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特許異議申立

2016-700762

感熱記録体

審判番号
2016-700762
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2011-241970外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2016年08月23日
審決日
2017年05月16日
公報発行日
2017年08月25日
結論
訂正認容
当事者
審判長/審判官
分類
P1651.537-YAA(B41M) / P1651.113-YAA(B41M) / P1651.121-YAA(B41M)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第3項、特許法第36条
データ出所
審決公報(SGML)

事件の表示

特許第5871563号発明「感熱記録体」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。

結論

【結 論】 特許第5871563号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1ないし7〕について訂正することを認める。 特許第5871563号の請求項1,3ないし7に係る特許を維持する。 特許第5871563号の請求項2に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。

理由

【理 由】 第1 手続の経緯 特許第5871563号(請求項の数7。以下,「本件特許」という。)は,平成23年11月4日に出願され,平成28年1月22日に特許権の設定登録がされ,同年3月1日に特許掲載公報が発行されたものである。 これに対し,同年8月23日に特許異議申立人より本件特許の請求項1ないし7に係る特許について特許異議の申立てがされ,同年11月8日付けで特許権者に取消理由が通知され,特許権者より同年12月19日に意見書が提出されるとともに訂正の請求(以下,当該訂正の請求を「本件訂正請求」といい,本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という。)がされ,平成29年3月14日付けで特許権者に取消理由通知(決定の予告)がされ,特許権者より同年4月20日に意見書が提出された。 なお,平成29年2月14日に異議申立人より意見書が提出されている。 第2 本件訂正の適否についての判断 1 本件訂正の内容 (1)訂正前後の記載 本件訂正請求は,本件特許の明細書及び特許請求の範囲を,訂正請求書に添付した訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項1ないし7について訂正することを求めるものであるところ,一群の請求項〔1ないし7〕ごとに請求するものであって,特許法120条の5第3項ただし書,同条4項及び同条9項が準用する126条4項の規定に適合して請求されたものである。 しかるに,本件訂正前後の明細書及び特許請求の範囲の記載は次のとおりである。(下線は訂正箇所を示す。) ア 本件訂正前の記載 (ア)特許請求の範囲の記載 「【請求項1】 プラスチックフィルム上に,無色ないし淡色の電子供与性ロイコ染料及び電子受容性顕色剤を含有する感熱記録層及び該感熱記録層上に最外層として保護層を有する感熱記録体において,該保護層が,ガラス転移点が50℃より高く95℃以下であるアクリル系樹脂及びポリオレフィン系樹脂を含有する感熱記録体。 【請求項2】 前記ポリオレフィン系樹脂が,オレフィン・不飽和カルボン酸共重合体である請求項1に記載の感熱記録体。 【請求項3】 前記アクリル系樹脂が,非コアシェル型アクリル系樹脂である請求項1又は2に記載の感熱記録体。 【請求項4】 前記保護層中の,ポリオレフィン系樹脂の配合量(固形分)が,3~60重量%である請求項1~3のいずれか一項に記載の感熱記録体。 【請求項5】 前記保護層中の,アクリル系樹脂の配合量(固形分)が,15~97重量%である請求項1~4のいずれか一項に記載の感熱記録体。 【請求項6】 前記ポリオレフィン系樹脂/アクリル系樹脂の配合重量比(固形分)が,3/97~50/50である請求項1~5のいずれか一項に記載の感熱記録体。 【請求項7】 前記感熱記録層が,ウレタン系樹脂又はスチレン-ブタジエン系樹脂のエマルション又はラテックスを含有する請求項1~6のいずれか一項に記載の感熱記録体。」 (イ)明細書中の本件訂正に係る記載 「【0005】 ・・・(中略)・・・即ち,本発明は,プラスチックフィルム上に,無色ないし淡色の電子供与性ロイコ染料及び電子受容性顕色剤を含有する感熱記録層及び該感熱記録層上に最外層として保護層を有する感熱記録体において,該保護層が,ガラス転移点が50℃より高く95℃以下であるアクリル系樹脂及びポリオレフィン系樹脂を含有する感熱記録体である。」 「【0009】 本発明で用いるポリオレフィン系樹脂は,エチレンやプロピレン等のオレフィンの重合体であり,モノポリマーでも,これら以外のビニル化合物とのコポリマーでもよい。 本発明で用いるポリオレフィン系樹脂としては,オレフィン・不飽和カルボン酸共重合体が好ましい。・・・(後略)・・・」 イ 本件訂正後の記載 (ア)特許請求の範囲の記載 「【請求項1】 プラスチックフィルム上に,無色ないし淡色の電子供与性ロイコ染料及び電子受容性顕色剤を含有する感熱記録層及び該感熱記録層上に最外層として保護層を有する感熱記録体において,該保護層が,ガラス転移点が50℃より高く95℃以下であるアクリル系樹脂及びポリオレフィン系樹脂を含有し,該ポリオレフィン系樹脂が,オレフィン・不飽和カルボン酸共重合体である感熱記録体。 【請求項2】 (削除) 【請求項3】 前記アクリル系樹脂が,非コアシェル型アクリル系樹脂である請求項1に記載の感熱記録体。 【請求項4】 前記保護層中の,ポリオレフィン系樹脂の配合量(固形分)が,3~60重量%である請求項1又は3に記載の感熱記録体。 【請求項5】 前記保護層中の,アクリル系樹脂の配合量(固形分)が,15~97重量%である請求項1,3~4のいずれか一項に記載の感熱記録体。 【請求項6】 前記ポリオレフィン系樹脂/アクリル系樹脂の配合重量比(固形分)が,3/97~50/50である請求項1,3~5のいずれか一項に記載の感熱記録体。 【請求項7】 前記感熱記録層が,ウレタン系樹脂又はスチレン-ブタジエン系樹脂のエマルション又はラテックスを含有する請求項1,3~6のいずれか一項に記載の感熱記録体。」 (イ)明細書中の本件訂正に係る記載 「【0005】 ・・・(中略)・・・即ち,本発明は,プラスチックフィルム上に,無色ないし淡色の電子供与性ロイコ染料及び電子受容性顕色剤を含有する感熱記録層及び該感熱記録層上に最外層として保護層を有する感熱記録体において,該保護層が,ガラス転移点が50℃より高く95℃以下であるアクリル系樹脂及びポリオレフィン系樹脂を含有し,該ポリオレフィン系樹脂が,オレフィン・不飽和カルボン酸共重合体である感熱記録体である。」 「【0009】 本発明で用いるポリオレフィン系樹脂は,エチレンやプロピレン等のオレフィンとこれ以外のビニル化合物とのコポリマーであり,オレフィン・不飽和カルボン酸共重合体である。・・・(後略)・・・」 (2)訂正事項 本件訂正は,次の訂正事項からなる。 ア 訂正事項1 請求項1に「アクリル系樹脂及びポリオレフィン系樹脂を含有する」とあるのを,「アクリル系樹脂及びポリオレフィン系樹脂を含有し,該ポリオレフィン系樹脂が,オレフィン・不飽和カルボン酸共重合体である」に訂正するとともに,請求項2を削除し,さらに,請求項3が引用する請求項を「請求項1又は2」から「請求項1」に,請求項4が引用する請求項を「請求項1~3のいずれか一項」から「請求項1又は3」に,請求項5が引用する請求項を「請求項1~4のいずれか一項」から「請求項1,3~4のいずれか一項」に,請求項6が引用する請求項を「請求項1~5のいずれか一項」から「請求項1,3~5のいずれ一項」に,請求項7が引用する請求項を「請求項1~6のいずれか一項」から「請求項1,3~6のいずれか一項」に訂正する。 イ 訂正事項2 明細書の【0005】に「アクリル系樹脂及びポリオレフィン系樹脂を含有する感熱記録体である。」とあるのを,「アクリル系樹脂及びポリオレフィン系樹脂を含有し,該ポリオレフィン系樹脂が,オレフィン・不飽和カルボン酸共重合体である感熱記録体である。」に訂正するとともに,明細書の【0009】に「オレフィンの重合体であり,モノポリマーでも,これら以外のビニル化合物とのコポリマーでもよい。本発明で用いるポリオレフィン系樹脂としては,オレフィン・不飽和カルボン酸共重合体が好ましい。」とあるのを,「オレフィンとこれ以外のビニル化合物とのコポリマーであり,オレフィン・不飽和カルボン酸共重合体である。」に訂正する。 2 訂正の目的の適否について 訂正事項1は,実質上,訂正前の請求項1を削除し,訂正前の請求項1を引用する形式で記載された請求項2を独立形式の記載に改めて新たな請求項1とするとともに,当該訂正に伴って各請求項が引用する請求項の項番を整合させる訂正事項に該当するということができ,訂正事項2は,訂正事項1に伴って明細書の記載を訂正後の各請求項の記載に整合させる訂正事項であるから,これら訂正事項1及び2は,「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。 したがって,本件訂正は特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項を目的とするものである。 3 新規事項の追加の有無について 訂正事項1及び2は,訂正前の請求項1を削除し,訂正前の請求項1を引用する形式で記載された請求項2を独立形式の記載に改めて新たな請求項1とするとともに,当該訂正に伴って各請求項が引用する請求項の項番を整合させ,明細書の記載を訂正後の各請求項の記載に整合させる訂正に該当するから,本件訂正前の願書に添付された明細書,特許請求の範囲及び図面(特許された時点での明細書,特許請求の範囲及び図面である。