特許拒絶査定不服審判
2017-016266
内臓脂肪面積の評価方法、内臓脂肪面積評価装置、内臓脂肪面積評価方法、内臓脂肪面積評価プログラム、記録媒体、内臓脂肪面積評価システム、及び端末装置
- 審判番号
- 2017-016266
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2015-233484外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2017年11月01日
- 審決日
- 2018年09月19日
- 公報発行日
- 2018年12月28日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】味の素株式会社
- 【請求人代理人】特許業務法人酒井国際特許事務所
- 分類
- P18 .537-Z (G01N) / P18 .121-Z (G01N) / P18 .575-Z (G01N)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項特許法36条6項1号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第2項、特許法第17条の2第5項第2号、特許法第17条の2第6項、特許法第36条第4項第1号
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2015-233484「内臓脂肪面積の評価方法、内臓脂肪面積評価装置、内臓脂肪面積評価方法、内臓脂肪面積評価プログラム、記録媒体、内臓脂肪面積評価システム、及び端末装置」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 3月 3日出願公開、特開2016- 29398〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
本願は、2008年(平成20年)6月25日(優先権主張 平成19年6月25日)を国際出願日とする特願2009-520617号の一部を平成25年11月27日に新たな特許出願とした特願2013-245488号の一部を平成27年11月30日に新たな特許出願としたものであって、平成28年10月7日付けの拒絶理由が通知され、平成29年2月14日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされたが、同年7月24日付けで拒絶査定がなされ、これに対して同年11月1日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、それと同時に手続補正(以下「本件補正」という。)がなされたものである。
第2 本件補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
本件補正を却下する。
[理由]
1 本件補正について
本件補正は、本件補正前の平成29年2月14日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載である、
「【請求項1】
評価対象の血液中のLeu,Val,Ileのうち少なくとも1つの濃度値とTyr,Phe,Trp,Glu,Ala,Pro,Orn,Lys,Gly,Ser,Met,Arg,Cys,Glnのうち少なくとも1つの濃度値に基づいて、前記評価対象につき内臓脂肪面積の状態を評価する濃度値基準評価ステップを含むこと を特徴とする内臓脂肪面積の評価方法。」を、
「【請求項1】
評価対象の血液中のLeu,Valのうち少なくとも1つの濃度値とTyr,Trp,Glu,Ala,Pro,Gly,Serのうち少なくとも1つの濃度値に基づいて、前記評価対象につき内臓脂肪面積の状態を評価する濃度値基準評価ステップを含み、
前記濃度値基準評価ステップは、
前記評価対象の血液中のLeu,Valのうち少なくとも1つの濃度値とTyr,Trp,Glu,Ala,Pro,Gly,Serのうち少なくとも1つの濃度値、および、Leu,Valのうち少なくとも1つとTyr,Trp,Glu,Ala,Pro,Gly,Serのうち少なくとも1つを変数として含む内臓脂肪面積の状態を評価するための式に基づいて、当該式の値を算出する算出ステップ
を含むこと
を特徴とする内臓脂肪面積の評価方法。」とする補正を含むものである。
2 補正の適否
