特許異議申立
2016-700793
ポリカーボネート樹脂組成物および成形品
- 審判番号
- 2016-700793
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2011-141061外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2016年08月31日
- 審決日
- 2017年03月31日
- 公報発行日
- 2017年07月28日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】三菱化学株式会社
- 【権利者代理人】特許業務法人あいち国際特許事務所
- 【異議申立人】林 法子
- 分類
- P1651.537-YAA(C08L) / P1651.536-YAA(C08L) / P1651.113-YAA(C08L) / P1651.121-YAA(C08L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第126条第5項、特許法第126条第6項、特許法第120条の5第4項、特許法第29条、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第5870515号発明「ポリカーボネート樹脂組成物および成形品」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第5870515号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-11〕について訂正することを認める。
特許第5870515号の請求項1ないし11に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
第1 主な手続の経緯
特許第5870515号の請求項1ないし11に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、平成23年6月24日(優先権主張 平成23年3月28日、平成23年3月1日、平成22年6月25日)に特許出願され、平成28年1月22日に設定登録され、同年3月1日に特許公報が発行され、その後、同年8月31日付けで特許異議申立人林法子(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、同年12月5日付けで請求項1ないし11に係る特許について取消理由が通知され、その指定期間内である平成29年2月3日付けで意見書の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)がされ、その訂正の請求に対して特許異議申立人から同年3月16日付けで意見書が提出されたものである。
第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「下記式(2)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を少なくとも含むポリカーボネート樹脂(A)100重量部と、ブルーイング剤0.1×10-4重量部以上10.0×10-4重量部以下とを含むポリカーボネート樹脂組成物であって、
該ポリカーボネート樹脂組成物から成形された成形体(厚さ3mm)を、63℃、相対湿度50%の環境下にて、メタルハライドランプを用い、波長300nm~400nmの放射照度1.5kW/m2で、100時間照射処理した後に、透過光で測定したASTMD1925-70に準拠したイエローインデックス(YI)値が12以下であることを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物。」と記載されているのを、
「下記式(2)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を少なくとも含むポリカーボネート樹脂(A)100重量部と、ブルーイング剤0.1×10-4重量部以上10.0×10-4重量部以下とを含むポリカーボネート樹脂組成物であって、
前記ポリカーボネート樹脂中のナトリウム、カリウムおよびセシウムの化合物の合計量が、金属量として、1重量ppm以下であり、
該ポリカーボネート樹脂組成物から成形された成形体(厚さ3mm)を、63℃、相対湿度50%の環境下にて、メタルハライドランプを用い、波長300nm~400nmの放射照度1.5kW/m2で、100時間照射処理した後に、透過光で測定したASTMD1925-70に準拠したイエローインデックス(YI)値が12以下であることを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物。」と訂正する。なお、下線は訂正箇所を示すものである。以下、同様。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項3に
「構造の一部に下記式(2)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含むポリカーボネート樹脂(A)と、ブルーイング剤とを含有するポリカーボネート樹脂組成物であって、
そのポリカーボネート樹脂組成物から成形された厚さ2mmの成形体のb*値が-1以上1以下、かつ、L*値が96.15以上である、ポリカーボネート樹脂組成物。」と記載されているのを、
「構造の一部に下記式(2)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含むポリカーボネート樹脂(A)と、ブルーイング剤とを含有するポリカーボネート樹脂組成物であって、
前記ポリカーボネート樹脂中のナトリウム、カリウムおよびセシウムの化合物の合計量が、金属量として、1重量ppm以下であり、
そのポリカーボネート樹脂組成物から成形された厚さ2mmの成形体のb*値が-1以上1以下、かつ、L*値が96.15以上である、ポリカーボネート樹脂組成物。」と訂正する。
(3)訂正事項3
本件特許明細書の段落【0013】に
「即ち、本発明の要旨は以下である。
1.構造の一部に下記式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を少なくとも含むポリカーボネート樹脂(A)100重量部と、ブルーイング剤0.1×10-4重量部以上10.0×10-4重量部以下とを含むポリカーボネート樹脂組成物であって、該ポリカーボネート樹脂組成物から成形された成形体(厚さ3mm)を、63℃、相対湿度50%の環境下にて、メタルハライドランプを用い、波長300nm~400nmの放射照度1.5kW/m2で、100時間照射処理した後に、透過光で測定したASTM D1925-70に準拠したイエローインデックス(YI)値が12以下であることを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物。」と記載されているのを、
