特許異議申立
2016-700665
水蒸気バリアーフィルムの製造方法、水蒸気バリアーフィルム及び電子機器
- 審判番号
- 2016-700665
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2012-056648外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2016年08月02日
- 審決日
- 2017年01月30日
- 公報発行日
- 2017年05月26日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】コニカミノルタ株式会社
- 【権利者代理人】特許業務法人光陽国際特許事務所
- 【異議申立人】特許業務法人 プロテック
- 分類
- P1651.113-YAA(B32B) / P1651.121-YAA(B32B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第5849790号発明「水蒸気バリアーフィルムの製造方法、水蒸気バリアーフィルム及び電子機器」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第5849790号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、2、5〕、〔3、4〕について訂正することを認める。
特許第5849790号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第5849790号の請求項1ないし5に係る特許についての出願は、平成24年3月14日に特許出願され、平成27年12月11日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、特許異議申立人特許業務法人プロテック(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、平成28年9月28日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成28年11月29日に意見書の提出及び訂正の請求があった。そして、当審は、特許法第120条の5第5項に規定される意見書提出する機会を与えたが、その指定期間内に、申立人から意見書は提出されなかった。
第2 訂正の適否についての判断
1. 訂正の内容
上記平成28年11月29日の訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。また、本件訂正請求に係る訂正を、単に「本件訂正」という。)に係る内容は、以下のとおりである。
(1)訂正事項1
本件特許の特許請求の範囲の請求項1に、「前記保護層及びその保護層で覆われていない前記水蒸気バリアー層を被覆する第2の水蒸気バリアー層が積層されていることを特徴とする」とあるのを、「前記保護層及びその保護層で覆われていない前記水蒸気バリアー層を被覆する第2の水蒸気バリアー層が積層されており、60℃,90%RHにおける透過水分量が1×10-2g/m2/day未満であることを特徴とする」と訂正する。
(2)訂正事項2
本件特許の特許請求の範囲の請求項3に、「基材上に、少なくともポリシラザンを含有する塗布液を塗布して乾燥した後に所定の改質処理を施して水蒸気バリアー層を形成し、」とあるのを、「60℃,90%RHにおける透過水分量が1×10-2g/m2/day未満である水蒸気バリアーフィルムの製造方法であって、基材上に、少なくともポリシラザンを含有する塗布液を塗布して乾燥した後に所定の改質処理を施して水蒸気バリアー層を形成し、」と訂正する。
(3)訂正事項3
本件特許明細書の段落【0009】に、「前記保護層及びその保護層で覆われていない前記水蒸気バリアー層を被覆する第2の水蒸気バリアー層が積層されていることを特徴とする。」とあるのを、「前記保護層及びその保護層で覆われていない前記水蒸気バリアー層を被覆する第2の水蒸気バリアー層が積層されており、60℃,90%RHにおける透過水分量が1×10-2g/m2/day未満であることを特徴とする。」と訂正する。
(4)訂正事項4
本件特許明細書の段落【0015】に、「請求項3に記載の発明は、水蒸気バリアーフィルムの製造方法であって、」とあるのを、「請求項3に記載の発明は、60℃,90%RHにおける透過水分量が1×10-2g/m2/day未満である水蒸気バリアーフィルムの製造方法であって、」と訂正する。
2. 訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、本件特許の特許請求の範囲の請求項1の「水蒸気バリアーフィルム」が、「60℃,90%RHにおける透過水分量が1×10-2g/m2/day未満である」であるとの構成を付加するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
本件特許明細書の段落【0103】の、「・・・得られた試料(評価用セル)を試料1~12は40℃,90%RH、試料13~24は60℃,90%RHの高温高湿下で保存し、特開2005-283561号公報に記載の方法に基づき、金属カルシウムの腐食量からセル内に透過した水分量を計算した。・・・」との記載、及び「こうして測定された各試料の透過水分量を下記の5段階に分類し、バリアー性を評価した。
5:水分量が1×10-4g/m2/day未満
4:水分量が1×10-4g/m2/day以上、1×10-3g/m2/day未満
3:水分量が1×10-3g/m2/day以上、1×10-2g/m2/day未満
2:水分量が1×10-2g/m2/day以上、1×10-1g/m2/day未満
1:水分量が1×10-1g/m2/day以上・・・」との記載、並びに、段落【0109】の【表2】では、「本発明」の「水蒸気バリアー性の評価結果(WVTR)」が「3」以上であることから、本件特許明細書には、「60℃,90%RHにおける透過水分量が1×10-2g/m2/day未満である」「水蒸気バリアーフィルム」の発明が記載されているといえる。
