特許異議申立
2023-700422
カラー印刷段ボールシートの製造方法及びカラー印刷段ボールシート
- 審判番号
- 2023-700422
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-005319
- 登録番号
- 7160698
- 請求日
- 2023年04月25日
- 審決日
- 2023年11月30日
- 公報発行日
- 2024年03月29日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】レンゴー株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人WisePlus
- 【異議申立人】五味渕 琢也
- 審判長/審判官
- 審判長 里村 利光
- 審判官 関根 洋之
- 審判官 大▲瀬▼ 裕久
- 分類
- P1651.113-YAA(B41M) / P1651.121-YAA(B41M) / P1651.537-YAA(B41M)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第29条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7160698号発明「カラー印刷段ボールシートの製造方法及びカラー印刷段ボールシート」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7160698号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~3〕、〔4〕について訂正することを認める。
特許第7160698号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続等の経緯
特許第7160698号(以下「本件特許」という。)の請求項1~4に係る特許についての出願は、平成31年1月16日の出願であって、令和4年10月17日にその特許権の設定登録がされ、令和4年10月25日に特許掲載公報が発行された。
本件特許について、特許掲載公報の発行の日から6月以内である令和5年4月25日に特許異議申立人 五味渕 琢也(以下「特許異議申立人」という。)から全請求項に対して特許異議の申立てがされた。その後の手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。
令和5年 6月27日付け:取消理由通知書
同年 8月18日付け:意見書(特許権者)
同日付け:訂正請求書(この訂正請求書による訂正の
請求を、以下「本件訂正請求」という。)
同年10月20日付け:意見書(特許異議申立人)
第2 本件訂正請求について
1 訂正の趣旨
本件訂正請求の趣旨は、特許第7160698号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~3〕、〔4〕について訂正することを求める、というものである。
2 本件訂正請求について
本件訂正請求は、一群の請求項〔1~3〕、〔4〕に対して請求されたものである。
3 請求項1~3についての訂正
(1)訂正の内容
本件訂正請求において特許権者が求める請求項1~3について訂正は、以下のとおりである。なお、下線は当合議体が付したものであり、訂正箇所を示す。
ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「イオン塩」と記載されているのを、「アルカリ土類金属塩」に訂正する(請求項1の記載を引用して記載された、請求項2~3についても、同様に訂正する。)。
(2)訂正の適否
ア 訂正事項1について
訂正事項1による訂正は、請求項1に記載された「イオン塩」を「アルカリ土類金属塩」に限定する訂正である。そして、この点は、請求項1の記載を引用して記載された請求項2~3についてみても、同じである。
そうすると、訂正事項1による訂正は、120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とする訂正に該当する。
また、訂正事項1による訂正は、本件特許の明細書の【0025】の記載から導き出すことができる事項であり、当業者によって、明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである。
そうすると、訂正事項1による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正である。
加えて、訂正事項1による訂正によって、訂正前の特許請求の範囲には含まれないこととされた発明が訂正後の特許請求の範囲に含まれることとならないことは明らかである。
そうすると、訂正事項1による訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正に該当しない。
(3)小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による請求項1~3についての訂正(訂正事項1による訂正)は、特許法120条の5第2項ただし書、同法同条9項において準用する同法126条5項及び6項の規定に適合する。
よって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~3〕について訂正することを認める。