以下,本件訂正前の願書に添付された明細書,特許請求の範囲及び図面を総称して「特許明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてするものであることは明らかである。 したがって,本件訂正は,特許法120条の5第9項において準用する同法126条5項の規定に適合する。 4 特許請求の範囲の実質的拡張・変更の存否について 訂正事項1及び2が,いずれも,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでないことは明らかであるから,本件訂正は,特許法120条の5第9項において準用する同法126条6項の規定に適合する。 5 小括 前記2ないし4のとおりであって,本件訂正は特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項を目的とするものであり,かつ,同条9項において準用する同法126条5項及び6項の規定に適合するので,訂正後の請求項〔1ないし7〕について訂正を認める。 第3 特許異議の申立てについて 1 本件特許の請求項1,3ないし7に係る発明 前記第2 5で述べたとおり,本件訂正は適法になされたものであるから,本件特許の請求項1,3ないし7に係る発明(以下,それぞれを「本件特許発明1」,「本件特許発明3」ないし「本件特許発明7」といい,これらを総称して「本件特許発明」という。)は,それぞれ,前記第2 1(1)イ(ア)において,本件訂正後の特許請求の範囲の記載として示した請求項1,3ないし7に記載された事項により特定されるとおりのものと認められる。 2 平成29年3月14日付け取消理由通知(決定の予告)の概要 本件特許発明1,3ないし7に係る特許に対して平成29年3月14日付け取消理由通知(決定の予告)により通知された取消理由(以下,当該取消理由を「本件取消理由」といい,平成29年3月14日付け取消理由通知(決定の予告)を「本件取消理由通知」という。)は,概略次のとおりである。 本件特許の請求項1,3ないし7に係る発明は,保護層において「ガラス転移点が50℃より高く95℃以下であるアクリル系樹脂」とともに含有させる樹脂に関して,発明の詳細な説明の記載から当業者が課題を解決できると認識できる範囲を超えるものを包含しているから,本件特許の請求項1,3ないし7に係る特許は,特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであって,同法113条4号に該当する。 3 本件取消理由の成否についての判断 (1) 本件訂正後の明細書(以下,単に「本件明細書」という。)の発明の詳細な説明には,次の記載がある。 ア 「【技術分野】 【0001】 この発明は,プラスチックフィルムから成る支持体上に感熱記録層と保護層を設けた感熱記録体に関し,より詳細には,プラスチックフィルムを支持体として,塗工欠陥が減少した感熱記録体に関する。 【背景技術】 【0002】 感熱記録体は通常無色ないし淡色の電子供与性ロイコ染料(以下,「ロイコ染料」ともいう)とフェノール性化合物等の電子受容性顕色剤(以下,「顕色剤」ともいう)とを,それぞれ微細な粒子に磨砕分散した後,両者を混合し,バインダー,充填剤,感度向上剤,滑剤及びその他の助剤を添加して得られた塗工液を,紙,合成紙,フィルム,プラスチック等の支持体に塗工したものであり,サーマルヘッド,ホットスタンプ,熱ペン,レーザー光等の加熱による瞬時の化学反応により発色し,記録画像が得られる。感熱記録体は,ファクシミリ,コンピューターの端末プリンター,自動券売機,計測用レコーダー等に広範囲に使用されている。 寸法安定性や強度が良いことから,支持体にプラスチックフィルムを用いた感熱記録体が増加しているが(特許文献1等),感熱記録体の支持体にプラスチックフィルムを用いた場合に,水分により塗工層が剥離する問題を解決するために,感熱記録層上にポリオレフィン系樹脂を含む保護層と光沢層を設けた感熱記録体が開発されている(特許文献2)。 また,耐久性や耐水性を要求される屋外用途で使用される感熱記録体においては,感熱記録層の上にアクリル系樹脂のエマルションを含有させた保護層を設けることが行なわれている(特許文献3~6等)。 ・・・(中略)・・・ 【発明が解決しようとする課題】 【0004】 感熱記録体の支持体にプラスチックフィルムを用いた場合,表面強度や耐水性を高めるために,一般に感熱記録層上に保護層を設ける。 しかし,プラスチックフィルムは,紙に比べて水やその他の溶媒の吸液性がないため,感熱記録層に塗工液中の水などの溶媒が残存することにより,さざ波状の塗工欠陥が生じやすい(後述の比較例2,図1参照)。この塗工欠陥は光の透過状態の差異に起因することから,支持体に透明なプラスチックフィルムを用いた場合,より顕著に視認される。また,この問題は,プラスチックフィルムへの接着性や粘着性を向上させる塗工液を用いた場合には,さらに顕著になる。 この問題は,保護層にオレフィン系樹脂を含有させることにより解消することができるが(後述の比較例5),その一方で,オレフィン系樹脂は耐熱性や表面強度が弱いため,印字時にスティッキングの問題が生じる。保護層上に更に塗工層を設けることにより,この問題を解決することが提案されている(特許文献2)。 そのため,本発明は,プラスチックフィルムを支持体とし,その上に順次感熱記録層と最外層として保護層を設けた感熱記録体において,塗工欠陥が減少した感熱記録体を提供することを目的とする。 【課題を解決するための手段】 【0005】 本発明者らは鋭意検討の結果,支持体としてプラスチックフィルムを用い,順次感熱記録層と最外層として保護層を設け,この保護層にアクリル系樹脂及びポリオレフィン系樹脂を含有させることにより,このような感熱記録体に要求される耐水性等について通常の性能を示し,かつ塗工欠陥の発生を防ぐことができることを見出し,本願発明を完成させるに至った。 即ち,本発明は,プラスチックフィルム上に,無色ないし淡色の電子供与性ロイコ染料及び電子受容性顕色剤を含有する感熱記録層及び該感熱記録層上に最外層として保護層を有する感熱記録体において,該保護層が,ガラス転移点が50℃より高く95℃以下であるアクリル系樹脂及びポリオレフィン系樹脂を含有し,該ポリオレフィン系樹脂が,オレフィン・不飽和カルボン酸共重合体である感熱記録体である。 【図面の簡単な説明】 【0006】 【図1】比較例2で作製した感熱記録体(10.5×14cm)の保護層表面の写真である。支持体はPETフィルムであり,保護層表面にさざ波状の塗工欠陥が生じている。」 イ 「【発明を実施するための最良の形態】 【0007】 本発明の感熱記録体は,プラスチックフィルム(支持体)上に感熱記録層を設け,その上に最外層として保護層を設け,この保護層がアクリル系樹脂及びポリオレフィン系樹脂を含有する。 【0008】 本発明で用いるプラスチックフィルムとしては,例えば,ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム,トリアセチルセルロース(TAC)フィルム,ポリエチレンナフタレート(PEN)フィルム等が挙げられる。・・・(中略)・・・ 【0009】 本発明で用いるポリオレフィン系樹脂は,エチレンやプロピレン等のオレフィンとこれ以外のビニル化合物とのコポリマーであり,オレフィン・不飽和カルボン酸共重合体である。オレフィンとしては,エチレン,プロピレン,ブチレン等が好ましく,エチレンが特に好ましい。不飽和カルボン酸としては,好ましくは(メタ)アクリル酸(即ち,アクリル酸又はメタクリル酸),マレイン酸,イタコン酸,フマル酸等,より好ましくは(メタ)アクリル酸である。オレフィン・不飽和カルボン酸共重合体としては,エチレンと(メタ)アクリル酸の共重合体やプロピレンと(メタ)アクリル酸共重合体の共重合体が好ましい。 このようなポリオレフィン系樹脂の重量平均分子量は,好ましくは5,000~100,000,より好ましくは10,000~50,000である。重量平均分子量が5,000未満であると,ブロッキングが生じることがある。また,重量平均分子量が100,000を越えるものは生産性に問題が生じることがある。 オレフィン・不飽和カルボン酸共重合体としては,例えば,ハイテックS-3121,ハイテックS-3123,ハイテックS-3127(以上,東邦化学工業株式会社製),ザイクセン-A-GH,ザイクセン-AC,ザイクセン-N,ザイクセン-L(以上,住友精化株式会社製)等が挙げられる。 【0010】 本発明で用いるアクリル系樹脂は,(メタ)アクリル酸及び,(メタ)アクリル酸と共重合可能な単量体成分(オレフィンを除く)から成る。・・・(中略)・・・本発明におけるアクリル系樹脂のガラス転移点(Tg)は50℃より高く95℃以下である。Tgが50℃以下であると,耐水性は向上するが,十分な耐熱性が得られないため,スティックを生じやすくなる。一方,Tgが高いアクリル系樹脂を含有させると耐スティック性や耐擦過性は向上する傾向だが,Tgが高すぎると保護層が脆くなり,耐水性,耐可塑剤性や耐溶剤性が十分ではなくなり,目的とする効果が得られない場合がある。なお,アクリル系樹脂のTgは示差走査熱量測定(DSC)によって測定する。 【0011】 本発明で使用するアクリル系樹脂は,好ましくは非コアシェル型アクリル系樹脂である。一般に,コアシェル型アクリル系樹脂は,非コアシェル型アクリル系樹脂に比べて耐熱性が優れ,塗工層に用いた場合に耐スティック性に優れるため多用されている。しかし,コアシェル型アクリル系樹脂のシェル部は,通常熱伝導性が低いために発色感度が悪いという欠点も併せ持っている。一方,通常の非コアシェル型アクリル系樹脂は耐熱性が低く,スティックやヘッドカスなどが発生しやすい欠点を持っていたが,本願発明で使用するTgが50℃より高く95℃以下である非コアシェル型アクリル系樹脂は,耐熱性に優れているため,発色感度が良好であるとともに,耐スティック性や耐ヘッドカス性が良好であるという利点がある。 ・・・(中略)・・・ 【0013】 本発明の保護層中の,ポリオレフィン系樹脂の配合量は,固形分で,好ましくは3~60重量%,より好ましくは5~30重量%である。 本発明の保護層中の,アクリル系樹脂の配合量は,固形分で,好ましくは15~97重量%,より好ましくは50~95重量%である。 