特許異議申立
2016-700265
EGRクーラー用フェライト系ステンレス鋼
- 審判番号
- 2016-700265
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2011-143001外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2016年03月31日
- 審決日
- 2017年03月17日
- 公報発行日
- 2017年06月30日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】JFEスチール株式会社
- 【権利者代理人】特許業務法人銀座マロニエ特許事務所
- 【異議申立人】鈴野 幹夫
- 分類
- P1651.121-YAA(C22C) / P1651.851-YAA(C22C) / P1651.853-YAA(C22C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条、特許法第113条第2号、特許法第120条の5第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第5786491号発明「EGRクーラー用フェライト系ステンレス鋼」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第5786491号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項〔1~3〕について訂正することを認める。
特許第5786491号の請求項1~3に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第5786491号(以下、「本件特許」という。)に係る出願は、平成23年 6月28日に特許出願され、平成27年 8月 7日にその特許権の設定の登録がされたものである。
その後、本件特許の請求項1~3に係る特許について、平成28年 3月31日に特許異議申立人 鈴野幹夫により特許異議の申立てがされ、当審から同年 6月10日付けで取消理由が通知され、これに対して特許権者より同年 8月12日に意見書が提出されるとともに、訂正請求がされ、これに対して特許異議申立人より同年10月 5日に意見書が提出され、当審から同年10月28日付けで取消理由が通知され、これに対して、特許権者より同年12月26日に意見書が提出されるとともに、訂正請求がされた。
第2 訂正請求の適否
1 訂正の内容
平成28年12月26日付けの訂正請求書(以下、「本件訂正請求書」という。)による訂正(以下、「本件訂正」という。)は、以下の訂正事項からなる。
なお、先にした訂正の請求である平成28年 8月12日付けの訂正請求書による訂正は取り下げられたものとみなされる。
(1)訂正事項1
訂正前の請求項1に、「Si:0.3~2mass%」とあるのを、「Si:0.67~2mass%」と訂正する。
(請求項1の記載を引用する請求項2及び請求項3も同様に訂正する。)
(2)訂正事項2
訂正前の願書に添付した明細書の【0015】に「Si:0.3~2mass%」とあるのを、「Si:0.67~2mass%」と訂正する。
(3)訂正事項3
訂正前の願書に添付した明細書の【0027】に「Si:0.3~2mass%」とあるのを、「Si:0.67~2mass%」と訂正し、また、「本発明では必須の添加元素として0.3mass%以上含有させる。スケールの剥離性をより改善するためには0.5mass%以上が好ましく・・・」とあるのを、「本発明では必須の添加元素として0.67mass%以上含有させる。スケールの剥離性をより改善するためには0.67mass%以上が好ましく・・・」と訂正する。
(4)訂正事項4
訂正前の願書に添付した明細書の【0045】の表2に、鋼記号Aの備考欄に「発明例」とあるのを、「参考例」に訂正する。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、一群の請求項及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、Siの含有量の下限値がmass%で0.3とあるのを0.67と訂正し、Siの含有量の範囲を減縮するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
また、本件特許の明細書の【0045】の表2の鋼記号C及びEのSi含有量が0.67mass%であることが記載されているから、Siの含有量の下限値をmass%で、0.67と訂正する訂正事項1は新規事項の追加に該当しない。
