特許異議申立
2024-700295
ばね部材用金属箔、電子機器用ばね部材、ばね部材用金属箔の製造方法、および、電子機器用ばね部材の製造方法
- 審判番号
- 2024-700295
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2023-540837
- 登録番号
- 7355287
- 請求日
- 2024年04月01日
- 審決日
- 2025年05月30日
- 公報発行日
- 2025年10月31日
- 結論
- 請求成立(取消)
- 当事者
- 【権利者】TOPPANホールディングス株式会社
- 【権利者代理人】恩田 誠
- 【権利者代理人】恩田 博宣
- 【異議申立人】藤江 桂子
- 審判長/審判官
- 審判長 中屋 裕一郎
- 審判官 小川 恭司
- 審判官 岩瀬 昌治
- 分類
- P1651.113-ZDA(F16F) / P1651.121-ZDA(F16F) / P1651.536-ZDA(F16F) / P1651.537-ZDA(F16F)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法36条4項1号特許法36条6項2号特許法113条4号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第4項第1号、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7355287号発明「ばね部材用金属箔、電子機器用ばね部材、ばね部材用金属箔の製造方法、および、電子機器用ばね部材の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7355287号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~4〕、〔5~8〕、〔13~16〕について訂正することを認める。
特許第7355287号の請求項5~8に係る特許を取り消す。
特許第7355287号の請求項1~4、9~16に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯の概略
特許第7355287号の請求項1~16に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願は、2022年(令和4年)9月20日(優先権主張 令和4年2月10日)を国際出願日とする出願であり、手続の経緯は、概ね、次のとおりである。
令和 5年 9月25日 特許権の設定登録
令和 5年10月 3日 特許掲載公報
令和 6年 4月 1日 特許異議申立人藤江桂子(以下「特許異議申立人」という。)による特許異議の申立て
令和 6年 6月28日付け 取消理由通知書
令和 6年 8月30日 特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和 6年11月25日 特許異議申立人による意見書の提出
令和 6年12月16日付け 取消理由通知書(決定の予告)
令和 7年 2月20日 特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和 7年 4月10日 特許異議申立人による意見書の提出
以下、7年 2月20日に提出された訂正請求書に係る訂正を「本件訂正」という。なお、令和6年8月30日に提出された訂正請求書は、取り下げられたものと見なす(特許法120条の5第7項)。
第2 本件訂正の適否
1 本件訂正の内容
本件訂正の請求は、特許第7355287号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~8、13~16について訂正することを求めるものであって、その訂正の内容は次のとおりである(下線は訂正箇所を示す。)。
(訂正事項1)
特許請求の範囲の請求項1に「前記第1差分値から前記第2差分値を減算した差分値の絶対値が、0.8μm以下であるばね部材用金属箔。」と記載されているのを「前記第1差分値から前記第2差分値を減算した差分値の絶対値が、0.8μm以下であり、前記ばね部材用金属箔は、圧延材であり、前記ばね部材用金属箔の厚さが、50μm以上200μm以下であるばね部材用金属箔。」に訂正する(請求項1の記載を直接的または間接的に引用する請求項2から4も同様に訂正する)。
(訂正事項2)
特許請求の範囲の請求項5に「ばね部材用金属箔を用いた電子機器用ばね部材であって、前記ばね部材用金属箔の圧延方向に沿った直線上の各点における第1の厚さの最大値と最小値との差分値が第1差分値であり、前記圧延方向に直交する幅方向に沿った直線上の各点における第2の厚さの最大値と最小値との差分値が第2差分値であり、前記第1差分値から前記第2差分値を減算した差分値の絶対値が、0.8μm以下である電子機器用ばね部材。」と記載されているのを「ばね部材用金属箔のウェットエッチングによって製造され、前記ばね部材用金属箔のウェットエッチング時に、前記ばね部材用金属箔のうちでウェットエッチングされなかった部分である、外枠部、内枠部、および、前記外枠部を前記内枠部に接続するばね部を備えた電子機器用ばね部材であって、前記ばね部材用金属箔の圧延方向に沿った直線上の各点における第1の厚さの最大値と最小値との差分値が第1差分値であり、前記圧延方向に直交する幅方向に沿った直線上の各点における第2の厚さの最大値と最小値との差分値が第2差分値であり、前記第1差分値から前記第2差分値を減算した差分値の絶対値が、0.8μm以下であり、前記ばね部材用金属箔は、圧延材であり、前記ばね部材用金属箔の厚さが、50μm以上200μm以下である電子機器用ばね部材。」に訂正する(請求項5の記載を直接的または間接的に引用する請求項6から8も同様に訂正する)。
(訂正事項3)
特許請求の範囲の請求項13に「前記第1差分値から前記第2差分値を減算した差分値の絶対値が、0.8μm以下である電子機器用ばね部材の製造方法。」と記載されているのを「前記第1差分値から前記第2差分値を減算した差分値の絶対値が、0.8μm以下であり、前記ばね部材用金属箔は、圧延材であり、前記ばね部材用金属箔の厚さが、50μm以上200μm以下である電子機器用ばね部材の製造方法。」に訂正する(請求項13の記載を直接的または間接的に引用する請求項14から16も同様に訂正する)。
2 本件訂正の適否について
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的
訂正事項1に係る本件訂正は、請求項1に係る発明における「ばね部材用金属箔」について、「圧延材であ」ること及び「厚さが、50μm以上200μm以下である」ことを特定することで、ばね部材用金属箔をより具体的に特定するものである。
よって、訂正事項1に係る本件訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項の追加の有無
願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件特許明細書等」という。)には、「ばね部材用金属箔(以下、金属箔とも称する)」「金属箔10は、ばね部材に求められるばね荷重またはたわみを実現することが可能な程度に高い硬度を有した金属から形成された圧延材である。」「金属箔10が有する厚さTは、例えば200μm以下であり、好ましくは50μm以上200μm以下である。」(【0029】)と記載されているから、本件特許明細書等には、「ばね部材用金属箔は、圧延材であり、ばね部材用金属箔の厚さが50μm以上200μm以下である」ことが記載されていると認められる。
そうすると、訂正事項1に係る本件訂正は、本件特許明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであって、新規事項を追加するものではないから、本件特許明細書等に記載した事項の範囲においてしたものである。
ウ 訂正事項1に係る本件訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張、又は変更するものではない。
(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的
訂正事項2に係る本件訂正は、請求項5に係る発明における「電子機器用ばね部材」について、「ばね部材用金属箔のウェットエッチングによって製造され」たものであってウェットエッチング特有の構造を備えていること、「前記ばね部材用金属箔のウェットエッチング時に、前記ばね部材用金属箔のうちでウェットエッチングされなかった部分である、外枠部、内枠部、および、前記外枠部を前記内枠部に接続するばね部を備えた」ものであることを特定するとともに、「ばね部材用金属箔」について、「圧延材であ」ること及び「厚さが、50μm以上200μm以下である」ことを特定することで、ばね部材用金属箔及び電子機器用ばね部材をより具体的に特定するものである。
よって、訂正事項2に係る本件訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項の追加の有無
本件特許明細書等には、「図9が示すように、レジストマスクRM1,RM2を用いて金属箔10をウェットエッチングする。この際に、金属箔10を表面10Fおよび裏面10Bの両方からエッチングする。これにより、金属箔10の厚さ方向に沿って貫通する貫通孔が金属箔10に形成され、結果として、外枠部21と、外枠部21から離れた内枠部22と、内枠部22を外枠部21に接続するばね部23とが形成される。」(【0065】)、「ばね部材20は、外枠部21、内枠部22、および、ばね部23を備えている。」、「ばね部23は、外枠部21に内枠部22を接続している。」(【0047】)、「ばね部材用金属箔(以下、金属箔とも称する)」、「金属箔10は、ばね部材に求められるばね荷重またはたわみを実現することが可能な程度に高い硬度を有した金属から形成された圧延材である。」、「金属箔10が有する厚さTは、例えば200μm以下であり、好ましくは50μm以上200μm以下である。」(【0029】)と記載されているから、本件特許明細書等には、「ばね部材用金属箔のウェットエッチングによって製造され、前記ばね部材用金属箔のウェットエッチング時に、前記ばね部材用金属箔のうちでウェットエッチングされなかった部分である、外枠部、内枠部、および、前記外枠部を前記内枠部に接続するばね部を備えた電子機器用ばね部材」及び「ばね部材用金属箔は、圧延材であり、ばね部材用金属箔の厚さが50μm以上200μm以下である」ことが記載されていると認められる。
そうすると、訂正事項2に係る本件訂正は、本件特許明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであって、新規事項を追加するものではないから、本件特許明細書等に記載した事項の範囲においてしたものである。
ウ 訂正事項2に係る本件訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張、又は変更するものではない。
(3)訂正事項3について
ア 訂正の目的
訂正事項3に係る本件訂正は、請求項3に係る発明における「ばね部材用金属箔」について、「圧延材であ」ること及び「厚さが、50μm以上200μm以下である」ことを特定することで、ばね部材用金属箔をより具体的に特定するものである。
よって、訂正事項3係る本件訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項の追加の有無
願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件特許明細書等」という。)には、「ばね部材用金属箔(以下、金属箔とも称する)」「金属箔10は、ばね部材に求められるばね荷重またはたわみを実現することが可能な程度に高い硬度を有した金属から形成された圧延材である。」「金属箔10が有する厚さTは、例えば200μm以下であり、好ましくは50μm以上200μm以下である。」(【0029】)と記載されているから、本件特許明細書等には、「ばね部材用金属箔は、圧延材であり、ばね部材用金属箔の厚さが50μm以上200μm以下である」ことが記載されていると認められる。
そうすると、訂正事項3に係る本件訂正は、本件特許明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであって、新規事項を追加するものではないから、本件特許明細書等に記載した事項の範囲においてしたものである。
ウ 訂正事項3に係る本件訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張、又は変更するものではない。
(4)一群の請求項について
本件訂正前の請求項2~4は、直接的又は間接的に請求項1を引用する関係であるから、請求項1~4は一群の請求項である。また、本件訂正前の請求項6~8は、直接的又は間接的に請求項5を引用する関係であるから、請求項5~8は一群の請求項である。加えて、本件訂正前の請求項14~16は、直接的又は間接的に請求項13を引用する関係であるから、請求項13~16は一群の請求項である。そして、本件訂正請求は、請求項1~8、13~16について訂正することを求めるものであるから、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項ごとにされたものである。
(5)まとめ
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであって、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~4〕、〔5~8〕、〔13~16〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