ポリオレフィン系樹脂/アクリル系樹脂の配合重量比(固形分)は,好ましくは3/97~50/50,より好ましくは5/95~40/60である。 保護層中のポリオレフィン系樹脂とアクリル系樹脂の合計配合量は,固形分として,好ましくは20~100重量%,より好ましくは40~90重量%である。 ・・・(中略)・・・ 【0025】 上記塗液を,プラスチックフィルムの支持体に塗工することによって目的とする感熱記録体が得られる。 各層の塗工方法としては,エアーナイフ法,ロッドブレード法,ベントブレード法,ベベルブレード法,ロール法,スロット型カーテン法,スライド型カーテン法,スライドホッパー型カーテン法,ビード型カーテン法,スプレー法,ダイ法などを例示することが可能であり,これらの塗工方法から適宜選択され使用される。 感熱記録層の塗工量は通常2~10g/m2程度であり,保護層の塗工量は通常1~5g/m2程度である。 また,各層の塗工後にスーパーカレンダー掛けなどの平滑化処理を施すなど,感熱記録体分野における各種公知の技術を必要適宜付加することができる。」 ウ 「【実施例】 【0026】 以下,実施例にて本発明を例証するが本発明を限定することを意図するものではない。なお説明中,部及び%はそれぞれ重量部及び重量%を示す。 まず,下記配合の顕色剤分散液(A液),ロイコ染料分散液(B液)及び増感剤分散液(C液)を,それぞれ別々にサンドグラインダーで平均粒子径0.5ミクロンになるまで湿式磨砕を行った。 顕色剤分散液(A液) 4-ヒドロキシ-4'-イソプロポキシジフェニルスルホン (日本曹達社製,D8)                 6.0部 ポリビニルアルコール 10%水溶液         18.8部 水                         11.2部 ロイコ染料分散液(B液) 3-ジブチルアミノ-6-メチル-7-アニリノフルオラン (山田化学社製,ODB2)               3.0部 ポリビニルアルコール 10%水溶液          6.9部 水                          3.9部 増感剤分散液(C液) シュウ酸ビス(p-メチルベンジル) (大日本インキ社製,HS3520)           1.5部 ポリビニルアルコール 10%水溶液          4.7部 水                          2.8部 【0027】 次いで,下記の割合で分散液を混合して感熱記録層用塗液を調製した。 <感熱記録層用塗液1(以下「SBR処方」という。)> 顕色剤分散液(A液)                 36.0部 ロイコ染料分散液(B液)               13.8部 増感剤分散液(C液)                  9.0部 スチレン・ブタジエン共重合体ラテックス(固形分48%)16.0部 ナトリウムジオクチルスルホサクシネート(花王社製,ペレックスOT-P,固形分70%)                   0.15部 水                          15.0部 <感熱記録層用塗液2(以下「PVA処方」という。)> 顕色剤分散液(A液)                 36.0部 ロイコ染料分散液(B液)               13.8部 増感剤分散液(C液)                  9.0部 完全ケン化型ポリビニルアルコール(クラレ社製,PVA117)12%水溶液                         25.0部 【0028】 次いで,下記割合からなる配合物を混合して保護層用塗液とした。 <保護層用塗液1> 非コアシェル型アクリル樹脂エマルション(三井化学社製,ASN1004K,Tg55℃,固形分18%)            24.0部 自己乳化型ポリオレフィン樹脂エマルション(住友精化社製,ザイクセン-A-GH,固形分24.4%)              3.0部 ステアリン酸亜鉛(中京油脂社製,ハイドリンL536,固形分40%) 4.0部 ナトリウムジオクチルスルホサクシネート(花王社製,ペレックスOT-P,固形分70%)                   0.07部 水                          30.0部 <保護層用塗液2> 非コアシェル型アクリル樹脂エマルション(三井化学社製,ASN1004K,Tg55℃,固形分18%)            24.0部 自己乳化型ポリオレフィン樹脂エマルション(住友精化社製,ザイクセン-AC,固形分30.0%)                2.5部 ステアリン酸亜鉛(中京油脂社製,ハイドリンL536,固形分40%) 4.0部 ナトリウムジオクチルスルホサクシネート(花王社製,ペレックスOT-P,固形分70%)                   0.07部 水                          30.0部 <保護層用塗液3> 完全ケン化型ポリビニルアルコール(クラレ社製,PVA117)12%水溶液                         42.0部 グリオキザール(40%水溶液)             5.0部 ステアリン酸亜鉛(中京油脂社製,ハイドリンL536,固形分40%) 4.0部 水                          27.0部 【0029】 [実施例1] ポリエチレンテレフタレートフィルム(帝人社製,テイジンテトロン330,厚さ38μm,全光線透過率82%。以下「PETフィルム」という。)上に,感熱記録層用塗液1(SBR処方)を乾燥後の塗布量が5.0g/m2となるように塗布,乾燥したのち,さらに保護層用塗液1を乾燥後の塗布量が3.0g/m2となるように塗布,乾燥して感熱記録体を作製した。 [実施例2] 実施例1のPETフィルムをトリアセチルセルロースフィルム(富士フイルム社製,フジタック,厚さ40μm,全光線透過率90%。以下「TACフィルム」という。)に代えた以外は実施例1と同様にして感熱記録体を作製した。 [実施例3] 感熱記録層用塗液1(SBR処方)中のスチレン・ブタジエン共重合体ラテックス(固形分48%)16.0部を,スチレン・ブタジエン共重合体ラテックス(固形分48%)6.0部と自己乳化型ポリオレフィン樹脂エマルション(住友精化社製,ザイクセン-A-GH,固形分24.4%)15.0部とした以外は,実施例1と同様にして感熱記録体を作製した。 [実施例4] 保護層用塗液1に代えて保護層用塗液2を用いた以外は,実施例1と同様にして感熱記録体を作製した。 【0030】 [実施例5] 保護層用塗液1中の非コアシェル型アクリル樹脂エマルションを,非コアシェル型アクリル樹脂エマルション(三井化学社製,XNP3,Tg35℃,固形分18%)に代えた以外は,実施例1と同様にして感熱記録体を作製した。 [実施例6] 保護層用塗液1中の非コアシェル型アクリル樹脂エマルション24.0部を,コアシェル型アクリル系樹脂(日本ペイント社製,N-538,Tg100℃,固形分20%)22.0部に代えた以外は,実施例1と同様に感熱記録体を作製した。 [実施例7] 保護層用塗液1中の非コアシェル型アクリル樹脂エマルションと自己乳化型ポリオレフィン樹脂エマルションの配合部数を,それぞれ12.0部に代えた以外は実施例1と同様にして感熱記録体を作製した。 [実施例8] 保護層用塗液1中の非コアシェル型アクリル樹脂エマルションの配合部数を27.5部,自己乳化型ポリオレフィン樹脂エマルションの配合部数を0.3部に代えた以外は実施例1と同様にして感熱記録体を作製した。 【0031】 [比較例1] 紙支持体(坪量60g/m2の基紙)上に,感熱記録層用塗液2(PVA処方)を乾燥後の塗布量が5.0g/m2となるように塗布,乾燥したのち,さらに保護層用塗液3を乾燥後の塗布量が3.0g/m2となるように塗布,乾燥して感熱記録体を作製した。 [比較例2] 保護層用塗液1に代えて保護層用塗液3を用いた以外は,実施例1と同様にして感熱記録体を作製した。作製した感熱記録体の保護層表面の写真を図1に示す。 [比較例3] 保護層を設けなかった以外は,実施例1と同様にして感熱記録体を作製した。 [比較例4] 保護層用塗液1の自己乳化型ポリオレフィン樹脂エマルションを配合せず,非コアシェル型アクリル樹脂エマルションの配合部数を27.5部とした以外は,実施例1と同様にして感熱記録体を作製した。 [比較例5] 保護層用塗液1の非コアシェル型アクリル樹脂エマルションを配合せず,自己乳化型ポリオレフィン樹脂エマルションの配合部数を20.5部とした以外は,実施例1と同様にして感熱記録体を作製した。 【0032】 作製した感熱記録体について,下記評価を行った。 <印字濃度> 作製した感熱記録体について,大倉電機社製のTH-PMD(感熱記録紙印字試験機,京セラ社製サーマルヘッドを装着)を用い,印加エネルギー0.42mJ/dot,印字速度50mm/secで印字した。記録部の印字濃度を,マクベス濃度計(RD-914,アンバーフィルター使用)で測定した。 <塗工欠陥> 作製した感熱記録体について,塗工面の塗工欠陥(さざ波状)を目視にて下記の基準で評価した。 ◎:さざ波状の塗工欠陥が見られない。 ○:さざ波状の塗工欠陥がほとんどない。 △:さざ波状の塗工欠陥が僅かに見られる。 ×:さざ波状の塗工欠陥が多く見られる。 【0033】 <耐水性> 作製した感熱記録体について,23℃,50%Rhの環境下で24時間水浸漬処理した後,目視にて塗工層の状態を観察した。 ◎:割れや剥離が見られない。 ○:割れや剥離がほとんどない。 △:割れや剥離が僅かに見られる。 ×:割れや剥離が多く見られる。 <印字走行性> 作製した感熱記録体について,印字試験機(キヤノン社製,HT180)を用い,0℃の環境下で印加エネルギー0.20mJ/dotでベタ印字した。この時の印字状態について,下記の基準で評価した。記録体の最表層が印字試験機のヘッドに粘着して,部分的に印字できないことを「白飛び」と言い,最表層が印字試験機のヘッドに粘着することにより引き起こされる印字試験機のノイズを「騒音」と言う。 ◎:ベタ印字部に白飛びが発生せず,騒音もほとんどない。 ○:ベタ印字部に白飛びが発生しないが,騒音が少し発生する。 △:ベタ印字部に白飛びが若干発生し,騒音は少し発生する。 ×:ベタ印字部に白飛びが頻発し,騒音も大きい。 【0034】 評価結果を表1に示す。 