「即ち、本発明の要旨は以下である。
1.構造の一部に下記式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を少なくとも含むポリカーボネート樹脂(A)100重量部と、ブルーイング剤0.1×10-4重量部以上10.0×10-4重量部以下とを含むポリカーボネート樹脂組成物であって、前記ポリカーボネート樹脂中のナトリウム、カリウムおよびセシウムの化合物の合計量が、金属量として、1重量ppm以下であり、該ポリカーボネート樹脂組成物から成形された成形体(厚さ3mm)を、63℃、相対湿度50%の環境下にて、メタルハライドランプを用い、波長300nm~400nmの放射照度1.5kW/m2で、100時間照射処理した後に、透過光で測定したASTM D1925-70に準拠したイエローインデックス(YI)値が12以下であることを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物。」
に訂正する。
(4)訂正事項4
本件特許明細書の段落【0017】に
「3.構造の一部に下記式(2)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含むポリカーボネート樹脂(A)と、ブルーイング剤とを含有するポリカーボネート樹脂組成物であって、そのポリカーボネート樹脂組成物から成形された厚さ2mmの成形体のb*値が-1以上1以下、かつ、L*値が96.15以上である、ポリカーボネート樹脂組成物。」と記載されているのを、
「3.構造の一部に下記式(2)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含むポリカーボネート樹脂(A)と、ブルーイング剤とを含有するポリカーボネート樹脂組成物であって、前記ポリカーボネート樹脂中のナトリウム、カリウムおよびセシウムの化合物の合計量が、金属量として、1重量ppm以下であり、そのポリカーボネート樹脂組成物から成形された厚さ2mmの成形体のb*値が-1以上1以下、かつ、L*値が96.15以上である、ポリカーボネート樹脂組成物。」
に訂正する。
2 訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1) 訂正事項1
ア 「ポリカーボネート樹脂組成物」を「ポリカーボネート樹脂中のナトリウム、カリウムおよびセシウムの化合物の合計量が、金属量として、1重量ppm以下」と減縮するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 訂正事項1の「ポリカーボネート樹脂中のナトリウム、カリウムおよびセシウムの化合物の合計量が、金属量として、1重量ppm以下」は、本件特許明細書の段落【0073】に記載されているから、新規事項の追加に該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合する。
ウ 訂正事項1は、「ポリカーボネート樹脂組成物」を「ポリカーボネート樹脂中のナトリウム、カリウムおよびセシウムの化合物の合計量が、金属量として、1重量ppm以下」と減縮するものであって、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合する。
(2) 訂正事項2
ア 「ポリカーボネート樹脂組成物」を「ポリカーボネート樹脂中のナトリウム、カリウムおよびセシウムの化合物の合計量が、金属量として、1重量ppm以下」と減縮するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 訂正事項2の「ポリカーボネート樹脂中のナトリウム、カリウムおよびセシウムの化合物の合計量が、金属量として、1重量ppm以下」は、本件特許明細書の段落【0073】に記載されているから、新規事項の追加に該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合する。
ウ 訂正事項2は、「ポリカーボネート樹脂組成物」を「ポリカーボネート樹脂中のナトリウム、カリウムおよびセシウムの化合物の合計量が、金属量として、1重量ppm以下」と減縮するものであって、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合する。
(3) 訂正事項3
ア 訂正事項3は、訂正後の請求項1と整合性を図るものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ 訂正事項3の「ポリカーボネート樹脂中のナトリウム、カリウムおよびセシウムの化合物の合計量が、金属量として、1重量ppm以下」は、本件特許明細書の段落【0073】に記載されているから、新規事項の追加に該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合する。
ウ 訂正事項3は、「ポリカーボネート樹脂組成物」を「ポリカーボネート樹脂中のナトリウム、カリウムおよびセシウムの化合物の合計量が、金属量として、1重量ppm以下」と減縮するものであって、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合する。
(4) 訂正事項4
ア 訂正事項4は、訂正後の請求項3と整合性を図るものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ 訂正事項4の「ポリカーボネート樹脂中のナトリウム、カリウムおよびセシウムの化合物の合計量が、金属量として、1重量ppm以下」は、本件特許明細書の段落【0073】に記載されているから、新規事項の追加に該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合する。
ウ 訂正事項4は、「ポリカーボネート樹脂組成物」を「ポリカーボネート樹脂中のナトリウム、カリウムおよびセシウムの化合物の合計量が、金属量として、1重量ppm以下」と減縮するものであって、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合する。
(5) 一群の請求項について
訂正事項1に係る訂正前の請求項1、2、4ないし11について、請求項2、請求項4ないし7は、請求項1を引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項1、2、4ないし11に対応する訂正後の請求項1、2、4ないし11は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