さらに、訂正前の請求項1~3は、請求項2及び3が訂正の対象である請求項1の記載を引用する関係にあるから、訂正前の請求項1~3に対応する訂正後の請求項1~3は、一群の請求項に該当し、本件訂正の請求は、一群の請求項ごとにされたものである。
(2)訂正事項2~4について
訂正事項2~4は、訂正事項1に係る訂正に伴って、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、さらに新規事項の追加に該当しない。
さらに、訂正事項2~4に係る請求項は、請求項1~3からなる一群の請求項であり、訂正事項2~4は、この請求項1~3からなる一群の請求項について行われるものである。
3 むすび
したがって、訂正事項1~4からなる本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同法同条第4項並びに同法同条第9項で準用する同法第126条第4項~第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1~3〕について訂正を認める。
第3 本件特許発明
上記第2に記載したとおり、本件訂正は認められるから、特許5786491号の請求項1~3に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」~「本件特許発明3」といい、これらを総称して「本件特許発明」という。)は、それぞれ、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~3に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
【請求項1】
C:0.02mass%以下、
Si:0.64~2mass%、
Mn:0.45mass%未満、
P:0.040mass%以下、
S:0.001mass%超え0.005mass%以下、
Al:0.01~0.1mass%、
N:0.02mass%以下、
Cr:14~30mass%、
Nb:0.3mass%以上かつ15(C(mass%)+N(mass%))以上1.0mass%以下、
Ti:0.01mass%以下を含有し、かつ、CrとSi、および、MnとSが、下記(1)および(2)式を満たして含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなるEGRクーラー用フェライト系ステンレス鋼。
記
Cr+6Si:18~30mass% ・・・(1)
Mn×S≦0.0005・・・(2)
(ただし、上記式中の元素記号はその元素の含有量(mass%)を示す。)
【請求項2】
上記成分組成に加えてさらに、Ni:0.6mass%以下を含有することを特徴とする請求項1に記載のEGRクーラー用フェライト系ステンレス鋼。
【請求項3】
上記成分組成に加えてさらに、Mo:2mass%以下を含有することを特徴とする請求項1または2に記載のEGRクーラー用フェライト系ステンレス鋼。
第4 申立理由・取消理由の概要
1 申立理由
特許異議申立人が、平成28年 3月31日付けの特許異議申立書において、以下の甲第1号証~甲第9号証を証拠方法として、本件訂正前の請求項1~3に係る特許について申立てた理由は、以下の申立理由1~2であると認める。
申立理由1:本件訂正前の請求項1~3に係る発明は、甲第1号証に記載された発明、及び甲第2号証~甲第8号証に記載された周知技術常識に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから、その特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであり、特許法第113条第2号に該当する。
申立理由2:本件訂正前の請求項1~3に係る発明は、甲第2号証に記載された発明、及び甲第9号証に記載された周知技術常識に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから、その特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであり、特許法第113条第2号に該当する。
<証拠方法>
甲第1号証:藤田展弘ら、「自動車排気マニフォールド用高耐熱フェライト系ステンレス鋼の開発」、耐熱金属材料第123委員会研究報告、日本学術振興会、平成4年、Vol.33、No.1、p.1~8
甲第2号証:特開2002-212683号公報
甲第3号証:特開平6-172935号公報