4 請求項4についての訂正
(1)訂正の内容
本件訂正請求において特許権者が求める請求項4について訂正は、以下のとおりである。
ア 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項4に「イオン塩」と記載されているのを、「アルカリ土類金属塩」に訂正する。
(2)訂正の適否
ア 訂正事項2について
訂正事項2による訂正は、請求項4に記載された「イオン塩」を「アルカリ土類金属塩」に限定する訂正である。
そうすると、訂正事項2による訂正は、120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とする訂正に該当する。
また、訂正事項2による訂正は、本件特許の明細書の【0025】の記載から導き出すことができる事項であり、当業者によって、明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである。
そうすると、訂正事項2による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正である。
加えて、訂正事項2による訂正によって、訂正前の特許請求の範囲には含まれないこととされた発明が訂正後の特許請求の範囲に含まれることとならないことは明らかである。
そうすると、訂正事項2による訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正に該当しない。
(3)小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による請求項4についての訂正(訂正事項2による訂正)は、特許法120条の5第2項ただし書、同法同条9項において準用する同法126条5項及び6項の規定に適合する。
よって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔4〕について訂正することを認める。
第3 本件特許発明
前記「第2」のとおり、本件訂正請求による訂正は認められることとなったから、本件特許の請求項1~4に係る発明(以下、請求項の番号とともに「本件特許発明1」などという。)は、特許請求の範囲の請求項1~4に記載された事項によって特定されるとおりの、以下のものである。
「【請求項1】
ライナ又は段ボールシートにプレコート剤を塗工する工程と、
前記プレコート剤を塗工した面上にインクジェット印刷をする工程とを有し、
前記プレコート剤は、白色顔料、アルカリ土類金属塩、及び、酸価が50mgKOH/g以下である水性樹脂を含む
ことを特徴とするカラー印刷段ボールシートの製造方法。
【請求項2】
前記ライナに前記プレコート剤を塗工する工程と、前記インクジェット印刷をする工程とを行った後に、段ボールシートに加工する貼り合わせ工程を有する請求項1に記載のカラー印刷段ボールシートの製造方法。
【請求項3】
前記ライナの一方の面上に白色古紙の層を有する請求項1又は2に記載のカラー印刷段ボールシートの製造方法。
【請求項4】
段ボールシートの一方の面上にプレコート層を有し、該プレコート層上にインクジェット印刷により形成された印刷層を有し、
前記プレコート層は、白色顔料、アルカリ土類金属塩、及び、酸価が50mgKOH/g以下である水性樹脂を含むプレコート剤からなる層である
ことを特徴とするカラー印刷段ボールシート。」
第4 取消しの理由の概要
1 令和5年6月27日付け取消理由通知書により特許権者に通知した取消しの理由は、概略、次のとおりのものである。
理由1(新規性):本件特許の請求項1及び4に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である甲1号証に記載された発明であり、特許法29条1項3号に掲げる発明に該当するから、請求項1及び4に係る特許は、いずれも、同条の規定に違反してされたものである。
理由2(進歩性):本件特許の請求項1~4に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である甲1号証に記載された発明に基づいて、その出願にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから、請求項1~4に係る特許は、いずれも、同条の規定に違反してされたものである。
・甲1号証:特開2005-313437号公報(以下「甲1」という。)
第5 当合議体の判断
1 新規性・進歩性について
(1)甲1の記載
取消しの理由で引用された甲1には、次の事項が記載されている。なお、下線は当合議体が付した。
ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット印刷を施すことが可能な段ボールライナ、及びこれを用いた段ボールに関する。
・・・略・・・
【発明が解決しようとする課題】
・・・略・・・
【0004】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、コルゲータ処理時のインク受容層の割れや剥離、加熱手段への融着を抑制するインクジェット印刷用段ボール技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は上記課題を解決するべく鋭意検討し、以下の段ボールライナ及び段ボールを発明した。
