり、非磁性部材は、「ろう付け温度が1000度以上となるろう材を用いて前記ろう付けされることで温度を1000度以上に加熱し、該ろう付け処理の後には急冷処理が行われることにより該ろう付け前と比較して加工誘起マルテンサイトを除去し、該急冷処理後、該非磁性部材の内径を画定する内径部は、ろう付け後、機械加工を行わないことにより、加工した場合と比較して磁化され易くなるのを抑制する」ものであるのに対して、甲1A発明は、非磁性材料からなるリング状部材41が、「レーザ溶接」によって第1のステータコア36とヨーク部38に「溶着」される点。
(イ)判断
上記相違点3の本件発明8に係る発明特定事項のうち、非磁性部材が、前記第1,第2の固定鉄心に対して「ろう付け」により一体的に固定され、「ろう付け温度が1000度以上となるろう材を用いて前記ろう付けされることで温度を1000度以上に加熱し、該ろう付け処理の後には急冷処理が行われることにより該ろう付け前と比較して加工誘起マルテンサイトを除去」するという事項は、上記イ.(ア)の相違点1の本件発明1に係る発明特定事項と共通しており、当該事項が容易に想到し得えたものでないことは、上記イ.(イ)で説示したとおりである。
したがって、相違点3の本件発明8に係る発明特定事項も、上記イ.(イ)と同様に、当業者が容易に想到し得えるものではない。
よって、本件発明8は、甲1A発明、及び甲2~9記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(2)本件発明1~8に係る明確性(加工誘起マルテンサイトの除去に関する本件特許明細書の記載との矛盾)
申立人1は、令和5年6月30日付けで提出した異議申立書において、本件発明1、4及び8は、加工誘起マルテンサイトが除去される条件は「温度を1000度以上に加熱し、該ろう付け処理の後には急冷処理が行われること」と記載されている反面、本件特許明細書においては、「温度を1000度以上に加熱」することのみにより、加工誘起マルテンサイトが除去されると記載されており、当該加工誘起マルテンサイトが除去と急冷処理との因果関係は一切記載されておらず、相互に矛盾することは明確であり、加工誘起マルテンサイトが除去される要因は、熱処理のみによるものか、熱処理後の急冷処理も必須であるのか、いずれと解するべきか不明確であるとし(申立人1が提出した異議申立書第33頁第20行~第35頁第24行)、本件発明1~8に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものであると主張する。
当該主張に関し、本件特許明細書の段落【0079】には、「この場合、非磁性リング44は、オーステナイト系ステンレス鋼からなる非磁性部材であり、この非磁性リング44を第1のステータコア36と第2のステータコア40との間にろう付け部45、46により接合するときには、純銅ろう(ろう材)等を用いてろう付けを行う構成としている。即ち、オーステナイト系ステンレス鋼は、例えば1000℃以上で熱処理する固溶化熱処理を行うことにより、加工誘起マルテンサイトが除去され、結晶構造が非磁性材として理想的な面心立方構造に再び戻すことができる。」(下線は当審が付したもの。)との記載がある。
そうすると、上記第5 2.(1)で説示した理由と同様に、「固溶化熱処理」は技術常識ともいえる、ごく普通に用いられる技術であり、「鋼の合金の成分を固溶体に溶解する温度以上に加熱して十分な時間保持し、急冷してその析出を阻止する操作」として、当業者には広く知られているところ、ろう付け温度を1000℃以上とすることによる熱処理と、その後に続く急冷処理との双方を行うことによって加工誘起マルテンサイトを除去するという技術的事項は、当業者にしてみれば、本件特許明細書等に記載されているに等しいといえる、
よって、本件発明1、4及び8に記載された事項と本件特許明細書等の記載との間に矛盾はなく、本件発明1、4及び8は明確である。同様に本件発明1を引用する本件発明2及び3、本件発明4を引用する本件発明5~7も明確である。
2.申立人2による異議申立理由
(1)本件発明1~8に係る明確性(「加工」、「機械加工」の程度について)
申立人2は、令和5年7月26日付けで提出した異議申立書において、特許請求の範囲の記載が下記の点で不明瞭であり、本件発明1~8に係る特許は、次の点で特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものであると主張する。
