特許異議申立
2016-701168
非水電解液二次電池用セパレータ、非水電解液二次電池用積層セパレータ、非水電解液二次電池用部材および非水電解液二次電池
- 審判番号
- 2016-701168
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2015-233929外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2016年12月22日
- 審決日
- 2017年05月15日
- 公報発行日
- 2017年07月28日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】住友化学株式会社
- 【権利者代理人】長谷川 和哉
- 【権利者代理人】鶴田 健太郎
- 【異議申立人】特許業務法人 藤央特許事務所
- 分類
- P1651.113-Y (H01M) / P1651.121-Y (H01M)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第5938512号発明「非水電解液二次電池用セパレータ、非水電解液二次電池用積層セパレータ、非水電解液二次電池用部材および非水電解液二次電池」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第5938512号の請求項1~4に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
1 手続の経緯
特許第5938512号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~4に係る特許についての出願は、平成27年11月30日に特許出願され、平成28年5月20日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、特許異議申立人藤井正弘(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立がされ、平成29年2月13日付けで取消理由が通知され、その指定期間内に同年4月21日付けで意見書の提出がなされたものである。
2 本件発明
本件特許の請求項1~4に係る発明(以下それぞれ「本件発明1~4」といい、これらをまとめて「本件発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1~4に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
ポリオレフィンを主成分とする多孔質フィルムであって、
エタノールを含浸した状態における、波長590nmの光に対する位相差が80nm以下であり、かつ、空隙率が30~60%であることを特徴とする非水電解液二次電池用セパレータ。
【請求項2】
請求項1に記載の非水電解液二次電池用セパレータと多孔質層とを備えることを特徴とする非水電解液二次電池用積層セパレータ。
【請求項3】
正極と、請求項1に記載の非水電解液二次電池用セパレータ、又は、請求項2に記載の非水電解液二次電池用積層セパレータと、負極とがこの順で配置されてなることを特徴とする、非水電解液二次電池用部材。
【請求項4】
請求項1に記載の非水電解液二次電池用セパレータ、又は、請求項2に記載の非水電解液二次電池用積層セパレータを備えることを特徴とする非水電解液二次電池。」
3 特許異議申立理由の概要
申立人は、証拠として、下記甲第1号証~甲第3号証を提出し、以下の取消理由1によって請求項1~4に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。
甲第1号証:特開平7-188440号公報
甲第2号証:特開2015-171814号公報
甲第3号証:特開2008-210794号公報
取消理由1
本件特許の請求項1~4に係る発明は、甲第1号証、甲第2号証、甲第3号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。
4 取消理由通知の概要
当審において、請求項1~4に係る特許に対して通知した取消理由は、上記取消理由1に基づく、次の(1)、(2)の2つである。
(1)本件発明1は、甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当し、特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
(2)本件発明1~4は、甲第1号証~甲第3号証に記載された発明と周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができるものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
5 判断
(1)甲第1号証の記載