本発明の段ボールライナは、ライナ原紙の表面に、顔料(A)と接着剤(B)とインク定着剤(C)とを含むインク受容層が設けられ、インクジェット印刷を施すことが可能な段ボールライナにおいて、接着剤(B)として、シラノール変性ポリビニルアルコールが用いられていることを特徴とする。」
イ 「【0011】
(インク受容層)
インク受容層は、顔料(A)と接着剤(B)とインク定着剤(C)とを含む層である。インク受容層は単層又は複数層設けることができる。なお、インク受容層を複数設ける場合、各層の組成は同一でも非同一でも構わない。
・・・略・・・
【0017】
(インク定着剤(C))
インク定着剤(C)は、印刷の発色性や保存性を向上するために配合される成分である。インク定着剤(C)としては特に制限はないが、1)ポリエチレンポリアミンやポリプロピレンポリアミン等のポリアルキレンポリアミン類又はその誘導体、2)第2級又は第3級アミノ基や第4級アンモニウム基を有するアクリル重合体、3)ポリビニルアミン、ポリビニルアミジン、5員環アミジン類、4)ジシアンジアミド-ホルマリン共重合体等のジシアン系カチオン樹脂、5)ジシアンジアミド-ポリエチレンアミン共重合物等のポリアミン系カチオン樹脂、6)ジメチルアミン-エピクロルヒドリン共重合物、7)ジアリルジメチルアンモニウム-SO2共重合物、8)ジアリルアミン塩-SO2共重合物、9)ジメチルジアリルアンモニウムクロライド重合物、10)アリルアミン塩の重合物、11)ジアルキルアミノエチル(メタ)アクリレート4級塩共重合物、12)アクリルアミド-ジアリルアミン塩共重合物、13)ポリ塩化アルミニウム、ポリ酢酸アルミニウム等のアルミニウム塩等を1種又は2種以上用いることができる。
中でも、ジシアン系カチオン樹脂、ジメチルジアリルアンモニウムクロライド重合物等が発色性が良く、好ましく用いられる。」
ウ 「【実施例】
・・・略・・・
【0034】
(製造例1~4)
表1に示す組成(配合量の単位は「部」、(B-2)は固形分基準)のインク受容層用組成物(X)及び(Y)を調製した。いずれも固形分濃度は17%とした。なお、(X)は本発明の段ボールライナのインク受容層用組成物であり、(Y)は比較用の組成物である。
表中、各略号は以下の成分を示す。
(A-1):合成非晶質シリカ(トクヤマ社製、ファインシールX-60)
(B-1):シラノール変性ポリビニルアルコール(クラレ社製、PVA R-1130、重合度1700)
(B-2):酢酸ビニル系ラテックス(日本NSC社製、ヨドゾールCC9)
(B-3):非変性ポリビニルアルコール(クラレ社製、PVA117、重合度1700)
(C-1):ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド(センカ社製、ユニセンスCP103)
(D-1):蛍光染料(住友化学社製、ホワイテックスBPS(H))
【0035】
【表1】
[図:0001407837000001.jpg]
【0036】
(実施例1~5、比較例1~2)
ライナ原紙上に、上記で得た組成物をエアーナイフコータにて塗工し、これをエアドライヤー(110℃、走行速度5m/s、1分)にて乾燥することで、インク受容層を形成し、本発明及び比較用の段ボールライナを得た。用いたライナ原紙の種類及びその吸水度(単位は省略)、用いた組成物、インク受容層の塗工量(乾燥後質量、単位:g/m2)を表2に示す。
表中、ライナ原紙の略号は、以下のものを示す。
(P-1):王子板紙社製 特白PC5、吸水度48g/m2
(P-2):王子板紙社製 白板、吸水度36g/m2
(P-3):王子製紙社製 OKボール、吸水度26g/m2
得られた段ボールライナ2枚と、中芯(王子板紙社製、中芯紙)とを、インク受容層が外側になるように重ね、シングルフェーサ(SF)及びダブルフェーサ(DF)を備えた両面段ボール製造用コルゲータにて貼着し、両面段ボールを製造した。コルゲータ処理条件は、SF:加熱温度(加熱加圧ロール温度)180℃、線圧40kg/cm、加圧時間0.02秒、ダブルフェーサ(DF):加熱温度(熱盤温度)180℃、線圧0.3kg/cm、加圧時間5秒とした。
【0037】
(評価項目及び評価方法)
<耐熱性>
コルゲータ処理時のインク受容層の耐熱性を下記基準にて評価した。
○:インク受容層の割れや、SFの加熱加圧ロール及びDFの熱盤への融着が発生しなかった。
×(割れ):インク受容層の割れが発生した。
×(融着):インク受容層の融着が発生し、SFの加熱加圧ロール及び/又はDFの熱盤での繰り出しに問題が発生した。
【0038】
<インク吸収性>
得られた段ボール(インク受容層側の面)に対し、インクジェットプリンタ(ミマキ社製、JV4-130、水系顔料インク)にて、高精細カラーディジタル標準画像データN5自転車(日本規格協会)を印刷し、インク吸収性を下記基準にて目視評価した。
◎:線ににじみがなく、良好。
○:実用上問題のないレベルで、線に僅かににじみが見られた。
△:多量のインクを使用する場合には問題となる恐れのあるレベルで、線ににじみが見られた。
×:線にかなりのにじみが見られ、実用上問題あり。
【0039】
<耐水性>
得られた段ボールのインク受容層に対して水を滴下し、その後、指で軽く撫で、インク受容層の耐水性を下記基準にて目視評価した。
