特許拒絶査定不服審判
2023-011370
情報処理装置
- 審判番号
- 2023-011370
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2020-515568外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2023年07月06日
- 審決日
- 2024年12月16日
- 公報発行日
- 2025年09月26日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】日本電気株式会社
- 【請求人代理人】速水 進治
- 【請求人】国立研究開発法人国立がん研究センター
- 【請求人代理人】速水 進治
- 分類
- P18 .121-WZ (G01N) / P18 .536-WZ (G01N) / P18 .537-WZ (G01N)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 行政事件訴訟法46条特許法29条2項特許法36条4項1号特許法36条6項1号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第4項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2020-515568「情報処理装置」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年10月31日国際公開、WO2019/208703〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、2019年(平成31年)4月25日(優先権主張 平成30年4月26日)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は、概略、以下のとおりである。
令和 3年11月26日付け:拒絶理由通知書
令和 4年 2月 3日提出:意見書、手続補正書
令和 4年 6月 7日付け:拒絶理由通知書
令和 4年 8月 9日提出:意見書、手続補正書
令和 4年11月 9日付け:拒絶理由通知書
令和 5年 1月12日提出:意見書、手続補正書
令和 5年 4月 4日付け:拒絶査定
令和 5年 7月 6日提出:審判請求書、手続補正書
令和 6年 5月29日付け:拒絶理由通知書
令和 6年 7月19日提出:意見書、手続補正書
第2 本願発明
本願の請求項1ないし3に係る発明は、令和6年7月19日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定されるものであり、そのうち請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、次のとおりのものである。
「 【請求項1】
対象患者の病理画像データに含まれる組織の組織形態学的特徴を抽出する抽出部と、
前記抽出した組織形態学的特徴を用いて、前記対象患者に対するがん治療薬の効果に関する予測を示す予測データを生成する生成部と、を有し、
前記病理画像データは、ヘマトキシリン・エオシン染色が行われた組織が含まれる画像データであり、
前記抽出部は、前記病理画像データに含まれる腫瘍細胞の細胞核の組織形態学的特徴を抽出し、
前記抽出部が抽出する細胞核の組織形態学的特徴は、細胞核の輪郭の複雑度合いを含み、
前記生成部は、組織形態学的特徴が入力されることに応じて前記対象患者に与えるがん治療薬の影響に関する予測を出力する学習済みの予測モデルに対し、前記抽出部によって抽出された組織形態学的特徴を適用することで、前記予測データを生成し、
前記予測モデルは、がん治療薬を投与する前の患者の病理画像データから抽出された組織形態学的特徴と、当該患者に前記がん治療薬を投与した後の当該患者の状態を表すデータとを組み合わせた教師データを利用して学習され、
前記予測モデルは、前記がん治療薬ごとに用意される、情報処理装置。」
第3 拒絶の理由
当審が令和6年5月29日付けで通知した拒絶理由の概要は次のとおりである。
●理由1(明確性):
本件出願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
(略)
●理由2(実施可能要件)及び●理由3(サポート要件):
本件出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の(1)及び(2)関する点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