したがって、訂正事項1は、本件特許の明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであり、特許請求の範囲の拡張・変更をするものではないことは明らかである。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は、訂正事項1と同様に、「水蒸気バリアーフィルム」が、「60℃,90%RHにおける透過水分量が1×10-2g/m2/day未満である」との構成を付加するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。上記(1)に示したのと同様に、本件特許の明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであり、特許請求の範囲の拡張・変更をするものではないことは明らかである。
(3)訂正事項3及び4について
訂正事項3及び4は、それぞれ訂正事項1及び2により訂正された請求項1及び3の記載と整合させるために、本件特許明細書の記載を訂正するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。そして、上記(1)に示したのと同様に、本件特許の明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであり、特許請求の範囲の拡張・変更をするものではないことは明らかである。
(4)一群の請求項
本件訂正は、すべての請求項、すなわち、請求項1と請求項1を引用する請求項2及び5と、請求項3と請求項3を引用する請求項4を対象とするものであるから、一群の請求項を対象とするものである。
3. 小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、本件訂正後の請求項〔1、2、5〕及び〔3、4〕について訂正を認める。
第3 特許異議の申立てについて
1. 本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1ないし5に係る発明(以下、「本件発明1」等という。)は、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし5にそれぞれ記載された次の事項により特定されるとおりのものであると認める。
「【請求項1】
基材上に水蒸気バリアー層と保護層が積層された水蒸気バリアーフィルムであって、
当該水蒸気バリアーフィルムの周縁部の少なくとも一部に、前記水蒸気バリアー層上に前記保護層が設けられていない領域を有し、
前記保護層及びその保護層で覆われていない前記水蒸気バリアー層を被覆する第2の水蒸気バリアー層が積層されており、
60℃,90%RHにおける透過水分量が1×10-2g/m2/day未満であることを特徴とする水蒸気バリアーフィルム。
【請求項2】
前記水蒸気バリアー層上に前記保護層が設けられていない領域は、当該水蒸気バリアーフィルムの周縁部の全体に亘って設けられていることを特徴とする請求項1に記載の水蒸気バリアーフィルム。
【請求項3】
60℃,90%RHにおける透過水分量が1×10-2g/m2/day未満である水蒸気バリアーフィルムの製造方法であって、
基材上に、少なくともポリシラザンを含有する塗布液を塗布して乾燥した後に所定の改質処理を施して水蒸気バリアー層を形成し、次いで前記水蒸気バリアー層上に、Si、Ti、Zrの少なくとも1つを含む金属化合物を含有する塗布液を、その水蒸気バリアー層の周縁部の少なくとも一部に塗膜が形成されない領域が残るように塗布して乾燥した後に、前記塗膜が形成されていない領域を含めた全面に所定の改質処理を施して保護層を形成し、
前記保護層上およびその保護層で覆われていない前記水蒸気バリアー層上に、少なくともポリシラザンを含有する塗布液を塗布して乾燥した後に所定の改質処理を施して、第2の水蒸気バリアー層を形成することを特徴とする水蒸気バリアーフィルムの製造方法。
【請求項4】
前記改質処理は、加熱処理または紫外線照射処理であることを特徴とする請求項3に記載の水蒸気バリアーフィルムの製造方法。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の水蒸気バリアーフィルムと、前記水蒸気バリアーフィルムによって封止された電子デバイスを備えることを特徴とする電子機器。」
2. 取消理由の概要
本件訂正前の請求項1ないし5に係る特許に対して、上記平成28年9月28日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、以下のとおりである。
(なお、甲第○号証を、以下「甲○」という。甲第○号証に記載された発明を、以下、それぞれ「甲○発明」という。)
理由1. 本件特許の下記の本件発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
理由2. 本件特許の下記の本件発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
< 刊 行 物 等 一 覧>
甲第1号証:特開2005-195749号公報
甲第2号証:特開2009-255040号公報
甲第3号証:特許4506365号公報
1. 本件発明1、2及び5について
(1) 本件発明1、2及び5の各々と甲1発明との間に相違点はないから、本件発明1、2及び5は、理由1により、その特許を取り消すべきである。
(2) 本件発明1、2及び5の各々は、理由2により、甲1発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるから、その特許を取り消すべきである。
2. 本件発明3及び4について
(1) 本件発明3及び4の各々は、理由2により、甲1発明並びに甲2及び3に例示される従来周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許を取り消すべきである。
3. 刊行物の記載及び刊行物記載発明
(1)甲1
甲1には、段落【0001】、【0012】、【0013】、【0023】、【0041】、【0080】ないし【0082】、【0095】、【0104】、【0158】、【0188】、【0192】、【0193】、【0220】、【0245】、【0246】、及び、【0251】の記載があり、これらの記載から、甲1には、以下の甲1発明が記載されていると認める。