甲第4号証:藤村浩志ら、「Ti含有フェライト系ステンレス鋼の凝固組織に及ぼす酸化物組成の影響」、鉄と鋼、日本鉄鋼協会、平成13年11月発行、Vol.87、No.11、p.707~712
甲第5号証:木下昇ら、「塩水噴霧による17%Crステンレス鋼のさび発生におよぼす非金属介在物の影響」、鉄と鋼、日本鉄鋼協会、昭和46年11月発行、Vol.57、No.13、p.2152~2163
甲第6号証:ステンレス協会編、「ステンレス鋼便覧 第3版」、日刊工業新聞社、1995年発行、p.375~376
甲第7号証:特開2009-174040号公報
甲第8号証:特開2010-236001号公報
甲第9号証:特開2008-96048号公報
また、特許異議申立人は、平成28年10月 5日付け意見書において、以下の参考資料1~参考資料8を証拠方法として、Mn及びSがMnSを形成して耐食性を阻害するのでその含有量を低減することによって耐食性の向上が可能であることは、ステンレス鋼分野の当業者にとって、極めてよく知られた周知の技術である旨主張している。
<証拠方法>
参考資料1:ステンレス協会編、「ステンレス鋼便覧 第3版」、日刊工業新聞社、1995年発行、p.258~259
参考資料2:表面技術、社団法人表面技術協会、平成 8年 1月発行、Vol.47、No.1、1996、p.2~6
参考資料3:日新製鋼技報、日新製鋼株式会社、昭和62年 7月発行、第56号、p.21~34
参考資料4:岡崎隆ら、「17Crステンレス鋼の耐銹性」、鉄と鋼、社団法人日本鉄鋼協会、昭和49年 3月発行、Vol.60、No.4、p.164
参考資料5:特開昭61-23745号公報
参考資料6:特開2009-299182号公報
参考資料7:特開2009-228036号公報
参考資料8:特開平10-339290号公報
2 平成28年 6月10日付けの取消理由通知書で通知した理由
当審から平成28年 6月10日付けの取消理由通知書で通知した取消理由は、以下の取消理由1-1~1-2である。
取消理由1-1:本件訂正前の請求項1~3に係る発明は、甲第1号証に記載された発明と、甲第2号証及び甲第3号証に記載されているような技術常識、甲第7号証に記載された発明、甲第8号証に記載された発明とに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであり、特許法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
取消理由1-2:本件訂正前の請求項3に係る発明は、甲第2号証に記載された発明と甲第9号証に記載された発明とに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであり、特許法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
3 平成28年10月28日付けの取消理由通知書で通知した理由
当審から平成28年10月28日付けの取消理由通知書で通知した取消理由は、以下の取消理由2-1~2-2である。
取消理由2-1:平成28年 8月12日付け訂正請求書により訂正された請求項1~3に係る発明は、甲第1号証に記載された発明と、甲第2号証及び甲第3号証に記載されているような技術常識、甲第7号証に記載された発明、甲第8号証に記載された発明、参考文献1~8に記載される周知技術とに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであり、特許法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
取消理由2-2:本件訂正前の請求項3に係る発明は、甲第2号証に記載された発明と甲第9号証に記載された発明、参考文献1~8に記載される周知技術とに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであり、特許法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
第5 甲各号証、各参考資料の記載事項
特許異議申立人が証拠方法として提出した、甲第1号証~甲第9号証、及び、参考資料1~参考資料8のうち、主引用例とされる甲第1号証及び甲第2号証には、それぞれ、以下の事項が記載されている。
(1)甲第1号証について
甲第1号証には以下の事項が記載されている。
(1-ア)「1.諸言
・・・
本報告では,排気マニフォールド用の材料として重要な耐熱疲労性を改善するため高温での耐力を向上させた高耐熱フェライト系ステンレス鋼の開発について述べる。」(第1ページ左欄第1行~第1ページ右欄第2行)
(1-イ)「2.実験方法