本件出願は、特許請求の範囲の記載が下記の(1)及び(2)に関する点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
(1)発明の詳細な説明の記載は、予測モデルが「がん治療薬を投与した」後の「患者の病理画像データ」を利用して学習されることを説明するものではない。
(2)がん治療薬による治療前の「組織形態学的特徴」によって、がん治療薬の効果を予測し得ることが、出願時において技術常識であったとは認められず、また、発明の詳細な説明には、がん治療薬の投与前の「患者の組織切片の画像データ」から抽出される「組織形態学的特徴」から、がん治療薬の効果を予測できることを裏付ける実施例などの記載もない。
●理由4(進歩性):本件出願の下記の請求項に係る発明は、その優先日前日本国内または外国において頒布された以下の引用文献1及び2に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
・請求項1~3
引用文献等一覧:
1.国際公開第2015/040990号
2.山口雅浩,デジタル病理診断に向けた画像処理・解析技術,医用画像情報学会雑誌,2015,Vol.32,No.2,Pages19-24
第4 引用文献の記載及び引用発明
1 引用文献1
(1)引用文献1の記載事項
当審の拒絶の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された上記引用文献1である国際公開第2015/040990号には、次の事項が記載されている。(下線は当審において付加したものである。)
「[0015] 疾患分析装置2000は、対象人物(例:患者など)の疾患の予後に関する予測、又は対象人物の疾患の悪性度に関する予測を示す情報を生成する。そのために、疾患分析装置2000は、画像取得部2020、特徴量算出部2040、評価関数取得部2060、及び予測情報生成部2080を有する。以下、これら機能構成部について説明する。
[0016] <画像取得部2020>
画像取得部2020は解析画像を取得する。解析画像には、対象人物の病変の細胞核が複数撮像されている。例えば解析画像には、3000 - 5000 個の細胞核が含まれている。例えば解析画像は病理標本を撮像した画像である。病理標本は、対象人物から採取した組織をヘマトキシリン・エオシン染色(HE 染色)することで作成される。
[0017] <特徴量算出部2040>
特徴量算出部2040は、解析画像から、細胞核に関する特徴量を算出する。
[0018] <評価関数取得部2060>
評価関数取得部2060は、評価関数格納部10から評価関数を取得する。評価関数格納部10は、評価関数を格納する格納部である。評価関数は、特徴量に基づいて予測情報を算出する関数である。
[0019] <予測情報生成部2080>
予測情報生成部2080は、解析画像から算出された特徴量と、評価関数取得部2060によって取得された評価関数とに基づき、対象人物に関する予測情報を生成する。予測情報は、対象人物の疾患の予後の予測、又は対象人物の疾患の悪性度の予測を示す情報である。
[0020] 疾患の予後の予測とは、例えば疾患が再発するか否かの予測や、疾患が再発する時期の予測である。疾患の悪性度は、疾患の治療の難しさ、疾患の進行の早さの度合い、又は疾患が患者に与える影響の大きさなどを表す。例えば疾患の悪性度は、段階分けした指標値などで表される。例えば癌の悪性度を表す段階分けした指標値は、グレードなどである。ただし、疾患の悪性度の表し方は、段階分けした指標値を用いる方法に限定されない。なお、疾患の予後予測は、再発した場合における疾患の悪性度予測であってもよい。」
「[0048] 例えば特徴量算出部2040が算出する細胞核に関する特徴量は、細胞核の周囲長、長径、短径、円形度、面積、長径と短径から構成される長方形の面積と細胞核の面積との比率、輪郭線の複雑度、細胞核の密集度、又は細胞核内の染色状態のいずれか1つ以上に関する特徴量である。ここで、細胞核の長径と短径は、細胞核を楕円形に近似した場合における長径と短径である。」
「[0050] 輪郭線の複雑度は、例えば次のように算出される。まず、特徴量算出部2040は、細胞核の内部の各画像ピクセルについて、色の濃さを算出する。そして、特徴量算出部2040は、細胞核内部の画像ピクセルのうち、色の濃さが閾値以上である画像ピクセルの固まりを、細胞核内構造物として抽出する。次に、特徴量算出部2040は、抽出した細胞核内構造物の周囲長の合計値を算出する。