訂正事項2に係る訂正前の請求項3、4ないし11について、請求項4ないし11は、請求項3を引用しているものであって、訂正事項2によって記載が訂正される請求項3に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項3、4ないし11に対応する訂正後の請求項3、4ないし11は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
よって、訂正後の請求項1ないし11は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
3 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1及び3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1-11〕について訂正することを認める。
第3 本件特許発明
本件訂正請求により訂正された請求項1ないし11に係る発明(以下、それぞれ順に「本件特許発明1」ないし「本件特許発明11」といい、これらを総称して「本件特許発明」という。)は、特許請求の範囲の請求項1ないし11に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
下記式(2)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を少なくとも含むポリカーボネート樹脂(A)100重量部と、ブルーイング剤0.1×10-4重量部以上10.0×10-4重量部以下とを含むポリカーボネート樹脂組成物であって、
前記ポリカーボネート樹脂中のナトリウム、カリウムおよびセシウムの化合物の合計量が、金属量として、1重量ppm以下であり、
該ポリカーボネート樹脂組成物から成形された成形体(厚さ3mm)を、63℃、相対湿度50%の環境下にて、メタルハライドランプを用い、波長300nm~400nmの放射照度1.5kW/m2で、100時間照射処理した後に、透過光で測定したASTMD1925-70に準拠したイエローインデックス(YI)値が12以下であることを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物。
【化2】
【請求項2】
該式(2)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位が、ポリカーボネート樹脂(A)中の全ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位に対して15モル%以上90モル%未満である、請求項1に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項3】
構造の一部に下記式(2)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含むポリカーボネート樹脂(A)と、ブルーイング剤とを含有するポリカーボネート樹脂組成物であって、
前記ポリカーボネート樹脂中のナトリウム、カリウムおよびセシウムの化合物の合計量が、金属量として、1重量ppm以下であり、
そのポリカーボネート樹脂組成物から成形された厚さ2mmの成形体のb*値が-1以上1以下、かつ、L*値が96.15以上である、ポリカーボネート樹脂組成物。
【化3】
【請求項4】
前記ブルーイング剤が、520nm以上600nm以下に極大吸収波長を有する染料である、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項5】
ポリカーボネート樹脂中の芳香族モノヒドロキシ化合物の含有量が、1重量ppm以上、700重量ppm以下である、請求項1から4のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項6】
前記ブルーイング剤が、下記式(3)で表される化合物である、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【化4】
(上記式(3)中、R1~R8は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、炭素数1から3のアルキル基、又は置換基を有していてもよいアミノ基を表す。)
【請求項7】
ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対して、ヒンダードアミン系安定剤を0.0001重量部以上1重量部以下含有する、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項8】
ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対して、酸化防止剤を0.0001重量部以上1重量部以下含有する請求項1から請求項7のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項9】
該樹脂組成物から成形された成形体(厚さ3mmの平板)の波長350nmにおける光線透過率が60%以上である、請求項1から請求項8のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項10】
該樹脂組成物から成形された成形体(厚さ3mmの平板)の波長320nmにおける光線透過率が30%以上である、請求項1から請求項9のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項11】
請求項1から請求項10のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物を成形して得られるポリカーボネート樹脂成形品。」
第4 取消理由
1 取消理由1
本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
記
発明の詳細な説明には、色相の悪化を課題の一つとし(段落【0007】ないし段落【0010】)、これを解決するための手段として「ナトリウム、カリウムおよびセシウム」の「合計量」を「金属量として、通常1重量ppm以下」とすることが記載されている(段落【0073】及び【表1】)。
しかるところ、本件特許発明は、「ナトリウム、カリウムおよびセシウム」の「合計量」を「金属量として、通常1重量ppm以下」とすることを発明特定事項としていない。そして、【表1】の「実施例」及び「比較例1-2」を参照するに、「ナトリウム、カリウムおよびセシウム」の「合計量」を「金属量として、通常1重量ppm以下」とすることは、上記課題を解決するための必要な点であると認められる。
