特許拒絶査定不服審判
2024-007929
疑似インビボ条件での治療用タンパク質の選択
- 審判番号
- 2024-007929
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2021-507663
- 請求日
- 2024年05月13日
- 審決日
- 2025年07月23日
- 公報発行日
- 2026年01月30日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】リジェネロン・ファーマシューティカルズ・インコーポレイテッド
- 【請求人代理人】清水 初志
- 【請求人代理人】小寺 秀紀
- 【請求人代理人】山口 裕孝
- 【請求人代理人】刑部 俊
- 【請求人代理人】井上 隆一
- 【請求人代理人】佐藤 利光
- 【請求人代理人】梅村 幸輔
- 【請求人代理人】新見 浩一
- 【請求人代理人】小林 智彦
- 【請求人代理人】大関 雅人
- 【請求人代理人】塩田 真紀
- 【請求人代理人】川本 和弥
- 審判長/審判官
- 審判長 加々美 一恵
- 審判官 松本 隆彦
- 審判官 宮澤 浩
- 分類
- P18 .121-Z (G01N) / P18 .537-Z (G01N) / P18 .572-Z (G01N) / P18 .575-Z (G01N)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第17条の2第5項、特許法第17条の2第6項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2021-507663「疑似インビボ条件での治療用タンパク質の選択」拒絶査定不服審判事件〔令和2年2月20日国際公開、WO2020/036845、令和3年12月9日国内公表、特表2021-534393〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、2019年(令和元年)8月12日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2018年8月13日、米国 2019年6月24日、米国)を国際出願日とする出願であって、令和5年5月23日付けの拒絶理由の通知に対し、同年10月18日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされたが、令和6年1月5日付けで拒絶査定がなされ、これに対して同年5月13日に審判の請求がなされると同時に手続補正(以下「本件補正」という。)がなされたものである。
第2 本件補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
本件補正を却下する。
[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
(1)本件補正前の請求項1に係る発明
本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、令和5年10月18日に提出された手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された、次のとおりである。
「 以下の工程を含む、疑似インビボ条件での標的分子の捕捉分子への結合に対する非特異的相互作用の効果を決定する方法:
(a) 生物学的に適切な分子密集剤を選択する工程であって、前記密集剤が標的分子に特異的に結合しないタンパク質である、工程、
(b) 前記生物学的に適切な分子密集剤と前記標的分子とを含む溶液をバイオセンサーに接触させる工程であって、前記バイオセンサーの表面は、前記標的分子と特異的に結合する捕捉分子を含む、工程、
(c) 前記標的分子が前記捕捉分子に結合することを可能にする工程、
(d) バイオレイヤー干渉法を使用して、前記捕捉分子に結合した前記標的分子の量を決定する工程、および
(e) 前記捕捉分子に結合した前記標的分子の量を対照閾値と比較し、前記標的分子の前記捕捉分子への結合に対する非特異的相互作用の効果を決定する工程、
ここで、前記対照閾値は、理想溶液、希薄溶液、または半希薄溶液に対して正規化された応答である。」
(2)本件補正後の請求項1に係る発明
本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、令和6年5月13日に提出された手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された、次のとおりである(下線部は補正箇所を示す。)。
「 以下の工程を含む、疑似インビボ条件での生物学的に適切な分子密集剤と標的分子の間の、前記標的分子の捕捉分子への結合に対する非特異的相互作用の効果を決定する方法:
(a) 生物学的に適切な分子密集剤を選択する工程であって、前記密集剤が標的分子に特異的に結合しないタンパク質である、工程、
(b) 前記生物学的に適切な分子密集剤と前記標的分子とを含む溶液をバイオセンサーに接触させる工程であって、前記バイオセンサーの表面は、前記標的分子と特異的に結合する捕捉分子を含む、工程、
(c) 前記標的分子が前記捕捉分子に結合することを可能にする工程、
(d) バイオレイヤー干渉法を使用して、前記捕捉分子に結合した前記標的分子の量を決定する工程、および
(e) 前記捕捉分子に結合した前記標的分子の量を対照応答と比較し、前記生物学的に適切な分子密集剤と前記標的分子の間の、前記標的分子の前記捕捉分子への結合に対する非特異的相互作用の効果を決定する工程、
ここで、前記対照応答は、前記生物学的に適切な分子密集剤の理想溶液、希薄溶液、または半希薄溶液に対して正規化された応答である。」
2 補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「非特異的相互作用」について、「生物学的に適切な分子密集剤と標的分子の間」の非特異的相互作用であることを限定する補正事項、及び、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「理想溶液、希釈溶液、または半希釈溶液」について、「前記生物学的に適切な分子密集剤の」理想溶液等であることを限定する補正事項を含むものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。
3 本件補正発明
本件補正発明は、前記1(2)に記載したとおりのものである。
4 引用文献
(1)引用文献5
ア 引用文献5の記載事項
原査定の拒絶の理由で引用文献5として引用され、本願の最先の優先権主張の日前に、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、Dayton J. Goodell等,“CaMKII Binding to GluN2B Is Differentially Affected by Macromolecular Crowding Reagents”, PLoS ONE,Volume 9, Issue 5, e96522, 2014年5月5日,https://doi.org/10.1371/journal.pone.0096522(以下「引用文献5」という。)には、図面とともに、以下の記載事項がある。なお、括弧内に翻訳文を記載すると共に、引用発明の認定等に用いた箇所に下線を付した。
(ア)第1頁 要約
「Abstract
Binding of the Ca2+/calmodulin(CaM)-dependent protein kinase II (CaMKII) to the NMDA-type glutamate receptor (NMDAR) subunit GluN2B controls long-term potentiation (LTP), a form of synaptic plasticity thought to underlie learning and memory. Regulation of this interaction is well-studied biochemically, but not under conditions that mimic the macromolecular crowding found within cells. Notably, previous molecular crowding experiments with lysozyme indicated an effect on the CaMKII holoenzyme conformation. Here, we found that the effect of molecular crowding on Ca2+/CaM-induced CaMKII binding to