【表1】 」 (2) 本件明細書の発明の詳細な説明の【0004】等の記載から,本件特許発明が解決しようとする課題が,感熱記録層を形成する支持体としてプラスチックフィルムを用いた感熱記録媒体において,表面強度や耐水性の向上のために,感熱記録層上に最外層として保護層を設ける場合に,当該保護層の表面にさざ波状の塗工欠陥が生じやすいが,保護層にオレフィン系樹脂を含有させるという手段で当該塗工欠陥を防止しようとすると印字時にスティッキングが生じてしまうことであると理解される。 そして,本件明細書の発明の詳細な説明の【0005】には,保護層に,ガラス転移点が50℃より高く95℃以下であるアクリル系樹脂及びオレフィン・不飽和カルボン酸共重合体を含有させるという手段を採用することによって,前記課題を解決できること,すなわち,感熱記録体に要求される通常の性能を確保しつつ,保護層の表面におけるさざ波状の塗工欠陥の発生を防止できることが記載されている。 また,本件明細書の発明の詳細な説明の【0009】には,前記課題解決手段のオレフィン・不飽和カルボン酸共重合体として,エチレンと(メタ)アクリル酸の共重合体やプロピレンと(メタ)アクリル酸共重合体の共重合体であって,ブロッキング防止や生産性の観点から重量平均分子量が5,000~100,000のものが好ましいこと,及びオレフィン・不飽和カルボン酸共重合体の具体例として,東邦化学工業株式会社製のハイテックS-3121,ハイテックS-3123及びハイテックS-3127や,住友精化株式会社製のザイクセン-A-GH,ザイクセン-AC,ザイクセン-N及びザイクセン-Lが挙げられることが記載され,【0010】には,前記課題解決手段のアクリル系樹脂の50℃より高く95℃以下というガラス転移点の数値範囲が,スティック防止や耐水性,耐可塑剤性及び耐溶剤性の確保という観点から定められたものであることが記載され,【0011】には,アクリル系樹脂としては,耐熱性に優れ,発色感度が良好であるとともに,耐スティック性や耐ヘッドカス性が良好であることから,非コアシェル型アクリル系樹脂が好ましいことが記載されている。 さらに,本件明細書の発明の詳細な説明の【0026】ないし【0034】には,アクリル系樹脂として,非コアシェル型アクリル樹脂エマルションである三井化学社製のASN1004K又はXNP3や,コアシェル型アクリル系樹脂である日本ペイント社製のN-538を用い,オレフィン・不飽和カルボン酸共重合体として,住友精化社製のザイクセン-A-GH又はザイクセン-ACを用いた実施例1ないし8と,アクリル系樹脂及びオレフィン・不飽和カルボン酸共重合体の両者を含有するものでない保護層を形成するか又は保護層を形成しない比較例1ないし5とについて,さざ波状の塗工欠陥,耐水性及び印字走行性についての評価結果が示されている。(なお,三井化学社製のXNP3及び日本ペイント社製のN-538は,ガラス転移点が本件特許発明の要件である「50℃より高く95℃以下」の範囲にないから,実施例5及び6は本件特許発明の実施例には該当しない。) (3) 前記(2)で述べた記載事項からは,【0005】に記載された解決手段において,少なくとも,オレフィン・不飽和カルボン酸共重合体として住友精化社製のザイクセン-A-GH又はザイクセン-ACを用いたものが,本件特許発明が解決しようとする課題を解決できることを把握できる。 また,オレフィン・不飽和カルボン酸共重合体は,飽和炭化水素からなる構成単位(アルキレン)とカルボキシル基を有する構成単位とから構成される共重合体であるところ,技術常識からみて,このような構成単位からなるオレフィン・不飽和カルボン酸共重合体は,具体的構造の異なるものであっても類似の物性を示すと推察されるから,当業者であれば,たとえ発明の詳細な説明に課題解決に至る作用機序の理論的な説明や住友精化社製のザイクセン-A-GH又はザイクセン-AC以外の具体例が記載されていなくとも,住友精化社製のザイクセン-A-GH又はザイクセン-AC以外のオレフィン・不飽和カルボン酸共重合体を用いた場合でも,実施例と同様に前記課題を解決できると推察することが可能である。 さらに,特許権者が平成29年4月20日提出の意見書に添付して提出した実験成績証明書(乙第2号証)に記載された実験結果からは,住友精化社製のザイクセン-A-GH又はザイクセン-AC以外のオレフィン・不飽和カルボン酸共重合体を用いた場合でも,前記課題を解決できると推察することが可能である。 以上によれば,本件特許発明1,3ないし7が,本件明細書の発明の詳細な説明の記載から当業者が課題を解決できると認識できる範囲を超えるものを包含しているとはいえないから,本件取消理由によって,本件特許発明1,3ないし7に係る特許を取り消すことはできない。 4 本件取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について (1)本件取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由の概要 特許異議申立人は,特許異議申立書において,本件訂正前の各請求項に係る特許について,概略次のとおりの取消理由が存在する旨主張し,その証拠として甲第1ないし7号証(以下,それぞれを「甲1」ないし「甲7」という。)を提出している。 ア 異議申立人が主張する取消理由 (ア)取消理由1 本件特許の請求項1,3,5及び7に係る発明は,甲第1号証に記載された発明と同一であるから,その特許は,特許法29条1項の規定に違反してされたものであって,同法113条2号に該当する。 (イ)取消理由2 本件特許の請求項1ないし7に係る発明は,甲第1号証の記載から把握される発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,その特許は,特許法29条2項の規定に違反してされたものであって,同法113条2号に該当する。 (ウ)取消理由3 本件特許の請求項1に係る発明は,甲第2号証の記載から把握される発明及び甲第1号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,その特許は,特許法29条2項の規定に違反してされたものであって,同法113条2号に該当する。 (エ)取消理由4 本件特許の請求項1に係る発明は,甲第3号証の記載から把握される発明及び甲第1号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,その特許は,特許法29条2項の規定に違反してされたものであって,同法113条2号に該当する。 イ 取消理由1ないし4に関して異議申立人が提出した証拠 甲1:特開2010-247533号公報 甲2:特開2000-177245号公報 甲3:特開2006-240199号公報 甲4:特開平7-156555号公報 甲5:特開平11-321111号公報 甲6:特開2000-326630号公報 甲7:特開2004-50703号公報 (2)取消理由1及び2の成否についての判断 ア 引用例 (ア)甲1 a 甲1の記載 甲1は,本件特許に係る特許出願の出願より前に頒布された刊行物であるところ,当該甲1には次の記載がある。(下線部は,後述する「甲1発明」の認定に特に関連する箇所を示す。) (a) 「【請求項1】 支持体上に,無色ないし淡色の電子供与性ロイコ染料及び電子受容性顕色剤を含有する感熱記録層及び該感熱記録層上に保護層を有する感熱記録体において,該保護層がガラス転移点が50℃より高く95℃以下である非コアシェル型アクリル系樹脂を含有し,該保護層がカーテン法で塗工された感熱記録体。」 (b) 「【技術分野】 【0001】 本発明は,十分な耐水性を有すると共に,塗工性が良好である,感熱記録層上に保護層を設けた感熱記録体に関する。 【背景技術】 【0002】 一般に,感熱記録体は通常無色ないし淡色の電子供与性ロイコ染料(以下,染料という)とフェノール性化合物等の電子受容性顕色剤(以下,顕色剤という)とを,それぞれ微細な粒子に磨砕分散した後,両者を混合し,バインダー,充填剤,感度向上剤,滑剤及びその他の助剤を添加して得られた塗液を,紙,合成紙,フィルム,プラスチック等の支持体に塗工したものであり,サーマルヘッド,ホットスタンプ,熱ペン,レーザー光等の加熱による瞬時の化学反応により発色し,記録画像が得られる。感熱記録体は,ファクシミリ,コンピューターの端末プリンター,自動券売機,計測用レコーダー等に広範囲に使用されており,その用途の多様化に伴い,水や油,可塑剤,溶剤などに対する高いレベルの画像安定性及び白紙部の安定性が求められている。また,モバイル型プリンターで屋外使用される際には,耐スティック性が求められる。耐スティック性とは,プリンターの熱で感熱記録体の最表層の成分が溶融しヘッドに粘着することにより引き起こされる問題(部分的に印字されない部分のあること等)のないことをいう。 【0003】 一般的に,感熱記録体の保存性(耐水性や耐溶剤性)を向上させる方法として,感熱記録層の上に保護層を設ける方法が知られている。 保護層には,膜強度を高めるためにポリビニルアルコールやアクリル系樹脂(特許文献1)などの種々のバインダーを含有させることが一般に行われている。また,保護層に,アクリルエマルジョンのような疎水性樹脂エマルジョンを用いて耐水性を付与させることが行なわれている(特許文献2)。 更に,印字特性を向上させるために保護層にカオリンなどの種々の無機顔料を含有させることが行われている(特許文献3)。 ・・・(中略)・・・ 【発明が解決しようとする課題】 【0005】 屋外で使用する際の雨などの水分や湿気に対して耐水性を向上させるために,感熱記録層の上にアクリル系樹脂のエマルジョンを含有させた保護層を設けることが行なわれているが,一般に保護層を設けると発色感度が低下する。更に,このようなアクリル系樹脂のエマルジョンを含有する保護層塗液は,ブレード塗工法やエアーナイフ塗工法における塗工性が劣り,塗工欠陥や画質の低下が起こる。この発色感度の低下を補うために,保護層に顔料を含有させて熱伝導を良好にして発色感度を改善することも行なわれているが,この顔料の添加により,塗工性は更に悪化する。 本発明は,感熱記録層の上に保護層を設けた感熱記録体において,十分な耐水性を有すると共に,塗工性が良好で,かつ印字走行性(耐スティック性),耐擦過性,耐可塑剤性,耐溶剤性,発色感度に優れた感熱記録体を提供することを課題とする。 