(1)上記補正において、「Leu,Val,Ileのうち少なくとも1つの濃度値」を「Leu,Valのうち少なくとも1つの濃度値」とし、「Tyr,Phe,Trp,Glu,Ala,Pro,Orn,Lys,Gly,Ser,Met,Arg,Cys,Glnのうち少なくとも1つの濃度値」を「Tyr,Trp,Glu,Ala,Pro,Gly,Serのうち少なくとも1つの濃度値」とする補正は、前者は「Leu,Val,Ile」から「Ile」を削除、後者は「Tyr,Phe,Trp,Glu,Ala,Pro,Orn,Lys,Gly,Ser,Met,Arg,Cys,Gln」から「Phe,Orn,Lys,Met,Arg,Cys,Gln」を削除するものでり、マーカッシュ形式における選択肢の削除に該当するものであるから、上記請求項1についての本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものを含むものである。
そこで、本件補正後の上記請求項1に記載された発明(以下「補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下に検討する。
(2)特許法第36条第6項第1号について
下記第3の2で記載しているように、原査定の拒絶の(理由3)は、選択的に記載されるアミノ酸は、特定の指標式を用いた時に初めて内臓脂肪蓄積(面積)の判別能を有するものであり、指標式の種類が何ら特定されていない請求項に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものといえないことから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないとしたものである。
ア 本願明細書の記載について
本願明細書には、内臓脂肪面積についての状態を示す実施例の記載として、以下の記載がある。なお、下線は当審において付与した。
「【実施例1】
【0282】
人間ドック受診者154例を前述の日本内科学会関連8学会合同診断基準に基づき非内臓脂肪蓄積群(59例)と内臓脂肪蓄積群(95例)に分け、それぞれの血液サンプルから、前述のアミノ酸分析法により血中アミノ酸濃度を測定した。」
「【実施例2】
【0284】
実施例1で示した人間ドック受診者154例の内臓脂肪面積値とそれぞれの血中アミノ酸濃度との相関係数(Pearson相関係数)を求めた。
【0285】
内臓脂肪面積値と有意な相関を示した血中アミノ酸は、Val(r=0.41),Leu(r=0.37),Ile(r=0.42),Tyr(r=0.39),Trp(r=0.32),Glu(r=0.48),Ala(r=0.24),Pro(r=0.19),Lys(r=0.17),Gly(r=-0.28),Ser(r=-0.20),Met(r=0.21),Arg(r=0.16)であった。これにより、アミノ酸変数Val,Leu,Ile,Tyr,Trp,Glu,Ala,Pro,Lys,Gly,Ser,Met,Argが、内臓脂肪面積の状態の診断能を持つことが判明した。」
「【実施例4】
【0288】
実施例1で用いたサンプルデータを用いた。本出願人による国際出願である国際公開第2004/052191号に記載の方法を用いて、内臓脂肪蓄積を反映する内臓脂肪面積の状態の診断性能を最大化する指標式を鋭意探索し、同等の性能を持つ複数の指標式の中に指標式2が得られた。
指標式2:(Glu+Gly) + (-0.2)×(Ser/Tyr) + (-0.1)×(His/Trp)」
「【実施例7】
【0293】
人間ドック受診者201例を前述の日本内科学会関連8学会合同診断基準に基づき非内臓脂肪蓄積群(72例)と内臓脂肪蓄積群(129例)に分け、それぞれの血液サンプルから、前述のアミノ酸分析法により血中アミノ酸濃度を測定した。」
「【実施例8】
【0295】
実施例7で示した人間ドック受診者201例の内臓脂肪面積値とそれぞれの血中アミノ酸濃度との相関係数(Pearson相関係数)を求めた。
【0296】
内臓脂肪面積値と有意な相関を示した血中アミノ酸は、Leu(r=0.53),Glu(r=0.52),Ile(r=0.52),Val(r=0.49),Pro(r=0.41),Gly(r=-0.37),Ala(r=0.34),Tyr(r=0.34),Phe(r=0.28),Cys(r=0.25),Orn(r=0.21),Lys(r=0.20),Trp(r=0.19),Gln(r=-0.17),Ser(r=-0.17),Met(r=0.17)であった。これにより、アミノ酸変数Leu,Glu,Ile,Val,Pro,Gly,Ala,Tyr,Phe,Cys,Orn,Lys,Trp,Gln,Ser,Metが、内臓脂肪面積の状態の診断能を持つことが判明した。」