[0051] 特徴量算出部2040は、複数種類の濃さの閾値それぞれについて、上述した細胞核内構造物の周囲長の合計値を算出する。そして、これら複数の合計値の中から、細胞核の周囲長以上の合計値のみを選択する。そして、選択した合計値の総和を、輪郭線の複雑度とする。
[0052] 図4は、輪郭線の複雑度をグラフで示す図である。X軸は濃さの閾値を表す。実線のグラフは、細胞核内構造物の周囲長の合計値を示す。点線のグラフは、細胞核の周囲長を示す。そして、斜線部分の面積は、輪郭線の複雑度を表す。」
(2)引用文献1に記載された発明
上記「1 (1)」の記載(特に下線部)を総合すると、引用文献1には、次の発明が記載されている。
「対象人物から採取した組織をヘマトキシリン・エオシン染色(HE 染色)することで作成される病理標本を撮像した解析画像を取得する画像取得部、([0015]、[0016])
解析画像から、細胞核に関する特徴量を算出する特徴量算出部であって、特徴量は、細胞核の周囲長、長径、短径、円形度、面積、長径と短径から構成される長方形の面積と細胞核の面積との比率、輪郭線の複雑度、細胞核の密集度、又は細胞核内の染色状態のいずれか1つ以上に関する特徴量である特徴量算出部、([0015]、[0017]、[0048])
評価関数格納部から評価関数を取得する評価関数取得部、([0015]、[0018])
解析画像から算出された特徴量と、評価関数取得部によって取得された評価関数とに基づき、対象人物に関する予測情報を生成する予測情報生成部であって、予測情報は、対象人物の疾患の予後の予測、又は対象人物の疾患(癌)の悪性度の予測を示す情報である予測情報生成部、([0015]、[0019]~[0020])
を備えた疾患分析装置。([0015])」(以下「引用発明」という。)
2 引用文献2
当審の拒絶の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された上記引用文献2である、山口雅浩,デジタル病理診断に向けた画像処理・解析技術,医用画像情報学会雑誌,2015,Vol.32,No.2,Pages19-24には、次の事項が記載されている。(下線は当審において付加したものである。)
・20頁右欄45~51頁
「また、近年分子病理学の発展が目覚ましいが、遺伝子や分子発現は形態にも反映されていると考えられ,計測された形態特徴は,分子マーカーと同様にがんの遺伝子の違いを判別するためにも有効と予測される.これは、前述の治療薬の適応可否判定などの治療方針の決定に役立つだけでなく,創薬分野でも有効な判定指標になる可能性を有している.」
・21頁左欄31~43行
「これらの特徴量を用いた機械学習によりがんの判別を行っている.本システムではSVM(Support Vector Machine)を用いて,細胞核の特徴量と組織構造の特徴量による判別を行い,その出力値から「がんらしさ」を5段階のヒートマップで表示している.SVMによるがん判別の精度については,約1,000 枚のROI画像を用いた5-fold cross-validation の結果,感度・特異度ともに約90%であった[10].
このようなシステムの応用・展開としては,肝細胞がんの病理診断支援システムとして専門外の病理医による診断の支援やダブルチェックとしての利用に加え,がんの層別化・治療法選択・予後予測などに役立つ指標の自動抽出,治療薬の有効性評価などが考えられる.」
第5 理由4(進歩性)について
1 本願発明1と引用発明との対比
本願発明1と引用発明を対比する。
・引用発明の「対象人物から採取した組織をヘマトキシリン・エオシン染色(HE 染色)することで作成される病理標本を撮像した解析画像」は、本願発明1の「ヘマトキシリン・エオシン染色が行われた組織が含まれる画像データであ」る「病理画像データ」に相当する。
・引用発明は、「疾患(癌)の悪性度の予測」を行うものであるから、「癌」疾患を対象としている。そうすると、引用発明における「病理標本」は、癌組織の標本であることは明らかであるから、「細胞核の周囲長、長径、短径、円形度、面積、長径と短径から構成される長方形の面積と細胞核の面積との比率、輪郭線の複雑度、細胞核の密集度、又は細胞核内の染色状態のいずれか1つ以上に関する特徴量」は、本願発明1の「腫瘍細胞の細胞核の組織形態学的特徴」に相当し、引用発明の「解析画像から、細胞核に関する」「細胞核の周囲長、長径、短径、円形度、面積、長径と短径から構成される長方形の面積と細胞核の面積との比率、輪郭線の複雑度、細胞核の密集度、又は細胞核内の染色状態のいずれか1つ以上に関する」「特徴量を算出する特徴量算出部」は、本願発明1の「対象患者の病理画像データに含まれる組織の組織形態学的特徴を抽出する抽出部」であって、「前記抽出部は、前記病理画像データに含まれる腫瘍細胞の細胞核の組織形態学的特徴を抽出」するものであることに相当する。