ア.本件発明1及び4で記載された「加工」にはありとあらゆる加工が含まれるが、磁化されやすくなるのは特定の加工であり、「加工」には非磁性部材の磁気的な特性に変化をさせない加工も含まれるから、「加工した場合と比較して磁化されやすくするのを抑制する」の意味が不明である。また、本件発明1及び4の「該急冷処理後、加工を行わないことにより、加工した場合と比較して磁化され易くなるのを抑制する」という記載について、どの程度の加工を行うと磁化され易くなるのかについて何ら説明がされていないため、「加工」の実態や程度が不明瞭であり、本件発明1及び4の記載が明確ではない。(申立人2が提出した異議申立書第20頁第9~20行)
イ.本件発明8の「加工」、「機械加工」について、どの程度の(機械)加工を行うと磁化され易くなるのかについて何ら説明がされていないため、「(機械)加工」の実態や程度が不明瞭であり、本件発明8の記載は明確でない。(申立人2が提出した異議申立書第20頁第26~29行)
・上記ア.について
本件発明1及び4の「加工」については、請求項1及び4において、その種類、実体、程度などを限定する記載はないため、技術常識から考えられるすべての種類、実体、程度の加工が含まれることは明らかである。したがって、非磁性部材の磁気的な特性に変化をさせる加工と、変化をさせない加工のいずれも含まれると理解でき、そのような意味として本件発明1及び4の「加工」との記載は明確である。また、その本件発明1及び4の「加工」がそのように理解できるから、「加工した場合と比較して磁化され易くするのを抑制する」との記載が意味するところも明確である。
よって、本件発明1及びそれを引用する本件発明2及び3は明確であり、本件発明4及びそれを引用する本件発明5~7は明確である。
・上記イ.について
本件発明8の「加工」及び「機械加工」について、請求項8には、それらの実態や程度を限定する記載はなく、その「加工」には、技術常識から考えられるすべての種類、実態、程度の加工が含まれ、その「機械加工」にはあらゆる実態や程度の機械的な加工が含まれると理解でき、そのような意味として本件発明8の「加工」及び「機械加工」との記載は明確である。
よって、本件発明8は明確である。
以上のとおり、本件発明1~8は明確である。
(2)本件発明1~8に係る実施可能要件
申立人2は、令和5年7月26日付けで提出した異議申立書において、本件特許明細書には、加工誘起マルテンサイトを取り除くための条件、さらには加工誘起マルテンサイトが除去されたことの確認の仕方が記載されておらず、非磁性部材の加工誘起マルテンサイトを除去するための加熱及び冷却処理を当業者が実施することができないため、本件発明1~8に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものであると主張する。(申立人2が提出した異議申立書第22頁第7行~第23頁第20行)
この点に関し、本件特許明細書の段落【0079】には、「この場合、非磁性リング44は、オーステナイト系ステンレス鋼からなる非磁性部材であり、この非磁性リング44を第1のステータコア36と第2のステータコア40との間にろう付け部45、46により接合するときには、純銅ろう(ろう材)等を用いてろう付けを行う構成としている。即ち、オーステナイト系ステンレス鋼は、例えば1000℃以上で熱処理する固溶化熱処理を行うことにより、加工誘起マルテンサイトが除去され、結晶構造が非磁性材として理想的な面心立方構造に再び戻すことができる。」(下線は当審が付したもの。)との記載がある。
この記載において、非磁性部材の加工誘起マルテンサイトを除去するための加熱及び冷却処理として、「非磁性リング」の具体的材料として「オーステナイト系ステンレス鋼」が示され、具体的な方法として、「1000℃以上で熱処理する固溶化熱処理」が示されている。そして、上記第5 2.で述べたとおり、「固溶化熱処理」は技術常識ともいえる、ごく普通に用いられる技術であるから、当業者であれば過度の試行錯誤を要することなく、加工誘起マルテンサイトを生じたオーステナイト鋼ステンレスを1000℃以上で熱処理する固溶化熱処理を行うことにより、加工誘起マルテンサイトを除去することは可能であるといえる。
したがって、本件特許の明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明1~8を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものといえる。
第7 申立人2の令和6年9月25日付けで提出した意見書における主張について
申立人2は令和6年9月25日付けで提出した意見書において、以下の主張をしているが、いずれも採用することはできない。
1.本件訂正が訂正要件を満たしていないこと