「【実施例10】
【0299】
実施例7で用いたサンプルデータを用いた。本出願人による国際出願である国際公開第2004/052191号に記載の方法を用いて、内臓脂肪蓄積を反映する内臓脂肪面積の状態の診断性能を最大化する指標式を鋭意探索し、同等の性能を持つ複数の指標式の中に指標式5が得られた。
指標式5:(Glu/Gly) + (-0.54)×(Ser/Leu) + (0.15)×(Pro/Trp) + (-0.05)×(Gln/Tyr)」
「【実施例13】
【0304】
実施例7で用いたサンプルデータを用いた。本出願人による国際出願である国際公開第2006/098192号に記載の方法(多変量判別式の探索方法)を用いて、内臓脂肪蓄積を反映する内臓脂肪面積の状態の診断性能を最大化する指標式を鋭意探索し、指標式5と同等の診断性能を有する線形回帰式は複数得られた。それらを図37、図38に示す。また、図37、図38に示す式における各係数の値は、それを実数倍したもの、あるいは任意の定数項を付加したものでもよい。
【実施例14】
【0305】
実施例7で用いたサンプルデータを用いた。本出願人による国際出願である国際公開第2004/052191号に記載の方法を用いて、内臓脂肪蓄積を反映する内臓脂肪面積の状態の診断性能を最大化する指標式を鋭意探索し、指標式5と同等の診断性能を有する多変量解析式は複数得られた。それらを図39、図40に示す。また、図39、図40に示す式における各係数の値は、それを実数倍したもの、あるいは任意の定数項を付加したものでもよい。」
「【実施例18】
【0309】
実施例7で用いたサンプルデータを用いた。本出願人による国際出願である国際公開第2004/052191号に記載の方法及び国際公開第2006/098192号に記載の方法(多変量判別式の探索方法)を用いて、内臓脂肪蓄積を反映する内臓脂肪面積の状態の診断性能を最大化する指標式を鋭意探索し、指標式5と同等の診断性能を有する多変量解析式は複数得られた。それらを図47に示す。また、図47に示す式における各係数の値は、それを実数倍したもの、あるいは任意の定数項を付加したものでもよい。」
イ 補正発明におけるアミノ酸と式について
補正発明において、アミノ酸は「Leu,Valのうち少なくとも1つ」と「Tyr,Trp,Glu,Ala,Pro,Gly,Serのうち少なくとも1つ」であり、式としては、それらの「濃度値」としての「変数」が特定されるのみで、具体的な式は特定されていない。
ウ 判断
(ア)具体的な式について
補正発明は、例えば、アミノ酸を「Leu,Valのうち少なくとも1つ」から「Val」、「Tyr,Trp,Glu,Ala,Pro,Gly,Serのうち少なくとも1つ」から「Ala」を選択することを含むものであり、この場合、内臓脂肪面積の状態を評価するための「式」は、「Val」及び「Ala」の濃度値を変数とする式となる。
これに対し、上記イで摘記した明細書の記載を参照するに、内臓脂肪面積の状態の診断性能を最大化する指標式として、具体的に記載されているのは、指標式2としての「(Glu+Gly)+(-0.2)×(Ser/Tyr)+(-0.1)×(His/Trp)」と、
指標式5としての「(Glu/Gly)+(-0.54)×(Ser/Leu)+(0.15)×(Pro/Trp)+(-0.05)×(Gln/Tyr)」である。これらの式をみるに、そもそも、2つのアミノ酸の濃度値を変数とする式ではなく、上記選択したVal及びAlaのアミノ酸は記載されてもいない。さらに、図37、図38 図39、図40及び図47(摘記略)には、少なくとも6個以上のアミノ酸の濃度を変数として式が記載されているものの、このような2つのアミノ酸の濃度値を変数とする式は記載されていない。
してみれば、補正発明の「血液中のLeu,Valのうち少なくとも1つの濃度値とTyr,Trp,Glu,Ala,Pro,Gly,Serのうち少なくとも1つの濃度値、および、Leu,Valのうち少なくとも1つとTyr,Trp,Glu,Ala,Pro,Gly,Serのうち少なくとも1つを変数として含む内臓脂肪面積の状態を評価するための式」は、発明の詳細な説明に記載されていない式を含むものである。
(イ)拡張ないし一般化について