前記第2のとおり本件訂正は認められるから、本件特許の請求項1~16に係る発明(以下「本件発明1」「本件発明2」などという。)は、特許請求の範囲の請求項1~16に記載された事項により特定される次のとおりである。
【請求項1】
ばね部材を製造するためのばね部材用金属箔であって、
一辺の長さが300mmである正方形状を有し、前記ばね部材が形成されるための第1領域を備え、
前記第1領域内において圧延方向に沿った直線上の各点における第1の厚さの最大値と最小値との差分値が第1差分値であり、
前記圧延方向に直交する幅方向に沿った直線上の各点における第2の厚さの最大値と最小値との差分値が第2差分値であり、
前記第1差分値から前記第2差分値を減算した差分値の絶対値が、0.8μm以下であり、
前記ばね部材用金属箔は、圧延材であり、
前記ばね部材用金属箔の厚さが、50μm以上200μm以下である
ばね部材用金属箔。
【請求項2】
前記第1領域において、
前記第1の厚さの最大値が第1最大値であり、
前記第2の厚さの最大値が第2最大値であり、
前記第1最大値から前記第2最大値を減算した差分値の絶対値が、0.8μm以下である
請求項1に記載のばね部材用金属箔。
【請求項3】
前記第1領域において、
前記ばね部材用金属箔上の各点における厚さの最大値から最小値を減算した差分値が、2.6μm以下である
請求項1または2に記載のばね部材用金属箔。
【請求項4】
前記ばね部材用金属箔は、ステンレス合金、ベリリウム銅、ニッケル錫銅、リン青銅、コルソン合金、および、チタン銅から構成される群から選択されるいずれかを含む
請求項1から3のいずれか一項に記載のばね部材用金属箔。
【請求項5】
ばね部材用金属箔のウェットエッチングによって製造され、前記ばね部材用金属箔のウェットエッチング時に、前記ばね部材用金属箔のうちでウェットエッチングされなかった部分である、外枠部、内枠部、および、前記外枠部を前記内枠部に接続するばね部を備えた電子機器用ばね部材であって、
前記ばね部材用金属箔の圧延方向に沿った直線上の各点における第1の厚さの最大値と最小値との差分値が第1差分値であり、
前記圧延方向に直交する幅方向に沿った直線上の各点における第2の厚さの最大値と最小値との差分値が第2差分値であり、
前記第1差分値から前記第2差分値を減算した差分値の絶対値が、0.8μm以下であり、
前記ばね部材用金属箔は、圧延材であり、
前記ばね部材用金属箔の厚さが、50μm以上200μm以下である
電子機器用ばね部材。
【請求項6】
前記第1の厚さの最大値が第1最大値であり、
前記第2の厚さの最大値が第2最大値であり、
前記第1最大値から前記第2最大値を減算した差分値の絶対値が、0.8μm以下である
請求項5に記載の電子機器用ばね部材。
【請求項7】
前記ばね部材用金属箔上の各点における厚さの最大値から最小値を減算した差分値が、2.6μm以下である
請求項5または6に記載の電子機器用ばね部材。
【請求項8】
前記電子機器用ばね部材は、ステンレス合金、ベリリウム銅、ニッケル錫銅、リン青銅、コルソン合金、および、チタン銅から構成される群から選択されるいずれかを含む
請求項5から7のいずれか一項に記載の電子機器用ばね部材。
【請求項9】
ばね部材を製造するためのばね部材用金属箔の製造方法であって、
母材を圧延することと、
前記母材の圧延によって得られた圧延材を複数準備した後、前記複数の圧延材から前記ばね部材用金属箔を選別することと、を含み、
前記圧延材において、一辺の長さが300mmである正方形状を有し、前記ばね部材が形成されるための領域が第1領域であり、
前記第1領域内において圧延方向に沿った直線上の各点における第1の厚さの最大値と最小値との差分値が第1差分値であり、
前記圧延方向に直交する幅方向に沿った直線上の各点における第2の厚さの最大値と最小値との差分値が第2差分値であり、
前記ばね部材用金属箔を選別することでは、前記複数の圧延材から、前記第1差分値から前記第2差分値を減算した差分値の絶対値が、0.8μm以下である前記圧延材を前記ばね部材用金属箔として選別する
ばね部材用金属箔の製造方法。
【請求項10】
前記第1領域において、
前記第1の厚さの最大値が第1最大値であり、
前記第2の厚さの最大値が第2最大値であり、
前記ばね部材用金属箔を選別することは、
前記ばね部材用金属箔を選別する条件に、前記第1最大値から前記第2最大値を減算した差分値の絶対値が、0.8μm以下であることをさらに含む
請求項9に記載のばね部材用金属箔の製造方法。
【請求項11】
前記ばね部材用金属箔を選別することは、
前記ばね部材用金属箔を選別する条件に、前記ばね部材用金属箔上の各点における厚さの最大値から最小値を減算した差分値が、2.6μm以下であることをさらに含む
請求項9または10に記載のばね部材用金属箔の製造方法。
【請求項12】
前記ばね部材用金属箔は、ステンレス合金、ベリリウム銅、ニッケル錫銅、リン青銅、コルソン合金、および、チタン銅から構成される群から選択されるいずれかを含む
請求項9から11のいずれか一項に記載のばね部材用金属箔の製造方法。
【請求項13】
ばね部材用金属箔を用いた電子機器用ばね部材の製造方法であって、
前記ばね部材用金属箔の表面と裏面とにレジストマスクを形成することと、
前記レジストマスクを用いて前記ばね部材用金属箔をウェットエッチングすることと、を含み、
前記ばね部材用金属箔の圧延方向に沿った直線上の各点における第1の厚さの最大値と最小値との差分値が第1差分値であり、
前記圧延方向に直交する幅方向に沿った直線上の各点における第2の厚さの最大値と最小値との差分値が第2差分値であり、
前記第1差分値から前記第2差分値を減算した差分値の絶対値が、0.8μm以下であり、
前記ばね部材用金属箔は、圧延材であり、
前記ばね部材用金属箔の厚さが、50μm以上200μm以下である
電子機器用ばね部材の製造方法。
【請求項14】
前記ばね部材用金属箔において、
前記第1の厚さの最大値が第1最大値であり、
前記第2の厚さの最大値が第2最大値であり、
前記第1最大値から前記第2最大値を減算した差分値の絶対値が、0.8μm以下である
請求項13に記載の電子機器用ばね部材の製造方法。
【請求項15】
前記ばね部材用金属箔上の各点における厚さの最大値から最小値を減算した差分値が、2.6μm以下である
請求項13または14に記載の電子機器用ばね部材の製造方法。
【請求項16】
前記電子機器用ばね部材は、ステンレス合金、ベリリウム銅、ニッケル錫銅、リン青銅、コルソン合金、および、チタン銅から構成される群から選択されるいずれかを含む
請求項13から15のいずれか一項に記載の電子機器用ばね部材の製造方法。
第4 取消理由通知について
1 取消理由の概要
令和6年6月28日付けの取消理由通知書、及び、令和6年12月16日付けの取消理由通知書(決定の予告)で、本件訂正前の本件特許に対し通知した取消理由は、概ね、次のとおりである。
(A 進歩性)請求項1~8、13~16に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の甲第1号証の1に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~8、13~16に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(B 明確性)請求項1~8に係る特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(C 実施可能要件)請求項1~16係る特許は、明細書又は特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
記
(B-1)請求項1における「ばね部材用金属箔」は圧延前の金属箔と解する余地がある点。
(B-2)請求項5に係る発明は「電子機器用ばね部材」という物の発明であるところ、その原材料であるばね部材用金属箔の厚さをどのように特定するのか不明である点。
(C-1)圧延ローラーをどのように制御すればよいのか不明である点。
(C-2)「電子機器用ばね部材」において、その原材料であるばね部材用金属箔の厚さをどのように特定するのか不明である点。
2 証拠方法
(1)特許異議申立人提出の証拠方法は以下のとおりである。
甲第1号証の1:JX金属株式会社 電材加工事業本部 機能材料事業部 圧延・加工材料ユニット,“テクニカルデータ 超高強度チタン銅 C1990HP-GSH”,日本,2021年4月22日,p.1~5
甲第1号証の2:アーカイブ資料取得手順
甲第1号証の3:高性能銅合金製品ラインナップ
甲第1号証の4:東京地裁平成16年(ワ)第10431号
甲第2号証:特開2014-59345号公報
甲第3号証:特開2017-179570号公報
甲第4号証:特開2015-214741号公報
甲第5号証:特開2016-128600号公報
甲第6号証:特開2019-199650号公報
参考文献1:特開2004-154835号公報
参考文献2:特開2005-46908号公報
参考文献3:特開平7-185601号公報
参考資料1:日本フォトファブリケーション協会,“フォトファブリケーション実務入門読本第8版”,日本,日本フォトファブリケーション協会 教育分科会,平成20年6月,p34~37,p46~47
参考資料2:橋本貴夫,“図解フォトファブリケーション”,日本,総合電子出版社,昭和61年7月10日,p45~59,p189~190
(2)特許権者提出の証拠方法は以下のとおりである。
乙第1号証:菱川滋ほか,“アルミニウムの板圧延技術”,Furukawa-Sky Review,日本,2008年,No4,p1~9
乙第2号証:佐藤全佳ほか,“熱間板圧延における形状制御技術の開発”,IHI技報,日本,2008年6月,Vol.48 No2,p101~106
乙第3号証:特開2017-179565号公報
乙第4号証:特開2014-59345号公報
以下「甲第1号証の1」、「甲第2号証」などを単に「甲1の1」、「甲2」などという。
第5 取消理由通知に記載した取消理由について
1 各証拠について
(1)甲1の1について
ア 甲1の1における記載事項
「テクニカルデータ
超高強度チタン銅
C1990HP-GSH」(1頁1~3行)
「1.緒言
JX金属株式会社は,銅合金として世界最高レベルの引張強度1400N/mm2を有するチタン銅の開発に成功しました。
本技術データをご参照され,この高性能銅合金C1990HP-GSHの特徴をご理解下さい。
*本テクニカルデータに記載の数値は代表値でございます」(2頁1~5行)
「
[図:0001427927000001.jpg]
」(3頁)
イ 1頁には「超高強度チタン銅」と記載され、3頁の図1には「圧延長手方向板厚分布ヒストグラム」「板厚30μm」「1000mにわたりデータ採取」と記載され、3頁の図2には「圧延幅方向板厚分布」と記載され、図2からは、少なくとも350mmの幅に渡って板厚の分布を測定していることが看取されるから、甲1の超高強度チタン銅は、圧延材であり、圧延幅方向に少なくとも350mmの幅と、長手方向に約1000mにわたりデータ採取可能取な長さの範囲を有し、所定の領域を備えている超高強度チタン銅からなる金属板であることが理解される。
ウ 3頁の「高い板厚精度により、ばね特性の安定性を改善しています。」との記載から、甲1の超高強度チタン銅からなる金属板は、ばね部材に用いられる金属板であると理解される。
エ 3頁の図1から、板厚高精度材の圧延長手方向板厚の最大値である第1最大値は30.4μm、最小値は29.6μmであることが看取されるから、圧延長手方向板厚の最大値と最小値との差分値である第1差分値は0.8μmと理解される。また、同頁の図2から圧延幅方向板厚は広く見ても29.9~30.3μmの範囲内に分布していることが看取されるから、圧延幅方向板厚の最大値と最小値は29.9~30.3μmの範囲内であり、圧延幅方向板厚の最大値と最小値との差分値である第2差分値は0μmより大きく0.4μm以下であると理解される。さらに、前記第1差分値から前記第2差分値を減算した差分値の絶対値は、0.4μm以上0.8μm未満であると理解される。
オ 「図1圧延長手方向板厚分布ヒストグラム」、「図2圧延幅方向板厚分布」との記載から、甲1の1には母材を圧延する製造方法が記載されており、母材の圧延によって得られた圧延材を準備していると理解される。
カ 甲1に発行日の記載はないが、甲1の2から、遅くとも2021年4月22日には、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となっていたと認められる。
キ 甲1に記載された発明
上記ア~オを総合すると、甲1には、次の発明が記載されていると認められる。
(甲1-1発明)
「ばね部材に用いられる金属板であって、
少なくとも350mmの幅と、約1000mにわたりデータ採取可能な長さの範囲を有し、所定の領域を備え、
前記所定の領域において、圧延長手方向板厚の最大値と最小値との差分値が第1差分値であり、
圧延幅方向板厚の最大値と最小値との差分値が第2差分値であり、
前記第1差分値から前記第2差分値を減算した差分値の絶対値が、0.4μm以上0.8μm未満であり、
前記金属板は、圧延材であり、
前記金属板の板厚が、30μmである
金属板。」
(甲1-2発明)
「ばね部材に用いられる金属板の製造方法であって、
母材を圧延することと、
前記母材の圧延によって得られた圧延材を準備することと、を含み、
前記圧延材において、前記ばね部材が形成されるための領域が所定の領域であり、
前記所定の領域において、圧延長手方向板厚の最大値と最小値との差分値が第1差分値であり、
圧延幅方向板厚の最大値と最小値との差分値が第2差分値であり、
少なくとも350mmの幅と、約1000mにわたるデータ採取範囲の代表値は、前記第1差分値から前記第2差分値を減算した差分値の絶対値が、0.4μm以上0.8μm未満である、
金属板の製造方法。」
(甲1-3発明)
「金属板を用いたばね部材の製造方法であって、