immobilized GluN2B in vitro depended on the specific crowding reagent. While binding was reduced by lysozyme, it was enhanced by BSA. The ATP content in the BSA preparation caused CaMKII autophosphorylation at T286 during the binding reaction; however, enhanced binding was also observed when autophosphorylation was blocked. Importantly, the positive regulation by nucleotide and BSA (as well as other macromolecular crowding reagents) did not alleviate the requirement for CaMKII stimulation to induce GluN2B binding. The differential effect of lysozyme (14 kDa) and BSA (66 kDa) was not due to size difference, as both dextran-10 and dextran-70 enhanced binding. By contrast, crowding with immunoglobulin G (IgG) reduced binding. Notably, lysozyme and IgG but not BSA directly bound to Ca2+/CaM in an overlay assay, suggesting a competition of lysozyme and IgG with the Ca2+/CaM-stimulus that induces CaMKII/GluN2B binding. However, lysozyme negatively regulated binding even when it was instead induced by CaMKII T286 phosphorylation. Alternative modes of competition would be with CaMKII or GluN2B, and the negative effects of lysozyme and IgG indeed also correlated with specific or non-specific binding to the immobilized GluN2B. Thus, the effect of any specific crowding reagent can differ, depending on its additional direct effects on CaMKII/GluN2B binding. However, the results of this study also indicate that, in principle, macromolecular crowding enhances CaMKII binding to GluN2B.」
(要約
Ca2+/カルモジュリン(CaM)依存性プロテインキナーゼII(CaMKII)とNMDA型グルタミン酸受容体(NMDAR)サブユニットGluN2Bとの結合は、学習と記憶の基礎となると考えられているシナプス可塑性の一形態である長期増強(LTP)を制御している。この相互作用の制御は生化学的によく研究されているが、細胞内で見られる高分子の密集を模倣した条件下では行われていない。リゾチームを用いた以前の分子密集実験では、CaMKIIホロ酵素のコンフォメーションへの影響が示唆されていた。ここで我々は、固定化GluN2BへのCa2+/CaM誘導CaMKII結合に対するin vitroでの分子密集の効果が、特定の密集試薬に依存することを見出した。結合はリゾチームによって減少したが、BSAによって増強された。BSA調製物中のATP含量は、結合反応中にT286でのCaMKIIの自己リン酸化を引き起こした;しかしながら、自己リン酸化をブロックした場合にも結合の増強が観察された。重要なことは、ヌクレオチドとBSA(および他の高分子密集試薬)による正の制御は、GluN2B結合を誘導するためのCaMKII刺激の必要性を軽減しなかったことである。リゾチーム(14kDa)とBSA(66kDa)の効果の違いは、デキストラン-10とデキストラン-70の両方が結合を促進したため、サイズの違いによるものではなかった。対照的に、免疫グロブリンG(IgG)との密集は結合を減少させた。注目すべきは、リゾチームとIgGはCa2+/CaMに直接結合したが、BSAは結合しなかったことで、CaMKII/GluN2B結合を誘導するCa2+/CaM刺激とリゾチームとIgGの競合が示唆された。しかしリゾチームは、CaMKII T286リン酸化によって結合が誘導された場合でも、結合を負に制御した。CaMKIIやGluN2Bと競合することも考えられるし、リゾチームやIgGの負の効果も、固定化されたGluN2Bへの特異的あるいは非特異的結合と相関している。従って、特定の密集試薬の効果は、CaMKII/GluN2B結合に対する付加的な直接的効果によって異なる可能性がある。しかし、本研究の結果は、原理的には、高分子の密集がGluN2BへのCaMKIIの結合を増強することも示している。)
(イ)第2頁左欄第14~30行(第2段落)
「 Notably, the extensive biochemical studies on the regulation of the CaMKII/GluN2B interaction described above have not included conditions that mimic the macromolecular crowding found within cells. In principle, such molecular crowding is expected to enhance binding reactions (for review see [23.25]). However, this is based on the assumption that the molecular crowding reagent is inert to the binding reaction, which needs to be tested for any specific crowding reagent. For CaMKII, there is an additional complication to a straightforward prediction. CaMKII forms 12meric holoenzymes, with the C-terminal association domains forming a central hub and the N-terminal kinase domains radiating outward (for review see [1]). Importantly, while CaMKII holoenzymes are in an extended open conformation in typical biochemical dilutions, molecular crowding conditions favor a compact closed conformation in which the kinase domains fold back to interact with the association domains, a conformation that hinders Ca2+/CaM binding [15].」
( 注目すべきことに、上記のCaMKII/GluN2B相互作用の制御に関する広範な生化学的研究は、細胞内で見られる高分子の密集を模倣した条件を含んでいない。原理的には、このような分子の密集は結合反応を促進すると予想される(総説は[23.25]を参照)。しかしこれは、分子密集試薬が結合反応に対して不活性であるという仮定に基づいており、特定の密集試薬についてテストする必要がある。CaMKIIの場合、単純な予測にはさらに複雑な問題がある。CaMKIIは12量体のホロ酵素を形成し、C末端の会合ドメインが中心ハブを形成し、N末端のキナーゼドメインが放射状に広がっている(総説は[1]を参照)。重要なことは、CaMKIIホロ酵素は典型的な生化学的希釈液中では伸長した開いたコンフォメーションにあるが、分子密集条件下では、キナーゼドメインが折り返されて会合ドメインと相互作用するコンパクトな閉じたコンフォメーションが有利であり、このコンフォメーションはCa2+/CaM結合を妨げるということである[15]。)