上記アで摘記した明細書には、「アミノ酸変数Val,Leu,Ile,Tyr,Trp,Glu,Ala,Pro,Lys,Gly,Ser,Met,Argが、内臓脂肪面積の状態の診断能を持つ」、「アミノ酸変数Leu,Glu,Ile,Val,Pro,Gly,Ala,Tyr,Phe,Cys,Orn,Lys,Trp,Gln,Ser,Metが、内臓脂肪面積の状態の診断能を持つ」という記載もあるものの、例えば、上記指標式2には、これら単独で内臓脂肪面積の状態の診断能を持つ可能性があるとされるアミノ酸以外の「His」が「変数」となっており、これら単独で内臓脂肪面積の状態の診断能を持つ可能性があるとされるアミノ酸を組み合わせて、内臓脂肪面積の状態を評価するための指標式が作成されるものではない。
さらに、血中にあるアミノ酸(20種程度)をある状態の診断に使用する際には、血中におけるアミノ酸の濃度を変数とした指標式(判別式)を作成して、その式に基づいてその状態の診断を行うのが通常(例えば、上記アで摘記した本願明細書にも記載されている国際公開第2004/052191号、国際公開第2006/098192号、等参照)である。
してみれば、本願明細書に「アミノ酸変数Val,Leu,Ile,Tyr,Trp,Glu,Ala,Pro,Lys,Gly,Ser,Met,Argが、内臓脂肪面積の状態の診断能を持つ」、「アミノ酸変数Leu,Glu,Ile,Val,Pro,Gly,Ala,Tyr,Phe,Cys,Orn,Lys,Trp,Gln,Ser,Metが、内臓脂肪面積の状態の診断能を持つ」との記載があるにしろ、これらの記載から、上記指標式2及び指標式5以外の式として、内臓脂肪面積の状態を診断する指標式として具体的にどのような式が含まれるのかは不明であり、補正発明の「血液中のLeu,Valのうち少なくとも1つの濃度値とTyr,Trp,Glu,Ala,Pro,Gly,Serのうち少なくとも1つの濃度値、および、Leu,Valのうち少なくとも1つとTyr,Trp,Glu,Ala,Pro,Gly,Serのうち少なくとも1つを変数として含む内臓脂肪面積の状態を評価するための式」ということまで、拡張ないし一般化できるものではない。
(ウ)請求人の主張について
請求人は、審判請求書の請求の理由で「本願の各独立請求項に係る発明に記載されている式は、内臓脂肪面積の状態について十分な判別能を有することが実際に確かめられた当初明細書等(特に図37,38)に記載の複数の式に基づくものでありますので、十分な判別能を有するものと認められると思料いたします。」と主張しているが、上記請求項1には上記(ア)及び(イ)で述べたとおり、明細書に記載された内臓脂肪面積の状態について十分な判別能を有することが実際に確かめられた複数の式以外のものを含むものであり、この点で、サポート要件を満たしていないことは上記(イ)で説示したとおりである。
エ 小括
したがって、「内臓脂肪面積の状態を評価するための式」として、「血液中のLeu,Valのうち少なくとも1つの濃度値とTyr,Trp,Glu,Ala,Pro,Gly,Serのうち少なくとも1つの濃度値、および、Leu,Valのうち少なくとも1つとTyr,Trp,Glu,Ala,Pro,Gly,Serのうち少なくとも1つを変数」とすることのみを特定した補正発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえないことから、補正発明は、発明の詳細な説明に記載したものとはいえない。
よって、補正発明は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないことから、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
(3)特許法第29条第2項について
ア 引用文献の記載について
(ア)引用文献1について
a 本願の優先日前に頒布され、下記第3の2の原査定の拒絶の(理由1)で引用された刊行物である引用文献1(国際公開第2004/052191号)には、次の事項が記載されている。なお、下線は当審において付与した。
(1a)「そこで、本発明者は、各個体中の代謝物(特に、アミノ酸)の血中レベルの相関関係が非常に有効な状態指標になりうることを発見した。すなわち、アミノ酸等の限定された代謝物の血中レベルの高精度な測定データと特定の生体状態との関係の解析によって、現象的に特定の生体状態と関連している代謝物のコンビネーションを探索することが可能である。さらに、健常人と特定の生体状態を差別化できる指標があれば、それを早期診断指標とすることが可能である。