圧延長手方向板厚の最大値と最小値との差分値が第1差分値であり、
圧延幅方向板厚の最大値と最小値との差分値が第2差分値であり、
前記第1差分値から前記第2差分値を減算した差分値の絶対値が、0.4μm以上0.8μm未満であり、
前記金属板は、圧延材であり、
前記金属板の板厚が、30μmである
ばね部材の製造方法。」
(2)甲2について
ア 甲2の記載事項
「【0006】
また一般に、カメラモジュールの板バネは金属板から作製されるが、この板バネのバネ定数を一定にすることにより、レンズの駆動精度を高めることが可能になる。しかしながら、従来、板バネを構成する金属板の厚さにある程度のばらつきが生じている。このため、作製された板バネのバネ定数も金属板ごとにばらつくおそれがある。
【0007】
本発明はこのような点を考慮してなされたものであり、板バネのバネ定数のばらつきを低減し、カメラモジュールのレンズの駆動精度を高めることが可能な、板バネの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、カメラモジュールの駆動機構に用いられる板バネの製造方法において、複数の板バネ材料を準備する工程と、各板バネ材料の厚みを測定する工程と、各板バネ材料をその厚みに応じて複数のクラスに分類する工程と、予め各クラス別に準備されたエッチング用原版を用いて、当該クラスに分類された板バネ材料に対してエッチング加工を施すことにより、板バネを形成する工程とを備えたことを特徴とする板バネの製造方法である。」
「【0045】
次に図5(b)に示すように、板バネ材料40を所定の圧延方向Dに沿って圧延する。この場合、板バネ材料40は、一対のローラー45、45間に通され、所定の厚みとなるように圧延される。圧延方法としては、熱間圧延であってもよく、冷間圧延であっても良く、あるいはこの両者を実行しても良い。
【0046】
続いて、このようにして圧延された板バネ材料40は、ロール状に巻き取られ、その後例えばバッチ式の水素雰囲気ベル型焼鈍炉46内で焼鈍される(図5(c))。
【0047】
なお、本実施の形態において、板バネ材料40は、圧延された後に焼鈍されるが、これに限らず、焼鈍された後に圧延されても良い。
【0048】
このようにして作製された多数の板バネ材料40は、本来同一の厚みを有することが好ましいが、実際にはある程度のばらつきを有している。
【0049】
次に、これら多数の板バネ材料40の厚みtをそれぞれ測定する(図6(a))。この場合、例えば図6(a)に示すように、測長器(HEIDENHAIN社製CT60M)等の厚み測定器47を用いて板バネ材料40の厚みtを測定しても良い。
【0050】
続いて、板バネ材料40をその厚みtに応じて複数のクラスに分類する。
【0051】
例えば、クラスの数をNとし、板バネ材料40の厚みtが基準値t0に対して±Δtだけばらついている場合、以下のように厚みtのばらつきの幅(2Δt)をN等分したN個のクラスを設定しても良い。この場合、例えば第1のクラスには、厚みtがt0-Δt~t0-Δt+(2Δt/N)となる板バネ材料40が分類され、第nのクラスには、厚みtがt0-Δt+(n-1)・(2Δt/N)~t0-Δt+n・(2Δt/N)となる板バネ材料40が分類される。」
「【0054】
次に、予め各クラス別に準備されたエッチング用原版50を用いて、各クラスに分類された板バネ材料40に対してそれぞれエッチング加工を施す(図6(b)~(g))。」
「【0061】
続いて、図6(c)に示すように、板バネ材料40の表面及び裏面上にカゼインレジスト(レジスト)41を塗布し乾燥させる。
【0062】
次に、分類されたクラスに対応する所定のエッチング用原版50を、板バネ材料40の表面及び裏面のレジスト41上に載せ、超高圧水銀灯で所定時間露光する(図6(d))。
【0063】
次にレジスト41を現像した後、ポストベークを施して、板バネ材料40上に所定パターンをもつレジスト41が形成される(図6(e)参照)。
【0064】
その後、レジスト41が塗布された板バネ材料40に対して塩化第二鉄水溶液のようなエッチング液を用いてエッチングを施し、板バネ材料40が所定の平面形状をもつよう加工される(図6(f)参照)。このようにして、板バネ材料40に外枠部5a、11a、内枠部5b、11bおよびスプリング部5c、11cが形成される。
【0065】
次に、例えば水酸化ナトリウム溶液等のレジスト剥離液を用いて、板バネ材料40からレジスト41を剥離し、次いで板バネ材料40を水洗及び乾燥させる(図6(g)参照)。
【0066】
その後、板バネ材料40が断裁され、バネ形状に個片化され、このようにして板バネ材料40から板バネ5、11が得られる(図6(g)参照)。」
「【0067】
このように本実施の形態によれば、複数の板バネ材料40を、その厚みに応じて複数のクラスに分類し、その後、予め各クラス別に準備されたエッチング用原版50を用いて、当該クラスに分類された板バネ材料40に対してエッチング加工を施すことにより、板バネ5、11を形成する。このことにより、板バネ材料40の厚さにばらつきが生じている場合であっても、板バネ5、11のバネ定数のばらつきを低減することができる。」
「【0076】
(実施例)
まず、圧延されたニッケル錫銅(15%ニッケル、8%錫および77%銅を含む)の板バネ材料40を50枚準備した。板バネ材料40の厚みの規格値は0.040mmであった。次に、これら50枚の板バネ材料40の厚みを測定した。この結果、板バネ材料40の厚みは0.040mm±0.002mmのばらつきをもっていた。
【0077】
次に、これら50枚の板バネ材料40を5つのクラスに分類した。具体的には、0.0380mm~0.0387mm(第1のクラス)、0.0388mm~0.0395mm(第2のクラス)、0.0396mm~0.0404mm(第3のクラス)、0.0405mm~0.0412mm(第4のクラス)、0.0413mm~0.0420mm(第5のクラス)の5つのクラスに分類した。」
イ 【0066】の記載から、板バネ材料40は板バネ5、11が形成されるための所定の領域を備えていると理解される。
ウ 甲2に記載された発明
上記ア、イを総合すると、甲2には、次の発明が記載されていると認められる。
(甲2-1発明)
「板バネ5、11を作成するための板バネ材料40であって、
前記板バネ5、11が形成されるための所定の領域を備え、
前記板バネ材料40の厚みは40μm±2μmのばらつきをもっており、前記板ばね部材40をその厚みtに応じて複数のクラスに分類し、予め各クラス別に準備されたエッチング用原版50を用いてエッチング加工を施すことにより、前記板バネ材料40の厚さにばらつきが生じている場合であっても前記板バネ5、11のバネ定数のばらつきを低減するものであり、
前記板バネ材料40は、圧延されたものであり、
前記板バネ材料40の厚みは40μm±2μmである
板バネ材料40。」
(甲2-2発明)
「板バネ5、11を作成するための板バネ材料40の製造方法であって、
板バネ材料40を所定の圧延方向Dに沿って圧延することと、
前記板バネ材料40の圧延によって得られた圧延された板バネ材料40を50枚準備した後、前記50枚の前記圧延された板バネ材料40を厚みtに応じて複数のクラスに分類すること、とを含み、
前記圧延された板バネ材料40において、前記板バネ5、11が形成されるための領域が所定の領域であり、
前記厚みtに応じて複数のクラスに分類することは、前記圧延された板バネ材料40をその厚みtに応じて5つのクラスに分類することであり、予め各クラス別に準備されたエッチング用原版50を用いてエッチング加工を施すことにより、板バネ材料40の厚さにばらつきが生じている場合であっても板バネ5、11のバネ定数のばらつきを低減する、
板バネ材料40の製造方法。」
(甲2-3発明)
「板バネ材料40を用いたカメラモジュールの駆動機構に用いられる板バネ5、11の製造方法であって、
前記板バネ材料40の表面及び裏面にレジスト41を塗布し乾燥させることと、
エッチング用原版50を用いて所定パターンをもつレジスト41を形成し、エッチング液を用いてエッチングを施すこと、とを含み、
前記板バネ部材40をその厚みtに応じて複数のクラスに分類し、予め各クラス別に準備されたエッチング用原版50を用いてエッチング加工を施すことにより、前記板バネ材料40の厚さにばらつきが生じている場合であっても前記板バネ5、11のバネ定数のばらつきを低減するものであり、
前記板バネ材料40は、圧延されたものであり、
前記板バネ材料40の厚みは40μm±2μmである
カメラモジュール駆動機構に用いられる板バネ5、11の製造方法。」
(3)甲3について
ア 甲3の記載事項
「【0001】
本発明は、オートフォーカスカメラモジュール等の導電性ばね材に用いることに好適な、優れた強度を備えたCu-Ti系合金箔に関するものである。」
「【0010】
本発明は、このような問題を解決することを課題とするものであり、箔厚が0.1mm以下の薄いものであってもばねとして用いた際のへたりが小さく、オートフォーカスカメラモジュール等の電子機器部品に使用される導電性ばね材として好適に用いることのできるチタン銅箔およびその製造方法を提供することを目的とする。」
「【0018】
本発明によれば、圧延方向と平行な方向に60mmの間隔で並んで位置する5つの測定点での箔厚の変動を0.0μm~1.0μmとすることにより、箔厚が0.1mm以下の薄いものであってもばねとして用いた際のへたりが小さいチタン銅箔を提供することができる。このようなチタン銅箔は、オートフォーカスカメラモジュール等の電子機器部品に使用される導電性ばね材として好適に用いることができる。」
「【0024】
(箔厚変動)
本発明のチタン銅箔では、圧延方向と平行な方向に、60mmの間隔をおいて連続する5つの測定点を設定し、当該5つの測定点の箔厚を測定した場合、その箔厚変動が、0.0μm~1.0μmである。
ここで、箔厚変動は、60mm間隔で圧延方向に離れて並ぶ5つの測定点で箔厚を測定し、それにより得られる5つの箔厚データの最大値と最小値との差と定義する。箔厚変動を小さくすることにより、耐へたり特性を向上させることが可能になる。このような5つの測定点での箔厚の測定を少なくとも一回行い、その少なくとも一回の測定で、5つの測定点の箔厚変動が0.0μm~1.0μmの範囲内であれば、本発明に含まれる
【0025】
(銅箔の厚み)
本発明のチタン銅箔の一の実施形態では、箔厚が0.1mm以下であり、典型的な実施形態では箔厚が0.018mm~0.08mmであり、より典型的な実施形態では箔厚が0.02mm~0.05mmである。
【0026】
(製造方法)
上述したようなチタン銅箔を製造するには、まず溶解炉で電気銅、Ti等の原料を溶解し、所望の組成の溶湯を得る。そして、この溶湯をインゴットに鋳造する。チタンの酸化磨耗を防止するため、溶解及び鋳造は真空中又は不活性ガス雰囲気中で行うことが好ましい。その後、インゴットに対し、典型的には、熱間圧延、第一冷間圧延、溶体化処理、溶体化後加熱処理、第二冷間圧延、時効処理、第三冷間圧延、防錆処理をこの順で実施し、所望の箔厚及び特性を有する箔に仕上げる。」
「【0036】
次に、本発明のチタン銅箔を実際に試作し、その性能を評価したので以下に説明する。但し、ここでの説明は、単なる例示を目的としたものであって、それに限定されることを意図するものではない。
【0037】
のTiを所定の濃度で含有し残部が銅及び不可避的不純物からなる合金を実験材料とし、この材料の特性を調査した。
【0038】
<製造条件>
試作品の製造は次のようにして行った。まず真空溶解炉にて電気銅を溶解し、所定のTi濃度で厚さが30mmであるインゴットを製造した。
このインゴットを950℃で3時間加熱し、厚さ10mmまで圧延する熱間圧延を行った。熱間圧延で生成した酸化スケールをグラインダーで除去して研削を行った。なお、この研削後の厚みは9mmであった。次いで、第一冷間圧延を実施し、厚さ1.5mmまで圧延した。その後の溶体化処理では、800~950℃に昇温した電気炉に試料を装入し、120秒~300秒(5分)を保持した後、試料を水槽に入れて急冷却した。溶体化処理につづいて溶体化処理後加熱処理を行った。溶体化処理後加熱処理では、600~700℃に昇温した電気炉に試料を装入し、120秒~300秒(5分)を保持した後、試料を水槽に入れて急冷却した。そして、第二冷間圧延を行い、ここでは圧下率98%にて0.03mmの箔厚まで圧延した。その後は、時効処理として、300℃で10時間加熱した。ここで、時効処理のこの温度は、時効後の引張強さが最大になるように選択した。なお、第三冷間圧延は行わなかった。
以上のように作製した試料に対し、次の各評価を行った。
【0039】
<箔厚変動>
60mm間隔で圧延方向に連続する5点について箔厚を測定し、5個のデータの最大値と最小値との差を算出しその値を箔厚変動とした。箔厚を測定する機器として、メーカーが株式会社ニコン、品名がデジマイクロ(DIGIMICRO)、型式がNikon MH-15Mのものを用いた。箔厚は、サブミクロンオーダー(0.1μm単位)で測定した。」
「【表1】
[図:0001427927000002.jpg]
」
「【表2】
[図:0001427927000003.jpg]
」
イ 甲3に記載された発明
上記アを総合すると、甲3には、次の発明が記載されていると認められる。
(甲3-1発明)
「導電性ばね材に用いるチタン銅箔であって、
前記導電性ばね材が形成されるための所定の領域を備え、
前記チタン銅箔は、圧延方向と平行な方向に60mmの間隔をおいて連続する5つの測定点で測定した箔厚データの最大値と最小値との差である箔厚変動が0.0μm~1.0μm(発明例1及び2では0.0μm)であり、
前記チタン銅箔は、圧延したものであり、
前記チタン銅箔の箔厚が18μm~80μmである
チタン銅箔。」
(甲3-2発明)
「導電性ばね材に用いるチタン銅箔の製造方法であって、
インゴットを熱間圧延、第1冷間圧延、第2冷間圧延することと、