【課題を解決するための手段】 【0006】 発明者らは,感熱記録体の耐水性を改善するために,感熱記録層上に保護層を設け,保護層にアクリル系樹脂を含有させることを検討した。しかし一般に使用されているコアシェル系アクリル系樹脂は,非コアシェル型アクリル系樹脂に比べて,耐熱性が優れているが,コアシェル型アクリル系樹脂のシェル部は通常熱伝導性が低いため,発色感度が悪いという欠点も併せ持っている。一方,通常の非コアシェル型アクリル系樹脂は耐熱性が低く,スティックやヘッドカスなどが発生しやすい欠点を持っていたが,本発明者らは鋭意検討の結果,本願発明で使用するガラス転移点(Tg)が50℃より高く95℃以下である非コアシェル型アクリル系樹脂は耐熱性に優れるため,感熱記録体の発色感度が良好になるとともに,耐スティック性や耐ヘッドカス性が良好になることを見出した。 更に,本発明者らは鋭意検討の結果,支持体上に感熱記録層と保護層とを設けた感熱記録体において,このガラス転移点(Tg)が50℃より高く95℃以下である非コアシェル型アクリル系樹脂を含有する保護層塗液は,カーテン塗工法における塗工性が良好,即ち塗工欠陥が無く,画質が良好であり,かつ得られる感熱記録体が十分な耐水性等を有することを見出し,本願発明を完成させるに至った。 即ち,本発明は,支持体上に,無色ないし淡色の電子供与性ロイコ染料及び電子受容性顕色剤を含有する感熱記録層及び該感熱記録層上に保護層を有する感熱記録体において,該保護層がガラス転移点が50℃より高く95℃以下である非コアシェル型アクリル系樹脂を含有し,該保護層がカーテン法で塗工された感熱記録体である。」 (c) 「【発明を実施するための最良の形態】 【0007】 本発明の感熱記録体は,感熱記録層上に設けた保護層が,バインダーとしてガラス転移点(Tg)が50℃より高く95℃以下であるアクリル系樹脂を含有する。本発明で使用されるアクリル系樹脂は,(メタ)アクリル酸及び,(メタ)アクリル酸と共重合可能な単量体成分を含む。・・・(中略)・・・本発明におけるアクリル系樹脂のガラス転移点(Tg)は50℃より高く95℃以下である。Tgが50℃以下であると,耐水性は向上するが,十分な耐熱性が得られないため,スティックを生じやすくなる。一方,Tgが高いアクリル系樹脂を含有させると耐スティック性や耐擦過性は向上する傾向であるが,アクリル系樹脂のTgが高すぎると,保護層が脆くなり,耐水性,耐可塑剤性や耐溶剤性が十分ではなくなり,目的とする効果が得られない場合がある。アクリル系樹脂のTgは示差走査熱量測定(DSC)によって測定する。 【0008】 本発明で用いるアクリル系樹脂は,非コアシェル型アクリル系樹脂である。一般に,コアシェル型アクリル系樹脂は,非コアシェル型アクリル系樹脂に比べて,耐熱性が優れているので,塗工層に用いた場合に耐スティック性に優れるため多用されている。しかし,コアシェル型アクリル系樹脂のシェル部は通常熱伝導性が低いため,発色感度が悪いという欠点も併せ持っている。一方,通常の非コアシェル型アクリル系樹脂は耐熱性が低く,スティックやヘッドカスなどが発生しやすい欠点を持っていたが,本願発明で使用するガラス転移点(Tg)が50℃より高く95℃以下である非コアシェル型アクリル系樹脂は,耐熱性に優れているため,発色感度が良好であるとともに,耐スティック性や耐ヘッドカス性が良好であるという利点がある。 ・・・(中略)・・・ 【0015】 本発明の保護層中の,アクリル系樹脂の配合量は,固形分で,通常15~100重量%,好ましくは50~100重量%である。 本発明の保護層が顔料を含む場合,保護層中のバインダー(アクリル系樹脂を含む全バインダー)と顔料の総量は,固形分で,通常50~100重量%,好ましくは60~100重量%であり,顔料100重量部に対してバインダーは30~300重量部程度であることが好ましい。 【0016】 本発明において感熱記録層上に設ける保護層は,カーテン法で塗工される。カーテン法は,スリットを通して塗液の自由落下カーテン膜を形成し,これを移動する支持体上に落下させて塗工する方法であり,ビードカーテン法,スライドカーテン法,スリットカーテン法,スロットカーテン法,カップルカーテン法,タンデムカーテン法,ツインカーテン法など公知のものを採用することができる。・・・(中略)・・・ 【0018】 また,本発明において保護層をカーテン法で設ける場合,保護層の塗液はB型粘度を100mPa・s以上,かつ1500mPa・s以下に調整することが好ましい。B型粘度を100mPa・s以上に調整すると,ヒール(塗液のカーテン膜を移動する支持体上に落下させる際,落下部において発生する局部的な塗液の偏りのことをいう)の発生による塗工欠陥を抑制することが容易となる。また,B型粘度を1500mPa・s以下に調整すると,感熱記録層上への保護層の塗液の広がりが良好であり,しかも塗工前に保護層の塗液の脱泡を行う場合の脱泡が容易となる。その結果,特に均一な塗工層が形成され,良好な印字濃度,画質を有する感熱記録体が得られるため好ましい。 なお,保護層の塗液の表面張力は,協和界面科学社製CBVP-Zを使用して測定することができる。また,B型粘度は,(株)東京計器製BM型粘度計を使用し,塗液の温度を25℃にして,測定子Cローターを使用して,測定子の回転数が60rpmの条件によって測定することができる。 【0019】 更に,本発明において保護層をカーテン法で設ける場合,特に保護層の塗工量が少ない場合,保護層の塗液の曳糸性,すなわち,伸長粘度計により測定した塗液の破断時間が0.03秒以上となるように調整することが好ましい。曳糸性を0.03秒以上に調整することで,安定したカーテン膜を形成することが容易となる。さらに,曳糸性を0.1秒以上に調整すると,カーテン膜の均一性が向上して特に均一な塗工層が形成され,良好な印字濃度,画質を有する感熱記録体が得られるため,より好ましい。 なお,本発明における曳糸性は,伸長粘度計(機器名:CaBER1,Thermo Haake社製)を使用し,塗液の温度が25℃の条件によって測定した,塗液の破断時間である。 【0020】 保護層の塗液の曳糸性を調整する手法は特に限定されるものではないが,粘度調整剤を使用すると,曳糸性を調整することが容易であるため好ましい。特に,本発明の保護層が顔料を含む場合,顔料を含まない場合より曳糸性が低くなりやすいため,粘度調整剤を使用することが好ましい。 このような粘度調整剤の例として,ヒドロキシエチルセルロース,メチルセルロース,エチルセルロース,カルボキシメチルセルロース,アセチルセルロースなどのセルロースエーテル及びその誘導体(以下「セルロースエーテル類」という。),ポリビニルアルコール,完全ケン化ポリビニルアルコール,部分ケン化ポリビニルアルコール,カルボキシル変性ポリビニルアルコール,シラノール変性ポリビニルアルコール,カチオン変性ポリビニルアルコール,末端アルキル変性ポリビニルアルコールなどのポリビニルアルコール類,ポリアクリルアミド,カチオン性ポリアクリルアミド,アニオン性ポリアクリルアミド,両性ポリアクリルアミドなどのポリアクリルアミド類,エチレン性不飽和カルボン酸,エチレン性不飽和カルボン酸塩,(メタ)アクリロニトリル,気相法シリカ,コロイダルシリカ,有機変成ベントナイト,水添加ヒマシ油,アマイドワックス,酸化ポリエチレン,金属石鹸,ジベンジリデンソルビトール,アルギン酸ナトリウムなどが挙げられる。この中で,セルロースエーテル類,ポリビニルアルコール類,エチレン性不飽和カルボン酸,エチレン性不飽和カルボン酸塩,(メタ)アクリロニトリルは,少量でも粘度調整効果が大きく,粘度調整が容易であるため好ましい。 本発明においては,これらの粘度調整剤の中で,特にエチレン性不飽和カルボン酸及び/又はエチレン性不飽和カルボン酸塩と(メタ)アクリロニトリルを重合体成分とし,かつ重量平均分子量が50万以上である粘度調整剤が好ましい。この重量平均分子量は,分子量既知のポリエチレングリコールを標準物質としてゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)を用いて測定することができる。 このような粘度調整剤中の重合体成分のうち(メタ)アクリロニトリルは,保護層に含有する前記アクリル系樹脂中の重合体成分と類似しており,印字走行性(耐スティック性),耐可塑剤性を阻害しないと考えられる。一方,エチレン性不飽和カルボン酸,エチレン性不飽和カルボン酸塩は粘度調整剤中の水溶性成分であり,粘度調整剤と保護層の塗液との相溶性を高め,保護層の塗液中での未溶解成分の発生による塗工ムラを抑制する効果があると考えられる。 ・・・(中略)・・・ 【0023】 この粘度調整剤と保護層の塗液の相溶性と感熱記録体の耐水性を両立させるため,この粘度調整剤中のエチレン性不飽和カルボン酸及び/又はエチレン性不飽和カルボン酸塩の配合量は,固形分として,好ましくは60~80重量%であり,(メタ)アクリロニトリルの配合量は,固形分として,好ましくは5~40重量%である。 また,保護層中の粘度調整剤の配合量は,固形分として,好ましくは3~15重量%,より好ましくは4~10重量%である。 【0024】 本発明の感熱記録層は,無色ないし淡色の電子供与性ロイコ染料及び電子受容性顕色剤を含有し,更に増感剤,上記のバインダー,架橋剤,顔料,その他の各種成分を含有してもよい。・・・(中略)・・・ 【0039】 上記塗液を紙,再生紙,合成紙,フィルム,プラスチックフィルム,発泡プラスチックフィルム,不織布等任意の支持体に塗工することによって目的とする感熱記録体が得られる。またこれらを組み合わせた複合シートを支持体として使用してもよい。」 (d) 「【実施例】 【0042】・・・(中略)・・・ 【0043】 [実施例1] 下記配合からなる配合物を攪拌分散して,下塗層塗液を調製した。 U液(下塗層塗液) 焼成カオリン(エンゲルハード社製:アンシレックス90)  100部 スチレン・ブタジエン共重合体ラテックス(固形分48%)   40部 完全ケン化型ポリビニルアルコール(クラレ社製:PVA117)10%水溶液                            30部 水                            160部 この下塗層塗液を支持体(60g/m2の基紙)の片面に塗工した後,乾燥を行ない,塗工量10.0g/m2の下塗層塗工紙を得た。