(ウ)第2頁左欄第31~42行(第3段落)
「 Here, we tested the effect of several molecular crowding reagents on CaMKII binding to GluN2B in vitro. While most crowding reagents had a positive effect (BSA, dextran-10, dextran-70), two had a negative effect (lysozyme, IgG) and one had no statistically significant effect (PVP-40). Importantly, while nucleotide and macromolecular crowding (with BSA or dextran) both significantly enhanced Ca2+/CaM-stimulated binding to GluN2B, neither was sufficient to induce binding in the absence of Ca2+/CaM or T286 phosphorylation. Thus, the constitutive presence of nucleotide and molecular crowding within cells can affect binding, but does not alleviate the strict dependence of CaMKII/GluN2B interaction on Ca2+ -mediated signaling.」
( ここでは、いくつかの分子密集試薬がGluN2BへのCaMKII結合に及ぼす影響をインビトロで試験した。ほとんどの密集試薬はプラスの効果を示したが(BSA、デキストラン-10、デキストラン-70)、2つはマイナスの効果を示し(リゾチーム、IgG)、1つは統計的に有意な効果を示さなかった(PVP-40)。重要なことは、ヌクレオチドと高分子の密集(BSAまたはデキストランを使用)は、どちらもCa2+/CaM刺激によるGluN2Bへの結合を有意に増強したが、どちらもCa2+/CaMやT286リン酸化がない場合の結合を誘導するには不十分であったことである。このように、細胞内のヌクレオチドや分子密集の構成的な存在は、結合に影響を与えることはあっても、CaMKII/GluN2B相互作用のCa2+仲介シグナル伝達への厳密な依存性を緩和することはない。)
(エ)第2頁左欄第43行、同頁右欄第10~38行
「Materials and Methods」
(材料と方法)
「CaMKII binding to GluN2B immobilized in microtiter plates
CaMKII binding to GST-GluN2B-C (containing the GluN2B cytoplasmic C-terminus, amino acids 1120-1482) immuno-immobilized in anti-GST-coated microtiter plate wells was done as described previously [9,12,13,27] with some modifications. Plates were washed four times with PST (50 mM PIPES pH 7.12, 150 mM NaCl, 0.05% Tween-20) prior to GST-GluN2B binding. GST-GluN2B (300 nM; an over-saturating concentration) was incubated in wells in a 50 ml PST solution containing 0.1% BSA for one hour under gentle agitation at room temperature. Plates were then washed four more times and blocked with 100 ml 5% BSA in PST for one hour under gentle agitation at room temperature. After removal of blocking solution, plates were washed once more with PST. Then, molecular crowding reagents (Lysozyme, BSA, dextran-10 and 270, PVP-40, or IgG; 30 ml) were added, followed by binding buffer (10 ml) and CaMKII (10 ml), for a final concentration of 40 nM CaMKIIa subunits, 100 mg/ml crowding reagent, 50 mM PIPES pH 7.12, 150 mM NaCl, 0.1% Tween-20, 1 mM CaCl2, 1 mM CaM, 9.5 mM MgCl2 and 100 mM ADP. This binding reaction was incubated for 15 min under gentle agitation at room temperature.Unbound CaMKIIa was discarded and plates were washed in PST containing 1 mM EGTA four to eight times to remove remnants of high concentration molecular crowding agents. 60 ml of loading buffer containing 2% SDS was then added to the wells and samples were incubated at 95℃ for 10 minutes to dissociate bound proteins from the plates.Samples were then analyzed by SDS-PAGE and immuno-blotting.」
(マイクロタイタープレートに固定されたGluN2Bに結合するCaMKII
抗GSTコートマイクロタイタープレートウェルに免疫固定化したGST-GluN2B-C(GluN2B細胞質C末端、アミノ酸1120-1482を含む)に対するCaMKIIの結合は、いくつかの修正を加えて、以前に記載されたように行った[9,12,13,27]。GST-GluN2B結合の前に、プレートをPST(50mM PIPES pH7.12,150mM NaCl,0.05% Tween-20)で4回洗浄した。GST-GluN2B(300nM;過飽和濃度)を、0.1%BSAを含む50mlのPST溶液中のウェルで、室温で穏やかに攪拌しながら1時間インキュベートした。その後、プレートをさらに4回洗浄し、室温で穏やかに攪拌しながら100mlの5%BSA in PSTで1時間ブロッキングした。ブロッキング溶液を除去した後、プレートをPSTでもう一度洗浄した。次に、分子密集試薬(リゾチーム、BSA、デキストラン-10および270、PVP-40、またはIgG;30ml)を添加し、続いて結合緩衝液(10ml)及びCaMKII(10ml)を添加し、最終濃度を40nM CaMKIIaサブユニット、100mg/ml密集試薬、50mM PIPES pH7.12、150mM NaCl、0.1% Tween-20、1mM1 mM CaCl2、1 mM CaM、9.5 mM MgCl2および100 mM ADP。この結合反応を室温で穏やかに攪拌しながら15分間インキュベートした。未結合のCaMKIIaは廃棄し、高濃度の分子密集剤の残りを除去するために、1mM EGTAを含むPSTで4~8回プレートを洗浄した。その後、2%SDSを含む60mlのローディングバッファーをウェルに加え、サンプルを95℃で10分間インキュベートし、プレートから結合タンパク質を解離させた。その後、サンプルをSDS-PAGEと免疫ブロッティングで分析した。)
(オ)第6頁右欄第35行~第7頁右欄第9行
「Discussion
