特許異議申立
2016-700379
固体酸化物電気化学セル
- 審判番号
- 2016-700379
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2012-068784外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2016年04月27日
- 審決日
- 2017年03月31日
- 公報発行日
- 2017年06月30日
- 結論
- 訂正認容
- 分類
- P1651.113-YAA(H01M) / P1651.121-YAA(H01M)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項第1号、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第5802589号発明「固体酸化物電気化学セル」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第5802589号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1-5〕について訂正することを認める。
特許第5802589号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
[1]手続の経緯
特許第5802589号の請求項1ないし5に係る特許についての出願は、平成24年3月26日に出願され、平成27年9月4日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、特許異議申立人松村朋子により特許異議の申立てがされ、当審において、平成28年10月14日付けで取消理由を通知し、同年12月19日付けで意見書の提出及び訂正の請求がなされたものであり、この訂正の請求について、異議申立人に意見を求めたところ、異議申立人からは、意見書の提出はなされなかったものである。
[2]平成28年12月19日付けの訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)の適否について
1.訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は以下のとおりである。
ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1の「前記電解質層中の酸素極側表面から水素極方向に向かって電解質層の深さ50%以下までの多孔質な領域、又は前記電解質層と酸素極との間に層状の多孔質な領域が存在し、」とあるうちの「、又は前記電解質層と酸素極との間に層状の多孔質な領域」を削除して、「前記電解質層中の酸素極側表面から水素極方向に向かって電解質層の深さ50%以下までの多孔質な領域が存在し、」に訂正する。
イ 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1の「前記層状の多孔質な領域は、Sm2O3、Gd2O3とY2O3からなる群から選ばれる1種以上の酸化物をCeO2にドープしたドープセリアのみからなり、」を削除する訂正をする。
ウ 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1に「前記電解質層中の酸素極側表面から水素極方向に向かって電解質層の深さ50%~100%の領域は緻密で気孔率は10%以下である」を追加する訂正をする。
エ 訂正事項4
明細書段落【0006】の記載において「電解質層中の酸素極側表面から水素極方向に向かって電解質層の深さ50%以下までの多孔質な領域、又は電解質層と酸素極との間に層状の多孔質な領域が存在し、」とあるうちの「、又は電解質層と酸素極との間に層状の多孔質な領域」を削除し、「層状の多孔質な領域は、Sm2O3、Gd2O3とY2O3からなる群から選ばれる1種以上の酸化物をCeO2にドープしたドープセリアのみからなり、」を削除し、「電解質層中の酸素極側表面から水素極方向に向かって電解質層の深さ50%~100%の領域は緻密で気孔率は10%以下である」を追加する訂正をする。
2 訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
・訂正事項1について
訂正事項1による訂正は、訂正前に特定されていた2つの多孔質な領域のうち、「前記電解質層と酸素極との間に層状の多孔質な領域」を削除するものであり、択一的記載の要素の削除に該当する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項1による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲、又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
そして、訂正事項1による訂正は、実質上、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
・訂正事項2について
訂正事項1による訂正により、訂正前に特定されていた2つの多孔質な領域のうち、「前記電解質層と酸素極との間に層状の多孔質な領域」を削除するに伴い、層状の多孔質な領域についての「前記層状の多孔質な領域は、Sm2O3、Gd2O3とY2O3からなる群から選ばれる1種以上の酸化物をCeO2にドープしたドープセリアのみからなり、」との記載を削除するものであり、同様に、択一的記載の要素の削除に該当する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項2による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲、又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
そして、訂正事項2による訂正は、実質上、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
・訂正事項3について
訂正前の請求項1においては、「電解質層中の酸素極側表面から水素極方向に向かって電解質層の深さ50%以下までの多孔質な領域」と規定され、電解質層の深さ50%~100%の領域が多孔質であるのか緻密であるのか明らかではなかったが、訂正後の請求項1では、「前記電解質層中の酸素極側表面から水素極方向に向かって電解質層の深さ50%~100%の領域は緻密で気孔率は10%以下である」を追加することにより、電解質層の深さ50%~100%の領域が緻密であることを明らかにするものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
また、この訂正事項3による訂正は、願書に添付した明細書の段落【0011】の記載に基づくものであって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲、又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
そして、訂正事項3による訂正は、実質上、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