この塗工はブレードコーター(IHIフォイトペーパーテクノロジー社製)を用い,塗工速度500m/minで行った(ブレード法)。 【0044】 次に,下記配合の顕色剤分散液(A液),ロイコ染料分散液(B液),及び増感剤分散液(C液)を,それぞれ別々にサンドグラインダーで平均粒子径0.5ミクロンになるまで湿式磨砕を行った。 A液(顕色剤分散液) 4-ヒドロキシ-4’-イソプロポキシジフェニルスルホン  6.0部 ポリビニルアルコール10%水溶液            18.8部 水                           11.2部 B液(染料分散液) 3-ジブチルアミノ-6-メチル-7-アニリノフルオラン(ODB-2)                             3.0部 ポリビニルアルコール10%水溶液             6.9部 水                            3.9部 C液(増感剤分散液) シュウ酸ジベンジル                    6.0部 ポリビニルアルコール10%水溶液            18.8部 水                           11.2部 【0045】 次に,下記の割合で分散液を混合して感熱記録層用の塗液とした。 感熱記録層用塗液 A液(顕色剤分散液)                  36.0部 B液(染料分散液)                   13.8部 C液(増感剤分散液)                  36.0部 完全ケン化型ポリビニルアルコール(クラレ社製:PVA117)10%水溶液                          25.0部 【0046】 次に,感熱記録層用塗液を前記下塗層塗工紙の下塗層上に塗工量6.0g/m2となるように塗工した後,乾燥して感熱記録層塗工紙を得た。この塗工はカーテンコーター(IHIフォイトペーパーテクノロジー社製)を用い,塗工速度500m/minで行った(カーテン法)。 次に下記の割合で混合して保護層の塗液とした。 保護層用塗液 アクリル系樹脂(三井化学社製:非コアシェル型アクリル系樹脂XNP4,固形分18%,Tg55℃)               30.0部 ステアリン酸亜鉛(中京油脂社製:ハイドリンZ-7-30,固形分30%)                            2.0部 次に,保護層用塗液を前記感熱記録層塗工紙の感熱記録層上に塗工量3.0g/m2となるように塗工した後,乾燥を行なった。この塗工は上記と同様にカーテンコーター(IHIフォイトペーパーテクノロジー社製)を用い,塗工速度500m/minで行った(カーテン法)。このシートをスーパーカレンダーで平滑度が1000~2000秒になるように処理して感熱記録体を得た。 【0047】 [実施例2] 保護層用塗液に更に粘度調整剤(サンノプコ社製:SNシックナー929S,重量平均分子量60万,固形分12%,粘度調整剤中の固形分100重量部中,エチレン性不飽和カルボン酸とエチレン性不飽和カルボン酸塩の合計60重量部,(メタ)アクリロニトリル30重量部)を0.3重量部,界面活性剤(日信化学社製:サーフィノール104P,固形分50%)を0.1重量部加えたものを用いて,実施例1と同様に感熱記録体を作製した。」 b 甲1に記載された発明 前記a(a)ないし(d)の記載,特に【0020】及び【0039】等の記載から,請求項1に記載された「感熱記録体」において,保護層にエチレン性不飽和カルボン酸及び(メタ)アクリロニトリルを重合体成分とし重量平均分子量が50万以上である粘度調整剤を含有させ,支持体としてプラスチックフィルムからなる支持体を採用した発明を把握することができるところ,当該発明の構成は次のとおりである。 「プラスチックフィルムからなる支持体上に,無色ないし淡色の電子供与性ロイコ染料及び電子受容性顕色剤を含有する感熱記録層及び該感熱記録層上に保護層を有する感熱記録体であって, 該保護層が,ガラス転移点が50℃より高く95℃以下である非コアシェル型アクリル系樹脂と,エチレン性不飽和カルボン酸及び(メタ)アクリロニトリルを重合体成分とし重量平均分子量が50万以上である粘度調整剤とを含有する, 感熱記録体。」(以下,「甲1発明」という。) (イ) 周知の技術事項 a 甲2の記載 甲2は,本件特許に係る特許出願の出願より前に頒布された刊行物であるところ,当該甲2には次の記載がある。(下線部は,後述する「周知技術」の認定に特に関連する箇所を示す。) (a) 「【請求項1】 透明支持体上に感熱記録層,更にその上に保護層,支持体の逆側に必要に応じてバック層を設けた透明感熱記録材料において,該透明感熱記録材料が小巻ロールに仕上げられており,且つロール流れ方向のガーレー剛度が190mgf~250mgfの範囲であることを特徴とするロール状透明感熱記録材料。 【請求項2】 透明支持体としてポリエチレンテレフタレートフィルムを用いることを特徴とする請求項1記載のロール状透明感熱記録材料。」 (b) 「【0005】 【発明の実施の形態】以下,本発明の感熱記録媒体の詳細について説明する。・・・(中略)・・・ 【0006】本発明で使用する支持体としては,ポリエチレンテレフタレート,ポリブチレンテレフタレート等のポリエステルフイルム,三酢酸セルロース等のセルロース誘導体フイルム,ポリプロピレン,ポリエチレン等のポリオレフィンフィルムの他,ポリエチレンナフタレート,ポリスチレンフィルム或いはこれらを貼り合わせた透明フィルムが好ましい。・・・(中略)・・・ 【0025】本発明において保護層に用いられる樹脂としては,記録層同様水溶性樹脂の他,水性エマルジョン,疎水性樹脂及び紫外線,電子線硬化樹脂等を必要に応じて併用する事も可能である。透明性の観点から,記録層と保護層の樹脂の屈折率は,支持体の屈折率との比で0.8~1.2の範囲に入る材料を用いることが好ましい。樹脂の具体例としては,ポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂,ポリウレタン系樹脂,ポリエステル系樹脂,ポリ酢酸ビニル系樹脂,スチレンアクリレート系樹脂,ポリオレフィン系樹脂,ポリスチレン系樹脂,ポリ塩化ビニル系樹脂,ポリエーテル系樹脂,ポリアミド系樹脂,ポリカーボネート系樹脂,ポリエチレン樹脂,ポリプロピレン樹脂,ポリアクリルアミド樹脂等がある。また,樹脂とともに用いる架橋剤としては,イソシアナート化合物,エポキシ化合物等,従来から公知の化合物を使用する事ができる。イソシアナート化合物の具体例としては,トルイレンジイソシアナート,その2量体,ジフェニルメタンジイソシアナート,ポリメチレンポリフェニルイソシアナート,ヘキサメチレンジイソシアナート,ポリイソシアナート及びこれらの誘導体等分子中にイソシアナート基を2個以上有する化合物があげられる。一方,エポキシ化合物の具体例としては,エテレングリコールジグリシジルエーテル,ブチルグリシジルエーテル,ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル,エポキシアクリレート等があげられる。 【0026】さらにヘッドマッチング性を向上させるために,保護層にワックス,オイル類を添加したり,バインダー樹脂としてシリコンで変成された樹脂を混合して用いる,樹脂と充填剤の比を調節する,などにより摩擦係数を上げ下げして調節する事ができる。ここで用いることができるワックス類としては,ステアリン酸アミド,パルミチン酸アミド,オレイン酸アミド,ラウリン酸アミド,エチレンビスステアロアミド,メチレンビスステアロアミド,メチロールステアロアミド,パラフィンワツクス,ポリエチレン,カルナバワックス,酸化パラフィン,ステアリン酸亜鉛等が挙げられる。オイルとしては一般的なシリコンオイル等を用いる事ができる。」 b 甲3の記載 甲3は,本件特許に係る特許出願の出願より前に頒布された刊行物であるところ,当該甲3には次の記載がある。(下線部は,後述する「周知技術」の認定に特に関連する箇所を示す。) (a) 「【請求項1】 支持体上に結着剤としてのバインダー樹脂と,該バインダー樹脂中に溶解した無色又は淡色のロイコ染料及び該ロイコ染料を加熱発色せしめる顕色剤を主成分とする感熱記録層を設けてなる感熱記録媒体において,前記顕色剤が,下記一般式(1)で表される化合物であり,且つ感熱記録層上に少なくとも脂肪酸アミドを含有する保護層を設け,且つ支持体の裏面側に帯電防止層を設けた事を特徴とする透明感熱記録媒体。 ・・・(中略)・・・ 【請求項5】 前記記載の保護層に脂肪酸アミドを含み且つ固形滑剤を含むことを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の透明感熱記録媒体。」 (b) 「【発明を実施するための最良の形態】 【0009】 帯電及び印画搬送の帯電,貼り付きを防止には表,裏の帯電防止機能が必要である事が分かった。これらの手段として,バック層に公知の帯電防止剤を含有させる事は従来から提案されているとおりである。 これに対し,特に感熱記録媒体をサーマルヘッドで加熱記録する際に,保護層面とサーマルヘッド面との摩擦抵抗により帯電しやすく,帯電したフィルム同士がはりついてしまう事を見出した。これらを解決する手段として公知のワックス類,金属石鹸類等の固形滑剤,シリコーン系,フッ素系等の液状滑剤,またそれらを重合した樹脂等の滑性効果のみでは十分ではなかった。この問題に対し保護層に脂肪酸アミドを含有させる事により滑性及び,加熱時の溶融により表面抵抗値を低下させる機能を発揮し,特に加熱記録時の帯電防止機能に優れている事を見出した。 ・・・(中略)・・・ 【0011】 次にサーマルヘッドの加熱による搬送の抵抗を抑える為には,これらの脂肪酸アミドと公知の滑剤を併用することで,さらに帯電が抑えられる。これらに使用する滑剤としてはこれまで一般的に使用されているものでよく,樹脂と充填剤の比を調節する,等により摩擦係数を調節することができる。ここで用いることができる固形滑剤としてはパラフィンワックス類,ポリエチレンワックス類,カルナウバワックス類,酸化パラフィン類等のワックス類,ステアリン酸アルミニウム,ステアリン酸カルシウム,ステアリン酸マグネシウム,ステアリン酸亜鉛等の金属石鹸類等が挙げられるがこれらに限定する物ではなく,公知の固形滑剤は使用できる。