前記インゴットの圧延によって得られた試料を複数枚準備した後、前記複数の試料について圧延方向と平行な方向に60mmの間隔をおいて連続する5つの測定点で測定した箔厚データの最大値と最小値との差である箔厚変動を評価することと、とを含み、
前記試料において、前記導電性ばね材が形成されるための領域が所定の領域であり、
前記箔厚変動を評価することは、箔厚変動が0.0μm~1.0μmの範囲内であるかを評価することである
チタン銅箔の製造方法。」
(甲3-3発明)
「チタン銅箔を用いた電子機器部品に使用される導電性ばね材の製造方法であって、
前記チタン銅箔は、圧延方向と平行な方向に60mmの間隔をおいて連続する5つの測定点で測定した箔厚データの最大値と最小値との差である箔厚変動が0.0μm~1.0μm(発明例1及び2では0.0μm)であり、
前記チタン銅箔は、圧延したものであり、
前記チタン銅箔の箔厚が18μm~80μmである
電子機器部品に使用される導電性ばね材の製造方法。」
(4)甲4について
ア 甲4の記載事項
「【0061】
このような背景の下、貫通孔の寸法のばらつきが抑制された蒸着マスク20を作製するためには、厚みのばらつきが小さい金属板を選別して用いることが重要になる。」
(5)甲5について
ア 甲5の記載事項
「【請求項1】
母材が1.5~5.0質量%のTiを含有し、残部銅及び不可避的不純物からなる組成を有し、母材表面にNiめっき層、Coめっき層、及びCo-Ni合金めっき層よりなる群から選択されるめっき層を有するチタン銅。」
「【0001】
本発明はめっき層を有するチタン銅に関する。とりわけ、本発明はオートフォーカスカメラモジュール(AFM)用の導電性ばね材として好適なチタン銅箔に関する。」
「【0030】
(4)チタン銅の形態
本発明に係るめっき層を有するチタン銅の母材は、厚みが0.1mm以下の箔の形態として提供されるのが典型的である。箔厚は0.08~0.03mmとすることができ、典型的な実施形態においては箔厚は0.05~0.03mmとすることができる。チタン銅の母材は箔以外の形態とすることもできる。例えば、厚みが0.1mm超の板状とすることもでき、管、棒、線などの各種伸銅品の形態とすることが可能である。また、チタン銅の母材は、めっきされた後、所望の形状に加工可能である。例えば、オートフォーカスモジュール用のばね材として本発明に係るめっき層を有するチタン銅を使用する場合、箔の形態としたチタン銅をエッチングによって回路部分やばね部分を形成するなどして所望の形状に加工することが可能である。エッチングによる形状加工自体は公知の手法により行えばよいが、例えばエッチング後に残したい箇所の母材表面をエッチングレジストで保護した後、ドライエッチング又はウェットエッチングを行って形状加工を行い、その後にレジストを除去する方法が挙げられる。」
(6)甲6について
ア 甲6の記載事項
「【技術分野】
【0001】
本発明はめっき層を有するチタン銅箔に関する。とりわけ、本発明はオートフォーカスカメラモジュール(AFM)用の導電性ばね材として好適なチタン銅箔に関する。」
「【0044】
本発明に係るめっき層を有するチタン銅箔は、Co-Ni合金めっき層を形成した後、所望の形状に加工可能である。例えば、オートフォーカスモジュール用のばね材として本発明に係るめっき層を有するチタン銅箔を使用する場合、当該チタン銅箔をエッチングによって回路部分やばね部分を形成するなどして所望の形状に加工することが可能である。エッチングによる形状加工自体は公知の手法により行えばよいが、例えばエッチング後に残したい箇所の母材表面をエッチングレジストで保護した後、ドライエッチング又はウェットエッチングを行って形状加工を行い、その後にレジストを除去する方法が挙げられる。」
(7)参考文献1について
ア 参考文献1の記載事項
「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、非晶質合金板、その製造方法および製造装置に関するものであり、ガスケットや板バネに用いるのに好適な非晶質合金板、その製造方法および製造装置に関するものである。」
「【0036】
本実施の形態によれば、非晶質合金板6の厚みのバラツキを10%以下に抑制することができる。ここで、厚みのバラツキは、長さ方向に30cm間隔で測定した厚みのデータの標準偏差/平均値として算出される。」
「【0043】
このようにして、本実施の形態により、例えばガスケットや板バネの素材として用いるのに好適な、板厚が0.1mm 以上であるとともに微結晶相の体積分率が30%以下であり、低廉なコストで製造できる非晶質合金板6、その製造方法および製造装置1が提供される。」
(8)参考文献2について
ア 参考文献2の記載事項
「【005】
次に本発明の実施の形態を述べると、
先ず金属の線又は条(1)を円柱形状ロール(5)を上下圧延ロールとした上下段圧延機で必要な厚み寸法の金属の平線又は平板条(2)に圧延する。次に上段がU型凸ロール(6)で下段がU型凹ロール(7)を上下圧延ロールとした上下段圧延機で金属の平線又は平板条(2)の中央部だけを必要な厚み寸法に圧延する。この時のU型凸ロール(6)による圧延では金属の平線又は平板条(2)は幅寸法の約2分の1程度の中央部だけが圧延されるようにU型凸ロール(6)の円弧半径をU型凹ロール(7)の円弧半径より小さく設定する。この圧延時にはU型凸ロール(6)とU型凹ロール(7)の接触面が材料パスライン(8)位置よりも上方に設置するようにして金属の平線又は平板条(2)がU型溝ロール(7)の中にしっかりと固定されて左右に動かないようにする。またU型凸ロール(6)とU型凹ロール(7)の上下を逆に入れ替えても同じ様に圧延することは可能であるが、この場合はU型凸ロール(6)とU型凹ロール(7)との接触面が材料パスライン(8)位置よりも下方に設置する必要がある。この一連の圧延機で金属の平線又は平板条(4)を目標とする厚み寸法になるまで繰り返して圧延し、その結果、中央部の厚み寸法と両端部の厚み寸法の差を1.5%以下の金属の平線又は平板条(4)にすることが出来た。
[発明の効果]
【006】
この発明による方法で厚み寸法が0.20mmで(幅/厚み)比が35倍にまで圧延され金属の平線又は平板条(4)は、従来の金属の平線又は平板条(2)では約0.016mm程度あった幅方向の厚み寸法差を0.003mm以下にまで小さくすることが出来た。」
(9)参考文献3について
ア 参考文献3の記載事項
「【0003】
【発明が解決しようとする課題】ばねは高強度を要求されるため、素材となるステンレス鋼板を調質圧延する。しかし、調質圧延によって、ステンレス鋼板の内部には塑性変形に伴う応力が残留する。そして、この残留応力の分布が不均一になると、スリット加工後のスリット材は大きく変形することがある。これは、スリット加工によって拘束から開放され、各々のスリット材が内部応力等に応じて変形するからである。精密機器や電子機器ではばねに要求される寸法精度は極めて高いため、スリット材は、そのねじり変形が例えば0.2mmを超えると、不良品と見なされる。」
(10)参考資料1について
ア 参考資料1の記載事項
「
[図:0001427927000004.jpg]
[図:0001427927000005.jpg]
[図:0001427927000006.jpg]
[図:0001427927000007.jpg]
」(34頁2行~37頁2行)
「
[図:0001427927000008.jpg]
[図:0001427927000009.jpg]
」(46頁29行~47頁11行)
(11)参考資料2について
ア 参考資料2の記載事項
「
[図:0001427927000010.jpg]
[図:0001427927000011.jpg]
[図:0001427927000012.jpg]
」(51頁13行~53頁)
「
[図:0001427927000013.jpg]
[図:0001427927000014.jpg]
」(189頁~190頁)
(12)乙1について
ア 乙1の記載事項
「
[図:0001427927000015.jpg]
」(5頁右欄35行~44行)
「
[図:0001427927000016.jpg]
」(6頁左欄1~17行)
「
[図:0001427927000017.jpg]
」(6頁左欄下部)
(13)乙2について
ア 乙2の記載事項
「
[図:0001427927000018.jpg]
」(3頁)
「
[図:0001427927000019.jpg]
」(4頁)
(14)乙3について
ア 乙3の記載事項
「【0032】
(製造方法)
上述したようなチタン銅箔を製造するには、まず溶解炉で電気銅、Ti等の原料を溶解し、所望の組成の溶湯を得る。そして、この溶湯をインゴットに鋳造する。チタンの酸化磨耗を防止するため、溶解及び鋳造は真空中又は不活性ガス雰囲気中で行うことが好ましい。その後、インゴットに対し、典型的には、熱間圧延、第一冷間圧延、溶体化処理、第二冷間圧延、時効処理、第三冷間圧延(最終冷間圧延)をこの順で実施し、所望の厚み及び特性を有する箔に仕上げる。
【0033】
熱間圧延及びその後の第一冷間圧延の条件はチタン銅の製造で行われている慣例的な条件で行えば足り、ここでは特段要求される条件はない。また、溶体化処理についても慣例的な条件で構わないが、例えば700~1000℃の温度で5秒間~30分間の間にわたって行うことができる。
【0034】
上述の強度を得るため、第二冷間圧延の圧下率は55%以上に設定することが好ましい。より好ましくは60%以上、更に好ましくは65%以上である。この圧下率が55%未満になると、1100MPa以上の引張強さを得るのは困難になる。圧下率の上限は、本発明が目的とする強度の点からは特に規定されないが、工業的に99.8%を超えることはない。
【0035】
時効処理の加熱温度は200~300℃とし、加熱時間は2時間~20時間とする。加熱温度が200℃未満であると1100MPa以上の引張強さを得ることが困難になる。300℃を超えると酸化膜が過剰に生成することとなる。加熱時間が2時間未満又は20時間を越えると1100MPa以上の引張強さを得ることが困難になる。
【0036】
そして、本発明のチタン銅箔を得るためには、最終冷間圧延で、小径ロールを有する圧延機を用いること、圧下率を制御すること、及び、最終パスを所定の粗さのワークロールで圧延することが肝要である。
【0037】
具体的には、チタン銅箔は高強度の硬い箔であり潰れにくいことから、最終冷間圧延では、直径が30mm~120mmの小径ロールを有する圧延機を用いることが好ましい。ロール直径が大きすぎと、チタン銅箔が目的の厚みまでつぶれず、また、圧延の際に圧延油の噛みこみ量が多くなることからオイルピットが発生しやすくなる可能性があり、また、ロール直径が小さすぎると、圧延速度が低く制限されることから、生産性が低下することが懸念される。そのため、ロール直径が40mm~100mmのものを用いることがより好ましい。
【0038】
また最終冷間圧延では、箔表面にオイルビットが形成されることにより、製造するチタン銅箔の表面粗さRzが変化する。そのため、最終パスの圧下率を9%~35%とすることが好適である。この圧下率が大きすぎると、圧延ロールと材料の間に巻き込まれる圧延油の量が減ることから、製造したチタン銅箔の表面粗さRzが小さくなり、はんだ密着性の低下を招く。この一方で、圧下率が小さすぎると、圧延ロールと材料の間に巻き込まれる圧延油の量が増えるので、製造したチタン銅箔の表面粗さRzが増大して、はんだ濡れ性が低下する。したがって、最終パスの圧下率は、より好ましくは9%~30%とする。
【0039】
さらに、使用するワークロールの材質はダイス鋼とし、最終パスは、表面が0.1μm以下の算術平均粗さRaであるワークロールで圧延することが有効である。最終パスのワークロールの算術平均粗さRaが大きい場合は、材料の表面粗さRzが1μmを超えやすいと考えられる。このワークロールの算術平均粗さ(Ra)は、長手方向に対して、つまり、上述した材料の圧延方向に対する直角方向に対応する方向に対して、基準長さ400μmの粗さ曲線を採取し、JIS B0601に準拠して測定する。
【0040】
なお一般に、熱処理後は、表面に生成した酸化皮膜または酸化物層を除去するため、表面の酸洗や研磨等を行う。本発明でも熱処理後に表面の酸洗や研磨等を行うことも可能である。また、第二冷間圧延の後に低温焼鈍を行ってもよい。
最終冷間圧延後、防錆処理を施すことができる。この防錆処理は従来と同様の条件で行うことが可能であり、ベンゾトリアゾル(BTA)の水溶液等を用いることができる。」
(15)乙4について
ア 乙4の記載事項
乙4は甲2と同じ公開特許公報であるから、上記(2)のとおり。
事情に鑑み、上記「第4 1取消理由の概要」における取消理由(3-2)及び(4-2)から先に検討する。
2 取消理由(B-2)及び(C-2)について
(1)取消理由(B-2)について
特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断するのが相当である。
請求項5に係る発明は「電子機器用ばね部材」という物の発明であるところ、請求項5には「ばね部材用金属箔のウェットエッチングによって製造され」た「電子機器用ばね部材」との特定、及び、ウェットエッチングをする前のばね部材用金属箔について、「前記ばね部材用金属箔の圧延方向に沿った直線上の各点における第1の厚さの最大値と最小値との差分値が第1差分値であり、前記圧延方向に直交する幅方向に沿った直線上の各点における第2の厚さの最大値と最小値との差分値が第2差分値であり、前記第1差分値から前記第2差分値を減算した差分値の絶対値が、0.8μm以下であり」、「前記ばね部材用金属箔の厚さが、50μm以上200μm以下である」との特定がされている。
