審決検索MVP
← 検索一覧に戻る
特許拒絶査定不服審判

2024-020559

心血管イベントに対するバイオマーカー

審判番号
2024-020559
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2021-531869
請求日
2024年12月23日
審決日
2026年01月27日
公報発行日
2026年07月31日
結論
請求不成立
当事者
  • 【請求人】ゾラ バイオサイエンシーズ オサケ ユキチュア
  • 【請求人代理人】▲吉▼田 和彦
  • 【請求人代理人】須田 洋之
  • 【請求人代理人】山崎 一夫
  • 【請求人代理人】服部 博信
  • 【請求人代理人】松田 七重
  • 【請求人代理人】田代 玄
審判長/審判官
  • 審判長 加々美 一恵
  • 審判官 三崎 仁
  • 審判官 宮澤 浩
分類
P18 .537-Z (G01N) / P18 .113-Z (G01N) / P18 .121-Z (G01N)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法29条2項特許法36条6項1号
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特願2021-531869「心血管イベントに対するバイオマーカー」拒絶査定不服審判事件〔令和2年6月11日国際公開、WO2020/115288、令和4年1月19日国内公表、特表2022-508322〕について、次のとおり審決する。

結論

結 論 本件審判の請求は、成り立たない。

理由

理 由 第1 手続の経緯 本願は、2019年(令和元年)12月6日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2018年12月6日、米国)を国際出願日とする出願であって、令和4年12月5日に上申書の提出と共に手続補正がなされ、令和5年11月22日付けの拒絶理由の通知に対し、令和6年5月31日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされたが、同年8月19日付けで拒絶査定がなされ、これに対して同年12月23日に審判の請求がなされると同時に手続補正がなされたものである。 第2 本件発明 本願の請求項1~37に係る発明は、令和6年12月23日になされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1~37に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下「本件発明」という。)は、次のとおりのものである。 「 1つまたは複数の心血管(CV)イベントを発症する対象のリスクを決定するためのデータを収集する方法であって、 (a)対象からの試料をアッセイして、少なくとも1種の式Iのセラミド(Cer) の濃度を決定するステップ 【化1】 [図:0001436859000001.jpg] (式中、R1は、11~17個の炭素原子を有する飽和、一価不飽和または二価不飽和のアルキル鎖であり、R2は、13~25個の炭素原子を有する飽和、一価不飽和または二価不飽和のアルキル鎖である)、 (b)対象からの試料をアッセイして、少なくとも1種の式IIのホスファチジルコリン(PC)の濃度を決定するステップであって 【化2】 [図:0001436859000002.jpg] (式中、R3およびR4は、飽和、一価不飽和または多価不飽和のアルキル鎖である)、 少なくとも1種の式IIのPCがPC36:6を含むステップ、ならびに (c)ステップ(a)で決定した少なくとも1種の式IのCerの濃度およびステップ(b)で決定した少なくとも1種の式IIのPCをそれぞれの対照と比較し、続いて試料が、下記の状況のいずれか1つを有する場合、対象が1つまたは複数のCVイベントを発症するリスクを有することを決定するステップ (i)増加した濃度の式IのCer (ii)減少した濃度の式IIのPC (iii)増加した濃度の式IのCerかつ減少した濃度の式IIのPC を含む方法。」 第3 原査定における拒絶の理由 原査定において、請求項1に対して通知された拒絶の理由の概要は、以下のとおりである。 理由1(サポート要件) この出願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 理由3(新規性) この出願の請求項1に係る発明は、その優先権主張の日前に日本国内又は外国において頒布された、引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 理由4(進歩性) この出願の請求項1係る発明は、その優先権主張の日前に日本国内又は外国において頒布された引用文献1に記載された発明、又は、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献2又は引用文献3に記載された発明及び周知技術に基いて、その優先権主張の日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 <引用文献等一覧> 引用文献1 特表2014-532885号公報 引用文献2 特表2017-519989号公報 引用文献3 特表2016-511407号公報 引用文献4 特表2013-527449号公報 引用文献5 国際公開第2017/134264号 なお、引用文献1~3をそれぞれ、主引用発明が記載された文献として、また、引用文献2及び3を主引用発明が記載された文献とした場合には、引用文献1、4、5を周知技術が記載された文献として、引用している。 第4 当審の判断 1 理由1(サポート要件)について (1)本願明細書の記載 本願の明細書には、以下の記載事項がある。なお、下線は合議体が付した。 ア 技術分野 「 【0001】 本開示は、心血管(CV)転帰に対する予後バイオマーカーの分野に関係する。特に、本開示は、心血管イベントを発症する対象のリスクを評価するための新規のin vitro法を提供する。加えて、本発明のバイオマーカーは、心血管疾患(CVD)の処置の有効性を評価する方法、心血管疾患を処置すること、および心血管イベントを予防することに使用することができる。」 イ 背景技術 「 【0002】 世界中で、心血管疾患は、死亡および罹患の主要原因の1つであり、前にも増して広がり続けている。CVDは、身体の心臓、心臓弁、血液、および血管系に影響を与える多くの状態を分類するために使用される。 10年にわたり、血漿もしくは血清全コレステロール、低密度リポタンパク質(LDL)または高密度リポタンパク質(HDL)濃度がCVDリスクの予測および処置の標的に対する判断基準バイオマーカーとして使用されてきた。しかし、最近の研究では、これらの広く使用されているバイオマーカーがCV転帰、例えば、心筋梗塞(MI)または心血管死亡に確実には関連しないことが示された。例えば、・・・。したがって、LDL-Cを超える追加の予後および治療標的に対する必要性が存在する。 全コレステロールに加えて、LDL-C、およびHDL-C、いくつかの非脂質リスクファクター(年齢、血圧、糖尿病、喫煙、およびボディマス指数を含む)が、心血管イベントに対する個々のリスクを評価するためのリスク評価において使用されている。 スタチンは、心血管イベントのリスクの高い人々に対する脂質低下薬物の1つのファミリーである。・・・したがって、CVD患者のリスク評価をさらに改良する追加的戦略が大いに必要とされる。 例えば、Zora Biosciences特許出願WO2011138419、WO2011161062、WO2013068373およびWO2013068374においてある特定の対象集団において心血管イベントを予測するための脂質分子の大集団が特定された。しかし、心血管イベントを発症するリスクを有する個体を特定するための改善された方法に対する必要性は依然として存在する。 ウ 発明の概要 「 【0003】 本開示のバイオマーカー組合せは、現在使用されている任意の他の脂質ベースの心血管バイオマーカーと比較して、リスク階層化に対して優れた性能を提供する。加えて、本発明のバイオマーカー組合せのレベルは、特定の脂質修飾療法、例えば、スタチンにより影響を受ける可能性がある。したがって、本開示のバイオマーカー組合せは、心血管イベントの正確および実施可能なリスクの階層化を提供する。 【0004】 本開示は、心血管イベントを発症するリスクを有する対象の特定のための新規のバイオマーカー組合せおよび関連する診断法および使用を提供する。このような方法および使用は、対象からの試料中の特定の脂質濃度の組合せをモニタリングし、このような濃度を対照のものと比較することを含む。 新規のバイオマーカー組合せは、少なくとも1種のセラミド(Cer)分子および少なくとも1種のホスファチジルコリン(PC)分子からなる。少なくとも1種のセラミドは、式Iのセラミドから選択され、少なくとも1種のホスファチジルコリンは、式IIのホスファチジルコリンから選択される。 【0005】 式Iのセラミドは以下の構造を有する。 【化1】 [図:0001436859000003.jpg] (式中、R1は11~17個の炭素原子を有する飽和、一価不飽和または二価不飽和のアルキル鎖であり、R2は13~25個の炭素原子を有する飽和、一価不飽和または二価不飽和のアルキル鎖である) 【0006】 式IIのホスファチジルコリンは以下の構造を有する。 【化2】 [図:0001436859000004.jpg] (式中、R3およびR4は飽和、一価不飽和または多価不飽和のアルキル鎖である) 【0007】 本開示の第1の態様では、1つまたは複数の心血管イベントを発症する対象のリスクを決定するための方法であって、前記対象からの試料をアッセイして、少なくとも1種の式Iのセラミド(Cer)の濃度および少なくとも1種の式IIのホスファチジルコリン(PC)の濃度を決定することを含み、対照と比較して、試料中の増加した濃度の少なくとも1種の式IのCerおよび/または減少した濃度の少なくとも1種の式IIのPCが、1つまたは複数の心血管イベントを発症するリスクを対象が有することを示す、方法が提供される。 