・引用発明の「解析画像から算出された特徴量と、評価関数取得部によって取得された評価関数とに基づき、対象人物に関する予測情報を生成する予測情報生成部であって、予測情報は、対象人物の疾患の予後の予測、又は対象人物の疾患の悪性度の予測を示す情報である予測情報生成部」と、本願発明1の「前記抽出した組織形態学的特徴を用いて、前記対象患者に対するがん治療薬の効果に関する予測を示す予測データを生成する生成部」とは、「抽出した組織形態学的特徴を用いて、対象患者のがん疾患に関する予測を示す予測データを生成する生成部」という点で共通するものである。
上記対比から、本願発明1と引用発明との一致点、相違点は次のとおりである。
<一致点>
「対象患者の病理画像データに含まれる組織の組織形態学的特徴を抽出する抽出部と、
抽出した組織形態学的特徴を用いて、対象患者のがん疾患に関する予測を示す予測データを生成する生成部と、を有し、
前記病理画像データは、ヘマトキシリン・エオシン染色が行われた組織が含まれる画像データであり、
前記抽出部は、前記病理画像データに含まれる腫瘍細胞の細胞核の組織形態学的特徴を抽出する、情報処理装置。」
<相違点>
相違点1:抽出部が抽出する細胞核の組織形態学的特徴について、本願発明1は、「細胞核の輪郭の複雑度合いを含」むのに対して、引用発明は、「細胞核の周囲長、長径、短径、円形度、面積、長径と短径から構成される長方形の面積と細胞核の面積との比率、輪郭線の複雑度、細胞核の密集度、又は細胞核内の染色状態のいずれか1つ以上に関する特徴量であ」り、「輪郭線の複雑度」が必須の特徴量ではない点。
相違点2:予測データを生成する生成部について、本願発明1は、「組織形態学的特徴が入力されることに応じて前記対象患者に与えるがん治療薬の影響に関する予測を出力する学習済みの予測モデルに対し、前記抽出部によって抽出された組織形態学的特徴を適用」し、「前記予測モデルは、がん治療薬を投与する前の患者の病理画像データから抽出された組織形態学的特徴と、当該患者に前記がん治療薬を投与した後の当該患者の状態を表すデータとを組み合わせた教師データを利用して学習される」のに対して、引用発明は、「予測情報生成部」が「評価関数格納部から」「取得」される「評価関数」により「予測情報を生成する」ものの、「評価関数」が「学習済み予測モデル」であるか否かが不明である点。
相違点3:(相違点2と関連して)本願発明1は、予測モデルががん治療薬ごとに用意されるのに対して、引用発明は、「評価関数」ががん治療薬ごとに用意されるものではない点。
2 判断
(1)相違点1について
引用発明において特徴量の1つとして特定されている「輪郭線の複雑度」について、引用文献1の段落0050~0052にその算出方法が具体的に記載されていることから、引用発明における「輪郭線の複雑度」は当業者において当然に選択し得るものである。
(2)相違点2及び3について
相違点3は相違点2と密接に関連するものであるから、ここで同時に検討する。
引用文献2には、1(2)において摘記したとおりの記載があり、それらの記載(特に下線部参照)から、機械学習により、細胞核の特徴量を入力、治療薬の有効性評価(適用可否判定)を出力とするモデルの構築が示唆されている。
引用文献1と引用文献2は、ともに細胞核の特徴量を用いて、癌に関する予測や判別を行うものであり、技術分野が共通するものであるから、引用文献2に記載の上記示唆を引用発明に適用して、「組織形態学的特徴が入力されることに応じて前記対象患者に与えるがん治療薬の影響に関する予測を出力する学習済みの予測モデルに対し、前記抽出部によって抽出された組織形態学的特徴を適用する」ことで、前記予測データを生成するように構成することは当業者が容易になし得たことであり、その際、予測モデルの構築において、入力情報(細胞核の特徴量)、出力情報(治療薬の有効性)の組み合わせを教師データとして学習させること、つまり、本願発明の「がん治療薬を投与した患者の病理画像データから抽出された組織形態学的特徴と、当該患者に前記がん治療薬を投与した後の当該患者の状態を表すデータとを組み合わせた教師データを利用して学習」させることは当業者が適宜なし得たことである。さらに、がんの治療薬が複数種類存在し、それらの治療薬の有効性が治療薬毎に異なることは技術常識であることを考慮すれば、予測モデルの作成に際して、モデルを治療薬毎に用意することも当業者が通常に発揮する創作能力の範囲にすぎない。
(3)本願発明1の効果について
本願発明1が奏する効果は、引用文献1及び2の記載、並びに(2)で言及した技術常識を踏まえれば、当業者が十分に予想しうる範囲内のものである。