「基材1上に第1バリア層2と中間層3が積層された電子表示媒体用ガスバリア膜10であって、電子表示媒体用ガスバリア膜10の周縁部9の少なくとも一部に、前記第1バリア層2に前記中間層3が設けられていない領域を有し、前記中間層3及びその中間層3で覆われていない前記第1バリア層2を被覆する第2バリア層4が積層されていることを特徴とする電子表示媒体用ガスバリア膜。」
4. 対比・判断
(1)本件発明1、2及び5における理由1について
本件発明1と甲1発明とを対比すると、少なくとも以下の2点で相違する。
<相違点1>
本件発明1は「保護層」を、「水蒸気バリアー層」と「第2の水蒸気バリアー層」との間で積層するのに対し、甲1発明は、「中間層」を、「第1バリア層2」と「第2バリア層4」との間で積層する点。
<相違点2>
本件発明1は、水蒸気バリアーフィルム全体における「60℃,90%RHにおける透過水分量が1×10-2g/m2/day未満」であるのに対し、甲1発明は、「前記第1バリア層2に前記中間層3が設けられていない領域」、ひいては電子表示媒体用ガスバリア膜全体におけるの透過水分量が不明である点。
ア. 相違点1について
本件発明1の「保護層」は、「水蒸気バリアー層上に設けられており、折り曲げ時の応力に対して強度を付与したり、接触による傷などから水蒸気バリアー層を保護したりするための層」(本件特許明細書の段落【0022】)であるのに対し、甲1発明の「中間層3」は、「第1バリア層にピンホールが存在する場合でも、第1バリア層上に中間層を形成することによりこのピンホールが埋められ、さらにその中間層上に第2バリア層を形成することにより、第1バリア層から第2バリア層表面まで貫通するピンホールの発生を抑制することができ、酸素や水蒸気等の侵入を妨げることが可能となる。」(甲1、段落【0041】)ものである。そうすると、本件発明1の「保護層」は、甲1発明の「中間層3」と実質的に相違するものである。
イ. 相違点2について
本件発明1が上記相違点2を備えることで、本件発明1は、保護層の側部からの水蒸気の侵入を妨げるとともに、水蒸気バリアーフィルムに対して鉛直方向についての水蒸気の侵入を可及的に防ぐことができる、との効果を奏するものである。
一方、甲1発明についてみると、「電子表示媒体用ガスバリア膜10の周縁部9の少なくとも一部に、前記第1バリア層2に前記中間層3が設けられていない領域(非バリア領域)」を設ける理由は、電子表示媒体用ガスバリア膜において発生するガスまたは水蒸気や酸素は、非バリア性領域から放出されるから、内部にガス等が溜まることがなく、中間層等の破損を回避するためである(甲1、段落【0013】)。そうすると、甲1発明は、「非バリア領域」において、内部で発生したガス等を放出させるものであるから、「電子表示媒体用ガスバリア膜10」全体の透過水分量については、一定程度確保しなければならないものと解される。そうすると、上記相違点2の「「60℃,90%RHにおける透過水分量が1×10-2g/m2/day未満」のような、下限値を設けない、すなわち透過水分量が少なくてよく、全く無くてもよい数値限定についての相違点は、形式的な相違点ではなく、実質的なものであるといえる。
上記ア.及びイ.より本件発明1は、甲1発明と同一であるということはできない。
また、本件発明2及び5は、本件発明1の特定事項の全てを含み、さらに限定するものであるから、本件発明2及び5も、甲1発明と同一であるということはできない。
(2)本件発明1、2及び5における理由2について
本件発明1と甲1発明とは、上記(1)の相違点1及び2において相違する。そこで検討する。
ア. 相違点1について
上記(1)に示したように、甲1発明の「中間層3」は、「第1バリア層」のピンホールを埋めることにより酸素や水蒸気等の侵入を防ぐためのものであるから、当該「中間層3」を、本件発明1の「保護層」を置換することは、甲1発明の「第1バリア層」のピンホールが埋められず、よって酸素や水蒸気等の侵入を防げないこととなるから、当該置換には阻害事由があるといえる。
よって、甲1発明において、相違点1に係る構成を備えるようにすることは、当業者が容易になし得た事項であるということはできない。
イ. 相違点2について
上記(1)のイ.に示したように、甲1発明は、甲1発明は、「非バリア領域」において、内部で発生したガス等を放出させるものであるから、「電子表示媒体用ガスバリア膜10」全体の透過水分量については、一定程度確保しなければならないものであるといえる。すると、上記相違点2に係る「60℃,90%RHにおける透過水分量が1×10-2g/m2/day未満」と、下限値を設けないような数値範囲とすることに対して、阻害事由が甲1発明にはあるといえる。
そうすると、甲1発明において、相違点2に係る構成を備えるようにすることは、当業者が容易になし得た事項であるということはできない。
上記ア.及びイ.より本件発明1は、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるということはできない。
また、本件発明2及び5は、本件発明1の特定事項の全てを含み、さらに限定するものであるから、本件発明2及び5も、甲1発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
(3)本件発明3及び4における理由2について
本件訂正後の本件発明3及び4は、甲1発明と、少なくとも、上記相違点2において相違する。上記(2)イ.に示したように、甲1発明において、相違点2に係る構成を備えるようにすることは、当業者が容易になし得た事項であるということができないから、本件発明3及び4は、甲1発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
第4 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1ないし5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1ないし5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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