また公知としては脂肪酸アミドも知られているが,本発明においては脂肪酸アミドは滑剤機能ではなく,帯電防止機能として分類して使用する。 ・・・(中略)・・・ 【0013】 更に本発明の保護層で用いられる樹脂としては,感熱記録層のバインダー樹脂として用いられるものと同様の水溶性樹脂の他,水性エマルジョン,疎水性樹脂及び紫外線,電子線硬化樹脂等を用いることができ,これらを必要に応じて併用することも可能である。透明性の観点から記録層と保護層の樹脂の屈折率は支持体の屈折率との比で0.8~1.2の範囲に入る材料を用いることが好ましい。樹脂の具体例としてはポリアクリル酸エステル樹脂,ポリメタクリル酸エステル樹脂,ポリウレタン系樹脂,ポリエステル系樹脂,ポリ酢酸ビニル系樹脂,スチレンアクリレート系樹脂,ポリオレフィン系樹脂,ポリスチレン系樹脂,ポリ塩化ビニル系樹脂,ポリエーテル系樹脂,ポリアミド系樹脂,ポリカーボネート系樹脂,ポリエチレン樹脂,ポリプロピレン樹脂,ポリアクリルアミド樹脂等が挙げられるがこれらに限定する物ではなく,一般に使用できる樹脂は使用できる。 更にこれらの樹脂の中で,特にアクリル系樹脂,ポリエステル系樹脂が表面抵抗が低い傾向があり,サーマルヘッドでの熱記録時の帯電が抑えられる。」 c 甲4の記載 甲4は,本件特許に係る特許出願の出願より前に頒布された刊行物であるところ,当該甲4には次の記載がある。(下線部は,後述する「周知技術」の認定に特に関連する箇所を示す。) (a) 「【0001】 【産業上の利用分野】本発明は,発色像安定性に優れた黒発色感熱記録材料の熱応答性改良に関するものである。」 (b) 「【0050】支持体としては,紙,合成紙,合成樹脂フィルム,ラミネート紙,不織布シート,金属箔等,あるいは,これらを組み合わせた複合シートを用いることができる。 ・・・(中略)・・・ 【0057】また,本発明の感熱記録材料は,記録層の上に保護層,記録層の下に下塗り層を設けることもできる。 【0058】保護層には,ウレタン系樹脂,ポリオレフィン系樹脂,ポリエステル系樹脂,ビニル系樹脂,エポキシ系樹脂,アクリル系樹脂が使用できる。」 d 甲5の記載 甲5は,本件特許に係る特許出願の出願より前に頒布された刊行物であるところ,当該甲5には次の記載がある。(下線部は,後述する「周知技術」の認定に特に関連する箇所を示す。) (a) 「【請求項1】 基材と,前記基材上に形成される感熱記録層と,前記感熱記録層を保護するためのオーバーコート層とを含む感熱紙の製造方法であって, 前記オーバーコート層の材料の表面に平滑な面を有するフィルムを密着させ,前記オーバーコート層の材料を成膜化したのちに前記フィルムが剥離される,感熱紙の製造方法。」 (b) 「【0008】 【発明の実施の形態】図1は,この発明の方法で形成された感熱紙の一例を示す断面図解図である。感熱紙10は,シート状の基材12を含む。基材12としては,たとえば上質紙などが用いられる。基材12上には,感熱記録層14が形成される。この感熱記録層14は,発色剤,顕色剤および結着剤などを含む溶液を基材12の表面に塗布して乾燥させることにより形成される。また,感熱記録層14の材料となる混合物には,必要に応じて,顔料,ワックス類,消泡剤などの添加剤,感熱記録層14に任意の着色を行うための嗔料や,感熱記録層14の熱に対する感度を高めるための増感剤や,保存性を向上させるための安定剤などを添加してもよい。さらに,感熱記録層14の材料となる混合物には,その混合物中の結着剤を架橋させるための架橋剤や,滑剤などを添加してもよい。 ・・・(中略)・・・ 【0014】さらに,感熱記録層14上には,オーバーコート層16が形成される。オーバーコート層16は,結着剤中に充填剤,滑剤,架橋剤を添加し,必要に応じて分散剤,消泡剤,耐水化剤,紫外線吸収剤などの添加剤を添加したオーバーコート層の材料をコーティングして形成される保護層である。ここで使用される結着剤としては,たとえば,ポリビニルアルコール,変性ポリビニルアルコール,デンプン,変性デンプン,カゼイン,ゼラチン,にかわ,アラビアゴム,ポリアミド,ポリアクリルアミド,変性ポリアクリルアミド,ヒドロキシエチルセルロース,メチルセルロース,カルボキシメチルセルロース,ヒドロキシプロピルセルロース,ポリ酢酸ビニル,ポリアクリル酸エステル,スチレン-無水マレイン酸共重合体,イソブチレン-無水マレイン酸共重合体,ジイソブチレン-無水マレイン酸共重合体,酢酸ビニル-無水マレイン酸共重合体,メチルビニル-無水マレイン酸共重合体,イソプロピレン-無水マレイン酸共重合体,スチレン-ブタジエン共重合体,マレイン酸共重合体,ポリ塩化ビニル,ポリ塩化ビニリデン,塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体,ポリウレタン,ポリスチレン,ポリウレタン,ポリビニルピロリドン,アクリル酸エステル,アクリルニトリル,メチルビニルエーテルなどの水溶性樹脂またはエマルジョンの一種類または二種類以上を選択して使用することができる。 ・・・(中略)・・・ 【0016】さらに,滑剤としては,オレイン酸などの脂肪酸類,パラフィンワックスなどの酸化ワックス類,ポリエチレンワックスなどのポリオレフィンワックス類,ステアリン酸亜鉛などの金属石鹸類,カルナバワックスなどのエステルワックス類,シリコンオイル,鯨油などの油類を一種類または二種類以上を選択して使用することができる。」 (c) 「【0026】 【実施例】(実施例1)図13に示すように,基材12となる上質紙の一方面上に感熱記録層の材料を塗布し,感熱記録層14を形成した。さらに,オーバーコート層16を形成するために,表1に示す配合比となるように,原料を均一に分散し,オーバーコート層の材料を作製した。ここで,表1に示す配合比は,固形分重量比を示している。得られたオーバーコート層の材料16aを感熱記録層14上に塗布し,未乾燥の状態で,フィルム18を貼り合わせた。そして,オーバーコート層の材料16aが乾燥してオーバーコート層16が形成されたのち,フィルム18を剥離し,感熱紙10を作製した。 【0027】 【表1】 」 e 甲6の記載 甲6は,本件特許に係る特許出願の出願より前に頒布された刊行物であるところ,当該甲6には次の記載がある。(下線部は,後述する「周知技術」の認定に特に関連する箇所を示す。) (a) 「【請求項1】 基材と,異なった熱量において異なった色に発色する高感度感熱記録層および低感度感熱記録層と,前記いずれかの感熱記録層を保護するためのオーバーコート層とを含む2色感熱記録紙であって, 前記高感度感熱記録層と前記低感度感熱記録層との間に,前記高感度感熱記録層と前記低感度感熱記録層とに含有される感熱記録層の発色特性を変化させる成分が他方の感熱記録層に作用することを阻害する障壁層を有し, 前記オーバーコート層は,平滑な面を有するフィルムをオーバーコート層の材料に密着させ,前記材料を成膜化させることにより形成されていることを特徴とする,2色感熱記録紙。」 (b) 「【0046】さらに,高感度感熱記録層18上には,オーバーコート層20が形成される。オーバーコート層20は,結着剤中に充填剤,滑剤,架橋剤を添加し,必要に応じて分散剤,消泡剤,耐水化剤,紫外線吸収剤などの添加剤を添加したオーバーコート層の材料をコーティングして形成される保護層である。ここで使用される結着剤としては,障壁層16で用いられたものと同様の,ポリビニルアルコール,変性ポリビニルアルコール,デンプン,変性デンプン,カゼイン,ゼラチン,にかわ,アラビアゴム,ポリアミド,ポリアクリルアミド,変性ポリアクリルアミド,ヒドロキシエチルセルロース,メチルセルロース,カルボキシメチルセルロース,ヒドロキシプロピルセルロース,ポリ酢酸ビニル,ポリアクリル酸エステル,スチレン-無水マレイン酸共重合体,イソブチレン-無水マレイン酸共重合体,ジイソブチレン-無水マレイン酸共重合体,酢酸ビニル-無水マレイン酸共重合体,メチルビニル-無水マレイン酸共重合体,イソプロピレン-無水マレイン酸共重合体,スチレン-ブタジエン共重合体,マレイン酸共重合体,ポリ塩化ビニル,ポリ塩化ビニリデン,塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体,ポリウレタン,ポリスチレン,ポリウレタン,ポリビニルピロリドン,アクリル酸エステル,アクリルニトリル,メチルビニルエーテルなどの水溶性樹脂またはエマルジョンの一種類または二種類以上を選択して使用することができる。 ・・・(中略)・・・ 【0048】さらに,滑剤としては,オレイン酸などの脂肪酸類,パラフィンワックスなどの酸化ワックス類,ポリエチレンワックスなどのポリオレフィンワックス類,ステアリン酸亜鉛などの金属石鹸類,カルナバワックスなどのエステルワックス類,シリコンオイル,鯨油などの油類を一種類または二種類以上を選択して使用することができる。」 (c) 「【0058】 【実施例】(実施例1)図11に示すように,基材12となる上質紙の一方面上に低感度感熱記録層14,障壁層16,高感度感熱記録層18を形成した後,オーバーコート層20を形成するために,表1に示す配合比となるように,原料を均一に分散し,オーバーコート層の材料を作製した。ここで,表1に示す配合比は,固形分重量比を示している。得られたオーバーコート層の材料20aを高感度感熱記録層18上に塗布し,未乾燥の状態で,フィルム22を貼り合わせた。そして,オーバーコート層の材料20aが乾燥してオーバーコート層20が形成されたのち,フィルム22を剥離し,2色感熱記録紙10を作製した。 【0059】 【表1】 」 f 甲7の記載 甲7は,本件特許に係る特許出願の出願より前に頒布された刊行物であるところ,当該甲7には次の記載がある。(下線部は,後述する「周知技術」の認定に特に関連する箇所を示す。) (a) 「【0016】 この発明にかかる一実施の形態である感熱記録ラベルは,図1に示すように,支持体としての紙等からなるラベル基材12の表面に,断熱性を向上し,印字特性を向上させるアンダー層14が形成され,さらに,前記実施の形態における感熱記録材料を塗布,乾燥させることによって,感熱記録層16が形成され,さらに,感熱記録層16の表面に,オーバーコート層18が形成されている。 