1つまたは複数の心血管イベントを発症する対象のリスクを決定する方法のある特定の実施形態では、少なくとも1種の式IのCerは、少なくとも2種、少なくとも3種、少なくとも4種、少なくとも5種、少なくとも6種、少なくとも7種、少なくとも8種、少なくとも9種もしくは少なくとも10種の式IのCerであり、および/または少なくとも1種の式IIのPCは、少なくとも2種、少なくとも3種、少なくとも4種、少なくとも5種、少なくとも6種、少なくとも7種、少なくとも8種、少なくとも9種もしくは少なくとも10種の式IIのPCである。 【0008】 ある特定の実施形態では、本方法は、試料をアッセイして、表1で言及されたCerおよびPC種のいずれかから選択される少なくとも1種の追加のCerおよび/または少なくとも1種の追加のPCバイオマーカーの濃度を決定することをさらに含み、対照と比較して増加または減少した濃度の表1に示された少なくとも1種の追加のCerおよび/または少なくとも1種の追加のPCが、1つまたは複数の心血管イベントを発症するリスクを対象が有することを示す。」 エ 発明を実施するための形態 「 【0149】 本開示は、生体試料、例えば、将来1つまたは複数の心血管(CV)イベントを発症するリスクを有する対象の血液中で、ある特定の分子が、対照と比較してより高いレベルで発現し、ある特定の分子がより低いレベルで発現するという発見に基づく。これらの分子の濃度から導出される組合せは、驚くことに本明細書に記載されているように、心血管イベントの優れた予測的バイオマーカーであることが判明した。 【0150】 本開示によると、少なくとも1種のセラミド(Cer)および少なくとも1種のホスファチジルコリン(PC)の濃度の組合せは、心血管イベントを発症するリスクがある対象を特定するために使用することができる特異的および高感度の診断用試験を提供する。本開示のバイオマーカーの組合せは、従来のマーカー、例えば、LDL-C(低密度リポタンパク質コレステロール)、HDL-C(高密度リポタンパク質コレステロール)および全コレステロールのレベルが正常である、増加した、または減少した場合、CVイベントを予測するために使用することができる。本発明のバイオマーカーの組合せはまた、従来のリスクファクター、例えば、糖尿病、高血圧または喫煙を有するまたは有さない対象に対して使用することができる。加えて、本開示による予測的試験は、スタチン処置を受けている患者に対して、1つまたは複数の心血管イベントを発症するリスクが患者らに残っているかどうか評価するために有利に使用することができる。試験はまた、CVイベントを経験した心血管疾患患者に対して、患者らが1つまたは複数のその後のCVイベントを発症するハイリスクを有するかどうか決定するために使用することができる。 【0151】 本開示に従い1つまたは複数の冠動脈疾患イベントを予測する方法は、試料、例えば、血液試料、例えば、血清および/または血漿試料から、少なくとも1種のセラミドおよび少なくとも1種のホスファチジルコリンの分子、ならびに任意の少なくとも1種の追加のセラミドおよび/またはホスファチジルコリンの濃度を測定するステップを含む。特定のCerおよびPC分子の濃度から導出される新規の組合せが将来の心血管イベントに対するマーカーとして使用される。 【0152】 本開示の方法に従い、対象の試料から脂質バイオマーカー、例えば、脂質濃度の情報収集は、様々な化学的および高分解能分析技術を介して実施することができる。特に適切な分析技術として、これらに限定されないが、質量分析法(MS)および核磁気共鳴(NMR)分光法が挙げられる。実際に、個々の脂質種を分解し、その構造的情報を提供することが可能ないずれの高分解能技術も、本開示に従い脂質マーカーを決定するために使用することができる。本開示の方法の目的のため、脂質濃度は典型的には、質量分析法を使用することによって決定する。MS装置は、直接試料注入法、例えば、ロボット型ナノフローイオン源装置、または高性能分離法、例えば、LC、GC、HPLC、UHPLC、もしくはUPLCと連結することができる。加えて、核磁気共鳴分光法、蛍光分光法または二面偏波式干渉法、高性能分離法、例えば、HPLC、UHPLCまたはUPLC、イムノアッセイ、例えば、ELISA、および/または脂質分析物に特異的に結合可能な結合部分の使用はこの関連で有用である。 【0153】 本開示において、生体試料、例えば、血漿または血清試料から決定された脂質バイオマーカーの新規の組合せが特定される。驚くことに、セラミドおよびホスファチジルコリン濃度の組合せは、心血管イベントに対する予測的バイオマーカーとして、既存のおよび慣例的に使用されているバイオマーカーと比較して優れた性能を示した。」 オ 実施例 「 【0181】 (実施例1) 材料および方法 研究コホートおよび試料の説明 安定狭心症ではないかと疑われる、冠状動脈の血管造影を受けた3700人の成人対象から血漿試料を得た。これらの対象は、平均して10年間の間、心血管(CV)系による死亡またはCVイベントについて追跡調査を行った。 第1の研究コホートに加えて、別の研究コホート、すなわち集団研究コホートからの試料もまた分析した。このコホートの成人対象からの7300件の血清試料を分析した。対象は、平均して16年の間、いくつかの心血管転帰、例えば心筋梗塞、心不全およびCV系による死亡について追跡調査を行った。 【0182】 分析法 脂質の定量化のため、その全体が参照により本明細書に組み込まれているJung HR et al, High throughput quantitative molecular lipidomics. Biochim Biophys Acta.2011 Nov;1811(11):925-34に記載されているようにHamilton Microlab Starロボットで実施される、改変Folch脂質抽出法を使用して血清試料を抽出した。試料に公知の量の非内因性合成内部標準を加えた。脂質抽出後、試料をクロロホルム:メタノール(1:2、v/v)中で復元し、抽出後、合成外部標準を抽出物に加えた。MS分析前、抽出物を-20℃で貯蔵した。 マルチ反応モニタリング(MRM)を使用する超高速液体クロマトグラフィー(UHPLC)システム(Eksigent ultraLC100システム)を備えたハイブリッド三重四重極/線形イオントラップ質量分析器(5500 QTRAP)でセラミドおよびリン脂質(例えばホスファチジルコリン)を分析した。Sullards MC et al., Structure-specific, quantitative methods for analysis of sphingolipids by liquid chromatography-tandem mass spectrometry: "inside-out" sphingolipidomics. Methods Enzymol.2007;432:83-115による説明に基づくネガティブイオンモード法に基づきセラミドを分析した。以前に公開された方法、Niemi et al., Ovarian tumours of different histologic type and clinical stage induce similar changes in lipid metabolism. British Journal of Cancer. 2018;119:847-854に基づき、リン脂質を分析した。 【0183】 統計分析 Rソフトウエアを使用してすべての統計分析を実施した。コックス比例ハザードモデル(R package survivalを使用して構築)を使用して、変数またはこれらの組合せの、研究対象の結果への関連を決定した。コックス回帰モデルから得た危険率(HR)を標準偏差(SD)ごとに表現した。二成分ロジスティック回帰モデルを使用して変数の線型結合を構築し、Hmiscパッケージを使用してコックス回帰モデルに対してC統計を計算した。 【0184】 (実施例2) 結果 表2~12は第1の研究コホートの結果を提示し、表13~18は第2の研究コホートを提示している。 表2は、セラミド対ホスファチジルコリンまたはセラミド対セラミドの比が、対応するセラミドまたはホスファチジルコリン単独の場合よりも正確にCVイベントを予測することを示している。この実施例では、コックスモデルを年齢で調整し、性別に対して階層化した。表2に示されている通り、脂質比は、個々の脂質成分と比較してより低いp値およびより高いC統計を有する。 【0185】 表2.脂質比のp値は対応する脂質単独の場合より低い。 ・・・ 【0187】 表3は、2種のセラミド/ホスファチジルコリン比の組合せが、個々のセラミド/ホスファチジルコリン比単独の場合と比較してより低いp値およびより高いC統計をもたらす例を提示している。さらに、追加のセラミド/セラミド比および個々のホスファチジルコリンは予測値を増加させる。加えて、高い感受性トロポニン(TNT)はまたより正確な予測に繋がる。 ・・・ 【0188】 表4は、セラミド/ホスファチジルコリン比とセラミド/セラミド比の組合せが個々の脂質比単独の場合と比較して、より低いp値およびより高いC統計をもたらす例を提示している。さらに、追加のセラミド/ホスファチジルコリン比および個々のホスファチジルコリンは予測値を増加させる。 ・・・ 【0189】 表5は、セラミドおよびホスファチジルコリンの個々の脂質濃度の組合せが、より多くの脂質がモデルに組み込まれた場合、より低いp値およびより高いC統計をもたらす例を提示している。 ・・・ 【0190】 表6は、セラミド/セラミド比とセラミド/ホスファチジルコリン比の組合せが、個々の脂質比単独の場合と比較して、より低いp値およびより高いC統計をもたらす例を提示している。さらに、追加のセラミド/ホスファチジルコリン比および個々のホスファチジルコリンは予測値を増加させる。 ・・・ 【0191】 表7は、セラミドとホスファチジルコリン濃度の組合せが、個々の脂質単独の場合と比較して、より低いp値およびより高いC統計をもたらす例を提示している。さらに、追加のセラミド/ホスファチジルコリン比は予測値を増加させる。 ・・・ 【0192】 表8および9は、単純化スコアリングシステム(それぞれポイント0~12および0~9)を提示しており、この場合ポイントは、全体の研究集団の四分位数(Q1~Q4)に基づき付与される。例えば、ある人のCer(d18:1/16:0)/PC16:0/22:5比が最も高い四分位数に属する場合、この人は3ポイントを得る。同じ評価を他の3種の脂質バイオマーカーに対して実施し、合計する。 ・・・ 【0193】 表10および11は、同様に非脂質心血管バイオマーカーであるTNTがスコアリングシステムに加えられた追加の例を提示している。