The regulated binding of CaMKII to the NMDAR subunit GluN2B is thought to mediate stimulus-induced targeting of CaMKII to synapses, and is functionally important for enhancement of synaptic strength (for review see [1,2]). The results of this study indicate that mimicking the macromolecular crowding conditions found within cells in principle enhances CaMKII binding to GluN2B, consistent with the expectation that such crowding favors the interaction between binding partners (for review see [23.25]). However, some crowding reagents, lysozyme and IgG, instead even decreased binding. Initially, this effect appeared to be explained by an unexpected Ca2+/CaM binding to lysozyme (and to a lesser extent to IgG), which could compete for the stimulus that induced the binding. However, lysozyme had a negative effect even when binding was induced instead by CaMKII autophosphorylation at T286, without any free Ca2+ present in the binding reaction. Thus, the effect of other specific molecular crowding reagents on the CaMKII/GluN2B interaction cannot be directly predicted based on our results. Empirically, our findings showed that molecular crowding (100 mg/ml) with BSA, dextran-10 or dextran-70 enhanced binding, while lysozyme and IgG instead decreased it, and PVP-40 showed a small apparent increase that was not statistically significant. An obvious way how a crowding reagent could decrease CaMKII/GluN2B interaction is direct binding to the interaction surface of either protein, but it is difficult to rule out such an effect: A low affinity binding could be reversed during the washes required for the detection assay, but could still cause significant competition at the high concentrations required for molecular crowding. Here, the negative effects on CaMKII/GluN2B binding was correlated with binding of lysozyme and IgG to GST-GluN2B immobilized on a scaffold.While the lysozyme binding was also detected for empty scaffold without GluN2B, even such non-specific scaffold binding could cause steric hindrance for the specific CaMKII/GluN2B interaction.However, other underlying reasons, such as undetected additional direct binding to CaMKII or GluN2B, are also possible.」
(検討
NMDARサブユニットGluN2BへのCaMKIIの制御された結合は、シナプスへのCaMKIIの刺激誘発性ターゲティングを媒介すると考えられており、シナプス強度の増強に機能的に重要である(総説は[1,2]を参照)。本研究の結果は、細胞内で見られる高分子の密集状態を模倣することで、原理的にCaMKIIとGluN2Bの結合が促進されることを示しており、このような密集状態は結合パートナー間の相互作用を促進するという予想と一致している(総説は[23.25]を参照)。しかし、リゾチームやIgGなどの密集試薬は、かえって結合を減少させた。当初、この効果は予想外のCa2+/CaM結合がリゾチーム(IgGも同様)と結合することで説明できるように思われたが、これは結合を誘導する刺激と競合する可能性がある。しかしリゾチームは、結合反応に遊離Ca2+が存在せず、代わりにT286でのCaMKIIの自己リン酸化によって結合が誘導された場合でも、負の効果を示した。したがって、CaMKII/GluN2B相互作用に対する他の特異的な分子密集試薬の効果は、今回の結果から直接予測することはできない。経験的に、BSA、デキストラン-10またはデキストラン-70を用いた分子密集(100mg/mll)は結合を促進し、リゾチームとIgGは結合を減少させ、PVP-40は統計的に有意ではないものの、わずかな増加を示した。密集試薬がCaMKII/GluN2B相互作用を減少させる明らかな方法は、どちらかのタンパク質の相互作用表面への直接結合であるが、そのような効果を除外することは難しい:親和性の低い結合は、検出アッセイに必要な洗浄中に逆転する可能性があるが、それでも分子密集に必要な高濃度では有意な競合を引き起こす可能性がある。ここで、CaMKII/GluN2B結合に対する負の効果は、足場に固定化したGST-GluN2Bに対するリゾチームとIgGの結合と相関していた。リゾチーム結合はGluN2Bを含まない空の足場でも検出されたが、このような非特異的な足場結合でさえ、特異的なCaMKII/GluN2B相互作用の立体障害を引き起こす可能性がある。しかし、CaMKIIやGluN2Bへの直接結合が未検出であるなど、他の理由も考えられる。)
イ 引用文献5に記載された発明
引用文献5の前記記載事項(ウ)及び(エ)に基づけば、引用文献5には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「いくつかの分子密集試薬がGluN2BへのCaMKII結合に及ぼす影響をインビトロで試験する方法であって、
抗GSTコートマイクロタイタープレートウェルに免疫固定化したGST-GluN2B-Cに対するCaMKIIの結合を、分子密集試薬(リゾチーム、BSA、デキストラン-10および270、PVP-40、またはIgG)を添加し、続いて結合緩衝液及びCaMKIIを添加し、この結合反応を室温で穏やかに攪拌しながら15分間インキュベートし、未結合のCaMKIIaは廃棄し、高濃度の分子密集剤の残りを除去するためにプレートを洗浄し、その後、ローディングバッファーをウェルに加え、サンプルを95℃で10分間インキュベートし、プレートから結合タンパク質を解離させ、その後、サンプルをSDS-PAGEと免疫ブロッティングで分析する方法。」
(2)引用文献6
ア 引用文献6の記載事項
原査定の拒絶の理由で引用文献6として引用され、本願の最先の優先権主張の日前に、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、Rejane L. Petersen,“Strategies Using Bio-Layer Interferometry Biosensor Technology for Vaccine Research and Development”, Biosensors, 2017, 7, 49,2017年10月31日,doi:10.3390/bios7040049(以下「引用文献6」という。)には、図面とともに、以下の記載事項がある。なお、括弧内に翻訳文を記載すると共に、開示された技術的事項の認定等に用いた箇所に下線を付した。