このような目的を達成するため、本発明にかかる生体状態情報処理装置、及び本発明にかかる生体状態情報処理方法、および、本発明にかかる生体状態情報処理方法をコンピュータに実行させることを特徴とするプログラムは、各個体において測定された生体状態に関する指標データと、各個体中の各代謝物について測定された血中濃度データとの相関を示す、数式1に示す相関式を設定する相関式設定手段(相関式設定ステップ)と、上記相関式設定手段(相関式設定ステップ)にて設定された上記相関式に、シミュレーション対象の個体中の各代謝物について測定された血中濃度データ群を代入して、上記シミュレーション対象の個体中の上記生体状態をシミュレーションする生体状態シミュレーション手段(生体状態シミュレーションステップ)とを備えた(含む)ことを特徴とする。
(数式1において、i、j、kは自然数であり、Ai、Bjは代謝物の血中濃度データであり、Ci、Di、Ej、Fj、Gk、Hは定数である。)
この装置、方法、および、プログラムによれば、各個体において測定された生体状態に関する指標データと、各個体中の各代謝物について測定された血中濃度データとの相関を示す、数式1に示す相関式を設定し、設定された相関式に、シミュレ ーション対象の個体中の各代謝物について測定された血中濃度データ群を代入して、シミュレーション対象の個体中の生体状態をシミュレーションするので、例えば、健康状態、疾病の進行状態、疾病の治療状態、将来の疾病リスク、薬剤の有効性、薬剤の副作用などを個体中の代謝物の血中濃度に基づいて効果的にシミュレーションすることができる。」(4頁26行~5頁最下行)
(1b)「(1-4:肥満)
ヒト成長ホルモン遺伝子導入ラット(hGH-Tg ラット)は、極度な肥満を呈する肥満モデル動物として報告されている。下記判別式は、その肥満ラットと対照ラットとの血中アミノ酸濃度をもとに算出した、判別式の例である(図63参照。)。図63は、ヒト成長ホルモン遺伝子導入ラット(hGH-Tg ラット)と正常ラット(Normal)との判別例を示す図である。
肥満指標:Index(Ob) :
(Gly)/(Val+Leu+Arg)+(Cit)/(Ala+Trp)+(Tyr)/(Lys)+(His)/(Ser+Ile+Orn)」
b 引用発明について
摘記(1b)において、判別式を構成する(Gly)、(Val)、(Leu)、(Arg)、(Cit)、(Ala)、(Trp)、(Tyr)、(Lys)、(His)、(Ser)、(Ile)及び(Orn)は、血中のそれらの「濃度値」であり、そして判別式においてラットによって異なる「変数」となる。
してみれば、引用文献1には、上記(1b)から、以下の発明が記載されていると認められる。
「ラットの血中のGly、Val、Leu、Arg、Cit、Ala、Trp、Tyr、Lys、His、Ser、Ile及びOrn濃度値に基づいて、ラットの肥満を判別する方法において、
それらの濃度値をもとに、判別式である(Gly)/(Val+Leu+Arg)+(Cit)/(Ala+Trp)+(Tyr)/(Lys)+(His)/(Ser+Ile+Orn)を算出し、ラットの肥満を判別する方法。」(以下「引用発明」という。)
(イ)引用文献3について
本願の優先日前に頒布され、下記第3の2の原査定の拒絶の(理由1)で引用された刊行物である引用文献3(高橋三雄 他4名,人間ドッグにおける血漿アミノ酸測定の有用性について1(丸数字):メタボリックシンドローム検診,人間ドッグ,2006年,Vol.21,No.2,p.417(589))には、次の事項が記載されている。なお、下線は当審において付与した
(3a)「【目的】血漿アミノグラムは生体の生理学的な代謝状態を反映して変動すると考えられているが肝硬変や一部の先天性代謝異常を除くと,その情報は臨床診断に対し充分利用されているとはいえない.一方で、肥満症患者や糖尿病ラットのアミノ酸代謝研究によって,肥満やそれに起因するインスリン抵抗性に関連する血漿中のアミノグラム変化が報告されている.今回,我々はアミノ酸測定がメタボリックシンドローム(MS)診断などの予防医療分野に広く利用できるか検討した.
【対象】2005年に当センターでの人間ドック受診者425例を対象とした。
【方法】空腹時採血したサンプルの血漿中アミノ酸濃度を測定した.これらのアミノ酸のうち,MSや生活習慣病に関連する各種生化学マーカーと正および負の相関を持つことが知られているものについて、各種人間ドック検診項目により得られたデータでその相関関係を検証した.
【成績】・・・
3(丸囲み数字)分岐鎖アミノ酸(Leu,Val,Ile)は腹囲85cm以上群,およびHOMA-R2.0以上群で有意(p<0.01)に高値を示した.一方、糖原性アミノ酸Gly,Serについては,GlyはIGT群で,またGly,SerはTG高値群で有意(p<0.05)に低下していた.