この場合、スコアリングシステムのスケールはそれぞれ0~15および0~12である。 ・・・ 【0194】 表12は、スコアリングシステムの予測値の例を提示している。この例では、CVスコア(3つのコンポーネント)は表9に提示されたスコアリングシステムを指し、CVスコア(4つのコンポーネント)は表8に提示されたスコアリングシステムを指し、CVスコア(4つのコンポーネント+TNT)は表10に提示されたスコアリングシステムを指す。この例に示されている通り、スコアは、例えば、個々のセラミド/ホスファチジルコリン比より低いp値および高いC統計を付与する。 ・・・ 【0195】 表13~18は第2の研究コホートの結果を示している。表13は、集団研究コホート対象における急性冠不全症候群を予測するセラミドとホスファチジルコリンの組合せの例を提示している。 ・・・ 【0201】 当業者であれば、所定の実験だけを使用して、実施例と明細書全体の本文の両方において本明細書に記載されている特定の実施形態に対する多くの均等物を認識する、または決定することができる。このような均等物は、本開示の範囲内と考えられ、以下の特許請求の範囲または上記に列挙された項目に包含されることが意図される。」 (2)本件発明 本件発明は、前記第2に記載したとおりの発明であって、以下に示す「ステップ(c)」を含む「1つまたは複数の心血管(CV)イベントを発症する対象のリスクを決定するためのデータを収集する方法」である。 「(c)ステップ(a)で決定した少なくとも1種の式IのCerの濃度およびステップ(b)で決定した少なくとも1種の式IIのPCをそれぞれの対照と比較し、続いて試料が、下記の状況のいずれか1つを有する場合、対象が1つまたは複数のCVイベントを発症するリスクを有することを決定するステップ (i)増加した濃度の式IのCer (ii)減少した濃度の式IIのPC (iii)増加した濃度の式IのCerかつ減少した濃度の式IIのPC」 を含む方法。」 本件発明の「ステップ(c)」は、対象が1つまたは複数のCVイベントを発症するリスクを有することを決定するステップであって、以下の3つの選択肢のいずれかであれば、要件を満たすものである。 ア 「(i)増加した濃度の式IのCer」の状況を有する場合に、「対象が1つまたは複数のCVイベントを発症するリスクを有することを決定する」 イ 「(ii)減少した濃度の式IIのPC」の状況を有する場合に、「対象が1つまたは複数のCVイベントを発症するリスクを有することを決定する」 ウ 「(iii)増加した濃度の式IのCerかつ減少した濃度の式IIのPC」の状況を有する場合に、「対象が1つまたは複数のCVイベントを発症するリスクを有することを決定する」 (3)発明が解決しようとする課題 本願の明細書の記載事項イにおける「しかし、心血管イベントを発症するリスクを有する個体を特定するための改善された方法に対する必要性は依然として存在する。」との記載に基づけば、本件発明が解決しようとする課題は、「心血管イベントを発症するリスクを有する個体を特定するための改善された方法」を提供することにあるといえる。 (4)課題を解決するための手段 本願の明細書の記載事項ウの段落【0003】に「本開示のバイオマーカー組合せは、心血管イベントの正確および実施可能なリスクの階層化を提供する。」と記載され、段落【0004】に「新規のバイオマーカー組合せは、少なくとも1種のセラミド(Cer)分子および少なくとも1種のホスファチジルコリン(PC)分子からなる。少なくとも1種のセラミドは、式Iのセラミドから選択され、少なくとも1種のホスファチジルコリンは、式IIのホスファチジルコリンから選択される。」と記載されている。 さらに、段落【0153】には「セラミドおよびホスファチジルコリン濃度の組合せは、心血管イベントに対する予測的バイオマーカーとして、既存のおよび慣例的に使用されているバイオマーカーと比較して優れた性能を示した。」との記載もある。 これらの記載に基づけば、本願の明細書に開示された課題解決手段は、「少なくとも1種のセラミド(Cer)分子および少なくとも1種のホスファチジルコリン(PC)分子からなる」バイオマーカー組合せであると理解できる。 (5)判断 本件発明は、前記(2)ア及びイに記載したとおり、「(i)増加した濃度の式IのCer」又は「(ii)減少した濃度の式IIのPC」の状況を有する場合に、「対象が1つまたは複数のCVイベントを発症するリスクを有することを決定する」ものであれば、要件を満たすものである。そうすると、本件発明が、前記(4)に挙げた課題解決手段を必須の要件とするものでないことは明らかである。 また、本願の明細書の記載事項ウの段落【0008】には、「本方法は、試料をアッセイして、表1で言及されたCerおよびPC種のいずれかから選択される少なくとも1種の追加のCerおよび/または少なくとも1種の追加のPCバイオマーカーの濃度を決定することをさらに含み、対照と比較して増加または減少した濃度の表1に示された少なくとも1種の追加のCerおよび/または少なくとも1種の追加のPCが、1つまたは複数の心血管イベントを発症するリスクを対象が有することを示す。」と記載されており、表1には、様々な脂質の組合せが開示されている。しかし、表1に開示された組合せは、いずれも、セラミド(Cer)分子とホスファチジルコリン(PC)分子との組合せである。セラミド(Cer)分子又はホスファチジルコリン(PC)分子を単独で用いて「(i)増加した濃度の式IのCer」又は「(ii)減少した濃度の式IIのPC」の状況を有する場合に、「対象が1つまたは複数のCVイベントを発症するリスクを有することを決定する」ことが改善されることが記載されていたということはできない。 さらに、本願の明細書の記載事項オには、実施例として、表2~表18に、様々な脂質の組合せにおける脂質比及び脂質濃度と、いくつかの心血管転帰との関係について、危険率、p値等が開示されている。しかし、いずれも、セラミド(Cer)分子とホスファチジルコリン(PC)分子との組合せであって、セラミド(Cer)分子又はホスファチジルコリン(PC)分子を単独で用いて「(i)増加した濃度の式IのCer」又は「(ii)減少した濃度の式IIのPC」の状況を有する場合に、「対象が1つまたは複数のCVイベントを発症するリスクを有することを決定する」ことが改善されることを示すものでない。そして、本願の明細書のその他の記載を参酌しても、当業者が、セラミド(Cer)分子又はホスファチジルコリン(PC)分子を単独で用いて「(i)増加した濃度の式IのCer」又は「(ii)減少した濃度の式IIのPC」の状況を有する場合に、「対象が1つまたは複数のCVイベントを発症するリスクを有することを決定する」ことが改善されることを理解できるとはいえない。 以上より、本件発明は、発明が解決しようとする課題を解決できると認識できない場合を含むことは明らかであるから、 したがって、本件発明には、発明の詳細な説明に記載された、発明の課題を解決するための手段が反映されておらず、本件発明は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えることとなる。 よって、本件発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。 (6)請求人の主張 請求人は、審判請求書の請求の理由において、「補正後の請求項1、5及び7のステップ(c)は、…Cer及びPCの組合わせを用いることにより、CVイベントを発症するリスクを有することを決定すること等に特定されています。したがって、理由1は、解消したものと思料します。」と主張している。 しかし、前記(2)に記載したとおり、本件発明は、3つの選択肢のいずれかであれば、要件を満たすものであり、Cer及びPCの組合わせを用いることを必須の要件とするものではない。。 したがって、請求人の主張を採用することができない。 (7)まとめ 以上のとおり、本件発明は、発明の詳細な説明に記載したものでないから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 2 理由4(進歩性)について (1)引用文献 ア 引用文献1の記載事項 原査定の拒絶の理由で引用され、本願の優先権主張の日前の平成26年12月8日に頒布された引用文献である、特表2014-532885号公報(以下「引用文献1」という。)には、以下の記載事項がある。なお、引用発明の認定等に用いた箇所に下線を付した。 (ア)技術分野及び背景技術 「【0001】 本発明は、重度の心血管疾患関連の致死性合併症を予測し予防するための脂質レベルに関連する方法および使用に関する。従って本発明は、ハイリスクの冠動脈疾患患者を同定し治療するための手段を提供する。本方法は、生体サンプルの脂質レベルを解析すること、およびそれを対照と比較することを含む。 ・・・ 【0002】 心血管疾患(CVD)は、世界的な死亡および罹患の主原因であり、罹患率は増加の一途をたどっている。CVDは、体の心臓、心臓弁、血液、および血管系に影響を及ぼす多数の状態を分類するのに使用される。これらの状態の1つは、冠動脈疾患(CAD)である。スタチンは、心血管系の合併症のリスクが高い人々のためのコレステロール降下薬の1種である。スタチンは、米国では単独で広く使用されており、米国ではおよそ2000万人のスタチン治療された患者がおり、約5000万もの患者がスタチン治療によって利益を受けているであろうと計算されている。しかしながら、スタチン治療をしたとしても、CVD患者は重度のCVD合併症を発症させるリスクを有する。急性心筋梗塞(AMI)や死亡などのCVD関連の致死性合併症の予防措置を初期に的を絞って開始することは多大な利益があると思われ、死亡率と罹患率を低くする大きな好機をCVDに罹っている患者に提供することができる。この目的を達成するために、CVD合併症を発症させるリスクがある個体の正確な同定が必須である。しかしながら、従来のリスク評価では、ハイリスク患者のうちかなりの割合を認識することができず、その一方で個体の大部分が、中程度のリスクを有すると分類され、患者管理が未確定のままになる。従って、ハイリスクのCVDのリスク評価をさらに洗練するための追加の戦略が強く求められている。この目的を達成するために、本発明者らは、CVD患者における致死性心血管イベントの予後予測ツールとして、新規のリピドミックバイオマーカーの役割を評価した。」 (イ)発明が解決しようとする課題 「【0013】 以前の研究から、何もないところから脂質の解析によってCVD/CADに関連する致死的転帰を予測できるCVDバイオマーカーが得られるということを推論するのは不可能である。