ここで、「ウェットエッチングによって製造」する工程では、前処理、金属箔の表面にレジスト層を形成する処理、それを取り除く処理等を含むことが一般的であり(乙4の【0065】、参考資料1、参考試料2等参照)、本件特許明細書にも「金属箔10の表面10Fに第1レジスト層PR1を形成し、かつ、裏面10Bに第2レジスト層PR2を形成する。」(【0062】参照)、「第1レジスト層PR1から第1レジストマスクRM1を形成し、かつ、第2レジスト層PR2から第2レジストマスクRM2を形成する。」(【0064】参照)、「レジストマスクRM1,RM2をエッチング後の金属箔10から取り除いた後、エッチング後の金属箔10からばね部材20を切り出すことによって、ばね部材20を得ることができる。」(【0067】参照)と記載されている。そして、参考資料1及び参考資料2にも記載されているように、レジスト層を形成するための前処理では研磨材、ガーゼ、脱脂綿、スポンジ、スチールワイヤブラシを用いた物理的研磨などが行われ、レジスト層を取り除く処理では各種溶剤への浸漬、ブラッシングやスプレイなどの物理的な衝撃を与えること、ガーゼ、スポンジ、ハケ、ブラシ等で軽くこすり取ることなど(以下「各種研磨等」という。)が行われることは技術常識であり、各種研磨等が、ばね部材用金属箔の厚さに影響を与えることは明らかである。
請求項5に係る発明では、ウェットエッチングによって製造される「電子機器用ばね部材」という物の発明において、ウェットエッチングをする前の「ばね部材用金属箔」の厚さについて特定しているが、ばね部材用金属箔をウェットエッチングする工程で、上述した各種研磨等が行われることを排除していない。
したがって、ウェットエッチング後の「電子機器用ばね部材」という物の発明において、ウェットエッチングをする前の「ばね部材用金属箔」の厚さをどのように特定するのか不明であり、請求項5、及び、請求項5を引用する請求項6~8の記載は、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確である。
よって、本件発明5~8は明確でない。
(2)取消理由(C-2)について
明細書の発明の詳細な説明の記載が、実施可能要件を充足するためには、当業者が、明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その発明を実施することができる程度の記載があることを要する。
本件特許明細書の発明の詳細な説明には、ばね部材用金属箔の厚さを測定することについては記載されているが、ウェットエッチングによって製造される「電子機器用ばね部材」から、ウェットエッチングをする前の「ばね部材用金属箔」の厚さをどのように求めるのかについては記載されていない。そして上記「(1)取消理由(C-2)について」で検討したとおり、ウェットエッチングの工程で各種研磨等が行われることは技術常識であり、各種研磨等が、ばね部材用金属箔の厚さに影響を与えることは明らかであるから、ウェットエッチングによって製造される「電子機器用ばね部材」において、ウェットエッチングをする前の「ばね部材用金属箔」の厚さをどのように特定するのか不明である。
したがって、発明の詳細な説明は、当業者が明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、請求項5~8に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。
上記(1)(2)より請求項5~8に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号の規定に適合するものではなく、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号の規定に適合するものではないから、同法第113条第4号に該当し、上記「第4 1取消理由の概要」における取消理由(A 進歩性)について検討するまでもなく、取り消されるべきものである。
(3)特許権者の主張について
特許権者は、令和7年2月20日に提出した意見書において主に次の主張をしている。
「金属箔のウェットエッチングによってばね部材を製造する技術分野では、ウェットエッチングによる加工工程が、金属箔の厚さに対して支配的な工程であり、金属箔の厚さに影響し得る唯一の工程であることが技術常識であることは明らかであると思料致します。そうすると、審判官殿による上記認定、すなわち、板厚の標準偏差等に影響を与える、ウェットエッチング以外の工程が電子機器用ばね部材の製造する過程に含まれるとの認定は、明らかに技術常識から逸脱していると思料致します。」(8頁9~15行)
上記主張について検討する。
金属箔のウェットエッチングによってばね部材を製造する技術分野では、ウェットエッチングによる加工工程が、金属箔の厚さに対して支配的な工程であり、金属箔の厚さに影響し得る唯一の工程であるとしても、上記「(1)取消理由(B-2)について」で検討した通り、ウェットエッチングによる加工工程において、研磨材、ガーゼ、脱脂綿、スポンジ、スチールワイヤブラシなどを用いた物理的研磨、各種溶剤への浸漬、ブラッシングやスプレイなどの物理的な衝撃を与えること、ガーゼ、スポンジ、ハケ、ブラシ等で軽くこすり取ることなどが行われることは技術常識であり、これらの各種研磨等が、ばね部材用金属箔の厚さに影響を与えることは明らかである。また、これらの各種研磨等によって金属箔の厚みが変わらないことが技術常識であることを示す証拠はない。そして、本件特許5~8では、これらの各種研磨等が行われることを排除していない。
よって、特許権者の上記主張を採用することはできない。
以下、請求項5~8に係る発明に関する検討は省略する。
3 取消理由(A 進歩性)のうち、請求項1~4、13~16について
(1)本件発明1について
本件発明1と甲1-1発明とをその機能、構造又は技術的意義を考慮して対比すると、後者の「ばね部材に用いられる金属板」は、前者の「ばね部材を製造するためのばね部材用金属箔」に相当する。
前者における「前記ばね部材が形成されるための」という事項は、第1領域の用途を限定しているものの、第1領域の構造等を具体的に特定するものではないから、後者の「所定の領域」は前者の「前記ばね部材が形成されるための第1領域」に相当し、以下同様に、「圧延長手方向板厚の最大値と最小値との差分値」は「圧延方向に沿った直線上の各点における第1の厚さの最大値と最小値との第1差分値」に、「圧延幅方向板厚の最大値と最小値との差分値」は「前記圧延方向に直交する幅方向に沿った直線上の各点における第2の厚さの最大値と最小値との第2差分値」に、それぞれ相当する。
後者の「0.4μm以上0.8μm未満」という数値範囲は前者の「0.8μm以下」に包含されるから、後者の「0.4μm以上0.8μm未満」は前者の「0.8μm以下」に相当する。
後者の「前記金属板の板厚が、30μmである」という事項と前者の「前記ばね部材用金属箔の厚さが、50μm以上200μm以下である」という事項とは、「前記ばね部材用金属箔の厚さが、所定の値である」という点で共通する。
したがって、本件発明1と甲1-1発明とは次の一致点1-1で一致し、相違点1-1~相違点1-2で相違するものと認められる。
<一致点1-1>
ばね部材を製造するためのばね部材用金属箔であって、
前記ばね部材が形成されるための第1領域を備え、
前記第1領域内において圧延方向に沿った直線上の各点における第1の厚さの最大値と最小値との差分値が第1差分値であり、
前記圧延方向に直交する幅方向に沿った直線上の各点における第2の厚さの最大値と最小値との差分値が第2差分値であり、
前記第1差分値から前記第2差分値を減算した差分値の絶対値が、0.8μm以下であり、
前記ばね部材用金属箔は、圧延材であり、
前記ばね部材用金属箔の厚さが、所定の値である
ばね部材用金属箔。
<相違点1-1>
本件発明1のばね部材用金属箔は、「一辺の長さが300mmである正方形状を有し」ているのに対し、甲1-1発明のばね部材に用いられる金属板は「少なくとも350mmの幅と、約1000mにわたりデータ採取可能な長さの範囲を有し」ている点。
<相違点1-2>
ばね部材用金属箔の厚さが「所定の値」である点に関し、本件発明1は「50μm以上200μm以下」であるのに対し、甲1-1発明では「30μm」である点。
事案に鑑み、相違点1-2について検討する。
甲1の1には「JX金属株式会社は,銅合金として世界最高レベルの引張強度1400N/mm2を有するチタン銅の開発に成功しました。本技術データをご参照され,この高性能銅合金C1990HP-GSHの特徴をご理解下さい。
*本テクニカルデータに記載の数値は代表値でございます」(2頁の「1.緒言」参照。)との記載、及び、「板厚30μm」(3頁図1及び図2)との記載があり、一般に「代表値」とは「統計で、調査した集団の特徴を示す値。平均値・中央値・並数(モード)など。」(デジタル大辞泉より)であることから、甲1の1のデータは、JX金属株式会社が開発に成功したチタン銅の特徴の理解のために示された、板厚が30μmの場合における、「代表値」という統計データであると理解される。したがって、甲1-1発明において、統計データであるチタン銅の板厚を変更する動機付けはない。
また、統計を取る対象の板厚を変更した場合であっても板厚の最大値と最小値との差分値が変わらないことを示す証拠は無く、むしろ、統計を取る対象の板厚の変更に伴って板厚の最大値と最小値との差分値も変わると考えることが合理的であるから、甲1-1発明における30μmの板厚を、本件発明1のように50μm以上200μm以下に変更した場合、それに伴って板厚の最大値と最小値との差分値も甲1-1発明の値から変わってしまうと考えられる。
したがって、甲1-1発明においてチタン銅の板厚を変更する動機付けはないし、チタン銅の板厚を変更してしまったら、板厚の最大値と最小値との差分値に関する値が甲1-1発明の値から変わらない証拠はないことから、甲1-1発明に基いて、相違点1-2に係る本件発明1の構成とすることは当業者であっても容易に想到し得たとはいえない。
よって、本件発明1は、他の相違点について検討するまでもなく、甲1-1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとは認められない。
(2)本件発明2~4について
本件発明1を引用する本件発明2~4も、上記「(1)本件発明1について」と同様の理由により、甲1-1発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。
(3)本件発明13について
本件発明13と甲1-3発明とをその機能、構造又は技術的意義を考慮して対比すると、後者の「金属板を用いたばね部材」は、前者の「ばね部材用金属箔を用いた電子機器用ばね部材」に相当し、以下同様に、「圧延長手方向板厚の最大値と最小値との差分値」は「圧延方向に沿った直線上の各点における第1の厚さの最大値と最小値との第1差分値」に、「圧延幅方向板厚の最大値と最小値との差分値」は「前記圧延方向に直交する幅方向に沿った直線上の各点における第2の厚さの最大値と最小値との第2差分値」に、それぞれ相当する。
後者の「0.4μm以上0.8μm未満」という数値範囲は前者の「0.8μm以下」に包含されるから、後者の「0.4μm以上0.8μm未満」は前者の「0.8μm以下」に相当する。
後者の「前記金属板の板厚が、30μmである」という事項と前者の「前記ばね部材用金属箔の厚さが、50μm以上200μm以下である」という事項とは、「前記ばね部材用金属箔の厚さが、所定の値である」という点で共通する。
したがって、本件発明13と甲1-3発明とは次の一致点1-3で一致し、相違点1-3~相違点1-4で相違するものと認められる。
<一致点1-3>
ばね部材用金属箔を用いた電子機器用ばね部材の製造方法であって、
前記ばね部材用金属箔の圧延方向に沿った直線上の各点における第1の厚さの最大値と最小値との差分値が第1差分値であり、
前記圧延方向に直交する幅方向に沿った直線上の各点における第2の厚さの最大値と最小値との差分値が第2差分値であり、
前記第1差分値から前記第2差分値を減算した差分値の絶対値が、0.8μm以下であり、
前記ばね部材用金属箔は、圧延材であり、
前記ばね部材用金属箔の厚さが、所定の値である
電子機器用ばね部材の製造方法。
<相違点1-3>
本件発明13は「前記ばね部材用金属箔の表面と裏面とにレジストマスクを形成することと、前記レジストマスクを用いて前記ばね部材用金属箔をウェットエッチングすることと、を含」でいるのに対し、甲1-3発明では、そのような工程を含んでいるか明らかではない点。
<相違点1-4>
ばね部材用金属箔の厚さが「所定の値」である点に関し、本件発明13は「50μm以上200μm以下」であるのに対し、甲1-3発明では「30μm」である点。
事案に鑑み、相違点1-4について検討する。
相違点1-4は、上記「(1)本件発明1について」における相違点1-2と実質的に同じ相違点であるから、上記「(1)本件発明1について」において検討した通り、甲1-3発明に基いて、相違点1-4に係る本件発明13の構成とすることは当業者であっても容易に想到し得たとはいえない。
よって、本件発明13、他の相違点について検討するまでもなく、甲1-3発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとは認められない。
(4)本件発明14~16について
本件発明13を引用する本件発明14~16も、上記「(3)本件発明13について」と同様の理由により、甲1-3発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。
4 取消理由(B-1)について
取消理由(B-1)は、本件訂正前の請求項1における「ばね部材用金属箔」は圧延前の金属箔と解する余地があるため、発明が不明確であるというものであった。
しかし、本件訂正後の請求項1では、「前記ばね部材用金属箔は、圧延材であり」と特定されているから、請求項1に係る発明は明確である。
5 取消理由(C-1)請求項1~4、9~16について