【結語】動物データや少数例のヒトデータで報告されている挙動を人間ドック受診者の多数例によって検証できた.人間ドックにおけるアミノ酸測定と解析は、MSのような疾病予備群の発見など今後必要とされる予防医療において有用な情報を提供できると考えられる.」(417頁左欄)
(ウ)引用文献4について
本願の優先日前に頒布され、下記第3の2の原査定の拒絶の(理由1)で引用された刊行物である引用文献4(メタボリックシンドローム診断基準検討委員会,メタボリックシンドロームの定義と診断基準,日本内科学会雑誌,2005年,Vol.94,No.4,pp.188-203)には、次の事項が記載されている。なお、下線は当審において付与した。
(4a)「NCEPの診断基準では,腹部脂肪蓄積(ウエスト径増大であらわされる)が第1の診断項目としてあげられ,メタボリックシンドロームの成立に最も関与度が高いことを反映している.」(190頁右欄15~18行)
(4b)「診断基準検討委員会は,メタボリックシンドロームを内臓脂肪蓄積(ウエスト周囲径の増大で示される)+2つ以上のco-morbidityと定義することで合意が得られた(表1).」(191頁左欄13~17行)
(4c)「表1.メタボリックシンドロームの診断基準
内臓脂肪(腹腔内脂肪)蓄積
ウエスト径 男性≧85cm
女性≧90cm
(内臓脂肪面積 男女とも≧100cm2に相当)」(191頁右欄表1抜粋)
(4d)「わが国では肥満症診断基準に示されているごとく,臍高レベル腹部CTスキャンによって判定した腹腔内脂肪面積100cm2以上が男女共通した内臓脂肪蓄積のカットオフ値である19).」(191頁右欄15行~192頁左欄3行)
イ 対比
補正発明と引用発明とを対比する
(ア)引用発明の「ラット」は、補正発明の「評価対象」に相当する。
(イ)引用発明の「血中のGly、Val、Leu、Arg、Cit、Ala、Trp、Tyr、Lys、His、Ser、Ile及びOrn濃度値」は、補正発明の「Leu,Valのうち少なくとも1つ濃度値」と「Tyr,Trp,Glu,Ala,Pro,Gly,Serのうち少なくとも1つ濃度値」という特定を満たしている。
そして、引用発明のそれらの「濃度値に基づいて」「ラットの肥満を判別する」ステップは、補正発明の「濃度値基準評価ステップ」に相当する。
(ウ)引用発明の「(Gly)/(Val+Leu+Arg)+(Cit)/(Ala+Trp)+(Tyr)/(Lys)+(His)/(Ser+Ile+Orn)」の「判別式」は、(アミノ酸)が血中の濃度値である変数を意味することから、補正発明の「血液中のLeu,Valのうち少なくとも1つの濃度値とTyr,Trp,Glu,Ala,Pro,Gly,Serのうち少なくとも1つの濃度値、および、Leu,Valのうち少なくとも1つとTyr,Trp,Glu,Ala,Pro,Gly,Serのうち少なくとも1つを変数」「として含む」「式」の特定を満たしている。
そして、引用発明の「判別式」「を算出」するステップは、補正発明の「式の値を算出する算出ステップ」に相当する。
(エ)引用発明の「ラットの肥満を判別する方法」と補正発明の「評価対象につき内臓脂肪面積の状態を評価する」「内臓脂肪面積の評価方法」とは、評価対象につき生体状態を評価する」「評価方法」の点で共通する。
(オ)してみれば、補正発明と引用発明とは、
(一致点)
「評価対象の血液中のLeu,Valのうち少なくとも1つの濃度値とTyr,Trp,Glu,Ala,Pro,Gly,Serのうち少なくとも1つの濃度値に基づいて、前記評価対象につき状態を評価する濃度値基準評価ステップを含み、
前記濃度値基準評価ステップは、
前記評価対象の血液中のLeu,Valのうち少なくとも1つの濃度値とTyr,Trp,Glu,Ala,Pro,Gly,Serのうち少なくとも1つの濃度値、および、Leu,Valのうち少なくとも1つとTyr,Trp,Glu,Ala,Pro,Gly,Serのうち少なくとも1つを変数として含む、状態を評価するための式に基づいて、当該式の値を算出する算出ステップ
を含む、評価方法。」
の点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点)
評価する生体状態が、補正発明では「内臓脂肪面積」であるのに対し、引用発明では「肥満」である点。
ウ 相違点についての判断
肥満の状態と内臓脂肪面積の状態とは密接に関連し、肥満の状態を内臓脂肪面積の状態によって評価することは、引用文献3の摘記(3a)、引用文献4の摘記(4a)~(4d)に記載されているとおり、本願優先日前に公知のことである。そして、引用文献3の摘記(3a)に記載されているとおり、血漿中アミノ酸濃度(特にLeu,Val,Ile)が、腹囲すなわち、引用文献4の記載を踏まえれば、内臓脂肪面積と関係していることも本願優先日前に公知のことである。
してみれば、引用発明は、「Gly、Val、Leu、Arg、Cit、Ala、Trp、Tyr、Lys、His、Ser、Ile及びOrn濃度値に基づいて」肥満だけでなく「内臓脂肪面積」についても評価してみようとすることは、当業者が容易に想起し得たことである。
エ 補正発明の効果について
本願明細書に、「Leu,Valのうち少なくとも1つの濃度値とTyr,Trp,Glu,Ala,Pro,Gly,Serのうち少なくとも1つの濃度値に基づいて」「内臓脂肪面積の状態を評価する」ことの格別顕著な効果が記載されているとはいえず、引用文献1、3及び4の記載に対し、格別顕著な効果は認められない。
オ 請求人の主張
請求人は、審判請求の請求の理由で、
「引用文献1-4には、内臓脂肪面積の状態評価に特化した上記式は記載も示唆もされていないと思料いたします。そして、本願の独立請求項に係る発明によれば、引用文献1-4を組み合わせても達成することができないくらい高い精度の、内臓脂肪面積に特化した式の値を得ることができるという格別な効果を奏します。