一般的にCVD/CADに罹っている、またはCVD/CADのリスクがある患者のなかから、特定のリスクの患者個体群を同定するのに有用な特定のマーカーが求められ続けている。」 (ウ)課題を解決するための手段 「【0014】 本発明では、複数の分析物をプロファイリングする代わりに、所定の脂質分子種の絶対的または絶対的に近い定量化によって、ハイリスクCVDのバイオマーカーを同定する。重要なことに、既存のバイオマーカー候補の多くが複数の因子の混成型フィンガープリントであるが、本明細書のリピドミクスアプローチは、単一種のレベルまたはそれらの比率ですでに値を示している。本出願は、脂質降下治療(例えばスタチン)や糖尿病などの脂質代謝に影響を及ぼす要因を考慮に入れている点で従来技術の脂質アッセイアプローチよりも改善された脂質アッセイアプローチを開示する。それゆえに本出願は、新規の個別化予測マーカーを提供する。 【0015】 本発明は、スタチン治療を受けていないCVD/CAD患者において、AMI、卒中、および死亡などの重度のCVD/CAD関連合併症を予測し予防するための新規のリピドミックマーカーを提供する。従ってこれらのマーカーは、ハイリスクの冠動脈疾患患者を同定し治療するための手段を提供する。具体的には、CAD患者からのサンプル中の、本明細書で示される脂質分子、脂質-脂質濃度比、および脂質-臨床濃度比が場合によって高いまたは低いレベルを示す場合、本発明に係る方法および使用にとって有用なリピドミックマーカーであることが発見された。このような高感度で特異的なマーカーを、CVD/CAD転帰について予測することができる現在の臨床で使用されているマーカーと比較して優れた診断および予後予測値を示すかどうかについて特に試験した。実際には、LDL-CまたはHDL-Cなどの現在利用可能なバイオマーカーは、CAD患者におけるCVD死リスクの予測において極めて限定的な価値しかないか、または価値がない。それゆえに本発明は、LDL-C、総血漿/血清コレステロール、ならびにアポリポタンパク質BおよびA1などのCVDおよびCVD合併症を診断および/または予測するのに現在使用されている他のマーカーに比べて顕著な利点がある。従って、本明細書で提供されるリピドミックマーカーは、AMIまたはCVD死などの主要なCVD合併症を発症させるリスクのより優れた診断または評価を可能にする。 【0016】 本発明によれば、特に、スタチン治療を受けていないCVD患者がCVD合併症を発症させるリスクを決定する方法、または前記患者におけるCVDリスクの警告徴候(例えば死亡、心筋梗塞(MI)、狭心症、一過性脳虚血発作(TIA)、および卒中)を決定する方法が開示される。 【0017】 本発明に係る方法は、典型的には、a)CAD対象からの生体サンプを提供するステップ;b)前記サンプルから脂質濃度、脂質-脂質濃度比、もしくは脂質-臨床濃度比または(a)対応するプロファイルを決定するステップ(すなわち、本発明に従ってリピドミックマーカーに関する情報を決定するステップ);およびc)決定された前記脂質濃度、脂質-脂質濃度比、もしくは脂質-臨床濃度比または前記対応するプロファイルを、対照における対応する脂質濃度、脂質-脂質濃度比、もしくは脂質-臨床濃度比または対応するプロファイルと比較するステップを含む。 上述したように、対象サンプルと対照(または対照サンプル)とで比較されるリピドミックマーカーは、本明細書で説明し特許請求したように、脂質濃度、脂質-脂質濃度比、もしくは脂質-臨床濃度比またはそれらの組み合わせ、すなわち対応するプロファイルのうち1つまたは複数であってもよい。これに関して、対照または対照サンプルは、リピドミックマーカーのベースラインまたは開始点の確立を可能にする。 【0018】 本発明のリピドミックマーカーは、致死性CVD合併症の予測および予防を可能にする。それにより、早期の介入、症状の発症および罹患の低減、およびCVDに関連する罹患率/死亡率の低減が促進されるであろう。従って、本明細書で説明され特許請求されたリピドミックマーカーは、主要なCVD合併症を発症させるリスクがある患者それぞれに合わせた薬物の介入を可能にする。 言い換えれば、本発明は、スタチン治療を受けていないCVD患者におけるAMIまたはCVD死などのCVD合併症を予測するのに使用するための、診断および/または予測のための脂質マーカー、ならびに脂質-脂質または脂質-臨床濃度比を開示する。本発明は、脂質濃度、脂質-脂質、および/または脂質-臨床濃度比の測定を使用して、前記対象のAMIおよび/またはCVD死などのCVD合併症を発症させるリスクを決定する。対象は、これまでに狭心症、心筋梗塞または卒中などの心血管疾患イベントを起こしていてもよい。 【0019】 従って、本発明の一態様において、スタチン治療を受けていない対象が、AMIおよび/またはCVD死などの1つまたは複数のCVD合併症を発症させるリスクがあるかどうかを決定する方法であって、前記対象からのサンプル中の1つまたは複数の脂質-脂質濃度比を決定するステップであって、対照サンプルと比較した場合に増加または減少した前記サンプル中の脂質-脂質濃度比が、AMIまたはCVD死などの1つまたは複数のCVD合併症を発症させる高いリスクを前記対象が有することを示し、その増加が対照と比較される1つまたは複数の脂質-脂質濃度比が、Cer(d18:1/18:0)/Cer(d18:1/24:0)、Cer(d18:1/20:0)/Cer(d18:1/24:0)、Cer(d18:1/22:0)/Cer(d18:1/24:0)Gb3(d18:1/16:0)/PC18:0/22:6、SM(d18:1/16:0)(d18:1/15:1-OH)/SM(d18:1/24:0)(d18:1/23:1-OH)(表3)から選択され; その減少が対照と比較される1つまたは複数の脂質-脂質濃度比が、Cer(d18:1/24:0)/PC16:0/18:2、SM(d18:1/24:0)(d18:1/23:1-OH)/SM(d18:1/24:1)(d18:1/23:2-OH)、Cer(d18:1/24:0)/Cer(d18:1/24:1)、Cer(d18:1/24:0)/SM(d18:1/14:0)(d18:1/13:1-OH)、Cer(d18:1/24:0)/Gb3(d18:1/16:0)、およびCer(d18:1/24:0)/SM(d18:1/16:1)(d18:1/15:2-OH)(表3)から選択される、ステップを含む方法が提供される。 【0020】 特定の一実施形態において、その減少が対照と比較される1つまたは複数の脂質-脂質濃度比は、Cer(d18:1/24:0)/PC16:0/18:2、SM(d18:1/24:0)(d18:1/23:1-OH)/SM(d18:1/24:1)(d18:1/23:2-OH)、Cer(d18:1/24:0)/SM(d18:1/14:0)(d18:1/13:1-OH)、Cer(d18:1/24:0)/Gb3(d18:1/16:0)およびCer(d18:1/24:0)/SM(d18:1/16:1)(d18:1/15:2-OH)(表3)から選択される。 ・・・ 【0091】 患者のサンプル由来の脂質マーカー(すなわち、脂質の濃度、脂質-脂質濃度比、もしくは脂質-臨床濃度比、またはそれらの組み合わせ、すなわち、対応するプロファイル)に関する情報、必要に応じて、対応する対照サンプルの情報の回収は、様々な化学的および高分解能の分析技術を用いて行うことができる。適切な分析技術としては、限定されないが、マススペクトロメトリーおよび核磁気共鳴分光分析が挙げられる。個々の脂質または脂質クラスを分解し、それらの構造情報を提供することができる任意の高分解能技術は、対象とする脂質マーカーに関する情報、例えば、生物学的サンプルからの脂質プロファイルを回収するために用いることができる。本発明の方法について、脂質のレベルは、マススペクトロメトリー、核磁気共鳴分光分析、蛍光分光法または二重分極インターフェロメトリー、高性能分離法、例えばHPLC、UHPLCもしくはUPLC、および/またはイムノアッセイ、例えばELISAを使用することによって決定される。代替的または更なる実施形態によれば、サンプル中の分析物は、分析物と、分析物を特異的に結合することができる結合部分を結合させることによって検出および/または定量することができる。結合部分は、例えば、リガンド-受容体対のメンバー、すなわち、特異的結合相互作用を有することができる分子対を含むことができる。また、結合部分は、例えば、抗体-抗原、酵素-基質、核酸ベースのリガンド、他のタンパク質リガンド、または当該技術分野において知られている他の特異的結合対などの特異的結合対のメンバーを含むことができる。好ましい実施形態では、脂質プロファイルはマススペクトロメトリー(MS)を用いて回収され、ここで、MS機器は、HPLC、UHPLCまたはUPLCなどの直接注入法および高速分離方法に結合されていてもよい。回収された脂質プロファイル中の個々の脂質または脂質クラスの量は、回収された脂質プロファイルと対照を比較するときに使用される。 マススペクトロメトリー(MS)を用いて脂質マーカーに関する情報の回収は、本発明の好適な実施形態の1つである。MS機器は、ロボットナノフローイオン源デバイスなどの直接試料注入法、または高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、超高圧液体クロマトグラフィー(UHPLC)もしくは超性能液体クロマトグラフィー(UPLC)などの高性能分離方法に結合することができる。 【0092】 本発明の方法は、CVD合併症、特に重篤なCVD合併症、例えば、死亡、および急性心筋梗塞(AMI)を含む心筋梗塞(MI)を発症する前記患者のリスクを決定するために使用されてもよい。」 (エ)発明を実施するための形態 「【0109】 定義: 冠状血管疾患/心臓血管疾患(CVD)は、当該技術分野においてその一般的な意味を有し、CADを含む身体の心臓、心臓弁、血液、および血管系に影響を与える多数の状態を分類するために使用される。本発明において、CVDおよびCADなる用語は交換可能に使用され得る。本発明の目的のために、CVD/CAD患者は、一実施形態では、急性冠症候群(ACS)を有する患者を除く。代替の実施形態では、ACSは、CVD/CADに含まれる。