◎:インク受容層の剥離が全く見られず、良好。
○:インク受容層の剥離が若干あるが、実用上問題なし。
×:インク受容層の剥離が見られ、問題あり。
【0040】
【表2】
[図:0001407837000002.jpg]
【0041】
(結果)
評価結果を表2に合わせて示す。
表に示すように、インク受容層の接着剤(B)としてシラノール変性ポリビニルアルコール(B-1)を用いた実施例1~5では、いずれもインク受容層の耐熱性が良好であり、コルゲータ処理を問題なく実施することができた。いずれのインク受容層も耐水性が良好であった。特に、接着剤(B)として酢酸ビニル系ラテックス(B-2)を併用した実施例4では、耐水性が著しく良好であった。得られた段ボールは、いずれもインク吸収性が良好であった。
対して、インク受容層の接着剤(B)としてシラノール変性ポリビニルアルコールを用いなかった比較例1、2では、いずれもインク受容層の耐熱性が不良であり、コルゲータ処理時に問題が発生した。」
(2)甲1に記載された発明
ア 上記(1)によると、甲1には、段ボールライナのインク受容層用組成物X-1を用いた実施例1に係る方法の発明として、次の発明が記載されていると認められる(以下「甲1発明」という。)。
「ライナ原紙上に、段ボールライナのインク受容層用組成物X-1をエアーナイフコータにて塗工し、インク受容層を形成して、段ボールライナを得て、得られた段ボールライナ2枚と、中芯とを、インク受容層が外側になるように重ねて貼着し、両面段ボールを製造する方法であって、
前記段ボールライナのインク受容層用組成物X-1は、
(A-1):合成非晶質シリカ(トクヤマ社製、ファインシールX-60)、
(B-1):シラノール変性ポリビニルアルコール(クラレ社製、PVA R-1130、重合度1700)及び
(C-1):ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド(センカ社製、ユニセンスCP103)を含み、
段ボールの前記インク受容層側の面に対し、インクジェットプリンタにて、高精細カラーディジタル標準画像データを印刷する工程を含む、
両面段ボールを製造する方法。」
イ 甲1には、「甲1発明の方法で製造された両面段ボール。」の発明(以下「甲1発明2」という。)も記載されていると認められる。
(3)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲1発明を対比する。
(ア)プレコート剤を塗工する工程
甲1発明の「インク受容層用組成物X-1」は、インクジェット印刷する前にライナ原紙上に塗工されるものであるから、プレコート剤であるといえる。
そうすると、甲1発明の「インク受容層用組成物X-1」は、本件特許発明1の「プレコート剤」に相当し、甲1発明は、本件特許発明1の「ライナ又は段ボールシートにプレコート剤を塗工する工程」を有するという要件を満たしている。
(イ)インクジェット印刷をする工程
甲1発明は、「インク受容層用組成物X-1」を塗工した面にインクジェット印刷をする。
そうすると、甲1発明は、本件特許発明1の「前記プレコート剤を塗工した面上にインクジェット印刷をする工程」を有するという要件を満たしている。
(ウ)プレコート剤
甲1発明の「インク受容層用組成物X-1」は、「(A-1):合成非晶質シリカ(トクヤマ社製、ファインシールX-60)」、「(B-1):シラノール変性ポリビニルアルコール(クラレ社製、PVA R-1130、重合度1700)」及び「(C-1):ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド(センカ社製、ユニセンスCP103)」を含んでいる。
a 顔料である「(A-1):合成非晶質シリカ(トクヤマ社製、ファインシールX-60)」は、白色顔料であるといえる。(甲5号証(「ファインシール・OSCの代表物性例」、2016年、丸尾カルシウム株式会社ホームページ、インターネット、<URL:https://www.maruo-cal.co.jp/html/product_silica.html>)を参照のこと。)
b 接着剤である「(B-1):シラノール変性ポリビニルアルコール(クラレ社製、PVA R-1130、重合度1700)」は、水溶性であるポバールをベースとしているから、水溶性ポリマーであるといえる。(甲6号証(「紙加工 用PVA系樹脂」、株式会社クラレ、2011年2月)の7頁及び12頁を参照のこと。)
また、「(B-1):シラノール変性ポリビニルアルコール(クラレ社製、PVA R-1130、重合度1700)」は、その構造式(甲6号証の7頁を参照のこと。)からみて、酸価は0mgKOH/gであると認められる。
c 「(C-1):ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド(センカ社製、ユニセンスCP103)」は、その構造式(甲8号証(「Macromolecules」、American Chemical Society、1984年、Vol.17、p.975-977)の975頁右欄を参照のこと。)からみて、4級アンモニウム塩の一種であり、イオン塩であるといえる。
そうすると、甲1発明の「(C-1):ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド(センカ社製、ユニセンスCP103)」と本件特許発明の「アルカリ土類金属塩」は、「イオン塩」である点で共通する。