取消理由(C-1)は、圧延機の圧延ローラーの回転速度、押圧力、温度、数量をどのように変更すれば、標準偏差等を所望の値にすることができるのか不明であるため、発明の詳細な説明は、当業者が請求項1~51に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえないというものであった。
しかし、上記「1(12)~(14)」に摘記した乙1~3における記載事項等から、圧延機のローラー回転速度、押圧力、温度等を変化させることによって、板厚を制御可能であることは技術常識であると認識できる。
よって、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が、明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、請求項14、9~12に係る発明を実施することができる程度に記載されているといえるから、発明の詳細な説明は、当業者が請求項1~4、9~16に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていると認められる。
第6 取消理由通知において採用しなかった特許異議の申立ての理由について
1 取消理由通知において採用しなかった特許異議の申立ての理由は、概ね、次のとおりである。
(1)本件発明1~16は甲1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない。また、本件発明9~12は甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
(2)本件発明1~16は甲2に記載された発明であるか、甲2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、又は、同法同条第2項の規定により、特許を受けることができない。
(3)本件発明1~16は甲3に記載された発明であるか、甲3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、又は、同法同条第2項の規定により、特許を受けることができない。
(4)本件発明1~16は、発明の詳細な説明に記載したものでないから、本件発明1~16係る特許は、特許法第36条第6項第1号の規定に違反してされたものである。
(5)本件発明1~16は、特許を受けようとする発明が明確でないから、本件発明1~16係る特許は、特許法第36条第6項第2号の規定に違反してされたものである。
(6)本件発明1~16は、発明の詳細な説明において当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでないから、本件発明1~16係る特許は、特許法第36条第4項第1号の規定に違反してされたものである。
上記(1)~(6)の特許異議申立ての理由に関し、本件発明1~4、9~16について、以下検討する。
2 上記「1(1)」(甲1を主引例とする場合の新規性、進歩性)について
(1)本件発明1~4,13~16について
上記「第5 3 取消理由(A 進歩性)のうち、請求項1~4、13~16について」で検討したとおり、本件発明1~4と甲1-1発明とは相違点1-1及び相違点1-2において相違し、本件発明13~16と甲1-3発明とは相違点1-3及び相違点1-4において相違するものと認められる。
したがって、本件発明1~4は甲1-1発明ではなく、本件発明13~16は甲1-3発明ではない。
(2)本件発明9について
本件発明9と甲1-2発明とを、その機能、構造又は技術的意義を考慮して対比すると、後者の「ばね部材に用いられる金属板」は前者の「ばね部材を製造するためのばね部材用金属箔」に相当し、以下同様に、「所定の領域」は「第1領域」に、「圧延長手方向板厚の最大値と最小値との差分値」は「圧延方向に沿った直線上の各点における第1の厚さの最大値と最小値との差分値」に、「圧延幅方向板厚の最大値と最小値との差分値」は「前記圧延方向に直交する幅方向に沿った直線上の各点における第2の厚さの最大値と最小値との差分値」に、それぞれ相当する。
後者の「0.4μm以上0.8μm未満」という数値範囲は前者の「0.8μm以下」に包含されるから、後者の「0.4μm以上0.8μm未満」は前者の「0.8μm以下」に相当する。
したがって、本件発明9と甲1-2発明とは、次の一致点1-2で一致し、相違点1-5~1-6で相違するものと認められる。
<一致点1-2>
ばね部材を製造するためのばね部材用金属箔の製造方法であって、
母材を圧延することと、
前記母材の圧延によって得られた圧延材を準備することと、を含み、
前記圧延材において、前記ばね部材が形成されるための領域が第1領域であり、
前記第1領域内において圧延方向に沿った直線上の各点における第1の厚さの最大値と最小値との差分値が第1差分値であり、
前記圧延方向に直交する幅方向に沿った直線上の各点における第2の厚さの最大値と最小値との差分値が第2差分値であり、
前記第1差分値から前記第2差分値を減算した差分値の絶対値が、0.8μm以下である
ばね部材用金属箔の製造方法。
<相違点1-5>
本件発明9では、前記母材の圧延によって得られた圧延材を「複数」準備「した後、前記複数の圧延材から前記ばね部材用金属箔を選別すること」を含み、「前記ばね部材用金属箔を選別することでは、前記複数の圧延材から、」前記第1の領域において所定条件を満たす「前記圧延材を前記ばね部材用金属箔として選別する」のに対し、甲1-2発明では、「少なくとも350mmの幅と、約1000mにわたるデータ採取範囲の代表値は」所定条件を満たしていることに留まる点。
<相違点1-6>
本件発明9の第1の領域は、「一辺の長さが300mmである正方形状を有し」ているのに対し、甲1-2発明の所定の領域の具体的寸法や形状は明らかではない点。
相違点1-5について検討する。
上記「第5 3(1)本件発明1について」の<相違点1-2>において検討したとおり、甲1の1におけるデータは、JX金属株式会社が開発に成功したチタン銅の特徴の理解のために示された、板厚に関する「代表値」という統計データであると理解される。
甲1の1には、圧延材を「複数」準備した後、所定の条件を満たす圧延材を選別する技術思想は開示されていないし、甲1の1のような客観的なデータを取る際に、都合の良いデータが得られる金属板を取捨選択することは好ましくないから、甲1-2発明において、圧延材を複数準備した後、測定値が所定の数値範囲である圧延材を選別する動機付けはない。
したがって、甲4、甲2、参考文献1~3から、目標とする板厚に関する仕様に合致するものを選択することが普通に行われていることであったとしても、甲1-2発明に基いて、相違点1-5に係る本件発明9の構成とすることは当業者であっても容易に想到し得たとはいえない。
よって、本件発明9は甲1-2発明ではない。また、本件発明9は、他の相違点について検討するまでもなく、甲1-2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとは認められない。
(3)本件発明10~12について
上記「(2)本件発明9について」と同様の理由により、本件発明9を引用する本件発明10~12は甲1-2発明ではない。また、本件発明10~12は甲1-2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。
3 上記「1(2)」(甲2を主引例とする場合の新規性、進歩性)について
(1)本件発明1について
本件発明1と甲2-1発明とを、その機能、構造又は技術的意義を考慮して対比すると、後者の「板バネ5、11」は前者の「ばね部材」に相当し、以下同様に、「作成」は「製造」に、「板バネ材料40」は「ばね部材用金属箔」に、「所定の領域」は「第1領域」に、「圧延されたものであり」という事項は「圧延材であり」という事項に、それぞれ相当する。
後者の「前記板バネ材料40の厚みは40μm±2μmである」という事項と前者の「前記ばね部材用金属箔の厚さが、50μm以上200μm以下である」という事項とは、「前記ばね部材用金属箔の厚さが、所定の範囲である」という点で共通する。
したがって、本件発明1と甲2-1発明とは、次の一致点2-1で一致し、相違点2-1~2-3で相違するものと認められる。
<一致点2-1>
ばね部材を製造するためのばね部材用金属箔であって、
前記ばね部材が形成されるための第1領域を備え、
前記ばね部材用金属箔は、圧延材であり、
前記ばね部材用金属箔の厚さが、所定の範囲である
ばね部材用金属箔。
<相違点2-1>
本件発明1の第1領域は「一辺の長さが300mmである正方形状を有し」ているのに対し、甲2-1発明の所定の領域の形状や大きさは明らかではない点。
<相違点2-2>
本件発明1では「前記第1領域内において圧延方向に沿った直線上の各点における第1の厚さの最大値と最小値との差分値が第1差分値であり、前記圧延方向に直交する幅方向に沿った直線上の各点における第2の厚さの最大値と最小値との差分値が第2差分値であり、前記第1差分値から前記第2差分値を減算した差分値の絶対値が、0.8μm以下であ」るのに対し、甲2-1発明では「前記板バネ材料40の厚みは40μm±2μmのばらつきをもっており、前記板ばね部材40をその厚みtに応じて複数のクラスに分類し、予め各クラス別に準備されたエッチング用原版50を用いてエッチング加工を施すことにより、前記板バネ材料40の厚さにばらつきが生じている場合であっても前記板バネ5、11のバネ定数のばらつきを低減するもの」である点。
<相違点2-3>
ばね部材用金属箔の厚さの「所定の範囲」に関し、本件発明1では「50μm以上200μm以下」であるのに対し、甲2-1発明では「40μm±2μm」である点。
事案に鑑み、相違点2-2から検討する。
甲2-1発明は、板バネ材料40の厚さにばらつきが生じている場合であっても板バネ5、11のバネ定数のばらつきを低減するために、板ばね部材40をその厚みtに応じて複数のクラスに分類し、予め各クラス別に準備されたエッチング用原版50を用いてエッチング加工を施すものである。これは、板バネ材料40の厚さにばらつきが生じていることを前提として、それぞれの厚みに応じてエッチング加工を変えることで、エッチング加工後の板バネのバネ定数のばらつきを低減しようとするものであるから、エッチング加工前の板バネ材料40の厚さのばらつきを小さくすることによってエッチング加工後の板バネのバネ定数のばらつきを低減しようとする動機付けが無い。ましてや、前記第1領域内において圧延方向に沿った直線上の各点における第1の厚さの最大値と最小値との差分値が第1差分値であり、前記圧延方向に直交する幅方向に沿った直線上の各点における第2の厚さの最大値と最小値との差分値が第2差分値であり、前記第1差分値から前記第2差分値を減算した差分値の絶対値が、0.8μm以下であるとすることにより、厚さのばらつきを低減しようとする動機付けはない。むしろ、甲2-1発明において、ウェットエッチング条件を変更せずともばらつきを所定の範囲内に抑えられるようにすることには阻害要因があるともいえる。
したがって、本件発明1は甲2-1発明ではない。また、本件発明1は、他の相違点について検討するまでもなく、甲2-1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとは認められない。
(2)本件発明2~4について
上記「(1)本件発明1について」と同様の理由により、本件発明1を引用する本件発明2~4は甲2-1発明ではない。また、本件発明2~4は甲2-1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。
(3)本件発明9について
本件発明9と甲2-2発明とを、その機能、構造又は技術的意義を考慮して対比すると、後者の「板バネ5、11」は前者の「ばね部材」に相当し、以下同様に、「作成」は「製造」に、「板バネ材料40」は「ばね部材用金属箔」に、「板バネ材料40を所定の圧延方向Dに沿って圧延すること」は「母材を圧延すること」に、「圧延された板バネ材料40」は「圧延材」に、「50枚」は「複数」に、それぞれ相当する。
後者の「前記50枚の前記圧延された板バネ材料40を厚みtに応じて複数のクラスに分類すること」と前者の「前記複数の圧延材から前記ばね部材用金属箔を選別すること」とは、「所定の工程を実施すること」で共通する。
後者の「板バネ材料44を所定の圧延方向Dに沿って圧延すること」は前者の「母材を圧延すること」に相当し、同様に「所定の領域」は「第1領域」に相当する。
したがって、本件発明18と甲2-2発明とは、次の一致点2-2で一致し、相違点2-4~2-5で相違するものと認められる。
<一致点2-2>
ばね部材を製造するためのばね部材用金属箔の製造方法であって、
母材を圧延することと、
前記母材の圧延によって得られた圧延材を複数準備した後、所定の工程を実施することと、を含み、
前記圧延材において、前記ばね部材が形成されるための領域が第1領域である、
ばね部材用金属箔の製造方法。
<相違点2-4>
「所定の工程を実施すること」に関し、本件発明9は「前記複数の圧延材から前記ばね部材用金属箔を選別すること」であり、「前記第1領域内において圧延方向に沿った直線上の各点における第1の厚さの最大値と最小値との差分値が第1差分値であり、前記圧延方向に直交する幅方向に沿った直線上の各点における第2の厚さの最大値と最小値との差分値が第2差分値であり、前記ばね部材用金属箔を選別することでは、前記複数の圧延材から、前記第1差分値から前記第2差分値を減算した差分値の絶対値が、0.8μm以下である前記圧延材を前記ばね部材用金属箔として選別する」のに対し、甲2-2発明は「前記50枚の前記圧延された板バネ材料40を厚みtに応じて複数のクラスに分類すること」であり、「前記厚みtに応じて複数のクラスに分類することは、前記圧延された板バネ材料40をその厚みtに応じて5つのクラスに分類することであり、予め各クラス別に準備されたエッチング用原版50を用いてエッチング加工を施すことにより、板バネ材料40の厚さにばらつきが生じている場合であっても板バネ5、11のバネ定数のばらつきを低減する」点。