本発明に従う心臓血管疾患には、内皮機能不全、冠状動脈疾患、狭心症、心筋梗塞、アテローム性動脈硬化症、うっ血性心不全、高血圧、脳血管疾患、卒中、一過性脳虚血発作、深部静脈血栓症、末梢動脈疾患、心筋症、不整脈、大動脈弁狭窄症、および動脈瘤が挙げられる。このような疾患は、しばしば、アテローム性動脈硬化症を伴う。本発明の好ましい実施形態では、心臓血管疾患は、アテローム性動脈硬化症と関連した心臓血管疾患である。 【0110】 CADは冠動脈疾患であり、AMIが急性心筋梗塞であり、ACSは急性冠症候群であり、CACは冠動脈石灰化であり、RCT、コレステロール逆輸送であり、LDLは低密度リポタンパク質であり、HDLは高密度リポタンパク質であり、LDL-Cは低密度リポタンパク質コレステロールであり、HDL-Cは高密度リポタンパク質コレステロールであり、アポAはアポリポタンパク質Aであり、アポBはアポリポタンパク質Bであり、アポCはアポリポタンパク質Cであり、MSはマススペクトロメトリーであり、HPLCは高速液体クロマトグラフィーであり、UHPLCは超高速液体クロマトグラフィーであり、UPLCは超高速液体クロマトグラフィーである。 【0111】 本明細書で使用するとき、「対象」は全ての哺乳動物を含み、限定されないが、ヒト、さらに非ヒト霊長類、イヌ、ネコ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ウシ、ウサギ、ブタおよびげっ歯類が挙げられる。特に好ましい「対象」はヒトである。 「サンプル」は、対象または対象のグループもしくは集団から得られた任意の生物学的サンプルとして定義される。本発明の目的のために、生体学的サンプルは、全血、血清、血漿または血液画分;例えばリポタンパク質画分であってもよい。また、組織サンプルであってもよい。・・・ 【0112】 本発明の目的のために、脂質分析からの脂質は、以下の命名法に従って命名された:CEはコレステリルエステルであり、Cerはセラミドであり、DAGはジアシルグリセロールであり、PC Oはエーテル連結されたPCであり、Gb3はグロボトリアオシルセラミドであり、GlcCerはガラクトシル-およびグルコシルセラミドであり、LacCerはラクトシルセラミドであり、LPCはリゾホスファチジルコリンであり、PCはホスファチジルコリンであり、PEはホスファチジルエタノールアミンであり、PIはホスファチジルイノシトールであり、SMはスフィンゴミエリンである。 用語X:Yは以下を示す。Xは、分子の脂肪酸部分における全炭素原子数であり、Yは、分子の脂肪酸部分における二重結合の総数である。 用語A/Bは、DAGおよびPCの分子について、分子のグリセロール骨格に結合したAおよびB型の脂肪酸部分を示す。 用度(dC/A)は、Cer、Gb、GlcCer、LacCerおよびSMの分子について、アミド結合したA型脂肪酸部分を有するC型長鎖ベースを示す。 ・・・ 【0114】 「対照サンプルと比較される」という用語は、本明細書で使用するとき、対照サンプルが、対象とする脂質マーカーの点で、すなわち、本発明の様々な態様および実施形態と関連して、本明細書に具体的に記載されおよび/または請求される脂質の1つもしくは複数の濃度、脂質-脂質濃度比、または脂質-臨床濃度比、あるいはこれらの組み合わせの点で実際に分析される実施形態を含むことが理解される。しかしながら、上記の用語はまた、上記対照サンプル中の脂質マーカーに関する対応情報が、単に文献から引用され、または以前に決定、計算もしくは外挿されており、またはなおも決定、計算もしくは外挿されるべきである実施形態も含むことは承認される。」 (オ)実施例 「【0118】 (例1) 材料および方法 この研究は、心臓血管疫学に関する大規模な前向き研究であるLURIC研究のサブコホートである。LURICデータベースは、ベースラインの冠動脈造影、臨床的に使用されるバイオマーカーデータ、さらに、例えば、フォローアップ期間(3年間)のCVD死亡率データを含む、3000人の患者全体の臨床情報を含む。このバイオマーカー研究において、本発明者らは、CVDに起因してフォローアップ期間中に死亡したスタチン治療を受けていないCAD症例(n=123)と、安定なCADを有し、かつスタチン治療を受けていない患者(n=96)を比較した。血管造影において有意なアテローム性動脈硬化レベルを有するが、フォローアップ期間中にCVDの関連死がない対象を対照として使用し、一方、症例群は、同様に、ベースライン時に血管造影に基づいて有意なアテローム性動脈硬化症を有し、さらに、急性心臓血管イベントに起因して、フォローアップ期間中に死亡した。統計学的分析は、糖尿病がない症例(n=55)と対照(n=46)、および糖尿病を有する症例(n=68)と対照(n=50)について別々に行われた。これら2つのグループについての臨床的特徴を表1および2に記載する。 ・・・ 【0121】 症例の定義:全ての症例は、冠動脈造影において重大な動脈疾患(>=20%狭窄)を有し、それら全てはフォローアップ期間中にCVDに起因にして死亡した。したがって、これらのCAD患者は、CVD転帰のリスクが高い。症例の大半(75%)は、非ACS患者であった。 【0122】 対照の定義:全ての対照は、冠動脈造影において重大な動脈疾患(>=20%狭窄)を有したが、それらはフォローアップ期間中にCVDに起因にして死亡しなかった。対照対象は、ベースライン評価前にいずれのMIの既往および卒中を有さなかった。したがって、これらの患者は、CVD転帰のリスクが低いCAD患者であると考えることができる。 【0123】 (例2) 分析法 マススペクトロメトリー駆動によるリピドミクス タンデムマススペクトロメトリーに連結された直接注入、すなわち、ショットガンリピドミクス、および2つの液体クロマトグラフィータンデムマススペクトロメトリー(LC-MS/MS)、すなわち、セラミドとセレブロシドリピドミクスおよびガングリオシドリピドミクスは、ヒト血清、血漿、および頸動脈プラークにおける分子脂質種を分析することによって、冠動脈疾患(CVD)リスク用の脂質バイオマーカーを同定するために使用された。適用された方法は、特に、分子コレステリルエステル(CE)、ホスファチジルコリン(PC)、リゾホスファチジルコリン(LPC)および他のリゾリン脂質(LPL)、エーテル連結されたホスファチジルコリン(PC O)および他のエーテル連結されたリン脂質(PL O)、ホスファチジルセリン(PS)、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジルグリセロール(PG)、ホスファチジルイノシトール(PI)、ホスファチジン酸(PA)、ジアシルグリセロール(DAG)、セラミド(CeR)、グルコシルセラミド(GlcCer)、グロボトリアオシルセラミド(Gb3)およびラクトシルセラミド(LacCer)の定量化について最適化される。 ・・・ 【0137】 詳細な分子脂質分析の重要性 マススペクトロメトリー駆動による脂質分析アプローチの最近の進化により、臨床コホートの分析のために必要とされるハイスループットと品質で、それらの分子脂質種レベルまで複雑なリピドーム(lipidome)を解決することが可能になってきた。方法の高感度と選択性の結果として、微小なサンプル量のリピドーム全体の分析が実施可能になってきた。本技術は、異なる合計(sum)組成物、すなわち、ホスファチジルコリン(PC)34:1を用いて脂質を同定することができるが、より重要なことは、分子脂質種、例えば、PC16:0/18:1の同定である。後者の分析では、特定のPC分子を構成するグリセロール骨格に結合した脂肪酸タイプとそれらの位置の情報が検索される。 【0138】 Shinzawa-Itohらの独創的な研究は、非常に洗練された実験によって、シトクロムc酸化酵素における酸素移動機構が、グリセロール骨格上のsn-1とsn-2位置でのそれぞれパルミチン酸塩とバクセン酸塩を有する特定のホスファチジルグリセロール分子脂質を必要とすることを示した(Shinzawa-Itoh K, Aoyama H, Muramoto K et al: Structures and physiological roles of 13 integral lipids of bovine heart cytochrome c oxidase. EMBO J 2007, 26:1713-1725)。他の研究に沿って、これは、疑う余地もなく、脂質構造が生物学的効果の重要な決定要因であることを示す。したがって、分子リピドミクスはバイオマーカー発見に不可欠である。図1は、LURICコホートにおけるCVD死亡率の予測において、2つのPCとLacCer分子のバイオマーカー値を比較することによって分子脂質データの重要性を示す。データは、LacCer(d18:1/20:0)は重要なCVD予測因子であり、一方、LacCer(d18:1/18:16:0)はバイオマーカー潜在性が低いことを表す。また、2つのPC分子であるPC(18:0/20:4)とPC(18:0/16:0)はCVD合併症に同等に反対の効果を有する。したがって、限定されないが、コレステロールエステル、様々なリン脂質クラス、セラミド、セレブロシド(ラクトシルセラミド、グリコシルセラミド、グロボトリアオシルセラミド)を含む、対象とする脂質クラスについての全ての脂質種を同定し、定量することが常に必要である。 ・・・ 【0148】 本発明の好ましい脂質分子は、以下のようにして選択された:a)生物学的に意味のある可能性があった、b)好ましくは、同様に挙動している脂質のファミリーに属する、c)意味があり、測定可能な濃度で発現される、d)非常に有意なp-値、または良好なAUC値(>0.65)を有し、またほとんどについて、変化%が相当である(>20%)、およびe)異なるテストにおいて有意であるようであった。 ・・・ 【0150】 脂質分析は、CVD合併症について新規な血漿バイオマーカーの同定に効率的であることが判明した。 【0151】 分子脂質対分子脂質比は、例えば、脂質代謝経路における酵素活性を含む、細胞脂質代謝の重要な指標であり得た。したがって、これらの比は、分子脂質単独の絶対血漿濃度として、より多くの情報を提供することができる。健常者とアテローム性動脈硬化症患者の間で一般的に絶対分子脂質血漿濃度差が30~70%の間にあると考えられるため、絶対濃度のみの代わりに、様々な比を計算し、使用することが妥当である場合がある。リポタンパク質粒子(例えば、LDL、HDLおよびVLDL)は、血流中の脂質のほとんどについて担体として機能しているため、リポタンパク質データに分子脂質濃度を関連付けることは適切である。