以上a~cにより、甲1発明の「インク受容層用組成物X-1」と本件特許発明1の「プレコート剤」は、「白色顔料、イオン塩、及び、酸価が50mgKOH/g以下である水性樹脂を含む」「プレコート剤」である点で共通する。
(エ)カラー印刷段ボールシートの製造方法
甲1発明では、カラー印刷された両面段ボールが製造されている。
そうすると、甲1発明は、本件特許発明1の「カラー印刷段ボールシートの製造方法」という要件を満たしている。
イ 一致点
上記アによると、本件特許発明1と甲1発明は次の点で一致する。
「ライナ又は段ボールシートにプレコート剤を塗工する工程と、
前記プレコート剤を塗工した面上にインクジェット印刷をする工程とを有し、
前記プレコート剤は、白色顔料、イオン塩、及び、酸価が50mgKOH/g以下である水性樹脂を含む、カラー印刷段ボールシートの製造方法。」
ウ 相違点
他方、本件特許発明1と甲1発明は次の点で相違する。
(相違点1)
「イオン塩」が、本件特許発明1では「アルカリ土類金属塩」であるのに対し、甲1発明では「(C-1):ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド(センカ社製、ユニセンスCP103)」である点。
エ 判断
(ア)新規性について
上記ウにより、本件特許発明1と甲1発明には、上記相違点1がある。
そうすると、本件特許発明1は、甲1発明ではない。
(イ)進歩性について
上記相違点1について検討する。
甲1の【0017】には「インク定着剤(C)は、印刷の発色性や保存性を向上するために配合される成分である。インク定着剤(C)としては特に制限はないが、1)ポリエチレンポリアミンやポリプロピレンポリアミン等のポリアルキレンポリアミン類又はその誘導体・・・13)ポリ塩化アルミニウム、ポリ酢酸アルミニウム等のアルミニウム塩等を1種又は2種以上用いることができる。中でも、ジシアン系カチオン樹脂、ジメチルジアリルアンモニウムクロライド重合物等が発色性が良く、好ましく用いられる」と記載されている。上記記載に接した当業者は、甲1に記載された発明における「インク定着剤(C)」には、ある程度選択の幅があることを理解する。
しかしながら、甲1発明は、特定の実施例(実施例1)に係る発明であって、甲1の【0017】に例示されたものの中でも「好ましく用いられる」されている「ジメチルジアリルアンモニウムクロライド重合物」に該当する「(C-1):ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド(センカ社製、ユニセンスCP103)」を「インク定着剤」として採用した発明であるから、甲1発明において、前記「(C-1):ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド(センカ社製、ユニセンスCP103)」を他のインク定着剤、とりわけ【0017】に例示すらされていない、アルカリ土類金属塩を敢えて採用しようとする動機付けはないというべきである。
そうすると、インク定着剤としてアルカリ土類金属塩が周知であったとしても、甲1発明において、相違点1に係る本件特許発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。
したがって、本件特許発明1は、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
オ 段ボールライナのインク受容層用組成物X-1又はX-2を用いた実施例2~5に係る発明を甲1発明(引用発明)とした場合も上記ア~エと判断は同様である。
カ 小括
本件特許発明1は、甲1に記載された発明ではない。また、本件特許発明1は、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4)本件特許発明2~3について
本件特許の特許請求の範囲の請求項2~3は、いずれも、請求項1を直接又は間接的に引用するものであって、本件特許発明2~3は、本件特許発明1の構成を全て具備し、これに限定を加えたものに該当する。そうすると、上記(3)のとおり、本件特許発明1が、甲1に記載された発明ではなく、また、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない以上、本件特許発明2~3も、甲1に記載された発明ではなく、また、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(5)本件特許発明4について
本件特許発明4と甲1発明2を対比すると、両者は、少なくとも、上記相違点1と同様の相違点において相違する。
そして、当該相違点についての判断は、上記(3)エで述べたのと同様である。
したがって、本件特許発明4は、甲1に記載された発明ではない。また、本件特許発明4は、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
第6 令和5年10月20日付け意見書における新たな取消しの理由について
特許異議申立人は、同意見書の「(1)申立理由5(甲第3号証及び甲第4号証に基づく進歩性欠如)について」において、甲第4号証を主引例とし甲第3号証を副引例とした場合においても本件特許発明1~4は進歩性を有しない旨主張する。