(ア)第1頁 要約
「Abstract: Bio-layer interferometry (BLI) real-time, label-free technology has greatly contributed to advances in vaccine research and development. BLI Octet platforms offer high-throughput, ease of use, reliability, and high precision analysis when compared with common labeling techniques. Many different strategies have been used to immobilize the pathogen or host molecules on BLI biosensors for real-time kinetics and affinity analysis, quantification, or high-throughput titer. These strategies can be used in multiple applications and shed light onto the structural and functional aspects molecules play during pathogen-host interactions. They also provide crucial information on how to achieve protection. This review summarizes some key BLI strategies used in human vaccine research and development.」
(要約:リアルタイムで、ラベルフリーの技術であるバイオレイヤー干渉法(BLI)は、ワクチン研究開発の進歩に大きく貢献してきた。BLI Octetプラットフォームは、一般的な標識技術と比較して、ハイスループット、使いやすさ、信頼性、高精度分析を提供する。BLIバイオセンサーに病原体や宿主分子を固定化し、リアルタイムの動態解析やアフィニティー解析、定量化、ハイスループット力価測定を行うために、多くの異なる戦略が用いられてきた。これらの戦略はさまざまな応用が可能であり、病原体と宿主の相互作用において分子が果たす構造的・機能的側面に光を当てることができる。また、保護を実現するための重要な情報も提供している。この総説では、ヒトワクチンの研究開発で使用されている主要なBLI戦略をいくつか要約する。)
(イ)第1頁下から7行~第2頁第22行 はじめに
「Molecular interaction information, like kinetic rate constants, affinity binding constants, and specific molecule quantitation are some of the main characterization information that can be deducted from a BLI platform. Such information is necessary when characterizing and studying molecular interactions and is important for complementing other technologies when providing functional information of a molecule. In a typical BLI binding kinetics experiment, the assay begins with an initial baseline using an assay buffer, followed by a ligand molecule immobilization on the surface of the biosensor (loading), followed by another baseline step and association or analyte binding step, then finalized with dissociation in the presence of buffer only. The binding response is measured and reported in real time in the form of a sensorgram trace, which is then fitted using specified algorithms based on known binding models [2]. Kinetics measures how fast an interaction occurs and is depicted by the relationship between association rate constant (ka) and dissociation rate constant (kd). These constants are expressed as ka, M-1s-1 and kd, s-1. Affinity measures how strong the interaction is and is depicted when binding reaches an equilibrium. It is usually referred as affinity constant (KD) or dissociation equilibrium constant, which is expressed in molar as the concentration of analyte required to occupy 50% of the surface ligand sites at equilibrium. These constants are readily calculated during software data analysis. For quantitation experiments, the molecule(s) bound to the biosensor are quantified in relation to a set of standards of similar characteristics. Software algorithms based on known curve equations deliver quantitation and CV% information [2,3].」
( 動力学的速度定数、親和性結合定数、特異的分子定量などの分子間相互作用情報は、BLIプラットフォームから推測できる主な特性情報の一部である。このような情報は、分子間相互作用の特性評価や研究に必要であり、分子の機能情報を提供する際に他の技術を補完するためにも重要である。典型的なBLI結合動態実験では、アッセイバッファーを用いた最初のベースラインからアッセイが始まり、次にバイオセンサー表面へのリガンド分子の固定化(ローディング)、さらにベースラインステップ、会合または分析物の結合ステップが続き、最後にバッファーのみの存在下で解離が行われる。結合反応はリアルタイムで測定され、センサー波形図の形で報告され、その後、既知の結合モデル[2]に基づいて指定されたアルゴリズムを用いてフィッティングされる。動力学は、相互作用がどの程度の速さで起こるかを測定するもので、会合速度定数(ka)と解離速度定数(kd)の関係で表される。これらの定数はka、M-1s-1およびkd、s-1で表される。親和性は相互作用の強さを表し、結合が平衡に達したときに示される。これは通常、親和定数(KD)または解離平衡定数と呼ばれ、平衡状態において表面リガンドサイトの50%を占めるのに必要な分析物の濃度としてモル単位で表される。これらの定数は、ソフトウェアのデータ解析で簡単に計算できる。定量実験では、バイオセンサーに結合した分子は、類似した特性を持つ標準物質との関連で定量される。既知の曲線方程式に基づくソフトウェアアルゴリズムにより、定量とCV%の情報が提供される[2,3]。)