したがって、HDL-コレステロール、LDL-コレステロール、アポリポタンパク質AIおよびアポリポタンパク質Bに対する脂質分子の比を計算した。実際に、様々な分子脂質の濃度間の多数の比は、CVD患者における疾患バイオマーカーとして絶対血漿濃度より優れていた。 【0152】 検出された脂質はリポタンパク質粒子(LDL、VLDLおよびHDL)において運搬されるため、対応するリポタンパク質画分濃度は、総血清/血漿サンプル中の本研究の結果から分子脂質の予測可能性をなお一層改善することは明らかである。 【0153】 脂質低下薬物の効率測定は、これまで、LDL-CとHDL-Cアッセイに基づいていた。本明細書では、発明者らは、これらの古典的な分析よりも良好に、高リスクのCVD合併症の発症を予測するより潜在的なバイオマーカーを観察してきたため、将来の薬物効率プロファイリングは、LDL-Cというよりはむしろ重度のCVDに関連した合併症のリスクにより直接的に関連付けられる新規な感受性および特異的バイオマーカーに基づくべきである。 【0154】 当業者は、所定の実験だけを用いて、特許明細書全体における実施例と本文の両方において、本明細書において記載されている特定の実施形態の多数の均等物を認めるか、または確かめることができる。このような均等物は、本発明の範囲内にあり、以下の特許請求の範囲に包含されるものとする。」 イ 引用文献1に記載された発明 上記記載事項(ア)の段落【0002】における用語の定義及び記載事項(ウ)の段落【0019】の記載に基づけば、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「スタチン治療を受けていない対象が、急性心筋梗塞および/または心血管疾患死などの1つまたは複数の心血管疾患合併症を発症させるリスクがあるかどうかを決定する方法であって、前記対象からのサンプル中の1つまたは複数の脂質-脂質濃度比を決定するステップであって、対照サンプルと比較した場合に増加または減少した前記サンプル中の脂質-脂質濃度比が、急性心筋梗塞または心血管疾患死などの1つまたは複数の心血管疾患合併症を発症させる高いリスクを前記対象が有することを示し、その増加が対照と比較される1つまたは複数の脂質-脂質濃度比が、Cer(d18:1/18:0)/Cer(d18:1/24:0)、Cer(d18:1/20:0)/Cer(d18:1/24:0)、Cer(d18:1/22:0)/Cer(d18:1/24:0)Gb3(d18:1/16:0)/PC18:0/22:6、SM(d18:1/16:0)(d18:1/15:1-OH)/SM(d18:1/24:0)(d18:1/23:1-OH)から選択され; その減少が対照と比較される1つまたは複数の脂質-脂質濃度比が、Cer(d18:1/24:0)/PC16:0/18:2、SM(d18:1/24:0)(d18:1/23:1-OH)/SM(d18:1/24:1)(d18:1/23:2-OH)、Cer(d18:1/24:0)/Cer(d18:1/24:1)、Cer(d18:1/24:0)/SM(d18:1/14:0)(d18:1/13:1-OH)、Cer(d18:1/24:0)/Gb3(d18:1/16:0)、およびCer(d18:1/24:0)/SM(d18:1/16:1)(d18:1/15:2-OH)から選択される、ステップを含む方法。」 (2)対比 本件発明と引用発明とを対比する。 ア データを収集する方法 引用発明は、「スタチン治療を受けていない対象が、急性心筋梗塞および/または心血管疾患死などの1つまたは複数の心血管疾患合併症を発症させるリスクがあるかどうかを決定する方法」であって、「対象からのサンプル中の1つまたは複数の脂質-脂質濃度比」を決定するものである。そして、引用発明の「脂質-脂質濃度比」が、「対照サンプルと比較した場合に増加または減少」した場合、「急性心筋梗塞または心血管疾患死などの1つまたは複数の心血管疾患合併症を発症させる高いリスクを前記対象が有すること」を示すとされている。 ここで、引用発明の「急性心筋梗塞および/または心血管疾患死などの1つまたは複数の心血管疾患合併症」は、本件発明の「1つまたは複数の心血管(CV)イベント」に相当する。そうすると、引用発明の「脂質-脂質濃度比」は、本件発明の「1つまたは複数の心血管(CV)イベントを発症する対象のリスクを決定するためのデータ」に相当する。また、引用発明の「前記対象からのサンプル中の1つまたは複数の脂質-脂質濃度比を決定するステップ」を含む方法は、本件発明の「1つまたは複数の心血管(CV)イベントを発症する対象のリスクを決定するためのデータを収集する方法」に相当する。 イ セラミドの濃度を決定するステップ 引用発明は、「増加が対照と比較される1つまたは複数の脂質-脂質濃度比が、Cer(d18:1/18:0)/Cer(d18:1/24:0)、Cer(d18:1/20:0)/Cer(d18:1/24:0)、Cer(d18:1/22:0)/Cer(d18:1/24:0)Gb3(d18:1/16:0)/PC18:0/22:6、SM(d18:1/16:0)(d18:1/15:1-OH)/SM(d18:1/24:0)(d18:1/23:1-OH)から選択」されるものである。ここで、引用発明の「Cer(d18:1/18:0)」等は、本件発明の「式Iのセラミド(Cer)」に包含されるものである。そして、引用発明の「Cer(d18:1/18:0)」等の濃度比を対照と比較するにあたり、「Cer(d18:1/18:0)」等の濃度を決定しているといえる。 したがって、引用発明の方法は、本件発明の「(a)対象からの試料をアッセイして、少なくとも1種の式Iのセラミド(Cer)の濃度を決定するステップ」を含むといえる。 ウ ホスファチジルコリンの濃度を決定するステップ 引用発明は、「減少が対照と比較される1つまたは複数の脂質-脂質濃度比が、Cer(d18:1/24:0)/PC16:0/18:2、SM(d18:1/24:0)(d18:1/23:1-OH)/SM(d18:1/24:1)(d18:1/23:2-OH)、Cer(d18:1/24:0)/Cer(d18:1/24:1)、Cer(d18:1/24:0)/SM(d18:1/14:0)(d18:1/13:1-OH)、Cer(d18:1/24:0)/Gb3(d18:1/16:0)、およびCer(d18:1/24:0)/SM(d18:1/16:1)(d18:1/15:2-OH)から選択」されるものである。ここで、引用発明の「PC16:0/18:2」は、本件発明の「式IIのホスファチジルコリン(PC)」に包含されるものである。そして、引用発明の「PC16:0/18:2」の濃度比を対照と比較するにあたり、「PC16:0/18:2」等の濃度を決定しているといえる。 したがって、本件発明の「(b)対象からの試料をアッセイして、少なくとも1種の式IIのホスファチジルコリン(PC)の濃度を決定するステップであって・・・少なくとも1種の式IIのPCがPC36:6を含むステップ」と引用発明の方法とは、「(b)対象からの試料をアッセイして、少なくとも1種の式IIのホスファチジルコリン(PC)の濃度を決定するステップ」である点で共通するものの、引用発明は、少なくとも1種の式IIのPCが「PC36:6を含む」ものとされていない。 エ CVイベントを発症するリスクを有することを決定するステップ 引用発明は、前記アに記載したとおり、「スタチン治療を受けていない対象が、急性心筋梗塞および/または心血管疾患死などの1つまたは複数の心血管疾患合併症を発症させるリスクがあるかどうかを決定する方法」であって、「対象からのサンプル中の1つまたは複数の脂質-脂質濃度比」を決定するものである。そして、引用発明は、「Cer(d18:1/18:0)/Cer(d18:1/24:0)、Cer(d18:1/20:0)/Cer(d18:1/24:0)、Cer(d18:1/22:0)/Cer(d18:1/24:0)Gb3(d18:1/16:0)/PC18:0/22:6、SM(d18:1/16:0)(d18:1/15:1-OH)/SM(d18:1/24:0)(d18:1/23:1-OH)」から選択される「脂質-脂質濃度比」の増加が対照と比較された場合、又は「Cer(d18:1/24:0)/PC16:0/18:2、SM(d18:1/24:0)(d18:1/23:1-OH)/SM(d18:1/24:1)(d18:1/23:2-OH)、Cer(d18:1/24:0)/Cer(d18:1/24:1)、Cer(d18:1/24:0)/SM(d18:1/14:0)(d18:1/13:1-OH)、Cer(d18:1/24:0)/Gb3(d18:1/16:0)、およびCer(d18:1/24:0)/SM(d18:1/16:1)(d18:1/15:2-OH)」から選択される「脂質-脂質濃度比」の減少が対照と比較された場合、「急性心筋梗塞または心血管疾患死などの1つまたは複数の心血管疾患合併症を発症させる高いリスクを前記対象が有すること」を示すとされている。 引用発明は、「Cer(d18:1/18:0)/Cer(d18:1/24:0)」等や、「Cer(d18:1/24:0)/PC16:0/18:2」について、対照と比較を行っているといえるから、引用発明は、本件発明の「(a)で決定した少なくとも1種の式IのCerの濃度およびステップ(b)で決定した少なくとも1種の式IIのPCをそれぞれの対照と比較」を行うステップを含んでいる。 また、引用発明において、「Cer(d18:1/18:0)」等の「脂質-脂質濃度比」の増加が対照と比較された場合に、「急性心筋梗塞または心血管疾患死などの1つまたは複数の心血管疾患合併症を発症させる高いリスクを前記対象が有すること」を示すことは、本件発明の「(i)増加した濃度の式IのCer」の状況を有する場合に相当し、「対象が1つまたは複数のCVイベントを発症するリスクを有することを決定」しているといえる。そうすると、引用発明は、本件特許の「(c)ステップ(a)で決定した少なくとも1種の式IのCerの濃度およびステップ(b)で決定した少なくとも1種の式IIのPCをそれぞれの対照と比較し、続いて試料が、下記の状況のいずれか1つを有する場合、対象が1つまたは複数のCVイベントを発症するリスクを有することを決定するステップ (i)増加した濃度の式IのCer (ii)減少した濃度の式IIのPC (iii)増加した濃度の式IのCerかつ減少した濃度の式IIのPC を含む方法。」を有しているといえる。 