本件特許に係る出願の出願日前に日本国内において頒布された甲第1号証(特開平7-188440号公報)には、次の記載がある。
1ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】 重量平均分子量が7×105以上の成分を1重量%以上含有し、重量平均分子量/数平均分子量が10~300のポリオレフィン組成物からなり、膜厚方向に配向度が変化していることを特徴とするポリオレフィン微多孔膜。」
1イ 「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、超高分子量成分を含有するポリオレフィン組成物からなる微多孔膜及びそれを製造する方法に関し、特に突刺強度に優れたポリオレフィン微多孔膜及びそれを製造する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】ポリオレフィン微多孔膜は、電池用セパレーター、電解コンデンサー用隔膜、各種フィルター、透湿防水衣料、逆浸透濾過膜、限外濾過膜、精密濾過膜等の各種用途に用いられている。」
1ウ 「【0011】
【発明が解決しようとする課題】以上の方法においては、予備加熱や延伸時の加熱を、ポリオレフィン成形物に温度分布が生じないように行うため、得られる微多孔膜の膜厚方向の配向度はいずれも一定であった。しかしながら、このようなポリオレフィン微多孔膜は必ずしも十分な突刺強度を有しないため、食品醗酵、医療、電子などの分野で工業的に利用するには、さらに突刺強度に優れたものが望まれている。
【0012】したがって、本発明の目的は、破断強度のみならず、突刺強度にも優れたポリオレフィン微多孔膜及びそれを製造する方法を提供することである。」
1エ 「【0022】〔2〕ポリオレフィン微多孔膜
上述したようなポリオレフィン組成物からなる本発明のポリオレフィン微多孔膜は、膜厚方向に配向度が変化していることを特徴とする。その形態としては、(a) 微多孔膜の両面部分の配向度が小さく、内部の配向度が大きいもの、(b) 微多孔膜の両面部分の配向度が大きく、内部の配向度が小さいもの、及び(c) 微多孔膜の片面部分の配向度が大きく、その反対側の配向度が減少しているものが挙げられる。
【0023】ここで、配向度は複屈折率(Δn)で表し、ポリオレフィン微多孔膜における最大の配向度と最小の配向度との差は(Δnの差)0.0058~0.0001であるのが好ましく、特に0.0050~0.0002であるのが好ましい。このように膜厚方向に配向度が変化していることにより、破断強度のみならず、突刺強度にも優れた微多孔膜となる。
【0024】また、本発明のポリオレフィン微多孔膜は、空孔率が35~95%であるのが好ましく、平均貫通孔径が0.001 ~0.2 μmであるのが好ましい。膜厚は、用途に応じて適宜選択しうるが、1~50μmであるのが好ましく、特に2~40μmであるのが好ましい。」
1オ 「【0043】
【実施例】以下に本発明の実施例を示す。なお、実施例における試験方法はつぎの通りである。
…
(8) 複屈折率:ポリオレフィン微多孔膜のサンプルの表裏面に、粘着性の高いテープを付けて引き剥がすことによって、膜厚方向3層分のサンプルを得た。得られたサンプルにシリコンオイルを均一にしみ込ませた後、傾斜式自動複屈折計(KOBRA-21AD、KSシステムズ(株)社製)により測定した。」
1カ 「【0044】実施例1~3
重量平均分子量(Mw)が2.5 ×106 の超高分子量ポリエチレン(UHMWPE) 2重量部と、重量平均分子量(Mw)が6.8 ×105 のポリエチレン(PE)8重量部とを混合したMw/Mn=16.8の原料樹脂と、流動パラフィン (64cst/40℃) 90重量部とを混合し、ポリエチレン組成物の混合液を調製した。次にこの混合液100重量部に、2,6-ジ-t- ブチル-p- クレゾール (「BHT 」、住友化学工業(株)製)0.125重量部と、テトラキス〔メチレン-3-(3,5-ジ-t- ブチル-4- ヒドロキシルフェニル)-プロピオネート〕メタン (「イルガノックス1010」、チバガイギー製)0.25 重量部とを酸化防止剤として加えて混合した。この混合液を撹拌機付のオートクレーブに充填して、撹拌しながら10℃/hrで徐々に昇温し、均一な溶液を得た。
【0045】この溶液を直径45mmの押出機により、Tダイから200 ℃で押し出し、5℃の冷却ロールで引取ながらゲル状シートを成形した。このゲル状シートを、図1に示すような加熱炉に導入し、延伸速度0.5 m/分で7×7倍に同時二軸延伸を行った。予熱炉、延伸炉及び固定炉における加熱エアの温度及び風速、及び加熱時間を表1に示す。
【0046】得られた延伸膜を塩化メチレンで洗浄して、残留する流動パラフィンを抽出除去した後、乾燥させてポリエチレン微多孔膜を得た。このポリエチレン微多孔膜の膜厚、透気度、引張強度、引張伸度、突刺強度及び突刺伸度の測定を行った。結果をあわせて表1に示す。」
1キ 「
」
1ク 「【0051】