・訂正事項4について
訂正事項4による訂正は、明細書の段落【0006】の記載を、上記訂正事項1~3の内容に適合させる記載に訂正するものであり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
また、訂正事項4による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲、又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
そして、訂正事項4による訂正は、実質上、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
そして、本件訂正前の請求項2ないし5は、訂正前の請求項1を引用するものであるから、本件訂正後の請求項1ないし5は、一群の請求項である。
また、請求項1ないし5の一群の請求項に対して異議申立てがされたので、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第7項の規定は適用されない。
3 まとめ
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、第9項において準用する同法第126条第4項ないし第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項1ないし5についての訂正を認める。
[3]特許異議の申立てについて
1 本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1ないし5に係る発明(以下、それぞれ、「本件発明1」・・・「本件発明5」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】
水素極と、
酸素極と、
前記水素極と前記酸素極との間に介挿される電解質層と、を備え、
前記電解質層中の酸素極側表面から水素極方向に向かって電解質層の深さ50%以下までの多孔質な領域が存在し、
前記電解質層は、「Y2O3,Sc2O3,Yb2O3,Gd2O3,Nd2O3,Al2O3,CaO,MgO,CeO2からなる群から選ばれる1種以上の酸化物を安定化材として用いた安定化ジルコニア」、「αがLa,Srより選ばれる少なくとも一種であり、βがGa,Mg,CoもしくはFeより選ばれる少なくとも一種であるαβO3ペロブスカイト型酸化物」と「Sm2O3、Gd2O3、Y2O3とLa2O3からなる群から選ばれる1種以上の酸化物をCeO2にドープしたドープセリア」のいずれかのみからなり、
前記酸素極は、ABO3で表されるペロブスカイト型酸化物を含み、ペロブスカイト構造のAが希土類元素,Ca,SrもしくはBaより選ばれる少なくとも一種であり、BがCr,Mn,Fe,CoもしくはNiより選ばれる少なくとも一種であり、
前記多孔質な領域の気孔は、多孔質な領域を貫通せず、
前記多孔質な領域の気孔径分布の最大ピークは、0.01μm以上1μm以下の範囲に存在し、
前記電解質層中の酸素極側表面から水素極方向に向かって電解質層の深さ50%~100%の領域は緻密で気孔率は10%以下であることを特徴とする固体酸化物型電気化学セル。
【請求項2】
前記多孔質な領域の気孔率は、10%以上50%以下であることを特徴とする請求項1に記載の固体酸化物型電気化学セル。
【請求項3】
前記多孔質な領域の厚さは、1μm以上50μm以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の固体酸化物型電気化学セル。
【請求項4】
前記電解質層中の酸素極側表面から水素極方向に向かって電解質層の深さ50%以下までの多孔質な領域と前記電解質層は、Sm2O3、Gd2O3とY2O3からなる群から選ばれる1種以上の酸化物をCeO2にドープしたドープセリアであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の固体酸化物型電気化学セル。
【請求項5】
前記酸素極は、Sm2O3、Gd2O3とY2O3からなる群から選ばれる1種以上の酸化物をCeO2にドープしたドープセリアを含むことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の固体酸化物型電気化学セル。」
2 取消理由の概要
訂正前の請求項1ないし5に係る特許に対して平成28年10月14日付けで特許権者に通知した取消理由は、次のとおりである(なお、取消理由は、特許異議の申立の理由を全て採用している。)。
「ア 本件特許の請求項1-3に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の甲第1、2、3号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は取り消すべきものである。
イ 本件特許の請求項1-5に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の甲第1-7号証に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は取り消すべきものである。
上記理由1、2については、特許異議申立書の10頁下から5行~30頁12行を参照のこと。
なお、本件請求項1には、「水素極と、酸素極と、 前記水素極と前記酸素極との間に介挿される電解質層と、を備え、 前記電解質層中の酸素極側表面から水素極方向に向かって電解質層の深さ50%以下までの多孔質な領域、又は前記電解質層と酸素極との間に層状の多孔質な領域が存在し、
・・・固体酸化物型電気化学セル。」と記載されているが、本件請求項1に係る「固体酸化物型電気化学セル」は、 「水素極」、「酸素極」、「前記水素極と前記酸素極との間に介挿される電解質層」、「層状の多孔質な領域」 以外のものを構成要素として含むのか明らかでないため、刊行物3に記載されるものとの相違が明らかでない。
また、「前記電解質層中の酸素極側表面から水素極方向に向かって電解質層の深さ50%以下までの多孔質な領域」とあるが、電解質層の50%~100%の領域は、多孔質なのかどうかも明らかでない。
甲第1号証:Tuong Lan Nguyen et al.,「Fabrication and Characterization of Anode-Supported Tubular SOFCs withZirconia-Based Electrolyte for Reduced Temperature Operation」,Journal of The Electrochemical Society,151(8)A1230-A1235(2004)、写し及び訳文
甲第2号証:Marek Skrzypkiewicz,「SETUP OF A TEST BENCH AND TESTING THE SINGLE SOLID OXIDE FUEL CELL AT VARIOUS TEMPERATURES」,A MASTER’s thesisdone at RES | the School for Renewable Energy Science in affiliationwith University of Iceland & the University of Akureyri, February 2009、写し及び訳文