2.1 候補成分系の決定
供試鋼の化学組成範囲を表1に示す。」(第1ページ右欄第3行~第5行)
(1-ウ)「
」
(1-エ)「3.実験結果および考察
3.1 強化元素の選定
従来鋼には比較的低(C+N)量(0.04mass%以下)で0.4mass%(以下,mass%は%と略す)のNbが添加されており,これは高温強度に寄与すると推測できる。そこで,低(C+N)-19Cr鋼をベースとし,これに強化元素として,Nb,Si,P,Ti,Mo,W,Hf,Taを単独或いは複合添加し,高温強度に及ぼす各元素の影響を調査した。各鋼の950℃の0.2%耐力(以下,“耐力”と称す)に及ぼす添加元素の影響を図1に示す。」
(1-オ)「
」
ア 上記(1-ウ)の表1は、上記(1-イ)の事項によれば、供試鋼の化学組成を示したものであり、技術常識からみて、表1に示される成分以外の成分は「残部がFe及び不可避的不純物」であると認められる。
イ また、上記(1-ウ)の表1に示される供試鋼は、上記(1-ア)の事項によれば、耐熱疲労性を改善するため高温での耐力を向上させた排気マニフォールド用の高耐熱フェライト系ステンレス鋼であるといえる。
ウ してみると、甲第1号証には、上記(1-ウ)の表1の上から3つ目の供試鋼からみて、以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。
「C : 0.01 mass%、
Si: 0.30 mass%、
Mn: 0.23 mass%、
P : 0.02 mass%、
S : 0.002 mass%、
Cr:19.2 mass%、
Ti: -
Mo: -
W : -
Nb: 0.41 mass%、
Hf: -
Ta: -
N : 0.01 mass%
残部がFe及び不可避的不純物からなる
排気マニフォールド用の高耐熱フェライト系ステンレス鋼。」
(2)甲第2号証について
甲第2号証には、次の事項が記載されている。
(2-ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、フェライト系ステンレス鋼板に係り、とくに自動車やオートバイの排気管、触媒外筒材等の自動車排気系部材用として好適な、常温での加工性と、高温での強度および耐酸化性とを兼ね備えたフェライト系ステンレス鋼板に関する。」
(2-イ)「【0009】
【発明の実施の形態】つぎに、本発明のフェライト系ステンレス鋼板の組成限定理由について説明する。なお、mass%は単に%と記す。
【0010】Si:0.1 %以上0.5 %以下
Siは、固溶強化により鋼の強度を増加する元素であり、高温強度の増加に有効に作用する。このような効果は、0.1 %以上の含有で認められる。しかし、本発明鋼板のような、Moを含有する場合には、Siを0.5 %を超えて過剰に含有すると、Mo析出物、Fe-Mo金属間化合物の析出を促進するため、Siの固溶強化に加え、Mo析出物の析出強化により、常温での強度が増加しすぎ、加工性が顕著に低下する。また、Siの0.5 %を超える過剰な含有は、高温において固溶Mo量を減少させ、高温強度に加え高温耐酸化性を低下させる。このため、Siは0.1 %以上0.5 %以下に限定した。
【0011】Mo:1%以上2%以下
Moは、耐食性、高温強度、および高温耐酸化性の向上に有効な元素であり、このような効果は1%以上の含有で認められる。なお、好ましくは、1.5 %以上である。一方、2%を超えて含有すると、靱性が劣化する。このため、Moは1%以上2%以下に限定した。
・・・
【0016】Ni:1%以下
Niは、靱性を向上させ、ステンレス鋼の重要な特性の一つである耐食性を向上させる元素であるが、1%を超えて含有すると常温強度が増加し鋼が硬質化して、加工性に悪影響を及ぼす。このため、Niは1%以下に限定した。
Al:1%以下
Alは、脱酸剤として作用し、製鋼上必要であるが、過度の含有は酸化物系介在物の生成が顕著となり、製造性や表面品質に悪影響を与える。このため、Alは1%以下に限定した。
・・・
【0021】上記した成分以外の残部は、Feおよび不可避的不純物である。なお、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素および遷移金属などを少量含有することは、本発明の効果を妨げるものではない。・・・。」
(2-ウ)「【0026】