オーバーコート層18は,感熱記録層16側の下層とその上に形成された上層の2層からなり,下層は,水や薬品,油等をバリアするように形成され,すなわち耐水性,耐薬品性,耐油性等の向上のために形成され,上層は,サーマルヘッドがスティックするのを防止するために形成される。なお,オーバーコート層は,下層と上層の2層に分けず,1層でバリア性とスティック防止性を兼ね備えさせることもできる。 ・・・(中略)・・・ 【0018】 オーバーコート層18としては,例えば,次のものが用いられる。 オーバーコート層18の上層を形成する材料としては,結着剤に充填剤を添加し,必要に応じ,滑剤,架橋剤,分散剤,消泡剤,耐水化剤などの添加剤を添加したものが用いられる。 オーバーコート層18の上層を形成する結着剤として,たとえば,ポリビニルアルコール,変性ポリビニルアルコール,ポリビニルブチラール,ポリビニルピロリドン;ポリビニルカルバゾール;デンプン類;セルロース誘導体;アルギン酸塩;アクリル酸エステル,ポリアクリルアミド,ポリメチルメタクリレート,ポリブチルメタクリレート等のアクリル樹脂;アルキッド樹脂;マレイン酸樹脂;アクリロニトリル樹脂;エポキシ樹脂;ポリエステル樹脂;ポリアミド樹脂;スチレン樹脂;ウレタン樹脂;ビニリデン樹脂などの一種類以上を選択して使用することができる。・・・(中略)・・・オーバーコート層18の上層は,サーマルヘッドに対する感熱記録材料のマッチング性を向上させ,感熱記録層16の発色が順調に行われるよう形成される。」 (b) 「【0023】 以下に,実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが,勿論これらに限定されるものではない。 【0024】 [例1] ・・・(中略)・・・ ▲7▼ オーバーコート上層用塗液の調整 アクリル酸エステルエマルジョン(固形分濃度30重量%)75重量部,軟質炭酸カルシウム5重量部,ポリエチレンワックス(固形分濃度40重量%)10重量部,水10重量部からなる組成物を混合攪拌して,オーバーコート上層用塗液を得た。 ・・・(中略)・・・ ▲9▼ 感熱記録ラベルの作製 坪量50g/cm2の上質紙の表面に, アンダー層用塗液, 感熱発色層用塗液, オーバーコート下層用塗液, オーバーコート上層用塗液を 乾燥重量がそれぞれ 5g/m2,4g/m2,1.5g/m2,1g/m2 となるように順次塗布し乾燥して, アンダーコート層, 感熱記録層, オーバーコート下層, オーバーコート上層を 形成し,そして 上記上質紙の裏面には,障壁層塗液を,乾燥重量が2g/m2となるように塗布乾燥して障壁層を形成した。 上記のように各層が形成された上質紙の障壁層側と,アクリル系エマルジョン粘着剤を,乾燥重量で20g/m2となるように塗布乾燥して粘着剤層が形成された剥離紙(セパレータ)の粘着剤層側とを積層し,次いで,剥離紙を除く各層(上記のように積層されたラベル基材)をオーバーコート層側からラベル部分をダイカットし,ラベル部分以外のラベル基材の不要部を剥離紙から剥離除去することによって,各ラベルとなるラベル基材が剥離紙に複数個仮着したラベル連続体を作製した。」 g 甲2ないし甲7の記載から把握される周知の技術事項 前記aないしfで摘記した甲2ないし甲7の記載から,本件特許に係る特許出願の出願より前に,次の技術事項が周知であったと認められる。 「感熱記録層上に保護層を形成する感熱記録媒体において,保護層に含有させる結着樹脂としてアクリル系樹脂やポリオレフィン系樹脂を用いるとともに,滑剤としてポリオレフィンワックス類を含有させること。」(以下,「周知技術」という。) イ 対比 甲1発明の「プラスチックフィルムからなる支持体」,「電子供与性ロイコ染料」,「電子受容性顕色剤」,「感熱記録層」,「保護層」,「感熱記録体」及び「非コアシェル型アクリル系樹脂」が,本件特許発明1の「プラスチックフィルム」,「電子供与性ロイコ染料」,「電子受容性顕色剤」,「感熱記録層」,「保護層」,「感熱記録体」及び「アクリル系樹脂」にそれぞれ相当し,甲1発明の「エチレン性不飽和カルボン酸及び(メタ)アクリロニトリルを重合体成分とし重量平均分子量が50万以上である粘度調整剤」は,不飽和カルボン酸と他のモノマーの共重合体(以下,「不飽和カルボン酸共重合体」という。)である点で,本件特許発明1の「オレフィン・不飽和カルボン酸共重合体」と共通するから,本件特許発明1と甲1発明とを対比すると,両者は, 「プラスチックフィルム上に,無色ないし淡色の電子供与性ロイコ染料及び電子受容性顕色剤を含有する感熱記録層及び該感熱記録層上に最外層として保護層を有する感熱記録体において,該保護層が,ガラス転移点が50℃より高く95℃以下であるアクリル系樹脂及び不飽和カルボン酸共重合体を含有する感熱記録体。」 である点で一致し,次の点で相違する。 相違点: 本件特許発明1では,保護層が含有する「不飽和カルボン酸共重合体」が,「オレフィン・不飽和カルボン酸共重合体」であるのに対して, 甲1発明では,保護層が含有する「不飽和カルボン酸共重合体」が,「エチレン性不飽和カルボン酸及び(メタ)アクリロニトリルを重合体成分とし重量平均分子量が50万以上である粘度調整剤」(すなわち,エチレン性不飽和カルボン酸・(メタ)アクリロニトリル共重合体)である点。 ウ 判断 (ア) 甲1の【0020】には,甲1発明において,保護層に含有させる粘度調整剤の材質が多数例示されているものの,当該例示中に「オレフィン・不飽和カルボン酸共重合体」に該当する化合物は存在しない。 また,甲2ないし甲7のいずれにも,保護層に含有させる粘度調整剤として「オレフィン・不飽和カルボン酸共重合体」を用いることの記載も示唆もない。 そうすると,たとえ当業者といえども,甲1発明において,保護層に含有させる粘度調整剤として,「オレフィン・不飽和カルボン酸共重合体」を用いることが,容易であったということはできない。 なお,この点に関し,異議申立人は,甲1に,粘度調整剤の例として,「エチレン性不飽和カルボン酸」,「(メタ)アクリロニトリル」,「酸化ポリエチレン」が例示され,さらに,「エチレン性不飽和カルボン酸」と「(メタ)アクリロニトリル」をモノマー成分とする共重合体が好ましい例として挙げられているのだから,当業者であれば,粘度調整剤として,「酸化ポリエチレン」と「不飽和カルボン酸」をモノマー成分とする共重合体を容易に想到できると主張するが,異議申立人がいう「酸化ポリエチレンと不飽和カルボン酸をモノマー成分とする共重合体」が容易に想到できるのか否かを措くとして,そもそも甲1自体に具体的な例示のない当該共重合体を,甲1発明の粘度調整剤としてわざわざ採用することに,何ら動機付けは存在しないから,当該異議申立人の主張は採用できない。 (イ) さらに,甲1発明に,前記ア(イ)gで認定した周知技術を適用することについて検討してみても,保護層が,滑剤としてポリオレフィンワックス類を含有することとなるだけであって,周知技術の適用後の保護層に,「オレフィン・不飽和カルボン酸共重合体」は含有されていないから,たとえ甲1発明に周知技術を適用したとしても,本件特許発明1には至らない。 (ウ) 前記(ア)及び(イ)のとおりであるから,本件特許発明1が,甲1発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。 また,本件特許発明3ないし7は,本件特許発明1の構成要件を全て有し,これに他の要件を付加したものに該当するところ,本件特許発明1が,甲1発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものということはできない以上,本件特許発明3ないし7についても,同様の理由で,甲1発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。 したがって,取消理由2は成り立たない。 (エ) さらに,取消理由1については,本件訂正前の請求項1,3,5及び7を対象とするものであるところ,本件特許発明1は,実質上,取消理由1及び2が対象としていない本件訂正前の請求項2に係る発明に該当するが,それを措くとして,本件特許発明1,3,5及び7は,甲1発明と,少なくとも前記イで認定した相違点で相違することになるから,本件特許発明1,3,5及び7が,甲1発明と同一であるとはいえない。 したがって,取消理由1は成り立たない。 エ 小括 以上のとおり,取消理由1及び2は成り立たない。 (3)取消理由3及び4の成否についての判断 本件特許発明1は,実質上,取消理由3及び4が対象としていない本件訂正前の請求項2に係る発明に該当するが,それを措くとして,前記(2)ウでも述べたように,取消理由3における主引例である甲2にも,取消理由4における主引例である甲3にも,保護層が,「ガラス転移点が50℃より高く95℃以下であるアクリル系樹脂」と「オレフィン・不飽和カルボン酸共重合体」とを含有することは,記載も示唆もなく,かつ,甲1,甲4ないし甲7を含め,保護層に「ガラス転移点が50℃より高く95℃以下であるアクリル系樹脂」と「オレフィン・不飽和カルボン酸共重合体」とを含有させることが記載された証拠も見当たらないから,甲2の記載から把握される発明又は甲3の記載から把握される発明を主引例として本件特許発明1に至ることが,当業者にとって容易であったということはできない。 したがって,取消理由3及び4は成り立たない。 第4 むすび 以上のとおり,本件取消理由通知に記載した本件取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては,本件特許の請求項1,3ないし7に係る特許を取り消すことはできない。 また,他に本件特許の請求項1,3ないし7を取り消すべき理由を発見しない。 請求項2に係る特許は,訂正により削除されたため,本件特許の請求項2に対して,特許異議申立人がした特許異議の申立てについては,対象となる請求項が存在しない。 よって,結論のとおり決定する。

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2016-700762

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