オ 一致点及び相違点 以上に基づけば、本件発明と引用発明とは、 「 1つまたは複数の心血管(CV)イベントを発症する対象のリスクを決定するためのデータを収集する方法であって、 (a)対象からの試料をアッセイして、少なくとも1種の式Iのセラミド(Cer)の濃度を決定するステップ 【化1】 [図:0001436859000005.jpg] (式中、R1は、11~17個の炭素原子を有する飽和、一価不飽和または二価不飽和のアルキル鎖であり、R2は、13~25個の炭素原子を有する飽和、一価不飽和または二価不飽和のアルキル鎖である)、 (b)対象からの試料をアッセイして、少なくとも1種の式IIのホスファチジルコリン(PC)の濃度を決定するステップであって 【化2】 [図:0001436859000006.jpg] (式中、R3およびR4は、飽和、一価不飽和または多価不飽和のアルキル鎖である)、 ならびに (c)ステップ(a)で決定した少なくとも1種の式IのCerの濃度およびステップ(b)で決定した少なくとも1種の式IIのPCをそれぞれの対照と比較し、続いて試料が、下記の状況のいずれか1つを有する場合、対象が1つまたは複数のCVイベントを発症するリスクを有することを決定するステップ (i)増加した濃度の式IのCer (ii)減少した濃度の式IIのPC (iii)増加した濃度の式IのCerかつ減少した濃度の式IIのPC を含む方法。」 である点で一致し、次の点で相違する。 [相違点] 本件発明は、式IIのPCがPC36:6を含むのに対し、引用発明は、PCが「PC36:6を含む」ものとされていない点。 (3)判断 ア 引用文献1の記載事項(オ)の段落【0138】には、「コレステロールエステル、様々なリン脂質クラス、セラミド、セレブロシド(ラクトシルセラミド、グリコシルセラミド、グロボトリアオシルセラミド)を含む、対象とする脂質クラスについての全ての脂質種を同定し、定量することが常に必要である。」と記載されている。当該記載に基づけば、引用文献1には、引用発明において決定されるリン脂質であるホスファチジルコリン(PC)について、そのクラスについての全ての脂質種を同定し、定量することが示唆されているといえる。そして、「PC36:6」について、引用文献1には直接言及がないものの、技術的にみて、分子の脂肪酸部分における全炭素原子数が36であり、分子の脂肪酸部分における二重結合の総数が6であるホスファチジルコリン(PC)である。そうすると、「PC36:6」は、ホスファチジルコリン(PC)の脂質種の一つであって、引用文献1において同定及び定量することが示唆されているものである。 また、引用文献1の記載事項(ウ)の段落【0091】には、「患者のサンプル由来の脂質マーカー(すなわち、脂質の濃度、脂質-脂質濃度比、もしくは脂質-臨床濃度比、またはそれらの組み合わせ、すなわち、対応するプロファイル)に関する情報、必要に応じて、対応する対照サンプルの情報の回収は、様々な化学的および高分解能の分析技術を用いて行うことができる。適切な分析技術としては、限定されないが、マススペクトロメトリーおよび核磁気共鳴分光分析が挙げられる。・・・好ましい実施形態では、脂質プロファイルはマススペクトロメトリー(MS)を用いて回収され、ここで、MS機器は、HPLC、UHPLCまたはUPLCなどの直接注入法および高速分離方法に結合されていてもよい。回収された脂質プロファイル中の個々の脂質または脂質クラスの量は、回収された脂質プロファイルと対照を比較するときに使用される。」と記載されている。当該記載に基づけば、引用文献1には、脂質種の同定及び定量に、マススペクトロメトリーを用いることが示唆されている。引用文献1の記載事項(オ)の段落【0123】にも、実施例において、ホスファチジルコリン(PC)の分子脂質種の分析に、マススペクトロメトリーを用いたことが記載されている。そして、マススペクトロメトリーを用いて同定及び定量した場合、「PC16:0/18:2」と共に、「PC36:6」も同時に同定されることになる。 さらに、引用文献1の記載事項(オ)の段落【0137】には、「マススペクトロメトリー駆動による脂質分析アプローチの最近の進化により、臨床コホートの分析のために必要とされるハイスループットと品質で、それらの分子脂質種レベルまで複雑なリピドーム(lipidome)を解決することが可能になってきた。方法の高感度と選択性の結果として、微小なサンプル量のリピドーム全体の分析が実施可能になってきた。本技術は、異なる合計(sum)組成物、すなわち、ホスファチジルコリン(PC)34:1を用いて脂質を同定することができるが、より重要なことは、分子脂質種、例えば、PC16:0/18:1の同定である。後者の分析では、特定のPC分子を構成するグリセロール骨格に結合した脂肪酸タイプとそれらの位置の情報が検索される。」と記載されており、段落【0148】には、「本発明の好ましい脂質分子は、以下のようにして選択された:a)生物学的に意味のある可能性があった、b)好ましくは、同様に挙動している脂質のファミリーに属する、c)意味があり、測定可能な濃度で発現される、d)非常に有意なp-値、または良好なAUC値(>0.65)を有し、またほとんどについて、変化%が相当である(>20%)、およびe)異なるテストにおいて有意であるようであった。」と記載されている。これらの記載に基づけば、引用文献1は、マススペクトロメトリーを用いることにより、ホスファチジルコリン(PC)等の脂質種の全ての中から、臨床コホートの分析のために必要とされる脂質種を見出すための手法についても教示していることが理解できる。 したがって、引用文献1における、ホスファチジルコリン(PC)について、そのクラスについての全ての脂質種を同定し、定量することの示唆に従い、臨床コホートの分析のために必要とされる脂質種を見出すための手法を参照し、ホスファチジルコリン(PC)の脂質種の一つである「PC36:6」を含むものとすることは、当業者が容易に想到し得ることである。 イ 次に、「PC36:6」を用いたことによる効果について検討すると、本願の明細書には、表1に、PC36:6がPC38:2と同様に減少することが示されており、表2に、「セラミド対ホスファチジルコリンまたはセラミド対セラミドの比が、対応するセラミドまたはホスファチジルコリン単独の場合よりも正確にCVイベントを予測することを示している。」(段落【0184】)とされており、表3に、「2種のセラミド/ホスファチジルコリン比の組合せが、個々のセラミド/ホスファチジルコリン比単独の場合と比較してより低いp値およびより高いC統計をもたらす例を提示している。」(段落【0187】)とされており、表5に、「セラミドおよびホスファチジルコリンの個々の脂質濃度の組合せが、より多くの脂質がモデルに組み込まれた場合、より低いp値およびより高いC統計をもたらす例を提示している。」(段落【0189】)とされており、表8および9に、「単純化スコアリングシステム(それぞれポイント0~12および0~9)を提示」(段落【0192】)しているとされており、表10および11に、「非脂質心血管バイオマーカーであるTNTがスコアリングシステムに加えられた追加の例を提示している。」(段落【0193】)とされており、表12に、「スコアリングシステムの予測値の例を提示している。」(段落【0194】)とされており、表13~18に、「第2の研究コホートの結果を示している。」(段落【0195】)とされている。しかし、これらの記載を参酌すると、様々なホスファチジルコリンのファミリーにおいて、PC36:6を用いた場合と他のホスファチジルコリンを用いた場合とで、効果に差異があるとは理解できない。また、本願明細書には、他に、PC36:6の効果について言及した記載がない。 そうすると、引用発明における、減少が対照と比較される脂質として、ホスファチジルコリン(PC)の脂質種の一つである、PC36:6を選択したことにより、当業者の予測する範囲を超えた格別な効果の差異が生じると理解することもできない。 (4)請求人の主張 ア 請求人は、審判請求書の請求の理由において、引用文献1~5には、本発明の「PC36:6」に関する構成要件についての記載及び示唆がない点で、本件発明は、新規性及び進歩性を有すると主張している。 しかし、前記(3)アにおいて検討したとおり、引用文献1には、引用発明において決定されるリン脂質であるホスファチジルコリン(PC)について、そのクラスについての全ての脂質種を同定し、定量することが示唆されているといえる。 したがって、請求人の上記主張は採用できない。 イ 加えて、請求人は、審判請求書の請求の理由において、本発明のCer及びPC36:6のバイオマーカーの組み合わせによれば、将来CVイベントを発症するリスクを有する対象をより正確に特定することができ、係る対象のCVイベントの予防を可能にするとし、このような効果は、PC36:6についての記載も示唆も全くない引用文献1~5から予測できないと主張している。 しかし、前記(3)イにおいて検討したとおり、ホスファチジルコリン(PC)の脂質種の一つである、PC36:6を選択したことにより、当業者の予測する範囲を超えた格別な効果の差異が生じると理解することはできない。 また、前記1(5)に記載したとおり、本件発明は、「(i)増加した濃度の式IのCer」又は「(ii)減少した濃度の式IIのPC」の状況を有する場合に、「対象が1つまたは複数のCVイベントを発症するリスクを有することを決定する」ものであれば、要件を満たすものである。そうすると、仮に、「Cer及びPC36:6のバイオマーカーの組み合わせによれば、将来CVイベントを発症するリスクを有する対象をより正確に特定することができ」るという効果が格別顕著なものであったとしても、当該効果は、本件発明の効果とはいえない。 したがって、請求人の上記主張も採用できない。 (5)まとめ 以上のとおり、上記[相違点]は、当業者が容易に想到し得たものであり、その効果も、当業者が予測できる範囲のものであるから、本件発明は、引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 したがって、本件発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 第5 むすび(結論) 上記のとおりであるから、本件発明は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、また、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。