特許庁が「プロダクト・バイ・プロセス・クレームの「物」の発明から「物を生産する方法」の発明へのカテゴリー変更を含む訂正審判事件の審決について」(申立人2が令和6年9月25日付けで提出した意見書に添付した甲7号証参照)で示された運用は、最高裁判決前後に出願され特許となったPBPクレームに対する例外的な救済措置であり、一律に訂正が認められるものではなく、前記最高裁判決か10年ほど経った現在において特許となったようなものにまでこれらの運用が適用されるべきではなく、特許後の訂正は厳格に運用されるべきものであり、第三者の利益に多大な影響を与えることから特許後においてみだりに発明のカテゴリーを変更する訂正を認めるべきではない旨を主張する。(令和6年9月25日付けで提出した意見書第3頁第4~14行)
しかしながら、第2 2.(1)ウ.(ア)b.で検討したとおり、特定の製造方法により特定された「減衰力調整式緩衝器」をという物が特定された「物の発明」を、特定の製造方法により特定された「減衰力調整式緩衝器の製造方法」という方法が特定された「物を生産する方法の発明」へと訂正することにより、第三者にとって不測の不利益が生じるおそれはない。そして、第2 2.で述べたとおり、本件訂正は訂正の各要件を満たしている。
よって、申立人2の上記主張は採用することができない。
2.記載不備について
(1)請求項7について
請求項4では切削加工を含むすべての「加工」を行わないとしているのに対し、請求項4を引用する請求項7では「切削加工」のみを行わないとしていることから、請求項7では「切削加工」以外の「加工」について許容しているのかどうか不明瞭であり、すなわち、請求項4の前記記載における「加工」と請求項7の前記記載における「切削加工」との関係が不明瞭であり、「非磁性部材」においてどのような加工が行われないかについて、請求項4と請求項7の記載が整合していないため、請求項7は明確でない旨、主張する。(令和6年9月25日付けで提出した意見書第3頁第25行~第4頁第6行)
しかしながら、本件発明7は、切削加工“のみ”を行わないとは特定されていない。
本件発明4では「加工」を行わないと特定しており、この「加工」は、切削加工を含むすべて加工である。そして、本件発明7では、さらに「前記加工に含まれる切削加工をされていない」と特定している。本件発明4を引用する本件発明7は、切削加工を含むすべての「加工」を行わないものであり、その行わないとする「加工」の中に切削加工が含まれることを確認的に特定しているに過ぎず、本件発明7は明確である。
したがって、申立人2の上記主張は採用することができない。
(2)請求項8について
請求項8には、「機械加工を行わないことにより」との記載、及び、「加工した場合と比較して磁化され易くなるのを抑制する」との記載があるが、何故「機械加工」を行わないことと機械加工を含むすべての「加工」を行うこととが比較の対象となるのか不明瞭であり、請求項8に係る発明は明確でない旨、主張する。(令和6年9月25日付けで提出した意見書第4頁第7~18行)
しかしながら、本件発明8により特定される事項は、あくまで「機械加工を行わないことにより、加工した場合と比較して磁化され易くなるのを抑制」されていることであり、「機械加工を行わない」場合と「加工した場合」と比較する理由がどのようなものであるかに依拠して、「機械加工を行わないことにより、加工した場合と比較して磁化され易くなるのを抑制」されるとの記載で特定される事項が変わるものではない。
そして、本件発明8の「機械加工」は、技術常識から想定されるあらゆる機械的な加工であり、「加工」は技術常識から想定されるあらゆる加工であり、それぞれの意味は明確である。「機械加工を行わない」ことは、機械加工以外の加工を行うことを許容するが、本件発明8は、そのような「機械加工を行わない」場合の非磁性部材の磁化され易さと、技術常識から想定されるあらゆる「加工」をした場合の非磁性部材の磁化され易さをとを比較すると、前者の場合の方が後者の場合よりも磁化され易さが抑制されているということを特定せんとしており、その意味することころは明確である。
したがって、本件発明8は明確であり、申立人2の上記主張は採用することができない。
第8 むすび
以上のとおり、取消理由通知に記載した取消理由、及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件特許の請求項1~8に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1~8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700682