【発明の効果】以上詳述したように、本発明によれば、超高分子量成分を含有し、分子量分布が広い(重量平均分子量/数平均分子量が大きい)ポリオレフィン組成物からなるゲル状シートを膜厚方向に温度分布が生じるように加熱して延伸しているので、得られる微多孔膜は、膜厚方向に配向度が変化しており、破断強度のみならず、突刺強度にも優れている。
【0052】このような本発明の方法によるポリオレフィン微多孔膜は、リチウム電池などの電池用セパレーター、電解コンデンサー用隔膜、超精密濾過膜、限外濾過膜、各種フィルター、透湿防水衣料用多孔質膜等の各種用途に好適である。」
(2)甲1発明
ア 上記1アによれば、甲第1号証に記載のポリオレフィン微多孔膜は、重量平均分子量が7×105以上の成分を1重量%以上含有し、重量平均分子量/数平均分子量が10~300のポリオレフィン組成物からなり、膜厚方向に配向度が変化していることを特徴とするものである。
イ 上記1エによれば、甲第1号証に記載のポリオレフィン微多孔膜は、膜厚方向に配向度が変化していることを特徴とするものであり、その配向度は複屈折率(Δn)で表すことができる。また、上記1オによれば、複屈折率(Δn)は、ポリオレフィン微多孔膜のサンプルの表裏面に、粘着性の高いテープを付けて引き剥がすことによって得られた、膜厚方向3層分のサンプルにシリコンオイルを均一にしみ込ませた状態で、KSシステムズ(株)社製の傾斜式自動複屈折計である「KOBRA-21AD」を用いて測定されたものである。
ウ 上記1カによれば、実施例1~3のポリオレフィン微多孔膜は、いずれも、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE) とポリエチレン(PE)と流動パラフィンと酸化防止剤を混合した溶液をゲル状シートに成型し、加熱炉において同時二軸延伸を行い、上記流動パラフィンを抽出除去することによって得られたポリエチレン微多孔膜であるから、ポリエチレンを主成分とする微多孔膜である。
エ 上記1キの表1によれば、上記実施例1~3のポリオレフィン微多孔膜は、膜厚はいずれも25μmであり、上記イの方法で測定された複屈折率は、実施例1が0.0006(表層)と0.0012(コア層)、実施例2が0.0010(表層)と0.0007(コア層)、実施例3が0.0007(表層)と0.0012(コア層)である。
オ 上記1エの段落【0024】によれば、甲第1号証に記載のポリオレフィン微多孔膜は、空孔率が35~95%であるものが好ましいと記載されていることから、上記ウの方法で製造された実施例1~3のポリオレフィン微多孔膜の空孔率は、表1には記載されていないものの、35~95%の範囲のいずれかの値になっているものと認められる。
カ 上記1クによれば、甲第1号証に記載のポリオレフィン微多孔膜は、リチウム電池のセパレータの用途に好適なものであると記載されているから、上記実施例1~3のポリオレフィン微多孔膜はリチウム電池のセパレータとして適用されるものと認められる。
キ 以上、上記1ア~1クの記載と、上記ア~カの検討事項に基づいて、実施例1に注目すると、甲第1号証には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているものと認められる。
「ポリエチレンを主成分とするポリオレフィン微多孔膜であって、
当該ポリオレフィン微多孔膜を、粘着性の高いテープを付けて引き剥がすことによって得られた、膜厚方向3層分のサンプルについて、シリコンオイルを含浸した状態において、KSシステムズ(株)社製の傾斜式自動複屈折計である「KOBRA-21AD」を用いて測定した複屈折率が0.0006(表層)と0.0012(コア層)であり、かつ、空孔率が35~95%の範囲のいずれかの値である、リチウム電池のセパレータ。」
(3)対比
本件発明1と甲1発明を対比する。
ア 甲1発明の「ポリエチレンを主成分とするポリオレフィン微多孔膜」は本件発明1の「ポリオレフィンを主成分とする多孔質フィルム」に相当する。
イ リチウム電池における電解質として非水電解液を使用すること、及び、リチウム電池が2次電池であることはいずれも技術常識であるから、甲1発明の「リチウム電池」は本件発明1の「非水電解液二次電池」に相当する。
ウ 甲1発明の「空孔率」は、本件発明1の「空隙率」に相当する。
エ そうすると、本件発明1と甲1発明の一致点と相違点は次のとおりとなる。
<一致点>
「 ポリオレフィンを主成分とする多孔質フィルムであることを特徴とする非水電解液二次電池用セパレータ。」
<相違点>
<相違点1>
本件発明1の「多孔質フィルム」は、「エタノールを含浸した状態における、波長590nmの光に対する位相差が80nm以下であ」るのに対して、甲1発明の「微多孔膜」は、「粘着性の高いテープを付けて引き剥がすことによって得られた、膜厚方向3層分のサンプルについて、シリコンオイルを含浸した状態において、KSシステムズ(株)社製の傾斜式自動複屈折計であるKOBRA-21ADを用いて測定した複屈折率が0.0006(表層)と0.0012(コア層)であ」るが、「エタノールを含浸した状態における、波長590nmの光に対する位相差が80nm以下であ」るか不明である点。