審決本文(J-PlatPat)

J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。

J-PlatPat 審決検索を開く
2024-020559

番号・当事者・条文・審決分類・商標の称呼が一致(または近い)審決を機械的に集めた候補です。判断内容は各審決の本文でご確認ください。

同じ論点・分野の審決(審決分類)1,057件(113・G01N、121・G01N、537・G01N)
  • 2024-020005拒絶査定不服審判 / 2026-08-25 / 原査定取消(特許/登録すべき)形質細胞関連疾患のためのアッセイ
    共通の審決分類: 113・G01N、121・G01N、537・G01N
  • 2025-002731拒絶査定不服審判 / 2026-07-27 / 原査定取消(特許/登録すべき)複数の発射サイトを有する光学測定システム
    共通の審決分類: 113・G01N、121・G01N、537・G01N
  • 2025-006030拒絶査定不服審判 / 2026-07-07 / 原査定取消(特許/登録すべき)着色剤及びその関連技術
    共通の審決分類: 113・G01N、121・G01N、537・G01N
  • 2025-010624拒絶査定不服審判 / 2026-05-25 / 原査定取消(特許/登録すべき)複数の荷電粒子ビームレットによってサンプルを検査するための方法及び装置
    共通の審決分類: 113・G01N、121・G01N、537・G01N
  • 2025-004774拒絶査定不服審判 / 2026-04-07 / 原査定取消(特許/登録すべき)試料の製造方法、及び試料の観察方法
    共通の審決分類: 113・G01N、121・G01N、537・G01N

メモ・タグ(非公開)

あなただけに表示されます。審決本文の公開範囲は変わりません。

メモとタグは Pro の機能です。ログイン/Proでメモを保存