甲第3号証:特開2012-23018号公報
甲第4号証:特開2011-113840号公報
甲第5号証:特開2003-173801号公報
甲第6号証:特開2009-259746号公報
甲第7号証:特開2006-236844号公報
甲第8号証:甲第1号証の図3(f)及び図4(b)並びに甲第2号証の図4.2.2の画像解析結果」
3 甲各号証の記載事項
(1)甲第1号証
(1a)「An anode-supported tubular solid oxide fuel cell(SOFC) with a thin electrolyte film for reduced temperature operation was fabricated by a wet cofire process. Instead of the traditional extrusion method, the anode substrate was formed by a tape-cast method. This allows design the substrate with some advantageous configurations that can improve the performance of SOFCs.Sc2O3 and Y2O3-stabilized zirconia electrolyte films were fabricated on the substrate by a modified slurry dip-coating method and then cofired. In order to use(La0.6Sr0.4)CoO3 cathode, a thin (CeO2)0.9(GdO1.5)0.1 interlayer was also fabricated by the slurry dip-coating method.」 (A1230 第1~6行)
(当審訳:「低温作動用の電解質薄膜を有するアノード支持型筒状固体酸化物型燃料電池(SOFC)を湿式共焼成法によって作成した。従来の押し出し法に代えて、テープ成形法によりアノード基体を作成した。これにより、SOFCの性能を改善可能な有利な構成を有する基体を設計できる。この基体上に、改良したスラリー浸漬被覆法によってSc2O3安定化ジルコニア電解質膜およびY2O3安定化ジルコニア電解質膜を作成し、共焼成した。
また、(La0.6Sr0.4)CoO3 カソードを用いるために、(CeO2)0.9(GdO1.5)0.1 中間薄層をスラリー浸漬被覆法によって作成した。」)
(1b)「Results and Discussion
Fabrication of NiO-3YSZ supported
tubular SOFC -In this study,instead of the traditional extrusion method ,tubular anode substrates were manufactured by tape-casting.・・・
Cotton gauze and other organic ingredients were burned out and removed during the calcinations to obtain a NiO-3YSZ green tubular substrate.」 (A1231 右欄)
(「結果および考察
NiO-3YSZ支持型筒状SOFCの作製-この研究では、従来の押し出し法に代えて、テープ成形により筒状のアノード基体を製造した。・・・綿ガーゼおよび他の有機成分は、グリーン筒状NiO-3YSZ基体を得るためのか焼時に燃焼して除去された。])
(1c)「SEM observations of cofired tubular NiO-3YSZ/10SSZ/GDC/LSC and NiO-3YSZ/3YSZ/GDC/LSC cells are shown in Fig.3.」(A1232 左欄 )
(「共焼成した筒状のNiO-3YSZ /10SSZ/GDC/LSC型電池及びNiO-3YSZ/3YSZ/GDC/LSC型電池のSEM観察結果を図3に示す。」)
(1d)「
」(A1232 右欄)
(「図3.共焼成アノード支持型筒状SOFCのSEM観察結果:(a)SSZ膜の表面、(b)3YSZ膜の表面、(c)10SSZ電解質電池の断面、(d)3YSZ電解質電池の断面、(e)1200℃で焼成したGDC中間層の表面、および(f)高倍率で観察した10SSZ電解質膜とGDC中間層の断面。」)
(1e)「This is different in the case of double layers of electrolyte and GDC cofired on the NiO-3YSZ substrate.In that case,as shown in Fig.4, despite that close pores remained inside, a dense GDC interlayer was also obtained.」(A1232 右欄第7~10行)
(「これは、電解質とGDCの二重層をNiO-3YSZ基体上で共焼成した場合と異なる。その場合には、図4に示すように、閉じた細孔が内部に残存したものの、緻密なGDC中間層が得られた。」)
(1f)「
」(A1232 右欄)
(「図4.NiO-3YSZ基体上で1300℃で共焼成した10SSZ-
GDC二重層のSEM観察結果:(a)GDC表面および(b)共焼成した10SSZ/GDC二重層の断面。」)
(1g)図3(f)、図4(b)の断面画像から、GDC中間層が緻密なSSZ電解質層に比して多孔質であり、該GDC中間層の気孔がGDC中間層を貫通していないことが確認される。
上記(1a)-(1g)によれば、甲第1号証には、以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「アノード基体と、
カソードと、
アノード基体とカソードとの間に介挿される緻密な電解質膜と、を備え、
電解質膜とカソードとの間に層状の多孔質な領域である中間層が存在し、
前記電解質膜は、10mol%Sc2O3安定化ジルコニア(10SSZ)からなり、
前記層状の多孔質な領域である前記中間層は、(CeO2)0.9(GdO1.5)0.1(GDC)からなり、
前記カソードは、(La0.6Sr0.4)CoO3(LSC)であり、
前記多孔質な領域である前記GDCからなる中間層の気孔は、多孔質な領域であるGDC中間層を貫通しない、
固体酸化物型燃料電池。」
(2)甲第2号証
(2a)「4.2 Main components list and
components description
4.2.1 The tested Solid Oxide Fuel Cell
・・・
The lab was provided with basic data about the cell - materials and thicknesses of particular cell layers, typical geometrical qualification and a short notice about its features.