「 Traditional assays, like equilibrium binding assays and endpoint assays, are cumbersome and fail to provide complete information about the interaction. Other traditional technologies, like enzyme-linked immunosorbent assays (ELISAs), high performance liquid chromatography (HPLC), native-PAGE gels, capillary electrophoresis, and single radial immunodiffusion (SRID) are encumbered by drawbacks that include long assay times, extensive hands-on labeling, and low throughput in some cases. In addition, techniques such as ELISA and SRID can exhibit high variability, resulting in lower accuracy and poor precision. Bio-Layer Interferometry (BLI) combines the high-throughput characteristics of a 96-well or 384-well plate format, with improved precision, reproducibility, and ease of use. For higher throughput, BLI technology can be combined with a robotic platform [4]. Other biosensor technologies like SPR require extensive instrument maintenance, buffer/sample treatments, and microfluidics maintenance that add time and cost of operations.」
( 平衡結合アッセイやエンドポイントアッセイのような従来のアッセイは煩雑で、相互作用に関する完全な情報を提供できない。酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、ネイティブPAGEゲル、キャピラリー電気泳動、単一放射状免疫拡散法(SRID)などの他の従来技術は、長いアッセイ時間、大掛かりな手作業によるラベル付け、場合によっては低いスループットなどの欠点に悩まされる。さらに、ELISAやSRIDのような技術は変動が大きく、精度が低く、正確性に欠ける。バイオレイヤー干渉法(BLI)は、96ウェルまたは384ウェルプレートフォーマットのハイスループット特性と、改善された精度、再現性、使いやすさを兼ね備えている。より高いスループットを得るために、BLI技術をロボットプラットフォームと組み合わせることができる[4]。SPRのような他のバイオセンサー技術では、装置のメンテナンス、バッファー/サンプル処理、マイクロフルイディクスのメンテナンスが必要であり、時間とコストがかかる。)
(ウ)第11頁第23~29行 まとめ
「7. Conclusions
BLI technology has greatly assisted with vaccine research and development in recent years. With the various label-free BLI platforms and biosensors, it is possible to obtain detailed information from binding kinetics, specificity/affinity, immune responses, epitope mapping, and vaccine titer and concentration. This makes BLI a very powerful technique to be adopted in any laboratory involved in the development and production of vaccines and where scientists are trying to prevent or remediate pathogenic attack for the ultimate goal of protecting the population.」
(7.まとめ
BLI技術は、近年のワクチンの研究開発に大きく貢献している。様々なラベルフリーBLIプラットフォームとバイオセンサーを用いることにより、結合動態、特異性/親和性、免疫反応、エピトープマッピング、ワクチンの力価や濃度などの詳細な情報を得ることができる。このため、BLIは、ワクチンの開発や製造に携わる研究室や、科学者たちが住民を守るという究極の目標のために病原体による攻撃を予防または改善しようとしている研究室で採用されるべき、非常に強力な技術である。)
イ 引用文献6に開示された技術的事項
引用文献6の前記記載事項(ア)~(ウ)に基づけば、引用文献6には、次の技術的事項が、本願の最先の優先権主張の日前に知られていたといえる。
「ラベルフリーの技術であるバイオレイヤー干渉法は、一般的な標識技術と比較して、ハイスループット、使いやすさ、信頼性、高精度分析を提供するものであり、特異的分子定量などの分子間相互作用情報を推測し、特異性/親和性などの詳細な情報を得ることができ、定量実験では、バイオセンサーに結合した分子は、類似した特性を持つ標準物質との関連で定量されること。」
5 対比
本件補正発明と引用発明とを対比する。
(1)工程(a)
引用発明は、「いくつかの分子密集試薬がGluN2BへのCaMKII結合に及ぼす影響をインビトロで試験する方法」であって、分子密集試薬として、「リゾチーム」、「BSA」又は「IgG」を用いている。ここで、「リゾチーム」、「BSA」又は「IgG」は、いずれも、生体内に多く存在する分子であるから、「生物学的に適切な分子密集剤」であるといえる。したがって、引用発明の「いくつかの分子密集試薬」として、「リゾチーム」、「BSA」又は「IgG」を用いる工程は、本件補正発明の「生物学的に適切な分子密集剤を選択する工程」に相当する。
また、「リゾチーム」、「BSA」又は「IgG」は、いずれも、「GluN2B」及び「CaMKII」に対して特異的に結合するものではない。また、「リゾチーム」、「BSA」及び「IgG」は、タンパク質である。したがって、引用発明の「リゾチーム」、「BSA」及び「IgG」は、いずれも、本件補正発明の「前記密集剤が標的分子に特異的に結合しないタンパク質」であるとする要件を満たしている。
(2)工程(b)及び工程(c)
引用発明は、「抗GSTコートマイクロタイタープレートウェルに免疫固定化したGST-GluN2B-Cに対するCaMKIIの結合を、分子密集試薬(リゾチーム、BSA、デキストラン-10および270、PVP-40、またはIgG)を添加し、続いて結合緩衝液及びCaMKIIを添加し、この結合反応を室温で穏やかに攪拌しながら15分間インキュベート」している。
ここで、引用発明の「抗GSTコートマイクロタイタープレートウェルに免疫固定化したGST-GluN2B-C」は、マイクロタイタープレートウェルの表面に「GST-GluN2B-C」を含むものである。そうすると、引用発明の「GST-GluN2B-C」は、本件補正発明の「捕捉分子」に相当し、「表面」に含まれる点で共通している。また、引用発明の「CaMKII」は「GST-GluN2B-C」に結合するものであるから、本件補正発明の「標的分子」に相当する。
そして、引用発明は「分子密集試薬」を添加し、「続いて結合緩衝液及びCaMKIIを添加」し、その後、「この結合反応を室温で穏やかに攪拌しながら15分間インキュベート」している。引用発明は、インキュベートする工程において、「分子密集試薬」と「CaMKII」を含む溶液と、「GST-GluN2B-C」を含む「表面」とを接触させているといえる。したがって、本件補正発明の工程(b)と引用発明の「結合反応を室温で穏やかに攪拌しながら15分間インキュベート」する工程とは、「(b) 前記生物学的に適切な分子密集剤と前記標的分子とを含む溶液を表面に接触させる工程であって、前記表面は、前記標的分子と特異的に結合する捕捉分子を含む、工程」である点で共通する。
さらに、引用発明の「結合反応を室温で穏やかに攪拌しながら15分間インキュベート」する工程において、「CaMKII」が「GST-GluN2B-C」に結合しているといえる。したがって、引用発明の「結合反応を室温で穏やかに攪拌しながら15分間インキュベート」する工程は、本件補正発明の「(c) 前記標的分子が前記捕捉分子に結合することを可能にする工程」にも相当する。
(3)工程(d)