【実施例】以下、実施例に基づき、本発明をより具体的に説明する。表1に示す組成を有する溶鋼を転炉で溶製し、さらに真空脱ガスにより二次精錬を行ったのち、連続鋳造法で、200mm 厚の連続鋳造製スラブとした。これらスラブ(鋼素材)を、1150℃に加熱したのち、熱間圧延により板厚5mmの熱延板とした。ついで、これら熱延板に、焼鈍温度:940 ℃の熱延板焼鈍、酸洗、冷間圧延、焼鈍温度:920 ℃の連続焼鈍(冷延板焼鈍)、酸洗を順次施し、板厚2mmの製品板(冷延焼鈍板)とした。なお、表面粗さの調整は酸洗後、調質圧延、ショットブラストによった。
【0027】これらの製品板(冷延焼鈍板)について、表面粗さ、常温引張試験、高温引張試験、耐酸化性試験を実施し、加工性、高温強度、耐酸化性を評価した。・・・
【0028】得られた結果を表2に示す。
【0029】
【表1】
【0030】
【表2】
【0031】本発明例はいずれも、常温におけるYS、TSが低く良好な加工性を有し、またσ0.2at900℃が高く高い高温強度を有し、かつ酸化量も少なく高温耐酸化性にも優れている。これに対し、本発明の範囲を外れる比較例は、YS、TSが高く加工性が劣化しているか、高温強度が低いか、耐酸化性が低下しているか、で所望の特性が得られていない。」
ア 上記(2-ウ)の表1の鋼No.Bは、上記(2-ウ)の表2によれば本発明例である。そして、上記(2-ア)によれば、本発明例のフェライト系ステンレス鋼板は、自動車排気系部材用として好適な、常温での加工性と、高温での強度および耐酸化性とを兼ね備えたフェライト系ステンレス鋼板であるから、上記(2-ウ)の表1の鋼No.Bも、この特性を備えるものといえる。
イ また、上記(2-ウ)の表1の鋼No.Bの化学成分について、上記(2-イ)の【0021】の記載によれば、残部は、Fe及び不可避的不純物であるといえる。
ウ してみると、甲第2号証には、次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されている。
「C : 0.005 mass%、
Si: 0.49 mass%、
Mn: 0.15 mass%、
P : 0.020 mass%、
S : 0.003 mass%、
Cr:15.7 mass%、
Ni: 0.25 mass%、
Al: 0.04 mass%、
N : 0.005 mass%、
Nb: 0.38 mass%、
Mo: 1.1 mass%、
残部がFe及び不可避的不純物からなる
自動車排気系部材用として好適な
常温での加工性と、高温での強度および耐酸化性とを兼ね備えたフェライト系ステンレス鋼。」
第6 当審の判断
1 申立理由及び取消理由について
上記第4に記載したとおり、申立理由及び各取消理由は、いずれも本件特許発明1~3が甲第1号証に記載された発明を主引用発明として当業者が容易に発明をすることができるものであり、また、本件特許発明3が甲第2号証に記載された発明を主引用発明として当業者が容易に発明をすることができるものであることを理由とするものである。
そこで、本件特許発明1~3が甲第1号証に記載された発明及び甲第1号証~甲第9号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができるものであるか否か、また、本件特許発明3が甲第2号証に記載された発明及び甲第1号証~甲第9号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができるものであるか否かについて、以下検討する。
2 甲第1号証に記載された発明を主引用発明とする理由
(1)本件特許発明1について
ア 本件特許発明1と甲1発明とを対比する。
イ 甲1発明の組成は、C、Mn、P、S、N、Crについて、本件特許発明1の組成範囲に含まれるが、Siについて、本件特許発明1の組成範囲に含まれない。
ウ 甲1発明において、
15(C(mass%)+N(mass%))
=15×(0.01+0.01)
=0.30
であるから、甲1発明の組成は、Nbについて、本件特許発明1の組成範囲に含まれる。
エ 甲1発明において、
Cr+6Si
=19.2+6×0.30
=21.0
であるから、甲1発明の組成は、本件特許発明1の(1)式を満たす。
オ 甲1発明において
Mn×S
=0.23×0.002
=0.00046
であるから、甲1発明の組成は、本件特許発明1の(2)式を満たす。
カ してみると、両者は、「フェライト系ステンレス鋼」である点で一致し、その組成が、C、Si、Mn、P、S、N、Cr、Nbの含有量について、
「C : 0.01 mass%、
Mn: 0.23 mass%、
P : 0.02 mass%、
S : 0.002 mass%、
N : 0.01 mass%
Cr:19.2 mass%、
Nb: 0.41 mass%」
である点、
(1)式、(2)式について、
「Cr+6Si:21.0mass%・・・(1)