Table 4.2.1 shows the basic cell layers description.
」(p.28-29)
(「4.2 主要構成要素一覧および構成要素の詳細
4.2.1 試験した固体酸化物型燃料電池
・・・
本研究所には、このセルに関して、セルの特定の層の材料と厚さ、代表的な幾何学的条件、およびその特徴についての簡単な注記といった基本的なデータが備わっている。表4.2.1は、セルの基本的な層の明細を示している。
」)
(2b)「
」(p.29)
(「図4.2.2 セル断面のSEM顕微鏡写真(左からカソード、遮断層、電解質、アノード、アノード支持体)。出典:InDEC B.V. ASC2フォルダ。」)
(2c)図4.2.2のSEM顕微鏡写真によれば、遮断層は緻密な電解質層に比して多孔質であり、該遮断層の気孔が遮断層を貫通していないことが確認される。
上記事項(2a)-(2c)によれば、甲第2号証には、以下の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されているといえる。
「アノードと、
カソードと、
前記アノードと前記カソードとの間に介挿される緻密な電解質層と、を備え、
電解質層とカソードとの間に層状の多孔質な領域である、遮断層が存在し、
前記電解質層は、8mol%Y2O3ドープZrO2(8YSZ)からなり、
前記層状の多孔質な領域である前記遮断層は、イットリアドープセリア(YDC)からなり、
前記カソードは、LSCF(ランタン・ストロンチウム・コバルトフェライト酸化物)であり、
前記多孔質な領域である前記遮断層の気孔は、多孔質な領域である遮断層を貫通しない、
固体酸化物型燃料電池。」
(3)甲第3号証
(3a)「【請求項1】
燃料極と、
空気極と、
ジルコニウムを含み、前記燃料層と前記空気極との間に設けられた固体電解質層と、
セリウムを含み、気孔を有し、前記固体電解質層と前記空気極との間に設けられたバリア層と、
ジルコニウム及びセリウムを含み、前記バリア層と前記固体電解質層との間に配置された緩衝層と、
を備え、
前記バリア層は、前記緩衝層側に設けられ、気孔率P1を有する第1のバリア層と、前記第1のバリア層と前記空気極との間に配置され、気孔率P2を有する第2のバリア層とを備え、
前記第1のバリア層の気孔率P1は、第2のバリア層の気孔率P2よりも高い、
燃料電池セル。」
(3b)「【0016】
1-4.バリア層
バリア層13は、セリウムを含む。バリア層は、セリウムをセリア(酸化セリウム)として含んでもよい。具体的には、バリア層13の材料として、セリア及びセリアに固溶した希土類金属酸化物を含むセリア系材料が挙げられる。」
(3c)「【0021】
第1のバリア層131は、複数の気孔13cを有する。気孔13cの形状は特に限定されないが、気孔13cの断面は略楕円(円を含む)であってもよい。気孔13cの好ましくはR≦1μmを満たし、長径Rは好ましくは0.05μm≦Rを満たす。」
(3d)「【0022】
また、気孔13cの少なくとも一部は、閉気孔(closed pore)であってもよい。また、第1のバリア層131に含まれる気孔13cの全てが閉気孔であってもよい。閉気孔は、その全体がセル1内(つまり第1のバリア層131内)に存在しており、閉気孔の内部はセル1の外気から遮断されている。閉気孔が第1のバリア層131内に存在することで、第1のバリア層131は、歪を緩和する高い効果、つまり熱応力緩和の高い効果を示すことができる。また、閉気孔が存在することで、たとえバリア層13に亀裂(クラック)が発生したとしても、その伸長が抑制される。
なお、第2バリア層132が気孔を含んでおり、その気孔の少なくとも一部が、閉気孔であってもよい。」
(3e)「【0033】
1-5.空気極
空気極14の材料としては、例えば、公知の燃料電池セルの空気極の材料が用いられる。空気極14の材料として、より具体的には、LSCF(ランタンストロンチウムコバルトフェライト:(LaSr)(CoFe)O3)が挙げられる。LSCFの組成としては、例えばLa0.6Sr0.4Co0.2Fe0.8O3が挙げられる。空気極14は、このような材料を主成分として含むことができる。空気極14の厚みは、5μm~50μm程度であってもよい。」
(3f)「【0034】
1-6.電解質層
電解質層15は、固体電解質層の一例であって、ジルコニウムを含む。電解質層15は、ジルコニウムをジルコニア(ZrO2)として含んでもよい。具体的には、電解質層15は、ジルコニアを主成分として含むことができる。また、電解質層15は、ジルコニアの他に、Y2O3及び/又はSc2O3等の添加剤を含むことができる。これらの添加剤は、安定剤として機能することができる。電解質層15において、安定化剤:ジルコニアとのmol組成比は、3:97~20:80であってもよい。すなわち、電解質層15の材料として、3YSZ、8YSZ及び10YSZ等のイットリア安定化ジルコニア;並びにScSZ(スカンジア安定化ジルコニア);等のジルコニア系材料が挙げられる。」
(3g)「【0037】
1-7.緩衝層
<組成>