また、「ナトリウム、カリウムおよびセシウム」の「合計量」を「金属量として、通常1重量ppm以下」とすることなく、上記課題が解決されると当業者が理解できる記載もないし、上記課題が解決されるとの出願時の技術常識があるともいえない。
そうすると、「ナトリウム、カリウムおよびセシウム」の「合計量」を「金属量として、通常1重量ppm以下」とすることの特定があれば格別、かかる特定のない本件特許発明は、上記課題を解決できないものまで含むというべきである。
よって、本件特許発明は、発明の詳細な説明に記載されているとはいえない。
2 取消理由2
本件特許は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
記
発明の詳細な説明の【表1】の「実施例」及び「比較例1-2」を参照すると、ナトリウム、カリウムおよびセシウム濃度(合計)が「メタルハライドランプ照射処理後のYI値」に影響を与えることが理解できる。
しかるところ、発明の詳細な説明には、ナトリウム、カリウムおよびセシウム濃度(合計)をどのように調整すれば、所望の「メタルハライドランプ照射処理後のYI値」を得ることができるのかの説明はなく、また、ナトリウム、カリウムおよびセシウム濃度(合計)をどのように調整すれば、所望の「メタルハライドランプ照射処理後のYI値」を得ることができるのかが出願時における当業者の技術常識であったともいえない。
そうすると、本件特許発明がどのようにして実施されるか当業者が理解できない。
よって、発明の詳細な説明は、本件特許発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていない。
第5 判断
1 取消理由1について
本件特許発明の課題は、優れた色相(請求項1で規定されたYI値(以下、「YI値」という。)を12以下)を有するポリカーボネート樹脂を提供することである(段落【0007】~【0010】)。
そして、当該課題を解決するための手段として「ナトリウム、カリウムおよびセシウムの化合物の合計量が、金属量として、1重量ppm以下」とすることが発明の詳細な説明に記載されている(段落【0073】及び【表1】)。
この点、請求項1には、発明特定事項として、「ナトリウム、カリウムおよびセシウムの化合物の合計量が、金属量として、1重量ppm以下」とすることが記載されている。
そうすると、本件特許発明は、発明の詳細な説明に記載されているといえる。
よって、本件特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしている特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当しない。
2 取消理由2について
発明の詳細な説明の段落【0167】~【0173】、【表1】の「実施例」及び「比較例1-2」を参照すると、触媒として「酢酸カルシウム」1.3μmolを用いると本件特許発明が実施できることが記載されている。また、同じく段落【0064】から、本件特許発明の実施に触媒は限定されないことが理解できる。
むしろ、発明の詳細な説明の【表1】の「実施例」及び「比較例1-2」を比較すると、ポリカーボネート樹脂中のナトリウム、カリウムおよびセシウム濃度(合計)が多いとYI値に悪影響を与えることが理解できる。
以上によれば、上記発明の詳細な説明の記載に接した当業者であれば、触媒を限定せずとも、例えば、触媒として「酢酸カルシウム」1.3μmolを用いると本件特許発明が実施できること及びポリカーボネート樹脂中のナトリウム、カリウムおよびセシウム濃度(合計)を低減すると本件特許発明が実施できることを理解できる。
そうすると、発明の詳細な説明は、本件特許発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているといえる。
よって、本件特許は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしているから、同法第113条第4号に該当しない。
第6 補足的判断
以下に、取消理由とはしなかった特許法第29条について簡単に検討する。
1 特許法第29条第1項第3号について
特許異議申立人が証拠として提出した甲第1号証(特開2009-144013号公報)及び甲第2号証(特開2009-91404号公報)には、本件特許発明1の「ポリカーボネート樹脂組成物から成形された成形体(厚さ3mm)を、63℃、相対湿度50%の環境下にて、メタルハライドランプを用い、波長300nm~400nmの放射照度1.5kW/m2で、100時間照射処理した後に、透過光で測定したASTMD1925-70に準拠したイエローインデックス(YI)値が12以下である」こと(以下、「相違点1」という。)及び本件特許発明3の「ポリカーボネート樹脂組成物から成形された厚さ2mmの成形体のb*値が-1以上1以下、かつ、L*値が96.15以上である」こと(以下、「相違点2」という。)が記載されておらず、また、甲第1号証及び甲第2号証に記載の発明が実質的に上記相違点1、2の発明特定事項を満たすとの立証はされていない。
そうすると、本件特許発明1及び3が甲第1号証及び甲第2号証に記載の発明であるとはいえない。
また、本件特許発明1及び3を含むその余の本件特許発明についても同様である。
よって、本件特許発明1ないし11は、特許法第29条の規定に違反しておらず、同法第113条第2号に該当しない。
2 特許法第29条第2項について
本件特許発明1及び3と甲第1号証及び甲第2号証に記載の発明を比較すると、少なくとも、上記相違点1、2で相違する。
そして、上記相違点1、2に係る発明の容易想到性の根拠となる証拠が特許異議申立書には証拠方法として提出されていない。
そうすると、本件特許発明1及び3が甲第1号証及び甲第2号証に記載の発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
また、本件特許発明1及び3を含むその余の本件特許発明についても同様である。
よって、本件特許発明1ないし11は、特許法第29条の規定に違反しておらず、同法第113条第2号に該当しない。
第7 むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件訂正請求による訂正後の請求項1ないし11に係る特許を取り消すことができない。
また、他に本件訂正請求による訂正後の請求項1ないし11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2016-700793