<相違点2-5>
本件発明9の第1領域は「一辺の長さが300mmである正方形状を有し」ているのに対し、甲2-2発明の所定の領域の形状や大きさは明らかではない点。
相違点2-4について検討する。
甲2-2発明は、板バネ材料40の厚さにばらつきが生じている場合であっても板バネ5、11のバネ定数のばらつきを低減するために、板ばね部材40をその厚みtに応じて複数のクラスに分類し、予め各クラス別に準備されたエッチング用原版50を用いてエッチング加工を施すものである。これは、板バネ材料40の厚さにばらつきが生じていることを前提として、それぞれの厚みに応じてエッチング加工を変えることで、エッチング加工後の板バネのバネ定数のばらつきを低減しようとするものであるから、エッチング加工前の板バネ材料40の厚さのばらつきを小さくすることによってエッチング加工後の板バネのバネ定数のばらつきを低減しようとする動機付けが無い。ましてや、前記第1領域内において圧延方向に沿った直線上の各点における第1の厚さの最大値と最小値との差分値が第1差分値であり、前記圧延方向に直交する幅方向に沿った直線上の各点における第2の厚さの最大値と最小値との差分値が第2差分値であり、前記ばね部材用金属箔を選別することでは、前記複数の圧延材から、前記第1差分値から前記第2差分値を減算した差分値の絶対値が、0.8μm以下である前記圧延材を前記ばね部材用金属箔として選別することにより、厚さのばらつきを低減しようとする動機付けはない。むしろ、甲2-2発明において、ウェットエッチング条件を変更せずともばらつきを所定の範囲内に抑えられるようにすることには阻害要因があるともいえる。したがって、甲4、甲2、参考文献1~3から、目標とする板厚に関する仕様に合致するものを選択すること自体が周知技術であったとしても、甲2-2発明に当該周知技術を適用することは、当業者にとって容易に想到し得たこととはいえない。
したがって、本件発明9は甲2-2発明ではない。また、本件発明9は、他の相違点について検討するまでもなく、甲2-2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとは認められない。
(4)本件発明10~12について
上記「(3)本件発明9について」と同様の理由により、本件発明9を引用する本件発明10~12は甲2-2発明ではない。また、本件発明10~12は甲2-2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。
(5)本件発明13について
本件発明13と甲2-3発明とを、その機能、構造又は技術的意義を考慮して対比すると、後者の「板バネ材料40」は前者の「ばね部材用金属箔」に相当し、以下同様に、「カメラモジュールの駆動機構に用いられる」という事項は「電子機器用」という事項に、「板バネ5、11」は「ばね部材」に、「前記板バネ材料40の表面及び裏面にレジスト41を塗布し乾燥させることと、エッチング用原版50を用いて所定パターンをもつレジスト41を形成し、エッチング液を用いてエッチングを施すこと、とを含み」という事項は「前記ばね部材用金属箔の表面と裏面とにレジストマスクを形成することと、前記レジストマスクを用いて前記ばね部材用金属箔をウェットエッチングすることと、を含み」という事項に、「圧延されたもの」は「圧延材」に、それぞれ相当する。
後者の「前記板バネ材料40の厚みは40μm±2μmである」という事項と前者の「前記ばね部材用金属箔の厚さが、50μm以上200μm以下である」という事項とは、「前記ばね部材用金属箔の厚さが、所定の範囲である」という点で共通する。
したがって、本件発明13と甲2-3発明とは、次の一致点2-3で一致し、相違点2-6~2-7で相違するものと認められる。
<一致点2-3>
ばね部材用金属箔を用いた電子機器用ばね部材の製造方法であって、
前記ばね部材用金属箔の表面と裏面とにレジストマスクを形成することと、
前記レジストマスクを用いて前記ばね部材用金属箔をウェットエッチングすることと、を含み、
前記ばね部材用金属箔は、圧延材であり、
前記ばね部材用金属箔の厚さが、所定の範囲である
電子機器用ばね部材の製造方法。」
<相違点2-6>
本件発明13は「前記ばね部材用金属箔の圧延方向に沿った直線上の各点における第1の厚さの最大値と最小値との差分値が第1差分値であり、前記圧延方向に直交する幅方向に沿った直線上の各点における第2の厚さの最大値と最小値との差分値が第2差分値であり、前記第1差分値から前記第2差分値を減算した差分値の絶対値が、0.8μm以下」であるのに対し、甲2-3発明は「前記板バネ部材40をその厚みtに応じて複数のクラスに分類し、予め各クラス別に準備されたエッチング用原版50を用いてエッチング加工を施すことにより、前記板バネ材料40の厚さにばらつきが生じている場合であっても前記板バネ5、11のバネ定数のばらつきを低減するもの」である点。
<相違点2-7>
ばね部材用金属箔の厚さの「所定の範囲」に関し、本件発明13では「50μm以上200μm以下」であるのに対し、甲2-3発明では「40μm±2μm」である点。
相違点2-6について検討する。
甲2-3発明は、板バネ材料40の厚さにばらつきが生じている場合であっても板バネ5、11のバネ定数のばらつきを低減するために、板ばね部材40をその厚みtに応じて複数のクラスに分類し、予め各クラス別に準備されたエッチング用原版50を用いてエッチング加工を施すものである。これは、板バネ材料40の厚さにばらつきが生じていることを前提として、それぞれの厚みに応じてエッチング加工を変えることで、エッチング加工後の板バネのバネ定数のばらつきを低減しようとするものであるから、エッチング加工前の板バネ材料40の厚さのばらつきを小さくすることによってエッチング加工後の板バネのバネ定数のばらつきを低減しようとする動機付けが無い。ましてや、ばね部材用金属箔の圧延方向に沿った直線上の各点における第1の厚さの最大値と最小値との差分値が第1差分値であり、前記圧延方向に直交する幅方向に沿った直線上の各点における第2の厚さの最大値と最小値との差分値が第2差分値であり、前記第1差分値から前記第2差分値を減算した差分値の絶対値が、0.8μm以下であるとすることにより、厚さのばらつきを低減しようとする動機付けはない。むしろ、甲2-3発明において、ウェットエッチング条件を変更せずともばらつきを所定の範囲内に抑えられるようにすることには阻害要因があるともいえる。
したがって、本件発明13は甲2-3発明ではない。また、本件発明13は、他の相違点について検討するまでもなく、甲2-3発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとは認められない。
(6)本件発明14~16について
上記「(5)本件発明13について」と同様の理由により、本件発明13を引用する本件発明14~16は甲2-3発明ではない。また、本件発明14~16は甲2-3発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。
4 上記「1(3)」(甲3を主引例とする場合の新規性、進歩性)について
(1)本件発明1について
本件発明1と甲3-1発明とを、その機能、構造又は技術的意義を考慮して対比すると、後者の「導電性ばね材」は前者の「ばね部材」に相当し、以下同様に、「に用いる」という事項は「を製造するための」という事項に、「チタン銅箔」は「ばね部材用金属箔」に、「所定の領域」は「第1領域」に、「圧延したもの」は「圧延材」に、それぞれ相当する。
後者の「前記チタン銅箔の箔厚が18μm~80μmである」という事項と前者の「前記ばね部材用金属箔の厚さが、50μm以上200μm以下である」という事項とは、「前記ばね部材用金属箔の厚さが、所定の範囲である」という点で共通する。
したがって、本件発明1と甲3-1発明とは、次の一致点3-1で一致し、相違点3-1~3-3で相違するものと認められる。
<一致点3-1>
ばね部材を製造するためのばね部材用金属箔であって、
前記ばね部材が形成されるための第1領域を備え、
前記ばね部材用金属箔は、圧延材であり、
前記ばね部材用金属箔の厚さが、所定の範囲である
ばね部材用金属箔。
<相違点3-1>
本件発明1の第1領域は「一辺の長さが300mmである正方形状を有し」ているのに対し、甲3-1発明の所定の領域の形状や大きさは明らかではない点。
<相違点3-2>
本件発明1では「前記第1領域内において圧延方向に沿った直線上の各点における第1の厚さの最大値と最小値との差分値が第1差分値であり、前記圧延方向に直交する幅方向に沿った直線上の各点における第2の厚さの最大値と最小値との差分値が第2差分値であり、前記第1差分値から前記第2差分値を減算した差分値の絶対値が、0.8μm以下」であるのに対し、甲3-1発明では「前記チタン銅箔は、圧延方向と平行な方向に60mmの間隔をおいて連続する5つの測定点で測定した箔厚データの最大値と最小値との差である箔厚変動が0.0μm~1.0μm(発明例1及び2では0.0μm)」である点。
<相違点3-3>
ばね部材用金属箔の厚さの「所定の範囲」に関し、本件発明1では「50μm以上200μm以下」であるのに対し、甲3-1発明では「18μm~80μm」である点。
事案に鑑み、相違点3-2から検討する。
甲3-1発明では、圧延方向と平行な方向に60mmの間隔をおいて連続する5つの測定点で測定した箔厚データの最大値と最小値との差である箔厚変動のみを評価対象としており、前記圧延方向に直交する幅方向における厚さは評価対象とされていない。また、甲3には、幅方向の厚さのデータは記載されていない。したがって、甲3の発明例1及び2における圧延方向と平行な方向の箔厚変動は0.0μmであるが、圧延方向に直交する幅方向における厚さ変動は不明である。また、甲3には、第1領域内において圧延方向に沿った直線上の各点における第1の厚さの最大値と最小値との差分値が第1差分値であり、前記圧延方向に直交する幅方向に沿った直線上の各点における第2の厚さの最大値と最小値との差分値が第2差分値であり、前記第1差分値から前記第2差分値を減算した差分値の絶対値が、0.8μm以下であることを評価することは記載も示唆もされていないし、そのような評価をすることが本件出願時に技術常識であったことを示す証拠もない。
したがって、本件発明1は甲3-1発明ではない。また、本件発明1は、他の相違点について検討するまでもなく、甲3-1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとは認められない。
(2)本件発明2~4について
上記「(1)本件発明1について」と同様の理由により、本件発明1を引用する本件発明2~4は甲3-1発明ではない。また、本件発明2~4は甲3-1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。
(3)本件発明9について
本件発明9と甲3-2発明とを、その機能、構造又は技術的意義を考慮して対比すると、後者の「導電性ばね材」は前者の「ばね部材」に相当し、以下同様に、「に用いる」という事項は「を製造するための」という事項に、「チタン銅箔」は「ばね部材用金属箔」に、「インゴットを熱間圧延、第1冷間圧延、第2冷間圧延すること」は「母材を圧延すること」に、「前記インゴットの圧延によって得られた試料」は「前記母材の圧延によって得られた圧延材」に、「所定の領域」は「第1領域」に、それぞれ相当する。
甲3-2発明の「前記複数の試料について圧延方向と平行な方向に60mmの間隔をおいて連続する5つの測定点で測定した箔厚データの最大値と最小値との差である箔厚変動を評価すること」と本件発明9の「前記複数の圧延材から前記ばね部材用金属箔を選別すること」とは、「所定の工程を実施すること」という点で共通する。
したがって、本件発明9と甲3-2発明とは、次の一致点3-2で一致し、相違点3-4~3-5で相違するものと認められる。
<一致点3-2>
ばね部材を製造するためのばね部材用金属箔の製造方法であって、
母材を圧延することと、
前記母材の圧延によって得られた圧延材を複数準備した後、所定の工程を実施することと、を含み、
前記圧延材において、前記ばね部材が形成されるための領域が第1領域である、
ばね部材用金属箔の製造方法。
<相違点3-4>
「所定の工程を実施すること」に関し、本件発明9では「前記第1領域内において圧延方向に沿った直線上の各点における第1の厚さの最大値と最小値との差分値が第1差分値であり、前記圧延方向に直交する幅方向に沿った直線上の各点における第2の厚さの最大値と最小値との差分値が第2差分値であり、前記ばね部材用金属箔を選別することでは、前記複数の圧延材から、前記第1差分値から前記第2差分値を減算した差分値の絶対値が、0.8μm以下である前記圧延材を前記ばね部材用金属箔として選別する」のに対し、甲3-2発明では「前記複数の試料について圧延方向と平行な方向に60mmの間隔をおいて連続する5つの測定点で測定した箔厚データの最大値と最小値との差である箔厚変動を評価する」ことであり、「前記箔厚変動を評価することは、箔厚変動が0.0μm~1.0μmの範囲内であるかを評価することである」である点。
<相違点3-5>
本件発明9の第1領域は「一辺の長さが300mmである正方形状を有し」ているのに対し、甲3-2発明の所定の領域の形状や大きさは明らかではない点。
相違点3-4について検討する。