緩衝層16は、ジルコニウムとセリウムとを含む。ジルコニウムはジルコニアとして、セリウムはセリアとして、緩衝層16に含まれていてもよい。緩衝層16においてセリウム(又はセリア)とジルコニウム(又はジルコニア)とは混合されており、緩衝層16は好ましくはセリアとジルコニアとの固溶体である。なお、緩衝層16は、セリウム及びジルコニウム以外の物質を含んでいてもよい。緩衝層16は例えば、バリア層13又は電解質層15に含まれる物質(添加剤等)を含んでいてもよい。電解質層15がイットリウム(Y)を含む場合、緩衝層16もイットリウムを含み得る。また、バリア層13がガドリニウム(Gd)を含む場合、緩衝層16もガドリニウムを含み得る。
緩衝層16によって、バリア層13と電解質層15との間の接着強度が高められ、剥離が抑制される。
また、バリア層13、電解質層15及び緩衝層16は、共焼成されていてもよい。」
(3h)「【実施例】
【0094】
A.セル試料の作製
酸化ニッケル(NiO)、ジルコニア系材料(8YSZ)、及び造孔剤(PMMA)からなるセラミックグリーンシート(厚み100μm)を、300μmとなるように積層し、熱圧着(60℃、3MPa)した。
【0095】
こうして得られた成形体に、別途作製された3YSZからなるセラミックグリーンシートと、GDCからなるセラミックグリーンシートとを順次積層し、熱圧着した。こうして、燃料極、ジルコニア系材料層、セリア系材料層がこの順に積層された積層体を得た。
得られた積層体を、1150~1450℃で1~20時間、共焼成した。
【0096】
その後、セリア系材料層(バリア層)上に、空気極としてLSCF膜(30μm)を付与して、1000~1150℃で2時間、焼成した。
以上の操作により、1個のセル試料を作製した。」
(3i)「【0103】
また、バリア層13には、複数の気孔(図2中に矢印で指し示す)が観察された。バリア層13において、径が比較的大きい気孔は、バリア-緩衝界面17から厚み方向に1.2μm以内の範囲に存在していた。この厚み1.2μmの部分を第1のバリア層131とみなした。
【0104】
20個の視野において、第1のバリア層131含まれる気孔の長径は、0.05μm~1μmであり、その平均値は0.3μmであった。
また、20個の視野において第1のバリア層131に含まれる気孔の数を計測したところ、バリア‐緩衝界面17に平行な方向における10μm長さ当たりの気孔の数の平均値は、4個であった。第1のバリア層131における気孔率は10%であった。
【0105】
第2のバリア層132において、気孔の長径の平均値は0.2μmであり、第1のバリア層131における長径の平均値よりも小さかった。また、第2のバリア層132の気孔率は7%であり、第1のバリア層131よりも低かった。」
(3j)「【図2】
」
(3k)図2によれば、バリア層13に存在する気孔は、開気孔であることが確認される。
上記(3a)-(3k)によれば、甲第3号証には、以下の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されている。
「燃料極と、
空気極と、
前記燃料極と前記空気極との間に介挿される電解質層と、を備え、
前記電解質層と前記空気極との間に、層状の多孔質な領域であるバリア層が存在し、
前記電解質層は、3YSZからなり、
前記層状の多孔質な領域であるバリア層は、GDCからなり、
前記カソードは、LSCF(ランタン・ストロンチウム・コバルトフェライト酸化物:(LaSr)(CoFe)O3)であり、
前記多孔質な領域である前記バリア層の気孔は、閉気孔、すなわち多孔質な領域であるバリア層を貫通しない、
固体酸化物型燃料電池。」
(4)甲第4号証
(4a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性支持体の表面に、インターコネクタを備えるとともに、該インターコネクタに隣接して、燃料極層、固体電解質層、中間層および空気極層がこの順に積層されてなる発電部を備える燃料電池セルであって、
前記中間層の気孔率が40乃至60%であるとともに、該中間層における平均気孔径が1乃至3μmであることを特徴とする燃料電池セル。」
(4b)「【0015】
本発明の燃料電池セルは、燃料電池セルの作製時や燃料電池装置の作動時において、燃料電池セルを構成する各部材の熱膨張差や還元処理に伴う変形により、燃料電池セルの内部に応力が生じた場合においても、中間層の気孔率が40乃至60%であるとともに、中間層における平均気孔径が1乃至3μmである多数の気孔により燃料電池セルの応力を効果的に緩和することができ、中間層と空気極層との剥離を抑制することができる。それにより、長期信頼性の向上した燃料電池セルとすることができる。」
(5)甲第5号証
(5a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 平板状の固体電解質と、該固体電解質の一方の面に設けられた燃料極と、上記固体電解質の他方の面に設けられた空気極と、上記固体電解質と上記燃料極及び上記空気極の少なくとも一方との間に設けられ、気孔率が25%以下のCe1-xLnxO2-δである反応防止層と、を備えることを特徴とする固体電解質型燃料電池。ただし、Lnは希土類元素であり、xの範囲は0.05≦x≦0.3である。」