しかしながら、当該主張に係る取消しの理由は、特許異議申立書に記載されていない、実質的に新たな理由である。また、同日に新たに提出された甲第25号証を採用しなければ取消理由を構成できない点に鑑みると、適切な取消理由を構成することが一見して明らかな場合に該当するともいえない。
したがって、当該主張に係る取消しの理由は採用できない。
なお、甲第25号証は、その作成者及び名義人が不明であり、文書の成立が認められないから、証拠として採用できない。
第7 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 申立理由3及び4:甲第2号証に基づく新規性及び進歩性欠如
(1)甲第2号証(特開2013-151087号公報)には、請求項1に係るインクジェット記録体の製造方法の発明(以下「甲2発明」という。)及び甲2発明で製造されたインクジェット記録体の発明(以下「甲2発明2」という。)が記載されていると認められる。
(2)本件特許発明1~3のいずれかと甲2発明を対比すると、両者は、少なくとも、上記相違点1(第5の1(3)ウ)と同様の相違点において相違する。
また、本件特許発明4と甲2発明2を対比すると、両者は、少なくとも、上記相違点1(第5の1(3)ウ)と同様の相違点において相違する。
そして、当該相違点についての判断は、上記第5の1(3)エで述べたのと同様である。
(3)したがって、申立理由3及び4は採用できない。
2 申立理由5:甲第3号証及び甲第4号証に基づく進歩性欠如
(1)主引例である甲第3号証(特開2015-134914号公報)には、請求項6に係るフレキソ印刷物の製造方法の発明(以下「甲3発明」という。)及び甲3発明で製造されたフレキソ印刷物の発明(以下「甲3発明2」という。)が記載されていると認められる。
(2)本件特許発明1~3のいずれかと甲3発明を対比すると、前者は、「カラー」「インクジェット」「印刷段ボールシートの製造方法」であるのに対し、後者は、「フレキソ印刷物の製造方法」である点において相違する。
また、本件特許発明4と甲3発明2を対比すると、前者は、「カラー」「インクジェット」「印刷段ボールシート」であるのに対し、後者は、フレキソ印刷物である点において相違する。
そして、甲3発明及び甲3発明2は、いずれもフレキソ印刷することが前提であるから、甲3発明及び甲3発明2のいずれにおいても、印刷方式をフレキソ印刷以外の方式(例えば、インクジェット印刷)にする動機付けはないと認められる。そうすると、甲3発明又は甲3発明2に、甲第4号証(特開2018-51872号公報)に記載された技術的事項を適用することは、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。
(3)したがって、申立理由5は採用できない。
3 申立理由6:サポート要件違反
(1)84~85頁(ア)、85~86頁(イ)及び87~88頁(エ)について
ア 本件特許明細書の【0008】等の記載から、本件特許発明1~4が解決しようとする課題は、「インクジェット印刷適性、塗膜耐性、及び、隠蔽性に優れたカラー印刷段ボールシートを得ることができるカラー印刷段ボールシートの製造方法を提供すること」であると認められる。
イ 本件特許発明1~4は上記アの課題を解決するものであるから、本件特許発明1~4の「プレコート剤」に含まれる「白色顔料」、「アルカリ土類金属塩」及び「水性樹脂」について、上記アの課題を解決することができないような態様のものは、本件特許発明1~4に含まれていないといえる。
そうすると、本件特許発明1~4は、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が上記アの課題を解決できると認識できる範囲のものであって、発明の詳細な説明に記載された発明である。
(2)86~87頁(ウ)について
本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載の【0045】の「上記インクジェット印刷の方法としては、特に限定されず、公知のインクを用いて、公知の印刷機により印刷する方法を適宜用いることができる」という記載からみて、当業者は、インクジェット用のインキの成分を特に規定しなくても、上記(1)アの課題を解決することができると認識できるといえる。
そうすると、本件特許発明1~4は、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が上記(1)アの課題を解決できると認識できる範囲のものであって、発明の詳細な説明に記載された発明である。
(3) したがって、申立理由6は採用できない。
4 申立理由7:明確性要件違反
本件特許発明1~3において、インクジェット印刷で印刷するものが限定されていなくても、本件特許発明1~3は明確である。
したがって、申立理由7は採用できない。
第8 むすび
請求項1~4に係る特許は、いずれも、取消理由通知書によって通知した取消しの理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては取り消すことはできない。また、他に請求項1~4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700422