<相違点2>
「多孔質フィルム」の「空隙率」について、本件発明1では「30~60%」と特定されているのに対して、甲1発明では「35~95%の範囲のいずれかの値」である点。
(4)相違点についての検討
(4-1)相違点1のうち、複屈折率の測定波長について
ア 甲1発明において、複屈折率は、KSシステムズ(株)社製の傾斜式自動複屈折計である「KOBRA-21AD」を用いて測定されているところ、当該測定においてどのような波長の光源を使用しているかについては記載がない。
イ この点について、申立人は、特許異議申立書の第12頁下から6~4行において「甲第1号証には、複屈折率の測定に用いた波長の明記はないが、通常、KOBRA-21ADを用いて複屈折率(位相差)を測定する際には、波長590nmが使用される。」と主張しているが、当該主張の根拠となる証拠は何も提出されていないため、上記主張を採用することができない。
なお、上記主張に関して、「KOBRA-21AD」を用いて複屈折率(位相差)を測定する際に、波長590nmの光源を使用することが記載されている特許文献が存在するが(例えば、特開平7-52270号公報の段落【0028】、特開平8-127034号公報の段落【0039】参照)、KOBRA-21ADを用いて複屈折率(位相差)を測定する際に使用される光源の波長が通常590nmであることまでの記載がなされている文献を発見することができない。
また、甲第1号証に記載の発明は、上記1エの記載によれば、膜厚方向に配向度が変化することにより、破断強度のみならず突刺強度に優れた微多孔膜とするものであるが、甲第1号証全体を精査しても、破断強度と突刺強度に優れた微多孔膜が得られる配向度の変化が、590nmという特定の波長で測定した場合に限られることを当業者が確認できるような記載を見出すこともできない。
ウ したがって、甲1発明は、「KOBRA-21AD」を用いて測定した複屈折率が特定されているが、当該複屈折率を測定する際にどのような波長が使用されているか不明である。
(4-2)相違点1のうち、多孔質フィルムの位相差について
ア 複屈折を示す膜中を光が透過する場合に、その位相差と複屈折率が次の式(1)で表される関係を有することは当該技術分野の技術常識である。
位相差(nm)=複屈折率×膜厚(nm) ・・・式(1)
イ そして、上記(2)のエに記載したように、甲1発明の認定の基礎となった実施例1の微多孔膜は、膜厚が25μmで、表層部の複屈折率が0.0006、コア層の複屈折率が0.0012であるから、表層部とコア層それぞれの厚さは不明であるけれども、上記式(1)を用いると、上記膜厚と複屈折率の値から、当該微多孔膜における位相差の取り得る最大値と最小値を求めることができる。
具体的には、膜厚25μmの全てがコア層であるとすれば、位相差は最大値の0.0012×25000nm=30nmとなり、膜厚25μmの全てが表層部であるとすれば、位相差は最小値の0.0006×25000nm=15nmでとなる。
そして、実施例1の微多孔膜中の実際の位相差は、合計で25μmとなる表層部とコア層それぞれの厚さによって決まり、最小値15nmと最大値30nmの間のいずれかの値となるので、表層部とコア層それぞれの厚さが25μm以下のいずれの値であったとしても、実施例1の微多孔膜は位相差が80nm以下であるといえる。
ウ しかしながら、上記(4-1)で検討したように、甲1発明において、複屈折率を測定する際に使用される波長が不明であり、また、例えば、太陽光線がプリズムによって七色に分かれることからわかるように、屈折率は一般には光の波長によって異なるものであるから、甲1発明において、上記イで検討したように、位相差が最小値15nmと最大値30nmの間のいずれかの値であると算出できるとしても、波長590nmの光に対する位相差がどのような値であるかは不明である。
エ また、仮に、甲1発明において、複屈折率を測定する際に使用される波長が、申立人が主張するように、波長590nmの光が使用されているとしても、以下に示す理由によって、甲1発明のポリオレフィン微多孔膜の位相差が、上記イで求めた最小値15nmと最大値30nmの間のいずれかの値であると断定することはできない。
オ 甲第1号証の上記1オの記載によれば、ポリオレフィン微多孔膜が、膜厚方向に配向度が変化していることを確認するために、当該ポリオレフィン微多孔膜の表層部とコア層それぞれの複屈折率を測定するにあたり、ポリオレフィン微多孔膜を、粘着性の高いテープを付けて引き剥がすことによって得られた、膜厚方向3層分のサンプルを取得しており、ポリオレフィン微多孔膜は3層に引き剥がされることによって、当該微多孔膜内のポリエチレン分子や細孔の配置や形状、すなわち、配向状態が、引き剥がし前とは異なる状態になっていると推定される。