甲3-2発明では、圧延方向と平行な方向に60mmの間隔をおいて連続する5つの測定点で測定した箔厚データの最大値と最小値との差である箔厚変動のみを評価対象としており、前記圧延方向に直交する幅方向における厚さは評価対象とされていない。また、甲3には、幅方向の厚さのデータは記載されていない。したがって、甲3の発明例1及び2における圧延方向と平行な方向の箔厚変動は0.0μmであるが、圧延方向に直交する幅方向における厚さ変動は不明である。また、甲3には、前記第1領域内において圧延方向に沿った直線上の各点における第1の厚さの最大値と最小値との差分値が第1差分値であり、前記圧延方向に直交する幅方向に沿った直線上の各点における第2の厚さの最大値と最小値との差分値が第2差分値であり、前記ばね部材用金属箔を選別することでは、前記複数の圧延材から、前記第1差分値から前記第2差分値を減算した差分値の絶対値が、0.8μm以下であるかを評価することは記載も示唆もされていないし、そのような評価をすることが本件出願時に技術常識であったことを示す証拠もない。
したがって、本件発明9は甲3-2発明ではない。また、本件発明9は、他の相違点について検討するまでもなく、甲3-2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとは認められない。
(4)本件発明10~12について
上記「(3)本件発明9について」と同様の理由により、本件発明9を引用する本件発明10~12は甲3-2発明ではない。また、本件発明10~12は甲3-2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。
(5)本件発明13について
本件発明13と甲3-3発明とを、その機能、構造又は技術的意義を考慮して対比すると、後者の「チタン銅箔」は前者の「ばね部材用金属箔」に相当し、以下同様に、「電子機器部品に使用される」という事項は「電子機器用」という事項に、「導電性ばね材」は「ばね部材」に、「圧延したもの」は「圧延材」に、それぞれ相当する。
後者の「前記チタン銅箔の箔厚が18μm~80μmである」という事項と前者の「前記ばね部材用金属箔の厚さが、50μm以上200μm以下である」という事項とは、「前記ばね部材用金属箔の厚さが、所定の範囲である」という点で共通する。
したがって、本件発明13と甲3-3発明とは、次の一致点3-3で一致し、相違点3-6~3-8で相違するものと認められる。
<一致点3-1>
ばね部材用金属箔を用いた電子機器用ばね部材の製造方法であって、
前記ばね部材用金属箔は、圧延材であり、
前記ばね部材用金属箔の厚さが、所定の範囲である
電子機器用ばね部材の製造方法。
<相違点3-6>
本件発明13は「前記ばね部材用金属箔の表面と裏面とにレジストマスクを形成することと、前記レジストマスクを用いて前記ばね部材用金属箔をウェットエッチングすることと、を含」むのに対し、甲3-3発明では、そのような工程を含むか明らかではない点。
<相違点3-7>
本件発明13では、「前記ばね部材用金属箔の圧延方向に沿った直線上の各点における第1の厚さの最大値と最小値との差分値が第1差分値であり、前記圧延方向に直交する幅方向に沿った直線上の各点における第2の厚さの最大値と最小値との差分値が第2差分値であり、前記第1差分値から前記第2差分値を減算した差分値の絶対値が、0.8μm以下」であるのに対し、甲3-3発明では、「前記チタン銅箔は、圧延方向と平行な方向に60mmの間隔をおいて連続する5つの測定点で測定した箔厚データの最大値と最小値との差である箔厚変動が0.0μm~1.0μm(発明例1及び2では0.0μm)」である点。
<相違点3-8>
ばね部材用金属箔の厚さの「所定の範囲」に関し、本件発明13では「50μm以上200μm以下」であるのに対し、甲3-3発明では「18μm~80μm」である点。
事案に鑑み、相違点3-7から検討する。
甲3-3発明では、圧延方向と平行な方向に60mmの間隔をおいて連続する5つの測定点で測定した箔厚データの最大値と最小値との差である箔厚変動のみを評価対象としており、前記圧延方向に直交する幅方向における厚さは評価対象とされていない。また、甲3には、幅方向の厚さのデータは記載されていない。したがって、甲3の発明例1及び2における圧延方向と平行な方向の箔厚変動は0.0μmであるが、圧延方向に直交する幅方向における厚さ変動は不明である。また、甲3には、第1領域内において圧延方向に沿った直線上の各点における第1の厚さの最大値と最小値との差分値が第1差分値であり、前記圧延方向に直交する幅方向に沿った直線上の各点における第2の厚さの最大値と最小値との差分値が第2差分値であり、前記第1差分値から前記第2差分値を減算した差分値の絶対値が、0.8μm以下であることを評価することは記載も示唆もされていないし、そのような評価をすることが本件出願時に技術常識であったことを示す証拠もない。
したがって、本件発明13は甲3-3発明ではない。また、本件発明13は、他の相違点について検討するまでもなく、甲3-3発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとは認められない。
(6)本件発明14~16について
上記「(5)本件発明13について」と同様の理由により、本件発明13を引用する本件発明14~16は甲3-3発明ではない。また、本件発明14~16は甲3-3発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。
5 上記「1(4)」(サポート要件)について
特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
(1)「圧延方向」及び「幅方向」について
本件発明の課題は、「板ばねの厚さ方向における幅のばらつきは、板ばねが有するばね荷重およびたわみのばらつきを生じさせるから、厚さ方向におけるばね幅のばらつきを抑えること」(【0006】参照。)である。
そして、発明の詳細な説明には、当該課題を解決する手段として、「圧延方向に沿った直線上の各点における第1の厚さの最大値と最小値との差分値が第1差分値であり、前記圧延方向に直交する幅方向に沿った直線上の各点における第2の厚さの最大値と最小値との差分値が第2差分値であり、前記第1差分値から前記第2差分値を減算した差分値の絶対値が、0.8μm以下」(【0007】参照。)であることが記載されている。
そして、請求項1、9及び13には、「圧延方向に沿った直線上の各点における第1の厚さの最大値と最小値との差分値が第1差分値であり、前記圧延方向に直交する幅方向に沿った直線上の各点における第2の厚さの最大値と最小値との差分値が第2差分値であり、前記第1差分値から前記第2差分値を減算した差分値の絶対値が、0.8μm以下」であることが特定されている。請求項1を引用する請求項2~4、請求項9を引用する請求項10~12、及び、請求項13を引用する請求項14~16も同様である。
したがって、請求項1~4、9~16における「圧延方向」「幅方向」が無数の直線を包含していたとしても、請求項1~4、9~16に係る発明は、発明の詳細な説明に記載された発明であり、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであると認められる。
(2)第1領域以外の領域について
発明の詳細な説明に記載されている本件発明の課題、当該課題を解決する手段、及び、請求項における記載は上記(1)で検討した通りであるから、第1の領域以外の領域において所定値以上であったとしても、少なくとも「圧延方向に沿った直線上の各点における第1の厚さの最大値と最小値との差分値が第1差分値であり、 前記圧延方向に直交する幅方向に沿った直線上の各点における第2の厚さの最大値と最小値との差分値が第2差分値であり、前記第1差分値から前記第2差分値を減算した差分値の絶対値が、0.8μm以下であ」ることにより、課題を解決し得る領域が存在していることは明らかである。
(3)差分値が極めて大きな負の値を取る場合も含まれることについて
本件発明3は、「前記ばね部材用金属箔上の各点における厚さの最大値から最小値を減算した差分値が、2.6μm以下である」ことが特定されているが、「圧延方向に沿った直線上の各点における第1の厚さの最大値と最小値との差分値が第1差分値であり、前記圧延方向に直交する幅方向に沿った直線上の各点における第2の厚さの最大値と最小値との差分値が第2差分値であり、前記第1差分値から前記第2差分値を減算した差分値の絶対値が、0.8μm以下であ」ることも条件として備えている。したがって、上記(1)で検討した通り、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであると認められる。本件発明3で特定している条件と同じ条件を備える、他の本件発明についても同様である。
よって、請求項1~4、9~16に係る発明は、発明の詳細に記載されたものである。
6 上記「1(5)」(明確性)について
(1)「圧延方向」及び「幅方向」について
本件発明1では、「圧延方向に沿った直線」及び「幅方向に沿った直線」が、どの線上であるのかを特定しておらず、任意であってよいことは明らかである。
したがって、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確ではなく、発明は明確である。
本件発明2~4、9~16についても同様である。
(2)第1差分値と第2差分値の差分値の絶対値等について
請求項1~4、9~16において、第1差分値から前記第2差分値を減算した差分値の絶対値等が所定の値以下であるとの特定事項は明確であり、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確とはいえず、請求項1~4、9~16に係る発明は明確である。
(3)用途限定について
請求項中に用途限定が記載されている場合、新規性・進歩性を判断する際には、技術常識等を考慮して、その用途に特に適した構造等を認定するが、明確性の観点では「ばね部材に用いられる」ことを意味しているにすぎないから、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確ではなく、発明は明確である。
(4)第1領域について
請求項1~4、9~16において、第1領域が金属箔のどの領域を指すのかは記載されておらず、任意の場所でよいことは明らかであるから、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確ではなく、発明は明確である。
よって、請求項1~4、9~16に係る発明は明確である。
7 上記「1(6)」(実施可能要件)について
(1)いくつの製造ロットについて評価するのかについて
本件発明は、ばね部材用金属箔を選別する指標を特定したものであり、製造ロット数、金属箔の領域の選択方法や数を決めなくても実施可能であることは明らかであるから、本件特許明細書は、当業者が、明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その発明を実施することができる程度に記載されているといえる。
よって、発明の詳細な説明の記載は、当業者が請求項1~4、9~16に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものであると認められる。
8 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、令和6年11月25日に提出した意見書において、補足1(訂正発明9~12について)として、次の主張をしている。
(1)「甲1の1には、JX金属株式会社が高い板厚精度のばね部材用金属箔を提供すること、当該ばね部材用金属箔が、第1差分値と第2差分値の差分値の絶対値が0.8μm以下等の仕様であることが記載されており、当該仕様の金属箔を提供することは、すなわち、第1差分値と第2差分値の差分値の絶対値が0.8μm以下等の金属箔を選別することに他ならない。」(19頁22行~20頁1行)
(2)甲4、甲2、参考文献1~3を挙げ、「以上のように、目標とする板厚に関する仕様に合致するものを選択することは普通に行われていることであり、訂正発明9~12は新規性・進歩性を有さないものと考えられる。」(20頁23~25行)
上記主張(1)について検討する。
甲1の1には、「本テクニカルデータに記載の数値は代表値でございます」(2頁5行)、「掲載された数値は代表値であり、仕様とは異なります。」(3頁図1の下)と記載されていることから、ばね部材用金属箔の厚さの標準偏差に関する値は「仕様」ではなく、調査対象となった金属板の統計的な値そのものであり、複数の金属板の中から選別したものではないと理解される。
したがって、上記主張(1)を採用することはできない。
上記主張(2)について検討する。
上記「2(2)本件発明9について」で検討した通り、甲1-2発明において、圧延材を複数準備した後、測定値が所定の数値範囲である圧延材を選別する動機付けはないから、目標とする板厚に関する仕様に合致するものを選択することが普通に行われていることであったとしても、甲1-2発明に基いて、母材の圧延によって得られた圧延材を「複数」準備した「後、前記複数の圧延材から前記ばね部材用金属箔を選別する」構成とすることは当業者であっても容易に想到し得たとはいえない。
よって、上記主張(2)を採用することはできない。
第7 むすび
上記「第5 2」で検討した通り、請求項5~8に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号の規定に適合するものではなく、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号の規定に適合するものではないから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
また、上記「第5 3」~上記「第6 7」で検討した通り、請求項1~4、9~16に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由又は特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によって取り消すことはできない。
さらに、他に請求項1~4、9~16に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2024-700295