特に、当業者が、仮に、引用文献1または2に記載された発明において、血液中のアミノ酸濃度データを変数とした病態評価を行う対象を内臓脂肪面積としたとしても、上記式を特定することは容易に想到し得ることではないと思料いたします。」と主張しているが、補正発明には、内臓脂肪面積の状態評価に特化した具体的な式は特定されていないことから、当該主張をもってして、上記イ~エにおける判断が覆ることはない。
カ 小括
よって、補正発明は、引用発明、並びに、引用文献3及び4の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
3 本件補正についてのまとめ
以上のとおり、補正発明は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない、あるいは、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。
第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1~32に係る発明は、平成平成29年2月14日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1~32に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記第2の[理由]1の前者に記載されたとおりのものである。
2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、
(理由1)この出願の請求項1~23に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
(理由2)この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
(理由3)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第3
6条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
ことを通知したものであり、概要は以下のとおりである。
理由1について
引用文献1:国際公開第2004/052191号
引用文献2:国際公開第2006/098192号
引用文献3:高橋三雄 他4名,人間ドッグにおける血漿アミノ酸測定の有用性について1(丸数字):メタボリックシンドローム検診,人間ドッグ,2006年,Vol.21,No.2,p.417(589)
引文献4:メタボリックシンドローム診断基準検討委員会,メタボリックシンドロームの定義と診断基準,日本内科学会雑誌,2005年,Vol.94,No.4,pp.188-203
引用文献1又は2に記載の発明、並びに引用文献3、4の記載事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
理由2及び3について
選択的に記載されるアミノ酸は、特定の指標式を用いた時に初めて内臓脂肪蓄積(面積)の判別能を有するものであり、指標式の種類が何ら特定されていない請求項1~23に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでなく、かつ、発明の詳細な説明は、当業者が請求項1~23に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。
3 理由1について
(1)引用文献の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1、3及び4の記載事項は、上記第2の[理由]2(3)アに記載したとおりである。
(2)対比・判断
本願発明は、上記第2の[理由]1及び2(1)で記載したとおり、補正発明にマーカッシュ形式における選択肢を追加し、そして、補正発明から「前記評価対象の血液中のLeu,Valのうち少なくとも1つの濃度値とTyr,Trp,Glu,Ala,Pro,Gly,Serのうち少なくとも1つの濃度値、および、Leu,Valのうち少なくとも1つとTyr,Trp,Glu,Ala,Pro,Gly,Serのうち少なくとも1つを変数として含む内臓脂肪面積の状態を評価するための式に基づいて、当該式の値を算出する算出ステップ」を削除した発明であり、その補正発明が、上記第2の[理由]2(3)に記載したとおり、引用発明並びに引用文献3及び4の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明並びに引用文献3及び4の記載事項に基づいて基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
4 理由3について
上記3(2)のとおり、本願発明は、補正発明のより上概概念の発明であり、実質的に上記第2の[理由]2(2)での判断のとおりであるから、本願発明は、発明の詳細な説明に記載したものとはいえず、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない、あるいは、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その余の拒絶の理由及びその余の請求項に係る発明について言及するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり、審決する。
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2017-016266