引用発明は、「未結合のCaMKIIaは廃棄し、高濃度の分子密集剤の残りを除去するためにプレートを洗浄し、その後、ローディングバッファーをウェルに加え、サンプルを95℃で10分間インキュベートし、プレートから結合タンパク質を解離させ、その後、サンプルをSDS-PAGEと免疫ブロッティングで分析」している。ここで、「SDS-PAGEと免疫ブロッティングで分析」されるサンプルは、マイクロタイタープレートウェルの表面に含まれる「GST-GluN2B-C」に結合していた「CaMKII」である。また、引用発明は、「分子密集試薬がGluN2BへのCaMKII結合に及ぼす影響」を試験する方法である。「GluN2BへのCaMKII結合に及ぼす影響」を試験するためには、その結合が増強又は抑制されたことを検知する必要があるから、引用発明は、その結合の量を示す「CaMKII」の量を分析しているといえる。そうすると、引用発明は、「前記捕捉分子に結合した前記標的分子」の「量」を決定しているといえる。
したがって、本件補正発明の工程(d)と引用発明の「サンプルをSDS-PAGEと免疫ブロッティングで分析」する工程とは、「(d)前記捕捉分子に結合した前記標的分子の量を決定する工程」である点で共通する。
(4)工程(e)
引用発明は、「いくつかの分子密集試薬がGluN2BへのCaMKII結合に及ぼす影響をインビトロで試験する方法」であって、前記(1)~(3)において検討した工程を含むものである。
そうすると、本件補正発明の工程(e)と引用発明とは、「(e)前記生物学的に適切な分子密集剤と前記標的分子の間の、前記標的分子の前記捕捉分子への結合に対する非特異的相互作用の効果を決定する工程」を含む点で共通する。
また、本件補正発明と引用発明とは、「生物学的に適切な分子密集剤と標的分子の間の、前記標的分子の捕捉分子への結合に対する非特異的相互作用の効果を決定する方法」である点でも共通している。
(5)一致点及び相違点
以上より、本件補正発明と引用発明とは、
「 以下の工程を含む、生物学的に適切な分子密集剤と標的分子の間の、前記標的分子の捕捉分子への結合に対する非特異的相互作用の効果を決定する方法:
(a) 生物学的に適切な分子密集剤を選択する工程であって、前記密集剤が標的分子に特異的に結合しないタンパク質である、工程、
(b) 前記生物学的に適切な分子密集剤と前記標的分子とを含む溶液を表面に接触させる工程であって、前記表面は、前記標的分子と特異的に結合する捕捉分子を含む、工程、
(c) 前記標的分子が前記捕捉分子に結合することを可能にする工程、
(d) 前記捕捉分子に結合した前記標的分子の量を決定する工程、および
(e) 前記生物学的に適切な分子密集剤と前記標的分子の間の、前記標的分子の前記捕捉分子への結合に対する非特異的相互作用の効果を決定する工程。」
である点で一致し、以下の点で相違又は一応相違する。
[相違点1]本件補正発明は、「疑似インビボ条件」での効果を決定する方法であるのに対し、引用発明は、「疑似インビボ条件」での効果を決定するものであるかが明らかでない点。
[相違点2]本件補正発明は、「バイオレイヤー干渉法」を使用するものであって、溶液を「バイオセンサー」に接触させるのに対し、引用発明は、「SDS-PAGEと免疫ブロッティング」を使用するものであって、「抗GSTコートマイクロタイタープレートウェル」に接触させる点。
[相違点3]本件補正発明は、捕捉分子に結合した標的分子の量を、「生物学的に適切な分子密集剤の理想溶液、希薄溶液、または半希薄溶液に対して正規化された応答」である「対照応答と比較」して非特異的相互作用の効果を決定するのに対し、引用発明は、分子密集試薬がGluN2BへのCaMKII結合に及ぼす影響をどのように決定するかを特定していない点。
6 判断
(1)[相違点1]について
引用文献5の記載事項(オ)の「本研究の結果は、細胞内で見られる高分子の密集状態を模倣することで、原理的にCaMKIIとGluN2Bの結合が促進されることを示しており、このような密集状態は結合パートナー間の相互作用を促進するという予想と一致している・・・。」との記載に基づけば、引用発明は、「細胞内で見られる高分子の密集状態を模倣」したものといえる。そうすると、引用発明は、「疑似インビボ条件」において、GluN2BへのCaMKII結合に及ぼす影響を試験しているといえる。
そうすると、上記[相違点1]は、実質的な相違点とはいえないものである。
(2)[相違点2]について
前記4(2)イに記載したとおり、本願の最先の優先権主張の日前に、次の技術的事項が知られていたといえる。
「ラベルフリーの技術であるバイオレイヤー干渉法は、一般的な標識技術と比較して、ハイスループット、使いやすさ、信頼性、高精度分析を提供するものであり、特異的分子定量などの分子間相互作用情報を推測し、特異性/親和性などの詳細な情報を得ることができ、定量実験では、バイオセンサーに結合した分子は、類似した特性を持つ標準物質との関連で定量されること。」
なお、バイオレイヤー干渉法は、令和5年5月23日付けの拒絶理由の通知において引用された引用文献1(Judy Y,Bioanalysis,2014年,Vol.6 No.8,Page.1103-1112)や、引用文献4(David L. Brandon,J. Agric. Food Chem.,2015年03月30日,Vol.63,Page.3593-3598)にも記載された技術であり、「Octetシステム」として市販されてもいる。
以上のとおり、バイオレイヤー干渉法は一般的に行われる結合アッセイであり、特異性/親和性などの詳細な情報を得ることができるものであって、定量実験に用いることも知られている。また、一般的な標識技術と比較して、ハイスループット、使いやすさ、信頼性、高精度分析を提供するものとされていることから、従来の標識技術の代わりに用いることができるものであることも理解できる。
引用発明と上記技術的事項は、結合アッセイを利用する点で共通する技術分野に属するものであり、特異性/親和性などの定量的な情報を得ようとする点でも共通する。そうすると、当業者は、結合アッセイとして、バイオレイヤー干渉法の採用を試みるといえる。
したがって、引用発明において、GST-GluN2B-Cに対するCaMKIIの結合を、SDS-PAGEと免疫ブロッティングで分析する代わりに、一般的な標識技術と比較して、ハイスループット、使いやすさ、信頼性、高精度分析を提供するものとされるバイオレイヤー干渉法を採用し、溶液を「バイオセンサー」に接触させるように構成することは、当業者が容易に想到し得たことである。
(3)[相違点3]について
例えば、前記4(2)イに記載した技術的事項において、「定量実験では、バイオセンサーに結合した分子は、類似した特性を持つ標準物質との関連で定量される」とされているように、定量分析を行うにあたり「類似した特性を持つ標準物質」を用いることは、当業者にとって自明である。そうすると、引用発明は、「分子密集試薬がGluN2BへのCaMKII結合に及ぼす影響」を試験するために、結合した「CaMKII」の量を分析しているところ、試験の対象とする「分子密集試薬」と類似した「標準物質」を含む溶液における、結合した「CaMKII」の量を「正規化された応答」として測定し、比較に用いることは、定量分析を行うにあたっての常套手段である。そして、「分子密集試薬」と類似した「標準物質」を含む溶液として、「生物学的に適切な分子密集剤の理想溶液」といえるものを選択することは、当業者が当然考慮することである。
したがって、上記[相違点3]は、結合した「CaMKII」の量を分析している引用発明が当然具備する構成を明記したものに過ぎず、実質的な相違点ではない。また、仮に実質的な相違点であったとしても、「標準物質」として「生物学的に適切な分子密集剤の理想溶液」を採用し、その「対照応答」と比較することにより、結合した「CaMKII」の量を分析することは、当業者が容易に想到し得たことである。
(4)効果について
本件補正発明の効果は、引用発明の効果と、公知のバイオレイヤー干渉法を採用したことによる効果を足し合わせたものに過ぎず、引用文献5及び引用文献6の記載から、当業者が予測できる範囲のものである。
したがって、本件補正発明の効果を、格別顕著なものということができない。
(5)請求人の主張について
ア 審判請求人は、審判請求書第12頁最終行~第13頁第7行において、以下の通り主張している。
「引用文献5には、検出のために異なる抗体を使用して、非リン酸化CaMKIIとリン酸化CaMKIIを区別することが、CaMKII活性を理解する中心的な側面であることが記載されています。BLIは無標識法であるため、イムノブロット法とは異なり、ローディングコントロールを標識したり、非リン酸化タンパク質や全タンパク質と比較してリン酸化タンパク質を標識したりすることはできません。したがって、引用文献5の方法を、引用文献5の目的を達成する方法から、引用文献5の目的に適さない方法に変更する動機付けはありません。」