Mn×S=0.00046・・・(2)
(ただし、上記式中の元素記号はその元素の含有量(mass%)を示す。)」である点、
「残部がFeおよび不可避的不純物からなる」点で一致する。
キ 一方、両者は、以下の点で相違する。
相違点1:フェライト系ステンレス鋼の組成におけるSiの含有量について、本件特許発明1が「0.64~2mass%」であるのに対し、甲1発明は「0.30 mass%」である点
相違点2:フェライト系ステンレス鋼の組成におけるAlの含有量について、本件特許発明1が「0.01~0.1mass%」であるのに対し、甲1発明はかかる発明特定事項を有していない点。
相違点3:フェライト系ステンレス鋼の組成におけるTiの含有率について、本件特許発明1が「0.01mass%以下」であるのに対して、甲1発明は「-」である点。
相違点4:フェライト系ステンレス鋼の用途について、本件特許発明1が「EGRクーラー用」であるのに対して、甲1発明は「排気マニフォールド用」である点。
ク そこで、これらの相違点について検討する。
ケ まず、相違点1について、相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項であるSiの含有量の技術的意義について検討する。
コ 本件特許明細書には、EGRクーラー内の冷却側には冷却液が流れているものの、排気ガスに直接接する側は高温に曝されるため、鋼板表面に酸化スケールが生成し、そのスケールが剥離しやすい(【0005】)ことを問題の一つとし、高温から急速冷却を受ける場合でも、高温時に生成した酸化スケールが剥離することなく、かつ、ろう付け部の耐食性にも優れるEGRクーラー用フェライト系ステンレス鋼を提供すること(【0013】)を発明が解決しようとする課題とし、EGRクーラ用フェライト系ステンレス鋼において、低Mn化した上で、CrとSiの含有量を適正範囲に制御し、また、NbをC、Nで十分に固定した上で、MnとSの含有量を適正範囲に制御することをこの課題を解決するための手段(【0014】、【0015】)とし、Siの含有量について、スケールの耐剥離性をより改善するために、0.5mass%以上とすることが、好ましいこと(【0026】)が記載されている。
サ してみると、本件特許発明1のフェライト系ステンレス鋼の組成についてSiの含有量が0.64~2mass%であることは、EGRクーラ用フェライト系ステンレス鋼において、スケールの耐剥離性がより改善されるという技術的意義を有するといえる。
シ 一方、甲第1号証には、上記(1-エ)、(1-オ)の記載によれば、高耐熱フェライト系ステンレス鋼において、Siが強化元素の一つであるといえるものの、甲1発明において、そのSiの含有量を0.64~2mass%とすることによりスケールの耐剥離性がより改善できることについては、記載も示唆もされていない。
ス また、甲第2号証~甲第9号証のいずれにも、このことは記載も示唆もされておらず、また、参考文献1~参考文献8をみてもこのことが技術常識であるともいえない。
セ してみると、甲1発明において、相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項について、当業者が容易に想到することができるとはいえない。
ソ したがって、相違点2~4について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1発明と甲第1号証~甲第9号証に記載された事項とに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(2)本件特許発明2及び3について
ア 本件特許発明2は、本件特許発明1において、更に「上記成分組成に加えてさらに、Ni:0.6mass%以下を含有すること」を特定するものであり、本件特許発明3は、本件特許発明1又は2において、更に「上記成分組成に加えてさらに、Mo:2mass%以下を含有すること」を特定するものである。
イ そこで、本件特許発明2及び3と甲1発明とを対比すると、両者は、少なくとも、上記相違点1と同様の点において相違する。
ウ してみると、上記(1)で検討した理由と同様の理由により、甲1発明において、相違点1に係る本件特許発明2及び3の発明特定事項について、当業者が容易に想到することができるとはいえない。
エ したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明2及び3は、甲1発明と甲第1号証~甲第9号証に記載された事項とに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