(5b)「【0008】
【発明の効果】本発明の固体電解質型燃料電池によれば、25%以下の気孔率となる緻密な反応防止層を用いることにより、燃料極及び空気極の少なくとも一方と固体電解質との間の反応を有効に防止し、内部抵抗が小さい固体電解質型燃料電池とすることができる。特に、反応防止層をCe1-xLnxO2-δにより構成することで、イオン導電性が高く、しかも固体電解質と各電極との反応性を低くすることができる。更に、Ga元素を所定割合で含有させることで、緻密化した反応防止層を容易に得ることができる。」
(6)甲第6号証
(6a)「【請求項1】
酸化セリウムを含む酸化物イオン伝導体からなる電解質層と、この電解質層を挟持する燃料極及び空気極とを含む固体酸化物形燃料電池であって、
前記電解質層は、前記燃料極側に配置された緻密性電解質層と、前記空気極側に配置された多孔性電解質層とを含む固体酸化物形燃料電池。
【請求項2】
前記緻密性電解質層の気孔率が、5%以下であり、
前記多孔性電解質層の気孔率が、20~60%である請求項1に記載の固体酸化物形燃料電池。
【請求項3】
前記多孔性電解質層内の気孔の平均孔径が、0.1~3μmである請求項1又は2に記載の固体酸化物形燃料電池。
【請求項4】
前記緻密性電解質層の厚みをT1μmとし、前記多孔性電解質層の厚みをT2μmとしたときに、T1/T2の値が1.5~10である請求項1~3のいずれか1項に記載の固体酸化物形燃料電池。」
(6b)「【0022】
電解質層1を構成する酸化物イオン伝導体としては、酸化セリウムを含む限り特に限定されないが、一般式(Ce1-xMx)O2-δ(ただし、Mはアルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素及び希土類元素から選ばれる1つ以上の元素であり、xの範囲は0.05~0.30であり、δの範囲は0.025~0.450である)で表される複合金属酸化物であることが好ましい。当該複合金属酸化物であれば、充分な酸化物イオン伝導性を示すため、電解質抵抗の低減が容易となるからである。」
(6c)「【0023】
上記一般式における元素Mは、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素及び希土類元素から選ばれる1つ以上の元素である限り特に限定されず、例えば、ナトリウム(Na)、カリウム(K)等のアルカリ金属元素、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)等のアルカリ土類金属元素、ランタン(La)、ネオジウム(Nd)、イットリウム(Y)、サマリウム(Sm)、ガドリニウム(Gd)、イットリビウム(Yb)等の希土類元素等の単一の元素であってもよく、サマリウムガドリニウム(SmGd)、イットリウムランタン(YLa)、イットリウムネオジウム(YNd)等の二種以上の元素の組み合わせであってもよい。なかでも、Sm、Gdを使用した場合は、特に酸化物イオン伝導性が高まるため好ましい。」
(7)甲第7号証
(7a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質層の両面に空気極と燃料極が設けられた固体酸化物型燃料電池において、
前記電解質層は、稀土類添加ジルコニア系酸化物から構成され、
前記空気極は、Laからなる第1の金属とFeおよびNiからなる第2の金属とを有するペロブスカイト構造の金属酸化物と、セリア系電解質材料とから構成される
ことを特徴とする固体酸化物型燃料電池。」
(7b)「【0015】
本発明によれば、電解質層を稀土類添加ジルコニアから構成し、空気極がLaからなる第1の金属とFeおよびNiからなる第2の金属とを有するペロブスカイト構造の金属酸化物と、セリア系電解質材料とから構成することにより、通電初期化時間を短縮することが可能となる。」
(7c)「【0020】
空気極3は、Aサイトをランタニド金属が占め、BサイトをFeおよびNiが占めるLaNi0.6Fe0.4O3などのペロブスカイト型構造(ABO3)を有する金属酸化物と、Ce0.8Y0.2O2、Ce0.8Sm0.2O2、Ce0.8Gd0.2O2などの酸化セリウム(セリア)系電解質材料とを含む多孔質から構成される。ここで、ペロブスカイト型構造を有する金属酸化物において、FeとNiの原子比は、Fe:Ni=30:70~60:40である。
」
(8)甲第8号証
(8a)「画像解析対象
(1)甲第1号証(Tuong ・・・)の図3(f)及び図4(b)に示されたSEM画像のGDC中間層部分
(2)甲第2号証(Marek ・・・)の図4.2.2に示されたSEM画像の遮断層部分」(第1頁)
(8b)「
」(第4頁)
(8c)「
」(第5頁)
(8d)「
」(第6頁)
(8e)「
」(第7頁)
(8f)「
」(第8頁)
(8g)「
」(第9頁)
(8h)「
」(第10頁)
(8i)「
」(第11頁)
(8j)「
」(第12頁)
4 対比・判断