しかし、引用発明は、前記4(1)イに記載したとおりのものであって、引用文献5の記載事項(ア)における「Ca2+/カルモジュリン(CaM)依存性プロテインキナーゼII(CaMKII)とNMDA型グルタミン酸受容体(NMDAR)サブユニットGluN2Bとの結合は、学習と記憶の基礎となると考えられているシナプス可塑性の一形態である長期増強(LTP)を制御している。この相互作用の制御は生化学的によく研究されているが、細胞内で見られる高分子の密集を模倣した条件下では行われていない。・・・ここで我々は、固定化GluN2BへのCa2+/CaM誘導CaMKII結合に対するin vitroでの分子密集の効果が、特定の密集試薬に依存することを見出した。」という記載からみて、「Ca2+/カルモジュリン(CaM)依存性プロテインキナーゼII(CaMKII)」と「NMDA型グルタミン酸受容体(NMDAR)サブユニットGluN2B」との結合に対する分子密集の効果を調査したものであって、審判請求人が主張するような、「非リン酸化CaMKIIとリン酸化CaMKIIを区別することが、CaMKII活性を理解する中心的な側面である」と理解することができない。また、引用発明におけるサンプルの分析が「SDS-PAGEと免疫ブロッティング」でなければならないとする根拠も見出すことができない。
したがって、審判請求人の上記主張を採用することはできない。
イ 審判請求人は、審判請求書第13頁第17~23行において、以下の通り主張している。
「アッセイが特異的結合の測定に適していることは、結合に対する非特異的相互作用の効果を測定するのに適していることを意味しません。・・・引用文献6は、BLIが非特異的相互作用の効果を測定するために使用できることを教示や示唆しておらず・・・。」
しかし、バイオレイヤー干渉法は、既に前記(2)において検討したとおり、一般的な標識技術と比較して、ハイスループット、使いやすさ、信頼性、高精度分析を提供するものとされており、従来の標識技術の代わりに用いることができるものである。そうすると、引用文献6に、非特異的相互作用の効果を測定することが、バイオレイヤー干渉法のアプリケーションとして挙げられていないとしても、当業者は、引用発明の結合アッセイとして、バイオレイヤー干渉法の採用を試みるといえる。
したがって、審判請求人の上記主張も採用することができない。
ウ 審判請求人は、審判請求書第14頁第8~14行において、以下の通り主張している。
「非特異的相互作用の効果を決定するための方法は、大幅な改変とかなりの最適化および検証なしには、引用文献6に記載されているような特異的結合を測定するための方法を適用することによって導き出すことはできません。タンパク質-タンパク質相互作用を特徴付ける方法を開示する代替可能な数多くの文献が存在することを踏まえれば、当業者は引用文献5と組み合わせるために引用文献6を選択する理由を有しないと考えられます。」
しかし、審判請求人のいう「大幅な改変とかなりの最適化および検証」が本件補正発明におけるどの構成をいうのかが明らかでない。そして、いずれの構成であったとして、すでに前記(1)~(3)において検討したとおり、実質的な相違点でないか、当業者が容易に想到し得たものである。仮に、審判請求人のいう「大幅な改変とかなりの最適化および検証」が本件補正発明の構成ではないとすると、当該主張は、特許請求の範囲に基づかないものである。
したがって、上記審判請求人の主張も採用することができない。
エ 審判請求人は、審判請求書第14頁第14~19行において、以下の通り主張している。
「引用文献6が、引用文献5や本願請求項と同じ方法に指向していないこと、及びそのような組み合わせは引用文献5をその意図された目的に対して操作不能にすることもまた、当業者が引用文献5と引用文献6を組み合わせない追加的な理由になります。さらには、当業者は、引用文献6に記載の方法を、特異的結合を測定するための方法から非特異的相互作用の効果を決定する方法に変更する動機付けも、指針も、成功の合理的な期待も有しないと考えられます。」
しかし、すでに前記(2)に記載したとおり、引用発明と上記技術的事項は、結合アッセイを利用する点で共通する技術分野に属するものであり、特異性/親和性などの定量的な情報を得ようとする点でも共通する。そうすると、引用文献6が、引用文献5と同じ方法に指向していないということはできず、引用発明と引用文献6との組み合わせが、引用発明をその意図された目的に対して操作不能にすると理解することもできない。
したがって、審判請求人の上記主張も採用できない。
(6)まとめ
以上のとおり、上記[相違点1]~[相違点3]は、いずれも、実質的な相違点ではないか、当業者が容易に想到し得たものであり、その効果も、当業者が予測できた範囲のものであるから、本件補正発明は、引用発明及び引用文献6に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、本件補正発明は、特許法第29条第2項の規定により、独立して特許を受けることができない。
7 むすび
以上のとおり、本件補正発明は、特許法第29条第2項の規定により、独立して特許を受けることができない。
したがって、本件補正は、特許法17条の2第6項で準用する同法126条7項の規定に違反するものであり、同法159条1項で読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下されるべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 本件発明
1 本件発明
本件補正は、前記第2に記載したとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、令和5年10月18日になされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1~32に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下「本件発明」という。)は、前記第2の1(1)に記載のとおりのものである。
2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1に係る発明は、本願の優先権主張の日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献5及び引用文献6に記載された発明に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、という理由を含むものである。
引用文献5:J. Goodell等,“CaMKII Binding to GluN2B Is Differentially Affected by Macromolecular Crowding Reagents”, PLoS ONE,Volume 9, Issue 5, e96522, 2014年5月5日,https://doi.org/10.1371/journal.pone.0096522
引用文献6:Rejane L. Petersen,“Strategies Using Bio-Layer Interferometry Biosensor Technology for Vaccine Research and Development”, Biosensors, 2017, 7, 49,2017年10月31日,doi:10.3390/bios7040049
3 引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献及びその記載事項は、前記第2の4に記載したとおりである。
4 対比・判断
本件発明は、前記第2の[理由]5~7で進歩性について検討した本件補正発明から、「非特異的相互作用」について、「生物学的に適切な分子密集剤と標的分子の間」の非特異的相互作用であるとする限定事項と、「理想溶液、希釈溶液、または半希釈溶液」について、「前記生物学的に適切な分子密集剤の」理想溶液等であるとする限定事項を削除するとともに、「対照応答」を「閾値は、正規化した応答であり」という明細書段落【0063】の記載に基づき「対照閾値」に言い換えたものである。
そうすると、本件発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記第2の5~7に記載したとおり、引用発明及び引用文献6に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明も、引用発明及び引用文献6に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
第4 むすび
以上のとおり、本件発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2024-007929