3 甲第2号証に記載された発明を主引用発明とする理由
(1)本件特許発明3について
ア 請求項2の記載を引用する請求項3に記載された本件特許発明3と甲2発明とを対比する。
イ 甲2発明の組成は、C、Mn、P、S、Al、N、Cr、Ni、Moについて、本件特許発明3の組成範囲に含まれるが、Siについて、本件特許発明3の組成範囲に含まれない。
ウ 甲2発明において、
15(C(mass%)+N(mass%))
=15×(0.005+0.005)
=0.15
であるから、甲2発明の組成は、本件特許発明3のNbの組成範囲に含まれる。
エ 甲2発明において、
Cr+6Si
=15.7+6×0.49
=18.64
であるから、甲2発明の組成は、本件特許発明3の(1)式を満たす。
オ 甲2発明は、Mn×Sの値が0.00045(=0.15×0.003)であるから、甲2発明の組成は、本件特許発明3の(2)式を満たす。
カ してみると、両者は、「フェライト系ステンレス鋼」である点で一致し、その組成におけるC、Mn、P、S、Al、N、Cr、Ni、Moの含有量について、
「C : 0.005 mass%、
Mn: 0.15 mass%、
P : 0.020 mass%、
S : 0.003 mass%、
Al: 0.04 mass%、
N : 0.005 mass%、
Cr:15.7 mass%、
Nb: 0.38 mass%、
Ni: 0.25 mass%、
Mo: 1.1 mass%」
である点、
(1)式、(2)式について、
「Cr+6Si:18.64mass%・・・(1)
Mn×S=0.00045・・・(2)
(ただし、上記式中の元素記号はその元素の含有量(mass%)を示す。)」である点、
「残部がFeおよび不可避的不純物からなる」点で一致する。
キ 一方、両者は、以下の点で相違する。
相違点2-1:フェライト系ステンレス鋼の組成におけるSiの含有量について、本件特許発明3が「0.64~2mass%」であるのに対し、甲2発明は「0.49mass%」である点
相違点2-2:フェライト系ステンレス鋼の用途について、本件特許発明3が「EGRクーラー用」であるのに対して、甲2発明は「自動車排気系部材用」である点。
ク そこで、これらの相違点について、相違点2-1から検討する。
ケ 相違点2-1に係る本件特許発明3の発明特定事項は、上記相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項と同様であるから、上記2(1)のケ~サで検討したものと同様の理由により、相違点2-1に係る本件特許発明3の発明特定事項は、フェライト系ステンレス鋼の組成についてSiの含有量が0.64~2mass%であることは、EGRクーラ用フェライト系ステンレス鋼において、スケールの耐剥離性がより改善されるという技術的意義を有するものである。
コ 一方、甲第2号証には、上記(2-イ)の【0010】の記載によれば、Siは、固溶強化により鋼の強度を増加する元素であり、高温強度の増加に有効に作用するものであるものの、甲2発明において、そのSiの含有量を0.64~2mass%とすることによりスケールの耐剥離性がより改善できることについては、記載も示唆もされていない。
サ また、甲第1号証~甲第9号証のいずれにも、このことが記載も示唆もされておらず、また、参考文献1~参考文献8をみてもこのことが技術常識であるともいえない。
シ さらに、甲第2号証には、上記(2-イ)の【0010】の記載によれば、Siを0.5 %を超えて過剰に含有すると、Mo析出物、Fe-Mo金属間化合物の析出を促進するため、Siの固溶強化に加え、Mo析出物の析出強化により、常温での強度が増加しすぎ、加工性が顕著に低下するものであるから、甲2発明において、Siの含有量を0.5%を超えて添加することについて、阻害要因があるといえる。
ス してみると、甲2発明において、相違点2-1に係る本件特許発明3の発明特定事項について、当業者が容易に想到することができるとはいえない。
セ したがって、相違点2-2について検討するまでもなく、本件特許発明3は、甲2発明と甲第1号証~甲第9号証に記載された事項とに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
第7 むすび
したがって、本件特許の請求項1~3に係る特許は、各取消理由通知書で通知された取消理由及び特許異議申立書において申立てられた申立理由によって、取り消すことができない。
また、他に本件特許の請求項1~3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2016-700265