この点について詳細に説明すると、上記1カの製造方法によれば、加熱炉内で同時二軸延伸されることに伴ってゲル状シート内のポリエチレン分子の配向状態が変化することによって表層部とコア層それぞれの複屈折率が相違するものとなるところ、微多孔膜を3層に引き剥がす際には、当該微多孔膜が膜厚方向に断裂するとともに、当該微多孔膜内のポリエチレン分子や空孔の配向状態が変化しているものと推定される。しかも、上記同時二軸延伸時の配向状態の変化は、ゲル状シートが断裂しない程度の力を印加する際の変化であるのに対して、上記引き剥がし時の配向状態の変化は、微多孔膜が膜厚方向に断裂するような大きな力を印加することに伴う変化であるので、上記同時二軸延伸時の配向状態の変化を上回るような変化である蓋然性が高く、仮にそうでなくとも、少なくとも、引き剥がし時の配向状態の変化が無視し得るものであるとはいえない。
してみると、甲1発明のセパレータにおいて、表層部とコア層それぞれの複屈折率を測定するために3層に引き剥がす前と後では、微多孔膜内のポリエチレン分子及び細孔の配向状態が異なっているといえる。
カ そして、高分子フィルムの複屈折率の大きさが、当該フィルム内の高分子の配向状態の異方性を反映していることが技術常識であることを踏まえると、上記イにおいて求めた、実施例1の位相差が最小値15nmと最大値30nmの間のいずれかの値であることは、3層に引き剥がすことによって配向状態が変化した後のサンプルの測定に基づくものであって、引き剥がし前の配向状態における測定値に基づくものであるとはいえない。
つまり、甲1発明のポリオレフィン微多孔膜の位相差は、上記イで求めた最小値15nmと最大値30nmの間のいずれかの値であるということはできず、どのような値であるかは不明である。
キ したがって、「位相差が80nm以下であ」ることは、本件発明1と甲1発明の実質的な相違点である。
よって、上記(4-1)の検討も含めると、本件発明1と甲1発明は、少なくとも相違点1において相違しているので、相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明であるとはいえない。
(4-3)相違点の容易想到性について
ア 本件特許明細書には、「本発明者らは、光学部品ではない非水電解液二次電池用セパレータにおいて、位相差が小さいほど非水電解液二次電池を組み立てた直後の電池の内部抵抗が低いことを初めて見出し、本発明を完成させた。」(段落【0021】)、「多孔質フィルムにおける波長590nmの光に対する位相差を80nm以下とすることにより、非水電解液二次電池を組み立てた際にセパレータへの電解液の浸透速度が速くなり、電池の内部抵抗を低くすることができることを見出した。」(段落【0022】)と記載されている。
イ 一方、甲第1号証~甲第3号証のいずれにおいても、「非水電解液二次電池用セパレータ」である「ポリオレフィンを主成分とする多孔質フィルム」について「波長590nmの光に対する位相差」を「80nm以下」とすること、及び、「波長590nmの光に対する位相差」を「80nm以下」とすることによって、セパレータへの電解液の浸透速度が速くなり、電池の内部抵抗を低くすることができることについて、記載も示唆もされていないし、これらの事項が非水電解液二次電池用セパレータの技術分野における周知の技術であるということもできない。
ウ したがって、甲1発明において、「波長590nmの光に対する位相差が80nm以下」とすること、すなわち、相違点1に係る本件発明1の特定事項とすることが容易になし得ることであるとはいえない。
よって、本件発明1は、 相違点2について検討するまでもなく、甲第1号証~甲第3号証に記載された発明と周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができるものではない。
(4-4)本件発明2~4についての判断
本件特許の請求項2~4は、いずれも、請求項1を引用しているので、本件発明2~4は、本件発明1の特定事項の全てを備えているものであるから、本件発明2~4と甲1発明と対比すると、上記(3)、(4-1)、(4-2)で検討したとおり、少なくとも、相違点1において相違しており、しかも、上記(4-3)で検討したとおり、相違点1に係る本件発明1の特定事項とすることが容易になし得ることであるとはいえない。
よって、本件発明2~4についても、甲第1号証~甲第3号証に記載された発明と周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができるものではない。
6 むすび
したがって、請求項1~4に係る本件特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。
また、他に請求項1~4に係る本件特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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