(4)請求人の主張について
請求人は、令和6年7月19日提出の意見書において「各引用文献を組み合わせたとしても、ある病理画像データから細胞核に関する特徴量を算出し、機械学習により学習されたモデルを用いて、算出された細胞核の特徴量を入力し、ある治療薬の有効性評価(適用可否判定)を出力とする構成が導き出されるだけです。
このため当業者は引用文献1および2に基づいても、本願発明の補正後の請求項1に記載された、「前記予測モデルは、前記がん治療薬ごとに用意される」という構成を導き出すことはできません。」と主張している。
上記主張について検討する。
本願の優先日において、がんの治療薬が複数種類存在し、それらの治療薬の有効性が治療薬毎に異なることは技術常識であり、がんの種類等に応じて、治療薬を選択することは極めて一般的に行われていたことであり、(引用文献2の上記摘記した21頁31~43行の記載で言及されている)治療法の選択には、一般的に治療薬の選択も含まれることを踏まえれば、引用文献2の示唆を引用発明に適用するに際して、医師が有効な治療薬が選択的できるように、治療薬ごとのモデルを用意することは、上記(2)で述べたとおり当業者が通常に発揮する創作能力の範囲にすぎない。
よって、請求人の上記主張は採用できない。
(5)小括
以上のとおり、本願発明1は、引用発明1及び引用文献2の示唆に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
第6 理由2(実施可能要件)及び理由3(サポート要件)について
がん治療薬による治療前の「組織形態学的特徴」によって、がん治療薬の効果を予測し得ることが、出願時において技術常識であったとは認められず、また、発明の詳細な説明には、がん治療薬の投与前の「患者の組織切片の画像データ」から抽出される「組織形態学的特徴」から、がん治療薬の効果を予測できることを裏付ける実施例などの記載もない。
また、請求人は、審判請求書の(3.3)で、1973年の参照文献を挙げて、「「組織形態学的特徴」が、がんの特徴を示していることは当業者にとって自明であるため、「組織形態学的特徴」を観察することで、がん治療薬によってがんがどのように変化したか、つまり、がん治療薬ががんに対してどのような効果があったかを特定できること、つまり、「組織形態学的特徴」と「がん治療薬の効果」との間に相関関係があることは、当業者は容易に理解できます。」と主張している。しかし、がん治療薬による効果は、「組織形態学的特徴」の変化で特定しうるとしても、「組織形態学的特徴」の変化を学習させることは、本願発明1において特定されておらず、発明の詳細な説明にも記載されていない。また、1973年の参照文献は、がん治療薬の投与前の「組織形態学的特徴」と、投与されるがん治療薬の効果の関係について示唆するものではない。
さらに、請求人は、令和6年7月19日提出の意見書において、引用文献2の記載を根拠に「引用文献2の記載により、がん治療薬の投与前の「組織形態学的特徴」と、投与されるがん治療薬の効果の関係に相関関係があることが示唆されているため、特許庁のAI関連技術に関する審査基準に従い、実施可能要件およびサポート要件は満たされていると思料いたします。」と主張している。しかし、引用文献2の記載された内容が公知であるにせよ、それが本願の出願時に技術常識であったとまでは認められないことから、技術常識に鑑みても、がん治療薬の投与前の「組織形態学的特徴」と、投与されるがん治療薬の効果の関係に相関関係の存在が推認できるとはいえず、引用文献2の記載をもってして本願の発明の詳細な説明の記載を補うことはできない。
よって、発明の詳細な説明は、当業者が本願発明1を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものではないし、また、本願発明1は、発明の詳細な説明に記載されたものでもない。
第7 むすび
以上のとおり、本願発明1である請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
また、本願の特許請求の範囲の請求項1の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、発明の詳細な説明が同条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
したがって、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
審決本文(J-PlatPat)
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2023-011370