(1)甲第1号証を主引用例として
本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明における「アノード基体」、「カソード」、「電解質膜」、「10mol%Sc2O3安定化ジルコニア(10SSZ)」、「(La0.6Sr0.4)CoO3(LSC)」、「固体酸化物型燃料電池」は、それぞれ、本件発明1の「水素極」、「酸素極」、「電解質層」、「Sc2O3を安定化材として用いた安定化ジルコニア」、「ABO3で表されるペロブスカイト型酸化物を含み、ペロブスカイト構造のAが希土類元素,Srであり、BがCoであり」、「固体酸化物型電気化学セル」に相当する。
よって、両者は、「水素極と、
酸素極と、
前記水素極と前記酸素極との間に介挿される電解質層と多孔質な領域、を備え、
前記電解質層は、Sc2O3を安定化材として用いた安定化ジルコニアであり、
前記酸素極は、ABO3で表されるペロブスカイト型酸化物を含み、ペロブスカイト構造のAが希土類元素(La),Srであり、BがCoであり、
前記多孔質な領域の気孔は、多孔質な領域を貫通しない、
固体酸化物型電気化学セル。」である点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点1)
本件発明1では、「前記電解質層中の酸素極側表面から水素極方向に向かって電解質層の深さ50%以下までの多孔質な領域が存在し、前記多孔質な領域の気孔径分布の最大ピークは、0.01μm以上1μm以下の範囲に存在し、前記電解質層中の酸素極側表面から水素極方向に向かって電解質層の深さ50%~100%の領域は緻密で気孔率は10%以下である」のに対し、甲1発明では、「緻密な電解質膜」を備え、「電解質膜とカソードとの間に層状の多孔質な領域である中間層が存在」する点。
上記相違点1について検討すると、多孔質な領域が、甲1発明では、緻密な電解質膜とカソードとの間に、該電解質膜とは異なる化合物として層状に形成されるのに対して、本件発明1では、電解質層中に電解質層と同一組成の化合物として形成されるものであって(本件明細書【0011】)、両者のその存在形態は明らかに異なるものであり、当該相違点は実質的な相違点である。
そして、甲第1号証~甲第7号証のいずれにも、「前記電解質層中の酸素極側表面から水素極方向に向かって電解質層の深さ50%以下までの多孔質な領域が存在」することについては、記載も示唆もない。
よって、本件請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるとはいえず、また、甲第1号証に記載された発明、及び甲第1号証~甲第7号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
また、本件請求項1を引用する請求項2~5に係る発明についても同様である。
(2)甲第2号証を主引用例として
本件発明1と甲2発明とを対比すると、甲2発明における「アノード」、「カソード」、「8mol%Y2O3ドープZrO2(8YSZ)」、「LSCF(ランタン・ストロンチウム・コバルトフェライト酸化物)」、「固体酸化物型燃料電池」は、それぞれ、本件発明1の「水素極」、「酸素極」、「Y2O3を安定化材として用いた安定化ジルコニア」、「ABO3で表されるペロブスカイト型酸化物を含み、ペロブスカイト構造のAが希土類元素,Srであり、BがFe,Coであり」、「固体酸化物型電気化学セル」に相当する。
よって、両者は、「水素極と、
酸素極と、
前記水素極と前記酸素極との間に介挿される電解質層と多孔質な領域、を備え、
前記電解質層は、Y2O3を安定化材として用いた安定化ジルコニアであり、
前記酸素極は、ABO3で表されるペロブスカイト型酸化物を含み、ペロブスカイト構造のAが希土類元素(La),Srであり、BがFe,Coであり、
前記多孔質な領域の気孔は、多孔質な領域を貫通しない、
固体酸化物型電気化学セル。」である点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点2)
本件発明1では、「前記電解質層中の酸素極側表面から水素極方向に向かって電解質層の深さ50%以下までの多孔質な領域が存在し、前記多孔質な領域の気孔径分布の最大ピークは、0.01μm以上1μm以下の範囲に存在し、前記電解質層中の酸素極側表面から水素極方向に向かって電解質層の深さ50%~100%の領域は緻密で気孔率は10%以下である」のに対し、甲2発明では、「緻密な電解質層」を備え、「電解質層とカソードとの間に層状の多孔質な領域である遮断層が存在」する点。
上記相違点2について検討すると、多孔質な領域が、甲1発明では、緻密な電解質層とカソードとの間に、該電解質層とは異なる化合物として層状に形成されるのに対して、本件発明1では、電解質層中に電解質層と同一組成の化合物として形成されるものであって(本件明細書【0011】)、両者のその存在形態は明らかに異なるものであり、当該相違点は実質的な相違点である。
そして、甲第1号証~甲第7号証のいずれにも、「前記電解質層中の酸素極側表面から水素極方向に向かって電解質層の深さ50%以下までの多孔質な領域が存在」することについては、記載も示唆もない。
よって、本件請求項1に係る発明は、甲第2号証に記載された発明であるとはいえず、また、甲第2号証に記載された発明、及び甲第1号証~甲第7号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
また、本件請求項1を引用する請求項2~5に係る発明についても同様である。
(3)甲第3号証を主引用例として
本件発明1と甲3発明とを対比すると、甲3発明における「燃料極」、「空気極」、「3YSZ」、「LSCF(ランタン・ストロンチウム・コバルトフェライト酸化物:(LaSr)(CoFe)O3)」、「固体酸化物型燃料電池」は、それぞれ、本件発明1の「水素極」、「酸素極」、「Y2O3を安定化材として用いた安定化ジルコニア」、「ABO3で表されるペロブスカイト型酸化物を含み、ペロブスカイト構造のAが希土類元素(La),Srであり、BがFe,Coであり」、「固体酸化物型電気化学セル」に相当する。
よって、両者は、「水素極と、
酸素極と、
前記水素極と前記酸素極との間に介挿される電解質層と多孔質な領域、を備え、
前記電解質層は、Y2O3を安定化材として用いた安定化ジルコニアであり、
前記酸素極は、ABO3で表されるペロブスカイト型酸化物を含み、ペロブスカイト構造のAが希土類元素(La),Srであり、BがFe,Coであり、
前記多孔質な領域の気孔は、多孔質な領域を貫通しない、
固体酸化物型電気化学セル。」である点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点3)
本件発明1では、「前記電解質層中の酸素極側表面から水素極方向に向かって電解質層の深さ50%以下までの多孔質な領域が存在し、前記多孔質な領域の気孔径分布の最大ピークは、0.01μm以上1μm以下の範囲に存在し、前記電解質層中の酸素極側表面から水素極方向に向かって電解質層の深さ50%~100%の領域は緻密で気孔率は10%以下である」のに対し、甲3発明では、「前記電解質層と前記空気極との間に層状の多孔質な領域であるバリア層が存在」する点。
上記相違点3について検討すると、多孔質な領域が、甲3発明では、電解質層と空気極との間に、該電解質層とは異なる化合物として層状に形成されるのに対して、本件発明1では、電解質層中に電解質層と同一組成の化合物として形成されるものであって(本件明細書【0011】)、両者のその存在形態は明らかに異なるものであり、当該相違点は実質的な相違点である。
そして、甲第1号証~甲第7号証のいずれにも、「前記電解質層中の酸素極側表面から水素極方向に向かって電解質層の深さ50%以下までの多孔質な領域が存在」することについては、記載も示唆もない。
よって、本件請求項1に係る発明は、甲第3号証に記載された発明であるとはいえず、また、甲第3号証に記載された発明、及び甲第1号証ないし甲第7号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
また、本件請求項1を引用する請求項2~5に係る発明についても同様である。
なお、取消理由通知における、以下の点について検討すると、
ア「本件請求項1には、「水素極と、酸素極と、 前記水素極と前記酸素極との間に介挿される電解質層と、を備え、 前記電解質層中の酸素極側表面から水素極方向に向かって電解質層の深さ50%以下までの多孔質な領域、又は前記電解質層と酸素極との間に層状の多孔質な領域が存在し、
・・・固体酸化物型電気化学セル。」と記載されているが、本件請求項1に係る「固体酸化物型電気化学セル」は、 「水素極」、「酸素極」、「前記水素極と前記酸素極との間に介挿される電解質層」、「層状の多孔質な領域」 以外のものを構成要素として含むのか明らかでないため、刊行物3(甲第3号証)に記載されるものとの相違が明らかでない。」
イ「「前記電解質層中の酸素極側表面から水素極方向に向かって電解質層の深さ50%以下までの多孔質な領域」とあるが、電解質層の50%~100%の領域は、多孔質なのかどうかも明らかでない。」
アについては、本件訂正請求により訂正された請求項1では、「前記電解質層と酸素極との間に層状の多孔質な領域」が削除されたことから、「前記電解質層と前記空気極との間に、層状の多孔質な領域であるバリア層が存在」する、刊行物3(甲第3号証)に記載されるものと相違することは明らかである。
イについては 本件訂正請求により訂正された請求項1では、「前記電解質層中の酸素極側表面から水素極方向に向かって電解質層の深さ50%~100%の領域は緻密で気孔率は10%以下である」を追加することにより、電解質層の深さ50%~100%の領域が緻密であることが明らかとなった。
よって、上記ア、イの点については、いずれも解消した。
[4]むすび
したがって、上記取消理由1、2によっては、本件請求項1~5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1~5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2016-700379